ページ番号1010188 更新日 令和6年8月19日
原油市場他:中東情勢不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念増大が下支えしたものの、中国石油需要の伸びの鈍化懸念増大により、変動領域を切り下げる原油価格
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概要
- 米国では、製油所の原油精製処理活動は概ね底堅かったものの、装置不具合等の発生により石油製品製造活動が不活発化した場面が見られたこともあり、季節的な需要期に突入していたガソリンの在庫は減少傾向となったが平年幅上限を上回る量となった一方、需要期ではなかった留出油の在庫は増加傾向となり、平年並みの量となっている。また、堅調な原油精製処理活動に加え輸出も促されたことから、原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る水準となっている。
- 2024年7月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州や日本においては計画外で操業を停止した製油所が発生したことにより、原油精製処理が進まなくなった側面があったこともあり、在庫は増加したものの、米国で減少したことで相殺されて余りあったことから、結果としてOECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本においては、梅雨明けに伴う行楽シーズンの到来による乗用車の利用の活発化に加え、気温の大幅上昇に伴い乗用車や商用車が車内空調を稼働させたことによる燃料消費拡大でガソリンや軽油の需要が喚起された結果、同製品を中心として在庫は減少した他、欧州においても夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期到来に伴う軽油需要の増加に伴い中間留分を中心として在庫は減少した。ただ、米国では、気温が上昇するとともに暖房向けのプロパン需要が低下したことに伴う当該製品在庫の増加等もあり、石油製品在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫はほぼ同水準となった他平年幅上方付近に位置する量となった。
- 2024年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場においては、7月31日にイスラム武装勢力ハマスの最高指導者が暗殺されたことによる、イランによる対イスラエル報復措置の実施意向表明を含む、同国とイスラエルとの対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念の増大等が、原油相場に上方圧力を加えたものの、複数の中国経済及び石油関連指標類が同国経済の減速及び石油需要の伸びの鈍化を示唆していたこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、7月中旬には1バレル当たり80ドルを超過していた原油価格は7月下旬以降75~80ドルを中心とする範囲へと変動領域を切り下げる格好となった。
- 今後、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了に向かうとともに、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることが、原油相場に下方圧力を加える可能性がある。また、中国経済回復がもたつき気味となるとともに同国石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が市場で残ることが、原油価格を抑制する形で作用することもありうる。他方、米国金融当局による政策金利引き下げ期待や同国経済指標類の内容により原油相場に上方もしくは下方から圧力が加わる可能性があるものと考えられる。そのような中で、イスラエルとイランとの対立といった中東情勢、及びウクライナとロシアを巡る情勢を含む地政学的リスク要因、米国メキシコ湾周辺地域におけるハリケーン等暴風雨の来襲状況及びその予報、OPECプラス産油国の自主的な減産措置の縮小を巡る動向等の要因が原油相場に影響を与えうるものと見られる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2024年5月の米国ガソリン需要(確定値)は日量940万バレル、前年同月比で3.2%程度の増加となり(図1参照)、4月の当該需要である同883万バレルから需要量が増加したうえ、同月の前年同月比1.8%程度の減少から増加に転じた。また、5月の当該需要は2023年12月以来5ヶ月ぶりに前年同月比で増加となった。さらに、当該需要は速報値(前年同月比0.6%程度減少の日量905万バレル)から上方修正されている。5月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量87万バレル程度と推定されたところ確定値では同71万バレルへと下方修正されたことにより、同国ガソリン需要が速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正された部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正の一因となったものと考えられる。また、2023年5月の米国ガソリン需要が前年同月比0.2%の減少と低調であったことへの反動で2024年5月の当該需要の前年同月比での伸びが拡大した格好となった側面もある。2023年4月の米国ガソリン需要(この場合厳密に言えば製油所等からの「出荷」となる)が前年同月比で2.8%程度増加したものの、2023年4月の自動車運転距離数は前年同月比で0.1%の伸びにとどまった(同年3月10日に同国中堅金融機関シリコンバレー銀行が破綻して以降、複数の同国金融機関が破綻したり預金量が減少したりする旨伝えられるなど経営不安が拡大した(同年4月24日には同国中堅金融機関であったファースト・リパブリック銀行の預金量が2023年1~3月期に40%程度減少した旨明らかになったうえ5月1日に同行は破綻した)ことにより、金融不安の同国経済への影響に対する懸念が消費者の間で広がったことが一因であるものと考えられる)ことから、4月に製油所等から出荷されたガソリンが小売店(ガソリンスタンド)等に滞留したことが、2023年5月の同国ガソリンの需要(出荷)の伸びの低迷の背景にあるものと考えられる。また、2024年の米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月27日)に伴う連休(5月25~27日)時の休暇シーズン(5月23~27日)において同国での乗用車を利用して外出する個人数は3,840万人と2000年以降の統計史上最高水準に到達するものと見込んでいる旨米国自動車協会(AAA)が5月13日に明らかにするなどしており、2024年の当該連休時の休暇シーズンを控えて乗用車等へのガソリンの給油が活発化したことが、同月の堅調なガソリン需要に反映されているものと考えられる。ただ、2024年5月の米国自動車運転距離数は1日当たり94.6億マイルと、4月の同88.0億マイルから相当程度増加していることが、5月のガソリン需要が前月比で増加した要因であるものと見られるものの、2024年4月の当該距離数が前年同月比で2.2%の増加であった反面、2024年5月の当該距離数は前年同月比1.3%、2024年6月の当該距離数も同推定0.9%の、それぞれ増加と、当該距離数の前年同月比での伸びが鈍化し続ける中で、2024年5月の同国ガソリン需要の前年比の増加率が突出しているように見受けられることから、反動で6月の当該需要の前年同月比の増加率が縮小すると言った展開となることもありうる(後述)。なお、2024年5月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年5月の当該需要(日量950万バレル)(確定値)を1.1%程度下回っている。他方、2024年7月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量916万バレル、前年同月比で1.6%程度の増加と、2024年6月の当該需要(速報値)である日量923万バレルから需要量がほぼ同水準となったものの、同月の前年同月比0.5%程度の減少から増加に転じた。米国では5月27日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したうえ、7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)の休日(この休日に伴う休暇シーズンが1年で最もガソリン需要が盛り上がるとされる)に向け消費者による乗用車への給油活動が活発化したことが、6月の同国ガソリン需要が前月比で増加した背景にあるが、独立記念日を過ぎると夏場のドライブシーズンも峠を越え始め、9月2日の労働者の日(レイバー・デー)の休日に伴う連休(8月31日~9月2日)のドライブシーズンの終了に向けガソリン需要が低減傾向となる。このようなことから7月の同国ガソリン需要が前月比でほぼ同水準となった背景にある。しかしながら、2024年7月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり3.600ドルと前年同月(同3.712ドル)を下回ったこともあり、ガソリン小売価格の割安感を市場が感じたことが同月のガソリン需要を押し上げる格好となった結果、当該需要が前年同月比で増加したものと考えられる(なお、2024年6月のガソリン小売価格(同3.576ドル)も前年同月(同3.684ドル)を下回っていることから、この面でガソリン需要が押し上げられているものと見られるものの、5月のガソリン需要が相当程度堅調であった(前述)反動で6月の当該需要が押し下げられていることにより同需要が前年同月比で減少となっているものと考えられる)。なお、2024年7月の米国ガソリン需要は2019年7月の当該需要(日量953万バレル)(確定値)を4.0%程度下回っている。また、米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来に伴い、製油所での春場のメンテナンス作業が終了するとともに不具合が発生した装置の改修が進んだ他、2024年の米国戦没将兵追悼記念日に伴う連休時の休暇シーズンにおいて同国で乗用車を利用して外出する個人数が2000年以降の統計史上最高水準に到達するものと見込んでいる旨AAAが明らかにしたこともあり、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要の盛り上がり期待から、同国製油所の原油精製処理量は、5月31日の週に日量1,714万バレルと2019年12月27日の週(この週は同1,728万バレル)以来の高水準に到達した(図2参照)ため、それに併せてガソリン製造活動も活発化した(ガソリン最終製品生産量は図3参照)。しかしながら、足元のガソリン需要はそれほど盛り上がらなかった(実施個人可処分所得が必ずしも堅調ではなかったものと見られること等により、外出が短期間、短距離かつ低費用で行なわれた可能性がある)ことにより、5月上旬から6月上旬にかけ同国のガソリン在庫が増加傾向となったこともあり、製油所におけるガソリン製造に伴う利幅が縮小傾向となったことから、その後同国製油所の一部が稼働を抑制したものと見られる他、一部製油所ではメンテナンス作業を実施したり、装置に不具合が発生したりしたことにより、原油精製処理量が下振れした。さらにこれに伴い製油所でのガソリン製造活動も相対的に不活発化したものと見られることが一因となり、同国のガソリン在庫は、7月上旬から8月上旬にかけては減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態となっている(図4参照)。
2024年5月の米国留出油需要(確定値)は日量378万バレル、前年同月比3.8%程度の減少となり(図5参照)、4月の同380万バレル(前年同月比2.5%程度の減少)から需要量はほぼ同水準となった一方、前年同月比での減少率は拡大した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比5.8%程度減少の日量370万バレル)からは上方修正されている。5月は同国の暖房用留出油需要の中心地である北東部が4月に比べ温暖になったことにより、暖房向けの留出油需要が前月比で減少したものと見られる反面、5月の同国鉱工業生産が4月から増加するとともに5月の物流活動も4月に比べ活発化したこともあり、5月の産業及び輸送向けの留出油需要が4月から増加したものと見られることから、結果として5月の同国留出油需要は4月とほぼ同水準となったものと考えられる。また、2024年5月の米国北東部は前年同月比で相当程度温暖であったことにより暖房向けの留出油需要が抑制されたことから、同月の鉱工業生産活動や物流活動は前年同月を上回ったことにより産業部門及び輸送部門における留出油需要が喚起されたものと見られるものの、同月の留出油需要全体としては前年同月を下回ることとなったものと考えられる(なお、2024年4月は米国鉱工業生産活動及び物流活動は前年同月比で減少となったことにより産業及び輸送料部門における留出油需要がもたつき気味となったものの、同国北東部は前年同月よりも寒冷であったことから、暖房向けの民生部門における留出油需要が堅調であったことにより、同月の留出油需要は前年同月比で減少とはなったものの、2024年5月よりも減少幅は小さくなったものと考えられる)。なお、2024年5月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量411万バレル)(確定値)を8.1%程度下回っている。他方、2024年7月の米国留出油需要(速報値)は推定日量364万バレル、前年同月比で0.2%程度の減少となり、6月の当該需要量(速報値)の日量370万バレル(前年同月比6.6%程度の減少)と比べ需要量はほぼ同水準となった反面前年同月比の減少率は相当程度縮小した。6月の米国鉱工業生産が前年同月を1.1%と相当程度上回った(これは2023年1月以来の大幅な増加率であった)ことが7月の同国の物流活動に影響を与えるとともに輸送部門における留出油需要が押し上げられたものと見られることが、同月の留出油需要の前年同月比での伸びに反映されているものと考えられる。なお、2024年7月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量391万バレル)(確定値)を6.9%程度下回っている。そして、米国でのガソリン製造を巡る利幅が軟調であった反面、米国の留出油需要や輸出は底堅かった(欧州における夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期(欧州ではディーゼル車が乗用車として浸透している)を控え、米国から欧州方面への軽油輸出が活発化したことが一因であるものと見られる)こともあり、米国の製油所における留出油製造を巡る利幅が比較的堅調に推移したこともあり、製油所の原油精製処理量は限られた範囲で推移したにもかかわらず留出油生産は概ね順調に推移した(図6参照)ことから、7月上旬から8月上旬にかけ米国留出油在庫は増加傾向となった結果、平年並みの量となっている(図7参照)。
