ページ番号1010070 更新日 令和6年10月17日
韓国:電源計画、低炭素水素(長期脱炭素電源)入札・拠点整備・韓国企業事業化ならびに日韓政府・企業の低炭素燃料製造・チェーン構築に向けた協力
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概要
- 韓国は政権交代によりエネルギー政策が大きく転換した。電源計画について前政権が進めていた脱原子力、再生可能エネルギー発電の急速な拡大を見直し、原子力発電の運転延長と承認済み設備の建設再開、事業者ボトムアップによる再生可能エネルギーの現実的な普及を図る方針に転換した。
- 韓国においても欧州の炭素国境調整措置(CBAM)への対応や排出削減戦略に伴い輸出産業を筆頭に低炭素電力へのニーズが高まっている。長期固定買取価格による入札やRPSなどの再生可能エネルギー促進策により太陽光発電が増加したが、今後洋上風力を強化する方針。
- 石炭火力は老朽化設備の停止方針は継続するが、環境変化に備え停止した設備を保全するための法整備を行った。また低炭素アンモニアの混焼により電力の安定供給を維持しつつ温室効果ガス削減を図る方針が示された。
- LNG火力発電は設備を今後10年で1.5倍に増設の方針の一方で発電量は低下させる計画である。しかし原子力発電の修繕期や太陽光など変動電源の調整役を担ってきた石炭火力を抑制しLNG火力に置き換えるため、現在策定中の長期電源計画では送電網や系統整備とともにLNGの実態に見合った対策が検討されている。
- KOGASはLNG直接輸入事業者による調達の増加や発電向けLNG需要の見極めが難しいなか、BPやWoodsideとLNG長期契約を締結、調達先の分散を図りながら注意深く確保している。
- 韓国政府は2030年の脱炭素電源(低炭素水素・アンモニア)目標を2.1%としている。2027年低炭素アンモニア実装に向けて2024年6月に入札を実施予定。CCUSは2030年のCO2削減目標(11.2MT)に向けてKNOCやSK Innovationなどが国内実証と海外事業化を進めている。
- 韓国企業は事業化に向けて低炭素水素・アンモニア、バイオ燃料、SAF実証等に取り組んでいる。
- 日韓企業におけるクリーン水素・アンモニア製造、輸送等サプライチェーン協業も進んでいる。
- 日韓政府のカーボンニュートラルに向けた協力としてJERAとKOGASのLNGバリューチェーンにおけるメタン排出削減に取り組む「Clean」イニシアティブが進んでいる。
- 2024年2月には産業通商資源部水素局長が来日し、経済産業省と局長級協議を実施した。双方は水素戦略の実施において同様の課題に直面していることを踏まえ、協力の可能性が高いとの認識を共有し「日韓水素アンモニア等協力対話」の枠組みを立ち上げ、継続して開催することに合意した。協力を模索するにあたり、両国政府が仲介役となり、韓国の水素普及を推進する官民参加組織H2 Koreaと日本のクリーン燃料アンモニア協会でワークショップを開催し、両国で協力できる分野について話し合うことも有効ではないかと思われる。
1. 韓国政府のエネルギー移行、長期電源計画
1-1. 前政権のカーボンニュートラル宣言、エネルギー移行に向けた目標
韓国は2020年10月にムン・ジェイン大統領(当時)が予算案施政方針演説において2050年カーボンニュートラルを宣言した。2021年12月に国連に提出した国が決定する貢献(NDC)において、2030年の温室効果ガス排出総量を2018年比40%削減(エネルギー由来同44.4%、産業界同14.5%)し436.6MTとする目標を設定した。2030年の電源構成について原子力、石炭火力、LNG火力の比率を23.9%、21.8%、19.5%へとそれぞれ縮小する一方で、再生可能エネルギー・新エネルギー電源を現在の3倍以上の30.2%に引き上げる野心的な目標を設定した。2060年までの脱原発や石炭火力の急速かつ大幅な削減などの目標について産業界は達成不可能と見ていた。
韓国の2022年の発電電力量は594TWhで火力(石炭33%、LNG27%)が6割、原子力が30%、再生可能エネルギーが9%で主に太陽光、水力は1%である(図1)。石炭火力の比率は排出削減と大気汚染対応政策のもと2018年の42%から2022年に33%まで低下している。2017年以降政府は微細粉塵(PM)対策で老朽化石炭火力の早期停止や発電上限政策を実施した。2021年以降は企業が排出削減の観点から自主的な発電上限制(4月-11月)を実施した。
一方、政府の促進策により太陽光発電の設備容量は2022年までの10年で20GW以上拡大した(韓国の再生可能エネルギー発電促進策については参考1参照)。
参考1 韓国の再生可能エネルギー発電促進策
韓国は国土の7割が丘陵・山地で、日照量が限られ、水力発電も限定的であり、再生可能エネルギーについて自然条件に恵まれているとはいえない(南部海域は風況が良く政府は今後洋上風力開発に注力する方針)。政府は再生可能エネルギーの促進策として2012年に電気事業者に対して発電電力量の一定比率を再生可能エネルギー電源で賄うことを義務付けるRPS(Renewable Portfolio Standard)を導入した。また長期固定買取価格契約による太陽光発電の入札や小規模太陽光発電に対するFITにより、太陽光発電の設備容量は2022年までの10年でGW以上拡大した。RPSは450MW以上の発電設備事業者(全体の7割)が対象であり、2012年の2%から2023年は13%、これを2030年までに25%に拡大する方針である。太陽光発電入札は2017年に導入し、20年間固定価格で買い取る契約である。小規模太陽光発電に対するFIT(20年間固定価格買取)は2018年7月から導入し2023年7月に終了した。現在再生可能エネルギー電力は韓国発電公社(KEPCO)の産業用電気料金にプレミアムを提示するグリーンタリフ入札による調達が進んでいる。2023年上半期の入札では0.11ドル/kWhの産業用電気料金(託送・小売りを含む)に対し0.01ドル/kWhのプレミアムで約定した。
電源構成に占める再生可能エネルギー比率が10%未満と低いこともあるが、現時点で出力抑制は済州(チェジュ)島のみ。済州島では風力発電の出力抑制が行われているが経済的な保障はない。
日本では最近一部の蓄電池事業者の行為に対し、調整力として需給に貢献していないのではないかとの疑念の声も出ているが、韓国は蓄電池の累積導入量が出力4.1GW、容量10.1GWhに達しており、出力抑制の減少や負荷の平準化に貢献していると自然エネルギー財団[1]は評価している。
