ページ番号1010159 更新日 令和6年10月17日
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概要
- 非OECD諸国を筆頭に化石燃料需要が今後増加し、世界の化石燃料需要は2050年に向けて大きく減退することはないとの見通しもあることから、化石燃料の安定的な供給を確保するための投資の重要性を再確認する向きが現れている。エネルギー開発企業の中にも、探鉱事業への参画、埋蔵量積み増しのためのM&Aや権益取得へと回帰するものもあり、堅調な化石燃料開発投資が見られ、探鉱・開発が活発化するエリアが出現してきている。その一つが、大西洋の南米沖合のエリアだ。
- ガイアナのStabroek鉱区では30以上の油田が発見され、可採埋蔵量は石油換算110億バレル以上とされている。2019年末に原油生産を開始し、現在FPSO3基で日量60万バレル以上の原油を生産している。2027年にはFPSO6基で日量130万バレルまで生産能力を増やす計画だ。探鉱・開発に関する最大の懸念事項はベネズエラとのEssequibo地域をめぐる係争で、現時点では石油生産や開発中のプロジェクトへの影響はないが、状況を注視する必要がある。
- スリナムでは、ガイアナのStabroek鉱区で発見された油田と同じトレンドラインに沿った海域で油田発見が続いている。Wood Mackenzieによると、これまでにスリナム沖合で発見された可採埋蔵量は原油が24億バレル、ガスが12.5兆立方フィートだ。TotalEnergiesはBlock 58のSapakara South油田とKrabdagu油田開発の最終投資決定を2024年末に実施予定で、90億ドルを投じて、生産能力、日量20万バレルのFPSOを設置し、2028年に両油田の生産を開始する計画だ。Block 52でも約4~5Tcfのガスが発見されており、早ければ2031年にガス生産開始との見方も出ている。
- ブラジルは、プレソルトが生産増を牽引し、南米最大の産油国に成長した。2030年にかけて引き続き、BuziosやMero等プレソルトの油田の生産増が見込まれ、ブラジルの原油生産量も増加の見通しだ。探鉱については、プレソルトでの試掘成功率が下がり、大規模な油田発見がなくなったことや、ガイアナ、スリナム、ナミビアで相次いで油田が発見されたことから、その中心がプレソルトから赤道周辺沖合とSantos Basin南部に移りつつある。Lula政権下でのPetrobrasの戦略の変化や環境面の問題から今後の探鉱・開発に影響が出るのではないかと懸念する向きもある。
- ウルグアイ、アルゼンチンについては、ナミビアとの地質相関性への期待からメジャー等が参入、探鉱が開始されつつある。
1. はじめに
脱炭素・ネットゼロの実現が求められ、化石燃料に対する需要が減少するとの見通しのもと、化石燃料の探鉱・開発よりも再生可能エネルギーの開発に取り組む傾向が強まっている。しかし、非OECD諸国を筆頭に化石燃料需要が今後増加し、世界の化石燃料需要は2050年に向けて大きく減退することはないとの見通しも出ている。化石燃料は探鉱から開発、生産までに長いリードタイムが必要であることから、継続的な投資が不可欠であり、これが行われなければ、増加する需要に対して供給が不足し、需給が乖離してしまうと懸念する向きもある。
再生可能エネルギー開発投資を増加させ、脱炭素へ向けてのM&A(合併・買収)を多く行っていたエネルギー開発企業の中にも、探鉱事業への参画、埋蔵量積み増しのためのM&Aや権益取得へと回帰するものもある。そのため、堅調な化石燃料開発投資が見られ、探鉱・開発が活発化するエリアが出現してきている。その一つが、大西洋の南米沖合のエリアだ。
本稿では、ガイアナ、スリナム、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンについて、なぜこれらの国がエネルギー開発企業の注目を集め、探鉱・開発が活発になり、原油生産を増やしているのか、今後どのような要因がこれに影響を与える可能性があるのかについて紹介する。
2.ガイアナ ―原油生産量急増中―
(1) Stabroek鉱区の可採埋蔵量は120億バレル目前?
ガイアナ沖合は米国地質調査所(USGS)が2000年に埋蔵量のポテンシャルを原油150億バレル、ガス40兆立方フィートで、最も有望な堆積盆地の一つであるとしたGuyana Basinの一部を構成している。

