ページ番号1010259 更新日 令和6年12月6日

原油市場他:不安定な中東情勢や米国メキシコ湾沖合へのハリケーン来襲等が上方圧力を加えるも、中国経済減速懸念等により下落傾向となる原油価格

レポート属性
レポートID 1010259
作成日 2024-11-18 00:00:00 +0900
更新日 2024-12-06 09:52:03 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2024
Vol
No
ページ数 41
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
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地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2024/11/18 野神 隆之
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概要

  1. 米国では秋場のメンテナンス作業実施等に伴い製油所の原油精製処理量が減少したことにより、原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。反面、石油製品製造活動が不活発化したこともあり、ガソリン及び留出油両在庫は減少傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上方付近に、留出油在庫は平年幅下限を割り込む、それぞれ量となっている。
  2. 2024年10月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州や日本においては秋場のメンテナンス作業が終了しつつあることに伴い製油所での原油精製処理活動が回復し始めたこともあり在庫は減少したものの、米国で増加したことにより相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本においては、製油所における石油製品製造活動が活発化したこともあり、灯油を初めとして幅広く石油製品の在庫が増加した。しかしながら、米国ではガソリン、留出油を中心として石油製品在庫が減少した他、欧州においても、気温の低下に伴い暖房向け石油製品等の需要が増加しつつあるものと見られることにより、中間留分を中心として石油製品在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少した他、平年並みの量となっている。
  3. 2024年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場においては、対イラン報復攻撃が同国の石油関連施設を回避して行なわれる旨イスラエルが示唆したと10月14日に伝えられた他、10月26日には実際にイスラエルの攻撃がイランの石油関連施設を回避して実施されたうえ、中国政府による景気刺激策が具体性を欠いたこともあり市場の失望を誘った他、同国経済関連指標類が、同国経済が減速しつつあることを示していたこと等が原油相場に下方圧力を加えたことから、一部OPECプラス産油国が実施している自主的な減産措置の12月からの緩和開始を1ヶ月延期する旨11月3日にOPECが発表したこと、イランがイスラエルに対し再報復措置を実施する意向である旨11月2日にイラン最高指導者ハメネイ師が発言したこと等が原油相場に上方圧力を加えたものの、10月11日には1バレル当たり75.56ドルの終値であった原油価格は下落傾向となり、11月15日には67.02ドルの終値と、9月10日以来の低水準に到達した。
  4. 米国で冬場の暖房シーズンに突入したことにより、暖房用石油製品製造のために製油所での原油精製処理量が増加するとともに製油所による原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されるとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、イスラエルとイランとの対立先鋭化を含めた中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が高まりやすく、この面でも原油相場が上振れする場面が見られることもありうる。他方、中国経済減速と石油需要の伸びの鈍化展望が市場で発生しやすく、この面では、原油相場のさらなる上昇が抑制されやすいものと考えられる。また、12月1日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合における決定内容が、原油相場に影響を及ぼすことも想定される。そのような中で、米国における次期大統領に当選したトランプ前大統領による、政権移行に向けた動き及び同氏もしくは関係者の発言等によって、原油相場が変動する可能性がある。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2024年8月の米国ガソリン需要(確定値)は日量926万バレル、前年同月比で0.2%程度の増加となり(図1参照)、7月の当該需要である同930万バレルから需要量が若干ながら減少したうえ、同月の前年同月比3.5%程度の増加から増加率が縮小した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比1.8%程度減少の日量907万バレル)からは上方修正されている。7月は独立記念日(インディペンデンス・デー(7月4日))に伴う休暇期間があったことにより個人の外出が促されたことに加え、ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.600ドル前後で安定していたこともあり、自動車への給油活動も比較的活発であったものと見られることから、製油所等からのガソリンの出荷も堅調であったことが、同月の同国ガソリン需要を下支えした一方、8月は月末に労働者の日(レイバー・デー(9月2日))に伴う連休があったことに伴い、同じく個人の外出が促されたことにより、それを控えて製油所からのガソリン出荷が行われたものの、9月2日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに秋場のガソリン不需要期が視野に入りつつあったことから、8月のガソリン出荷が多少なりとも低減した結果、同月のガソリン需要は7月から若干ながら減少したものと考えられる。ただ、2023年6月の米国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が46.3と2022年12月(この時は46.2)以来の低水準に到達したこともあり、それを受けた同年7月のガソリン出荷が鈍化したものと見られることにより、同月のガソリン需要が抑制された反動で、2024年7月のガソリン需要の前年同月比の伸びが拡大する格好となった反面、2023年7月の米国製造業PMIは49.0と回復傾向となったことを受け同年8月のガソリン需要が盛り返す格好となったこともあり、その分だけ2024年8月の米国ガソリン需要の前年比での伸びが圧縮される形になったものと考えられる。なお、2024年8月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年8月の当該需要(日量983万バレル)(確定値)を5.9%程度下回っている。他方、2024年10月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量894万バレル、前年同月比1.8%の減少と、9月の当該需要(速報値)である日量888万バレルから需要量が増加した一方、同月の前年同月比0.5%程度の増加から減少に転じた。10月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.261ドルと9月の同3.338ドルから下落したことにより、ガソリン小売価格の値頃感から自動車への給油が促進された一方、前年同月比では9月の全米平均ガソリン小売価格は前年同月比で15.7%の下落であったのに対し10月は同12.9%の下落にとどまったこともあり、10月の米国ガソリン需要の前年同月比での伸びが抑制される形になったものと考えられる。なお、2024年10月の米国ガソリン需要は2019年10月の当該需要(日量931万バレル)(確定値)を3.7%程度下回っている。また、米国では9月2日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに秋場の不需要期が到来したこともあり、ガソリン価格が下落するとともに製油所におけるガソリン製造利幅が縮小したことにより製油所の稼働が低下したり、秋場のメンテナンス作業実施に伴い製油所の操業が停止したりしたことから、同国の原油精製処理量が減少した(図2参照)ことにより、ガソリンを含む石油製品製造活動も不活発化した(ガソリン最終製品生産量は図3参照)。このようなこともあり、10月上旬から11月上旬にかけ米国ガソリン在庫は総じて減少傾向を示した結果、11月8日時点の当該在庫は2.07億バレルと2022年11月4日(この日時点の在庫水準は2.06億バレル)以来の低水準に到達した他、平年幅上方付近に位置する量となっている((図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2015~24年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~24年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~24年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~24年)

2024年8月の米国留出油需要(確定値)は日量388万バレル、前年同月比4.4%程度の減少となり(図5参照)、7月の同369万バレル(前年同月比3.1%程度の増加)から需要量が増加した反面、前年同月比では増加から減少に転じた。また、当該需要は速報値(前年同月比8.3%程度増加の日量372万バレル)から上方修正されている。8月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量154万バレル程度と推定されたところ確定値では同133万バレルへと下方修正されたことにより、同国留出油需要が速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正された部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正の一因となったものと考えられる。7月の米国鉱工業生産が前年同月比で0.5%の減少となっていたこともあり同月の物流活動も前年同月比では横這いとなっていたにもかかわらず、米国留出油需要が前年同月比で相当程度の増加となった反動から、8月の当該需要の前年同月比で減少したものと考えられる。なお、2024年8月の米国留出油需要は2019年8月の当該需要(日量403万バレル)(確定値)を3.8%程度下回っている。他方、2024年10月の米国留出油需要(速報値)は推定日量392万バレル、前年同月比で3.5%程度の減少となり、9月の日量380万バレル(前年同月比で1.4%程度の減少)(速報値)と比べ、需要量は増加したものの前年同月比では減少率が拡大した。10月は9月に比べ米国北東部において気温が低下したことから、暖房向けの留出油需要が喚起されたことが、10月の当該需要が前月から増加した背景にあるものと考えられる。また、9月17~18日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において0.5%の政策金利引き下げが決定されたものの、2023年7月25~26日に開催されたFOMC以降政策金利が5.50%で維持されたこともあり、事業者等に対する金利負担が拡大したこともあり、製造業や物流を含め軽油への支出が抑制され続けたことに加え、10月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり3.585ドルと前年同月(同4.507ドル)比で20.5%程度の下落となったものの、9月の当該価格(同3.558ドル)とほぼ同水準となった反面9月の前年同月(同4.563ドル)比の下落率である22.0%からは下落率が縮小したこともあり、10月の留出油需要の前年同月比での減少率が9月から拡大したものと考えられる。なお、2024年10月の米国留出油需要は2019年10月の当該需要(日量404万バレル)(確定値)を2.9%程度下回っている。そして、秋場の石油不需要期突入に伴い米国の製油所の稼働が低下傾向となった結果、留出油製造活動も不活発化した(図6参照)こともあり、10月上旬から11月上旬にかけては米国の留出油在庫は総じて減少傾向となった他、平年幅下限を割り込む水準となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2015~24年)

図6 米国の留出油生産量(2009~24年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~24年)

2024年8月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比0.3%程度減少の日量2,071万バレルとなり(図8参照)、7月の同2,048万バレルから需要量が増加した一方、同月の前年同月比2.2%程度の増加から減少に転じた。留出油需要が前月比で増加した反面、前年同月比では7月の増加から減少に転じたうえ、8月のガソリン需要の前年同月比の増加率が7月から縮小したことが、同国石油需要の前月比での増加と前年同月比での減少の主要因となっている。また、ガソリンや留出油の両需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたこともあり、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比0.5%程度減少の日量2,066万バレル)から上方修正されている。なお、2024年8月の米国石油需要は2019年8月の当該需要(日量2,116万バレル)(確定値)を2.1%程度下回っている。他方、2024年10月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,064万バレル、前年同月比で0.0%の増加となっており、9月の同国石油需要(速報値)である日量2,029万バレル(前年同月比0.7%程度の増加)から、需要量が増加した反面、前年同月比での増加率は縮小した。ガソリン、留出油及びその他の石油製品等の需要が前月から増加していることが、同国石油需要の前月比での増加に反映されている一方、ガソリン及び留出油の両需要が前年同月比で減少となったことが、10月の米国石油需要の前年同月比での増加率縮小に寄与しているものと考えられる。また、10月のその他の石油製品の需要は推定日量482万バレルと2023年9月~2024年8月の当該需要(確定値)である同412~478万バレルと比較しても高い部類に入ることから、今後速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正される結果、同国の石油需要(確定値)に影響が及ぶこともありうる。なお、2024年10月の米国石油需要は2019年10月の当該需要(日量2,071万バレル)(確定値)を0.4%程度下回っている。また、10月4日の週には日量1,340万バレルであった米国原油生産(速報値)は10月11日の週以降同1,350万バレルへと上振れした(なお、11月上旬を中心とした時期におけるハリケーン「ラファエル(Rafael)の米国メキシコ湾来襲に伴う一部石油生産関連施設の操業停止により11月8日の週には当該生産は同1,340万バレルへと減少した」一方、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことに伴いガソリン精製利幅が縮小したり、秋場のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあったりしたこともあり、米国の製油所の稼働が概して低水準で推移した結果、原油精製処理が進まなくなったことから、10月上旬から11月上旬にかけ米国原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する一方、ガソリン在庫が平年幅上方付近に位置する、そして留出油在庫が平年幅下限を割り込む、それぞれ量となったが、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2015~24年)

図9 米国原油在庫推移(2003~24年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~24年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~24年)

