ページ番号1010043 更新日 令和6年2月13日

ケニア・グリーン水素戦略及びロードマップの概要並びに同国のグリーン水素を取り巻く状況について

レポート属性
レポートID 1010043
作成日 2024-02-13 00:00:00 +0900
更新日 2024-02-13 11:41:49 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場水素・アンモニア等
著者 野口 洋佑
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 10
抽出データ
地域1 アフリカ
国1 ケニア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アフリカ,ケニア
2024/02/13 野口 洋佑
Global Disclaimer(免責事項)

このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。

※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.

PDFダウンロード949.0KB ( 10ページ )

概要

  • 2023年9月5日、ケニアの首都ナイロビで開催された第1回アフリカ気候サミットにおいて、「ケニア・グリーン水素戦略及びロードマップ(Green Hydrogen Strategy and Roadmap for Kenya)」を発表した。目的は、「ケニア独自の豊富な再生可能エネルギー源と革新的な考え方を活用し、段階的かつ需要主導型のアプローチを通じて、農業生産、産業化、脱炭素化を強化する」ことである。
  • 同国における最も有望な活用部門としては農業部門が特定されている。同国は肥料輸入に多額の政府支出や補助金を要しており、世界的なコモディティ価格変動のリスクが存在する。加えて、近年は干ばつや豪雨などに見舞われており、特に農業部門は気候変動による影響を受けている。従って、農業バリューチェーンに投資し、グリーン水素とアンモニアに基づく国内肥料製造産業を確立することは、新しい産業プロセスの出現を促進し、供給リスクを軽減し、市場価格の変動に関連する不確実性を軽減するだけでなく、食糧安全保障と農業生産性の向上につながる。
  • 同国はグリーン水素産業確立時、(1)国際収支の改善、(2)食糧安全保障とレジリエンスの獲得、(3)グリーン産業化と脱炭素化の実現、(4)国内への投資拡大の利益があると主張する。また、水素ベースの商品(窒素肥料やメタノール)の輸入減も利益として見込む。加えて、国内グリーン水素誘導体市場と地域貿易ハブ確立による輸出入の改善を背景に、経済の多様化、雇用創出、産業の成長、電力アクセス改善を見込む。また、これらの国内分野は最終的にはオフテーカーとしての役割も期待できるものと考えられる。
  • 同戦略・ロードマップでは今後5年以内にケニアで先駆的な商業プロジェクトを実現することが極めて重要であることを強調している。第4期中期計画(Medium Term Plans:MTP IV・2023-2027年)には、主に国内需要の開拓と、水素産業を立ち上げるための最初の触媒的商業プロジェクトの実施に重点を置く。これに続くMTP V(2028-2032年)では、より国外へ目を向け、地域輸出を含めた新たな水素の可能性を模索することが示される予定である。
  • 近年は地理的近接性・歴史的関係性の深い欧州からの支援を受け、同国における再エネ・新エネプロジェクト支援・開発は加速しているものの、野心的な水素戦略及びロードマップに対し、国内外の投資をどのように呼び込むかは依然課題として残る。加えて、同国は地域経済の中心的な役割を担ってきたが、グリーン水素または誘導品の将来の大規模生産、加工、輸送、輸出を促進するような関連インフラが存在しておらず1からこれらを整備しなければならないことが課題として指摘される。ケニアは、再生可能エネルギーの割合が高いという利点があるが、電気分解によるグリーン水素製造の商業化を推進するには、現在の電力コストは競争力がないものとみられる。グレー水素やブルー水素と比較して競争力を得るためには、長期的に少なくとも80%の電力コスト削減が必要であると指摘されている。この点、グリーン水素をシステムに組み込んだ場合の電力コストを如何に平準化し、コスト競争力を獲得していくかを検討する必要がある。

 

1. はじめに

2023年9月5日、ケニアの首都ナイロビで開催された第1回アフリカ気候サミットにおいて、欧州委員会のライエン委員長とケニアのルト大統領はグローバル・ゲートウェイ(Global Gateway)戦略の一環として、「ケニア・グリーン水素戦略及びロードマップ(Green Hydrogen Strategy and Roadmap for Kenya)」を発表[1]した。

