ページ番号1010208 更新日 令和6年9月17日
原油市場他:季節的な石油需給緩和感に加え、中国等の経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念で2023年12月以来の低水準に下落する原油価格
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概要
- 米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了しつつあったこともあり、製油所における石油製品製造活動がもたつき気味となった結果、ガソリン及び留出油両在庫は若干ながら減少傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年幅下方付近に位置する、それぞれ量となった。また、併せて原油輸入が減少しつつあったことから、原油在庫も減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。
- 2024年8月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、日本では一部製油所が予定外で操業を停止したことにより在庫が増加したものの、米国で減少した他、欧州においても不具合が発生により停止していた製油所での操業が再開されたこともあり原油在庫が減少したことで相殺されて余りある状態であったことから、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国においてはガソリンや留出油の在庫が減少したこともあり、石油製品全体でも在庫は減少となった。ただ、欧州では製油所の石油製品製造活動が活発化した一方、石油製品需要が伸び悩み気味となった他、日本においても軽油需要が抑制された結果当該製品在庫が増加した他、冬場の暖房用需要期ではなかったことに伴い灯油在庫が積み上がったこと等もあり、石油製品全体の在庫も増加した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は増加した他平年幅上方付近に位置する量となった。
- 2024年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場においては、8月23日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が政策金引き下げ実施を示唆したことに加え、リビアにおいて原油生産の大規模停止の恐れが生じたこと等が8月下旬前半を中心とする時期において原油相場に上方圧力を加えた。しかしながら、それ以降は、米国や中国経済指標類が、両国経済が減速しつつある旨示していたことに加え、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことにより季節的な石油不需要期を市場が意識したこと等が原油相場に下方圧力を加えた。このため、原油相場は下落傾向となり、9月10日には原油価格は1バレル当たり65.75ドルの終値と2023年12月1日以来の低水準に到達する場面も見られた。
- 夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了した一方、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要が意識されるには時期尚早であることから、この先当面季節的に原油相場には下方圧力が加わりやすいものと考えられる。また、米国や中国の経済指標類等の内容とこれら諸国の政府や金融当局による政策等によっては、経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大する結果、原油相場を抑制する形で作用する可能性があるものと見られるが、米国金融当局が大幅な政策金利引き下げを実施する旨決定するようであれば、米国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大する結果、原油相場が上振れすることもありうる。そのような中、米国主要企業の2024年7~9月期等の業績、米国メキシコ湾周辺地域におけるハリケーン等暴風雨の来襲状況及び予報、中東やウクライナ及びロシア、リビア等を巡る情勢等が原油相場に影響を与えうるものと考えられる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2024年6月の米国ガソリン需要(確定値)は日量912万バレル、前年同月比で2.6%程度の減少となり(図1参照)、5月の当該需要である同940万バレルから需要量が減少したうえ、同月の前年同月比3.5%程度の増加から減少に転じた。また、当該需要は速報値(前年同月比1.5%程度減少の日量930万バレル)から下方修正されている。5月は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月27日)に伴う連休(5月25~27日)があったため、それを控え乗用車への給油活動が活発になった一方、6月は連休や休日はなかったこともあり、給油活動が一段落したことにより、6月の同国ガソリン需要が前月比で減少した他、2024年6月は米国の北東部や中西部の一部地域等で気温が大幅に上昇する場面が見られたことにより、高温を嫌って個人の外出が敬遠されたことが、同月の米国の自動車運転距離数を抑制したとされる(同月の同国自動車運転距離数は1日当たり94.8億マイルと前年同月比で0.4%の減少となった)ことが、同月のガソリン需要を前年同月比で減少させた一因となっているものと見られる。なお、2024年6月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年6月の当該需要(日量970万バレル)(確定値)を6.0%程度下回っている。他方、2024年8月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量909万バレル、前年同月比で1.7%程度の減少と、2024年7月の当該需要(速報値)である日量916万バレルから需要量が若干ながら下振れしたうえ、同月の前年同月比2.0%程度の増加から減少に転じた。夏場のドライブシーズンに伴う個人の外出活動は、7月4日の米国の独立記念日(インディペンデンス・デー)に伴う休暇シーズンでピークを迎えた後、8月31日から9月2日にかけての連休(9月2日が労働者の日(レイバー・デー)に伴う休日)のドライブシーズン終了に向けに不活発化する方向に向かったことが、8月の米国ガソリン需要が7月の水準を下回った背景にあるものと考えられる。また、8月31日から9月2日にかけての米国労働者の日(レイバー・デー)の連休時(8月29日~9月2日)の国内旅行予約は前年比で9%増加するものと見込んでいるものの、旅行費用は前年比で2%の減少となる旨8月19日に米国自動車協会(AAA)が明らかにするなど、外出費用を抑制するために米国の個人が短期間かつ短距離の旅行を中心としたこと(2024年1~8月の実施個人可処分所得が前年同月に比べ伸び悩み気味となっていたことが影響している可能性がある)により、米国労働者の日の連休に伴う休暇シーズンを控えた乗用車への給油量等が抑制されたものと見られることが、8月の米国ガソリン需要が前年同月比で減少となった背景にあるものと考えられる。なお、2024年8月の米国ガソリン需要は2019年8月の当該需要(日量983万バレル)(確定値)を7.6%程度下回っている。また、米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来に向け、製油所での春場のメンテナンス作業が終了するとともに不具合が発生した装置の改修が進んだ他、2024年の米国戦没将兵追悼記念日(5月27日)に伴う連休時(5月25~27日)の休暇シーズンにおいて同国で乗用車を利用して外出する個人数が2000年以降の統計史上最高水準に到達するものと見込んでいる旨5月13日にAAAが明らかにしたこともあり、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要の盛り上がり期待から、同国製油所の原油精製処理量は、5月31日の週に日量1,714万バレルと2019年12月27日の週(この週は同1,728万バレル)以来の高水準に到達した(図2参照)ため、それに併せてガソリン製造活動も活発化した(ガソリン最終製品生産量は図3参照)。しかしながら、足元のガソリン需要はそれほど盛り上がらなかったことにより、5月上旬から6月上旬にかけ同国のガソリン在庫が増加傾向となったこともあり、製油所におけるガソリン製造に伴う利幅が縮小傾向となったことや、7月4日の米国独立記念日が過ぎ9月2日の米国労働者の日に向け夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が視野に入り始めたことが、製油所におけるガソリン製造に伴う利幅を一層圧迫する格好になるとともに、同国製油所の一部が秋場の製油所のメンテナンス作業実施を控えて稼働を抑制したものと見られる他、一部製油所では実際にメンテナンス作業を実施したり、装置に不具合が発生したりしたことにより、原油精製処理活動がもたつき気味となった。そして、これに伴い製油所でのガソリン製造活動も相対的に不活発化したものと見られることが一因となり、同国のガソリン在庫は、8月上旬から9月上旬にかけては減少傾向とはなったものの、その傾向はそれほど強くなかった他、平年幅上限を超過する状態となっている(図4参照)。
2024年6月の米国留出油需要(確定値)は日量359万バレル、前年同月比9.7%程度の減少となり(図5参照)、5月の同378万バレル(前年同月比3.6%程度の減少)から需要量が減少したうえ、前年同月比での減少率は拡大した。また、当該需要は速報値(前年同月比7.1%程度減少の日量370万バレル)から下方修正されている。6月の米国鉱工業生産は前月比で0.3%、前年同月比で1.1%の、それぞれ増加となっていたこともあり、同月の物流活動も前月比では0.1%の減少となったものの前年同月比では0.8%の増加となった。また、同月の全米平均軽油小売価格は1ガロン当たり3.722ドルと前月(同3.822ドル)及び前年同月(同3.802ドル)に比べても下落していることにより、この面では、同国留出油需要は前月比及び前年同月比で増加していても不思議ではないところ、両面で減少となっていることから、当該需要は7月において反動で上振れすることもありうる(因みに2024年7月の同需要(速報値)は日量364万バレルであり6月(確定値)から増加している他、前年同月比でも1.6%の増加となっている)。なお、2024年6月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量399万バレル)(確定値)10.0%程度下回っている。他方、2024年8月の米国留出油需要(速報値)は推定日量371万バレル、前年同月比で8.4%程度の減少となり、7月の当該需要量(速報値)である日量364万バレル、前年同月比で1.6%程度の増加と比べ、需要量は若干ながら増加したものの前年同月比では増加から減少に転じた。8月の米国鉱工業生産は前月比で推定0.4%の増加となるとともに、物流活動も底堅く推移したものと見られることが、同月の留出油需要が前月比で増加した背景にあるものと考えられる。ただ、2023年8月は中国政府等による景気刺激策実施に伴う同国石油需要の伸びの加速期待や一部OPECプラス産油国による減産延長の動き、ウクライナとロシアとの間での戦闘激化に伴うタンカーによる石油輸送等への影響を巡る懸念等もあり、原油価格が上昇するとともに、全米平均軽油小売価格の先高感が市場で強まったことにより、軽油価格が高水準に到達する前に駆け込みで軽油を購入する動きが発生したものと見られることが、同月の留出油需要を押し上げる格好となった。そしてその反動で2024年8月の米国留出油需要が前年同月比で相当程度の減少を示したものと考えられる。なお、2024年8月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量403万バレル)(確定値)を7.8%程度下回っている。そして、米国の製油所の稼働がもたつき気味で推移した結果、留出油製造活動も比較的限られた範囲に抑制される格好となった(図6参照)反面、8月前半を中心とする時期においては米国の留出油需要もそれなりに堅調であった他、欧州における夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期(欧州ではディーゼル車が乗用車として浸透している)に伴い米国から欧州方面への軽油輸出活動が活発化した結果、8月上旬から下旬にかけては米国の留出油在庫は減少傾向となったものの、その後は欧州における夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期の終了が視野に入り始めたこともあり、米国からの輸出活動が不活発化し始めたことから、9月上旬においては米国留出油在庫は増加した結果、8月上旬以降の当該製品在庫減少の相当部分を相殺する形になった一方、平年幅下方に位置する量となっている(図7参照)。