2024年10月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州や日本においては秋場のメンテナンス作業が終了しつつあることに伴い製油所での原油精製処理活動が回復し始めたこともあり在庫は減少したものの、米国においては増加したことにより相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、日本においては、製油所における石油製品製造活動が活発化したこともあり、灯油を初めとして幅広く石油製品の在庫が増加した。しかしながら、米国ではガソリン、留出油及びその他の石油製品(冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあることに伴うものと見られる)を中心として石油製品在庫が減少した他、欧州においても、気温の低下に伴い暖房向け石油製品等の需要が増加しつつあるものと見られることにより、中間留分を中心として石油製品在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少した他、平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から減少した他平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2024年10月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.1日と9月末の推定在庫日数(60.8日)から減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~24年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~24年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~24年)

10月9日に1,400万バレル台前半程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、10月16日には1,200万バレル台後半、10月23日には1,200万バレル強程度、10月30日には1,100万バレル台後半程度の量へと、それぞれ減少した。ただ、11月6日には1,400万バレル弱、そして11月13日には1,400万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと回復した結果、10月9日の在庫量にほぼ等しい状態となった。北半球各国及び地域において、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了とともにガソリン需給が緩和したことに伴い当該製品価格に下方圧力が加わったことにより、ガソリン製造利幅が縮小したことや、秋場のメンテナンス作業が実施されたこと等により、アジア各国及び地域の製油所において稼働が低下したことに伴い、ガソリン製造活動が不活発化したこともあり、国外等へのガソリン等の輸出が抑制されるとともに、国外等からのガソリン調達が行われたものと見られることに加え、中国の国慶節(建国記念日)に伴う休暇期間(10月1~7日)における個人の外出活発化によるガソリン需要の盛り上がりに加え、同国において第3回の石油製品(ガソリン、軽油及びジェット燃料)輸出枠800万トン(別途低硫黄重油100万トン)が付与された(9月20日に報じられる)ものの、販売収益が良好なジェット燃料の輸出が優先された反面、ガソリン輸出が劣後したことに伴い、同国からのガソリン輸出が低調となった結果、シンガポールへのガソリン流入が抑制される格好となったこと等が、同国における軽質留分在庫を押し下げる方向で作用したものと見られる。しかしながら、11月に入り、軽油需要増加観測に伴い同製品製造利幅が拡大した(後述)ことに加え、メンテナンス作業実施が峠を越え始めたこともあり、製油所の稼働が上昇し始め、結果としてガソリン等の供給が拡大したことが、同時期シンガポールにおける軽質留分在庫を押し上げる格好となったものと考えられる。そして、シンガポールの軽質留分在庫が減少傾向となった10月中旬から11月上旬半ば頃にかけては、アジア市場におけるガソリン価格に上方圧力が加わった結果、同時期ガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する場面が見られた。しかしながら、11月に入って以降は製油所の稼働が上昇するとともにガソリン等の供給が拡大するとの観測が強まったりしたことがガソリン価格に下方圧力を加えた結果、11月上旬後半頃から中旬にかけてのアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差はむしろ縮小気味に推移した。

また、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことに伴い、ガソリンに混入するナフサの需要も併せて減少したことが、ナフサ価格に下方圧力を加えた。しかしながら、アジア諸国及び地域等において製油所のメンテナンス作業実施やガソリン精製利幅の縮小に伴う稼働低下等により、ナフサ製造も併せて減少した一方、アジア地域の一部のナフサ分解装置はメンテナンス作業を完了し稼働を再開しつつあったことに伴い石油化学製品製造向けのナフサ需要増加観測が市場で発生した。また、秋場に収穫した穀物の乾燥や秋場以降の北半球の気温低下に伴う暖房等向けの液化石油ガス(LPG)の季節的な需要増加観測が市場で強まりつつあることが、LPG価格に上方圧力を加えた結果、例えばサウジアラビアが輸出するLPGの契約価格(CP: Contract Price)が上昇基調となったこともあり、石油化学製品製造の際の原料となるナフサと競合するLPGの価格競争力が低下するとともにLPGの石油化学製品製造のための原料としての需要が減少する反面、LPGに比べ相対的に割安であるナフサの需要が増加するとの観測が市場で発生した。そして、これらの要因により、アジア市場におけるナフサ需給の相対的な引き締まり感を市場が意識するようになったことが、ナフサ価格に上方圧力を加えた。結果として、10月中旬から11月上旬にかけてのナフサとドバイ原油との価格差は比較的限られた範囲内で変動しつつ、9月半ば頃まではほぼ恒常的にドバイ原油価格を下回っていたナフサ価格は概ねドバイ原油価格を上回る状態で推移した。しかしながら、アジア諸国及び地域等における製油所のメンテナンス作業が峠を越えつつあることに加え、軽油需要増加観測に伴い同製品製造利幅が拡大した(後述)こともあり、製油所の稼働が上昇するとともに、ナフサ供給が拡大するとの見方が市場で増大し始めた一方、中国における経済減速等に伴う石油化学製品及びその原料となるナフサの需要の低迷観測が市場で発生したことから、11月中旬以降はアジア市場におけるナフサ価格はドバイ原油価格を再び下回るようになっている。

10月9日には1,000万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分の在庫は、10月16日には900万バレル台前半程度、10月23日には900万バレル弱程度の、それぞれ量へと減少した。しかしながら、10月30日には900万バレル台前半程度、11月6日には900万バレル台半ば程度、そして11月13日には900万バレル台後半程度の、それぞれ水準へと回復した。それでも11月13日の量は10月9日のそれを下回る状態となっている。秋場のガソリン不需要期に突入したこともありアジア各国及び地域の製油所がメンテナンス作業の実施等に伴い稼働を低下させたことに等により、シンガポールへの中間留分の流入が抑制される格好となった一方、インドネシアでの軽油輸入の動きが継続しているものと見られる(9月下旬に同国のバリクパパン(Balikpapan)製油所(操業者:プルタミナ、原油精製処理能力日量36万バレル)において不具合が発生したことが影響している可能性があると見る向きもある)こと等、東南アジア諸国を中心として国外から中間留分を調達する動きが発生したと言われており、シンガポールからの当該製品流出が促される格好となった。このような要因が、シンガポールにおける中間留分在庫を押し下げる形で作用した。そして、シンガポールにおける中間留分在庫の減少傾向に伴いアジア市場における軽油需給の引き締まり感が発生したことに加え、欧州においても気温が低下しつつあることにより、冬場の暖房シーズンに伴う暖房油(同地域では暖房向けに軽油が主に利用される)需要増加観測が市場で発生していることが、欧州における軽油価格に上方圧力を加えるとともに、その影響をアジアの軽油市場が受けたことから、10月中旬から11月中旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向を示した。ただ、アジア等の製油所における秋場のメンテナンス作業が峠を越え始めた他、軽油とドバイ原油の価格差が拡大した結果軽油製造の経済性が改善したこともあり、製油所の稼働が上昇するとともに軽油等の製造が活発化したことが、アジア市場における軽油とドバイ原油との価格差のさらなる拡大を抑制する格好となっている。

10月9日には1,700万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、10月16日には1,800万バレル弱程度、10月23日には2,000万バレル台前半程度の量へと増加した。しかしながら、10月30日には1,500万バレル台前半程度の水準へと低下した。それでも、11月6日には1,800万バレル強程度、11月13日には1,800万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと回復した。その結果、11月13日の在庫は10月9日の量を上回る状態となっている。世界各国及び地域において秋場のメンテナンス作業を含め製油所の稼働が低下することに伴い原油精製処理活動が不活発化した結果、重油製造が抑制されるとともに、アジア方面への重油輸出に影響を及ぼしたことが、シンガポールにおける重油在庫を減少させる形で作用したものの、中東において気温が低下傾向となるとともに、空調装置稼働向けの電力供給のための発電部門における重油需要が減少してきたこともあり、余剰となった重油がアジア方面に輸出されるようになったことや、ガソリン等に比べ製造を巡る利幅が確保さやすかったこともあり、韓国や中国の石油会社が低硫黄重油を製造し供給を拡大したものとされる(またナイジェリアからもアジア向けに低硫黄重油が輸出されたと示唆する向きもある)ことが、シンガポールにおける重油在庫を押し上げる格好となったものと考えられる。結果として、シンガポールの重油在庫は増減しながらもどちらかというと増加傾向を示した。そして、低硫黄重油及び高硫黄重油ともに船舶向けの需要が堅調となる場面が見られた(足元中国の船舶向け重油需要は軟調である旨10月下旬に伝えられたものの、米国におけるトランプ前大統領の次期大統領返り咲きに伴う米国外製品への関税賦課実施前の米国への駆け込み輸出の拡大を見据え、船舶向け重油を調達する動きが活発化するとの見方が市場で発生していることが影響している可能性がある)ことに加え、一部OPECプラス産油国による自主的な原油減産措置の緩和を従来予定されていた2024年12月から1ヶ月延期する旨11月3日にOPECが発表したこともあり、OPEC産油国による減産の中心とみられる重質高硫黄原油、そして重質高硫黄原油から製造されやすい重油の需給緩和感が後退したことが、アジア市場における低硫黄重油及び高硫黄重油両価格に上方圧力を加える格好となったことから、10月中旬から11月上旬にかけての同市場において低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向に、高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小傾向に、それぞれなった。ただ、原油価格の上昇に重油価格の上昇が追い付かなかったことから、低硫黄重油とドバイ原油との価格差が縮小、及び高硫黄重油とドバイ原油の価格差が拡大する場面も見られた。さらに11月中旬においては、アジア市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差の縮小傾向は継続したものの、供給拡大観測が発生したこと(前述)が低硫黄重油の価格を抑制した結果、低硫黄重油とドバイ原油との価格差は若干ではあるが縮小している。

 

2. 2024年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場等の状況

2024年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場においては、対イラン報復攻撃が同国の石油関連施設を回避して行なわれる旨イスラエルが示唆したと10月14日に伝えられた他、10月26日には実際にイスラエルの攻撃がイランの石油関連施設を回避して実施されたうえ、中国政府による景気刺激策が具体性を欠いたこともあり市場の失望を誘った他、同国経済関連指標類が、同国経済が減速しつつあることを示していたこと等が原油相場に下方圧力を加えたことから、一部OPECプラス産油国が実施している自主的な減産措置の12月からの緩和開始を1ヶ月延期する旨11月3日にOPECが発表したこと、イランがイスラエルに対し再報復措置を実施する意向である旨11月2日にイラン最高指導者ハメネイ師が発言したこと、11月上旬を中心とする時期にハリケーン「ラファエル」が米国メキシコ湾に来襲したこと伴い同地域における石油供給途絶懸念が発生したこと等が原油相場に上方圧力を加えたものの、10月11日には1バレル当たり75.56ドルの終値であった原油価格は下落傾向となり、11月15日には67.02ドルの終値と、9月10日以来の低水準に到達した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~24年)