同国におけるエネルギー部門は、国家発展計画である「ケニア・ビジョン2030(Kenya Vision 2030)」や、持続可能な開発目標(sustainable development goals:SDGs)、パリ協定(Paris Agreement)のような気候変動協定、「アフリカ・アジェンダ2063(Africa Agenda 2063)」などの持続可能な開発を追求する上で、重要な要素として位置づけられる。また、同国は、「ボトムアップ経済変革アジェンダ(Bottom-Up Economic Transformation Agenda:BETA)」を通じて、国民の生活と福祉の向上を最優先課題としている。このような事情からもグリーン水素とその誘導体(アンモニア等)の開発は、上記のような国家目標を達成し、かつ世界が持続可能なエネルギー社会に向かう中、よりグリーンでレジリエントな未来に向けた道標となる。

本稿ではケニアによるグリーン水素戦略及びロードマップの概要並びに同国のグリーン水素を取り巻く状況を整理する。

 

2. 概要

今般発表されたグリーン水素戦略及びロードマップ(以下、水素戦略及びロードマップ)には、国内市場の開発と拡大、輸出に重点を置き、排出削減、雇用創出、直接投資の誘致に関する目標が盛り込まれている。なお、水素戦略及びロードマップにはグリーン水素の需給・価格(コスト)について記載されていない。目的は、「ケニア独自の豊富な再生可能エネルギー源と革新的な考え方を活用し、段階的かつ需要主導型のアプローチを通じて、農業生産、産業化、脱炭素化を強化する」ことである。特に同国は、既に電力の約90%を再生可能エネルギー(水力、地熱、太陽光、風力、バイオマス)で賄っているほか、アフリカの中でも地熱発電で主導的な地位にあり、膨大な未開発の再生可能エネルギーの可能性を秘めている。

同国は再生可能エネルギー大国である一方で気候変動の影響を受けやすい電源構成となっている。ケニア国家統計局によると、2023年1月の干ばつ時点でエチオピアからの電力輸入量が最大になった。ケニアは、2030年までに発電の100%を再生可能エネルギーとすることを目標としており、近年は太陽光・風力発電の割合が増加している。同国の最低コスト電力開発計画((2022年〜2041年)Least Cost Power Development plan:LCPDP)を鑑みてもこの傾向は続くものと考えられる。当該状況下で水素はベースロードの地熱発電とともに余剰電力貯蔵としての役割が期待されており、同国の向かう未来にとって最適なエネルギー源として位置づけられる。

なお、2022年1月にケニアエネルギー省並びにドイツ国際協力公社により発表されたPower-to-X/グリーン水素の可能性に関するベースライン調査(Baseline Study on the Potential for Power-to-X/Green Hydrogen in Kenya)[2]によると、再エネ等の技術効率化、適切な需給バランス等を前提に2025年から2050年にかけてのグリーン水素の製造コストは2~4 USD/kg(追加される再生可能エネルギー容量、余剰エネルギーにより生産)、アンモニアのコストは500~900 USD/トン程度になる可能性があると指摘する。なお、同調査によると国際的水準はそれぞれ1.5~4 USD/kg、400~600USD/トンであると推定される。また、コースト地域、リフトバレー、ナイロビは、グリーン水素の生産と市場を成功させるのに適した場所であると指摘する。

図1:ケニア電源構成(2022年、約13,000MWh))
図1:ケニア電源構成(2022年、約13,000MWh))
出所:ケニア統計局を参考にJOGMEC作成
図2:ケニア発電設備構成(2022年、約3,200MW)
図2:ケニア発電設備構成(2022年、約3,200MW)
出所:Kenya PowerよりJOGMEC作成

(i) グリーン水素の利用可能性

同国における有望な活用部門としては農業部門が期待されている。緑茶、コーヒー、園芸作物、花卉、穀物の栽培をはじめとする農業部門は同国経済の要であり、国民の大半に生計と雇用を提供するとともに、輸出収益に多大に貢献している。製造業や農産物加工業などの他部門との連携を通じて、付加価値や雇用創出にも貢献している。一方、同国は肥料の多くを輸入に依存しており、肥料輸入に多額の政府支出や補助金を要しており、世界的なコモディティ価格変動のリスクにさらされている。加えて、近年は干ばつや豪雨などに見舞われており、特に農業部門は気候変動による影響を受けている。従って、グリーン水素とアンモニアに基づく国内肥料製造産業を確立することは、供給リスクを軽減し、市場価格の変動に関連する不確実性を軽減するだけでなく、食糧安全保障と農業生産性の向上につながる。更にグリーン産業化による脱炭素化の推進と製造バリューチェーンを構築することで下流産業を育成し、ひいては電力アクセスを改善することが見込まれる。

