ページ番号1010194 更新日 令和6年8月30日
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概要
JOGMECのデジタル推進チームは、前身のデジタル推進グループ発足以来、国内外の事業者とともにデジタル技術の概念実証、実証試験の実施及び、人材育成を通してJOGMECの使命である「エネルギーの安定供給」に貢献しています。概念実証(Proof of Concept、PoC)は、近年発展の目覚ましいデジタル技術がエネルギー開発分野にも適用可能であることを示すための試行段階であり、JOGMECでは主に地質・物理探査及び、開発施設分野に対して実施されてきました。
本記事では、令和5年度に実施されたPoCである「反射法地震探査データの高解像度化検討」の内容と、講演のため参加したEAGE Digitalization 2024について紹介します。
1. 三次元反射法地震探査データ
三次元反射法地震探査データ(以下、「地震探査データ」)は、弾性波探査によって獲得したデータを可視化できるように処理した後、石油・天然ガスの賦存が期待される特定海域について、肉眼では直接確認できない地質構造などを明らかにするために利用されます。
図1に、弾性波探査の概念として、発震と受振の関係を示します。震源となる弾性波は、エアガンから圧縮空気を海中に一気に放出することで発生させ、地中を伝播する際に地層の硬さや密度の異なる境界面でその一部が透過または反射します。ストリーマー・ケーブルは、海中及び海底面を伝播した弾性波を圧力素子もしくは加速度計も用いて検出し、デジタルデータとして探鉱機に収録します。収録されたデータは、ノイズに埋もれた微弱信号の回復や反射点の補整、多重反射波の軽減、速度解析等のデータ処理が実施され、正確な地下構造の可視化を目指します。図2にデータ処理の一例としてバブルノイズ除去処理の前後の地震探査データの断面図を示します。ノイズ除去前後を比較すると、矢印で示すような信号が除去され、反射波が整理され視認性が向上していることが確認できます。図3に様々なデータ処理が行われた結果として得られる地震探査データを示します。ただしこれらのデータ処理は、扱うデータが大量かつ数十に及ぶデータ処理工程が存在ため多くの計算時間を要し、計算時間を短縮しようとすれば、より多くの計算資源(高速・高性能なコンピュータシステム)が必要になることが知られています。
2. 高解像度化検討
地震探査データの垂直分解能は、観測データの取得仕様やデータ処理の計算コストを加味しながら決定されますが、地下構造解釈には、ターゲット深度に応じた、細かい分解能が望まれています。上記の通り、一般的なデータ処理工程を通して高分解能の地震探査データを得るには従来行われるダウンサンプリング処理によって分解能を低下させたデータを用いると、プロジェクト、対象海域の規模及びその他要因に依存しますが、一般的に複数か月を要します。
この問題に対して、同一の低及び高解像度のシンセティックデータを用意し、それらデータ間の非線形相関関係をモデル化、ダウンサンプリング処理が適用された低解像度データを疑似的に高解像度化する手法が提案されています(Lin et al. 2023)。このような処理は、計算機の処理性能に依存し、本検討で取り扱ったデータ規模の処理時間が数時間から2日程度であったことを踏まえて、数日程度の処理時間となることが一般的です。計算コストは、処理時間と相関を持つことが知られているため、処理時間が短いほど減少します。しかし、これらの提案は、海上データへの適用を考慮すると深層学習モデルを最適化した母集団データと乖離があること、データ処理による相関関係をモデル化できないことが懸念されています。
そこでJOGMECのPoCは、同一海域で取得された観測データに対して、ダウンサンプリング処理を適用した後にデータ処理を行ったデータ(低解像度データ、入力データ)と、ダウンサンプリング処理を適用せずにデータ処理を行ったデータ(高解像度データ、ラベルデータ)のデータ組を用いて、垂直分解能の高解像度化ワークフローの提案と実装を行いました。本PoCでは、地震探査データの断面データを再構築することで、再構築データのイメージングが向上し、加えて、周波数帯域の最適化が確認されました。再構築データは入力データと比較して、高精細な地下構造の視認が可能になったこと及びデータに含まれる周波数特徴が増加したことで解釈の高度化に寄与します。図4に高解像度化ワークフローの適用結果、図5に周波数帯域の最適化について示します。
3. EAGE Digitalization 2024の参加
EAGE (European Association of Geoscientists and Engineers)は、1951年設立の地球物理学、地質学、探鉱学を中心とする地球科学及び、工学に寄与する団体です。EAGE Digitalization conference and exhibitionはEAGEのデジタル技術に関する分科会の位置づけであり、欧州で毎年開催されます。4th EAGE Digitalization conference and exhibition 2024はパリ(フランス共和国)にて、3月25日から27日にかけて開催され、400人以上が参加、19の展示、12のセッションが執り行われました。写真1に会場の風景、写真2に講演者の様子を示します。
4. デジタル技術動向調査