韓国は2002年以降、電気事業法に基づき2年周期で期間15年の長期電源計画、「電力需給基本計画(Basic Plan on Electricity Demand and Supply)」を策定している。ムン・ジェイン前政権の第8次(2018年)および第9次(2020年)電力需給基本計画では原子力・石炭火力設備の段階的な削減、石炭火力のLNG火力への転換ならびに再生可能エネルギーの拡大が示されていた(前政権時期の長期電源計画については参考2参照)。
参考2 第9次電力需給基本計画の概要
2018年12月に策定された第8次(2018~2020年)では原子力発電6基の新設計画を白紙撤回し、稼働中10基の運転延長禁止、石炭火力は6基の廃止、建設中2基のLNG火力への転換、稼働中4基のLNG火力への転換、再生可能エネルギー・新エネは2030年に発電量20%達成目標が示されていた。
2020年12月に策定された第9次電力需給基本計画(2020年~2034年)では原子力発電と石炭火力の段階的な削減への動きが加速した。原子力発電は運転延長や新設を行わず、段階的な削減(設備容量は2020年の23.3GWから2030年20.4GW、2034年19.4GWに削減)を行うこと、石炭火力は大気汚染と温室効果ガス削減のため抜本的に削減、石炭火力設備24基を廃止(設備容量は2020年の35.8GWから2030年32.6GW、2034年29GWに削減)、2030年に石炭火力の発電量に占める比率を2019年の40.4%から29.9%に削減し、LNG火力への転換を図る(LNG火力設備容量は2020年の41.3GWから2030年54.5GW、2034年58.1GWに増加)目標が示されていた。また石炭火力の年間発電量の上限を設定することが示されていた。再生可能エネルギーは2040年の発電量に占める比率を30~35%とする目標達成のため、2034年まで段階的な拡充を図る(設備容量は2020年の20.1GWから2030年58GW、2034年77.8GWに増加)ことが示された。石炭火力は運転開始から30年を経過した4基の廃止が加わり28基の廃止、LNG火力への転換に加え石炭火力発電へのアンモニア20%混焼推進が示された。
1-2. 政権交代に伴う長期電源計画見直し、排出削減目標の質的変化
1-2-1. 第10次電力需給基本計画と第11次計画に向けた検討
2022年5月の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領就任により韓国のエネルギー政策は大きく転換した。
2023年1月に公表された第10次電力需給基本計画(2023~2038年)では、原子力発電の運転延長と前政権が承認を取り消した原子力発電設備の建設再開を含む実現可能でバランスの取れた電源構成を図る方針が示された。同計画ではその背景として、世界的なエネルギー供給危機やエネルギー価格の上昇を受けて主要国が国家安全保障を強化しており、エネルギー需給安定化を政策の優先順位として再設定していることを理由にあげている。そして原子力発電と石炭火力を削減し、LNG火力を基幹電源に置き換えることは価格変動に脆弱であるとする一方、電化の進展と太陽光発電の増加により電力需要の変動が大きくなっており、再生可能エネルギーは事業者のボトムアップによる現実的な普及を図る方針が示された。
発電量における原子力発電の比率は2030年に32.4%、2036年に34.6%に増加、再生可能エネルギーの比率はNDCにおける30.2%から21.6%に下方修正されたが2036年までに30.6%(太陽光・風力出力制御後)に増加させる計画である。
原子力発電は老朽化を理由に閉鎖を予定していた原子力発電基の運転期間延長に加え、前政権が承認を取り消し建設が中断していた新蔚珍(シンハンヌル)3号機、4号機など6基の建設再開と新たな建設の方針が示された。韓国は原子力発電の運転期間上限に関する法律はなく、設計耐用年数(40年、60年)が定められており、10年毎に行われる安全審査に合格すると、耐用年数を超えて10年の運転延長が可能となる。シンハンヌル3号機、4号機はいずれも加圧水型(PWR)、設備容量はそれぞれ1.4GW、3号機は2032年、4号機は2033年の完成を目指している。
原子力発電の設備容量は2023年の26.1GWから2030年に28.9GW、2036年に31.7GWに増加、発電量に占める比率は2022年の29.6%から2030年に32.4%、2036年に34.6%に増加する計画である。現在策定中の11次電力需給計画ではさらに2~基の新設上乗せを検討している模様である。この他原子力発電について政府は4,000億ウォン(420億円)を投じ小型モジュール炉(SMR)など新型炉の開発や輸出拡大(2030年までの原子炉10基輸出)を進める方針を示している。
石炭火力は運転から30年を経過した設備20か所の停止方針を継続する方針であり、現在運転中の58基、設備容量40.2GWから2030年に41基に削減し設備容量は2030年に31.7GW、2036年に27.1GWに減少する計画である。発電量に占める比率は2022年の32.5%から2030年に19.7%、2036年に14.4%に減少する計画である。低炭素アンモニア混焼(20%)により電力の安定供給を図りつつ温室効果ガス削減を推進することが示された。また停止した設備を「安全保障資源」として保全するための政策を別途策定するとしている。2024年2月6日に「国家資源安全保障特別法」(法律第20196号)が制定(2025年2月7日施行予定)された。同法21条(基幹供給機関の指定及び管理等)および22条(中核的需要機関の指定及び管理等)がこれに該当すると思われる(「国家資源安全保障特別法」該当部分は参考3参照)。
LNG火力は電力需給と温室効果ガス削減を考慮し過度な拡大は避けつつ、LNGコンバインドサイクルへの転換や低炭素水素混焼(50%)により、電力の安定供給を図りつつ温室効果ガス削減を推進する方針が示された。LNG火力の設備容量は2023年の43.5GWから2030年に58.3GW、2036年に62.9GWへと増加する見通しである。一方、発電量に占める比率は2022年の27.6%から2030年に22.9%、2036年に9.3%(2022年発電量の4割)に減少する計画である。LNG火力はコンバインドサイクルへの転換や水素混焼(50%)によりエネルギー安全保障を維持しつつ低炭素化、温室効果ガス削減を推進する計画である。しかし水素混焼(50%)は初期実証の段階であり実装は容易ではないと思われる。むしろ原子力発電の修繕や太陽光など再生可能エネルギーの増加による変動の調整役を担ってきた石炭火力を抑制しLNG火力に置き換えていく方針であることから、2030年代にかけて追加のLNG需要が必要という見方がある。第11次では送電網や系統の整備とともにLNGの実態に見合った対策が検討されている模様である。