中国政府が特別債を大量に発行して銀行への資本基盤整備や不動産購入に充当すること等により、同国経済回復を支援する旨10月12日に開催された記者会見において中国の藍仏安財政相他が表明したものの、特別債の具体的な発行規模につき明らかにされなかったことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で後退したことに加え、10月13日に中国国家統計局から発表された9月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比0.4%上昇と8月の同0.6%上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同0.6%上昇)を下回ったうえ、同月の生産者物価指数(CPI)が同2.8%下落と8月の同1.8%下落から下落率が拡大、2022年10月以降24ヶ月連続前年同月比で下落となった他、市場の事前予想(同2.5~2.6%下落)を上回って下落していた旨判明したこと、10月14日に中国税関総署から発表された9月の同国輸出(米ドル建)が前年同月比2.4%の増加と2024年4月(この時は同1.2%の増加)以来の低水準となった他市場の事前予想(同6.0%増加)を下回ったうえ、同月の同国輸入(同)が同0.3%の増加と市場の事前予想(同0.8~0.9%増加)を下回ったこと、10月14日に中国税関総署から発表された9月の同国原油輸入が4,549万トン(推定日量1,110万バレル)と8月の4,910万バレル(同1,159万バレル)及び前年同月の4,574万トン(同1,116万バレル)を下回ったこと、10月14日にOPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートでOPECが2024年及び2025年の世界石油需要をそれぞれ日量11万バレル及び同21万バレル下方修正したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.73ドル下落し、終値は73.83ドルとなった。また、イランへの報復攻撃対象として同国の軍事施設を対象とする反面、核及び石油関連施設は攻撃対象としない方針である旨米国に伝えた他、全面戦争を回避し、より限定的な攻撃を実施する意向であるとイスラエルが示唆した旨米国政府関係者が明らかにしたと10月14日夕方(米国東部時間)にワシントン・ポストが報じたことにより、イスラエルによるイラン石油関連施設攻撃に伴う中東地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことに加え、10月15日にIEAから発表されたオイル・マーケット・レポートでIEAが2024年及び2025年の世界石油需要をそれぞれ日量15万バレル及び同10万バレル下方修正したことから、10月15日の原油価格の終値は1バレル当たり70.58ドルと前日終値比で3.25ドル下落した。さらに、10月17日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月11日の週分)において、原油在庫が増加している旨判明するとの観測が10月16日の市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.19ドル下落し、終値は70.39ドルとなった。この結果原油価格は10月14~16日の3日間合計で1バレル当たり5.17ドル下落した(10月11日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり0.29ドル下落したため、原油価格は4取引日合計で5.46ドルの下落となった)。ただ、10月17日には、この日EIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が前週比219万バレル、ガソリン在庫同220万バレル、留出油在庫同354万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(原油在庫同150~180万バレル程度の増加、ガソリン在庫同150~200万バレル程度、留出油在庫同220~250万バレル程度の、それぞれ減少)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.67ドルと前日終値比で0.28ドル上昇した。それでも、10月18日に中国国家統計局から発表された2024年7~9月期の中国国内総生産(GDP)が前年同期比4.6%の増加と市場の事前予想(同4.5%の増加)は上回ったものの、同年4~6月期(この時は同4.7%の増加)から伸びが鈍化、2023年1~3月期(この時は同4.5%の増加)以来の低水準であった旨判明したうえ、2024年9月の同国原油精製処理量が5,873万トン(推定日量1,433万バレル)と前年同月の6,362万トン(同1,552万バレル)を下回ったことにより、石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.45ドル下落し、終値は69.22ドルとなった。

ただ、10月21日には、これまでの価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、10月19日にイスラエル中部カイサリアにあるネタニヤフ首相の私邸を標的としたものと見られる無人機攻撃が発生した(ネタニヤフ首相は不在であった)ことにより、ネタニヤフ首相がイラン報復措置の検討を急ぐ姿勢を示した旨10月20日に報じられた一方、10月20日夜(現地時間)にイスラエル軍がレバノン南部等を攻撃した他、同国軍がパレスチナ自治区ガザ地区北部の病院及び避難所を包囲した旨10月21日に報じられるなど、イスラエル軍による攻撃が激化しつつある旨示唆されたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.56ドルと前週末終値比で1.34ドル上昇した。また、10月22日も、11月渡し米国原油先物契約取引終了を控えた持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.53ドル上昇し、終値は72.09ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2024年11月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、12月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり71.74ドル(前日終値比同1.70ドルの上昇)であった)。この結果原油価格は10月21~22日の2日間合計で1バレル当たり2.87ドル上昇した。ただ、10月23日は、この日EIAから発表された米国石油統計(10月18日の週分)で、原油在庫が前週比547万バレル及びガソリン在庫同88万バレルの、それぞれ増加、留出油在庫同114万バレルの減少と市場の事前予想(原油在庫同27~100万バレル程度の増加、ガソリン在庫同120~190万バレル程度及び留出油在庫同170~201万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って、または事前予想に反し増加している、もしくは事前予想ほど減少していない旨、判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.32ドル下落し、終値は70.77ドルとなった。また、10月24日も、パレスチナ自治区ガザ地区の停戦とハマスが拘束するイスラエル人等の人質解放等に関する交渉再開を試みるべく、近いうちに米国とイスラエルがカタールの首都ドーハで協議する場を持つ意向である旨10月24日に米国のブリンケン国務長官が表明した他、イスラエル対外特務機関(モサド)のバルネア長官も同協議のため10月27日にドーハを訪問する旨イスラエルのネタニヤフ首相が決定したと同国首相府が10月24日に発表した(別途カタールやエジプトが過去数日間ハマスと接触中である旨10月24日に報じられた)ことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、10月24日の原油価格の終値は1バレル当たり70.19ドルと前日終値比で0.58ドル下落した。この結果原油価格は10月23~24日の2日間合計で1バレル当たり1.90ドルの下落となった。ただ、10月25日には、この日米国商務省から発表された9月の同国コア耐久財(航空機除く)受注が前月比0.5%の増加と8月の同0.3%の増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同0.1%の増加)を上回ったうえ、同日米国ミシガン大学から発表された10月の同国消費者信頼感指数(1966年第1四半期=100)(確報値)が70.5と2024年4月(この時は77.2)以来の高水準となった他市場の事前予想(69.0)を上回ったことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.78ドルと前日終値比で1.59ドル上昇した。

しかしながら、10月26日未明(午前2時(現地時間)から数時間とされる)においてイスラエルがイランの首都テヘラン等の軍事施設を標的とした精緻な攻撃を実施した旨報じられた(イスラエルも同日その旨発表した)ものの、イランの石油関連施設等への攻撃は回避されたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことから、10月28日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり4.40ドル下落し、終値は67.38ドルとなった。また、イスラエルのネタニヤフ首相がレバノンにおけるイスラム武装勢力ヒズボラとの戦闘終結に向けた外交的解決の可能性に関する協議を10月29日夜(現地時間)に実施する意向である旨同日イスラエル首相府が明らかにしたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したこともあり、10月29日の原油価格の終値は1バレル当たり67.21ドルと前日終値比で0.17ドル下落した。この結果原油価格は10月28~29日の2日間合計で1バレル当たり4.57ドルの下落となった。ただ、2024年1月から実施中である、一部のOPECプラス産油国8ヶ国による日量約217万バレルの自主的な減産の同年12月からの緩和に関し、低調な石油需要により原油価格が抑制されるなど石油市場が健全な状態であるとは言えないため、少なくとも1ヶ月間は開始を延期することが検討されており、早ければ翌週にも延期の決定がなされる可能性がある旨関係者が明らかにしたと10月30日にロイター通信が報じたことにより、世界石油需給の相対的な引き締まり感を市場が意識したことに加え、10月30日にEIAから発表された米国石油統計(10月25日の週分)で、原油在庫が前週比52万バレル、ガソリン在庫同271万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(原油在庫同181~230万バレル程度、ガソリン在庫同60万バレル程度の、それぞれ増加)に反し減少している旨判明したことにより、同国石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.61ドルと前日終値比で1.40ドル上昇した。また、10月31日も、この日中国国家統計局から発表された10月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.1と9月の49.8から上昇、2024年4月(この時は50.4)以来の50超となった他、市場の事前予想(49.9)を上回ったことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.65ドル上昇し、終値は69.26ドルとなった。さらに、イランがイラクを拠点とする武装勢力を通じイラクからイスラエルに対し弾道ミサイル及び無人機を使用した大規模攻撃を恐らく11月5日の米国大統領選挙投票日前に実施するべく準備を進めている(イスラエルによるイランへの直接的な再報復攻撃を避けるため、イラクからの攻撃とする意向であると伝えられる)旨イスラエル情報筋が明らかにしたと米国報道機関アクシオスが10月31日午後遅く(米国東部時間)に報じたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で再燃したことから、11月1日の原油価格の終値は1バレル当たり69.49ドルと前日終値比で0.23ドル上昇した。

また、10月26日に行なわれたイスラエルによる対イラン攻撃に対し、厳しく対処する方針である旨11月2日にイランの最高指導者ハメネイ師が発言したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、2024年1月より実施中である一部OPECプラス産油国による自主的な減産措置の緩和開始を従来の2024年12月から1ヶ月延期する旨11月3日にOPECが発表したことにより世界石油需給の相対的な引き締まり感を市場が意識したことから、11月4日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.98ドル上昇し、終値は71.47ドルとなった。また、11月5日も、熱帯性暴風雨「ラファエル(Rafael)」がカリブ海を北西方向に進みつつあり、週末頃にかけ米国メキシコ湾沖合中部を縦断するものと予想されることにより、進路に当たる地域周辺の石油生産活動に支障が生じる可能性があることに対する懸念が市場で発生したことに加え、この日実施中である米国次期大統領選挙投票に伴う持ち高調整が発生したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.99ドルと前日終値比で0.52ドル上昇した。この結果原油価格は10月30日~11月5日の5取引日間合計で1バレル当たり4.78ドルの上昇となった。ただ、11月5日に実施された米国大統領選挙投票後、トランプ前大統領の当選が確実となったことで、同氏が関税引き上げ政策等を実施することに伴い米国内の物価上昇が加速する等により同国金融当局が高水準の政策金利を維持するとの観測が市場で発生したこともあり、米ドルが上昇したことに加え、11月6日にEIAから発表された米国石油統計(11月1日の週分)で、原油在庫が前週比215万バレル、ガソリン在庫同41万バレル、留出油在庫同295万バレルの、それぞれ増加と市場の事前予想(原油在庫同9万バレル程度の減少~110万バレル程度の増加、ガソリン在庫同52~90万バレル程度、留出油在庫同50~110万バレル程度の、それぞれ減少)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したことにより、同国石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.69ドルと前日終値比で0.30ドル下落した。しかしながら、カリブ海から米国メキシコ湾沖合南部に向けハリケーン「ラファエル(Rafael)」が西進しつつあることに伴い、11月7日午前11時30分(米国中部時間)現在同地域の原油生産量日量391,214バレル(同地域の通常の原油生産量日量170万バレルの22.36%)が停止している旨米国安全環境執行局(BSEE: Bureau of Safety and Environmental Enforcement)が同日午後の早い時間に発表したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、11月6日に米ドルが上昇したことに対する利益確定の動きが発生したうえ、11月6~7日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において0.25%の政策金利引き下げが決定した他、11月7日のFOMC終了後に行なわれた米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長による記者会見において、この先の政策金利引き下げ停止を同氏が明確に示さなかったことにより、この先も政策金利引き下げの余地がある旨示唆されたこともあり、米ドルが下落したことから、11月7日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.67ドル上昇し、終値は72.36ドルとなった。それでも、11月8日には、ハリケーン「ラファエル」が今後勢力を弱めつつ進路を南に変更するとともに、メキシコ南東部に上陸するとの予想となりつつある結果、米国メキシコ湾沖合の石油生産や同国メキシコ湾岸の製油所の操業への影響が限定的なものとなるとの観測が発生したことにより同国石油需給引き締まり感が後退したことに加え、11月4~8日における中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会開催後、簿外債務処理のため、今後3年間同国地方政府の特別地方債発行上限を年間2兆元、合計6兆元(8,400億ドル)引き上げることを含め10兆元(1.4兆億ドル)の対策を講ずる方針である他、この先さらなる景気刺激策を発表する予定である旨11月8日夕方(現地時間)に同国の藍仏安財政相が示唆したものの、地方政府の債券発行上限引き上げでは同国の消費は喚起されない他、さらなる景気刺激策について具体的な説明がなされなかったことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.44ドルと前日終値比で1.92ドル下落した。

