ページ番号1010132 更新日 令和6年6月3日
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概要
- メジャー各社も低炭素エネルギー分野における戦略を提示し、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯留))の位置づけを明確化。米系メジャーはCCSの収益化を戦略上の目標に位置づける。また、欧州系は再生エネルギー事業やバイオ燃料事業への投資に重心が置かれていたが、水素製造やCCS事業形成を目的に参画を図る動き。
- メジャー系の大手企業は、以前からCO2‐EOR(Enhanced Oil Recovery)生産やCCSパイロット試験などに欧米諸国で取り組できたが、近年は、カタールや中国において国営企業との共同研究としてCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)/CCSにも取り組む。
- また欧米や豪州ではCS(Carbon Storage)鉱区権益の入札ラウンドが行われており、過半をメジャー他の大手企業が抑え貯留ポテンシャルの確保を急ぐ傾向にある。米国のメキシコ湾沿岸部では、地元メジャーに加えて、BP、TotalEnergiesも相次ぎCS(Carbon Storage)鉱区権益の確保を果たし、欧州においてもメジャー主導の地下貯留事業の進展がみられる。
- 近年、欧米の政策支援がみられるがCCS事業は依然として収益化やビジネスモデル構築にハードルがある。その中でも欧米メジャーは、米国メキシコ湾沿岸や北海での貯留ポテンシャル確保の動きを活発化させる。
1. メジャーのCCS事業
メジャー各社も低炭素エネルギー分野における戦略を提示し、CCSの位置づけを明確化している。米系メジャーのExxonMobil及びChevronはスコープ1およびスコープ2の削減に取り組むとともに、CCSやCCUS事業の収益化を戦略上に位置づける(表1、表2)。Exxonは、CCSと限定していないものの2030年までに5,000万t/年の第3者向けCO2削減サービスを目標に設定し、Chevronは2030年までに年2500万t以上のオフセット及びCCUS事業を目標に設定する。主に米国及びアジア太平洋で事業化形成の動きがみられる。
欧州系メジャーはスコープ3も含めた2050年までのネットゼロを目指して、再生エネルギー投資やバイオ燃料投資に足元積極的であるが、長期的には水素やCCSを視野に入れて事業参画や事業形成を図っている。ShellはCCSに関して早くからカナダ等で取り組んできたが、米国、豪州、欧州でも新規のCCS計画に参画する。TotalEnergiesは、短期的に収益につながる再エネ投資を優先しているものの、近年CCSに注力し米国の案件にも参入した。BPは、地元英国でのCCUS/CCS事業の旗振り役として複数の事業に参画する。鉱区入札やM&Aを通じて米国、欧州、豪州さらに東南アジアなどでメジャーのCCS事業形成や貯留ポテンシャル取得の動きが加速する(図1)。

出所: 各種資料より作成
メジャー5社を比較すると、ExxonMobilが操業中、建設中、計画中を含めてCS(Carbon Storage)の貯留向けポテンシャル能力は群を抜いており、次に欧州大手の国営系のEquinor(ノルウェー)とEni(伊)が続く。欧州のShell、BP、TotalEnergiesはそれらに続く状況。次項では企業別に詳報する。
NetZero目標 | 脱炭素戦略分野 | 脱炭素投資計画 | |
---|---|---|---|
ExxonMobil |
対象: Scope1、2 2030: 20-30%減(2016比) 2050: NetZero |
CCS、水素、バイオ燃料、リチウム |
200億$ (2023⁻2028) |
Chevron |
対象: Scope1、2 2028: 上流石油40%減、同ガス26%減(2016比)、Scope3含むPCI指数5%減 2050: NetZero |
CCS、水素、バイオ燃料 |
80億$ (‐2028) |
Shell |
対象: Scope1、2、3 2030: Scope1、2の50%減(2016比) 2030: Scope3 15-20%減 2050: NetZero |
電化、水素(CCS) |
100-150億$ (2023-2025) |
BP |
対象: Scope1、2、3 2030: Scope1、2の50%減(2019比) 2050: NetZero |
低炭素バイオ燃料、水素、再エネ、EV | 年平均>10億$ |
TotalEnergies |
対象: Scope1、2、3 2030: 40%減(2016比) 2050: NetZero |
ntegrated Power | 全体投資の3分の1 |
出所: 各種資料より作成
主要CCS参画地域 | CCS関連の目標 | |
---|---|---|
ExxonMobil | 米陸上/メキシコ湾、北海、中東、中国 | 2030: 年5,000万t以上の第3者向けCO2削減サービス、収益率10%以上 |
Chevron | 米メキシコ湾岸、豪州 | 2030: 年2,500万t以上のオフセット及びCCUS事業 |
Shell | 北海、北米(米、カナダ)、中東、中国 | ― |
