ページ番号1010214 更新日 令和6年9月20日
脱炭素に向けた多様なエネルギーの経路と不確実性リスクの考察 ―韓国と台湾の対極的な電源計画とLNGの位置付け、世界のLNG市場を取り巻く状況、日本のLNGを取り巻く課題―
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概要
- 脱炭素への経路は各国・地域の特性に応じた多様なもの
主要国と日本では産業構造、電源構成、送電網を含むエネルギーインフラ、地理的特性が異なる。日本は近隣の台湾や韓国と火力に依存した電源構成、国外と接続していない電力システム、再生可能エネルギーの制約(地理的条件)等で類似点が多い。
日韓台は脱炭素化の早期実現が難しい産業を擁する。石化産業を含む産業分野の脱炭素化は経済合理性の追求だけではなく、経済安全保障の観点から官民連携が求められる。熱エネルギー(特に高温熱分野)は電化が難しく脱炭素化に向けて供給側とエンドユーザー双方の転換、インフラ整備(再構築)に要する時間を考慮する必要がある。
- 台湾と韓国の対極的な電源計画と燃料調達価格変動リスク
台湾と韓国の電力需要想定や再生可能エネルギー拡大方針は共通。しかし原子力とガス火力の位置付けは対極的。設備増強が計画通り進展しない場合、市場でのLNG調達を余儀なくされ、燃料調達価格変動リスクに直面する。さらに日本を含む太平洋LNG市場に影響が及ぶ可能性がある。
- 世界のLNG市場は発展、多様化しているが需給双方に不確実性リスクが存在
世界のLNG市場はプレイヤーが増加し、契約や取引は柔軟性が高まり多様化が進展。
世界のLNG需要は幅広い地域で増加しており2035年までにさらに1.7倍増加する見込み。
LNGは資源・需要・開発意欲はあるが、需給双方に不確実性リスクが存在する。
- 日本のLNGを取り巻く課題
韓国と台湾のLNGにおけるリスクや世界のLNG需給の不確実性を踏まえ、日本も市場変動リスク緩和に向けた対応が必要。
1. 脱炭素への多様なエネルギーの経路
1-1. 電源構成、電力システム、地理的特性
脱炭素の経路は各国の特性に応じた多様なものである。主要国と日本では電源構成、電力システム、地理的特性が異なる。近隣の台湾や韓国とは火力に依存した電源構成、一国で閉じた電力システム、再生可能エネルギー適地の制約(地理的条件)等類似点が多い。
電源構成
米国の原子力発電量は世界首位の原子力発電量[1]だが低コストの自国産ガス火力が発電量の43%と最大。フランスは原子力発電量が世界3位、電源の65%が原子力である。ドイツと英国は水力と水力以外の再生可能エネルギーが発電量の47%、46%と高い。英国は自国産ガスの利用も34%と高い。
日本、韓国、台湾は輸入化石燃料による火力の比率が高い(ガス火力32%、27%、40%、石炭火力30%、33%、42%)。
電力システム・地理的特性
欧州は欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTSO-E[2])による電力共通市場が存在し地域特性による需給調整が可能である。
米日韓台は自国内運用である。米国は主力地域電力会社がBalancing Authority(BA)として系統管理を、地域託送機関(RTO)のある地域はRTOが広域系統運用を行っている。日本は電力広域的運営推進機関(OCCTO[3])が需給調整機能、供給計画、広域系統整備等を実施している。韓国は国営電力会社KEPCOが電力取引所(KPX)から購入した電力の送配電を行っており、台湾はTaipowerが送配電を担っている。
日韓台は再生可能エネルギー拡大に注力しているが、国土の7割が山地(丘陵)で日照量や水深の浅い大陸棚等再生可能エネルギー適地には制約がある。また再生可能エネルギー導入拡大は出力変動への対応に加え、送電網整備や地域との共生(土砂災害や景観、環境への影響等)が求められる。
1-2. 産業分野、熱エネルギーにおける脱炭素の難しさ
日韓台の製造業比率は2~3割と主要国(米英仏)に比べ高く、脱炭素化の早期実現が難しい産業を擁する。日韓台は半導体産業等に多様な機能性化学品や素材を提供する石油化学コンビナートや自動車産業等を支える鉄鋼などのエネルギー多消費産業を擁する。石油化学産業は業界が連携し、燃料アンモニアやバイオマス原料など原燃料転換の検討、リサイクルやCO2を原料化する技術開発、生産体制の最適化を進めているが、サプライチェーン全体の脱炭素化の早期実現は難しい。また中国が自国石化産業の自給向上を追求し、石化産業の主要構成要素であるエチレンやプロプレンなどの生産設備の急速な増強[9]を進めた結果、世界の石化産業はEVや太陽光パネルで起きているような供給過剰に直面している。石化産業の生産体制の最適化は、経済合理性や脱炭素化の追求だけではなく、経済安全保障の観点から官民で連携することが求められる。