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しかし、2007年にスリナムとの排他的経済水域をめぐる争いが解決するまで、探鉱はほとんど行われていなかった。
その後、ExxonMobil(権益保有比率45%)/Hess(同30%)/CNOOC(同25%)のコンソーシアムがStabroek鉱区南東部を中⼼に探鉱を進め、2015年に最初の坑井Lizaを掘削、油層が確認された。それ以降、30以上の油田が発見され、可採埋蔵量は石油換算で110億バレル以上とされている。油田発見は続いているものの、ここ2年程、可採埋蔵量の更新はなかった。2024年5月に、可採埋蔵量を6億バレル追加するとの発表があった。総量に関しての発表はなかったものの、120億バレル目前という状況と考えられる。ExxonMobilはHess、CNOOCとともにさらなる油田発見を目指し、2024年も2坑を掘削する予定だ。
Stabroek鉱区以外でも探鉱は進められている。中でも、2023年に実施されたガイアナ初の鉱区入札で、QatarEnergy/TotalEnergies/Petronasに付与されることとなり、間もなく探鉱が始まる見通しの浅海のS4鉱区が今後、注目されよう。
(2) FPSO3基で日量60万バレル以上の原油を生産中⇒FPSO6基で日量130万バレルに増産の予定
Stabroek鉱区では、現在、Lizaフェーズ1とフェーズ2、Payaraの3プロジェクトが生産を行っている。最適化プロセスにより、生産中のFPSOの生産能力は、Lizaフェーズ1が当初計画の日量12万バレルから日量15.5万バレル、フェーズ2が当初計画の日量22万バレルから日量26万バレル、Payaraが当初計画の日量22万バレルから日量25万バレルへと増加しており、原油生産量は3基合計で日量60万バレルを上回る水準となっている。昨年11月に生産を開始したPayara油田は、生産開始から2カ月で生産量が生産能力に到達した。これは業界平均の15カ月と比べて短期間で、コストも予想を下回ったという。
ExxonMobilは、表1に示した最終投資決定(FID)済みの6プロジェクトにより石油換算で49億バレルを開発する計画で、さらに2件のプロジェクトを検討中であるという。7件目のプロジェクトについてはガイアナ初のガス開発プロジェクトになる可能性も検討されているという。
油田 | FID | 生産開始 | FPSO | 原油生産能力 | 開発コスト | 損益分岐点 |
---|---|---|---|---|---|---|
Lizaフェーズ1 |
2017年6月 |
2019年12月 |
Liza Destiny | 12万→15.5万b/d | 35億ドル | $35/b |
Lizaフェーズ2 |
2019年5月 |
2022年2月 |
Liza Unity | 22万→26万b/d | 60億ドル | $25/b |
Payara | 2020年9月 | 2023年11月 | Prosperity | 22万→25万b/d | 90億ドル | $32/b |
Yellowtail/Redtail | 2022年4月 | 2025年末 | One Guyana | 25万b/d | 100億ドル | $29/b |
Uaru/Snoek/Mako | 2023年4月 | 2026年 | Errea Wittu | 25万b/d | 126億ドル | ― |
Whiptail | 2024年4月 | 2027年 | Jaguar | 25万b/d | 127億ドル | ― |
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このようなガイアナの原油増産に関して、米国エネルギー情報局(EIA)は2024年5月に「ガイアナが世界の原油供給量の増加に大きく貢献」と題するレポートを発表、2020年から2023年にガイアナの原油生産量は年平均で日量98,000バレル増加し、非OPEC産油国の中で米国、ブラジルに次いで3番目に原油生産が急成長した国であるとした。

