ページ番号1010051 更新日 令和6年2月26日

原油市場他:中東情勢緊迫化及びロシアの製油所への攻撃による石油供給面での支障に対する懸念等から、2023年11月以来の高水準にまで上昇する原油価格

レポート属性
レポートID 1010051
作成日 2024-02-19 00:00:00 +0900
更新日 2024-02-26 08:07:09 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 40
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
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地域5
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地域6
国6
地域7
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地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2024/02/19 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、南部にまで寒波が来襲したこと等に伴う装置の不具合発生や春場のメンテナンス作業実施に伴う製油所での石油製品製造活動の不活発化もあり留出油在庫は減少傾向となった結果平年幅上方付近に位置する量となっている。ただ、寒波の来襲に伴い個人の外出が敬遠されたことからガソリン需要が低迷したことによりガソリン在庫は増加傾向となった結果平年幅上限を上回る状態となっている。また、原油精製処理量が落ち込んだ結果原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。
  2. 2024年1月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国で減少となった他、欧州では紅海周辺においてイエメンのフーシ派武装勢力による船舶に対する攻撃が激化したことにより、船舶が喜望峰を経由する航路へと迂回させたことが、欧州の中東方面からの原油輸入量の減少に繋がったことにより、原油在庫は減少した。また、日本においても一部製油所がメンテナンス作業を実施しつつあったこともあり、それに併せる格好で原油在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州ではほぼ同水準であった一方、プロパン及びその他の石油製品の両在庫が減少したことから、米国の石油製品在庫は減少した。日本においては、冬場の気温低下とともに暖房向け灯油需要が喚起されたことにより当該製品在庫が減少したこともあり、石油製品在庫は微減となった。この結果、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少となり平年幅下方付近に位置する量となっている。
  3. 2024年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場においては、イスラエルとハマスとの間での停戦交渉が進捗しつつある旨2月1日に伝えられたこと等が原油相場に下方圧力を加えたものの、1月22日等にロシアの石油関連施設に対し無人機によるものとされる攻撃が行われたことやハマスとの休戦を拒否した旨イスラエルが2月7日に表明したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、1月12日には1バレル当たり72.68ドルであった原油価格(WTI)は上昇傾向となり、2月16日の終値は同79.19ドルと2023年11月6日以来の高水準に到達した。
  4. 今後は、冬場の石油需要期の終了が視野に入りつつあることが原油相場を抑制しやすくするものの、春場のメンテナンス作業実施やロシアの製油所への攻撃等による製油所における石油製品製造活動の不活発化の可能性、イエメンのフーシ派武装勢力による攻撃激化に伴い紅海及びスエズ運河をタンカーが迂回することによる原油及び石油製品等の円滑な供給上の支障発生の恐れに伴う石油需給の不均衡発生等への懸念に加え、早ければ3月初頭にも夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来が市場で意識されるようになるものと見られること、さらには米国金融当局による政策金利引き下げ期待が、原油相場に上方圧力を加えうるものと考えられる。このような中、中国経済回復状況及び景気刺激策等の発表、イスラエルとハマスの戦闘状況に伴う中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念の増減、米国北東部等における気温の低下具合及び低下を巡る予報等が原油相場に影響を与えていくものと考えられる。

 

1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2023年11月の米国ガソリン需要(確定値)は日量885万バレル、前年同月比で0.2%程度の増加となり(図1参照)、10月の当該需要である同909万バレルから需要量が下振れした他同月の前年同月比の増加率である3.3%程度の増加から増加率が縮小した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比2.7%程度減少の日量859万バレル)からは上方修正されている。11月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量99万バレル程度と推定されたところ確定値では同89万バレルへと下方修正されたことにより、同国ガソリン需要が速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に部分的にせよ寄与しているものと見られる。11月は前月に比べ気温が低下してきたこともあり個人の外出が鈍化したものと見られることから同月のガソリン需要が前月比で減少したものと考えられる。ただ、11月のガソリン小売価格は1バレル当たり3.443ドルと前年同月(同3.799ドル)を9.4%程度下回った他、同月の同国自動車運転距離数は1日当たり88億マイルと前年同月の同86億マイルを2.5%程度上回ったことから、この面では11月の同国ガソリン需要を前年同月比でそれなりに増加させる方向で作用したものと考えられる。それでも、10月の同国自動車運転距離数が前年同月比で1.3%の増加となった一方、同月の同国ガソリン需要が前年同月比で3.0%の増加と伸びが大きかったこともあり、その反動で11月の同国ガソリン需要が下振れした可能性があるものと見られる。なお、2023年11月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年11月の当該需要(日量921万バレル)(確定値)を4.0%程度下回っている。他方、2024年1月の米国ガソリン需要(速報値)は日量826万バレル、前年同月比で0.2%程度の減少と、2023年12月の当該需要(速報値)である日量865万バレルから需要量が減少した他同月の前年同月比0.7%程度の増加から減少に転じた。12月はクリスマス及び年末年始の休暇シーズン到来に伴い個人の外出が活発化した一方、年末年始の休暇シーズン後の1月は個人の外出が相対的に不活発化したこともあり、1月は前月比でガソリン需要が減少した。また、2022年12月は冷え込んだ他一部地域には大雪がもたらされた(12月下旬頃に同国南部にまで大寒波「エリオット(Elliott)」が来襲した)こともあり、道路往来に支障が発生するとともに個人の外出が敬遠されたことから同月のガソリン需要が前年同月比で3.2%程度減少した一方、2023年12月は概して温暖に推移した他大雪に見舞われなかったこともあり、2022年12月のガソリン需要抑制の反動から、2023年12月の米国ガソリン需要が前年同月比で増加する格好となった一方、2024年1月は中旬を中心として米国では寒波が南下したこともあり、同国の幅広い範囲で気温が低下した結果、個人の外出が不活発化したことにより、同月の同国ガソリン需要が抑制される格好となったことが、当該需要が前年同月比で減少した背景にあるものと見られる(2023年12月の同国推定自動車運転距離数は前年同月比で2.4%程度の増加となった反面、2024年1月は同0.3%の増加にとどまっている)。なお、2024年1月の米国ガソリン需要は2020年1月の当該需要(日量872万バレル)(確定値)を5.3%程度下回っている。また、1月中旬頃に米国テキサス州等のメキシコ湾岸地域にまで寒波が南下したことにより、同地域の一部製油所では気温低下に伴い装置に不具合が発生した結果操業が停止した。寒波が過ぎ去った後これら製油所は稼働を再開し始めたが、他の製油所において春場のメンテナンス作業実施や停電等に伴う装置の不具合発生等より操業が停止したこともあり、同国製油所の原油精製処理量は落ち込んだままとなった(図2参照、2024年2月9日の週の米国原油精製処理量は日量1,454万バレルと2022年12月30日の週(この週の原油精製処理量は同1,382万バレルであった)以来の低水準であった)ことから、ガソリンを含む石油製品製造活動が不活発化した(ガソリン最終製品生産量は図3参照)。しかしながら、寒波の到来に伴う個人の外出の不活発化によるガソリン需要抑制の影響の方が大きかったこともあり、2024年1月上旬から2月上旬にかけての同国におけるガソリン在庫は混合基材を中心として若干ながらではあったが増加傾向となったうえ、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2015~24年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~24年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~24年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~24年)

2023年11月の米国留出油需要(確定値)は日量401万バレル、前年同月比で1.2%程度の減少となり(図5参照)、10月の同407万バレル(前年同月比2.3%程度の減少)から需要量はほぼ同水準となった一方前年同月比では減少率は縮小した。また、当該需要は速報値(前年同月比6.8%程度減少の日量378万バレル)から上方修正されている。米国鉱工業生産は、9月が前年同月比0.3%、10月が同1.0%、11月が同0.4%の、それぞれ減少となるなど不振であったことが、産業部門における留出油消費を抑制したことから、当該需要が前年割れとなった一方、11月の全米平均軽油小売価格は1ガロン当たり4.254ドルと前年同月(同5.255ドル)を下回る率が14.2%となり、10月の同13.5%から拡大したことから、価格の割安感が強まった結果、需要が喚起されたことが、当該需要の前年同月比での減少率を縮小する形で作用したものと考えられる。なお、11月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量420万バレル)(確定値)を4.5%程度下回っている。他方、2024年1月の米国留出油需要(速報値)は日量371万バレル、前年同月比で5.0%程度の減少となり、2023年12月の当該需要量(速報値)の日量356万バレル(前年同月比6.3%程度の減少)から需要量が増加したうえ前年同月比の減少率は縮小した。2024年1月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり3.854ドルと前月(同3.972ドル)比で下落したうえ、米国暖房油消費中心地である北東部が2024年1月は2023年12月に比べ寒冷であったことが、留出油需要が前月比で増加した背景にあるものと考えられる。また、2024年1月は前年同月比で寒冷であった反面、2023年12月は温暖であったことが、1月の当該需要の前年同月比での減少率が12月のそれに比べ縮小する一因になっているものと見られる。なお、2024年1月の米国留出油需要は2020年同月の当該需要(日量402万バレル)(確定値)を7.9%程度下回っている。このように、同国では暖房向けの留出油需要が喚起された一方、2024年1月中旬を中心とする時期に来襲した寒波等により一部製油所の装置に不具合が発生したことに加え春場の製油所のメンテナンス作業実施に伴い石油製品製造活動が不活発化したこともあり留出油生産活動が鈍化した(図6参照)結果、1月上旬から2月上旬にかけ米国留出油在庫は減少傾向となった他、平年並みの量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2015~23年)

図6 米国の留出油生産量(2009~24年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~24年)