2024年5月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比2.0%程度増加の日量2,080万バレルとなり(図8参照)、4月の同2,001万バレルから需要量が増加した他、同月の前年同月比0.1%程度の減少から増加に転じた。ガソリン需要が前月比及び前年同月比で増加したことが、同国石油需要の前月比及び前年同月比での増加の主要因となっている。また、ガソリンのみならずプロパン/プロピレン及びその他の石油製品等の需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたことから、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比2.0%程度減少の日量1,999万バレル)から上方修正されている。なお、2024年5月の米国石油需要は2019年5月の当該需要(日量2,039万バレル)(確定値)を2.0%程度上回っている。他方、2024年7月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,036万バレル、前年同月比で1.2%程度の増加となっており、6月の同国石油需要(速報値)である日量2,058万バレル、前年同月比0.6%程度の減少から、需要量が減少した反面前年同月比では増加に転じた。その他の石油製品等の需要が前月から減少したことが、同国石油需要の前月比での減少に反映されている反面、2024年7月のガソリン及びその他の石油製品の需要が前年同月比で増加したことが、同月の米国石油需要を前年同月比で増加させる格好となっている。ただ、7月のその他の石油製品の需要は推定日量473万バレルと2023年6月~2024年5月の当該需要(確定値)である同412~476万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正される結果、同国の石油需要(確定値)に影響を及ぼす可能性があることも否定できないものと考えられる。なお、2024年7月の米国石油需要は2019年7月の当該需要(日量2,074万バレル)(確定値)を1.8%程度下回っている。また、米国の原油生産量が概ね横這いの中、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に向け製油所の原油精製処理量がもたつき気味ながらも前年同期を概ね上回った状態で推移したことに加え、原油輸出も前年を上回って堅調であった(製油所のメンテナンス作業が終了した欧州や経済が比較的好調であるインドへ主に向かっているものと見られる)ことから、7月上旬から8月上旬にかけ米国原油在庫は減少傾向となったものの平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン両在庫が平年幅上限を超過する一方、留出油在庫が平年並みの量となっていることもあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2024年7月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州や日本においては計画外で操業を停止した製油所が発生したことにより、原油精製処理が進まなくなった側面があったこともあり、在庫が増加したものの、米国で減少したことで相殺されて余りあったことから、結果としてOECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、日本においては、梅雨明けに伴う行楽シーズンの到来による乗用車の利用の活発化に加え、気温の大幅上昇に伴い乗用車や商用車が車内空調を稼働させたことによる燃料消費拡大でガソリンや軽油の需要が喚起された結果、同製品を中心として在庫は減少した他、欧州においても夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期(欧州ではディーゼル車が相当程度浸透している)到来に伴う軽油需要の増加に伴い中間留分を中心として在庫は減少した。ただ、米国では、気温が上昇するとともに暖房向けのプロパン需要が低下したことに伴う当該製品在庫の増加や、冬用ガソリンの利用時期終了による、当該製品に混入していたブタンの需要減少に伴うその他の石油製品在庫の増加もあり、石油製品在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫はほぼ同水準となった他平年幅上方付近に位置する量となった(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から減少したものの平年幅上限を超過する量となっている(図14参照)。なお、2024年7月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.3日と6月末の推定在庫日数(61.3日)とほぼ同水準となっている。
7月10日に1,300万バレル台前半程度の水準であった、シンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は、7月17日には1,400万バレル台半ば程度、7月24日は1,500万バレル台後半程度の、それぞれ量へと増加した。7月31日には同在庫は1,400万バレル台前半程度、8月7日には1,400万バレル強程度の、それぞれ量へと減少したが、8月14日には1,500万バレル強の水準へと回復しており、結果として当該在庫は7月10日の量を上回る状態となった。中国において同国石油会社に付与された2024年第2回の石油製品輸出枠(1,400万トン、別途低硫黄重油400万トン)(5月7日にその旨伝えられた)の消化が進みつつあったこともあり、同国からのガソリン輸出が伸び悩み気味となったものの、一部アジア諸国及び地域において実施されていた春場のメンテナンス作業が完了したことにより製油所が操業を再開したことに伴い石油製品製造活動が活発化したことから、これら諸国及び地域へのシンガポールからの軽質留分輸出が鈍化したことが、シンガポールにおける軽質留分在庫を増加させた一因であるものと考えられる。ただ、7月後半を中心とする時期においては、米国を中心とする消費国及び地域において夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来による、世界的なガソリン需給引き締まり感が継続したことが、アジア市場においてもガソリン価格を下支えしたうえ、原油価格の下落にガソリン価格の下落が追い付かない場面が見られたことから、この時期アジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向となった。しかしながら、その後は米国でのガソリン需要期が峠を越えつつあるとの意識が強まり始めたことに加え、原油価格の上昇にガソリン価格の上昇が追い付かなかい場面が見られたことにより、8月前半を中心とする時期においてはアジア市場でのガソリンとドバイ原油との価格差は縮小傾向となった。
また、7月後半から8月上旬前半頃にかけては米国等にガソリンを輸出している欧州を中心として夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要に対応するための原料としてのナフサの需要が堅調であったことが、アジア市場におけるナフサ価格にも上方圧力を加えた他、原油価格の下落にナフサ価格の下落が追い付かない場面が見られたことから、この時期ナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小傾向を示した。しかしながら、その後は、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越えつつあるとの認識が市場で広がりつつあるとともに、原料となるナフサ需給の緩和感を市場が意識し始めた。加えて、5月、6月、及び7月において中国経済回復がもたついている旨明らかになったことにより、同国を中心として石油化学製品需要が軟調になるとの観測が市場で広がった。このため、アジア諸国及び地域ではナフサ分解装置のメンテナンス作業を実施したり、稼働率を引き下げたりしたことにより、石油化学部門向けのナフサ需要が低迷する格好となった結果、アジア市場におけるナフサ需給の緩和感が市場で醸成された。さらに8月上旬後半頃から中旬頃にかけては、原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かない場面が見られた。このようなこともあり、同時期ナフサとドバイ原油との価格差は拡大する傾向を示した。
7月10日には800万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分の在庫は、7月17日には1,100万バレル台前半程度の量へと増加した。同在庫は7月26日には1,100万バレル強程度へと水準を切り下げたものの、7月31日には1,100万バレル台前半程度、8月7日には1,200万バレル弱程度、そして8月14日には1,200万バレル強程度の量へと、それぞれ増加した。このため、8月14日の在庫水準は7月10日を上回る状態となっている。中国において同国石油会社に付与された2024年第2回の石油製品輸出枠の消化が進みつつあったことから、同国からの軽油等の輸出が伸び悩み気味となったことが、シンガポールの同国からの中間留分の流入を抑制する格好となった。しかしながら、夏場の軽油需要の中心地である欧州において春場の製油所メンテナンス作業が終了するとともに製油所の稼働が上昇、軽油を含む中間留分等の石油製品製造活動が活発化したことにより、かえって同地域における中間留分需給の緩和感が増大したことから、インド等から欧州方面への軽油等の輸出が鈍化するとともに、代わりにシンガポールに軽油等が流入するようになったことが、シンガポールにおける中間留分在庫を押し上げる形で作用したことが、同地における中間留分在庫増加傾向の背景にあるものと考えられる。そしてシンガポールにおける中間留分在庫の増加がアジア市場における軽油価格に下方圧力を加える格好となったことに加え、インドネシアにおいて稼働を停止していたバリクパパン(Balikpapan)製油所(操業者:プルタミナ、原油精製処理能力日量36万バレル、5月25日に火災が発生したことに伴い稼働が停止したが、操業再開が遅延しつつあった)が通常操業に復帰した旨7月30日に伝えられたことにより、同国の軽油輸入が低減するとの見方が市場で発生したことが、アジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)を縮小させる方向で作用したものの、7月後半から8月上旬前半頃にかけては原油価格の下落に軽油価格の下落が追い付かない場面が見られたことが、軽油とドバイ原油の価格差を拡大させる方向で作用したことから、この時期において当該価格差は若干の拡大傾向を示した。しかしながら、8月上旬後半頃以降はシンガポールの中間留分在庫が増加傾向となったことに加え、原油価格の上昇に軽油価格の上昇が追い付かない場面が見られたことから、アジア市場において軽油とドバイ原油価格が縮小傾向を示した。
7月10日に1,700万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、7月17日には2,000万バレル台前半程度の量へと増加した。ただ、7月24日には1,900万バレル台後半程度、7月31日には1,900万バレル台半ば程度へと水準を切り下げた。8月7日には1,900万バレル台後半程度の量に回復したものの、8月14日には1,800万バレル台前半程度の量へと減少した結果、同在庫は7月10日の量を若干上回る状態となっている。経済活動が低迷する韓国等の北東アジア諸国において船舶用もしくは発電用の重油需要が低調であった反面、アジア及び欧州一部諸国及び地域においては春場の製油所メンテナンス作業が終了に向かうとともに、石油製品製造活動を活発化した結果、これら諸国及び地域で生産された重油が7月後半から8月前半を中心とする時期にシンガポールに流入した場面が見られたものの、アジアや中東諸国及び地域において夏場の気温の上昇とともに空調稼働向けの電力供給のための発電部門における重油需要が盛り上がったことにより、一部のアジアや中東諸国及び地域で製造された重油がシンガポール以外の諸国及び地域に向け供給された結果、シンガポールに流入しにくくなったことが、シンガポールにおける重油在庫増減の背景にあるものと考えられる。そして、7月後半を中心とする時期においては、中東やエジプト等の一部アフリカ諸国における夏場の気温の上昇に伴い空調装置稼働のための電力供給向けの発電部門での重油需要が旺盛であったことにより、中東方面からアジア方面への重油流入が低下するとの観測が市場で発生したことに加え、原油価格の下落に重油価格の下落が追い付かなかい場面が見られたことから、同時期アジア市場の高硫黄原油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄原油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小傾向、低硫黄原油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄原油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向を、それぞれ示した。しかしながら、その後は、中東における夏場の気温上昇に伴う空調稼働のための電力供給向けの発電部門における重油需要が峠を越えつつあるとの見方が市場で発生し始めた(加えて中国国内の石油需要が経済回復のもたつきもあり軟調であることから同国一部製油所において重油を用いて石油製品を製造する際の利幅が確保しにくくなったこともあり、それら製油所の重油需要が低下していると見る向きもある)ことから、8月前半を中心とする時期においては、アジア市場における高硫黄原油とドバイ原油との価格差は拡大傾向、低硫黄原油とドバイ原油との価格差は縮小傾向を、それぞれ示した。