 

(ii) グリーン水素産業確立時の利益

同国はグリーン水素産業確立時、(1)国際収支の改善、(2)食糧安全保障とレジリエンスの獲得、(3)グリーン産業化と脱炭素化の実現、(4)国内への投資拡大の利益があると主張する。また、水素ベースの商品(窒素肥料やメタノール)の輸入減も利益として見込む。加えて、国内グリーン水素誘導体市場と地域貿易ハブ確立による輸出入の改善を背景に、経済の多様化、雇用創出、産業の成長、電力アクセス改善を見込む。また、これらの国内分野は最終的にはオフテーカーとしての役割も期待できるものと考えられる。

表1:ケニア・グリーン水素戦略及びロードマップ概要
表1:ケニア・グリーン水素戦略及びロードマップ概要
出所:各種資料を参考にJOGMEC作成

(iii) ロードマップ運営のためのスケジュール・優先行動

同戦略・ロードマップでは下表の通りスケジュールと優先行動を定めており、成功に向けて今後5年以内にケニアで先駆的な商業プロジェクトを実現することが極めて重要であることを強調している。第4期中期計画(Medium Term Plans:MTP IV・2023-2027年)には、主に国内需要の開拓と、水素産業を立ち上げるための最初の触媒的商業プロジェクトの実施に重点を置く。これに続くMTP V(2028-2032年)では、より国外へ目を向け、地域輸出を含めた新たな水素の可能性を模索することが示される予定である。

表2 ロードマップ運営のためのスケジュール・優先行動
表2:ロードマップ運営のためのスケジュール・優先行動

出所:各種資料[3][4]によりJOGMEC作成

 

3. 再生可能エネルギーのポテンシャル

(1) 地熱

地熱資源ポテンシャルは、8,000~12,000MWと見積もられている。主にリフトバレー地域に位置する14のサイトにわたりポテンシャルが見込まれている。現在、オルカリア、メネンガイ、エブルにて地熱発電が行われており、中長期的にはバリンゴ・シラリ、ススワ、ロンゴノットで新たな地熱貯留層が探査されている。変動運転コストが低いため、地熱発電所は一般的にベースロードとして稼働している。

水力発電ポテンシャルは、3,000~6,000MWと見積もられている。水力発電のポテンシャルは、主要な排水流域であるビクトリア湖流域、リフトバレー流域、アティ川流域、タナ川流域に位置する。また、ケニア発電公社(KenGen)が実施した予備調査によると、揚水発電プロジェクトに適した場所として、トゥルカナ西湖、サンブル、カペングリア、キプチェレレ、ロムト、ソンドゥ、ホマ・ベイ・サウスが指摘されている。平均年間降水量は710mm程度と推定されており、降雨量には季節差・地域差が存在する。

 

(2) 太陽光

ケニアは、赤道近くの戦略的な立地条件により、日射率が高く、ピーク時の日射時間は平均5〜7時間、1日の平均日射量は4〜6kWh/m2となっている。太陽光発電のポテンシャルは15,000MWと見積もられているが、現状は、主に農村部の電化や分散型発電の選択肢として考えられている。政府は固定価格買取制度の下、35以上のプロジェクトの関心表明を承認しており、6つ以上のプロジェクトが建設中である。

 

(3) 風力

ケニアでは、国土の多くが風速6m/s以上を記録している。また、WindForce Management Services Pvt.Ltd.が2013年に実施した風力エネルギーのデータ分析と開発プログラムでは、4,600MWの技術的可能性が示唆されている。ケニアで最も風力発電に適しているのは、マルサビット、サンブル、ライキピア、メル、ニエリ、ニャンダルア、カジャドの各郡である。その他、ラム、マリンディ沖、キリマンジャロ麓のロイトキトク、ナロク高原などが注目されている。

 

