ページ番号1010203 更新日 令和6年9月10日
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概要
- WEI 2024は上流開発投資と比べてクリーンエネルギー投資が急速に増加していると報告しているが2015年以降再エネ投資を拡大していたメジャー企業の低炭素化技術投資はむしろ縮小している。
- 欧州系を中心に再エネ投資の拡大を牽引してきたメジャー企業であるが、新型コロナ感染拡大と地政学的情勢の変化を経て、米系メジャーも巻き込んだ形でCCS・水素・低炭素燃料等の低炭素技術ベンチャー企業へのポートフォリオ投資を拡大しエネルギートランジション戦略を転換している。
1. はじめに
国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)が6月に発表した世界エネルギー投資報告(WEI 2024:World Energy Investment 2024)[1]は今年のエネルギー投資の総額が3兆ドルに達するとの見通しを示している(図1)。3兆ドルの内訳は、石油・天然ガスに石炭を含めた化石燃料(Fossil fuels)の上・中・下流事業投資1兆ドルに対し、再生可能エネルギー(Renewable power)・電力網整備(Grid and storage)・省エネ技術(Energy efficiency and end-use)・原子力クリーンエネルギー発電(Nuclear & other clean power)・低排出燃料(Low-emission fuels)等のクリーンエネルギー関連技術に対する投資2兆ドルとなっている。2015年にパリ協定が採択された後も暫く伸び悩んでいたクリーンエネルギー投資が新型コロナウィルスの感染が始まった2020年以降増加ペースを加速している。これに対して化石燃料投資は2020年に大幅に減少した後、エネルギーセキュリティやアフォーダビリティに対する意識の高まりから回復傾向にはあるものの、エネルギートランジション(座礁資産化リスク)や財務規律の要請等が逆風となりコロナ前の水準には達していない。
またWEIは2024年の石油・天然ガス上流開発投資が7%増の5,700億ドル程度となる見通しを示しており、9%増となった2023年と比較するとやや減速となっている。この背景としては、メジャー企業等の民間セクターにおいて2015年以降のエネルギートランジションによる脱炭素化の流れの中でエネルギー価格の急上昇によって生じた余剰キャッシュフローが上流開発投資に向かわない反面、新規の探鉱開発投資の大宗を占める中東・アジアの国営石油会社が国際資本市場からの資金調達に制約を受けていることが指摘されている(図2)。
WEIでは世界全体の石油・天然ガス関連投資の水準5,700億ドルが概ねIEAの表明政策シナリオ(STEPS)に沿った水準であるが、生産増加地域(南・北米)と投資増加地域(中東・アジア)の間に地域毎の齟齬があることも指摘されている。石油・天然ガス企業によるクリーンエネルギー投資はパリ協定成立以降、太陽光(Solar PV)や風力(Wind)等の再生可能エネルギー(発電)を中心に増加してきたが、2022年以降は二酸化炭素回収貯留(CCUS)・低炭素燃料(バイオ燃料)等の低炭素技術関連投資が拡大している(図3)。このような背景を踏まえ、本稿ではメジャー企業の生産・投資動向とクリーンエネルギー・ベンチャー投資戦略に注目してみることとした。
2. メジャー企業の石油・天然ガス生産・投資ビジネスモデル
世界の石油・天然ガス生産におけるメジャー企業5社(ExxonMobil、Chevron、Shell、BP、TotalEnergies)は中東・アジアの国営石油企業が躍進するのに応じて低下傾向にあるにもかかわらず依然として大きな存在感を維持している。その事情として上流開発分野における技術的な優位性に加え、精製・石油化学・製品販売・トレーディング等の中・下流分野を統合することで生まれる安定したキャッシュフローと財務基盤により設備投資を持続可能にする垂直統合型ビジネスモデルがある。
(1) ExxonMobilの石油・天然ガス生産・投資動向
ExxonMobilの2023年の石油・天然ガス生産は日量、石油換算374万バレルとなっており、ピークの2011年451万バレルから減少傾向にある(図4)。石油業界全体ではガスシフト等と言われるように天然ガスの生産拡大が進む中、ExxonMobilでは天然ガスの占める割合が2011年49%から2023年34%に漸減している。米国パーミアンのシェールオイルや南米ガイアナの海上油田の増産など石油生産量は2011年231万バレルから2023年245万バレルへと漸増したため石油の占める割合が高まっている。
2023年最終利益は360億ドルとなり2022・2012年に次ぐ高水準となった。部門別には上流開発部門の占める割合は2010年代前半の8割から6割に低下している一方、2023年は7月にCO2パイプラインのデンベリー、10月シェール開発のパイオニアの買収を発表するなど、徐々にポートフォリオの重心が大型フロンティアからショートサイクル、上流開発から非在来・M&A・脱炭素技術関連に移っている。
出所:ExxonMobil, Evaluate EnergyよりJOGMEC作成[2]
