ページ番号1010072 更新日 令和6年3月18日
原油市場他:米国での石油製品在庫の減少継続及び2024年の世界石油需給引き締まり観測等から2023年11月以来の高水準に上昇する原油価格
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概要
- 米国では春場のメンテナンス作業実施等により製油所における石油製品製造活動が不活発化したこともあり、ガソリン及び留出油両在庫は減少傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年幅上方付近に位置する、それぞれ量となっている。また、製油所での原油精製処理活動が低迷したことから、原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を上回る状態は継続している。
- 2024年2月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州では紅海周辺におけるイエメンのフーシ派武装勢力の船舶に対する攻撃により太平洋圏から大西洋圏への原油の円滑な供給に支障が発生したことにより、欧州の原油価格が他の地域の原油価格より割高になったこともあり、かえって欧州への原油流入が下げ止まる格好となったから、前月比で横這いとなった。また、日本においては一部製油所におけるメンテナンス作業実施等により原油精製処理量が減少したものの、併せて原油輸入も減少したことから、原油在庫は微増となった。さらに、米国においては、原油在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国ではガソリン及び留出油両在庫等の減少が影響し、石油製品全体としても在庫は減少となった。また、欧州においては製油所の春場のメンテナンス作業の実施等に伴い石油製品の製造活動が不活発化したことから、石油製品在庫は減少した。日本においても、冬場の暖房向け灯油需要が喚起されたこともあり当該在庫が減少したことから、石油製品在庫は減少となった。この結果、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少となったが平年並みの量となっている。
- 2024年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場においては、米国のガソリン等の石油製品在庫の減少が続いたうえ、3月14日に国際エネルギー機関(IEA)が、2024年の世界石油需要を上方修正した他、OPECプラス産油国による減産が自主的なものを含め2024年末まで延長された場合2024年は従来見込まれていた供給過剰から供給不足へと転じる旨示唆したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となり、3月14日には1バレル当たり81.26ドルの終値と2023年11月2日以来の高水準に到達した。
- この先、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が市場関係者の視野に入り始めるとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で醸成されることを通じ、ガソリン及び原油相場に対し上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。また、中東情勢の不安定化やウクライナによるものと見られるロシア石油関連インフラに対する攻撃に伴う中東及びロシア地域からの石油供給途絶懸念が、原油相場を下支えしたり、上方圧力を加えたりしやすいものと考えられる。さらに、米国金融当局によるそう遠くない時期における政策金利引き下げ開始に対する期待も、米国等の経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待を市場で増大させる結果、原油相場を支持する方向で作用する可能性があるものと思われる。そのような中で、中国における景気刺激策や不動産開発業界の動向、及び経済指標類の内容等が原油価格を左右しうるものと考えられる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2023年12月の米国ガソリン需要(確定値)は日量884万バレル、前年同月比で2.8%程度の増加となり(図1参照)、11月の当該需要である同885万バレルから需要量が僅かに減少したものの同月の前年同月比0.2%程度の増加から増加率は拡大した。また、当該需要は速報値(前年同月比0.2%程度増加の日量865万バレル)から上方修正されている。12月はクリスマス及び年末年始の休暇シーズンに突入していたことから、個人の外出が活発化したことが自動車運転距離数を下支するとともに同月のガソリン需要を支持したものと考えられるが、12月は11月に比べ気温が低下したことが、個人の外出を抑制する形で作用したものと見られる(因みに12月の同国自動車運転距離数は1日当たり85億マイル、11月は同88億マイルであった)ことから、12月の同国ガソリン需要が11月に比べて下振れする格好となった。もっとも12月の同国自動車運転数の前月比での減少に比べガソリン需要の下振れ幅は比較的限定的なものであったこともあり、その分だけ2024年の同国ガソリン需要が押し下げられる可能性がある(なお、2024年1月の当該需要(速報値)は日量826万バレルと12月から相当程度減少している)。また、2022年12月は前月比及び前年同月比で冷え込んだ他一部地域には大雪がもたらされた(12月下旬頃には同国南部にまで大寒波「エリオット(Elliott)」が来襲した)こともあり、道路往来に支障が発生するとともに個人の外出が敬遠された(同月の同国自動車運転距離数は1日当たり83億マイルと前年同月比で1.8%程度減少した)ことから同月のガソリン需要が前年同月比で3.2%程度減少した一方、2023年12月は概して相対的に温暖に推移した他大雪にも見舞われなかったこともあり、2022年12月の抑制されたガソリン需要の反動から、2023年12月の米国ガソリン需要量が前年同月比で相当程度の増加となったものと考えられる。なお、2023年12月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年12月の当該需要(日量897万バレル)(確定値)を1.5%程度下回っている。他方、2024年2月の米国ガソリン需要(速報値)は日量847万バレル、前年同月比で2.8%程度の減少と、2024年1月の当該需要(速報値)である日量826万バレルから需要量は増加したものの同月の前年同月比0.2%程度の減少からは減少率が拡大している。2024年1月は中旬を中心として厳しい寒波が米国南部を含め広い地域にまで来襲したことに伴い気温が低下するとともに個人の外出が不活発化したことが同月のガソリン需要を圧迫する格好となった一方、2月は1月ほど冷え込んだわけはなかったことから個人の外出が1月に比べ相対的に活発化したことが、同月のガソリン需要が前月比で増加した背景にあるものと考えられる(なお、2月の米国の自動車運転距離数は1日当たり84億マイルと1月の同81億マイルから増加している)。しかしながら、1月に来襲した厳しい寒波の影響によりガソリン消費が進まなかったことが2月のガソリン給油活動をある程度鈍化させたものと見られることが、2024年2月の米国のガソリン需要を抑制する形で作用した結果、同月のガソリン需要の前年同月を割り込む率が1月に比べ拡大したものと考えられる。なお、2024年2月の米国ガソリン需要は2020年2月の当該需要(日量872万バレル)(確定値)を6.4%程度下回っている。また、1月中旬頃に米国テキサス州等のメキシコ湾岸地域にまで厳しい寒波が南下したことにより、同地域の一部製油所では気温低下に伴い装置に不具合が発生した結果操業が停止した。寒波が過ぎ去った後これら製油所は稼働を再開し始めたが、他の製油所において春場のメンテナンス作業実施や停電等に伴う装置の不具合発生等より操業が停止したこともあり同国製油所の原油精製処理量は落ち込んだままとなった(図2参照、2024年2月9日の週の米国原油精製処理量は日量1,454万バレルと2022年12月30日の週(この週の原油精製処理量は同1,382万バレルであった)以来の低水準であった他、2月23日の週に至るまで日量1,454~1,467万バレルと概ね低迷したままであった)ことから、ガソリンを含む石油製品製造活動が不活発化した(ガソリン最終製品生産量は図3参照)。また、2月下旬以降は装置不具合の改修が進んだこともあり米国製油所における原油精製処理量は増加した一方、2月に入りガソリンの需要が1月に比べ増加したことに加え、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2024年は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月27日)に伴う連休(5月25~27日)から労働者の日(レイバー・デー)(9月2日)に伴う連休(8月31日~9月2日)まで)が市場で意識され始めるとともにガソリンの出荷量が上振れし始めた。このため、2024年2月上旬から3月上旬にかけての同国におけるガソリン在庫は混合基材を中心として減少傾向となったが、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。
2023年12月の米国留出油需要(確定値)は日量361万バレル、前年同月比で4.7%程度の減少となり(図5参照)、11月の同401万バレル(前年同月比1.2%程度の減少)から需要量が減少した他前年同月比での減少率は拡大した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比6.3%程度減少の日量371万バレル)からは上方修正されている。11月は米国の暖房向け留出油需要の中心地である北東部の気温が低下、前年同月よりも冷え込んだ結果、暖房向けの留出油需要が喚起された。12月もそれなりに冷え込んだものの、11月に比べて若干ながら冷え込みが厳しくなった程度にとどまったこともあり、11月に相当程度の暖房向け留出油が調達されたことに伴い12月においては留出油需要を追加購入する動きが鈍化したことが12月の留出油需要(厳密には出荷量である)が11月に比べ減少した背景にあるものと見られる。また、2022年12月は下旬頃に同国南部にまで大寒波「エリオット」が来襲したこともあり、北東部において気温が相当程度低下したことから、暖房向け留出油需要が増加した反面、2023年12月は米国北東部においてそのような厳しい寒波の来襲が見られなかったことが、同月の暖房向け留出油需要を抑制する形で作用した結果、同月の当該需要は前年同月を大きく割り込むこととなったものと考えられる。なお、12月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量393万バレル)(確定値)を8.0%程度下回っている。他方、2024年2月の米国留出油需要(速報値)は日量377万バレル、前年同月比で6.2%程度の減少となり、1月の当該需要量(速報値)の日量371万バレル(前年同月比5.0%程度の減少)から需要量は若干ながら上振れした一方前年同月比の減少率は拡大した。2024年1月は中旬を中心として米国テキサス州にまで厳しい寒波が南下するなどしたことにより、気温の低下に伴う一部装置の不具合発生等により石油産業を含め鉱工業部門の活動が不活発化したことが同部門向け留出油需要を抑制した格好となったが、寒波が過ぎ去った2月も1月の厳しい寒波による同国鉱工業生産への影響はある程度残存した(2月の同国鉱工業生産は1月から微増にとどまった他、1月の前年同月比0.3%の減少に続き同0.2%の減少となった)結果留出油需要がもたついたものと考えられる。また、2024年1月は気温が前月のみならず前年同月比でも大幅に低下したことにより、米国北東部では暖房向けの留出油需要が増加したものと見られる反面、2月の米国北東部の気温は1月ほどには冷え込まなかったこともあり、1月の寒波来襲に備えて留出油の調達が進んだ後の2月において留出油の購入が鈍化する形となったものと見られる。これらの要因が、2024年2月の当該需要の前年同月比での減少率が1月に比べ拡大した背景にあるものと考えられる。なお、2024年2月の米国留出油需要は2020年同月の当該需要(日量408万バレル)(確定値)を7.6%程度下回っている。このように、同国では留出油需要はもたつき気味ではあったものの、2024年1月中旬を中心とする時期に来襲した寒波等により一部製油所の装置に不具合が発生したことに加え春場の製油所のメンテナンス作業実施に伴い石油製品製造活動が不活発化したこともあり留出油生産活動が低迷した(図6参照)結果、2月上旬から3月上旬にかけ米国留出油在庫は減少傾向となったが、平年幅上方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2023年12月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比5.0%程度増加の日量2,029万バレルとなり(図8参照)、11月の同2,071万バレルから需要量は減少したものの、同月の前年同月比2.5%程度の増加から増加率は拡大した。12月の留出油需要が11月から減少したことが、12月の同国石油需要が11月から低下した一因となっている。