ページ番号1010135 更新日 令和6年6月3日

原油市場他:OPECプラス産油国が公式減産措置及び一部産油国の自主的な減産措置を一部調整のうえ最長で2025年末まで延長(速報)

レポート属性
レポートID 1010135
作成日 2024-06-03 00:00:00 +0900
更新日 2024-06-03 10:27:55 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2024
Vol
No
ページ数 17
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
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地域7
国7
地域8
国8
地域9
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地域10
国10
国・地域 グローバル
2024/06/03 野神 隆之
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概要

  1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2024年6月2日に閣僚級会合等を開催し、2024年末を期限としていた公式減産措置を一部調整のうえ2025年末まで延長することを決定した。
  2. 加えて、2024年末までの予定で実施中であった一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産についても、2025年末まで延長する旨併せて決定した。
  3. さらに、別途2024年1~6月の予定で実施中であった一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産については、2024年9月まで延長のうえ、以降は規模を縮小させるとともに、2025年9月を以て終了する旨決定したが、これは今後の市場の状況によっては、減産規模の縮小を停止したり、減産規模を拡大したりすることもありうるとした。
  4. 次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2024年12月1日に開催される予定である。
  5. 2024年1~6月において実施中である一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産を当初予定通り2024年6月で終了した場合、2024年後半及び2024年全体は石油市場が相当程度供給過剰となることが予想された。
  6. このため、当該措置を2024年9月まで延長することにより、世界石油需給バランスの均衡を図ろうとしたものと考えられる。
  7. また、2025年への減産措置の延長については市場では殆ど事前に予想されていなかったため、2025年に向け減産措置の延長を図ることにより、より長期に渡る減産実施を通じOPECプラス産油国の世界石油需給引き締めの意志を市場に示すとともに、市場における原油価格の先高感の醸成と直近の原油価格の下支えを図ろうとしたものと見られる。
  8. ただ、足元一部OPECプラス産油国が減産措置の実施に対し消極的な姿勢を示し始めている旨示唆されることから、2024年1~6月において実施中であるこれら産油国による自主的な追加減産措置を2024年10月以降縮小させるとともに2025年9月を以て終了させる旨決定した可能性がある。
  9. 一部OPECプラス産油国が2024年10月から2025年9月にかけ自主的な減産措置を縮小する結果、このままでは2025年の世界石油市場が相当程度供給過剰となる旨予想されることが、週明け日本時間6月3日朝の原油相場に下方圧力を加える一方、市場の状況によっては、当該減産の規模縮小の停止や規模拡大の可能性がある旨OPECプラス産油国が警告したこと、及び2025年にかけ減産が延長されるとは基本的に市場は事前に予想していなかったことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、午前8時現在原油価格は前週末終値比1バレル当たり0.30ドル程度下落の同76.70ドル近辺で推移している。

(OPEC、IEA、EIA他)

 

