ページ番号1010122 更新日 令和6年8月19日
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概要
- 米国では、堅調な製油所の稼働を背景としてガソリン製造活動が活発化したものと見られることにより、それまで減少傾向となっていたガソリン在庫は下げ止まる傾向を示した結果、平年幅上限付近に位置する量となった一方、ガソリンに比べ製造活動が劣後する格好となった留出油の在庫は比較的限られた範囲で変動した結果、平年幅下方付近に位置する量となった。また、原油精製処理量が増加した一方輸出がもたつき気味となったことにより、原油在庫は増加もしくは減少双方の傾向を示すことなく推移したが、平年幅上限を超過する状況は維持されている。
- 2024年4月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、日本では一部製油所が春場のメンテナンス作業を実施しつつあることに併せ原油在庫を調整したものと見られることもあり当該在庫は減少した。しかしながら、米国では増加となった他、欧州では石油製品の精製利幅の縮小により一部製油所が稼働を低下させたと言われており、原油精製処理量が減少した反面原油在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州においては製油所の稼働低下に伴う石油製品製造活動の不活発化もあり、中間留分を中心として在庫は減少した。しかしながら、日本においては、物価上昇に伴い消費者の節約志向が強まったことが個人の長距離もしくは長期間の外出を敬遠させる格好となったことにより、ガソリン需要が抑制されるとともに同製品を中心として石油製品在庫は増加した。また、米国でも気温上昇による暖房向けのプロパン需要低下に伴う当該製品在庫の増加等もあり、石油製品在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は増加した他平年幅上方付近に位置する量となっている。
- 2024年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場においては、4月中旬から下旬にかけては、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退したこと等により、4月12日に1バレル当たり85.66ドルの終値であった原油価格(WTI)は下落傾向となり、5月1日には同79.00ドルの終値となった。ただ、その後は、物価上昇沈静化過程がもたつき気味となっていることを示す指標類等が原油相場に下方圧力を加える一方、同国の物価上昇沈静化過程が進展しつつあることを示唆する指標類等が原油相場に上方圧力を加えた結果、5月上旬から中旬にかけての原油価格は終値ベースで1バレル当たり78~80ドルを中心とする範囲で推移した。
- 今後米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大しやすくなることが、原油価格を上振れさせやすくするものと見られる。加えて、OPECプラス産油国の減産措置延長に伴い石油需給の引き締まり観測が市場で発生しやすいことも原油相場に上方圧力を加える可能性がある。また、中東やウクライナ及びロシアを巡る情勢の不安定化とそれら地域からの石油供給途絶懸念が、原油相場を下支えさせやすいものと考えられる。そのような中、米国経済及び金融政策、中国の経済及び景気刺激策等を巡る動向、カナダのアルバータ州北部における山火事の状況と同国石油生産に及ぼす影響等により、原油価格が変動することがありうるものと思われる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2024年2月の米国ガソリン需要(確定値)は日量860万バレル、前年同月比で1.3%程度の減少となり(図1参照)、1月の当該需要である同824万バレルから需要量が増加した反面同月の前年同月比0.5%程度の減少から減少率が拡大した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比2.8%程度減少の日量847バレル)からは上方修正されている。2月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量85万バレル程度と推定されたところ確定値では同77万バレルへと下方修正されたことにより、同国ガソリン需要が速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正された部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に寄与しているものと見られる。また、2024年1月は中旬を中心として米国の広い地域に厳しい寒波が来襲したことにより個人の外出が敬遠された結果自動車運転距離数が低迷した(同月の当該距離数は1日当たり80億マイルであった)が、2月は米国には厳しい寒波は来襲しなかったことから、自動車運転距離数は前月比で増加した(同月の当該運転距離数は同83億マイルであった)。それでも、2024年1月の厳しい寒波来襲に伴う個人の外出の抑制とガソリン需要の鈍化の影響が部分的にせよ2月にも及んだものと見られることから、同月のガソリン需要は前年同月の水準を下回ることとなった(また、2022年12月は下旬を中心として厳しい寒波「エリオット(Elliott)」が米国南部にまで来襲した影響が2023年1月も残る格好となったことにより同国ガソリン需要が下振れしたことから、2024年1月の同国ガソリン需要の前年同月比の減少率が圧縮される格好となった一方、2024年2月のガソリン需要は前月の厳しい寒波の来襲の影響を引き継ぐ格好となった反面、2023年2月は寒波のガソリン需要に対する影響がさらに低減しつつあったことから、2024年2月の同国ガソリン需要の前年同月比での減少率はかえって2024年1月よりも拡大する形になった側面があるものと考えられる)。なお、2024年2月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2020年2月の当該需要(日量905万バレル)(確定値)を5.0%程度下回っている。他方、2024年4月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量861万バレル、前年同月比で4.3%程度の減少と、2024年3月の当該需要(速報値)である日量892万バレルから需要量が減少した他、同月の前年同月比1.0%程度の減少からは減少率が拡大した。2024年4月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり3.733ドルと3月の同3.542ドルから上昇したうえ、2023年4月(同3.711ドル)を上回ったことが、2024年4月のガソリン需要の抑制をもたらした可能性がある。もっとも、2024年4月の同国推定自動車運転距離数は1日当たり90億マイルと3月の同90億マイルと同水準となったうえ、前年同月(同86億マイル)を4.9%程度上回っているところからすると、2024年4月のガソリン需要は速報値から確定値に移行する段階で上方修正されるか、反動で2024年5月の同国ガソリン需要が上振れする等する可能性があるため、注意する必要があろう。なお、2024年4月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染流行前の2019年4月の当該需要(日量918万バレル)(確定値)を8.5%程度下回っている。また、米国では春場のメンテナンス作業が終了するとともに、不具合が発生した装置の改修も進んだことから、総じて製油所の原油精製処理量は前年同期を超過するなど比較的堅調に推移した(図2参照)ため、ガソリン製造活動も活発化した(ガソリン最終製品生産量は図3参照)一方で、足元のガソリン需要がもたつき気味となったため、2024年3月末にかけ減少傾向となっていた同国のガソリン在庫は、4月上旬から5月上旬にかけては下げ止まるとともに比較的限られた範囲内での変動となった他、平年幅上限付近に位置する量となっている(図4参照)。
2024年2月の米国留出油需要(確定値)は日量392万バレル、前年同月比で2.5%程度の減少となり(図5参照)、1月の同387万バレル(前年同月比0.8%程度の減少)から需要量はほぼ同水準となったものの、前年同月比での減少率は拡大した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比5.0%程度減少の日量377万バレル)からは上方修正されている。2024年1月は中旬を中心として米国の広い地域に厳しい寒波が来襲したことにより、鉱工業生産活動に支障が発生等した(2024年1月の鉱工業生産は前年同月比で0.7%程度の減少と、2023年12月の同1.1%の増加から減少に転じたことに加え、2024年1月の同国物流活動は前年同月比2.3%の減少と2023年12月の同0.7%の増加から減少に転じた)ことが同部門における軽油需要を抑制する格好となったものの、厳しい寒波の来襲に伴い米国の暖房油需要の中心地である北東部においても気温が低下したことにより暖房油需要が喚起されたため、その分だけ2024年1月の留出油需要の前年同月比での減少率が押し戻される格好となった。一方、2024年2月は1月の寒波来襲による鉱工業生産活動への支障の影響が相対的に低減したことから、産業部門での軽油需要が喚起された一方、2月は1月に比べ北東部の気温が温暖になったことが暖房向けの軽油需要を抑制する格好となったことから、両要因が相殺しあった結果、2月の軽油需要は1月とほぼ同水準になったものと考えられる。それでも、2023年2月は2022年12月に来襲した厳しい寒波による同国鉱工業生産への支障に伴う軽油需要への負の影響が解消しつつあった一方、2024年2月は前月の寒波に伴う軽油需要への負の影響がある程度残存していたものと見られることから、2024年2月の軽油需要が前年同月を下回ったものと考えられる。なお、2024年2月の米国留出油需要は2020年同月の当該需要(日量408万バレル)(確定値)を3.9%程度下回っている。他方、2024年4月の米国留出油需要(速報値)は推定日量352万バレル、前年同月比で9.7%程度の減少となり、3月の当該需要量(速報値)の日量360万バレル(前年同月比12.2%程度の減少)から需要量は下振れした反面、前年同月比の減少率は縮小した。2024年4月は米国北東部が前月比で温暖となったことにより、暖房向けの暖房油需要が減少したことが、同月の留出油需要を前月比で押し下げた一因となったものと考えられる。また、2024年4月の同国の鉱工業生産が前年同月を0.4%下回るなど、米国経済が減速傾向となったことが製造業等における留出油需要を抑制する形となっているものと見られることも、留出油需要が前年同月比で減少する背景にあるものと見られる。ただ、2024年4月の米国北東部は前年同月比では寒冷となったことから暖房向けの留出油需要が多少なりとも喚起されたことが、2024年4月の米国留出油需要の前年同月比での減少率が3月に比べて縮小した一因となったものと考えられる。なお、2024年4月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量412万バレル)(確定値)を14.5%程度下回っている。そして、このように、同国の留出油需要が軟調に推移した反面、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近しつつあることから、製油所ではガソリンの製造を優先する反面留出油の製造は劣後する格好となっている側面はあるものの、ガソリン需要期を控え製油所の稼働が堅調に推移した結果、併せて留出油の製造もそれなりに行なわれた(図6参照)結果、4月上旬から5月上旬にかけ米国留出油在庫は比較的限定された領域内で変動したうえ、平年幅下方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2024年2月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比1.0%程度増加の日量1,995万バレルとなり(図8参照)、1月の同1,959万バレルから需要量は増加したものの、同月の前年同月比2.3%程度の増加から増加率は縮小した。ガソリン及び留出油に加えその他の石油製品の需要が前月から増加したことが同需要の前月比での増加に影響している。なお、その他の石油製品の需要の中では特にエタン需要が前月比で増加しており、1月中旬に米国の広い範囲に来襲した寒波による石油化学関連施設の操業上の支障からの回復により2月の石油化学向けエタン需要が増加したことが寄与している。また、2024年2月のエタン価格が総じて前年同月比で安価であったことに加え、米国テキサス州パサデナにおいてベイスター(Baystar、大手国際石油会社トタルエナジーとオーストリア石油化学会社ボレアリス(Borealis、オーストリア大手石油会社OMVが同社株式の75%、アブダビ国営石油会社ADNOCが25%を、それぞれ保有)の合弁会社)のベイ3(Bay 3)ポリエチレン製造装置(年産62.5万トン)が操業を開始(2023年10月3日に操業を開始した旨ベイスターが発表)したことや、大手国際石油会社シェルが操業を中断していたペンシルバニア州モナカ(Monaca)のエタン分解装置(エチレン生産能力年産160万トン)が2023年12月上旬頃操業を再開した(2022年11月16日に本格的操業開始を発表したものの、その後大気汚染規制抵触の疑いや装置の不具合発生等により操業を停止した旨2023年5月8日に報じられていた)旨2023年12月13日に伝えられたことにより、在庫積み上げを含め、原料となるエタンの需要が拡大したものと見られることが、その他の石油製品需要を前年同月比で増加させる一因となっているものと考えられる。また、ガソリン及び留出油の各需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたことから、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比1.2%程度減少の日量1,952万バレル)から上方修正されている。なお、2024年2月の米国石油需要は2020年2月の当該需要(日量2,013万バレル)(確定値)を0.9%程度下回っている。他方、2024年4月の米国石油需要(速報値)は推定日量1,975万バレル、前年同月比で1.4%程度の減少となっており、3月の同国石油需要(速報値)である日量2,024万バレル、前年同月比0.8%程度の増加から、需要量が減少した他前年同月比でも減少に転じた。ガソリン及び留出油の各需要が前月比及び前年同月比で減少したことが、同国石油需要の前月比及び前年同月比での減少に影響する格好となっている。