2023年11月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比2.5%程度増加の日量2,071万バレルとなり(図8参照)、10月の同2,069万バレルから需要量はほぼ同水準となったが、同月の前年同月比3.4%程度の増加から増加率は縮小した。1月の同国ガソリン需要の前年同月比での増加率が12月から縮小したことが、同国石油需要の前年同月比での増加率の縮小に影響する格好となっている。また、ガソリン、留出油及びその他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正された(その他の石油製品の速報値は日量448万バレルであったが確定値は同464万バレルであった)ことから、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比2.0%程度増加の日量1,980万バレル)から上方修正されている。2023年のエタン価格が2022年比で総じて安価であったことに加え、米国テキサス州パサデナにおいてベイスター(Baystar、大手国際石油会社トタルエナジーとオーストリア石油化学会社ボレアリス(Borealis、オーストリア大手石油会社OMVが同社株式の75%、アブダビ国営石油会社ADNOCが25%を、それぞれ保有)の合弁会社)のベイ3(Bay 3)ポリエチレン製造装置が操業を開始(2023年10月3日に年産62.5万トンのポリエチレン製造装置が操業を開始した旨ベイスターが発表)したことにより、原料となるエタンの需要が増加したものと見られる他、大手国際石油会社シェルが操業を中断していたペンシルバニア州モナカのエタン分解装置(エチレン生産能力年産160万トン)が2023年12月上旬頃操業を再開した(2022年11月16日に本格的操業開始を発表したものの、その後大気汚染規制抵触の疑いや装置の不具合発生等により、操業を停止した旨2023年5月8日に報じられていた)旨2023年12月13日に伝えられたことにより、在庫積み上げを含め、原料となるエタンの需要が拡大したものと見られることが、その他の石油製品の需要を押し上げる一因となったものと考えられ、それが米国石油需要の前年同月比での増加にも寄与する格好となっている。なお、2023年11月の米国石油需要は2019年11月の当該需要(日量2,074万バレル)(確定値)を0.1%程度下回っている。他方、2024年1月の米国石油需要(速報値)は推定日量1,989万バレル、前年同月比で3.9%程度の増加となっており、12月の同国石油需要(速報値)である日量2,049万バレル、前年同月比6.0%程度の増加から、需要量が減少した他前年同月比でも増加率が縮小している。1月の同国ガソリン需要が前月比で減少した他前年同月比でも12月の増加から減少に転じたうえ、1月のその他の石油製品の需要も日量460万バレルと前月(同489万バレル)から減少していることが影響する格好となっている。なお、2024年1月の米国石油需要は、2020年1月の当該需要(日量1,993万バレル)(確定値)を0.2%程度下回っている。また、2024年1月中旬を中心とする時期に米国の幅広い地域に厳しい寒波が来襲した結果、例えばバッケン(Bakken)シェール地域を中心としてシェールオイルの生産が盛んな同国ノースダコタ州(2023年11月時点の同州の原油生産量日量129万バレルであった)の原油生産が大幅に落ち込んだ(日量65~70万バレル程度減少した旨1月17日に同州パイプライン局(North Dakota Pipeline Authority)が明らかにした)ことを含め、1月19日の週には同国の原油生産量が日量1,230万バレルと前週(同1,330万バレル)比で日量100万バレル程度減少した(なお、2月2日の週には同国原油生産量は同1,330万バレルへと回復している)。このようなこともあり、同時期寒波の来襲等による製油所における装置の不具合発生や春場の製油所メンテナンス作業実施に伴い原油精製処理量が減少したことが、同国原油在庫を増加させる形で作用したものの、1月上旬から下旬にかけての同国原油在庫は総じて減少傾向となった。しかしながら、その後2月上旬にかけては、米国原油生産量が寒波来襲前の水準に回復した一方、同国の製油所の原油精製処理量がさらに落ち込んだことにより、同国の原油在庫が大幅に増加した結果、2月上旬後半の当該在庫水準は1月上旬を上回る状態となった。また、米国原油在庫が平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、そして留出油在庫が平年並みの量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2015~23年)

図9 米国原油在庫推移(2003~24年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~24年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~24年)

2024年1月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国で減少となった他、欧州では紅海周辺においてイエメンのフーシ派武装勢力による船舶に対する攻撃が激化したことにより、紅海及びスエズ運河を経由した航路を船舶が敬遠するとともに喜望峰を経由する航路へと迂回させた結果、中東方面から欧州方面への原油タンカーの到着が遅延したり、到着までの航行日数が拡大するとともにタンカーの利用が長期化したことに伴い燃料を含む輸送費が増加したり、利用可能なタンカーの隻数が減少することによりタンカーの船腹需給の引き締まり感が強まったこともありタンカー傭船料が上昇したりしたことにより、中東から欧州方面への原油輸送を巡る採算性が悪化する格好となったことから、供給者が中東から欧州方面への原油出荷に対しより慎重になったものと見られることが、欧州の中東方面からの原油輸入量の減少に繋がったことにより、原油在庫は減少した。また、日本においても一部製油所がメンテナンス作業を実施しつつあったこともあり、それに併せる格好で原油在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧州ではほぼ同水準であった一方、プロパン(気温の低下に伴い暖房用需要が発生したことが一因であるものと見られる)及びその他の石油製品(冬用ガソリンに混入するブタンの需要が堅調であることによるものと見られる)の両在庫が減少したことから、米国では石油製品在庫は減少した。日本においては、冬場の気温低下とともに暖房向け灯油需要が喚起されたこともあり当該製品在庫が減少した(それでも、気温の低下が長続きしなかったこともあり灯油在庫の減少は総じて緩やかなものであった示唆する向きもある)ものの、ガソリン在庫が増加した(小売価格が概して下げ止まり気味であったことや乗用車の燃費効率の改善等が寄与しているものと見る向きがある)ことで相殺されたことから、石油製品在庫は微減となった。この結果、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少となり平年幅下方付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年幅下方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上方付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2024年1月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.8日と2023年12月末の推定在庫日数(60.9日)から減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~24年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~24年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~24年)

1月10日に1,200万バレル台前半程度の水準であったシンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は、1月17日には1,200万バレル台半ば程度、1月24日には1,300万バレル強程度、1月31日には1,400万バレル台前半程度の、それぞれ量へと増加した。しかしながら、2月7日及び14日にはともに1,300万バレル弱程度の水準へと低下している。2024年第1回の中国石油製品輸出枠1,900万トンが付与された(因みに2023年第1回は1,899万トンであった)(別途低硫黄重油輸出枠も前年比同水準の800万トンで付与された)こと(12月29日に中国当局は当該輸出枠付与を発表したとされる)に伴い、1月以降中国からシンガポール方面にガソリンを含む軽質留分が輸出され始めた結果、1月後半以降シンガポールに中国から当該製品が流入し始めたことが、シンガポールの軽質留分在庫を増加させる方向で作用した反面、2月に入り、中国の春節(旧正月、2024年は2月10日であり、このため中国では2月10~17日が休日になるとされるが、国及び地域により若干異なる場合がある)を控えた国内における個人の往来の活発化に伴う乗用車向け需要の増加に備え同国からのガソリン輸出が鈍化したことが、シンガポールのガソリン流入に影響する格好となった結果、同国の軽質留分在庫を押し下げる形で作用した。そして、このようにシンガポールでの軽質留分在庫は増減しつつも若干ながら増加傾向を示したものの、インドネシアを初めとするイスラム諸国において、断食月(ラマダン、2024年は3月10日から4月9日にかけてとされる)期間における住民の往来の活発化に伴うガソリン需要の増加に向けこれら諸国においてガソリン在庫積み上げが必要となるとの観測が市場で発生したことに加え、1月中旬頃に米国のテキサス州にまで寒波が南下し気温が大幅に低下したことに伴い一部製油所の装置で不具合が発生した他、それ以外の製油所においても停電等により操業が停止した。加えて、米国では春場のメンテナンス作業実施により製油所の稼働が大幅に低下した。さらに、欧州においても春場の製油所メンテナンス作業が実施されたり、装置に不具合が発生した結果製油所の稼働に支障が生じたりするなどしたこと、日本、韓国、台湾、中国、インドネシア、マレーシア及びタイ等の東アジアや東南アジア諸国等の製油所においても製油所の装置における不具合等が発生していると伝えられた他、一部製油所では春場のメンテナンス作業が実施されつつあったことなどから、石油製品製造活動の鈍化によりこれら諸国等からのガソリン供給が減少するとともに、これらの諸国からのガソリン購入意欲が増大するものと見られることに伴い、ガソリン需給の引き締まり感が強まった影響を受ける格好となったことから、1月中旬から2月中旬にかけてはアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(従来ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っていた)は拡大する傾向を示した。

他方、2023年11月19日に開始されたイエメンのフーシ派武装勢力による紅海周辺を航行する船舶に対する攻撃が激化する方向に向かいつつあったことから、欧州方面の製油所等で生産されたナフサをスエズ運河及び紅海経由で輸送することが困難になるとともに船舶が南アフリカ沖合の喜望峰経由へと迂回することにより、輸送日数が10日~2週間程度長く要する様になったことに加え、タンカーの利用期間の長期化による輸送燃料費の上昇やタンカー利用可能性の低下に伴うタンカー傭船料の上昇に伴う欧州方面からアジア方面へのナフサ供給の採算性の悪化による欧州からアジア方面の供給減少の恐れに対する懸念が市場で増大した。加えて、1月21日未明(現地時間)にロシアのウスチ・ルーガ(Ust-Luga)にある同国天然ガス会社ノバテックのコンデンセート分離装置において火災が発生したが、その原因が無人機の攻撃によるものである旨ウクライナ報道機関が報じた。また、ロシア南部黒海沿岸都市トゥアプセ(Tuapse)にある製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレルとされる)に1月24日深夜から1月25日未明(現地時間)にかけ無人機(ウクライナが発射したと伝えられる)が飛来した結果火災が発生した(1月25日朝(同)に鎮火したとされる)。さらに、2月3日にウクライナの無人機がロシア南部のボルゴグラード(Volgograd)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理量日量30万バレル)に落下(ロシア側はウクライナからの無人機を迎撃したと主張)した結果、火災が発生した(但しその後鎮火し、製油所の操業は正常通り行なわれている旨ルクオイルが表明したと2月3日に伝えられる)。そして、ウクライナの無人機がロシアのイルスキー(Ilsky)製油所(クラスノダール地方、原油精製処理能力日量13.3万バレルとされる)及びアフィプスキー(Afipsky)製油所(同、同12.1万バレルとされる)を攻撃した(イルスキー製油所では火災が発生した)旨2月9日に伝えられた。このようにウクライナが発射したものと見られる無人機によりロシア石油精製関連施設への攻撃が複数行なわれたことにより、従来ロシアからアジア方面に輸出されていたナフサの供給が減少する恐れがあるとの観測が市場で増大した。また、旧正月を前にして中国からエチレンの購買が活発化する場面が見られたことから、原料となるナフサの需要が増加するとの見方が市場で発生した。このような要因からナフサ需給の引き締まり感を市場が意識したことが、アジア市場におけるナフサ価格に上方圧力を加えた。このため、特に、1月中旬から1月末頃にかけての同市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向を示した。しかしながら、1月に開始された中東諸国の一部製油所におけるメンテナンス作業が3月にかけ終了に向かうことから、同地域からアジア方面へのナフサ供給が増加すると見る向きが市場で発生したことに加え、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期の終了が視野に入り始めるとともに暖房向けに利用されていた液化石油ガス(LPG)の需要が減少する結果需給が緩和するとの観測が市場で発生したことが、当該製品価格に下方圧力を加えたことにより、石油化学製品の原料となるLPGとナフサとの価格面での競合が激化すると見る向きが出てきた。さらに、日本や台湾等のアジアの一部諸国等でナフサ分解装置のメンテナンス作業が実施されつつあることから、同装置に投入する原料であるナフサの需要が低下するとの観測が市場で発生した。このような要因がアジア市場におけるナフサ価格に下方圧力を加えた結果、1月末頃から2月中旬にかけての同市場におけるナフサとドバイ原油と価格差は拡大する傾向を示した。