2024年6月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比2.4%程度減少の日量2,025万バレルとなり(図8参照)、5月の同2,080万バレルから需要量が減少した他、同月の前年同月比2.3%程度の増加から減少に転じた。ガソリン及び留出油の両需要が前月比及び前年同月比で減少したことが、同国石油需要の前月比及び前年同月比での減少の主要因となっている。また、ガソリンや留出油のみならずその他の石油製品等の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたことから、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比0.8%程度減少の日量2,058万バレル)から下方修正されている。なお、2024年6月の米国石油需要は2019年6月の当該需要(日量2,065万バレル)(確定値)を2.0%程度下回っている。他方、2024年8月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,067万バレル、前年同月比で0.5%程度の減少となっており、7月の同国石油需要(速報値)である日量2,036万バレル、前年同月比1.6%程度の増加から、需要量は増加したものの前年同月比では増加から減少に転じた。その他の石油製品等の需要が前月から相当程度増加していることが、同国石油需要の前月比での増加に反映されている一方、2024年8月のその他の石油製品の需要が前年同月比で増加したものの、ガソリン及び留出油等の需要が前年同月比で減少したことにより相殺されて余りあったことが、同月の米国石油需要が前年同月比で減少した背景にある。ただ、8月のその他の石油製品の需要は推定日量511万バレルと2023年7月~2024年6月の当該需要(確定値)である同412~478万バレルを相当程度上回っていることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正される結果、同国の石油需要(確定値)がその影響を受ける可能性があることも否定できないものと考えられる。なお、2024年8月の米国石油需要は2019年8月の当該需要(日量2,116万バレル)(確定値)を2.3%程度下回っている。また、米国の原油生産量が概ね横這いの中、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越えつつあるとの認識が同国石油市場で広がるとともに、同国への原油輸入が減少傾向となったこともあり、8月上旬から9月上旬にかけ米国原油在庫は減少傾向となったものの平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン両在庫が平年幅上限を超過する一方、留出油在庫が平年幅下方付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2024年8月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、日本においては一部製油所が予定外で操業を停止したことにより、原油精製処理が進まなくなったこともあり、在庫が増加したものの、米国で減少した他、欧州においても不具合が発生した装置の改修が進んだことにより操業を再開した製油所等での原油精製処理活動が活発化したこともあり原油在庫が減少したことで相殺されて余りある状態であった。このため、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国においてはガソリンや留出油の各在庫が減少したこともあり、石油製品全体としても在庫は減少になった。しかしながら、欧州においては製油所での石油製品製造活動が活発化した一方、石油製品需要が伸び悩み気味となった(夏場のドライブシーズンの終了が視野に入りつつあったことに加え経済活動が軟調であったことにより軽油需要等が下振れしたことが影響しているものと考えられる)他、日本においてもいわゆる働き方改革関連法施行に伴う物流業界の効率的な事業推進に加え台風等の来襲に伴う物流上の支障の発生等により軽油需要が抑制された結果当該製品在庫が増加した他、冬場の暖房用需要期ではなかったことに伴い灯油在庫が積み上がったこと等もあり、石油製品全体の在庫も増加した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は増加した他平年幅上方付近に位置する量となった(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から減少したものの平年幅上限を超過する量となっている(図14参照)。なお、2024年8月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.8日と7月末の推定在庫日数(61.7日)から若干増加している。
8月14日に1,500万バレル強程度の水準であった、シンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は、8月21日には1,600万バレル弱程度の量へと増加した。しかしながら、8月28日には1,500万バレル台後半程度の量へと減少した。9月4日には回復したものの1,500万バレル台後半程度の水準にとどまったうえ、9月11日には1,500万バレル強程度の量へと再び減少した結果、8月14日とほぼ同水準となった。シンガポールのロシアからのナフサ輸入が堅調であったことに加え、インドネシア等の東南アジア諸国や米国等におけるガソリン輸入が低調であったこと(物価が上昇する中経済が減速気味であったことが影響しているものと見られる)により、それら諸国で受け入れなれなかったガソリンがシンガポールに流入したことが、シンガポールにおける軽質留分在庫を下支えさせる形で作用したものの、中国において同国石油会社に付与された2024年第2回の石油製品輸出枠(1,400万トン、別途低硫黄重油400万トン)(5月7日にその旨伝えられた)の消化が進みつつあったこともあり、同国からのガソリン輸出が伸び悩み気味となった(なお、第3回の石油輸出枠付与の発表が間もなくされるものと見られているものの、9月13日現在そのような発表はされていない)ことにより、シンガポールの同国からのガソリン輸入が軟調に推移したことが、シンガポールにおける軽質留分在庫増加を抑制する形で作用したものと考えられる。ただ、世界最大のガソリン消費国である米国では9月2日の労働者の日(レイバー・デー)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、その直前の8月後半には秋場のガソリン不需要期が市場で意識されるとともに、米国のガソリン価格に下方圧力が加わり始めた他、労働者の日が過ぎると夏場のドライブシーズン終了に伴うガソリン不需要期におけるガソリン需給の緩和感が市場でより強く意識されるようになるとともに、その影響がアジア市場にも及ぶ格好となったことが、同市場におけるガソリン価格を抑制したことから、8月中旬から9月中旬にかけてのアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小傾向となった。
また、ロシアからアジア方面へのナフサ輸出は概ね堅調である(ウクライナにより攻撃を受けた結果損傷するなどして操業を停止したロシアの製油所が比較的早期に操業を再開したことによるものと見られる)中、8月後半には米国における夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が視野に入り始めるとともに、9月2日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことにより、ガソリンの原料となるナフサの需要下振れ観測が市場で広がってきたことが、アジア市場のナフサ価格に下方圧力を加えるようになったものの、秋場に収穫した穀物の乾燥や秋場以降の北半球の気温低下に伴う暖房等に利用される液化石油ガス(LPG)の季節的な需要増加観測が市場で強まりつつあることが、LPG価格に上方圧力を加えた結果、例えばサウジアラビアが輸出するLPGの契約価格(CP: Contract Price)が上昇基調となったこともあり、石油化学製品製造の際にナフサと競合するLPGの価格競争力が低下するとともに石油化学部門におけるLPGの需要が減少する反面、LPGに比べ相対的に割安であるナフサの需要が増加するとの観測が市場で発生したものと見られることが、アジア市場におけるナフサ価格に上方圧力を加えたことから、8月中旬から9月中旬にかけナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小傾向を示した。
8月14日には1,200万バレル台強程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分の在庫は、8月21日には1,100万バレル台半ば程度、8月28日には1,000万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。9月4日には1,100万バレル台前半程度の水準へと回復したものの、9月11日には1,100万バレル弱の量へと再び減少した結果、8月14日の水準を若干ながらではあるが下回る状態となっている。中国において同国石油会社に付与された2024年第2回の石油製品輸出枠の消化が進みつつあったことから、同国からの軽油等の輸出が伸び悩み気味となったことが、シンガポールの同国からの中間留分の流入を抑制する格好となった。しかしながら、東南アジア等においては、経済活動が低調であったことを背景として軽油需要が軟調であった(また、同地域等の製油所が春場のメンテナンス等を終了し稼働を引き上げた他、インドネシアにおいて稼働を停止していたバリクパパン(Balikpapan)製油所(操業者:プルタミナ、原油精製処理能力日量36万バレル、5月25日に火災が発生したことに伴い稼働が停止したうえ操業再開が遅延しつつあった)が正常な操業に復帰した旨7月30日に伝えられるなどしており、国外から中間留分を輸入する必要性が低下した側面もある)ことにより、結果として余剰となった中間留分がシンガポールに流入したことが、中間留分在庫を下支えする格好となった。このため、シンガポールにおける中間留分在庫は減少傾向を示したものの、その規模が限定的なものとなったものと考えられる。そして、シンガポールの中間留分在庫は若干ながら減少傾向となったものの、欧州の夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期の終了や低調な経済活動に伴う軽油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生した他、一部アジア諸国及び地域においても経済減速に伴う中間留分需要の低迷懸念が市場で発生したことが、アジア市場における軽油価格に下方圧力を加えたことから、8月中旬から9月中旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小傾向を示した。
