ページ番号1010198 更新日 令和6年9月5日
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概要
- 2023年10月のExxonMobil及びその後のChevronのM&A発表以降、シェール企業間の統合合意が相次ぐ。大手企業による買収対象は増産中のPermianのみならず、BakkenやEagle Fordにも及ぶ。シェールガス企業のM&Aもみられる。
- シェール開発は、井戸の開発最適化が進み技術的に成熟化しつつある。そのため企業はM&Aを通じて掘削可能な鉱区を統合して規模拡大とともに、輸出を通じた世界クラスの石油・ガス企業を志向し始めた。シェール産業は、バイデン政権が強く推進する操業時GHG排出規制強化に直面するが、他方で米国内外の価格差が大きく輸出需要が高く、開発進展中。また情勢不安によって環境対応の外部圧力が緩和した面も指摘できる。
- 企業再編を通じた業界全体の合理化・寡占化の一方、さらなる技術競争及び供給競争の進展が期待される。
1. はじめに
米国の石油、ガス生産量は世界一に躍進し、伸びは鈍化しつつも依然として増産を続ける(図1、図2)。それを支えるシェール企業群は現在M&A(表1)の渦中にあり、業界全体の強靭化も図られている。2024年第1四半期は、世界の上流資産M&Aのうち9割を米国シェールが占めたが、M&Aはまだ継続中である。
本稿ではそのシェールM&Aとその背景についてとりまとめた。
2. シェールの大型合併(オイル)経緯
2023年10月11日、米国最大手ExxonMobilは、テキサス州及びニューメキシコ州に広がるPermianシェール開発専業のPioneer Natural Resourceを買収額630億ドルで買収することで合意と発表した。その12日後の10月23日、米国メジャーChevronと中堅のHessが総額600億ドルの統合合意を発表した。
ExxonMobilとPioneerの統合は、公正取引委員会(FTC)の承認を得て2024年5月初めに買収が完了。買収により、ExxonMobilはPermianの生産量を日量130万バレルまで伸ばし、2027年までに日量約200万バレルに増加させると表明した。ExxonMobilのダレン・ウッズCEOは、「この良質なPioneerのシェール資産は、当社のPermianのポートフォリオに適合し、当社の技術を導入し長期的な株主価値のために営業効率と資本効率を実現する大きな機会を与える」、また「両社の合併は米国のエネルギー安全保障と経済に利益をもたらし、これまでのPioneer Natural Resources社の2050年ネットゼロ目標を2035年計画に前倒しし、環境対応を促進させる」とその価値を強調した。承認にあたり、FTCはExxonMobilに対して、Pioneer CEOのScott Sheffield氏の取締役への登用を禁じたが、資産売却は求めなかった。
ChevronとHessの統合は、2024年8月現在米国FTCの審査中であるが、それとは別に取引完了まで時間を要すると思われる。Hessを買収するChevronの狙いはノースダコタ州のBakkenシェールよりも、Hess資産の8割を占める既発見のガイアナの大型油田権益である。しかしChevronとの買収合意を受けて、Hess(30%)のガイアナ資産のオペレーターであるExxonMobil(45%)とパートナーCNOOC(25%)が先買い権を主張し、現在仲裁裁判中である。すでにChevronとHessの間の売買契約期限は2025年10月延長された。
2023年12月に合意が発表された、米Occidental Petroleum(Oxy)による非上場企業Crown Rockの120億ドルの買収計画はすでに法的な手続きを終え、2024年8月に取引が完了した。CrownRockはPermianシェールの事業者であり、Occidentalは本買収にあたり複数のライバルと競合した。生産が好調なPermian資産の獲得競争は激しく、コンサルタントのRystad Energyの推計によれば、すべて発表通りに企業統合が完了するとExxonMobil、Diamondbacks、Chevron、ConocoPhillips、Occidental Petroleum、EOGの6社でPermian掘削可能な鉱区の在庫の6割を占め、少数精鋭化していると分析する。
さらに、ExxonMobil-Pioneer合併完了の数週間後の2024年5月後半には、上流専業の大手企業ConocoPhillipsと同業のMarathonの225億ドルの買収合意が発表された。伝統的な石油企業がまた一つ吸収される見通しだ。両社が首尾よく統合するとConocoPhillipsはEOGを抜きEagle Ford最大の生産者となる。2024年第4四半期の統合完了を予定する。ConocoPhillipsと競合したとみられる中堅Devonは、その後の2024年7月、プライベートエクイティのEnCapが保有するGrayson Mill EnergyのBakkenシェール資産50億ドル規模の買収に合意したと発表、資産追加に目途をつけた。