また、11月9日に中国国家統計局から発表された10月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比0.3%の上昇と9月の同0.4%の上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同0.4%の上昇)を下回ったうえ、10月の同国生産者物価指数(PPI)が前年同月比2.9%の下落と9月の同2.8%下落から下落幅が拡大するとともに25ヶ月連続前年同月比での下落となった他、市場の事前予想(同2.5%の下落)を上回って下落している旨判明したことにより、中国経済減速に伴う同国石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、11月5日に実施された米国大統領選挙でトランプ前大統領が当選したことに伴い、同氏による関税引き上げ政策や景気刺激策等により米国内の物価上昇が加速するとともに同国金融当局が高水準の政策金利を維持するとの観測が市場で発生した流れを引き継いだこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.34ドル下落し、終値は68.04ドルとなった。この結果原油価格は11月8~11日の2取引日合計で1バレル当たり4.32ドル下落した。ただ、11月12日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、11月12日にOPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートにおいてOPECが2024年及び2025年の世界石油需要をそれぞれ日量11万バレル及び同21万バレル下方修正したうえ、11月5日に実施された米国大統領選挙でトランプ前大統領が当選したことに伴い同氏が関税引き上げ政策や景気刺激策等を実施することにより米国内の物価上昇が加速するとともに同国金融当局が政策金利を高水準に維持するかもしれないとの観測が市場で発生した流れを引き継いだこともあり米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.08ドルの上昇にとどまり、終値は68.12ドルとなった。また、11月13日も、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが続いたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.43ドルと前日終値比で0.31ドル上昇した。さらに、11月14日も、この日EIAから発表された米国石油統計(11月8日の週分)で、ガソリン在庫が前週比で441万バレル減少し2.07億バレルと、2022年11月4日(この日時点の在庫水準は2.06億バレル)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(同60~100万バレル程度の増加)に反し減少している旨判明したことにより、同国ガソリン先物価格が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.27ドル上昇し、終値は68.70ドルとなった。この結果原油価格は11月12~14日の2日間合計で1バレル当たり0.66ドル上昇した。しかしながら、11月15日には、この日中国国家統計局から発表された10月の同国鉱工業生産が前年同月比5.3%増加と9月の同5.4%増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同5.6%の増加)を下回ったうえ、2024年10月の同国原油精製処理量が5,954万トン(推定日量1,406万バレル)と9月の同国原油精製処理量である5,873万トン(同1,433万バレル)から日量ベースで減少となった他、前年同月の6,393万トン(同1,510万バレル)を下回った(これにより同国原油精製処理量は7ヶ月連続で前年割れとなった)ことにより、同国経済成長減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、米国経済は好調であることもあり早急に政策金利引き下げを実施する必要性は感じない旨11月14日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が示唆した流れを引き継いだうえ、11月15日に米国商務省から発表された10月の同国小売売上高が前月比で0.4%の増加と市場の事前予想(同0.3%の増加)を上回ったことにより、同国金融当局によるさらなる政策金利引き下げ観測が市場で後退したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.68ドル下落し、終値は67.02ドルとなった。そしてこの日の終値は、9月10日(この日の終値は1バレル当たり65.75ドル)以来の低水準であった。

 

3. 原油市場における主な注目点等

中東情勢では不安定な状態が継続している。9月27日には、イスラエル軍が、レバノンの首都ベイルートにあるイスラム武装勢力ヒズボラの本部を空爆した旨発表した(当時本部にはヒズボラの最高指導者ナスララ師がいたとされており、今回の空爆はナスララ師暗殺を目的としたものであると伝えられた)他、空爆の結果ナスララ師が死亡した旨ヒズボラが確認したと9月28日に報じられた。また、これを受けイスラエルに対し徹底的に抗戦するようイランの最高指導者ハメネイ師が親イラン武装勢力等に呼びかけた旨9月28日に伝えられた。他方、イスラエルがレバノンに対し地上侵攻を開始した旨10月1日にイスラエル軍が発表したが、同日イランは180発超のミサイル等をイスラエルに向け発射(イスラエルは大半は迎撃した旨同日表明)した。これに対し同日イスラエルのネタニヤフ首相が対イラン報復措置の実施を示唆した。10月3日には、イスラエルがイランの石油関連施設を攻撃することを支持するかどうかにつき現在協議中である旨米国のバイデン大統領が明らかにしたが、10月4日には、バイデン大統領は、私がイスラエルであれば、イランの油田以外の攻撃を検討するであろう旨発言、10月3日の自身の発言を事実上修正した。そのような中、イスラエルに地上配備型迎撃システムである「高高度防衛ミサイル(THAAD:Terminal High Altitude Area Defense Missile)」を配備するとともに同システム運営要員を派遣する旨10月13日に米国国防省が発表した。また、イランへの報復攻撃対象として同国の軍事施設を対象とする反面、核及び石油関連施設は攻撃対象としない方針である旨米国に伝えた他、全面戦争を回避し、より限定的な反撃を実施する意向であるとイスラエルが示唆した旨米国政府関係者が明らかにしたと10月14日夕方(米国東部時間)にワシントン・ポストが報じたが、(イスラエルの対イラン報復措置の実施方法については)米国の意見は聞き置くものの、最終的には自国の利益に基づいて判断する旨10月15日にイスラエル首相官邸が発表した。さらに、イスラム武装勢力ハマスの最高指導者シンワル(Sinwar)氏(7月31日に殺害されたハマスの前最高指導者ハニヤ氏の後継者)を殺害した旨10月17日にイスラエル政府が明らかにしたが、人質が全員解放されるまで全力で戦闘を継続する旨同日イスラエルのネタニヤフ首相が表明した。また、シンワル氏殺害によりイスラム教徒による抵抗の精神は強化される旨10月18日にイラン国連代表部が表明した他、イスラエルとの戦闘が新しい段階に突入した旨10月18日にヒズボラが明らかにした。10月19日には、イスラエル中部カイサリアにあるネタニヤフ首相の私邸を標的としたものと見られる無人機攻撃が発生した(ネタニヤフ首相は不在であった)ことにより、ネタニヤフ首相がイラン報復措置の検討を急ぐ姿勢を示した旨10月20日に報じられた一方、10月20日夜(現地時間)にはイスラエル軍がレバノン南部等を攻撃した他、同国軍がパレスチナ自治区ガザ地区北部の病院及び避難所を包囲した旨10月21日に報じられるなど、イスラエル軍による攻撃が激化しつつある旨示唆された。ただ、ガザ地区の停戦とハマスが拘束するイスラエル人等の人質解放等に関する交渉再開を試みるべく、近いうちに米国とイスラエルがカタールの首都ドーハで協議する場を持つ旨10月24日に米国のブリンケン国務長官が表明した他、イスラエル対外特務機関(モサド)のバルネア長官も、同協議のため10月27日にドーハを訪問する旨イスラエルのネタニヤフ首相が決定したと同国首相府が10月24日に発表した(別途カタールやエジプトが過去数日間ハマスと接触中である旨10月24日に報じられた)。そして、10月26日未明(午前2時(現地時間)から数時間)において、イスラエルがイランの首都テヘラン等の軍事施設を標的とした精緻な攻撃を実施した旨10月25日夜(米国東部時間)以降報じられた他、イスラエルも10月26日にその旨発表した。その際、イランの石油関連施設等への攻撃は回避されたが、イラン側では兵士4人と民間人1人が死亡したとされる。10月27日には、イランのハメネイ師がイスラエルによる攻撃を非難したものの明確に報復措置の実施に言及することはなかった一方、10月27日に同国のペゼシュキアン大統領が、イスラエルによる対イラン報復措置に対しては適切に対応する旨明らかにしたものの、同時に戦争を望むものではない旨表明するなど、報復措置の実施を示唆しなかった他、10月28日にイラン外務省が可能な方策を全て利用して(イスラエルによる攻撃に)対処する旨表明したものの、具体的な内容を示すことはなかった。また、10月29日夜(現地時間)には、イスラエルのネタニヤフ首相がレバノンにおけるヒズボラとの戦闘終結に向けた外交的解決の可能性に関する(イスラエル政府内での)協議を実施する意向である旨同日イスラエル首相府が明らかにした。ただ、米国の仲介によりイスラエルとヒズボラとの間での60日間の停戦に向けた努力がなされている旨10月30日に報じられたものの、同日においても、イスラエルはレバノンを攻撃し続ける一方、ヒズボラの最高指導者カゼム師(9月27日にイスラエルの攻撃により死亡した前最高指導者ナスララ師の後継として10月29日に最高指導者に選出)が戦闘を継続する意向である旨10月30日に明らかにした。そして、米国の仲介による停戦交渉は妥結することなく10月31日に終了した旨11月1日に伝えられた。また、イランがイラクを拠点とする武装勢力を通じイラクからイスラエルに対し弾道ミサイル及び無人機を使用した大規模攻撃を恐らく11月5日の米国大統領選挙投票日前に実施する準備をしている(イスラエルによる直接的なイランへの再報復攻撃を避けるため、イラクからの攻撃とする意向であると伝えられる)旨イスラエル情報筋が明らかにしたと米国報道機関アクシオスが10月31日午後遅く(米国東部時間)に報じた。また、10月26日に行なわれたイスラエルによる対イラン攻撃に対し、厳しく対処する方針である旨11月2日にイランのハメネイ師が発言した(10月26日のイスラエルのイラン攻撃により、死亡者が発生したことによるものであると示唆する向きもある)。そして、イランのイスラエルに対する攻撃は無人機やミサイルによるものとは限らず、また、米国大統領選挙への影響を回避するため、11月5日の米国大統領選挙以降2025年1月20日に予定される次期大統領就任式までの期間に実施すると関係筋が明らかにした旨11月3日夕方(米国東部時間)にウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。そのような中、ハマス等との早期停戦を求めていたイスラエルのガラント国防相を11月5日にネタニヤフ首相が解任、後任にカッツ外相を充てる旨報じられた。また、米国とともにイスラエルとハマス等の停戦に向け仲介努力を行なってきたカタールが仲介努力を一時中断する意向である旨11月9日に伝えられた。さらに、11月11日に開催されたイスラエル軍による会議において同国のカッツ国防相がイランの核関連施設攻撃の好機が到来している旨示唆した。

このように、イスラエルとイランとの対立の先鋭化は一時沈静化に向かうように見えたが、イランが再びイスラエルに対し攻撃を行なう姿勢を示している他、イスラエルはハマス及びヒズボラとの戦闘を継続しており、関係者間での停戦への展望は必ずしも開けつつある状況ではない。そのような中、11月5日に実施された米国次期大統領選挙ではトランプ前大統領が当選した。トランプ氏はイスラエルとハマス及びヒズボラとの戦闘の停止を呼びかけているものの、一方でイスラエルを支援する姿勢を示しているため、停戦交渉の開始前には一時的にせよ、イスラエルと、ハマス及びヒズボラとの戦闘が激化する他、イスラエルとイランとの対立がさらに先鋭化する結果、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で強まることを通じ、原油相場が下支えされやすく、展開次第では原油価格が上振れする場面が見られる可能性があろう。