再生可能エネルギーの設備容量は2023年の43.5GWから2030年に58.3GW、2036年に62.9GWへと増加する計画である。発電量に占める比率は2022年の8.9%から2030年に21.6%、2036年に30.6%に増加させる計画である。
サムスンやヒュンダイなど大手企業が事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ(Re100)に参加、再生可能エネルギーによるクリーン電力調達を強化している。欧州の炭素国境調整措置(CBAM)への対応や企業の脱炭素戦略で輸出産業を中心に低炭素電力へのニーズが高まっている。韓国は長期固定買取価格による入札やFIT、RPSにより太陽光発電が増加したが、自然エネルギー財団の報告書によると大規模太陽光設備について土地造成や補助金を巡るトラブルが生じており、政府は今後洋上風力を強化する方針である。2030年の風力発電設備容量目標を陸上と洋上に分けて設定しており、陸上5GW、洋上14.3GWである。洋上風力の設備容量は、現在は0.1GWに過ぎないが、2030年の目標は日本の2030年度目標5.7GWの2.5倍である。韓国南部洋上は平均風速が7メートル/秒、陸からの距離も10キロメートル程度、水深は5~30メートルの場所が多く着床式の設置が可能である。南部の政府洋上風力事業(8.2GW)や東南部蔚山(ウルサン)の洋上風力事業(6.1GW)など大規模事業が進行中である。ただし漁業権などの問題で遅延しているプロジェクトもあると伝えられる。
参考3 「国家資源安全保障特別法」21条(基幹供給機関の指定及び管理等)および22条(中核的需要機関の指定及び管理等)https://law.go.kr/(機械翻訳)
第二十一条(基幹供給機関の指定及び管理等)
- 産業通商資源大臣は、資源安全保障の危機に効率的かつ計画的に備えるため、次に掲げる事項を勘案して、供給機関を基幹供給者として指定し、管理し、又は審議会の審議を経て、その指定を取り消すことができる。
- 重要資源が国民生活に及ぼす影響と国民経済にとっての重要性
- サプライヤーが供給するコアリソースの量
- サプライヤーの販売量
- その他サプライチェーンの維持に必要で、大統領令で定める事項
- 第1項の規定により指定された基幹供給機関(以下「基幹供給機関」という)の長は、基幹資源が次のいずれかに該当するときは、遅滞なく、産業通商資源大臣に届け出るとともに、関連資料及び情報を提供しなければならない。
- 国内外の供給の急激な変動による著しい需給の混乱
- 国内外の物価の急激な変動
- 資源安全保障上の危機が発生し、又は発生するおそれがある場合
- その他第一項の規定による主要供給者の指定、管理及び指定の取消しに関し必要な事項は、大統領令で定める。
第二十二条(中核的需要機関の指定及び管理等)
- 産業通商資源大臣は、資源安全保障の危機に効率的かつ計画的に備えるため、次に掲げる事項を勘案して、需要機関を中核的需要機関に指定し、管理し、又は審議会の審議を経て、その指定を取り消すことができる。
- 重要資源が国民生活に及ぼす影響と国民経済にとっての重要性
- 需要組織が要求するコアリソースの量
- 需要組織の販売量
- その他サプライチェーンの維持に必要で、大統領令で定める事項
- 第1項の規定により指定された重点需要機関(以下「中核的需要機関」という)の長は、中核的資源が次のいずれかに該当するときは、遅滞なく、産業通商資源大臣に届け出るとともに、関連資料及び情報を提供しなければならない。
- 内外需要の急激な変動による著しい需給の混乱
- 国内外の物価の急激な変動
- 資源安全保障上の危機が発生し、又は発生するおそれがある場合
- その他第一項の規定による基幹需要機関の指定、管理及び指定の取消しに関し必要な事項は、大統領令で定める。
1-2-3. 韓国におけるLNGの役割とKOGAの調達、LNG直接輸入事業者への非常時LNG貯蔵義務法制化
韓国の天然ガス消費は約46MT(62Bcm)、国内油ガス田で少量を生産していたが枯渇し、全量LNGで輸入している。消費の5割が発電向けである。LNGは日本、中国に次ぐ世界3位の輸入国で2022年は46MTを輸入した(GIIGNLによると2022年の世界のLNG貿易量389MTのうち韓国は12%を占める)。消費は増加傾向にあり、2016年の35MTから0MT増加した。
韓国ガス公社(KOGAS)がLNG輸入の8割を行っている。KOGASの他に自家消費の目的でLNGを直接輸入することが許されているLNG直接輸入事業者(POSCO、SK E&S、GS Caltex等)が残り2割を輸入している。LNG受入基地は稼働中7基地(受入能力107MT)、POSCOが光陽、GS Caltexが保寧(Boryeong)基地などを操業しており、複数の建設・計画中基地がある(図3)。都市ガス事業者への卸売はKOGAS、都市ガス製造・小売りは都市ガス事業者(約200社)が行っている。
近年LNG直接輸入事業者の輸入が増加(2022年はMTを輸入)しており、現時点で長期契約に占めるKOGASの比率は2022年の87%から2030年には82%に低下する見通しである(表2)。
2021年以降発電事業者が複数の長期契約を締結している。KEPCO発電子会社(GENCO)の韓国南部発電((KESPO)はCheniereとSabine Pass拡張 (Train 7-9)について2027年から2047年まで年0.4MT、韓国東西発電EWP)はTotalEnergiesのポートフォリオLNGについて2024年から2034年まで年0.3MT、韓国中部発電(KOMIPO)もEngieと2027年から2041年まで年4~6カーゴの交渉中と伝えられる。
KOGASは直接輸入事業者による調達増加や発電向けLNG需要の見極めが難しいなか、調達先の分散を図りながら注意深く確保している様子がうかがえる。2021年以降カタールRas Gasと2025年から2044年まで年2MT、BPのポートフォリオLNGについて2025年から2042年まで1.6MT、2024年3月には豪州WoodsideのポートフォリオLNGについて2026年から2035年まで年0.5MT、合計4.1MTの長期契約を締結した。