2. 2024年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場等の状況
2024年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場においては、7月31日にイスラム武装勢力ハマスの最高指導者が暗殺されたことによる、イランによる対イスラエル報復措置の実施意向表明を含む、同国とイスラエルとの対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念の増大等が、原油相場に上方圧力を加えたものの、複数の中国経済及び石油関連指標類が同国経済の減速及び石油需要の伸びの鈍化を示唆していたこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、7月中旬には80ドルを超過していた原油価格は7月下旬以降75~80ドルを中心とする範囲へと変動領域を切り下げる格好となった(図15参照)。
7月15日には、この日中国国家統計局から発表された2024年4~6月期の同国国内総生産(GDP)が前年同期比4.7%の増加と2023年1~3月期(この時は同4.5%の増加)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(同5.1%の増加)を下回ったうえ、6月の同国鉱工業生産が前年同月比で5.3%の増加と市場の事前予想(同5.0%の増加)を上回ったものの5月の同5.6%の増加からは伸びが鈍化、6月の小売売上高が前年同月比2.0%の増加と2022年12月(この時は同1.8%の減少)以来の低水準となった他市場の事前予想(同3.3~3.4%の増加)を下回ったことに加え、7月15日に中国国家統計局から発表された6月の同国原油精製処理量が5,832万トン(推定日量1,423万バレル)と5月の同国原油精製処理量の6,052万トン(同1,429万バレル)、及び前年同月(6,095万トン、同1,487万バレル)を下回った(国内製油所のメンテナンス作業実施と軟調な経済に伴う軽油を中心とする低調な需要による精製利幅の低下が背景にあると見る向きがある)ことにより、同国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.30ドル下落し、終値は81.91ドルとなった。7月16日も、7月15日に中国国家統計局から発表された2024年4~6月期のGDPを初めとして同国経済が減速しつつあることを示唆する指標類が明らかになったことにより、同国石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、7月16日に米国商務省から発表された6月の同国小売売上高が前月比で横這いと市場の事前予想(同0.3%減少)程減少していなかったことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.76ドルと前日終値比で1.15ドル下落した。この結果原油価格は7月12~16日の3取引日合計で1バレル当たり1.86ドルの下落となった。しかしながら、7月17日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、7月17日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(7月12日の週分)で原油在庫が前週比487万バレルの減少と、市場の事前予想(同3~108万バレル程度の減少)を上回って減少していた他米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で88万バレル減少していた旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、米ドル高を懸念する旨トランプ前大統領が明らかにしたと7月16日夕方(米国東部時間)に報じられたこともあり、米ドル高是正観測が市場で強まるとともに米ドルが下落したことから、7月17日の原油価格の終値は1バレル当たり82.85ドルと前日終値比で2.09ドル上昇した。また、7月15~18日に開催されていた中国第20期中央委員会第3回総会(3中総会)において、国内産業の近代化を推進する方針等を表明されたものの、具体的な政策についての言及がなされなかったこともあり、同国経済回復と石油需要の伸びの加速に対する期待が7月18日の市場で後退したことが、原油相場に下方圧力を加えた一方、7月18日に米国労働省から発表された新規失業保険申請件数(7月13日の週分)が24.3万件と前週の22.3万件(改定値)から増加した他市場の事前予想(22.9~23.0万件)を上回ったことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で増大したことが原油相場に上方圧力を加えた結果、7月18日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.03ドルの下落にとどまり、終値は82.82ドルとなった。そして、パレスチナ自治区ガザ地区におけるイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での停戦等を巡る交渉の妥結が視野に入り始めている旨7月19日に米国のブリンケン国務長官が示唆したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことに加え、米国サイバーセキュリティ会社クラウドストライクの更新プログラムにおける不具合に伴い世界的にオンラインサービス上で支障が発生したこともあり、情報技術(IT)関連企業株式を中心として米国株式相場が下落するとともに、安全資産である米ドルの購入が進んだことにより同通貨が上昇したことから、7月19日の原油価格の終値は1バレル当たり80.13ドルと前日終値比で2.69ドル下落した。
また、7月22日には、米国8月渡し原油先物契約の取引終了を控えた持ち高調整が市場で発生したことに加え、同日中国人民銀行(中央銀行)が政策金利を0.1%引き下げる旨決定したものの、この水準では同国経済回復をもたらすには不十分であるとの見方が市場で発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.35ドル下落し、終値は79.78ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2024年8月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2024年9月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり78.40ドル(前週末終値比同0.24ドルの下落)であった)。また、イスラエルのネタニヤフ首相がイスラム武装勢力ハマスにより拘束されている人質解放を巡りハマスとの合意が接近しつつある旨認識していると7月23日に同国首相府が発表したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、7月23日の原油価格の終値は1バレル当たり76.96ドルと前日終値比で2.82ドル下落した。この結果原油価格は7月19~23日の3日取引日合計で1バレル当たり5.86ドルの下落となった。ただ、7月24日には、この日EIAから発表された米国石油統計(7月19日の週分)において、原油在庫が前週比374万バレル、ガソリン在庫が同557万バレル、留出油在庫が同275万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(原油在庫同160万バレル程度、ガソリン在庫同40万バレル程度の、それぞれ減少、留出油在庫同25万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明した他、米国原油先物契約受渡地点である同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で171万バレル減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり77.59ドルと前日終値比で0.63ドル上昇した。また、7月25日も、この日米国商務省から発表された2024年4~6月期の米国国内総生産(GDP)(速報値)が前期比年率2.8%の増加と2024年1~3月期の同1.4%増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同2.0%の増加)を上回った一方、併せて発表された同時期の個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)価格指数が前期比年率2.6%上昇と前四半期の同3.4%上昇から、また食料品とエネルギーを除くコアPCE価格指数が同2.9%上昇と前四半期の同3.7%上昇から、それぞれ伸びが鈍化した旨判明したことにより、米国の物価上昇が加速することなく経済成長が加速することに対する楽観的な見方が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.69ドル上昇し、終値は78.28ドルとなった。この結果原油価格は7月24~25日の2日合計で1バレル当たり1.32ドル上昇した。しかしながら、7月25日に中国大手国有銀行5行が預金金利を0.05~0.20%程度引き下げる旨発表したものの、それによる消費刺激効果は限定的となる可能性があるとの見方が市場で発生した流れを7月26日の市場が引き継いだことに加え、7月26日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で482基と前週比5基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で467基と前週比6基増加)していた旨判明したことにより、この先の同国原油生産増加期待が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.12ドル下落し、終値は77.16ドルとなった。
また、7月27日にイスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区中部の都市デイルバラ(Deir al-Balah)の学校を空爆した結果少なくとも30人が死亡(イスラエルはイスラム武装勢力ハマスの拠点があった旨主張)したうえ、7月27日にイスラエル軍が占領するゴラン高原にミサイル弾による攻撃があり12人が死亡したことに対しイスラエルはイスラム武装勢力ヒズボラによるものと断定(ヒズボラは否定)、7月27日夜から28日未明(現地時間)にかけイスラエル軍はレバノン南部等にあるヒズボラ関係拠点を空爆した他、7月29日にイスラエルのネタニヤフ首相はさらなる対応を行なう旨表明したものの、イスラエルはヒズボラとの間での全面的な戦争を望んでいるわけはない旨7月29日にイスラエル当局者が明らかにしたと同日伝えられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.81ドルと前日終値比で1.35ドル下落した。また、7月30日も、7月31日に中国国家統計局から発表される予定である7月の同国製造業及び非製造業購買担当者指数(PMI)が6月より同国経済が悪化している旨示唆するとの見方が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.08ドル下落し、終値は74.73ドルとなった。この結果原油価格は7月26~30日の3取引日合計で1バレル当たり3.55ドル下落した。しかしながら、7月31日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、イスラム武装勢力ハマスの最高指導者ハニヤ氏がイランの首都テヘランで空爆により死亡した旨7月30日夜(米国東部時間)に報じられた(ハマスもその旨7月31日に声明を発表した)他、7月31日にイランの最高指導者ハメネイ師がイスラエルに対し報復措置を実施する旨宣言した(イスラエルは攻撃実施等に関し声明等を発表していないが、7月31日にイスラエルのネタニヤフ首相は、壊滅的な打撃をハマスに対し与えた旨主張した)ことから、イスラエルとハマス等との間での対立の一層の先鋭化による中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したこと、7月31日にEIAから発表された米国石油統計(7月26日の週分)において、原油在庫が前週比344万バレル、ガソリン在庫が同367万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(原油在庫同110万バレル程度、ガソリン在庫同100万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少している旨判明した他、米国原油先物契約受渡地点である同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で111万バレル減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、7月30~31日に開催された日本銀行金融政策決定会合において政策金利を0.25%へと引き上げる(従来は0.0~0.1%)旨決定(8月1日より実施)されたことにより、日本円が上昇したうえ、7月30~31日の米国連邦公開市場委員会(FOMC)開催後の記者会見において、条件が整うようであれば9月17~18日に開催される予定である次回FOMCにおいて政策金利引き下げを検討及び決定することもありうる旨認識していると同国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が示唆したことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.18ドル上昇し、終値は77.91ドルとなった。