ページ番号1010112 更新日 令和6年5月7日

米国EPA、火力発電所への排出規制基準・ガイドライン公表(2024年4月)

レポート属性
レポートID 1010112
作成日 2024-05-07 00:00:00 +0900
更新日 2024-05-07 11:24:30 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 基礎情報CCS
著者
著者直接入力 那須 良
年度 2024
Vol
No
ページ数 6
抽出データ
地域1 北米
国1 米国
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
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地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 北米,米国
2024/05/07 那須 良
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概要

  • 2024年4月25日、米国環境保護庁(EPA)が、大気浄化法(Clean Air Act)に基づく、火力発電所からのCO2に関する最終基準・ガイドラインを公表した。
  • 最終基準・ガイドラインのポイントは以下の通り。新設ガス火力・ベースロード電源(稼働率40%超)施設は、2032年以降、排出CO2を90%回収。ミドル電源(稼働率20%超~40%以下)施設は、高効率タービン導入。ピーク電源(稼働率20%以下)施設は、低排出燃料使用。既設石炭火力は2039年以降も運転予定の施設は、2032年以降、CO2を90%回収。2032年以降も運転予定で2038年末までに運転停止をコミットする施設は、2030年までに天然ガスを40%混焼する。
  • 昨年5月11日に公表された原案では、「ガス火力に対して、新設・既設を問わず、CCSによる90%以上のCO2回収か、30%〜96%のクリーン水素混焼を要求する(ピーク電源を除く)とともに、既設石炭火力に対して、運転停止か、ピーク電源へのコミットか、CCSによる90%以上のCO2回収を要求する」という厳しい内容であったため、環境団体が歓迎する一方で、エネルギー業界は強く反発していた。
  • EPAはパブリックコメントやエネルギー業界等との調整を経て、本年2月29日に既設ガス火力を実質的に対象外とする方針を示した上で今回の最終基準・ガイドラインの公表に至った。
  • エネルギー業界は、既設ガス火力を実質的に対象外にしたことについては、これまでの政権への働きかけの成果と受け止めて評価しているが、新設ベースロードガス火力に2032年以降にCO2の90%回収を求めたことについては、必要なガス火力の新設が事実上困難になるケース(CO2貯留地やパイプラインが近傍にない地域など)が想定されることから懸念と失望を表明。
  • 大気浄化法に基づき、州政府は、この基準・ガイドラインに基づき、2年以内に、州の実施計画を提出する必要があるが、本年11月の選挙で共和党政権になれば、本件の撤回が見込まれるとともに(トランプ氏は「バイデンの発電所規則をキャンセルする」と選挙キャンペーンビデオで表明済み)、共和党州の州政府等からの訴訟も想定される。EPAは訴訟に備えて、今回の最終基準の正当性を証明する文書を複数公開し、小売電気料金への影響が軽微であることや、系統信頼性要件を満たすことができることをモデル分析で提示している。
  • いずれにしても、発電事業者や電力会社は、選挙結果や訴訟動向を見ながら、慎重に個々の発電所の扱いを検討していくものと思われる。

(本稿は米国EPA、火力発電所に対する新たな排出規制案公表 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009727.html(2023年5月掲載)の続報です。)

 

1. EPA、火力発電所からのCO2に関する最終基準・ガイドラインを公表

1-1. 最終基準・ガイドラインのポイント

2024年4月25日、米国環境保護庁(EPA)が、大気浄化法(Clean Air Act)に基づく、火力発電所からのCO2に関する最終基準・ガイドラインを公表した。最終基準・ガイドラインのポイントは以下の通りである。

新設ガス火力

  • 稼働率40%超のベースロード電源施設は、2032年以降、排出CO2を90%回収
  • 稼働率20%超~40%以下のミドル電源施設は、高効率タービン導入
  • 稼働率20%以下のピーク電源施設は、低排出燃料使用

 

既設石炭火力

  • 2039年以降も運転予定の施設は、2032年以降、CO2を90%回収
  • 2032年以降も運転予定で2038年末までに運転停止をコミットする施設は、2030年までに天然ガスを40%混焼
  • 2031年末までに運転停止する施設は、ルールの対象外