KOGASはLNG調達多角化、長期契約8割維持など安定供給を志向している。特定国への過度の依存を抑制する観点からカタールからの輸入は2016年の35%から2022年に19%に抑制するなど努力している。しかし原子力発電の再稼働と定期修繕や再生可能エネルギーの変動により発電向けLNG需要の見極めや在庫調整が難しくなっているようだ。KOGASのみがLNG安定供給や備蓄義務を負わされていることへの焦燥感もあるようだ。
2025年2月施行の「国家資源安全保障特別法」では第15条(備蓄)においてKOGAS以外の供給機関に対し資源安全保障上必要な時にはLNGの一時備蓄又は備蓄量の増額を課すことができるとした。また明示的ではないが15条6項において、備蓄したLNGの管理や処分について、自家消費目的でLNGの輸入を許可されている民間の直接LNG輸入事業者が随意に処分や転売を行わないように、公共機関であるKOGASが第一順位でそれを行う法的根拠を与えたという見方がある(「国家資源安全保障特別法」該当部分は参考4参照)。
一方、韓国のLNG直接輸入事業者22社で構成される民間LNG産業協会(Private LNG Industry Association)は2024年2月に定期総会を開催した。政府が推進する配管施設利用規定の改正、引き込み可能量分析、配管施設利用審議委員会などの運営などについて政府やKOGASと協議を継続するとともに、2025年施行の「資源安全保障特別法」に伴い、非常時に一時的に備蓄義務を履行しなければならないLNG直接輸入事業者の特殊性が反映された後続法制化の作業が円滑に進むよう、政府へのロビー活動を続けていくとしている[2]。
参考4「国家資源安全保障特別法」15条(備蓄)https://law.go.kr/(機械翻訳)
第15条(備蓄)
- 大統領令で指定される供給業者は、資源安全保障の危機に備え、重要資源の需給及び価格の安定を図るため、大統領令で定めるところにより、重要資源を備蓄しなければならない。
- 産業通商資源大臣は、供給機関の長に対し、石油及び石油代替燃料事業法第十条第一項の規定による重要資源の備蓄義務又は都市ガス事業法第十条第一項の規定による天然ガスの備蓄義務にかかわらず、資源安全保障上の危険警報が発令された重要資源の需給の安定を図るため必要があると認めるときは、基幹資源の一時備蓄又は備蓄量の増額を命ずることができる。
- 第一項又は第二項の規定により備蓄義務を履行すべき供給機関の長(以下「備蓄義務」という。
- 産業通商資源部長官は、備蓄義務のある機関に対して、行政上及び財政上の支援を行うことができる。
- 民間供給機関は、第一項又は第二項の規定にかかわらず、公共供給機関と合意したときは、当該公共供給機関を任命して、その重要資源の留保義務の全部又は一部を行わせることができる。
- 第1項及び第2項の規定により備蓄の対象となる重要資源の備蓄期間、第3項の規定による備蓄重要資源の管理状況の報告及び第5項の規定による備蓄義務の行為に関し必要な事項は、大統領令で定める。
1-2-4. 韓国の電源計画を左右する大統領選挙
韓国は大統領の権限が大きく、政権交代は韓国の電源計画に大きな影響を与える。韓国の大統領は5年1期と憲法で規定されており、次の大統領選挙で政権が交代した場合、政府関連部門や国営企業幹部が大幅に入替となり、エネルギー政策変更のみならず長期電源計画に影響が生じるリスクがあると言われる。また韓国は2024年4月に議会総選挙を行うが、現在議会は野党が多数を占め、実効性のある政策が導入しにくいのではないかという見方がある。
韓国における発電の65%は韓国発電公社KEPCO(発電子会社GENCO)、IPP・卸電気事業者が残り35%を行っている。KEPCOは1989年に民営化(株式49%公開)した。2001年にKEPCOの発電部門は6つの発電子会社(GENCO)、韓国東西発電(EWP)、韓国水力原子力発電(KHNP)、韓国中部発電(KOMIPO)、韓国南東発電(KOSEP)、韓国南部発電(KOSPO)、韓国西部発電(KOWEPCO)に分割された[3]。
送配電・小売事業はKEPCOが独占的に行っている。卸売は全て韓国電力取引所(KPX)が買い取るが小売料金は政府が統制(料金改定は政府認可が必要)しており、2014~2022年は0.09~0.1ドル/kWh(産業用)で推移している。2022年は卸売価格0.15ドル/kWhに対し小売価格が0.1ドル/kWhと逆ザヤとなり、KEPCOは2022年12月期に韓国企業として過去最大の32兆6030億ウォン(約3兆3000億円)の営業赤字(8期連続赤字)を計上した。2023年5月には社長が辞任した。その後政府が小売料金を20%引き上げ0.11ドル/kWhとし、原子力発電が再稼働したことで燃料調達コスト・卸売料金が低下した。繰延税金資産の資産計上もあり2023年9月期には営業赤字は6兆4534億ウォン(7,100億円)に圧縮された。KEPCOは赤字が縮小し、再び社債を発行し、原子力発電新設等に向けて設備投資が可能となる見込みである。KEPCOの8期連続営業赤字に驚いたが、1年足らずで負債が5分の1に圧縮したことも錬金術のようで驚きを禁じ得ない。
自然エネルギー財団は2023年11月に公表した韓国のエネルギー(電力)政策についてのレポートにおいて、韓国が電力小売料金を意図的に低く抑えていることで、エネルギー転換の主要な技術である小規模な太陽光発電がソケット・パリティ(LCOEが小売料金と同等以下の状態)にならず、小規模太陽光に投資し電力を自家消費するインセンティブが働かなくなり、自然エネルギーの拡大を遅らせると指摘している。韓国に限らず中国、台湾など東アジア近隣諸国は国営電力会社の寡占で、政府は産業競争力維持のため電力小売価格を低く抑えている(表3)。日本は韓国のように電力会社を8期赤字のままにさせるようなことは出来ず、発電の低炭素化において電力価格上昇は避けられないため、近隣国と渡り合い、電力の安定供給と産業競争力の維持を両立することは至難の業である。
出所:JETRO2023年度 東アジア投資関連コスト比較調査(外部リンク)(2023年12月)に基づきJOGMEC作成
2. 韓国政府、企業の脱炭素化、低炭素合成燃料実装に向けた動き