また、12月の同国ガソリン需要の前年同月比での増加率が11月から拡大したことに加え、12月のその他の石油製品の需要が前年同月比で21.7%程度の増加と11月(同11.7%の増加)から増加率が拡大したことが、12月の米国石油需要の前年同月比の増加率が11月から拡大した背景にある。2022年12月は下旬を中心として米国の南部にまで厳しい寒波が来襲したこともあり、気温の低下に伴う工場での操業上の不具合等により石油化学や道路用資材を含め産業部門を中心にその他の石油製品需要が抑制された反面、2023年12月はそのような支障が発生しなかったことから、反動で当該需要が前年同月比で大幅に伸びたことが、米国におけるその他の石油製品の需要の前年同月比での増加率の拡大に寄与する格好となっている。なお、2023年12月の米国石油需要は2019年12月の当該需要(日量2,044万バレル)(確定値)を0.7%程度下回っている。他方、2024年2月の米国石油需要(速報値)は推定日量1,952万バレル、前年同月比で1.2%程度の減少となっており、1月の同国石油需要(速報値)である日量1,989万バレル、前年同月比3.9%程度の増加から、需要量が減少した他前年同月比でも増加から減少に転じている。2月は1月に比べ米国は相対的に温暖となったこともあり、液化石油ガス(LPG)の需要が前月比で減少したことが、2月の米国石油需要が前月比で減少した一因となっている。また、LPG(2024年2月の米国の気温が前年同月比で若干ながら温暖であったうえ、2024年1月の米国への厳しい寒波到来に備えたLPGの購入活発化の反動が2024年2月に現れたものと見られる)、ガソリン及び留出油各需要が前年同月比で低下したことが、同月の米国石油需要の前年同月比での減少に寄与する格好となっている。なお、2024年2月の米国石油需要は2020年2月の当該需要(日量2,013万バレル)(確定値)を3.0%程度下回っている。また、2024年1月中旬を中心とする時期に米国の幅広い地域に厳しい寒波が来襲した結果、例えばバッケン(Bakken)シェール地域を中心としてシェールオイルの生産が盛んな同国ノースダコタ州(2023年11月時点の同州の原油生産量は日量129万バレルであった)の原油生産が大幅に落ち込んだ(日量65~70万バレル程度減少した旨1月17日に同州パイプライン局(North Dakota Pipeline Authority)が明らかにした)ことを含め、1月19日の週には同国の原油生産量が日量1,230万バレルと前週(同1,330万バレル)比で日量100万バレル程度減少したが、2月2日の週には同国原油生産量は同1,330万バレルへと回復した一方、米国の製油所における原油精製処理量は寒波等による装置の不具合発生や春場のメンテナンス作業実施の影響で2月下旬頃まで低迷したままとなったこともあり、2月上旬から3月上旬にかけての同国原油在庫は増加傾向となった(それでも一部製油所において発生した装置不具合の改修が進んだ2月下旬頃以降は製油所の原油精製処理量が増加するとともに米国原油在庫の伸びは鈍化し始めた)他、当該在庫が平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、そして留出油在庫が平年幅上方付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2024年2月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州では2023年11月19日以降紅海周辺においてイエメンのフーシ派武装勢力による船舶に対する攻撃が激化したことにより、紅海及びスエズ運河を経由した航路を船舶が敬遠するとともに喜望峰を経由する航路へと迂回させた結果、中東方面から欧州方面への原油タンカーの到着が遅延したり、到着までの航行日数が拡大するとともにタンカーの利用が長期化したことに伴い燃料を含む輸送費が増加したり、利用可能なタンカーの隻数が減少することによりタンカーの船腹需給の引き締まり感が強まったこともありタンカー傭船料が上昇したりしたことに伴い、中東方面から欧州方面への原油輸送を巡る採算性が悪化し始めたことから、供給者が中東方面から欧州方面への原油出荷に対しより慎重になったものと見られることにより、欧州の原油輸入が抑制されたこともあり、2023年12月から2024年1月にかけ原油在庫は減少したが、これによって欧州の原油価格がその他の地域の原油に比べ割高となったことにより、他の地域から欧州への原油供給を巡る採算性が改善し始めたしたこともあり、欧州への原油流入が下げ止まる格好となった。このようなことから、欧州の原油在庫は前月比で横這いとなった。また、日本においては一部製油所においてメンテナンス作業が実施されたことや、装置に予期せぬ不具合が発生したこと等により操業が停止した結果、原油精製処理量が減少したものの、併せて原油輸入も減少した(製油所の操業停止した時期が2月以前もしくは2月上旬頃が中心であったことが背景にあるものと考えられる)ことから、原油在庫は微増となった。さらに、米国においては、原油在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国ではガソリン、留出油及びプロパン(気温の低下に伴い暖房用需要が発生したことが一因であるものと見られる)の各在庫の減少が影響し、石油製品全体としても在庫は減少となった。また、欧州においては年末年始の休暇シーズンの反動で1月の石油需要が落ち込んだものの、2月に入り石油製品需要が回復基調となった一方、春場のメンテナンス作業の実施や一部装置の不具合の発生もあり製油所における稼働が抑制されたことに伴い石油製品の製造活動が不活発化していたことから、石油製品在庫は減少した。日本においても、冬場の低気温とともに暖房向け灯油需要が喚起されたこともあり当該在庫が減少したことから、石油製品在庫は減少となった。この結果、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少となったが平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2024年2月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.1日と1月末の推定在庫日数(60.2日)から若干ながら減少している。
2月14日に1,300万バレル台弱程度の水準であったシンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は、2月21日には1,400万バレル台前半程度、2月28日には1,600万バレル強程度の、それぞれ量へと増加した。3月6日には1,400万バレル台後半程度の量へと減少したものの、3月13日は1,500万バレル台後半度の水準へと回復した結果、2月14日の量を上回る状態となっている。2024年第1回の中国石油製品輸出枠1,900万トンが付与された(因みに2023年第1回は1,899万トンであった)(別途低硫黄重油輸出枠も前年比同水準の800万トンで付与された)こと(12月29日に中国当局が当該輸出枠付与を発表したとされる)に伴い、1月以降中国からシンガポール方面にガソリンを含む軽質留分が輸出され始めたが、2月から3月にかけシンガポールに中国から当該製品が流入したことが、シンガポールの軽質留分在庫を増加させる方向で作用した。しかしながら、2月においてはシンガポールに相当量流入していた中東からの軽質留分(12月下旬から1月上旬にかけシンガポールの軽質留分在庫が減少傾向となったこともあり、同地点における軽質留分需給の引き締まり感が発生したことが背景にあるものと考えられる)が、3月に入ると減少した(1月中旬を中心とする時期に米国テキサス州にまで南下した厳しい寒波等や春場のメンテナンス作業実施に伴う欧米諸国における製油所の稼働低下やウクライナによるものとされる攻撃によるロシアの製油所等の稼働停止に伴う石油製品製造活動の不活発化が大西洋圏におけるガソリン需給の引き締まり感を強めたことにより、中東から大西洋圏にガソリンが流出したことが影響する格好となっている)ことが、シンガポールにおける軽質留分在庫増加を抑制する方向で作用したものと考えられる。そして、このようにシンガポールでの軽質留分在庫は増減しつつも増加傾向を示したものの、米国におけるガソリン在庫が減少傾向を示した(2月2日から3月8日にかけ米国ガソリン在庫は6週連続で減少した)ことにより、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が視野に入り始める中で、世界的なガソリン需給の引き締まり感を市場が意識したうえ、韓国石油精製大手Sオイルのオンサン(温山)製油所の第3常圧蒸留装置(原油精製処理能力日量25万バレル)で火災が発生した結果操業を停止した旨2月27日に伝えられた(火災は2月23日に鎮火し2月27日には操業を再開する予定である旨2月27日に伝えられた)ことにより、ガソリン製造活動への支障に対する懸念が市場で発生したことが、アジア市場のガソリン価格に上方圧力を加えた結果、2月中旬から下旬にかけてはアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(従来ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っていた)は拡大する傾向を示した。しかしながら、3月に入ると原油価格の上昇にガソリン価格の上昇が追い付かなかったこともあり、ガソリンとドバイ原油との価格差は縮小する場面が見られる。
他方、1月21日未明(現地時間)にロシアのウスチ・ルーガ(Ust-Luga)にある同国天然ガス会社ノバテックのコンデンセート分離装置(2023年前半に340万トンのコンデンセート(推定日量14万バレル程度)を処理したとされる)において火災が発生したが、その原因が無人機の攻撃によるものである旨ウクライナ報道機関が報じた。また、ロシア南部黒海沿岸都市トゥアプセ(Tuapse)にある製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレルとされる)に1月24日深夜から1月25日未明(現地時間)にかけ無人機(ウクライナが発射したと伝えられる)が飛来した後火災が発生した(1月25日朝(同)に鎮火したとされる)。さらに、2月3日にウクライナの無人機がロシア南部のボルゴグラード(Volgograd)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理量日量30万バレル)に落下(ロシア側はウクライナからの無人機を迎撃したと主張)した結果、火災が発生した(但しその後鎮火し、製油所の操業は正常通り行なわれている旨ルクオイルが表明したと2月3日に伝えられる)。加えて、ウクライナの無人機がロシアのイルスキー(Ilsky)製油所(ニジニー・ノブゴロド州、原油精製処理能力日量13.3万バレルとされる)及びアフィプスキー(Afipsky)製油所(同、同12.1万バレルとされる)を攻撃した(イルスキー製油所では火災が発生した)旨2月9日に伝えられた。このようにウクライナが発射したものと推定される無人機によりロシア石油精製関連施設への攻撃が複数行なわれたことにより、従来ロシアからアジア方面に輸出されていたナフサの供給が減少する恐れがあるとの観測が市場で増大した。そして実際2月から3月上旬にかけてはロシアからシンガポールへのナフサの供給は抑制されるように見受けられた。ただ、北東アジアの一部諸国等においてナフサ分解装置のメンテナンス作業が実施されつつあることにより、原料となるナフサの需要が低減するとの見方が市場で広がたうえ、中東諸国において1月より実施されていた一部製油所のメンテナンス作業の終了が視野に入りつつあることにより、ナフサ供給が拡大すると市場が予想しつつあったこと、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期の終了が視野に入り始めるとともに暖房向けに利用されていた液化石油ガス(LPG)の需要が減少する結果LPGの価格が下落することに伴い、石油化学製品の原料となるナフサとLPGとの間での価格面の競合が激化するとともにナフサの需給が緩和すると見る向きが市場で発生した(もっともナフサを原料として製造できる石油化学製品の種類がLPGに比べ多彩であったこともあり、依然としてナフサへの需要は根強いと見る向きもあった)ことが、アジア市場におけるナフサ価格に下方圧力を加えた。このようにアジア市場のナフサ価格には上方及び下方双方から圧力が加わる格好となったが、ロシア等からのナフサ供給減少懸念がこの先のナフサ需給緩和観測よりも強かったものと見られることもあり、2月中旬から3月中旬にかけての同市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向を示した。
2月14日には900万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールにおける軽油やジェット燃料といった中間留分在庫は、2月21日には800万バレル台後半程度の量へと減少したものの、2月28日には1,000万バレル台前半程度の水準へと回復した。3月6日には1,000万バレル弱程度の量へと再び減少したものの、3月13日には1,000万バレル台後半程度の水準へと再び回復した結果、2月14日の量を上回る状態となっている。2023年第1回の石油製品輸出枠が付与された中国からシンガポールに向け軽油が輸出されたことに加え、紅海及びスエズ運河におけるイエメンのフーシ派武装勢力による商業船舶攻撃激化の結果石油製品を輸送するタンカーが喜望峰経由へと迂回することに伴い燃料費や傭船料といった輸送コストが上昇する格好となったことにより、欧州向けの軽油輸出を巡る採算性が悪化するとの見方が増大したこともあり、欧州方面の代わりにインド及び中東からシンガポール方面に軽油が流入した(また、経済が低調気味に推移していることもあり国内需要が不振となっているとされる韓国から軽油輸出が促進されていると見る向きもある)側面があったことが、シンガポールの中間留分在庫を押し上げる方向で作用したものと考えられる。そしてこのように、シンガポールにおける中間留分在庫が増加傾向を示したことが、アジア市場における軽油価格に下方圧力を加えたうえ、3月上旬を中心として原油価格の上昇に軽油価格の上昇が追い付かない場面が見られたこともから、2月中旬から3月中旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を示した。
