ページ番号1010195 更新日 令和6年9月2日
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概要
インドネシアではCCS社会実装に向けた動きが活発で、現地駐在員として盛り上がりを感じている。ただ、政府による規則整備や企業による投資に向けた動きの情報が活発にアップデートされる一方で、温室効果ガス排出に対するペナルティや、排出抑制に対する報酬はまだ具体化されておらず、経済性に関わる因子の詳細が明確にならない状態が続いている。本稿ではインドネシアでのCCS情勢に関心を持ち始めた方を対象に、最近の動きに加え、今後整備されていく可能性があるCCSの経済性に関わる要因等に触れ、これまで知られてきた石油・ガス産業における課題等と合わせてレビューし、インドネシアという事業環境を紹介する。
第1章 はじめに
筆者がインドネシア・ジャカルタ事務所に着任してから1年が過ぎた。石油・天然ガス開発・CCS・水素等のエネルギーに関する事業・調査に携わっており、日系企業やインドネシア政府・企業との交流が多いが、その中でも話題は、CCS/CCUSに関するものが大半を占める。
JOGMECはインドネシアにおいて年産1,140万トンの製造能力を持つタングーLNGプロジェクト、2030年ごろの生産開始を目指す年産950万トンのアバディLNGプロジェクトに出資しており、それ以前も含め、石油・天然ガス開発に関してはインドネシアと長年関わってきた。一方、石油・天然ガスの新規案件に関する話題は、近年の世界的なエネルギートランジションを反映し、少なくなっているようだ。CCS/CCUSに関しては、多くの日系企業、外国企業が事業化に関心を持っているが、インドネシアでは、まだCCS事業をビジネスとして行える環境が十分に整備されているとは言えず、それが整うことを前提に各社が準備を進めている。
インドネシア政府が目標として掲げる2060年までのカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)に向けた動きとして、排出量取引制度および炭素税の導入等があるが、排出者がCCSに取り組む経済的動機は、インドネシアの排出者にとってはまだ確立していないと言える。2023年9月に排出権取引市場(IDX Carbon)が開業したが、排出枠の上限が設定され、事業者に排出枠が設定されているのは発電部門の石炭火力発電事業のみで、かつ現時点ではオフセット義務も無いため、取引数は限定的である。また、エネルギー鉱物資源省は石油・ガス上流事業由来のCO2によるCCSについては、炭素クレジット化のための制度を検討中であるものの、まだ導入されていない。炭素税については、インドネシアでは適用対象は石炭火力発電に限られ、税率も世界最低レベルの1キログラム当たり30IDR(1トン当たり30,000IDR≒約2USD。なお2024年8月時点で世界最高の税率はウルグアイの1トンあたり167USD)であり、その導入時期は2025年と言われている。CCS事業に対する政府からのインセンティブも、まだ具体化していない。2024年1月30日に公布された「炭素回収・貯留に関するインドネシア大統領令2024年第14号」において、CCS事業のコントラクターは、「石油・天然ガス上流事業活動の税務上の取り扱いに関する法令の規程に従った税務上のインセンティブ、および法令の規程に従った税務上以外のインセンティブが与えられる」とされており、また、探査許可・炭素輸送許可・貯留事業許可の所持者は「税務上・その他のインセンティブが与えられる」こととなっているが、それらの具体的な内容はまだ公表されていない。その他、CCS事業に際しては、貯留役務に対する報酬(貯留手数料)により収益化できることとされており、その貯留手数料に対しては、政府への納付義務のある税外国家収入(ロイヤルティ)が課される。貯留手数料・ロイヤルティに関する詳細はまだわかっていない。以上のように、インドネシアでは、企業にとってCCS実施を判断するにあたり重要となる経済性に関わる要素が明らかでない状態が続いている。
そんな中、インドネシアで準備が進んでいるCCS/CCUSは調査段階のものを含め、インドネシア政府は現在15件としている。最も早く商業スケールでのCCS/CCUSへの投資が決定されようとしているのはタングーLNG事業におけるCCUSで、EGR(Enhanced Gas Recovery; ガス増産回収)効果が期待できるボルワタ貯留層にCO2圧入を2030年までに開始予定と公表している。その最終投資決定(FID)は2024年内に行われることが見込まれる。
当地で企業の方と話す中で、「インドネシアでCCSに取り組む政府・各社は本気なのか?」と話題になることがある。上記の通り経済性評価が十分にできない環境で、各社がCCS/CCUS事業化に向けて調査に動き、投資を伴う計画を立てている。また、数字で示しづらいリスクとして、インドネシア政府に対し、突然の政策変更により外国企業が翻弄される、資源の自国優先主義が強い、政策の決定・実施に時間がかかる等の印象を持っている方もあるようだ。さらにインドネシアでは、2024年10月に大統領交代が予定されているうえ、現在の首都ジャカルタにおける人口集中、地下水の汲み上げに伴う地盤沈下、大気汚染等を理由として、東カリマンタンのヌサンタラに新首都を作る計画が進んでおり、その意味でも不確実性がある。
本稿は、インドネシアでのCCS/CCUS情勢に最近関心を持ち始めた方を対象に、その社会実装に向けた動向(2024年8月時点)に加え、今後整う可能性があるCCSに関する経済的要因(特に収益)等に触れ、従来知られてきた石油・ガス産業における課題等を振り返りながら、インドネシアの事業環境を紹介する。
第2章 インドネシアのCCS/CCUS事業社会実装に向けた動きの現状
2-1 インドネシアのCCS/CCUS規則整備の現況
CCS/CCUS社会実装に向けた動きとして、規則の整備は重要である。回収したCO2(特に当該の油ガス層由来ではない場合)を貯留する目的で、地下の減退・枯渇油ガス層、あるいは帯水層に圧入する行為は、産油・産ガス国においても従来の法律で認められていない場合が多いため、当該国政府はそれに対応できる法規制の整備が必要で、事業者は政府が認める方法に従って実施することが求められる。
