ページ番号1010157 更新日 令和6年6月27日
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概要
近年、東南アジアや東地中海で大規模な微生物起源のガス田が発見されており、微生物起源のガスは新しい探鉱対象として注目されています。微生物起源のガス田は有機物に富む根源岩の熱分解起源の油ガス田と比べて炭化水素の生成過程が大きく異なることが知られており、ガス田の成立に必要な要素はまだそれほど理解されていません。JOGMECでは、日本周辺海域における微生物起源ガスの探鉱ポテンシャル評価に関する研究や、その評価への活用を目的として世界における微生物起源ガス田の探鉱・開発に関する動向調査を実施しました。一般的な微生物起源ガス田に関する現状を解説します。
1. 微生物起源ガス田
天然ガスは生物起源ガスと非生物起源ガスに分けられ、生物起源ガスは熱分解起源ガスと微生物起源ガスに分けられます。熱分解起源ガスは最も存在量が多く、有機物の地熱による分解で生成し、微生物起源ガスは微生物の代謝によって生成します。微生物起源ガスはさらにPrimary biogenic gasとSecondary biogenic gasに分けられます。Secondary biogenic gasは石油の微生物分解によって生じたガスのため、本稿ではPrimary biogenic gasのみを微生物起源ガスとして扱います。
微生物起源ガス田は、1980年代前半にメキシコ湾で、そして2000年代前半にナイルデルタで大規模な微生物起源ガス田が発見されたことによって、広く認識されるようになりました。これら商業規模の微生物起源ガス田の発見は、熱分解起源の炭化水素を探す過程で偶然に発見されました。ナイルデルタでの発見の後、2004年のベンガル湾のShweガス田(9.1Tcf)[1], [2], [3] や2015年の東地中海のZohrガス田(30Tcf)[4], [5], [6] など、複数の巨大ガス田が相次いで発見されてから微生物起源ガス田の探鉱が活発になりました。そして、2010年代に入ってからは多くの微生物起源ガス田が発見されています。
2. メタンを生成する微生物
それでは、微生物起源ガスはどのような微生物が作っているのでしょう?原核生物の古細菌(アーキア)に属するメタン生成古細菌(以下、メタン生成菌)がメタンを生成します(図1中の丸囲み部分)。メタン生成菌によるメタン生成の経路にはいくつかありますが、主な経路として海洋では二酸化炭素の還元、陸上では酢酸発酵が多くみられます(図2)。微生物起源の天然ガスの特徴としては炭化水素のほぼ100%がメタンにより構成されています。また、メタンの炭素や水素の安定同位体比が軽いという特徴があることから、熱分解起源ガスと区別することが可能です。上述したメタンの生成経路の違いもメタンの炭素と水素の安定同位体比の違いに反映されます。
メタン生成菌は嫌気(酸素がない)条件でメタンを生成し、メタン生成の餌となる基質が十分あること、温度がメタン生成菌の生息に適していること、メタン生成菌が生息できる隙間があること(孔隙率が30%以上あること)が重要になってきます。特に海底下ではメタン生成の際の基質の一つである水素の濃度が低く、これが支配因子になると考えられます。水素の供給経路としては有機物の熱分解による生成、有機物のバクテリアによる分解による生成、そして地下からの流体移動等が考えられますが、この中のどれが重要になるかは地質環境や深度によって異なることが予想されます。また、メタン生成菌は0℃から122℃までの温度で生息できることが知られてはいますが、好熱性のメタン生成菌でない場合、40℃付近でメタン生成活性が最も高くなることがメタン生成菌の培養実験からよく得られています[7]。つまり地温が低すぎても高すぎてもメタン生成が起こりにくいということになります。海底下でのメタン生成菌の生態についての理解が進むことは今後、微生物起源ガスの生成ポテンシャルを評価する上で重要な要素であると言えるでしょう。

(出所:https://microbenotes.com/three-domain-system)

3. 微生物起源ガス田の成立
商業規模の微生物起源ガス田の成立する条件はまだよくわかっていませんが、これまでに見つかっている大規模な微生物起源ガス田については後述するような特徴があります。JOGMECでは2021年度に微生物起源ガス探鉱についての動向調査を実施し、以下の微生物起源ガス田について特徴をまとめました[8]。
- ミャンマーのShwe field[1], [2], [3]
- イスラエルのLeviathan field[4]
- エジプトのZohr field[4], [5], [6]
- インドネシアのSeng-Segat field[9]
- 中国のSanhu field[10], [11], [12]
- ノルウェーのPeon field[13], [14]
- カナダのSouth Alberta gas field[15]
- 米国のAntrim field[16]
これらについて調べたところ、以下のような特徴がありました。
- 貯留層は、新第三系のものが大多数でしたが、白亜系やデボン系(South Alberta gas field、Antrim field)も存在しました。
- 貯留層は在来型と同様に砕屑性の堆積物が多数でしたが、炭酸塩岩(Zohr field、Terang-Sirasun field)や頁岩(Antrim field)の例もありました。
- 貯留層の分布深度は在来型の油ガス田に比べて浅いケースが多数でしたが、イスラエルのLeviathan fieldでは3,000メートル以深と深いところに分布していました。また、本フィールドの貯留層はメタン生成菌の生息には適さない80℃以上の高温でもありました。
- 通常の微生物起源ガスはメタンに富みますが、エタン以上の熱分解起源ガスや油と混在することもありました。