2023年のExxonMobilの設備投資額は263億ドル、ガイアナ海上油田開発に加え、カタールの天然ガス液化事業や米国シェール等の大規模プロジェクトがあったため上流開発部門の割合は75%と引き続き(圧倒的に)高いが、CCS・バイオ燃料リサイクルなど脱炭素化技術に対する投資(中下流・石油化学・その他)部門の占める割合が拡大している(表1)。
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成
(2) Chevronの石油・天然ガス生産・投資動向
Chevronの2023年の石油・天然ガス生産は日量、石油換算312万バレルとなり、2014年257万バレルから増加している。天然ガスの割合が2010年30%から2023年41%に拡大しているのは豪州・中央アジアにおける生産増加を反映したもの。石油生産は2010年192万バレルから183万バレルへと減少しているが、東地中海などで天然ガスの生産拡大は継続する見通し。
2023年の最終利益は214億ドルとなり2022年(355億ドル)比では減少したものの2010年代前半並みの高い水準を維持している。他方、部門別利益に占める上流開発の割合は2010年代前半の9割超から8割まで低下している。
出所:Chevron, Evaluate EnergyよりJOGMEC作成[3]
2023年は5月にシェール開発企業PDC Energy、9月に低炭素水素技術企業ACE Delta, LLC、10月にHessの買収を発表するなど非在来・M&A・脱炭素関連の投資を拡大する動きが見られる。米国シェール・ガイアナ沖・メキシコ湾油田・東地中海ガス田等の上流開発を拡大している一方で、部門別設備投資に占める割合は低いもののCCS・水素事業、バイオ燃料、SAF、核融合、地熱発電技術等へのベンチャー投資への取り組みも強化している(表2)。
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成
(3) Shellの石油・天然ガス生産・投資動向
Shellの2023年の石油・天然ガス生産は日量、石油換算275万バレル、前年比では大きく変わらないが、天然ガス生産の減少によりコロナ前の水準(360万バレル)を回復していない。2021年にパーミアンのシェール資産を売却しており、米国メキシコ湾海上油田とカタールなどの天然ガス液化事業は拡大しているものの、2020年以降、石油・天然ガス生産量は減少傾向が続いている。
2023年の最終利益は194億ドルと前年423億ドルから大幅に減少、2010年代前半の水準もやや下回った。194億ドルの最終利益に占める上流部門の割合は8割と大きいが、2022年の9割からは減少している。採算性の高い高機能製品やLNGポートフォリオの貢献により中・下流部門のシェアは2022年5%から2023年は15%に拡大した。
出所:Shell, Evaluate EnergyよりJOGMEC作成[4]
設備投資総額は2020年177億ドルから244億ドルに拡大しているが上流開発は116億ドルから125億ドルへ8%の増加に留まったのに対し、中・下流、電力、石油化学の各分野でEV充電・バイオ燃料等の低炭素技術に重心を移す動きが加速しておりCCS・水素事業に対する投資を拡大する動きが見られる(表3)。
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成
(4) BPの石油・天然ガス生産・投資動向
BPの石油・天然ガス生産はロスネフチ出資分が不計上となったことで2022年に大幅に減少、2023年の石油・天然ガス生産は日量、石油換算227万バレルとなった。2020年に発表したカーボンニュートラル戦略では石油・天然ガス生産を2030年までに40%削減する計画であったが、昨年発表された計画は2027年まで平均3%生産を増加しロシア事業縮小分100万バレル相当を回復する現実路線に戻っている。
2023年の最終利益は152億ドル、前年25億ドルの損失からは回復したもののメジャー企業5社中最下位、利益の大宗を占めるのは上流開発部門であるがこの中には石油・天然ガス(LNG)のトレーディング事業の寄与分が含まれ、これにより米国NY州の洋上風力発電事業の減損処理をカバーした。
設備投資増加の中心は上流開発部門であり、2018年に豪州資源大手BHPから買収した米国の陸上上流資産を中心に東地中海、アゼルバイジャン、アンゴラ、モーリタニア、セネガルの油ガス田で12~16件のFIDと8~10件の操業開始を見込み、シェールオイル65万バレルとメキシコ湾海上油田35万バレルの増産によりロシア事業縮小分を補填する計画である(表4)。
出所:BP, Evaluate EnergyよりJOGMEC作成[5]
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成
(5) TotalEnergiesの石油・天然ガス生産・投資動向
2023年の石油・天然ガス生産量は239万バレル相当、上流開発に占める天然ガスの割合は35%で、TotalEnergies はShellに次ぐLNGポートフォリオプレーヤーと言われるがメジャー企業5社の中ではExxonMobilの34%に次いで低い。