8月14日に1,800万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、8月21日には1,900万バレル台前半程度の量へと増加したものの、8月28日には1,800万バレル台前半程度の量へと減少した。また、9月4日には1,800万バレル台後半程度の水準に回復したものの、9月11日には1,600万バレル台後半の量へと減少した結果、8月14日の水準を下回る状態となった。経済活動が低迷するアジア諸国において船舶向けに利用される高硫黄重油需要が低調であったものと見られることがシンガポールにおける重油在庫を押し上げる形で作用したものの、依然として中東一部諸国及び地域において夏場の空調装置稼働向けの電力供給のために発電部門等で低硫黄のものを中心として重油が利用され続けていたこともあり、同地域からのシンガポールへの低硫黄重油の流入が低調であったがシンガポールにおける重油在庫を押し下げる方向で作用したことにより相殺される格好となった結果、8月中旬から9月上旬にかけてのシンガポールにおける重油在庫は比較的限られた範囲での変動となったものと考えられる。しかしながら、この先夏場の空調装置稼働向けの電力供給のための発電部門における重油需要が減少することに伴う重油価格の先安感が市場で意識され始めたことが、かえって重油在庫の積み上げを敬遠させる方向で作用したこともあり、9月上旬から同月中旬にかけ重油在庫は減少したものと見られる。また、今後中東地域での気温が低下するとともに、それまで空調装置稼働向けの電力供給のために発電部門において利用されていた高硫黄重油の地域外向けの供給が拡大、その一部がアジアに流入するとの観測が市場で発生したことが、同市場における高硫黄重油需給の緩和感を醸成させる格好となったことが、高硫黄重油価格に下方圧力を加えた結果、8月中旬から9月上旬にかけてのアジア市場の高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大傾向を示した。しかしながら、9月上旬から同月中旬にかけてはシンガポールにおける重油在庫が減少したこともあり、アジア市場の高硫黄重油とドバイ原油との価格差は縮小傾向を示した。ただ、中東方面からアジア市場に向けての低硫黄重油の流入は低調であるとされたことから、アジア市場における低硫黄重油に引き締まり感が発生したことが、同市場における低硫黄重油価格に上方圧力を加えたこともあり、8月中旬から9月上旬にかけてのアジア市場における低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は概ね拡大傾向を示した。しかしながら、その後は低硫黄重油価格が上昇したことに伴う同製品製造を巡る利幅が改善してきたことにより、アジアの一部製油所が低硫黄重油製造拡大を検討する動きが見られるようになったこともあり、低硫黄重油供給増加に伴う同製品需給の緩和感が市場で意識されるようになったことから、9月上旬から同月中旬にかけてのアジア市場における低硫黄重油とドバイ原油との価格差は縮小する場面が見られている。
2. 2024年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場等の状況
2024年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場においては、8月23日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が政策金引き下げ実施を示唆したことに加え、8月25日にイスラム武装勢力ヒズボラがイスラエルに向けロケット弾を発射したこと、リビアにおいて原油生産の大規模停止の恐れが生じたこと等が8月下旬前半を中心とする時期において原油相場に上方圧力を加えた。しかしながら、それ以降は、米国や中国経済指標類が、両国経済が減速しつつある旨示していたことに加え、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことにより季節的な石油不需要期を市場が意識したこと等が原油相場に下方圧力を加えた。このため、原油相場は下落傾向となり、9月10日には原油価格は1バレル当たり65.75ドルの終値と2023年12月1日以来の低水準に到達する場面も見られた(図15参照)。
パレスチナ自治区ガザ地区における停戦及び人質解放等を巡る合意案をイスラエルのネタニヤフ首相が受諾した旨8月19日に米国のブリンケン国務長官が発表したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことに加え、8月20日の米国9月渡し原油先物契約の取引終了を前にした持ち高調整が市場で発生したことから、8月19日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.28ドル下落し、終値は74.37ドルとなった。また、8月20日も、パレスチナ自治区ガザ地区における停戦及び人質解放等を巡る合意成立に向け真剣に対応する意向である旨8月20日にイスラム武装勢力ハマスが表明したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場でさらに後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.04ドルと前日終値比で0.33ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2024年9月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2024年10月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり73.17ドル(前日終値比同0.49ドルの下落)であった)。さらに、2024年3月までの1年間における米国の非農業部門雇用者数を(暫定的に)81.8万人下方修正した旨8月21日に米国労働省が発表したことにより、減速しつつある米国経済に対し同国金融当局の対応が遅れつつある結果、米国経済のさらなる減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増加したことに加え、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が9月2日の米国労働者の日(レイバー・デー)の休日に伴う連休(8月31日~9月2日)を以て終了することもあり、季節的なガソリン需給の緩和感を市場が意識しつつあることにより、米国ガソリン先物価格が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.11ドル下落し、終値は71.93ドルとなった。この結果原油価格は8月16~21日の4取引日合計で1バレル当たり6.23ドル下落した。ただ、8月22日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油の買い戻しが発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.08ドル上昇し、終値は73.01ドルとなった。8月23日も、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油の買い戻しが発生した流れを引き継いだことに加え、米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウム(8月22~24日、於同国ワイオミング州ジャクソンホール)において8月23日に行なわれた米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の講演で、同議長が政策金利引き下げ開始を示唆したことにより、この先の米国経済回復に対する期待が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.83ドルと前日終値比で1.82ドル上昇した。
また、イスラエル軍がレバノンの首都ベイルートを空爆し、イスラム武装勢力ヒズボラの司令官であるファド・シュクル(Fuad Shukr)氏を殺害(7月30日夜(現地時間)に同軍が発表)したことに対し、イスラエルへの報復措置第1段階として8月25日早朝(現地時間)にロケット弾320発超をイスラエルに向け発射した旨8月25日にヒズボラが表明したうえ、パレスチナ自治区ガザ地区の停戦及び人質解放等を巡るイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの協議(於カイロ)が、米国、エジプト及びカタールと言った仲介者の示した合意案の受け入れをイスラエル及びハマス双方が拒否したことに伴い、合意に至らなかった旨8月25日に報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことに加え、リビアにおいて首都トリポリを拠点とする、暫定国民統一政府(GNU: Government of National Unity)のドベイバ首相によるリビア中央銀行総裁(カビール(Kabir)氏)交代の動きに抗議し、リビア東部にある全ての油田及び原油輸出関連施設の操業を停止し不可抗力条項の適用を宣言する旨東部トブルクを拠点とする代表議会(HoR: House of Representative)が8月26日に表明したことにより、同国の原油生産の大部分である日量100万バレルの生産が停止する恐れが発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.59ドル上昇し、終値は77.42ドルとなった。この結果原油価格は8月22~26日の3取引日間合計で1バレル当たり5.49ドル上昇した。しかしながら、8月27日は、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.89ドル下落し、終値は75.53ドルとなった。また、8月28日も、この日EIAから発表された米国石油統計(8月23日の週分)において、原油在庫が前週比85万バレルの減少と、市場の事前予想(同230万バレル程度の減少)程減少していない旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.52ドルと前日終値比で1.01ドル下落した。この結果原油価格は8月27~28日の2日間合計で1バレル当たり合計2.90ドルの下落となった。ただ、減産遵守の一環として2024年9月の原油生産量を日量385~390万バレルへと削減する(7月の原油生産量は日量436万バレル)旨イラクが計画していると8月29日に報じられたことにより、世界石油需給の引き締まり感をこの日の市場が意識したことに加え、リビア東部の石油ターミナル(ブレガ(Brega)(原油出荷能力日量6万バレル)、エス・シデル(Es Sider)(同32万バレル)、ラス・ラヌフ(Ras Lanuf)(同22万バレル)、ズエイティナ(Zueitina)(同7万バレル)、ハリガ(Hariga)(同11万バレル))に対し操業を停止するよう同国東部トブルクを拠点とする代表議会(HoR)が指示したと8月29日に伝えられたことにより、同国からの石油供給途絶懸念が市場で増大したこと、8月29日に米国商務省から発表された2024年4~6月期の米国国内総生産(GDP)(改定値)が年率3.0%の増加と7月25日に発表された速報値(同2.8%の増加)から上方修正された他市場の事前予想(同2.8%の増加)を上回ったことにより、米国経済が軟着陸するとの見方が市場で強まったこともあり、同国株式相場が上昇したことから、8月29日の原油価格の終値は1バレル当たり75.91ドルと前日終値比で1.39ドル上昇した。それでも、2024年6月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において決定された、一部OPECプラス産油国が2024年1月より実施している自主的な減産措置の縮小を、当初予定通り同年10月より実施する方針である旨関係者が明らかにしたと8月30日にロイター通信が報じたことにより、当該減産措置緩和に伴う、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、8月30日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.36ドル下落し、終値は73.55ドルとなった。