(4) そのほか

上記のほか、農業・農産業が発展し、海に面している同国ではバイオマス発電や潮力発電のポテンシャルも期待されているところである。「Power-to-X/グリーン水素の可能性に関するベースライン調査」における電力系統分析では2050年の同国電解槽容量は5,000GWに到達する可能性があるとされている。また、IRENA[5]によると、過去10年間、アフリカでは再生可能エネルギーへの投資が大幅に急増し、このうち75%は南アフリカ、モロッコ、エジプト、ケニアの4カ国に投資されている。

 

4. 法政策・資金調達・プロジェクト

(i) 法政策

現在までに、ケニアにおけるグリーン水素の製造、貯蔵、流通を規制する法律や政策は存在しない。一方でクリーンエネルギーに関して、2021年6月30日、ウフル・ケニヤッタ大統領により2021年財政法が署名され、太陽光・風力発電設備やクリーンな調理用燃料を含む再生可能エネルギー製品に対する付加価値税(VAT)の賦課を廃止し、免税措置を復活させた。このほか、ケニアは2023年9月に気候変動法(2016年)の改正により、カーボンクレジット取引に関する規定を導入するなど、アフリカ大陸内でカーボンニュートラルに向けた主導的な役割を果たしている。

 

(ii) 資金調達

グリーン水素開発においては自国内外の公的資金提供における役割が重要とされる中、2023年4月にモーリタニアで開催されたアフリカグリーン水素金融促進フォーラムで合意されたヌクアショットメッセージ[6]では、開発金融機関(DFIs)の役割に大きな期待を寄せていることが分かる。一方で、グリーン水素プロジェクトの商業的可能性とバンカビリティを確保し、その実施を成功させるためには、プロジェクトと市場機能に対する効果的なリスク軽減策を採用することが不可欠である。

近年は地理的近接性・歴史的関係性の深い欧州からの支援を受け、同国における再エネ・新エネプロジェクト支援・開発は加速している。欧州連合(EU)は、ケニアのグリーン水素セクターへの公共投資と民間投資を促進するため、約1,300万ドルの助成金を提供している。さらに、Global Gatewayは、ケニアの多様な気候・環境イニシアティブに36億ドルを投資することを目標としている。ドイツは、6,400万ドルの融資でグリーン水素プロジェクトを支援することを約束し、対話と協力を強化するためにナイロビに水素外交事務所を設立する意向であるほか、アフリカ気候サミットでケニアでのグリーン水素開発促進を含む4.5億ユーロの資金拠出を表明している[7]。また、英国とはグリーン投資を加速させるための英国との5,000億KESの協定に署名している[8]ほか、欧州投資銀行(EIB)も同国へのグリーン水素投資の支援を強化する見込みである[9]

 

(iii) プロジェクト

下記に同国のプロジェクトの最近の動向等を示す。

  • Kenya Private Sector Alliance - FFI MoU, phase 1:Fortescue 2023年3月[10]、エネルギー・石油大臣のDavis Chirchir、Njuguna Ndung'u両官房長官と、FFI社のAndrew Forrest会長との間で、ナイバシャのOlkaria地熱資源を利用し、容量300MWのグリーン・アンモニア・肥料施設を開発する協定が締結された。
表3:Kenya Private Sector Alliance - FFI MoU, phase 1
Project name Kenya Private Sector Alliance - FFI MoU, phase 1
Date online  
Decomission date 2025
Status Feasibility study
Technology Other Electrolysis
Technology_details Unknown PtX
Technology_electricity Dedicated renewable
Product Ammonia
Announced Size 300MW
Capacity_MWel 300
Capacity_Nm³ H₂/h 66667
Capacity_kt H2/y 52.0
IEA zero-carbon estimated normalized capacity [Nm³ H₂/hour] 66667

出所:IEA[11]

  • Kenya Electricity Generating Company pilot shceme[12]:本プロジェクトは 5MWの実証プラントで、2025年に試運転(フェーズ1)、500万ドルの投資が必要である。さらに、2028年(フェーズ2)には100MWの電解槽容量プラントを試運転し、総投資額は1億2,000万ドルと想定される。
表4:Kenya Electricity Generating Company pilot shceme
Project name Kenya Electricity Generating Company pilot shceme
Date online  
Decomission date  
Status Feasibility study
Technology Other Electrolysis
Technology_details Unknown PtX
Technology_electricity Dedicated renewable
Product Ammonia
Announced Size 5MW
Capacity_MWel 5
Capacity_Nm³ H₂/h 1111
Capacity_kt H2/y 0.9
IEA zero-carbon estimated normalized capacity [Nm³ H₂/hour] 1111