1月10日には700万バレル強程度の水準であったシンガポールにおける軽油やジェット燃料といった中間留分在庫は、1月17日及び24日には700万バレル弱程度の量へと減少した。しかしながら、その後1月31日及び2月7日には700万バレル強程度の水準へと回復したうえ、2月14日にはさらに900万バレル台半ばの水準へと増加している。東アジアや東南アジア等の一部製油所において春場のメンテナンス作業が実施されたり装置の不具合が発生したりしていることにより、それら諸国等からシンガポールに向けた軽油輸出が減少した一方、2024年第1回の石油製品輸出枠が付与された中国や紅海及びスエズ運河におけるイエメンのフーシ派武装勢力による船舶攻撃激化の結果喜望峰経由へと迂回させることにより輸送費やタンカー傭船料が上昇しつつあった欧州向けの軽油輸出を巡る採算性が悪化するとの見方が増大したこともあり、欧州方面の代わりにインドからシンガポール方面に軽油が流入した側面があったことが、シンガポールの中間留分在庫を押し上げる方向で作用したものと考えられる。そしてこのように、シンガポールにおける中間留分在庫が増加傾向を示したことが、アジア市場における軽油価格に下方圧力を加えたものの、欧州や米国において春場の製油所メンテナンス作業実施や寒波等の到来による装置の不具合発生等に伴い軽油等の製造活動が鈍化したことに加え、ロシアにおいて製油所の攻撃が相次いだことによりロシアからの軽油供給減少に伴い大西洋圏での軽油需給の引き締まり対する懸念が市場で増大するとともに中東やインド等から欧州に向けた軽油の輸出が活発化するとの見方が発生したこと等が、アジア市場の軽油需給の引き締まり感を市場で意識させる格好となったことが、同市場での軽油価格に上方圧力を加えたことから、1月中旬から下旬前半頃にかけ比較的限られた範囲内で変動していた軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は、1月下旬後半から2月中旬にかけては拡大する傾向を示した。

1月10日に2,300万バレル強程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、1月17日には2,200万バレル台半ば程度、1月24日には2,100万バレル強程度の、それぞれ量へと減少した。1月31日には2,300万バレル台半ば程度の水準へと回復したものの、2月7日には2,100万バレル台後半程度、そして2月14日には2,000万バレル強程度の量へと再び減少した。アジア諸国等における製油所のメンテナンス作業実施に伴い重油の製造活動が不活発化する中、紅海及びスエズ運河周辺においてイエメンのフーシ派武装勢力が船舶への攻撃を激化させていることから、船舶が喜望峰経由へと輸送経路を変更したことにより、船舶の航行が長期化するとともに、船舶向けの重油需要が増加した(2024年1月のシンガポールの重油販売量は491万トン(推定日量102万バレル)と前年同月比で約12%増加したとされる)ことが、シンガポールにおける重油在庫減少の背景にあるものと考えられる。そしてこのようにシンガポールの重油在庫減少に伴いアジア地域における重油需給の引き締まり感が市場で発生したことがアジア市場での重油価格に上方圧力を加えた反面、日本やアラブ首長国連邦(UAE)等の一部諸国等において製油所の石油製品改質装置のメンテナンス作業実施や不具合発生により、高硫黄重油が輸出されつつある(また、最近では中東地域の発電所では低硫黄重油が利用されるようになったこともあり高硫黄重油が余剰気味となっていると見る向きもある)ことが同市場での重油価格を抑制する形で作用した結果、1月中旬から2月中旬にかけ高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は上下に変動しつつも、若干ながら縮小する傾向を示した。他方、それまで装置不具合発生等に伴い減産状態であったとされたクウェートのアル・ズール(Al-Zour)製油所(操業者:KIPI(Kuwait Integrated Petroleum Industries)、原油精製能力日量61.5万バレル)はほぼ完全な操業状態に到達した旨KIPIが2023年12月3日に声明を発表した後、2024年1月に入り同製油所からの低硫黄重油販売が行なわれる場面が見られたものの、1月下旬においては、同製油所からの低硫黄重油の供給が左程増加していないと指摘する向きが出てきたこともあり、低硫黄重油の引き締まり感が市場で意識されるようになったことが、アジア市場における低硫黄重油価格に上方圧力を加えた結果、1月中旬から末頃にかけての同市場における低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油の価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した。しかしながら、2月に入り同製油所からの低硫黄重油の供給が拡大しつつあるものと見受けられるようになったことから、同製品の需給緩和感が意識された結果、2月上旬から中旬にかけての同市場における低硫黄重油とドバイ原油との価格差は多少なりとも縮小する傾向を示している。

 

2. 2024年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場等の状況

2024年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場においては、1月29日に中国不動産開発大手中国恒大に対し法的整理命令が発令されたこと、中国製造業が縮小している旨購買担当者指数が示したこと、イスラエルとハマスとの間での停戦交渉が進捗しつつある旨2月1日に伝えられたこと、米国経済が堅調であることを示す経済指標類が発表されたことにより同国金融当局による政策金利引き下げ観測が後退したこと等が原油相場に下方圧力を加えたものの、1月22日等にロシアの石油関連施設に対し無人機による攻撃が行われたこと、紅海を航行するタンカーに対しイエメンのフーシ派武装勢力が攻撃を加えた旨1月26日等に報じられたこと、2024年の世界経済成長見通しを上方修正する旨1月30日に国際通貨基金(IMF)が明らかにした他、米国がベネズエラに対する制裁を強化する旨1月29日夜(米国東部時間)から1月30日にかけ報じられたこと、ハマスとの休戦を拒否した旨イスラエルが2月7日に表明したうえ同国がパレスチナ自治区ガザ地区への空爆等を継続したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、1月12日には1バレル当たり72.68ドルであった原油価格(WTI)は上昇傾向となり、2月16日の終値は同79.19ドルと2023年11月6日以来の高水準に到達した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~24年)

1月15日には、米国マーティン・ルーサー・キング牧師の日(Martin Luther King Jr. Day)に伴い終値は計上されなかったが、米国物価上昇の持続的沈静化の傾向が明確になるまでは政策金利引き下げを急ぐべきではない旨1月16日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事が明らかにしたことにより、同国金融当局による政策金利引き下げに伴う同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で後退したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.28ドル下落し、終値は72.40ドルとなった。ただ、1月17日には、この日OPECから発表された「月刊オイル・マーケット・レポート」において、OPECが2024年の世界石油需要増加見通しを前年比日量225万バレルで据え置いたことから、同年の世界石油需要の根強い増加に対する期待が市場で増大した他、2025年の世界石油需要増加が同年の非OPEC産油国石油供給の増加を上回るものとOPECが見込んでいる旨示唆されたことにより、この先の石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.56ドルと前日終値比で0.16ドル上昇した。また、1月18日も、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表された「オイル・マーケット・レポート」において、IEAが2024年の世界石油需要増加見通しを日量18万バレル上方修正したことにより、この先の堅調な石油需要を市場が意識したことに加え、1月18日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(1月12日の週分)において、原油在庫が前週比249万バレル減少し4.30億バレルと、2023年10月27日(この時は4.22億バレル)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(同31~85万バレル程度の減少)を上回って減少していたうえ、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で210万バレルの減少となっている旨判明したことにより、同国原油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、イエメンのフーシ派武装勢力の拠点の14の標的に対し米国軍が新たに空爆を実施した旨1月18日に伝えられた他、パキスタン軍がイラン南部のシスタン・バルチスタン(Sistan and Baluchestan)州のテロリストが潜伏していると見られる場所に対し攻撃を実施した旨同日報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したこと、米国大手金融機関バンク・オブ・アメリカが投資判断を引き上げた同国情報技術(IT)大手アップルが先導する形となりIT関連株式を中心として米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.52ドル上昇し、終値は74.08ドルとなった。この結果原油価格は1月17~18日の2日間で1バレル当たり合計1.68ドル上昇した。ただ、1月19日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、1月19日に米国ミシガン大学から発表された12月の同国消費者信頼感指数(1964年=100)が78.8、前月比で9.1ポイントの上昇と2005年12月(この時は同9.9ポイントの上昇)以来の大幅上昇となり、2021年7月(この時は81.2)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(70.0~70.1)を上回って上昇している旨判明したことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で後退したこともあり、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で拡大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.67ドル下落し、終値は73.41ドルとなった。

しかしながら、1月21日未明(現地時間)にロシア北西部の都市であるウスチ・ルーガ(Ust-Luga)にある同国天然ガス会社ノバテックのコンデンセート分離装置において火災が発生したこともあり、近隣の輸出ターミナル(日量68万バレル程度のロシア産及びカザフスタン産原油を輸出しているとされる)からの輸出が一時停止(その後1月22日昼頃(同)に輸出は再開されたと伝えられる)、その原因が無人機の攻撃によるものである旨ウクライナ報道機関が報じたこともあり、今後の同国石油関連施設攻撃と石油供給の途絶の可能性に関する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.19ドルと前週末終値比で1.78ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2024年2月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2024年3月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり74.76ドル(前日終値比同1.51ドルの上昇)であった)。それでも、1月22日の原油価格の上昇に対し利益確定の動きが1月23日の市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.82ドル下落し、終値は74.37ドルとなった。ただ、1月24日にEIAから発表された米国石油統計(1月19日の週分)において、原油在庫が前週比923万バレル減少し4.21億バレルと、2023年10月13日(この時は4.20億バレル)以来の低水準となった他市場の事前予想(同140~220万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したうえ、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で201万バレルの減少となっている旨判明したことにより、同国原油需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、イラクの親イラン武装勢力「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」の拠点等3ヶ所を空爆した旨1月23日夜(米国東部時間)に米軍が発表した他、イエメンのフーシ派武装勢力に対し1月23日に続き1月24日(現地時間午前2時半)に攻撃を実施した旨米軍が1月24日に発表したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したこと、中国の景気を支援するために2024年2月5日に中国市中銀行の預金準備率を0.5%引き下げる旨1月24日に中国人民銀行の潘功勝総裁が発表した(同総裁が直接預金準備率の引き下げを発表するのは異例であるとされる)ことにより、同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したこと、1月25日に開催される予定である欧州中央銀行(ECB)理事会を前にした持ち高調整が発生したこともありユーロが上昇した反面米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.09ドルと、前日終値比で0.72ドル上昇した。また、ロシア南部黒海沿岸都市トゥアプセにある製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレルとされる)に1月24日深夜から1月25日未明(現地時間)にかけ無人機(ウクライナが発射したものと伝えられる)が飛来して攻撃した結果火災が発生した(1月25日朝(同)に鎮火したとされる)ことにより、ロシアの原油及び石油製品等の出荷関連施設への攻撃に伴う同国からの石油供給上の支障に対する懸念が市場で増大したことに加え、1月25日に米国商務省から発表された2023年10~12月期の同国国内総生産(GDP)が前期比年率3.3%の増加と市場の事前予想(同2.0%の増加)を上回っている旨判明したことにより同国経済の底堅さを市場が意識したこともあり同国株式相場が上昇したことから、1月25日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.27ドル上昇し、終値は77.36ドルとなった。さらに、イエメンの都市アデンの沖合を航行中であった石油製品タンカー「マリン・ルアンダ(Marin Luanda)」(マーシャル諸島船籍)を攻撃した結果炎上した旨1月26日にイエメンのフーシ派武装勢力が発表した(後に大手国際資源商社トラフィギュラ(Trafigura)の委託によりロシア産ナフサを輸送すべく航行中であった同タンカーにミサイルが着弾した結果、火災が発生し消火作業中である旨1月26日に伝えられた)ことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したこともあり、米国ガソリン及び暖房油両先物価格が上昇したことから、1月26日の原油価格の終値は1バレル当たり78.01ドルと前日終値比で0.65ドル上昇した。この結果原油価格は1月24~26日の3日間で1バレル当たり合計3.64ドル上昇した他、1月26日の終値は2023年11月14日(この日の終値は同78.26ドル)以来の高水準に到達した。