BP | 北海、米国メキシコ湾岸、LNG生産地 | ― |
TotalEnergies | 北海、LNG生産(豪米カタール)、米国(Talos取得) | 2030: 世界年1,000万t以上のCO2貯留能力開発、第3者向け貯留にも投資 |
出所: 各種資料を参考に作成
2. 各社の動き
(1) ExxonMobil(米)
ExxonMobilはCCS、水素、バイオ燃料の3分野を掲げていたが、2023年12月の企業戦略の発表では4つ目にリチウムを戦略分野に加え、米国アーカーソン州でのリチウム開発を推進する。脱炭素事業投資には全体で15%超のリターンを確保すると公約し、個別案件でも10%超の二桁リターンの基準を示す。2030年までにCCSを含む年5,000万t以上の第3者向けCO2削減サービスを数値目標に掲げる。同社によれば、CCS実績はすでにカタール、米国等で年900万tのCO2を圧入中で累積圧入量12,000万tである。
米国では、1986年からCO2回収を実施するLaBarge(ワイオミング州)ガス田において段階的に回収能力を引き上げ、現在回収能力600‐700万t./年を有し、周辺の石油開発事業者にCO2を販売する(一部放散)。現在120万t/年分の回収能力の拡張に取り組む。現在、ExxonMobilはメキシコ湾岸地帯での統合型の産業の脱炭素化を目指しており、この地域はCO2排出源が集積する産業地帯かつ地質的に貯留可能なエリアが陸上及び沖合に広がる地域としてCCSの適地と評価する。同社は、2023年11月にCCUSにも投資する石油・ガス生産者のDenbury[1]を買収し、Denburyが有していたCO2パイプライン網及び多数のCS(Carbon Storage)拠点を取得した。2023年8月には、テキサス州政府によるCS鉱区入札においてメキシコ湾(州管轄)海域を取得(図2)。さらに、2021年11月の連邦政府(3マイル以遠)の石油・ガス探鉱向けリースセール(No.257)及び2023年3月の同リースセール(No.259)において浅海域を広範囲の鉱区を抑えており、Energy Intelligenceによれば、現在、同社は連邦政府に対して石油ガス沖合鉱区をCS鉱区に転換できるよう規則の採用を働きかけていると報じる。同社の元々の既存保有プラントと取得した資産を集約化させ統合した産業の脱炭素化ビジネスの構築を目指しているとみられる。所有するテキサス州のBaytown製油所でも水素及びアンモニア製造からCO2を分離・圧入する計画もある。これらの自社排出源からのCO2だけでなく、周辺他社の排出源からのCO2を含め、当地域でのCO2の地下貯留の事業化が想定される。
東南アジアでは複数国での具体的な動きが報じられる。マレーシアでは、Petronasとの間で、2023年1月にCCSバリューチェーンの技術スコープの策定、CO2貯留の特定フィールド評価、またCCSの商業的枠組みの開発や規制、政策開発に関する計画策定など、技術及び法整備の両面においてCCS開発活性化を推進することで合意した。
インドネシアでは、2022年にPertaminaと共同でCCS事業及び水素製造等の大規模適用に向けたポテンシャル調査を開始し、翌年11月にはPertaminaとジャワ島西部に石化プラントを新設するとともに排出CO2をSunda-Asri CCSハブ(貯留能力30億t)に圧入する具体的な計画を表明した。2025年にPre-FEED、2026年にFEED、2027‐2028年にEPCを予定する。2024年5月、この計画にKNOC(韓)が参画することが発表された[2]。
シンガポールでは、2023年12月、ExxonMobilとShellから成るS-Hubコンソーシアムが同国政府との間で2030年までに250万t/年の国境を越えたCCSの計画・開発を行うMOUを締結した。その他、豪州のGorgon LNGでのCCS事業では、これまでに累積900万tの帯水層へのCO2貯留(2019~2023年末)を実施。中国では、南部広東省沖合の大規模CCSハブ化事業としてCNOOCと一緒にパイロット事業(Daya Bay)に参画する[3]。

緑: 買収したDenbury社のCO2関連資産
出所: 各種資料より作成
その他、蘭ロッテルダム製油所でAir Products社による欧州最大級のCCS施設の建設・所有・運営に参加しており、カナダ、英国、ノルウェー、フランスでも計画中としている。
(2) Chevron(米)
Chevronは米国の地元カリフォルニア州でEastridge CCS事業とKern River炭素回収事業を実施中。また、米国メキシコ湾岸の陸上及び海上( Houston Ship Channel 及びBeaumont / Port Arthur地域)においてあわせて10億t以上の貯留能力を有するとされるBayou Bend CCS事業に2023年に参画、現在そのオペレーターを担う。Bayou Bend CCSは、2021年にテキサス州政府が地元企業に付与した鉱区付与を契機に始動し、その後Chevronが参画したものである(図3)。2023年8月と2024年3月にEquinor(ノルウェー)とTotalEnergies(仏)の欧州勢が相次ぎ参画し一大事業に発展する(表3)。Chevronは、ExxonMobilが主導するメキシコ湾岸のHouston Ship Channelにも参画する。

