ページ番号1010144 更新日 令和6年6月18日
原油市場他:一部OPECプラス産油国の減産縮小決定等により下落するも、米国金融当局の政策金利引き下げへの期待等から持ち直す原油価格
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概要
- 米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったこともあり、製油所の原油精製処理量が高水準に到達するとともに石油製品製造活動が活発化した。しかしながら、同国のガソリンや留出油の需要は伸び悩み気味に推移した結果、両製品在庫は増加傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年並みの、それぞれ量となっている。また、原油精製処理量が増加したものの、原油純輸入が増加する場面が見られた結果、同国の原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を上回る状態は継続している。
- 2024年5月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州では、製油所の装置の不具合発生もあり原油精製処理量の減少とともに在庫は増加した。ただ、米国では原油精製処理活動の活発化に従って原油在庫は減少した他、日本でも製油所のメンテナンス作業実施に併せた原油在庫調整と見られる動きにより当該在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では、製油所の稼働低下に伴う石油製品製造活動の不活発化もあり、在庫は若干ながら減少した。しかしながら、日本では、暖房向けの灯油需要鈍化により灯油在庫が増加したことを含め石油製品在庫は増加した。また、米国でもガソリンや留出油両在庫の増加に加え、暖房向けのプロパン需要が低下したことに伴う当該製品在庫増加等により、石油製品在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は増加した他平年幅上方付近に位置する量となった。
- 2024年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場においては、5月中旬から6月上旬前半頃にかけては、政策金利引き下げに対する慎重な姿勢を示唆する米国金融当局関係者の発言に加え、6月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合等の際、一部OPECプラス産油国の自主的な追加減産を縮小する旨決定された結果、2025年の世界石油市場の供給過剰感を市場が意識したこと等が、原油相場に下方圧力を加えたことにより、原油価格(WTI)は下落傾向となり、6月4日には1バレル当たり73.25ドルの終値と2024年2月5日以来の低水準に到達した。しかしながら、その後は米国金融当局による政策金利引き下げへの期待が市場で強まったこと等が原油相場に上方圧力を加えたことから、原油価格は回復傾向となった。
- 今後当面、米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要の盛り上がりによる季節的な石油需給の引き締まり感が市場で継続することが、原油相場を下支えしやすいものと考えられる。また、中東情勢やウクライナによるロシアの製油所等石油関連インフラへの攻撃等に伴う、これら地域からの石油供給途絶の可能性に対する懸念に加え、米国金融当局による政策金利引き下げへの期待も原油相場に上方圧力を加えやすいものと考えられる。ただ、OPECプラス産油国閣僚級会合等の開催の際に決定された減産の緩和に伴う2025年に向けての石油需給緩和観測が原油価格の持続的な上昇を抑制する可能性がある。そのような中、米国及び中国の経済指標類や米国金融当局関係者等の発言、中国政府等による景気刺激策を巡る状況、サウジアラビアやロシア等による原油価格下落を牽制する発言等が原油価格に影響を与えうるものと見られる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPECプラス産油国が公式減産措置及び一部産油国の自主的な減産措置を一部調整のうえ2025年末まで延長
(1) 協議内容等
OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2024年6月2日に閣僚級会合を事実上対面とオンラインの混合形式で開催した。なお、同日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催前にはOPEC総会及びOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)が開催された。当初同会合は6月1日に対面形式で開催される予定であったが、開催日を6月2日へと1日延期したうえでオンライン形式により実施する旨OPEC事務局が5月23日付声明で発表した(実際に伝えられたのは5月24日であった)。閣僚級会合開催日延期とオンライン形式での実施への変更の理由は明らかにされなかったが、サウジアラビアのサルマン国王の健康状態が芳しくなかったこと(関節痛と高熱の症状のため5月19日にサルマン国王が検査を受けた後肺炎の治療を行なうことになったことから、5月20日より予定されていたムハンマド皇太子による訪日が延期となっていた)他、5月19日にヘリコプターの事故によりイランのライシ大統領とアブドラヒアン外相が死亡したことが、関係している可能性があると見る向きがある旨5月24日に伝えられる。しかしながら、その後当該閣僚級会合は6月2日にサウジアラビアのリヤドにおいて対面形式により開催される予定である旨5月31日に報じられた(但し、一部のOPECプラス産油国は引き続きオンライン形式での会合出席となっていたこともあり、6月2日にオンライン形式で会合が実施される予定であるとのOPEC事務局からの公式発表はそのままであった)。会合はサウジアラビアのリヤドにあるリッツ・カールトンホテルで開催され、サウジアラビアに加え、アルジェリア、イラク、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)、ロシア、カザフスタン及びオマーンといった、自主的な減産を実施している産油国が対面形式で会議に出席した(但しオマーンのウーフィー(Aufi)エネルギー鉱物資源相は出席しなかったとされる)。
協議の結果、従来2024年12月31日を期限として実施中であったOPECプラス産油国による公式減産措置を一部調整のうえ2025年末まで延長することを決定した(表1参照)。その際、UAEについては2025年の原油生産目標を1月から9月末にかけ合計で日量30万バレル引き上げることが認められた(2025年全体では同国の原油生産目標増加は日量20万バレル程度となる)。また、別途サウジアラビア、アルジェリア、イラク、クウェート、UAE、ロシア、カザフスタン及びオマーンによる対面形式での会議が開催され、これら産油国が当初2024年12月末まで実施する予定となっていた日量165万バレル程度の自主的な追加減産を2025年12月末まで延長した他、2024年1月1日から2024年6月30日にかけ実施中である自主的な追加減産を、概ね同水準で2024年9月末まで延長したうえ、以降毎月概ね一定量で以て縮小、2025年9月を以て終了する旨決定した(表2参照)。ただ、この減産措置の縮小は、市場の状況によっては縮小を停止したり、もしくは減産を拡大したりすることもありうるとしている。
また、外部の専門機関(IHSマークイット(IHS Markit)、ウッド・マッケンジー(Wood Mackenzie)及びライスタッド・エナジー(Rystad Energy))によるOPECプラス産油各国の原油生産能力評価を2025年11月にかけ実施するとともに、2026年のOPECプラス産油各国の原油生産目標設定のための参考とするとした。さらに、7機関(米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)、S&Pグローバル・プラッツ(S&P Global Platts)、アーガス・メディア(Argus Media)、エナジー・インテリジェンス(Energy Intelligence)、IHSマークイット、ウッド・マッケンジー及びライスタッド・エナジー)のデータを使用しつつ、OPECプラス産油各国の原油生産及び遵守状況を監視していくことを再確認した。
加えて、JMMCを2ヶ月毎に開催する(次回は8月1日に開催されるとされる)とともに、JMMCはOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)及びOPEC事務局の支援を受け、世界石油市場の状況、(OPECプラス産油各国の)石油生産水準及び減産遵守状況を検討するとともに、必要と判断される如何なる時においても、追加会合を招集したり、OPECプラス産油国閣僚級会合を開催したりする権限をJMMCに付与する旨改めて表明した。
また、減産の完全遵守と(原油生産目標を超過して生産した場合には追ってその超過生産分を追加して減産することにより)減産を補償する措置に固執することが極めて重要であることが改めて強調された。さらに、自主的な減産を実施する一部OPECプラス産油国間での会合においては、イラク、カザフスタン、及びロシア(2024年4月の原油生産量が技術的な問題で目標を超過してしまっているが、間もなくOPEC事務局に対し是正措置実施計画を提出する旨5月23日に同国エネルギー省が明らかにしていた)が減産の完全な遵守達成を約束し、これまでの超過生産分に関する是正措置を講ずるための計画の最新版を提出したとして歓迎された。なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2024年12月1日に開催される予定である。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2023年6月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合以降、中国経済が底打ちしつつあることを示唆する指標類が発表されたことや同年7月1日より実施されたサウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産(6月4日に伝えられた当初は同年7月末までの実施予定であったが、7月3日には8月末まで、さらに8月3日には9月末まで、それぞれ実施を延長する旨報じられていた)を2023年末まで3ヶ月間延長する旨9月5日に伝えられたこと等に伴い、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことにより、原油価格は上昇基調となり、9月27日には原油価格(WTI)は1バレル当たり93.68ドルの終値と、2022年8月29日(この時の終値は同97.01ドル)以来の高水準の終値に到達する場面が見られた(図1参照)。
しかしながら、その後は中国経済の回復が不安定であることを示唆する経済指標類が発表されたことや米国原油在庫が増加したこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、2023年11月16日には原油価格は1バレル当たり72.90ドルと同年7月6日(この日の終値は同71.80ドル)以来の低水準の終値に到達した他、9月27日の終値から22%程度の下落となった。加えて、サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を2023年末で終了した場合、2024年前半は日量160~170万バレル程度の供給過剰となる可能性があることが当時示唆されたため、2024年に向け原油価格の下落が加速する恐れがあることが懸念された。
このようなこともあり、2023年11月30日に開催される予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合に向け、特に2024年前半の世界石油需給緩和懸念を払拭すべく、サウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産の延長と併せ、日量100万バレル程度の公式の原油生産目標引き下げ(つまり減産幅拡大)を実施することで、OPECプラス産油国は世界石油需給の引き締まり感を市場で醸成させるとともに原油価格の持ち直しを図ろうとした。しかしながら、6月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において2024年1~12月における原油生産目標を引き下げられた西アフリカの一部OPECプラス産油国(他方、アラブ首長国連邦(UAE)は同期間の原油生産目標が日量20万バレル程度引き上げられた)がさらなる目標の引き上げに抵抗したものと見られることにより、議論が収束しなかった結果、実際11月30日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、OPECプラス産油国全体としての公式の原油生産目標引き下げ(つまり減産目標の引き上げ)は見送られる格好となった。
