ページ番号1010231 更新日 令和6年10月15日

原油市場他:イスラエルとイランとの対立先鋭化による中東情勢不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念増大により、持ち直す原油価格

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レポートID 1010231
作成日 2024-10-15 00:00:00 +0900
更新日 2024-10-15 11:53:02 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2024
Vol
No
ページ数 45
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
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地域6
国6
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地域8
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地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2024/10/15 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、ハリケーン「ミルトン」の来襲に備え、消費者の給油活動が活発化したこともあり、ガソリン及び留出油両在庫は減少傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年幅下方付近に位置する、それぞれ量となっている。ただ、製油所の原油精製処理活動が不活発化したこともあり、原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は維持されている。
  2. 2024年9月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、日本においては一部製油所が予定外で操業を停止したこと等により、原油精製処理活動が進まなくなったこともあり、在庫が増加した他、米国でも若干ながらではあるが在庫は増加した。他方、欧州においては秋場の製油所メンテナンス作業実施に併せ在庫を調整したものと見られることにより在庫が減少した。結果としてOECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本においては灯油在庫が積み上がったこと等もあり石油製品全体の在庫は増加した。しかしながら、米国においてはガソリン等の在庫が減少したことが一因となり、また、欧州においても製油所での石油製品製造活動が不活発化したこともあり、両地域での石油製品在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少したが、平年幅上方付近に位置する量となっている。
  3. 2024年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場では、9月中旬から10月初頭頃にかけては、イスラエルのレバノン攻撃による中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことや中国政府等が景気刺激策を発表したこと等が原油相場に上方圧力を加えた反面、サウジアラビアが1バレル当たり100ドルの非公式原油価格目標を撤回し、市場占有率を確保すべく12月より増産する意向である旨9月26日に報じられたこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は概ね1バレル当たり67~72ドルの範囲で変動した。しかしながら、9月27日にイスラム武装勢力ヒズボラの最高指導者であるナスララ師をイスラエルが殺害したことに対し、10月1日にイランが報復措置としてイスラエルを攻撃したことから、イスラエルがイランの石油関連施設等を攻撃する可能性があるとの観測が10月3日の市場で増大したこともあり、同日以降同月中旬にかけての原油相場は1バレル当たり73~77ドルを中心とする範囲へと変動領域を切り上げた。
  4. この先冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることが、石油製品及び原油の価格に上方圧力を加える可能性がある。また、イスラエルとイランとの対立の先鋭化を巡る不透明感が原油相場を少なくとも下支え、事態の展開によっては原油相場に上方圧力を加えうるものと考えられる。また、中国経済が減速しつつある経済指標類の発表が続くようであれば、同国石油需要の伸びの鈍化懸念が増大する結果原油相場の上昇を抑制する反面、同国政府等による大規模景気刺激策の発表が続くようであれば、原油相場が一時的にせよ持ち直す場面が見られる可能性がある。そのような中、米国経済指標類及び金融当局による政策金利の引き下げを巡る観測や実際の政策金利の取り扱い、及びOPECプラス産油国の減産措置を巡る調整の動き等が原油相場に影響を与えうるものと考えられる。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2024年7月の米国ガソリン需要(確定値)は日量930万バレル、前年同月比で3.5%程度の増加となり(図1参照)、6月の当該需要である同912万バレルから需要量が増加したうえ、同月の前年同月比2.6%程度の減少から増加に転じた。また、当該需要は速報値(前年同月比2.0%程度増加の日量916万バレル)から上方修正されている。7月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量92万バレル程度と推定されたところ確定値では同76万バレルへと下方修正されたことにより、同国ガソリン需要が速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正された部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正の一因となったものと考えられる。7月は独立記念日(インディペンデンス・デー(7月4日))に伴う休暇期間があったことにより個人の外出が促された一方、6月はそのような期間がなかったことが、7月の同国ガソリン需要が6月に比べ増加した背景にあるものと考えられる。また、2024年7月の米国の気温は総じて前年同月とほぼ同水準で推移したことにより、この面での個人の外出への影響が限定的であった(2024年6月は前年同月に比べ米国の北東部や中西部の一部地域等で気温が大幅に上昇する場面が見られたことにより、高温を敬遠して個人の外出が抑制された側面があったものと見られている)一方、2024年7月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり3.600ドルと前年同月(同3.712ドル)を下回ったことから、ガソリンの割安感が意識された結果個人の外出が促進された格好となったことが、2024年7月の同国ガソリン需要が前年同月比で増加した一因となったものと考えられる。なお、2024年7月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年7月の当該需要(日量953万バレル)(確定値)を2.5%程度下回っている。他方、2024年9月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量885万バレル、前年同月比横這いと、8月の当該需要(速報値)である日量907万バレルから需要量が減少した一方、同月の前年同月比1.8%程度の減少から減少率は縮小した。8月31日から9月2日にかけての連休(9月2日が労働者の日(レイバー・デー)に伴う休日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことが、9月のガソリン需要が8月に比べ減少した背景にある。ただ、2024年9月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.338ドルと前年同月(同3.958ドル)から15.7%下落した(因みに8月も前年同月比で下落していたが下落率は11.3%であった)ことから、この面で多少なりとも値頃感が発生したことにより、ガソリン需要が喚起される格好となったことが、9月の同国ガソリン需要の前年同月比での減少率が8月よりも縮小した一因となったものと考えられる。なお、2024年9月の米国ガソリン需要は2019年9月の当該需要(日量920万バレル)(確定値)を3.8%程度下回っている。また、米国では9月2日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに秋場の不需要期が到来したこともあり、ガソリン価格が下落するとともに製油所におけるガソリン製造利幅が縮小したことにより製油所の稼働が低下したり、秋場のメンテナンス作業実施に伴い製油所の操業が停止したりしたことから、同国の原油精製処理量が減少した(図2参照)。このため、製油所でのガソリン製造活動が不活発化した(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ことが、ガソリン需要の低下を相殺する格好となったことにより、9月上旬から下旬にかけての米国ガソリン在庫は比較的限られた範囲内で変動した。しかしながら、10月上旬後半から中旬初頭頃にかけ、ハリケーン「ミルトン(Milton)」が米国メキシコ湾岸地域に来襲したため、ハリケーン上陸(同ハリケーンは10月9日夜(米国東部時間)にフロリダ州に上陸した)前に、ハリケーン通過予定地域を中心とする地域の消費者による自動車への給油活動が活発化したり(自動車による避難やハリケーン来襲に伴うガソリンスタンド閉鎖に備えてのものとされる)、給油活動活発化に備え地域のガソリンスタンドがガソリンの調達を活発化したりしたことから、10月上旬の米国ガソリン在庫は9月下旬に比べ相当程度減少することとなった。この結果、9月上旬から10月上旬については、米国ガソリン在庫は混合基材を中心として減少傾向を示したが、平年幅上限を超過する水準となっている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2015~24年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~24年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~24年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~24年)

2024年7月の米国留出油需要(確定値)は日量369万バレル、前年同月比3.1%程度の増加となり(図5参照)、6月の同359万バレル(前年同月比9.7%程度の減少)から需要量が増加したうえ、前年同月比でも減少から増加に転じた。また、当該需要は速報値(前年同月比1.6%程度増加の日量364万バレル)から若干ながら上方修正されている。6月の米国鉱工業生産が前月比で0.1%、前年同月比で0.9%の、それぞれ増加となっていたこともあり、同月の物流活動も前月比では0.2%の減少となったものの前年同月比では0.6%の増加となった他、同月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり3.722ドルと前月(同3.822ドル)及び前年同月(同3.802ドル)に比べても下落していることにより、この面では、同国留出油需要が前月比及び前年同月比で増加していても不思議ではない(同月の米国の軽油小売店での販売は増加している可能性もある)ところ、両面で減少(6月の米国留出油需要(厳密に言えば製油所等からの「出荷」となる)は前月比で4.9%、前年同月比で9.7%の、それぞれ減少となった)ことから、その反動で7月の同需要が前月比及び前年同月比で上振れした結果、両面で増加したものと考えられる。なお、2024年7月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量391万バレル)(確定値)を5.6%程度下回っている。他方、2024年9月の米国留出油需要(速報値)は推定日量379万バレル、前年同月比で1.8%程度の減少となり、8月の日量372万バレル(前年同月比で8.3%程度の減少)(速報値)と比べ、需要量は若干ながら増加した他前年同月比では減少率が縮小した。9月の米国鉱工業生産は前月比でほぼ横這い、前年同月比で0.2%の減少と、それぞれ推定されるものの、9月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり3.558ドルと8月の同3.700ドルから下落した他、前年同月(同4.563ドル)比で22.0%の下落と8月から下落率が拡大した(因みに8月は同15.3%の下落であった)こともあり、物流活動が促進されたものと見られることが、同月の留出油需要が前月比で増加した他、前年同月比での減少率が縮小した背景にあるものと考えられる。なお、2024年9月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量392万バレル)(確定値)を3.4%程度下回っている。そして、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことに伴いガソリン精製利幅が縮小したり、秋場のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあったりしたこともあり、米国の製油所の稼働が低下傾向となった結果、留出油製造活動も不活発化した(図6参照)他、10月上旬にはハリケーン「ミルトン」の来襲に備えて消費者や小売店からの軽油調達活動が活発化したものと見られる結果、9月上旬か10月上旬にかけては米国の留出油在庫は減少傾向となった他、平年幅下方に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2015~24年)

図6 米国の留出油生産量(2009~24年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~24年)

2024年7月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比2.2%程度増加の日量2,048万バレルとなり(図8参照)、6月の同2,025万バレルから需要量が増加した他、同月の前年同月比2.4%程度の減少から増加に転じた。ガソリン及び留出油の両需要が前月比で増加した他前年同月比でも8月の減少から増加に転じたことが、同国石油需要の前月比及び前年同月比での増加の主要因となっている。また、ガソリンや留出油の両需要に加えジェット燃料需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたこともあり、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比1.6%程度増加の日量2,036万バレル)から上方修正されている。なお、2024年7月の米国石油需要は2019年7月の当該需要(日量2,074万バレル)(確定値)を1.2%程度下回っている。他方、2024年9月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,023万バレル、前年同月比で0.4%程度の増加となっており、8月の同国石油需要(速報値)である日量2,066万バレル(前年同月比0.5%程度の減少)から、需要量は減少したものの前年同月比では減少から増加に転じている。ガソリン需要及びその他の石油製品等の需要が前月から減少していることが、同国石油需要の前月比での減少に反映されている一方、2024年9月のガソリン需要が前年同月比で横這いとなった他、留出油需要の前年同月比での減少率が8月から相当程度縮小したうえ、プロパン/プロピレン、ジェット燃料、重油及びその他の石油製品の各需要が前年同月比で小幅ながら増加していたことが、9月の米国石油需要が前年同月比で増加と8月の前年同月比での減少(8月は多くの石油製品の需要が前年同月比で減少となっていた)から転換した背景にあるものと考えられる。なお、2024年9月の米国石油需要は2019年9月の当該需要(日量2,025万バレル)(確定値)を0.1%程度下回っている。

また、9月上旬末から中旬頃にかけては、ハリケーン「フランシーヌ(Francine)」が米国メキシコ湾沖合に来襲したことに伴い、同地域の原油生産施設が操業を中止し従業員を避難させた(予防的措置が中心であるとされる)ことにより原油生産が停止した(9月10日から17日にかけ米国メキシコ湾沖合では合計373万バレルの原油生産が停止したものと同国内務省安全環境執行局(BSEE: Bureau of Safety and Environmental Enforcement)が明らかにした)他、9月下旬頃にはハリケーン「ヘレン/へリーン(Helene)」も米国メキシコ湾沖合に来襲したことにより、同地域での原油生産が停止した(同じく予防的措置が中心であったとされ、9月24日から29日にかけ合計で193万バレルの原油生産が停止したものとBSEEが明らかにした)ことにより、原油供給が減少したものの、原油精製処理活動が鈍化したことに伴う製油所からの原油需要の減少で相殺されて余りあったこともあり、9月上旬から10月上旬にかけ米国原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン両在庫が平年幅上限を超過する一方、留出油在庫が平年幅下方付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2015~24年)

図9 米国原油在庫推移(2003~24年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~24年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~24年)

2024年9月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、日本においては一部製油所が予定外で操業を停止したこと等により、原油精製処理活動が進まなくなったこともあり、在庫が増加した他、米国でも若干ながらではあるが在庫は増加した。しかしながら、欧州において秋場の製油所メンテナンス作業実施に併せ在庫を調整したものと見られることにより在庫が減少となったことで相殺されて余りあったことにより、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、日本においては、冬場の暖房用需要期にはまだ早かったことに伴い灯油在庫が積み上がったこと等もあり、石油製品全体の在庫は増加した。しかしながら、米国においてはガソリンや留出油の各在庫が減少したことが一因となり、石油製品全体としても在庫は減少になった他、欧州においても秋場のメンテナンス作業実施に伴い製油所での石油製品製造活動が不活発化したこともあり、各種石油製品在庫が減少となったことから、石油製品全体の在庫も減少した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少したが、平年幅上方付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量であったことから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から減少したものの平年幅上限を超過する量となっている(図14参照)。なお、2024年9月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.5日と8月末の推定在庫日数(61.8日)から減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~24年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~24年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~24年)