ただ、1月29日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、1月29日に香港高等裁判所が中国大手不動産開発会社中国恒大に対し法的整理を命令したことにより、同社の法的整理を巡る混乱に伴う中国経済減速と同国石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.23ドル下落し、終値は76.78ドルとなった。それでも、1月30日には、この日国際通貨基金(IMF)から発表された世界経済見通しにおいて、IMFが2024年につき米国(2023年10月5日発表の前回見通しである1.5%から2.1%へ)及び中国(同4.2%から4.6%へ)を含め世界経済成長見通しを3.1%と前回見通し時から0.2%上方修正したことにより、世界石油需要の伸びの加速期待が市場で発生したことに加え、1月26日にベネズエラ最高裁判所が2024年後半に実施される予定である同国大統領選挙において野党統一候補のマチャド氏の出馬を禁止する旨決定したことに対し、ベネズエラ国営鉱山会社ミネルベン(Minerven)を含む企業との取引を2月13日までに停止する旨米国企業に求める他、現在実施中の米国による対ベネズエラ制裁緩和措置の期限となっている4月18日以降の当該緩和措置の延長を行なわない結果、米国国内でのベネズエラ国営石油会社PDVSAとの取引を認めないと言った、事実上の制裁の再強化を米国が警告した旨1月29日夜(米国東部時間)から1月30日にかけ報じられたことにより、ベネズエラからの石油供給減少懸念が市場で発生したこと、1月28日にヨルダン北東部のシリア国境付近に駐留している米軍が無人機で攻撃を受け米国軍事関係者3人が死亡したことに対し、1月30日に米国のバイデン大統領が報復措置実施を決断した旨明らかにしたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり77.82ドルと前日終値比で1.04ドル上昇した。しかしながら、1月31日には、この日中国国家統計局から発表された1月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.2と2023年12月の49.0からは上昇したものの、4ヶ月連続で当該部門が縮小している旨示したことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、1月31日にEIAから発表された米国石油統計(1月26日の週分)において、原油在庫が前週比123万バレルの増加と市場の事前予想(同110~220万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことにより、同国原油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.97ドル下落し、終値は75.85ドルとなった。また、イスラエルがイスラム武装勢力ハマスとの間での停戦案に合意した旨カタール外務省報道官が明らかにしたと2月1日に同国報道機関アルジャジーラが報じた(後にアルジャジーラはハマスが停戦案を前向きに検討しているとしたもののイスラエルの停戦合意に関する報道は事実上撤回した)ことにより、中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.82ドルと前日終値比で2.03ドル下落した。さらに、2月2日も、米国、イスラエル、エジプト及びカタールが提案した、イスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での停戦案につき、ハマスが検討中である旨2月1日に伝えられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退した流れを引き継いだことに加え、中国不動産市場改革への同国当局の対処が遅延するようであれば、現在4.6%と見込んでいる2024年の同国経済成長率が下振れし4%を割り込む恐れがある旨2月2日に国際通貨基金(IMF)が明らかにしたことにより、中国経済減速に伴う同国石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、2月2日に米国労働省から発表された1月の同国非農業部門雇用者数が前月比で35.3万人の増加と12月の同33.3万人の増加から増加幅が拡大、2023年1月(この時は同48.2万人の増加)以来の大幅な増加となった他、市場の事前予想(同18.0~18.5万人の増加)を相当程度上回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.54ドル下落し、終値は72.28ドルとなった。この結果原油価格は1月31日~2月2日の3日間で1バレル当たり合計5.54ドル下落した。

ただ、米国がシリア及びイラクにおけるイラン関連施設に対する空爆を開始した旨2月2日午後遅く(米国東部時間)に報じられた(その後シリア及びイラクにおいて親イラン武装組織の使用する7施設85ヶ所以上を標的として空爆を実施した旨2月2日に米軍が発表した)うえ、2月3日にはイエメンにおいてフーシ派武装勢力が使用しているとされる13施設36ヶ所を標的として米軍及び英軍が攻撃を実施したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶に対する懸念が増大したことから、2月5日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.50ドル上昇し、終値は72.78ドルとなった。また、2月6日も、この日EIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)において、EIAが2024年の米国石油生産の伸びを日量24万バレルと2023年1月9日に発表された前回のSTEOにおける同38万バレルから下方修正したことにより、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.31ドルと前日終値比0.53ドル上昇した。さらに、2月7日も、この日EIAから発表された米国石油統計(2月2日の週分)において、ガソリン在庫が前週比315万バレル、留出油在庫が同322万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(ガソリン在庫同14~150万バレル程度の増加、留出油在庫同100~250万バレル程度の減少)に反し、もしくは事前予想以上に減少していた旨判明したことにより、同国ガソリン及び留出油両先物価格が上昇したことに加え、イスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での休戦に関しハマスが行なった提案(2月6日に当該提案を行なった旨ハマスが発表、各45日間の休戦を3回に渡り実施し、その期間中にハマスが人質を解放すると言う内容であるとされる)につき、解決策は完全勝利以外にないとしてハマスによる休戦提案の受入を拒否する旨2月7日にイスラエルのネタニヤフ首相が表明したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶に対する懸念が増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.55ドル上昇し、終値は73.86ドルとなった。そして、2月7日にEIAから発表された米国石油統計においてガソリン在庫が市場の事前予想に反し減少していた旨判明した流れを引き継いだことにより、2月8日の同国ガソリン先物価格が上昇したことに加え、ハマスによる休戦提案受入を拒否したイスラエルが2月8日にパレスチナ自治区ガザ南部ラファ(Rafah)を攻撃したことにより、中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.22ドルと前日終値比で2.36ドル上昇した。加えて、10月7日のハマスのイスラエル攻撃に対するイスラエルの対応は行き過ぎであり、民間人に対する適切な配慮がない場合にはイスラエルのラファに対する軍事行動を支持しない旨2月8日に米国のバイデン大統領が発言したにもかかわらず、2月9日においてもイスラエルはラファを空爆し続けたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶に対する懸念が市場で増大したことに加え、米国の製油所における春場のメンテナンス作業実施等に伴う稼働低下による留出油製造活動の不活発化に伴う当該製品在庫減少を受けた需給の引き締まり感が市場で強まったことにより2月9日に同国暖房油先物価格が上昇しこの日の終値が1ガロン当たり2.9642ドル(1バレル当たり124.50ドル)と、2023年11月2日(この日の終値は1ガロン当たり3.0255ドル)以来の高水準に到達したことが原油相場に上方圧力を加えたこと、ウクライナの無人機がロシアのイルスキー(Ilsky)製油所(クラスノダール地方、原油精製処理能力日量13.3万バレルとされる)及びアフィプスキー(Afipsky)製油所(同、同12.1万バレルとされる)を攻撃した(イルスキー製油所では火災が発生した)旨2月9日に伝えられたことにより、ロシアからの石油製品供給の支障に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.62ドル上昇し、終値は6.84ドルとなった。この結果原油価格は2月5~9日の5日間で1バレル当たり合計4.56ドル上昇した。

2月12日には、この日未明(現地時間)イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区のラファを空爆した一方、紅海を航行中の貨物船「スター・アイリス」(マーシャル諸島船籍)に対しイエメンのフーシ派武装勢力がこの日攻撃を行なった旨伝えられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶に対する懸念が市場で増大したことに加え、これまでOPECプラス産油国生産目標を超過していたとされるイラクの原油生産が今や当該目標を遵守している旨同国のアブドル・ガニ石油相が2月12日に明らかにしたことにより、OPECプラス産油国の減産遵守向上に伴う世界石油需給引き締まりに対する観測が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えた一方、イスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間で6週間の休戦を行なうべく努力している旨2月12日にバイデン大統領が表明したことにより、両者の休戦による中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶に対する懸念が後退したことに加え、2月12日にニューヨーク連邦準備銀行から発表された1年先期待物価上昇率が3.0%と1月8日から発表された3.01%からほぼ横這いとなったうえ、米国金融当局が目標としている物価上昇率である2%を上回ったままとなっている旨判明したことにより、同金融当局による政策金引き下げ期待が市場で後退したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.08ドルの上昇にとどまり、終値は76.92ドルとなった。しかしながら、2月13日には、この日OPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートでOPECが2024年の世界石油需要を前年比日量225万バレル、2025年を同185万バレルの、それぞれ増加と1月17日に発表された前回の見通し時から据え置いた他、2024年の世界経済成長見通しを2.7%、2025年を2.9%と前回見通し時からそれぞれ0.1%上方修正したうえ、さらなる上方修正もありうる旨指摘したことにより、この先の世界石油需要の上振れ期待が市場で増大したことに加え、米国、イスラエル、カタール及びエジプトの間で検討されていたパレスチナ自治区ガザ地区の休戦を巡る協議が有意な結論なく2月13日に終了した旨この日報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり77.87ドルと前日終値比で0.95ドル上昇した。ただ、2月14日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、2月14日にEIAから発表された米国石油統計(2月9日の週分)において、原油在庫が前週比1,202万バレルの増加と、市場の事前予想(同260万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.23ドル下落し、終値は76.64ドルとなった。それでも、2月15日には、この日米国商務省から発表された1月の同国小売売上高が前月比0.8%減少と12月の同0.4%増加(改定値)から減少に転じた他、2023年3月(この時は同0.9%の減少)以来の大幅な減少となったうえ、市場の事前予想(同0.1~0.2%の減少)を上回って減少している旨判明したことにより、米国経済減速に伴う同国金融当局による政策金利引き下げ実施期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.03ドルと前日終値比で1.39ドル上昇した。また、イスラエルとの戦闘を激化させる方針である旨2月16日にヒズボラの指導者ナスララ師が表明したこと(後述)により、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり1.16ドル上昇し、終値は79.19ドルとなった他、この日の終値は2023年11月6日(この日の終値は同80.82ドル)以来の高水準に到達した。また、この結果原油価格は2月15~16日の2日間で1バレル当たり合計2.55ドル上昇した。