また、トランプ前大統領が大統領に返り咲くことにより、前大統領時代に実施していた対イラン強硬策が復活する事態が発生することも想定される。2015年7月14日に合意したイランと西側諸国等との間での核合意を、2018年5月8日にトランプ前大統領が一方的に離脱、2021年1月20日にバイデン大統領が就任した後、イラン核合意の正常化に向けた交渉が開始されたものの、紆余曲折を経つつ現時点においても正常化はなされていない。そのような中、トランプ氏が大統領に就任した場合には、イラン核合意の正常化を巡るイランと西側諸国等との協議から米国が一方的に離脱する他、イランに対する制裁強化、もしくは制裁運用の強化を行なう可能性があるものと考えられる。特に最近では、バイデン政権の制裁運用が事実上緩やかになっているように見受けられることもあり、イランの原油生産量は2022年9月の日量248万バレルから2024年10月には同335万バレルと同87万バレル程度増加しているが、トランプ前大統領の次期大統領就任後は、同氏がイラン制裁運用を強化する結果イラン原油生産が比較的早期に相当程度減少するとともに、その分だけ石油需給引き締まり感が市場で強まることにより、原油相場に上方圧力が加わりやすくなる。また、トランプ氏によるイラン核合意正常化交渉離脱と対イラン制裁の実質的な強化等に反発することにより、イランがウラン濃縮活動の拡大等を通じ、イスラエルや米国に対する挑発行為を強める結果、イランとイスラエル及び米国との間での対立が高まるとともに、イランとイスラエル(もしくは米国)との衝突、ペルシャ湾等における米国やイスラエル関連企業等の運航するタンカーを含む船舶のイランによる拿捕、もしくはイランによるホルムズ海峡封鎖等の可能性に対し、市場の懸念が増大することにより、原油相場に上方圧力が加わると言った展開となることもありうる。

トランプ氏は前大統領時代の2019年1月28日にベネズエラ国営石油会社PDVSAに対する制裁が発動された他、2019年8月5日にはベネズエラ政府等が米国内に保有する資産の凍結や一部を除く米国との取引禁止を内容とする大統領令が発令された。しかしながら、国際的な監視の下で2024年後半に公正な大統領選挙を実施することで、2023年10月17日にベネズエラのマドゥロ政権と同政権に反対してきた野党勢力が合意したことを受け、米国バイデン政権がベネズエラの石油産業等に対する制裁を緩和した(半年間にわたる同国石油・天然ガス部門における取引を許可する他PDVSAの株式や社債の取引の禁止を解除することが含まれる)旨10月18日午後遅く(米国東部時間)に米国財務省が発表した。しかしながら、同年10月22日に野党側の大統領予備選挙が実施されマチャド(Machado)元国会議員が選出されたものの、10月30日にベネズエラ最高裁判所(マドゥロ大統領に近いとされる)が、この予備選挙で不正行為があったとしたうえで、結果の効力を停止する旨発表した。そして、2024年1月26日には同国最高裁判所が大統領選挙においてマチャド氏の出馬を禁止する旨決定した。これに対し、米国財務省はベネズエラ国営鉱山会社ミネルベン(Minerven)を含む企業との取引を2月13日までに停止するよう米国企業に求める他、米国の対ベネズエラ制裁緩和措置の期限となっている4月18日以降の当該緩和措置延長を行なわない結果、米国国内でのPDVSAとの取引を認めないと言った、事実上の制裁の再強化措置を発動した旨1月29日夜(米国東部時間)から1月30日にかけて報じられた。そして、7月28日に実施されたベネズエラ大統領選挙投票においては即日開票の結果、現職のマドゥロ大統領が当選した旨7月29日に同国選挙管理委員会(マドゥロ大統領に近いとされる)が発表した(7月28日以降選挙管理委員会はマドゥロ氏の得票率を51~52%、対立する野党統一候補のゴンザレス(Gonzalez)氏(元外交官でマチャド氏の代わりに4月19日に候補として擁立された)の得票率を43~44%としている(選挙管理委員会はマドゥロ氏が515万票、ゴンザレス氏が445万票を獲得した旨明らかにしていた)が、投票所の出口調査による推定からゴンザレス氏が627万票、マドゥロ氏が275万票を獲得したと野党側は主張した)。そして、マドゥロ大統領が就任した2013年時点は日量250万バレルであった同国の原油生産量は2023年9月には日量77万バレルにまで減少、その後米国の対ベネズエラ制裁が緩和されたこともあり、同国の原油生産は2024年9月には同94万バレルと若干ではあるが回復していたが、トランプ前大統領の次期米国大統領就任後は、米国による対ベネズエラ制裁が強化される可能性はあっても、緩和される可能性は低いものと見られることから、同国からの原油生産が再び低迷するとともに、この面で世界石油需給引き締まり感が強まることを通じ、原油相場が多少なりとも支持されると言った展開となることが想定される。

米国では金融当局による政策金利引き下げが続いているが、足元の米国経済情勢は必ずしも悪い状態ではないこともあり、政策金利引き下げは、今後明らかになる経済指標予測等を考慮しつつ慎重に進めるべきであるというのが現在の同国金融当局関係者の考え方の主流であるように見受けられる。10月11日には、米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が、米国の政策金利は漸進的に引き下げられていくべきである旨発言した。また、足元の堅調な労働市場と目標を上回る物価上昇を考慮すれば、今後の数四半期においては小幅に政策金利を引き下げることが望ましい可能性が高いものと見込んでいる旨10月14日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにした。他方、米国の堅調な労働市場及び予想を上回って伸びた消費者物価指数を考慮すれば、この先の政策金利引き下げは9月17~18日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で決定された0.50%の政策金利引き下げよりも慎重に検討されなければならないとの見解を10月14日にウォラーFRB理事が示した。加えて、2024年末までにあと1~2回の政策金利引き下げが実施される可能性が高いものと見込んでいるが、今後の政策金利引き下げペースを判断するためにはこの先入手されるデータに注目すべきである旨10月15日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が表明した。そして、2024年末までにさらに0.25%の政策金利引き下げが実施されるものと予想している旨10月15日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにしたと同日夜(米国東部時間)に伝えられた。10月18日には、物価上昇沈静化を図るべく、政策金利引き下げは慎重に行なうべきである他、2024年は年末までに0.25%の政策金利引き下げが1回実施されるものと考えている旨米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が示唆した。また、今後労働市場が急激に冷え込むようであれば、政策金利引き下げを急ぐことを支持する可能性はあるものの、基本的にはこの先数四半期間は政策金利の引き下げが徐々に実施されるものと見込んでいる旨10月21日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにした。さらに、状況が急変しない限り、今後はより慎重で漸進的な政策金利引き下げを行なうべきである旨10月21日に米国カンザスシティー連邦準備銀行のシュミッド総裁が示唆した。加えて、先行きの経済情勢が不透明であることもあり、政策金利の引き下げは慎重に実施すべきである旨の認識を10月21日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が示した。他方、米国金融当局による政策金利引き下げを踏みとどまる理由は見当たらず、労働市場の冷え込みを防止するためにも、政策金利は引き下げ続けられるものと考えている旨10月21日にサンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が発言した。10月24日には、米国の物価上昇は沈静化する過程にはあるものの、なお目標を達成したわけではない旨米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が示唆した。そのような中、11月6~7日に開催されたFOMCにおいては0.25%の政策金利引き下げが決定した他、11月7日のFOMC終了後に行なわれた米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長による記者会見においては、この先の政策金利引き下げ停止を同氏が明確に示さなかった。このようなこともあり、今後も米国金融当局はこの先明らかになる経済指標類等を参考にしながら、慎重かつ漸進的に政策金利の引き下げを実施していくことが示唆された。また、12月17~18日に開催される予定である次回FOMCにおいて、政策金利がさらに引き下げられる可能性はあるものの、米国の物価上昇が完全に沈静化したわけではない旨11月10日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が発言した。さらに、米国物価上昇を加速させないよう金融当局は経済指標類や金融を巡る状況等に留意しつつ政策金利引き下げに対し慎重な姿勢で望むべきである旨の認識を11月13日にダラス連邦準備銀行のローガン総裁が示した。加えて、米国の物価上昇率が目標である年率2%を上回っている間は、小幅に政策金利を引き下げることが望ましいと考える旨11月13日に米国カンザスシティー連邦準備銀行のムサレム総裁が示唆した。そのような中、11月14日に米国労働省から発表された10月の同国生産者物価指数(PPI)は前年同月比2.4%の上昇と9月の同1.9%(改定値)の上昇から伸びが加速した他、市場の事前予想(同2.3%の上昇)を上回った。一方、米国経済は好調であることもあり、早急に政策金利引き下げを実施する必要性は感じない旨11月14日にFRBのパウエル議長が明らかにした。また、次回のFOMCにおいて政策金利引き下げが決定される可能性は依然としてあるものの、今後明らかになる米国経済指標類等の内容に基づき慎重に判断する意向である他、現時点では経済情勢は早急な政策金利引き下げを求めることを示していない旨11月15日にボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が示唆した他、米国の物価上昇が沈静化し続けるのであれば、今後1年から1年半程度にかけ政策金利はさらに相当程度低下していくものと見込むものの、早急な政策金利の引き下げは望まないとのパウエルFRB議長の見解に同意する旨11月15日にシカゴ連銀のグールズビー総裁が明らかにしている。

しかしながら、トランプ前大統領の次期大統領就任後は、米国が外国製品に対し関税を課する等する結果、輸入製品を中心として物価上昇が加速することになるため、米国金融当局は物価上昇をさらに促進させやすくするような政策金利引き下げを継続しにくくなるどころか、物価上昇抑制のため、政策金利引き上げの実施を迫られる可能性が生じる。そして米国金融当局による政策金利引き上げ観測が市場で広がるようであれば、米ドルが上昇するとともに、原油相場に下方圧力が加わりやすくなる。ただ、トランプ前大統領は米国経済発展のため財政出動等を通じ景気刺激策を講じたり(この結果米国経済成長が加速するとともに石油需要の伸びが拡大するとの期待が市場で増大する)、米国産品輸出促進のために米ドル安誘導を試みようとしたりする(米ドル高は懸念材料である旨トランプ氏が明らかにしたと7月16日夕方(米国東部時間)に報じられていた)ことにより、米ドル高是正観測が市場で強まるとともに米ドルが下落することを通じ、原油相場に上方圧力が加わる可能性もある。このように、トランプ前大統領の次期大統領就任後は、経済政策の実施時期や実施方法により、米ドルとともに原油価格が乱高下しやすくなることも想定されるので、注意する必要があろう。それでも、原油価格が過度に上昇してしまえば、トランプ氏を支持している個人による支持率が低下する反面、原油価格が過度に下落してしまえば、トランプ氏を支持している米国石油開発業界等による支持率が低下することから、トランプ氏は、原油価格の変動幅が一定程度に収まるよう努力しようとしていくものと考えられる。