9月11日に1,500万バレル強程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、9月18日には1,400万バレル強程度の量へと減少した。9月25日には1,400万バレル台半ば程度、10月2日には1,500万バレル台前半程度の水準に回復したものの、10月9日には1,400万バレル台前半程度の量へと再び減少した結果、9月11日の水準を下回る状態となった。米国、欧州及びアジア等の各地域においては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了とともに、ガソリン需給が緩和することに伴いガソリン価格に下方圧力が加わったことによるガソリン製造利幅の縮小や、秋場のメンテナンス作業の実施等により、稼働が低下しつつあった製油所においてガソリン製造活動が不活発化したことに加え、特に9月中旬時点までにおいては中国の第3回の石油製品輸出枠が発表されていなかったことにより同国からのガソリン等の輸出がもたつき気味となったこともあり、シンガポールへのガソリン流入が抑制されたこと、ロシアの大西洋岸方面からのナフサの流入量が低迷したこと(ロシアの夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来によりナフサの相当量がガソリン製造に利用された結果、ロシアの大西洋岸方面からのナフサ輸出が減少した影響が秋場になりシンガポールに及んだものと考えられる)、中国の国慶節(建国記念日)に伴う休暇期間(10月1~7日)における個人の外出活発化によるガソリン需要の盛り上がりに備え同国からのガソリン輸出が抑制されたことが、シンガポールの中国からのガソリン輸入の減少に繋がったこと等が、シンガポールにおける軽質留分在庫を押し下げる方向で作用したものと見られる。このため、秋場のガソリン不需要期に突入するとともにガソリン需要が減少したり、中国において第3回の石油製品(ガソリン、軽油及びジェット燃料)輸出枠800万トン(別途低硫黄重油100万トン)が付与されたりした(9月20日に報じられる)こともあり、中国からのガソリン輸出が活発化するとともにシンガポールに流入したことにより、シンガポールにおける軽質留分在庫が回復する場面も見られたものの、9月上旬から10月上旬にかけてのシンガポールの軽質留分在庫が概ね減少傾向となったものと考えられる。そして、シンガポールの軽質留分在庫が回復したことにより、アジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)が縮小する場面が見られたものの、当該在庫が総じて減少傾向となったこともあり、ガソリンとドバイ原油との価格差はむしろ拡大する傾向を示した。

また、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了に向かいつつあったことにより、ガソリン向け原料としてのナフサの需要が減少するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場におけるナフサ価格に下方圧力を加えた。しかしながら、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期終了に向け、米国、欧州及びアジアに加え、アジア市場にナフサを相当量輸出する中東においても、製油所におけるメンテナンス作業が開始されつつあったことを含め、稼働が低下するとともにナフサ製造活動が不活発化し始めたことにより、アジア方面へのナフサ供給が減少するとの見方が市場で発生した他、シンガポール等におけるロシアの大西洋岸方面からのナフサ流入量が低迷した(前述)。加えて、秋場に収穫した穀物の乾燥や秋場以降の北半球の気温低下に伴う暖房等に利用される液化石油ガス(LPG)の季節的な需要増加観測が市場で強まりつつあることが、LPG価格に上方圧力を加えた結果、例えばサウジアラビアが輸出するLPGの契約価格(CP: Contract Price)が上昇基調となったこともあり、石油化学製品製造の際に原料となるナフサと競合するLPGの価格競争力が低下するとともにLPGの石油化学製品製造のための原料としての需要が減少する反面、LPGに比べ相対的に割安であるナフサの需要が増加するとの観測が市場で発生した。さらに、9月27日にイスラエルがイスラム武装勢力ヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害したことへの報復として、10月1日にイランがイスラエルに向けミサイル等を発射したことを含め、イスラエルと、イラン及びイランが支援するイスラム武装勢力と間での対立が先鋭化しつつあることに伴い、中東情勢の不安定化により同地域からアジアに向けたナフサの供給が脅かされるのではないかとの懸念が市場で増大した。このような要因により、アジア市場におけるナフサ需給の相対的な引き締まり感を市場が意識するようになったことが、ナフサ価格に上方圧力を加えたことから、9月中旬から10月中旬にかけナフサとドバイ原油との価格差(この場合従来ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っていた)は概して縮小傾向を示すとともに、時期によってはナフサ価格がドバイ原油価格を上回る場面が見られるようになった。

9月11日には1,100万バレル弱程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分の在庫は、9月18日には1,000万バレル台前半程度、9月25日には900万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。10月2日には1,000万バレル台後半程度の水準へと回復したものの、10月9日には1,000万バレル台半ば程度の量へと減少した結果、9月11日の水準を若干ながらではあるが下回る状態となっている。秋場の石油不需要期を迎えアジア各国及び地域の製油所がメンテナンス作業の実施等に伴い稼働を低下させつつあることにより、中間留分の供給が低下するとともに、シンガポールへの当該製品の流入が抑制される格好となった一方、他のアジア諸国及び地域等においては製油所の稼働低下に伴い国外から中間留分を調達する動きが発生した結果、シンガポールからの当該製品流出が促される格好となった。このような要因が、シンガポールにおける中間留分在庫を押し下げる形で作用した。しかしながら、中国を初めとしてアジア各国及び地域の経済活動がもたつき気味となったことにより、製造業や物流で利用される軽油需要が軟調となったことが、それら諸国における軽油輸入の拡大を抑制する格好となった結果、それら諸国及び地域で受け入れられなかった軽油がシンガポールに流入したり、もしくはシンガポールからの軽油の流出を抑制したりした結果、シンガポールでの中間留分在庫の持続的な減少が阻まれる格好となった。このため、シンガポールにおける中間留分は減少傾向とはなったもののその幅は限定的な規模にとどまったものと考えられる。そして、アジア諸国及び地域における不活発な経済活動を反映したうえ、9月20日には中国において第3回の石油製品輸出枠が付与された旨伝えられたことにより、アジア市場における軽油需給の緩和感が市場で醸成されたことが、軽油価格に下方圧力を加えた結果、9月中旬から下旬半ば頃にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小傾向を示した。しかしながら、このように軽油製造利幅が縮小したこともあり、アジア諸国及び地域の製油所において軽油の製造をさらに削減する動きが発生したり、第3回の石油製品輸出枠が付与されたにもかかわらず中国からの軽油輸出が低迷したりするとの観測が発生したことに加え、インドネシアでの軽油輸入に向けた動きが顕在化した(9月下旬に同国のバリクパパン(Balikpapan)製油所(操業者:プルタミナ、原油精製処理能力日量36万バレル)において不具合が発生したことが影響している可能性があると見る向きもある)ことにより、アジア市場における軽油需給の引き締まり感が発生したことから、9月下旬半ば頃から10月中旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向を示した。

9月11日には1,600万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、9月18日には1,800万バレル台半ば程度の量へと増加した。9月25日には1,500万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、10月2日には1,600万バレル台後半程度、10月9日には1,700万バレル台半ば程度の、それぞれ水準へと増加した結果、9月11日の水準を上回る状態となっている。中東地域を含めた世界各国及び地域において秋場のメンテナンス作業を含め製油所の稼働が低下することに伴い原油精製処理活動が不活発化しつつあった結果、重油製造が抑制されるとともに、アジア方面への重油輸出に影響を及ぼし始めたことが、シンガポールにおける重油在庫を減少させる形で作用したものの、中東において気温が低下傾向となるとともに、空調装置稼働向けの電力供給のための発電部門における重油需要が減少気味となったこともあり、余剰となった重油がアジア方面に輸出されるようになったことが、シンガポールにおける重油在庫を押し上げる格好となった。結果として、シンガポールの重油在庫は概ね増加傾向を示した。このように、シンガポールにおける重油在庫が増減しながらも増加傾向となったことが、アジア市場の高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)を拡大させる一方、低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低高硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)を縮小させる形で作用したものの、イスラエルと、イラン及びイランが支援するイスラム武装勢力との間での対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化により、同地域で製造される重油の域外への供給に支障が発生するのではないかとの懸念が市場で増大したことが、アジア市場における重油価格に上方圧力を加えるとともに、同市場での高硫黄重油とドバイ原油との価格差を縮小させる一方、低硫黄重油とドバイ原油との価格差を拡大させる形で作用した。結果として、9月中旬から10月中旬にかけてのシンガポールにおける高硫黄重油とドバイ原油、及び低硫黄重油とドバイ原油との、それぞれ価格差は明確な拡大もしくは縮小の傾向を示すことなく推移した。

 

2. 2024年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場等の状況

2024年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場においては、9月中旬から10月初頭頃にかけては、イスラエルのレバノン攻撃による中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことや中国政府等が景気刺激策を発表したこと等が原油相場に上方圧力を加えた反面、原油生産が相当程度停止していたリビアにおいて原油生産が再開される見込みが強まったことや、サウジアラビアが1バレル当たり100ドルの非公式原油価格目標を撤回し、市場占有率を確保すべく12月より増産する意向である旨9月26日に報じられたこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は概ね1バレル当たり67~72ドルの範囲で変動した。しかしながら、9月27日にイスラム武装勢力ヒズボラの最高指導者であるナスララ師をイスラエルが殺害したことに対し、10月1日にイランが報復措置としてイスラエルを攻撃したことから、イスラエルがイランの石油関連施設等を攻撃する可能性があるとの観測が10月3日の市場で増大したこともあり、10月3日以降から同月中旬にかけての原油相場は1バレル当たり73~77ドルを中心とする範囲へと変動領域を切り上げた(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~24年)

リビア中央銀行総裁後任人事を巡る、同国東西両政府(西部の首都トリポリを拠点とする、国連及びトルコが支援する国民合意政府(GNA: Government of National Accord)及びGNAと行動をともにする暫定国民統一政府(GNU: Government of National Unity)と同国東部トブルクを拠点とする代表議会(HoR: House of Representative))の、国連の仲介による協議※が合意に到達しないまま終了し、協議再開目処も立っていない旨国連が9月12日に明らかにするとともに、過去1週間のリビアからの原油輸出が日量31.4万バレルと9月初来5日間平均の日量46.8万バレルから減少している旨9月13日に報じられたことにより、同国からの原油供給削減長期化懸念が発生した流れを9月16日の市場が引き継いだことに加え、ハリケーン「フランシーヌ(Francine)」通過後米国メキシコ湾沖合の原油生産の12%(日量21.3万バレル)が停止したままである旨米国内務省安全環境執行局(BSEE: Bureau of Safety and Environmental Enforcement)が9月16日に明らかにしたことにより、米国原油供給削減期間の長期化に伴う同国石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、9月13日に続き9月16日にも米国ニューヨーク連邦準備銀行前総裁のダドリー氏が、米国金融当局は0.50%の大幅な政策金利引き下げを実施する必要がある旨主張したこともあり、9月17~18日に開催される予定である米国連邦公開市場委員会(FOMC)において0.50%の政策金利引き下げが決定されるとの期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、9月16日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.44ドル上昇し、終値は70.09ドルとなった。また、9月17日も、次回FOMCにおいて0.50%の政策金利引き下げが決定されるとの期待が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、9月17日にレバノン各地でポケットベル型通信機器が爆発し、少なくとも9人(その後12人に上方修正)が死亡、駐レバノンイラン大使を含め少なくとも2,750人が負傷したことに対し、レバノン及びイラン両政府、及びイスラム武装勢力ヒズボラがイスラエルによる攻撃である旨非難(イスラエル側は沈黙)したことにより、中東情勢のさらなる不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.19ドルと前日終値比で1.10ドル上昇した。この結果原油価格は9月16~17日の2日間合計で1バレル当たり2.54ドルの上昇となった。果たして、9月17~18日に開催されたFOMCにおいては、0.50%の政策金利引き下げが決定された旨9月18日に明らかになったが、市場の事前予想通りとなっていたこともあり、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.91ドルと前日終値比で0.28ドル下落した。それでも、FOMCにおいて0.50%の政策金利引き下げを決定したことに対し、この先も米国金融当局による積極的な政策金利引き下げが実施される結果、同国経済が回復するとの期待が9月19日の市場で増大したことにより、投資家のリスク許容度が拡大するとともに米国株式相場が上昇、米ドルが下落したことに加え、9月18日にもレバノン各地で通信機器が爆発した結果25人が死亡した旨9月19日にレバノンのアビアド保健相が明らかにするとともに、同日イスラム武装勢力ヒズボラの最高指導者であるナスララ師が報復措置を実施する意向である旨発言したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.04ドル上昇し、終値は71.95ドルとなった。また、9月20日は、米国原油先物契約10月渡しの取引終了を控えた持ち高調整が発生したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、9月20日にイスラエルがレバノンの首都ベイルートを空爆した結果、イスラム武装勢力ヒズボラの軍司令官であるイブラヒム・アキル(Ibrahim Aqil)氏を殺害した旨同日イスラエルが明らかにしたことにより、両者の対立の先鋭化による中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.92ドルと、前日終値比で0.03ドル下落にとどまった(なお、この日を以てNYMEXの2024年10月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2024年11月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり71.00ドル(前日終値比同0.16ドルの下落)であった)。