日本は電化と電力の段階的な脱炭素化を進めている。しかし民生・産業部門のエネルギー消費の6割は熱エネルギーであり、特に200℃を超える高温熱分野は電化が難しく脱炭素化は難しい。熱分野の脱炭素化は供給側とエンドユーザー双方の転換、インフラ整備(再構築)に要する時間を考慮する必要がある。日本ではガス業界主導で既存の設備を利用できるドロップイン燃料としてe-methane[10]の2030年社会実装に向けた実証と枠組み整備を進めている。
(出所:カーボンニュートラル実現に向けた国内外におけるe-methaneの取組み[11] JOGMEC2024年7月)
2. 台湾と韓国の対極的な電源計画とLNGの位置付け
台湾と韓国の脱炭素の経路を表1にまとめた。炭素中立目標時期(2050年)、データセンター、半導体、EV等電化による電力需要増加想定、そして太陽光・風力を中心とする野心的な再生可能エネルギー導入拡大による脱炭素化を図る動きは共通している。しかし原子力、LNGの発電における位置付けは対極的である。そして太陽光・風力(韓国は原子力を含む)の設備増強が計画通り進展しなかった場合、電源計画に合わせて中長期での調達を計画しているLNGについて契約分では足りなくなり、市場での追加調達を余儀なくされ、燃料調達費用の高騰や価格変動リスクに直面する。それは日本を含む太平洋LNG市場に影響が及ぶ可能性がある。
台湾と韓国のLNGにおける課題は再生可能エネルギー設備増強の不確実性の他にバックアップ電源やLNG調達・インフラ、政治リスクなどがある。表2にまとめた。
* 台湾は国連の「気候変動枠組み条約」を批准していないが自主的に温室効果ガスの削減に取り組み、法整備も行っている。
** 2024年9月、韓国憲法裁判所「炭素中立法」違憲判決。政府に2026年2月末までの法改正、2031~2049年の削減目標設定を求め、環境省は必要な対応を行うと表明した。
*** 2023年7月10日、台湾行政院(内閣)「温室効果ガス削減管理法」を「気候変動対応法」に改正(2024年2月15日施行)2050年炭素中立、炭素費用徴収を盛り込んだ。
2-1. 台湾の電源計画(「全国電力資源供需報告」経済部2024年7月15日)のポイント
台湾は「電業法」91条に基づき毎年「全国電力資源供需(需給)報告」を作成、電力需給の現状と今後10年の電源計画について報告している。経済部が7月15日に2023年版の報告を公表した。電力需要は2024年から28年にかけて年率2.5%増加、2029年から33年にかけて年率2.8%の増加を見込んでいる。AI、半導体産業、EV推進政策が牽引する。特にAIは2028年には2023年比8倍に増加すると予測している。
再生可能エネルギー(水力を含む)の設備容量(2023年末)は17.96GWで発電設備の28%。発電量は26.9TWhで発電量の9.5%を占める。太陽光が12.4GW、風力が2.678GW(うち洋上風力が2.25GW、送電網接続は1.76GW)と設備容量の8割を占める。再生可能エネルギーの発電量に占める比率は2016年の4.8%から倍増した。再生可能エネルギー発電量目標は当初2025年20%としていたが新型コロナの影響で建設が遅延し、2026年11月頃にずれ込む見通しである。
再生可能エネルギー増強計画(2024年~2033年)は太陽光発電設備を年2GW、洋上風力を中心とした風力発電設備を年1.5GW増設し、2033年に発電量の24.7%が再生可能エネルギーと見込む。また2023年から2025年にかけて蓄電設備計10GWを増設することグリッドの強靭化、2030年代にクリーン水素(アンモニア)や地熱を導入する計画が示された。
台湾は再生可能エネルギーとともにガス火力の大幅な増強を進める計画である。ガス火力設備容量(2023年末)は19GWで発電設備の29.6%を占める。発電量は111.6TWhで発電量の39.5%を占める。原子力、石油・石炭火力計13.06GW退役に対しガス火力を30.93GW増設するためガス火力は2033年までに17.87GWの純増となる。2024年8月に総統府気候対応諮問委員会が自然エネルギーと気候変動緩和の取り組み強化でガス火力を強化すると表明した。
2024年1月から6月にかけてガス火力の発電量シェアが41%に達し石炭火力(39.6%)をわずかに上回っている。石炭火力は大気汚染を減らす観点から冬場の消費を減らしており、亜臨界石炭火力は2030年半ばまでに多くが退役かクリーンアンモニア混焼等の低炭素化、あるいは予備電源化を図る見込みである。