カンファレンスでは、AIや機械学習を適用したケーススタディやDX推進に係る指針等、地質・物理探査分野系を中心とした議論が交わされました。講演後の質疑において、データの品質や構成についての議論が多いことが印象的でした。最新のデジタル技術の活用についての講演のうち、特に興味深かったサウジアラビアAramco社によるMixed Reality技術を用いたコア観察技術と、コロンビア・サンタンデール工科大学による仮想的な地下モデル中の速度場及び圧力場の推定手法として物理法則を深層学習モデルの最適化に利用するPhysics-Informed Neural Networks(以下、「PINN」)を採用した事例をここに紹介します。
Mixed Reality技術を用いたコア観察技術の講演では、コア分析作業の精度向上と効率化を目的にヘッドセットを装着し、デジタルデータと複合現実を用いてコアを記載した事例が紹介されました。ヘッドセットを通じてコアを見ると、コアサンプルに重ね合わせるように、コアの取得深度、コアガンマ線検層、孔隙率及び浸透率等の基本情報や特定深度の岩石薄片画像が表示されます。また、コアの記載方法は一般に作業者ごとに異なることが多いですが、当システムによって統合的に管理されます。図6に利用例を示します。
次に速度場及び圧力場の推定手法としてPINNを採用した事例は、仮想的な三次元地下モデルに対して、特定時間後の弾性波を推定する手法を示しました。従来の深層学習モデル最適化手法は、前方計算と逆伝播計算により行われていることから、パラメータの最適化の根拠が不明確でした。本手法によるパラメータ最適化手法は、物理法則を加味することにより最適化の根拠及び、解の空間分布を制限することが可能です。AIによる出力結果は、内部構造がブラックボックスであるため、出力結果に懐疑的な意見もあります。PINNは非線形相関関係のモデル化(ブラックボックスな構造)と物理情報を加味すること(説明可能な構造)の両側面を持ち合わせるため、内部構造の説明性が向上します。図7にアーキテクチャを示します。
5. おわりに
本記事で紹介した地震探査データの高解像度化は、エネルギー開発分野における探鉱現場での地質解釈の効率化及び高度化を達成するための1つの手段であり、シンセティックデータでない海上データのみから高解像度化の実現に向けた検証が可能であるという発想から検討を始めました。私たちの身の周りのデータは、十数年前と比較して、デジタル技術の発達により爆発的に増加しており、品質の向上及び獲得可能なデータの幅が拡大されたことで、データドリブンな社会の実現を可能にしつつ、エネルギー開発分野に変化を与え続けていくことが考えられます。また機械学習やデータ活用に関する技術開発は、エネルギー開発分野の国際学会においても一つの分野として確立され、世界中の技術者が注目していることが伺えます。
JOGMECデジタル推進チームは、引き続きデジタル技術を活用した「エネルギー安定供給」に資する取り組みを実施していきます。
謝辞
本稿は、経済産業省の委託事業である国内石油・天然ガス基礎調査の成果を含んでおります。執筆を許可頂いた経済産業省資源エネルギー庁を含め関係する皆様に感謝申し上げます。
参考文献
[1] JOGMEC物理探査船グループ. アナリシス 三次元物理探査船「資源」による調査活動についての報告. 石油・天然ガスレビュー / 石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部 編. 48(5): 2014.9, p.69-86.
[2] 蛯谷亮, 石鍋祥平, 小西祐作, 池俊宏. (2024). 海上地震探査データの高解像度化に向けた深層学習モデルの適用. 公益社団法人物理探査学会学術講演会講演論文集Proceedings of the SEGJ Conference (Vol. 150, pp. 83-26). 物理探査学会.
[3] Oogorah, K., Al Ibrahim, M. A., & Mezghani, M. M. (2024). Mixed Reality in Geology: Supercharging Geological Core Interpretation. In Fourth EAGE Digitalization Conference & Exhibition (Vol. 2024, No. 1, pp. 1-5). European Association of Geoscientists & Engineers.
[4] López, J. B., Silva, A. R., & Abreo, S. (2024). Physics-Informed Neural Network for the Seismic Velocity Problem Using Neural Tangent Kernels. In Fourth EAGE Digitalization Conference & Exhibition (Vol. 2024, No. 1, pp. 1-5). European Association of Geoscientists & Engineers.
[5] Ebitani, A., & Ishinabe, S. (2024). Fully Convolutional Network for Resolution Enhancement with Non-Synthetic Seismic Data. In Fourth EAGE Digitalization Conference & Exhibition (Vol. 2024, No. 1, pp. 1-5). European Association of Geoscientists & Engineers.
以上
(この報告は2024年8月30日時点のものです)