  • リビア暫定国民統一政府のドベイバ首相による、リビア中央銀行のカビール(Kabir)総裁交代の動きに抗議し、リビア東部にある全ての油田及び原油輸出関連施設の操業を停止し不可抗力条項の適用を宣言する旨同国東部トブルクを拠点とする代表議会が8月26日に表明したことに端を発する。

9月23日には、この日米国金融サービス会社S&Pグローバルから発表された9月のユーロ圏総合購買担当者指数(PMI)(50が同地域経済拡大と縮小の分岐点)(速報値)が48.9と8月の51.0から低下、2024年1月(この時は47.9)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(50.5)を下回ったことにより、同地域の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.55ドル下落し、終値は70.37ドルとなった。ただ、9月24日には、この日イスラエルがレバノンの首都ベイルート南部近郊地域を空爆した(イスラエルによるレバノン空爆は9月23日に続き2日目であった)結果、イスラム武装勢力ヒズボラのミサイル及びロケット部門の責任者であるクバイシ(Qubaisi)司令官を殺害した旨同日イスラエル軍が発表したことにより、イスラエルとイスラム武装勢力ヒズボラ、そしてヒズボラを支援するイランとの対立の先鋭化による、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、中国人民銀行が近いうちに銀行の預金準備率を0.5%引き下げる方針である他、今後の状況次第ではさらに預金準備率を0.25~0.5%引き下げることもありうるとしたうえ、0.5%の住宅融資金利の引き下げを実施する他、中国株式市場安定化のための資金供給に向け8,000億元規模の基金の創設を検討することを含めた景気刺激策を実施する意向である旨、9月24日に中国人民銀行の潘功勝総裁他が発表したことにより、同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.56ドルと前日終値比で1.19ドル上昇した。しかしながら、リビアのGNA及びGNUとHoRとの間で、同国中央銀行総裁、副総裁及び理事会委員の選出に関する手続きや基準等つき合意した旨、9月25日に仲介者である国連が発表したことにより、足元日量40万バレルと8月の同100万バレルから大幅に減少している同国原油輸出が回復に向かう結果、世界石油需給が緩和するとの観測が市場で発生したことから、9月25日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.87ドル下落し、終値は69.69ドルとなった。また、リビア中央銀行の新総裁としてイッサ(Issa)氏、新副総裁としてバラシ(Barasi)氏を指名することで、9月26日に関係者が合意した他、東部にある石油生産関連施設の操業を再開する旨東部政府が明言したと国連のリビア担当特使であるクーリー(Koury)氏が9月26日に明らかにしたことにより、同国からの原油供給の増加観測が市場で増大したことに加え、サウジアラビアが1バレル当たり100ドルの非公式原油価格目標を撤回し、市場占有率を確保すべく12月より増産する意向である旨9月26日にフィナンシャル・タイムスが報じたこともあり、増産に伴う石油需給緩和による原油価格下落をサウジアラビアが容認したものと認識が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.67ドルと前日終値比で2.02ドル下落した。この結果原油価格は9月25~26日の2日間合計で1バレル当たり3.89ドルの下落となった。ただ、レバノンの首都ベイルートにあるイスラム武装勢力ヒズボラの本部を空爆した旨9月27日にイスラエル軍が発表した(当時本部にはヒズボラの指導者ナスララ師がいたとされており、今回の空爆はナスララ師暗殺を目的としたものであると伝えられる)ことから、この先イスラエルとヒズボラ及びヒズボラを支援するイランの間の対立が激化する可能性があることにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.18ドルと前日終値比で0.51ドル上昇した。

また、米国経済は堅調であることにより政策金利引き下げを急いでいるわけではない旨9月30日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が明らかにしたこともあり、米ドルが上昇したことが、この日の原油相場に下方圧力を加えた反面、9月27日のイスラエル軍によるレバノンのヒズボラ本部空爆の結果、ナスララ師が死亡した旨ヒズボラが確認したと9月28日に報じられた他、イスラエルに対し徹底的に抗戦するようイランの最高指導者ハメネイ師が親イラン武装勢力等に呼びかけた旨9月28日に伝えられたうえ、イスラエルがレバノンへの陸上侵攻を準備しつつある旨9月30日に報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことが、9月30日の原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.01ドルの下落にとどまり、終値は68.17ドルとなった。10月1日には、間もなくイランがイスラエルに向け弾道ミサイル等を発射して攻撃を行なう準備をしている兆候が見られる旨米国バイデン政権高官が警告したと報じられた後、同日実際にイランが180発超のミサイル等をイスラエルに向け発射(イスラエルは大半は迎撃した旨同日表明)したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.83ドルと前日終値比で1.66ドル上昇した。また、10月1日のイランのイスラエルに向けたミサイル等の攻撃に対し、同日イスラエルのネタニヤフ首相が対イラン報復措置の実施を示唆したことから、中東情勢のさらなる不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が一層増大した流れを10月2日の市場が引き継いだことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.27ドル上昇し、終値は70.10ドルとなった。さらに、イスラエルによるイラン石油関連施設攻撃を支持するかどうかにつき現在協議中である旨10月3日に米国のバイデン大統領が明らかにしたことにより、イスラエルによる当該攻撃の実施可能性を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.71ドルと前日終値比の3.61ドル上昇した。そして、10月4日も、イスラエルによるイランの石油関連施設攻撃の可能性を巡り市場の懸念が増大した流れを引き継いだことに加え、10月4日に米国労働省から発表された9月の同国非農業部門雇用者数が前月比で25.4万人の増加と、2024年3月(この時は同31.0万人の増加)以来の大幅増加となった他市場の事前予想(同14.0~15.0万人の増加)を上回ったことにより、米国経済減速懸念が市場で後退したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.67ドル上昇し、終値は74.38ドルとなった。この結果原油価格は10月1~4日の4日間合計で1バレル当たり6.21ドル上昇した。

また、10月7日も、イスラエルがイランの石油関連施設を攻撃する可能性を巡り市場の懸念が増大した流れを引き継いだことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.76ドル上昇し、終値は77.14ドルとなった。しかしながら、10月8日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、中国の景気刺激策についての説明を行なうために10月8日に実施された、同国国家発展改革委員会による記者会見において、同国経済活動促進に向けた具体的な方策が殆ど明らかにならなかったことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.57ドルと前日終値比で3.57ドル下落した。10月9日も、この日EIAから発表された米国石油統計(10月4日の週分)において、原油在庫が前週比581万バレルの増加と市場の事前予想(同160~200万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.33ドル下落し、終値は73.24ドルとなった。この結果原油価格は10月8~9日の2日間合計で1バレル当たり3.90ドル下落した。それでも、10月10日夜(現地時間)に、イスラエルのネタニヤフ首相他が安全保障関連会議を開催し、10月1日のイランの対イスラエル攻撃への報復措置について協議する予定である旨10月10日に伝わったことにより、イスラエルの対イラン攻撃が差し迫っているとの観測が市場で増大したことに加え、強い勢力のハリケーン「ミルトン(Milton)」が10月9日遅く(米国東部時間)に米国フロリダ州に上陸したことに伴い、同国のガソリン供給施設等を巡る混乱に対する懸念が市場で増大したことに伴い、米国ガソリン先物価格が上昇したことから、10月10日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.61ドル上昇し、終値は75.85ドルとなった。ただ、10月10日の原油価格上昇に対する利益確定の動きが10月11日の市場で発生したことに加え、10月10日夜(現地時間)にイスラエルのネタニヤフ首相他が安全保障関連会議を開催しイランへの報復措置につき協議したものの、結論なく終了した旨10月11日に報じられたこともあり、イスラエルの対イラン報復措置が差し迫っていることに対する懸念が後退したこと、10月9日から10日にかけハリケーン「ミルトン」が米国フロリダ州を通過したことに伴い、石油製品供給施設等に影響を及ぼす結果事実上石油需要が減少するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.56ドルと前日終値比で0.29ドル下落した。

 

3. 原油市場における主な注目点等

足元の世界石油市場における最大の注目点の一つがイスラエルとイラン等との対立の先鋭化を含めた中東情勢である。イスラエルとイスラム武装勢力ヒズボラとの戦闘激化の影響で避難を余儀なくされているイスラエル北部住民の帰還を目指すために必要な軍事行動を実施する(従来これはイスラエルの軍事行動の内容には含まれていなかった)旨9月17日にイスラエル首相府が示唆した。そして同日レバノン各地でポケットベル型通信機器が爆発し(通信機器の多くはヒズボラ戦闘員等が保有していたと伝えられる)、少なくとも9人が死亡、駐レバノンイラン大使を含め少なくとも2,750人が負傷したことに対し、レバノン及びイラン両政府、及びイスラム武装勢力ヒズボラがイスラエルによる攻撃である旨非難(イスラエル側は沈黙)した。また、9月18日にもレバノン各地でトランシーバー型通信機器が爆発し12人が死亡した旨同日レバノンのアビアド保健相が明らかにした一方、イスラム武装勢力ヒズボラは、本件をイスラエルによるものと非難するとともにイスラエルに対する報復措置を実施する旨宣言した。また、レバノンの首都ベイルートにあるイスラム武装勢力ヒズボラの本部を空爆した旨9月27日にイスラエル軍が発表した(当時本部にはヒズボラの最高指導者ナスララ師がいたとされており、今回の空爆はナスララ師暗殺を目的としたものであると伝えられた)他、空爆の結果ナスララ師が死亡した旨ヒズボラが確認したと9月28日に報じられた一方、これを受けイスラエルに対し徹底的に抗戦するようイランの最高指導者ハメネイ師が親イラン武装勢力等に呼びかけた旨9月28日に伝えられた。他方、イスラエルがレバノンに対し地上侵攻を開始した旨10月1日にイスラエル軍が発表した。また、間もなくイランがイスラエルに向け弾道ミサイル等を発射して攻撃を行なうべく準備している兆候が見られる旨米国バイデン政権高官が警告したと10月1日に報じられた後、同日実際にイランが180発超のミサイル等をイスラエルに向け発射(イスラエルは大半は迎撃した旨同日表明)した。これに対し同日イスラエルのネタニヤフ首相が対イラン報復措置の実施を示唆した。また、イスラエルがレバノン陸上においてイスラム武装勢力ヒズボラとの戦闘を拡大させつつある中、イスラエル軍兵士8人が死亡した旨10月2日午後(米国東部時間)に報じられた。10月3日には、イスラエルがイランの石油関連施設を攻撃することを支持するかどうかにつき現在協議中である旨米国のバイデン大統領が明らかにしたが、10月4日には、バイデン大統領は、私がイスラエルであれば、イランの油田以外の攻撃を検討するであろう旨発言、10月3日の自身の発言を事実上修正した。それでも、イスラエルによる対イラン報復措置は自国の指導者の指示に則り自身が決定する時期と対象及び方法で実施する旨10月5日にイスラエル軍のハガリ報道官が表明した。また、イスラエルによる対イラン報復措置について、依然としてイランの軍、諜報、防空及びエネルギー施設を対象とすることを含め選択肢を検討中である旨米国政府幹部が明らかにしたと10月8日に米国報道機関NBCが報じた。さらに、イスラエルの対イラン報復措置は、致命的、適切かつ予想を超越したものとなるであろうとの見解をイスラエルのガラント国防相が10月9日に明らかにした。他方、10月9日にサウジアラビアのムハンマド皇太子と会談した場で、イランのアラグチ外相はイスラエルが発射したミサイル等のサウジアラビア領空通過等を許容しない旨警告した他、イスラエルとイランとの対立がさらに先鋭化すれば、自国等の石油関連施設が被害を受ける恐れがあると深く憂慮している旨サウジアラビア、UAE及びカタールを含む中東湾岸諸国が米国に伝えている旨10月10日に報じられた。また、10月9日に実施された米国のバイデン大統領とイスラエルのネタニヤフ首相との首脳会談において、イスラエルは米国が要求する以上の規模の攻撃をイランに対し実施する意向を持っている旨10月10日に伝えられた。10月10日夜(現地時間)には、イスラエルのネタニヤフ首相同国の閣僚等が安全保障関連会合を開催し、10月1日のイランの対イスラエル攻撃への報復措置について協議したものの、結論なく終了した旨10月11日に報じられた。そのような中、10月1日にイランがイスラエルに対しミサイル等を発射したことを巡り、イランの石油及び石油化学産業に関与する16の組織及び23隻の船舶に対し、米国内での資産凍結及び米国人との取引禁止を主な内容とする制裁を発動する旨、10月11日に米国政府が発表した。他方、イスラエルが対イラン報復措置対象をイランの軍及びエネルギー関連施設に絞り込んだ旨10月12日に米国NBCが報じた。また、10月13日にはイスラエル北部の町ビンヤミナ郊外にある軍事基地をヒズボラが発射した無人機が攻撃した結果、イスラエル兵4人が死亡した旨10月14日にイスラエル軍が明らかにした。