また、その他の石油製品の需要(日量486万バレル)は2023年3月~2024年2月の当該需要(確定値)である日量406~467万バレルに比べても高水準であることから、速報値から確定値に移行する段階で下方修正される可能性があるので注意が必要であろう。なお、2024年4月の米国石油需要は2019年4月の当該需要(日量2,033万バレル)(確定値)を2.9%程度下回っている。また、米国の原油生産量が概ね横這いで推移する一方、米国からの原油輸出は増減しながらもどちらかというともたつき気味となった(欧州等における製油所メンテナンス作業実施等に伴う原油精製処理活動の不活発化によりそれら地域の米国からの原油受け入れが不活発化したことが、米国の原油輸出に影響した旨指摘する向きがある)ものの、米国における製油所の原油精製処理量は増加気味に推移したことから、4月上旬から5月上旬にかけての同国原油在庫はそれなりに増減したものの、増加もしくは減少の傾向が創出されることはなかった他、当該在庫が平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量、ガソリン在庫が平年幅上限付近に位置する量、そして留出油在庫が平年幅下方付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2024年4月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、日本では一部製油所が春場のメンテナンス作業を実施しつつあることに併せ原油在庫を調整したものと見られることもあり当該在庫は減少した。しかしながら、米国では増加となった他、欧州では軽油を中心とした石油製品の精製利幅の縮小により、採算性の悪化した石油製品の製造を抑制するべく一部製油所が稼働を低下させたと言われており、原油精製処理量が減少した反面原油在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧州においては製油所の稼働低下に伴う石油製品製造活動の不活発化もあり、中間留分を中心として在庫は減少した。しかしながら、日本においては、気温が上昇したことにより個人の外出が喚起される形となったものの、物価上昇に伴い消費者の節約志向が強まったことが個人の長距離もしくは長期間の外出を敬遠させる格好となったことにより、全体としては、ガソリン需要は抑制される形となり、同製品を中心として在庫は増加した。また、米国では気温が上昇するとともに暖房向けのプロパン需要が低下したことに伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了による当該製品に混入していたブタンの需要減少に伴うその他の石油製品在庫の増加もあり、同製品を中心として在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は増加となった他平年幅上方付近に位置する量となった(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する量となっている(図14参照)。なお、2024年4月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.0日と3月末の推定在庫日数(60.6日)から増加している。
4月10日に1,600万バレル強程度の水準であったシンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は、4月17日には1,300万バレル台後半程度の量へと減少した。4月24日には1,400万バレル強、5月1日には1,500万バレル台後半程度の、それぞれ水準へと回復したものの、5月8日には1,500万バレル強程度の量へと減少した。5月15日は1,500万バレル台前半程度の水準へと持ち直したものの、なお4月10日の量を下回っている。3月12日以降、ウクライナにより発射されたものと見られる無人機等が、ロシアにおける製油所等を攻撃した結果、一部で火災が発生するとともに、操業が停止した。3月末時点では同国製油所の原油精製処理能力の14%近くの原油精製処理能力が停止したと推定された(同国製油所の原油精製処理能力は2022年時点で日量682万バレル程度とされていることから、その14%近くは日量100万バレル程度に相当するものと見られる)。その後4月16日には同国製油所の原油精製処理能力の停止規模は同国の能力全体の10%程度にまで低下したものと推定される旨報じられたが、この結果、3月後半から4月前半を中心とする時期において、ロシアの大西洋岸の積出港からシンガポールへのナフサを中心とする軽質留分の出荷が鈍化したことに伴い、4月後半から5月前半にかけての期間を中心として、シンガポールのナフサ輸入が減少した。一方、2024年第1回の中国石油製品輸出枠1,900万トンが付与された(因みに2023年第1回は1,899万トンであった)(別途低硫黄重油輸出枠も前年比同水準の800万トンで付与された)こと(2023年12月29日に中国当局が当該輸出枠付与を発表したとされる)に伴い、2024年1月以降中国からガソリンを含む軽質留分が輸出され始め、2月から3月前半を中心とする時期にかけシンガポールに流入したものの、中国の石油製品輸出枠の残りが少なくなりつつあったものと見られたうえ、中国を初めとしてアジア諸国及び地域は春場の製油所メンテナンス作業の実施時期に突入しつつあったことにより、これら諸国及び地域におけるガソリン等軽質留分の輸入が活発化する反面輸出が低調になる(また、中国での労働節に伴う休日(5月1~5日)において自動車を利用した個人の外出が活発化した結果ガソリン需要が上振れしたことも同国からの輸出に影響したと見る向きもある)とともに、シンガポールの軽質留分の中国等からの流入が鈍化した格好となったことから、シンガポールの軽質留分在庫は減少傾向となった。そして、シンガポールにおける軽質留分在庫の減少や中国の第2回石油製品輸出枠付与を巡る不透明感、及び夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来に向けたガソリン需給引き締まり感が、アジア市場におけるガソリン価格を下支えしたものの、例年であれば4月上旬から5月上旬にかけ減少傾向となることの多い米国のガソリン在庫が2024年においては下げ止まった結果、前年同期を上回るなど、同国のガソリン需給の緩和感が感じられるようになったことにより、米国ガソリン価格に下方圧力が加わった影響を、アジア市場も受けたことに加え、2024年第2回の中国石油製品輸出枠(1,400万トン、別途低硫黄重油400万トン)が付与された旨5月7日に伝えられたことに伴い、中国からのガソリン輸出の活発化に伴うアジア地域での当該製品需給緩和感が意識されやすくなったことが、アジア市場におけるガソリン価格を抑制する格好となった。このため、4月上旬から5月上旬にかけてのアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を示した。
また、2023年に入り中国国内におけるナフサ分解装置(及びプロパン脱水素化装置(PDH))の稼働率が上昇しつつある(ナフサ分解装置に投入される原料であるナフサは中国が輸入等した原油を精製することにより製造されているものと推測される)ことが示唆される旨指摘されており、同国の石油化学製品輸入が限定される格好となっている(2024年2月の同国のエチレン輸入量は約13万トンと直近のピーク時である2019年1月(約29万トン)の半分以下の規模となっている)こともあり、(中国を除く)アジア地域における石油化学製品需要は好調ではなかった。このような状況に対処すべく、アジア諸国及び地域ではナフサ分解装置のメンテナンスを実施したり、もしくは稼働率を引き下げたりしたことにより、石油化学部門向けのナフサ需要が低迷する格好となった。加えて、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期が終了するとともに暖房向けに利用されていたLPGの需要が減退する結果LPG価格が下落することにより、石油化学製品の原料となるナフサとLPGとの間で価格面での競合が激化するとともに、石油化学製品の原料となるナフサの需要が一層軟調になるとの観測が市場で増大した。このようなことから、ナフサ価格に下方圧力が加わる形となった。しかしながら、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入が意識され始めたこともあり、原料としてガソリンに混入するナフサの需要が拡大することに対する期待が市場で発生したことがアジア市場におけるナフサ価格を下支えしたうえ、原油価格の下落にナフサ価格の下落が追い付かない場面が見られたこと、ウクライナが発射したものとみられる無人機等がロシアの製油所等を攻撃し続けていることから、ロシアからアジア方面へのナフサの供給に支障が生ずる可能性があるとの懸念が市場で発生したこともあり、4月中旬から5月中旬にかけてのアジア市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は徐々にではあるが縮小する傾向を示した。
4月10日には1,100万バレル台前半程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分在庫は、4月17日には1,000万バレル台前半程度の量へと減少した。4月24日には1,100万バレル台半ば程度の水準へと回復したものの、5月1日には引き続き1,100万バレル台半ばの量ではあったが減少、そして5月8日には1,100万バレル強程度、5月15日には1,000万バレル強程度の水準へとさらに低下した結果、4月10日の量を下回る状態となっている。ウクライナにより発射されたものと見られる無人機等による攻撃に伴いロシアの一部製油所が損傷した結果操業が停止したことにより、ロシア方面からのシンガポールへの中間留分の流入が減少したことに加え、日本、韓国、台湾及びシンガポール等アジアの一部諸国及び地域において製油所のメンテナンスの実施等により操業が停止したことに伴い、それら諸国等からの中間留分供給が鈍化したことが、シンガポールにおける中間留分在庫を減少させる方向で作用したことが、シンガポールにおける中間留分在庫を減少させる方向で作用した。さらに、世界的に軽油等の需給緩和感が強まったこと(後述)により、アジア地域を含め一部製油所で稼働が低下したことにより、中間留分の生産が削減されたことも、特に5月に入ってからのシンガポールにおける中間留分在庫の減少に影響しているものと見られる。他方、欧州を中心として気候が温暖であったこともあり、暖房向けの民生部門を中心とした暖房油需要が低迷したうえ、物価上昇や政策金利引き上げ等に伴う経済減速により産業及び輸送部門での軽油需要が抑制された一方、攻撃を受け操業を停止したロシアの製油所の一部が比較的早期に操業を再開し始めたことに加え、オマーンにおいて国営石油会社OQ及びクウェート国際石油(KPI: Kuwait Petroleum International)との折半出資によるOQ8が操業するドゥクム(Duqm)製油所(原油精製処理能力日量23万バレル)(2024年2月7日に操業を開始)、クウェートにおいてアル・ズール製油所(原油精製処理能力日量61.5万バレル、2023年7月6日に操業者であるKIPI(Kuwait Integrated Petroleum Industries)が全ての施設の操業開始を発表)、及びナイジェリアにおいてダンゴデ(Dangote)製油所(操業者:ダンゴテ・インダストリー、原油精製処理能力最大同65万バレル、2023年5月22日に正式に操業開始を発表)等の、新規製油所が操業を開始した他、2024年2月23日にはイラクのアル・シャマル(Al-Shamal)製油所(原油精製処理能力日量31万バレル)が操業を再開した(2014年にイスラム国(IS)の攻撃により操業を停止していた)ことにより、軽油を含む石油製品の供給が潤沢になるとの観測が市場で発生したことが、欧州を中心とする地域における中間留分需給の緩和感を誘発するとともに同地域の軽油等の価格を圧迫した結果、従来欧州方面への輸出が比較的活発に行なわれていた中東やインド等における製油所で生産される中間留分が、採算性の悪化に伴い欧州方面に代わりアジア方面に輸出されるとの見方が市場で発生したうえ、韓国等において高水準の政策金利により産業活動が減速した結果、軽油の需要が減退気味に推移するなど、アジア諸国等における産業部門での軽油需要が必ずしも堅調でないことが、アジア市場における軽油の価格に下方圧力を加えたことから、4月中旬から5月上旬前半頃にかけての同市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を示した。しかしながら、4月下旬から5月中旬にかけ、シンガポールにおける中間留分在庫が減少傾向になったこともあり、アジア地域における中間留分需給の相対的な引き締まり感を市場が意識し始めたことが、アジア市場における軽油価格に上方圧力を加えるようになった結果、5月上旬から中旬にかけては、軽油とドバイ原油価格との価格差は多少なりとも拡大する傾向を示している。
4月10日に2,100万バレル強程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、4月17日には2,200万バレル前半程度の量へと増加した。しかしながら、4月24日には1,900万バレル弱程度、5月1日には1,700万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。5月8日は2,000万バレル後半程度の水準へと回復したものの、5月15日には1,900万バレル強程度の量へと減少した結果、4月10日の水準をそれなりに下回る状態となっている。ウクライナが発射したものと見られる無人機等による攻撃に伴いロシアの一部製油所の操業が停止したこともあり、ロシアからアジア方面への重油の供給が減少したことに加え、夏場の気温上昇に伴う空調のための電力供給向けの発電部門における高硫黄重油の需要期を控え、同製品在庫を積み上げる必要がある中東からシンガポールへの当該製品の流れが低下したことが、シンガポールにおける重油在庫を減少させる方向で作用したものと見られる。そして、シンガポールにおける重油在庫が減少傾向となったことに加え、中間留分を中心とする石油製品の採算性が悪化したことに伴い、アジア地域の製油所が稼働を低下させた結果高硫黄重油の製造も縮小するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場における高硫黄重油価格を下支えしたこと、南アジアにおいて気温が上昇するとともに、パキスタンやバングラディシュにおいて空調のための電力供給向けの発電部門における高硫黄重油の需要が増加しつつあることが、アジア市場における高硫黄重油価格に上方圧力を加えたことから、4月中旬から5月中旬にかけての同市場における高硫黄原油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄原油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向を示した。他方、低硫黄重油については、中間留分を中心とする石油製品の採算性が悪化したことに伴い、アジア地域の製油所が稼働を低下させる結果、低硫黄重油の製造も縮小するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場における低硫黄重油価格を下支えした側面はあったものの、中間留分を中心とする石油製品の採算性が悪化したことに伴い、アジア地域の製油所が稼働を低下させる結果、低硫黄重油の製造も縮小するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場における低硫黄重油価格を下支えした側面はあったものの、北東アジア諸国及び地域のおける発電部門での需要が軟調である(これら諸国等は低硫黄重油の代わりに、発電向けに石炭、天然ガス及び原子力を利用しているとされる)うえ、シンガポールにおける船舶向け低硫黄重油の販売が前年を割り込む(4月の当該販売量は225万トンと前年同月(267万トン)を下回っている)など不振なままとなっている(他方、割安な船舶向け高硫黄重油販売量は低硫黄重油販売量を下回ってはいるものの前年水準は上回っている(例えば、4月時点の販売量は160万トンと前年同月(122万トン)を上回っている))一方、クウェートのアル・ズール製油所からの販売が堅調に行なわれつつあるとの認識が市場で発生していることが、アジア市場における同製品価格を抑制した結果、4月中旬から5月中旬にかけては、同市場における低硫黄原油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄原油価格がドバイ原油価格を上回っている)は比較的限られた範囲で推移した。