出所:EIA website
また、ExxonMobilのDarren W. Woods 最高経営責任者(CEO)も、ガイアナは世界の石油・ガス部門の歴史の中で最も成功した深海プロジェクトの1つとしている。
生産量が急激に増加したということだけでなく、Stabroek鉱区のプロジェクトは損益分岐点がバレル当たり25ドルから35ドル、生産される原油はAPI⽐重30度前後の中質原油、Rystad Energyによると二酸化炭素排出量がバレル当たり9キログラムで、これらのポイントもがエネルギー開発企業の関心がガイアナに集まる要因だと考えられる。
(3) 探鉱・開発に係る最大の懸念事項はベネズエラとのEssequibo地域をめぐる係争
このように急激に原油生産量を増やしてきたガイアナだが、今後の探鉱や生産量に影響を与える可能性のある要因がいくつかある。
ExxonMobilとガイアナ政府は、Lizaフェーズ1およびフェーズ2から、パイプラインでDemerara川西岸に建設予定の発電設備(300メガワット)やNGL施設に最大、日量5,000万立方フィートのガスを輸送することを計画し、パイプラインの敷設等が進められている。このGas to Energyプロジェクトにパイプラインを接続するため、ExxonMobilはLizaフェーズ1、フェーズ2のFPSOの生産を7月から8月にそれぞれ2週間ずつ停止する予定で、短期的にガイアナの原油生産量が減少する見通しである。
また、2023年10月にChevronがStabroek鉱区の権益を所有するHessを買収、合併することで合意したと発表したが、これに対してExxonMobilとCNOOCが先買権を主張し国際仲裁を申し立てている。現時点で、決着のめどは立っていないが、ガイアナの原油生産への影響はないと見られる。
さらに、2023年12月3日、ベネズエラがガイアナ西部Essequibo地域をベネズエラの一部として併合するか否かの住民投票を実施し、賛成が多数であったとして、同地域を併合し、ベネズエラの新たな州を創設するとした。同年12月14日に、Maduro大統領とAli大統領が会談をし、両国は、Essequibo地域をめぐる対話を継続することや相互に脅迫したり、武力を行使したりしないでこと等で合意した。しかし、その後も、ベネズエラがガイアナに侵攻する可能性が懸念されている。ガイアナは、2024年2月に、国際司法裁判所が両国の国境に関する判決を下すまで、Punta PlayaからStabroek鉱区とKaieteur鉱区を貫くラインよりも北での探鉱を承認しないと発表した。ガイアナが指定したこのエリアでは探鉱・開発はほとんど行われておらず、この決定による探鉱や生産への影響はない。両国間のEssequibo地域をめぐる係争自体も、現時点では原油生産や開発中のプロジェクトへの影響はないが、どのように推移していくのか状況を注視する必要がある。

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国際エネルギー機関(IEA)は、「Oil 2024 Analysis and forecast to 2030」の中で、新たなプロジェクトがない場合、ガイアナの原油生産量は2028年に日量130万バレル近くでピークに達した後、2030年までに日量110万バレルに減少する可能性があると示唆した。IEAのレポートはすでにFID済みの6プロジェクトをもとに生産見通しを示しているが、先述した通り、Stabroek鉱区では現在8番目のプロジェクトまで検討されており、さらに10番目のプロジェクトまで立ち上がる可能性があるとされている。こちらについても、今後の状況を見ていく必要があると考える。