インドネシアのCCS/CCUSの制度整備は、東南アジアの中で進んでいると言われる。2023年3月に「炭素回収・貯留の実施および石油・天然ガス上流事業活動における炭素回収・利用・貯留に関するエネルギー鉱物資源大臣令2023年第2号」が成立した。これにより、石油・ガス開発の操業に関する契約(PSC(生産物分与方式の契約)等)において契約鉱区の石油・ガス操業由来CO2でのCCS/CCUSおよび他産業由来CO2でのCCUSを開発計画に含めることが可能となった。一方、石油・ガス開発の操業に関する契約の鉱区外でのCCS/CCUSや、他産業由来CO2でのCCSはこの大臣令では対象とされていない。2024年1月には、インドネシアの上流事業管轄機関であるSKK Migasが、この大臣令に準じたワーキングガイドライン[1]を公表した。
その後、同じく2024年1月に「炭素回収・貯留に関するインドネシア大統領令2024年第14号」(以下、CCS大統領令2024年第14号)が公布された。CCS大統領令2024年第14号では、石油・ガス開発の操業に関する契約の鉱区外に位置する圧入対象地域(CCS鉱区、減退貯留層や帯水層)でのCCSや、石油・ガス開発事業以外の産業から排出されたCO2でのCCS、CO2貯留許可区域におけるCCSのための探査許可、貯留事業許可、炭素輸送許可、CCS探査許可保有者による政府へのCCS開発計画提案、収益化のための貯留手数料、政府へのロイヤルティ、探査許可/ CO2輸送許可/貯留事業許可所持者に対するインセンティブ、国境を越えたCO2輸送等について規定されている。貯留手数料の具体的な金額については現時点で明らかになっていないが、貯留層規模や深度、各種コスト等を勘案して決められると言われている。
この大統領令の内容のうち、日本企業等から関心を引いている内容としては、国境を越えたCO2輸送に関連し、CO2貯留総容積の最大30%を国外由来CO2の貯留に割り当てることが可能であること(70%は国内由来のCO2貯留向けに確保する)、ただし割り当て調整のためのタスクフォースを設置して大統領承認により例外が認められる場合があること、国外由来CO2貯留は、インドネシアへの投資を行う、または投資に関連する炭素排出者のみが行うことができること、越境輸送されたCO2がインドネシアの関税領域で漏れた場合にインドネシアの排出インベントリにカウントされないことなどが挙げられる。
さらに、エネルギー鉱物資源省は、この大統領令に準じた新たな大臣令を作成中で、2024年9月までの施行を目指して準備が進んでいるそうである。それを含め、今後、CCS大統領令2024年第14号によって可能とされた制度の実行のための、より具体的な規定がなされていくと見込まれる。
これらのことからインドネシアは、東南アジアでもCCS/CCUS事業化に向けた動きが速いと認識されているが、東南アジア内ではインドネシアの他にも、マレーシア、タイ、ベトナムの3国もCCS/CCUS事業化に向けた動きが見られる(「文末参考1:東南アジア各国のCCS/CCUS法整備の進捗」)。特にマレーシアにおいては、税制優遇の制度や日本との間のCO2越境輸送に向けた協議等、インドネシアよりも進展していると取れる点があるが、一方、CCSに特化した法規制が既になされているのはサラワク州のみで、その他の州は、この点においてはインドネシアより遅れを取っている。
2-2 インドネシアで先行する事業例
インドネシアで準備が進んでいるCCS/CCUSの事業や調査について、様々な段階のものを含め、エネルギー鉱物資源省は現在15件と紹介している(図1)。そのうち8件に日本企業が関与(図1)していることから、日本におけるインドネシアCCS/CCUSの注目度の高さ、インドネシアCCS/CCUSにおける日本の存在感の大きさが窺い知れる。
インドネシアで現状特に進んでいる、あるいは早期の商業圧入開始が見込まれる事業の例を「文末参考2:インドネシアで先行するCCS/CCUS事業」に示す。
2-3 CO2越境輸送先としてのインドネシア
国外から国境を越えてCO2を輸送する場合には、当該両国内の法規制上問題が無いこと、および、その二国間での合意に基づくルールに従うことが必要となる。特に、CO2越境輸送に関わる規則としては、ロンドン議定書改正第6条がある。1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関するロンドン条約の1996年議定書第6条では、締約国が投棄又は海洋における焼却のために廃棄物その他の物を他の国に輸出することを許可してはならないとされており、その中でもCO2の国境を越えた輸送を可能にするため、この第6条が2009年に改正された。二国間のCO2越境輸送を可能とするには、ロンドン議定書批准国は、まず改正6条の受諾をし、暫定的適用に関する宣言を国際海事機関(IMO)に寄託することとされている。日本では、このロンドン議定書改正6条の受託について、2024年5月に国会で承認された。いずれかの国がこれを批准している場合には、批准国の責任で、相手国がロンドン議定書と同等の規則に従っていることを確認することが求められている(両国とも批准していない場合(例:インドネシア・シンガポール間)でも、国際的な評判に関わることから、同等以上の安全性を確保の上、ルールが作られるケースも少なくないと推測される)。
またCO2越境輸送に関し、CCS大統領令2024年第14号では、輸送中のインドネシア国内での漏洩量は、インドネシアの温室効果ガスインベントリに排出量として加算されないこととされている。これは、パリ協定の締約国(日本、インドネシアも含まれる)が従うべき、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2006年に出したガイドライン[2]から外れることが懸念されるが、一方、同大統領令では、CCSのための炭素の越境輸送を促進するために締結する二国間協力協定は、国際的な規則に留意して行われることともされている。越境輸送の協議に関しては、インドネシア政府とシンガポール政府が、CO2越境輸送CCSに向けた意向表明書(Letter of Intent;LOI)を締結したことが2024年2月に発表されている。その進展や、インドネシアの他、日本からのCO2輸出先候補と言われるマレーシア、オーストラリア、アメリカ(アラスカ)等との二国間協定協議の行方も注目される。