2023年最終利益は214億ドル、上流開発事業部門は前年の117億ドルから153億ドルに増加したが、この中には好調だったLNGバリューチェーンのLNGトレーディング収入が含まれている。ブラジル・ナイジェリア・イラクの石油、オマーン・アゼルバイジャンの天然ガスの生産が開始した一方で、中・下流・電力(再エネ)事業部門の利益が減少した。
出所:TotalEnergies, Evaluate EnergyよりJOGMEC作成[6]
TotalEnergiesはエネルギー価格上昇の機会を利用した「バランスの取れたマルチエネルギー戦略」を標榜しており、6つの従来型製油所と2つのバイオリファイナリーで使用する年間50万トンのグリーン水素の入札を実施するなど脱炭素化による企業価値の向上を目指している[7]。太陽光・洋上風力等の再生可能エネルギー投資により低炭素エネルギーのトレーディング事業を強化する動きはメジャー企業の垂直統合型ビジネスモデルのエネルギートランジション対応として注目される。今後もSAF・バイオ燃料・水素利用も含め低炭素燃料投資などトランジション関連事業の拡大が注目される(表5)。
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成
3. メジャー企業の低炭素事業ポートフォリオ
パリ協定が採択された2015年から2024年上半期までの9年半の間にメジャー企業が行った低炭素化投資780件/総額1,810億ドルを投資形態(ベンチャー~最終投資段階)と事業分野(CCS・水素・再エネ等関連技術別)のマトリクスとして分類し件数・金額(百万ドル単位)別に集計した結果を表1に示す。
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成[8]
投資形態は合弁事業(Joint Venture)・資本投資(Capex Investment)・買収(Acquisition)・ベンチャーキャピタル投資(VC Investment)・研究開発(R&D)・覚書(MOU)・その他(Others)の7分類(行)で示している。合弁事業・資本投資・買収の上位3投資形態は最終的な機関決定が行われた投資決定段階に対応しており、従って金額別の集計に占める割合では圧倒的に大きい。研究開発・覚書はベンチャー段階の中でも特に早期のものであり(プレシード・アーリーステージ以前)、件数に占める割合は相応にあるが金額的には極めて小さい。ベンチャー段階と投資決定段階の過渡期に位置付けられるのが(コーポレート・)ベンチャーキャピタル投資(VC Investment)であり、メジャー企業の内部でファンドを設定し、1件当たりの投資金額を限定して分散することで意思決定の迅速化を実現している。
事業分野(関連技術)別にはCCS(CCS & Carbon Removal)・低炭素水素(Hydrogen & L-C Fuels/Gases)・再エネ発電(L-C Power Generation)・モビリティ(EV &Mobility)・省エネ技術(Electricity Solutions)・その他(Others)の6分類(列)で示している。CCS・低炭素水素の両分野ではベンチャー段階(R&D・覚書から最終投資段階(合弁事業・資本投資・買収)まで多様な投資形態があるのに対し、再エネ発電・モビリティ・省エネ技術の各分野では投資決定段階が中心で、ベンチャーキャピタル投資も相応にあるが、研究開発・覚書等の初期/ベンチャー段階の投資は限定的である。
低炭素化投資は件数ベース 2021年、金額ベース 2022年がピークで減少傾向にあり、今後のメジャー企業の低炭素化投資の重心が再エネ発電を中心とした投資決定段階のものからCCS・低炭素水素を中心としたベンチャー段階に移行しつつあることが読み取れる(図9)。
(1) ExxonMobilの低炭素事業ポートフォリオ
ExxonMobilの低炭素事業ポートフォリオではメジャー企業中で唯一、事業分野別の再エネ発電、投資形態別のベンチャーキャピタル投資を行っていない点で特徴的である。特に大学・研究機関との研究開発投資・協力(R&D)に注力しており、省エネ技術関連でスタンフォード・プリンストン・テキサス大学オースチン校、低炭素水素関連ではコロラド・ミシガン・ウィスコンシン大学、CCS関連ではカリフォルニア大学バークレー校と連携している。またNational Energy Technology Laboratory等の国立技術研究機関とも強固な関係を構築している。
ExxonMobilは2022年4月に組織改編を行って化学部門と川下部門を統合、技術・エンジニアリング部門とサービス部門を一元化し、Upstream、Product Solutions、Low Carbon Solutionsの3つの事業部門を単一の技術組織Technology and Engineering(EMTEC:ExxonMobil Technology and Engineering Company)によってサポートする体制とした。EMTECは技術能力の集中を通じ、排出削減コストを抑制する新技術開発、温室効果ガス排出削減、プラスチック廃棄物リサイクル等の研究開発を強化している。CCS関連でペトロナス・プルタミナ・日本製鉄等の外国企業との協力覚書MOUを結び、低炭素水素関連でもスコットランド・ノルウェー・シンガポール企業と連携する動きなど投資形態別に最終投資決定前のベンチャー技術ポートフォリオにおける「上流部門」における取組みに積極的であり、ベンチャーキャピタル投資を回避していることと合わせて特徴的な動きを見せている(図10、表8)。