そして共通する点として以下があげられます。石油根源岩の全有機炭素量(TOC)が0.5%未満と低い場合にも成立していること、タイプIIIのケロジェンを起源とする例が多数であること、根源岩層とその上位に発達する堆積物の堆積速度が1万年に100メートル以上の速さであることが共通しています。低いTOCとタイプIIIケロジェンは微生物起源ガスの必須条件ではないと考えられますが、堆積速度が速いほど生成直後のメタンの拡散が抑制されるため、微生物起源ガスの保存にとって重要な条件と考えられます。水中で生成した有機物や河川や大気により運ばれた有機物は、堆積後に堆積物表層の数センチメートルから数十センチメートルの酸化層で分解されます(図3)。この有機物の分解はバクテリアが行いますが、この際に溶存酸素が利用されます。溶存酸素が枯渇すると、今度は硝酸の酸素を利用し、これも枯渇すると今度は硫酸の酸素を利用します。これを硫酸還元と言います。硫酸還元が終わると、ようやく嫌気的な環境でしか生きることのできないメタン生成古細菌によるメタン生成が始まります。硫酸還元からメタン生成に置き換わる深度はSulfate-methane transition zone(SMTZ)と呼ばれます。この深度が浅い場合、堆積物中で生成したメタンが上部の水層に拡散しやすくなり、逆にメタン生成域が深いと上部の水層に拡散しにくくなります。このため、堆積速度が速いとメタン生成が深い深度で起こるので、生成したメタンの保存に有利になると考えられます。
また、2章で述べたようにメタン生成菌は生息できる温度が限られていることから地温勾配が高い場合、浅い深度でメタン生成菌によるメタンの生成が終わってしまうので、先ほどの堆積速度と同様な理由で生成したメタンが水中に抜けやすくなることが予想されます。そのため、地温勾配は低い方が、深い深度でメタン生成が起こり、堆積物中にメタンが残りやすくなることが考えられます。このような観点から考えると、微生物起源ガス田の成立には堆積速度が速いことと、地温勾配が低いことが重要になってくると考えられます。しかし、これらは必ずしもメタンの生成量に関わってくるとは言えません。メタンの生成に注目すると、2章で述べたようにメタン生成の基質が十分あること、温度がメタン生成菌の生息に適していること、メタン生成菌が生息できる隙間があること(孔隙率が30%以上あること)が重要となるため、メタン生成が活発に起きる環境であったかの評価も必要となるでしょう。

4. 微生物起源ガス探鉱と開発
ここまでの特徴をまとめると、微生物起源ガスの集積を予想するには情報が十分とは言えませんが、有機物に乏しく熟成度も低い熱分解起源の炭化水素が期待できない場所であっても、微生物起源ガス田が成立している可能性があります。一方で、石油資源が豊富な地域は、堆積速度が遅いことが多いため、微生物起源ガス探鉱には適していないとも言えます。現時点で有効な探鉱手法としては以下があげられます。
- 地表でのガス直接検出
在来型のガス探鉱と同様に、商業規模のガス鉱床の成立を示唆するものではなく、ガスが移動してきていることを確認する指標となります。 - 三次元地震探査によるDHI(Direct Hydrocarbon Indicator)の検知
一般的に海域における浅部の地震探査取得データは高解像度であることから、DHIによる検知も比較的容易になるため有効と考えられます。 - 微生物起源ガスに特化した石油システムのモデリング
熱分解による炭化水素の生成とは異なる生化学的なプロセス(メタン生成)により、浅い深度でガスが生成されることを考慮したモデリングが必要です。
微生物起源ガスの開発と生産に関しての利点としては、一般的にH2SとCO2が含まれないので、メタンのみを生産できるという利点があります。メタンの組成は単純なのでガス処理も単純となり、開発・生産が容易であることが多いです。一方、ガス貯留層が「浅い」ことにより地層の固結度が低く出砂が懸念されますが、在来型の油ガス田でも同様の懸念があるために、微生物起源ガス特有の問題ではありません。
5. まとめ
微生物起源ガス田は2010年代以降、大規模なガス田が相次いで発見されていますが、微生物起源メタンの生成・移動・集積までの過程は十分に理解が進んでいません。移動と集積に関しては在来型の油ガス田と同様な評価が可能であることが期待できますが、特に深海底での微生物起源メタンの生成についての理解が進むことで、今後、微生物起源ガスの探鉱評価の精度向上につながることが期待されます。
参考文献
[1] Chung, Y.-H., S.-Y. Yang, and J.-W. Kim, 2012, Numerical Simulation of Deep Biogenic Gas Play Northeastern Bay of Bengal, Offshore Northwest Myanmar: AAPG International Conference and Exhibition, Milan, October 23-26, 32
[2] Carter, P., 2015, Exploration Potential of the Rakhine Basin/Bengal Fan, Myanmar: SEAPEX Exploration Conference, Singapore. April 15-17, 32
[3] Myint, L., 2019, Biogenic Gas Potential of Myanmar: 4th AAPG/EAGE/MGS Myanmar Oil and Gas Conference, Yangon, November 13-15, 24
[4] Lottaroli, F., and L. Meciani, 2022, The rejuvenation of hydrocarbon exploration in the Eastern Mediterranean: Petroleum Geoscience 28, petgeo2021-018
[5] Bertello, F., H. Harby, and S. Brandolese, 2016, Egypt: Zohr, an Outstanding Gas Discovery in a New Deep-Water Hydrocarbon Play: 8th Mediterranean Offshore Conference and Exhibition, Alexandria, 11