2. 2024年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場等の状況
2024年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場においては、4月中旬から下旬にかけては、4月1日にシリアのイラン在ダマスカス大使館周辺が攻撃された結果イラン革命防衛隊幹部が死亡したことにより、イランがイスラエルに対し報復措置を実施する方針である旨表明した後、4月13日夜から4月14日未明(現地時間)にかけイランがイスラエルに向け無人機等を発射した(殆どは迎撃されたとされる)一方、4月18日夜(米国東部時間)にはイスラエルがイランに対し報復攻撃を実施した旨伝えられたものの、その後のイランの対応が抑制的であったこともあり、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことに加え、4月末頃にはパレスチナ自治区ガザ地区における休戦及び人質解放等に関するイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での協議が進みつつある旨示唆されたことが、原油相場に下方圧力を加えた。このため、4月12日に1バレル当たり85.66ドルの終値であった原油価格(WTI)は下落傾向となり、5月1日には同79.00ドルの終値となった。ただ、その後は、米国経済が減速しつつある、もしくは物価上昇沈静化過程がもたつき気味となっていることを示す指標類や、早期の政策金利引き下げに消極的な姿勢を示唆する米国金融当局関係者の発言等が、原油相場に下方圧力を加える一方、中国経済回復を示唆する経済指標類や、物価上昇沈静化過程の進展を示唆する米国経済指標類、米国原油在庫等の減少、及び米国戦没将兵追悼記念日に伴う休暇シーズンにおける活発な個人の外出見通し等が原油相場に上方圧力を加えた結果、5月上旬から中旬にかけての原油価格は終値ベースで1バレル当たり78~80ドルを中心とする範囲で推移した(図15参照)。
4月13日夜から4月14日未明(現地時間)にイランがイスラエルに向け無人機及びミサイルを発射した旨イラン革命防衛隊が発表した(300基超が発射されたものの、99%程度を迎撃した旨4月14日にネタニヤフ首相が明らかにしている)が、4月14日にイラン国連代表部は(報復措置を以て)本件(4月1日に行なわれた、シリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺に対するイスラエルによるものと見られる攻撃とイラン革命防衛隊幹部死亡)については、終結したものと考えている旨明らかにした一方、イスラエルは4月14日に閣議を開催しイランへの対応に関する協議を実施、イランに対し報復措置を実施することへの支持は強かったものの、実施時期や方法を含めた具体的内容については、結論が出ずじまいであったこと、米国はイスラエル防衛を支援するもののイスラエルによる対イラン報復実施を望んでいない旨4月14日に米国国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官が述べた(バイデン大統領もイスラエルによる対イラン報復措置を支持していない旨明らかにしたと4月14日に伝えられる)こともあり、イスラエルとイランとの対立がこれ以上先鋭化することに対する懸念が市場で後退したことに加え、4月15日に米国商務省から発表された3月の同国小売売上高が前月比0.7%の増加と市場の事前予想(同0.3%~0.4%の増加)を上回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退したこともあり、米ドルが上昇するとともに米国株式相場が下落したことから、4月15日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.25ドル下落し終値は85.41ドルとなった。また、足元で示されるデータは、従来見込んでいたよりも政策金利引き下げ開始までには長期間を要することを示唆している旨4月16日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が明らかにしたことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退したこともあり、米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えたものの、イランによるイスラエル攻撃に対しイスラエルは対応せざるをえない旨イスラエル軍のハレビ(Halevi)参謀総長が表明したと4月15日午後遅く(米国東部時間)に伝えられたことで、イスラエルによる対イライン報復措置の実施による中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大した流れを4月16日の市場が引き継いだことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり85.36ドルと前日終値比で0.05ドルの下落にとどまった。そして、4月17日には、この日米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(4月12日の週分)において、原油在庫が前週比274万バレルの増加と市場の事前予想(同140~165万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.67ドル下落し、終値は82.69ドルとなった。また、現時点では核兵器を保有しない方針であるイランが同兵器を保有するよう方針を変更することもありうる旨イランの革命防衛隊幹部が示唆した他、イスラエルがイランの核関連施設攻撃へと動くのであれば、イスラエルの核関連施設に対して報復攻撃を実施する意向である旨イランの革命防衛隊核安全保障幹部が示唆したと4月18日にイラン革命防衛体系タスニム通信が報じたことにより、中東情勢不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことが、同日の原油相場に上方圧力を加えた反面、米国の物価上昇率は高水準過ぎる状態であることから2024年の政策金利引き下げ開始は適切ではなく、場合によっては政策金利を引き上げることもありうる旨4月18日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにしたことに加え、同日米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁も、足元政策金利の引き下げの必要性はない他、必要であれば政策金利引き上げもありうる旨明らかにしたうえ、4月18日に米国フィラデルフィア連邦準備銀行から発表された4月のフィラデルフィア地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門拡大と縮小の分岐点)が15.5と3月の3.2から上昇した他市場の事前予想(2.0~2.3)を上回ったこともあり、米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり82.73ドルと前日終値比で0.04ドルの上昇にとどまった。また、イスラエルがイランに対し攻撃を実施した旨4月18日夜(米国東部時間)に伝えられたことにより、中東情勢不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、4月19日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.41ドル上昇し、終値は83.14ドルとなった。
ただ、4月22日にはイラン外務省が、4月19日にイスラエルが実施したとされる対イラン報復措置に関し、実際にイスラエルが行ったものであるかどうかについての判断を回避するとともに、イラン中部ナタンズにある核関連施設防衛のための防空システムがイスラエルの攻撃により破損したとの米国報道機関による報道についても当該施設には被害はないとして否定、さらに今後の展開によってはイランが核兵器を保有する方針に転換する可能性もある旨の4月18日のイラン革命防衛隊の発言についても、核兵器を保有する意向はないとして否定したこともあり、イランとイスラエルとの対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり82.85ドルと前週末終値比で0.29ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2024年5月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2024年6月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり81.90ドル(前日終値比同0.32ドルの下落)であった)。しかしながら、4月23日には、この日米国大手格付け会社S&Pグローバルから発表された2024年4月のユーロ圏総合購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が51.4と2023年5月(この時は52.8)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(50.7)を上回ったことによりユーロが上昇したうえ、2024年4月の米国総合PMIが50.9と2023年12月(この時は50.9)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(52.0)を下回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.51ドル上昇し、終値は83.36ドルとなった。それでも、4月24日には、この日米国商務省から発表された3月の同国耐久財受注が前月比で2.6%の増加と2月の同0.7%(改定値)の増加から伸びが加速した他、市場の事前予想(同2.5%増加)を上回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で後退したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり82.81ドルと前日終値比で0.55ドル下落した。また、4月25日は、イスラエルがガザ地区南部の都市ラファへの地上侵攻に向けた準備を進めつつある旨この日伝えられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、米国の物価上昇はより正常な水準に向け低下していくであろう旨4月25日に同国のイエレン財務長官が明らかにしたことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.76ドル上昇し、終値は83.57ドルとなった。また、イスラエルはパレスチナ自治区ガザ地区の人質解放に関し交渉する用意はあるが、短期的に進展しないのであればガザ地区南部の都市であるラファに対し地上侵攻を実行する意向である旨イスラエルが交渉の仲介役であるエジプトに伝えたと4月26日に報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、4月26日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で506基と前週比5基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は493基と同5基減少)となった旨判明したこともあり、この先の米国原油生産の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり83.85ドルと前日終値比で0.28ドル上昇した。この結果原油価格は4月25~26日の2日間で1バレル当たり合計1.04ドルの上昇となった。