その代わり、サウジアラビアは2023年7月1日から12月31日まで実施予定であった日量100万バレルの自主的な追加減産を2024年3月31日まで延長することとした他、アルジェリア、イラク、クウェート、UAE、カザフスタン及びオマーンが2024年1月1日から3月31日にかけ合計で日量69.6万バレルの自主的な追加減産を実施する旨事実上決定した。また、併せて、ロシアは2023年9~12月末にかけ実施中であった日量30万バレルの原油及び石油製品輸出の削減(2023年5~6月平均を基準としており、8月3日に同国のノバク副首相が9月に当該輸出削減措置を実施する方針である旨表明した他、9月5日に同副首相が2023年末まで同措置を延長する意向である旨明らかにした)を同50万バレル(原油日量30万バレル、石油製品同20万バレル)に拡大して2024年1~3月に実施する旨11月30日にノバク副首相が発表した。
その後、2024年3月3日夜(現地時間)には、世界石油市場安定化のため、サウジアラビアが2024年1~3月に実施中の日量100万バレルの自主的な減産を6月末まで延長(それ以降は市場の状況によっては漸進的に減産を縮小)する旨国営サウジ通信が報じた他、他のOPECプラス産油国も2024年第1四半期に実施中の自主的な減産を概ね同水準の規模で第2四半期末まで延長したうえ、ロシアが2023年12月比で4月につき日量35万バレル(別途同時期原油輸出同12.1万バレル削減)、5月につき同40万バレル(同7.1万バレル削減)、6月につき同47.1万バレルの、それぞれ自主的な減産を実施(それ以降は市場の状況によって漸進的に減産を縮小)する旨、3月4日夜半過ぎ(同)に国営サウジ通信が報じた。
このような動きを背景として、2024年6月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、2024年7月1日以降の期間における減産政策について協議するものと見られた。この時点での世界石油需給見通しに基づくと、2024年初頭より一部OPECプラス産油国が実施している(もしくは今後実施する予定である)自主的な減産措置を延長しない場合、2024年後半は供給が需要を日量132~175万バレル程度上回る(表3参照)結果、供給過剰となることに伴い、原油相場に下方圧力が加わることが想定されるとともに、原油価格の安定を目指す、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国の意向に反することになるものと見られた。このため、2024年7月以降の世界石油需給バランスの均衡を目指すべく、2024年1~6月に実施中であった一部OPECプラス産油国による自主的な減産措置の延長を測ったものと考えられる。
また、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しては、2024年1~6月に一部OPECプラス産油国が実施中である自主的な減産措置が少なくとも2024年第3四半期までは延長されるものと事前に予想されていた(市場関係者30人中26人が減産措置延長を決定すると予想しているものと5月2日に伝えられていた)が、2025年への減産措置の延長については殆ど市場では予想されていなかった。このため、一部の減産措置を2025年に延長させることにより、OPECプラス産油国がより長期に渡り減産を実施することを通じ世界石油需給引き締めの意志を市場に示すとともに、市場における原油価格の先高感の醸成と直近の原油価格の下支えを図ろうとしたものと見られる。
ただ、UAEの原油生産能力が2023年末時点の日量465万バレルから足元同485万バレルへと拡張した旨アブダビ国営石油会社ADNOCが5月2日に明らかにした。従来からUAEはOPEC加盟が自国の長期的利害(地球環境問題への対応もあり、将来の世界石油需要を巡る不透明感が強まる中、早期に原油生産を進めることにより自国で埋蔵される石油資源を使い切るとともに石油生産収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識していることが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討していた(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)旨2020年11月17日に伝えられていた。そのような背景もあり、2021年7月1日に開催されたJMMCの際、2018年10月時点での自国の原油生産能力日量316.8万バレルがこの時点で同384万バレルへと拡大されたことにより、減産措置の基準となる原油生産量(この時点では2018年10月の原油生産量が採用されていた)の引き上げをUAEは要求した。この結果、2021年7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、2022年5月1日よりUAEの基準原油生産量をそれまでの日量316.8万バレルから同350万バレルへと引き上げる旨決定した(その他、サウジアラビア、イラク、クウェート及びロシアも併せて基準原油生産量を引き上げた)。
それでも、UAEは引き続きOPEC脱退につき内部で検討している旨2023年3月3日朝(米国東部時間)にウォールストリート・ジャーナルが報じるなどしており(しかし、ウォールストリート・ジャーナルの報道は真実から大きく乖離している旨UAE関係筋が明らかにしたと、ウォールストリート・ジャーナルによる報道の1時間程度後にロイター通信が報じるなど、情報が錯綜した)、2023年に入りUAEは再び自国の原油生産目標の引き上げをサウジアラビア等に要望していた可能性がある。実際、2023年6月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、2024年1~12月のUAEの原油生産目標の日量20万バレルの引き上げが認められた(その分西アフリカの一部OPEC産油国の原油生産目標が引き下げられる格好となっており、2023年12月21日にはアンゴラが自国の利益に合致しないとしてOPECを脱退する旨表明する事態となった)。今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しても、UAEは自国の原油生産能力増強を発表することにより、自国の原油生産目標のさらなる引き上げのための圧力を加えようとした可能性がある。このようなこともあり、今次会合においては、UAEにつき2025年の原油生産目標を1月から9月末にかけ日量30万バレル引き上げることが認められたものと考えられる。
また、5月11日にイラクのアブドルガニ石油相は、既に自国は十分な減産を実施しており、今回のOPECプラス産油国会合閣僚級会合においては、さらなる減産には合意しない旨表明する場面が見られた(同国が減産幅の拡大に反対しているのか、もしくは自主的なものを含め既存の減産の延長に反対しているのかは明らかにしなかった)。さらに、カザフスタンにおいては、シェブロンが事業を主導しているテンギス油田の拡張プロジェクトが2025年第2四半期に完了する予定であり、これにより、同油田の原油生産能力は日量26万バレル拡大するとされた。加えて、クウェート及びアルジェリアも2025年に増産する可能性がある旨示唆された。
このように、足元で一部OPECプラス産油国が減産措置の実施に対し消極的な姿勢を示し始めている旨示唆されたことが、2024年1~6月において実施中であるこれら産油国による自主的な追加減産措置を2024年10月以降縮小させるとともに2025年9月を以て終了させる方向での決定に向かわせた可能性がある。もっとも、市場の状況によっては、減産規模の縮小を停止したり、減産規模を拡大したりすることもありうる旨表明することにより、併せて市場関係者間での石油需給緩和感の醸成と原油相場への下方圧力の拡大を防止しようとしたものと考えられる。なお、6月2日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催時点における2024年の世界石油需給バランスシナリオに基づけば、2024年1~6月において実施中である、一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産措置を2024年10月以降縮小しても、同年第4四半期の世界石油需給はほぼ均衡するとともに、2024年の世界石油需給は若干ながら供給不足気味となるものと見られる(表4参照)。
6月2日のOPECプラス産油国閣僚級会合等の開催後、一部市場関係者の間では、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は原油価格の安定性維持よりも市場占有率拡大を重視する方針に転換したとの指摘がなされたが、OPECプラス産油国は依然として(原油価格の)安定性を優先させており、市場占有率拡大へと方針に転換したわけではない旨6月6日にサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は明らかにしている。
(3) OPECプラス産油国閣僚級会合等の結果を受けた原油価格の動き等
従来2024年末まで実施される予定であった公式減産措置及び自主的な追加減産措置が2025年末まで延長されることは大方の市場関係者は事前に予想していなかったことに加え、2024年1~6月において自主的な追加減産を実施している一部OPECプラス産油国が2024年10月から2025年9月にかけての当該減産を縮小につき、市場の状況によっては、縮小の停止や減産拡大の可能性がある旨OPECプラス産油国が警告したことが、OPECプラス産油国閣僚級会合後の取引日に当たる6月3日の原油相場に上方圧力を加えたものの、この時点の世界石油需給バランスシナリオに基づけば、このままでは2025年の世界石油市場が相当程度供給過剰になるものと予想されること(表5参照)が原油相場に下方圧力を加えたことから、6月3日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.77ドル程度下落し、74.22ドルの終値となった他、6月4日もこの流れが引き継がれたことにより、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.25ドルと前日終値比0.97ドル下落した他、この日の終値は2024年2月5日(この日の終値は72.78ドル)以来の低水準に到達した。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2024年3月の米国ガソリン需要(確定値)は日量889万バレル、前年同月比で1.3%程度の減少となり(図2参照)、2月の当該需要である同860万バレルから需要量が増加した反面同月の前年同月比1.3%程度の減少から減少率は横這いであった。ただ、当該需要は速報値(前年同月比1.0%程度減少の日量892バレル)からは若干ながら下方修正されている。3月は米国が全体的に温暖になったことにより、同月の個人の外出が促された(3月の同国自動車運転距離数は1日当たり89億マイルと2月の同83億マイルから増加している)ことが、3月の同国ガソリン需要が前月比で増加した背景にある。しかしながら、米国において物価上昇沈静化がもたつき気味となったこともあり、特に2024年1月以降の同国実質個人可処分所得の伸びが前年同期比で相当程度鈍化したことに加え、2024年3月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.542ドルと前年同月(同3.535ドル)を超過するなどしたことにより、ガソリン価格の割高感が消費者に意識されたことが、個人のガソリン支出を抑制した結果、同年3月のガソリン需要が前年同月比で減少したものと考えられる。なお、2024年3月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年3月の当該需要(日量918万バレル)(確定値)を3.2%程度下回っている。他方、2024年5月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量904万バレル、前年同月比で0.7%程度の減少と、2024年4月の当該需要(速報値)である日量861万バレルから需要量が増加した他、同月の前年同月比4.3%程度の減少からは減少率は縮小した。米国では5月27日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したことから、それを控えてガソリン給油活動が活発化したことが、5月の米国ガソリン需要の前月比での増加に反映されている。また、2024年5月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり3.725ドルと4月の同3.733ドルから若干ながら下落したことも、個人のガソリン消費を相対的に促進させた側面があったものと考えられる。もっとも、5月の全米平均ガソリン小売価格は前年同月(同3.666ドル)を上回ったうえ、5月の米国実質個人可処分所得の前年同月比での伸びの鈍化傾向も継続していたものと推察されることが、同月のガソリン需要を抑制する格好となった。また、2023年5月の米国ガソリン需要が前年同月比0.2%の減少と低調であったことへの反動で2024年5月の当該需要の前年同月比で伸びたように見えている部分もある。