3. 対照的なガス
米国では、石油価格は比較的高くシェールオイルの企業の収益性は良好である(図3)。そのため、米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)が毎月発表している主要なシェールオイル生産地域(Bakken、Eagle Ford、Permian)の掘削後未仕上げ坑井DUC(Drilled but uncompleted wells)の数はPermianをはじめ2020年以降大幅に減少している(図4)。企業は掘削済みの井戸に水圧破砕を施し開発に移行、また水平坑井掘削装置(リグ)稼働数もオイルは安定的に推移し新たな掘削も行われ(図5)、収益を確保している様子が窺える。一方、米国における天然ガスは潤沢な生産と在庫のため価格は低位で安定、指標価格であるヘンリーハブ価格(HH価格)は今年に入って2ドル/百万Btu台で推移している。シェールガスは、北東部に広がるAppalachia(Marcellus Shale)、テキサス州のHaynesville Shale、あるいはシェールオイルに随伴するPermianが主な産地である。AppalachiaとHaynesvilleのDUC数は増加し、またガスのリグ稼働数はコロナ期に比べ増えてはいるが2023年に比べ減少傾向にあり、シェールガス開発企業はガス安と収益の伸び悩みを背景に開発を先送りし、新たな掘削活動を抑制している様子が窺える。
そのような中、2024年1月、大手ガス会社であるChesapeakeとSouthwesternが統合を発表した。Chesapeakeは、2021年に一旦米連坊破産法11条(チャプター11)の適用を申請し経営を再建、オイル資産を全て売却、シェールガスの投資に集中していた。両社の合併が成立すればEQTを抜き国内最大のガス生産者になる見通し。統合後は国内で安く販売するよりもLNG液化(輸出)向けにガスを供給する態勢を整え、LNGトレーディングにも本格的に乗り出し収益力を高める方針である。すでにChesapeakeはトレーディング会社Gunvorとの間でDelfin LNGとLNG50万トン/年を15年間引き取る契約を締結済みである。一方の大手ガス生産者EQTは2024年3月に北東部のガス産地に広がるガス集積システムや幹線パイプラインを有するガスインフラ企業のEquitrans Midstreamを買収すると発表。輸送インフラを内部化しガス供給コストを一層引き下げるのが狙いである。いずれのガス会社も、長期的にはLNG基地向け需要増を見込むが、足元はインテグレートモデルに転向してコスト低減と収益改善策を講じている。
4. M&A背景:シェール開発の成熟化と新技術
シェール開発は2000年代の開発初期、そのポテンシャルは未曾有と評価されたが、2020年頃には良質な地域が開発、払底し、技術面の成熟化も進んだ。シェール井の水平井単位当たり生産量は、2018年ごろから初期生産量は伸び悩み、減少傾向が示された。
出所:SilverBow社資料https://www.sbow.com/(外部リンク) (2024/7にCrescent Energyが買収、表1参照)
坑井の水圧破砕(フラッキング)の改善余地が狭まる一方で新たな技術的取り組みも生まれている。例えば、仕上げ数に対し数%程度の適用率に過ぎないものの、古い生産井に対して再度水圧破砕を施すリフラック技術(Re-Frac)、あるいは大規模な開発に有効なサイマルフラック(複数坑同時に水圧破砕を施す)、さらには鉱区に制約がある場合に有効なUターンラテラル(U字型掘削)の適用(図6)などである。
今回の買収においてもシェール企業は相手鉱区にこうした新たな技術の適用を試み、生産の効率性を引き上げる計画である。発表によれば、ExxonMobilのPioneer買収では操業効率化と長期的な技術向上を図る。同社は広大化したPermianのエリアに対して水平長を伸ばした井戸を掘削するとともに、地上部分の掘削拠点となるパッド(Pad)数を最少化させて全体のコスト効率を引き上げる計画。双方の現場スタッフが交流することで生まれる技術イノベーションにも期待する。またConocoPhillipsは、統合後にMarathonの生産井にリフラックし増産を図る計画で、Eagle Ford鉱区において1000か所のリフラック候補先を選定したと述べている。ConocoPhillipsは5年前に同技術導入し、過去2年間にわたり計50回適用し最終回収量(EUR)が6割増加した。また、サイマルフラックはこれまでのZipperフラック(2本の坑井に交互にフラッキングをかける)を複数同時に、交互にフラックすることで短時間に仕上げる方法で、Diamondbackは買収するEndeavorに適用する計画(図7)である。