それでも、8月1日には、7月31日の原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、8月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された7月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が46.8と6月の48.5から低下、2023年11月(この時は46.6)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(48.8)を下回った一方、同日発表された7月のISM製造業価格指数(50が物価上昇及び下落の分岐点)が52.9と6月の52.1から上昇するなど物価の伸びの加速が示唆されていたことにより、米国株式相場が下落したこともあり、同国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.31ドルと前日終値比で1.60ドル下落した。また、8月2日も、この日米国労働省から発表された7月の同国雇用統計で失業率が4.3%と6月の4.1%から上昇した他市場の事前予想(4.1%)を上回ったことで、同国労働市場を巡る状況が急速に悪化しつつある一方、米国金融当局による対応が後手に回りつつある様相を呈していることにより、米国景気後退懸念が市場で増大したこともあり、同国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.79ドル下落し、終値は73.52ドルとなった。
また、8月2日に米国労働省から発表された同国雇用統計で失業率が市場の事前予想を上回って上昇していた流れを引き継いで、8月5日も米国株式相場が下落し続けたことにより、米国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大し続けたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.94ドルと前週末終値比で0.58ドル下落した。この結果原油価格は8月1~5日の3取引日間合計で1バレル当たり4.97ドルの下落となった。しかしながら、8月6日には、これまでの価格下落に対し値頃感から株式を買い戻す動きが市場で発生したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.20ドルと前日終値比で0.26ドル上昇した。また、8月7日も、この日EIAから発表された米国石油統計(8月2日の週分)において、原油在庫が前週比373万バレルの減少と6週連続前週比で減少した結果、8月2日時点の原油在庫は4.29億バレルと2024年2月2日(この日の在庫量は4.27億バレル)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(同70万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、8月7日にリビア国営石油会社NOCが同国最大の油田とされるシャララ(Sharara)油田(原油生産能力日量30万バレル、地域住民による抗議行動に伴う政治的脅迫により原油生産を漸進的に削減させ始めた旨NOCが8月6日に発表していた)からの原油出荷に関し不可抗力条項の適用を宣言したことにより、同国からの石油供給減少を巡る懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.03ドル上昇し、終値は75.23ドルとなった。さらに、8月8日も、この日発表された米国製薬大手イーライ・リリーの2024年4~6月期業績が市場の事前予想を上回った他同社が年間の業績見通しを上方修正したうえ、8月8日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(8月3日の週分)が23.3万件、前週比1.7万件減少と、2023年9月15日の週(この時は同1.7万件減少)以来の大幅な減少となった他市場の事前予想(24.0万件)を下回ったことにより、米国景気後退を巡る懸念が市場で後退したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.19ドルと前日終値比で0.96ドル上昇した。加えて、8月9日も、これまでの米国株式相場下落及び米ドル上昇に対し週末を控えた持ち高調整が発生したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したことに加え、7月31日にイスラム武装勢力ハマスの最高指導者ハニヤ氏がイランの首都テヘランで殺害されたことに対し、8月9日にイラン革命防衛隊のファダビ副司令官がイスラエルに対し報復措置を実施する意向である旨明言したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.65ドル上昇し、終値は76.84ドルとなった。
そして、イランはイスラエルに対し報復措置を実施する意向である旨同国のバゲリ外相代行が8月11日に示唆した他、イランが数日以内にイスラエルに対し直接攻撃を実施する方針である旨イスラエルは認識していると8月11日に伝えられたうえ、イランのイスラエルに対する攻撃の可能性に備え米国が急遽自国の原子力空母や原子力潜水艦を中東に派遣する意向である旨同国国防省が明らかにしたと8月12日に報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、8月12日の原油価格の終値は1バレル当たり80.06ドルとは前週末終値比で3.22ドル上昇した。この結果原油価格は8月6~12日の5取引日合計で1バレル当たり7.12ドルの上昇となった。しかしながら、8月13日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、パレスチナ自治区ガザ地区の停戦及び人質解放等に関するイスラエルとの交渉が不調に終わるのであればイランはイスラエルを攻撃する方針である一方、イランはガザ地区の交渉に協議団を派遣する意向である旨同国政府関係者が明らかにしたと8月13日に報じられたことにより、少なくとも当該交渉中は、イランは対イスラエル報復措置を実施しないとの観測が市場で発生したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.35ドルと前日終値比で1.71ドル下落した。また、8月14日も、この日EIAから発表された米国石油統計(8月9日の週分)において、原油在庫が前週比136万バレルの増加と、市場の事前予想(同220万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.37ドル下落し、終値は76.98ドルとなった。ただ、8月15日には、この日米国商務省から発表された7月の同国小売売上高が前月比1.0%の増加と市場の事前予想(同0.3~0.4%の増加)を上回ったうえ、この日米国小売大手ウォルマートが2024年通期業績見通しを上方修正したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.18ドル上昇し、終値は78.16ドルとなった。それでも、8月15~16日にカタールの首都ドーハで実施された、パレスチナ自治区ガザ地区における停戦と人質解放等を巡る関係者間協議(米国、エジプト及びカタールが仲介)に関し、当該協議が「真剣でありかつ建設的であった」他、翌週末までにエジプトの首都カイロにおいて協議が再開される予定である旨、8月16日に仲介3ヶ国が共同声明を発表したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.65ドルと前日終値比で1.51ドル下落している。
3. 原油市場における主な注目点等
石油市場に影響を与えうる地政学的リスク要因の中心の一つは中東情勢であろう。7月12日には、イスラエルのネタニヤフ首相が、パレスチナ自治区ガザ地区におけるイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの停戦後、ガザ地区とエジプトとの境界の緩衝地帯にイスラエル軍を配備したままとする案を提示、イスラエル軍配備無しに緩衝地帯を管理することを希望する他の交渉者との間で意見の相違が見られることにより、イスラエルとハマスとの停戦等の協議は後退しつつある旨同日ウォールストリート・ジャーナルが伝えた他、7月13日にはガザ地区の停戦等を巡る協議は中断された旨報じられた。その後、ガザ地区におけるイスラエルとハマスとの間での停戦等を巡る交渉の妥結が視野に入り始めている旨7月19日に米国のブリンケン国務長官が示唆したものの、7月19日未明(現地時間)にイスラエル中部の都市であるテルアビブを無人機が攻撃した結果1人が死亡、イエメンのフーシ派武装勢力が犯行声明を発表したことに対し、7月20日にイスラエルがフーシ派武装勢力支配下にあるイエメンの港湾都市ホデイダを戦闘機で空爆、フーシ派武装勢力はさらにイスラエル南部の都市であるエイラート(Eilat)に向けミサイル複数発を発射した旨7月21日に発表(イスラエルはイエメン方面から飛来したミサイルを迎撃した旨7月21日に発表)した。7月23日にはイスラエル首相府が、同国のネタニヤフ首相がハマスにより拘束されている人質解放を巡る合意が接近しつつある旨認識していると発表した他、ガザ地区におけるハマスとの間での停戦等を巡る協議に向け翌週イスラエルの交渉団が派遣される予定である旨イスラエル政府関係者が7月24日に明らかにした(イスラエルのネタニヤフ首相は7月25日に交渉団を派遣するように指示した旨7月21日に同国首相府が発表したが、7月25日にネタニヤフ首相が米国のバイデン大統領との間でガザ地区停戦等につき協議することとしたため、派遣が延期されたとされる)。7月25日には米国のバイデン大統領及びハリス副大統領がイスラエルのネタニヤフ首相と会談、その場でバイデン大統領他がガザ地区におけるイスラエルとハマスとの間での停戦等で合意するよう促したものの、その後ネタニヤフ首相は、ガザ地区を巡る停戦等に対するハマスとの合意に関し2日以内に新たな提案を行なう(ハマスの行動を制限することを目的として、ガザ地区南部に避難しているパレスチナ人が同地区北部に帰還する際に審査を実施する体制を構築することを内容としているとされる)旨明らかにしたと7月25日夕方(米国東部時間)以降に報じられたことにより、両者による停戦交渉が複雑化するとの懸念が市場で増大した。また、7月27日にイスラエル軍がガザ地区中部の都市デイルバラ(Deir al-Balah)の学校を空爆した結果少なくとも30人が死亡(イスラエルは同地にハマスの拠点があった旨主張)したうえ、7月27日にイスラエル軍が占領するゴラン高原にミサイル弾による攻撃があり12人が死亡したことに対しイスラエルはイスラム武装勢力ヒズボラによるものと断定(ヒズボラは否定)、7月27日夜から28日未明(現地時間)にかけレバノン南部等にあるヒズボラ関係拠点を空爆した他、7月29日にイスラエルのネタニヤフ首相はさらなる対応を行なう旨表明した一方、イスラエルはヒズボラとの間での全面的な戦争を望んでいるわけはない旨7月29日にイスラエル当局者が明らかにした旨同日伝えられた。その後、イスラエル軍はレバノンの首都ベイルートを空爆し、ヒズボラの司令官であるファド・シュクル(Fuad Shukr)氏を殺害した旨7月30日夜(現地時間)に同軍が発表した(7月30日のイスラエルによるベイルートの空爆によりシュクル司令官が死亡した旨7月31日にヒズボラも声明を発表した)。また、ハマスの最高指導者ハニヤ氏がイランの首都テヘランで空爆により死亡した旨7月30日夜(米国東部時間)以降報じられた(ハマスもその旨7月31日に声明を発表した)が、7月31日にイランの最高指導者ハメネイ師がイスラエルに対し報復措置を実施する旨宣言した(イスラエルは攻撃実施等に関し声明等を発表していないが、7月31日にイスラエルのネタニヤフ首相は、壊滅的な打撃をハマスに対し与えた旨主張した)。さらに、ハニヤ氏殺害に伴いイスラエルに対し報復攻撃を実施するようイランのハメネイ師が指示した旨7月31日午後遅く(米国東部時間)にニューヨーク・タイムスが報じた。他方、イラクに駐留する米国を含む有志連合軍に対する脅威が高まったとして米国軍が自衛を目的とする攻撃を実施した(詳細は明らかになっていないが親イラン武装勢力関係ではないかと見る向きもある)旨7月30日夕方(米国東部時間)に報じられた。また、7月31日にハニヤ氏が殺害されたことに対し、イランは対イスラエル報復措置を24~48時間以内に実施する可能性がある旨8月4日に米国のブリンケン国務長官が明らかにしたと同日伝えられた。さらに、8月7日にイランのペゼシュキアン(Pezeshkian)大統領も、フランスのマクロン大統領に対しイスラエルに対する報復措置の実施を示唆した。ただ、イランはイスラエルに対する報復措置実施に対するイスラム諸国の理解と支持を得るためイスラム協力機構(OIC: Organization of Islamic Cooperation、57ヶ国及び地域が加盟しイスラム諸国等の連帯と政治的な協力を促進するとともに外的圧力等に抵抗し解放運動を支援する等を目的とする)の緊急会合を開催するよう要請、8月7日にはサウジアラビアの都市ジッダにおいて緊急外相級会合が開催され、ハニヤ氏暗殺はイスラエルに完全に責任があり、(イスラエルの行為は)国際法及び国連憲章から逸脱するとともにイランの主権を侵害した旨強く非難する声明を発表した(しかしながら、イランによるイスラエルへの報復措置に対するイスラム諸国等の理解や支持は明確ではなかった旨示唆される)。8月8日には、米国、エジプト及びカタールがガザ地区を巡る停戦及び人質解放等を巡る協議を8月15日より実施するため、ハマスに対し協議参加を要請する旨の声明を発表、イスラエルも当該会議に交渉団を派遣する旨同日発表した。ただ、7月31日にハニヤ氏が殺害されたことに対し、8月9日にイラン革命防衛隊のファダビ副司令官はイスラエルに対する報復措置を実施する旨表明した。また、8月10日午前(現地時間)にはイスラエル軍がガザ地区の学校を空爆した結果100人程度が死亡した旨伝えられた。8月15日から16日にかけては、カタールの首都ドーハにおいてガザ地区を巡る人質解放等を巡る協議(米国、エジプト及びカタールが仲介)が実施された(従来の停戦等に関する合意案のイスラエルによる履行を主張するハマスは代表団を派遣しなかったものの、イスラエルと仲介者との協議後、ハマスと仲介者が協議する方向である旨8月14日に明らかになっている)が、当該協議が「真剣でありかつ建設的であった」他、翌週末までにエジプトの首都カイロにおいて協議が再度実施される予定である旨、8月16日に仲介3ヶ国が共同声明を発表した。また、当該協議の動向につき様子を見るべく、イランはイスラエルに対する報復攻撃実施を延期する可能性がある旨同日報じられる。