1. 協議内容等

  1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2024年6月2日に閣僚級会合を事実上対面とオンラインの混合形式で開催した(巻末参考1参照)。
  2. なお、同日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催前にはOPEC総会及びOPECプラス産油国協働閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)が開催された。
  3. 当初同会合は6月1日に対面形式で開催される予定であったが、開催日を6月2日へと1日延期したうえでオンライン形式により実施する旨OPEC事務局が5月23日付声明で発表した(実際に伝えられたのは5月24日であった)。
  4. 閣僚級会合開催日延期とオンライン形式での実施への変更の理由は明らかにならなかったが、サウジアラビアのサルマン国王の健康状態が芳しくなかったこと(サルマン国王が関節痛と高熱の症状のため5月19日に検査を受けた後肺炎の治療を行なうことになったことから、5月20日より予定されていたムハンマド皇太子による訪日が延期となっていた)他、5月19日にヘリコプターの事故によりイランのライシ大統領とアブドラヒアン外相が死亡したことが、関係している可能性があると見る向きがある旨5月24日に伝えられる。
  5. ただ、当該閣僚級会合は、6月2日にサウジアラビアのリヤドにおいて対面形式により開催される予定である旨5月31日に報じられた(但し一部のOPECプラス産油国は引き続きオンライン形式での会合出席となっていたこともあり、6月2日にオンライン形式で会合が実施される予定であるとのOPEC事務局からの公式発表はそのままであった)。
  6. 会合はサウジアラビアのリヤドにあるリッツ・カールトンホテルで開催され、サウジアラビアに加え、アルジェリア、イラク、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)、ロシア、カザフスタン及びオマーンといった、自主的な減産を実施している産油国が対面形式で会議に出席した(但しオマーンのウーフィー(Aufi)エネルギー鉱物資源相は出席しなかったとされる)。
  7. 協議の結果、従来2024年12月31日を期限として実施中であったOPECプラス産油国による公式減産措置を2025年末まで延長することを決定した(表1参照)。
  8. また、別途サウジアラビア、アルジェリア、イラク、クウェート、UAE、ロシア、カザフスタン及びオマーンによる対面形式での会議が開催され、これら産油国が当初2024年12月末まで実施する予定となっていた日量165万バレル程度の自主的な追加減産を2025年12月末まで延長したうえ、2024年1月1日から2024年6月30日にかけ実施中である自主的な追加減産については2024年9月末まで延長したうえ、以降毎月概ね一定量で以て縮小、2025年9月を以て終了する旨決定した(巻末参考2参照)が、これについては、市場の状況によっては減産規模の縮小を停止したり、拡大したりすることもありうるとしている。

表1 OPECプラス産油国の減産措置

  1. また、外部の専門機関(IHSマークイット(IHS Markit)、ウッド・マッケンジー(Wood Mackenzie)及びライスタッド・エナジー(Rystad Energy))によるOPECプラス産油各国の原油生産能力評価を2025年11月にかけ実施するとともに、2026年のOPECプラス産油各国の原油生産目標設定のための参考とするとした。
  2. さらに、7機関(米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)、S&Pグローバル・プラッツ(S&P Global Platts)、アーガス・メディア(Argus Media)、エナジー・インテリジェンス(Energy Intelligence)、IHSマークイット、ウッド・マッケンジー及びライスタッド・エナジー)のデータを使用しつつ、OPECプラス産油各国の原油生産及び遵守状況を監視していくことを再確認した。
  3. 加えて、JMMCを2ヶ月毎に開催する(次回は8月1日に開催されるとされる)とともに、JMMCはOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)及びOPEC事務局の支援を受け、世界石油市場の状況、(OPECプラス産油各国の)石油生産水準及び減産遵守状況を検討するとともに、必要と判断される如何なる時において、追加会合を招集したり、OPECプラス産油国閣僚級会合を開催したりする権限をJMMCに付与する旨改めて表明した。
  4. また、減産の完全遵守と(原油生産目標を超過して生産した場合には追ってその超過生産分を追加して減産することにより)減産を補償する措置に固執することが極めて重要であることが改めて強調された。
  5. さらに、自主的な減産を実施する一部OPECプラス産油国間での会合においては、イラク、カザフスタン、及びロシア(2024年4月の原油生産量が技術的な問題で目標を超過してしまっているが、間もなくOPEC事務局に対し是正措置実施計画を提出する旨5月23日に同国エネルギー省が明らかにしていた)が減産の完全な遵守達成を約束し、これまでの超過生産分に関する是正措置を講ずるための計画の最新版を提出したとして歓迎された。
  6. なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2024年12月1日に開催される予定である。

 

2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

  1. 2023年6月4日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、中国経済が底打ちしつつあることを示唆する指標類が発表されたことや同年7月1日より実施されたサウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産(6月4日に伝えられた当初は同年7月末までの実施予定であったが、7月3日には8月末まで、さらに8月3日には9月末まで、それぞれ実施を延長する旨報じられていた)を2023年末まで3ヶ月間延長する旨9月5日に伝えられたこと等に伴い、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことにより、原油価格は上昇基調となり、9月27日には原油価格(WTI)は1バレル当たり93.68ドルの終値と、2022年8月29日(この時の終値は同97.01ドル)以来の高水準の終値に到達する場面が見られた(図1参照)。

図1 原油価格の志位(2022~24年)