出所:IEA Oil 2024 Analysis and forecast to 2030
3. スリナム ―沖合油田初のFIDが間近―
(1) 可採埋蔵量は石油換算46億バレル 2024年末までにBlock 58のFIDを予定
スリナムでも、ガイアナ同様、油田発見が続いている。Wood Mackenzieは2024年5月に、スリナムでこれまでに発見された可採埋蔵量は原油が24億バレル、ガスが12.5兆立方フィートで、合計で石油換算46億バレルであると発表した。Wood Mackenzieが可採埋蔵量に加えたのが、Block 58、52、53である。
Block 58については、APA(当時はApache)が2014年のライセンスラウンドで落札、2019年12月にTotalEnergiesが同鉱区の権益の50%を取得してファームインし、2021年1月からはTotalEnergiesが同鉱区のオペレーターを務めている。2019年から2020年に試掘井4坑と評価井1坑が掘削された結果、可採埋蔵量は石油換算17億バレルと評価されたが、その後も、ガイアナのStabroek鉱区で発見された油田と同じトレンドラインに沿った海域で油田発見が続いている。このうちSapakara South油田とKrabdagu油田(合計で可採埋蔵量7億バレル)開発のFIDが2024年末に行われる予定だ。90億ドルを投じて開発を行い、生産能力、日量20万バレルのFPSOを用いて2028年に生産が開始される計画となっている。
Block 52は、Petronasが2013年4月に権益100%を取得した鉱区だ。2020年5月にExxonMobilが権益50%を取得して参入したが、その後もPetronasは権益の残りの50%を保持し、オペレーターを務めている。2020年にSloanea-1号井でガス、2023年にRoystonea-1号井で原油、2024年にFusaea-1号井で炭化水素が確認された。Petronasは、Block 52はStabroek鉱区よりも構造が複雑だが、ようやく「金の卵」がどこにあるのかをある程度把握できたとしている。そして、2025年に新たな掘削キャンペーンを実施する計画だ。すでに約4~5兆立方フィートのガスが発見されており、2029年までにFEEDを開始する計画であるという。Rystad Energyは、早ければ2031年に同鉱区のガス生産が開始されるとしている。さらに、回収可能な約5億バレルの原油も確認済みで、この数字はさらに増加する可能性があるという。
Block 53はAPAが2012年のライセンスラウンド取得した鉱区で、その後、CEPSAとPetronasが参入し、現在、権益保有比率はオペレーターのAPAが45%、Petronasが30%、Cepsaが25%となっている。2022年に掘削したBaja-1号井で34メートルの油層が確認され、評価中である。

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スリナムの探鉱は、この3鉱区以外では、現在、ガイアナとの国境沿いを中心に進められつつある。
Block 58の北Block 42(権益保有比率:Shell、Hess、Chevron各33.33%)とBlock 59(権益保有比率:ExxonMobil、Equinor、Hess各33.33%)では、2024年後半に探鉱が実施される予定となっている。
また、浅海では、Chevronが権益を保有するBlock 5とBlock 7、TotalEnergiesが権益を保有するBlock 6とBlock 8について2021年から2023年にPS契約が締結されたところで、今後、探鉱が活発化する見込みである。
このように、スリナムでは、探鉱と並行して開発が進みつつある。
(2) ガス開発はガイアナとの協力を希望
原油開発はガス開発に比べると短い期間で迅速に実施でき、かつ、容易に利益を上げられる傾向があることから、ガイアナ側のExxonMobilのコンソーシアムも、スリナム側のTotalEnergiesのコンソーシアムもガスよりも原油の開発を優先してきた。しかし、スリナム政府は沖合での大規模なガス開発を望んでおり、そのためにガイアナ側と協力することに関心があるという。
Block 58については、スリナム国営石油会社StaatsolieがスリナムのBlock 58とガイアナのStabroek鉱区の共同開発を目指し、TotalEnergies、ExxonMobilと協議を行っている。ガイアナは2023年に石油法を改正し、国境をまたぐユニタイゼーションについての規定が設けられたが、スリナムの石油法にはその規定はなく、開発を行うにはスリナムの法改正が必要となる。
また、Block 52についてはStaatsolieとPetronas/ExxonMobilが2024年3月に、ガス開発の実現可能性を高めるためさらに探鉱を行うことで合意書を締結した。Rystad Energyは、早ければ2031年にPetronasがBlock 52でガス開発を行う可能性があると推測している。
4. ブラジル ―南米最大の産油国―
(1) プレソルトが原油生産増を牽引
プレソルト(リオデジャネイロやサンパウロの沖に延長約1,000キロメートル、幅約100キロメートルにわたり広がる下部白亜系岩塩層直下の炭酸塩岩を貯留岩とする地質構造)の増産に牽引され、この10年間で、ブラジルの原油生産量は日量約100万バレル増加、ガス生産量はほぼ倍増した。