原子力発電設備は2025年7月までに全機閉鎖の予定である。2015年4月に原子力発電の新設や既存原子力発電の運転期間(40年)の延長を認めない「非核家園(脱原発)推進法」が立法院で可決され、た。2017年に電気事業法が改正され、2025年5月までに全原子力発電の運転を停止させると規定された。2018年11月の国民投票により同規定は削除されたが、現政権は運転期間の延長を認めず、2023年3月に国聖2号機が、2024年7月に馬鞍山1号機が運転期間40年に達し、運転を停止した。
2024年1月13日に実施された総統・議会選挙ではエネルギー政策が注目を集めた。総統選挙に出馬した野党国民党の侯友宜氏が排出削減と原発回帰は国際的な風潮であるとして2040年の石炭全廃ならびに原子力発電の再稼働や運転延長を認める方針を表明したが、2期8年政権を維持した与党民進党の頼清徳氏が選出された。7月に国民党の原子力推進派議員は原子力とエネルギー政策に関する経済界の声を受けて原子力の運転延長申請を5年前までとする法的要件を撤廃する法案を提出したが詳細審査は延期となった。馬鞍山1号機は2025年5月までに運転を停止する予定である。
2-2. 台湾のLNG戦略
LNG輸入・契約(分散、多角化、安定供給)
台湾のLNG輸入(2023年)は19.9MTで8割が発電向けである。台湾は中国、日本、韓国、インドに次ぐ5位のLNG輸入国(世界のLNG貿易量約4億トンの5%)で台湾中油(CPC)1社の調達である。LNGの主な輸入国は豪州(LNG輸入の40.2%)、カタール(同27.9%)、米国(同9.8%)である。CPCによるとLNG輸送所要日数はカタール(5,285nm、13日)、米国(パナマ運河経由10,520nm、27.4日)、豪州(2,275nm、5.9~7日)である。
(出所:台湾経済部[12])
台湾のLNG調達は“分散、多角化、安定供給”で近年はカタールとの長期契約やポートフォリオ契約を積み増している。QatarEnergyとは2021年7月にLNG長期契約(2023年以降1.25MT×14年間)を締結し、2024年6月にはNorth Field East(NFE)拡張(2026年以降年4MT×27年間)について長期契約を締結し、NFE権益8MT4系列計32MTのうち1系列の権益5%を取得した。CPCはNFE契約について2022年5月CPC取締役会で予算3.5億ドル予備承認、同年10月に行政院から予備承認を得ており、周到に準備を進めていたことが窺える。これらの契約積み増しによりカタールとの契約(契約締結ベース)は2030年に45%、ポートフォリオ契約は同22%に上昇する見込みである。
豪州からのLNG輸入量(スポットが多い)は2021年にカタールを上回った。2024年7月、CPCは豪州Woodsideと初めて長期契約(ポートフォリオ)を締結した。2024年から年0.6MT×10年間(延長オプション10年間年0.84MTあり)の供給である。Woodsideは2024年7月に米LNG事業者Tellurian買収で合意しており、供給されるLNGは豪州産とは限らない。
CPCのターム契約とスポットの比率は2023年時点で75:25(目標設定はない)である。契約は油価連動主体で一部ヘンリーハブ連動とのことである。半導体大手のTSMCなど産業顧客向けにカーボンニュートラルLNGカーゴを年に数隻購入している。
(出所:台湾経済部[13]に基づきJOGMEC作成)
LNG受入基地、インフラ整備、在庫拡充
台湾はエネルギー安全保障強化の観点から台湾全土を網羅するパイプライン網構築する計画を進めている。稼働中の南部屏東(Pingtung)から北部基隆(Keelung)間を結ぶ南北縦断陸上幹線パイプライン2,221kmと計画中の永安(Yongan)~苗粟県通宵(Tongxiao)間238kmの海底パイプライン、永安~桃園(Taoyuan)間500kmの陸上パイプライン、台中受入基地~大塘(Datang)発電所間パイプラインを、接続する。また台湾はLNG法定安全在庫日数(8日以上)を2027年までに14日に拡大する計画である。
参考1 台湾のその他取り組み:炭素費用、日台クリーン水素・アンモニア実証・協力
排出費用徴収
2024年9月9日、台湾環境部は炭素料金第5回審議会を経て、炭素費用一般徴収価格を排出トン当たり300~500台湾ドル(1,300~2,200円)と決定した。今後の会議で価格の一本化を図り、自主削減の優遇率を決める方針である。炭素費用は2025年に試行、2026年から開始する。対象はGHG排出2.5万トン以上の電力・ガス、製造業500社(排出全体の54%、1.55億トンCO2相当)で、当初排出トンあたり300~500台湾ドル(約1,300~2,200円)、2030年以降1,200~1,800台湾ドル(5,300~7,900円)に引き上げる計画である。