このように、イスラエルとヒズボラ及びイランとの対立は先鋭化しつつあり、石油市場における緊張も高まりつつある。特にイスラエルがイランの油・ガス田や石油輸出ターミナル等の石油供給関連施設を攻撃した場合、同国からの石油供給(2024年8月時点で日量342万バレル、天然ガス液(NGL)を含めると同473万バレル)に部分的であれ支障が発生する恐れがある。イランの石油は主に中国に向け輸出されていたものと推定される(一部は第三国を経由していると指摘する向きもある)ため、イランから中国への石油供給が滞る結果、中国がイラン以外の供給源からの石油調達を活発化させることにより、他の消費国との間で供給を巡る競合が激化するとの観測が強まることにより、石油需給の引き締まり感が市場で意識されるとともに原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、イスラエルがイランを攻撃する際に、イスラエルが発射したミサイル等が上空を通過したアラブ諸国等に対し、事実上イスラエルと支援したとしてイランとの関係が悪化するとともに、イランもしくはイランが支援する武装勢力がそれら諸国への石油施設等への攻撃を試みたり、イランがホルムズ海峡の封鎖に向け動いたりすることにより、可能性は低いとしても中東からの石油供給が途絶する(2023年時点でホルムズ海峡を通過して輸送される石油の量は日量2,090万バレルである一方、ホルムズ海峡を迂回して石油を輸出する能力はサウジアラビアやUAEなど日量260万バレルにとどまることから、ホルムズ海峡が封鎖された場合世界石油供給に与える影響は甚大なものとなる)と言った展開が否定できないとの観測が市場で強まることにより、原油相場が上振れする場面が見られることもありうる。また、石油関連施設のみならず、その他のエネルギー関連施設やイランの軍事及び諜報施設、要人等を含め、イスラエルによるイランに対する攻撃が差し迫っている旨の情報が流れるようであれば、中東情勢と同地域からの石油供給への影響を巡る不透明感が市場で極度に高まる結果、一時的にせよ原油相場が押し上げられると言った展開となることも否定できない。しかしながら、イスラエルによるイラン攻撃が実施されたとしても、例えば、エネルギー関連施設への直接的な攻撃が回避されたり、エネルギー関連施設が攻撃されたとしても限定的な規模にとどまったりする他、イスラエルがそのような抑制的な攻撃を以て対イラン報復措置を終了する旨明らかにするようであれば、イスラエルとイランとの対立の先鋭化に伴う中東地域の政情不安による同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退する結果、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。

リビアにおいては、同国西部の首都であるトリポリを拠点とする、国連及びトルコが支援する国民合意政府(GNA: Government of National Accord)及びGNAと行動をともにする暫定国民統一政府(GNU: Government of National Unity)と、東部トブルクを拠点とする代表議会(HoR: House of Representative)との間で、同国中央銀行総裁後任人事を巡り、国連の仲介による協議が合意に到達せず、協議再開目処も立っていない旨国連が9月12日に明らかにするとともに、過去1週間のリビアからの原油輸出が日量31.4万バレルと9月初来5日間平均の日量46.8万バレルから減少している旨9月13日に報じられた。しかしながら、東西両政府との間で、同国中央銀行総裁、副総裁及び理事会委員の選出に関する手続きや基準と選出等を巡る今後の予定等につき両者が合意した旨9月25日に国連が発表した。そして、リビア中央銀行の新総裁としてイッサ(Issa)氏、新副総裁としてバラシ(Al-Barasi)氏を指名することで、9月26日に同国の東西両政府が合意した他、東部政府は東部の石油生産関連施設の操業を再開する旨明言したと国連のリビア担当特使であるクーリー(Koury)氏が9月26日に明らかにした。さらに、これまで停止していたリビア東部の油田が10月1日にも操業を再開し10月2日には正常稼働に復帰する予定である旨9月30日に報じられた。そして、同国内の全ての油田及び石油(輸出)ターミナルにおける不可抗力条項の適用を解除する旨10月3日にリビア国営石油会社NOCが明らかにした他、10月10日にリビアNOCは、同国の原油生産量が日量122万バレルと、同国中央銀行総裁人事を巡る混乱発生前の水準に回復した旨明らかにした。このように、リビアの石油供給停止は解消した結果、この面での世界石油需給の引き締まり感は後退する格好となっている。しかしながら、リビアではしばしば東西両政府の対立が高まること等により、油田や石油ターミナルの操業が妨害されるとともに、短期間のうちに石油供給が大幅に減少する場面がしばしば見られているため、今後もリビアの政情混乱等に伴い再び石油供給が脅かされる場面が見られないとも限らないので、同国情勢については引き続き緊密に監視する必要があろう。

経済面で世界石油市場に影響を与えうる要因は、まず米国経済情勢であろう。米国の物価状況及び労働市場における不透明感が残存することもあり、9月17~18日に開催される予定である米国連邦公開市場委員会(FOMC)においては0.25%の小幅な政策金利引き下げを実施するとの見方が従来主流であった(9月12日時点においてもFOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げが決定する確率は72%であった)。しかしながら、同FOMCにおいて決定されると予想される政策金利引き下げ幅が0.25%となるか0.50%となるかは微妙なところである旨9月12日にウォールストリート・ジャーナルが報じたこともあり、同国金融当局による0.50%の政策金利引き下げ期待が市場で増大した結果、FOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げを実施する確率と0.50%の政策金利引き下げを実施する確率は、9月13日時点ではともに50%となった。果たして、9月17~18日に開催されたFOMCにおいては0.50%の政策金利引き下げが決定された旨9月18日に明らかになったが、米国金融当局が今後も大幅な政策金利の引き下げを継続すると判断したとは市場関係者は認識すべきではない旨、FOMC開催後に行なわれた9月18日の記者会見で米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が警告した。また、目標を上回る米国物価上昇は依然として継続していることからFOMCにおいて決定された0.50%の政策金利引き下げには反対であった旨9月20日にFRBのボウマン理事が明らかにした。ただ、最近のコア(食料及びエネルギーを除く)消費者物価指数(CPI)の上昇が1.8%未満と目標の2.0%を下回っていると判断されたことにより、9月17~18日に開催されたFOMCにおいては、0.50%の政策金利引き下げを支持した他、2024年11月6~7日及び12月17~18日に開催されるFOMCにおいてそれぞれ0.25%の政策金利引き下げを支持するものと見込んでいるものの、米国物価上昇沈静化が進むようであれば0.50%の政策金利引き下げを決定する可能性もある一方物価上昇が再加速するようであれば政策金利引き下げを見送る可能性もある旨9月20日にFRBのウォラー理事が明らかにした。また、米国の物価上昇は沈静化しつつある一方労働市場は悪化しつつあることから、9月17~18日に開催されたFOMCにおいて0.50%の政策金利引き下げを決定したことは正しい判断であったと認識している他、今後2024年末までに2回開催される予定であるFOMCにおいて、それぞれ0.25%の比較的小幅の政策金利引き下げを実施するものと予想している旨9月23日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が発言した。さらに、米国物価上昇が沈静化しつつある中で同国経済を軟着陸させるため、今後1年間で政策金利引き下げを複数回行なうことになるであろう旨の見解を9月23日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示した。加えて、米国の物価上昇は沈静化しつつある一方労働市場は悪化しつつあることから、9月17~18日に開催されたFOMCにおいて0.50%の政策金利引き下げを決定したことは正当化されると考える一方、再び物価上昇が加速する恐れもあることにより、現時点で今後の(0.50%の)大幅な政策金利引き下げ方針を示すべきでない旨米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が発言したと9月23日に伝えられた。9月24日には、米国の物価上昇率は目標を相当程度上回ったままであるとして、この先の政策金利の引き下げは慎重に実施する必要がある旨FRBのボウマン理事が表明した。そして、9月17~18日に開催されたFOMCにおける、0.50%の政策金利引き上げ決定を強く支持することに加え、今後も物価上昇沈静化が進展するのであれば、さらなる政策金利引き下げを実施することが適切である旨FRBのクーグラー理事が明らかにした旨9月25日に報じられた。また、物価上昇の沈静化と労働市場の冷え込みにより、9月17~18日に開催されたFOMCにおける0.50%の政策金利引き下げ決定を強く支持するとともに、この先の政策金利引き下げは、今後明らかになる経済指標類や経済見通し、労働市場と物価上昇の状況に依存することになるものとFRBのクック理事が認識している旨9月26日に伝えられた。さらに、9月17~18日に開催されたFOMCにおける0.50%の政策金利引き下げ決定を強く支持するとともに、今後も漸進的な金融緩和を実施していくことが重要である他米国経済や労働市場の状況が想定を超えて悪化するようであれば政策金利引き下げを加速することも正当化されうるものと考えている旨9月27日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が述べた。9月30日には、FRBのパウエル議長が、米国経済は堅調であることから、政策金利引き下げを急いでいるわけはない旨表明した。他方、足元の経済状況及びこの先の経済展望を考慮すると、今後1年超に渡り政策金利を大幅に引き下げる必要性があるものと考える旨9月30日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が説明した他、米国労働市場がさらに悪化するようであれば、11月6~7日に開催される予定である次回FOMCにおいて0.50%の政策金利引き下げを実施することも否定しない旨9月30日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした。ただ、米国の物価上昇が完全に沈静化したと断言するには時期尚早であり、2025年に物価上昇が加速することが政策金利引き下げを阻む恐れがあることを不安視している旨10月2日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにした。それでも、物価上昇が沈静化しつつあることから、政策金利を今後1年間に渡り大幅に引き下げる必要がある旨10月3日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が改めて主張した他、10月4日に発表された9月の米国雇用統計の内容(前述)は素晴らしいものであったと考えるが、1回の指標類に対し過剰に反応すべきではない旨同日米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が発言した。また、今後の政策金利引き下げ方針決定に際しては、経済指標類、経済見通し、物価上昇、及び労働市場におけるリスクを考慮し、FOMC開催毎に判断することが望ましい旨、10月8日にFRBのジェファーソン副議長が示唆した。さらに、9月17~18日に開催されたFOMCにおいては0.50%の政策金利引き下げを支持する委員が主流であったものの、ボウマンFRB理事を含め一部複数の委員は0.25%の政策金利引き下げを支持していた他、0.50%の政策金利引き下げ幅が以降も継続することを約束するものではないことが委員間で広く認識されていた旨10月9日に公表されたFOMC議事録において示唆された。加えて、10月4日に発表された米国雇用統計が堅調であったこともあり、米国の政策金利の引き下げは時間をかけて慎重に実施すべきである旨10月7日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が示唆した。そして、米国金融当局は、物価上昇沈静化を目指しつつ労働市場を含む経済活動の過度の悪化を回避するべきである旨10月8日にFRBのクーグラー理事が発言した。また、10月4日に発表された米国雇用統計は良好な内容であったこともあり、今後の政策金利引き下げは緩やかに実施されることを支持する旨、米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が明らかにしたと10月8日に報じられた。さらに、今後米国における雇用の伸びが鈍化しつつある旨判明した場合には政策金利の大幅引き下げを実施することもありうる反面、物価上昇率も依然高水準であることもあり、雇用情勢が堅調であるのであれば、政策金利引き下げペースを減速させることもありうる旨10月8日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が発言した。加えて、物価上昇は沈静化しつつあることにより、この先も政策金利のさらなる引き下げの余地はあるものと考えるものの、依然として物価上昇率を目標の水準にまで低下するために実施すべき作業は残っており、今後政策金利引き下げ方針を決定する際には、入手されるデータを考慮しつつ慎重に判断することが必要である旨10月8日に米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が明らかにした。そして、9月17~18日に開催されたFOMCにおける0.50%の政策金利引き下げ決定を完全に支持するとともに、2024年末にかけさらに1~2回の政策金利引き下げが実施されることがありうる旨10月9日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が発言した。また、さらなる政策金利引き下げを支持するものの、この先入手される経済指標類等に基づき判断していくことが重要である旨米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が認識している旨10月9日に伝えられた。さらに、米国の物価上昇は沈静化する方向に向かいつつある一方、同国の労働市場は底堅い状態にあるため、今後の政策金利の引き下げは時間をかけて実施することが適切である旨10月10日に米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が示唆した。加えて、10月10日に発表された米国CPIの前年同月比での伸びは市場の事前予想を上回ったが、この先米国物価上昇が沈静化する方向に向かい続けることにより、今後1年から1年半の間に政策金利は引き下げられ続けるものと認識している旨10月10日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。ただ、米国の物価上昇は沈静化する方向に向かいつつあるものの、まだ目標に到達しているわけではなく、(物価上昇沈静化に向け)実施すべき対策は残っている旨10月10日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が主張した。また、足元で発表されている米国の物価及び労働市場関連指標は、それらの状況が不安定であることを示していることから、11月6~7日に開催される予定であるFOMCにおいて政策金利引き下げを踏みとどまることもありうる旨10月10日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が示唆した。また、米国の物価上昇が再び加速するリスクが残存しているものと考えられることもあり、今後の政策金利引き下げは漸進的に実施すべきであるとの見解を10月9日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が示した他、同氏は10月11日にも米国の政策金利は漸進的に引き下げられていくべきである旨改めて主張した。