  1. しかしながら、その後は中国経済の回復が不安定であることを示唆する経済指標類が発表されたことや米国原油在庫が増加したこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、2023年11月16日には原油価格は1バレル当たり72.90ドルと同年7月6日(この日の終値は同71.80ドル)以来の低水準の終値に到達した他、9月27日の終値から22%程度の下落となった。
  2. 加えて、サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を2023年末で終了した場合、2024年前半は日量160~170万バレル程度の供給過剰となる可能性があることが当時示唆されたため、2024年に向け原油価格の下落が加速する恐れがあることが懸念された。
  3. このようなこともあり、2023年11月30日に開催される予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合に向け、特に2024年前半の世界石油需給緩和懸念を払拭すべく、サウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産の延長と併せ、日量100万バレル程度の公式の原油生産目標引き下げ(つまり減産幅拡大)を実施することで、OPECプラス産油国は世界石油需給の引き締まり感を市場で醸成させるとともに原油価格の持ち直しを図ろうとしたものの、前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合において2024年1~12月における原油生産目標を引き下げられた西アフリカの一部OPECプラス産油国(他方、アラブ首長国連邦(UAE)は同期間の原油生産目標が日量20万バレル程度引き上げられた)がさらなる目標の引き上げに抵抗したものと見られることにより、議論が収束しなかった結果、実際11月30日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、OPECプラス全体としての公式の原油生産目標引き下げ(つまり減産目標の引き上げ)は見送られる格好となった。
  4. その代わり、サウジアラビアは2023年7月1日から12月31日まで実施予定であった日量100万バレルの自主的な追加減産を2024年3月31日まで延長することとした他、アルジェリア、イラク、クウェート、UAE、カザフスタン及びオマーンが2024年1月1日から3月31日にかけ合計で日量69.6万バレルの自主的な追加減産を実施する旨事実上決定した。
  5. また、併せて、ロシアは2023年9~12月末にかけ実施中であった日量30万バレルの原油及び石油製品輸出の削減(2023年5~6月平均を基準としており、8月3日に同国のノバク副首相が9月に当該輸出削減措置を実施する方針である旨表明した他、9月5日に同副首相が2023年末まで同措置を延長する意向である旨明らかにした)を同50万バレル(原油日量30万バレル、石油製品同20万バレル)に拡大して2024年1~3月に実施する旨11月30日にノバク副首相が発表した。
  6. その後、2024年3月3日夜(現地時間)には、世界石油市場安定化のため、サウジアラビアが2024年1~3月に実施中の日量100万バレルの自主的な減産を6月末まで延長(それ以降は市場の状況によっては漸進的に減産を縮小)する旨国営サウジ通信が報じた他、他のOPECプラス産油国も2024年第1四半期に実施中の自主的な減産をほぼ同水準の規模で第2四半期末まで延長したうえ、ロシアが2023年12月比で4月につき日量35万バレル(別途同時期原油輸出同12.1万バレル削減)、5月につき同40万バレル(同7.1万バレル削減)、6月につき同47.1万バレルの、それぞれ自主的な減産を実施(それ以降は市場の状況によって漸進的に減産を縮小)する旨、3月4日夜半過ぎ(同)に国営サウジ通信が報じた。
  7. このような動きを背景として、2024年6月2日開催のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、2024年7月1日以降の期間における減産政策について協議するものと見られた。
  8. 足元の世界石油需給見通しに基づくと、2024年初頭より一部OPECプラス産油国が実施している(もしくは今後実施する予定である)自主的な減産措置を延長しない場合、2024年後半は供給が需要を日量132~175万バレル程度上回る(表2参照)結果、供給過剰となることに伴い、原油相場に下方圧力が加わることが想定されるとともに、原油価格の安定を目指す、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国の意向に反することになるものと見られた。

表2 世界石油需給バランスシナリオ(2024年)(2024年5月15日時点)