ユン政権は長期電源計画見直しの他、2023年4月に「国家カーボンニュートラルグリーン成長基本計画」(2023~2042年)を閣議決定した。本計画は2030年の温室効果ガス削減総量目標(2018年比40%削減し436.6MTとする)は変えず、産業界の削減目標を14.5%から11.4%に下方修正した。一方で国営企業寡占のエネルギー由来排出削減目標を44.4%から45.9%に引き上げた。またCCUS(11.2MT)、二国間クレジット(37.5)による削減目標を新たに設定した。
また韓国は日本と同様国際的なメタン削減枠組みである「グローバル・メタン・プレッジ」の賛同国である。2023年11月には大統領府諮問委員会が2030年までに年0.5MTのグリーンメタノールを生産し、新たなグリーン産業として発展させ、メタン排出量を30%以上削減するグリーンメタノール推進ロードマップを設定した。このような取り組みにより同国のエネルギー関係者は次期NDCにおいても排出削減目標は引き上げられることはあっても下げることはないと見ている。
韓国政府は2030年の脱炭素電源(クリーン水素・アンモニア)目標を2.1%としている(前政権の第9次長期電力需給計画で石炭火力へのクリーンアンモニア混焼(20%)により、電力の安定供給を図りつつ脱炭素化を促進する目標が示されている。クリーン水素0.3MT、クリーンアンモニア2.96MTである。
韓国のエネルギーシンクタンクKEEIは「炭素中立のための新石油代替燃料開発・普及現況と政策示唆」(2021年10月)によると持続可能な航空燃料(SAF)について政府導入目標は設定されていないが、韓国も国際民間航空機関(ICAO)の国際航空カーボン・オフセット削減スキーム(CORSIA)プログラムに参加しており、目標超過分はカーボンクレジットで相殺している。バイオディーゼルの国産原料比率は2020年ベースで24%に過ぎず、不足分はパーム精製油や廃食油を輸入している。SAF普及に政府の法整備、時期と数値目標の設定(2028年1%、2050年20%の普及、バイオSAF、e-fuel各10%)ならびにバイオSAFの原料確保が優先課題であると提言している。
2-1. CCUS(国内・海外)、排出権取引市場、H2Korea
韓国では2030年のCCUSによるCO2削減目標(11.2MT)に向けて国内実証と海外事業化に向けた動きがある。
2023年12月にKNOC法改正によりKNOC事業にCCS、水素、アンモニアが追加された。国内CCS事業はKNOCが主導し、洋上枯渇ガス田を活用し、国内で回収したCO2を海底パイプラインで輸送、貯蔵する実証を進めている。実証規模は2028年に1.2MT、2030年には4.8MTに拡大する計画である。
SK Innovation(SKI)は2021年からCCS部門を設置し国内や海外でCCS事業開発を進めている。国内CO貯留地確保コンソーシアムに参加、KNOCや韓国地質資源研究院(KIGAM)、漢陽大学などと韓国周辺海域でCO2貯留候補地の選定を行うとしている。2023年5月、SKIとSK IE Technologyはガス分離技術を持つ韓国企業Airrane社に出資した。SKグループのセパレーター製造技術と組み合わせて、二酸化炭素(CO2)回収事業への本格的な参入を図る。
海外CCS事業について韓国企業連合はマレーシアPetronas他と韓国からCO2を越境輸送するShepherdプロジェクトを進めている。当初メンバーはSK Energy、SK Earthon、Samsung Engineering、Samsung Heavy Industries、Lotte ChemicalとPetronasだが2023年8月にKNOC、Hanwha Corporation、Air Liquide、Shell Gas & Power Developments B.V.が加わった。
この他KNOCが2024年1月にインドネシアPertaminaと洋上油ガス田のCCS実証、生産停止後のプラットフォームをCCS施設に再利用するRig-to-CCS(Rig-to-Carbon Capture Storage)についてJSAを締結した。Pertaminaのプレスリリースによるとこの協力関係は、Rig-to-Wind Farm、Rig-to-Fish Farm(洋上養殖)、Rig-to-LNG Terminal(エネルギー施設がまだ設置されていない場所への天然ガス輸送)の開発にも拡大する可能性がある。
2-2. 長期脱炭素電源(クリーン水素・アンモニア)入札および輸入拠点の整備
韓国の発電事業の65%は韓国発電公社KEPCO(発電子会社GENCO)、卸売りは全て韓国電力取引所(KPX)が買い取り、送配電・小売事業はKEPCOが独占的に行っている。
KPXは2027年からのクリーン水素・アンモニア実装を目指し、2024年6月に長期脱炭素電源(クリーン水素・アンモニア)入札を実施する計画を進めている。入札は韓国電力取引所(KPX)が行う。買い取り期間は15年と20年で、H2 Certificate(Tier1-4)で分類しインセンティブを与える(炭素排出強度を4.0kg-CO2から段階的に引き上げることを想定)ことを検討している模様である。2027年にクリーンアンモニア1.5MT、2028~30年に1.5MT(累計MT)、2036年に6MT(累計9MT)の調達を目指すが、政府の値差支援策を含む整備が追い付いておらず、スケジュールはずれ込む可能性がある。
韓国の2050年のクリーン水素需要は27.9MTでこのうち8割22.9MTを海外から輸入するとしている。韓国では東部、西部、南部でクリーンアンモニア輸入拠点を整備する計画がある。2022年11月の「クリーン水素エコシステム」計画によると2030年までに3拠点で年4MTのクリーンアンモニアを受け入れる能力を構築する。クリーンアンモニア輸入拠点を整備、3か所それぞれに貯蔵容量3万トンのタンクを2基、3拠点合計18万トンの貯蔵を行う目標である。KNOCは2024年にFEEDを完了し、2027年に完工する計画としているがクリーンアンモニア電源入札やオフテークの契約、予算や法整備の進展によりずれ込む可能性がある。当面の供給先は石炭火力混焼向けであるがまた将来のオプションとしてLNG火力や産業向けに水素を配給する計画や北東アジアハブ構想を有している。
2-3. 韓国企業の国内外低炭素事業化の取り組み(低炭素水素・アンモニア、バイオ燃料、SAF、FCV等)
2-3-1. 低炭素水素・アンモニア
国内
2024年1月、POSCO International、POSCO HoldingsはUAEのADNOCとクリーン水素製造事業を共同で調査する戦略的協力協定(SCA)に調印した。POSCOの光陽(Gwangyang)LNG受入基地でブルー水素を製造し、早ければ2029年にも光陽製鉄所を含む近隣の需要地に供給する計画であると発表した[4]。