日台クリーン水素・アンモニア実証・協力
表4の通り日本企業と台湾企業はクリーン水素・アンモニアの実証や協力を進めている。再生可能エネルギーと火力を併用する方針の台湾では火力の脱炭素化として、クリーン水素・アンモニアへの燃料転換が有効な選択肢である。
* 台湾工業技術研究院(ITRI)グリーンエネルギー研究所は台南市沙潤に初の再生可能エネルギー水素製造・貯蔵・応用実証サイトを建設
2-3. 韓国の電源計画(「第11次電力需給基本計画」実務案2024年5月31日)のポイント
韓国は「電気事業法」に基づき2年毎に今後15年の長期電源計画を策定している。2024年5月31日に第11次電力需給基本計画準備委員会が実務案を公開した。経済、気候変動、産業構造、人口変化を反映した計量モデルによる予測に基づき作成している。
2038年の目標電力需要は129.3GWで2023年の最大需要98.3GWに比べ30.6GW増加している。半導体、データセンター、産業部門等電による増加を見込んでいる。
2038年の目標設備容量は157.8GWで予備率を22%とし、前回10次の計画で確定している147.2GWを除き、10.6GWを新たに追加した。内訳は2031~32年が2.5GW(ガス火力)、33~34年が1.5GW(水素混焼転換条件付きガス火力)、35~36年が2.2GW(0.7GWは実証中SMR1基、残りはカーボンフリー発電入札を通じ最適な電源を選定)。37~38年が4.4GW(原子力大型炉(APR1400)最大3基4.2GWの建設が可能)である。大型炉について敷地確保を含め13年11か月の建設期間を見込み、37年以降の計画、敷地確保や所要費用は政府が事業者と協議するとしている。
韓国は太陽光・風力を中心とした再生可能エネルギーの増強を進める計画である。太陽光・風力は2030年に3倍の72GW、2038年に5倍の120GWに増強する。NDC達成のため基本普及経路から上方修正、産業団地の太陽光活性化や離隔距離規制の改善などの政策手段を反映している。
脱炭素発電比率目標は2030年50%超、2038年70%超を目指している。2030年は原子力31.8%、再生可能エネルギー21.6%、クリーン水素・アンモニア2.4%。2038年は原子力35.6%、再生可能エネルギー32.9%、クリーン水素・アンモニア5.5%である。クリーン水素発電は2028年実装を目指し入札を実施中である。
火力発電比率は2023年の60%から2030年に33%(石炭10.3%、LNG11.1%)に半減、2038年は21.4%(石炭10.3%、LNG11.1%)に抑制する計画である。石炭火力からガス火力への転換、水素等混焼による脱炭素化を進める。設計寿命30年に到達する石炭火力12基の脱炭素電源化(熱供給の公益用途に限り水素混焼転換条件付きガス火力を容認)を進める。再生可能エネルギー拡大に伴う安定的な系統運営のために2038年までに21.5GWの長周期ESSが必要、送電網整備が課題で地下インフラを検討している。
2-4. 韓国のLNG戦略
LNG輸入・契約(KOGASは長期契約、調達多角化)
韓国のLNG輸入(2023年)は45.2MTで5割が発電向けである。中国、日本に次ぐ3位のLNG輸入国で韓国ガス公社(KOGAS)がLNGの8割を調達、自家消費向けにLNGを輸入する電力、石油、鉄鋼等のLNG直接輸入事業者が残り2割を輸入している。主な輸入国は豪州24%、カタール19%、マレーシア14%、米国11%である。KOGASは長期契約(8割)、調達多角化を志向しており、最近はポートフォリオ契約の締結が目立ち、2030年にポートフォリオ契約(契約締結ベース)が4割程度に高まる見通しである。KOGASは2024年2月に豪州Woodsideとポートフォリオ契約(Scarboroughを含む、2026年以降0.5MT×10.5年/DES)を締結した。同年4月にBPとポートフォリオ契約(2026年以降0.9MT×11年、2022年にも2025年以降1.6MT×16年/DES)を締結している。
KOGAS以外では2024年8月にPOSCOがMexico Pacificの米太平洋岸Saguaro Energia LNG契約(0.7MT×20年/FOB)を締結した(原料ガスは米国産)。米国エネルギー省DOEが非FTA国へのLNG輸出承認を停止して以来アジア向けの初の契約となる。韓国と米国はFTAを締結しているが、Mexico Pacificは非FTA国向け輸出承認が2025年12月に失効するため、FIDには延長申請が必要。