  1. 2024年7月以降の世界石油需給バランスの均衡を目指すべく、2024年1~6月に実施中であった一部OPECプラス産油国による自主的な減産措置の延長を決定したものと考えられる。
  2. 他方、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しては、2024年1~6月に一部OPECプラス産油国が実施中である自主的な減産措置が少なくとも2024年第3四半期までは延長されるものと事前に予想されていた(市場関係者30人中26人が減産措置延長を決定すると予想しているものと5月2日に伝えられていた)が、2025年への減産措置の延長については殆ど市場では予想されていなかった。
  3. このため、一部の減産措置につき2025年への延長を図ることにより、OPECプラス産油国がより長期に渡り減産を実施することを通じ世界石油需給引き締めの意志を市場に示すとともに、市場における原油価格の先高感の醸成と直近の原油価格の下支えを図ろうとしたものと見られる。
  4. 他方、UAEの原油生産能力が2023年末時点の日量465万バレルから足元同485万バレルへと拡張した旨アブダビ国営石油会社ADNOCが5月2日に明らかにした。
  5. 従来からUAEはOPEC加盟が自国の長期的利害(地球環境問題への対応もあり、将来の世界石油需要を巡る不透明感が強まる中、早期に原油生産を進めることにより自国で埋蔵される石油資源を使い切るとともに石油生産収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識していることが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討していた(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)旨2020年11月17日に伝えられていた。
  6. そのような背景もあり、2021年7月1日に開催されたJMMCの際、2018年10月時点での自国の原油生産能力日量316.8万バレルがこの時点で同384万バレルへと拡大されたことにより、減産措置の基準となる原油生産量(この時点では2018年10月の原油生産量が採用されていた)の引き上げをUAEは要求した。
  7. この結果、2021年7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、2022年5月1日よりUAEの基準原油生産量をそれまでの日量316.8万バレルから同350万バレルへと引き上げる旨決定した(その他、サウジアラビア、イラク、クウェート及びロシアも併せて基準原油生産量を引き上げた)。
  8. それでも、UAEは引き続きOPEC脱退につき内部で検討している旨2023年3月3日朝(米国東部時間)にウォールストリート・ジャーナルが報じるなどしており(しかし、ウォールストリート・ジャーナルの報道は真実から大きく乖離している旨UAE関係筋が明らかにしたと、ウォールストリート・ジャーナルによる報道の1時間程度後にロイター通信が報じるなど、情報が錯綜した)、2023年に入りUAEは再び自国の原油生産目標の引き上げをサウジアラビア等に要望していた可能性がある。
  9. 実際、2023年6月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、2024年1~12月のUAEの原油生産目標の日量20万バレルの引き上げが認められた(その分西アフリカの一部OPEC産油国の原油生産目標が引き下げられる格好となっており、2023年12月21日にはアンゴラが自国の利益に合致しないとしてOPECを脱退する旨表明する事態となった)。
  10. 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しても、UAEは自国の原油生産能力増強を発表することにより、自国の原油生産目標のさらなる引き上げのための圧力を加えようとした可能性がある。
  11. このようなこともあり、今次会合においては、UAEにつき2025年の原油生産目標を1月から9月末にかけ日量30万バレル引き上げることが認められたものと考えられる(なお、2025年全体では同国の原油生産目標増加は日量20万バレル程度となる)。
  12. また、5月11日にイラクのアブドルガニ石油相は、既に自国は十分な減産を実施しており、今回のOPECプラス産油国会合閣僚級会合においては、さらなる減産には合意しない旨表明する場面が見られた(同国が減産幅の拡大に反対しているのか、もしくは自主的なものを含め既存の減産の延長に反対しているのかは明らかにしなかった)。
  13. さらに、カザフスタンにおいては、シェブロンが事業を主導しているテンギス油田の拡張プロジェクトが2025年第2四半期に完了する予定であり、これにより、同油田の原油生産能力は日量26万バレル拡大するとされた。
  14. 加えて、クウェート及びアルジェリアも2025年に増産する可能性がある旨示唆された。
  15. このように、足元で一部OPECプラス産油国が減産措置の実施に対し消極的な姿勢を示し始めている旨示唆されたことが、2024年1~6月において実施中であるこれら産油国による自主的な追加減産措置を2024年10月以降縮小させるとともに2025年9月を以て終了させる方向での決定に向かわせた可能性がある。
  16. もっとも、市場の状況によっては、減産規模の縮小を停止したり、減産規模を拡大したりすることもありうる旨表明することにより、併せて市場関係者間での石油需給緩和感の醸成と原油相場への下方圧力の拡大を防止しようとしたものと考えられる。
  17. なお、2024年1~6月において実施中である、一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産措置を2024年10月以降縮小しても、同年第4四半期の世界石油需給はほぼ均衡するとともに、2024年の世界石油需給は若干ながら供給不足気味となるものと見られる(表3参照)。