出所: Chevronのホームページ
Bayou Bend CCS事業 | |
---|---|
概要 |
沖合4万エーカーを含む14万エーカー、10億t以上の貯留可能なエリア Chevron New Energies division 50%(注) Equinor 25% TotalEnergies 25% (注)Chevronオペレーター |
変遷 | |
2021年9月 |
テキサス州初の沖合鉱区(4万エーカー)のCS鉱区入札においてTalosとCarbonvertのJVが落札[5] |
2022年5月 |
ChevronがBayou Bend CCSに50%権益を取得して参画 Talos Low Carbon Solutions division 25%(注) Chevron New Energies division 50% Carbonvert 5% (注)Talos オペレーター |
2023年3月[4] |
陸上部の10万エーカーを組み入れ、オペレーター権をChevronが取得 |
2023年8月 |
ノルウェーEquinorがCarbonvertの25%権益を取得し参画 Talos Low Carbon Solutions division 25%(注) Chevron New Energies division 50% Equinor 25% (注)Chevron オペレーター |
2024年3月 |
仏TotalEnergiesがTalosの25%権益の取得を合意[6] |
2024年5月 |
ClassⅥ申請に向けた地質評価井(2坑)の掘削終了 エンジニアリング会社WorleyがCO2の集積、処理、貯留施設(CO2 gathering, handling and sequestration)の設計・評価作業を受注[7] |
出所:各種資料より作成
入札結果 |
|
出所: 各種資料より作成
豪州で複数のLNG生産操業に携わるChevronは、オペレーターとしてGorgonガス田生産においてこれまでに累積900万tのCO2を貯留(2019~2023年末)。また、2021年の同国のCCS沖合鉱区入札では、最多となる鉱区数を落札した(表4)。東南アジアのタイでは、参画するArthitガス田(生産中)で同国初のCCSパイロット試験を計画中であり、インドネシアではPertaminaとの間で2023年11月に東カリマンタン州(Kutai Basin)でのCO2貯留についてデータを共有し共同研究を実施することで合意したと発表した。
(3) Shell(英)
Shellは環境対応技術において先駆的な企業である。カナダアルバータ州でオイルサンド事業Athabasca Oil Sands Project(AOSP)に大規模投資していた一環として他社に先駆けてCCS技術研究に取り組んできた。ShellはQuest CCS(10%, その他Canadian Natural Resources(70%), Chevron(20%))をパイロット段階から実施(表5)。Quest CCSは、オイルサンドに、水蒸気メタン改質(SMR)で製造された水素を添加し、生産する合成原油までの過程で排出されるCO2を分離回収し、輸送・貯留する事業である。2015年11月に操業開始した。Shellの発表によれば、これまでにCO2を880万tの貯留を終えた。当初、ShellはAOSPの60%の権益保有者であったが、2017年、オイルサンド事業から撤退するとしてそのほとんどを売却したため、現在は技術デベロッパーとしてQuestのオペレーターを担う。現在、アルバータ州では、同社はエドモントン近郊に所有するScotford製油所及び石化プラント工場でのCCS事業を計画するほか、州政府が推進するCCSハブ化事業の一つとしてAtlas Carbon Sequestration Hub(Atlas Hub)のメンバーとしてATCO EnergyとSuncorと共に2022年に選定されている。
開発中案件としては、いずれも北海において、オランダ等からの越境輸送を想定したノルウェーのNorthern Light(33.3%)、オランダでのオペレーター案件であるPernis CCS事業を計画中である。
事業名/エリア | 国 | 実施形態 | 権益比率 | 能力(100%) |
---|---|---|---|---|
操業中 | ||||
Quest | カナダ |
オペレーター Technical developer |
10% | 1 mtpa |
Gorgon | 豪州 | JV パートナー | 25% | 最大4 mtpa |
Technology Centre Mongstad test and research facility | ノルウェー | JV パートナー | 22% | Test |
建設中 | ||||
Northern Lights (Phase 1) | ノルウェー | JV パートナー | 33.3% | 1.5 mtpa |
Pernis CO2 capture | オランダ | オペレーター | 100% | 1.15 mtpa |
計画中 | ||||
Acorn (initial) | 英国 | JV パートナー Technical developer |