 

1-2. 原案(昨年5月11日公表)からの主な変更点

既設ガス・石油火力

  • 実質的に対象外。ベースロード・ミドル・ピーク毎に異なる、通常の運転・メンテナンスに基づく基準を今後策定(今回は最終規則化せず)。

 

新設ガス火力

  • ベースロード施設の定義を、稼働率50%超から稼働率40%超に拡大
  • ベースロード施設の排出CO2を90%回収する期限を2035年以降から2032年以降に前倒し
  • ベースロード・ミドル施設に適用する排出削減最良技術として、低GHG水素混焼を削除(大気浄化法における排出基準は、最良の排出削減システム(BSER: best system of emission reduction))を適用した場合に達成可能な水準に設定されなければならないとされている。低GHG水素混焼は、BSERからは削除されたが、排出基準そのものは技術中立であるため、低GHG水素混焼によって排出基準を達成することも許容される。)

 

既設石炭火力

  • 2031年末までに稼働停止する施設を適用除外。運転予定期間を踏まえた2つの区分を設定。既設の石炭火力が排出CO2を90%回収する期限を2030年以降から2032年以降に先送り。

 

概要説明資料
https://www.epa.gov/system/files/documents/2024-04/cps-presentation-final-rule-4-24-2024.pdf

関連資料一式
https://www.epa.gov/stationary-sources-air-pollution/greenhouse-gas-standards-and-guidelines-fossil-fuel-fired-power#additional-resources

 

2. ステークホルダーの反応

米国商工会議所

データセンター、AI、新規製造施設、経済の電化など、電力需要が指数関数的に増加することが毎日のように指摘される中、この規則がその需要を満たすために必要な電力供給を大幅に制限することを懸念。エネルギー転換を加速させることと、信頼できる安価な電力を供給することは、相互に排他的なものではないが、包括的な許認可改革、重要な材料や鉱物の国内生産と加工の拡大、信頼性を強化し、より多くの再エネをサポートするための天然ガスインフラの構築など、思慮深い政策が必要。我々は、政権に対して、一歩引いて、自らの長期目標を損なうことのない包括的で現実的なアプローチを開発することを求めていく。

 

エジソン電気協会(EEI)

我々は、よりクリーンな資源への移行に向けた明確かつ継続的な道筋を策定するためのEPAの取組を評価し支持する一方で、CCSに関して我々が提起した懸念にEPAが対応しなかったことに失望。CCSは、まだ本格的な経済全体への導入準備が整っておらず、2032年までの遵守に必要なCCSインフラの許可、資金調達、建設に十分な時間もない。手頃な価格で、信頼性が高く、回復力のあるクリーンエネルギーは、米国の経済安全保障にとって不可欠であり、EEIの会員が今後数年間、信頼性に関する懸念に対処するのに役立つ追加的な遵守の柔軟性を盛り込もうとするEPAの努力に感謝する。我々は、EPAおよび州当局がこれらの規則を実施する際に、引き続き協力していく。また、既存の天然ガスタービンに対する新たな提案を策定する際にも、EPAと建設的な協力を続けていく。

 

Electric Power Supply Association

急増する電力需要が既に供給を上回る恐れがある中、電力系統の信頼性は、新たに最終決定されたEPAの発電所排出量制限規則によってさらに緊張を強いられることになる。EPAの最終規則は、既存の天然ガス発電所を除外することを含む最初の提案に対する調整を反映しているが、現時点で利用できない技術に依存しており、古い発電施設が引退するにつれて、より効率的でクリーンな新しい発電施設への多くの必要な投資を妨げるだろう。

 

全米石油協会(API)