これは、2023年4月の米国ガソリン需要(この場合厳密に言えば製油所等からの「出荷」となる)が前年同月比で2.8%程度増加したものの、2023年4月の自動車運転距離数は前年同月比で0.1%の伸びにとどまった(同年3月10日に同国中堅金融機関シリコンバレー銀行が破綻して以降、複数の同国金融機関が破綻したり預金量が減少したりする旨伝えられるなど経営不安が拡大した(同年4月24日には同国中堅金融機関であるファースト・リパブリック銀行の預金量が2023年1~3月期に40%程度減少した旨明らかになったうえ5月1日に同行は破綻した)ことにより、金融不安の同国経済への影響に対する懸念が消費者の間で広がったことが一因であるものと考えられる)ことから、製油所等から出荷されたガソリンが小売店(ガソリンスタンド)等に滞留したことに伴い、2023年5月の同国ガソリンの出荷が抑制される格好となったことによるものと見られる。なお、2024年5月の米国ガソリン需要は2019年5月の当該需要(日量950万バレル)(確定値)を4.8%程度下回っている。また、米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来を控え、製油所で春場のメンテナンス作業が終了するとともに不具合が発生した装置の改修も進んだことから原油精製処理量が前年同期を超過した他、5月31日の週には日量1,714万バレルと2019年12月27日の週(この週は同1,728万バレル)以来の高水準に到達するなど堅調に推移した(図3参照)ため、ガソリン製造活動も活発化した(ガソリン最終製品生産量は図4参照)一方、足元のガソリン需要はそれほど盛り上がらなかった(2024年の米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月27日)に伴う連休(5月25~27日)時の休暇シーズン(5月23~27日)における同国での乗用車を利用して外出する個人数は3,840万人と2000年以降の統計史上最高水準に到達するものと見込んでいる旨米国自動車協会(AAA)が5月13日に明らかにしていたが、実施個人可処分所得が必ずしも堅調ではなかったものと見られること等により、外出が短期間、短距離かつ低費用で行なわれた可能性がある)ことから、同国のガソリン在庫は、5月上旬から6月上旬にかけては増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態となっている(図5参照)。
2024年3月の米国留出油需要(確定値)は日量367万バレル、前年同月比10.5%程度の減少となり(図6参照)、2月の同392万バレル(前年同月比2.5%程度の減少)から需要量が減少した他、前年同月比での減少率も相当程度拡大した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比12.2%程度減少の日量360万バレル)からは若干ながら上方修正されている。3月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量120万バレル程度と推定されたところ確定値では同113万バレルへと下方修正されたことにより、同国留出油需要が速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正された部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に寄与しているものと見られる。2024年3月は米国の暖房用留出油需要の中心地である北東部が前月及び前年同月に比べ相当程度温暖であったうえ、物価上昇沈静化のもたつきもあり、鉱工業生産活動が抑制気味に推移した他、同国の物流活動も鈍化したことにより、暖房、産業及び輸送各部門向けの需要が不振であったことが、同月の留出油需要を押し下げたものと考えられる。なお、2024年3月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量418万バレル)(確定値)を12.2%程度下回っている。他方、2024年5月の米国留出油需要(速報値)は推定日量370万バレル、前年同月比で5.9%程度の減少となり、4月の当該需要量(速報値)の日量352万バレル(前年同月比9.7%程度の減少)から需要量が上振れしたうえ、前年同月比の減少率は縮小した。2024年5月の同国鉱工業生産は前月比で多少なりとも増加した他、前年同月ではほぼ横這いとなったものと推定される(因みに2024年4月の同国鉱工業生産は前年同月を0.4%程度下回っていた)ことから、物流活動も併せて持ち直したものと推測されることが、2024年5月の同国留出油需要を下支えする格好となったことにより、当該需要を前月から増加させた他、前年同月比での減少率を縮小させたものと考えられる。また、同国の留出油需要(速報値)は2022年3月以降、一貫して速報値が確定値に移行する段階で上方修正されていることから、同需要も速報値から確定値に移行する段階で上方修正される可能性があるので、注意する必要があろう。なお、2024年5月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量411万バレル)(確定値)を10.1%程度下回っている。そして、このように、同国の留出油需要が前年を割り込むなど軟調に推移した反面、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近しつつあったことから、製油所においてはガソリンの製造を優先させる反面留出油の製造を劣後させる側面はあったものの、ガソリン製造に向け製油所の稼働が上昇傾向となったことにより、併せて留出油の製造もそれなりに行なわれた(図7参照)結果、5月上旬から6月上旬にかけ米国留出油在庫は増加傾向となった他、平年並みの量となっている(図8参照)。
2024年3月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比1.0%程度減少の日量1,988万バレルとなり(図9参照)、2月の同1,995万バレルから需要量が減少した他、同月の前年同月比1.0%程度の増加から減少に転じた。留出油需要が前月比で減少したことが、石油需要の前月比での減少に影響している他、ガソリン及び留出油需要が前年同月比で減少したことが、石油需要の前年同月比での減少に反映されている。また、ガソリン及びその他の石油製品の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたことから、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比0.8%程度増加の日量2,024万バレル)から下方修正されている。なお、2024年3月の米国石油需要は2019年3月の当該需要(日量2,018万バレル)(確定値)を1.5%程度下回っている。他方、2024年5月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,002万バレル、前年同月比で1.8%程度の減少となっており、4月の同国石油需要(速報値)である日量1,975万バレル、前年同月比1.4%程度の減少から、需要量は増加した反面前年同月比の減少率は拡大した。ガソリン及び留出油の各需要が前月比で増加したことが、同国石油需要の前月比での増加に反映されている反面、2024年5月のガソリン及び留出油等の需要が前年同月比で減少したうえ、その他の石油製品の前年同月比での増加が4月に比べ相当程度鈍化した(2022年11月16日に本格的操業開始を発表した同国ペンシルバニア州モナカ(Monaca)のエタン分解装置(操業者:Shell、エチレン生産能力:年産160万トン)が、その後大気汚染規制抵触の疑いや装置の不具合発生等により操業を停止した旨2023年5月8日に報じられており、これに伴い代替として米国における他のエタン分解装置向けのエタン調達が活発化したものと見られることが、2023年5月のエタン需要を押し上げる格好となった反動で、2024年の当該製品需要の伸びが鈍化した格好となった可能性があるものと考えられる)ことから、5月の米国石油需要の前年同月比での減少率は4月から拡大する格好となっている。なお、2024年5月の米国石油需要は2019年5月の当該需要(日量2,039万バレル)(確定値)を1.8%程度下回っている。また、米国の原油生産量が概ね横這いの中、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に向け製油所の原油精製処理量が増加傾向となったことにより、5月上旬から末にかけての同国原油在庫は減少傾向となったものの、5月上旬から末にかけ概ね日量193~261万バレルの範囲で明確な増加及び減少の傾向なく推移していた米国原油純輸入量は6月7日の週に同512万バレルへと跳ね上がった(欧州等において軽油を中心として石油製品需給が緩和気味に推移していることあり、精製利幅が圧迫される場面が見られるとともに欧州等の製油所等からの原油需要が低下していることが影響している可能性がある)ことから、5月上旬から6月上旬にかけ米国原油在庫は増加傾向となった他平年幅上限を超過する状態は継続している(図10参照)。そして、原油及びガソリン両在庫が平年幅上限を超過する一方、留出油在庫が平年並みの量となっていることもあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。
2024年5月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州では、複数の製油所において装置に不具合が発生したこともあり、原油精製処理量が減少するとともに在庫は増加した。しかしながら、米国では製油所での原油精製処理量が増加したこともあり原油在庫は減少した他、日本においても一部製油所が春場のメンテナンス作業を実施しつつあることに併せ原油在庫を調整したものと見られることもあり在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図13参照)。石油製品については、欧州においては製油所の稼働低下に伴う石油製品製造活動の不活発化もあり、在庫は若干ながらではあるが減少した。しかしながら、日本においては、高水準のガソリン小売価格が継続したことに加え他の物価も上昇していたこともあり消費者の節約志向が強かったことが個人の外出を敬遠させる格好となったことによりガソリン需要が抑制される形となった他、軽油の需要が低調となった(2024年4月1日より同国輸送部門での労働条件を巡る規制が強化されたことに伴い物流等の活動が抑制される格好となったことが影響していると見る向きもある)ことから、ガソリン及び軽油在庫が増加した。また、アジア市場における石油化学製品需要が低調に推移したことにより、ナフサ分解装置の稼働が低水準にとどまっているとされることもあり、ナフサ需要が不振気味になるとともに同製品在庫が増加する格好となった。加えて、冬場の暖房需要期が終了したこともあり、暖房向けに使用される灯油の需要が低迷したことにより同製品の在庫も増加傾向となった。このようなこともあり同国の石油製品在庫は増加した。また、米国では、ガソリンや留出油の在庫の増加に加え、気温が上昇するとともに暖房向けのプロパン需要が低下したことに伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了による当該製品に混入していたブタンの需要減少に伴うその他の石油製品在庫の増加もあり、石油製品在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は増加となった他平年幅上方付近に位置する量となった(図14参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する量となっている(図15参照)。なお、2024年5月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は62.0日と4月末の推定在庫日数(61.1日)から増加している。