5. 合併後の米国企業
発表済みの全買収案件が首尾よく成立すると、米国のガス生産者は、上からChesapeakeとSouthwesternの統合ガス会社(社名変更の見通し)、EQT、ExxonMobil、Coterraと続く(図8)。Chesapeake+Southwesternは、欧州メジャーbpに比肩する天然ガス生産規模となる。
石油とガスをあわせた米国内トップ生産者は、上からExxonMobil、ConocoPhillips+Marathon、Chevron+Hess、Occidental+CrownRockと続き(図9)、いずれも今回の統合企業が占める。大手企業の資産獲得意欲の高さが窺える。
コンサルタントRystad Energyは一連のシェール企業M&Aを「シェール4.0(図10)」と表現し、2020年末頃に始まった長期的な安定経営を優先する企業経営からフェーズが変わり、長期経営を見据え他社を買収して掘削可能な資産を積み増す段階に移行したと分析する。
6. M&A背景:経営戦略上の狙い
各社発表によれば、技術面以外にもM&Aの戦略的な目的がいくつか挙げられる。
少し繰り返しになるが、(1)低コストで開発可能の資産の獲得である。具体的にはWTI価格30ドルから40ドル/バレル以下で回収可能な資産を積み増す。加えて(2)メキシコ湾岸までのパイプライン敷設や港湾インフラが整備されたことで、輸出を視野に販売競争力を高める。そのための(3)インフラを含むリソース共有等のシナジー効果(管理費削減、操業費削減、投資効率の向上)を狙う。また共通する点は、(4)各地域の開発リーダー格を堅持して、GHG排出低減にも取り組む。投資家対策として統合発表では、(5)株主に対して今後数年間にわたり増配または自社株買いの増額を公約する点も共通する。
例えば、ConocoPhillipsのCEOのRyan Lance氏は、Bakken、Eagle Ford、Permian、Anadarko basin、赤道ギニアLNGの資産を保有するMarathon(図11)と買収合意したことについて、「世界で競争できる高品質、低コストの20億バレル相当(WTI30ドルで回収可能)の資源を確保した」、「技術とスケールで米国非在来型リーダーの地位を確立した」と強調。株主に対しては今後3年間において初年度70億ドル以上、今後3年間に総額200億ドルの自社株買いを計画すると表明した(表2)。
また、ChesapeakeのCEOのNick Dell‘Osso氏はSouthwesternの買収発表に際して「統合することでLNGの準備が整った。世界で競争できる米国拠点の独立系企業を形成する」、「生産量の20%を国際LNG価格に連動させ収益拡大を図る」と意義を説明する。
Diamondbackは、非上場のEndeavorというPermian同士の合併に際して「統合によって世界最大級のシェール生産地域Permianにおいて世界クラスの生産者となり、低コスト実現によって株主価値を創出する」と表明。ちなみに買収後同社は、ExxonMobilと並ぶPermian東部のMidland地域の最大手となる。
7. マクロ的な背景:国際市場への供給
米国産の原油及び天然ガスは国外需要も高い。石油製品と原油あわせて輸出量は増加傾向のため、2023年はあわせて1000万バレル/日に達した(図12)。そのほとんどがメキシコ湾岸(テキサス州)から輸出された。パイプラインや港湾設備の増設に伴って輸出量は増加している。その中でもエタン分は中国向け(石化プラント)輸出が急増している(図13)。プロパンは日本を含めアジア向けに輸出が増加している(図13)。EIAの輸出量見通しでは、原油価格が高位で推移する場合、石油製品の輸出量は増加する見通しで、価格が低推移であれば輸出量は伸びない(図14)。原油価格は、その輸出量に大きく影響する。
2016年に始まったLNG生産は、2023年に主にメキシコ湾岸から8700万トンが輸出された。現在、5事業合計能力7900万トン/年が建設中であり、一部インフレや投資環境の悪化により遅延がみられるものの2028年までに生産開始する計画である(図15)。ガスも同様で、EIAの輸出量見通しでは、原油価格(LNG長期契約の多くは原油価格に連動)と国内の天然ガス指標価格であるヘンリーハブ(HH)価格との価格差が大きければ、LNG需要が高くLNG輸出が増えると予測する。拡張中のカタール産LNGと異なり、米国産LNGは米国内のガス価格に連動して販売され、仕向け地の制限がなく転売が可能で取引の柔軟性が高いというメリットがある(図14)。8月末時点の米国のガス価格は2ドル/百万Btu程度で推移しており、欧州のガス価格指標であるオランダ市場のTTFガス価格は13ドル/百万Btu前後、アジアのアセスメントされたスポットLNG価格JKM(Japan-Korea-Marker)価格は14ドル/百万Btu前後で推移している(図16)。事業者にとって輸送費等を上乗せしても輸出の経済合理性が高い。