2月14日に2,000万バレル強程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、2月21日には2,300万バレル台前半程度の量へと増加した。しかしながら、2月28日には2,000万バレル台半ば程度、3月6日には1,900万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと低下した。それでも、3月13日には2,100万バレル台前半程度の水準へと回復した結果、2月14日の量を上回る状態となっている。紅海及びスエズ運河周辺においてイエメンのフーシ派武装勢力が船舶への攻撃を激化させていることから、船舶が喜望峰経由へと輸送経路を変更したことにより船舶の航行が長期化したことに伴い、ロシアを含む大西洋圏方面からシンガポールへの重油の到着が遅延したことが、シンガポールにおける重油在庫を一時的に減少させる一因となったものと見られる。ただ、その後喜望峰経由でロシアを含む大西洋圏方面からの重油がシンガポールに到着しつつある他、スエズ運河経由から喜望峰経由へと輸送経路を変更したことに伴う輸送距離の拡大により、船舶が消費するための重油の需要が増加した(2024年1月のシンガポールの船舶向け重油販売量は491万トン(推定日量102万バレル)と前年同月比で約12%増加したとされる)ものの、その後は中国等における旧正月を巡る休暇シーズンもあり同国等の経済活動が減速したことにより船舶を利用した輸送活動が不活発化したことに加え、長距離輸送に伴い船舶のシンガポール寄港頻度が低下したことや、中国浙江省舟山が船舶向け重油販売を積極化させた結果該製品販売を巡る競争が激化したこともあり、シンガポールでの船舶向け重油需要の盛り上がりが沈静化しつつあるとされる(2月のシンガポールの船舶向け重油販売量は451万トン(推定日量100万バレル)と前年同月比では約15%増加したものの、前月比では若干ながら減少している)こと、中東からの重油供給が増加している(1月以降同地域では製油所メンテナンスを実施中であるが、改質装置の稼働が停止した結果、かえって重油の生産が増加した可能性がある)ことが、シンガポールにおける重油在庫を下支えする方向で作用したものと考えられる。ただ、ウクライナによるものと見られるロシアの石油精製関連施設攻撃に伴う同国からアジア方面への重油供給の減少に対する懸念が根強かったことが、アジア市場における高硫黄重油価格に上方圧力を加えた結果、2月中旬から3月中旬にかけ高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は上下に変動しつつも縮小する傾向を示した。他方、それまで装置不具合発生等に伴い減産状態であったとされたクウェートのアル・ズール(Al-Zour)製油所(操業者:KIPI(Kuwait Integrated Petroleum Industries)、原油精製能力日量61.5万バレル)がほぼ完全な操業状態に到達した旨KIPIが2023年12月3日に声明を発表した後、2024年2月に入り同製油所からの低硫黄重油販売が積極的に行なわれるとの見方が市場で広がったうえ、実際に同製油所が低硫黄重油の販売に動きつつある一方、発電部門(春場が接近し始めたことにより暖房等空調のための電力供給向けの発電部門での低硫黄重油需要が低下した他、天然ガス(LNG)価格が下落傾向となったこともあり、割安感のある天然ガスが優先して調達された結果、低硫黄重油の購入が劣後しているものと見られる)及び船舶部門における低硫黄重油に対する需要が低迷し始めたことが、アジア市場における低硫黄重油価格に下方圧力を加えた結果、2月中旬から3月中旬にかけての同市場における低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油の価格がドバイ原油価格を上回っている)は上下に変動しつつも縮小する傾向を示した。
2. 2024年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場等の状況
2024年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場においては、2月中旬から3月中旬初頭頃にかけては、米国の政策金利引き下げを積極的に示唆しない米国金融当局関係者の発言や、3月3日から4日にかけて報じられたOPECプラス産油国による減産措置の延長等の事実上の決定が市場の事前予想ほど世界石油需給を引き締めないとの観測が市場で発生したこと、中国全国代表者大会において具体的な景気刺激策に対する言及がなされなかったこと等が原油相場に下方圧力を加えた。ただ、同時期においては、紅海周辺海域を航行する船舶に対するイエメンのフーシ派武装勢力による攻撃の継続に加え、ロシアの製油所等に対しウクライナによるものと見られる攻撃が行なわれたことに伴い一部製油所の操業が停止したことによりロシアからの石油供給減少懸念が市場で発生したこと等が原油相場に上方圧力を加えた。この結果、2月中旬から3月中旬初頭頃にかけての原油価格は終値ベースで概ね1バレル当たり76~80ドルを中心とする範囲で方向感なく推移していた。しかしながら、米国のガソリン等の石油製品在庫の減少が続いたうえ、3月14日に国際エネルギー機関(IEA)が、2024年の世界石油需要を上方修正した他、OPECプラス産油国による減産が自主的なものを含め2024年末まで延長された場合2024年は従来見込まれていた供給過剰から供給不足へと転じる旨示唆したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、3月中旬半ば頃においての原油価格は上昇傾向となり、3月14日には1バレル当たり81.26ドルの終値と2023年11月2日以来の高水準に到達した(図15参照)。
2月19日には、米国ワシントン大統領誕生日(President's Day)の休日に伴い米国原油先物市場で終値は計上されなかったが、2月20日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、2月21日の米国株式市場取引終了後に発表される予定である米国半導体製造大手エヌビディアの2023年11月~2024年1月期業績発表を控えた持ち高調整により、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.01ドル下落し、終値は78.18ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2024年3月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2024年4月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり77.04ドル(前日終値比同1.42ドルの下落)であった)。また、2月21日の原油価格の終値は1バレル当たり77.91ドルと前日終値比で0.27ドル下落したが、米国原油先物契約4月渡し間では、前日終値比1バレル当たり0.87ドルの上昇であった。これは、2月20日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことによる。さらに、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区攻撃に対抗して、新規の潜水艦兵器の使用を含め、紅海等での船舶攻撃を強化する旨2月22日にイエメンのフーシ派武装勢力が表明したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶に対する懸念が増大したことに加え、2月22日にEIAから発表された米国石油統計(2月16日の週分)において、原油在庫が前週比351万バレルの増加と、市場の事前予想(同390万バレル程度の増加)程増加していなかった他、留出油在庫が同401万バレルの減少と市場の事前予想(同210万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、2月21日夕方(米国東部時間)に発表された米国人工知能(AI)向け半導体製造大手エヌビディアの2023年11月~2024年1月期の売上高、及び2024年2~4月期の売上高見通しが市場の事前予想を上回ったこともあり、2月22日に米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.70ドル上昇し、終値は78.61ドルとなった。しかしながら、2月23日にパリで開催される予定であるイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での休戦を巡る協議に対しイスラエルが交渉団を派遣する意向である旨2月22日午後遅く(米国東部時間)に報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことに加え、米国物価上昇の沈静化を確認するため最低でも2ヶ月間は政策金利引き下げの決断を行うべきではない旨2月22日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事が明らかにしたと同日夜(米国東部時間)に報じられたことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ観測が後退するとともに同国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したこと、2月23日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働が同日時点で503基と前週比6基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は488基と同4基増加)となった旨判明、2023年11月17日(この日の同国石油坑井掘削装置稼働数は同6基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同6基増加)以来の大幅増加となっていたこともあり、この先の米国の原油生産の伸びの加速観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.49ドルと前日終値比で2.12ドル下落した。
しかしながら、イエメン沖合アデン湾において石油タンカー「トーム・ソール」(Torm Thor)(米国船籍及び運航)を攻撃した旨2月25日にイエメンのフーシ派武装勢力が発表(他方、米国ミサイル駆逐艦USSメイソン(USS Mason)がイエメンのフーシ派武装勢力支配地域から発射された対艦弾道ミサイルを迎撃した旨2月24日に米国中央軍が発表、USSメイソン及びトーム・ソール双方に被害無しと付言)したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶に対する懸念が増大したこともあり、2月26日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.09ドル上昇し、終値は77.58ドルとなった。また、2月27日も、OPECプラス産油国が2024年1月1日から3月31日にかけ実施中の日量約170万バレルの自主的な原油生産削減(これとは別に同期間ロシアが日量50万バレル自主的に原油輸出を削減)を、原油価格支持のため、第2四半期、場合によっては2024年末まで延長すべく検討している旨2月27日にロイター通信が報じたことにより、この先の世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.87ドルと前日終値比で1.29ドル上昇した。この結果原油価格は2月26~27日の2日間で1バレル当たり合計2.38ドルの上昇となった。しかしながら、2月28日には、この日EIAから発表された米国石油統計(2月23日の週分)において、原油在庫が前週比420万バレルの増加と、市場の事前予想(同270~372万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことにより、米国石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、米国物価上昇の沈静化には長期間を要する旨米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が明らかにしたと2月28日に伝えられたことにより、同国政策金利引き下げに伴う米国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.54ドルと前日終値比で0.33ドル下落した。また、2月29日も、この日米国商務省から発表された2024年1月の同国個人消費支出(PCE:Personal Consumption Expenditures)価格指数が前年同月比2.4%の上昇と2023年12月の同2.6%の上昇から伸びが鈍化、2021年2月(この月は同1.9%の上昇)以来の低水準の上昇率を記録したことにより、米国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、2024年2月のリビアの原油生産量が前月比で日量15万バレル増加したことが一因となり、同月のOPEC産油国原油生産量が前月比で日量9万バレル増加している旨2月29日にロイター通信が明らかにしたことにより、世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.28ドル下落し、終値は78.26ドルとなった。この結果原油価格は2月28~29日の2日間で1バレル当たり合計0.61ドル下落した。ただ、OPECプラス産油国が2024年1月1日から3月31日にかけ実施中の日量約170万バレルの自主的な原油生産の削減(これとは別にロシアが日量50万バレル自主的に原油輸出を削減)を、原油価格支持のため、第2四半期、場合によっては2024年末まで延長すべく検討している(意思決定は3月上旬になされるとされる)旨2月27日にロイター通信が報じたことを受け、この週末(3月2~3日)にOPECプラス産油国が今後の原油生産方針につき決定する可能性があることに備え、原油を購入する動きが発生したことから、3月1日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.71ドル上昇し、終値は79.97ドルとなり、2023年11月6日(この日の終値は1バレル当たり80.82ドル)以来の高水準に到達した他、この日正午前(米国東部時間)には1バレル当たり80.85ドルに到達する場面も見られた。