このように、9月17~18日に開催されたFOMCにおいては0.50%の大幅な政策金利引き下げが決定されたものの、それ以降の米国金融当局関係者の発言は、政策金利引き下げ継続が望ましいとの姿勢を示唆しつつ、引き下げ幅については、物価上昇沈静化と労働市場との状況を見極めつつ慎重に判断するとの考え方が主流のように見受けられ、10月13日時点では11月6~7日に開催される予定である次回FOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げが決定される確率が89.5%と、他のどの選択肢よりも高い確率となっている他、残りの10.5%の確率は政策金利据え置き決定となっており、0.50%の大幅な政策金利引き下げ確率はゼロとなっている。ただ、複数の米国当局関係者はこの先入手されるデータによって支持する政策金利引き下げ幅を判断する旨示唆している。このため、今後発表される予定である物価上昇関連指標類が、物価上昇が沈静化に向かう兆候が見られなかったり、労働市場が堅調であることを示していたりした場合には、FOMCにおいての政策金利引き下げ幅は市場の予想通り0.25%(もしくは据え置き)にとどまるとの観測が市場で増大する結果、原油相場への影響が限定的なものとなることも想定される他、政策金利据え置き決定観測が市場で増大するようであれば米ドル上昇により原油相場に下方圧力が加わる場面が見られることもありうる。しかしながら、経済指標類が、米国の物価上昇が沈静化しつつあるとともに労働市場が悪化しつつある兆候を示すようであれば、より大きな規模での政策金利引き下げ展望が開けることにより、米ドルが下落するとともに原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。そして、今後明らかになる米国経済指標類に加え、政策金利引き下げ等を巡る米国金融当局関係者等による発言も、米ドルや米国株式相場の変動を通じて、原油相場に影響を及ぼしうるものと考えられる。そのうえで、11月6~7日における次回FOMCにおける政策金利引き下げ等に関する決定内容及び11月7日に実施される予定であるFOMC開催後のFRBのパウエル議長の記者会見内容等により、今後の政策金利引き下げ方針等に対する観測が市場で発生することにより、原油相場が変動する可能性がある。

また、10月中旬より主要米国主要企業の2023年7~9月期等の業績(及び今後の業績見通し)が発表され始めているが、今後も当面企業による業績発表等は継続する予定であり、それら発表内容等が株式相場とともに原油相場に影響を及ぼすと言った場面が見られることもありうる。

米国では、2024年11月5日に大統領選挙投票が実施される予定である。有力な次期大統領候補は、民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領であり、両候補の支持率は概ね拮抗している状況にあるとされる。ハリス副大統領は2011年1月3日に同国カリフォルニア州の司法長官に就任した(2017年1月3日に退任、同日より2021年1月18日まで米国連邦議会上院議員、2021年1月20日に米国副大統領就任)。カリフォルニア州司法長官時代のハリス副大統領は、原油漏洩事故を巡りパイプライン会社の訴追請求を行なった他、気候変動問題に関し米国国民を誤解させた疑いでエクソンモービルを捜査したことがあることもあり、従来からハリス氏は化石燃料関連産業に対し不信感を持っているように見受けられたことにより、同氏が大統領となった場合には、米国国内(陸上に加えメキシコ湾沖合等の連邦管轄地域)における石油・天然ガス等の開発・生産、パイプラインの建設及び操業、天然ガス液化及び輸出施設の建設等に関し、環境保全や地球環境問題の観点から、より厳しい姿勢で臨む(例えば、それは連邦所有地域における石油・天然ガス開発活動、及びパイプラインや天然ガス液化施設の建設を巡る制限の強化や慎重な審査の実施、といったものが含まれる)とともにそのような姿勢を反映した政策を実行に移すと見る向きもある。ただ、化石燃料産業に対する規制を強化しすぎると、自国内のエネルギー需給の引き締まり感が強まるとともに、例えば同国内のガソリン小売価格が上昇する結果、消費者の不興を買うことになり、かえって国民による支持率を低下させることに繋がる。また、環境規制の厳しいカリフォルニア州の司法長官と米国大統領とでは立場が異なり、米国国民及び民主党連邦議会議員(場合によっては共和党連邦議会議員)から幅広く支持を得るべく、より均衡した政策を推進する必要がある。因みに、2019年にハリス氏は水圧破砕に反対する旨表明したことがあるが、バイデン政権での副大統領になる過程で主張を後退させており、2024年8月29日にも同氏は大統領に当選してもシェールオイル及びシェールガス開発のための水圧破砕を禁止しない方針である旨明らかにしている。このため、ハリス氏が大統領に当選した場合には、地球環境問題対策に整合させる方向でエネルギー政策を推進するようになる可能性も排除はできないものの、事実上バイデン政権時代の政策を継続することにより、石油を含むエネルギー市場への影響は比較的限定的なものとなる可能性があるものと考えられる。

他方、トランプ前大統領は、米国のエネルギー独立を達成すべく、シェールオイル及びシェールガス、もしくは米国メキシコ湾沖合深海油・ガス田を含む石油・天然ガス開発・生産を促進しようとする姿勢が明確である。従って、トランプ前大統領が当選した場合、米国の石油・天然ガス開発・生産支援策を実施するか、少なくとも環境規制等といった米国の石油・天然ガス開発・生産を制限するような規制や手続きの緩和もしくは撤廃を実施することにより、米国の石油・天然ガス開発・生産を促進させようとするであろう。そして米国の石油・天然ガス生産が拡大すれば、世界の石油や天然ガス需給緩和感が市場で強まる結果、原油・天然ガス相場に下方圧力が加わるものと考えられる。また、米国のシェールオイル及びシェールガスを含む原油・天然ガス開発・生産活動が活発化する中で、石油・天然ガス企業は技術開発や効率的な操業の展開等を通じ原油・天然ガスコストを低減させていく可能性があることから、その分だけ、原油・天然ガス生産が拡大するとともに、一時的にせよ原油相場の変動領域が切り下がると言った展開となることもありうる。

ただ、トランプ前大統領が大統領に返り咲くことにより、前大統領時代に実施していた対イラン強硬策が復活する事態が発生することも想定される。2015年7月14日に合意したイランと西側諸国等との間での核合意を、2018年5月8日にトランプ前大統領は一方的に離脱、2021年1月20日にバイデン大統領が就任した後、イラン核合意の正常化に向けた交渉が開始されたものの、紆余曲折を経る結果、現時点でも正常化はなされていない。そのような中、トランプ氏が大統領に就任した場合には、イラン核合意の正常化を巡るイランと西側諸国等との協議から米国が一方的に離脱する他、イランに対する制裁強化、もしくは制裁運用強化を行なうものと考えられる。特に最近では、バイデン政権の制裁運用が事実上緩やかになっているように見受けられることもあり、イランの原油生産量は2022年9月の日量248万バレルから2024年8月には同342万バレルと同94万バレル程度増加している。これに対し、トランプ前大統領が次期大統領に就任した場合、同氏がイラン制裁運用を強化する結果イラン原油生産が比較的早期に相等程度減少するとともに、その分だけ石油需給引き締まり感が市場で強まることにより、原油相場に上方圧力が加わりやすくなる。また、トランプ氏によるイラン核合意正常化交渉離脱と対イラン制裁の実質的な強化に反発することにより、イランがウラン濃縮活動の拡大等を通じ、イスラエルや米国に対する挑発行為を強化する結果、イランとイスラエル及び米国との間での対立が高まるとともに、イランとイスラエル(もしくは米国)との衝突、ペルシャ湾等における米国やイスラエル関連企業等の運航するタンカーを含む船舶のイランによる拿捕、もしくはイランによるホルムズ海峡封鎖等の可能性に対し、市場の懸念が増大することにより、原油相場が支持されたり上振れしたりする可能性がある。

そして、トランプ前大統領が次期大統領に就任した場合、まずはイラン制裁強化に伴う石油供給減少の影響が石油市場に及び、その後で米国のシェールオイルを含む石油生産拡大の影響が石油市場に及ぶものと見られる(シェールオイルの生産拡大は比較的速やかに行なわれるとは言え、それが実現するまでには半年から1年を要するため、それよりも早く減少する恐れのあるイラン石油供給を相殺することはかなり困難である)ことから、まずはイラン要因で世界石油需給引き締まり感が強まるとともに原油相場が上昇した後、米国シェールオイル増産により世界石油需給の緩和感が醸成されるとともに原油相場が沈静化する方向に向かうといった展開になりやすいものと見られる。

なお、トランプ前大統領が大統領に就任した場合には、税制等を通じ電気自動車の普及促進を阻止する一方ガソリン車の普及を推進するものと見られることから、米国のガソリン需要が増加するとの観測が市場で強まる結果、(ガソリン及び)原油相場が支持されやすいものと考えられる。

また、トランプ前大統領は米国経済発展推進を標榜するとともに、景気刺激策を講じたり(この結果米国経済成長が加速するとともに石油需要の伸びが拡大するとの期待が市場で増大する)、米国産品輸出促進のために米ドル安誘導を試みようとしたりすることから、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。但し、外国製品に対し関税を課することにより、米国内の物価が上昇すること等を通じ米国経済が減速するとともに石油需要の伸びを鈍化させるなどの影響を及ぼす結果、原油相場に下方圧力が加わる可能性が発生すると言った側面もある。このようにトランプ前大統領が政権を奪還した場合には、自国石油開発・生産の推進、イランへの対応を含む中東情勢の複雑化等を含め、事態が複雑化する結果、原油相場が乱高下する可能性あるので、注意する必要があろう。

また、中国の経済情勢についても、注目していく必要があろう。9月14日に中国国家統計局から発表された8月の同国鉱工業生産は前年同月比4.5%の増加と7月の同5.1%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同4.7%の増加)を下回ったうえ、8月の同国小売売上高は同2.1%の増加と7月の同2.7%の増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同2.5%の増加)を下回った。併せて9月14日に中国国家統計局から発表された8月の同国原油精製処理量は5,907万トン(推定日量1,395万バレル)と7月の5,906万トン(同1,395万バレル)から殆ど横這いとなった他前年同月(6,469万トン(同1,528万バレル))比で相当程度減少している旨判明した。また、9月14日に中国国家統計局から発表された8月の中国新築住宅価格は前年同月比で0.73%下落と7月の同0.65%下落から下落率が拡大するとともに、8月の中古住宅価格は前月比0.95%下落と7月の同0.80%下落から下落率が拡大、2024年1~8月の同国固定資産投資は前年同期比3.4%の増加と1~7月の同3.6%から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同3.5%の増加)を下回ったうえ、1~8月の同国不動産投資は前年同期比10.2%の減少と1~7月の同10.2%の減少から横這いとなった他市場の事前予想(同10.0%の減少)を上回って減少した。他方、9月23日には、中国人民銀行が主要短期金利を0.10%引き下げたことに加え、中国人民銀行が近いうちに銀行の預金準備率を0.50%引き下げる方針である他、今後の状況次第ではさらに預金準備率を0.25~0.50%引き下げることもありうるとしたうえ、既存住宅融資金利の0.50%の引き下げを実施する他、中国株式市場安定化のための資金供給に向け8,000億元規模の基金の創設を検討することを含めた景気刺激策を実施する意向である旨、9月24日に中国人民銀行の潘功勝総裁他が発表した。また、貧困層の生活保護のための補助金の支給、労働者の賃金上昇、及び雇用促進のための方策を実施する方針である旨中国政府が明らかにしたと9月25日に報じられた。加えて、中国政府が中国大手国有銀行に最大1兆元(20.62兆円)の資本注入を実施する方向で検討している旨9月26日に伝えられた他、中国共産党政治局が、同国政府等に対し、政策金利の引き下げ、十分な規模の財政支出、及び同国不動産部門の積極的な支援を実施するよう要求した(但し、具体的な財政支出規模等の内容は明らかにされなかった)旨9月26日に報じられた。さらに、中国経済回復に向けた刺激策として、9月27日に中国人民銀行が、市中銀行向けの金利を0.20%引き下げる旨発表した他、同日を以て銀行の預金準備率を0.50%引き下げる旨決定した。他方、9月27日に中国国家統計局から発表された8月の同国工業企業利益は前年同月比17.8%の減少と7月の同4.1%増加から減少に転じた他2023年4月(この時は同18.2%の減少)以来の大幅な減少となった旨判明した。また、9月30日に中国国家統計局から発表された9月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.8と8月49.1から上昇、市場の事前予想(49.4~49.5)を上回ったものの、5ヶ月連続で50割れとなった一方、9月の同国非製造業PMIは50.0と8月の50.3から低下した他市場の事前予想(50.4)を下回った。さらに、9月30日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された9月の同国製造業PMIは49.3と8月の50.4から低下、2023年7月(この時は49.2)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(50.5)を下回った一方、9月の同国非製造業PMIは50.3と8月の51.6から低下、2023年9月(この時は50.2)以来の低水準に低下した他事前予想(51.6)を下回った。その一方で、10月31日までに中国国内既設住宅向け融資金利を引き下げるよう各金融機関に通達した旨9月29日に中国人民銀行が発表した他、同国上海、深圳及び広州の各市が住宅購入規制を緩和した他旨9月29日に伝えられた。ただ、中国の国慶節に伴う休暇シーズン(10月1~7日)は近距離の旅行が主流となるとともに支出が抑制されるものと見られる旨9月30日に報じられた他、9月の中国100都市の新築住宅価格が前月比で0.14%の上昇と8月の同0.11%の上昇と概ね同水準にとどまった旨不動産調査会社チャイナ・インデックス・アカデミーが明らかにしたと10月1日に伝えられた。他方、10月8日に実施された中国国家発展改革委員会による記者会見においては、同国経済活動促進に向けた具体的な方策は殆ど説明されなかった。また、中国政府等が特別債を大量に発行して銀行への資本基盤整備や不動産購入に充当すること等により同国経済回復を支援する旨10月12日に開催された記者会見において中国の藍仏安財政相他が表明したものの、特別債の具体的な発行規模等については明らかにされなかった。そのような中、10月13日に中国国家統計局から発表された9月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.4%上昇と8月の同0.6%上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同0.6%上昇)を下回ったうえ、同月の生産者物価指数(PPI)は同2.8%下落と8月の同1.8%下落から下落率が拡大、2022年10月以降24ヶ月連続前年同月比で下落となった他、市場の事前予想(同2.5~2.6%下落)を上回って低下していた旨判明した。また、10月14日に中国税関総署から発表された9月の同国輸出(米ドル建)は前年同月比2.4%の増加と2024年4月(この時は同1.2%の増加)以来の低水準となった他市場の事前予想(同6.0%の増加)を下回ったうえ、同月の同国輸入(同)も同0.3%の増加と市場の事前予想(同0.8~0.9%の増加)を下回ったことに加え、9月の同国原油輸入も4,549万トン(推定日量1,110万バレル)と8月の4,910万バレル(同1,159万バレル)及び前年同月の4,574万トン(同1,116万バレル)を下回った。