 

3. 原油市場における主な注目点等

原油相場に影響を与えうる地政学リスク要因としては、引き続き中東情勢が挙げられる。イラクにおいて親イラン武装勢力「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」の拠点を空爆した旨米軍が2024年1月23日夜(米国東部時間)に発表した(これまでの駐留米軍に対する攻撃への報復措置とされる)。また、イエメンの都市アデンの沖合を航行中であった石油製品タンカー「マリン・ルアンダ(Marin Luanda)」(マーシャル諸島船籍)を攻撃した結果炎上した旨1月26日にイエメンのフーシ派武装勢力が発表した(後に大手国際資源商社トラフィギュラ(Trafigura)の委託によりロシア産ナフサを輸送すべく航行中であった同タンカーにミサイルが着弾した結果、火災が発生し消火作業中である旨同日伝えられた)。さらに、1月28日にヨルダン北東部のシリア国境付近に駐留している米軍が無人機で攻撃を受け米国軍事関係者3人が死亡した旨報じられた(後に米国バイデン大統領がその旨声明を発表し報復措置の実施を示唆した)ことにより、10月7日にイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での戦闘が開始されて以降で初めて米国側に犠牲者が発生した。1月30日にはバイデン大統領が報復措置実施を決断した旨明らかにした。1月31日には米国国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官が、米軍への攻撃はカタイブ・ヒズボラを含む親イラン武装組織の連合体である「イラクのイスラム抵抗運動」によるものであると分析した旨明らかにした。また、イラクとシリアの親イラン武装勢力関連施設に対し数日間にわたり報復措置を実施する旨米国政府が承認したと2月1日に報じられた。そして、米国はシリア及びイラクのイラン関連施設に対する空爆を開始した旨2月2日午後遅く(米国東部時間)に報じられた(その後シリア及びイラクにおいて親イラン武装組織の使用する7施設85ヶ所以上を標的として空爆を実施した旨2月2日に米軍が発表した)うえ、2月3日にはイエメンでフーシ派武装勢力が使用しているとされる13施設36ヶ所を標的として米軍及び英軍が攻撃を実施した。また、2月14日にはイスラエル軍がレバノン南部の複数の地点を空爆した(レバノンの親イラン武装勢力ヒズボラによるイスラエルに対する攻撃への報復であるとイスラエル側は主張している)ことに対し、2月15日にヒズボラはイスラエル北部に向け数十発のミサイルを発射したうえ、イスラエルとの戦闘を激化させる方針である旨2月16日にヒズボラの指導者ナスララ師が表明した。さらに、紅海を航行中の原油タンカー「ポルックス(Pollux)」(パナマ船籍)(1月24日にロシアの黒海沿岸港ノボロシイスクで原油を積載しインドのパラディップ(Paradip)(2月28日到着予定)へと輸送中であった)がイエメン方面から飛来したミサイルにより攻撃を受け被弾した(被害は軽微であったとされる)旨2月16日に米国国務省が明らかにしたが、2月17日にフーシ派武装勢力が同タンカーを攻撃した旨の声明を発表した。

他方、米国、イスラエル、エジプト及びカタールが提案した、イスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での停戦案につき、ハマスが検討中である旨2月1日に伝えられた。また、ハマスとの間での人質解放に向けた交渉に関し前向きな感触を得ている旨カタールのムハンマド首相が明らかにしたと2月6日昼過ぎ(米国東部時間)に報じられた。しかしながら、イスラエルとハマスとの間での休戦に関しハマスが行なった提案(2月6日に当該提案を行なった旨ハマスが発表、各45日間の休戦を3段階に渡り実施し、その期間中にハマスが人質を解放すると言う内容であるとされる)につき、解決策は完全勝利以外にないとしてハマスによる休戦提案の受入を拒否する旨2月7日にイスラエルのネタニヤフ首相が表明、2月8日にはパレスチナ自治区ガザ地区南部にある都市ラファを攻撃し始めた。2月8日には米国のバイデン大統領がイスラエルの対応は行き過ぎであり、民間人に対する適切な配慮がなされない場合にはイスラエルのラファに対する軍事行動を支持しない旨発言したにもかかわらず、2月9日においてもイスラエルはラファを空爆し続けた。そして、エジプトの首都カイロで行われていた、米国、イスラエル、カタール及びエジプトの間で検討されていたパレスチナ自治区ガザ地区の休戦を巡る協議は有意な結論なく終了した旨2月14日にイスラエルのネタニヤフ首相が表明、同国の協議団はカイロから引き揚げた(他の3ヶ国は協議を継続しているとされる)。

このように、中東情勢はどちらかというとより複雑化する方向に向かいつつある。従って今後少なくとも短期的には、親イラン武装勢力等が紅海等を航行中の船舶及びイラクやシリア等に駐留する米軍の拠点を攻撃する(もしくは中東周辺海域の航行するタンカー等を拿捕する等するかもしれない)ことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶の可能性に対する市場の懸念が払拭しきれないことから、この面では原油相場が今暫くは下支えされやすい他、イスラエルのパレスチナ自治区ガザ地区に対する攻撃や親イラン武装勢力等による実際の紅海等における船舶攻撃、そしてイラク及びシリア等の米軍駐留拠点等に対する攻撃の実施等が頻発すれば、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶に対する懸念が一層増大することにより、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られると言った展開も想定される。また、フーシ派武装勢力等による船舶への攻撃の恐れから、従来紅海及びスエズ運河を経由して輸送されていた原油及び石油製品が南アフリカ沖合の喜望峰を経由するようになりつつある結果、紅海及びスエズ運河を経由する場合よりも10日間~2週間程度余計に輸送期間を要するようになっている。最近では、遅延はしたものの、喜望峰を経由した石油製品等が仕向地等に到着し始めている旨伝えられているが、輸送距離が拡大するや輸送期間をできるだけ短縮すべくタンカーが速度を上げることに伴いタンカー向けの燃料消費量が増加する他、タンカーの利用が長期化することにより、燃料費やタンカー傭船料が嵩むことから、アジア太平洋圏から大西洋圏へ、もしくは大西洋圏からアジア太平洋圏への原油及び石油製品等の供給を巡る採算性が悪化する可能性が増大する結果、以前に比べ供給者が原油及び石油製品の出荷に慎重になるとともに、大西洋圏とアジア太平洋圏との間での円滑な原油及び石油製品の流通への支障が増大することにより、少なくとも一部地域においては原油及び石油製品の需給がより引き締まりやすくなるとの懸念が市場で強まる結果、原油及び石油製品の価格に上方圧力が加わる場面が見られやすくなるものと考えられる。また、イスラエルとハマスの対立がさらに強まるとともに、イスラエル、イスラエルを支援する米国、及びイスラエルとの外交関係改善に向かいつつあったサウジアラビアと、ハマス、ハマスを支援するとされるイラン、同じくイランが支援するとされるレバノンの武装勢力ヒズボラ、イエメンのフーシ派武装勢力、及びイラクやシリア等を拠点とする他の親イラン武装勢力等との間での対立が先鋭化することにより、2023年3月10日に発表されたサウジアラビアとイランとの間での外交関係正常化の合意(サウジアラビアが2016年1月2日にテロ行為に関与した等の理由によりイスラム教シーア派指導者ニムル師の処刑を執行したことに対し、イランでデモ隊が抗議行動として在テヘランサウジアラビア大使館を襲撃したことから両国は2016年1月3日以降断交状態となっていた)後、それまでサウジアラビアが支援するハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で内戦状態となっていたイエメンにおいて両勢力間での和平の機運が相対的に高まりつつあったものの、再びハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で内戦状態に戻るとともに、フーシ派武装勢力によりサウジアラビアの石油関連施設へミサイルや無人機が発射される等する結果、サウジアラビアからの石油供給に支障が発生したり、紅海のみならずペルシャ湾等他の地域においてタンカーを含む船舶が拿捕されたり、もしくは攻撃を受けたりすることにより、中東産油国等からの石油供給を巡る懸念が一層拡大したり、さらにはイランがホルムズ海峡(2023年前半時点で原油及びコンデンセート日量1,470万バレル、石油製品同580万バレル、合計同2,050万バレル相当分の石油を積載したタンカーが通過する)を封鎖したりする結果、相当量の石油供給が途絶する恐れがあるとの懸念が増大したりする(カーグ島を含めイランの主力石油積出港はホルムズ海峡内のペルシャ湾岸地帯に位置することもあり、イランが同海峡を封鎖する確率は高くないものと認識されてはいるが、実際に封鎖された場合世界石油需要の20%程度が影響を受けるなどするため、市場では懸念が発生しやすい)ことにより、原油価格が影響を受ける可能性があるので、注意する必要があろう。