CO2貯留ポテンシャルについては、インドネシアは高いと認識されている。2024年2月、エネルギー鉱物資源省石油ガス技術研究開発所(LEMIGAS)は、石油・ガス堆積盆全体の塩水帯水層では5,720億トンの、減退油ガス貯留層では48.5億トンのCO2を貯留できる可能性があると発表した[3]。ただし、貯留ポテンシャルについては参照先資料によりその推定量が大きく異なることに注意が必要で、2023年7月のIPA Convexにおいては同省が紹介したLEMIGAS等による過去調査での貯留可能量として、帯水層97億トン、減退・枯渇油ガス層25億トンという数字が紹介された(同発表では、他のソースの情報として、ExxonMobil、Rystad Energyのスタディでそれぞれ、帯水層に800億トン程度、油ガス層と帯水層に合わせて4000億トン以上、との評価結果があることも併せて紹介された)。
同大統領令では、2-1に記載の通り、海外由来CO2の貯留は原則、貯留可能量の30%までと定められているため、貯留可能量を見誤るとCCS事業がスムーズに進められない恐れもある。一般にCCS/CCUS事業化に向けた鉱区ごとの地層評価に際しては、広域評価と比べ、より多くのデータ(坑井位置での物理検層データや岩石サンプルの情報等)も利用することになるが、慎重な評価が求められる。
2-4 CCS/CCUSの経済的要因
企業がCCS/CCUSに投資し事業を継続していくためには、ビジネスモデルを確立し、経済性を確保することも重要となる。CCS/CCUS事業における経済的要因について、貯留者・排出者それぞれの立場に関わるポイントを確認する。また、その経済性の助けとなる可能性のある日本政府による支援の一部について、「文末参考3:インドネシアでのCCS事業に適用され得る日本政府の支援(JOGMECによる支援も含む)」にて紹介している。この他、CO2回収等の設備やシステム、CO2輸送役務等を提供する立場でCCS/CCUSに関与する企業もあるが、本稿では対象外とする。
2-4-1 貯留者にとってのCCSと経済的要因
インドネシアで貯留事業を行う事業者にとって、CCSの経済的動機として、排出者がオペレーターに支払うこととなっている貯留手数料(CCS大統領令2024年第14号)がある。貯留手数料に関する詳細はまだ明らかになっていないが、政府関係者の話からは、貯留層規模や深度、各種コスト等を勘案して決められる見込みとのこと。また、インドネシアは、国外からもCO2を受け入れるCCSハブ事業の構想を持っているが、その国外由来CO2に対しても徴収する貯留手数料を収益として、貯留サービスを行うものと思われる。さらに以下2-4-2において記すように、自社の油ガス田操業に伴うCO2を貯留する場合、将来的に制度が整えば、生産物である油・ガスの生産過程がクリーンになること等により高付加価値化し、収益をもたらす可能性がある。
また、石油・ガス開発の操業に関する契約において実施するケースは、大半を占める生産物分与契約(PSC)の例だと、油ガス田としての操業に必要な作業として、コスト回収(必要となった費用の分だけ生産物のインドネシア政府との間の分与が優先的に回収できるもの)が認められれば、CCS/CCUSの実施者(石油・ガス開発事業への参画者)にとっての経済性への助けとなる。圧入CO2による油・ガスの増進回収(EOR、EGR)を行うCCUSの場合には、それらの増産による収益が期待できる。ただし、EOR、EGRの場合、化石燃料の延命に繋がり、エネルギートランジションに貢献しない事業とみなされるケース(例:アジア開発銀行のエネルギーポリシー2021年9月版には、発電所、LNG輸入設備、産業のCCUS技術を支援するものの、EORという文脈でのCCUSには支援(finance)しないことが明記されている[4])もある点には注意が必要である。
逆に貯留者にとっての主な経済的難点としては設備コスト(坑井掘削費、圧入設備(バッファタンク、圧入ポンプ等)ガスコンプレッサー)、モニタリングコスト等が挙げられる。例として、タングープロジェクト、アバディプロジェクトのCO2圧入に関わる投資額は、それぞれ9.48億USD、11億USDとインドネシアエネルギー鉱物資源省は発表している。
2-4-2 排出者にとってのCCSと経済的要因
石油・天然ガス開発事業者、火力発電所、生産工場等のGHG排出者(エミッター)は、社会からのニーズを受けて、排出量の削減を図ろうとしており、その1つの方法にCCSがある。石油・天然ガス開発事業者が自社操業フィールドで貯留を行う場合を除き、排出者である事業者は貯留地にCO2を輸送し、貯留事業者に貯留手数料を支払って(その一部はロイヤルティとしてインドネシア政府へ渡る)、貯留サービスを委ねることとなる。また、インドネシアの貯留地を利用する場合には、CCS大統領令2024年第14号により、海外由来CO2の貯留は原則30%までと定められていることにも注意が必要である。ただし、大統領令では、配分の調整に関連する「タスクフォース」が結成され、「タスクフォース」の議長が大統領の承認を得た場合には配分の調整が可能とされている。また、この数字は試験的なもので、永続的に維持されるとは限らないと見ている関係者もいる。
排出者にとってのCCSの経済的動機は、インドネシアではまだ確立していないと言える。2023年9月に排出権取引市場(IDXCarbon)が開業したが、排出量取引の対象とされるのは石炭火力発電事業のみで、かつ現時点ではオフセット義務も導入前のため、取引数は限定的である(2023年9月26日に開設して以来、2024年7月19日までの取引実績は16社による計68件、取引量609,005トン、取引額368億IDR≒約3.6億円(0.98円/100IDR))[5]。また、エネルギー鉱物資源省は石油・ガス上流事業由来のCO2によるCCS/CCUSについては、炭素クレジット化のための制度を検討していると言われているものの、まだ導入されていない。炭素税についても導入前で、当初2022年4月1日からとされていたが何度も延期され、現在は2025年の開始が想定されている(2024年7月に、炭素税に関する規定の準備が完了したとの報道もあった)。炭素税は1キログラム当たり30IDR(1トン当たり30,000IDR≒約2USD。なお2024年時点で世界最高の税率はウルグアイの1トンあたり167USDである)を最低税率として温室効果ガス(GHG)排出に対して課税する計画であるが、これは世界最低レベルで、適用対象は第1段階で石炭火力発電所、第2段階で自動車燃料に限られるようだ[6]。