表3 世界石油需給バランスシナリオ(2024年)(2024年6月2日時点)


3. 原油価格の動きと石油市場における今後の注目点等

  1. 2024年1~6月において自主的な追加減産を実施している一部OPECプラス産油国が2024年10月から2025年9月にかけ当該減産を縮小する結果、このままでは2025年の世界石油市場が相当程度供給過剰になるものと予想される(表4参照)ことが、日本時間6月3日朝の原油相場に下方圧力を加える一方、市場の状況によっては、当該減産規模縮小の停止や減産拡大の可能性がある旨OPECプラス産油国が警告したこと、及び2024年末まで実施中の公式減産措置及び自主的な追加減産措置が2025年末まで延長されるとは事前に大方の市場関係者は予想していなかったことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、日本時間午前8時30分現在原油価格は前週末終値比1バレル当たり0.30ドル程度下落の同76.70ドル近辺で推移している。

表4 世界石油需給バランスシナリオ(2025年)(2024年6月2日時点)

  1. 今後、OPECプラス産油国等を巡り市場が注目する点は、一部OPECプラス産油国の原油生産目標引き上げ要求の動きとそれを巡るOPECプラス産油国間での対立の先鋭化の可能性、及びOPECプラス産油各国の減産遵守状況になろう。
  2. 前述の通り、UAEの原油生産能力が2023年末時点の日量465万バレルから足元同485万バレルへと拡張した旨アブダビ国営石油会社ADNOCが5月2日に明らかにした。
  3. 他方、5月11日にイラクのアブドルガニ石油相は、既に自国は十分な減産を実施しており、6月1日のOPECプラス産油国会合閣僚級会合においては、さらなる減産には合意しない旨表明した。
  4. 5月12日に、アブドルガニ石油相は、OPECプラス産油国間で合意された減産措置等には従う方針である旨明らかにしたが、今後の減産措置への合意に至る過程においてイラクがどうか対応するかについては判然としない。
  5. 2003年のイラク戦争以降、イラクは自国経済等の復興を巡り不安定な状態が続いており、復興を円滑に推進するためには、多額の石油収入を必要としていることから、減産の実施には積極的でないように見受けられる部分がある。
  6. 今回の会合開催時点においては、UAEやイラクを含め、カザフスタン、クウェート及びアルジェリアを含め複数のOPECプラス産油国の原油生産能力につき第三者の専門機関を交え検討中となっていた(6月末までに結論を出す予定である旨5月14日に伝えられていた)こともあり、原油生産目標再調整を巡りこれら産油国と他の産油国等との間での対立が先鋭化することはなかった。
  7. しかしながら、今後一部OPECプラス産油国の原油生産能力算定作業が完了した段階(なお、これまでのところ算定を巡る各産油国と専門機関との協議は難航している旨5月24日に伝えられる)では、原油生産目標引き上げを希望する一部OPECプラス産油国と他のOPECプラス産油国(例えば、西アフリカのOPECプラス産油国等)との間で議論が紛糾する恐れがある。
  8. また、原油生産目標引き上げを希望する一部OPECプラス産油国が、原油生産能力算定方法を巡り異議を唱えるといったこともありうる。
  9. このような展開となることにより、OPECプラス産油国間での足並みの乱れが露呈するとともに、減産遵守率の低下を含め産油国間での結束に対し市場が疑問視するようになることが、原油相場に下方圧力を加える可能性があるため、注意する必要があろう。
  10. また、2024年1~3月において目標を超過して原油を生産していたイラクとカザフスタンについては、同年12月にかけ原油生産を追加で削減することにより目標超過部分を相殺させるための計画を5月3日に明らかにした。
  11. ただ、OPECプラス産油国閣僚級会合等においては、原油生産目標の完全遵守の重要性がしばしば喚起されていたにもかかわらず、イラク等は原油生産目標を超過する状態を継続していたこともあり、少なくともある程度の期間イラク等が追加減産を含め減産措置を完全に遵守している(あるいは超過して遵守している)との確信を市場が持てるようになるまでは、この面で原油相場への上方圧力は加わりにくいものと考えられる。
  12. また、イラク等が追加減産を含めた減産措置を遵守していない、ということになれば、OPECプラス産油国による減産遵守、及びそれに伴う世界石油需給引き締まりに対し懐疑的な見方が市場で強まる結果、原油相場の上方圧力を削がれる可能性が高まるので注意する必要があろう。