他方、ウクライナとロシアとの対立についても新たな展開が見られる。2024年1月21日未明(現地時間)にロシアのウスチルーガ(Ust-Luga)にある同国天然ガス会社ノバテックのコンデンセート分離装置において火災が発生したこともあり、近隣の輸出ターミナル(日量68万バレル程度のロシア産及びカザフスタン産原油を輸出しているとされる)からの原油輸出が一時停止した(その後1月22日昼頃(同)に輸出は再開された他、2月11日にコンデンセート分離装置が操業を再開した旨伝えられる)が、その原因が無人機の攻撃によるものである旨ウクライナ報道機関が報じた。また、ロシア南部黒海沿岸都市トゥアプセ(Tuapse)にある製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレルとされる)に1月24日深夜から1月25日未明(現地時間)にかけ無人機(ウクライナが発射したと伝えられる)が飛来した結果火災が発生した(1月25日朝(同)に鎮火したとされる)。さらに、2月3日にウクライナの無人機がロシア南部のボルゴグラード(Volgograd)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理量日量30万バレル)に落下(ロシア側はウクライナからの無人機を迎撃したと主張)した結果、火災が発生した(但しその後鎮火し、製油所の操業は正常通り行なわれている旨ルクオイルが表明したと2月3日に伝えられる)。加えて、ウクライナの無人機がロシア南部クラスノダール地方にあるイルスキー(Ilsky)製油所(原油精製処理能力日量13.3万バレルとされる)及びアフィプスキー(Afipsky)製油所(同12.1万バレルとされる)を攻撃した(イルスキー製油所では火災が発生した)旨2月9日に伝えられた。このようなことから、ロシアの製油所からの石油製品の製造に支障が発生する結果、大西洋圏等の石油製品需給(また、ロシア産ナフサはアジアにまで輸出されているため、石油製品によってはアジア太平洋圏の石油製品需給)を引き締める方向で作用する結果、欧米諸国及びアジアの製油所の春場のメンテナンス作業実施や装置不具合発生等による石油製品製造活動の不活発化と併せ、石油製品価格が上昇する(特に足元は冬場の暖房シーズンに伴い暖房向け軽油需要期であることから軽油の価格が上昇しやすい)結果、原油相場にも上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。

1月26日にはベネズエラ最高裁判所が2024年後半に実施される予定である同国大統領選挙において野党統一候補のマチャド氏の出馬を禁止する旨決定したことに対し、米国財務省はベネズエラ国営鉱山会社ミネルベン(Minerven)を含む企業との取引を2月13日までに停止するよう米国企業に求める他、現在実施中の米国による対ベネズエラ制裁緩和措置の期限となっている4月18日以降への当該緩和措置延長を行なわない結果、米国国内でのベネズエラ国営石油会社PDVSAとの取引を認めないと言った、事実上の制裁の再強化を発動した旨1月29日夜(米国東部時間)から1月30日にかけて報じられた。このため、一時は増加しつつあったベネズエラの原油生産が再び減少する可能性がある他、同国からの原油生産の増加(但し大幅な増加には相当程度の時間を要するものと見られる)に対する期待も市場で低下することにより、将来的な世界石油需給の緩和感が市場で後退する結果、この面では相対的に原油相場を下支えしやすくするものと考えられる。また、隣国のガイアナの北部にある「エセキボ(Essequibo)地域」(ガイアナの国土の7割程度を占める)(国際的な仲裁裁定を通じ1899年に同地域はガイアナ(当時は英領)の領有であるものと認定されたが、ベネズエラはその裁定に不正があった旨主張している)とともに、現在エクソンモービル等が原油生産を実施しているリザ(Liza)油田等を含むガイアナ沖合鉱区の大部分が自国領である旨主張しているベネズエラは、同地域に隣接する国境付近における軍備を増強しつつある旨2月9日に伝えられた。このようなことから、ベネズエラとガイアナの間での緊張が高まりつつあり、今後さらに両国による対立が高まることに伴い、ガイアナ沖合鉱区における石油開発活動及び原油生産、出荷及び輸送等に影響を及ぼすことにより、同地域からの石油供給に支障が発生することに対する懸念が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力を加えるといった展開となることもありうるので注意する必要があろう。

リビアでは、地域公共サービスの拡充や若年層の雇用拡大を求めた地域住民による抗議行動に伴いリビア南西部のシャララ(Sharara)油田の原油生産(通常日量30万バレル)が停止した旨2024年1月3日に伝えられた。また、リビア南西部にあるエル・フィール(El Feel)油田(原油生産量日量6.5万バレルとされる)も地域住民による抗議行動により操業を停止した旨1月3日夜(米国東部時間)に報じられた。このため、1月7日にはシャララ油田の出荷に関し不可抗力条項の適用をリビア国営石油会社NOCが宣言した。ただ、抗議行動終了に伴いシャララ油田からの原油出荷に関する不可抗力条項の適用が解除されるとともに、同油田の原油生産が正常な状態に向け回復しつつある旨1月21日にNOCが明らかにした。このように、リビアについては、足元内戦状態に伴う国内石油供給混乱は収束しつつある格好となっているが、この先も油田関連施設周辺の地域住民による抗議行動等により当該施設が封鎖されるとともに同国の原油生産が影響を受ける場面が見られないとも限らないので注意する必要があろう。

1月30~31日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見において、米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、3月19~20日に開催される予定である次回FOMCにおいて政策金利引き下げが実施される可能性は高くないと考えている旨示唆した。また、依然として物価上昇リスクを伴うとして政策金利の引き下げは時期尚早である旨2月2日にFRBのボウマン理事が明らかにした。さらに、米国の物価上昇沈静化が持続的に低下していることを確信できるようなデータを待って政策金利引き下げを実施する意向である旨2月4日にパウエル議長が明らかにした。そして、政策金利引き下げのためには米国物価上昇沈静化につきさらなる証拠が必要である旨2月2日及び2月5日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示唆した(但し、米国物価上昇率が目標である2%に到達するまで政策金利引き下げ開始を待つべきでない旨2月14日にグールズビー総裁は明らかにしている)。加えて、政策金利を引き下げる前にこの先発表される予定である経済指標類の内容を精査する必要があるとして、早期の政策金利引き下げに慎重な姿勢を米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が示した旨2月5日伝えられる(同総裁は2月7日にも同趣の発言を行なっている)。また、政策金利引き下げ時期に関する具体的な見解は持ち合わせていない旨2月6日に米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が発言した。さらに、政策金利引き下げ時期を巡る米国金融当局による辛抱強い対応を支持する旨米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が2月7日に明らかにしている(同総裁は2月8日にも同趣の発言を行なっている)。そして、政策金利引き下げを支持するには米国の物価上昇率が2%の目標に到達していることを示すさらなる証拠が必要である旨米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が2月7日に明らかにした。加えて、政策金利引き下げを早急に実施する必要性は感じられない旨2月7日にFRBのクーグラー(Kugler)理事が明らかにした。2月9日には米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が、米国の物価上昇沈静化への方策を完了させなければならない旨明らかにした(また、米国の物価上昇は抑制されつつあるように見受けられるものの、上昇拡大リスクは依然存在していることもあることから、政策金利を引き下げる用意はまだない旨2月15日に同総裁は発言したが、2024年の夏にも政策金利引き下げが開始されることを支持する他、経済指標類の内容次第では開始時期を前倒しする可能性もある旨2月16日に同総裁は明らかにしている)他、2月9日には米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が米国の物価上昇沈静化に関し確信を持てるようなデータにつき時間をかけ確認する必要がある旨明らかにした。さらに、米国物価上昇が持続的に安定しているかどうか確信するには時期尚早である旨2月16日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が発言している。このように米国金融当局関係者の発言は、どちらかというとデータに基づいて物価上昇の沈静化についての確信を持てることを政策金利引き下げの条件とするなど、引き下げを急がない姿勢が示されている。このため、この面では、米ドルが上昇する等することを通じ、原油相場の上昇を抑制する形で作用するものと考えられる。ただ、2月16日時点では、2024年6月11日~12日に開催される予定であるFOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げを決定する確率が53.7%に達しており(2月13日に米国CPIが発表されるまでは、2024年4月30日~5月1日に0.25%の政策金利引き下げを決定する確率が52.2%に達していたが、CPIの上昇率が市場の事前予想を上回ったこともあり、その後確率は低下、2月16日現在35.2%となっている)、市場関係者の同国金融当局による政策金利引き下げ観測が根強いことも示唆されている。そして、最近では、米国経済が減速しつつある兆候を示す指標類の発表を受け米ドルが下落するとともに原油相場が上昇する場面が見られるなどしている。今後も米国金融当局関係者による発言によっては、政策金利引き下げ期待が市場で後退することにより原油相場に下方圧力が加わる場面が見られることもありえようが、米国経済減速を示唆する指標類等をきっかけとして市場関係者による政策金利引き下げ期待が高まることが米ドルを押し下げるとともに原油相場に上方圧力を加える方向で作用する可能性があるので注意する必要があろう。

中国では、同国経済を支援すべく2024年2月5日に中国市中銀行の預金準備率を0.5%引き下げる旨1月24日に中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁が発表した(同総裁が直接預金準備率の引き下げを発表されるのは異例であるとされる)。ただ、1月29日に香港高等裁判所が中国大手不動産開発会社中国恒大に対し法的整理を命令した(このため同社が清算される可能性も出てきた)。1月31日には中国国家統計局から発表された1月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.2と2023年12月の49.0からは上昇したものの、4ヶ月連続で当該部門が縮小していることを示した。さらに、中国当局による同国不動産市場改革への対処が遅れるようであれば、現在4.6%と見込んでいる2024年の同国経済成長率が下振れし4%を割り込む恐れがある旨2月2日に国際通貨基金(IMF)が明らかにした。加えて、2月8日に中国国家統計局から発表された1月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で0.8%低下と、2009年9月(この月は同0.8%低下)以来の大幅な低下となった他市場の事前予想(同0.5%の低下)を上回って低下していたうえ、1月の同国生産者物価指数(PPI)が同2.5%の低下と16ヶ月連続前年同月比で低下している旨判明した。このように中国経済回復は依然として不安定な状況にあるとともに今後の先行きも不透明である。このため、中国政府等による余程強力な景気刺激策が発表され実施される等するようでなければ、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で広がらず、従って、この面では少なくとも当面は原油相場を持続的には支持しにくいものと考えられる。

米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなお暫く継続する(米国の暖房シーズンは概ね11月1日~翌年3月31日である)ものの、製油所の段階では暖房用石油製品の生産は峠を越えつつあることもあり、メンテナンス作業の実施等により製油所の稼働が低下するとともに原油精製処理量が減少することを通じ、製油所等の原油購入が不活発になることで、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることにより、この面では原油相場の上昇を抑制するものと考えられる。しかしながら、1月中旬頃に米国南部にまで到来した寒波に伴う気温の大幅低下よりテキサス州等同国メキシコ湾岸地域に位置する一部製油所の装置に不具合が発生した結果操業が停止する場面が見られた。その後寒波により影響を受けた製油所の稼働は回復しつつあるように見受けられるものの、米国、欧州及びアジアにおいて春場のメンテナンス作業が実施され始めた。さらに、ロシアにおける製油所に対する無人機による攻撃に伴い火災が発生する場面が見られた。このようなことから、軽油及び暖房油を含む石油製品製造活動が不活発化した、もしくは不活発化するとの懸念が市場で増大した。加えて、従来紅海やスエズ運河を経由していたタンカーが同経路を迂回し喜望峰を経由するようになることにより、円滑な石油製品等の供給に支障が発生する可能性が高まるとの観測が強まった。このため、軽油を初めとする石油製品の需給引き締まり感が市場で増大するとともに石油製品の価格が上昇、それに伴い原油価格も上昇すると言った場面が見られているが、そのような状況が今後も継続する可能性がある。また、前述の通り冬場の暖房用石油需要期は最終消費段階では当面続くことから、例えば米国の暖房用石油製品需要の中心地である同国北東部の気温が平年を割り込んで低下したり、低下するとの予報が発表されたりすれば、暖房用石油製品需要の増加観測が市場で発生する他、寒波が米国南部にまで及ぶようだと、テキサス州等における電力供給面に支障が生ずるとともに資機材の凍結等により原油生産が減少したり、製油所の操業に支障が発生することにより石油製品製造活動が不活発化する結果、石油需給引き締まり感が市場で意識されることに伴い石油製品や原油の価格が上昇する場面が見られることもありうる。また、早ければ3月初頭以降、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来に向けた製油所の稼働の上昇及び原油購入の活発化が市場で意識されるとともに、ガソリン及び原油価格に上方圧力が加わるといった展開が見られることも想定されうる。