将来的に、上記の排出量取引制度・炭素税等が本格的に導入された場合にCCSは、排出者の経済的なペナルティの回避や低減の手段となる可能性がある。また、EUで本格適用が2026年に予定される炭素国境調整メカニズム(CBAM)制度等への対応として、インドネシア産製品の製造過程における低炭素化に貢献することで、CCSの価値が向上することも考えられる。ただ、CCSはコストがかかるもので、ペナルティばかりでなくインセンティブも無いと持続性において厳しくなる恐れもありそうだ。CO2排出削減と、市民の負担を抑えたCCSの社会実装には、政策面での工夫も重要となると考えられる。
第3章 インドネシアでのCCS・CCUS事業化に関する環境のレビュー
現状、インドネシアで進められているCCS/CCUS事業の多くに日系企業が関与しており(2-2参照)、期待の大きさが伺える。タングープロジェクト、アバディプロジェクトのような石油・ガス開発の操業に関する契約において行う油・ガス鉱区へのCO2圧入を除き、鉱区権益を持たない中でCCS/CCUS事業の実現可能性調査に着手している企業の動きは、入札の前に政府の公認で調査を始めておき、直接入札を通じ優先的にライセンス取得や、石油・ガス開発の操業に関する契約の権益再分配による参入を図るものなどがありそうだ。
第2章に記した通り、インドネシアは、他の東南アジア各国よりも法整備が進んでいるとはいえ、まだ経済性評価が十分にできない環境で、CCS/CCUS事業化を前提に各社が活発に動き、大きな投資判断を間近に行おうとしているものもある。その中でも、現地で色々な方と話をする中で、インドネシア政府に対しては、突然の政策変更により外国企業が翻弄される、資源の自国優先主義が強い、計画等の承認を得るまでに時間を要する等のリスクを懸念する声を聞くことも多かった。第3章では、様々な前提に基づき各社が準備に取り組んでいるCCS/CCUS事業の社会実装に向けた環境と、よく想定されるリスクについてレビューする。
3-1 資源ナショナリズム
インドネシアの資源ナショナリズム(自国優先主義)がCCS/CCUSによりインドネシアへの参入を考える外国政府・企業にとってリスクとして捉えられる場合があるようだ。1945年に制定されたインドネシア憲法第33条第3項に、「土地、水およびこれらの中に含まれる富は、国家がこれを管理し、国民を最大限繁栄させるためにこれを利用する」とある。インドネシアの土地も、地下資源も自国民のために最大限利用することが定められているため、資源やCCS事業向けの貯留地(ストレージ)の自国優先は政策として合理的と思われる。その意味で外国政府・企業はインドネシア国内からの需要が供給を上回ることがないか、動向を注視することは重要である。
いくつかの有力な資源はインドネシアからの輸出禁止を経験している。2020年1月にニッケル鉱石、同年6月にボーキサイト鉱石の輸出を禁止し、輸出品目の高付加価値化を図り、未加工では輸出させない政策を取っている。2022年1月にはインドネシア国内石炭火力発電所への供給量確保を目的に、政府が石炭の輸出禁止を開始した。対インドネシアの石炭輸入額が全品目の輸入額の13.7%(21億1,700万ドル)を占めた日本も、同月、在インドネシア大使館がエネルギー鉱物資源省宛てに輸出禁止措置の撤廃を求める要望書を提出するなどして[7]、1か月後には輸出が再開されたが、多くの外国政府・企業が翻弄された。天然ガスに関しても、2023年5月にエネルギー鉱物資源省アリフィン大臣が今後新たなLNG輸出計画の契約は禁止する旨発言し、翌日に否定したことが報道された。また、同年11月には、国家エネルギー政策の立案および策定を行うインドネシア国家エネルギー評議会のジョコ委員長が、2036年には天然ガスの生産量の全てを国内向けに供給すると発表した[8]。これらの発言を深刻に捉えている関係者の声はあまり聞こえてこないが、インドネシアは原油に続き天然ガスにおいても、やがて輸出量よりも輸入量の方が多い「純輸入国」になると予測されていることから、現実性が無いとは言い切れないだろう。なお、2024年10月からのプラボウォ次期大統領もジョコ現大統領の政策を概ね継承するとの見方が強く、資源ナショナリズムのスタンスは続くのではないかと言われている。
上記のようなリスクは、人により様々な捉え方をされている。自国優先で、それまでの政策から突然の変更により不利益を被る不安から、インドネシアで事業を行うことに慎重になる人もいるようだ。一方、インドネシア人は人情深く仲間を大切に扱う傾向があるため、きずなを深めてよく話せば結局は何とかなる相手と見ている人もいる。インドネシアは上記の大統領交代や、現在進められている首都の移転(人口約1074万人(2022)[9]の首都ジャカルタ(ジャカルタ首都圏人口は約3000万人と言われる)から、東カリマンタンのヌサンタラへの移転。2045年までに新首都への移転(想定人口は200万人規模)を完了予定)といった政治に関わる大きな動きはあるが、大きな心配を抱えている人は現状多くはなさそうだ。
3-2 政府、上流管轄機関、国営石油会社プルタミナ
政府の体制に関連し、政策の策定、承認、さらにはその実施までに時間を要するということも、インドネシアに対する印象として挙げる人が多いようだ。石油ガス開発上流を管轄するSKK Migasは、2001年に施行された石油ガス法「2001年第22号」により設立された前身のBP Migasに代わり2013年に暫定的に設置されている。この法律が成立する以前は、プルタミナが石油・天然ガスに関わる全ての事項の責任を負っていた[10]が、収賄等の問題も取り沙汰されていたプルタミナから権限の多くを移すものであった。しかし近年は、インドネシアでは権益期限を迎える主要油ガス田の権益をプルタミナに移す場合が多く、そうでなくても権益延長や新たな開発計画の承認等に際し条件を付けられたり、審査に長時間を要したりすることもあり、参画企業の撤退に繋がる例が増えている(2017年にTotal、INPEXが撤退したマハカム油田鉱区、2021年にChevronが撤退したロカン油田鉱区、2023年にShellが撤退したアバディガス田鉱区(LNGプロジェクト)等)。他にも現在のSKK Migasは、油ガス開発事業の生産物分与契約(PSC)におけるコスト回収の手続きルールが複雑でプロセスの遅延の原因となり、開発・生産操業に支障をきたす場合がある等の課題が指摘され、それを踏まえてインドシア政府は、生産物分与契約(PSC)に代わる新たな契約形態、グロススプリット方式を導入した上[11]、さらに石油ガス法を改正すると言われてきた。その改正案においては、SKK Migasを解散し、政策機能と事業機能の両方を担う新たな事業体、特別石油・ガス事業体(BUK)が設立されるとの情報[12]や、一方、法改正によりSKK Migasは暫定組織から正式な政府組織として位置付けられるとの見方[13]もあり、行方が注目される(文末参考4:SKK Migasのその他の最近の動き)。