そして、世界石油市場安定化のために、サウジアラビアは2024年1~3月に実施中の自主的な減産を6月末まで延長(それ以降は市場の状況によっては漸進的に減産を縮小)する旨3月3日夜(現地時間)に国営サウジ通信が報じた他、他のOPECプラス産油国も2024年第1四半期に実施中の自主的な減産をほぼ同水準の規模で第2四半期末まで延長したうえ、ロシアが4月につき2023年12月比で日量35万バレル、5月につき同40万バレル、6月につき同47.1万バレルの、それぞれ自主的な減産(別途2023年12月比で4月につき日量12.1万バレル、5月につき日量7.1万バレル、それぞれ輸出削減)を実施(それ以降は市場の状況によっては漸進的に減産を縮小)する旨、3月4日夜半過ぎ(同)に国営サウジ通信が報じたことにより、OPECプラス産油国の自主的な減産の規模が事実上拡大したものの、事前に報じられていた2024年末までの減産の延長は決定されなかった(加えて今回の決定も「公式な」減産ではなく「自主的な」減産にとどまった)こともあり、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生するとともに、原油相場に下方圧力が加わったことから、3月4日の原油価格の終値は1バレル当たり78.74ドルと、前週末終値比で1.23ドル下落した。また、3月5日も、この日開幕した中国全国代表大会(全人代)において、2024年の同国経済成長率を5%前後と2023年と同水準を目指す旨表明されたものの、目標達成のための具体的な方策については明らかにならなかったこともあり、市場が失望したことに加え、3月6日の米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の米国連邦議会下院金融委員会での証言を控えた持ち高調整が発生したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.59ドル下落し、終値は78.15ドルとなった。この結果原油価格は3月4~5日の2日間で1バレル当たり合計1.82ドル下落した。しかしながら、サウジアラビアの4月のアジア顧客向けアラブ・ライト原油販売価格が1バレル当たり指標原油価格(ドバイ原油とオマーン原油のスポット価格の平均値)プラス1.70ドルと、3月の販売価格である同プラス1.50ドルから引き上げられた旨3月5日夕方(米国東部時間)に伝えられたことにより、一部OPECプラス産油国による自主的な減産の2024年第2四半期への延長により、サウジアラビアがこの先の石油需給の引き締まりを見込んでいるとの観測が市場で増大したことに加え、3月6日にEIAから発表された米国石油統計(3月1日の週分)において、原油在庫が前週比130万バレルの増加と、市場の事前予想(同210万バレル程度の増加)ほど増加していなかった他、ガソリン在庫が同446万バレル、留出油在庫が同413万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(ガソリン在庫同160万バレル程度、留出油在庫同70万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、政策金利引き下げを実施するには、物価上昇の沈静化定着についてのさらなる確信が必要であるものの、2024年末までには当該引き下げを開始することになろう旨認識していると3月6日にFRBのパウエル議長が米国連邦議会下院金融委員会において証言したことにより、同国金融当局による年内の政策金利引き下げ期待が市場で増大するとともに、同国経済回復と石油需要の伸びの加速観測が市場で増大したことから、3月6日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.98ドル上昇し、終値は79.13ドルとなった。それでも、3月7日には、3月6日の原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、この先の夏場を含めた石油需要や予想外の油田の生産停止を巡る状況にもよるが、2024年の石油市場は比較的良好に供給されるものと考えており、OPECプラス産油国による最近の自主的な減産延長にもかかわらず需要の伸びは供給によって満たされるため石油市場は比較的穏健なものとなると認識している旨、国際エネルギー機関(IEA)のボソニ(Bosoni)石油産業・市場課長が3月7日に発言したことにより、この先の石油需給の引き締まり懸念が市場で後退したこと、3月7日に中国税関総署から発表された2024年1~2月の同国原油輸入が8,831万トン(推定日量1,077万バレル)と2023年12月の4,836万トン(同1,142万バレル)から日量ベースで減少している旨判明したことにより、同国石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.93ドルと前日終値比で0.20ドル下落した。また、3月8日も、この日米国労働省から発表された同国雇用統計で2月の非農業部門雇用者数が前月比で27.5万人の増加と市場の事前予想(同20.0万人の増加)を上回ったことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.92ドル下落し、終値は78.01ドルとなった。この結果原油価格は3月7~8日の2日間で1バレル当たり合計1.12ドル下落した。
3月11日には、3月12日にOPECから発表される予定である月刊オイル・マーケット・レポート、同日EIAから発表される予定である短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)、さらに同日米国労働省から発表される予定である2月の同国消費者物価指数(CPI)、及び3月14日に国際エネルギー機関(IEA)から発表される予定であるオイル・マーケット・レポートを控えた持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.08ドル下落にとどまり、終値は77.93ドルとなった。また、3月12日には、この日OPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートにおいて、2月のイラクの原油生産量が日量420万バレルと、同国の原油生産目標(自主的な減産を含む)である同400万バレルを超過している旨判明したことにより、OPECプラス産油国による減産遵守に対し懐疑的な見方が市場で発生したことに加え、3月12日にEIAから発表された短期エネルギー見通しにおいて、EIAが2024年の米国原油生産の前年比での増加量を日量26万バレルと、2月6日に発表された前回見通し時の同17万バレルから上方修正したことにより、世界石油需給の相対的な緩和感を市場が意識したこと、3月12日に米国労働省から発表された2月の同国コアCPI(食料及びエネルギーを除く)が前年同月比3.8%の上昇と市場の事前予想(同3.7%の上昇)を上回ったことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり77.56ドルと前日終値比で0.37ドル下落した。しかしながら3月13日には、この日ロシアのリャザン(Ryazan)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量34万バレル)及びノボシャフチンスク(Novoshakhtinsk)製油所(操業者:ノボシャフチンスク石油精製(Novoshakhtinsk Refinery)、原油精製処理能力日量11万バレル)が、ウクライナ保安局が発射した無人機により攻撃された結果、火災が発生するなどして操業を停止した旨3月13日に報じられる(その後ノボシャフチンスク製油所については操業を再開した旨3月13日に伝えられる)など、ロシアにおいて2日連続で製油所が攻撃を受けたことにより、ロシアからの石油供給混乱を巡る懸念が市場で増大したことに加え、3月13日にEIAから発表された米国石油統計(3月8日の週分)において、原油在庫が前週比154万バレル、ガソリン在庫が同566万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫同100~130万バレル程度の増加、ガソリン在庫同190~220万バレル程度の減少)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識するとともに、米国ガソリン先物相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.16ドル上昇し、終値は79.72ドルとなった。また、3月14日も、この日IEAから発表されたオイル・マーケット・レポートにおいて、IEAが2024年の世界石油需要を日量19万バレル上方修正(同年の世界石油需要の前年比での伸びは同11万バレル上方修正)した結果、OPECプラス産油国が2024年末まで自主的なものを含め減産を継続する場合、従来見込んでいた供給過剰から若干ながらではあるが供給不足に転じるものと見られる旨示唆したことにより、この先の石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり81.26ドルと前日終値比で1.54ドル上昇した他、この日の終値は2023年11月2日(この日の終値は同82.46ドル)以来の高水準に到達した。また、この結果原油価格は3月13~14日の2日間で1バレル当たり合計3.70ドル上昇の上昇となった。ただ、3月15日は、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり81.04ドルと前日終値比で0.22ドル下落している。
3. 原油市場における主な注目点等
イスラム諸国等における断食月(ラマダン)が開始される3月10日までにパレスチナ自治区ガザ地区におけるイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での休戦を開始するべく、3月3日にエジプトの首都カイロで関係者間の協議が行なわれることとなったが、ハマスが人質名簿の提供を拒否したとしてイスラエルは交渉団の派遣しなかった旨3月4日に明らかになった。このため、イスラエルの交渉団が欠席したまま、ハマス、カタール及びエジプトの交渉団が協議を開始した。他方、別途3月5日に米国のブリンケン国務長官はイスラエルのガンツ前国防相と休戦につき協議した。それでも、カイロで実施されていた協議は3月7日時点で妥結せず、交渉は一旦中断する格好となった他、米国のバイデン大統領は3月10日までの休戦実施は困難になりつつある旨3月8日に明らかにした。そして、イスラエルとハマスとの間での休戦合意がなされないまま3月10日にラマダンに突入するとともに、イスラエルがラマダン期間中において治安上の理由で聖地(アルバサ・モスク)での礼拝を制限する旨2月19日に発表したこともあり、イスラエルとパレスチナ人等との間での衝突の可能性に対する懸念が市場で発生した。
他方、紅海を航行中の小型貨物船「ルビーマール(Rubymar)」(ベリーズ船籍、英国登録船舶)が2月18日に2発の対艦弾道ミサイルによる攻撃を受けたことにより、乗組員が避難(同日イエメンのフーシ派武装勢力が英国の船舶を攻撃した旨主張)した他、ルビーマールは沈没しつつある旨3月2日に報じられるとともに3月3日にフーシ派武装勢力は英国船を攻撃し続ける旨表明した。また、イエメンの海域を航行する際にはフーシ派海事当局による事前許可の取得が必要になる旨3月4日にフーシ派武装勢力が明らかにした。さらに、3月6日に紅海を航行中の商業船舶がイエメンのフーシ派武装勢力による攻撃を受けた結果、乗組員3人が死亡した(フーシ派武装勢力による船舶攻撃で初めて死亡者が発生したとされる)。