このように、7月31日のハマスの最高指導者ハニヤ氏の殺害に対し、イランが対イスラエル報復措置を実施する方針である旨主張したが、8月15日よりガザ地区の停戦及び人質解放等を巡る協議が再開されたことにより、イランの報復措置実施懸念が一旦は後退する格好となっている。一方で、イスラエルによるガザ地区に対する攻撃は継続している他、これまでも同地区の停戦等を巡る協議は何度も不調に終わっており、今回の協議も紆余曲折を経る可能性がある他、イスラエルとハマス、及びイスラエルとヒズボラに加え、最近ではイスラエルとフーシ派武装勢力(ハマス、ヒズボラ、フーシ派武装勢力のいずれもイランが支援しているとされる)との間で攻撃が行なわれようになるなどの新たな展開が見られる。これまでのところ、ガザ地区を巡るイスラエルとハマスとの紛争は、中東を中心とするところの石油供給に直接大きな影響を及ぼしているわけでは必ずしもないものの、今後協議が妥結に至らないことにより、イスラエルとハマス等の武装勢力との間での戦闘が激化するとともに、再びイスラエルとイランとの対立が先鋭化するようであれば、ペルシャ湾を航行するタンカーのイラン等による拿捕、ホルムズ海峡封鎖の可能性を巡るイランによる挑発的な言動、及びフーシ派武装勢力による紅海等における船舶への攻撃、及びフーシ派武装勢力によるサウジアラビア(イスラエルとの外交関係改善を視野に入れつつあるとされる)の石油関連施設等を標的とした攻撃の試みといった事例が発生する結果、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶への可能性に対する懸念が市場で増大することにより、原油相場に上方圧力が加わることもありうるので、注意する必要があろう。
7月22日朝(現地時間)にウクライナが発射した無人機による攻撃に伴いロシアのクラスノダール地方にあるトゥアプセ製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレル)で火災(ロシアが迎撃した無人機の残骸が施設に落下したことによるものとされる)が発生、その後鎮火したと、当局が7月22日に明らかにするとともに、当該施設は損傷している旨7月22日に報じられたが、同製油所は依然操業中である旨ロシアのノバク副首相が7月23日に発言した。また、ウクライナが発射した無人機の攻撃によりロシアのクルスク州ポレバヤ(Polevaya)にある油槽所で火災が発生した旨7月28日に報じられる(その後鎮火した旨7月30日に伝えられる)。さらに、ウクライナが発射した無人機の攻撃によりロシアのクルスク州ヴォズィ(Vozy)にある油槽所で火災が発生した旨7月30日にウクライナが発表した。加えて、ロシア南西部ロストフ州カメンスキー(Kamensky)地区にある油槽所が、ウクライナが発射した無人機により攻撃され火災が発生した(その後鎮火)した旨8月3日に伝えられる。そして、8月6日朝(現地時間)以降は、ウクライナ軍兵士1,000人程度(その後数千人規模である旨ウクライナ治安当局者が明らかにしたと8月11日に報じられる)が国境を越えてロシア側に進軍し攻撃を実施した結果、ウクライナ軍がロシア西部クルスク(Kursk)州にある同国天然ガス輸送拠点スジャ(Sudzha)を制圧した旨の情報が流れた(なお、8月16日時点では同地点経由の欧州向けのロシア産天然ガス供給は正常通り行なわれていると報告されている他、ウクライナもロシアも天然ガス供給を停止させる意図はない旨示唆していると8月13日に伝えられる)。このようにウクライナによるロシアの製油所や油槽所等を含む石油関連インフラ等への攻撃は継続している他、ウクライナはロシアに越境して攻撃を実施中である。現時点では、ロシアからの石油製品供給等への影響は限定的なものと見られ、同国からの石油製品輸出等が大幅に減少した結果、大西洋圏を中心とする地域において石油需給の引き締まり感が発生する(ことにより石油製品及び原油価格が大幅に上昇する)ような事態には陥っていない。しかしながら、今後ウクライナがロシアの石油関連施設等に対する攻撃を停止する旨表明するようでなければ、ロシアの石油関連インフラ等への攻撃が継続することに伴い、大西洋圏を中心とする地域に向けたロシア産石油製品等の供給に一時的にせよ支障が発生しないとも限らないことから、石油需給が引き締まるとの懸念が市場で持続する結果、原油価格が支持されるか、もしくは、ウクライナによるロシアの製油所を含む石油関連インフラ等に対する攻撃がより頻度を増すなどするようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。
他方、国際的な監視の下で2024年後半に公正な大統領選挙を実施することで、2023年10月17日にベネズエラのマドゥロ政権と同政権に反対してきた野党勢力が合意したことを受け、米国バイデン政権がベネズエラの石油産業等に対する制裁を緩和した(半年間にわたる同国石油・天然ガス部門における取引を許可する他同国国営石油会社PDVSAの株式や社債の取引の禁止を解除することが含まれる)旨10月18日午後遅く(米国東部時間)に米国財務省が発表した。しかしながら、同年10月22日に野党側の大統領予備選挙が実施されマチャド(Machado)元国会議員が選出されたものの、10月30日にベネズエラ最高裁判所(マドゥロ大統領に近いとされる)が、この予備選挙で不正行為があったとしたうえで、結果の効力を停止する旨発表した。そして、2024年1月26日には同国最高裁判所が大統領選挙においてマチャド氏の出馬を禁止する旨決定した。これに対し、米国財務省はベネズエラ国営鉱山会社ミネルベン(Minerven)を含む企業との取引を2月13日までに停止するよう米国企業に求める他、米国の対ベネズエラ制裁緩和措置の期限となっている4月18日以降への当該緩和措置延長を行なわない結果、米国国内でのPDVSAとの取引を認めないと言った、事実上の制裁の再強化措置を発動した旨1月29日夜(米国東部時間)から1月30日にかけて報じられた。そして、7月28日に実施されたベネズエラ大統領選挙投票においては即日開票の結果、現職のマドゥロ大統領が当選した旨7月29日に同国選挙管理委員会(マドゥロ大統領に近いとされる)が発表した(7月28日以降選挙管理委員会はマドゥロ氏の得票率を51~52%、対立する野党統一候補のゴンザレス(Gonzalez)氏(元外交官でマチャド氏の代わりに4月19日に候補として擁立された)の得票率を43~44%としている)。しかしながら、投票所の出口調査による推定からゴンザレス氏が627万票、マドゥロ氏が275万票を獲得したと野党側は主張(選挙管理委員会はマドゥロ氏が515万票、ゴンザレス氏が445万票を獲得した旨明らかにしていた)、選挙結果への抗議行動が同国国内で行なわれている。また、8月1日には米国のブリンケン国務長官が、ゴンザレス氏が当選したことは明白である旨表明した他、7月30日にはペルー、8月2日にはアルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル及びコスタリカが、それぞれゴンザレス氏が当選したものと認識している旨示唆する一方、8月1日にブラジル、メキシコ及びコロンビア(これら3ヶ国はベネズエラと比較的友好的であるとされる)はベネズエラ大統領選挙投票の開票内容の詳細を明らかにするよう要請した(他方、ロシア、中国及びキューバはマドゥロ氏の当選に対し祝福の意を表した旨7月28日に伝えられる)。
このように、ベネズエラ大統領選挙結果を巡り同国は混迷を深めつつあり、マドゥロ大統領が強固な政権継続への意志を表明し続けるようであれば、米国がベネズエラに対し一層の制裁措置を発動する結果、対ベネズエラ石油産業投資が減少することを通じ、同国原油生産等(マドゥロ大統領が就任した2013年時点は日量250万バレルであった同国原油生産量は2023年9月には日量77万バレルにまで減少したが、2024年7月には同92万バレルと若干ではあるが回復していた)が再び低迷する結果、世界石油需給引き締まりに寄与すると言った展開となることもありうる。
リビアにおいては、地域住民による抗議行動により、同国最大級の油田とされるシャララ(Sharara)油田(平常時原油生産量日量30万バレル)の生産を漸進的に削減させ始める旨同国国営石油会社NOCが8月6日に発表した。そして、8月7日にはNOCがシャララ油田からの原油出荷に関し不可抗力条項の適用を宣言した。現時点では、シャララ油田のみが原油生産を停止しているが、同国では他の油田においても地域住民等の抗議活動により操業が停止することにより、より大規模に同国の原油生産に支障が発生する場合があるため、シャララ油田の動きが他の油田に波及するかどうかにつき監視していく必要があろう。
今後の石油市場を見るうえでの米国経済面での注目点は、同国経済情勢と金融当局の政策金利引き下げを巡る動向になろう。米国の物価上昇沈静化が進捗するとともに労働市場が堅調に推移しつつも軟化していくようであれば、2024年末までに政策金利引き下げを実施することが好ましいと考えるが、物価上昇沈静化の判断は今後入手される経済指標類等に基づくものになる旨米国連邦準備制度理事会(FRB)のクーグラー理事が明らかにしたと7月16日に報じられた。また、米国の物価上昇沈静化は進展しつつあると確信しつつあるものの、なお物価上昇沈静化の証拠となる経済指標類等が必要である旨米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁も明らかにしたと7月17日に伝えられる。さらに、米国政策金利引き下げ時期が接近しつつあるものの、なお政策金利引き下げ実施に対し確信を持つための経済指標類等を確認したい旨米国FRBのウォラー理事が発言したと7月17日に報じられる。加えて、米国物価上昇沈静化は進展しつつあるが、それが持続的かどうかを経済指標類等により確認したいとの認識を米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が示したと7月17日に伝えられる。そして、米国物価上昇沈静化が進展しつつある反面労働市場の行き過ぎた悪化を回避するため、そう遠くない時期に政策金利引き下げを実施する必要があるであろう旨7月18日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。また、最近の米国物価関連指標類は物価上昇沈静化が順調に進捗しつつあることを示唆しているものの、なお目標には到達しておらず、引き続き持続的に物価上昇が沈静化に向かうことを確信する必要がある旨7月18日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が発言したと同日夜(米国東部時間)に発言した。果たして、7月30~31日に実施された米国連邦公開市場委員会(FOMC)においては、政策金利の据え置きが決定したが、FOMC開催後の記者会見においては、条件が整うようであれば9月17~18日に開催される予定である次回FOMCにおいて政策金利引き下げを検討及び決定することもありうる旨FRBのパウエル議長が示唆した。そのような中、8月2日に米国労働省から発表された7月の同国雇用統計においては、失業率が4.3%と6月の4.1%から上昇した他市場の事前予想(4.1%)を上回ったことで、労働市場及び米国経済を巡る状況が急速に悪化しつつある(直近3ヶ月間の失業率の平均値が過去12ヶ月間で最も低い水準から0.5%を超えて上昇した場合、米国景気後退が接近しつつあることを示すとの認識を市場関係者は持っているが、直近3ヶ月間の同国失業率は4.13%と過去12ヶ月間の最低水準(3.7%)を0.43%上回るなど、0.5%の上昇に接近しつつあることを示していた)。ただ、この米国雇用統計の内容を受け、8月2日に同国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁は、1件だけの経済指標類に過剰反応する意向はない旨の見解を披露した他、米国の労働市場が正常な状態に復帰しつつあるのか、一層悪化しつつあるのか、判然としない旨米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにしたと8月3日に伝えられる。また、米国雇用統計は予想よりも同国労働市場が弱いことを示しているが、同国経済は安定しているとして、状況につき慎重に監視していく意向である旨米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が8月5日に明らかにした。さらに、米国労働市場の顕著な減速もしくは物価上昇の完全な沈静化に関しては確信を持てておらず、なお両者の状況を注視する必要がある旨8月8日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにした。他方、米国の物価上昇は沈静化に向かいつつあるものの、足元の物価上昇率は依然目標を上回っている他、労働市場は堅調であるとして、政策金利引き下げを行なう意向はない旨8月8日に米国カンザスシティー連邦準備銀行のシュミッド総裁が発言したと同日夕方(米国東部時間)に伝えられた。そして、今後の経済指標類等の内容次第ではあるものの、物価上昇が沈静化を続ける中で労働市場が堅調であれば、FOMCにおいて政策金利引き下げ開始を決定する可能性がある旨米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が明らかにしたと8月9日に報じられた他、堅調な労働市場の持続と物価上昇の加速を巡るリスクが認識されることにより、9月17~18日の次回FOMCにおいては政策金利引き下げを支持する意向はない旨8月10日にFRBのボウマン理事が示唆した。他方、足元のデータを考慮すると、物価上昇加速よりも労働市場の緩和を懸念している旨8月14日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。また、米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁は、8月13日時点では、この先入手される経済指標類の内容を待って政策金利引き下げ開始支持を決定したい旨発言していたが、8月15日には、9月17~18日に開催される次回FOMCにおいて0.25~0.50%の政策金利引き下げ実施が決定される可能性がある旨示唆したと伝えられた。さらに、米国金融当局による政策金利引き下げ時期が接近しつつある旨8月15日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が明らかにしている。そして、8月16日には、米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が、同国経済が過熱している兆しは見られないので、金融当局は必要以上に金融引き締め政策を継続しないようにする必要がある旨の認識を示した。