30% | 約 6 mtpa |
Aramis (initial) | オランダ | JV パートナー | 25% | 5 mtpa |
Polaris | カナダ | オペレーター | 100% | 0.75 mtpa |
Atlas | カナダ | オペレーター | 50% | 5 mtpa |
Pernis SPeCCS CO2 capture拡張 | オランダ | オペレーター | 100% | 0.5 mtpa |
Asia-Pacific CCS hub | アジア太平洋 | ― | ― | ― |
US Gulf Coast | 米国 | オペレーター | 100% | 6 mtpa |
Daya Bay | 中国 | ― | ― | 10 mtpa |
Northern Lights (Phase 2) | ノルウェー | JV パートナー | 33.3% | 3.7 mtpa |
Northern Carnarvon (Angel) | 豪州 | JV パートナー | 20% | 5 mtpa |
出所: www.shell.com/ccs(外部リンク) mtpa=百万t/年
初期段階のものでは、英国北東部スコットランド沖に貯留する計画のAcorn CCS(開発者Storegga, 技術デベロッパーShell, Harbour Energy, North Sea Midstream Partners)を含めて欧州北海で新規2件、拡張2件に参画する。Acorn CCSはScottish Cluster[8]での産業・発電所からのCO2を回収して貯留する案件である。米国でも米国エネルギー省(DOE)のDAC(Direct Air Capture)支援案件にも選定されたルイジアナ州のLouisiana State University(LSU)中心のコンソーシアムのメンバーとして同社はDAC-CCS計画に参加する。
中東では、ADNOCの大規模なCCUSであるHabshan CCUSにおいてShellの回収システムCansolv CO² Capture Systemが採用されている[9]。同事業は150万t/年のCO2を回収して地下圧入を行う計画で2023年9月にADNOCによってすでに最終投資決定[10]されている。
アジア太平洋地域では、前出の操業中の豪州Gorgon CCS(25%)に参画しているほか、中国ではExxonMobilと共同でCNOOCによるパイロット事業(Daya Bay)に参画[11]、またExxonMobilと形成するコンソーシアムはシンガポール政府との間で越境CO2輸送・圧入に関するMOUを締結した。
Shellは水素・CCSの戦略的な地域として、北米(米、カナダ)、欧州、中東を挙げている。
(4) BP(英)
BPは、2030年までに低炭素のバイオガス燃料と水素開発に重点を置き、年平均で10億ドル以上を投資する計画である。
地元英国では政府は2030年までに2000万t‐3000万t/年のCO2圧入を目標に掲げており、BPも同国の事業形成及び参画を図る。英国のNet Zero Teesside事業の中核となるNet Zero Teesside Power (NZT)では、BPは、EquinorとのJV事業としてCCS付きのガス火力発電所を計画し、回収したCO2をパイプライン輸送して英領北海において能力200万t/年のCO2地下貯留を計画する(図4)。あわせて同地域でのブルー水素(H2Teesside)、グリーン水素(HyGreen Teesside)の製造事業を推進する。また同じ地域でBP、EquinorとTotalEnergiesとの合弁会社Northern Endurance Partnership (NEP)は、East Coast 産業クラスターから排出されるCO2を輸送し、400万t/年の地下貯留を計画する。2024年3月、これらNZT Power及びNEPはEPCコントラクター事業者を決定し、2024年9月もしくはそれ以前にも最終投資決定(FID)を行い2027年の操業開始を予定すると発表した[12]。

出所:https://www.netzeroteesside.co.uk/
2023年4月、BPは同国南部のViking CCUSに、ノンオペレーターとして40%の権益を取得して参画した[13]。Viking CCUSはHarbour Energyが推進し、2027年に操業開始の予定である。2030年までに1000万t/年、2035年までに1500万t/年に拡張する計画である。このHarbour Energyは英国にフォーカスしてCCS事業に取り組むが、2023年12月にドイツWintershall Deaの石油・ガスの生産資産(約40万boe/d)及びCCUS資産の買収に合意し、欧州最大の独立系上流企業者となる見込み。
BPは、東南アジアでは、オペレーターを務めるインドネシアのTangguh LNG事業においてCCUSを計画。豪州ではNorth West Shelf LNGのパートナーと共に、枯渇ガス田を利用したAngleガス田へのCCSを計画する。