我々は、EPAの最終規則が、送電網の信頼性と、その信頼性を維持するための新規天然ガス発電所の必要性を適切に考慮していないことを懸念。政権は、新しい発電施設を建設するための障壁を取り除き、炭素回収や水素技術を含む重要なインフラの開発を可能にするために、破綻した許認可プロセスを修正することに焦点を当てるべき。天然ガスはアメリカの発電量の40%以上を供給しており、電力セクターの燃料転換や再生可能資源の補完を通じて、アメリカがCO₂排出削減をリードするのに貢献。IEAによると、米国のデータセンターからの電力需要は今後数年間で急速に増加し、2022年には米国全体の電力需要の約4%であったものが、2026年には約6%に増加する。マッキンゼーは、2029年までに米国のデータセンターが使用する電力は32GWに達し、2022年から88%増加すると予測。製造業ブームと相まって、米国の特定地域では年間10%近い電力需要の増加が見込まれ、これは過去数十年間見られなかったペースである。製造施設やデータセンターのエネルギー需要の増大は、わが国がより多くの風力発電や太陽光発電、そして天然ガスのようなベースロード資源を必要としていることを意味する。

 

3. 報道ぶり

Politico

バイデン大統領は、化石燃料抑制のためにあまりにも小さなことしかしていないという進歩的な有権者からの不満の中、石炭火力発電所からの汚染を削減するよう電力会社に命じる規則を発表した。

EPAによるこの規則は、政権の気候変動対策政策のリストに基づくものであり、石炭産業と共和党からの反発を招くことは確実である。しかし、バイデン氏にとってより大きな課題は、クリーンエネルギーへの移行にかかるコストを警戒する中道派の民主党議員の支持を失うことなく、気候変動を懸念する進歩的な有権者をなだめられるかどうかにかかっている。

バイデン氏が11月の選挙でトランプを打ち負かすには、気候変動に関心のある若い有権者の強い投票率が必要になりそうだが、2020年にバイデンをホワイトハウスに送り込むのに貢献した進歩主義者の多くは、バイデン氏が注目度の高い石油・ガスプロジェクトを承認したことに不満を表明している。こうした若い活動家の多くは、大統領のガザ戦争への対応に怒りを表明しており、一部の大学キャンパスで抗議活動を行っているがこの問題はそれに拍車をかけている。

 

WSJ

ほぼ間違いなく法廷で争われるであろうこの規則は、既存の石炭発電所と新たに建設される天然ガス発電所における二酸化炭素の排出を厳しく規制するものである。この規制を遵守するためには、そのような発電所で排出される二酸化炭素を回収・処理するための大規模なインフラ整備が必要となる。

多くの電力会社は、CCSはまだ実証段階であり、高価だと言う。環境保護論者たちは、この技術が広く使われることでコストが下がり、既に再生可能エネルギーへの移行が進んでいる主要産業において、排出量削減に貢献するだろうと言う。

競争市場における発電事業者は、古い発電所に必要な設備投資を行う可能性は低いと考えられているが、石炭を多く使用する州の電力会社や電力協同組合によっては、設備投資を行い、そのコストを消費者に転嫁する可能性もある。

 

New York Times

EPAは当初、現在稼働中の大型ガス火力発電施設からの排出制限も計画していた。しかし、一部の穏健派民主党員やガス業界からの反発を受けこの戦略を取りやめた。環境正義(Environmental Justice)団体もまた、大規模ガス火力施設の排出を取り締まることで、電力会社が小規模ガス火力を頻繁に運転するようになることを懸念していた。

 

Washington Post

ウェストバージニア州のパトリック・モリシー検事総長(共和党)は、既に訴訟を起こすことを約束している。彼は、この規制値は2022年に最高裁が下したウェストバージニア州対EPAの判決に違反すると主張している。この判決では、EPA庁は電力会社に石炭火力発電所を閉鎖し、再生可能エネルギー発電に切り替えるよう強制する権限がないとしている。

シェリー・ムーア・カピート上院議員(共和党、ウェストバージニア州選出)は、温室効果ガス基準を廃止する決議案を提出予定と述べた。「政権が非現実的な気候変動政策を推し進めることを選択したことで、国内の家庭や雇用主にとって、手頃な価格で信頼できるエネルギーへのアクセスが脅かされている」と彼女は声明で述べた。