  13. 他方、足元では多くの米国金融当局関係者が、政策金利引き下げを開始するまでには、なお、ある程度の期間に渡り米国の物価上昇が沈静化しつつあることを示唆する指標類が必要であるなど、政策金利引き下げは慎重に実施すべきである旨見解を示す一方、5月15日に米国労働省から発表された4月の同国のエネルギー及び食料品を除くコア消費者物価指数(CPI)が前年同月比3.6%の上昇と2021年4月(この時は同3.0%の上昇)以来の低水準に到達した旨判明した他、5月31日に米国商務省から発表された4月の同国個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)の食料品とエネルギーを除くコア価格指数が前月比0.2%上昇と3月の同0.3%上昇から伸びが鈍化したこともあり、米国金融当局による政策金利引き下げが2024年9月17~18日に開催される予定の米国連邦公開市場委員会(FOMC)において決定されるとの期待が市場で増大している(6月1日現在当該FOMCにおいて政策金利が0.25%引き下げられる確率が47.0%と他のどの選択肢よりも高くなっている)など、同国の金融政策を巡る動向が不透明であることもあり、今後も、CPIを含む米国経済指標類や6月11~12日に開催が予定される次回FOMCの機会を含め同国金融当局関係者の発言等に原油相場が反応していくことになろう。
  14. ただ、金融当局による政策金利引き下げを巡る見解が慎重なままであるとともに、現時点では、9月に開催される予定であるFOMCにおいて決定されると市場から期待される政策金利の引き下げ開始時期が繰り下げられるようであると、原油相場に下方圧力が加わることとなろう。
  15. 他方、5月31日に中国国家統計局から発表された5月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.5と4月の50.4から低下した他市場の事前予想(50.4~50.5)を下回ったうえ、5月の同国非製造業PMIも51.1と4月の51.2から低下した他市場の事前予想(51.5)を下回るなど、同国経済回復は不安定な状態にあることが示唆され、この面ではこの先の石油需要の伸びの加速に対する期待が市場で発生しにくいことから、原油相場への上方圧力も加わりにくい可能性があるものと考えられる。
  16. それでも、中国不動産部門支援のため、同国政府は、住宅購入のための頭金比率の下限を引き下げるとともに融資金利の下限を事実上撤廃することや地方政府が金融機関からの融資(中国人民銀行が3,000億元(約420億ドル)の融資枠を設定する旨5月17日に発表している)を利用し住宅在庫を購入することを含めた一連の支援策を5月17日に発表しているものの、この中国人民銀行が用意する融資枠の規模では同国地方政府による住宅在庫購入には不十分であり、結果として同国の不動産部門再建には至らないことになる旨指摘する向きもあるため、今後の不動産部門を含めた同国政府等による経済支援状況にも注目する必要があろう。
  17. また、4月1日にシリアのイラン在ダマスカス大使館周辺が攻撃された結果イラン革命防衛隊幹部が死亡したことにより、イランがイスラエルに対し報復措置を実施する方針である旨表明した後、4月13日夜から4月14日未明(現地時間)にかけイランがイスラエルに向け無人機等を発射した(殆どは迎撃されたとされる)一方、4月18日夜(米国東部時間)にはイスラエルがイランに対し報復攻撃を実施した旨伝えられたものの、その後のイランの対応が抑制的であったこともあり、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退した結果、4月5日には1バレル当たり86.91ドルとの終値と2023年10月20日(この日の終値は同88.75ドル)以来の高水準の終値に到達した原油価格は、その後変動領域を切り下げ、5月に入ってからは概ね1バレル当たり77~80ドルの範囲内で推移している。
  18. しかしながら、パレスチナ自治区ガザ地区を巡る、イスラエルと、イランが支援しているとされるイスラム武装勢力ハマスとの間での、休戦及び人質解放等に関する交渉は必ずしも順調に進捗しているようには見受けられない一方、イスラエルはガザ地区南部の都市であるラファへの地上侵攻を進めつつあり、再びイスラエルとイランとの間での対立が先鋭化する結果、中東情勢が不安定化することに伴い同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大する結果、原油相場が上振れしないとも限らない状況となっている。