また、米国労働者の日(レイバー・デー)の休日に伴い9月2日の原油価格の終値は計上さなかったが、8月31日に中国国家統計局から発表された8月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.1と7月の49.4から低下した他市場の事前予想(49.5)を下回ったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、リビア原油供給停止の主要因となった、同国中央銀行総裁交代を巡り東西両政府間で合意に接近しつつある兆候が見られるようである旨同国中央銀行のカビール総裁が明らかにしたと9月3日に伝えられた他、国連が仲介する協議により今後30日以内に中央銀行総裁を新たに任命することで両政府が合意した旨の声明が9月3日に発表されたことにより、同国の原油生産回復に伴う世界石油需給緩和感を市場が意識したこと、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が9月2日の米国労働者の日を以て終了したこともあり、米国ガソリン先物相場が下落(この日の終値は1ガロン当たり1.9777ドルと、2021年12月3日(この日の終値は同1.9529ドル)以来の低水準に到達)したこと、9月3日に米国供給管理協会(ISM)から発表された8月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が47.2と市場の事前予想(47.5)を下回ったことにより、同国経済減速懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、9月3日の原油価格の終値は1バレル当たり70.34ドルと前週末終値比で3.21ドル下落した。また、リビア東部の石油ターミナルであるブレガにおいてタンカーへの原油積載が許可された旨同国関係者が明らかにしたと9月4日に伝えられたことにより、同国からの原油供給回復期待が市場で増大したことに加え、9月4日に米国労働省から発表された雇用動態調査(JOLTS: Job Openings and Labor Turnover Survey)において、7月の同国の求人件数が767.3万件と2021年1月(この時は718.5万件)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(810万件)を下回ったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、9月4日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.14ドル下落し、終値は69.20ドルとなった。この結果原油価格は8月30~9月4日の3取引日合計で1バレル当たり6.71ドル下落した。ただ、2024年6月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定した、一部OPECプラス産油国が2024年1月より実施している自主的な減産措置の緩和開始時期を当初予定の10月から12月へと延期することとした旨9月5日に国営サウジ通信が報じたことにより、世界石油需給の相対的な引き締まり感を市場が意識したことに加え、9月5日にEIAから発表された米国石油統計(8月30日の週分)において、原油在庫が前週比687万バレルの減少と、市場の事前予想(同30~100万バレル程度の減少)を相当程度上回って減少している旨判明したことにより、同国石油需給の引き締まり感を市場が意識したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、9月5日に米国給与計算サービス会社オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)から発表された8月の同国民間雇用者数が前月比で9.9万人の増加と市場の事前予想(14.5万人の増加)を下回ったことにより、この先の米国経済減速懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、9月5日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.05ドルの下落にとどまり、終値は69.15ドルとなった。それでも、9月6日には、この日米国労働省から発表された8月の同国失業率が4.2%と7月の4.3%から低下したことにより、米国金融当局による政策金利の大幅な引き下げ展望が不透明となった一方、同国非農業部門雇用者数が前月比で14.2万人の増加と市場の事前予想(同16.0~16.5万人の増加)を下回ったことにより、同国経済減速懸念が増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.67ドルと前日終値比で1.48ドル下落した。
9月9日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、メキシコ北部の東海岸沖において発生した低気圧が9月9日に熱帯性暴風雨「フランシーヌ(Francine)」へと発達したうえ、数日中にさらにハリケーンへと勢力を強めつつ米国メキシコ湾沖合を縦断するものと予想されることにより、当該暴風雨の進路近辺の沖合油・ガス田や米国メキシコ湾岸地域に位置する製油所の操業への影響に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.04ドル上昇し、終値は68.71ドルとなった。しかしながら、9月10日に中国税関総署から発表された8月の同国貿易統計において、輸入が同0.5%の増加と7月の同7.2%の増加から伸びが大幅に鈍化した他市場の事前予想(同2.0~2.5%増加)を下回ったうえ、8月の同国原油輸入量が4,910万トン(推定日量1,159万バレル)と前年同月比で7%の減少となっていた旨判明したことに加え、9月10日に発表されたOPEC月刊オイル・マーケット・レポートにおいて、OPECが2024年の世界石油需要を8月12日の前回月刊オイル・マーケット・レポート発表時から日量8万バレル、2025年の世界石油需要を同12万バレル、それぞれ下方修正したことにより、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.75ドルと前日終値比で2.96ドル下落した他、この日の終値は2021年12月1日(この日の終値は65.57ドル)以来の低水準に到達した。それでも、9月11日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、ハリケーン「フランシーヌ」が米国メキシコ湾沖合を進みつつ、9月11日遅く(現地時間)に同国ルイジアナ州南部に上陸するものと見られるとともに、9月11日午後1時(米国中部時間)発表の米国内務省安全環境執行局(BSEE: Bureau of Safety and Environmental Enforcement)による報告で、同日午前11時30分現在、米国メキシコ湾沖合の原油生産(通常時日量175万バレル程度)のうち674,833バレル(同地域全生産量の38.56%)相当分の原油生産が停止していると報告されたため、米国石油需給の引き締まり懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.56ドル上昇し、終値は67.31ドルとなった。また、9月12日も、同日午後1時(米国中部時間)の米国内務省安全環境執行局による報告で、同日午前11時30分現在、米国メキシコ湾沖合の原油生産730,472バレル(同地域全生産量の41.74%)相当分の原油生産が停止していると報告されたため、米国原油生産減少に伴う石油需給引き締まり懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.97ドルと前日終値比で1.66ドル上昇した。この結果原油価格は9月11~12日の2日間合計で1バレル当たり3.22ドルの上昇となった。そして、大手国際石油会社シェルがハリケーン「フランシーヌ」通過に伴い操業を停止していた米国メキシコ湾沖合の5油田の操業を再開した旨9月13日に明らかにしたこともあり、ハリケーン通過後の同地域における石油生産活動が再開しつつあることが示唆されたことにより、米国原油生産減少に伴う石油需給引き締まり懸念が市場で後退したことに加え、9月13日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で488基と前週比5基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は474基と同4基増加)となっていた旨判明したこともあり、この先の米国原油生産増加期待が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.65ドルと前日終値比で0.32ドル下落した。
3. 原油市場における主な注目点等
8月18日に発生したイスラエルの都市テルアビブにおける爆発事件に関し、8月19日にイスラム武装勢力ハマス及びイスラム聖戦が犯行声明を発表した。他方、パレスチナ自治区ガザ地区における停戦及び人質解放等を巡る合意案をイスラエルのネタニヤフ首相が受諾した旨8月19日に米国のブリンケン国務長官が発表したものの、8月20日にネタニヤフ氏は如何なる状況であってもガザ地区からは撤退しない他、停戦等で合意した後もハマス壊滅のための戦闘は継続する旨示唆した。また、8月21日にも、米国のバイデン大統領がイスラエルのネタニヤフ首相と電話会談を実施し、ガザ地区南部のエジプトとの境界において停戦後にイスラエル軍を撤退させるよう促したが、ネタニヤフ首相は提案を拒否した旨8月22日に伝えられる(イスラエルは、(エジプトからガザ地区の)ハマスへの武器輸出経路となっているとして、ガザ地区とエジプトとの境界周辺における軍の駐留を主張する一方、ハマスに加え、エジプトも1979年にイスラエルとの間で締結した平和条約に違反するとしてイスラエル軍の駐留に反対している)。そのような中、ガザ地区を巡る停戦及び人質解放等を巡る協議が8月22日にエジプトのカイロで再開、イスラエルが交渉団を派遣し停戦後のガザ地区でのイスラエル軍の駐留規模を縮小する旨の提案を行なう方向であると見られる旨8月23日に報じられた(但しエジプトはガザ地区との境界でのイスラエル軍駐留自体に反対しており先行きは不透明であるとされた)。他方、イスラエル軍がレバノンの首都ベイルートを空爆し、イスラム武装勢力ヒズボラの司令官であるファド・シュクル(Fuad Shukr)氏を殺害(7月30日夜(現地時間)に同軍が発表)したことに対し、イスラエルへの報復措置第1段階として8月25日早朝(現地時間)にロケット弾320発超をイスラエルに向け発射(イスラエルは大部分は迎撃した旨説明)した旨8月25日にヒズボラが表明した(イスラエルはヒズボラによる攻撃を察知しヒズボラによる報復措置実施前の8月25日未明(同)にレバノンにあるヒズボラ関連軍事施設を攻撃した旨8月25日に報じられた)うえ、ガザ地区の停戦及び人質解放等を巡る協議において、仲介者の示した合意案につきイスラエル及びハマス双方が受入を拒否した(ガザ地区とエジプトとの境界地域等におけるイスラエル軍の駐留等につき、代替案を提示したものの双方が受入を拒否等したとされる)ことにより、合意に至らなかった旨8月25日に報じられた。8月28日には、イスラエル軍がパレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区において大規模テロ掃討作戦を展開した(9月6日に撤収した)。ガザ地区の停戦及び人質解放等と巡る協議は、8月28日にカタールの首都ドーハにおいてイスラエルの実務担当者と米国等の仲介者との間で継続したが、他方でイスラエルはガザ地区とエジプトとの境界にイスラエル軍が駐留することを治安閣議で承認した旨8月30日に報じられた。そして、ハマスにより拘束された米国籍の個人1人を含む6人の人質が遺体で発見された旨イスラエル軍が9月1日に発表した(ハマス側は人質死亡の責任は停戦等を巡る合意を拒否するイスラエル側にある旨主張したと9月1日に伝えられる)。9月2日にはイスラエルのネタニヤフ首相は境界地帯における同国軍駐留継続を改めて主張する一方、ガザ地区における停戦と人質解放等を巡る交渉が妥結しないのは(ガザ地区とエジプトとの境界地帯におけるイスラエル軍の駐留継続等を主張する)イスラエルに責任がある旨ハマスは主張、9月5日にもハマスは、7月3日に行なった提案に基づき両者が合意すべきである旨示唆した。またガザ地区の停戦等を巡る新規の提案を近いうちに行なう旨9月5日に米国のブリンケン国務長官が明らかにしたが、新提案の提出時期は無期限で延期された旨9月7日にワシントン・ポストが報じた他、9月5日日にはイスラエルのネタニヤフ首相は近日中の合意到達見込みは高くない旨示唆した。