米国では、2023年8月、前述の米テキサス州政府の入札においてTexas General Land Office(GLO)から陸域CS鉱区を取得した。BPにとって米国はシェール/メキシコ湾の石油・ガス開発や石油製品販売(Whiting refinery、Cherry Point)のみならず、EV充填所、コンビニエンス、バイオ燃料、再生可能天然ガス (RNG)、水素の5つの成長エンジンとする脱炭素化事業の中心地であったが、今般、CCSにも進出を果たした。
(5) TotalEnergies(仏)
TotalEnergiesは、どちらかという再生可能エネルギーに重きを置く。同社は石油・ガス生産とIntegrated Powerを2本柱に据えIntegrated Powerでは再生可能エネルギーの貯蔵、トレーディング、供給(産業用、EV用)の一貫操業化の実現を目指す。

出所:Sustainability and Climate 2023
TotalEnergiesは、CCSは長期的な戦略分野と捉え、2030年までに世界で年間1,000万t以上の貯留能力の開発を目標に掲げる。地下貯留(CS)能力を目標値に掲げる唯一のメジャーでもある。
北海ではSnohvit LNG(Equinor)において2008年から帯水層へのCO2の圧入を実施し、現在はBPと共に主導する英国のNEP事業、またShellとEquinorと共同で推進中のノルウェーNorthern Lightsに参画しており、北海にて計5件のCCS事業計画に参加する(図5)。そのほかにも、LNG開発に参画しているカタールのNFE(North Field East)及びNFS(north field south)ほか、豪州のIchthys LNGや米国のCameron LNG(Hackberry Carbon Sequestration)[14]、パプアニューギニアで計画中のPapua LNGでCCSを計画する。
2024年3月、既述のとおり、TotalEnergiesはChevron主導の米国Bayou Bend CCSの権益25%を保有するTalos Low Carbon Solutions(TLCS)を買収することで合意。Bayou Bend CCS以外のTLCS保有権益のCoastal BendとHarvest Bendは売却することも明らかにした。TotalEnergiesは自前のPort Arthur製油所及び石化プラントに隣接する理想的な場所を確保したとBayou Bend CCS参画をアピールする。同社にとって米国メキシコ湾岸域は石油・ガス上流部門のポートフォリオは少ないものの、LNG含むガスバリューチェーン及び再エネのIntegrated Power構築の中心地である。
東南アジアでは、2023年6月、マレーシア国営企業のPetronas及び三井物産との間でマレー半島沖でのCO2貯留サイトの共同開発に関する契約締結したと発表し、事業形成を企図する。
3. おわりに
メジャー各社も低炭素エネルギー分野における戦略を提示しCCSの位置づけを明確化、CS(Carbon storage)権益への参画やCCUS/CCS事業形成を急ぐ。
CCS事業は当初、伝統的な石油増進回収(EOR)目的やLNG事業に付随した計画が主流であった。近年、欧米政府による支援強化策が相次ぐも企業にとってはCCS事業の収益化やビジネスモデル構築は依然ハードルが高い。それでも、エネルギートランジションの投資先候補として欧米メジャー企業は、昨今、メキシコ湾沿岸や北海などでの貯留能力確保や事業参画の動きを活発化させる。

出所: Global CCS institute(2024年3月)
[1] 石油天然ガス資源情報「ExxonMobil、CCSのDenburyとシェールのPioneerを買収へ」2023年11月
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009920.html
[2] “Pertamina, KNOC, and ExxonMobil Form Partnership to Develop CCS” 2024年5月15日、https://www.pertamina.com/en/news-room/news-release/pertamina-knoc-and-exxonmobil-form-partnership-to-develop-ccs (外部リンク)
[3] “Shell partners with CNOOC, Guangdong Government, ExxonMobil on offshore carbon capture and storage hub in China” 2022年6月 https://www.shell.com.cn/en_cn/media/media-releases/2022-media-releases/shell-partners-with-cnooc-guangdong-government-exxonmobil-on-offshore-carbon-capture-and-storage-hub-in-china.html (外部リンク)
[4] “bayou bend expands carbon capture project to onshore southeast Texas” 2023年3月6日、https://www.chevron.com/newsroom/2023/q1/bayou-bend-expands-carbon-capture-project-to-onshore-southeast-texas (外部リンク)