  19. 加えて、ウクライナが発射したものと見られる無人機がロシアの製油所等の石油関連インフラを攻撃しており、火災の発生等により製油所の稼働が停止する場面がしばしば見かけられるが、このような事例によってロシアからの大西洋圏を中心とする地域向けの石油製品等の供給が混乱する結果、石油製品、及び原油の価格が下支えされたり、上昇したりする場面が見られることもありうる。
  20. さらに、米国では5月25~27日の連休(5月27日が戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しており、ガソリン需要が盛り上がる方向に向かうこともあり、当該製品生産のため製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加することにより、原油の購入が活発化するといった見方が市場で醸成されつつあることを通じ、季節的な需給の引き締まり感が市場で強まる結果、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなっており、この状況は7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)に向け強まるものと思われるが、その後は9月2日の労働者の日(レイバー・デー)の休日に伴う連休(8月31日~9月2日)に向け秋場の石油不需要期に伴う石油需給緩和感が市場で感じられるようになるとともに、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。
  21. さらに、2023~24年の冬場に向けた気温予想や実際の気温の低下具合、及び秋場を中心とするところの大西洋圏等におけるハリケーンを含む暴風雨の発生、勢力及び進路を巡る状況等と米国メキシコ湾沖合等の油・ガス田及びメキシコ湾岸地域等の製油所への影響も、原油相場を左右する可能性があるものと思われる。
  22. 以上のような、経済、地政学的リスク、及びファンダメンタルズの各要素を含めた要因を織り込む形で、原油相場が変動していくことになろうが、原油相場の下落が継続した結果、例えば原油価格が1バレル当たり70ドルを大きく割り込んだり、依然70ドルをそれなりには上回ってはいるものの、原油価格下落の勢いが拡大する兆候が見られたりする場合には、原油価格下落の勢いが強まる結果石油需給を調整することを通じた原油相場の制御が困難になる前に、OPECプラス産油国は、まず自主的なものを含め減産幅拡大の実施可能性等につき警告を発し(いわゆる口先介入を行ない)、それでも原油価格の下落が抑制されない場合には、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合、ないしは緊急を要する場合には、次回の閣僚級会合の開催を待たずして、JMMC開催の機会を捉えるか、もしくは臨時の閣僚級会合を開催するなどして、先制的に減産措置を強化することを通じ、原油相場のさらなる下落を防止するとともに、価格の持ち直しを試みるものと考えられる。
  23. 他方、例えば原油価格が上昇する局面では、そのような上昇局面が持続的なものか、もしくは一時的なものかを見極めるため、原油生産調整(この場合増産)の実施については慎重な姿勢で臨む結果、原油上昇過程が長引くことにより、消費国経済に悪影響を及ぼす可能性が相対的に高まることになろう。
  24. また、OPECプラス産油国は実際の石油需給バランスの安定化を目指すことを目的としており、地政学的なものを含む政治リスク要因等に伴う市場の懸念により原油価格が上昇しても、実際に石油供給に支障が発生しているわけではない場合には、増産には消極的な姿勢を示しやすいものと考えられる(実際に石油供給に支障が発生していないにもかかわらず増産すれば、石油需給バランス上の不均衡(この場合緩和)が発生する結果、原油価格が急落することにより、その影響を産油国が被ることをOPECプラス産油国は警戒しているものと考えられる)。
  25. さらに、11月5日に投票が予定される、米国大統領選挙によって、トランプ氏が大統領に返り咲くようであれば、特にその直後は、中東(特にイラン)、ウクライナ及びロシア、米国国内(シェールオイルを含む石油生産等)などを巡り不透明感が増大することから、原油価格が乱高下することになろうが、この場合も、OPECプラス産油国は原油価格下落(もしくはその兆候)に対しては比較的速やかに行動しやすい反面、原油価格の上昇局面においては行動が後手に回りやすいといったように、対応が非対称になる可能性があるので注意する必要があろう。