KOGASはLNG直接輸入事業者の輸入量増加、原子力や再生可能エネルギーによるLNGの需給調整を懸念している。韓国ガス連盟主催のエネルギー安全保障フォーラムではLNG直接輸入事業者の増加で競争力のある価格に近付いた[14]が需給安定性の面で後退したとの見方やDES比率上昇への疑義が示された(11次計画期間のDES比率は5~7割、台湾8~9割、日本3~5割)。
参考2 韓国の第1回エネルギー安全保障フォーラムにおける論点(韓国ガス連盟主催)
2024年8月26日、韓国ガス連盟主催で第1回エネルギー安全保障フォーラムが開催された。KOGAS、LNG直接輸入事業者、大学、法律事務所等関係者150名が参加しLNGを中心にエネルギー安全保障の強化方策について議論した。グローバルLNG市場の構造的な変化や市場価格変動リスク、炭素中立の不確実リスク、韓国におけるエネルギーの政治アジェンダ化を踏まえ、国家主導のエネルギー長期計画は競争力やリスク管理の点で限界という意見が出た。ガス産業を市場と顧客という観点から自律性確保に重点を置き、利用可能性、信頼性、需要可能価格という3軸を持つエネルギー安全保障危機への対応能力を強化する提案が出た。KOGASの規制料金に起因する財務脆弱性に加え、KOGASとLNG直接輸入事業者の関係改善を求める意見も出た。
LNG受入基地、インフラ整備、在庫拡充
LNG直接輸入事業者のうち、電力会社は長期電源計画における火力需要低下やコスト上昇を理由に自社LNG受入基地計画を中止[15]した。しかし稼働中のLNG受入基地の能力には余裕がある。麗水(Yeosu)北東アジアLNGハブターミナル建設計画は停滞していたがGS Energyが参加、GS建設(GS E&C)への建設発注で、2027年末までに竣工する見通しが出てきた。
参考3 韓国におけるクリーン水素発電入札
2024年6月、韓国政府はクリーンな水素火力発電のオークションを開始、100%水素ベースの発電、石炭火力アンモニア混焼、天然ガス火力水素混焼が対象である。クリーン水素はCI値で定義し、認証基準はCI値4以下、年間最大6,500GWh(75万kWのベース電源相当)、契約期間15年間、2028年までの開始、入札期限は2024年11月。CI値によって得られるポイントを加味して落札を決定(CI値0.1で35ポイントに対しCI値4では1ポイント)。電力市場における契約価格と卸売価格の差額をカバーするCFDスキームで落札者に保証する計画である。
3. 世界のLNG市場を取り巻く状況
3-1. 発展・多様化する世界のLNG市場
世界のLNG市場は発展、多様化している。供給者と需要者、ポートフォリオ事業者、市場取引参加者が増加した。また仕向け地制限の無い契約、取引形態が多様化した。原油連動に加え天然ガス市場価格やハイブリッド型など指標が多様化した。
経済発展や大気汚染、脱炭素政策によるガスシフト、地政学リスクや自国産ガス生産減少によりアジア(中国、インド、パキスタン、マレーシア、タイ)、欧州(オランダ[16]、トルコ)、アフリカ/中東(エジプト[17])等幅広い地域で需要が増加している。米国、カタールなどの供給が需要を充足した。
Rystad Energyによると世界のLNG需要は2035年までに1.7倍増加する。新興需要国を中心に世界のLNG需要は2023年の4億トンから2.9億トン増加し6.9億トンに到達する。需要充足には1.2億トンのLNG液化事業新規投資決定が必要である。
3-2. 世界のLNG市場の需給双方に存在する不確実性リスク
LNGは資源・需要・開発意欲はあるが、需要と供給双方に不確実性がある。LNG(パイプラインガス)供給は政府認可や治安等による稼働遅延、設備トラブルやメンテナンス長期化、米非FTA向けLNG輸出承認停止やRio Grande LNGなど認可済みプロジェクトの法的問題等が相次いでいる。また国内への供給優先政策等による輸出規制リスク(豪州、インドネシア[18]、マレーシア[19])や欧州等のメタン排出規制強化は既存液化事業に影響する可能性がある。需要側にも不確実性がある。LNG輸入新興国は代替燃料価格を含め価格に敏感で需要は上下に揺れ動く。干ばつ(渇水)による需要変動(パナマ運河、中国[20]、ブラジル[21]、欧州)は恒常的な価格変動リスクと認識すべき水準となっている。
参考4 ExxonMobil Global Outlook(2024年9月)における天然ガス関連ポイント
ExxonMobilは2024年9月に公表したアウトルックにおいてエネルギーミックスにおけるバランス、産業活動と発電が牽引する天然ガス需要の底堅さ、必要な投資が行われなければ自然減退が加速する供給について以下の通り指摘している。