各種資料を基にJOGMEC作成

Boletim da Produção de Petróleo e Gás Naturalを基にJOGMEC作成

Boletim da Produção de Petróleo e Gás Naturalを基にJOGMEC作成
しかし、原油生産量は2023年11月の日量367.8万バレルをピークに2024年4月には日量319.4万バレルに、ガス生産量も同時期に1億6,212万立方メートルから日量1億4,398万立方メートルに減少している。5か月連続の急激な生産減少とも見えるが、これはメンテナンスによるものということだ。ブラジルでは、この時期にメンテナンスが行われることが多いが、今回は特に大規模で、期間も例年より若干長かったようだ。メンテナンス終了後には原油、ガスともに生産量は回復、増加の見通しである。
なお、プレソルトで生産される原油のAPI比重は30度前後、温室効果ガスの排出量は生産量の最も多いTupi油田が石油換算1バレル当たり二酸化炭素換算で10.0キログラム、Buzios 油田が10.4 キログラムとなっている。
(2) 開発の中心はプレソルト、2030年にかけてプレソルトの生産増が見込まれる
ここまでブラジルの原油生産量を牽引してきたのはプレソルトだが、現在そして当面の開発の中心もプレソルトということになる。
エネルギー企業別に最近の探鉱・開発動向や計画について見てみよう。
Petrobrasは、2024年4月の原油生産量が日量202.6万バレルとブラジルの原油生産量の約3分の2を生産している。Petrobrasは2023年12月にSantos BasinプレソルトLibra鉱区Mero油田の開発第2フェーズの生産を開始した。2023年末に発表されたPetrobrasの戦略計画Strategic Plan(SP) 2024-2028+では、2024年から2028年に生産開始予定のFPSO14基のうち10基をプレソルト向けとしている。Petrobrasはさらに、2024年5月に、Santos BasinプレソルトのAtapu油田とSépia油田の開発フェーズ2についてFIDを行っているが、いずれも2029年に生産を開始する予定とされている。

出所:Petrobras Website
2024年4月の原油生産量が日量33.3万バレルとPetrobrasに次ぐ原油生産量を誇るShellは、4月にSantos BasinプレソルトGato do Matoプロジェクト向けFPSOのFEED 業務をMODECに発注した。TotalEnergies(2024年4月の原油生産量、日量11.8万バレル)は2025年にSantos BasinプレソルトのLapa South-West油田の生産を開始する計画、Equinor(同、日量7.2万バレル)は2024年にSantos BasinプレソルトのBacalhau油田、2028年にCampos BasinプレソルトのBM-C-33鉱区の生産を開始する予定となっている。
このように、Petrobrasもメジャー等も、ブラジルではプレソルトの油田開発に力を入れている。
油田別に見てみると、Santos BasinプレソルトのBuzios油田では、2023年までに生産能力、日量15万から18万バレルのFPSO5基が生産を開始しているが、さらに、今後2027年までに生産能力、日量18万から22.5万バレルのFPSO6基が生産を開始する計画となっている。また、Mero油田では、2022年と2023年に生産能力、日量18万バレルのFPSOが1基ずつ生産を開始したが、2025年までに生産能力、日量18万バレルのFPSO2基の生産を開始する計画となっている。このBuzios、Meroの2油田が今後数年間のブラジルの原油生産増を支えていくと考えられる。

各種資料を基にJOGMEC作成
IEAも、「Oil 2024 Analysis and forecast to 2030」の中で、2030年に向けてBuzios油田とMero油田の原油生産量が増加するとしている。