中国では、経済がもたつき気味であることを示唆する経済指標類が発表されることにより、同国経済減速に伴う同国石油需要の伸びの鈍化懸念が増大しつつあることが、原油相場に下方圧力を加える反面、中国政府等による景気刺激策発表への期待に伴う同国石油需要の伸びの加速観測の増大が原油相場に上方圧力を加えるものの、中国政府等が発表する景気刺激策等が市場を失望させる結果、原油価格が下落する場面がしばしば見られる。10月12日に開催された記者会見において、中国政府が特別債を大量に発行して銀行への資本基盤整備や不動産購入に充当すること等により、同国経済回復を支援する旨中国の藍仏安財政相他が表明したものの、特別債の具体的な発行規模については明らかにされなかったため、一部の市場関係者が失望することとなった。そのような中、10月25日より既存の住宅融資金利を0.30%引き下げる旨中国大手国有銀行4行が10月12日に発表した。ただ、10月13日に中国国家統計局から発表された9月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.4%上昇と8月の同0.6%上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同0.6%上昇)を下回ったうえ、同月の生産者物価指数(PPI)は同2.8%下落と8月の同1.8%下落から下落率が拡大、2022年10月以降24ヶ月連続前年同月比で下落となった他、市場の事前予想(同2.5~2.6%下落)を上回って下落している旨判明した。さらに、10月14日に中国税関総署から発表された9月の同国輸出(米ドル建)は前年同月比2.4%の増加と2024年4月(この時は同1.2%の増加)以来の低水準となった他市場の事前予想(同6.0%増加)を下回ったうえ、同月の同国輸入(同)は同0.3%の増加と市場の事前予想(同0.8~0.9%増加)を下回ったことに加え、9月の同国原油輸入は4,549万トン(推定日量1,110万バレル)と8月の4,910万バレル(同1,159万バレル)及び前年同月の4,574万トン(同1,116万バレル)を下回った。他方、10月15日には中国国務院新聞弁公室が、10月17日に中国住宅都市農村建設省、財政省及び人民銀行が記者会見を実施する旨発表したことにより、同国経済回復方策の詳細についての説明がなされるとの期待が市場で強まった他、中国の景気を刺激するため、今後3年間で6兆元(8,500億ドル)分の特別国債を発行する可能性がある旨10月14日に中国独立系報道機関財新伝媒の「財新国際(Caixin Global)」が報じた。果たして、10月17には中国の倪虹住宅都市農村建設相が記者会見を行ない、未完成住宅を完成させるための融資を足元の2.23兆元から4兆元(84兆円)へと拡大する等の不動産部門支援策を発表したものの、景気刺激策としては不十分であるとの見方が市場で広がった。そして、10月18日に中国国家統計局から発表された2024年7~9月期の中国国内総生産(GDP)は前年同期比4.6%増加と市場の事前予想(同4.5%の増加)は上回ったものの、同年4~6月期(この時は同4.7%の増加)からは伸びが鈍化、2023年1~3月期(この時は同4.5%の増加)以来の低水準であった旨判明したうえ、2024年9月の同国原油精製処理量は5,873万トン(推定日量1,433万バレル)と前年同月の6,362万トン(同1,552万バレル)を下回った。ただ、同日発表された、9月の同国鉱工業生産は前年同月比5.4%、小売売上売上高は同3.2%の、それぞれ増加と、8月の同4.5%、同2.1%のそれぞれ増加から、伸びが拡大した他、市場の事前予想(同4.6%、同2.4~2.5%の、それぞれ増加)を上回った。また、2024年1~9月の同国固定資産投資は前年同期比3.4%の増加と同年1~8月期の同3.4%増加と同水準となった他、市場の事前予想(同3.3%の増加)を上回った。さらに、2024年1~9月の同国不動産開発投資は前年同期比10.1%の減少と同年1~8月期の同10.2%の減少とほぼ同水準であった。10月21日には、中国人民銀行が、同国国内銀行向け最優遇貸出金利を0.25%引き下げた(中国人民銀行の潘功勝総裁は10月21日に当該金利を0.20~0.25%引き下げる意向である旨発言したと10月18日に伝えられていた)。また、中国政府等による景気支援策もあり、石油化学向けのナフサ需要やジェット燃料需要が拡大するため、同国の2025年の石油需要はかなり堅調に伸びるものと見込んでいる旨10月21日にサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコのナセルCEOが明らかにした。しかしながら、10月27日に中国国家統計局から発表された9月の同国工業企業利益は前年同月比27.1%の減少と8月の同17.8%の減少から減少率が拡大、2020年3月(この時は同34.9%の減少)以来の大幅減少となった。他方、10月29日には、11月4~8日に開催される予定である中国全人代常務委員会において、同国の景気を刺激すべく、この先数年間に渡り10兆元(210兆円)の国債等を発行することを許可する方向で検討している旨報じられた。また、10月31日に中国国家統計局から発表された10月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は50.1と9月の49.8から上昇、2024年4月(この時は50.4)以来の50超となった他、市場の事前予想(49.9)を上回った一方、10月の同国非製造業PMIは50.2と9月の50.0から上昇したものの、市場の事前予想(50.3)を下回った。また、11月1日に財新伝媒から発表された10月の同国製造業PMIは50.3と9月の49.3から上昇した他、市場の事前予想(49.7)を上回ったうえ、11月5日に財新伝媒から発表された10月の同国非製造業PMIは52.0と9月の50.3から上昇した他、市場の事前予想(50.5)を上回った。そして、11月7日に中国税関総署から発表された10月の同国輸出(米ドル建)は前年同月比12.7%の増加と2022年7月(同18.1%の増加)以来の大幅な増加となった他市場の事前予想(同5.0~5.2%の増加)を上回って増加していた旨判明したものの、2025年1月20日のトランプ前大統領の次期大統領就任を見込んだ駆け込み(在庫を中国から米国に移動させただけ)が主要因であるとの見方が広がった。また、11月7日に中国税関総署から発表された10月の同国輸入(米ドル建)は前年同月比2.3%の減少と市場の事前予想(同1.5~2.0%減少)を上回って減少している旨判明した。さらに、11月7日に中国税関総署から発表された10月の同国原油輸入は4,470万トン(推定日量1,055万バレル)と9月の4,549万バレル(同1,110万バレル)及び前年同月の4,897万トン(同1,156万バレル)を下回った。そして、中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会終了後の11月8日夕方(現地時間)には、同国の藍仏安財政相が、簿外債務処理のため、今後3年間同国地方政府の特別地方債発行上限を年間2兆元、合計6兆元(12兆円)引き上げることを含め10兆元(210兆円)の対策を講ずる方針である他、この先さらなる景気刺激策を発表する予定である旨示唆した(なお、2023年末の同国地方政府の簿外債務は14兆元である旨同日同相は説明したが、国際通貨基金(IMF)は、当該債務は最大60兆元に達する可能性がある旨推定していた)ものの、地方政府の債券発行上限引き上げでは同国の消費は喚起されないとの観測が市場関係者間で発生した他、さらなる景気刺激策については具体的な説明がなされなかった。また、11月9日に中国国家統計局から発表された、10月の同国CPIは前年同月比0.3%の上昇と9月の同0.4%の上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同0.4%の上昇)を下回ったうえ、10月の同国PPIは前年同月比で2.9%の下落と9月の同2.8%の下落から下落幅が拡大するとともに同指数は25ヶ月連続前年同月比で下落となった他、市場の事前予想(同2.5%の下落)を上回る下落率となった。さらに、11月11日に中国人民銀行から発表された10月の人民元建融資(新規分)は5,000億元と9月の1.59兆億元から大幅減少となった他、市場の事前予想(7,000億元)を下回った一方、10月の社会融資総量(与信)は1.4兆元と9月の3.76兆元から大幅減少し、市場の事前予想(1.55兆元)を下回ると伝えられた。そのような中、低調な中国の住宅販売支援のために、大都市圏における住宅購入等に際し課税される不動産取得税を引き下げる(最高3%を最低1%にする)べく当局者が検討中である旨11月11日にブルームバーグ通信が報じた。それでも、11月15日に中国国家統計局から発表された10月の同国小売売上高は前年同月比4.8%の増加と9月の同3.2%の増加から伸びが加速した他市場の事前予想(同3.8%の増加)を上回ったものの、10月の同国鉱工業生産は前年同月比5.3%の増加と9月の同5.4%増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同5.6%の増加)を下回ったうえ、同日中国国家統計局から発表された2024年10月の同国原油精製処理量は5,954万トン(推定日量1,406万バレル)と9月の同国原油精製処理量である5,873万トン(推定日量1,433万バレル)から日量ベースで減少となった他、前年同月の6,393万トン(同1,510万バレル)を下回った(これにより同国原油精製処理量は7ヶ月連続で前年割れとなった)。また、11月15日に中国国家統計局から発表された2024年1~10月の同国固定資産投資は前年同期比3.4%の増加と同年1~9月の同3.4%の増加から伸びが横這いとなった他、市場の事前予想(同3.5%の増加)を下回ったうえ、2024年1~10月の同国不動産販売(床面積基準)は前年同期比15.8%の減少と同年1~9月の同17.1%の減少からは減少率が縮小したものの、2024年1~10月の同国不動産投資は前年同期比10.3%の減少と同年1~9月の同10.1%の減少から減少率が拡大した。

このように、足元の中国経済指標類は同国経済がまだら模様になっている他、不動産部門の不振とその同国経済への負の影響への懸念が払拭しきれない中、同国政府等による景気刺激策の大半は市場の期待を下回る状態となっており、この面では原油相場に下方圧力を加える形で作用している。今後も、同国政府等から景気刺激策に関し発表する機会を設ける等の情報が流れれば、中国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で発生する結果、原油相場が持ち直す場面が見られる可能性もあるが、実際の同国政府等による景気刺激策が市場関係者を失望させ続ける(9月6日に中国人民銀行の易綱前総裁が、消費及び投資といった内需が弱いことから同国経済にデフレ圧力が加わりつつあるといった懸念がある旨示唆しているところからすると、中国国内消費者の心理を転換させるような相当大規模な消費促進策の実施を表明するようでなければ、市場関係者の失望を招きやすいものと考えられる)ようであれば、そのような原油相場が持ち直す機会も減少していくといった展開となることもありうる。また、米国のトランプ前大統領の次期大統領就任後、中国に対し最大関税(60%)の関税を課する可能性が取り沙汰されており、実際のそのような政策をトランプ氏が実施するようであれば、輸出に依存する中国経済にはさらなる打撃となるとともに、同国経済が減速することを通じ、石油需要の伸びが鈍化するとの観測が市場で発生するとともに、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。

米国では、冬場の暖房シーズンに突入し(暖房シーズンは通常11月1日~翌年3月31日である)、製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加、その結果原油購入が活発化するとともに季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大する方向に向かうことにより、原油相場が下支えされやすくなるものと思われる。その際市場が考慮するのは足元の気温(特に米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部の気温)及び気温予報である。例えば、足元の気温が大幅に低下する、もしくは今後3ヶ月間の気温が平年を下回る寒冷なものとなる等の予報が発表される(因みに現時点における2024年12月~2025年2月の3ヶ月予報では米国北東部では平年を上回る気温となることが予想されている)ということになれば、暖房用石油製品需要が盛り上がるとの認識が市場で強まることにより、軽油及び暖房油等の価格が上昇、それに原油価格が引きずられる、といった展開となることもありうる。また、11月14日に米国海洋大気庁(NOAA)は、ラニーニャ現象(日付変更線付近から南米沿岸にかけての太平洋赤道域で海面の水温が平年より低くなる現象)が発生する確率が、2024年10~12月は57%となる他、2025年1~3月においても同現象が居座るものと予想される旨明らかにした。ラニーニャ現象が発生すると、北半球の冬場において気温が平年を相当程度下回るなど厳冬になりやすいとされる(なお、夏場となる南米諸国は渇水となりやすいとされる)。そして、米国のみならず、欧州及びアジア諸国の気温が大幅に低下すれば、暖房向け石油製品(日本や韓国では灯油が利用されるが、他の地域では暖房油(品質的には軽油に近い)が使用される)需要が増加しやすくなるものと考えられる。この結果、石油需給の引き締まり感が市場で増大することを通じ、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。

さらに、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)周辺地域等における濃霧発生の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることに伴い当該地域に点在する製油所での輸入原油の陸揚げと原油在庫の積み上げに影響が及ぶことにより、結果として原油在庫が押し下げられる場面が見られることがありうる。また、年末の課税対策から精製業者等が原油在庫等を相当程度減少させる可能性がある(米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対し固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるため精製業者等が必要以上の在庫保有を敬遠することに伴い在庫が減少しやすくなるとされる)。このようなことから、年末にかけ発表される米国石油統計で同国メキシコ湾岸地域での原油在庫等が相当程度減少する傾向を示すことにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油相場に上方圧力が加わる、といった展開となることもありうる。ただ、このような在庫減少が見られた場合、1月以降は製油所等での原油等の受け入れが再開される等することから、反動で相当程度原油在庫等が増加する可能性もあり、これにより原油相場が押し下げられる場面が見られることも予想される