OPECプラス産油国は2月1日に共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)をテレビ会議形式で開催し、現行の原油生産方針(公式及び自主的な事実上の原油生産目標)を現状維持とする旨事実上決定した。また、次回JMMCを4月3日に開催するとしたが、2024年4月以降の原油生産目標については、次回のJMMC開催を待たずに3月に決定する旨2月1日に伝えられた。4月3日に開催される次回のJMMCにおいて4月以降の原油生産目標を協議しても、減産参加各産油国の原油生産調整に対する準備が間に合わないため、協議を3月に繰り上げて実施することにしたものと考えられる。また、現在実施中の一部OPECプラス産油国による自主的な減産を2024年3月末で終了した場合、2024年第2四半期以降は供給が需要を日量103~161万バレル程度上回るなど供給過剰となる(表1参照)結果原油相場に下方圧力が加わりやすくなることから、原油価格を維持するためには、多少減産規模を調整するとしても、減産を延長する必要性に迫られることになろう。また、自主的な減産の実施では、OPECプラス産油国の結束と減産遵守に関し市場関係者が疑問視する向きが強まることにより、原油相場に下方圧力が加わりやすくなることから、原油価格の維持及び上昇のためには公式な原油生産目標(つまり減産目標)の設定が必要となるものと考えられる。3月時点において、このような方策をOPECプラス産油国が決定できるかどうかも焦点になるものと見られる。また、OPECプラス産油各国の自主的なものを含めた原油生産目標に対する遵守状況(2024年1月については、イラク及びカザフスタンが原油生産目標を超過しているとされるが、両国は今後このような超過分を含め原油生産目標の遵守を徹底する旨2月14日に表明している)に対しても、市場は注目するとともに、その状況が原油相場に織り込まれることになろう。

表1 世界石油需給バランスシナリオ(2024年)(2024年1月18日時点)

全体としては、今後は、冬場の石油需要期の終了が視野に入りつつあることが原油相場を抑制しやすくするものの、春場のメンテナンス作業実施及びロシアの製油所への攻撃等による製油所における石油製品製造活動の不活発化の可能性、イエメンのフーシ派武装勢力による攻撃激化に伴う紅海及びスエズ運河を迂回したタンカーの往来に伴う原油及び石油製品等の円滑な供給上の支障発生の恐れに伴う、石油需給の不均衡発生等への懸念に加え、早ければ3月初頭にも夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来が市場で意識されるようになるものと見られること、さらには米国金融当局による政策金利引き下げ期待が、原油相場に上方圧力を加えうるものと考えられる。このような中、中国経済回復状況及び景気刺激策等の発表、イスラエルとハマスの戦闘状況に伴う中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念の増減、米国北東部等における気温の低下具合及び低下を巡る予報等が原油相場に影響を与えていくものと考えられる。

 

4. 世界天然ガス市場動向

米国では、2023年11月は気温が前年同月比で若干ながら温暖となった(図16参照)一方、12月は2022年同月に寒波がテキサス州にまで南下した一方2023年は特に厳しい寒波は来襲しなかったことから、同月は前年同月比で温暖となった。ただ、2024年1月は記録的な寒波がテキサス州にまで南下したことから前年同月に比べ寒冷となった。結果として、家計及び商業といった民生部門における暖房を中心とする天然ガス需要は2023年11月が前年同月比で3.0%程度の減少、12月は前年同月比で20.4%の減少、2024年1月は前年同月比で推定10.8%の増加となった(なお、例えば2023年11月~2024年1月の米国の天然ガス先物価格は100万Btu当たり2.077~3.515ドル程度と、前年同期の同2.677~7.308ドルに比べると概して安価であった(これに伴い同時期の各部門における天然ガス小売価格も総じて前年同月比で安価なものとなった)ことから、この面では民生部門における天然ガス消費を促進する側面はあった反面抑制する形では作用しなかったものと考えられる)(図17参照)。他方、2023年11月から2024年1月にかけては産業部門においても天然ガス価格が前年同月比で概して安価になっていたことに加え、特に2023年12月は鉱工業生産が前年同月を上回ったこともあり、同部門における天然ガス需要が喚起される格好となったことから、同月の米国産業部門の天然ガス需要は前年同月を上回る状態であった。また、2022年12月は寒波が米国テキサス州にまで南下したことにより、同地における石油及び化学産業の施設操業に影響を与えた結果、同月から2023年1月にかけての産業部門等での天然ガス需要が伸び悩み気味となった反動で2023年12月から2024年1月の産業部門における天然ガス需要が増加する格好となった側面もある。そして、同国では老朽化した石炭火力発電の稼働停止に代わり天然ガス火力発電が建設され稼働しつつあったことから、この面で同国発電部門の天然ガス需要を押し上げる形で作用した。さらに、2024年1月は寒波が米国テキサス州にまで南下するなど全般的に冷え込んだことから、空調用の電力供給のための天然ガス火力発電向けの発電部門における天然ガス需要が旺盛となった。ただ、2023年12月は米国において風力発電が比較的好調であったことが、同国発電部門の天然ガス需要を抑制する格好となった(図18参照)。結果として、2023年11月及び2024年1月の発電部門における天然ガス需要は前年同月をそれぞれ6.9%及び17.4%程度上回ったものの、2023年12月における同国発電部門の天然ガス需要は前年同月比で0.9%の増加にとどまった(また、2022年12月に米国に寒波が来襲した結果発電部門における天然ガス需要が盛り上がった反動が2023年12月に現れたといった部分もある)。このようことから、2024年1月の同国天然ガス需要は前年同月を相当程度上回った一方、2023年11月の天然ガス需要は前年同月を上回ったものの限定的な伸びにとどまった他、2023年12月の当該需要は前年同月を下回る状態となった。

図16 米国(シカゴ)気温(2023~24年)

図17 米国天然ガス消費増加量(前年同月比)(2015~24年)

図18 米国の発電量に占める各エネルギー源の占有率(2011~24年)

他方、2022年前半を中心として、原油価格が例えばWTIで1バレル当たり120ドルを超過する水準にまで上昇したこともあり、米国では石油坑井掘削装置の稼働が活発化するとともに、シェールオイル鉱床の開発が進んだ結果、同国のシェールオイル生産が増加するとともに、随伴で生産される天然ガスの生産も拡大した(図19参照)。しかしながら、2022年後半において原油価格が下落したうえ、2023年前半には原油価格(WTI)が概ね1バレル当たり66.74~83.26ドルを中心とする比較的限られた領域で上下に変動し続けたこともあり、米国の石油坑井掘削装置の稼働が低下傾向となるとともに、シェールオイル鉱床開発活動が不活発化したこともあり、2023年11月から2024年1月にかけての同国のシェールオイルの生産の伸びは鈍化傾向を示すとともに、随伴で生産される天然ガスの政策も伸び悩み気味となった。さらに、2024年1月は中旬頃を中心として米国に寒波が来襲したことから、産油地域の一部では油田関連施設の稼働に不具合が発生したことに伴い、原油生産が減少するとともに、随伴で産出される天然ガスの生産も落ち込むこととなった。

図19 米国国内天然ガス生産量及び見通し(破線部分)(2009~25年)(EIA発表時期別)

また、米国天然ガス価格が比較的低位で推移したこともあり、2023年11月から2024年1月にかけてのメキシコによる米国からのパイプライン経由での天然ガス輸入は比較的堅調に推移した(前年同月を10.9~17.9%程度上回った)が、夏場の空調向けの電力供給のための発電部門における天然ガス需要期ではなかったことから、夏場に比べれば抑制された水準であった(図20参照)。さらに2023年12月の米国からの液化天然ガス(LNG)輸出量は前年同月比で推定日量27億立方フィート増加の同137億立方フィートの史上最高水準に到達した(図21参照)(なお、2022年12月時点では米国ではフリーポートLNG出荷施設(操業:フリーポートLNG社、LNG生産能力年産1,500万トン(日量20億立方フィート)が操業を停止していたが、2023年同時期は既に同施設は操業を再開していた)他、総じて当該輸出は好調であった。

図20 米国のメキシコへのパイプラインによる天然ガス輸出(2012~24年)

図21 米国LNG輸出(2016~24年)

このように、米国では、天然ガス生産の伸びが鈍化しつつあるうえ、LNG輸出は底堅かった一方、メキシコへのパイプライン経由での天然ガス輸出は堅調ながらも夏場と比べれば抑制された水準であったうえ、2023年11月の天然ガス需要は前年同月を上回ったものの限定的な伸びにとどまった他、2023年12月の当該需要は前年同月を下回る状態となったものの、2024年1月の同国天然ガス需要は前年同月を相当程度上回った一方、同月は米国への寒波の南下により天然ガス生産が落ち込んだこともあり、同国の天然ガス在庫の過去5年平均を上回る率も、2023年11月10日時点の5.6%から、2023年12月29日時点では13.0%と拡大したものの、その後は縮小し2024年1月26日時点では5.1%となった(図22参照)。しかしながら、その後は米国では寒波が過ぎ去るとともに天然ガス生産が回復するとともに、平年を上回る気温となったことが、暖房及び空調のための民生部門及び発電部門における天然ガス需要を抑制した結果、2月9日時点の同国の天然ガス在庫の過去5年平均を上回る率は15.9%へと拡大している。そして、このようなことから、2023年11月から12月にかけては米国天然ガス需給緩和感が市場で醸成されつつあったこともあり、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用天然ガス需要期に差し掛かりつつあったにもかかわらず、同国の天然ガス相場に下方圧力が加わった結果、2023年11月3日には100万Btu当たり3.515ドルの終値であった同国天然ガス先物価格は同年12月12日には同2.311ドルの終値へと下落、その後12月中は概ね同2.4~2.6ドルを中心とする範囲内で上下に変動した(図23参照)。そして、1月12日から16日にかけてを中心とする時期に米国の西部から中部において平年を下回る気温が広がるものと予想されるとの予報が2024年1月2日に発表されて以降は、気温の低下に伴い暖房用の天然ガス需要が増加する結果天然ガス需給が引き締まるとの見方が市場で増大したこと、そして実際1月中旬頃には米国に寒波が来襲し広い範囲で気温が低下したことにより暖房や空調のための民生部門及び発電部門における天然ガス需要が堅調となったことが、天然ガス相場に上方圧力を加えた結果、1月12日には同国天然ガス先物価格の終値が100万Btu当たり3.313ドルにまで上昇する場面も見られた。しかしながら、寒波来襲後は、米国の幅広い範囲で平年を上回る水準にまで気温が上昇した他、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用天然ガス需要期の終了が視野に入り始めたことにより、同国天然ガス需給の緩和感が市場で意識されるとともに同国の天然ガス相場に下方圧力を加え始めたことから、2024年2月15日の同国天然ガス先物価格の終値は100万バレル当たり1.581ドル、2020年6月26日(この日の終値は同1.495ドル)以来の低水準の終値に到着するなど、価格は下落基調となっている。