[5] https://www.glo.texas.gov/the-glo/news/press-releases/2021/september/cmr-george-p-bush-announces-new-coastal-partnership-for-carbon-sequestration1.html (外部リンク)
[6] ”TotalEnergies acquires Talos Low Carbon Solutions, a pioneer in the growing American Carbon Storage industry “, 2024年3月18日、https://corporate.totalenergies.us/news/totalenergies-acquires-talos-low-carbon-solutions-pioneer-growing-american-carbon-storage (外部リンク)
[7] “We’ve been selected to design and evaluate CO2 gathering, handling and sequestration facilities located along the Gulf Coast in Southeast Texas.”, 2024年5月13日、 https://www.worley.com/en/insights/our-news/conventional-energy/2024/providing-design-and-evaluation-services-for-bayou-bend-ccs-llc-carbon-capture-storage-facility (外部リンク)
[9] “ADNOC proceeds with Shell’s Cansolv technology in the recently announced FID for large scale carbon capture in Habshan” 2023年10月https://www.shell.com/business-customers/catalysts-technologies/resources-library/adnoc-shell-cansolv-technology-large-scale-carbon-capture.html (外部リンク)
[10] “ADNOC to Invest in One of the Largest Integrated Carbon Capture Projects in MENA” https://www.adnoc.ae/en/News-and-Media/Press-Releases/2023/ADNOC-to-Invest-in-One-of-the-Largest-Integrated-Carbon-Capture-Projects-in-MENA (外部リンク)
[11] “Shell partners with CNOOC, Guangdong Government, ExxonMobil on offshore carbon capture and storage hub in China” 2022年6月 https://www.shell.com.cn/en_cn/media/media-releases/2022-media-releases/shell-partners-with-cnooc-guangdong-government-exxonmobil-on-offshore-carbon-capture-and-storage-hub-in-china.html (外部リンク)
[12] https://www.netzeroteesside.co.uk/news/net-zero-teesside-power-and-the-northern-endurance-partnership-select-contractors-for-c-4bn-construction-contracts/ (外部リンク)
[13] “Bp, Harbour Energy and bp agree to develop the Viking CCS project” https://www.bp.com/en_gb/united-kingdom/home/news/press-releases/harbour-energy-and-bp-agree-to-develop-the-viking-ccs-project.html(外部リンク) 2023年4月11日
[14] “United States: Launch of Carbon Capture Project to Decarbonize Liquefied Natural Gas Production at Cameron LNG “ https://totalenergies.com/media/news/press-releases/united-states-launch-carbon-capture-project-decarbonize-liquefied-natural (外部リンク)
以上
(この報告は2024年5月29日時点のものです)