このように、パレスチナ自治区ガザ地区を巡る休戦は当初事実上の目標とされたラマダン開始には間に合わず、依然としてイスラエルとハマスとの間での戦闘は継続するなど、中東を巡る情勢が安定化する兆しは見えない。このため、イスラエルとその同盟国を敵視するフーシ派武装勢力も船舶を攻撃等し続ける他、最近では死亡者が発生する事例も見られることから、従来紅海及びスエズ運河を経由して太平洋圏から大西洋圏へ、そして大西洋圏から太平洋圏へと石油等を輸送していたタンカーを含む船舶は、引き続き紅海及びスエズ運河を迂回し喜望峰を経由して石油等を輸送するものと考えられる。紅海及びスエズ運河を経由するよりも喜望峰を経由した方がより長期の輸送を強いられることもあり、傭船料や燃料費と言った輸送コストが上昇することから、紅海及びスエズ運河を経由した場合に比べ大西洋圏と太平洋圏との間での石油等の輸送が円滑に行なわれにくくなる。結果として、大西洋圏及び太平洋圏での石油需給バランスの平準化が進みづらくなることにより、地域的な石油製品及び原油価格の上昇(もしくは下落)が発生する可能性がある。
また、イスラエルとハマスの対立がさらに強まるとともに、イスラエル、イスラエルを支援する米国、及びイスラエルとの外交関係の改善に向かいつつあったサウジアラビアと、ハマス、ハマスを支援するとされるイラン、同じくイランが支援するとされるレバノンの武装勢力ヒズボラ、イエメンのフーシ派武装勢力、及びイラクやシリア等を拠点とする他の親イラン武装勢力等との間での対立が先鋭化することにより、2023年3月10日に発表されたサウジアラビアとイランとの間での外交関係正常化の合意(サウジアラビアが2016年1月2日にテロ行為に関与した等の理由によりイスラム教シーア派指導者ニムル師の処刑を執行したことに対し、イランでデモ隊が抗議行動として在テヘランサウジアラビア大使館を襲撃したことから両国は2016年1月3日以降断交状態となっていた)後、それまでサウジアラビアが支援するハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で内戦状態となっていたイエメンにおいて両勢力間での和平の機運が相対的に高まりつつあったものの、再びハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で内戦状態に戻るとともに、フーシ派武装勢力によりサウジアラビアの石油関連施設へミサイルや無人機が発射される等する結果、サウジアラビアからの石油供給に支障が発生したり、紅海のみならずペルシャ湾等他の地域においてタンカーを含む船舶が拿捕されたり、もしくは攻撃を受けたりすることにより、中東産油国等からの石油供給を巡る懸念が一層拡大したり、さらにはイランがホルムズ海峡(2023年前半時点で原油及びコンデンセート日量1,470万バレル、石油製品同580万バレル、合計同2,050万バレル相当分の石油を積載したタンカーが通過する)を封鎖したりする結果、相当量の石油供給が途絶する恐れがあるとの懸念が増大したりする(カーグ島を含めイランの主力石油積出港はホルムズ海峡内のペルシャ湾岸地帯に位置することもあり、イランが同海峡を封鎖する確率は高くないものと認識されてはいるが、実際に封鎖された場合世界石油需要の20%程度が影響を受けるなどするため、市場では懸念が発生しやすい)ことにより、原油相場に上方圧力が加わる可能性があるので、注意し続ける必要があろう。
また、2024年1月21日未明(現地時間)にロシア西部レニングラード州のウスチルガ(Ust-Luga)にある同国天然ガス会社ノバテックのコンデンセート分離装置において火災が発生した(無人機の攻撃によるものである旨ウクライナ報道機関が報じている)こともあり、近隣の輸出ターミナル(日量68万バレル程度のロシア産及びカザフスタン産原油を輸出しているとされる)からの原油輸出が一時停止した(その後1月22日昼頃(同)に輸出は再開された他、2月11日にコンデンセート分離装置が操業を再開した旨伝えられる)。また、3月12日には、少なくとも9発のミサイルと25機の無人攻撃機がロシア各地を攻撃したとロシア国防省が発表、同国西部ニジニー・ノブゴロド州のノルシ(Norsi)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理量32万バレル)及び同国西部レニングラード州キリシ(Kirishi)製油所(操業者スルグトネフチガス(Surgutneftegaz)、原油精製処理量36万バレル)が標的にされたものと見られ、うちノルシ製油所では火災が発生するなど被害が深刻である(同製油所は操業を停止、なお、キリシ製油所は被害無しとされる)旨同日伝えられた。さらに、3月13日には、ロシア西部リャザン州のリャザン(Ryazan)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量34万バレル)及び同国南西部ロストフ州のノボシャフチンスク(Novoshakhtinsk)製油所(操業者:ノボシャフチンスク石油精製(Novoshakhtinsk Refinery)、原油精製処理能力日量11万バレル)が、ウクライナ保安局が発射した無人機により攻撃された結果、火災が発生するなどして操業を停止した旨3月13日に報じられる(なお、その後ノボシャフチンスク製油所については操業を再開した旨3月13日に伝えられる)など、ロシアにおいて2日連続で製油所が攻撃を受けた。このようなこともあり、製油所の予定外のメンテナンス作業実施(ウクライナによるものと見られるロシア製油所等の攻撃を指しているものと思われる)により、2024年2月のロシアの海上輸送経由等での石油製品輸出が前月比で1.5%減少の994.3万トン(推定日量252万バレル)となる旨ロイター通信が3月14日に報じた(ただ、製油所の予定外のメンテナンス作業実施により、ロシア産原油の輸出が増加する旨3月14日のロシアエネルギー省のソロキン(Sorokin)第1副大臣が発言している)。さらに、3月15日(未明(現地時間)とされる)にはロシア西部のカルーガ(Kaluga)州ピェルヴィ・ザヴォト(Pervyy Zavod)製油所(民間石油会社による操業とされ、原油精製処理能力は日量2.4万バレル)がウクライナ国防省により発射された無人機による攻撃を受けた結果損傷した旨3月15日に伝えられた。加えて、3月16日には、ロシア南西部サマラ州にあるシズラニ(Syzran)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量17万バレル)及び同州のノボクイビシェフスキー(Novokuibyshevsky)製油所(操業者:同、同推定日量17万バレル)をウクライナが攻撃した結果シズラニ製油所で火災が発生した旨報じられる(ノボクイビシェフスキー製油所への攻撃は阻止された他、ウクライナ軍はサマラ州にあるクイビシェフスキー(Kuibyshevsky)製油所(操業者:同、同推定日量14万バレル)を攻撃した旨主張したが、同製油所は攻撃を受けていない旨ロシア報道機関は伝えている)。そして、ロシア南部クラスノダール地方にあるスラビャンスク(Slavyansk)製油所(操業者:スラビャンスクECO、同推定日量17万バレル)にウクライナから発射された無人機が飛来、迎撃されたものの落下した残骸により同製油所で火災が発生した旨3月17日に報じられる。このように、ロシアにおいては、ウクライナによるものと見られる攻撃により複数の製油所等が被害を受けた結果、同国からの石油製品供給に支障が発生する状況となっている。今後も、ウクライナ等によるロシアの製油所等への攻撃が行なわれる可能性があることにより、それら製油所等における石油製品の製造に支障が発生する結果、ロシアからの石油製品供給が減少したり、ロシアからのガソリン輸入が増加したりする(夏場等に向けた同国のガソリン需要増加見込みに伴いガソリン輸出を3月1日より6ヶ月間に渡り禁止する旨2月27日に報じられた他、2月29日にはロシア政府もガソリン輸出禁止策の実施を認めていた)ことにより、大西洋圏等の石油製品需給(また、ロシア産ナフサ等はアジアにまで輸出されているため、石油製品によっては太平洋圏の石油製品需給)を引き締める方向で作用する結果、欧米諸国及びアジアの製油所の春場のメンテナンス作業実施や装置不具合発生等による石油製品製造活動の不活発化と相俟って、石油製品価格が上昇する結果、原油相場にも上方圧力が加わる場面が見られることもありうるので、注意する必要があろう。
経済面では、米国金融政策が石油市場関係者の心理に影響を及ぼす結果原油相場を左右する場面が見られる可能性がある。2024年1月の同国消費者信頼感指数(CPI)が依然高いなど、物価上昇圧力が強いとの懸念を米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が表明した旨2月21日に伝えられた他、2月21日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事も政策金利引き下げは足元の経済指標類からは正当化できない旨明らかにした。また、FRBの次の行動としては2024年末までにおける政策金利引き下げになるであろう旨2月22日に米国フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁は2月22日に明らかにしたが、政策金利引き下げ決定前に数ヶ月に渡り経済指標類等を検討する必要があるとして早急な利下げについては否定的である旨示唆するとともに具体的な利下げ開始時は特定しなかった。さらに、政策金利引き上げ開始前に米国の物価上昇沈静化につき経済指標類に基づきより確信を持てるようになっていることが必要である旨FRBのクック理事が2月22日に明らかにした他、米国物価上昇の沈静化を確認するために最低でも2ヶ月間は政策金利引き下げの決断を行うべきではない旨2月22日にFRBのウォラー理事が明らかにした旨同日夜(米国東部時間)に報じられた。加えて、米国政策金利引き下げ決断のためには今後の経済指標類を慎重に検討していく必要があり、現時点では政策金利引き下げを判断するには時期尚早である旨、2月27日にFRBのボウマン理事が発言したうえ、2月28日には、米国物価上昇の沈静化には長期間を要する旨米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が明らかにしたと伝えられた他、米国物価上昇目標達成を困難にするような兆候が依然見られる旨2月28日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした。そして、2月29日に米国商務省から発表された2024年1月の同国コア個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)価格指数(食料及びエネルギー除く)が前月比で0.42%の上昇と2023年1月(この月は同0.36%の上昇)以来の大幅な上昇となったことを受け、米国金融当局関係者は依然同国物価上昇沈静化に向け取り組む必要がある旨2月29日に米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が明らかにした他、米国物価上昇は沈静化しつつあるものの目標を達成するにはなお時間を要すると認識しており、物価上昇沈静化を示すさらなる証拠を求めたい旨3月1日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が発言したうえ、ボスティック総裁は、第1回目の政策金利引き下げ実施した後の次の回のFOMCでは、当該引き下げの米国経済への影響を精査するため、追加の政策金利引き下げは見送ることになるであろう旨、3月4日に明らかにした。ただ、政策金利引き下げ実施のためには、物価上昇の沈静化定着についてのさらなる確信が必要であるものの、それはそう遠くない時期に得られるものと予想しており、2024年末までには当該引き下げを開始することになろう旨認識していると3月6日にFRBのパウエル議長が米国連邦議会下院金融委員会において証言した。さらに、2024年末までに政策金利引き下げが行われるものと予想はしているものの、その前に米国の物価上昇がさらに沈静化している証拠を目にする必要がある旨クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が認識していると3月7日に報じられた他、現時点では政策金利引き下げ実施には時期尚早であり、経済指標類の内容等次第では政策金利引き上げを実施する可能性がある旨3月7日に米国のボウマンFRB理事が明らかにした。また、2024年末までに政策金利引き下げが実施されるとは見込んでいるものの、引き続き米国物価上昇の沈静化に向けた努力を続ける必要がある旨3月8日にシカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。このように、現時点では、経済指標類等により米国の物価上昇が沈静化している旨確信を持てた段階で政策金利引き下げを実施するとの姿勢を示す米国金融当局関係者が主流であるが、2024年末までには政策金利引き下げが実施される可能性があることを示唆する関係者もいることから、そう遠くない時期に政策金利引き下げが実施される結果、米国等の経済成長が加速するとともに石油需要の伸びが拡大するとの期待感が市場関係者間で根強く存在しており、これが原油相場を下支えする格好となっている。3月19~20日には次回米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される予定であるが、同FOMCにおいては、政策金利は据え置きとされる可能性が高い(3月16日時点で政策金利が据え置かれる確率は98.0%であると見られている)が、2024年6月11日~12日に開催される予定であるFOMCにおいては0.25%の政策金利引き下げを決定する確率が3月16日時点で55.2%に達しており、市場関係者の同国金融当局による政策金利引き下げ観測が根強いことが示唆されている。今後も米国金融当局関係者による発言によっては、政策金利引き下げ期待が市場で後退することにより原油相場に下方圧力が加わる場面が見られることもありえようが、米国経済減速を示唆する指標類等をきっかけとして市場関係者による政策金利引き下げ期待が高まることが米ドルを押し下げるとともに原油相場に上方圧力を加える方向で作用する可能性がある。