図22 米国天然ガス貯蔵量(2022~24年)

図23 天然ガス先物価格の推移(2018~24年)

2022年2月24日以降のロシアによるウクライナへの事実上の侵攻実施と欧州を含む西側諸国による対ロシア制裁、及びそれに対するロシアによる西側諸国への事実上の報復措置としてのロシアからのパイプライン経由での天然ガス供給の削減後、当該供給は低迷したままとなっている(図24参照)。これに対し、2022年同様2023年も春場から秋場の天然ガス不需要期にかけ欧州ではLNGを含む天然ガスの調達を活発化させた結果、2023年11月5日には域内の天然ガス在庫充填率が99.63%とEUの目標(11月1日までに90%の充填を達成)を上回る量の天然ガスを貯蔵することとなった。そのような中、欧州では、2022年の天然ガス高騰(同年8月26日にはオランダTTF天然ガス先物価格の終値が100万Btu当たり推定99.071ドルの史上最高水準に到達した)により産業部門の天然ガス需要が低迷したままとなった他、風力を中心とする再生可能エネルギーを利用した発電が好調であった(図25参照)ことや、フランスの原子力発電施設に大きな問題が発生しなかった結果同施設での稼働がそれなりに行なわれたことにより原子力発電由来の電力供給が比較的豊富であった(2022年8月25日時点では同国の原子力発電能力6,137万kW中稼働していたのは2,537万kWにとどまった(つまり3,600万kWの発電能力が稼働停止中であった)のに対し、2023年8月25日時点では3,657万kWの発電能力が稼働する(つまり2,480万kWの発電能力が稼働停止中となる)など、原子力発電規模が拡大した他、2024年1月31日時点では5,098万kWの発電能力が稼働(つまり1,039万kWの発電能力が稼働停止中)にまで稼働が高まってきた)ことが、発電部門での天然ガス需要を抑制する形で作用した。また、2024年1月を中心として欧州に寒波が来襲した(図26参照)ことから、暖房のための民生部門での天然ガス需要が喚起される場面が見られたものの、寒さが持続するわけでもなかった。このようなことから、2024年1月の欧州天然ガス需要は前年同月比で8.7%程度増加する格好となったが、それでもロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施以前の5年間(つまり2017~21年)平均を12.5%下回った(図27及び28参照)。また、2023年11月も後半を中心として欧州における気温が平年を割り込んで冷え込んだことから、暖房向け天然ガス需要が喚起されたことにより、同月の天然ガス需要は前年同月を1.0%上回った。ただ、それでも2017~21年の5年間平均を18.9%下回っている。そして、2023年12月は欧州は総じて温暖であったことから、同月の同地域の天然ガス需要は前年同月を6.6%下回るととともに、2017~21年の5年間平均を15.7%下回った。このように、欧州の天然ガス需要は気温に左右された結果、前年同月を上回る場面も見られたものの、総じて低調なままであった。

図24 ロシアから欧州方面への主要パイプライン経由天然ガス供給(2020~24年)

図25 英国の発電量に占める各エネルギー源の占有率(2015~24年)

図26 英国(ロンドン)気温の推移(2023~24年)

図27 欧州天然ガス需要(2022~24年)

図28 欧州天然ガス需要増加量(前年同月比、2008~24年)

他方、供給面では、ロシアからのパイプライン経由での天然ガス供給は低水準ではあったものの維持されたことに加え、米国を中心とするLNG輸入が堅調であった(図29参照)(前述の通り2022年11月から2023年2月にかけては米国フリーポートLNG出荷施設が停止中であったが、2023年同時期には操業再開済であった)こと、ノルウェーにおける天然ガス供給も長期的な停止に陥ることなく概ね順調に推移した。

図29 欧州LNG輸入(2006~24年)

このようなこともあり、冬場の暖房用天然ガス需要期に突入するとともに欧州天然ガス貯蔵充填率は減少傾向とはなったものの、前年同期を上回る状態を維持した(2024年2月16日現在当該充填率は65.53%と2023年同期である64.55%を上回る状態となっている)(図30参照)。加えて、2024年1月後半以降は冬場の暖房シーズン終了が視野に入り始めるとともに、2月後半を中心として欧州の大部分において気温が平年を上回るとの予報が発表され始めたことにより地域の暖房向け天然ガス需要が低調に推移するとの観測が市場で広がったことが、欧州における天然ガス価格に下方圧力を加えたことから、2024年1月の寒波到来に加え、2023年10月7日以降のイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの戦闘状態突入に伴う11月19日以降のイエメンのフーシ派武装勢力による紅海を航行する船舶への攻撃により、BPが紅海経由の船舶の航行を一時見合わせる旨2023年12月18日に発表したことや、同じく従来紅海及びスエズ運河を経由してLNGを欧州方面へと輸送していたカタール・エナジーが欧州向けのLNG輸送を喜望峰経由へと迂回させる結果LNG到着が遅延する可能性がある旨明らかにしたと2024年1月24日に伝えられたこと等が、欧州天然ガス相場に上方圧力を加えた結果、天然ガス価格が一時上昇する場面が見られたものの、総じて欧州天然ガス価格は下落傾向となり、2023年11月2日には100万Btu当たり推定15.189ドルの終値であったオランダTTF天然ガス先物価格は、2024年2月14日には同7.814ドルの終値と、2023年6月6日(この日の終値は同7.791ドル)以来の低水準に到達した。

図30 EU天然ガス在庫(2018~24年)

中国では2022年終盤の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策緩和後も製造業の回復が不安定であったこともあり産業部門における天然ガス需要が不振であったとされる。反面、同国の石炭及び天然ガス生産が堅調であったこと(図31及び32参照)に加え、ロシア及び中央アジア方面からのパイプライン経由の天然ガス供給も好調であったことから、この面で中国のLNG需要は抑制される格好となった。また、韓国でも経済がもたつき気味となっていたこともあり、電力需要が伸び悩んだ一方、原子力発電に加え風力発電が堅調であったことが、発電部門における天然ガス需要を抑制する形となった。このため、11月上旬以降中国と韓国においては気温が平年を下回る場面が見られるようになったこと(図33参照)もあり、暖房向けの民生部門における天然ガス需要が喚起される形となったことにより、2023年12月から2024年1月における両国のLNG輸入は前年同月を上回った(図34及び35参照)(また、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が解除され始めた直後であったことにより2022年11月から2023年1月にかけての中国LNG輸入が低迷したままとなっていた反動で、2023年11月から2024年1月にかけてのLNG需要は前年同月比で増加する格好となった側面もある)ものの、寒さが持続しなかったこともあり、2月上旬頃においても、両国の在庫はこの時期としては概ね潤沢であるものと指摘された。他方、日本においては、2022年における天然ガス価格上昇の影響もあり、産業部門及び民生部門を中心として節約志向が強まったことに加え、2023年の秋場から冬場にかけての気温が概ね平年を上回って温暖であったこと、発電部門においても一部地域において原子力発電が再稼働した(2023年9月15日には関西電力の高浜原子力発電所2号機(発電能力82.6万kW)が操業を再開した)ことから、天然ガス需要が抑制される格好となった。このため、日本のLNG輸入は伸び悩み気味となった。

図31 中国天然ガス生産及びパイプライン経由輸入(2016~23年)

図32 中国石炭生産(2016~23年)

図33 中国(北京)気温(2023~24年)

図34 中国、台湾及びインドのLNG輸入増減量(前年同月比)(2016~24年)

図35 日本及び韓国のLNG輸入増減量(前年同月比)(2016~24年)

このように、北東アジア地域のLNG需給は冬場の暖房需要期にもかかわらず極度に引き締まったわけではなかった(また、2022~23年の冬場には停止していた米国フリーポートLNG出荷施設の操業が2023~24年の冬場は概ね操業を再開していたことも、北東アジア地域のLNG需給緩和感の醸成に寄与する格好となっている)ことに加え、欧州における天然ガス価格の下落傾向がアジア市場にも影響を与えたうえ、1月後半に入ると冬場の暖房シーズンに伴う暖房向けの民生部門を中心とする天然ガス需要期の終了が視野に入り始めた他、2月に入ると気温が上昇し始めた結果、2023年11月1日に100万Btu当たり17.655ドルの終値であった北東アジアのLNG先物価格は下落傾向となり、2024年1月26日には同9.290ドルの終値と、2023年6月12日(この日の終値は同9.265ドル)以来の低水準に到達した。しかしながら、このようなLNG価格の下落によって、値頃感から中国やインド等の需要からの購入意欲が高まった(但しあくまで価格が下落したからであって国内需要が増加したことによるものではないものと市場では見られている)こともあり、1月下旬から2月前半にかけLNG価格は下げ止まる傾向が見られた。それでも、価格が上昇した続けた場合には、需要家からのLNG購入への関心が低下するとの観測が市場で発生したことに加え、中国等が春節(旧正月)の休暇シーズンに突入しつつあったことや、インドも少なくとも短期的には国内需要を満たすためのLNG調達が完了とされたことに伴いLNG取引活動が低下したものと見られることもあり、LNG価格の持続的な上昇傾向も創出されず、2024年2月16日には北東アジアLNG先物価格は100万Btu当たり8.570ドルの終値と、2021年4月15日(この日の終値は同7.017ドル)以来の低水準に到達するなど、下落している。

 

以上

(この報告は2024年2月19日時点のものです)

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