現在企画されているCCS/CCUS事業・地域ハブ化計画に関しては、その多くに国営石油会社プルタミナが関与している。プルタミナは、かつて石油天然ガスの上流の探鉱・開発・生産、下流の輸出入、精製、輸送、販売の事業領域の全てにおいて管理権限も持っていたが、2001年に施行された新石油ガス法により、その権限の多くを失った。現在は、インドネシア政府が100%株式を所有する国有有限責任会社の一つで、持株会社(ホールディングス)と、6つの分野別子会社および船舶会社等から成り、プルタミナグループ全体では2022年(38億1000万USD)、2023年(47億7000万USD)と連続で、過去最高の純利益を記録している。
プルタミナ石油ガス上流部門の変遷について言えば、2010年代に資源ナショナリズムが高まったことに起因し、PSCの期限が終了した国内フィールドの権益をプルタミナに移す方針が強まった。2018年にTotalとINPEXから権益を引き継いだマハカム油田の例では、急速な生産減退が見られたことを受け、生産計画と技術力の甘さを指摘する声が政府からも出ていた[14]。一方、最近のプルタミナの技術力に対しては業界から高く評価する声を聞くことが多いようだ。プルタミナとCCUSの共同スタディに取り組むJOGMECの関係者および筆者も、プルタミナのチームは優秀で、事業パートナーとして良い信頼関係を築けているという印象を持っている。操業事業の増加や経験を積んだ技術者(鉱区から撤退したメジャー企業で従事していた社員等)、海外大学院等を卒業した人材の加入等が一因のようだ。技術評価や操業のみならず、政府との協議・調整等の役割の意味でも、プルタミナとの協力は、インドネシアでのCCS事業化において今後も重要な要素となるだろう。
第4章 おわりに
本稿は、インドネシアでのCCS/CCUS情勢に関心を持ち始めた方を対象に、その事業化に向けた動きに加え、これまで知られてきた石油・ガス産業における課題等を含むインドネシアの環境について紹介する目的で作成した。
2023年に発足し、インドネシアのCCS事業化の促進、ネットワークの促進等を行っている政府系シンクタンクIndonesia CCS Centreが主催する、インドネシアにおける代表的なCCSイベント「International &Indonesia CCS Forum 2024」が2024年7月31日、8月1日の2日間、開催された。2023年9月の第1回に続く第2回目であったが、前回に続き海事・投資調整府のルフット大臣も出席し、参加者数は延べ3500名(主催者発表)で、第1回の2000名程度から大きく増加し、日系企業からの参加者も多かった。これを含め、特にインドネシア現地では、CCS事業化に向けて盛り上がりが感じられる。その一方、計画するCCSの経済性を確認できるだけの情報が出揃っておらず、不確実性の中、調査・スタディを行って様子を見ている企業も多いと思われ、さらなる政府による規則整備の進展等、CCS社会実装に向けた動きに注目が集まる。
インドネシアの業界関係者は、概して親切で友好的と感じている。こちらが日本人とわかれば、「〇〇さん」と敬称をつけて呼んでくれる場合がほとんどである。日本とインドネシアは国交を樹立した1958年以降60年以上にわたり重要なパートナーであった歴史や日本文化への親しみなどもあり、日本人に対して親近感を持ってくれる人が多いようだ。投資や政策的なことについては、お互いにシビアな判断が必要となる場面もあるかもしれないが、現地で人々と交流していると、当方(JOGMECや日本企業、日本政府)の裨益ばかりでなく、先方(インドネシア各社やインドネシア政府)にも良い展開がもたらされるよう、願う気持ちも強くなってくる。
JOGMECジャカルタ事務所は東京本部や他地域の海外事務所、当地の企業・政府機関等と交流しながら情報収集を行っている(図2)。インドネシアや東南アジア各国のエネルギー情勢、CCS/CCUS社会実装に向けた動きを引き続き注視する。
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参考1 東南アジア各国のCCS/CCUS法整備の進捗
CCSの貯留先という観点では、インドネシアの他、東南アジアの中では、マレーシア、タイ、ベトナム等の動向が注目されている。
マレーシアでは、CCSに特化した法規制が策定済みなのはサラワク州のみで、その他の州は未整備の状況であるが、2024年5月、マレーシア経済省はCCUS法案が2024年内に提出されるとの見通しを発表している。なお、このCCUS法案については、土地、鉱物資源等に係る事項は州政府の所管として立法権限を有するカリマンタン島の2州(サラワク州、サバ州)は適用対象外になる可能性もある(共通になるとの情報もあり、どちらに決まるかわからない)。一方、CCS事業に対するインセンティブは既に2023年予算から提案されている。CO2越境輸送については、2023年9月にマレーシア国営石油会社ペトロナスが日本の経済産業省、JOGMECと三者で、日本・マレーシアの二国間におけるCO2越境輸送・貯留に関する検討を推進すべく、協力覚書(MOC)を締結している。
タイではCCSに特化した法規制は未策定であるが、現行の石油法(Petroleum Act)を改定することでCCSを実装しようとしている。現状、時期は2027年前後と言われている。タイの国境を越えたCO2受け入れの動きについては情報が少ないが、当面は国内の排出削減を中心に検討していくと見られる。タイで先行する事業の一つとして、PTTEPがオペレーターで三井石油開発も参画するアーチット(Arthit)ガス開発事業におけるCCSがある。同事業からの生産ガスは10~50%のCO2を含むため、その一部を減退ガス層や帯水層へ貯留する計画。2024年にFID、2027年に圧入開始を予定している。
ベトナムでは、CCSに特化した法規制やインセンティブは未導入であるが、国営石油会社ペトロベトナム(PVN)がCCS法整備のガイドラインを作成し、法制度案を作成中と言われるが、詳細はわかっていない。