[6] Cozzi, A., A. Cascone, L. Bertelli, F. Bertello, S. Brandolese, M. Minervini, P. Ronchi, R. Ruspi, and H. Harby, 2018, Zohr Giant Gas Discovery – A Paradigm Shift in Nile Delta and East Mediterranean Exploration: AAPG/SEG 2017 International Conference and Exhibition, London, October 15-18, 22
[7] Katayama, T., Yoshioka, H., Kaneko, M., Amo, M., Fujii, T., Takahashi, A., Yoshida, S., and S. Sakata, 2022, Cultivation and biogeochemical analyses reveal insights into methanogenesis in deep subseafloor sediment at a biogenic gas hydrate site: The ISME Journal 16, 1464-1472
[8] 天羽美紀、石丸卓哉、中山貴隆、島野恭史、辻 喜弘、小西祐作、2022:微生物起源ガス田の探鉱・開発に関する取り組みと動向調査、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構令和3年度石油天然ガス技術本部年報、p176~178
[9] Yuwono, R.-W., B.-S. Fitriana, B.-S. Kirana, P.-S., S. Djaelani, and B.-A. Sjafwan, 2012, Biogenic Gas Exploration and Development in Bentu PSC, Central Sumatra Basin, Indonesia: AAPG International Conference and Exhibition, Singapore, September 16-19, 2012, 22
[10] Huang, H., S. Zang, X. Zang, A. Su, O. Jokanola, Y. Shuai, and S. Larter, 2011, Biogenic Gas Systems in the Qaidam Basin, NW China: AAPG International Conference and Exhibition, Calgary, September 12-15, 2010, 36
[11] Zhang, D., 2019, Accumulation conditions and key technologies for exploration and development in Sebei gas field in Qaidam Basin, NW China: Petroleum Research 4, 191–211
[12] Yin, M., H. Huang, and L. Cheng, 2021, Molecular fingerprints in shales from the Sanhu biogenic gas fields in eastern Qaidam Basin, NW China: Evidence of biodegradation of shale organic matter: Marine and Petroleum Geology 133, 105289
[13] Mikalsen, H., 2014, Reservoir structure and geological setting of the shallow PEON gas reservoir (Master’s Thesis in Energy, Climate and Environment). The Artic University of Norway - Faculty of Science and Technology - Department of Geology, Tromsø
[14] Vadakkepuliyambatta, S., S. Planke, and S. Bunz, 2012, Fluid Leakage Pathways and Shallow Gas Accumulation in Peon field, northern North Sea: AGU Fall Meeting 2012, San Francisco, December 3-7
[15] Chen, Z., Y. Shuai, and N. Wang, 2015, A reassessment of gas resources in selected Upper Cretaceous biogenic gas accumulations in southeastern Alberta and southwestern Saskatchewan, Canada: Bulletin of Canadian Petroleum Geology 63, 5–19
[16] Adeyilola, A., N. Zakharova, K. Liu, T. Gentzis, H. Carvajal-Ortiz, S. Ocubalidet, and W.-B. Harrison, 2022, Hydrocarbon potential and Organofacies of the Devonian Antrim Shale, Michigan Basin: International Journal of Coal Geology 249
以上
(この報告は2024年6月27日時点のものです)