- 5月31日に、新規停戦提案をイスラエルが提示した旨米国のバイデン大統領が発表しており、これは各6週間の停戦期間を3段階で実施、第1段階でガザ地区の住民居住区からのイスラエル軍の撤退、及びイスラエルの拘束しているパレスチナ人とハマスの拘束している人質の交換の開始、第2段階でイスラエル軍のガザ地区からの撤退と人質全員の解放の実施、第3段階でガザ地区の復興作業の開始を、それぞれ内容とするものと伝えられた。しかしながら、ハマスの壊滅を求めるイスラエルの一部閣僚は停戦等でイスラエルがハマスと合意した場合には政権を離脱する(この結果同国のネタニヤフ首相が主導する連立政権は崩壊に直面する)旨警告しており、ハマス壊滅までカザ地区における戦闘は終結しない旨イスラエル首相府が発表したと5月31日に伝えられるなど、イスラエル政権側は同提案に関し完全に意思が統一されている訳ではないことが示唆された。その後、停戦等に関する合意前の段階におけるイスラエルのガザ地区への恒久的停戦の実施を主張していたハマスはその要求を取下げ、6週間に渡る第1段階の協議実施時に恒久的停戦の達成を目指す他、第2段階の協議実施時に仲介者(エジプトやカタール等と見られる)がイスラエル軍の撤退を含む一時的な停戦や同地区への支援物資の搬入を保証する等の提案を7月3日に改めて行なった。
また、原油タンカー「スニオン(Sounion)」(ギリシャ船籍)が8月21日及び8月23日にイエメンの紅海沖合でミサイル攻撃を受け炎上したが、8月22日にフーシ派武装勢力が攻撃した旨発表した。さらに、原油タンカー「ブルー・ラグーン1(Blue Lagoon 1)」(パナマ船籍)及び「アムジャド(Amjad)」(サウジアラビア船籍、ギリシャ企業運航)が9月2日にイエメンの紅海沖合で攻撃された旨伝えられた(イエメンのフーシ派武装勢力がブルー・ラグーン1への攻撃につき犯行声明を9月2日に発表、米国中央軍はフーシ派武装勢力がこの2隻をミサイルで攻撃した旨9月2日遅く(米国東部時間)に明らかにした)。そして、9月15日には、イスラエル軍が、同国中部に飛来したミサイルを迎撃したものの破片が落下した旨発表、イエメンのフーシ派武装勢力がこのミサイルを発射したことを認めた旨同日伝えられる(また、今回のミサイル飛来はフーシ派武装勢力が発射したミサイルがイスラエル領空深くに進入した初めての事例であるとされる)。
このようにガザ地区等を巡るイスラエルとハマスと対立は継続しており、今後イスラエルとハマスとの対立がさらに先鋭化するとともにガザ地区等での戦闘が激化したり、イランが支援しているとされる他のイスラム武装勢力であるヒズボラやイエメンのフーシ派等やイランと、イスラエルとの対立が高まったりするとともに、中東情勢がさらに不安定化するようであれば、同地域からの石油供給途絶懸念が市場で一層強まる結果、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性がある。ただ、ハマスを含むイスラム武装勢力及びイランと、イスラエルとが対立しつつも、これ以上状況が大幅に悪化しないようであれば、これまでの中東情勢の展開具合から、同地域からの石油供給途絶懸念が市場で大幅に増大しない結果、原油相場への影響は限定的なものにとどまることもありうる。
8月18日朝(現地時間)には、ロシア南西部ロストフ州のカフカズ(Kavkaz)にある石油貯蔵施設が、ウクライナが発射した無人機により攻撃された結果火災が発生した(9月2日に鎮火した旨同日伝えられる)。また、ロシア中南部オムスク(Omsk)州のオムスク製油所(操業者:ガスプロムネフチ、原油精製処理量日量42万バレル)で火災が発生し主要精製施設であるCDU11(原油精製処理量日量17万バレル)の操業に影響が発生した(もう一方の主要精製施設CDU10(原油精製処理能力日量17万バレル)は8月上旬の攻撃により稼働停止中であった)旨8月26日に伝えられる(その後火災は鎮火し、生産には影響がない旨8月26日に報じられる)。さらに、稼働を停止していた同製油所の主要精製施設CDU10も改修作業を完了し操業を再開した旨8月27日に伝えられた。他方、ウクライナが発射した無人機がロシア南部のロストフ州カメンスキー(Kamensky)地区にある石油貯蔵施設を攻撃した結果、火災が発生した旨8月28日に報じられた。また、9月1日未明(現地時間)までに、ウクライナが発射した無人機がロシアの首都モスクワ等に飛来し、迎撃された無人機の残骸落下により、モスクワ製油所(操業者:ガスプロムネフチ、原油精製処理能力日量23万バレル)で火災が発生した結果同製油所は操業を停止したが、9月10日に操業を再開した旨9月13日に伝えられる。
このように、ロシアでは依然としてウクライナによる製油所を含む石油等のインフラへの攻撃が継続しているが、損傷を受けた製油所等は比較的早期に操業を再開しているように見受けられることもあり、ロシアからの石油製品の輸出等には大きな支障は発生していないようである。今後も、ロシアの石油インフラ等がさらに大きな打撃を受けることにより、同国からの石油製品輸出等が大幅に減少するようであれば、大西洋圏を中心として石油需給引き締まり感が強まることにより、石油製品相場、そして原油相場等に上方圧力が加わる可能性があるが、ロシアの石油インフラ等が損傷を受けてもその規模が限定的であるうえ、それらの石油インフラの操業再開が比較的早期になされる状況が継続するようであれば、原油相場等への影響も軽微なものとなるものと考えられる。
リビアでは、地域住民による抗議行動により、南西部にある同国最大の油田とされるシャララ(Sharara)油田(平常時原油生産量日量30万バレル)の生産を漸進的に削減させ始める旨リビア国営石油会社NOCが8月6日に発表した。そして、8月7日にはNOCがシャララ油田からの原油出荷に関し不可抗力条項の適用を宣言した。加えて、リビアにおいて西部の首都トリポリを拠点とする、国連及びトルコが支援する国民合意政府(GNA: Government of National Accord)及びGNAと行動をともにする暫定国民統一政府(GNU: Government of National Unity))のドベイバ首相による、リビア中央銀行のカビール(Kabir)総裁交代の動きに抗議し、リビア東部にある全ての油田及び原油輸出関連施設の操業を停止し不可抗力条項の適用を宣言する旨同国東部トブルクを拠点とする代表議会(HoR: House of Representative)が8月26日に表明した(終結時期は不明とされた)。さらに、リビア南西部にあるエル・フィール(El Feel)油田(平常時原油生産量日量7万バレル程度とされる)が停止した他、同国東部の油田の一部の生産も停止しつつある旨8月27日に伝えられた。8月28日には、同国の原油生産量(2023年時点で日量116万バレル)が日量45万バレル程度にまで落ち込んでいる旨伝えられた。また、リビア東部の石油ターミナル5ヶ所(ブレガ(Brega)(原油出荷能力日量6万バレル)、エス・シデル(Es Sider)(同32万バレル)、ラス・ラヌフ(Ras Lanuf)(同22万バレル)、ズエイティナ(Zueitina)(同7万バレル)及びハリガ(Hariga)(同11万バレル))に対し操業を停止するようHoRが指示したと8月29日に報じられた。そして、リビア中央銀行のカビール総裁を事実上更迭し(同総裁は海外出張中だったとされる)、代わりにリビア大統領評議会のメンフィ(Menfi)議長が同国の財政を管理することになった旨8月30日に伝えられたが、同国中央銀行が機能不全に陥ったことから、公務員への給与支払い停止等を含め、同国情勢が一層混乱を来すとともに、同国の原油生産停止が長期化するとの懸念が強まった。さらに、リビア南西部にあるエル・フィール油田の原油生産及び出荷につき9月2日を以て不可抗力条項を適用する旨NOCが同日宣言した。ただ、同国中央銀行総裁交代を巡りGNUとHoRとの間で合意に接近しつつある兆候が見られるようである旨同国中央銀行のカビール総裁が明らかにしたと9月3日に伝えられた他、国連が仲介する協議により今後30日以内に中央銀行総裁を新たに任命することで両者が合意した旨の声明が9月3日に発表された。そして、ブレガ石油ターミナルにおいてタンカーへの原油積載が許可された旨関係者が明らかにしたと9月4日に伝えられた他、ズエイティナ石油ターミナルにおいても9月4日夜から9月5日にかけタンカー入港が許可された旨同国関係者が明らかにしたと9月5日に伝えられた。しかしながら、NOCは同国中部にあるエス・シデル石油ターミナルからの石油出荷に関し不可抗力条項の適用を宣言した旨9月9日に伝えられた他、リビア中央銀行総裁後任人事を巡り、国連の仲介による東西両政府の協議が合意に到達せず、協議再開目処も立っていない旨国連が9月12日に明らかにするとともに、過去1週間のリビアからの原油輸出が日量31.4万バレルと9月初頭の5日間平均の日量46.8万バレルから減少している旨9月13日に報じられるなどした。このように、リビアにおいては中央銀行総裁人事を巡るGNUとHoRとの対立は、一旦は解消する方向に向かいつつあるように思われたものの、むしろ足元ではカビール総裁の後任選定作業が紆余曲折を経る兆候が見られる。このため、今後も同国東部油田や石油ターミナルの操業の全面再開までに時間を要すると言った展開となりうる他、南西部の2油田(シャララ油田及びエル・フィール油田)の操業停止終了も見通せない状況となっていることから、この面では今暫くは原油相場を下支えする方向で作用する可能性があるものと考えられる。