5月15日に1,500万バレル台前半程度の水準であったシンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は、5月22日には1,400万バレル台半ば程度の量へと減少した。5月29日は前週比で増加はしたものの同在庫は1,400万バレル台半ば程度の水準にとどまった。また、6月5日には1,600万バレル台前半程度の量へと回復したものの、6月12日には1,500万バレル台前半程度の量へと減少した結果、5月15日時点とほぼ同水準となっている。3月12日以降、ウクライナにより発射されたものと見られる無人機等が、ロシアにおける製油所等を攻撃した結果、一部で火災が発生するとともに、操業が停止した。3月末時点では同国製油所の原油精製処理能力の14%近くの原油精製処理能力が停止したと推定された(同国製油所の原油精製処理能力は2022年時点で日量682万バレル程度とされていることから、その14%近くは日量100万バレル程度に相当するものと見られる)結果、3月後半から4月前半を中心とする時期において、ロシアの大西洋岸の積出港からシンガポール方面へのナフサを中心とする軽質留分の出荷が鈍化したことに伴い、4月後半から5月前半にかけての期間を中心として、シンガポールのナフサ輸入が減少した。しかしながら、その後ロシアの製油所の原油精製処理能力の停止規模は同国の能力全体の10%程度にまで低下したものと推定される旨4月16日に報じられるなど、ロシアの製油所の稼働が回復傾向となったことにより、特に5月上旬以降はロシアからシンガポール方面へのナフサの輸出が活発化するとともに、5月下旬から6月にかけ、シンガポールのロシアからのナフサ輸入が拡大する様相を呈したことが、シンガポールにおける軽質留分在庫を増加させる方向で作用した。しかしながら、中国を初めとしてアジア諸国及び地域は春場の製油所メンテナンス作業を実施しつつあったことにより、これら諸国及び地域におけるガソリン等軽質留分の輸入が活発化する反面輸出が低調になる(また、中国での労働節に伴う休日(5月1~5日)において自動車を利用した個人の外出が活発化した結果ガソリン需要が上振れしたことも同国からの輸出に影響したと見る向きもある)とともに、シンガポールの軽質留分の中国等からの流入が鈍化した格好となった(また、2024年第1回の中国石油製品輸出枠1,900万トンが付与されたこと(2023年12月29日に中国当局が発表したとされる)に伴い、2024年1月以降中国からガソリンを含む軽質留分が輸出され始め、2月から3月前半を中心とする時期にかけシンガポールに流入したものの、中国の石油製品輸出枠の残りが少なくなり始めたことから、中国からの軽質留分輸出が低調となったことも、シンガポールの中国等からの軽質留分輸入が低迷した背景にある)ことが、シンガポールの軽質留分在庫を抑制する形で作用した。そしてこのように、シンガポールにおける軽質留分在庫は増減しながらも概ね横這いとなったが、米国においては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近しつつあったものの、同国のガソリン在庫が増加傾向となったことから、かえって米国ガソリン需給の緩和感を市場が意識するようになったことが、同国のガソリン価格に下方圧力を加えるとともに、欧州及びアジアから米国方面へのガソリン供給を巡る経済性の悪化に対する懸念を市場で醸成することを通じてアジア市場におけるガソリン価格に下方圧力を加えたうえ、米ドルが上昇気味に推移したことが現地通貨建のガソリン価格を割高にさせる格好となったことによりアジア諸国及び地域におけるガソリン需要が押し下げられるとともに、かえってガソリン価格を抑制する格好となったことから、5月中旬から6月中旬にかけてのアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を示した。
また、2023年に入り中国国内におけるナフサ分解装置(及びプロパン脱水素化装置(PDH: Propane Dehydration))の稼働率が上昇しつつある(ナフサ分解装置に投入される原料であるナフサは中国が輸入等した原油を精製することにより製造されているものと推測される)ことが示唆される旨指摘されており、同国の石油化学製品輸入が限定される格好となっている(2024年4月の同国のエチレン輸入量は約14万トンと直近のピーク時である2019年1月(約29万トン)の半分以下の規模となっている)こともあり、(中国を除く)アジア地域における石油化学製品需要は不調気味であった。このため、アジア諸国及び地域ではナフサ分解装置のメンテナンス作業を実施したり、稼働率を引き下げたりしたことにより、石油化学部門向けのナフサ需要が低迷する格好となった。加えて、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期が終了するとともに暖房向けに利用されていたLPGの需要が減退した結果LPG価格が下落したことにより、ナフサに代わり価格が割安となったLPGを石油化学製品製造のための原料として使用する動きが発生したことから、石油化学部門においてナフサとLPGとの間で価格面での競合が激化するとともに、ナフサの需要が一層軟調になるとの観測が市場で増大した(しかしながら、同時に中国においてPDHの稼働が上昇するとともに原料となるLPGの需要が拡大することから、LPG価格が上昇するとともに相対的に割安となるナフサの石油化学部門向け需要が回復する可能性があると見る向きもある)。加えて、2024年5月初頭以降を中心としてロシアからアジア方面へのナフサ供給が回復し始めた。このような要因が、アジア市場におけるナフサ価格に下方圧力を加えた。ただ、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来に伴いガソリンに混入されるためのナフサの需要がアジア諸国及び地域において拡大するとの観測が市場で強まったことがナフサ価格に上方圧力を加える格好となった。このようなこともあり、5月中旬から6月中旬にかけてのアジア市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は概ね限られた範囲で推移した。
5月15日には1,000万バレル強程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分の在庫は、5月22日には1,100万バレル弱程度の量へと増加した。5月29日には1,000万バレル台後半程度の量へと減少した後、6月5日には前週比で増加したものの1,000万バレル台後半程度の水準にとどまった。そして、6月12日には900万バレル強程度の量へと減少した結果、5月15日の水準を下回る状態となった。欧州を中心とする地域において、気候が温暖であったこともあり、暖房向けの民生部門を中心とした暖房油需要が低迷したうえ、物価上昇や政策金利引き上げ等に伴う経済減速により産業及び輸送部門での軽油需要が抑制された一方、攻撃を受け操業を停止したロシアの製油所の一部が比較的早期に操業を再開し始めたことに加え、オマーンにおいて国営石油会社OQ及びクウェート国際石油(KPI: Kuwait Petroleum International)との折半出資によるOQ8が操業するドゥクム(Duqm)製油所(原油精製処理能力日量23万バレル)(2024年2月7日に操業を開始)、クウェートにおいてアル・ズール(Al Zour)製油所(原油精製処理能力日量61.5万バレル、2023年7月6日に操業者であるKIPI(Kuwait Integrated Petroleum Industries)が全ての施設での操業開始を発表)、及びナイジェリアにおいてダンゴデ(Dangote)製油所(操業者:ダンゴテ・インダストリー、原油精製処理能力最大同65万バレル、2023年5月22日に正式に操業開始を発表)等の、新規製油所が、それぞれ操業を開始した他、2024年2月23日にはイラクのアル・シャマル(Al-Shamal)製油所(原油精製処理能力日量31万バレル)が操業を再開した(2014年にイスラム国(IS)の攻撃により操業を停止していた)ことにより、軽油を含む石油製品の供給が潤沢になるとの観測が市場で発生したことが、欧州を中心とする地域において中間留分需給の緩和感を誘発するとともに同地域の軽油等の価格を圧迫した結果、欧州やロシア、及び欧州方面に軽油等を輸出していた中東やインド方面から、シンガポールに向けた中間留分の供給が多少なりとも活発化したことが、シンガポールにおける中間留分在庫の増加をもたらす方向で作用した。反面、中国等北東アジアを中心とする諸国及び地域の一部において製油所のメンテナンス作業の実施等により操業が停止したことに伴い、それら諸国等からの中間留分供給が鈍化したことが、シンガポールにおける中間留分在庫を減少させる方向で作用した。結果として、シンガポールにおける中間留分在庫は減少傾向となった。そして、欧州やアジアにおいて春場の製油所メンテナンス作業が峠を越え始めるとともに中間留分の製造が活発化することにより、軽油需給が緩和する方向に向かうとの観測が市場で発生しつつあることに加え、物価上昇の影響もあり北東アジア諸国の経済も必ずしも好調であるとは言い切れないことが同地域での軽油需要に負の影響を与えている側面がある(例えば韓国では建設工事向けの軽油需要がもたついていると指摘する向きもある)ことが、アジア市場の軽油価格に下方圧力を加えたものの、シンガポールにおける中間留分在庫が減少傾向となったことに加え、欧州において夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期が接近しつつあること(欧州では乗用車としてディーゼル車がそれなりに普及している)、及び引き続きウクライナが発射したものと見られる無人機等がロシアの製油所を含む石油関連インフラを攻撃し続けていることにより、大西洋圏において軽油需給引き締まり感が市場で感じられつつあることが欧州のみならず欧州方面に軽油を輸出している中東やインド等の動向を通じ、アジア市場の軽油価格に上方圧力を加えたことから、5月中旬から6月中旬頃にかけての同時市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は比較的限られた範囲内で変動しつつも、若干ながら拡大傾向を示した。
5月15日に1,900万バレル強程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、5月22日には1,500万バレル台後半程度の量へと相当程度減少した。しかしながら、5月29日には1,700万バレル弱程度、6月5日には1,800万バレル台後半程度、そして、6月12日には1,900万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと回復した結果、6月12日の在庫水準は5月15日を上回る状態となっている。ウクライナが発射したものと見られる無人機等による攻撃に伴いロシアの一部製油所の操業が停止したこともあり、5月中旬から下旬半ば頃にかけシンガポールにおけるロシアからの重油輸入が低迷したことが、シンガポールにおける重油在庫減少をもたらした一因となった。ただ、5月下旬後半以降はロシアからの重油輸入が回復基調となったことが、シンガポールにおける重油在庫を押し上げる形で作用した。それでも、夏場の気温上昇に伴う空調のための電力供給向けの発電部門における高硫黄重油の需要期を控え、中東やロシアで製造された重油がエジプトに向かったり、中東地域自体も高硫黄重油在庫を積み上げる必要があったりしたこともあり、中東等からシンガポールへの当該製品の流れが抑制されたことに加え、中国やインドが石油製品を製造するために、ロシア産原油に比べ割安なロシア産重油を利用するようになった(但し重油価格が上昇傾向となったこともあり、中国の重油輸入は低減してきている旨指摘する向きもある)こと等がシンガポールへの重油流入を抑制する形で作用したものと見られることから、シンガポールにおける重油在庫を押し上げるペースは緩やかなものにとどまった。そして、夏場の気温上昇に伴う発電部門向け高硫黄重油需要期が意識されつつあることから、5月中旬から6月中旬にかけての同市場における高硫黄原油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄原油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向を示した。ただ、低硫黄重油については、北東アジア諸国及び地域における夏場の気温上昇に向けた空調のための発電部門での需要が盛り上がりを欠いている(相対的に安価な天然ガスや石炭が利用されていると見る向きもある)ことに加え、中国等の経済回復が不安定であることもあり船舶向けの低硫黄重油の需要が軟調気味に推移している(また、船舶において硫黄除去装置の導入が進みつつあることにより、高硫黄重油の需要が喚起される一方低硫黄重油の需要が抑制されている側面もあるものと考えられる)こと等が、アジア市場における低硫黄重油価格に下方圧力を加えたことから、5月中旬から6月中旬にかけては、同市場における低硫黄原油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄原油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を示した。
3. 2024年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場等の状況
2024年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場においては、5月中旬から6月上旬前半頃にかけては、米国経済の減速傾向を示していない経済指標類が発表されたことや政策金利引き下げに対する慎重な姿勢を示唆する米国金融当局関係者による発言がなされたことに加え、米国ガソリン在庫が増加している旨判明したこと、さらに6月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合等の際において、一部OPECプラス産油国が2024年1~6月に実施中の自主的な追加減産を2024年10月から段階的に縮小し2025年9月に終了する旨決定された結果、このままでは2025年の世界石油市場が供給過剰となるとの見方が市場で発生したこと等が、原油相場に下方圧力を加えたことにより、5月17日に1バレル当たり80.06ドルの終値であった原油価格(WTI)は下落傾向となり、6月4日には73.25ドルの終値と2024年2月5日以来の低水準に到達した。しかしながら、その後6月6日にサウジアラビア及びロシアがOPECプラス産油国閣僚級会合等の開催の際に決定された自主的な減産措置の一部縮小につき、市場の状況によっては減産縮小の停止、もしくは減産の拡大を実施することもありうる旨警告したことや、6月中旬においては、米国経済が減速したり物価上昇が沈静化したりする兆候を示唆する指標類が発表されたことにより、米国金融当局の政策金利引き下げへの期待が市場で強まったことに加え、パレスチナ自治区ガザ地区の停戦を巡るイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの協議が複雑化する様相を呈したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、原油価格は回復傾向となり、6月14日の終値は1バレル当たり78.45ドルとなっている(図16参照)。