このように、中国では、同国経済が減速しつつあることを示す指標類が相当数発表されるとともに、原油輸入や製油所の原油精製処理量も前年同月比で減少を示すなど、石油需要が軟調であることが示唆される一方、これまで実施されたり、実施する旨発表されたりしている同国政府等による景気刺激策は必ずしも具体的なものとは言い切れないこともあり、同国経済を回復させるには不十分であるか、経済回復効果を発揮するには少なくとも時間を要するものと市場から見做されている。今後も、同国政府等から余程大規模な景気刺激策が発表され続けるようでなければ(ただ、中国経済を回復させるために必要とされる個々の目標や方針には複雑な矛盾が多く含まれているため、今後の経済回復への過程が紆余曲折を経る可能性がある旨、中国第20期中央委員会第3回総会(3中総会)終了を受け7月19日に会見した中国共産党中央財経委員会弁公室の韓文秀副主任が示唆している他、9月6日には中国人民銀行の易綱前総裁が、消費及び投資といった内需が弱いことから同国経済にデフレ圧力が加わりつつあるといった懸念がある旨示唆しているところからすると、今後の中国経済回復過程は複雑化しやすいものと推測される)、中国経済が減速し続けることに伴い、同国石油需要の伸びが鈍化するとの見方が市場で広がる結果、原油価格を抑制する格好となりやすいものと考えられる。但し、中国政府や金融政策当局者から、大型の景気刺激策が発表され続けるようであれば、一時的にせよ中国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で醸成される結果、原油相場が持ち直す場面が見られるといった展開となることも否定はできない。

米国では、この先冬場の暖房シーズン(概ね11月1日~翌年3月31日)を控え、製油所が秋場のメンテナンス作業等を終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理が進むとともに、原油購入を活発化させてくる。このため季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まるものと考えられる。従って、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなる。そして、秋場の後半及び冬場の前半において、米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部等において厳冬予想が発表されたり実際に気温が相当程度低下したりした場合には、市場関係者間で暖房用石油製品需要の長期的な増加観測と需給引き締まり懸念が拡大する結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。このため、今後米国北東部等における気温予報や実際の気温の状況には注意する必要があろう。

また、10月10日に米国海洋大気庁(NOAA)は、ラニーニャ現象(日付変更線付近から南米沿岸にかけての太平洋赤道域で海面の水温が平年より低くなる現象)が発生する確率が、2024年9~11月は60%になる他、2025年1~3月においても同現象が居座るものと予想される旨発表した。ラニーニャ現象が発生すると、北半球の冬場において気温が平年を相当程度下回るなど厳冬になりやすいとされる(なお、夏場となる南米諸国は渇水となりやすいとされる)。そして、米国のみならず、欧州及びアジア諸国の気温が大幅に低下すれば、暖房向け石油製品(日本や韓国では灯油が利用されるが、他の地域では暖房油(品質的には軽油に近い)が使用される)需要が増加しやすくなるものと考えられる。この結果、石油需給の引き締まり感が市場で増大することを通じ、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。

また、大西洋圏において1年間で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期(8月後半~10月前半)は過ぎつつあることから、ハリケーン等の暴風雨が米国メキシコ湾沖合の石油生産関連施設や陸上の製油所等の施設に影響を及ぼすことに伴う石油供給途絶懸念は市場では低下していくものと見られる。それでも11月末まで大西洋圏の暴風雨シーズンは続く。既に、現時点までに明らかになっている一部機関による2024年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想によると、記録的な水準に近い頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する可能性がある旨指摘されている(表1参照)他、これまでにハリケーン「ベリル(Beryl)」が発生し、観測史上最も早い時期にカテゴリー5のハリケーンへと発達した他、ハリケーンの「フランシーヌ(Francine)」、「ヘレン/へリーン(Helene)」及び「ミルトン(Milton)」が米国メキシコ湾沖合に来襲するとともに、沖合の油・ガス田の操業に影響を与える場面が見られている(ハリケーン「フランシーヌ」は373万バレル、ハリケーン「ヘレン/ヘリーン」は193万バレルの、それぞれ米国メキシコ湾沖合原油生産を停止させた)など、市場関係者間では2024年の暴風雨シーズンがそれなりに活発なものである旨意識されやすくなっている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2023年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量63万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合においてもそれなりの量の原油が生産されている(2023年は当該地域で日量186万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,293万バレル)の約14%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2023年の同地域の原油精製処理能力は日量988万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,825万バレル)の約54%を占めた)こともあり、今後もハリケーン等の暴風雨の発生状況や進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給への支障に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られる可能性もある。

表1 2024年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

ただ、米国の人口密集地域にハリケーン等の暴風雨が来襲することにより、油槽所やガソリンスタンド等の石油製品配送施設等が被害を受けたり、道路が寸断されたりするようだと、ガソリン等の販売が停止したり、個人の外出が阻止されたりすることにより、かえって石油需要が抑制される格好となる結果、ガソリン等の石油製品や原油の価格に下方圧力が加わると言った展開となることもありうる。

2024年10月2日に開催されたOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)においては、2024年1月より一部OPECプラス産油国が実施中の自主的な減産措置を同年12月より緩和するとの方針に関しては特に変更は加えられなかった。ただ、12月に延期して減産措置の緩和を開始しても、2025年は世界石油供給が需要を日量231万バレル上回るものと見込まれる(表2参照)他、中国経済が減速等することにより石油需要の伸びがさらに鈍化すれば、2025年の供給過剰緩和はさらに強まるとともに、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。他方、2025年の世界石油需給が緩和することが予想されるにもかかわらず6月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において一部産油国の自主的な減産措置の緩和を決定した背景に、それまでにおいて一部OPECプラス産油国が増産の意向を示すなど、原油生産制限に関し産油国間で足並みが乱れつつあったことがあるものと見受けられることから、そのような増産意向を示している一部産油国に対し原油販売収入の極大化を図るべく原油価格を維持するには減産を継続することが重要である旨説得するために、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は、今後も足元及びこの先の世界石油需給状況と原油価格動向や見通し等を見極めつつ、減産措置緩和の延期、取り止め、もしくは状況によっては減産拡大等を含めた減産措置緩和の取り扱いにつき漸進的に判断していく可能性があるものと考えられる。また、2ヶ月毎に実施される予定であるOPECプラス産油国JMMCは、次回は12月1日に開催される予定である次回OEPCプラス産油国閣僚級会合の直前に開催されるものと見られるが、その時点で12月からの減産措置緩和の再調整を協議しても、減産参加各産油国の原油生産調整に対する準備が間に合わないものと見られることから、遅くとも11月上旬末頃までには世界石油市場の現状及び今後の見通しに基づき、臨時協議を実施すること等を通じ、減産措置の再調整を行なうと言った展開となりうるものと考えられる。

表2 世界石油需給バランスシナリオ(2025年)(2024年9月12日時点)

全体としては、この先冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることが、石油製品及び原油の価格に上方圧力を加える可能性がある。また、イスラエルの対イラン報復措置の内容と、イスラエルとイランとの対立の先鋭化、そしてその世界石油市場への影響を巡る不透明感が原油相場を少なくとも下支え、事態の展開によっては原油相場に上方圧力を加えうるものと考えられる。また、中国経済が減速しつつある経済指標類の発表が続くようであれば、同国石油需要の伸びの鈍化懸念が増大する結果原油相場の上昇を抑制する反面、同国政府等による大規模景気刺激策の発表が続くようであれば、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大する結果、原油相場が一時的にせよ持ち直す場面が見られる可能性がある。そのような中、米国経済指標類及び金融当局による政策金利の引き下げを巡る観測や実際の政策金利の取り扱い、及びOPECプラス産油国の減産措置を巡る調整の動き等が原油相場に影響を与えうるものと考えられる。

 

4. 2024年から2025年にかけての世界石油市場に対する市場関係者の見方等を巡る一考察

EIAは2024年1月9日、OPECは2月13日、IEAは4月12日に、それぞれ初めて2025年の世界石油需要及び供給等の見通しの詳細を公表した。足元既に2024年も第4四半期に突入するとともに2025年が視野に入りつつある中、ここで各機関による2024年及び2025年の世界石油需要及び供給見通し等の特徴などにつき考察することとしたい。なお、データは原則、EIAが2024年10月8日、OPECが9月10日、IEAが9月12日に、それぞれ発表したもの(つまり最新のもの)に基づくものとする。

まず、需要面であるが、2024年の世界石油需要の前年比での増加は、日量90~203万バレル程度と予想されており(IEAが同90万バレル(前年比0.9%)、EIAが同91万バレル(同0.9%)、OPECが同203万バレル(同2.0%))の、それぞれ増加)(図16参照)、IEA及びEIAは2023年の世界石油需要(IEA及びEIAともに前年比日量210万バレル(同2.1%)の増加)から前年比の増加幅が半減する反面、OPECは2023年の世界石油需要(前年比日量260万バレル(同2.6%)の増加)から伸びは縮小しているものの、その規模は限定的なものとなるなど、対照的な認識が示されている。

図16 各機関の世界石油需要増加見通し(前年比)

OPECは2024年のOECD諸国石油需要が前年比日量13万バレル(同0.3%)の増加と若干ながらも増加すると見込む一方、IEA及びEIAは2024年のOECD諸国石油需要は前年比で日量5万バレル(同0.1%)、日量7万バレル(同0.1%)、それぞれ減少するものと展望している(図17参照)。これはIEA及びEIAは、2024年の米国石油需要の増加が限定的なものとなる一方欧州や日本といった他のOECD諸国の石油需要が減少するものと見ている反面、OPECは米国の石油需要がそれなりに伸びる一方欧州や日本と言った他のOECD諸国の石油需要は概ね横這いか減少したとしても限定的なものにとどまるものと考えていることが反映されているようである。

図17 各機関のOECD諸国石油需要増加見通し(前年比)

IEA及びEIAは、2024年の米国石油需要が前年比で日量7万バレル(同0.3%)、日量1万バレル(同0.0%)の、それぞれ増加と、比較的軟調に推移する(因みにIEA及びEIAは、2023年の米国石油需要を前年比日量24万バレル(同1.2%)、同26万バレル(同0.3%)の、それぞれ増加となるものと算出していた)ものと見ている(図18参照)。同国の物価が上昇し続けたこともあり、2024年に入り個人可処分所得の伸びが鈍化したことに加え自動車等の燃費効率の改善が進展しつつあることにより、ガソリン需要が伸び悩み気味となった他、物価上昇沈静化のために、2022年以降同国金融当局が政策金利を引き上げ続けた結果、2023年7月25~26日に開催されたFOMCにおいて、同金利が0.25%引き上げられ5.25~5.50%と2001年3月中旬(同年3月20日に開催されたFOMCにおいて0.50%の政策金利引き下げを実施し4.75~5.00%となった)以来の高水準に到達したこともあり、同国経済が減速し始めたことにより鉱工業生産等がもたつき気味となるとともに留出油(軽油及び暖房油)需要が前年比で減少しつつあることが、2024年の同国石油需要の減少に繋がったものと認識していることが示唆される。ただ、OPECは2024年夏場のドライブシーズンの伴うガソリン需要に加え2024年11月5日に予定されている同国次期大統領選挙投票日を控え、現政権がガソリン小売価格を抑制しようとすることにより輸送部門における石油需要が支持されることに加え、2024年後半にかけ民間部門消費は底堅く推移すること、石油化学部門における原料向けのエタンを含むLPG需要が増加することが、同国経済減速に伴う鉱工業活動の減速による留出油需要減少を相殺して余りあるものと思われることにより、2024年の米国石油需要は前年比で日量11万バレル(0.6%)の増加とIEA及びEIAに比べれば増加幅が若干ながら大きなものとなるものと分析している(それでもOPECの2023年同国石油需要増加(日量20万バレル(1.0%)の増加)からは増加幅が半減している)。また、OPECもIEAも2024年後半は日本経済が底打ちする兆しが見られると認識していることが、同国の石油需要を下支えする方向で作用する旨示唆する一方、OPECは消費者信頼感の堅調な改善と観光関連活動の拡大予想を反映して、同国石油需要が底堅く推移するものと想定する反面、IEAは2024年後半の石油需要の下振れ抑制を以てしても、2024年前半の軟調な石油需要を相殺しきれないものと見る結果、2024年の同国石油需要は前年比で減少するものと考えている。