しかしながら、33人の人質解放後、パレスチナ自治区ガザ地区を巡る恒久的停戦につき協議をする意向である旨イスラエルがイスラム武装勢力ハマスに対し提案した(これまではイスラエルは一時的な休戦に固執しており、恒久的停戦を求めるハマスとの間で意見が相違していた)旨4月27日に米国新興報道機関アクシオスが報じたことにより、中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、4月29日の原油価格の終値は1バレル当たり82.63ドルとの前週末終値比で1.22ドル下落した。4月30日も、パレスチナ自治区ガザ地区を巡るイスラエルとハマスとの間の恒久的停戦の可能性により、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退した流れを引き継いだことに加え、4月30日に米国労働省から発表された2024年1~3月期同国雇用コスト指数(ECI: Employment Cost Index)が前期比1.2%の上昇と2023年10~12月期(同0.9%の上昇)から伸びが加速、2023年1~3月期(この時は同1.2%上昇)以来の高水準の上昇率となった他市場の事前予想(同1.0%上昇)を上回ったことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で後退したこともあり、米ドルが上昇したうえ、4月30日にシカゴ購買部協会から発表された4月のシカゴ地区等製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が37.9と3月の41.4から低下、2022年11月(この時は37.8)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(45.0)を下回ったうえ、同日米国民間調査機関コンファレンス・ボードから発表された4月の同国消費者信頼感指数(1985年=100)が97.0と3月の103.1(改定値)から低下、2022年7月(この時は95.3)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(104.0)を下回ったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.70ドル下落し、終値は81.93ドルとなった。また、5月1日も、この日EIAから発表された米国石油統計(4月26日の週分)で原油在庫が前週比727万バレルの増加と2024年2月9日(この時は前週比1,202万バレル増加)以来の大幅な増加となった結果、当該在庫量が4.61億バレルと2023年6月16日(この時は4.63億バレル)以来の高水準に到達したうえ、市場の事前予想(前週比110万バレル程度の減少)に反し増加していた旨判明したことにより、米国石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり79.00ドルと前日終値比で2.93ドル下落した。この結果原油価格は4月29日~5月1日の3日間で1バレル当たり合計4.85ドルの下落となった。また、パレスチナ自治区ガザ地区を巡るイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での戦闘停止等を巡るイスラエルからの提案につきハマスが前向きに検討している旨ハマスの指導者ハニヤ(Haniyeh)氏が明らかにした旨5月2日に報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことが、5月2の原油相場に下方圧力を加えた反面、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、4月30日~5月1日の米国連邦公開市場委員会(FOMC)開催後の5月1日の記者会見において、FRBのパウエル議長が、次の段階の行動として政策金利を引き上げる可能性は低い旨示唆した流れを5月2日の市場が引き継いだうえ、5月1日夕方(米国東部時間)に発表された米国半導体設計・開発大手クアルコムの2024年1~3月期業績及び同年4~6月期業績見通しが市場の事前予想を上回ったこともあり米国株式相場が上昇したこと、現在2024年6月末まで実施予定の一部OPECプラス産油国による自主的な減産につき、需要が回復しないのであれば、7月以降も延長する可能性がある旨、OPECプラス産油国関係筋が明らかにしたと5月2日に伝えられたことにより、この先の世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.95ドルと前日終値比で0.05ドルの下落にとどまった。そして、イスラム武装勢力ハマスが、エジプトのカイロに交渉団を派遣しパレスチナ自治区ガザ地区における戦闘停止や人質解放を巡る協議を実施する意向である旨5月3日に明らかにしたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.84ドル下落し、終値は78.11ドルとなった。
ただ、5月6日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが、6月のアジア向けアラビアン・ライト原油販売価格を5月から1バレル当たり0.90ドル事実上引き上げる旨5月5日に伝えられたことにより、この先の石油需給引き締まりをサウジアラビアが見込んでいるとの観測が市場で増大したことから、5月6日の原油価格の終値は1バレル当たり78.48ドルと前週末終値比で0.37ドル上昇した。それでも、5月7日には、この日EIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO:Short-term Energy Outlook)において、EIAが2024年の世界石油需要の増加見通しを日量92万バレルと4月9日に発表された前回見通し時点の同95万バレルから下方修正した一方、同年の世界石油供給見通しを同97万バレルと前回見通し時点の同85万バレルから上方修正したことにより、2024年の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.10ドル下落し、終値は78.38ドルとなった。しかしながら、5月8日には、この日EIAから発表された米国石油統計(5月3日の週分)で原油在庫が前週比136万バレルの減少と、市場の事前予想(前週比37~110万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感が市場で意識されたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.99ドルと前日終値比で0.61ドル上昇した。また、5月9日も、この日中国税関総署から発表された4月の同国輸入(米ドル建)が前年同月比8.4%の増加と市場の事前予想(同4.7~4.8%の増加)を上回ったうえ、輸出(同)が同1.5%の増加と市場の事前予想(同1.3~1.5%の増加)と同水準か事前予想を上回った他、4月の同国原油輸入量が4,472万トン(推定日量1,091万バレル)と前年同月比5.4%の増加となっている旨判明したことにより、同国経済回復とそれに伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことに加え、5月9日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(5月4日の週分)が23.1万件と前週比2.2万件増加、2023年8月25日の週(この時は23.4万件)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(21.2~21.5万件)を上回ったことで、米国経済が減速しつつあることが示唆されたことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で増大したこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.27ドル上昇し、終値は79.26ドルとなった。この結果原油価格は5月8~9日の2日間で1バレル当たり合計0.88ドル上昇した。ただ、5月10日には、この日米国ミシガン大学から発表された5月の同国消費信頼感指数(速報値)(1964年=100)が67.4と4月の77.2から低下した他市場の事前予想(76.0~76.2)を下回った一方、同日同大学から発表された1年先の物価上昇率予想が年率3.5%と4月の同3.2%から伸び率が拡大、2023年11月(この時は同4.5%)以来の高水準の上昇率となったことにより、米国経済が減速しつつある一方で同国金融当局による政策金利引き下げ観測が後退したことから、この先の米国石油需要下振れの可能性に対する懸念が市場で増大したことに加え、足元の政策金利水準は物価上昇を沈静化するために十分かどうか定かではなく、政策金利引き下げを検討するには時期尚早であると認識している旨5月10日に米国ダラス連邦準備銀行のコリンズ総裁が明らかにしたこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.00ドル下落し終値は78.26ドルとなった。
ただ、2024年の米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月27日)に伴う連休(5月25~27日)時の休暇シーズン(5月23~27日)において同国で乗用車を利用して外出する個人数が3,840万人と2000年以降の統計史上最高水準に到達するものと見込んでいる旨米国自動車協会(AAA)が5月13日に明らかにしたことにより、同国ガソリン需要増加期待が市場で増大したことに加え、5月15日にEIAから発表される予定である米国石油統計(5月10日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したこと、5月15日に予定される米国消費者物価指数(CPI)の発表を控えた持ち高調整が発生したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり79.12ドルと前週末終値比で0.86ドル上昇した。それでも、5月14日には、この日米国労働省から発表された4月の同国生産者物価指数(PPI)が前月比で0.5%の上昇と市場の事前予想(同0.3%の上昇)を上回ったうえ、2024年末に向け米国の物価上昇は沈静化に向かいつつあるものと見込んではいるものの、2024年第1四半期の物価上昇率が事前予想を上回ったこともあり、物価上昇が十分に沈静化したと確信するまでには従来よりも長い期間を要するかもしれない旨、5月14日にFRBのパウエル議長が明らかにしたこともあり、米国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.10ドル下落し、終値は78.02ドルとなった。しかしながら、5月15日には、この日EIAから発表された米国石油統計で原油在庫が前週比136万バレル、ガソリン在庫が同24万バレル、及び留出油在庫が同5万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫同50万バレル程度の減少、ガソリン在庫同50万バレル程度、留出油在庫同80万バレル程度の、それぞれ増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している他、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で34万バレル減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、5月15日に米国労働省から発表された4月の同国のエネルギー及び食料品を除くコア消費者物価指数(CPI)が前年同月比3.6%の上昇と2021年4月(この時は同3.0%の上昇)以来の低水準に到達した旨判明したことにより、2024年9月17~18日に開催される予定のFOMCにおいて米国金融当局による政策金利引き下げが決定されるとの期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落するとともに、同国経済回復期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.63ドルと前日終値比で0.61ドル上昇した。また、5月16日も、この日米国労働省から発表された新規失業保険申請件数(5月11日の週分)が22.2万件と前週比で1.0万件減となった一方、市場の事前予想(22.0万件)は上回ったことにより、米国経済の底堅さが意識される一方、同国金融当局による政策金利引き下げ観測が維持されたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.60ドル上昇し、終値は79.23ドルとなった。さらに、5月17日も、この日中国国家統計局から発表された4月の同国鉱工業生産が前年同月比6.7%の増加と3月の同4.7%の増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同5.5%の増加)を上回ったことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸び加速期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.06ドルと前日終値比で0.83ドル上昇した。この結果原油価格は5月15~17日の3日間で1バレル当たり合計2.04ドル上昇した。
3. 原油市場における主な注目点等
原油市場に影響を与えうる地政学的リスク要因としては、中東情勢、そしてウクライナ及びロシア情勢が上げられる。シリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺が攻撃され、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の上級司令官モハンマド・レザ・ザヘディ(Mohammad Reza Zahedi)氏を含む軍事顧問7人が死亡した旨4月1日に報じられた(イスラエルは攻撃の実施につき何も表明していないが、攻撃はイスラエルによるものである旨4月1日にニューヨーク・タイムズが報じた)こと(その後死亡者は軍事関係者7人、民間人6人の計13人と伝えられた)に伴い、報復措置を講ずる方針である旨イラン外務省が4月1日に表明した他、4月2日にはイランの最高指導者ハメネイ師及びライシ大統領も報復措置を講ずる方針である旨明らかにした。そして、4月13日夜から4月14日未明(現地時間)にイランがイスラエルに対し無人機及びミサイルを発射した旨イラン革命防衛隊が発表した(300基超が発射されたものの、その殆どを迎撃した旨4月14日イスラエルのネタニヤフ首相が明らかにしている)が、4月14日にイラン国連代表部は報復措置については、事実終結したものであると考えている旨明らかにした一方、イスラエルは4月14日に閣議を開催しイランへの対応に関する協議を実施、イランに対し報復措置を実施することに対する支持は強かったものの、報復措置実施時期を含めた方法については、結論が出ずじまいであった。また、イスラエル防衛は支援するものの、イスラエルによる対イラン報復実施は望んでいない旨4月14日に米国国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官が表明した(バイデン大統領もイスラエルによる対イラン報復措置を支持していない旨明らかにしたと4月14日に伝えられる)。その後、イスラエルがミサイルを発射しイランの拠点を攻撃した旨米国当局者が明らかにしたと4月18日夜(米国東部時間)に米国ABCが報じた。また、イラン中部イスファハン州(同州のナタンズにはウラン濃縮のための地下施設等の核関連施設がある)の空港付近で爆発音が聞かれた旨4月18日夜(米国東部時間)にイランのファルス通信が伝えた。しかしながら、爆発音は同国の防空システムの作動に伴うものであり、イスラエルによるイランに対するミサイル攻撃はなく、イスファハンの上空に3基の無人機を確認した(イランの空軍基地を標的としていたとされる)ことにより、防空システムにより破壊した一方、イスラエルはイランの核施設を攻撃の標的にはしていない旨米国当局者が明らかにした他、イランの核関連施設を含む施設に被害はなかった旨イランのアブドラヒアン外相が明らかにしたうえ、イランとしては今回の攻撃に対する報復措置の実施は当面予定していない旨同国政府幹部が示唆したと4月19日に伝えられた。また、4月22日にイラン外務省は、4月19日にイスラエルが実施したとされる対イラン報復措置に関し、実際にイスラエルが行ったものであるかどうかについての断定を回避するとともに、ナタンズにある核関連施設防衛のための防空システムがイスラエルの攻撃により破損したとの米国報道機関による報道(イスラエル軍が3発のミサイルを発射するとともにイランのナタンズの核施設を防衛するための防空システムが破損した旨4月19日に米国ABCが報じていた)も被害はないとして否定、さらに今後の展開によってはイランが核兵器を保有する方針に転換する可能性もある旨4月18日にイラン革命防衛隊が発言したことについても、核兵器を保有する意向はないとして否定した。