米国の物価上昇沈静化には時間を要する旨5月20日に米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁、同国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁、及び米国連邦準備制度理事会(FRB)バー副議長が明らかにした(また、メスター総裁は、物価上昇沈静化過程がもたつくようであれば、政策金利引き上げも選択肢となる旨説明した)他、5月20日にFRBのジェファーソン副議長も足元の米国指標類は物価の伸びが鈍化しつつあることを示唆しているものの、物価上昇が沈静化の過程上にあるかどうかを判断するには時期尚早である旨表明したこと、米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁も、物価上昇が沈静化しつつあるとは確信していない旨表明したと5月20日に伝えられたことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.26ドル下落し、終値は79.80ドルとなった。また、ガソリン小売価格引き下げのため米国北東部で備蓄されているガソリン100万バレルを市場に販売する旨(入札締切は5月28日)5月21日に同国エネルギー省が発表したこともあり、同国ガソリン先物価格が下落したことから、5月21日の原油価格の終値は1バレル当たり79.26ドルと前日終値比で0.54ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2024年5月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2024年6月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり78.66ドル(前日終値比同0.64ドルの下落)であった)。さらに、5月22日に公表された米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(4月30日~5月1日開催分)において、委員の多くが、当初想定したよりも物価上昇沈静化には時間を要するものと考えるようになっており、より長期間に渡り高水準の政策金利を維持すべきであることで意見が一致した旨判明したことにより、米国政策金利引き下げ期待が市場で後退したこともあり、米ドルが上昇するとともに米国株式相場が下落したことから、5月22日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.69ドル下落し、終値は77.57ドルとなった。そして、5月23日も、この日米国労働省から発表された新規失業保険申請件数(5月18日の週分)が21.5万件と前週の22.2万件から減少した他市場の事前予想(22.0万件)を下回ったうえ、同日同国大手格付け会社S&Pグローバルから発表された5月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(速報値)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.9と4月の50.0から上昇した他市場の事前予想(49.9~50.0)を上回った他、同月の同国サービス業PMI(同)が54.8と4月の51.3から上昇、2023年5月(この時は54.9)以来の高水準となった他、市場の事前予想(51.2~51.3)を上回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退したこともあり、米ドルが上昇するとともに米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.87ドルと前日終値比で0.70ドル下落した。この結果原油価格は5月20~23日の4日間で1バレル当たり合計3.19ドルの下落となった他、5月23日の原油価格の終値は2024年2月23日(この日の終値は76.49ドル)以来の低水準に到達した。ただ、5月24日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり77.72ドルと前日終値比で0.85ドル上昇した。
5月27日は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日に伴い終値は計上されなかったが、5月26日夜(現地時間)において、パレスチナ自治区ガザ地区南部の都市ラファ北西部に対しイスラエル軍が空爆を実施した結果、避難所で火災が発生し45人が死亡した他、5月27日にガザ地区とエジプトとの境界にあるラファ検問所付近でイスラエル軍とエジプト軍が銃撃戦となった結果、エジプト兵1人が死亡したうえ、ラファの中心部にイスラエル軍が進軍した旨5月28日に伝えられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、5月28日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.11ドル上昇し、終値は79.83ドルとなった。ただ、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことから、5月29日の原油価格の終値は1バレル当たり79.23ドルと前日終値比で0.60ドル下落した。また、5月30日にEIAから発表された米国石油統計(5月24日の週分)でガソリン在庫が前週比202万バレル、留出油在庫が同254万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫同45~150万バレル程度、留出油在庫同0~15万バレル程度の、それぞれ減少)に反し増加している旨判明したこともあり、同国ガソリン及び軽油先物価格が下落したことから、5月30日の原油価格の終値は1バレル当たり77.91ドルと前日終値比で1.32ドル下落した。さらに、5月31日も、6月2日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合を控えた持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.92ドル下落し、終値は76.99ドルとなった。この結果原油価格は5月29~31日の3日間で1バレル当たり合計2.84ドル下落した。
また、6月2日のOPECプラス産油国閣僚級会合等の開催の際に、一部OPECプラス産油国が2024年1~6月に実施中の自主的な追加減産を2024年10月から段階的に縮小し2025年9月に終了する旨決定された結果、このままでは2025年の世界石油市場が供給過剰となるとの見方が市場で発生したことから、6月3日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.77ドル下落し、終値は74.22ドルとなった。また、OPECプラス産油国閣僚級会合の決定の結果2025年の世界石油市場が供給過剰となるとの見方が市場で発生した流れは翌日にも引き継がれたことから、6月4日の原油価格の終値は1バレル当たり73.25ドルと前日終値比で0.97ドル下落した。この結果原油価格は6月3~4日の2日間で1バレル当たり合計3.74ドルの下落となった他、6月4日の終値は2024年2月5日(この日の終値は72.78ドル)以来の低水準に到達した。しかしながら、6月5日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、6月5日に米国企業向け給与計算サービス会社オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)から発表された5月の同国民間雇用者数が前月比で15.2万人の増加と2024年1月(この時は同11.1万人の増加)以来の低水準の増加となった他、市場の事前予想(同17.5万人の増加)を下回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.07ドルと前日終値比で0.82ドル上昇した。また、6月6日も、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生した流れが継続したことに加え、6月2日のOPECプラス産油国閣僚級会合等の開催の際に、一部OPECプラス産油国が2024年1~6月に実施中の自主的な追加減産を2024年10月から段階的に縮小し2025年9月に終了する旨決定したことに対し、市場の状況によっては、当該減産縮小を停止するか、減産を拡大する場合もありうる旨6月6日にサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相及びロシアのノバク副首相が示唆したことにより、この先の石油需給緩和展望が市場で後退したこと、6月6日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会において、0.25%の政策金利引き下げ実施が決定されたことにより、米国金融当局が政策金利引き下げで追随するとの観測が市場で発生したことにより、米国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.48ドル上昇し、終値は75.55ドルとなった。この結果原油価格は6月5~6日の2日間で1バレル当たり合計2.30ドル上昇した。ただ、6月7日には、この日中国税関総署から発表された5月の同国原油輸入量が4,697万トン(推定日量1,109万バレル)と前年同月(5,144万トン、同1,215万バレル)比8.7%の減少となっている旨判明したことに加え、6月7日に米国労働省から発表された5月の同国非農業部門雇用者数が前月比で27.2万人の増加と4月の同16.5万人の増加から増加幅が拡大した他市場の事前予想(18.0~18.5万人)を上回ったことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で後退したこともあり、米ドルが上昇するとともに米国株式相場が下落したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、6月2日のOPECプラス産油国閣僚級会合等の開催の際に、一部OPECプラス産油国が実施中の自主的な追加減産を段階的に縮小する旨決定したことに対し、市場の状況によっては、当該減産縮小を停止するか、減産を拡大する場合もありうる旨6月6日にサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相及びロシアのノバク副首相が示唆したことにより、この先の石油需給緩和観測が市場で後退した流れを引き継いだことに加え、6月6日午前4時頃(現地時間)ロシア南西部ロストフ州にあるノボシャフチンスク(Novoshakhtinsk)製油所(操業者:NZNP、2023年の原油精製処理量日量9.7万バレル)が無人機による攻撃を受けた結果火災が発生したことにより同日同製油所が操業を停止、修理に3週間程度を要する見込みである旨6月7日に報じられたことにより、ロシアからの石油製品供給上の支障に対する懸念が市場で増大したこと、6月7日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で492基と前週比4基減少、2022年1月21日の週(この時は491基)以来の低水準に到達(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は476基と前週比4基減少、2022年2月4日の週(この時は476基)以来の低水準に到達)した旨判明したこともあり、この先の同国原油生産の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.02ドルの下落にとどまり、終値は75.53ドルとなった。