- エネルギーミックスには多くの可能性があるが信頼できるシナリオはすべて需要を満たすためにあらゆるエネルギー源を必要とする。
- 石炭は再生可能エネルギーや天然ガスなどの低排出ガス源に代替。
- 天然ガス需要は産業活動と発電が牽引。天然ガスは引き続き発電の20%程度を占める。
- 天然ガス供給は(1)投資が全く行われなければ年率11%程度で減少。(2)既存油ガス田への投資を継続し、新規開発を行わない場合は年率3%減少する見通し。(1)の場合天然ガス供給はIEA STEPSを下回る。(2)の場合IPCC「2℃を下回る」シナリオやIEA APSの需要を下回る。
(出所:ExxonMobil Global Outlook[22])
4. 日本のLNGを取り巻く課題
4-1. 日本における現実的な脱炭素への経路
日本は電化と再生可能エネルギー導入拡大による電力の脱炭素化を先行させている。再生可能エネルギーの導入拡大は出力変動への対応に加え、送電網整備や地域との共生(土砂災害や景観、環境への影響等)が求められる。また再生可能エネルギーの適地への産業集積誘導や地域連係線の整備等電力強靭性向上の取り組みが必要である。電力需要と再生可能エネルギー(蓄電池)拡大の不確実性に対し原子力と脱炭素化転換条件を備えた火力の組み合わせが日本における現実的な脱炭素の経路といえる。
参考5 火力の脱炭素化の取り組み
火力の脱炭素化の取り組みについて石炭火力の燃料転換、CO2貯留、クリーン水素・アンモニア導入に向けた法整備や公的支援に向けた入札公募等が行われている。
火力の燃料転換については2023年度から長期脱炭素電源オークション[23]が実施されている。初回2023年度は脱炭素電源400万kWおよびLNG専焼火力(安定供給に万全を期す観点から別枠)2023年から2025年度の3年間で計600万kWを募集。約定結果は脱炭素電源が401万kW(蓄電池・揚水166.9万kW、既設火力回収82.6万kW)、LNG専焼火力は575.6万kWであった。LNGは初回でほぼ3年分の576万kWに達し、2024年度は残余分に200万kWを追加して募集することになった。
「先進的CCS事業」(CO2の分離・回収から輸送、貯留までのバリューチェーン全体を一体的に支援)について、国内で排出されるCO2を2030年度までに貯留開始することを目指す事業として今後重点的に支援を行っていく9案件が候補として選定されている[24]。
クリーン水素・アンモニア導入については2024年5月に水素社会推進法とCCS事業法が成立し、水素等基盤整備事業の公募が行われ、10件の調査事業が採択[25]されている。また日本海事協会がアンモニア燃料アンモニア輸送船の安全性評価[26]を行っている。また国際海事機関(IMO)においてアンモニア燃料船の安全基準の検討が進んでいる。船舶へのアンモニア燃料の補給の安全かつ円滑な実施については、各国に委ねられており、国土交通省が「アンモニア燃料船への安全かつ円滑なバンカリングの実施に向けた検討委員会[27]」を立ち上げ、設備の要件、離接舷時の気象・海象要件、事故防止対策等について検討を行っている。
参考6 データセンター等の電力需要増加の不確実性
2050年に向けてデータセンター等による電力需要増加が指摘されているが、不確実性が高い。電力中央研究所の需要想定ではデータセンター等の需要増加に大きな幅がある。生成AIなどデータ利用量の増加でデータセンターの立地が拡大、計算負荷の増加によるサーバーの電力需要増加による上振れ要因に対し、サーバーの電力需要減少や電力効率改善、データセンターの老朽化に伴う閉鎖、データセンターの稼働率の低下などの下振れ要因が指摘されている。このような不確実性は長期の投資判断を難しくさせる。
【電力需要】
2050年度829~1,075TWh(2019年度834TWh)
うち電化による増分は87~156TWh、データセンター等による増分は21~198TWh
【データセンター等需要想定】2050年度43~211TWh、21年度実績20TWh
【ネットワーク(基地局)需要想定】2050年度6~15TWh(19年度8TWh)
【半導体を含む電子部品需要想定】2050年度24~28TWh(19年度19TWh)
(出所:「2050年度までの全国の長期電力需要想定-追加的要素(産業構造変化)の暫定試算結果」[28]電力中央研究所2024年3月)
4-2. 燃料調達価格変動の可能性への備え
2024年9月9日、総合資源エネルギー調査会電力・ガス基本政策小委員会において、発電用燃料(特にLNG)に関するリスクとして全国で必要な燃料を確保できないリスク、有事の際に必要な燃料が確保できないリスク、長期契約の減少により価格変動リスクのそれぞれについて数量面と価格面での影響評価が行われた。韓国と台湾のLNGにおける課題から同じ市場でLNGを調達する日本として市場における調達価格変動の影響に備える必要がある。