米国経済面では、同国の経済情勢と金融当局の政策金利引き下げを巡る姿勢が焦点となろう。8月中旬から9月上旬を中心とする期間につき、引き続き米国金融当局関係者から一連の発言がなされた。米国の物価上昇の沈静化が図られつつあるため同国政策金利の調整を検討するべきである旨米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示唆したと8月18日に報じられた。また、物価上昇の伸びが加速するリスクは依然と存在するため、金融政策の調整は慎重に行なうべきであり、個別の経済指標類等に過剰に対応すべきではない旨8月20日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事が明らかにした。さらに、8月21日に明らかになった、米国非農業部門雇用者数の大幅な下方修正については、金融政策に大きな影響を及ぼすとは考えておらず、政策金利引き下げ開始を決定する前に、さらに経済指標類の内容を検討する必要がある旨8月22日に米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミット総裁が示唆した。そして、米国カンザスシティ連邦準備銀行主催年次シンポジウム(8月22~24日、於同国ワイオミング州ジャクソンホール)において8月23日に行なわれた講演で、FRBのパウエル議長は、米国物価上昇率が年率2%の目標に向け接近しつつあることにより物価上昇上振れリスクは後退する一方、労働市場は過熱状態を脱するとともに明らかに悪化しつつあることにより、雇用の下振れリスクが増大しつつあることから、金融政策を調整する時期が到来しているが、政策金利引き下げ開始の時期と規模は経済指標類や経済見通し、物価上昇と雇用といったリスクの状況に依存する旨明らかにした。加えて、米国物価上昇が予想以上に沈静化したこともあり、2024年末までに2回以上政策金利の引き下げが必要となる可能性がある旨8月23日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした。また、米国金融当局は政策金利引き下げを開始すべき時期に来ており、政策金利引き下げは継続的に実施すべきであり、最終的には政策金利の最終到達水準は3%前後になる可能性がある旨8月23日にフィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁が発言した。さらに、米国金融当局は物価上昇沈静化よりも労働市場安定化に注力すべきである旨8月23日にシカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。加えて、米国金融当局による政策金利引き下げ時期が到来しており、9月17~18日に開催される予定である次回の米国連邦公開市場委員会(FOMC)においては0.25%の政策金利引き下げが行なわれる可能性が高い旨8月26日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示唆した。そして、米国金融当局による政策金利引き下げ時期が到来したものの、政策金利引き下げは持続的に実施すべきであると考える他、9月17~18日に開催される予定である次回FOMCにおいて政策金利引き下げを支持するためには、なお米国経済指標類を確認する必要がある旨8月28日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにしたものの、労働市場が混乱する恐れがあるとして、米国はこれ以上高水準の金利を長期間の渡り継続すべきではない旨9月4日に同総裁は示唆した。さらに、政策金利引き下げが、この先の1年間で複数回実施されることものと想定している旨シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにしたと9月5日夜(米国東部時間)に報じられた他、健全な労働市場を維持するために米国金融当局は政策金利を引き下げるべきであるが、物価上昇沈静化に向けた努力も必要であり、政策金利引き下げ幅については、今後明らかになる予定である米国経済指標類等に依存する旨9月4日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が明らかにした旨同日夜(米国東部時間)に伝えられた。加えて、米国物価上昇沈静化が進展している一方労働市場は冷え込みつつあることから、政策金利を引き下げることが適切であると認識している旨米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が9月6日に示唆した他、米国労働市場が減速しつつあることから、政策金利引き下げを複数回実施することが適切であるものと考える旨同日米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。さらに、政策金利の引き下げ開始時期が到来しており、政策金利引き下げ幅や引き下げ頻度等については柔軟に対応する意向である旨9月6日に米国FRBのウォラー理事が明らかにした。
このように、米国金融当局関係者は、物価上昇は沈静化しつつある反面、労働市場が悪化しつつあることにより、政策金利を引き下げる必要があるとの認識に傾きつつある。しかしながら、政策金利引き下げの開始時期や引き下げペースについては、今後の同国経済指標類等を考慮しながら慎重に進める方針であることが示唆された。そして、米国の物価状況及び労働市場において不透明感が残存することもあり、米国金融当局は9月17~18日に開催される予定であるFOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げを実施するとの見方が主流であった(9月12日時点においてもFOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げが決定する確率は72%であった)。しかしながら、次回FOMCにおいて決定されると予想される政策金利引き下げ幅が0.25%となるか0.50%となるかは微妙なところである旨9月12日にウォールストリート・ジャーナルが報じたこともあり、同国金融当局による0.5%の政策金利引き下げ期待が市場で増大した結果、次回FOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げを実施する確率と0.50%の政策金利引き下げを実施する確率は、9月13日時点ではともに50%となった。FOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げを決定するする(今後の経済情勢を巡る不透明感の存在に加え、0.50%の政策金利引き下げは米国経済が急速に悪化しつつあるという誤解を招く可能性のある発信をFRBが行なうという懸念があるところからすると、0.25%の政策金利引き下げの決定がなされる可能性はそれなりにある)ことになれば、同国の経済減速に対し金融当局の対応が後手に回っているのではないかとの印象を市場に与える結果、米国株式相場が下落するとともに原油相場が下振れする場面が見られることもありうる。他方、FOMCにおいて0.50%の政策金利引き下げが決定されるようであれば、FRBは積極的に米国経済回復に向け貢献する意向があることを示すことになり、同国経済回復期待が市場で増大するとともに石油需要の伸びの加速観測が市場で発生する結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。もっとも、現時点において米国の消費者物価指数(CPI)は目標であるところの年率2%を上回っている中、原油相場が上昇することを含め、同国の物価に上方圧力が加わるといったリスクを米国金融当局は負うことにもなる。このように、次回のFOMCにおける政策金利の取り扱いによって、原油相場への影響が異なる可能性があることから、その決定内容や終了後に行なわれる予定であるFRBのパウエル議長の記者会見での同議長の発言等に注視する必要があろう。
また、10月に入ると米国主要企業等の2024年7~9月等の業績が発表される予定であるので、それら業績もしくは2024年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼすこともありうる。
中国では、2024年4~6月期の国内総生産(GDP)が前年同期比4.7%の増加と、目標である5.0%前後の増加を相当程度割り込んでいた旨7月15日に判明して以降、同国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大しつつあることが、原油相場に下方圧力を加える格好となっており、原油相場は7月前半以前に比べ変動領域を切り下げている。そして、中国経済が減速しつつあることを示唆する経済指標類は一部を除き発表され続けているようである。8月27日に中国国家統計局から発表された7月の同国工業企業利益は前年同月比で4.1%の増加と6月の同3.6%増加から伸びが拡大したことに加え、8月31日に中国国家統計局から発表された8月の同国非製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は50.3と7月の50.2から上昇した他、市場の事前予想(50.1)を上回った(夏期の休暇シーズンに伴う消費の活発化が背景にあると中国国家統計局は説明している)。しかしながら、8月31日に中国国家統計局から発表された8月の同国製造業PMIは49.1と7月の49.4から低下した他市場の事前予想(49.5)を下回った(中国の気温上昇、多雨及び一部部門における季節的要因に伴う活動不振が背景にあると中国国家統計局は説明している)。また、9月2日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された8月の同国製造業PMIは50.4と7月の49.8から上昇した他市場の事前予想(50.0)を上回ったものの、9月4日に財新伝媒から発表された8月の同国非製造業PMIは51.6と7月の52.1から低下した他市場の事前予想(51.8)を下回った。そのような中、9月6日には中国人民銀行の易綱前総裁が、消費及び投資といった内需が弱いことから同国経済にデフレ圧力が加わりつつあるといった懸念がある旨示唆した。また、9月9日に中国国家統計局から発表された8月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.6%の上昇と7月の同0.5%上昇から伸びが加速した(但し国内需要の拡大に伴うものではなく、夏場の気温上昇と豪雨に伴う洪水による農産物価格の上昇に伴うものである旨国家統計局は説明している)ものの市場の事前予想(同0.7%の上昇)を下回った他、8月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比1.8%の下落と7月の同0.8%の下落から下落率が拡大した他下落率は市場の事前予想(同1.4~1.5%の下落)を上回った。さらに、9月10日に中国税関総署から発表された8月の同国貿易統計において、輸出が前年同月比8.7%の増加と前月の同7.0%の増加から伸びが拡大、2023年3月(この時は同10.9%の増加)以来の大幅な伸びとなった他市場の事前予想(同6.6%の増加)を上回ったものの、輸入が同0.5%の増加と7月の同7.2%の増加から伸びが大幅に鈍化した他市場の事前予想(同2.0~2.5%増加)を下回ったうえ、8月の同国原油輸入量が4,910万トン(推定日量1,159万バレル)と7月の4,234万トン(同1,000万バレル)から増加した他2023年8月(この時は同5,280万トン(同1,247万バレル))以来の高水準に到達した(価格下落により原油購入が促されたものと指摘される)ものの、前年同月比では7%の減少となっていた旨判明した。加えて、9月14日に中国国家統計局から発表された8月の同国鉱工業生産が前年同月比で4.5%の増加と7月の同5.1%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同4.7%の増加)を下回ったうえ、8月の同国小売売上高が同2.1%の増加と7月の同2.7%の増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同2.5%の増加)を下回った。そして、9月14日に中国国家統計局から発表された8月の同国原油精製処理量は5,907万トン(推定日量1,395万バレル)と7月の5,906万トン(同1,395万バレル)からほぼ横這いとなった他前年同月(6,469万トン(同1,528万バレル))比で相当程度減少している旨判明した。また、9月14日に中国国家統計局から発表された8月の中国新築住宅価格が前年同月比で0.73%の下落と7月の同0.65%の下落から下落率が拡大するとともに、8月の中古住宅価格も前月比0.95%の下落と7月の同0.80%の下落から下落率が拡大、1~8月の同国固定資産投資も前年同期比3.4%の増加と1~7月の同3.6%から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同3.5%の増加)を下回ったうえ、8月の同国失業率も5.3%と7月の5.2%から上昇した他市場の事前予想(5.2%)を上回った。このように、中国では、全てではないにしろ、同国経済が減速しつつあることを示す指標類が相当数発表されるとともに、原油輸入や製油所の原油精製処理量も前年同月比で減少を示すなど、石油需要が軟調であることが示唆される一方、これまで実施されたり、実施する旨発表されたりしている同国政府等による景気刺激策は同国経済を回復させるには不十分であると市場から見做されようになってきている。今後も、同国政府等から余程大規模な景気刺激策が発表されるようでなければ(ただ、中国経済を回復させるために必要とされる個々の目標や方針には複雑な矛盾が多く含まれているため、今後の経済回復への過程が紆余曲折を経る可能性がある旨、中国第20期中央委員会第3回総会(3中総会)終了を受け7月19日に会見した中国共産党中央財経委員会弁公室の韓文秀副主任が示唆しているところからすると、そのような大規模な政策の実施は相当程度の困難を伴うもの推測される)、中国経済が減速し続けることに伴い、同国石油需要の伸びが鈍化するとの見方が市場で広がる結果、原油価格を抑制する格好となりやすいものと考えられる。