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成
(2) Chevronの低炭素事業ポートフォリオ
Chevronの低炭素事業ポートフォリオを事業分野別にみると低炭素水素とCCS関連の占める割合が大きいが、再生可能エネルギーにも投資している点でExxonMobilと対比される。ベンチャーキャピタル投資に積極的な点もExxonMobilと対照的な点であり、特にCCS関連や再エネ発電関連のベンチャー企業に対する投資している。CCS関連ではJERA等の外国企業とMOU、豪州の企業・研究所とNature-Based SolutionsのR&Dでも積極的に取り組んでいる。再エネ発電関連では風力・太陽光のほか地熱・核融合のベンチャーキャピタル投資・R&D・MOUがある。
低炭素水素技術関連ではトヨタ・キャタピラーと輸送分野における水素利用の共同研究が始まっているほか、ベンチャーキャピタル投資・R&D・MOU等の比較的上流の分野における他社・機関との連携を強化している。また電化技術(バッテリー)やEVモビリティ(充電)のベンチャーキャピタル投資のほか、排出量計測技術開発にも参画するなど低炭素事業ポートフォリオの分散を進めている。
ChevronにはChevron Technology Venturesというコーポレート・ベンチャーキャピタルがあり、従来は石油・天然ガス事業を補完してきたが、2021年にFuture Energy Fundを組成し、低炭素水素・再エネ発電・省エネ技術など低炭素事業技術・ベンチャー企業に対するポートフォリオ投資を強化している(図11、表10)。
公表時期 | 案件(企業/プロジェクト)名 | 所在地 | 投資形態 | 事業分野 | 金額(M$) | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
2018 Q4 | ChargePoint | US | VC Investment | EVs & Mobility | 40 | |
2019 Q4 | Infinitum Electric | US | VC Investment | Electricity Solutions | 4 | |
2020 Q3 | Zap Energy Inc. | US | VC Investment | L-C Power Generation | 3 | https://www.chevron.com/stories/chevron-invests-in-nuclear-fusion-start-up(外部リンク) |
2021 Q1 | Eavor Technologies | Canada | VC Investment | L-C Power Generation | 7 | |
2021 Q2 | Toyota MOU | US | R&D | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | - | https://www.chevron.com/stories/chevron-toyota-pursue-strategic-alliance-on-hydrogen(外部リンク) |
2023 Q1 | Chevron Jera CCS | Global | MOU | CCS & Carbon Removal | - | https://www.chevron.com/newsroom/2023/q1/chevron-jera-sign-mou-to-explore-carbon-capture-and-storage-projects-in-united-states-australia(外部リンク) |
2023 Q2 | Niseko ACL Geothermal Pilot | Japan | R&D | L-C Power Generation | - | https://www.chevron.com/newsroom/2023/q2/commencement-of-pilot-tests-of-new-geothermal-technology-with-chevron-in-japan(外部リンク) |
2023 Q3 | Carbon Sync | Australia | R&D | CCS & Carbon Removal | - | https://www.chevron.com/newsroom/2023/q3/chevron-to-fund-new-soil-carbon-capture-pilot-and-blue-carbon-research-projects-in-western-australia(外部リンク) |
2024 Q2 | ION Clean Energy | US | VC Investment | CCS & Carbon Removal | 30 | https://www.chevron.com/newsroom/2024/q2/chevron-invests-in-carbon-capture-and-removal-technology-company-ion-clean-energy(外部リンク) |