(出所:METI総合資源エネルギー調査会 電力・ガス基本政策小委員会[29]2024年9月9日)
4-3. 市場変動リスク緩和に向けた対応
LNG取扱量が多く、複数のインフラを保有する事業者は多様なLNG契約し、調達のポートフォリオを構築し、需要の不確実性に対し調達の最適化や市場変動リスクへの対応を追求することが可能である。一方、LNG取扱量が少ない事業者は自社のみでリスクを軽減することは難しいが、多様なLNGポートフォリオを持つ内外事業者との契約によりリスク軽減を図ることが可能である。
日本のLNG事業者が新興LNG輸入国に買い負けることや必要量が確保できないリスクは高くはないが、価格変動リスクに備え、長期契約と市場における調達の適度なバランスが市場変動リスク緩和には有効と思われる。また市場変動リスク緩和に向けた対応案を以下に示す。
- 契約更新時のオプション
- 契約期間の調整
- 仕向け地フリー、DES、FOB、指標、契約期間の長短などの組み合わせ(ポートフォリオ拡充)
- e-Methane導入に対する契約の柔軟性
- 企業間協調の継続・拡充(自主的な融通・協力関係継続が前提)
- 取扱量が少ない事業者の合従連衡によるバーゲニング
- 取扱量が多い事業者から少ない事業者への卸販売拡充
- 公的支援
- 日本企業のLNG契約向けガス田開発・CCSへの支援
- SBL
- UQT(需要上振れ、安定供給への貢献)への支援
5. さいごに
脱炭素の経路について日本と主要国の比較をよく見かける。しかし日本は近隣の台湾や韓国と類似点が多い。今般台湾と韓国の長期電源計画が更新されたことを受けてその電源計画とLNGの位置付けやインフラ整備等を概観した。日本と韓国は輸入LNGの5割が発電向け、台湾は同8割という共通項があり、韓国と台湾の電源計画と脱炭素化の方向性は日本も参考にできると考えたからだ。同時に世界のLNG需給を取り巻く状況と不確実性リスク、そして日本のLNG調達が直面する課題を安定供給の視点から考察した。
台湾と韓国は増加する電力需要に対し可能エネルギーを拡大し脱炭素化を進める方針は共通しているが台湾はガス火力を拡大し、韓国は原子力増設を図る点は対極的である。再生可能エネルギーと原子力発電所の新増設が計画通り進展しない場合、市場でのLNG調達を余儀なくされ、燃料調達価格変動リスクに直面する恐れがある。さらに日本を含む太平洋LNG市場に影響が及ぶ可能性がある。
日本は今後生成AIやデータセンター等による電力需要増加や再生可能エネルギー拡大の不確実性が見込まれるなか、受容可能なコストと安定供給、産業競争力を意識しながら脱炭素化を図らなければならない。再生可能エネルギーと蓄電池の拡大に加え原子力と脱炭素化転換条件を備えた火力の組み合わせが日本における現実的な脱炭素の経路であろう。
政府は火力の脱炭素についてクリーン水素・アンモニア実装、CO2貯留に向けた法整備や公的支援による導入促進を図ろうとしている。また長期脱炭素電源オークションによりLNG火力の建設促進を図っている。
日本は自由化と卸電力市場の取引拡大、内外無差別などの電力システム改革に伴いLNG需要予測が難しく、新規の長期契約に及び腰となっている。日本のLNG事業者が新興LNG輸入国に買い負けることや必要量が確保できないリスクは高くはないが、価格変動リスクに備え、長期契約と市場における調達の適度なバランス、調達のポートフォリオ構築、事業者間の協調、公的支援必要と思われる。
参考資料
- 脱炭素に向けた多様なエネルギーの経路と不確実性リスクの考察 ―韓国と台湾の対極的な電源計画とLNGの位置付け―(9/19)[30]
- 韓国:電源計画、低炭素水素(長期脱炭素電源)入札・拠点整備・韓国企業事業化ならびに日韓政府・企業の低炭素燃料製造・チェーン構築に向けた協力[31]
- 台湾:総統選挙とLNG拡大路線の行方 ―国民党は石炭全廃と原発回帰を提起、現政権が進める脱・原発・LNG拡大路線転換の可能性?LNG拡大の脅威への備えとは―[32]
- アジア消費国、エネルギー安全保障と脱炭素化に向けた取り組み(2/15)[33]
[1] 世界の原子力発電量(2023年)の首位は米国(世界の原子力発電量の29.8%、2位は中国(同15.9%)、3位はフランス(同12.4%)
[2] 2024年現在欧州36か国、系統運用者40社で構成
[3] 全電気事業者に加盟義務あり