このように、最近米国物価上昇は沈静化しつつあり、次回FOMCにおいては政策金利引き下げが検討及び決定される可能性があるものの、かといって政策金利引き下げが妥当かどうかは確信を持ちきれず、今後発表される予定の経済指標類次第の部分がある、といった辺りが、現時点での米国金融当局関係者の考え方の主流となっているようである。そのような中で、同国の失業率が予想を上回って上昇した(また、8月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された7月の同国製造業景況感指数が46.8と6月の48.5から低下、2023年11月(この時は46.6)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(48.8)を下回った一方、同日発表された7月のISM製造業価格指数(50が物価上昇及び下落の分岐点)が52.9と6月の52.1から上昇するなど、物価の伸びの加速が示唆されていた)こと等により、米国の景気後退懸念が市場で広がったことから、8月1日から5日にかけては同国株式相場が急落する場面が見られた。これまでは、米国経済が減速しつつあることを同国経済指標類が示唆していれば、米国金融当局による政策金利引き下げの決定時期が接近する結果、米国経済が回復するとともに石油需要の伸びが加速するとの観測が市場で増大することから、米ドルが下落するとともに原油相場に上方圧力が加わりやすかったが、最近では、物価上昇が沈静化しつつある指標が明らかになりつつある一方、米国金融当局による政策金利引き下げに関する姿勢が慎重であるため、米国経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が市場で強まる結果、原油相場に下方圧力が加わる場面が散見されるようになってきている。今後も、米国の物価上昇が沈静化しつつあることを示唆する指標類が発表されれば、米国金融当局による政策金利引き下げ判断が接近するとの見方が市場で強まる結果、米ドルが下落するとともに原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性があるが、米国経済が減速しつつあることを示す指標類が発表された場合、併せて石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で強まる結果、原油相場に下方圧力が加わりやすいなどすることにより、少なくとも当面は、原油価格が乱高下しやすい状況となるものと考えられる。また、8月22~24日に米国ワイオミング州ジャクソンホールにおいて開催が予定されている米国カンザスシティー連邦準備銀行年次シンポジウムにおいてパウエルFRB議長が8月23日に講演を行なうことを含め、この先の米国金融当局関係者の発言内容等に、原油価格が反応する場面が見られることもありうる。
中国は、これまで同国経済減速を示唆する経済指標類等が発表されることにより同国石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で醸成されることが原油相場に下方圧力を加える反面、同国政府による景気支援策の実施により経済が回復するとともに石油需要の伸びが加速するとの期待が原油相場に上方圧力を加える格好となってきた。しかしながら、7月15日に中国国家統計局から発表された2024年4~6月期の同国国内総生産(GDP)は前年同期比4.7%の増加と2023年1~3月期(この時は同4.5%の増加)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(同5.1%の増加)を下回ったうえ、6月の同国鉱工業生産は前年同月比で5.3%の増加と市場の事前予想(同5.0%の増加)は上回ったものの5月の同5.6%の増加からは伸びが鈍化、6月の小売売上高は前年同月比2.0%の増加と2022年12月(この時は同1.8%の減少)以来の低水準となった他市場の事前予想(同3.3~3.4%の増加)を下回った。また、同日中国国家統計局から発表された6月の同国原油精製処理量は5,832万トン(推定日量1,423万バレル)と5月の同国原油精製処理量の6,052万トン(推定日量1,429万バレル)、及び前年同月(6,095万トン、同1,487万バレル)を下回った(国内製油所のメンテナンス作業実施と軟調な経済に伴う軽油を中心とする低調な石油需要による精製利幅の低下が背景にあると見る向きがある)。また、7月15~18日に開催された中国第20期中央委員会第3回総会(3中総会)において、国内産業近代化の推進、内需拡大、不動産及び債務リスクの抑制、財政及び金融部門の改革、といった方針ないしは目標等が示されたものの、具体的な政策についての言及がなされなかった。さらに、足元中国経済回復は十分に堅調なわけではなく、中国政府は効果的な景気刺激策を実施する必要があるものの、3中総会において表明された、同国経済回復を実現するための個々の目標や方針には複雑な矛盾が多く含まれているため、今後の経済回復への過程が紆余曲折を経る可能性がある旨、3中総会終了を受け7月19日に会見した中国共産党中央財経委員会弁公室の韓文秀副主任が示唆した。7月22日には中国人民銀行(中央銀行)が政策金利を0.1%引き下げる旨決定した他、7月25日に同国政府が3,000億元(414億ドル)相当の超長期国債を発行することにより得られた資金の半分程度(1,500億元)を、自動車や家電製品買い換えや設備更新に充当し中国経済回復を支援する方針である旨発表したが、個人消費等を刺激するには不十分であるとの見方が市場で発生した。さらに、7月25日に中国大手国有銀行5行(中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設銀行、中国銀行、及び交通銀行)が預金金利を0.05~0.20%程度引き下げる旨発表したものの、それによる消費刺激効果は限定的となる可能性があるとの観測が市場で発生した。そして、7月27日に中国国家統計局から発表された6月の同国工業企業利益は前年同月比3.6%の増加と5月の同0.7%の増加から延びが加速していた旨判明したことにより同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したものの、なおその水準は2021年の伸びを軒並み下回っていた。また、7月30日に中国共産党が中央政治局会議を開催し、低・中所得者の消費を引き上げるための刺激策を実施する意向を示したものの、具体的な政策が明らかにならなかったため、効果を疑問視する向きが市場で発生した。そのような中、7月31日に中国国家統計局から発表された7月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.4と6月の49.5から低下(市場の事前予想は49.3~49.4)、2024年2月(この時は49.1)以来の低水準に到達したうえ、同国非製造業PMIは50.2と6月の50.5から低下した他市場の事前予想(50.3)を下回った。加えて、8月1日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された7月の同国製造業PMIは49.8と6月の51.8から低下、2023年10月(この時は49.5)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(51.5)を下回った。なお、8月5日に財新伝媒から発表された7月の同国サービス業PMIは52.1と6月の51.2から上昇した他市場の事前予想(51.5)を上回っている。そして、8月7日に中国税関総署から発表された7月の同国貿易統計において、輸入が同7.2%の増加と6月の同2.3%の減少から増加に転じた他市場の事前予想(同3.2~3.5%増加)を上回ったものの、輸出が前年同月比7.0%の増加と前月の同8.6%の増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同9.5~9.7%の増加)を下回ったうえ、7月の同国原油輸入量が4,234万トン(推定日量1,000万バレル)と6月の4.645万トン(同1,133万バレル)から減少、2022年9月(この時は4,024万トン(同982万バレル))以来の低水準に到達した他前年同月(4,369万トン(同1,032万バレル)を下回る(原油価格が上昇した一方、国内石油需要が低迷したことにより、精製利幅が縮小したことが背景にあると指摘する向きがある)旨判明した。また、8月9日に中国国家統計局から発表された7月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.5%上昇と市場の事前予想(同0.3%の上昇)を上回ったものの、CPIの伸びは同月の雨天と高温により食品価格が上昇するなど、天候等の季節要因に伴うものと同統計局が説明するなどしていることから、堅調な国内需要を反映したものではないとの指摘がなされた他、食品とエネルギーを除くコアCPIは、7月は前年同月比0.4%の上昇と6月の同0.6%の上昇から伸びが鈍化、2024年1月(この時は同0.4%の上昇)以来の小規模な伸びにとどまった他、同国生産者物価指数(PPI)は前年同月比0.8%下落と市場の事前予想(同0.9%低下)程には下落しなかったものの、2022年10月以降継続して前年同月比で下落している旨判明した。また8月15日に中国国家統計局から発表された7月の同国小売売上高は前年同月比2.7%増加と6月の2.0%増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同2.6%増加)を上回ったものの、7月の同国鉱工業生産は前年同月比5.1%の増加と6月の同5.3%の増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同5.2%の増加)を下回ったうえ、7月の同国新築住宅販売価格は前月比で0.7%の下落と13ヶ月間連続前月比で下落、1~7月の同国不動産投資額は前年同期比10.2%の減少と1~6月の同10.1%の減少から減少幅が拡大、1~7月の同国固定資産投資が前年同期比3.6%の増加と市場の事前予想(同3.9%の増加)を下回った。加えて、8月15日に中国国家統計局から発表された7月の同国原油精製処理量は5,906万トン(推定日量1,395万バレル)と6月の5,832万トン(同1,423万バレル)を日量ベースで下回った他、前年同月の6,200万トン(同1,464万バレル)も下回り、日量ベースでは2022年10月(この時は5,862万トン(同1,384万バレル)以来の低水準に到達した。
このように、中国の経済指標類はどちらかというと同国経済が減速することを示しているものが散見されるようになっている他、同国石油需要の伸びが鈍化していることが示唆されるようになっている一方、同国の経済支援策の限界が露呈しつつあるように見受けられる。これまで、同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待(2024年1月時点では、2024年の世界石油需要増加の57%程度は中国によるものと見られていた)が原油相場を牽引すると考えられていた側面があったが、その前提が当てはまらなくなりつつある。このため、今後中国政府等から相当程度強力な景気刺激策が発表される等するようでなければ、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速に対する期待が増大しない結果、この面では原油相場の上昇を抑制する形で作用する可能性がある。
米国では、8月31日~9月2日の労働祭(レイバー・デー)の休日(9月2日)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了することにより、それ以降の秋場の石油不需要期(冬場の暖房シーズンは11月1日からであるので、市場関係者が暖房用石油需要期を意識するには時期尚早と言うことになる)とメンテナンス作業の実施を視野に入れつつ製油所が稼働を低下、原油精製処理量を減少させるとともに、原油購入を不活発にしてくることから、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されるとともに、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。