2024 Q2 | Aether Fuels | US | VC Investment | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | 3 |
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成
(3) Shellの低炭素事業ポートフォリオ
Shellの低炭素事業ポートフォリオは、事業分野別には再エネ発電(L-C Power Generation)・低炭素水素技術(Hydrogen & L-C Fuels/Gases)関連が件数・金額ベースともに最大であるが、省エネ技術・EVモビリティ・CCS関連にも積極的である。累積ベースでは1件当たり投資金額の大きい洋上風力・太陽光発電を擁する再エネ発電の占める割合が大きいが、2022年をピークに頭打ち傾向となっており、代わってシェアを高めているのがCCS(CCS &Carbon Removal)・低炭素水素関連である。これらの中にDACやバイオ燃料が含まれる。
Shellはコーポレート・ベンチャーキャピタルShell Venturesを通じた取組みに特徴があり、省エネ技術・EVモビリティ・低炭素水素関連を中心にCCS関連でもベンチャーキャピタル投資を行っている。
低炭素水素案件としてはバイオ燃料・合成ガス・水素利用(輸送)技術に対してベンチャーキャピタル投資のほかR&D・MOUも含まれる。CCS関連では米国のスタートアップ企業とDAC分野でR&D、アジア・中東におけるMOU等がある。
ほかにも三菱商事とのカナダにおけるブルー水素をはじめ、欧州(蘭・独)・中東(オマーン)で低炭素水素技術のMOU・その他協力を手掛け、EVモビリティ・その他の事業分野では、建設・不動産・ドローン企業の低炭素スタートアップへのベンチャーキャピタル投資、その他の投資形態にはマイクロソフト・グーグルなど低炭素事業全般には分散している(図12、表12)。
公表時期 | 案件(企業/プロジェクト)名 | 所在地 | 投資形態 | 事業分野 | 金額(M$) | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
2019 Q1 | Nordsol | Netherlands | VC Investment | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | 5 | |
2020 Q3 | Shell - Microsoft Alliance | US | Other | Electricity Solutions | - | |
2020 Q3 | Shell - Alphabet (GB) Partnership | UK | Other | EVs & Mobility | - | |
2020 Q4 | ZeroAvia | Global | VC Investment | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | 4 | https://shellrecharge.com/en-gb/solutions/knowledge-centre/pressroom/alphabet-pr(外部リンク) |
2021 Q2 | Lanzajet | US | VC Investment | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | 41 | |
2021 Q3 | Mitsubishi - Shell MOU | Canada | MOU | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | - | https://www.energyintel.com/00000187-0c5f-dafa-a3e7-0f5fe1530000(外部リンク) |
2021 Q3 | AquaSector | Germany | Other | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | 113 | https://www.energyintel.com/0000017b-daee-d059-a3ff-fffe5e730000(外部リンク) |
2021 Q4 | Fifth Wall Climate Tech Fund | US | VC Investment | Other | 23 | https://www.energyintel.com/pages/eig_article.aspx?DocId=1112104&NLID=31(外部リンク) |
2022 Q4 | Shell - GE Hydrogen Agreement | Global | R&D | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | - | |
2023 Q3 | Duqm Blue Hydrogen and Ammonia Project | Oman | R&D | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | - | |
2023 Q3 | Avnos | US | VC Investment | CCS & Carbon Removal | 27 | |
2024 Q1 | Shell - Bloom Electrolyzer Technology | US | R&D | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | - | https://www.energyintel.com/00000189-6577-d10f-adfd-65ffbe870000(外部リンク) |
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成
(4) BPの低炭素事業ポートフォリオ
BPの低炭素事業ポートフォリオは再エネ発電・低炭素水素関連の占める割合が件数・金額ベースともに大きいが、2021年をピークに太陽光発電プロジェクトは頭打ち傾向となっており、洋上風力もビジネスモデルの見直しが求められている。代わってシェアを高めているのがCCS(CCS &Carbon Removal)・低炭素水素関連であり、EVモビリティや省エネ関連ベンチャー投資案件も注目される。
BPはコーポレート・ベンチャーキャピタルBP Venturesを活用してEV充電・サービス技術などEVモビリティ関連の分野で欧・米・アジアのスタートアップ企業投資にベンチャーキャピタル投資を行っているほか、低炭素水素(電解槽技術)、CCS(CO2回収・貯留)、核融合発電(L-C Power Generation)等の技術分野でもベンチャーキャピタルを活用している。その他の事業分野(Others)にも食料・森林へのベンチャーキャピタル投資が含まれる(図13、表14)。
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成
(5) TotalEnergiesの低炭素事業ポートフォリオ
TotalEnergiesの低炭素事業投資はメジャー企業中で最大、事業分野別では再エネ発電・低炭素水素関連に次いでCCS・省エネ・EVモビリティ関連のウェイトが大きい。2015~19年に低炭素化技術スタートアップ企業への投資を実施していたが、2023年6月に少数株主持分の大部分をプライベートエクイティのAsterに売却し事業部門に直接統合の選別・技術革新の加速を図っている。
2022年には再エネ発電・EVモビリティ・省エネ技術に加えて低炭素水素・CCS関連のアーリーステージのスタートアップ企業を対象としたアクセラレーション・プログラムTotalEnergies Onを始め基礎研究から製品開発を加速させるとしている。選別されたスタートアップ企業に対しインキュベーター・キャンパス(Station F)において6ヶ月間コンセプト実証(Proof of Concept)を支援する。企業発掘から合弁事業、資本投資、買収に結び付ける取組みは先進的なベンチャーキャピタル戦略として注目される(図14、表16)。
公表時期 | 案件(企業/プロジェクト)名 | 所在地 | 投資形態 | 事業分野 | 金額(M$) | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
2016 Q1 | Sunverge Energy | US | VC Investment | Electricity Solutions | 7 | |
2017 Q2 | Elroy Air | US | VC Investment | EVs & Mobility | 1 | |
2018 Q! | Zola Electric | Tanzania | VC Investment | L-C Power Generation | 8 | |
2018 Q2 | Ionic Materials | US | VC Investment | Electricity Solutions | 5 | |
2021 Q4 | Forest Preservation - Suriname | Suriname | MOU | CCS & Carbon Removal | - | https://totalenergies.com/media/news/press-releases/TotalEnergies-Contributes-to-Preserve-Suriname-s-Forests(外部リンク) |
2022 Q2 | SAF at Negishi Refinery - Feasibility Study | Japan | R&D | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | - | https://totalenergies.com/media/news/press-releases/japan-totalenergies-and-eneos-study-sustainable-aviation-fuel-production(外部リンク) |
2023 Q3 | Zhero Energy | Europe | VC Investment | L-C Power Generation | - | https://totalenergies.com/media/news/press-releases/totalenergies-baker-hughes-technip-energies-azimut-and-other-investors(外部リンク) |