 

(参考1:2024年6月2日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)

37th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting

No 08/2024
Vienna, Austria
02 June 2024

In light of the continued commitment of the OPEC and non-OPEC Participating Countries in the Declaration of Cooperation (DoC) to achieve and sustain a stable oil market, and to provide long-term guidance and transparency for the market, and in line with the approach of being precautious, proactive, and pre-emptive, which has been consistently adopted by OPEC and non-OPEC Participating Countries in the Declaration of Cooperation, the Participating Countries decided to:

  1. Reaffirm the Framework of the Declaration of Cooperation, signed on 10 December 2016 and further endorsed in subsequent meetings; as well as the Charter of Cooperation, signed on 2 July 2019.
  2. Extend the level of overall crude oil production for OPEC and non-OPEC Participating Countries in the DoC as per the attached table starting 1 January 2025 until 31 December 2025.
  3. Extend the assessment period by the three independent sources to the end of November 2025, to be used as guidance for 2026 reference production levels.
  4. Reaffirm the mandate of the Joint Ministerial Monitoring Committee (JMMC) to closely review global oil market conditions, oil production levels, and the level of conformity with the DoC, assisted by the Joint Technical Committee (JTC) and the OPEC Secretariat. The JMMC meeting is to be held every two months.
  5. Hold the OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting (ONOMM) every six months in accordance with the ordinary OPEC scheduled conference.
  6. Grant the JMMC the authority to hold additional meetings, or to request an OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting at any time to address market developments, whenever deemed necessary.
  7. Reaffirm that the DoC conformity is to be monitored considering crude oil production, using the average of the approved seven secondary sources, and according to the methodology applied for OPEC Member Countries.
  8. Reiterate the critical importance of adhering to full conformity and compensation mechanism.
  9. Hold the 38th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 1 December 2024.

(参考2:2024年6月2日開催一部OPECプラス産油国会合時声明)

Saudi Arabia, Russia, Iraq, the United Arab Emirates, Kuwait, Kazakhstan, Algeria, and Oman met in person in Riyadh on the sidelines of the 37th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting (ONOMM)

Saudi Arabia, Russia, Iraq, the United Arab Emirates, Kuwait, Kazakhstan, Algeria, and Oman met in person in Riyadh on the sidelines of the 37th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting (ONOMM)

OPEC plus countries which announced additional voluntary cuts in April 2023 and November 2023 including Saudi Arabia, Russia, Iraq, United Arab Emirates, Kuwait, Kazakhstan, Algeria, and Oman held a meeting in person in Riyadh on the sideline of the 37th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting (ONOMM).

The meeting was conducted to reinforce the precautionary efforts of OPEC+ countries, aiming to support the stability and balance of oil markets. The aforementioned countries decided, in addition to the latest decisions from the 37th ONOMM, to extend the additional voluntary cuts of 1.65 million barrels per day that were announced in April 2023, until the end of December 2025.

Moreover, these countries will extend their additional voluntary cuts of 2.2 million barrels per day, that were announced in November 2023, until the end of September 2024 and then the 2.2 million barrels per day cut will be gradually phased out on a monthly basis until the end of September 2025 to support market stability as per the attached table. This monthly increase can be paused or reversed subject to market conditions.

In the spirit of transparency and collaboration, the meeting welcomed the pledges made by the Republic of Iraq, the Russian Federation and the Republic of Kazakhstan to achieve full conformity and resubmit their updated compensation schedule to the OPEC Secretariat for the overproduced volumes since Jan 2024 before the end of June 2024 as agreed in the 52nd Meeting of the Joint Ministerial Monitoring Committee (JMMC).

Production Levels with the Phase-out of only November 2023 Voluntary cuts which will be applied starting from October 2024 until September 2025

以上

(この報告は2024年6月3日時点のものです)

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