また、4月に入ると米国主要企業等の2024年1~3月等の業績等が発表される予定であるので、それら業績もしくは2023年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼすこともありうる。
また、中国の経済及び石油関連指標類にも市場が注目し続けうるものと考えられる。3月1日に中国国家統計局から発表された2月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.1と1月の49.2から低下、市場の事前予想(49.0~49.1)の一部は上回ったものの、5ヶ月連続で50を下回った一方、2月の同国非製造業PMIは51.4と1月の50.7から上昇した他、市場の事前予想(50.6~50.7)を上回ったうえ、同日中国独立系報道機関財新伝媒から発表された2月の同国製造業PMIは50.9と1月の50.8から上昇、2023年8月(この時は51.0)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(50.6)を上回るなど、足元の中国の景況感はまちまちであった。また、3月7日に中国税関総署から発表された2024年1~2月の同国原油輸入は8,831万トン(推定日量1,077万バレル)と2023年12月の4,836万トン(同1,142万バレル)から日量ベースで減少している旨判明した。ただ、3月7日に中国税関総署から発表された2024年1~2月の同国輸出(米ドル建)は前年同月比7.1%、輸入(同)は同3.5%の、それぞれ増加と市場の事前予想(輸出同1.9%、輸入同1.5~2.0%の、それぞれ増加)を上回った。また、3月9日に中国国家統計局から発表された2月の同国CPIが前年同月比0.7%の上昇と2023年3月(この時は同0.7%の上昇)以来の大幅上昇となった他、市場の事前予想(同0.3%の上昇)を上回った(但し、CPIの上昇は2024年の旧正月に伴う休暇時期(2月10~17日)が2023年の休暇時期(1月21~27日)よりも遅かったことに伴うものであり一時的なものとなる可能性があるとの見方が市場で発生した)。それでも、同月の同国生産者物価指数(PPI)は同2.7%の下落と17ヶ月連続で下落となった他市場の事前予想(同2.5%の下落)を上回って下落している旨判明した。他方、2月20日に中国人民銀行(中央銀行)から発表された5年物融資主要金利は3.95%と1月20日の前回発表時から0.25%引き下げと、2023年6月以来の引き下げとなった他、市場の事前予想(0.05~0.15%の引き下げ)を上回って引き下げられていた旨判明した。ただ、3月5日に開幕した中国全国代表大会(全人代)において、2024年の同国経済成長率が5%前後と2023年と同水準を目指す旨表明されたものの、目標達成のための具体的な方策については明らかにならなかった他、その後も積極的な大規模景気刺激策については具体的な言及がないまま3月11日に全人代は終了した。そして、2022年終盤以降の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の緩和による、経済回復効果が一巡する他、新エネルギー自動車の導入により2024年の中国の石油需要の伸びは前年比1%増加の7.64億トン(推定日量1,530万バレル)にとどまる(この伸びは新型コロナウイルス感染流行時を除けば約10年ぶりの低水準の増加率であるとされ、中国石油需要は低成長期に突入したとされる)旨中国国営石油会社中国石油天然ガス総公司(CNPC)経済術研究院が2月28日に明らかにしている。このように、中国経済指標類は同国経済が安定して回復することを必ずしも示していない他、中国政府等も景気刺激策等の類の実施を表明する場面は見られるものの、必ずしも経済の浮揚を狙うような大規模なものを実施するとは示唆されておらず、このため同国石油需要の伸びが拡大するとの期待も市場で盛り上がらない状態となっている。今後も、同国政府等から大規模な景気刺激策実施に対する毅然とした姿勢とともに具体的な施策が表明されないようであれば、中国経済回復と石油重要の伸びの加速に対する観測が市場で発生されにくくなることから、この面では原油相場に上方圧力を加え続けるといった展開にはなりづらいものと考えられる。そのような中で、同国から発表される経済指標類等に原油価格が左右される他、不振が続く不動産開発業界において、さらに状況が悪化するような情報が流れるようであれば、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がるとともに、原油相場に下方圧力を加える場面が見られることも想定されよう。
米国では、3月に入り、最終消費段階では夏場のドライブシーズン(2024年は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月27日)に伴う連休(5月25~27日)から労働者の日(レイバー・デー)(9月2日)に伴う連休(8月31日~9月2日)まで)に伴うガソリン需要期到来にはまだ早いとの認識が強いが、製油所の段階では夏場のガソリン需要期が視野に入り始めるとともに、製油所の春場のメンテナンス作業も峠を越えるとともに稼働を上昇、原油精製処理活動を増進するとともに原油購入を活発化するようになるものと考えられる。このため、季節的なガソリン需給の引き締まり観測が市場で強まるとともに、ガソリン先物価格が上昇しやすくなる他、原油相場にも上方圧力が加わりやすくなるものと思われる。他方、米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなお若干は継続する(米国の暖房シーズンは概ね11月1日~翌年3月31日である)ことから、例えば米国の暖房用石油製品需要の中心地である同国北東部の気温が平年を割り込んで低下したり、低下するとの予報が発表されたりすれば、暖房用石油製品需要の増加観測と需給引き締まり感が市場で意識される結果、暖房油等の石油製品とともに原油の価格が上昇する場面が見られることもありうる。
3月3日夜(現地時間)には、世界石油市場安定化のためサウジアラビアは2024年1~3月に実施中の自主的な減産を6月末まで延長(それ以降は市場の状況によっては漸進的に減産を縮小)する旨国営サウジ通信が報じた他、他のOPECプラス産油国も2024年第1四半期に実施中の自主的な減産をほぼ同水準の規模で第2四半期末まで延長したうえ、ロシアが2023年12月比で4月につき日量35万バレル(別途同時期原油輸出同12.1万バレル削減)、5月につき同40万バレル(同7.1万バレル削減)、6月につき同47.1万バレルの、それぞれ自主的な減産を実施(それ以降は市場の状況によって漸進的に減産を縮小)する旨、3月4日夜半過ぎ(同)に国営サウジ通信が報じた(表1参照)。OPECプラス産油国は2月1日に共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)をテレビ会議形式で開催し、現行の原油生産方針(公式及び自主的な事実上の原油生産目標)を現状維持とする旨事実上決定、次回JMMCを4月3日に開催するとしたが、2024年4月以降の原油生産目標については、次回のJMMC開催を待たずに3月(第1週(3月4日の週と見られる)とされた)に決定する旨2月1日に伝えられていた。4月3日に開催される次回のJMMCにおいて4月以降の原油生産目標を協議しても、減産参加各産油国の原油生産調整に対する準備が間に合わないため、協議を3月に繰り上げて実施することにした他、現在実施中の一部OPECプラス産油国による自主的な減産を2024年3月末で終了した場合、2024年第2四半期以降は供給が需要を日量105~162万バレル程度上回るなど供給過剰となるものと見られる(表2参照)結果原油相場に下方圧力が加わりやすくなることから、原油価格を維持するため減産を延長したものと考えられる。また、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合(2023年11月30日開催)において、ロシアが(他の一部産油国と異なり自主的な追加減産ではなく)自主的な石油輸出削減を実施することになったことについては、ロシアに対しては(追加)減産の実施を希望していたものの、特に冬場においては同国の原油生産調整が容易ではない旨ロシアが主張し続けたことにより、減産を受け入れさせることが困難であった旨2023年12月4日にサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が明らかにしていた。ただ、第2四半期においては冬場が終了しているので、ロシアにとって原油生産調整実施もより容易になる他、他のOPECプラス産油国との間での強固な結束を示すためにも、ロシアは原油輸出の削減の代わりに原油生産の削減を今般表明したものと考えられる。ロシアが自主的な追加減産を明らかにしたことに伴い、OPECプラス産油国全体としても自主的な減産の規模が事実上拡大した(この結果2024年第2四半期は多少なりとも供給不足になるものと予想される、表3参照、なお現時点の2024年世界石油需給バランスシナリオは表4参照)ものの、従来検討されている旨2月27日に報じられていた2024年末までの減産の延長は決定されなかった(加えて今回の決定も「公式な」減産ではなく「自主的な」減産にとどまった)ことから、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生するとともに、3月4日の原油相場に下方圧力が加わった結果、この日の原油価格は前週末終値比で下落した。前回のOPECプラス産油国閣僚級会合において公式な減産措置の実施に反対したアンゴラがその後OPECを脱退した(12月21日にアンゴラが表明した)ことにより、公式な減産措置の実施が相対的に容易になったと見られたにもかかわらず、今般2024年第2四半期末に向けてもOPECプラス産油国が「自主的に」減産措置を延長する旨の決定にとどまったことで、アンゴラが脱退してもなお、OPECプラス産油国間において、公式な減産措置の実施を巡り意見の相違が解消されていないなど足並みが乱れているとの印象を市場に与える格好となった他、引き続き「自主的な」減産措置が実施されることにより、減産目標が努力目標扱いとなることにより、減産遵守が不徹底となるとの見方が市場で発生しやすくなる。特に現在OPECプラス産油国の中では、少なくともイラクとカザフスタンの減産が遵守されていない状況であるとされる。両国は1月の原油生産目標を超過した部分につき、目標を達成すべく2月以降生産を調整させる旨発表した(イラクは2月15日に、カザフスタンは2月14日に、それぞれ発表した)。ただ、2月についても、イラクとカザフスタンは依然減産遵守が不徹底な状況が続いている(表5参照)。このため、今後の遵守状況にもよるが、減産措置に対するOPECプラス産油国の遵守状況を巡り懐疑的な見方が市場で増大するとともに、原油相場に影響が及ぶといった展開となることも否定できない。また、次回JMMCは4月3日に開催される予定であるが、原油価格が大幅に下落し1バレル当たり70ドルを割り込んだままとなるか、同70ドルをそれなりに上回ってはいるものの、70ドル方向に向け下落が加速する兆候が見られるといった状況等でなければ、同JMMCにおいては6月末までの自主的な減産措置の延長方針に変更が見られる可能性はそれほど高くはないものと見られる(むしろ6月1日に開催が予定される次回OPECプラス産油国閣僚級会合において7月以降の減産方針を決定するものと考えられる)。
全体としては、この先夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が市場関係者の視野に入り始めるとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で醸成されることを通じ、ガソリン及び原油相場に対し上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。また、中東情勢の不安定化やウクライナによるものと見られるロシア石油関連インフラに対する攻撃に伴う中東及びロシア地域からの石油供給途絶懸念が、原油相場を下支えしたり、上方圧力を加えたりしやすいものと考えられる。さらに、米国金融当局によるそう遠くない時期における政策金利引き下げ開始に対する期待も、米国等の経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待を市場で増大させる結果、原油相場を支持する方向で作用する可能性があるものと思われる。そのような中で、中国における景気刺激策や不動産開発業界の動向、及び経済指標類の内容等が原油価格を左右しうるものと考えられる。