出所:IEA

  • H2 project - Port of Mombasa:2023年9月[13]、アラブ首長国連邦(UAE)の再生可能エネルギー企業AMEAパワーは、ケニアのモンバサ港に同国初のグリーン水素施設を建設することを計画していることを明らかにした。また、同社はアフリカでの再生可能エネルギー促進を図るUAEによる45億ドルのプログラムに参加しており、1GWの電解槽からはじめ、世界の動向を見ながら適宜コミットしていく旨述べた。
表5:H2 project - Port of Mombasa
Project name H2 project - Port of Mombasa
Date online  
Decomission date  
Status Concept
Technology Other Electrolysis
Technology_details Unknown PtX
Technology_electricity Dedicated renewable
Product H2
Announced Size 1GW
Capacity_MWel 1000
Capacity_Nm³ H₂/h 222222
Capacity_kt H2/y 173
IEA zero-carbon estimated normalized capacity [Nm³ H₂/hour] 222222

出所:IEA

  • Renewstable® Kenya - HDF Energy: 2023年9月[14]、仏HDF Energyはグリーン・ベースロード水素発電所の計画を発表した。この発電所は、180MWの太陽光発電所と500MWhの水素バッテリー貯蔵装置を組み合わせたものである。プロジェクトに必要な総投資額は5億ドルと想定される。

 

5. 今後の課題

同国においては既に再エネ発電が盛んである点において、新興のグリーン水素経済において優位性を有している一方、幾つかの課題が存在する。近年は地理的近接性・歴史的関係性の深い欧州からの支援を受け、同国における再エネ・新エネプロジェクト支援・開発は加速しているものの、野心的な水素戦略及びロードマップに対し、国内外の投資をどのように呼び込むかは依然課題として残る。また、同国はモンバサ港を有しアフリカの玄関口としての役割を果たし、また、主要な回廊を有していることからも地域経済の中心的な役割を担ってきた。一方で、グリーン水素または誘導品の将来の大規模生産、加工、輸送、輸出を促進するような関連インフラが存在しておらず1からこれらを整備しなければならないことが課題として指摘される。輸送においては既存の天然ガスインフラとのシナジーが認識されているが、このようなインフラは存在しない。また、タンザニアからのガスパイプラインが検討されているものの、長期的な視点で見る必要がある。また、過去には、製油所と組み合わせた電気分解による国内水素製造が行われていたが現在は操業を停止し、その多くは貯蔵場所として使用されている。今後、製油所が水素製造の開発拠点となる可能性も考えられる。

ケニアは、再生可能エネルギーの割合が高いという利点があるが、電気分解によるグリーン水素製造の商業化を推進するには、現在の電力コストは競争力がないものとみられる。グレー水素やブルー水素と比較して競争力を得るためには、長期的に少なくとも80%の電力コスト削減が必要であると指摘されている。この点、グリーン水素をシステムに組み込んだ場合の電力コストを如何に平準化し、コスト競争力を獲得していくかを検討する必要がある。

また、同国エネルギー部門では、研究開発施設が不十分で、再生可能技術のプロトタイプのテストを行う施設や、再生可能エネルギー統合を強化するために、エネルギー部門の知識、制度的記憶、スキル、再生可能エネルギー技術移転を利用するセンターが不足していることが指摘されている。エネルギー部門の労働市場や製造業者が必要とする実践的なスキルやノウハウを提供することは、再生可能エネルギー統合を強化する上で重要なイネーブラーであり、水素においても同様の課題を有しているものと思われる。

 