他方、5月5日から6日にかけエジプトのカイロで行なわれた、パレスチナ自治区ガザ地区の休戦及び人質解放等を巡るイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの協議において、ハマスがガザ地区の休戦等を巡りエジプト及びカタールが行なった提案を受け入れた旨5月6日に伝えられた。しかしながら、ハマスが受け入れた提案はイスラエルの意向とは異なる部分があり(ガザ地区における一時的な休戦を主張するイスラエルは、持続的な平穏状態の回復に向けた協議の実施を提案した一方、恒久的停戦を主張していたハマスの受け入れた提案内容には、イスラエル軍のガザ地区からの撤退や恒久的停戦に関する協議の実施が追加されていたとされる)、5月8日にはイスラエルのネタニヤフ首相が、ハマスの受け入れた提案はイスラエルの許容範囲を超えており、受け入れられない旨表明した。このようなこともあり、5月7日よりカイロで再開された交渉は妥結することなく5月9日に終了した。そして、イスラエルへの物資の供給に関与する企業の船舶は仕向地に関係なく攻撃の対象となる旨イエメンのフーシ派武装勢力が5月9日に明らかにした。5月9日夜(現地時間)にはイスラエル戦時内閣がガザ地区南部の都市であるラファ(5月8日の時点で同市東部の郊外においてイスラエルがハマスとの間で戦闘を行なっていた旨伝えられる)に対し限定的な攻撃の拡大を承認した旨5月10日に米国新興報道機関アクシオスが報じた。そして、イスラエル軍がラファ東部の市街地に進軍しつつありハマスとの間で戦闘を行なっている旨5月14日に伝えられた。また、イエメンのフーシ派武装勢力は、紅海周辺に限らず、そして、米国及び英国に限らず、イスラエルの港湾に向かう全ての船舶が攻撃の対象となる旨5月16日に同勢力の指導者フーシ氏が発表した。そして、5月18日には紅海周辺地域でギリシャの石油タンカー「M/Tウインド」(パナマ船籍)(同タンカーはロシアのノボロシイスクにおいて石油を積載したうえで中国に向け航行していたとされる)がフーシ派武装勢力によりミサイル攻撃を受けた旨報告されるなど、5月17日から18日にかけ複数の船舶が攻撃されたと5月18日に伝えられる。
このように、中東を巡っては、イスラエルとイランとの間での対立の先鋭化は一旦沈静化した格好となっていることもあり、イランとイスラエル及び米国等による対立の先鋭化に伴う、中東地域(特にペルシャ湾周辺地域)における政情不安の激化と同地域からの石油供給途絶の可能性に対する懸念は後退したうえ、イスラエルとイラン、及びイスラエルとハマスとの間での対立の先鋭化を以てしても、中東地域からの石油供給の混乱が増大する兆候が見られなかったこともあり、市場関係者間での懸念が低下する格好となったことが、原油相場に下方圧力を加えた結果、4月2日以降WTIで概ね1バレル当たり84~88ドルを中心とする領域で変動していた原油価格は、4月17日から4月30日にかけては概ね同81~84ドルを中心とする領域、さらに5月1日から5月17日にかけては概ね同77~80ドルを中心とする領域へと、それぞれ切り下げた。しかしながら、ガザ地区の休戦や人質解放等につきイスラエルとハマスとの間での協議は妥結しておらず、イスラエルはラファに対する地上侵攻を拡大しつつあるなど、ガザ地区を巡るイスラエルとハマスとの戦闘による中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念は今暫く持続する可能性があり、この面では原油相場が下支えされる可能性がある。そして、実際にイスラエルとハマスとの戦闘状態の激化が再びイスラエルとイランとの対立の先鋭化に繋がるようであれば、ペルシャ湾を航行するタンカーのイラン等による拿捕、ホルムズ海峡封鎖の可能性を巡るイランによる挑発的な言動、及びイランが支援しているとされるイエメンのフーシ派武装勢力によるサウジアラビア(イスラエルとの外交関係改善を視野に入れつつあるとされる)の石油関連施設等を標的とした攻撃の試み、といった事象が発生する結果、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で再び増大することにより、原油相場に再び上方圧力が加わらないとも限らないので注意する必要があろう。
また、ウクライナが発射したものと見られる無人機等による、ロシアにおける製油所を含む石油関連インフラへの攻撃は継続している。4月20日午前2時頃(現地時間)には、ロシア西部のスモレンスク(Smolensk)州にある油槽所が、ウクライナが発射した無人機により攻撃され、火災が発生した。他方、ロシア南西部オレンブルグ(Orenburg)州オルスク(Orsk)製油所(操業者:フォルテインベスト(Forteinvest)、原油精製処理能力日量12万バレル、雪解け水により記録的規模の洪水が発生した結果、操業が停止した旨4月6日に伝えられ、4月8日には操業に関し不可抗力条項の適用を宣言した)の操業は4月23日の朝(現地時間)再開された旨伝えられる。ただ、ウクライナにより発射された無人機がロスネフチの所有するスモレンスク州リペツク(Lipetsk)の油槽所2ヶ所を4月24日に攻撃した、とウクライナ情報筋が明らかにした(同施設では火災が発生したとされる)。また、ロシア南西部クラスノダール(Krasnodar)地方にあるイルスキー(Irsky)製油所(操業者KNGKグループ、原油精製能力日量13.3万バレルとされる)及びスラビャンスク(Slabyansk)製油所(操業者スラビャンスクECO、原油精製能力推定日量17万バレル)が4月27日朝(現地時間)にウクライナが発射した無人機による攻撃を受け火災が発生した旨ウクライナ情報筋が明らかにした(また、ロシア国営タス通信も、ウクライナが発射した無人機がスラビャンスク製油所を攻撃した結果、同製油所は損傷し操業の一部を停止した旨4月27日に報じている)。また、ロシア南西部リャザン(Ryazan)州にあるリャザン製油所(操業者: ロフネフチ、原油精製処理能力:日量34万バレル)がウクライナの無人機により攻撃された結果火災が発生した、とリャザン州知事であるマルコフ(Malkov)氏が発言した、(なお、同製油所は3月13日にもウクライナの無人機により攻撃を受け操業を停止、以降徐々に稼働を回復させつつあった旨5月1日に伝えられる)。他方、ロシア南西部のクラスノダール地方にあるトゥアプセ(Tuapse)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレルとされ、2024年1月24日深夜から1月25日未明(現地時間)のウクライナによるものと見られる攻撃により操業を停止した)が操業を再開した旨5月6日に報じられた。しかしながら、ロシア南西部クラスノダール地方のユロフカ(Yurovka)にある油槽所にウクライナが発射した無人機が飛来、迎撃したものの、残骸が落下した結果、一部のタンクで火災が発生し損傷した旨5月9日に伝えられる(同施設は5月2日にも攻撃された旨併せて報じられる)。また、ロシア南西部にあるバシコルトスタン(Bashkortostan)共和国にあるガスプロム・ナフチクヒム(Gasprom Neftekhim)が操業するサラバト(Salavat)製油所(原油精製処理能力日量20万バレル)がウクライナからの無人機による攻撃を受けた(しかしながら、操業は通常通り実施され続けている)旨5月9日に報じられる。さらに、ウクライナが発射した無人機がロシア西部カルーガ(Kaluga)州にあるペルビ・ザボッド(Pervyy Zavod)製油所(操業者:ペルビ・ザホッド精製会社、原油精製処理能力日量2.4万バレル)を攻撃した結果火災が発生した(同製油所は3月15日にもウクライナによる攻撃を受けた結果損傷したとされる)旨5月10日に国営ロシア通信が報じた。加えて、ウクライナが発射した無人機がロシアのボルゴグラード(Volgograd)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理能力日量30万バレルと見られる)を攻撃した結果、火災が発生(その後鎮火)した旨5月12日に伝えられた。5月15日夜(現地時間)にはロシア南西部ロストフ(Rostov)州の油槽所2ヶ所が無人機による攻撃を受けた旨同日報じられた他、同じく、5月15日夜(現地時間)にはトゥアプセ製油所が、ウクライナが発射した無人機により攻撃された結果火災が発生した(LPG生産施設が破損した結果火災が発生しており、常圧蒸留装置は被害を受けていないものの、製油所の操業は停止しているとされる)。そして、5月17日朝(現地時間)には、ロシアのノボロシイスク(Novorossiysk)にある黒海沿岸石油積み出し港の関連施設が、ウクライナが発射した無人機により攻撃された結果、操業を停止(その後一部施設は操業を再開)した。さらに、5月19日にもロシアのスラビャンスク製油所がウクライナによる無人機攻撃を受けた後操業を停止した。このように、ウクライナはロシアの製油所等石油関連施設を攻撃し続けている(なお、石油価格の上昇要因になりうるとして米国がウウライナに対しロシアにおける製油所等のエネルギー関連施設に対する攻撃を停止するよう要請した旨3月22日にフィナンシャル・タイムスが伝えたものの、ウクライナによるロシア製油所等への攻撃は正当化される旨3月22日にウクライナのステファニシナ(Stefanishyna)副首相は表明した)。それでも、ウクライナが発射したものとみられる無人機等により攻撃されたロシアの製油所等の石油関連インフラの操業再開が比較的早期になされていると推測されることもあり(攻撃により3月末には同国の製油所の原油精製処理能力の14%近くが停止したと推定されたが、操業再開に伴いその後10%程度にまでその割合が低減した旨4月16日にロイターが報じている)、足元ウクライナによるものと見られるロシア石油関連インフラへの攻撃の原油相場への影響も限定されつつあるように見受けられる(また、製油所のメンテナンス作業終了と燃料在庫の増加により、3月1日より実施されているロシアのガソリン輸出禁止を解除すべくロシア政府が検討している旨5月13日にロシアのノバク副首相が明らかにした(5月7日にもロシア関係筋が同趣の発言していた)ことが、原油相場の上昇を抑制する方向で作用しているものと思われる)。しかしながら、今後ウクライナがロシアの石油関連施設攻撃を停止する旨表明するようでなければ、ロシアの石油関連インフラへの攻撃が継続することに伴い、大西洋圏を中心とする地域に向けたロシア産石油製品等の供給に一時的にせよ支障が発生することにより石油需給が引き締まるとの懸念を完全には払拭しきれない結果、原油価格の下落が抑制されるか、事態の成り行きによっては、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性があるものと考えられる。
原油市場を見るうえでの米国経済面での注目点は、同国金融当局による政策金利引き下げ、もしくは引き下げを巡る市場の観測であろう。4月30日にシカゴ購買部協会から発表された4月のシカゴ地区等製造業景況感指数(50は当該部門拡大と縮小の分岐点)は37.9と3月の41.4から低下、2022年11月(この時は37.8)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(45.0)を下回ったうえ、この日米国労働省から発表された2024年1~3月期同国雇用コスト指数(ECI: Employment Cost Index)は前期比1.2%の上昇と2023年10~12月期(同0.9%の上昇)から伸びが加速、2023年1~3月期(この時は同1.2%上昇)以来の高水準の上昇率となった他市場の事前予想(同1.0%上昇)を上回った一方、4月30日に米国民間調査機関コンファレンス・ボードから発表された4月の同国消費者信頼感指数(1985年=100)は97.0と3月の103.1(改定値)から低下、2022年7月(この時は95.3)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(104.0)を下回った。そのような中、4月30日から5月1日にかけての米国連邦公開市場委員会(FOMC)開催後に行なわれた記者会見で、米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、物価上昇を示す指標類が予想を上回っていることにより、(政策金利の引き下げが適切である旨)確信を持てるようになるまでには従来見込んだよりも長い時間を要しそうである旨示唆したものの、政策金利を引き上げる可能性は低い旨指摘した。他方、2024年4月の米国雇用統計内容は堅調ではあるものの景気が過熱していない旨確信を持つには十分な程度にまで鈍化している可能性がある(2024年5月3日に米国労働省から発表された4月の同国非農業部門雇用者数は前月比で17.5万人の増加と2023年10月(この時は同16.5万人の増加)以来の低い水準となっている他市場の事前予想(同24.0~24.3万人の増加)を下回っていた)が、物価上昇沈静化を示唆するさらなるデータが依然必要であると認識している旨5月3日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。また、米国の物価上昇はいずれ沈静化するものの当面高水準で維持される可能性が高く、足元の金融政策は経済を減速させうるものの、同国金融当局の目標である年率2%にまで引き下げるのに十分なものかどうか(の判断)は、今後発表される予定であるデータ次第であると認識している旨5月3日にFRBのボウマン理事が明らかにした。さらに、足元物価上昇は沈静化しつつあるように見受けられるものの、沈静化したと確認できるまで待つ必要がある旨5月6日にリッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにした他、FRBの次の行動は政策金利引き下げになるものと認識している旨5月6日にニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が明らかにした(但し具体的日程は示さなかった)。