なお、シンガポールと日本の間でも2024年8月21日にCCSに関するMOCを締結したが、排出国同士でCO2越境輸送に関する情報交換や、CCSに関し地域内の共通の基準の導入、相互運用可能な市場の設立等に向けて連携するものであり、上記の日本にとって貯留国候補となる国々との連携とは異なる意味合いとなっている。
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参考2 インドネシアで先行するCCS/CCUS事業の例
(1)タングーCCUS
オペレーターはBP。日系企業6社とJOGMECが参画している。西パプア州のタングーLNGプロジェクトにおいて2024年中に投資決定が見込まれる追加開発(Ubadari ガス田の開発、CCUS/EGR(Vorwata貯留層へのCO2圧入、図3)、Compression(陸上ガスコンプレッサー設置)を合わせて”UCC”と呼ばれる)により、CO2圧入とともにガスの増産を図るEGRを計画中。CO2圧入開始は2030年までに開始すると言われ、このCO2圧入に関わる投資額は9.48億USD(約1,500億円)、初期段階(同事業内で生産するCO2でのEGR)の圧入量の想定は3,000万トン以上、全体の貯留ポテンシャルは18億トンと言われる。
出所:BPのホームページ[15]
(2)サカクマンCCS
オペレーターはRepsol。三井石油開発も参画している。サカクマン鉱区でのガス開発事業は、新規開発のため現状探鉱段階の位置付けであるが、開発計画はSKK Migasによって既に承認されており、このあと基本設計作業(FEED)、最終投資決定(FID)へと進む見込み。生産ガスからCO2を回収して貯留するCCSを計画しているが、CO2は生産鉱区から他鉱区(Medco Energyがオペレーターを務めるコリード鉱区のゲラムフィールド)に輸送され、圧入することが想定されている。ゲラムフィールドのオペレーターはインドネシアのMedco Energiで、Repsolもノンオペレーターとして権益を持つ。CO2圧入開始は2028年の見込み。
(3)スンダ・アスリCCS/CCUSハブ
ExxonMobilとプルタミナの協力。シンガポールからの越境輸送含め、西ジャワのCCSハブとして他産業からのCO2を受け入ることに前向き。オペレーターのExxonMobilは近隣で、最先端の石油化学コンプレックス(環境負荷の少ないグリーン製油所等)の建設とCCSを含む総事業費約150億USDの投資計画(うちCCS部分は約20億USD)があると報じられた。近隣のジャワ島西部~スマトラ島南部にもパルプ、石油化学、鉄鋼等の排出源となる工場が立地。CO2圧入開始は2030年、貯留ポテンシャルは30億トンと言われる。
(4)クタイベースンCCSハブ
プルタミナとChevronが共同で調査中。2023年に5TCF規模の巨大ガス田(ゲンノース(Geng North))発見で話題になった東カリマンタン沖合の付近にてCCSハブとして、LNGプラント、肥料工場、火力発電所等があるボンタンクラスター、製油所、火力発電所等があるバリクパパンクラスター等からの排出CO2を、周辺の複数のフィールドを利用して貯留することを想定。貯留ポテンシャルは2.7億トンと言われる(タンボラ(Tambora)フィールドとニラム(Nilam)フィールドの合計)。
(5)アバディCCS
アバディLNGプロジェクトはCCSの計画(図4)を含む改訂開発計画がSKK Migas、政府に承認され、基本設計作業(FEED)、最終投資決定(FID)へと進んでいく見通しである。インドネシア政府は2030年までの生産開始を期待しているが、オペレーターのINPEXホームページにおいては、2030年代初頭の生産開始を目指していることが記されている。このCO2圧入に関わる投資額は11億USD(約1,600億円)、年間圧入量は280万トンと言われる。
出所: INPEXのホームページ[16]
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参考3 インドネシアでのCCS事業に適用され得る日本政府の支援
インドネシアでも既に利用導入されている、”脱炭素に関する”日本政府による協力制度の一つに、環境省、経済産業省、外務省、農林水産省、国土交通省による二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism: JCM)がある。JCMは、パートナー国での温室効果ガス排出削減・吸収や持続可能な発展に、日本が優れた脱炭素技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策実施により貢献し、その貢献分を定量的に評価の上、相当のクレジットの移転を受けることで、双方の国の「国が決定する貢献(NDC)」の達成に益するもので、日本にとってのJCMパートナー国は、2024年2月22日時点で29カ国である。インドネシアと日本は、2013年8月以来、パートナーとなっている[17]。
JCMは、他分野の事業において実績があるものの、CCUS事業に関しては、まだ日本といずれの国との間にも適用対象分野(セクトラルスコープ)として登録されていない。事業の実現には、対象二国間でJCMに関する方法論のガイドラインに合意し、セクトラルスコープとしてCCUSを登録する必要がある。その調整には、インドネシアでCCUS事業を担当するエネルギー鉱物資源省、事業の規制・監督をするSKK Migas、インドネシア側のカーボンクレジットを主管する環境林業省や、JCM事務局がある経済調整府等が関与すると思われる。日本側は経済産業省や環境省が主導、JOGMECも協力している。JCMを利用して事業化を目指しているプロジェクトの例には、JGC、J-Power等の日系企業がプルタミナと共同で取り組んでいるグンディCCSがある。
またJOGMECエネルギー事業本部も、国外でのCCS事業に対する支援スキームとして以下の機能を有している(経済性に対する支援以外も含む)。
- 先進的CCS事業
- 出資・債務保証制度(CCS)
- 海外地質構造調査(CCSを目的とするもの)
- CCS/CCUSに関する技術支援・共同研究
- CCS/CCUS事業化に向けた政府等との対話(制度作り等)に関する支援