4. 世界石油市場における石油製品と原油との価格差を巡る一考察(軽油及びジェット燃料)
2020年以降の新型コロナウイルス感染流行に加え2022年2月24日以降のロシアによるウクライナへの事実上の侵攻は世界の石油製品価格にも大きな影響を与えた。ここでは、特に2022年から現在に至るまでの期間を中心とした、軽油(もしくは暖房油)及びジェット燃料(灯油)の価格動向等について主に考察を加えることとしたい(但し背景として必要な場合には2022年以前の期間における動向についても適宜言及することとする)が、特に石油製品価格はその原料となる原油価格に左右される面も強いため、石油製品製造利幅の指標と見做されるところの、石油製品と原油との価格差(そしてこの場合、世界の精製の中心である米国(ニューヨークもしくはメキシコ湾岸)、欧州(ロッテルダム)、アジア、(シンガポール)の各地域における石油製品と原油との価格差)を中心に説明することとしたい。なお、原油価格は米国がWTI、欧州がブレント、シンガポールがドバイを、それぞれ使用しているため、WTIの価格が、原油の流動性が限定されやすい米国内陸部に位置するオクラホマ州クッシングの石油需給を反映しやすい関係上、ブレント及びドバイの各価格に対して割安になりやすい分、米国の石油製品と原油との価格差が欧州及びシンガポールのそれに比べ拡大しやすい点に留意されたい。
軽油(図16参照、なお、ここでの分析に使用した軽油の硫黄含有率は米国が15ppm、欧州が10ppm、シンガポールが50ppmであるため、品質の差異が価格に反映されている側面もあることに注意が必要である)については、2020年以降の新型コロナウイルス感染の流行に伴い個人の外出が不活発化した結果需要に相当程度の影響を与えたガソリンと異なり、製造及び物流両部門で消費される軽油需要が感染拡大による経済活動制限等の影響を受けなかったわけではなかったものの、それまで実店舗で物品を購入していた消費者が電子取引(EC)を経由して物品を購入する方式に切り替えたことにより、消費者の購買活動が極度に低下したわけでもなかったことから、製造部門や物流部門での軽油の影響はガソリンよりも限られたものであった。従って、この面では軽油価格への下方圧力はガソリン価格に比べ強いものではなかった。しかしながら、2020年の新型コロナウイルス流行拡大時から2022年のロシアのウクライナへの事実上侵攻開始までの期間、一部を除き、軽油と原油との価格差が、ガソリンと原油との価格差を下回る場面がしばしば見られた。これは軽油需要を巡る要因というよりは、軽油の供給を巡る要因によるものの方が大きいと考えられる。そして軽油供給に影響を与えたのが、ジェット燃料の需給である。新型コロナウイルス感染拡大によりジェット燃料の需要が大幅に減少した(後述)。そしてジェット燃料は軽油と類似した品質であったことから、製油所等では、需給が大幅に緩和したジェット燃料の製造を削減する一方で軽油の製造を拡大する場面が見られた。この結果、かえって軽油需給が緩和した他、ジェット燃料の需給緩和が継続する限り軽油の需給緩和も継続するとの観測が市場で広がったことが、軽油価格を抑制する形で作用したことにより、軽油と原油との価格差が圧迫されることとなった。ただ、2022年2月24日のロシアのウクライナへの事実上の侵攻開始以降、ロシアから欧州への原油及び軽油の供給が低迷するのではないかとの懸念が市場で増大した(米国において主に消費される石油製品はガソリンであったのに対し、ディーゼル・エンジンで駆動する乗用車の普及が進んでいた欧州において主に消費される石油製品は軽油であったこともあり、ウクライナへの侵攻前はロシアが欧州にとって主要な原油及び軽油の供給源の一つとなっていた)ことや、特に世界最大の石油消費国である米国を初めとして夏場のドライブシーズンに向け欧州以外の世界各国及び地域の製油所では一般的にガソリンが重点的に製造された結果軽油の製造が劣後する格好となったことにより、軽油需給の引き締まり感が強まったこともあり、2022年3月以降は世界的に軽油と原油との価格差が大幅に拡大した。そしてそれは、夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期を控えた同年6月にピークを迎えたが、その後軽油価格の高騰により需要が抑制されたものと見られることや、欧州における夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期が峠を越え始めたことにより、7~9月には同地域の軽油と原油との価格差は縮小し始めた。しかしながら、2022年12月5日にロシア産原油、2023年2月5日にはロシア産石油製品の、海上経由の輸入を、それぞれ原則禁止することを内容とする制裁がEUにより実施されることを控え、2022年9月22日以降フランスで給与水準引き上げ等の労働条件改善を要求した労働者によるストライキが拡大、同年10月4日時点で同国の原油精製能力(2021年時点で日量114万バレルとされる)の65%程度に相当する日量74万バレル程度の原油精製能力を保有する製油所の稼働が停止した(10月19日以降同国での製油所ストライキは収束に向かい始め、11月8日の同国フェイザン(Feyzin)製油所(操業者:トタル・エナジーズ、原油精製処理能力日量11万バレル)の操業再開を以て、全ての製油所でのストライキは終了したとされる)ことから、欧州の石油需要の中心である軽油の需給引き締まり感が市場で強まったこともあり、10月には欧州を中心として軽油と原油との価格差は再び拡大した。しかしながら、その後は、ロシアのウクライナ侵攻に伴い石油製品のみならず天然ガスを含め物価が上昇したことに対し欧州金融当局が政策金利引き上げで対抗した結果、欧州経済が減速傾向となったことから、産業部門における軽油需要が抑制され始めた他、2022~23年の欧州の冬の気温が極めて温暖であったことにより、暖房のための民生部門を中心とする部門における軽油需要が不振となったことが、同地域の軽油価格に下方圧力を加えた結果、軽油と原油の価格差が縮小傾向となった。そして、2022~23年の冬場が終了し2023年の夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期に向かいつつある時期に、オランダやドイツにおいて製油所の不具合とともに軽油製造に支障が発生したことに加え、同年秋の欧米諸国等での製油所のメンテナンス作業実施時期に向い始める中で、一部製油所の装置に不具合が発生したことにより、冬場の暖房のための民生部門における軽油需要期を控えた時期において製油所での石油製品製造上の支障から軽油需給の引き締まる恐れがあるとの懸念が市場で発生したことが、米国及び欧州における軽油価格に上方圧力を加えたことから、同年夏場の初めから8~9月を中心とする時期に向け欧米諸国における軽油と原油の価格差が拡大する場面が見られた。しかしながら、これにより軽油製造を巡る収益性が改善した製油所は秋場の製油所メンテナンス作業を最小限にとどめたことに加え、その後製油所のメンテナンス作業が峠を越え始めるとともに装置不具合の発生した一部製油所においても改修が進んだことに伴い、2023年10~11月においては、2023~24年の冬場に向けた軽油需給の引き締まり観測が市場で後退したことから、軽油価格に下方圧力が加わった結果、原油価格との差は縮小した。それでも、2024年1月中旬を中心として米国南部にまで厳しい寒波が来襲したことに伴う気温の低下により、テキサス州を中心とする同国メキシコ湾岸地域の一部製油所における装置に不具合が発生した結果操業が停止した。その後寒波が過ぎ去ったことに伴い気温が上昇するとともに、寒波により影響を受けた装置の稼働再開とともに、製油所の操業が回復し始めたが、併せて米国における春場の製油所メンテナンス作業が実施されつつあったことに加え、米国の一部製油所において停電等の理由により操業が停止した。このようなことから、米国の軽油・暖房油生産がもたつき気味となるとともに、当該製品在庫が減少した(同在庫は2024年1月19日以降7週連続で減少した)。また、欧州においても春場のメンテナンス作業実施時期に差し掛かりつつあったことにより、製油所の稼働が抑制された結果、軽油・暖房油等の石油製品の製造活動が不活発化する格好となった。さらに、2024年1月21日未明(現地時間)にロシアのウスチルーガ(Ust-Luga)にある同国天然ガス会社ノバテックのコンデンセート分離装置において火災が発生したこともあり、近隣の輸出ターミナル(日量68万バレル程度のロシア産及びカザフスタン産原油を輸出しているとされる)からの原油輸出が一時停止した(その後1月22日昼頃(同)に輸出は再開された他、2月11日にコンデンセート分離装置が操業を再開した旨伝えられる)が、その原因が無人機の攻撃によるものである旨ウクライナ報道機関が報じた。また、ロシア南部黒海沿岸都市トゥアプセ(Tuapse)にある製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレルとされる)に1月24日深夜から1月25日未明(現地時間)にかけ無人機(ウクライナが発射したと伝えられる)が飛来した結果火災が発生した(1月25日朝(同)に鎮火したとされるが、その後メンテナンス作業を実施する予定とされ、操業再開までに数ヶ月を要する旨2月20日に報じられる)。さらに、2月3日にウクライナの無人機がロシア南部のボルゴグラード(Volgograd)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理量日量30万バレル)に落下(ロシア側はウクライナからの無人機を迎撃したと主張)した結果、火災が発生した(但しその後鎮火し、製向かい始め業は正常通り行なわれている旨ルクオイルが表明したと2月3日に伝えられる)。加えて、ウクライナの無人機がロシア南部クラスノダール地方にあるイルスキー(Ilsky)製油所(原油精製処理能力日量13.3万バレルとされる)及びアフィプスキー(Afipsky)製油所(同12.1万バレルとされる)を攻撃した(イルスキー製油所では火災が発生した)旨2月9日に伝えられた(イルスキー製油所はメンテナンス作業実施後操業を再開したと2月21日に伝えられるが、3月16日時点でアフィプスキー製油所は操業を再開したとは報じられていない)。このように、ウクライナからのものと見られる無人機がロシアの製油所等を攻撃した結果、ロシアからの石油製品の供給に支障を来すようになった。ロシアがウクライナに事実上の侵攻を開始した2022年2月24日以降、EUを含む西側諸国等が対ロシア制裁(ロシア産原油及び石油製品の輸入禁止等)を実施した一環で、ロシア産の石油製品の欧州方面への輸出は大幅に削減されていたが、ロシア産石油製品は欧州に代わって中南米諸国やアフリカ諸国、及び中東諸国等に輸出されるようになるとともに、従来これら諸国が輸入していたロシア以外で産出される石油製品等が欧州方面に向かう格好となっていた。しかしながら、欧米諸国の製油所からの軽油・暖房油供給が製油所の春場のメンテナンス作業や装置の不具合等の影響を受ける中で、ロシアからの軽油・暖房油を含む石油製品供給減少に伴いロシアから軽油を購入していた消費国が他の軽油・暖房油供給源からの軽油調達を模索する結果、欧州との間での軽油を巡る競争が激化すると言った懸念が市場で広がった。さらに、2023年10月7日のイスラム武装勢力ハマスのイスラエルに対する攻撃実施以降の両者による戦闘状態突入に伴い11月19日以降紅海周辺を航行する船舶へのイエメンのフーシ派武装勢力の攻撃が実施されるようになったにより、中東と欧州との間で石油を輸送するタンカーが紅海及びスエズ運河経由での輸送経路を回避するようになった。ただ、紅海及びスエズ運河経由の代替経路となるはずの喜望峰経由の輸送経路については、輸送距離及び日数が拡大することに伴い、傭船料及び燃料費を含む輸送コストが上昇することもあり、紅海及びスエズ運河経由での輸送経路と比べ、大西洋圏と太平洋圏との間での石油輸送が円滑に進みにくくなった。このようなこともあり、太平洋圏から大西洋圏に向けた軽油の供給への支障に対する懸念が市場で広がった。この様な要因から、大西洋圏を中心として軽油を巡る需給引き締まり感が発生した結果、特に軽油の主要な消費地域である欧州においては2024年2月に当該製品価格が上昇した結果、原油との価格差が拡大する傾向を示した。