ただ、6月10日には、健全な輸送と空調向けの需要で2024年第3四半期の石油市場は日量130万バレルの供給不足になることにより、ブレント原油価格は同時期1バレル当たり86ドルに上昇すると米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが予想している旨6月9日に伝えられたことにより、短期的な石油需給引き締まり感が市場で意識されたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり77.74ドルと前週末終値比で2.21ドル上昇した。また、6月11日も、この日OPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートにおいて、OPECが2024年及び2025年の世界石油需要の伸びを、それぞれ日量225万バレル及び同185万バレルと、5月14日に明らかになった前回見通し時から据え置いたうえ、6月11日にEIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)において、EIAが2024年及び2025年の世界石油需要の伸びを、それぞれ日量108万バレル及び同153万バレルと、5月7日に行なわれた前回発表時点の同92万バレル及び同142万バレルから上方修正したことにより、この先の堅調な世界石油需要の伸びを市場が意識したことに加え、6月11~12日に開催中である米国連邦公開市場委員会(FOMC)の結果を6月12日に控えた持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.16ドル上昇し、終値は77.90ドルとなった。6月12日も、この日米国労働省から発表された5月の同国消費者物価指数(CPI)が、前年同月比3.3%の上昇と4月の同3.4%の上昇から上昇幅が縮小した他市場の事前予想(3.4%の上昇)を下回ったことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落したことに加え、パレスチナ自治区ガザ地区を巡る休戦及び人質解放を巡り、イスラエルが受け入れているとされる提案に対し、イスラム武装勢力ハマスが以前受け入れた内容を含め条件の変更を要望している旨6月12日に米国のブリンケン国務長官が明らかにしたことにより、イスラエルとハマスのガザ地区休戦等を巡る状況に対する不透明感が増大とともに、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で拡大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.50ドルと前日終値比で0.60ドル上昇した。さらに、6月13日も、この日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(6月8日の週分)が前週比1.3万件増加の24.2万件と2023年8月11日の週(この時は24.8万件)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(22.5万件)を上回ったうえ、同日同国労働省から発表された5月の同国生産者物価指数(PPI)が前月比0.2%の下落と2023年10月(この時は同0.3%下落)以来の大幅下落となった他市場の事前予想(同0.1%の上昇)に反し下落している旨判明したことにより、米国労働市場の緩和と物価上昇沈静化の兆候が見られることもあり、米国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で増大したことに加え、2024年4月及び5月に原油生産目標を超過したことに対し、2025年9月にかけての是正期間中に減産幅を拡大させることにより当該超過生産分を相殺させる意向である旨6月13日にロシアのエネルギー省が明らかにしたことにより、OPECプラス産油国の減産遵守に関する期待が市場で増大したこと、世界石油需要は長期的にも頭打ちにならず、2045年までに日量1.16億バレルかそれ以上の水準に到達すると見込んでいる旨OPECのアルガイス事務局長が明らかにしたと6月13日に報じられたことにより、この先の相対的な石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.12ドル上昇し、終値は78.62ドルとなった。この結果原油価格は6月10~13日の4日間で1バレル当たり合計3.09ドル上昇した。ただ、6月14日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、6月14日に米国ミシガン大学から発表された6月の同国消費者信頼感指数(1966年=100)(速報)が65.6と5月の69.1から低下、2023年11月(この時は61.3)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(72.0)を下回った一方、同日ミシガン大学から発表された1年先物価上昇率予想が3.3%と5月24日発表時点(この時は同3.3%)から横這いとなった他、市場の事前予想(同3.2%)を上回ったことにより、米国経済が減速しつつあると同時に物価上昇の沈静化はもたつき気味である旨示唆されたことが、米国経済回復と石油需要の伸びの加速への期待を後退させる格好となったことにより、米国株式相場が下落したこともあり、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.17ドル下落し、終値は78.45ドルとなっている。
4. 原油市場における主な注目点等
原油相場に影響を与えうる地政学的リスク要因としては、中東及びウクライナとロシアを巡る情勢が主に挙げられる。5月26日夜(現地時間)にパレスチナ自治区ガザ地区南部の都市ラファ北西部に対しイスラエル軍が空爆を実施した結果、避難所で火災が発生し45人が死亡した他、5月27日にガザ地区とエジプトとの境界にあるラファ検問所付近でイスラエル軍とエジプト軍が銃撃戦となった結果、エジプト軍兵士1人が死亡したうえ、ラファの中心部にイスラエル軍が進軍した旨5月28日に伝えられた。また、イスラム武装勢力ハマスを完全に壊滅させるには、なお7ヶ月間戦闘を継続しなければならないとの認識を5月29日にイスラエルのハネグビ(Hanegbi)国家安全保障顧問が示した他、ガザ地区とエジプトとの境界地域全体の支配権を確保した旨5月29日にイスラエル軍が発表、ハマスに武器を密輸する経路となっている可能性のある、エジプトからガザ地区に通じる地下通路を複数発見した旨イスラエル軍が主張(イスラエル側の主張は虚偽であるとしてエジプトは反発)した。5月31日には、ガザ地区を巡るイスラエルとハマスとの間での新規停戦提案をイスラエルが提示した旨米国のバイデン大統領が発表した(各6週間の停戦期間を3段階で実施、第1段階でガザ地区の住民居住区からのイスラエル軍の撤退、及びイスラエルの拘束しているパレスチナ人とハマスの拘束している人質の交換の開始、第2段階でイスラエル軍のガザ地区からの撤退と人質全員の解放の実施、第3段階でガザ地区の復興作業の開始を、それぞれ内容とすると伝えられる)。ただ、ハマスの壊滅を求めるイスラエルの一部閣僚は停戦等でイスラエルがハマスと合意した場合には政権を離脱する(この結果同国のネタニヤフ首相が主導する連立政権は崩壊に直面する)旨警告している他、ハマス壊滅まで戦闘は終結しない旨イスラエル首相府が発表したと5月31日に伝えられるなど、イスラエル政権側は同提案に関し完全に意思が統一されている訳ではないことが示唆される。6月5日には停戦に向けた協議が再開された(5月9日に前回協議が妥結することなく終了して以降約1ヶ月ぶりの協議の実施となる)が、イスラエルのネタニヤフ首相は全ての人質を解放するまで攻撃を継続する旨表明したと6月8日に伝えられる一方、ハマスの最高指導者ハニヤ氏は、ガザ地区の安全が確保されない限り停戦には合意しない旨6月8日に表明、6月12日にもハマスは停戦提案に対しガザ地区からのイスラエル軍の撤退及び同地区における恒久的停戦を米国政府が保証するよう要望するなど、停戦案に対し妥結に至る展望が開けているようには見受けられない。そのような中、6月15日朝(現地地間)にはハマスによる攻撃によりラファにおいてイスラエル軍兵士8人が死亡した。
他方、6月2日から3日にかけては、イスラエルがシリア北部にある親イラン武装勢力の軍事拠点を空爆した結果、イラン革命防衛隊の軍事顧問が死亡した旨6月3日に伝えられる。また、6月3日にはレバノンを拠点とする武装勢力ヒズボラ(イランが支援しているとされる)が、イスラエル北部の軍事拠点に向け無人機を発射した他、ゴラン高原にあるイスラエルの軍事拠点に向けても数十発のロケットを発射した旨発表した。これに対し6月4日には、イスラエルとレバノンの国境地帯において攻撃を実施する準備を整えている旨イスラエルのハレビ(Halevi)参謀総長が明らかにした。6月5日には、ヒズボラが発射した無人機による攻撃で、イスラエル軍兵士1人が死亡した旨6月6日にイスラエル軍が発表した。また、6月11日夜(現地時間)にはイスラエルがレバノン南部を空爆した結果、ヒズボラの司令官等が死亡したが、これに対し6月12日にヒズボラは報復措置としてイスラエル北部に向けロケット弾等を発射するなど、両者による戦闘が激化している。
このように、イスラエルとハマスとの戦闘状態は、ガザ地区の休戦を巡る交渉に関する動きは見られるものの、なおその過程は紆余曲折を経つつある一方、イスラエルと親イラン武装勢力との間で緊張の高まりがレバノン等周辺地域に拡大する様相を呈するとともに、その過程ではイラン軍事関係者等が犠牲になるなどしている。現時点では、ガザ地区を巡るイスラエルとハマスとの紛争は、これまでのところ中東を中心とするところの石油供給に直接大きな影響を及ぼしているわけではないことから、足元では原油相場の反応は限定される格好となっているものの、今後イスラエルとハマス等の武装勢力との間での戦闘が激化するとともに、再びイスラエルとイランとの対立が先鋭化するようであれば、ペルシャ湾を航行するタンカーのイラン等による拿捕、ホルムズ海峡封鎖の可能性を巡るイランによる挑発的な言動、及びイエメンのフーシ派武装勢力によるサウジアラビア(イスラエルとの外交関係改善を視野に入れつつあるとされる)の石油関連施設等を標的とした攻撃の試み(5月30日に米国及び英国軍がフーシ派武装勢力の軍事拠点等に対し空爆を行った旨5月31日に米国中央軍が発表したが、フーシ派武装勢力は紅海、アラビア海及び地中海等を航行する船舶を攻撃し続けている他、フーシ派武装勢力に対し対艦弾道ミサイル関連技術を供与している旨5月29日にイラン革命防衛隊系の報道機関であるタスニム通信が報じている)といった事象が発生する結果、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大することにより、原油相場に上方圧力が加わらないとも限らないので注意する必要がある他、そのような事象が発生しなくても、発生する可能性が排除できないとの懸念が市場で存続する結果、原油相場の持続的な下落が抑制されやすいものと考えられる。
他方、5月17日朝(現地時間)には、ロシアのノボロシイスク(Novorossiysk)にある黒海沿岸石油積み出し港の関連施設が、ウクライナが発射した無人機により攻撃された結果、操業を停止したが、5月18日には同港における船積みは再開されたものと見られる旨5月20日に報じられる。また、5月19日には、ロシアのクラスノダール地方にあるスラビャンスク(Slavyansk)製油所)(操業者スラビャンスクECO、原油精製能力推定日量17万バレル)がウクライナによる無人機攻撃を受けた後操業を停止した。さらに、5月17日にウクライナによるものと見られる無人機の攻撃を受けた(但し、同攻撃によりLPG製造施設で損傷が発生したものの、原油精製処理装置には被害はなかったとされる)ロシアのクラスノダール地方にあるトゥアプセ(Tuapse)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレル)が5月19日に操業を再開した旨5月20日に伝えられる。加えて、ウクライナが発射した無人機がロシア南西部ボルゴグラード州にあるボルゴグラード(Volgograd)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理能力日量30万バレルと見られる)を攻撃した結果、火災が発生した(その後鎮火した)旨5月12日に報じられたが、その週内に操業を再開した旨関係筋が明らかにしたと5月20日にロイター通信から伝えられた。また、ロシア南西部のサマラ州にあるクイビシェフ(Kuibyshev)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量14万バレル、3月23日にウクライナの無人機による攻撃で半分の原油精製処理能力が操業停止した旨3月25日に伝えられた)において、停止していた原油精製処理装置(同7万バレル)が操業を再開した旨関係筋が5月24日に明らかにした旨報じられた。5月30日には、ロシア南西部クラスノダール地方のカブカス(Kavkaz)にある石油ターミナルと他の地点にある油槽所がウクライナにより攻撃され火災が発生した旨同日夜(米国東部時間)から5月31日(同)にかけ伝えられた。そして、3月12日にウクライナが発射したと見られる無人機による攻撃により火災が発生し操業を停止したノルシ(Norsi)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製能力日量32万バレル)の第6常圧蒸留装置(同19万バレル)は6月に操業を再開する旨5月31日にルクオイルが発表した。さらに、6月6日午前4時頃(現地時間)にはロシア南西部ロストフ州にあるノボシャフチンスク(Novoshakhtinsk)製油所(操業者:NZNP、2023年の原油精製処理量日量9.7万バレル)が無人機による攻撃を受け火災が発生した結果、同日同製油所は操業を停止、修理に3週間程度を要する見込みである旨6月7日に報じられた。
このように、ウクライナによるものと見られるロシアの製油所を含む石油関連インフラ等に対する攻撃は継続しているものの、ロシアの製油所等の操業は比較的早期に再開しているとの印象を市場に与えるとともに、実際大西洋圏を中心とした地域において軽油等の需給が大幅に引き締まるような場面が見られているわけではない(むしろ需給の緩和感を市場が感じる場面が見られる)ため、この面での原油相場への影響は限定的な状況となっている。しかしながら、今後ウクライナがロシアの石油関連施設攻撃を停止する旨表明するようでなければ、ロシアの石油関連インフラへの攻撃が継続することに伴い、大西洋圏を中心とする地域に向けたロシア産石油製品等の供給に一時的にせよ支障が発生することにより石油需給が引き締まるとの懸念が市場で持続する結果、原油価格が支持されるか、ウクライナによるロシアの製油所を含む石油関連インフラに対する攻撃がより頻発するなどするようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られないとも限らないので、注意する必要があろう。