2024年2月、韓国Approtiumは固体酸化物形電解セル(SOEC)メーカーのデンマークTopsoe(トプソー)社との間でアンモニアクラッキング技術「H2Retake」を使用するエンジニアリング契約に調印した[5]。Approtiumは1964年に設立された韓国最大の水素と液化CO2の供給事業者で、石油精製・石化・半導体などの分野に年10万トンの水素を供給している。蔚山に年7.5万トンの低炭素水素を生産するアンモニア分解プラントを建設し、2027年に操業を開始する予定である。「H2Retake」はエネルギー効率が96%と高く高効率でアンモニアを高純度水素に転換することができる。
2023年11月、韓国エネルギー技術研究院(KEIR)は、高水準のアンモニア分解用ルテニウム(Ru)触媒を開発した。研究チームは助触媒にセリウム(Ce)を導入することでルテニウム使用量は半分に下がりつつ、450℃の低温で水素を生成する低コスト、高活性の触媒を開発することに成功した。研究成果は触媒・素材分野の学術誌「Applied Catalysis B: Environmental(IF 22.1、上位0.9%)」に掲載され、研究は産業通商資源部新再生エネルギー核技術開発事業の支援を受けて行われた。
UAE
2022年6月、韓国電力公社(KEPCO)とSamsung C&T、韓国西部発電(KOWEPCO)の3社はUAEのPetrolyn Chemieとの間で、グリーン水素・アンモニア事業の共同開発協約を締結したと発表した[6]。投資額は10億ドル。同事業は、この3社がチーム・コリアを結成して参画する韓国初の海外でのグリーン水素・アンモニア製造プロジェクトとなる。同プロジェクトは、アブダビ首長国のハリーファ工業地域(KIZAD)に、年間生産量20万トン規模のグリーンアンモニア生産プラントを建設する計画。第1段階として年間3万5,000トン規模のグリーンアンモニアを生産し、第2段階として年間16万5,000トンを拡張生産する計画を立てている。
韓国とUAE間の脱炭素の連携については、2022年1月にムン大統領(当時)がドバイ万博の韓国ナショナルデーに合わせてUAEに来訪し、両国間での水素エコシステムの協力を加速すると発言していた(2022年1月25日記事参照)。6月8日にはジャーベルUAE産業・先端技術相兼アブダビ石油公社(ADNOC)最高経営責任者(CEO)が韓国を訪問し、李昌洋(イ・チャンヤン)産業資源部長官と両国間の資源サプライチェーンについて今後の協力を確認し合うなど、政府要人の活発な往来の中で、脱炭素分野での協力関係を強化する動きが目立っている。
オマーン
POSCOとEngieはMoUを結び、オマーン(ドゥクム)でグリーンアンモニア年1.2MTを製造するプロジェクトを進めている[7]。2023年6月にHydromフェーズAラウンド1においてZ1-02用地区画(340平方キロメートル)を落札した。他のパートナーはサムスンエンジニアリング、韓国東西発電(EWP)、韓国南部発電(KESPO)、タイPTTEP子会社FutureTech Energy Ventures Company Ltdである。事業は新規風力・太陽光発電(最大約5GW)、バッテリー(BESS)、最大20万トンの低炭素水素製造プラントにより構成される。水素はパイプラインによりドゥクム港まで輸送され、アンモニア製造工場に供給される。2030年には、韓国に年1.2MTのグリーンアンモニアを輸出する計画である。
2-3-2. バイオ燃料、SAF実証
2024年1月に韓国の石油元売り大手社4社(SK Innovation、S-Oil、GS Caltex、Hyundai Oilbank)はバイオ燃料事業に2030年までに合計6兆ウォン(約6,600億円)規模の投資を行うことを明らかにした。水素化バイオディーゼル(BHD)、SAFに3兆6,140億ウォン、廃プラスチック・廃潤滑油などの原料を用いた工程に2兆4,500億ウォン、バイオディーゼルに390億ウォンを投じる。
SK Innovation
2022年7月、SK Innovationは、バイオジェット燃料製造企業の米Fulcrum BioEnergy社(フルクラム)に2,000万ドルを出資した。一般廃棄物由来のバイオジェット燃料事業の世界展開を目指す[8]。SK Innovationは2021年末にESG投資の一環としてFulcrum BioEnergyに韓国のプライベート・エクイティと共同で5000万米ドルを投資した。Fulcrum BioEnergyには2018年9月に丸紅が日本航空株式会社および株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)と共同で出資している[9]。
S-Oil
S-Oil(最大株主Aramco[10])は廃食用油やパーム油副産物などにより持続可能な航空燃料(SAF)を含む低炭素燃料の国内製造に乗り出した[11]。既存の精製工程で原油、バイオ原料、廃プラスチック熱分解油を共加工することにより、SAFや次世代バイオディーゼルなどの低炭素バイオ燃料や、ナフサ、ポリプロピレンなどのバイオ石油化学原料を生産するとしている。
GS Caltex
2023年10月、POSCO InternationalはGS Caltexと共同出資でインドネシアのカリマンタンにおいてパーム油精製事業を行うと発表した[12]。両社はパーム油精製事業のために2023年3月にインドネシアに設立した法人ARC(AGPA Refinery Complex)にPOSCO International60、GS Caltex40で計2.1億ドルを共同出資する。ARCは2024年第1四半期にカリマンタン・ティムール州バリクパパン産業団地の30万㎡の敷地にパーム油精製工場を着工する計画。精製工場は2025年第2四半期から年50万トンを生産、インドネシア内需市場だけでなく韓国、中国など近くの国々に販売される予定。
Hyundai Oilbank
2023年10月、Hyundai OilbankはインドネシアKorindoグループと韓国のLX Internationalとそれぞれ4万トン、8万トンのパーム油由来脂肪酸留分(PFAD)購入契約を締結した[13]。忠清南道瑞山市大山に次世代バイオディーゼル工場(年13万トン)を完成し、近く商業生産に入る予定。植物性原料で生産する水素化植物油(HVO)の生産を進める。