[4] https://ee-public-nc-downloads.azureedge.net/strapi-test-assets/strapi-assets/ENTSO_E_Webinar_Market_and_Balancing_Reports_2024_4b8db8d767.pdf(外部リンク)
[9] IEA試算では2019年から2024年末までの間に中国は欧日韓の既存生産能力とほぼ同等のエチレンおよびプロピレン生産プラントを建設、IEAは2030年までに中国が同等の生産能力を追加すると予想。
[10] CO2とグリーン水素等非化石エネルギーにより製造する合成メタン
[11] カーボンニュートラル実現に向けた国内外におけるe-methaneの取組み https://oilgas-info.jogmec.go.jp/seminar_docs/1010014/1010168.html
[12] https://www.esist.org.tw/publication/handbook?tab=%E5%80%8B%E5%88%A5%E8%83%BD%E6%BA%90&subtab=%E5%A4%A9%E7%84%B6%E6%B0%A3(外部リンク)
[13] https://www.esist.org.tw/publication/handbook?tab=%E5%80%8B%E5%88%A5%E8%83%BD%E6%BA%90&subtab=%E5%A4%A9%E7%84%B6%E6%B0%A3(外部リンク)
[14] 実際は価格が高い時に直接輸入事業者の在庫が減少し、KOGASが市場で調達し補填する状況でKOGASは自社のみ備蓄義務が課せられていることに不満を呈している。
[15] 2024年4月KOSPO・河東(Hadong)、2024年7月KOMIPO・保寧(Boryeong)
[16] オランダは主力ガス田開発停止でLNG輸入量は2021年の5.64MTから2023年に16.3MT(10..66MT増)に増加。
[17] エジプトは国内需要増加、自国生産減少、イスラエルからの供給減少でLNG輸入急増
[18] 2024年7月8日、ジョコ大統領は国産天然ガスの6割を国内に優先的に供給する国内供給義務(DMO)政令を承認。
[19] サラワク州政府が自治権強化でPETROSを唯一のガスアグリゲーターと任命、Petronasと協議中
[20] 中国では近年渇水による水力出力低下頻発、石炭・ガス火力で補完。
[21] ブラジルは過去70年来最大規模の干ばつで水力出力低下、LNG需要増加
[22] https://corporate.exxonmobil.com/sustainability-and-reports/global-outlook
[23] https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2024/20240426_youryouyakujokekka_kouhyou.html
[24] https://www.jogmec.go.jp/ccs/advancedsupport_002.html
[25] https://www.enecho.meti.go.jp/appli/public_offer_result/2024/0531_02.html
[26] https://riss.aist.go.jp/research/20240125-2768/
[27] https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk7_000060.html
[28] https://www.occto.or.jp/iinkai/shorai_jukyu/2023/files/shoraijukyu_04_02_01.pdf
[29] https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/080.html
[30] https://oilgas-info.jogmec.go.jp/seminar_docs/1010014/1010212.html
[31] https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009992/1010070.html
[32] https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009864.html
[33] https://oilgas-info.jogmec.go.jp/seminar_docs/1010014/1010045.html
以上
(この報告は2024年9月20日時点のものです)