原油相場に影響を与えうる米国経済面での要因としては、同国金融当局による政策金利引き下げを巡る動向が挙げられよう。5月23日に米国労働省から発表された新規失業保険申請件数(5月18日の週分)は21.5万件と前週の22.2万件から減少した他市場の事前予想(22.0万件)を下回ったうえ、同日同国大手格付け会社S&Pグローバルから発表された5月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(速報値)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は50.9と4月の50.0から上昇した他市場の事前予想(49.9~50.0)を上回ったうえ、同月の同国サービス業PMI(同)も54.8と4月の51.3から上昇、2023年5月(この時は54.9)以来の高水準となった他、市場の事前予想(51.2~51.3)を上回った。また、5月24日に米国商務省から発表された4月の同国耐久財受注は前月比で0.7%の増加と市場の事前予想(同0.8%の減少)に反し増加している旨判明した。そして、5月24日に米国ミシガン大学から発表された5月の同国消費信頼感指数(確定値)(1964年=100)は69.1と4月の77.2から低下、2023年11月(この時は61.3)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(67.5~67.7)を下回ったが、5月28日に米国民間調査機関コンファレンス・ボードから発表された5月の同国消費者信頼感指数(1985年=100)は102.0と4月(改定値)の97.5から上昇した他市場の事前予想(95.9~96.0)を上回った。ただ、5月30日に米国商務省から発表された2024年1~3月期の同国国内総生産(GDP)(改定値)は前期比年率1.3%の増加と4月25日に発表された速報値(同1.6%の増加)から下方修正された旨明らかになった他、5月31日に米国商務省から発表された4月の同国個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)の食料品とエネルギーを除くコア価格指数は前月比0.2%上昇と3月の同0.3%上昇から伸びが鈍化したうえ、6月3日に米国供給管理協会(ISM)から発表された5月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が48.7と4月の49.2から低下した他市場の事前予想(49.5~49.6)を下回った。加えて、6月4日に米国労働省から発表された4月の同国雇用動態調査(JOLTS)において、求人件数が805.9万件と3月から29.6万件減少、2021年2月(この時は781.8万件)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(835.0~835.5万件)を下回ったうえ、6月5日に米国企業向け給与計算サービス会社オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)から発表された5月の同国民間雇用者数は前月比で15.2万人の増加と2024年1月(この時は同11.1万人の増加)以来の低水準の増加となった他、市場の事前予想(同17.5万人の増加)を下回った。それでも、6月7日に米国労働省から発表された5月の同国非農業部門雇用者数は前月比で27.2万人の増加と4月の同16.5万人の増加から増加幅が拡大した他市場の事前予想(18.0~18.5万人)を上回った。しかしながら、6月12日に米国労働省から発表された5月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.3%の上昇と4月の同3.4%の上昇から上昇幅が縮小した他市場の事前予想(3.4%の上昇)を下回った。さらに、6月13日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(6月8日の週分)は前週比1.3万件増加の24.2万件と2023年8月11日の週(この時は24.8万件)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(22.5万件)を上回ったうえ、同日同国労働省発表の5月の同国生産者物価指数(PPI)は前月比0.2%の下落と2023年10月(この時は同0.3%下落)以来の大幅下落となった他市場の事前予想(同0.1%の上昇)に反し下落している旨判明した。そして、6月14日に米国ミシガン大学から発表された6月の同国消費者信頼感指数(速報)は65.6と5月の69.1から低下、2023年11月(この時は61.3)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(72.0)を下回った一方、同日ミシガン大学から発表された1年先物価上昇率予想は3.3%と5月24日発表時点(この時は同3.3%)から横這いとなった他、市場の事前予想(同3.2%)を上回った。このように、米国の主要経済指標類は、米国経済が減速しつつあったり、物価上昇が沈静化しつつあったりすることを示唆するものも散見されるものの、米国経済が好調である(結果、物価上昇圧力が加わりやすい)ことを示唆するものも多く見受けられるなど、まちまちな状態となっている。
そのような中、5月20日には、米国の物価上昇沈静化には時間を要する旨同国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁、同国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁、及び米国連邦準備制度理事会(FRB)バー副議長が明らかにした(メスター総裁は、物価上昇沈静化過程がもたつくようであれば、政策金利引き上げも選択肢となりうる旨説明した)他、同日FRBのジェファーソン副議長も足元の米国経済指標類は物価の伸びが鈍化しつつあることを示しているものの、物価上昇が沈静化の過程上にあるかどうかを判断するには時期尚早である旨表明、米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁も、物価上昇が沈静化しつつあるとは確信していない旨明らかにしたと5月20日に伝えられた。また、5月21日には、アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が、物価上昇沈静化を安定化させるため、米国政策金利引き下げ開始は慎重に行なう必要がある旨発言した他、同日FRBのバー副議長も、米国物価上昇沈静化のためには、従来想定していたよりも長期間高水準の政策金利を維持する必要がある旨説明、また同日FRBのウォラー理事も、米国政策金利引き下げには、なお数ヶ月間に渡る、同国物価上昇沈静化を示唆する指標類等が必要になる旨明らかにした。そして、5月22日に公表された米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(4月30日~5月1日開催分)においては、委員の多くが、当初想定したよりも物価上昇沈静化には時間を要するものと考えるようになっており、より長期間に渡り高水準の政策金利を維持すべきであることで意見が一致した旨明らかになった。5月23日には、米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が、米国の物価上昇は沈静化しつつあるものの、その過程はもたつき気味であることから、より長期に渡り金利を高水準に維持する必要性が高まっている旨述べた。また、米国の物価上昇が相当程度沈静化するまで政策金利引き下げは行なうべくではなく、物価上昇がこれ以上沈静化しないのであれば政策金利の引き上げも選択肢とする可能性がある旨5月28日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにした。さらに、引き続き米国物価上昇沈静化のための対策を実施すべきであるものと考える旨5月29日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにしたと、同日夜(米国東部時間)に伝えられた。5月30日には、ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が、足元の政策金利水準は物価上昇を目標水準へと引き下げるのには十分である一方、政策金利引き下げの検討を開始できるかどうかは判然とせず、今後明らかになる指標類等に注目したい旨明らかにした他、足元の政策金利水準は景気を抑制するには不十分であるとともに依然として物価上昇上振れリスクがあるものと懸念しており、政策金利引き下げを議論するには時期尚早である旨、5月30日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が明らかにしたと同日夕方(米国東部時間)に報じられた。このように5月末までの時点における米国金融当局関係者による発言は、少なくとも同国の政策金利引き下げを開始するには、一連の物価上昇沈静化を示す指標類等が必要になるとして、政策金利引き下げ開始決定は慎重に行なうべきである旨示唆された。
他方、6月6日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会において0.25%の政策金利引き下げ実施が決定されたことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ追随の動きが見られるのではないかとの観測が市場で発生した。6月11~12日に開催されたFOMCでは政策金利の据え置きが決定された他、FOMC開催後に行なわれた記者会見において、パウエルFRB議長は、物価上昇はいくらか沈静化しているものの、FRBが目標としている年率2%に到達すべく継続的に低下していくとの確信を持つには至っておらず、なお複数の連続する物価上昇沈静化を示すデータが政策金利引き下げ判断には必要である旨6月12日に示唆した。併せて明らかになった今後の政策金利引き下げ予想では、2024年の政策金利引き下げ回数が1回である旨示唆され、3月19~20日の前々回のFOMC開催の際に示唆された3回から下方修正された旨判明した。さらに、6月12日に発表された米国CPIは物価上昇沈静化を示しつつあるものの、なお高水準であるものと認識しており、政策金利引き下げ観測を検討するには今後数ヶ月間に渡り(物価上昇沈静化を示す)データが必要である旨6月14日に米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁及び同シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示唆した。
このように、6月11~12日に開催されたFOMCでの決定や、それまでの経緯を見ても、米国金融当局関係者は政策金利引き下げ開始に対し慎重な姿勢を崩していない(むしろ2024年の政策金利引き下げ回数予想が1回へと下方修正されるなど、より慎重になっている部分もある)ものと見られるため、この面では、原油相場の上昇を抑制する方向で圧力が加わりやすいものと考えられる。しかしながら、6月12日に米国労働省から発表された5月の同国CPIが4月から鈍化した他市場の事前予想を下回ったこともあり、米国金融当局関係者による認識にもかかわらず、2024年には2回の政策金利引き下げが実施されるとの見方は市場で根強い(6月15日時点では、9月17~18日に開催される予定であるFOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げが行なわれる確率が61.1%、そして12月17~18日に開催される予定であるFOMCにおいてさらに0.25%の政策金利引き下げが行なわれる確率が45.5%と、他のどの選択肢よりも確率が高い状況となっている)ため、この面では米国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速観測とともに、原油相場が下支えされやすいものと考えられる。そのような中で、今後発表される米国経済指標類及び同国金融当局関係者による同国経済、物価及び政策金利引き下げを巡る発言等が、原油相場に影響を与えるものと考えられる。
さらに、7月に入ると米国主要企業等の2024年4~6月等の業績が発表される予定であるので、それら業績もしくは2024年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場にその影響が織り込まれる場面が見られることもありうる。