(1)先進的CCS事業は、国内のCO2分離回収・輸送・貯留を含む事業化を支援するもので、公募で採択した案件に対し、予算の100%をJOGMECが負担する。2030年までの圧入開始が事業の条件となっており、2023年度には「先進的CCS事業の実施に係る調査」として7案件を、2024年度には「先進的CCS事業に係る設計作業等」として9案件を、公募を通じ採択した。2024年度の9案件の中には輸送・貯留先として国外を想定する案件も含まれる(マレーシア3件、大洋州1件)。先進的CCS事業では2026年度までに事業者による最終投資決定を予定しており、2025年度以降は原則、新規の選定は想定していないが、2030年貯留量目標達成が困難となる、内外情勢の顕著な変化がある等の特段の事情がある場合にはこの限りでは無い。また、CCS事業性調査への支援(FEEDよりも前の段階のFS支援)は引き続き公募等により支援が検討される。主管はCCS事業部。
(2)出資・債務保証制度(CCS)は、CO2の貯留およびそのための地層の探査事業や資産買収等に必要な資金について、事業ごとに設立するプロジェクト会社が発行する株式の引受けを通じ、出資を行うもの。また、CO2の貯留事業のための資金や資産買収に関連する資金の借入に際して債務保証や完⼯保証も行うことができる。主管はエネルギー開発金融部。
(3)海外地質構造調査(CCSを目的とするもの)は、本邦企業が海外のCCS事業の権益を取得するための支援を目的とした事業で、これまでの石油・天然ガス探鉱を目的とした「海外地質構造調査事業」と同様のスキームでの実施を予定している。この事業は、JOGMECが先導的な調査を行い、実装可能なCCS事業の創出を追求するとともに、調査対象国と本邦企業との間の橋渡しの役割を果たすことを意図している。また、本邦企業からの提案が採択された場合には、提案企業の協力・参画を得て調査を行い、提案企業の新しい事業機会やプロジェクト権益の獲得を円滑に進めるための支援を行う。主管はCCS事業部(内容により探査部)。
(4)CCS/CCUSに関する技術支援・共同研究は、民間企業のCCS/CCUS事業開始をサポートするため技術支援・共同研究を行うもので、例として、令和5年7月より共同研究を開始したスコワティ油田を対象としたプルタミナ、JAPEXとのCCUSの共同スタディがある。同事業では2023年12月にスコワティ油田における単一坑井圧入試験を実施(図5)。共同研究において、必要な事業費を負担する場合もある。主管はCCS事業部。
(5)CCS/CCUS事業化に向けた政府等との対話(制度作り等)に関する支援に関しては、経済産業省とともに、日本企業からの要望を聞き、対インドネシアのCCS政策を議論しているJOGMECは、インドネシア政府(エネルギー鉱物資源省(CCS/CCUS事業化全般)、経済調整府(JCM事業化)、海事投資調整府(越境含むCO2輸送)、環境林業省(カーボンクレジット)等)に対し、必要な規則整備等について理解を求め推進するため、当該省・府や関係者と継続的な対話を行っている。また、2023年1月にCCS・カーボンクレジットワークショップ、2024年2月にCO2越境輸送ワークショップを開催したり、2022年5月にCCSガイドライン、2023年3月にCO2EORガイドライン、2023年5月にCCSカーボンクレジットハンドブック(図6)、2024年5月にASEANでのCO2越境輸送CCSに関するレポート(ASEAN Centre for Energyとの共同調査)を発行したりするなどして、国内外へ、JOGMECのCCS/CCUSに対する考えや情報等を発信している。主管はCCS事業部。
図6:2023年1月に経済産業省および国際排出量取引協会と共同で開催した国際ワークショップ「世界のカーボンクレジット市場とCCS-ASEANの脱炭素化に向けて―」の内容に基づき、CCS事業の経済性を向上させるカーボンクレジット生成の普及促進を目的に作成したCCSクレジットハンドブック。図6のQRコード又は以下のリンク先[18]より、PDF版のダウンロードが可能。
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参考4 SKK Migasの最近の動きについて
SKK Migasは、2019年11月に2030年をターゲットとして、原油100万バレル、ガス120億立方フィートという目標を掲げ、その実現に向けて操業会社に増産を呼び掛けている。また、2023年9月に行われたSKK Migas主催イベント「IOG2023」では、エネルギー鉱物資源省アリフィン大臣が、入札プロセスの迅速化する計画について報告した。またこのイベントに際して開催された操業会社のCEO会議における「バリ・コミットメント」と呼ばれる声明では、SKK Migasと協力契約請負業者との間で、日々の作業指針として生産量増加のために協力する約束がなされた[19]。インドネシアでは探鉱や増産回収(EOR)、非在来型資源の開発等にも力を入れ増産を図っているものの、2023年の日量平均生産量は原油が日量約60.5万バレル、天然ガスが66.3億立方フィート[20]で、SKK Migasの生産目標との間には乖離がある状態が続いた。石油ガス上流事業の承認プロセス効率化の動きはCCS事業化に向けた動きと連動する可能性もある。引き続きSKK Migasの2030年の生産目標達成に向けた動向は注目される。
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[1] mondaq.com (Indonesia New CCS Framework - Quick guide to PR 14.2024 and PTK 070 - Feb 2024 )、2024年6月17日アクセス
https://www.mondaq.com/pdf/14333194.pdf(外部リンク)
[2] 西村あさひ法律事務所資源/エネルギーニューズレター2024年2月6日号(IPCC インベントリガイドラインにおける CCS の取扱い) 、2024年6月17日アクセス https://www.nishimura.com/sites/default/files/newsletters/file/natural_resources_energy_240206_ja.pdf
[3] インドネシアエネルギー鉱物資源省のホームページ(How to Calculate National Carbon Storage Potential (CCS)(元はインドネシア語))、2024年6月17日アクセス
https://www.esdm.go.id/id/media-center/arsip-berita/cara-perhitungan-potensi-penyimpanan-karbon-ccs-nasional