米国では、9月2日の労働者の日(レイバー・デー)の休日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したが、通常冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房用石油製品需要期が市場の視野に入り始めるのは10月中旬頃以降となるため、それまではガソリン需要が低下する反面、暖房用の液化石油ガス(LPG)及び留出油等の需要期にはまだ早いとの意識が市場関係者の心理を支配する他、秋場のメンテナンス作業の実施に伴い原油精製処理活動が低下する結果製油所の原油購入が不活発となることにより、季節的な需給の緩和感が市場で意識されることを通じ、例年この時期は原油相場に下方圧力が加わりやすい。
他方、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入している(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。特に8月後半から10月前半にかけては1年で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期となる。これまでにハリケーン「ベリル(Beryl)」が発生し、観測史上最も早い時期にカテゴリー5のハリケーンへと発達した他、ハリケーン「フランシーヌ(Francine)」が発生した後米国メキシコ湾沖合を縦断したうえルイジアナ州南部に上陸、同州やミシシッピ州に位置する複数の製油所の付近を通過していったことから、一部の製油所の稼働が低下する場面が見られた。また、ハリケーン「フランシーヌ」の来襲に備え米国メキシコ湾沖合の石油・天然ガス生産関連施設等では作業に従事していた従業員を避難させるなどしたこともあり、9月10日から16日にかけ同地域において合計で362万バレル相当の原油生産が停止した。さらに9月10日には米国における主要原油輸出入施設であるルイジアナ沖合石油ターミナル(LOOP: Louisiana Offshore Oil Port、原油受入能力日量100万バレル程度とされる)が操業を停止した(9月13日に操業を再開したと伝えられる)。このため、9月18日に発表される予定であるEIAによる米国石油統計において、同国国内原油生産や原油輸入が減少したり、製油所の稼働が低下したりすることに伴い、原油や石油製品の在庫が減少している旨判明することにより、原油や石油製品相場が反応する場面が見られることもありうる。また、現時点までに明らかになっている一部機関による2024年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想によると、記録的な水準に近い頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する可能性がある旨指摘されており(表1参照)、市場関係者間では2024年の暴風雨シーズンが活発なものである可能性があることが意識されやすくなっている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2023年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量63万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合においてもそれなりの量の原油が生産されている(2023年は当該地域で日量186万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,293万バレル)の約14%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2023年の同地域の原油精製処理能力は日量988万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,825万バレル)の約54%を占めた)こともあり、今後もハリケーン等の発生状況や進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られる可能性もある。
2024年6月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において、一部OPECプラス産油国が2024年1月より実施している自主的な減産措置(日量約220万バレル)を10月より緩和する旨決定されたが、この減産措置の緩和を当初予定通り10月より縮小する方針である旨関係者が明らかにしたと8月30日にロイター通信が報じた。しかしこの報道により、当該減産措置緩和に伴う、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したことにより、8月30日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.36ドル下落した他、その後も原油価格の下落基調が続くこととなった。このため、減産措置の緩和を10月から12月へと延期する旨決定したと9月5日に国営サウジ通信が報じた。ただ、12月に延期して減産措置の緩和を開始しても、2025年は世界石油供給が需要を日量231万バレル上回るものと見込まれる(表2参照)他、中国経済が減速等することにより石油需要の伸びがさらに鈍化すれば、2025年の供給過剰緩和はさらに強まるとともに、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。他方、2025年の世界石油需給が緩和することが予想されるにもかかわらず6月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において一部産油国の自主的な減産措置の緩和を決定した背景に、それまでにおいて一部OPECプラス産油国が増産の意向を示すなど、原油生産制限に関し産油国間で足並みが乱れつつあったことがあるものと見受けられることから、そのような増産意向を示している一部産油国に対し原油販売収入の極大化を図るべく原油価格を維持するには減産を継続することが重要である旨説得するために、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は、今後も足元及びこの先の世界石油需給状況と原油価格動向や見通し等を見極めつつ、減産措置緩和の取り扱い(つまり減産措置緩和の延期、取り止め、もしくは状況によっては減産拡大等)につき漸進的に判断していく可能性があるものと考えられる。また、2ヶ月毎に実施される予定であるOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)は、次回は10月2日に開催されるものと見られるが、その際に減産措置の12月からの緩和につき議論することは、世界石油需給や原油価格の見通しが不透明であることからすると、時期尚早であるものと見られる一方、次々回のJMMC(12月1日に開催される予定である次回OEPCプラス産油国閣僚級会合の直前に開催されるものと思われる)において12月からの減産措置緩和の再調整を協議しても、減産参加各産油国の原油生産調整に対する準備が間に合わないものと見られることから、遅くとも11月上旬末頃までには世界石油市場の現状及び今後の見通しに基づき、臨時協議を実施すること等を通じ、減産措置の再調整を行なうと言った展開となりうるものと考えられる。
なお、2024年1~7月において目標を超過して原油を生産していたイラク及びカザフスタンについては、2024年8月から2025年9月にかけ既存の減産措置に追加して減産を実施することにより目標超過部分を相殺させる計画である旨8月22日にOPECが明らかにした(表3参照)。ただ、8月についてもイラク等一部OPECプラス産油国は原油生産目標を超過する状態を継続しており(表4参照)、今後もこれら産油国において減産遵守状況が芳しくないことに伴い、この面でOPECプラス産油国の減産遵守を巡る足並みの乱れが市場で意識されることにより、OPECプラス産油国の減産措置に対する懐疑的な見方が市場関係者間で増大するとともに原油価格の上昇が抑制される場面が見られることもありうる。
全体としては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了した一方、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要が意識されるには時期尚早であることから、季節的に原油相場には下方圧力が加わりやすいものと考えられる。また、米国や中国の経済指標類等の内容とこれら諸国の政府や金融当局による政策等によっては、経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大する結果、原油相場を抑制する形で作用する可能性があるものと見られるが、米国金融当局が大幅な政策金利引き下げを実施する旨決定するようであれば、米国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大する結果、原油相場が上振れすることもありうる。そのような中、米国主要企業の2024年7~9月期等の業績、米国メキシコ湾周辺地域におけるハリケーン等暴風雨の来襲状況及び予報、中東やウクライナ及びロシア、リビア等を巡る情勢等が原油相場に影響を与えうるものと考えられる。
4. 世界液化石油ガス(LPG)市場を巡る一考察
2022年2月24日にロシアがウクライナへの事実上の侵攻を開始して以降2024年9月にかけ、世界の原油及び天然ガス市場とともに、液化石油ガス(LPG)市場においても幾らかの動きが見られた。ここでは、前回世界LPG市場動向につき説明した2023年3月(JOGMEC石油・天然ガス資源情報「原油市場他: 欧米の一部金融機関を巡る信用不安の増大により、約1年3ヶ月ぶりの低水準に下落する原油価格」(2023年3月20日掲載))以降を中心とした期間における世界LPG市場を巡る主な動向につき、その背景を含め考察を加えることとしたい。
LPGは油・ガス田において生産される原油及び天然ガスに随伴して産出される天然ガス液(NGL:Natural Gas Liquids)に含まれることから、他の大半の国及び地域と異なり、特に米国(及びいくつかの主要産ガス国)においては、生産された原油及び天然ガスを処理施設で処理する過程でNGLを分離すること等を通じLPGを産出することが主流となっている。このため、世界最大級の原油及び天然ガス産出国とされる米国においては、油・ガス田からのNGL、そしてLPGの供給は石油・天然ガス開発(及び生産)活動に左右される。そして、近年は米国においてはシェールガス及びシェールオイルの開発及び生産が主流となってきているため、同国のNGL及びLPGの生産も、シェールガス及びシェールオイルの開発活動に大きな影響を受ける格好となっている。