また、2022年2月24日のロシアのウクライナへの事実上の侵攻開始後の同年3月8日に米国がロシアからの原油を含むエネルギーの輸入停止を発表したこともあり、米国における石油需給引き締まり感が市場で発生したことから、2022年4~5月においては米国の軽油価格が欧州の軽油価格を相当程度上回る場面が見られた(図17参照)。その後2022年夏場を中心とする時期においては、両価格差は一旦縮小したものの、同年12月5日のEUによる海上輸送経由によるロシア産原油の輸入の事実上の禁止、及び冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期を控え、2022年9月に入り米国から欧州に向けた軽油輸出が活発化したことが、かえって米国の軽油在庫を減少させるとともに軽油需給の引き締まり感を市場が意識することになった結果、2022年10~11月においては米国の軽油価格が欧州のそれを上回る幅が拡大する場面が見られた。また、2022年12月は下旬を中心として大寒波「エリオット(Elliott)」がテキサス州にまで南下するなど気温が相当程度低下した影響もあり、一部製油所の装置における不具合発生に伴い稼働が低下したことにより、軽油の製造に支障が発生するとともに、米国の軽油在庫が減少したことを受け、同月の米国軽油価格が欧州のそれを上回る幅が拡大する場面が見られた。しかしながら、夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期が視野に入り始めた2023年2月以降はその幅が縮小し始めたうえ、同年5~7月は夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期が意識された欧州の軽油価格が米国の軽油価格を上回る状態となった。それでも、欧州における夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期の終了が視野に入り始めた2023年8月以降は欧州の軽油価格に下方圧力が加わった他、米国においては秋場の製油所メンテナンス作業実施に加え、一部製油所においては装置に不具合が発生したこともあり、石油製品の製造活動が不活発した結果、特に冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房向け需要期の突入が意識されつつあった軽油の価格に上方圧力が加わったことにより、米国の軽油価格が欧州の軽油価格を上回る場面が見られている。それでも、ロシアの製油所等に対するウクライナによるものとみられる攻撃に加え、紅海周辺におけるイエメンのフーシ派武装勢力による船舶の攻撃に伴う船舶輸送の航海及びスエズ運河経由から喜望峰経由への迂回実施に伴う、欧州における軽油需給引き締まり感の強まりにより、2024年2月は欧州の軽油価格が米国の軽油価格を上回るようになっている。
他方、2022年2月24日のロシアによるウクライナへの事実上の侵攻開始以降、欧州における石油消費の中心となる軽油の供給に支障が発生するのではないかとの観測が市場で増大したうえ、2022年12月5日のEUによる海上輸送経由等のロシア産原油の輸入禁止及び2023年2月5日のEUによる海上輸送経由等のロシア産石油製品の輸入禁止の実施(2022年の6月3日にEUにより事実上発動された第6次対ロシア制裁に当該措置は盛り込まれていた)や、欧州における冬場の暖房用軽油需要期を控え、欧州の軽油需給の引き締まり感が市場で強まったことが同地域における軽油価格に上方圧力を加えた一方、中国の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の実施された(2022年3月28日には同国上海で都市封鎖が行なわれた)こともあり、同国の経済活動制限とともに経済活動が鈍化したことにより、同部門で消費される軽油の需要が低迷するとともに、一部がシンガポール等に輸出されたことにより、アジアでの軽油需給が緩和する格好となったことが、同地域での軽油価格に下方圧力を加えた結果、2022年10月に向け欧州の軽油価格がシンガポールの軽油価格を上回る幅は拡大傾向となった。しかしながら、その後は欧州の軽油価格が他の地域に比べて割高となったこともあり、欧州に向けた軽油の流れが活発化するとともに同地域における中間留分在庫が増加傾向となったこともあり、欧州とシンガポールの軽油価格差は縮小したうえ、2023年2~8月において価格差は概ね安定的に推移した。それでも、2023年9月以降は米国での秋場の製油所メンテナンス作業実施に加え、一部製油所においては装置に不具合が発生したこともあり、石油製品の製造活動が不活発した結果、特に冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房向け需要期の突入が意識され始めたことにより、米国の軽油価格に上方圧力が加わった影響で、米国ほどではなかったにせよ欧州でも軽油価格がそれなりに上昇したことにより、欧州の軽油価格のシンガポールの軽油価格を上回る幅は再び拡大する傾向を示した。その後欧州とシンガポールの軽油価格差は欧州での暖冬と経済活動の不振もあり、2023年12月から2024年1月にかけ縮小傾向となったが、2023年11月19日以降のイエメンのフーシ派武装勢力による紅海周辺を航行する船舶に対する攻撃の激化に伴い石油タンカー等の紅海及びスエズ運河経由での輸送が回避される一方、迂回経路となる喜望峰を経由させた場合、傭船料や燃料費等を含め輸送コストが紅海及びスエズ運河経由に比べ割高となることにより、アジアや中東を含む太平洋圏から欧州方面への円滑な軽油輸送が行われにくくなる恐れが高まるとの懸念、及びロシアの製油所等に対するウクライナと見られる攻撃によるロシアからの軽油等の石油製品の供給上の支障と大西洋圏での需給の引き締まりへの不安感の発生を反映して、欧州における軽油需給引き締まり感が醸成されるとともに同地域における軽油価格に上方圧力が加わった反面、輸送コストの上昇に伴う大西洋圏への軽油輸出の不活発化観測によりアジアにおいては軽油需給の緩和感が意識されたことが、同地域における軽油価格に下方圧力を加えた結果、2024年2月には欧州とシンガポールの軽油価格差が拡大する場面が見られている。
2020年に発生した新型コロナウイルス感染流行で最も大きな影響を受けた石油製品はジェット燃料であろう。感染拡大により世界各国及び地域は個人の外出規制に加え国及び地域外からの入国制限を強化したことにより、国内線及び国際線ともに航空旅客数が大幅に落ち込んだ(図18参照)。これがジェット燃料の需要を減退させるとともに当該製品価格に下方圧力を加えた結果、ジェット燃料と原油との価格差が縮小した(図19参照)。それでも、2020年12月8日に英国で開始されて以降新型コロナウイルスワクチン接種の普及進展とともに個人の外出規制が緩和してきたこともあり、国内線を中心として航空旅客数が回復するとともに、ジェット燃料需要が増加傾向となった他、ジェット燃料と品質が比較的近い軽油の需給も引き締まる方向に向かい始めるととともに、ジェット燃料需給の緩和感が後退したこともあり、ジェット燃料と原油との価格差も拡大し始めた。さらに、2022年2月24日のロシアのウクライナへの事実上の侵攻開始以降は、欧州を中心として軽油需給が引き締まるとの懸念が市場で強まったこともあり、欧州等の製油所は軽油を優先して製造する反面、ジェット燃料の製造が劣後する格好となったことにより、かえってジェット燃料需給の引き締まり感が強まる格好となったことが、ジェット燃料価格に上方圧力を加えた結果、ジェット燃料と原油との価格差が拡大した。ただ、2022年3月28日に中国の上海市で都市封鎖が開始されるなど、中国の複数都市における厳格な新型コロナウイルス感染抑制策実施もあり、中国を中心とする諸国等での航空機を利用した往来が低迷したものと見られることが、アジア地域のジェット燃料需要に影響を与えたことにより、特に2022年3月以降シンガポールでのジェット燃料製造利幅は欧米諸国に比べてもたつき気味となったものと考えられる。それでも、2022年11月30日に中国広東省広州市及び河南省鄭州市において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、同国では新型コロナウイルス感染に対する厳格な個人の外出規制及び経済活動制限等が事実上撤廃され始めたことに伴い、個人の外出が活発化するとともに、航空機を利用した往来も上向き始めたことにより、2023年前半を中心とする時期においてアジアのジェット燃料精製利幅は欧米諸国の当該利幅との差を縮小し始めた(また、2023年1月は米国におけるジェット燃料と原油の価格差が大幅に拡大したが、これは中国における厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の緩和による中国等と米国との間での個人の往来の活発化への期待の増大が背景にあると見る向きもある)。ただ、同時に冬場の暖房需要期が終了に向かうとともに需給緩和感が醸成された軽油の価格下落の影響を受け品質の類似するジェット燃料価格にも下方圧力が加わり始めた結果、2023年5月頃までジェット燃料と原油との価格差は縮小傾向となった。そして、その後は2024年2月に至るまでジェット燃料と原油との価格差は品質の類似した軽油と原油との価格差と概ね同様の動きを示した。ただ、同国の新型コロナウイルスの厳格な流行抑制策の事実上の撤廃直後の2023年の中国における旧正月(1月22日)に伴う休暇シーズン(1月21~27日)において盛り上がった個人の外出が一巡した後は、中国の不動産開発部門の不振もあり同国等の経済回復が不安定となったことにより、アジアの個人の外出に伴う航空機利用の回復ももたつき気味となった結果、シンガポールのジェット燃料と原油との価格差は欧米のそれに比べ低水準で推移する格好となっている。
また、欧米諸国においては、新型コロナウイルス感染が沈静化するとともに個人の外出が活発化したことに伴い航空旅客数が回復基調となったこともあり、2022年以降変動はしたものの米国と欧州のジェット燃料価格は概ね同水準で推移した(図20参照)。もっとも、2023年12月下旬を中心として米国南部に寒波「エリオット(Elliott)」が来襲した結果一部製油所の装置に不具合が発生したことに伴い、同国の石油製品製造活動に影響が発生したこともあり、2023年1月は米国においてジェット燃料を含め石油製品価格が上昇したことにより、米国のジェット燃料価格が欧州のそれを上回る幅が拡大する場面が見られた(また、中国の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の緩和に伴う中国と米国との間等での個人の往来の活発化への期待が米国市場で増大したことから米国のジェット燃料価格が2022年12月から2023年1月にかけ大幅に上昇したことにより、同期間(特に2023年1月)においては米国のジェット燃料価格が欧州(及びアジア)のジェット燃料価格を相当程度上回る場面が見られている)。他方、2022年の大半の期間において中国が新型コロナウイルス感染に対し厳格な抑制策を実施したことにより、個人の外出が低調に推移したこともあり、アジアの航空旅客数の回復がもたつき気味となったことに伴い、ジェット燃料需要が盛り上がらなかったことから、同年のアジアのジェット燃料価格は欧米諸国に比べ低水準で推移した。しかしながら2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国では、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けたことにより、個人の外出が促進されるとともに航空旅客数が回復し始めたことから、2023年は欧米諸国とアジアとの間のジェット燃料価格差は縮小傾向を示し始めた。ただ、中国においては新型コロナウイルス感染の厳格な抑制策を事実上撤廃し始めた後の旧正月の期間前後において航空機を利用した個人の往来が盛り上がったものの、その後は2024年2月にかけ航空機による往来の活発化が一巡したうえ、同国の経済回復が不安定であったこともあり、航空機による往来もその影響を受けたものと見られることから、アジアでのジェット燃料価格が欧州のジェット燃料価格を下回る幅は、新型コロナウイルス感染流行前に比べれば拡大したままとなっている。
2022年2月24日のロシアによるウクライナへの事実上の侵攻開始以降、米国を初めとする西側諸国等が石油分野等における対ロシア制裁を実施したことや、ロシア産石油を取引することに伴う西側諸国等の企業に対する「評判リスク(Reputation Risk)」発生への懸念が増大するとともに当該取引を敬遠する動きが企業間で発生したこともあり、大西洋圏において石油供給への支障に伴う石油需給引き締まり感が強まった流れの中でジェット燃料価格も上昇した。それでも本来品質が軽油よりも優れているとされるジェット燃料の価格が軽油を上回るはずのところ、欧州の石油需要の中心である軽油の需給引き締まり感が強まった反面、2022年は中国で新型コロナウイルスの厳格な抑制策が実施され続けたことにより、航空機を利用した往来が大幅に制限された他、他の地域においても新型コロナウイルス抑制策は緩和されつつあったものの、航空機を利用した往来が回復途上であったこともあり、2022年においてはジェット燃料価格が軽油価格を下回る場面がしばしば見られた(図21参照、なお、欧州においては冬場の暖房シーズンが終了するとともに暖房向けの軽油需要が落ち込んだことを反映して軽油価格が抑制された結果2022年5月にはジェット燃料価格が軽油価格をそれなりに上回る場面が見られた)。特に2022年10月前後は欧米諸国における冬場の暖房シーズンに伴う暖房向け軽油需要期突入を控える中、欧州における製油所ストライキの実施や欧米諸国等における秋場の製油所メンテナンス作業、2022年12月5日のEUによるロシア産原油輸入、及び2023年2月5日のEUによるロシア産石油製品輸入の禁止等を控え、特に軽油価格に上方圧力が強く加わったこともあり、軽油の価格がジェット燃料の価格を相当程度上回る場面が見られた。それでも、中国の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の緩和に伴う中国と米国国内の個人の往来の活発化への期待から米国のジェット燃料価格が2023年1月に大幅に上昇したことにより、同月は特に米国においてジェット燃料価格が軽油価格を大幅に上回る場面が見られた。ただ、2023年2月から2024年2月にかけては上下に変動しつつも、ジェット燃料と軽油の価格差は概ね限られた範囲内で推移するようになっている(但し米国では2023年の冬場の暖房シーズンに伴う暖房用軽油需要期を控えて、製油所の秋場のメンテナンス作業の実施や装置の不具合の発生等による操業停止に伴う軽油在庫の減少により、2023年9月から12月にかけ軽油価格がジェット燃料価格をそれなりに上回る場面が見られている)。
以上
(この報告は2024年3月18日時点のものです)