出所:IEA Oil 2024 Analysis and forecast to 2030
(3) 探鉱の中心はプレソルトから赤道周辺沖合とSantos Basin南部に移る
ブラジルではプレソルトで油田が発見されて以降、探鉱もプレソルトを中心に行われてきた。プレソルトでの探鉱は主にPetrobrasが主導して行っており、2010年代初めまで、その試掘成功率はほぼ100%であった。しかし、試掘成功率は次第に下がり、大規模な油田発見もなくなっていった。2017年から2019年には鉱区入札を経てメジャー等にもプレソルトエリアおよびその周辺鉱区が付与され、2019年以降、試掘が行われたが、その結果は芳しくなかった。一方で、ガイアナ、スリナム、ナミビアでの相次ぐ油田発見を受けて、赤道周辺部沖合とSantos Basin南部へのエネルギー開発会社の関心が高まっている。
Petrobrasはここ数年、プレソルトのあるSantos Basin、Campos Basinとともに、赤道周辺部での探鉱にも力を入れるとしており、2024年から2028年までの5年間に31億ドルを投じ赤道周辺部沖合で16坑の掘削を予定している。

出所:Petrobras Website
プレソルトエリアの外となるSantos Basinの南部では、これまで探鉱がほとんど行われていなかった(図13)。2021年10月実施の第17次ライセンスラウンドでShellが単独でこのエリアの4鉱区を、ShellとEcopetrolのコンソーシアムが1鉱区を落札した。さらに、2022年4月実施の第3次Open Acreage方式の入札でも、ShellとEcopetrolのコンソーシアムとTotalEnergiesがこのエリアの6鉱区で競合し、Shell/Ecopetrolが4鉱区を、TotalEnergiesが2鉱区を落札した。Shell/Ecopetrolはこれらの鉱区とは別の2鉱区を、競合他社からのオファーなしに落札した。ShellとTotalEnergiesは大西洋を挟んで対岸となるナミビア沖Orange BasinでGraff、Venusといった有望な構造を確認しており、地質的に相関関係がある可能性があると判断し、他の企業に先んじてこのエリアの多くの鉱区を取得したと考えられる。

ANP Websiteを基にJOGMEC加筆
緑字はShell、紫字はShell/Ecopetrolが第17次ライセンスラウンドで落札した鉱区
青字はTotal Energies、赤字はShell/Ecopetrolが第3次Open Acreage方式入札で落札した鉱区
(4) 南米最大の産油国、環境面から懸念も
南米最大の産油国に成長したブラジルだが、探鉱・開発や生産に影響を与えると考えられる要因がいくつかある。
Petrobrasはここ数年、ブラジル国外や中下流の資産売却を進め、収益性の高い中核資産すなわちプレソルトに投資や活動を集中させ、負債削減を図ってきた。2023年1月にLula氏が大統領の座に返り咲いたことで、Lula大統領の以前の政権の時のように、Petrobrasが探鉱・開発の中心となることで他の企業のブラジル上流事業への参入が制限されたり、Petrobrasが政府の一機関として働くことを求められ、汚職の温床となったり、多額の負債を背負わされるようなことになるのではないかと懸念が広がった。
Lula大統領就任後のPetrobrasの戦略計画Strategic Plan(SP) 2024-2028+では、設備投資額を前の戦略計画から31%と大幅に増額、設備投資額に占めるE&P部門の割合を削減する一方、ガス・低炭素エネルギー部門や精製・輸送・マーケティング部門への投資の割合が増加した。この設備投資額の配分を見て、Petrobrasの探鉱・開発が控えめになるのではないかと懸念する向きもあった。しかし、Petrobrasは、世界のエネルギー需要を満たすためにも、また、同社のエネルギー転換の資金を賄うためにも、原油、ガスの生産は優先事項だとしている。
また、配当方針等をめぐる政府との対立から、PetrobrasのJean Paul Prates CEOが2024年5月に退任し、後任には、長年Petrobrasに勤務した後、国家石油庁(ANP)の長官を務めたMagda Chambriard氏が就任した。Chambriard氏は、2030年以降にブラジルの原油生産量が減少する可能性を懸念しており、赤道周辺部を含む沖合での探鉱継続は不可欠であると主張している。
このような点から、Petrobrasによる探鉱・開発が急激に停滞する可能性は少ないと考える。