5月7日には、ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が、米国の物価上昇が沈静化の過程を進みつつある旨確信が持てるようになるまで、政策金利水準は長期間現状を維持することになるであろう旨発言した。また、米国の物価上昇率が年率2%の目標へと沈静化するためには、当初の想定を上回る程度長期に渡り高水準の政策金利を維持する必要がある可能性がある旨同国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が示唆したと5月8日に報じられた。さらに、米国物価上昇沈静化までにはさらなる時間を要するかもしれず、この先数ヶ月間の展開は不透明感を伴う旨5月9日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が明らかにした。そのような中で、5月10日に米国ミシガン大学から発表された5月の同国消費信頼感指数(速報値)(1964年=100)は67.4と4月の77.2から低下した他市場の事前予想(76.0~76.2)を下回った一方、同日同大学から発表された1年先の物価上昇率予想は年率3.5%と4月の同3.2%から拡大、2023年11月(この時は同4.5%)以来の高水準となった。また、足元の政策金利水準は物価上昇を沈静化するために十分かどうか定かではなく、政策金利引き下げを検討するには時期尚早であると認識している旨5月10日に米国ダラス連邦準備銀行のコリンズ総裁が説明した一方、足元の物価上昇率低下は緩やかであり、時間を要する可能性はあるものの、2024年末までには米国政策金利引き下げが実施される可能性が高い旨5月10日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした。さらに、米国物価上昇率が年率2%の目標にまで低下するまで、金融当局は慎重な姿勢で臨むべきである他、2024年末までには政策金利引き下げ実施が適切にはならないものと見ている旨、5月10日にFRBのボウマン理事が明らかにしたうえ、米国物価上昇沈静化過程が停滞しつつあるとの証拠は見られないものの、金融政策はこの先明らかになるデータに依存する旨5月10日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示唆した。そして、5月13日にニューヨーク連邦準備銀行から発表された1年先の物価上昇率予想は年率3.26%と2023年11月(この時は同3.36%)以来の高水準の上昇率となっている旨判明した。5月13日には、FRBのジェファーソン副議長が、米国物価上昇沈静化過程が2024年1~3月に減速していることを懸念しており、同国物価上昇率が目標である年率2%に低下しつつあることを示す明確な証拠が見られるまで、政策金利を維持することが妥当である旨発言した。また、5月14日に米国労働省から発表された4月の同国生産者物価指数(PPI)は前月比で0.5%の上昇と市場の事前予想(同0.3%の上昇)を上回ったうえ、2024年末に向け米国の物価上昇は沈静化に向かいつつあるものと見込んでいるものの2024年第1四半期の物価上昇率が予想を上回ったこともあり、物価上昇が十分に沈静化したと確信するまでには従来よりも長い期間を要するかもしれない旨、5月14日にFRBのパウエル議長が明らかにした。さらに、米国の高水準の政策金利は当面維持される可能性がある旨同国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミット総裁が認識している旨5月14日夜(米国東部時間)に報じられたうえ、米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁も、物価上昇が沈静化したと判断するのは時期尚早であり、その証拠がデータにより得られるまでは、政策金利を維持することが妥当である旨の見解を示した旨5月14日夜(同)に伝えられる。ただ、5月15日に米国労働省から発表された4月の同国のエネルギー及び食料品を除くコア消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.6%の上昇と2021年4月(この時は同3.0%上昇)以来の低水準に到達した旨判明した。それでも、物価上昇が沈静化しつつあることを示唆する米国コアCPIに加え、さらなる物価上昇沈静化を示唆する指標等が、政策金利引き下げ判断には必要であるものと考える旨5月15日にシカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が説明した他、米国金融当局は政策金利引き下げを判断する前に長い期間物価上昇を巡る状況を見極める必要があろう旨5月15日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにした。そして、5月16日に米国労働省から発表された4月の輸入物価指数は前月比で0.9%の上昇と2022年3月(この時は同2.9%上昇)以来の大幅な上昇となった他、市場の事前予想(同0.3%の上昇)を上回ったうえ、物価上昇は徐々に沈静化しつつあることを米国の物価指標類は示唆しているものの、政策金利引き下げを判断するためにはさらなるデータが必要であろう旨米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が明らかにしたと5月16日に報じられた他、米国非製造業部門の物価水準が高いこともあり、物価上昇率が目標の年率2%にまで低下するまでには時間を要する旨5月15日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が発言した。さらに、米国の物価水準が目標の年率2%に向かいつつあることを示すさらなる指標類等が必要であり、従来見込みより長期に渡り高水準の政策金利を維持しなければならない旨米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が示唆したと5月16日に伝えられた。加えて、当面高水準を維持するものと見込まれる足元の物価上昇は、いずれは沈静化に向かうものと認識しているものの、物価上昇の沈静化が足踏みしたり、物価上昇が加速したりするようであれば、政策金利引き上げも選択肢とする用意がある旨米国FRBのボウマン理事が明らかにしたと5月17日に伝えられる。このように、米国経済指標類は、同国物価上昇の沈静化過程が緩やかである反面、経済指標類は同国経済が減速しつつあることを示すものが散見されるものの、米国金融当局関係者の発言は、政策金利引き下げには物価上昇沈静化を示すさらなる指標類等が必要である他、その過程は従来見込んでいたよりも長期を要する可能性がある旨示唆するものが主流であるように見受けられることから、この面では米国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退する結果米ドルが上昇するとともに原油相場に下方圧力が加わりやすい側面がある。しかしながら、5月15日に発表された米国のコアCPIは、同国物価上昇が鈍化しつつあることを示していたことから、市場関係者の間で政策金利の引き下げ観測が増大する(5月18日時点では、9月17日から18日にかけて実施される予定であるFOMCにおいて政策金利引き下げが実施される確率は49.0%であり、他のどの選択肢予想よりも高い確率となっている)とともに、米国経済回復期待が増大したこともあり、米国株式相場が上昇する(5月17日の同国ダウ工業株30種平均の終値は40,003.59ドルと史上初の40,000ドル超の終値となった)など、米国金融当局による政策金利引き下げに伴う経済回復期待には根強いものがあることから、この面では米国株式相場とともに原油相場も支持されやすいものと考えられる。
また、中国経済の動向も原油相場に影響を与えうるものと考えられる。4月16日に中国国家統計局から発表された2024年1~3月期の同国国内総生産(GDP)は前年同期比5.3%の増加と2023年10~12月期の同5.2%から伸びが拡大した他市場の事前予想(同4.6~4.8%の増加)を上回った一方、2024年3月の同国鉱工業生産は前年同月比4.5%の増加と2024年1~2月の前年同期比7.0%増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同6.0%の増加)を下回ったうえ、2024年3月の同国小売売上高は前年同月比3.1%の増加と2024年1~2月の同5.5%増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(4.6~4.8%の増加)を下回った。また、併せて発表された、2024年1~3月の同国固定資産投資は前年同月比4.5%の増加と市場の事前予想(4.0%の増加)を上回った他、2024年3月の同国製油所の原油精製処理量は6,378万トン(推定日量1,506万バレル)と2024年1~2月(1億1,876万トン、同1,449万バレル)から増加した他前年同月(6,329.0万トン(同1,494万バレル)比0.8%の増加となった旨判明した。また、4月27日に中国国家統計局から発表された3月の同国工業企業利益は前年同月比で3.5%の減少と1~2月の前年同期比10.2%の増加から減少に転じた。4月30日に中国国家統計局から発表された4月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は50.4と3月の50.8からは低下したものの引き続き50超となった他、市場の事前予想(50.3)を上回った一方、4月の同国非製造業PMIは51.2と3月の53.0から低下した他、市場の事前予想(52.3)を下回った。また、4月30日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された4月の同国製造業PMIは51.4と3月の51.1から上昇した他、6ヶ月連続で50を超過したうえ、市場の事前予想(51.0)を上回った。さらに、5月5日に財新伝媒から発表された4月の中国サービス業PMIは52.5と3月の52.7から低下したものの、16ヶ月連続で50超となった他、同国の新規受注が2023年5月以来の高水準に到達した。さらに、5月9日に中国税関総署から発表された4月の同国輸入(米ドル建)は前年同月比8.4%の増加と市場の事前予想(同4.7~4.8%の増加)を上回った他、輸出(同)は同1.5%の増加と市場の事前予想(同1.3~1.5%の増加)と同水準か事前予想を上回ったうえ、4月の同国原油輸入量は4,472万トン(推定日量1,091万バレル)と前年同月比5.4%の増加となっている旨判明した。他方、5月11日に中国国家統計局から発表された4月の同国CPIは前年同月比で0.3%の上昇と4月の同0.1%の上昇から伸びが拡大した他市場の事前予想(同0.2%の上昇)を上回った一方、同国PPIは前年同月比2.5%の下落と3月の同2.8%の下落からは下落率が縮小したものの、2022年10月以来前年割れの状態が継続するなどした他、市場の事前予想(同2.3%の下落)を上回って下落している旨判明した。そして、5月17日に中国国家統計局から発表された4月の同国鉱工業生産は前年同月比6.7%の増加と3月の同4.7%の増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同5.5%の増加)を上回った(もっとも、中国鉱工業生産の伸びの拡大は輸出が好調であることに伴う外的要因によるものであり、むしろ中国経済は軟調である旨示唆する向きもある)一方、4月の同国小売売上高は同2.3%の増加と3月の同3.1%の増加から伸びが鈍化、2022年12月(この時は同1.8%の減少)以来の低水準となった他市場の事前予想(同3.7~3.8%の増加)を下回った。また併せて発表された2024年1~4月期の同国固定資産投資は前年同期比4.2%の増加と1~3月期の同4.5%の増加から伸びが低下した他市場の事前予想(同4.6%の増加)を下回ったうえ、2024年1~4月期の同国不動産投資も前年同期比9.8%の減少と1~3月期の同9.5%の減少から減少率が拡大した。そして、5月17日に中国国家統計局から発表された4月の同国製油所の原油精製処理量は5,879万トン(推定日量1,435万バレル)と3月の同1,506万バレル及び前年同月(同1,492万バレル)を下回っている旨判明した(大規模製油所が春場のメンテナンス作業を実施した他、中小規模の製油所が精製利幅の確保が困難となったことにより稼働を低下させたことによるものと指摘する向きがある)。他方、中国不動産部門の回復がもたついていることを受け、住宅購入のための頭金比率の下限を引き下げるとともに融資金利の下限を事実上撤廃することや地方政府が金融機関からの融資を利用し住宅を購入することを含め、一連の支援策を講じる旨5月17日に中国政府は発表した。このように、中国経済指標類は少なくともまだら模様であり同国経済回復は不安定な状況であることが示唆されるが、反面持続的に同国経済が悪化しつつあることを示しているわけでもないことから、この面では少なくとも原油相場に下方圧力が加わり続けると言った展開となる可能性はそれほど高くない反面、不動産部門に対する支援策を含め、中国政府等による景気刺激策の実施に対する期待が発生しやすいことから、この面では原油相場は下支えされやすく、さらに同国経済回復を示唆する指標類や、中国政府等による景気刺激策を巡る動きが見られるようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありえよう。
米国では5月25~27日の連休(5月27日が戦没者追悼記念日(メモリアル・デー)の休日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入する。このため、ガソリン需要が盛り上がることに伴い、当該製品生産のために製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加することにより、原油の購入が活発化するといった観測が市場で醸成されることから、季節的な需給の引き締まり感が市場で強まる結果、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。しかしながら、最近の米国週間ガソリン出荷量は増減を繰り返すなど、増加を持続しているようには見受けられず、物価上昇や、それに伴う米国の政策金利引き上げを含む金融引き締め政策の実施等に伴う経済減速が同国ガソリン需要に影響しているのではないかとの見方も発生するなど、市場心理は必ずしも強気に満ちているとは言い切れない部分もある。そして、例えば、2024年の米国戦没将兵追悼記念日に伴う連休時の休暇シーズン(5月23~27日)に同国で乗用車を利用して外出する個人は3,840万人と、2000年以降の統計史上最高水準に到達すると見込んでいる旨米国自動車協会(AAA)が5月13日に明らかにしているが、物価上昇や経済減速に伴い旅行に支出する予算が限定される中、個人の旅行がより短期間、及びより短距離なものとなる結果、自動車運転距離数が低迷することにより、ガソリン需要がもたつくと言った展開となることも想定される。そしてこのように、米国経済減速を理由として同国のガソリン需要が伸び悩むようであれば、季節的な需要の拡大に伴う原油相場への上方圧力はその分だけ弱まる可能性があることに留意する必要があろう。