2-3-3. 燃料電池車(FCV)システム
2024年2月、SK E&Sは現代自動車および韓国最大手の運送事業者KD運送グループとの間で、韓国首都圏における水素モビリティ・エコシステム構築に向けた業務協約を締結したと発表した[14]。同提携では、首都圏でKD運送グループが運行しているバス(都市バス・空港バスなど)を水素バスヘと転換する計画で、まず、年内に100台、2027年で累計1,000台を水素バスに転換する計画。KD運送は首都圏内のガレージを液化水素充填ステーションの敷地として提供する。具体的な取り組みとしては、現代自動車がKD運送に水素バスを供給するとともに、首都圏におけるA/Sネットワークの拡充などを行い、SK E&SはKD運送の首都圏内の車庫などに液化水素充填ステーションを6カ所以上設置するとともに、液化水素の安定供給を行う。このほか、同3社で水素充填ステーションの運営や液化水素の輸送などを含めた、水素事業全般での協力を強化する。仁川市は2024年までに累積700台の市内バスと広域・チャーターバスを水素バスに切り替える計画だ。ソウル市は2026年まで仁川空港からソウルに進入する空港バス300台余りとソウル市市内バスと民間企業通勤バス1,000台余りを含む計1,300台余りを普及する目標を持っている。
3. 日韓政府・企業の脱炭素化に向けた協力の動き
3-1. 日韓企業のクリーン水素・アンモニア製造、輸送等サプライチェーン協力の動き
住友商事
2022年8月、住友商事は米国の水素技術スタートアップSyzygyならびにロッテと触媒を用いたアンモニア分解による水素製造の共同実証試験を行うことで合意した[15]。住友商事は2018年にシリーズAの段階でSyzygyに投資。同年9月30日にはロッテと水素・アンモニア分野での協業に関する覚書を締結した。住友商事は韓国の水素普及を推進する官民参加組織H2 Korea(外部リンク)に日本企業として唯一参加している。
伊藤忠商事
2022年7月、伊藤忠商事はロッテケミカルと脱炭素社会実現を目指した水素・アンモニア分野での協業に関するMOUを締結した[16]。(1)アンモニアの取引、(2)日本及び韓国市場を対象としたアンモニアインフラ活用調査、(3)日本及び韓国を対象にしたアンモニア市場調査、(4)クリーンアンモニア生産設備への共同投資調査、(5)水素分野での協業可能性調査などを共同で検討する。
2023年4月、出光興産は、韓国電力公社(KEPCO)と日本および韓国におけるブルー・カーボンフリーアンモニアサプライチェーン構築に向けて協力することに合意した。
千代田化工
2023年4月、千代田化工建設は韓国Samsung C&Tと「SPERA水素™」の協業検討に関する覚書を結んだ[17]。千代田化工はメチルシクロヘキサン(MCH)という有機化合物を用いた水素のサプライチェーン事業化を目指しており、MCHを用いた水素の輸送を商業的に実現する技術の開発に成功し、この技術を「SPERA水素TM」と名付けた。両社は韓国内での水素運搬/貯蔵関連新技術であるSPERA水素技術の関連事業機会の模索及びその他の地域での脱炭素分野における協業の可能性を追求する。
丸紅
2023年12月、丸紅は韓国のSamsung C&T Corporation、オマーン国営石油会社傘下のOQ Alternative Energy LLC、UAEコングロマリットDutco Group傘下のDutco Overseas Limitedとコンソーシアムを組み、国営オマーン・エネルギー開発公社の子会社でオマーン国内のグリーン水素事業開発を管轄するHydrumと、グリーンアンモニア事業開発契約および土地使用権契約を締結したと発表した[18]。今後47年間にわたり、Hydrom事業開発権・用役権が付与される。今後本格的な事業化調査を行った上で、事業開発、グリーンアンモニアサプライチェーン構築を目指すとしている。
三菱商事
2023年12月、三菱商事は、韓国石油大手SK Innovation(SKI)とアンモニアの輸送事業の調査に乗り出す。米スタートアップ企業Amogyが持つアンモニア分解技術を活用した大規模水素輸送事業に関する協業可能性を検討するための共同調査を実施すると発表した[19]。バリューチェーン全体における水素輸送関連コスト分析や、Amogyが持つアンモニア分解技術のスケール化へ向けた技術評価、日本・韓国における水素・アンモニア需要拡大可能性についての調査を行う。調査結果を踏まえ、今後3社での具体的な事業についての協業可能性につき検討していく予定としている。
商船三井
2024年2月、商船三井(MOL)は豪Woodside Energy、韓国Hyundaiグループの韓国造船海洋(HD KSOE)、物流・海運大手のHyundai Glovisと覚書を締結し、先に3社が2022年より進めている液化水素輸送共同検討に参画したと発表した[20]。アジアおよびその他の地域の液化水素サプライチェーンの構築に向け、タンク容量80,000m3型の輸送船を前提に技術、安全、施工、運用面および経済性について検討し、2030年までの建造・運航開始を目標とする。またこの液化水素運搬船は水素を主な推進燃料とする予定であり、運航時に排出されるCO2も大幅に削減するとしている。液化水素の体積は水素ガスの約800分の1で、毒性が無く安全かつ効率的に運搬できるが、マイナス253℃まで冷却する必要があり、高い技術力が必要となる。MOLのLNG輸送を通じて得た知見や脱炭素問題への各種取り組みが評価され、共同検討作業への参画を打診され覚書締結に至ったという。Woodsideが水素の製造や積揚地での貯蔵、HD KSOEが船の設計と建造、Hyundai Glovisと商船三井が船の運航面や荷役の検討を担当する。
日本郵船
2024年1月、大韓航空はグローバル物流企業の郵船ロジスティクスと「持続可能航空燃料(Sustainable Aviation Fuel・SAF)協力プログラム参加契約」を結んだと発表した[21]。日系荷主(フォワーダー)として郵船ロジスティクスが最初の協力パートナーとなった。
3-2. 日韓政府のカーボンニュートラルに向けた協力
2023年5月25日、経済産業省と韓国産業通商資源部(MOTIE)は、「第2回日韓エネルギー協力対話」を釜山にて実施し、日韓両国のカーボンニュートラル実現に向けたエネルギー政策の紹介と今後の協力に向けた意見交換を実施した[22]。