2022年2月24日にロシアがウクライナに対する事実上の侵攻を開始したことに対し、米国を含む西側諸国等はロシアに対する制裁発動へと動いたため、この先ロシアによる西側諸国等に対する報復措置等の実施により、ロシア産エネルギー供給に制限が加わるのではないかとの懸念が市場で高まった。そして、米国が欧州等の同盟国との間でロシアからの石油輸入禁止可能性につき協議中である旨同年3月6日に米国のブリンケン国務長官が明らかにしたことから、特にロシア産エネルギーに大きく依存している欧州諸国の石油需給が引き締まるとの懸念が市場で強まったことが、原油価格を押し上げた結果、3月8日には原油価格の終値が1バレル当たり123.70ドルと、2008年8月1日の終値(同125.10ドル)以来の高水準に到達した(なお、実際3月8日夜(米国東部時間)には、米国のバイデン大統領がロシアからの原油および天然ガス等のエネルギー輸入禁止を内容とする制裁をロシアに対し発動する旨発表した)。
また、2022年2月24日以降のロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う西側諸国等の対ロシア制裁実施とそれに事実上対抗する形でのロシアから欧州方面への天然ガス供給削減に伴い、欧州における天然ガス需給引き締まり感が増大した。また、従来から、新型コロナウイルス感染拡大時にメンテナンス作業を延期した原子力発電所のメンテナンス作業の実施、老朽化した原子炉の点検及び故障、原子炉の腐食等により、2022年8月25日時点で原子力発電能力6,137万kWのうち3,600万kW相当分が稼働を停止したフランスにおいて、操業再開までに時間を要する可能性がある旨同日伝えられたことにより、欧州域内の電力価格が上昇するとともに、天然ガス価格に上方圧力を加えたこともあり、同年8月26日にはオランダTTF天然ガス先物価格は100万Btu当たり推定99.071ドル(原油換算1バレル当たり約594ドル)の史上最高水準に到達する場面が見られた。このようなことから、特に米国の欧州方面へのLNG輸出が旺盛になったこともあり、米国天然ガス需給の引き締まり感が市場で強まったことが、同国天然ガス相場に上方圧力を加えた結果、2021年12月30日には100万Btu当たり3.730ドルの終値であった天然ガス価格は2022年8月22日には同9.680ドルの終値と2008年7月23日の終値である同9.788ドル以来の高水準にまで上昇した。
そして、このように、米国の原油及び天然ガスの価格が上昇傾向を示したこともあり、同国のシェールオイル及びシェールガスの採算性が改善するとともに、石油・天然ガス坑井掘削装置稼働数が上向いたことにより、石油及び天然ガスの生産に加え、NGL、そしてLPGの生産が活発化した(図16参照)。
しかしながら、その後ロシア産原油及び石油製品の世界市場への供給は平準化が図られるようになった(欧州等によるロシア産石油の引き受けが縮小した代わりに中国やインド等がロシア産石油の受入を拡大、さらに中国やインドがロシア産石油を受け入れる代わりにそれら諸国が受け入れなくなった中東産石油等が欧州に流入する格好となった)ことに加え、物価上昇沈静化を図るために米国金融当局が政策金利を引き上げた結果経済活動が鈍化したこともあり石油需要の伸びが鈍化したことが一因となって、原油価格が下落傾向となった他、世界的にLNG価格が上昇したことや、物価上昇抑制のために欧州等の一部諸国及び地域が政策金利を引き上げた結果経済活動が不活発化したこともあり、天然ガス需要の伸びが鈍化したことが一因となり、天然ガス価格も下落傾向となった。この結果、2023年3月17日には原油価格は1バレル当たり66.74ドルと2021年12月3日(この日の終値は66.26ドル)以来の低水準に到達、2024年3月26日には米国天然ガス価格も100万Btu当たり1.575ドルと2020年6月26日(この日の終値は1.495ドル)以来の低水準にまで下落した。このように原油及び天然ガス価格水準の低下により、それら資源の開発活動が減速した(つまり、石油・天然ガス掘削装置稼働数は減少傾向となった)ことに伴い、油田において生産される原油に随伴して生産される、もしくはガス田において生産される天然ガスに随伴して生産されるNGLの生産の伸びが2023年後半以降鈍化するようになった。しかしながら、2023年から2024年にかけては石油・天然ガス掘削装置稼働数は減少傾向となっているにもかかわらず、NGLやLPGの生産は鈍化してはいるもののなお伸び続けているようにも見受けられるなど、原油及び天然ガス価格の下落に対し、同国石油企業等が採算性の改善を目指して石油・天然ガス坑井掘削作業の効率化を図るとともに、より少ない掘削装置稼働数により石油・天然ガス(及びNGL)生産を拡大しようと努力していることが覗われる。
米国におけるプロパン需要は、暖房向けの民生部門における消費が盛り上がる冬場を中心とする時期には需要が増加する一方、暖房向けの民生部門における消費が低迷する夏場を中心とする時期には需要が軟調になると言った季節性はあるものの、総じて2023年初頭以降需要は前年同月比で増減を繰り返しながらもどちらかというと減少傾向である(図17参照)。2022年に比べると2023年はプロパン価格が下落したことや、2024年1月は米国が全体的に冷え込んだことから同製品需要が喚起された側面はあるものの、2023年が1~2月を中心として前年同月比で温暖であったこともあり、暖房のための民生部門におけるLPG需要が低迷したことに加え、2024年に入ってからは物価上昇に伴う一連の政策金利の引き上げの結果経済が減速したことがLPG需要を抑制する格好となったものと考えられる(経済状況に敏感な産業部門向け需要が影響を受けているものと思われる)。他方、2023年のブタン需要は前年同月比で概ね増加傾向となっている(図18参照)。これは、2022年から2023年にかけブタン価格が下落したことにより需要が喚起された他、全米ガソリン小売価格が下落したことに伴い冬場におけるガソリン需要が持ち直す格好となったこともあり、冬用ガソリン等に混入するブタンの需要が拡大したことが影響しているものと考えられる。それでも、2024年に入ると米国の経済減速感が強まったこともあり、ブタン需要の伸びは鈍化しつつあるように見受けられる。
また、米国のプロパン輸出は、プロパン脱水素化装置の建設が進む中国や国内製油所でのプロパン製造が減少しつつある日本での受入が堅調であったこともあり、2023年から2024年6月にかけ増加傾向を示した(図19参照)。このようなこともあり、2023年初には前年を上回っていた米国プロパン在庫(2022年前半を中心とした時期における原油及び天然ガス価格上昇に伴いLPG生産が活発化したことが一因であるものと思われる)は2024年1月には前年同月を下回り始めた(図20参照)。また、2024年1月には中旬を中心として寒波が南下したこともあり、米国の幅広い範囲で気温が低下したことから、暖房向けの民生部門におけるプロパン需要が喚起されたことが、同国のプロパン在庫減少をもたらしたものと考えられるが、その後は米国のプロパン需要がもたつき気味となったこともあり、米国のプロパン在庫は平年水準を上回って推移した。
欧州においては、米国と異なり油・ガス田における原油や天然ガス生産に随伴して生産されるNGL由来のLPGはノルウェー等産ガス国を除いて限定的であり、むしろ製油所で原油等を精製して製造されるLPGが利用されている他輸入LPGにも依存している。輸入は従来から行なわれたアルジェリアや欧州域内のノルウェーに加え、近年では米国からのものが拡大傾向にある(図21参照)。他方、2022年2月24日以降のロシアによるウクライナへの事実上の侵攻実施に伴い原油や天然ガス等の価格が影響を受けたことによるものを含め、欧州域内の物価が上昇するとともに、それに対応するために金融当局が政策金利引き上げを実施したこともあり、経済が減速気味となったことを反映し、産業部門等におけるLPG需要が軟調となり、2022年以降同需要は伸び悩み気味となった(図22参照)。また、2022~23年の冬場及び2023~24年の冬場が概して温暖であったことにより、暖房のための民生部門におけるプロパン需要が不振であったこともあり、冬場から春場を中心とした時期にはLPG在庫が積み上がる場面が見られた他、同地域におけるLPG在庫は概して高水準で推移している(図23参照)。
ロシアによるウクライナへの事実上の侵攻の実施直後の原油や天然ガスを含むエネルギー価格上昇により、インドにおいてもエネルギー小売価格のみならず物価が上昇した結果、経済活動が抑制される場面が見られたこともあり、同国のLPG需要の伸びも不安定な様相を呈したが、物価上昇が沈静化するにつれ経済活動が再び活発化した結果、産業部門におけるLPG需要が回復基調となった他、インドでは人口が増加しつつあることもあり、家庭での光熱や給湯向けの民生部門におけるLPG需要が伸びつつあることもあり、同国のLPG需要は比較的堅調に推移している(図24参照)。他方、この需要増加を賄うためにLPG輸入も増加しており(図25参照)、特に距離が比較的短い中東方面からの輸入が主流となっている。
中国では、2022年は新型コロナウイルス感染抑制のため同年3月28日以降中国上海市において都市封鎖が実施されたことを含め大規模な新型コロナウイルス感染抑制策が実施されたことにより、同国経済が大幅に減速するとともに石油化学製品需要の伸びが鈍化したこともあり、同国のPDHの稼働率が低迷するとともに同装置向けの原料となるプロパンの需要の伸びが不安定になった。しかしながら、2022年11月30日に中国広東省広州市および河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、同国では新型コロナウイルス感染抑制策が緩和し続けたことにより、2023年の同国経済は前年の落ち込みの反動を含め相当程度回復するとともに、PDHの稼働率が上昇、原料となるプロパンの需要も拡大した。また、2023~24年においても、同国では新規施設建設や能力拡張といった事業の完成に伴うPDHの稼働開始(表5参照)が、メンテナンス作業を完了した一部のPDHの稼働再開と相俟って、例えば、2024年7月には同国のPDHの稼働率が74%と2022年5月(この時は75%)以来の高い稼働率に到達するなどした結果、原料となるプロパンの需要も増加する(図26参照)とともに、同国のLPG需要も概ね持続的に拡大した(図27参照)。しかしながら、また、2022年の同国経済停滞への反動が一巡しつ始めた2023年後半以降は、不動産部門の不振が同国経済活動に負担となり始めた一方、同国政府等による景気刺激策も経済を浮揚させるには不十分であったとされることもあり、同国経済は再び減速傾向を示しつつあることにより、一部のPDHでは採算性の悪化から稼働率が低下しつつあると見る向きもある。
米国のLPG価格は概ね原油価格を下回る(一方、天然ガス価格を上回る)傾向を示している。そして、暖房を中心とする需要期である冬場には原油との価格差を縮小させる一方、不需要期である夏場には価格差を拡大させるのが一般的である。このため、2022年2月24日以降ロシアがウクライナへの事実上の侵攻を実施したことにより、原油価格は上昇する場面が見られたものの、むしろLPGは春場以降の不需要期が意識されるとともに価格がもたつき気味となった(図28参照)。また、2022年前半を中止とする時期における米国の原油及び天然ガス価格の上昇に伴い同国産のLPG供給が拡大するとともに2022年後半以降欧米諸国等におけるLPG在庫が積み上がり気味となる反面、2022~23年及び2023~24年の北半球の冬場が概ね温暖であったことにより、暖房向けの民生部門等におけるLPG需要が不振であった。このため、同時期のLPG価格の上昇も限定的なものとなった他、春場以降の季節的な不需要期に向けた需給緩和感が市場で意識されたことと相俟って、2022~24年各年の冬場後半以降のLPG価格も抑制されたままの状態で推移した。また、米国からの随時契約(スポット)によるLPG供給が増加するとともに、北東アジア方面にそのLPGが輸出されていることもあり、競合する格好となっているサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが毎月設定する契約価格(CP:Contract Price)にも下方圧力が加わっており、両価格は概ね同様の上昇及び下落傾向を示している。
以上
(この報告は2024年9月17日時点のものです)