他方、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入している(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。特に8月後半から10月前半にかけては1年で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期となる。現時点までに明らかになっている一部機関による2024年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想によると、直近では若干下方修正する動きがあるものの、引き続き記録的な水準に近い頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する(表1参照)可能性がある旨指摘されている。また、これまでにハリケーン「ベリル(Beryl)」が発生し、観測史上最速でカテゴリー5のハリケーンへと発達するなどしたことから、市場関係者間では2024年の暴風雨シーズンが活発なものである可能性があることが一層意識されやすくなっている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2023年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量63万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合においてもそれなりの量の原油が生産されている(2023年は当該地域で日量186万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,293万バレル)の約14%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2023年の同地域の原油精製処理能力は日量988万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,825万バレル)の約54%を占めた)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況や進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。
OPECプラス産油国は8月1日に共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)を開催した。同委員会においては、イラク、カザフスタン及びロシアが減産の完全遵守を保証する意向であることを確認するとともに、これら3ヶ国が今後既存の減産措置に追加して減産を実施することにより、2024年1月からの目標を上回る生産を相殺させることを内容とする是正措置を提出した(7月24日にOPEC事務局がその旨発表していた、表2参照)ことを歓迎した。また、2024年6月2日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合において決定された、OPECプラス産油国間での減産計画(2024年1月1日から2024年6月30日にかけ実施中である自主的な追加減産を同水準で2024年9月末まで延長したうえ、以降毎月概ね一定量で以て縮小、2025年9月を以て終了する)につき、市場の状況によっては縮小を停止したり、もしくは減産を拡大したりすることもありうる旨の方針を示した。また、JMMCは引き続きOPECプラス産油国間での減産措置の遵守状況につき監視するとともに、市場の状況を緊密に検討するとした他、JMMCは追加の会合開催やOPECプラス産油国閣僚級会合の開催を要請する権限を有する旨改めて表明した。なお、次回JMMCは2024年10月2日に開催されるとした。
このように、8月1日に開催されたJMMCは6月2日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定された内容及びその後の一部OPECプラス産油国の動き(市場の状況によっては、自主的な減産の縮小を停止するか、減産を拡大する場合もありうる旨6月6日にサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相及びロシアのノバク副首相が示唆していた)に沿ったものとなるなど、事実上新たな動きは見られなかった。ただ、現時点で予定されている、2024年10月以降の自主的な減産措置の緩和が実施された場合、2025年は供給が需要を相当程度上回ることが想定される(表3参照)。このため、10月より実施される予定の減産措置の緩和の再調整をOPECプラス産油国が行なう必要性が生ずる可能性がある。その場合、10月2日に開催される次回のJMMCにおいて10月以降の減産措置の一部緩和の再調整を協議しても、減産参加各産油国の原油生産調整に対する準備が間に合わないものと見られることから、遅くとも9月上旬末頃までには世界石油市場の現状及び今後の見通しに基づき、臨時会合を開催する等することを通じ、減産措置の再調整を行なうと言った展開となりうるものと考えられる。
なお、2024年1~6月において目標を超過して原油を生産していたイラク、カザフスタン及びロシアについては、2024年12月にかけ既存の減産措置に追加して減産を実施することにより目標超過部分を相殺させる計画を今般明らかにした。ただ、1~6月のみならず、7月についてもイラク等一部OPECプラス産油国は原油生産目標を超過する状態を継続しており(表4参照)、今後もこれら産油国において減産遵守状況が芳しくない可能性もあることから、この面でOPECプラス産油国の減産遵守を巡る足並みの乱れが市場で意識されることにより、原油価格の上昇が抑制される場面が見られることもありうる。
全体としては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了に向かうとともに、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることが、原油相場に下方圧力を加える可能性がある。また、中国経済回復がもたつき気味となるとともに同国石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が市場で残ることが、原油価格を抑制する形で作用することもありうる。他方、米国金融当局による政策金利引き下げ期待や同国経済指標類の内容により原油相場に上方もしくは下方から圧力が加わる可能性があるものと考えられる。そのような中で、イスラエルとイランとの対立といった中東情勢、及びウクライナとロシアを巡る情勢を含む地政学的リスク要因、米国メキシコ湾周辺地域におけるハリケーン等暴風雨の来襲状況及びその予報、OPECプラス産油国の自主的な減産措置の縮小を巡る動向等の要因が原油相場に影響を与えうるものと見られる。
4. 世界天然ガス市場動向
米国では、2024年5月は前年同月比で温暖であった(図16参照)こともあり、暖房のための民生部門における天然ガス需要は前年同月を割り込むこととなった(図17参照)。ただ、6~7月はそもそも2023年及び2024年ともに暖房が必要なほど気温が低下しなかったこともあり同時期の同部門における天然ガス需要は概ね限られた範囲で変動した。また、2024年5~6月の米国の気温は前年同月を上回ったことから空調稼働のための電力需要がより喚起された一方、7月は前年同月を若干ながら下回ったことから空調稼働のための電力需要がより抑制された。加えて、米国の鉱工業生産は5~6月は前年同月を上回ったものの7月は下回ったことから、産業部門向け電力消費も5~6月は前年同月を上回る反面、7月は下回った。このため、発電部門における天然ガス需要も5~6月は前年同月を上回ったものの、7月は下回ることとなった。また、産業部門における天然ガス需要は5月が前年同月比でほぼ横這いであった一方、6~7月は若干ながら下回るなど、米国の鉱工業生産の動向に関わらず概して軟調に推移しており、同国産業部門において利用されるエネルギー源が天然ガスから電力へと移行しつつあることが示唆される。そして発電部門が牽引する格好となり、2024年5~6月の米国天然ガス需要は前年同月を上回る一方、7月は下回る結果となっている。
他方、2022年2月24日以降のロシアのウクライナへ事実上の侵攻開始により、西側諸国等による対ロシア制裁の発動とロシアによる報復措置の実施に伴う世界天然ガス需給引き締まり懸念が市場で高まったこともあり、米国でも2022年8月22日には天然ガス先物価格が100万Btu当たり9.680ドルの終値に到達した(この終値は2008年7月23日(この日の終値は同9.788ドル)以来の高水準であった)他、原油価格も2022年3月8日には1バレル当たり123.70ドルの終値に到達した(この終値は2008年8月1日(この日の終値は同125.10ドル)以来の高水準であった)こともあり、米国においてシェールガス及びシェールオイルを含む原油及び天然ガスの開発・生産を巡る採算性が相当程度改善したことにより、同国における石油及び天然ガス坑井掘削活動が活発化するとともに天然ガス坑井からの天然ガス生産及び石油坑井からの原油の生産に随伴して生産される天然ガスの生産が拡大した。しかしながら、その後原油価格及び天然ガス価格の上昇が沈静化した(米国天然ガス先物価格は2024年3月26日には100万Btu当たり1.575ドルと2020年6月26日(この日の終値は同1.495ドル)以来の低水準に到達した)こともあり、石油及び天然ガス開発・生産を巡る採算性が悪化するとともに石油及び天然ガス坑井掘削活動が減速気味となったことから、2024年5~7月の同国の天然ガス坑井からの天然ガス生産及び石油坑井からの原油生産に随伴して生産される天然ガス生産は伸びが鈍化するとともに前年同月を割り込む生産水準となった他、2024年から2025年にかけても同国の天然ガス生産はもたつき気味になるものと見られている(図18参照)(但し、採算性の悪化に対し石油会社等が開発・生産作業効率化及びコスト削減努力を行なっていることもあり、最近米国では新規坑井1坑当たりの天然ガス生産量は拡大する方向に向かいつつある)。
また、気温が上昇するにつれ空調稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が増加したメキシコへの米国からのパイプライン経由での天然ガス輸出も増加傾向となり(図19参照)、2024年5~7月の天然ガス輸出量(日量68億立方フィート)は2023年夏場の水準(同67~69億立方フィート)に接近する状態となった。また、冬場の暖房向けの民生部門を中心とする天然ガス需要期が終了したことによりアジア及び欧州における天然ガス価格が下落する中、夏場の空調稼働向けの電力供給のための発電部門での天然ガス需要期を控えていたり、東南アジアや南アジアでは気温が相当程度上昇したりした(後述)ことにより、発電部門でのLNG需要が喚起されたこともあり、2024年5月の米国からのLNG輸出は前月比で増加した(図20参照)ものの、その後はそのような購買意欲の増加等を受け天然ガス価格が上昇したことに伴う割高感の増大に加え、気温上昇に伴う、もしくは気温上昇に備えた天然ガス購入が一巡したことにより、欧州やアジアにおける天然ガス需要が抑制されるようになったこともあり、6月の米国からのLNG輸出は5月に比べ減少した。また、7月8日に米国テキサス州に上陸したハリケーン「ベリル(Beryl)」の来襲を控え、ハリケーンの進路上に位置していた米国フリーポート天然ガス液化施設(LNG生産能力年産1,500万トン)が7月7日に予防的に操業を停止した。そして、ハリケーン「ベリル」の来襲に伴い、同施設の第2液化施設(同500万トン)の冷却装置が損傷したことにより、その修理を実施したことから、同施設の完全操業再開は8月上旬になるものと7月25日に伝えられた。それでも、7月16日以降には同施設に向けた天然ガス流入が相当程度回復し始めたうえ、7月22日にはLNGを積載したタンカーが出港し始めている(7月19日に稼働を再開したとの指摘する向きもある)。7月27日には、同施設への天然ガス流入量が概ね正常の状態に復帰したように見受けられた。ただ、7月は同国からのLNG輸出量が6月と同水準となるとともに5月から推定日量14億立方フィート程度減少する格好となった。なお、アジア市場における夏場の気温上昇による空調稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要増加への対応のため、米国産LNGはこの時期主にアジア市場に向かう反面、北西部を中心として気温がそれほど上昇しなかった欧州市場への米国産LNG輸出は概して抑制気味に推移した。
そして、このように、米国外へのLNG輸出がもたついたものの、同国天然ガス生産が伸び悩み気味となった一方、米国内天然ガス需要及びメキシコへの天然ガス輸出はそれなりに堅調であったことから、米国天然ガス需給は相対的に引き締まる方向に向かい、5月10日時点では過去5年平均を31.1%上回っていた同国天然ガス在庫は8月9日時点においては過去5年平均を13.0%上回る状態へと、過去5年平均を上回る率を縮小した(図21参照)。また、8月9日の週の米国天然ガス在庫は前週比で60億立方フィートの減少と、夏場としては2016年(7月29日の前週比60億立方フィート減少)以来の天然ガス在庫減少が見られ、従来冬場の暖房のための民生部門での需要が大きな影響力を及ぼしていた天然ガス需要が、天然ガス火力発電能力の拡大に伴う夏場の空調稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要の影響をより大きく受けつつあると見る向きもある。そして、夏場の気温上昇による空調稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要の増加に伴う需給の引き締まり感が市場で意識されやすい中、6月下旬に向け米国の多くの地域で平年を上回って気温が上昇するとの予報が発表されたり、米国天然ガス在庫の増加が市場の事前予想を下回ったりしたことにより、同国天然ガス需要が喚起されるとともに天然ガス需給が一層引き締まるとの観測が市場で発生したことが、同国天然ガス相場に上方圧力を加えたことから、2024年5月1日には100万Btu当たり1.932ドルの終値であった同国天然ガス先物価格は上昇傾向となり、6月11日の米国天然ガス先物価格の終値は同3.129ドルと2024年1月12日(この日の終値は同3.313ドル)以来の高水準へと上昇した(図22参照)。しかしながら、その後は、上回る率を縮小しながらも同国天然ガス在庫が過去5年平均を上回り続ける中、市場では徐々に秋場の不需要期の到来とともに季節的な天然ガス需給緩和感が意識される様になりつつあったことが、米国天然ガス相場に下方圧力を加えた結果、同国天然ガス価格は概して下落傾向となり、米国天然ガス先物価格は8月16日には同2.123ドルの終値となった他、7月29日の終値は同1.907ドルと4月26日(この日の終値は同1.614ドル)以来の低水準に到達した。