また、中国経済状況も原油相場に影響を与えうる。5月27日に発表された中国工業企業利益は前年同月比で4.0%の増加と3月(同3.5%減少)から回復した。しかしながら、5月31日に中国国家統計局から発表された5月の同国製造業PMI(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.5と4月の50.4から低下した他市場の事前予想(50.4~50.5)を下回ったうえ、5月の同国非製造業PMIも51.1と4月の51.2から低下した他市場の事前予想(51.5)を下回った。ただ、6月3日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された5月の同国製造業PMIは51.7と2022年6月(この時は51.7)以来の高水準となった他、市場の事前予想(51.6)を上回ったうえ、6月5日に財新伝媒から発表された5月の同国非製造業PMIは54.0と4月の52.5から上昇した他、市場の事前予想(52.5)を上回った。他方、6月7日に中国税関総署から発表された5月の同国輸出(米ドル建)は前年同月比7.6%増加と市場の事前予想(同5.7~6.0%増加)を上回った反面、輸入(同)は同1.8%増加と市場の事前予想(同4.2~4.3%増加)を下回ったうえ、同日中国税関総署から発表された5月の同国原油輸入量は4,697万トン(推定日量1,109万バレル)と前年同月(5,144万トン、同1,215万バレル)比8.7%の減少となった(国内製油所のメンテナンス作業実施に加え、国内のガソリン及び軽油需要が低調であることにより製油所の精製利幅の確保が困難になっていることや、より安価な重油を精製用原料として使用していることが原油輸入抑制の背景にあると見る向きがある)。そして、6月12日に中国国家統計局から発表された5月の同国CPIは前年同月比0.3%の上昇と4月から横這いとなった他市場の事前予想(同0.4%の上昇)を下回った一方、5月の同国PPIは同1.4%の下落と4月の同2.5%の下落から下落幅が縮小した他市場の事前予想(同1.5%の下落)を下回った。このように、中国経済指標類はまちまちな内容となっており同国経済回復が不安定な状況であることが示唆されるとともに、特に外需は堅調であるものの不動産部門を含む内需は脆弱であると指摘する向きもある。このようなことから、今後も同国の経済指標類の内容等によって原油相場は変動するものの、特に内需が回復する兆しを見せる指標類がある程度の期間連続して発表されるようでないと、中国経済が持続的な回復局面に突入したとの確信を市場が持つに至らないことから、原油相場への上方圧力も持続しない可能性がある。ただ、不動産部門に対する支援策を含め、中国政府等による景気刺激策の実施に対する期待も市場で発生しやすいことから、この面では原油相場は下支えされやい他、実際に大規模景気刺激策実施を巡る動きが見られるようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性もあるものと考えられる。
米国では5月25~27日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月27日)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しており、製油所の稼働が上昇、原油精製処理が進むとともに製油所等による原油購入が活発化しやすい時期となっている。そして7月半ば頃までは同国でのガソリン需要の盛り上がり感が市場で継続するとともに(米国のガソリン需要のピークは7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)前後とされる)、季節的な石油需給の引き締まり感の強まりが持続する結果、少なくともこの面では原油価格は下支えされやすいものと見られる。
また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。現在のところ、米国メキシコ湾沖合の油・ガス田地帯や同国メキシコ湾岸の製油所集積地、及びメキシコの沖合油・ガス田地帯や同国の原油積出港等を脅かすような、ハリケーンを含む暴風雨は発生していない。しかしながら、現時点までに明らかになっている一部機関による2024年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想では、記録的な水準に近い頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する可能性がある旨示されている(表6参照)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所等が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所等への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2023年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量63万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合においてもそれなりの量の原油が生産されている(2023年は当該地域で日量186万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,293万バレル)の約14%を占めた)他、米国メキシコ湾岸地域は引き続き同国の精製活動の中心である(2023年の当該地域の原油精製処理能力は日量988万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,825万バレル)の約54%を占めた)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。
6月2日にOPECプラス産油国は閣僚級会合等を開催し、従来2024年末まで実施する予定であった公式及び一部産油国による自主的な減産措置を2025年まで延長する他、2024年1~6月において実施中である減産措置を2024年9月末まで延長したうえ、同年10月以降は段階的に縮小するとともに2025年9月を以て当該措置を終了する旨決定した。6月6日には、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相及びロシアのノバク副首相が、市場の状況によっては、減産措置の縮小を停止するか、縮小を決めた減産措置を拡大する場合もありうる旨牽制したが、今回の決定通りに生産を行なうのであれば、足元のシナリオでは2025年は供給が需要を日量156~248万バレル程度上回ることが想定されることにより、原油相場には下方圧力が加わりやすいものと考えられるため、そのような市場の認識に対しサウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国がどのように対応するか(つまり今般決定した方針を再調整するかどうか)が注目点の一つとなるであろう。ただ、今後、原油相場下落が継続した結果、例えば原油価格が1バレル当たり70ドルを大きく割り込んだり、依然70ドルの水準をそれなりには上回ってはいるものの、原油価格下落の勢いが加速する兆候が見られたりする場合には、原油価格下落の勢いが強まる結果石油需給を調整することを通じた原油相場の制御が困難になる前に、OPECプラス産油国は、まず自主的なものを含め減産措置拡大の実施可能性等につき警告を発し(6月6日にサウジアラビア及びロシアが行なったような、いわゆる口先介入を行ない)、それでも原油価格の下落が抑制されない場合には、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合、ないしは緊急を要する場合には、次回の閣僚級会合の開催を待たずして、JMMC開催の機会を捉えるか、もしくは臨時の閣僚級会合を開催するなどして、先制的に減産措置を強化することを通じ、原油相場のさらなる下落を防止するとともに、価格の持ち直しを試みるものと見られる。ただ、例えば原油価格が上昇する局面では、そのような上昇局面が持続的なものか、もしくは一時的なものかを見極めるため、原油生産調整(この場合増産)の実施については慎重な姿勢で臨む結果、原油上昇局面が長引くことにより、消費国経済に悪影響を及ぼす可能性が相対的に高まることになろう。また、OPECプラス産油国は実際の石油需給バランスの安定化を目指すとしていることから、地政学的なものを含む政治リスク要因等に伴う市場の懸念により原油価格が上昇しても、実際に石油供給に支障が発生しているわけではない場合には、増産には消極的な姿勢を示しやすいものと考えられる(実際に石油供給に支障が発生していないにもかかわらず増産すれば、石油需給バランス上の不均衡(この場合緩和)が発生する結果、原油価格が急落することになり、その影響を産油国が被ることに対し、OPECプラス産油国は警戒しているものと考えられる)。
また、一部OPECプラス産油国の原油生産目標引き上げ要求の動きとそれを巡るOPECプラス産油国間での対立の先鋭化の可能性、及びOPECプラス産油各国の減産遵守状況にも市場の注目が集まることになろう。5月2日には、UAEの原油生産能力が2023年末時点の日量465万バレルから足元同485万バレルへと拡張した旨アブダビ国営石油会社ADNOCが明らかにした。他方、5月11日にイラクのアブドルガニ石油相は、既に自国は十分な減産を実施しており、6月1日(その後6月2日に延期)のOPECプラス産油国会合閣僚級会合においては、さらなる減産には合意しない旨表明した。5月12日にアブドルガニ石油相は、OPECプラス産油国間で合意された減産措置等には従う方針である旨明らかにしたものの、減産措置への合意に至る過程においてイラクがどのように対応するかについては判然としないままとなっている。2003年のイラク戦争以降、イラクは自国経済等の復興を巡り不安定な状態が続いており、復興を円滑に推進するためには、多額の石油収入を必要としていることから、減産の実施には積極的でないように見受けられる部分がある。このように、一部OPECプラス産油国が既存の個別の減産措置に対し不満を持っている旨示唆される中、今回の会合開催時点においては、UAE、イラク、カザフスタン、クウェート及びアルジェリアを含め複数のOPECプラス産油国の原油生産能力につき第三者の専門機関を交え検討中となっていた(6月末までに結論を出す予定である旨5月14日に伝えられていた)こともあり、原油生産目標再調整を巡りこれら産油国と他の産油国等との間での対立が顕在化することは殆どなかった。しかしながら、今後一部OPECプラス産油国の原油生産能力算定作業が完了した段階(ただ、これまでのところ算定を巡る各産油国と専門機関との協議は難航している旨5月24日に伝えられる)では、原油生産目標引き上げを希望する一部OPECプラス産油国と他のOPECプラス産油国(例えば、西アフリカのOPECプラス産油国等)との間で議論が紛糾する恐れがある。また、原油生産目標引き上げを希望する一部OPECプラス産油国が、原油生産能力算定方法を巡り異議を唱える結果、減産措置の設定等を巡る作業が複雑化するといった展開となることもありうる。そして、このような展開となることにより、OPECプラス産油国間での足並みの乱れが露呈するとともに、減産遵守率の低下を含め産油国間での結束に対し市場が疑問視するようになるようであれば、原油相場に下方圧力が加わる可能性が高まることになろう。また、2024年1~3月において目標を超過して原油を生産していたイラクとカザフスタンについては、同年12月にかけ原油生産を追加で削減することにより目標超過部分を相殺させる計画を5月3日に明らかにした(表7参照)。ただ、OPECプラス産油国閣僚級会合等において原油生産目標の完全遵守の重要性がしばしば喚起されていたにもかかわらず、イラク等は原油生産目標を超過する状態を継続した(5月には既存の措置に加え、これまで目標未達成であった部分につき追加して減産する旨イラクは予定していたにもかかわらず、5月の同国の原油生産量は従来の原油生産目標を超過する状態となっている(表8参照))こともあり、少なくともある程度の期間イラク等が追加減産を含め減産措置を完全に遵守している(あるいは超過して遵守している)ことにより、同国は減産を完全に遵守するようになったとの確信を市場が持てるようになるまでは、この面で原油相場への上方圧力は加わりにくいものと考えられる。また、この先もイラク等(イラク及びカザフスタン以外にも、ロシアが5月において原油生産目標を超過して生産している旨5月13日に同国エネルギー省が明らかにしており、これは今後追加減産で調整していく予定となっている)が追加減産を含めた減産措置を遵守できていない、ということになれば、OPECプラス産油国による減産遵守、及びそれに伴う世界石油需給引き締まりに対し懐疑的な見方が市場で強まる結果、原油相場の上方圧力が削がれる可能性が高まるので注意する必要があろう。
全体としては、米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要の盛り上がりによる季節的な石油需給の引き締まり感が市場で継続することが、原油相場を下支えしやすいものと考えられる。また、中東情勢やウクライナによるロシアの製油所等石油関連インフラへの攻撃等に伴う、これら地域からの石油供給途絶の可能性に対する懸念に加え、米国金融当局による政策金利引き下げへの期待も原油相場に上方圧力を加えやすいものと考えられる。ただ、OPECプラス産油国閣僚級会合等の開催の際に決定された減産緩和に伴う2025年に向けての石油需給緩和観測が原油価格の持続的な上昇を抑制する可能性がある。そのような中、米国及び中国の経済指標類や米国金融当局関係者等の発言、中国政府等による景気刺激策を巡る状況、サウジアラビアやロシア等による原油価格下落を牽制する発言や、一部OPECプラス産油国による原油生産目標引き上げに向けた動向等が原油価格に影響を与えうるものと見られる。
以上
(この報告は2024年6月17日時点のものです)