大西洋圏では公式と目されるハリケーン等の暴風雨シーズンの突入までにはなお若干の期間がある(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。しかしながら、現時点までに明らかになっている一部機関による2024年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想では、記録的な水準に近い頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する(表1参照)他、一部の暴風雨は6月1日以前に発生する可能性がある旨指摘されている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2023年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量63万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2023年は当該地域で日量186万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,293万バレル)の約14%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2023年の当該地域の原油精製処理能力は日量988万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,825万バレル)の約54%を占めた)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。
また、カナダ西部アルバータ州では、山火事が勢いを増すとともに、同州北部の都市であるフォート・マクマレー(Fort McMurray)に接近しつつあることに伴い、一部住民に避難命令が発令された旨5月14日に伝えられる。フォート・マクマレー(及びその周辺地域)はカナダのオイルサンドの採掘もしくは開発、及び生産(もしくは採掘等されたオイルサンドの改質)の中心地であり、同国の石油生産量日量583万バレル(2023年)の相当部分が生産されている(そして主に米国に向け輸出されている)。従って、山火事がさらに勢いを強めるようだと、同地域におけるオイルサンドを含む石油生産にも影響が及ぶ可能性がある。2016年に発生した山火事の際には、最大で日量100万バレル程度の生産が停止したとされることもあり、今後も同国の石油生産を巡り市場は神経質になりやすい他、カナダの山火事及び住民の避難状況、施設の操業状況(もしくは場合によっては火災に伴う被害状況)によっては、同国の石油生産及び米国のカナダからの石油輸入に影響が発生する結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性もあるので、注意する必要があろう。
OPECプラス産油国は6月1日に閣僚級会合を開催する予定である。同会合においては2024年第3四半期もしくは同年後半の原油生産方針につき議論されるものと考えられるが、現時点の世界石油需給見通しに基づくと、2024年初頭より一部OPECプラス産油国が実施している(もしくは今後実施する予定である)自主的な減産措置を延長しない場合、2024年後半は供給が需要を日量132~175万バレル程度上回る(表2参照)結果、供給過剰となることに伴い原油相場に下方圧力が加わることが想定されるとともに、原油価格の安定を目指す、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国の意向に反することになるものと考えられる。このため、同会合においては、世界石油需給バランスの均衡を目指すべく、現行の自主的な減産を延長することを検討するものと考えられる(表3参照)。その際、2024年11月下旬もしくは12月上旬の開催が予想される、その次の閣僚級会合において2025年初頭以降の減産措置の取り扱いを議論するまで不都合が発生しないよう、2024年末まで減産措置の延長を決定することもありうるが、中東やロシア及びウクライナを巡る情勢が不透明であることからすると、とりあえず2024年9月末まで減産を延長することとし、2024年第4四半期における減産措置の取り扱いについては、8月初頭前後に開催されるものと思われるOPECプラス共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)において議論及び決定するといった展開となる可能性もある。
他方、アラブ首長国連邦(UAE)の原油生産能力が2023年末時点の日量465万バレルから足元同485万バレルへと拡張した旨アブダビ国営石油会社ADNOCが5月2日に明らかにした。従来からUAEはOPEC加盟が自国の長期的利害(将来の世界石油需要に関する不透明感が強まる中、早期に原油生産を進めるとともに収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識していることが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討していた(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)と2020年11月17日に伝えられていた。そのような背景もあり、2021年7月1日に開催されたJMMCの際、2018年10月時点での自国の原油生産能力日量316.8万バレルがこの時点で同384万バレルへと拡大されたことにより、減産措置の基準となる原油生産量(この時点では2018年10月の原油生産量が採用されていた)の引き上げをUAEは要求した。この結果、2021年7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、2022年5月1日よりUAEの基準原油生産量をそれまでの日量316.8万バレルから同350万バレルへと引き上げる旨決定した(その他、サウジアラビア、イラク、クウェート及びロシアも併せて基準原油生産量を引き上げた)。また、外交面等においてサウジアラビアとUAEとの関係が必ずしも良好あるとは言い切れなくなっていることもありUAEはOPEC脱退につき内部で検討している旨2023年3月3日朝(米国東部時間)にウォールストリート・ジャーナルが報じた(しかし、ウォールストリート・ジャーナルの報道は真実から大きく乖離している旨UAE関係筋が明らかにしたと、ウォールストリート・ジャーナルによる報道の1時間程度後にロイター通信が報じるなど、情報が錯綜した)など、UEAは2023年に入り再び自国の原油生産目標の引き上げをサウジアラビア等に要望していた可能性がある。そのようなことから、2023年6月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では2024年1~12月のUAEの原油生産目標の引き上げが認められた(その分西アフリカのOPEC産油国の原油生産目標が引き下げられる格好となっており、2023年12月21日にはアンゴラが自国の利益に合致しないとしてOPECを脱退する旨表明した)。このように、UAEは最近自国の原油生産目標引き上げに向け動いているように見受けられることもあり、今回のUAEの原油生産能力拡大の発表も、6月1日に開催される予定のOPECプラス産油国閣僚級会合に向けた自国の原油生産目標のさらなる引き上げのための圧力の一環となっている可能性があり、同会合においては、原油生産目標引き上げを希望するUAEと他のOPECプラス産油国との間で議論が紛糾(もしくは今回のOPECプラス産油国閣僚級会合は円滑に行われるものの、以降原油生産目標を巡り議論が紛糾)する恐れがある点に、留意する必要があろう。
他方、5月11日にイラクのアブドルガニ石油相は、既に自国は十分な減産を実施しており、6月1日のOPECプラス産油国会合閣僚級会合においては、さらなる減産には合意しない旨表明した(同国が減産幅の拡大に反対しているのか、もしくは自主的なものを含め既存の減産の延長に反対しているのかは明らかにならなかった)。5月12日にはアブドルガニ石油相は、OPECプラス産油国間で合意された減産を含む措置には従う方針である旨明らかにしたが、減産延長等の合意に至る過程においてイラクがどうか対応するかについては判然としていない。2003年のイラク戦争以降、イラクは自国経済等の復興を巡り紆余曲折を経ている状態にあり、復興を円滑に推進するためには、多額の原油収入を必要としている状況から、減産の実施には積極的でないように見受けられる部分があり、UAE同様、イラクについても、6月1日に開催される予定であるOPECプラス産油国会合、もしくはそれ以降の時点において、自国の原油生産目標を巡り、他のOPECプラス産油国との間で議論が紛糾しないとも限らないものと考えられるので、注意する必要があろう。
また、2024年4月3日に開催されたJMMCにおいては、減産遵守徹底が事実上呼びかけられたが、2024年1~4月において少なくともイラクとカザフスタンの減産遵守が徹底されていない状況である(表4参照)。そして、イラク、カザフスタン及び新たに自主的に減産を強化するロシア(2024年第2四半期において新たに最大日量47.1万バレルの減産強化に向け、ロシア政府が同国石油会社に対し6月末までに原油生産量を削減(し日量900万バレルと)するよう指示した旨3月25日に報じられている)等を含むOPECプラス産油国の今後の遵守状況によっては、減産措置に対するOPECプラス産油国の遵守状況を巡り懐疑的な見方が市場で増大するとともに、原油相場に影響が及ぶといった展開となることも否定できないものと考えられる。
全体としては、今後米国で夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入するとともに、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大しやすくなることが、原油価格を上振れさせやすくするものと見られる。加えて、OPECプラス産油国の減産措置延長に伴い石油需給の引き締まり観測が市場で発生しやすいことも原油相場に上方圧力を加える可能性がある。また、中東やウクライナ及びロシアを巡る情勢の不安定化とそれら地域からの石油供給途絶懸念が、原油相場を支持しやすいものと考えられる。そのような中、米国経済及び金融政策、中国の経済及び景気刺激策等を巡る動向、カナダのアルバータ州北部における山火事の状況と同国石油生産に及ぼす影響等により、原油価格が変動することがありうるものと思われる。
4. 世界天然ガス市場動向
米国では、2024年2月から4月にかけては、前年同月に比べ総じて気候が温暖であった(図16参照)こともあり、暖房向けの天然ガス需要が低調となったことにより、この時期同国の民生部門の天然ガス需要は前年同月を下回っており(図17参照)、特に前年同月比で相当程度温暖になった3月はそれなりの幅で落ち込むこととなった。また、2024年1月の中旬を中心として米国の広い地域に厳しい寒波が来襲した(なお、2023年1月は米国には厳しい寒波は来襲しなかった)ことにより、同国の天然ガス生産、製油所及び石油化学産業を含め鉱工業生産活動に支障が発生したが、その影響が部分的にせよ2月以降に及んだものと見られる他、2~3月は前年同月に比べ米国が温暖であったことから、熱源向けに必要な燃料が相対的に少量で済んだこと、4月は米国製造業が失速した(同月の同国鉱工業生産活動は前年同月比0.4%の減少となった)こともあり、2024年2月から4月にかけての産業部門における天然ガス需要は前年同月を下回ることとなった。さらに、2024年2~3月が暖冬であったことが暖房のための空調向けの電力供給用の発電部門における天然ガス需要を抑制した反面、天然ガス価格が下落したことにより、発電向けの燃料として天然ガスが指向された側面があったことが、同部門での天然ガス需要を下支えする格好となったことから、同部門おける当該需要は、2月は前年同月を若干上回った(因みに同月の米国天然ガス先物価格は100Btu当たり1.800ドルと同月としては1999年(この時は同1.761ドル)以来の低水準であった)ものの、3~4月においては前年同月を若干ながら下回る状況となった。このように、2024年2~4月は民生、産業及び発電の各部門における天然ガス需要が軒並み前年同月比で減少となったことから、それらを合計した天然ガス需要も同時期前年割れとなった。
他方、冬場の終了と春場の到来が接近しつつあったこともあり、気温が上昇するとともに空調向けの電力供給のための発電部門での天然ガス需要が拡大し始めたメキシコによる米国からの天然ガス輸入が増加傾向となった(図18参照)。また、2024年1月中旬に米国南部にまで来襲した厳しい寒波の影響で同国テキサス州のフリーポート天然ガス液化施設(操業者:フリーポートLNG、天然ガス液化能力年間1,500万トン)の第3液化施設(天然ガス液化能力年間500万トン)において電気系統の不具合が発生したことから同施設は操業を停止した(当初は少なくとも1ヶ月間は停止すると伝えられた)。また、3月上旬にはフリーポート天然ガス液化施設第2液化施設(同)も操業を停止した。フリーポートLNGは、1月の寒波により第3液化施設において発生した装置の不具合の原因が判明したことに伴い、他の液化施設についても予防的に点検が必要となったことから、第2液化施設及び第1液化施設(同)についても5月まで操業を停止する旨3月20日に明らかにした(この時点で第1液化施設は操業を停止していなかったが、間もなく停止するとした他、操業再開後6月までには同施設の天然ガス液化能力は10%拡大し年間1,650万トンになる旨同日同社は説明している)。そしてその際、フリーポートLNGの第3液化施設は操業を再開し、天然ガスを液化している旨明らかにした。ただ、その後第3液化施設は4月9日深夜(現地時間)に流量計に不具合が発生したことにより4月10日午後半ば頃(同)まで操業を停止する予定である旨4月11日に伝えられたが、その後もフリーポート天然ガス液化施設向けの天然ガスの流入が停止したままとなったため、同基地の全ての施設が停止していることが示唆された(但し、4月23日には同基地においてLNGを積載したタンカーが出航した他、4月24日には第3液化施設が装置不具合発生により操業を停止した旨フリーポートLNGが明らかにしているため、同施設の操業が一時的に再開されていたものと推測される)。同施設に天然ガスが本格的に流入し始めたのは4月28日であり、5月1日にはLNGを積載したタンカーが出港した(第3液化施設が操業を再開したものと推察される)。そして、5月14日には同基地における全ての液化施設の操業が再開した旨報じられた他、5月15日にはフリーポートLNGが全ての液化施設での操業が再開した旨発表した。ただ、欧州を含む米国外諸国及び地域においても、冬場の暖房のための民生部門及び空調向けの電力供給のための発電部門等における天然ガス需要が低迷していたこと(後述)もあり、2024年2月から4月にかけての米国からのLNG輸出は減少傾向となった(図19参照)。