法律・ロビイング事務所Bracewell LLPのパートナーで、ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の元EPA高官であるジェフ・ホルムステッド氏は、「これが法廷で支持されるとは考えにくい。「もし2025年に共和党政権が誕生すれば、彼らがこの規則を取り消すのは簡単なことだ。」と、法的あるいは政治的な挑戦によって規制が頓挫する可能性があると述べた。

ハーバード・ロー・スクールで環境・エネルギー法プログラムを指導しているジョディ・フリーマン氏は、EPAの弁護士が2022年判決と大気浄化法を遵守するように作成したため、この規則は確かな法的根拠に基づいていると思うと述べた。しかし、保守的な判事たちがどのような判断を下すかを予測するのは難しい、「最高裁は自分たちが望むことをするだろうし、EPAの規則には特に敵意を示している」と述べた。

温室効果ガス規制が完全に実施されれば、米国南東部で最大の影響を及ぼす可能性がある。多くの電力会社が、電力消費の旺盛なデータセンターやクリーンテクノロジー工場による爆発的な電力需要に対応するため、ガスプラントの増設を計画しているからだ。例えばノースカロライナ州では、デューク・エナジー社が「前例のない」エネルギー需要を満たすために新しいガスプラントが必要だと主張している。デューク社の広報担当者ケイトリン・カーシュナー氏は声明の中で、「最終規則は顧客の信頼性と経済性に重大な課題をもたらす」と述べた。

しかし、気候変動シンクタンクであるエネルギー・イノベーションの最近の報告書によれば、電力会社は新しいガス発電を導入しなくても、急増するエネルギー需要を確実に満たすことができるという。報告書は、国がよりクリーンなエネルギーに移行するにつれ、新しいガス発電所は「座礁資産」となり、そのコストは電力会社の顧客に転嫁される可能性があると警告している。

環境保護団体エバーグリーン・アクションの電力部門シニア・ポリシー・リードであるチャールズ・ハーパー氏は、電力会社は、気候や消費者を危険にさらす計画を正当化するために、電力需要に対する恐怖を煽っていると、「これらのガス火力発電所は、米国の気候目標を達成不可能にする潜在的な炭素爆弾であり、クリーンエネルギーにおいて多くの低コストな代替策があるにも関わらず、顧客に請求できる最も高価な技術のひとつだ」と述べた。

EPA当局は、昨年発表された規則案に比べ、新規ガスプラントに対する排出規制を強化した。最終規則は、今月初めにワシントン・ポスト紙が最初に報じた、稼働率が50%の大型ガス発電所ではなく、稼働率が40%以上の大型ガス発電所に適用される。もうひとつの注目すべき変更点として、最終規則では、新規ガスプラントが低排出ガス水素に切り替えて適合することは想定されなくなった。EPAは、CCSを使用できることを引き続き明記する。環境保護論者の中には、いくつかの著名な試験で失敗したこの技術が、化石燃料のインフラを何十年も延命させるのではないかと懸念する者もいる。

EPA当局は2月、この規則は既存のガスプラントではなく、新設のガスプラントにのみ適用されると発表した。EPAはおそらく11月以降にならないと既存のガスプラントの排出基準を最終決定しないだろうから、2024年の選挙結果次第でガスプラントの運命が決まるかもしれない。

 

4. おわりに

大気浄化法に基づき、州政府は、EPAが今般発表した最終基準・ガイドラインに基づき、2年以内に、州の実施計画を提出する必要があるが、本年11月の選挙で共和党政権になれば、本件の撤回が見込まれるとともに(トランプ氏は「バイデンの発電所規則をキャンセルする」と選挙キャンペーンビデオで表明済み)、共和党州の州政府等からの訴訟も想定される。EPAは、訴訟に備えて、今回の最終基準の正当性を証明する文書を複数公開し、小売電気料金への影響が軽微であることや、系統信頼性要件を満たすことができることをモデル分析で提示している。

いずれにしても、発電事業者や電力会社は、選挙結果や訴訟動向を見ながら、慎重に個々の発電所の扱いを検討していくものと思われる。

 

以上

(この報告は2024年5月7日時点のものです)

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