欧州においては、5月においても一部地域で暖房のための民生部門における天然ガス需要は多少なりとも発生していたものの、気温の上昇(図23参照)とともにそのような需要は減退する方向に向かったものと見られる。他方、夏場に向け気温が上昇するとともに空調稼働のための電力需要が上向き、特に地中海沿岸地域では早い時期に気温が上昇したこともあり、空調稼働のための電力需要が喚起される格好となったものの、北西欧州では気温の上昇がそれほど持続しなかったため、この面で空調稼働のための電力需要がそれほど盛り上がらなかった他、欧州では原子力発電(欧州の原子力発電の中心であるフランスにおいて稼働中である原子力発電能力は8月16日時点で4,116万kWと2022年8月25日時点の2,537万kWから相当程度増加している)や再生可能エネルギー(風力及び太陽光)の発電が好調であった(2023年の欧州における再生可能エネルギー発電量は同地域の発電量の24%を占めるなど、同年の同地域の原子力(19%)及び天然ガス(17%)による発電量を上回る状況となっていた)こともあり、発電部門における天然ガス需要も抑制される格好となった(図24参照)。また、同地域の天然ガス価格高騰(オランダ天然ガス先物価格は2022年8月26日に100万Btu当たり推定99.071ドルの史上最高水準に到達していた)が沈静化したことにより、天然ガス価格の割安感が発生していることもあり、産業部門において天然ガス需要が喚起された側面もあったが、2024年6月6日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会において政策金利が0.25%引き下げられたものの、なお同金利は3.75%と高水準を維持したこともあり、欧州経済が軟調に推移したことが、同部門での天然ガス需要を抑制する形となった。このようなことから、欧州の天然ガス需要は総じて抑制的に推移した(2024年5~7月の欧州天然ガス需要は前年同月比では2~5%程度減少した他、2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻以前の2017~21年の5年平均を20~21%程度下回っているものと推定される)(図25及び26参照)。
他方、ノルウェーの油・ガス田や天然ガス処理施設等において時折予定外の操業停止が発生した結果、同国からの天然ガス供給が減少する場面が見られた。しかしながら、5~7月の同国から他の欧州諸国に向けた天然ガス供給は前年同月を上回るなど概ね堅調であったものと推定される。また、気温が相当程度上昇したこともあり空調稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が堅調であったトルコ、ギリシャ及びクロアチア等の東地中海諸国はロシアからパイプライン経由で供給される割安な価格の天然ガスの利用を優先させた。また、前述の通り発電部門においては原子力発電や再生可能エネルギー発電による電力供給が堅調であった。このような環境下で、欧州のLNG輸入は低調に推移する(図27参照)とともに、米国産LNGは喜望峰経由でアジア方面に輸送された(パナマ運河渇水の影響でアジア方面に輸送される米国産LNGの大半はパナマ運河経由ではなく喜望峰経由となっていた)。それでも、2024年5月17日時点では貯蔵能力の66.54%の充填率であったEUの天然ガス在庫は増加し続けた結果、8月16日時点では貯蔵能力に対し89.05%の充填率となっており(図28参照)、2024年5月17日時点では前年同日(64.70%)を上回っていた当該在庫は8月16日時点では前年同日(90.14%)を下回る状態となったものの、10月末までにEU域内の天然ガス在庫を貯蔵能力の90%充填するといった目標は達成できるものとの楽観的な見方が市場関係者間で発生しつつある。
そして、このように、欧州においては天然ガス需要が盛り上がりに欠ける反面、供給は比較的堅調であり、その結果在庫の積み上げも前年ほどではないにせよ進みつつある一方、アジアからのLNG購買活動の活発化や不活発化、もしくはアジアに向かうLNG供給上の問題発生等(後述)に伴い、その分だけ欧州向けのLNG供給、及び天然ガス需給バランスが連動して変化するとの見方が市場で発生することを通じ、欧州の天然ガス価格に上方もしくは下方の圧力を加えた結果、5~7月の欧州の天然ガスは上昇及び下落する格好となった。そのような中、5月22日にはオーストリアの石油会社OMVが国外の裁判所の判決(詳細は明らかになっていない)に伴いロシアの天然ガス会社ガスプロムからの天然ガス供給が削減されるかもしれない旨明らかにしたことや、6月3日にノルウェーのスライプネル(Sleipner)ガス田においてガス生産のためのパイプに亀裂が発見されたことにより、同ガス田関連施設経由で天然ガスを供給するニハムナ(Nyhamna)天然ガス処理施設の操業が停止した結果、最大で日量28億立方フィート程度の供給に支障が発生(6月7日に操業再開)したこと、6月12日にドイツのエネルギー会社ユニパー(Uniper)への天然ガス供給が行なわれなかったことに対する賠償金として130億ユーロ(140億ドル)超を支払う旨の命令をストックホルム商業会議所仲裁協会(SCC)が供給者であるロシアのガスプロムに対し下したことにより、この命令が厳密に実行された場合、現時点でガスプロムから天然ガスの供給を受けている他の欧州企業のガスプロム向け天然ガス購入代金支払いが差し押さえられる結果、ガスプロムへの代金支払いが事実上滞るとともに、ガスプロムが天然ガスの供給を停止する恐れがあると言った懸念が市場で強まったこと、夏場の気温上昇に伴う電力供給不足を回避するためにエジプトが7~9月において最低LNGタンカー17隻分のLNGを購入する旨6月14日に伝えられたこと等を含む、欧州向け天然ガス供給上の懸念等にも欧州の天然ガス価格が反応する場面が見られた。そして、5月17日には100万Btu当たり推定9.801ドルの終値であったオランダTTF天然ガス先物価格は、6月3日には同11.509ドルの終値へと上昇した。ただその後は上下に変動しながらもどちらかというと下落傾向となり、7月10日には同9.771ドルの終値となる場面も見られた。しかしながら、イスラエル軍がレバノンの首都ベイルートを空爆し、イスラム武装勢力ヒズボラの司令官であるファド・シュクル(Fuad Shukr)氏を殺害した旨7月30日夜(現地時間)に同軍が発表した他、イスラム武装勢力ハマスの最高指導者ハニヤ氏がイランの首都テヘランで空爆により死亡した旨7月30日夜(米国東部時間)以降報じられた(ハマスもその旨7月31日に声明を発表した)他、7月31日にイランの最高指導者ハメネイ師がイスラエルに対し報復措置を実施する旨宣言した(イスラエルは攻撃実施等に関し声明等を発表していないが、7月31日にイスラエルのネタニヤフ首相は、壊滅的な打撃をハマスに対し与えた旨主張した)。このため、イランとイスラエルとの対立の先鋭化に伴う両国の戦闘状態突入による、イスラエルの天然ガス生産(2023年時点で日量23億立方フィート)への影響や中東情勢の不安定化に伴う同地域からの天然ガス供給途絶懸念が市場で増大した。加えて、ウクライナがロシアに越境して攻撃を実施した結果、ウクライナ軍がロシア西部クルスク(Kursk)州にある同国天然ガス輸送拠点スジャ(Sudzha)を制圧した旨の情報が8月7日に流れたことにより、ロシアからのウクライナ経由欧州向け(オーストリアやスロバキア等が購入しているとされる)の天然ガス供給が停止するとの不安感が市場で発生した。これらの要因が欧州の天然ガス相場に上方圧力を加えた結果、オランダ天然ガス先物価格は上昇傾向となり、8月9日の終値は100万Btu当たり推定12.925ドルと2023年12月1日(この日の終値は100万Btu当たり推定13.874ドル)以来の高水準に到達した。しかしながら、その後は、イランが対イスラエル報復措置の実施を踏みとどまっていることや、8月15日にはパレスチナ自治区ガザ地区の停戦及び人質解放を巡る交渉が事実上再開されたことに加え、ロシアのスジャにおいては、4基ある天然ガス圧入装置のうちの1基が破壊されたとの指摘がなされているものの、8月16日時点においてもロシアからウクライナ経由の天然ガス供給は正常通り行なわれている(図29参照)ことから、中東及びロシア/ウクライナ情勢の不安定化による中東及びロシアからの天然ガス供給途絶懸念が市場で後退したことが、オランダ天然ガス先物価格のさらなる上昇を抑制する格好となっており、8月16日時点の同先物価格の終値は100万Btu当たり推定12.812ドルとなっている。
アジアにおいては、4月から6月にかけては、タイを初めとする東南アジアやインド等の南アジアにおいて気温が大幅に上昇した(図30及び31参照)ため、空調稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が盛り上がるとともに、これら諸国からのスポットLNG購買活動が活発化した(図32参照)(タイにおいては、国内天然ガス需要自体は増加傾向を示しているわけではないが、タイ及びミャンマーのガス田での天然ガス生産が減退してきていることもあり、国内及びミャンマーからのパイプライン経由での天然ガス供給が減少傾向となっていることから、供給不足分をLNG輸入拡大で補う構図となっている(図33参照))ことが、アジア市場におけるスポットLNG価格に上方圧力を加えることとなった。ただ、6月下旬以降はタイでは天然ガス在庫が積み上がるとともに気温が低下、インドにおいてもモンスーン(雨季)の到来とともに気温が低下したことにより、これら諸国からのLNG購入意欲が低下したことが、アジア市場のLNG価格に下方圧力を加えた(それでも、8月に入るとタイやインド等の地域では再び気温が上昇したこともあり、それら諸国等の需要家からのLNG購入活動が散発的に活発化した結果、アジア市場のLNG価格に上方圧力が加わる場面が見られたが、特にインドはLNG価格上昇に伴い、製油所においてはナフサや重油、産業部門においては液化石油ガス(LPG)をLNGの代替として利用するようになっているとの指摘もある)。他方、7月に入ってからは北東アジア諸国及び地域の一部で気温が上昇したことにより、空調稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が喚起されるとの観測が市場で発生したことが、アジア市場におけるLNG価格に上方圧力を加えた。さらに、7月8日に米国テキサス州にハリケーン「ベリル」が来襲したことに伴いフリーポートLNG施設が操業を停止したことにより、米国産LNG供給が減少するとの懸念が市場で広がった(前述)。また、4月30日より装置に不具合が発生したことにより操業を停止していた豪州ゴーゴン(Gorgon)天然ガス液化施設(操業者:シェブロン、LNG生産能力年産1,560万トン)の第2液化施設(同520万トン)が5月29日に操業を再開した一方、6月10日には同国のウィートストーン(Wheatstone)天然ガス液化施設(操業者:シェブロン、LNG生産能力年産900万トン)が沖合天然ガス施設における燃料ガス施設の改修を完了させるため操業を停止した(6月23日に操業を再開した旨シェブロンが発表した)。さらに、8月1日以降にはマレーシアLNG(操業者:マレーシアLNG)の一部(第7液化施設及び第8液化施設(LNG生産能力合計年産760万トン)のうち少なくとも1液化施設とされる)において熱交換器に不具合が発生したことにより、8月分のLNG出荷に1週間超の遅延が発生しつつある旨報じられた。このようなLNG供給関連施設における操業状態がアジア市場におけるLNG価格に影響を及ぼした側面があった。ただ、中国においては、国内経済が軟調であったことから産業部門における天然ガス需要が抑制される格好となった。また、同国の一部地域では降雨に伴う貯水量がそれなりに確保出来たことにより発電部門における天然ガス需要も堅調というわけではなかった。さらに、同国国内天然ガス生産及びロシア等からのパイプライン経由での天然ガス輸入も特段支障なく行なわれた。このようなことから、従来から価格に対し敏感であった中国の需要家はスポットLNG購入には慎重であり、同国の天然ガス輸入は概ね短期、中期及び長期契約に基づくものが中心となったものと考えられる(7月上旬時点で100万Btu当たり11.00~11.50ドルを下回るスポットLNG価格を需要家は希望している旨伝えられた)。また、日本でも産業部門での天然ガス需要がもたつき気味となった旨見る向きもあった(自動車製造業や半導体産業の活動の不活発化が一因となっていると指摘する向きもあった)。さらに韓国でも経済活動がもたつき気味となったことが天然ガス需要を抑制したものと見られる。このようなことから、夏場の気温上昇に伴う空調稼働のための電力需要増加に対応するために発電部門向けの天然ガス輸入はそれなりに行なわれた(図34参照)が、両国のスポットLNG購買活動が活発化する場面は余り見られなかった。他方、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの天然ガス給途絶懸念が市場で増大したことや、ウクライナ軍のロシアへの越境攻撃とロシアの天然ガス輸送拠点であるスジャの制圧の情報(前述)に伴う欧州天然ガス価格上昇が、欧州方面により多くのLNGが流入する反面アジア方面へのLNG流入が減少するとの観測を市場で発生させるとともにアジア市場での天然ガス価格に上方圧力を加えた。このような中、5月17日には100万Btu当たり11.160ドルの終値であった北東アジアLNG先物価格は、概して上昇傾向となり8月16日には14.515ドルの終値と、2023年12月15日(この日の終値は同15.197ドル)以来の高水準に到達した。ただ、欧州及びアジア両市場においては、実際に天然ガス供給が途絶しているわけではないこともあり、需給が極度に引き締まっているわけでもないことから、最近の両市場における天然ガス価格の上昇は実際の天然ガス需給状況というよりは市場関係者の供給途絶への懸念といった心理を反映している側面が強いと見る向きもある。
以上
(この報告は2024年8月19日時点のものです)