2024 Q1 | TotalEnergies - Airbus SAF Supply Partnership | Europe | MOU | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | - | https://totalenergies.com/media/news/press-releases/airbus-and-totalenergies-sign-strategic-partnership-sustainable-aviation(外部リンク) |
2024 Q1 | TotalEnergies - Airbus SAF Research Program | Europe | R&D | Hydrogen & L-C Fuels/Gases | - | https://totalenergies.com/media/news/press-releases/airbus-and-totalenergies-sign-strategic-partnership-sustainable-aviation(外部リンク) |
2024 Q1 | Attentive Energy Biodiversity and Environmental Conservation | US | R&D | Other | 21 |
出所:Energy IntelligenceよりJOGMEC作成
4. まとめ
垂直統合型ビジネスモデルの強みを活かして持続可能な設備投資を実現してきたメジャー企業にとって、新型コロナウィルス感染拡大と地政学的状況変化を経てクリーンエネルギー技術スタートアップ企業に対するポートフォリオ投資を拡大する動きは垂直統合型ビジネスモデルのエネルギートランジション対応と位置付けることができる。コーポレート・ベンチャーキャピタルにより投資判断を迅速化するメジャー企業は再生可能エネルギー発電からCCS・低炭素水素・省エネ技術等のベンチャーに投資ポートフォリオの重心をシフトしている。
多国籍企業であるメジャー企業は国・地域毎に異なるエネルギートランジションの隘路・低炭素経済への移行ペースを超えて設備投資を行うメジャー企業は各国・地域毎の事業環境に即したインターナル・カーボンプライスを適用し、低炭素事業ポートフォリオの構築を加速している。各国・地域毎に異なるCCS・水素・低炭素技術支援スキームの整備が進み、需要確保や炭素市場・価格の導入といった課題はあるものの、各国・地域毎に異なるビジネスモデルにプラグマティックに対応することでカーボンニュートラル目標に向けて前進することで共通している。上流開発投資における垂直統合戦略と同様、エネルギートランジション対応におけるメジャー企業の低炭素化技術ベンチャー投資・ポートフォリオ戦略にも注目したい。
[1] IEA, World Energy Investment 2024, World Energy Investment 2024 – Analysis - IEA(外部リンク), 2024年6月
[2] ExxonMobil, Annual Report, Annual reports :: Exxon Mobil Corporation (XOM)(外部リンク), 2024年2月28日
[3] Chevron, Annual Report, Reports and Filings | Chevron — Chevron(外部リンク), 2024年2月26日
[4] Shell, Annual Report, Annual reports and publications | Shell Global(外部リンク), 2024年3月10日
[5] BP, Annual Report, Investors | Home (bp.com)(外部リンク), 2024年3月8日
[6] TotalEnergies, Annual Report, Investors | TotalEnergies.com(外部リンク), 2024年2月7日
[7] 従来型製油所(Antwerp、Leuna、Zeeland、Normandy、Donges、Feyzin)とバイオリファイナリー(La Mède、Grandpuits)で使用する水素を脱炭素化するため2023年9月に入札を行い、2024年6月Air Productsとの間で2030年から15年間に亘って年間7万トンの供給を受けることで合意している。(Decarbonization of European Refineries: A first agreement signed between TotalEnergies and Air Products for the delivery of Green Hydrogen | TotalEnergies.com)(外部リンク)
[8] Monica Enfield, “Low-Carbon Investment Tracker : Broad-Based Decline Continues”, Energy Intelligence, 2024年7月15日
以上
(この報告は2024年9月9日時点のものです)