2023年7月18日、KOGASとJERAは、メタン排出削減に向けたイニシアティブ『Coalition for LNG Emission Abatement toward Net-zero(「CLEAN」)』を立ち上げた[23]。「CLEAN」は、LNG購入者がLNG生産事業者とともに、LNGバリューチェーンにおけるメタン排出削減に取り組むイニシアティブである。両社は、日米韓政府およびJOGMECの支援のもと、CLEANのイニシアティブに基づき、LNG生産者との対話を通じてメタン排出量の可視性を高めるとともに、メタン排出削減に向けたベストプラクティスの展開および発信に向けた取り組みを進める。
2023年11月18日、岸田首相とユン大統領はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のため訪米した。岸田首相は日本時間の18日朝、スタンフォード大学を訪れ、ユン大統領とともにスタートアップ企業との対話に参加した。岸田首相は「日韓が中心となり『水素・アンモニア・グローバルバリューチェーン』の構築を提唱したい」と述べ、両国で水素やアンモニアの供給網を創設して、調達力を強化する考えを示した。
2024年2月15日には産業通商資源部(MOTIE)パク水素局長が来日し、経済産業省と局長級協議を実施した[24]。双方は水素戦略の実施において両国が同様の課題に直面していることを踏まえ、協力の可能性が高いとの認識を共有した。また(1)グローバルサプライチェーンの開発と利活用分野の創出、(2)規格・標準に関する連携、(3)政策的知見の共有を含む分野での協力を強化することを確認した。双方は、継続的なコミュニケーションと協力を促進するため、新たに「日韓水素アンモニア等協力対話」の枠組みを立ち上げ、継続して開催することに合意した。
さいごに.韓国と日本の低炭素燃料製造・チェーン構築分野の協力(提言)
韓国と日本は欧州のように他国と送電網やパイプラインなどのエネルギーインフラが連係しておらず、化石燃料への依存・輸入への依存が高いなどエネルギーを巡る状況が似ている。低炭素化燃料の導入についても国内資源(原料)の不足や製造コストの高さから輸入を活用せざるを得ない状況である。
両国は海外の低炭素事業投資や設備等のマーケティングにおいて競合相手である一方、石炭火力発電所における低炭素アンモニア(混焼)燃焼技術の標準化や保安基準ガイドライン、輸入拠点や船舶などのインフラ整備など規制、標準の統一を図ることで双方にとりコストの平準化や普及促進、需要側主導の市場創出につながる利点があると思われる。気になることは韓国が
輸入拠点やサプライチェーンの整備について、両国設備の相互利用や韓国東部・南部に大型の輸入アンモニア輸入ターミナルを建設し、日本海側需要家への小口輸送を行うことや、将来的に台湾に拡充することも有効なオプションと考えられる。例えば仕向け地を“東アジアハブ(仮)”とすることで一部の供給国が求める「仕向け地制限」を設定させないことが可能である。また自然災害などでターミナルが使えなくなった場合のバックアップとしても有効だ。欧州LNG受入基地のように「利用権」方式とすることで基地稼働率向上や段階的な能力拡張、資金調達が容易になることも利点として考えられる。日韓両国ともに「カボタージュ規制」があるが本件を特例で両国船籍・船員往来を可能とすることで船員不足への対応も可能となる。協力を模索するにあたり、両国政府が仲介役となり、韓国の水素普及を推進する官民参加組織H2 Koreaと日本のクリーン燃料アンモニア協会でワークショップを開催し、参加事業者の間口を広げ、両国で協力できる分野について話し合うことなども有効ではないかと思われる。
[1] 韓国のエネルギー政策(自然エネルギー財団2023年11月)(外部リンク)
[2] 東西貿易通信社(2024年2月29日)
[4] https://www.poscointl.com/kor/pr/article_view.do?col=&sw=&page=&num=6392
[5] https://www.approtium.com/en/archive/news.php?bgu=view&idx=63#content
[6] 韓国企業がUAEでアンモニア生産工場建設へ(外部リンク)
[7] https://engiemiddleeast.com/press-releases/engie-and-posco-to-develop-a-1-2mtp-green-ammonia-project-in-oman/
[8] https://skinnonews.com/global/archives/10767
[9] https://www.marubeni.com/jp/news/2018/release/00040.html
[10] https://japan.aramco.com/ja-jp/news-media/news/2014/20140702_hanjin-groups
[11] https://www.s-oil.com/en/relation/NewsView.aspx?BoardDataIndex=14976
[12] https://www.poscointl.com/kor/pr/article_view.do?col=&sw=&page=&num=6339
[13] https://www.kedglobal.com/carbon-neutrality/newsView/ked202310310014
[14] https://www.h2news.kr/news/articleView.html?idxno=12112
[16] https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2022/220722_4.html
[17] https://www.chiyodacorp.com/media/230331R.pdf
[18] https://www.marubeni.com/jp/news/2023/release/00119.html
[19] https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2023/html/0000052577.html
[20] https://www.mol.co.jp/pr/2024/24023.html
[21] 大韓航空、郵船ロジスティクスとSAF協力プログラムを拡大(外部リンク)
[23] https://www.jera.co.jp/news/information/20230718_1565
以上
(この報告は2024年3月12日時点のものです)