また、2025年1月20日に米国の次期大統領の就任が予定されるトランプ前大統領は、同国のエネルギー独立を達成すべく、シェールオイル及びシェールガス、もしくは米国メキシコ湾沖合深海油・ガス田を含む石油・天然ガス開発・生産を促進しようとする姿勢を示している。従って、トランプ氏の大統領就任後、米国の石油・天然ガス開発・生産支援策を実施するか、少なくとも環境規制等といった米国の石油・天然ガス開発・生産を制限するような規制や手続きの緩和もしくは撤廃を実施することにより、米国の石油・天然ガス開発・生産を促進させようとするであろう。このようなことから、将来的に米国の石油・天然ガス生産が拡大することに伴う世界石油需給緩和への観測が市場で強まる結果、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。

なお、トランプ前大統領が次期大統領に就任した際には、税制等を通じクリーンエネルギーや電気自動車(EV)等の普及促進を阻止する一方ガソリン車等石油で駆動する内燃機関の自動車の普及を推進するものと見られることから、米国でガソリン等の石油需要が増加するとの観測が市場で強まる結果、(ガソリン等の石油製品及び)原油相場が支持されやすいものと考えられる(もっとも、2022年8月16日に発効したインフレ抑制法(IRA: Inflation Reduction Act)によるクリーンエネルギーや電気自動車の導入は、共和党議員が地盤とする地域においても既にある程度実施されつつあるため、トランプ氏の次期米国大統領就任後もある程度は進捗しうるものと考えられる)。

ただ、トランプ前大統領が次期大統領に就任した場合、まずはイラン制裁強化に伴う石油供給減少の影響が石油市場に及び、その後で米国のシェールオイルを含む石油生産拡大の影響が石油市場に及ぶものと見られる(シェールオイルの生産拡大は比較的速やかに行なわれるとは言え、それが実現するまでには半年から1年を要するため、それよりも早く減少する恐れのあるイラン石油供給を相殺することはかなり困難である)ことから、まずはイラン要因で世界石油需給引き締まり観測が強まるとともに原油相場が上昇した後、米国シェールオイル増産に伴う世界石油需給の緩和観測が醸成されるとともに原油相場が沈静化する方向に向かう可能性もある。

このようにトランプ氏の次期米国大統領就任後は、自国の石油開発・生産の推進、イランへの対応を含む中東情勢の複雑化等を含め、事態が複雑化する(さらに、トランプ氏が突然予期せぬ発言を行なう結果、政治、経済、外交及び軍事面等での情勢が混乱することもありうる)結果、原油相場が乱高下しやすくなることも予想されるので、注意する必要があろう。また、今後2025年1月20日に予定される米国の次期大統領就任までの間においても、次期大統領に当選したトランプ前大統領による、政権移行に向けた閣僚候補選定等を巡る動き及び同氏もしくは関係者による米国の経済及び外交方針等に関する発言等によって、原油相場が変動すると言った展開も想定される。

OPECプラス産油国は12月1日に閣僚級会合を開催する予定である。既に、OPECは9月10日に発表した月刊オイル・マーケット・レポートにおいて2024年の世界石油需要を前月から日量8万バレル、2025年の世界石油需要を同12万バレル、それぞれ下方修正した他、10月14日に発表した月刊オイル・マーケット・レポートにおいても2024年及び2025年の世界石油需要をそれぞれ日量11万バレル及び同21万バレル、それぞれ下方修正した。さらに11月12日に発表した月刊オイル・マーケット・レポートにおいても2024年及び2025年の世界石油需要をそれぞれ日量11万バレル及び同21万バレル、それぞれ下方修正した。そして、低調な石油需要により原油価格が抑制されるなど石油市場が健全な状態であるとは言えないため、2024年1月以降実施中である一部OPECプラス産油国8ヶ国による日量約217万バレルの自主的な減産の同年12月の緩和開始に関し、少なくとも1ヶ月間延期することが検討されており、早ければ翌週にも延期の決定がなされる可能性がある旨関係者が明らかにしたと10月30日にロイター通信から報じられた他、実際に当該減産措置の緩和を1ヶ月延期する旨11月3日にOPECが発表した。

ただ、2024年1月に延期して減産措置の緩和を開始しても、2025年は世界石油供給が需要を日量213万バレル程度上回るものと見込まれる(表1参照)他、中国経済が減速等することにより石油需要の伸びがさらに鈍化すれば、2025年の供給過剰緩和感が一層強まるとともに、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。他方、2025年の世界石油需給が緩和することが予想されるにもかかわらず6月2日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合において一部産油国の自主的な減産措置の緩和を決定した背景に、それまでにおいて一部OPECプラス産油国が増産の意向を示すなど、原油生産制限に関し産油国間で足並みが乱れつつあったことがあるものと見受けられることから、そのような増産意向を示している一部産油国に対し、原油販売収入の極大化を図るべく原油価格を維持するには減産を継続することが重要である旨説得するため、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は、今後も足元及びこの先の世界石油需給状況と原油価格動向や見通し等を見極めつつ、減産措置緩和の延期、取り止め、もしくは状況によっては減産拡大等を含めた減産措置緩和の取り扱いにつき漸進的に判断していく可能性があるものと考えられ、この結果、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、一部OPECプラス産油国が実施中の自主的な減産措置の緩和をさらに1~2ヶ月延長することを検討のうえ、決定する可能性があるものと考えられる。ただ、1ヶ月間の延長を決定した場合2025年1月上旬には改めて臨時で協議する機会を設け、当該減産緩和の取り扱いにつき議論する必要性が生じることから、むしろ減産緩和開始を2ヶ月間延期するとともに、2ヶ月毎に実施されているOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)開催の機会を利用して、減産措置の再調整を行なうと言った展開となることも想定される。また、現在2025年12月まで実施している、その他の公式及び自主的な減産措置を最長2026年12月まで延期する等の方針について、次回会合において議論されることもありうるものの、増産意欲が強まりつつある一部のOPECプラス産油国が存在するところからすると、そのような相当長期的な原油生産方針が次回会合で決定されるかどうかは微妙なところであり、当該議論が次々回のOPECプラス産油国閣僚級会合(2025年6月上旬前後に開催されるものと予想される)に持ち越される可能性もある。

表1 世界石油需給バランスシナリオ(2025年)(2024年11月14日時点)

全体としては、米国で冬場の暖房シーズンに突入したことにより、暖房用石油製品製造のために製油所での原油精製処理量が増加するとともに製油所による原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されるとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、イスラエルとイランとの対立先鋭化を含めた中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が高まりやすく、この面でも原油相場が上振れする場面が見られることもありうる。他方、中国経済減速と石油重要の伸びの鈍化展望が市場で発生しやすく、この面では、原油相場のさらなる上昇が抑制されやすいものと考えられる。また、12月1日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合における決定内容が、原油相場に影響を及ぼすことも想定される。そのような中で、米国における次期大統領に当選したトランプ前大統領による、政権移行に向けた動き及び同氏もしくは関係者の発言等によって、原油相場が変動する可能性がある。

 

4. 世界天然ガス市場動向

米国では、8~9月においては家計や商業といった民生部門における暖房用需要は前年に比べ格段に喚起されたわけではなかったことから、同部門での天然ガス需要は前年同月比で限定的な変動にとどまった(図16参照)が、10月は前年同月に比べ若干ながらではあるが温暖であった(図17参照)こともあり、同部門における天然ガス需要も前年同月比で僅かながら減少した。他方、8月の米国鉱工業生産は概ね前年同月比で横這いであった一方9~10月前年同月を下回ったこともあり、産業部門における天然ガス需要は、8月は前年同月比で若干の増加となったものの、9~10月は小幅ながら前年同月比で減少となった。また、8~10月においては、天然ガス火力発電所における天然ガス調達コストは全米平均で100万Btu当たり2.23~2.45ドルと前年同期(同2.87~2.94ドル)を下回ったため、この面では同部門における天然ガス需要は促進される格好となったものの、同期間米国発電部門においては、太陽光発電や風力発電等の発電能力が拡大したこともあり、電力需要のある程度の部分はこれら再生可能エネルギーによる発電により賄われた(図18参照)結果、発電部門における天然ガス需要は前年同月で増加したものの、増加幅は比較的限定的な水準にとどまった。ただ、発電部門における天然ガス需要の増加が寄与したこともあり、8~10月の米国天然ガス需要は前年同月比で若干の増加となった。

図16 米国天然ガス消費増加量(前年同月比)(2015~24年)

図17 米国(ニューヨーク)気温(2024年)

図18 米国の発電量に占める各エネルギー源の占有率(2011~24年)

他方、夏場の気温上昇に伴いメキシコにおける空調稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガスが季節的に盛り上がったこともあり、米国からのパイプライン経由のメキシコ向け天然ガス輸出は堅調であった(図19参照)ものの、気温の低下とともにメキシコの発電部門における天然ガス需要が減少傾向となったものと見られることから、米国からのパイプライン経由のメキシコ向け天然ガス輸出も減少してきている。なお、当該輸出は前年同月比では多少の増減はあるものの、概ね同水準で推移した。また、欧州やアジアにおいて夏場の気温が大幅に上昇する期間が発生した(特にアジアにおいては気温の高い状態が長引く場面も見られた)ことが米国産LNGの輸出を下支えする格好になったものの、特の欧州が他の産出国からLNGを輸入した(後述)ことが米国の欧州向けLNG輸出を抑制した側面があることもあり、8月の米国LNG輸出量は前年同月を上回ったものの、9~10月については前年同月を下回る格好となっている(図20参照)。

図19 米国のメキシコへのパイプラインによる天然ガス輸出(2012~24年)

図20 米国LNG輸出(2016~24年)

また、2022年8月22日に100万Btu当たり9.680ドルの終値と2008年7月23日(この日の終値は同9.790ドル)以来の高水準に到達した米国天然ガス先物価格は、その後下落傾向となり、2024年2月20日には1.576ドルの終値と2020年4月2日(この日の終値は同1.552ドル)以来の低水準に到達したことに加え、2022年3月8日には1バレル当たり123.70ドルの終値と2008年8月1日(この日の終値は同125.10ドル)以来の高水準に到達した米国原油先物価格は以降下落傾向となり、2024年9月10日には同65.75ドルの終値と2021年12月1日(この日の終値は同65.57ドル)以来の低水準に到達したことから、同国の油・ガス田の開発活動が不活発化した(2022年12月2日時点では627基であった米国石油坑井装置稼働数は2024年7月19日時点で477基へと減少した他、2022年9月9日時点では166基であった同国天然ガス坑井掘削装置稼働数は2024年9月6日時点で94基へと減少した)こともあり、天然ガス坑井から生産される天然ガス、及び石油坑井から生産される石油に随伴して生産される天然ガスの、生産の伸びが鈍化した(図21参照)。

図21 米国国内天然ガス生産量及び見通し(破線部分)(2009~25年)(EIA発表時期別)

そして、米国天然ガス需要の増減が前年同月比で限定的な幅にとどまる一方、米国からメキシコへのパイプライン経由の天然ガス輸出及び米国からのLNG輸出水準が変動する中、同国の天然ガス生産の伸びが鈍化したことから、2024年8月9日時点では過去5年平均水準を13.0%上回っていた同国の天然ガス在庫は同年11月8日時点では上回る率が6.1%へと縮小する(図22参照)など、同国の天然ガス需給は相対的に引き締まる方向で推移したものの、なお過去5年平均水準は上回っており、絶対的に天然ガス需給が引き締まっているわけではなかった。

図22 米国天然ガス貯蔵量(2022~24年)