図18 各機関の米国石油需要増加見通し(前年比)

2024年の非OECD諸国石油需要に関しては、IEA及びEIAが前年比日量95~98万バレルの増加(IEAが同95万バレル(前年比1.7%)、EIAが同98万バレル(同1.7%)の、それぞれ増加)と予想しているのに対し、OPECは同190万バレル(同3.4%)増加するものと予想している(図19参照)。

図19 各機関の非OECD諸国石油需要増加見通し(前年比)

2024年の中国石油需要については、IEA及びEIAが前年比日量9~18万バレルの増加(IEAが同18万バレル(前年比1.1%)、EIAが同9万バレル(同0.6%)の、それぞれ増加)と見込んでいるのに対し、OPECは同65万バレル(同4.0%)増加するものと予想する(図20参照)など、対照的である。IEA及びEIAは中国経済が相当程度減速するものと推測している(IEAは2024年の中国経済成長率を4.8%と2023年の5.2%から鈍化するとの市場の主流の見方を参照していることが示唆される)ことから、軽油を中心とした石油需要の伸びが顕著に鈍化しつつある旨指摘している他、IEAは中国においてLNGトラックの普及が広がりつつあることが、同国の石油需要を抑制しているものと認識している(これにより2024年において日量15万バレルの軽油需要を置換するものとIEAは考えている)。OPECは、中国の不動産部門不振とLNGトラック及び電気自動車の浸透の拡大が今後軽油及びガソリン需要に影響する可能性がある旨言及してはいるものの、中国経済成長は十分維持されている他、足元の健全な個人等の外出活動も継続することに加え、政府による経済支援活動も同国の経済成長を下支えすることから、2024年の同国石油需要は相当程度増加するものと予想している。

図20 各機関の中国石油需要増加見通し(前年比)

他方、2024年のインド石油需要の前年比での増加は、日量20~28万バレル程度と予想されている(IEAが同20万バレル(前年比3.8%)、EIAが同28万バレル(同5.3%)、OPECが同27万バレル(同5.0%))の、それぞれ増加)(図21参照)。同国では物価上昇が沈静化しつつあるとともに経済活動が再び活性化しつつあることに加え、2024年のインドにおける保有航空機数の増加により航空機による往来が活発化するとともにジェット燃料需要が押し上げられる可能性があることもあり、どの機関も同国の石油需要がそれなりに堅調に伸びていくものと展望している(但し、IEAは中国経済減速の影響をインドも受けざるをえないものと認識している)。

図21 各機関のインド石油需要増加見通し(前年比)

他方、2025年の世界石油需要の前年比での増加は、日量95~174万バレル程度と予想されており(IEAが同95万バレル(前年比0.9%)、EIAが同129万バレル(同1.3%)、OPECが同174万バレル(同1.7%))の、それぞれ増加)、IEAは2024年の前年比増加幅とほぼ同規模、EIAは拡大、OPECは縮小となるが、IEAの増加幅はEIA及びOPECのそれを相当程度下回る水準となっている。

IEAは2025年の中国経済成長率を4.5%と2024年の4.8%からさらに低下するとの市場の主流の見方を参照しているものと見られることから、2025年の世界石油需要の伸びを前年比で日量26万バレル(同1.6%)と見積もっていることが、世界石油需要の伸びの鈍化に反映されているものと考えられる。これに対しOPECは2024年の堅調な中国経済成長と健全な個人外出活動が2025年にも引き継がれるとして、2025年の中国石油需要の前年比での伸びを日量41万バレル(同2.4%)と、IEAの見通しよりも大幅なものとなるものと見ている。また、EIAは、2025年の中国石油需要増加幅を日量26万バレル(同1.6%)とIEAと同水準になるものと算定している(最近の一連の中国金融当局等による景気刺激策にもかかわらず、同国経済及び石油需要の伸びは比較的限定的なものとなるであろう旨示唆している)。

他方、EIAは、2025年の米国石油需要を前年比日量21万バレル(同1.0%)の増加とIEA(同7万バレル(同0.3%)の増加)及びOPEC(同4万バレル(同0.2%)の増加)と異なり、相当程度拡大するものと考えている。2024年の米国石油需要は前半を中心として軽油需要が抑制されたものの、EIAは2024年後半から2025年にかけては鉱工業生産活動が拡大するとともに、物流活動が活発化する他、2025年にかけ航空機を利用した個人の外出が活発化するものと見込んでいることから、2025年は軽油及びジェット燃料の需要が拡大することが、米国石油需要の増加幅拡大に寄与するものと見ている。それでも他のOECD諸国の石油需要が2024年から2025年にかけ減少することが影響し、EIAによる2025年のOECD諸国石油需要は前年比日量9万バレル(同0.2%)の増加と、IEAの当該増加幅(同9万バレル(同0.2%)の減少)は上回るもののOPECの増加幅(同11万バレル(同0.2%)の増加)とほぼ同水準となっている。

また、インドは2025年も経済成長を持続することから、軽油、LPG及びナフサ等の石油需要が堅調に伸びるとして、OPECは同年のインド石油需要を前年比で日量24万バレル(同4.3%)増加すると見込んでいる他、IEA(同23万バレル(同4.0%)の増加)及びEIA(同28万バレル(同5.0%)の増加)も同様の見解を持っていることが示唆される。

次に、非OPEC産油国石油供給につき見てみることにするが、OPECは2024年5月14日発表分からOPECプラス産油国に参加する非OPEC産油国はOPEC産油国と同等の扱いとするとともに、2024年及び25年の石油生産見通しの公表を取り止めたことから、ここでは非OPECプラス産油国石油供給についても併せて考察することとする。

2024年の非OPEC産油国石油供給は前年比で日量63~92万バレル程度の増加になると見込まれている(IEAが同92万バレル(前年比1.3%)、EIAが同63万バレル(同0.9%)の、それぞれ増加)(図22参照)。また、2024年の非OPECプラス産油国石油供給は前年比で日量123~147万バレル程度の増加になると見込まれている(IEAが同147万バレル(前年比2.8%)、EIAが同138万バレル(同2.6%)、OPECが同123万バレル(2.4%)の、それぞれ増加)(図23参照)。非OPEC産油国と非OPECプラス産油国で2024年の石油供給増加量が相当程度異なっているが、これはロシア等のOPECプラスに参加する非OPEC産油国の一部が2024年1月より自主的な減産を実施していることが主な要因となっている。

図22 各機関の非OPEC産油国石油需要増加見通し(前年比)

図23 各機関の非OPECプラス産油国石油需要増加見通し(前年比)

2025年の非OPEC産油国石油供給は前年比で日量149~178万バレル程度の増加(IEAが同178万バレル(前年比2.5%)、EIAが同149万バレル(同2.1%)の、それぞれ増加)になると見込まれている。また、2025年の非OPECプラス産油国石油供給は前年比で日量110~153万バレル程度の増加になると見込まれている(IEAが同153万バレル(前年比2.9%)、EIAが同135万バレル(同2.5%)、OPECが同110万バレル(2.1%)の、それぞれ増加)。2025年については非OPEC産油国と非OPECプラス産油国で石油供給の増加量はそれほど異なっていないが、これは、非OPEC産油国の増加の相当部分が非OPECプラス産油国の増加により賄われていることを意味する。また、特にIEA及びEIAにおいては、一部OPECプラス産油国に参加する非OPEC産油国が2024年1月以降実施中である自主的な減産措置(ロシア日量47.1万バレル、カザフスタン同8.2万バレル、オマーン同4.2バレル)を2024年12月から2025年11月にかけ緩和することに伴う増産の、それら産油国石油供給への織り込み方が保守的であるように見受けられることから、実際の一部OPECプラス産油国による減産緩和とともに、非OPEC産油国の石油供給が現時点の見通しよりも上振れする可能性があることに注意する必要があろう。

そして、各機関の見通しにおける、非OPEC産油国及び非OPECプラス産油国の2024年及び2025年の石油供給増加幅には多少の違いは見受けられるものの、方向性としてはほぼ同様なものとなっており、特に、非OPECプラス産油国の石油供給拡大は主に米国、カナダ、ガイアナ、ブラジル等を中心としてもたらされるものと各機関は考えている。ただ、IEA及びEIAともに2024年及び2025年の非OPEC産油国石油供給増加量が2023年(IEAが前年比240万バレル(前年比3.6%)、EIAが同252万バレル(同3.7%)の、それぞれ増加)を相当程度下回る他、IEA、EIA及びOPECともに2024年及び2025年の非OPECプラス産油国石油供給増加量が2023年(IEAが前年比240万バレル(前年比4.9%)、EIAが同246万バレル(同5.0%)、OPECが同242万バレル(同4.9%)の、それぞれ増加)を相当程度下回るものと見込んでいる。また、石油・天然ガス企業は、将来の石油需要見通しに不透明感が強まりつつある中、長期石油・天然ガス開発・生産プロジェクト推進リスクの軽減と株主への還元を意識していることから、一部を除き、限られた有望成熟地域に石油・天然ガス開発・生産活動を集中させる傾向がある旨IEAは指摘している。

各機関が予想する2024年及び2025年の非OPEC産油国石油供給の伸びの相当部分は米国からのものである。2024年の米国石油供給は前年比で日量51~69万バレル程度の増加になると見込まれている(IEAが同69万バレル(前年比3.5%)、EIAが同55万バレル(同2.8%)、OPECが同51万バレル(同2.4%)の、それぞれ増加)他、2025年の米国石油供給は前年比で日量37~63万バレル程度の増加になるものと認識されている(IEAが同63万バレル(前年比3.1%)、EIAが同37万バレル(同1.8%)、OPECが同50万バレル(同2.3%)の、それぞれ増加)(図24参照)。3機関による2024年及び2025年の米国石油供給の前年比での増加幅は2023年(IEA及びEIAが前年比日量151万バレル(ともに同8.4%)、OPECが同161万バレル(同8.3%)の、それぞれ増加)からは増加幅は縮小している。IEAは2022年以降の原油価格高騰沈静化に対し開発・生産効率が改善等したこと等により、2024年の米国シェールオイル生産が日量50万バレル増加する一方、2025年は同国のシェールオイル生産の伸びが日量29万バレルにとどまるものと見込んでいる(原油価格高騰の沈静化によりシェールオイル開発活動が鈍化していることが背景にあることが示唆される)。また、EIAも特にパーミアン、イーグルフォード及びバッケンの各シェール鉱床において掘削装置1基当たりの生産性が着実に向上している旨2024年6月11日発表の見通しで指摘しており、同機関は2024年の米国本土48州の陸上原油生産(増加の相当部分はシェールオイルが占めるとされる)が前年比で日量39万バレル増加する一方、2025年も同29万バレル増加すると推定しているが、両年とも2023年(同82万バレルの増加)に比べ生産増加幅が縮小するものと見ている(2023年から2025年にかけ米国原油価格が下落傾向となると予想されることを反映しているものと見られる)。なお、2024年10月1日に操業を開始した、米国テキサス州パーミアン盆地のワハ(Waha)とヒューストン近郊のケイティ(Katy)とを結ぶマッターホルン(Matterhorn)パイプラインにより、パーミアン盆地においてシェールオイルの生産に随伴して生産される天然ガスの輸送がより容易になることに伴い、シェールオイル生産に伴い随伴で生産される天然ガスの処理面での障害が軽減されることによりシェールオイル増産の余地ができることが期待される。他方、2024年の米国メキシコ湾沖合の原油生産については、IEAが前年比で日量5万バレル、EIAが同10万バレル、それぞれ減少すると予想しているが、2025年については、IEAが日量16万バレル、EIAが同5万バレル、それぞれ増加するものと認識している。2025年の原油生産増加は、ホエール(Whale)(操業者:シェル)、アンカー(Anchor)(操業者:シェブロン)、シェナンドー(Shenandoah)(操業者:ビーコン(Beacon))の各プロジェクトが2024年後半に原油生産を開始することが寄与するものとIEAは見ており、特にアンカー及びシェナンドーの各油田は地下の原油貯留層の圧力が極めて高く、これまで開発が困難であるものとされていたが、技術的進歩により今般開発が可能になった旨IEAは指摘している。なお、米国メキシコ湾沖合の(既存の)石油開発・生産活動は、陸上のシェールオイルの開発・生産活動に比べ事業規模が格段に大きいこともあり、原油価格の変動による影響は相対的に小さい旨EIAは示唆している。

図24 各機関の米国石油供給増加見通し(前年比)