[4] アジア開発銀行エネルギーポリーシー2021年9月版、2024年6月17日アクセス
https://www.adb.org/sites/default/files/institutional-document/737086/energy-policy-r-paper.pdf(外部リンク)
[5] 時事速報インドネシア版2024年7月25日付
[6] 時事速報インドネシア版2024年7月26日付
[7] ジェトロのHP(ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース( 1月中の石炭輸出を禁止、日本への供給にも影響か(インドネシア))、2024年6月17日アクセス
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/01/208e29b43b89dd92.html
[8] インドネシアエネルギー鉱物資源省のホームページ(Media Center - ニュースアーカイブ - 2036年、政府は国内需要のためのすべてのガス生産を保証(元はインドネシア語) )、2024年6月17日アクセス
https://www.esdm.go.id/id/media-center/arsip-berita/2036-pemerintah-jamin-seluruh-produksi-gas-untuk-kebutuhan-domestik
[9] ジェトロのHP(概況・基本統計 | インドネシア - アジア)、2024年6月17日アクセス
https://www.jetro.go.jp/world/asia/idn/basic_01.html
[10] JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト(インドネシア素描― その石油と天然ガス ―)、2024年6月17日アクセス
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/review_reports/1006356/1006389.html
[11] JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト(インドネシアにおけるPSCスキームの改革)、2024年6月17日アクセス
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1004689/1004759.html
[12] voi.id(委員会VII DPRのメンバーがSKKミガス解散の理由を説明)、2024年6月17日アクセス
https://voi.id/ja/keizai/312331
[13] JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト(事業環境・投資環境の改善を促すSKK Migasの野心的生産目標2030とその課題)、2024年6月17日アクセス
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1008924/1009045.html
[14] JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト(インドネシア上流開発オムニバス ―PSC改革道半ば、原油100万バレル計画、プルタミナと民間上流開発企業、IOC動向、CCS/CCUS等)、2024年6月17日アクセス
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/seminar_docs/1009240/1009273.html
[15] BPのHP (Tangguh EGR/CCUS) 、2024年6月17日アクセス
https://www.bp.com/en_id/indonesia/home/who-we-are/tangguh-lng/enhanced-gas-recovery-carbon-capture-utilization-and-storage.html
[16] Oil & Gas Journal (Inpex granted approval for revised Abadi LNG project with CCS component)
https://www.ogj.com/general-interest/government/article/14302458/inpex-granted-approval-for-revised-abadi-lng-project-with-ccs-component(外部リンク)
[17] 外務省のHP( 二国間クレジット制度(JCM)) 、2024年6月17日アクセス
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000122.html(外部リンク)
[18] JOGMECニュースリリース(世界初の手引書「CCSクレジットハンドブック」を公表~CCS社会実装に向けた制度インフラ構築へ大きく貢献~)、2024年6月17日アクセス
https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_00088.html(外部リンク)
[19] ANTARA News (SKK MigasとKKKSがICIUOG 2023で「バリ・コミットメント」に合意(元はインドネシア語) )、2024年6月17日アクセス
https://www.antaranews.com/berita/3738513/skk-migas-dan-kkks-sepakati-bali-commitment-di-iciuog-2023
[20] インドネシアエネルギー鉱物資源省(HANDBOOK OF ENERGY & ECONOMIC STATISTICS OF INDONESIA2023)、2024年6月17日アクセス
https://esdm.go.id/assets/media/content/content-handbook-of-energy-and-economic-statistics-of-indonesia-2023.pdf(外部リンク)
以上
(この報告は2024年8月29日時点のものです)