6. さいごに

ケニアのグリーン水素への野心に係るこのような現実的な取り組みは、官民から多額の投資を呼び込む大きな可能性を秘めている。水素戦略において重要なのは、早期のオフテーカーを特定する能力であるが、同国においては初めに国内市場向けの水素・アンモニア供給を特定しているほか、地域経済開発としてのグリーンスチールなどの水素派生品への需要も期待できる。また、アフリカ東部に位置するケニアは欧州・アジア双方の市場へアクセスが可能であり、これらの地域とは再生可能エネルギー開発でのかかわりも深い。グリーン水素産業は、発電から水素製造、下流施設に至るまで、さまざまな分野を網羅する中で、このような投資は同国の経済を多様化し、産業の成長を促進し、雇用を創出する可能性を秘めている。グリーン水素は、単なる環境保護の取り組みではなく、成長、自立、エネルギーの持続可能性を推進する経済触媒であり、エネルギートランジションの中、アフリカ大陸が脱炭素社会に向けて真に持続可能な開発を目指すうえでも重要な要素として位置づけられている中、フロントランナーとしてアフリカを牽引しうるケニアの動向に引き続き注目である。

 

 

[1] https://www.eeas.europa.eu/sites/default/files/documents/2023/GREEN%20HYDROGEN%20EXEC_0209_0.pdf(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“GREEN HYDROGEN STRATEGY AND ROADMAP FOR KENYA”, EU, 2023年12月28日閲覧

[2] https://www.energy.go.ke/sites/default/files/KAWI/Other%20Downloads/Baseline%20Study%20on%20the%20Potential%20for%20Power-to-X%20(Green%20Hydrogen)%20in%20Kenya_Final%20Report.pdf(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“Baseline Study on the Potential for Power-to-X (Green Hydrogen) in Kenya_Final Report”, Ministry of Energy Kenya, 2023年12月28日閲覧

[4] https://gh2.org/countries/kenya(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“Kenya”, Green Hydrogen Organisation, 2023年12月28日閲覧

[5] https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2022/Jan/IRENA_Market_Africa_2022.pdf?rev=bb73e285a0974bc996a1f942635ca556(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“Renewable Energy Market Analysis: Africa and its Regions”, IRENA, 2023年12月28日閲覧

[6] https://gh2.org/sites/default/files/2023-04/Speech%20-%20Isselmou%20Ould%20Mohamed%20M%27BADY%20Nouakchott%20Message.pdf(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“Speech by Mauritania's Minister of Finance
Isselmou Ould Mohamed M'BADY”, Green Hydrogen Organisation, 15 April, 2023,

[7] https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-09-05/S0HEECT0G1KW01

[8] https://africa-energy-portal.org/news/kenya-targets-30gw-green-hydrogen-after-signing-strategic-deal-uk(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“Kenya targets 30GW of green hydrogen after signing strategic deal with UK”, Africa Energy Portal, 10 November, 2022

[9] https://www.eib.org/en/press/all/2023-083-european-investment-bank-and-kenya-strengthen-green-hydrogen-cooperation(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“Kenya: EIB and Kenya strengthen green hydrogen cooperation”, 1 March, 2023

[10] https://www.president.go.ke/kenya-signs-deal-on-green-energy-fertiliser-factory/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“KENYA SIGNS DEAL ON GREEN ENERGY FERTILISER FACTORY”, Office of the President of the Republic of Kenya., 15 March, 2023

[11] https://www.iea.org/data-and-statistics/data-product/hydrogen-production-and-infrastructure-projects-database(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“Hydrogen Production and Infrastructure Projects Database - Data product – IEA”, IEA, 2024年2月6日閲覧

[12] https://gh2.org/countries/kenya(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“Kenya”, Green Hydrogen Organisation, 2024年2月6日閲覧

[13] https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-09-07/S0LWS3T0G1KW01(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“ソフトバンクG出資のAMEAパワー、ケニアでグリーン水素事業計画”, Bloomberg, 7 September, 2023

[14] https://www.africabusinessplus.com/en/816757/frances-hdf-energy-announces-kenyas-first-green-hydrogen-power-plant/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“France’s HDF Energy announces Kenya’s first green hydrogen power plant”, Africa Business+, 9 May, 2023

 

以上

(この報告は2024年2月6日時点のものです)

アンケートにご協力ください
1.このレポートをどのような目的でご覧になりましたか?
2.このレポートは参考になりましたか?
3.ご意見・ご感想をお書きください。 (200文字程度)
下記にご同意ください
{{ message }}
  • {{ error.name }} {{ error.value }}
ご質問などはこちらから

アンケートの送信

送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。