Petrobras Websiteを基にJOGMEC作成

(左SP 2023-2027、右SP 2024-2028+)
Petrobras Websiteを基にJOGMEC作成
赤道周辺部での探鉱にエネルギー開発企業の注目が集まっていると記してきたが、このエリアはもともと非常に有望なエリアと見られており、2013年に実施された第11次ライセンスラウンドではエネルギー開発企業が競って鉱区を取得した。しかし、アマゾン川の河口で珍しいサンゴ礁が発見されたことから、連邦環境規制当局(IBAMA)や環境保護団体がこのエリアでの探鉱に反対している。IBAMAが探鉱を許可しないため、TotalEnergiesやBPは撤退してしまった。その権益をPetrobrasが取得し、ANPが調整を行ったことで、探鉱が進展する可能性が出てきている。ただし、このエリアはインフラが整備されておらず、また、水深が深く、海流が複雑なので、探鉱・開発コストは高額になる可能性もあると見られている。
また、最近、金融機関が化石燃料プロジェクトへの融資を制限しており、FPSOのプロバイダーが建造資金を得ることが困難になっているという。こういった批判をかわそうと、FPSOは、電化、フレアリング低減、大規模なCO2注入プログラムを採用し設計されるようになっているが、世界のFPSO需要の3分の1を占めるとされるPetrobrasは、特に影響を受ける可能性があると懸念されている。
さらに、IEAが「Oil 2024 Analysis and forecast to 2030」で、新たなプロジェクトが立ち上がらない場合、ブラジルの原油生産量は2030年以降、減少する可能性があると示唆しており、プレソルトの油田に代わる新たな油田の発見が急務となろう。
5. ウルグアイ、アルゼンチン ~ナミビアとの地質相関性に期待~
ウルグアイでは、商業規模の油・ガス田の発見がなく、石油やガスは生産されていない。
2016年にはTotalがArea14の水深3,400メートルの海域で試掘井を掘削した。ウルグアイ沖合で40年ぶりの掘削であるとともに、当時、世界で最も深い水深での掘削であったことから、注目を集めたが、試掘結果はドライで、その後、ウルグアイ沖合での探鉱は停滞した。
しかし、ナミビア沖合での油田発見をきっかけに探鉱への関心が高まっている。
沖合6鉱区(OFF-2~6)、陸上5鉱区(ON1~5)を対象に2022年に実施された鉱区入札では、ShellがOFF-2およびOFF-7鉱区を、APAがOFF-6鉱区を落札した。
また、2024年にはChevronが、OFF-1鉱区の権益100%を保有するChallenger Energyからその60%を1,250万ドルで取得している。

各種資料を基にJOGMEC作成
アルゼンチン沖合では、2019年に38鉱区を対象に鉱区入札が実施され、13社が18鉱区を落札した。しかし、このうち、北部のNorthern Argentina Basinの鉱区については、長年、探鉱が行われていなかったエリアであるため、漁業関係者や環境保護団体から反対があり、探鉱を開始できない状態が続いていた。2024年に入りようやく、EquinorがCAN100鉱区で試掘井Argerich-1号井を掘削することとなった。アルゼンチン初の超大水深での掘削であることもあって、関心を集めたが、Equinorは6月、Argerich-1号井がドライであったと発表した。

各種資料を基にJOGMEC作成

各種資料を基にJOGMEC作成
このように、ウルグアイ沖合についても、アルゼンチンの北部沖合についても、ナミビアとの地質相関性への期待から、エネルギー開発企業が参入しており、探鉱が始まりつつあるが、環境への懸念から、探鉱が遅延したり、実施が困難になったりする可能性もある。
以上
(この報告は2024年6月27日時点のものです)