出所:EIAhttps://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=61443(外部リンク)を参考に作成
8. マクロ的な背景:エネルギー移行の外圧緩和
次に、M&A活発化のマクロ的な背景としていくつか指摘したい。まず、世界的にエネルギー移行の勢いが一時期より鈍化したことが指摘できる。物価高や金利などの経済リスク顕在化や地政学リスクの高まりなどが影響し、化石燃料企業に対する気候変動問題やエネルギー移行に対する社会的圧力が緩和した。世界経済フォーラムが発表した2024年“Fostering Effective Energy Transition”報告書では、経済情勢の変化、地政学的な緊張の高まりや技術的な変化によってエネルギー移行のスピード及びその軌道は一層複雑化したと報告、またエネルギー移行の勢い(モーメンタム)は一時期より失速し(図17)、米国に関しては2022年に成立したInflation Reduction Act(IRA)成立以降エネルギートランジションは進んだが、2023年はそのスピードが鈍化したと評価した。また、ExxonMobilは、5月に毎年開催される株主総会を前に早急に温暖化ガス排出削減を要求していた環境派の株主を提訴したが、これも結局株主が提案を取り下げる結果となった。2021年をピークに石油会社への自社の直接排出および自社の間接排出を除くScope3に対するGHG削減対策要求は少なくとも米国内では後退した。
出所:Fostering Effective Energy Transition、2024年6月、世界経済フォーラム
https://www3.weforum.org/docs/WEF_Fostering_Effective_Energy_Transition_2024.pdf(外部リンク)
9. マクロ的な背景:バイデン政権のGHG排出規制
次のマクロ的な要因としては、バイデン政権の規制強化である。同政権は、操業時CO2排出量削減に向け規制強化と支援策による「アメとムチ」策を展開する(表3)。IRAで可決していたメタン排出ペナルティに関して、2024年1月に環境保護庁(EPA)がWaste Emissions Charge(WEC)の規則案を公表したが、他方でシェール開発の大多数を占める小規模生産者にとって持続不可能な負担との批判が強い。そうした反発を緩和するため2024年8月に小規模生産事業者向けに革新的なメタン排出量削減技術を採用できるよう8.5億ドルの追加資金を提供すると発表した。
実際、政権4年目のバイデン政権下ではGHG関連の法規制が多数発表され、一部は改定を重ねているが、州政府、業界団体や企業から多数の訴訟に直面し、法施行は中期的には不透明であり、またトランプ政権になった場合には見直しあるいは破棄の可能性も想定される。すでに米国証券取引委員会(SEC)の気候変動開示規則は、上場企業に対し、Scope1、Scope2の公表に加え環境リスクの情報開示を要求するものの、企業・団体等による裁判所への申し立てが複数行われ、SECは執行を一時停止した。
本稿執筆時点(2024年9月)で米国は大統領選挙戦中であるが、次期政権が民主党のハリス政権か共和党のトランプ政権に交代するのかで政治、外交、経済面に多方面にわたり影響は大きく異なると思われる。殊、シェール開発に関しては、政権如何に関わらずインフラ投資や石油・ガス開発は基本的に市場、民間主導で進み、極端な規制導入がない限り、然程変化はしないだろう。シェール産業は、州政府が管轄する陸上(連邦所有地以外)に資産が賦存し世界的に珍しいがそれを個人の土地所有者が保有する。石油・ガス産業は国内の基幹産業の一つである。開発を否定するバイデン現政権(2021-2024)期においても石油・ガス生産量はシェールに押し上げられ過去最高を更新中である。シェール企業は、現実には、メタン排出削減対策を推進しつつも政策如何に関わらず収益最大化に向けて邁進していくと考えられる。
10. まとめ
2023年10月のExxonMobil及びChevronのM&A発表以降、引き続き、シェールM&Aは石油資産を中心に活況を呈する。シェール企業の合理化とシェール産業の寡占化が同時に進行するが、シェールの規模、技術力と競争力も拡大中だ。ただ、大型合意のいくつかは年内成立に向けて未だ審査段階である。今後の展開を注視していきたい。
以上
(この報告は2024年9月5日時点のものです)