他方、2024年1月中旬を中心として米国テキサス州等の南部を含む広い地域に厳しい寒波が来襲したこともあり、同国のシェールガスを含む天然ガス生産地域では、関連資機材に不具合が発生するとともに稼働が低下した結果、天然ガス生産が減少する場面が見られた(2024年1月の米国天然ガス生産量は日量1,034億立方フィートと2023年7月(この時は同1,034億立方フィート)以来の低水準に到達した)。2月には生産は部分的に回復したものの、米国天然ガス価格が下落傾向となり、2024年3月26日には100万Btu当たり1.575ドルの終値と2020年6月26日(この日の終値は同1.495ドル)以来の低水準に到達するなどしたこともあり、同国の天然ガス生産を巡る採算性が悪化したことにより、3月から4月にかけては同国の天然ガス生産は低調となった他、2025年末にかけても、当初の見込みに比べ米国天然ガス生産はもたつき気味に推移するものと見られている(図20参照)。
このように、米国では必ずしも天然ガス供給は堅調ではなかったものの、需要及び輸出が軟調であったことにより相殺されて余りあったことから、2024年1月26日時点では平年(過去5年平均)水準を5.1%上回っていた同国の天然ガス在庫は、3月22日には平年水準を41.1%上回る状況となる(図21参照)など、同国の天然ガス需給の緩和感は強まる方向に向かった。加えて、米国では気温が上昇傾向となったり、気温が上昇するとの予報が明らかになったりしたことにより、暖房向けの民生部門における、もしくは空調向けの電力供給のための発電部門における、天然ガス需要が低迷した(なお、夏場の空調向けの電力供給のための発電部門における天然ガス需要が発生するには気温は十分には上昇していなかった)こともあり、米国天然ガス需給の緩和感が一層強まったことから、1月31日には100万Btu当たり2.100ドルの終値であった同国天然ガス先物価格は、2月7日には終値で同2ドルを割り込んだ後、4月26日まで終値ベースで同2ドルを割り込む状態が継続した(図22参照)。しかしながら、米国天然ガス生産が軟調になってきたことに加え、フリーポート天然ガス液化施設へ天然ガスが流入し始めた(そして輸出が再開された)こともあり、米国の天然ガス在庫積み上げペースが鈍化した結果、5月10日には同在庫の平年水準を上回る率が30.8%へと縮小した。また、夏場に向けた気温上昇により、空調向けの電力供給のための発電部門における天然ガス需要増加観測が市場で発生した。このような要因等により、相対的な天然ガス需給の引き締まり感を市場が意識し始めたことが、天然ガス相場に上方圧力を加え始めたことにより、4月29日(前日の4月28日にはフリーポートLNG出荷施設第3液化装置に向け天然ガスが流入し始めていた)には同国天然ガス先物価格の終値は100万Btu当たり2ドルを超過したうえ、5月17日には同2.626ドルの終値(この終値は2024年1月26日(この日の終値は同2.712ドルであった)以来の高水準であった)となるなど、天然ガス価格は回復傾向となった。
欧州においても、風力等の再生可能エネルギーや原子力による発電が順調であった(図23参照)うえ、一時的には気温が低下した場面も見られたものの、総じて気候が温暖気味に推移した(図24参照)こともあり、暖房のための民生部門及び空調のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が抑制されたことに加え、2022年の天然ガス価格高騰に伴い欧州域内消費者間で天然ガス節約志向が強まった他、足元でも地域経済が不安定な状況にあったこともあり、産業部門における天然ガス需要が不振気味であったことにより、2024年1月には前年同月比で8%程度増加した欧州天然ガス需要は、2024年2月から4月にかけては前年同月比で8~13%程度減少した(図25参照)他、2022年2月24日のロシアによるウクライナへの事実上の侵攻実施以前の2017~21年の5年平均を17~24%下回る状態となった(図26参照、なお、化学、肥料、金属及び鉱業の各産業が部分的であれ欧州から移転したため、これら産業における天然ガス需要はほぼ永久的に喪失してしまった可能性があるものと指摘する向きもある)。他方、ロシアから欧州方面へのパイプライン経由での天然ガス供給は低迷したままであった(図27参照)他、パレスチナ自治区ガザ地区を巡るイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間の戦闘に伴うイエメンのフーシ派武装勢力による紅海周辺船舶攻撃等により、スエズ運河及び紅海を経由した、カタールを含む中東方面等からのLNG供給のもたつき(南アフリカの喜望峰沖合へと迂回した場合には追加の輸送期間とコストが必要になるため、大西洋圏と太平洋圏での間の円滑なLNG供給に支障が発生するようになった)に加え、寒波の来襲やその後の天然ガス価格下落に伴う天然ガス生産の削減、及び一部LNG出荷施設の操業停止もあり、米国からのLNG輸出が減少したこと等により、欧州のLNG輸入も抑制される格好となった(図28参照)。しかしながら、域内需要の低迷を相殺するには不十分であったことから、2024年2月から3月にかけては、欧州(EU)天然ガス在庫は減少傾向とはなったものの、前年同期を上回る状態で推移した他、2024年4月1日以降当該在庫は増加傾向に転じるとともに、5月17日には充填率が66.5%と依然前年同期の64.7%を1.8%程度上回る状態となった(図29参照)。もっとも、2024年4月15日時点では充填率は62.1%と前年同期の56.4%を5.7%上回っていたことから、前年同期を上回る率は縮小しつつあることもあり、次の冬に向けた天然ガス在庫充填努力目標(11月1日までに充填率90%を達成)を達成すべく、今後欧州での天然ガスの購入が活発化することにより、欧州(及びアジア)におけるLNG価格に上方圧力が加わるといった展開となることもありえよう。ただ、天然ガス需給の緩和感が醸成されつつあったことが、欧州の天然ガス価格に下方圧力を加えたこともあり、2024年1月31日には100万Btu当たり推定9.586ドルの終値であった、オランダTTF天然ガス先物価格は下落傾向となり、2月23日には同7.273ドルの終値と2021年4月26日(この日の終値は同7.084ドル)以来の低水準にまで下落する場面も見られた。しかしながら、天然ガス価格が下落した段階では、アジア諸国及び地域を中心として値頃感からLNGの購入が活発化したこと(後述)が、欧州の天然ガス価格を下支えする格好となった。また、3月22日にはロシアの首都モスクワ近辺で開催されたコンサートにおいて襲撃事件が発生したこともあり、政情不安に伴う同国からの天然ガス供給への懸念が市場で増大したことも、欧州天然ガス価格を支持した側面もあった。加えて、ロシアがウクライナの天然ガス地下貯蔵施設を標的として攻撃を実施した結果、設備の一部(地上にある受け入れもしくは払い出し関連設備と見られる)に被害が発生した旨3月24日にウクライナ国営ナフトガスが発表した他、4月11日早朝(現地時間)にも、ロシアがウクライナの天然ガス地下貯蔵施設を標的として攻撃を実施した(この時点で4度目の攻撃であると伝えられる)結果、設備の一部に被害が発生したことから、ウクライナにおけるインフラを通じた欧州方面への天然ガス供給への懸念が増大したことにより、欧州天然ガス価格に上方圧力が加わる場面が見られた(但し地下約2キロメートルに貯蔵されている天然ガス自体に被害は発生しなかったことから、天然ガス価格への上方圧力も限定的なものとなった)。また、4月1日にシリアのイラン在ダマスカス大使館周辺が攻撃された際(イスラエルが実施したとされる)、イラン革命防衛隊の上級司令官他計13人が死亡したことに対し、4月1日以降イランの最高指導者ハメネイ師他イラン政府幹部がイスラエルに対し報復する旨表明したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油(及びLNG)供給不安に対する懸念が市場で増大するとともに原油価格が上昇、4月5日にはWTI原油価格の終値が1バレル当たり86.91ドルと2023年10月20日(この日の終値は同88.75ドル)以来の高水準に到達したこともあり、原油の代替として天然ガスの消費が促進されるとの観測が市場で発生したことも、欧州における天然ガス価格に上方圧力を加える格好となった(しかしながら、イランは4月13日夜から4月14日未明(現地時間)にかけ、イスラエルに向け300基超のミサイル及び無人機を発射した(その99%以上は迎撃された旨イスラエルのネタニヤフ首相は4月14日に発表している)他、4月13日にはイラン革命防衛隊がホルムズ海峡付近でコンテナ船(イスラエルの海運会社が関与しているとされる)を拿捕した一方、4月19日にはイスラエルがイランに対し報復措置として無人機を発射した(ミサイルも発射したとする報道もある)と伝えられるものの、その後のイランによる対応が抑制的であったこともあり、イスラエルとイランとの対立の先鋭化は後退する形となったことから、欧州の天然ガス価格には下方圧力が加わる格好となった)。さらに、米国テキサス州にあるフリーポート天然ガス液化施設が停止したこと(前述)や、ノルウェーの一部ガス田や天然ガス処理施設がメンテナンス作業実施や予期せぬ装置不具合の発生等により稼働を停止したことも、欧州天然ガス価格に上方圧力を加えた。このようなことから、2月23日以降欧州の天然ガス価格は回復基調となり、4月16日にはオランダTTF天然ガス先物価格の終値は100万Btu当たり推定10.313ドルと、2024年1月5日(この日の終値は同11.081ドル)以来の高水準に到達した他、5月17日においても同9.801ドルの終値となっている。
また、アジア諸国及び地域においても、冬場が終わりに接近するとともに気温が総じて上昇し始めたこと(図30参照)もあり、暖房向けの民生部門における、及び空調のための電力供給向けの発電部門における、天然ガス需要が低下してきたことや、欧州における天然ガス価格が下落傾向となった影響を受け、2024年1月31日には100万Btu当たり9.530ドルの終値であった北東アジアLNG先物価格は、2月23日には同8.125ドルの終値と2021年4月15日(この日の終値は同7.017ドル)以来の低水準に到達した。しかしながら、そのような低水準にまでLNG価格が下落したことにより、かえって値頃感から中国やインド等の最終需要家等による天然ガスの購入が喚起された(図31参照、但し、中国については、実際に需要が発生したと言うよりは、同国において貯蔵施設を運営しているパイプチャイナ(中国国家石油天然ガス管網集団)から確保した貯蔵受入枠を利用して貯蔵施設に天然ガスを注入するため(貯蔵受入枠を利用しない場合罰金を支払う必要があるとされる)、同国のLNG需要家がLNGを購入したと見る向きもある)。また、日本や韓国においては、2月は総じて温暖な気候であったこともあり、天然ガス需要が減少したことに伴い、2~3月のLNG輸入は前年同月を下回る状態であった。ただ、日本においても、3月を中心として気温が低下したうえ、複数の石炭火力発電所における装置に支障が発生した結果操業を停止したこと等により、発電向けの代替燃料としての購入したLNGが4月を中心に輸入されたことから、同国の4月のLNG輸入量は前年同月を相当程度上回る形となった(図32参照)(また、2月から3月にかけてのLNG価格低迷時において値頃感から韓国のLNG購入が活発化した可能性があり、それが4月の同国のLNG輸入の伸びに繋がっているものと見られる)。加えて、4月1日にはイスラエルがシリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺を攻撃したことに伴いイラン革命防衛隊幹部他計13人が死亡したことにより、イスラエルとイランとの対立が先鋭化する結果、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことにより、原油価格が上昇傾向となった影響を受け、LNG価格にも上方圧力が加わったことと併せ、4月16日には北東アジアLNG先物価格は100万Btu当たり11.260ドルの終値と2024年1月10日(この日の終値は同11.285ドル)以来の高水準の終値に到達する場面も見られた。また、豪州のゴーゴン(Gorgon)天然ガス液化施設(天然ガス液化能力年間1,560万トン)の第2液化施設(天然ガス液化能力同520万トン)において4月30日にタービンに不具合が発生した結果操業を停止した旨5月3日に操業者のシェブロンが発表した(操業再開までには最低でも5週間を要するとされる)他、5月10日深夜(現地時間)にマレーシア天然ガス液化施設において停電により操業上の支障が発生している旨5月14日に操業者であるマレーシアLNGが発表した。さらに、5月14日にはナイジェリア南西部のグバラン(Gbaran)にある天然ガス処理施設(天然ガス処理能力日量20億立方フィートであり、ナイジェリアLNG天然ガス液化施設に天然ガスを供給しているとされる)の近くで爆発とともに火災が発生した(その後鎮火した旨5月16日に報じられた他、ナイジェリアLNG天然ガス液化施設への天然ガス供給には影響を与えなかった旨5月17日に伝えられる)等、天然ガス液化施設における操業停止や操業上の支障に関する情報が、アジア市場の天然ガス価格を下支えする格好となった(また、ノルウェーにおける天然ガス関連施設の操業停止(前述)等による欧州における天然ガス価格上昇も、アジアLNG相場に上方圧力を加えた側面もある)。しかしながら、国内天然ガス生産及びロシア等からのパイプライン経由による天然ガス輸入が比較的好調であった(図33参照)一方、産業部門の回復が不安定であった結果、天然ガス消費が必ずしも好調である訳ではなかったものと見られる他、2024年2~3月のLNG価格下落時にLNGの購入を活発化させた結果、在庫が充填される格好となった中国(また、同国は2022年から2023年にかけ長期契約によるLNG調達を拡大していることから、スポットLNG購入には必ずしも積極的ではなかった)は、従来からLNG価格に敏感であり安価な水準でなければLNG購入に向かいにくいインド等と併せ、価格が上昇した段階においてはLNG購買活動が不活発化する格好となった(両国とも100万Btu当たり9ドル未満でなければ、LNGを購入する誘因が働きにくい旨3月にしばしば伝えられた)ことが、LNG価格を抑制した結果、2024年4月17日から5月17日にかけては北東アジアLNG先物価格の終値は100万Btu当たり10ドル台で推移し、上昇もしくは下落の傾向が見えにくい状態となった。
以上
(この報告は2024年5月20日時点のものです)