カナダについては、産油地域であるアルバータ州で生産される石油を南方に輸送する際米国中西部及びメキシコ湾岸方面への石油パイプライン輸送能力上の問題の直面していたことから同州の石油供給が制限されていた側面があった。しかしながら、2024年5月1日にトランス・マウンテン・パイプライン(Trans Mountain Pipeline)(カナダ・アルバータ州エドモントン~同国ブリティッシュコロンビア州バーナビー(Burnaby)、操業者: トランス・マウンテン)の拡張部分が操業を開始した(これにより従来日量30万バレルであった同パイプラインの原油輸送能力は同89万バレルとなった)ことにより、同国アルバータ州で生産される石油のより多くを西方に輸送し、カナダの太平洋岸から米国西海岸やアジア諸国及び地域といった市場に販売することが可能となったことに伴い、アルバータ州等での石油開発・生産活動が活発化する結果、同国の石油供給が増加するものと見る向きがある。2024年のカナダ石油供給は前年比で日量15~30万バレル程度の増加(IEAが同15万バレル(前年比2.5%)、EIAが同30万バレル(同5.2%)、OPECが同23万バレル(同4.0%)の、それぞれ増加)、2025年は同11~25万バレル程度の増加(IEAが同11万バレル(前年比1.9%)、EIAが同25万バレル(同4.2%)、OPECが同16万バレル(同2.8%)の、それぞれ増加)になるものと見込まれており(図25参照)、2023年の同国石油供給の前年比日量7~17万バレル程度の増加(IEAが同7万バレル(前年比1.3%)、EIAが同17万バレル(同1.2%)、OPECが同17万バレル(同1.1%)の、それぞれ増加)から概して増加幅が拡大する方向性が読み取れる。OPECは、2024年のカナダ石油供給増加は、オイルサンドプロジェクトからの増産や生産最適化、及びモントニー(Montney)、カール(Keral)及びフォート・ヒルズ(Fort Hills)の各地域の油田地帯の施設拡張等が寄与するとし、2025年はミルドレッド・レイク/オーロラ(Mildred Lake/Aurora)、ナローズ・レイク(Narrows Lake)、コールド・レイク(Cold Lake)、モントニー(Montney)等の各施設からの供給増加が同国の石油供給拡大に貢献する旨示唆している。

図25 各機関のカナダ石油供給増加見通し(前年比)

2024年のブラジル石油供給は、前年比で日量2~11万バレル程度の増加(IEAが同2万バレル(前年比0.4%)、EIAが同9万バレル(同2.1%)、OPECが同11万バレル(同2.7%)の、それぞれ増加)となり(図26参照)、2023年の前年比日量37~47万バレル程度の増加(IEAが同37万バレル(前年比11.8%)、EIAが同47万バレル(同12.4%)、OPECが同46万バレル(同12.3%)の、それぞれ増加)から伸びが鈍化する他、機関によって2024年の同国石油供給増加に対する見方がやや分かれている。この中で特にIEAは他の2者に比べ2024年の同国石油供給の前年比での増加見通しが著しく保守的であるが、IEAは資機材の改修を含む一部油田の予定外の操業停止等が影響している旨示唆している。しかしながら、2024年末にかけ資機材の稼働等に支障が発生していた油田の操業が再開するとともに、2025年にかけ新規生産施設が操業を開始することにより、同国の原油生産は増加する方向に向かうとIEAやOPECは見ている。2024年はブジオス(Buzios)、メロ(Mero)、トゥピ(Tupi)及びイタプ(Itapu)各油田で生産が拡大する他、アトランタ(Atlanta)、メロ3(Mero 3)、ワフー(Wahoo)、マリア・キテリアFPSO(Maria Quiteria FPSO)(ジュバルチ(Jubarte)油田)の各油田及び施設から新規原油生産が開始されるものとOPECは認識しているものの、技術面での問題発生や労働者ストライキの実施等により生産開始が遅延する可能性がある旨併せて指摘しており、実際マリア・キテリアFPSOからの原油生産開始は2025年第1四半期になる予定である旨ペトロブラスは2024年5月8日に明らかにしている。他方、2025年のブラジルの石油供給は、前年比で日量17~28万バレル程度の増加(IEAが同28万バレル(前年比8.1%)、EIAが同17万バレル(同3.8%)、OPECが同18万バレル(同4.1%)の、それぞれ増加)となるなど、同国の石油供給はそれなりには伸びるものと見られるものの、やはり2023年に比べると増加幅は縮小気味である。なお、2025年はブイゾス(Buzios)、メロ(Mero)、トゥピ(Tupi)、マリム(Marlim)及びアトランタ(Atlanta)の各油田で原油生産が拡大する他、バカリャウ(Bacalhau)、パルケ・ダス・バレイアス(Parque das Baleias)及びラパ(Lapa)の各油田が生産を開始するものの、費用の高騰等により、生産開始が遅延する結果、同国の石油供給の伸びが現在の見込みよりも鈍化するリスクを抱えている旨OPECは示唆している。

図26 各機関のブラジル石油供給増加見通し(前年比)

ガイアナではリザ(Liza)油田第3段階(パヤラ: Payara)プロジェクト(操業者:エクソンモービル、原油生産目標日量22万バレル)が2023年12月に生産を開始したこともあり、2024年の同国の石油供給はIEA及びEIAともに前年比で日量21万バレル(IEA同54.9%、EIA同53.5%)増加する(図27参照)など、2023年(IEA日量11万バレル(同41.3%)、EIA同10万バレル(同35.2%)の、それぞれ増加)から、増加幅が拡大する。ただ、リザ油田第4段階(イエローテイル: Yellowtail)プロジェクト(操業者:エクソンモービル、原油生産目標日量25万バレル)の生産開始は2025年7月になるものとIEAは見込んでおり、この結果2025年の同国の石油供給はIEAが前年比で日量10万バレル(同17.1%)の増加と2024年から増加幅が半減するものと見られている(なお、EIAも2025年の同国の石油供給が前年比日量17万バレル(同28.9%)の増加と2024年に比べ増加幅が縮小しているものと見ているようである)。

図27 各機関のガイアナ石油供給増加見通し(前年比)

そして、世界石油需要から非OPEC産油国石油供給とOPEC産油国のNGL供給等を差し引いた、いわゆる対OPEC産油国原油需要等(「Call on OPEC」、但しこれには在庫変動も含まれる)は、2024年については、IEAが日量2,716万バレル、EIAが同2,728万バレルになると予想しており、これは2023年(IEAが同2,724万バレル、EIAが同2,704万バレル)に比べるとIEAは若干ながら減少、EIAは若干ながら増加となっている(IEAが前年比で日量8万バレルの減少、EIAが同24万バレルの増加)(図28参照)。2024年の世界石油需要の前年比での増加量がIEA及びEIAともにほぼ同水準であるのに対し、非OPEC石油供給量の前年比での増加量については、IEAの伸びがEIAに比べ日量30万バレル弱大きくなっていることが、対OPEC産油国原油需要量の前年比での伸びの違いを形成する一因となっているものと考えられる。そして、2024年9月5日にOPECプラス産油国が発表した通り、2024年1月から実施されている一部OPECプラス産油国による自主的な減産措置の緩和が2024年12月に開始される(完了は2025年11月)と仮定した場合、2024年のOPEC産油国原油生産量は、IEAで日量2,720万バレル、EIAで同2,657万バレルと、それぞれ推定される(各機関におけるOPEC産油国原油生産量の差は主にUAEやリビア等の原油生産推定の違い(EIAは2024年9月のリビア原油生産減少を織り込んでいる一方、IEAは織り込んでいない格好となっている)等に伴うものである)ことから、IEAを基準にすれば2024年は日量4万バレルの供給過剰(世界石油需給バランスは事実上ほぼ均衡)、EIAを基準とすれば同71万バレルの供給不足(在庫引き出し)となるなど、2024年の世界石油需給バランスに関する見方は各機関によって分かれている。また、2025年の対OPEC原油需要等はIEAが日量2,623万バレル、EIAが同2,712万バレルと推定され、2024年に比べるとEIAが日量16万バレルと若干の減少になる反面、IEAは日量93万バレルと相当程度の減少となっている。これは、IEAがEIAに比べ2025年の世界石油需要の前年比での増加を低く見積もっている一方、IEAが米国やブラジル等の非OPEC産油国石油供給の伸びをEIAよりも高く見込んでいることが主要因であるものと推定される。そして、2025年のOPEC産油国原油生産量は、IEAで日量2,854万バレル、EIAで同2,719万バレルと、それぞれ推定されることから、IEAを基準にすれば2023年は日量231万バレル、EIAを基準とすれば同7万バレルの、それぞれ供給過剰(在庫積み上げ)となるなど、2025年の世界石油需給バランスは相対的に緩和する方向に向かうことが示唆される。また、前述の通りIEA及びEIAは、2024年12月から2025年11月にかけ一部OPECプラス産油国の自主的な減産措置が緩和されることに伴う増産の、ロシア、カザフスタン及びオマーンと言ったOPECプラスに参加する非OPEC産油国の石油供給への織り込み展望が保守的であるように見受けられることから、一部OPECプラス産油国による減産緩和とともに、非OPEC産油国の原油生産が現時点の見通しよりも上振れする結果、特に2025年において世界石油需給バランスの緩和感がさらに強まる可能性があることに注意する必要があろう。

図28 各機関の対OPEC産油国原油需要等見通し

また、世界石油需要から非OPECプラス産油国石油供給とOPECプラス産油国のNGL供給等を差し引いた、いわゆる対OPECプラス産油国原油需要等(在庫変動も含まれる)は、2024年については、IEAが日量4,156万バレル、EIAが同4,147万バレル、OPECは同4,285万バレルになる旨示唆されており(図29参照)、これは2023年(IEAが日量4,220万バレル、EIAが同4,198万バレル、OPECが同4,214バレル)に比べるとIEA及びEIAはそれなりの規模で減少しているのに対し、OPECはそれなりの規模で増加している(IEAが日量63万バレル、EIAが同52万バレルの、それぞれ減少、OPECは日量71万バレルの増加)。これは2024年の世界石油需要見通しがIEA及びEIAとOPECとの間で相当程度乖離していることに主に起因するものである。そして、2024年9月5日にOPECプラス産油国が発表した通り、2024年1月から実施されている一部OPECプラス産油国の自主的な減産措置の緩和が2024年12月に開始される(完了は2025年11月)と仮定した場合、2024年のOPECプラス産油国原油生産量は、IEAで日量4,161万バレル、EIAで同4,079万バレル、OPECで同4,090万バレルと、それぞれ推定されることから、IEAを基準にすれば2024年は日量5万バレルの供給過剰(世界石油需給バランスは事実上ほぼ均衡)となるのに対し、EIAを基準とすれば同68万バレル、OPECを基準とすれば同195万バレルの、それぞれ供給不足(在庫取り崩し)となるなど、2024年の世界石油需給バランスが概ね均衡と判断する機関と引き締まると判断する機関とに分かれている。また、2025年の対OPECプラス原油需要等はIEAが日量4,094万バレル、EIAが同4,146万バレル、OPECが同4,343万バレルと推定され、2024年に比べるとIEAが日量63万バレル減少、EIAはほぼ横這い、OPECは同58万バレルの増加と、それぞれ見込んでいるなど、こちらも2024年同様機関によって判断が分かれる格好となっている。これは、IEAがEIAやOPECに比べ2025年の世界石油需要の増加を低く見積もる一方、EIAはOPECに比べ、2025年はカナダを含む非OPECプラス産油国石油供給が伸びるものと見込んでいることが背景にある。そして、2025年のOPECプラス産油国原油生産量は、IEAで日量4,325万バレル、EIAで同4,153万バレル、OPECで同4,220万バレルと、それぞれ推定されることから、IEAを基準にすれば2025年は日量231万バレルの供給過剰(在庫積み上げ)、EIAを基準とすれば同7万バレルの供給過剰(世界石油需給バランスは事実上概ね均衡)となるものと見込まれる一方、OPECを基準とすれば同123万バレルの供給不足(在庫取り崩し)となるものと推定される。また、前述の通りIEA及びEIAは、2024年12月から2025年11月にかけての自主的な減産措置の緩和に伴う増産の、ロシア、カザフスタン及びオマーンと言ったOPECプラスに参加する非OPEC産油国の石油供給への織り込み展望が保守的であるように見受けられることから、一部OPECプラス産油国による減産緩和が実施された場合、非OPEC産油国石油供給が現時点の見通しよりも上振れする結果、特に2025年においては世界石油需給バランスの緩和感がさらに強まる可能性があることに注意する必要がある。また、現時点及び今後の米国及び中国経済状況等を反映した2025年に向けての世界石油需要、そして非OPECプラス産油国及びOPECプラス産油国の石油生産の状況によって、IEA、EIA及びOPECのいずれかの世界石油需給バランスに対する見方が変化していく可能性があるため、そのような状況につきこの先も注視していく必要があろう。

図29 各機関の対OPECプラス産油国原油需要等見通し

なお、2024年8月時点のOPECプラス産油国原油生産能力は、IEAによれば日量4,820万バレルであると推定されているため、このOPECプラス原油生産能力が2025年末まで継続するという前提の下、OPECプラス産油国が対OPECプラス産油国原油需要を満たす程度に原油を生産すると仮定した場合、2025年におけるOPECプラス産油国余剰原油生産能力は日量477~726万バレル程度(IEAで同726万バレル程度、EIAで同674万バレル、OPECで同477万バレル程度)となるなど、2024年8月時点のOPECプラス産油国余剰原油生産能力である日量570万バレル程度から多少は変動するものの、2024年8月時点のイランの石油生産量(日量473万バレル(原油のみであれば同342万バレル))を多少なりとも上回る程度の水準は確保出来そうであるものと考えられる。

 

以上

(この報告は2024年10月15日時点のものです)

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