このため、この面では、米国における天然ガス価格は抑制される格好となった。そして、8月下旬から9月上旬頃にかけては、米国天然ガス先物価格の終値は100万Btu当たり概ね1.9~2.2ドルを中心とする範囲で推移した(図23参照)。しかしながら、9月中旬にはハリケーン「フランシーヌ(Francine)」が米国メキシコ湾沖合を縦断したうえ、9月11日に同国ルイジアナ州に上陸したことに伴い、メキシコ湾沖合の天然ガス生産が停止した(9月10~17日の8日間合計で51億立方フィート分の生産が停止した)ことにより、また、9月下旬にはハリケーン「ヘレン/へリーン(Helene)」が米国メキシコ湾沖合を縦断したうえ、9月26日に同国フロリダ州に上陸したことに伴い、メキシコ湾沖合の天然ガス生産が停止した(9月24~29日の6日間合計で14億立方フィート分の生産が停止した)ことにより、米国の天然ガス供給減少に伴う需給引き締まり感が市場で発生したことが、天然ガス価格に上方圧力を加えたことから、9月9日には100万Btu当たり2.170ドルの終値であった米国天然ガス先物価格は9月16日には同2.373ドル、さらに、9月30日には同2.923ドルの、それぞれ終値へと上昇するなど、同国天然ガス価格は上昇傾向となった。しかしながら10月に入ってからは、冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房向け天然ガス需要期が視野に入り始めたことが、米国における天然ガス相場に上方圧力を加えた反面、足元の気候は概ね温暖に推移したことにより、暖房向けの天然ガス需要が抑制される格好となったうえ、10月9日にハリケーン「ミルトン(Milton)」が米国フロリダ州に上陸した結果、広い範囲で停電が発生したことにより、発電部門向けの天然ガス需要が減少するとの観測が市場で発生したことが、米国における天然ガス相場に下方圧力を加えた結果、同国の天然ガス価格は下落傾向となり、10月18日の米国天然ガス先物価格の終値は100万Btu当たり2.258ドルとなった他、その後も値頃感から天然ガスの購入が促された結果、天然ガス価格が上昇する場面が見られたものの、全体としては温暖な気候の影響を受け続けたことにより、10月29日に至るまで米国天然ガス先物価格は100万Btu当たり概ね2.2~2.6ドルの範囲で推移した。しかしながら、その後は米国において気温の低下予報が発表されるなど、冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房向け天然ガス需要の増加を市場が意識し始めたことから、11月15日にかけ米国天然ガス先物価格は100万Btu当たり概ね2.6~3.0ドルの範囲で推移するなど、変動領域を切り上げることとなった。

図23 天然ガス先物価格の推移(2018~24年)

欧州においては、夏場の気温上昇とともに、空調機器稼働向けの電力供給のための発電部門における天然ガス需要が発生したものの、風力及び太陽光と言った再生可能エネルギー発電や原子力発電がそれなりの規模で稼働していたことにより、発電部門における天然ガス需要は抑制される格好となった(図24参照)。また、足元では、天然ガス価格下落に伴い一部諸国等においては産業部門を中心として天然ガス需要が前年比で増加していると見る向きもあるものの、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻に伴う天然ガス価格(及び原油価格)上昇等による物価上昇を沈静化させるため欧州中央銀行(ECB)等が政策金利を引き上げ続けたこともあり、欧州経済が減速したことが一因となり、産業部門における天然ガス需要は総じてもたつき気味となったものと見られる。他方、冬場の暖房シーズンではなかったことから、家計や商業と言った民生部門における天然ガス需要も低水準で推移した。このようなことから、欧州天然ガス需要は前年比では推定4.1~5.4%程度増加する場面も見られたものの、新型コロナウイルス感染前(2017~21年)の水準は推定15.5~19.9%程度下回る状態となっている(図25及び図26参照)。このようなこともあり、EU天然ガス貯蔵は概して積み上がる方向に向かうとともに、10月末までに90%の貯蔵施設充填率到達とのEUによる努力目標を、8月19日には達成した(図27参照)。しかしながら、欧州天然ガス貯蔵充填率が努力目標である90%に接近するにつれ地域の天然ガス需給緩和感が醸成されるとともに貯蔵充填ペースが鈍化、当該貯蔵充填率は2023年同期を下回り続けるとともに、11月15日現在の貯蔵充填率は91.26%(因みに前年同日は99.23%)となっている他、2024年4月14日には過去5年平均を推定46.6%程度上回っていたEU天然ガス貯蔵量は、11月15日時点においては過去5年平均を上回る率が1.3%程度へと縮小している。それでも、欧州天然ガス貯蔵水準は充填目標を上回る状態を持続したこともあり、欧州天然ガス需給は緩和状態が続いたため、需要家によるLNG受入意欲が後退した一方、LNGタンカー傭船料が下落した(この先予定される新規天然ガス液化装置の稼働開始に伴うLNG輸送活動活発化を見越して建造されたLNGタンカーが市場に流入してきたことに伴うものであるとされる)。このため、欧州市場の天然ガス価格とアジア市場の天然ガス(LNG)価格の差は縮小しつつあったものの、一部のLNGは安価な輸送費を利用して欧州市場ではなくアジア市場に向かったものと指摘される。

図24 英国の発電量に占める各エネルギー源の占有率(2015~24年)

図25 欧州天然ガス需要増加量(前年同月比、2008~24年)

図26 欧州天然ガス需要(2022~24年)

図27 EU天然ガス在庫(2018~24年)

他方、欧州(を含む大西洋圏)においては、足元天然ガス需給が実際に引き締まっていたわけではないと言われたものの、引き締まり懸念が市場で発生していた。引き締まり懸念を発生させた主な要因としては、まず、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの天然ガス供給上の支障発生の可能性が挙げられる。イスラエルとイスラム武装勢力ハマス及びヒズボラ等との戦闘が継続したうえ、9月20日以降イスラエルによるレバノンの首都ベイルート等への空爆が目立つようになった他、9月27日にはイスラエルの攻撃によりヒズボラの指導者ナスララ師が死亡したことに対し、10月1日にイランが報復措置としてイスラエルを攻撃したことから、イスラエルがイランの石油関連施設等を攻撃する可能性があるとの観測が10月3日の市場で増大した(同日バイデン大統領がイスラエルのイラン石油関連施設攻撃につき「検討中である」旨示唆したことに伴う)こともあり、両国の戦闘状態が激化するとともに、中東情勢が不安定化する結果、同地域からの石油供給途絶懸念が市場で強まることにより、原油相場が上昇することを通じ、原油(もしくは石油製品)価格に連動する長期契約等の天然ガス(もしくはLNG)価格に上方圧力が加わるとともに、その影響を随時契約(スポット)等の天然ガス(もしくは)LNG価格が受ける格好となった。また、イスラエルの天然ガス田(リバイアサン(Leviathan)(通常時天然ガス生産量日量12億立方フィート)、及びタマール(Tamar)(同10億立方フィート))等のガス田がイラン等により攻撃された場合、それら天然ガス田で生産される天然ガスはパイプラインを通じ、エジプトに輸出され国内需要を賄ったり液化されて欧州方面等に輸出されたりする他、ヨルダンに向け輸出され同国内で消費されているため、そのようなイスラエルからの天然ガス供給が滞ることにより、エジプトやヨルダンによる国外からのLNG輸入が拡大する結果、大西洋圏における天然ガス需給が引き締まる恐れがあるとの懸念が市場で増大した。

次に、エジプトやブラジルからの追加LNG輸入の可能性が挙げられる。従来自国のガス田で生産される天然ガスやイスラエルからパイプライン経由で輸入した天然ガスを液化して輸出していたエジプトは最近国内天然ガス生産が不振であると言われており(2024年6月の同国天然ガス生産量は2017年以来の低水準に到達したと伝えられており、同国で石油・天然ガス開発・生産活動に従事する国外等の企業に対し、エジプト政府からの事業費の支払いが滞っていることにより、企業の同国への投資活動が鈍化していることが背景にある旨9月19日にエジプトのマドブーリー(Madbouly)首相が明らかにしている)、夏場の空調のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が盛り上がった時期のみならず、秋場(2024年9月6日にエジプトは同年第4四半期においてLNGタンカー20隻相当分のLNGの調達のための入札を発表、9月12日に締め切られた結果、20隻分全て落札された旨9月13日に報じられた)や冬場(この時期エジプトは天然ガスの不需要期であるとされるが、2025年第1四半期においてLNGタンカー15~20隻相当分のLNGを同国が調達する可能性がある旨10月20日に伝えられた)等においても天然ガス需要を満たすために、LNG輸入を実施する動きが発生したり、発生する可能性があったりする旨伝えられた。

また、ブラジルにおいても追加LNG輸入が行なわれる可能性がある。40年ぶりの大規模な渇水となっているブラジルにおいては、貯水水準の低下とともに、水力発電量が低迷したことにより、代替として天然ガス火力発電の稼働が上昇するとともに、LNG調達を活発化させる兆候が見られる(同国は2025年第1四半期に1月当たり少なくともLNGタンカー5隻相当分のLNGの調達が必要となる可能性がある旨10月22日に伝えられたが、その後ブラジルを含む南米諸国等においては降雨に見舞われている旨11月8日に伝えられることにより、水力発電量回復への期待が増大しつつある)。

加えて、ウクライナ・ロシア情勢が挙げられる。10月23日には、北朝鮮が3,000人規模の部隊をロシアに送り込んでおり、ウクライナに展開される可能性があるとの証拠を掴んでいる旨米国が明らかにしており、ウクライナとのロシアとの戦闘激化と激化に伴う、ロシアからのウクライナ経由で輸送される天然ガス供給を巡る懸念が市場で高まった。そして、秋場のノルウェーの油・ガス田及び天然ガス処理施設等の季節的なメンテナンス作業が活発化する中、一部の施設では予定外の作業を実施する必要性が発生したため、天然ガス供給停止規模が拡大したり供給停止期間が延長されたりした。

このため、足元では貯蔵が高水準である欧州天然ガス需給は必ずしも実際に需給が引き締まっているわけではなかったものの、冬場の暖房向けの天然ガス需要期を控えて、需給を引き締める恐れのある要因が散見されたことから、そのような要因に対する懸念が市場で増大した結果、夏場の空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要期の終了が視野に入りつつあることにより8月19日の終値である100万Btu当たり推定12.944ドルが9月19日には同10.822ドルへと下落傾向となった欧州TTF天然ガス先物価格は、その後上昇傾向へと転じ、10月25日には同13.767ドルの終値と2023年12月1日(この日の終値は同13.874ドル)以来の高水準に到達した。しかしながら、10月26日未明(現地時間)に実施されたイスラエルによる対イラン報復攻撃が、イランの石油関連施設を回避して実施されたことにより、中東地域からの石油・天然ガス供給途絶懸念が市場で後退した。また、ウクライナとロシアが互いの国にあるエネルギー関連施設に対する攻撃を停止することについて初期段階の協議を実施している旨10月30日に報じられた(しかしながら、同日ロシアは否定している)。さらに、ハンガリー及びスロバキアはウクライナのパイプライン経由(現在はロシア産天然ガスを輸送中だが、2024年12月31日を以て5年に渡るロシアからのウクライナ経由欧州方面への天然ガス輸送契約を終了する意向である旨ウクライナ側が明らかにしていた)で日量1.2~1.4億立方フィート程度のアゼルバイジャン産の天然ガスを輸送する契約で合意に接近しつつあると10月31日午後(米国東部時間)に報じられた(ただ、11月1日スロバキア国営ガス会社SPPはそのような報道を否定した)こともあり、欧州の天然ガス価格は下落した。それでも、欧州における冬場の暖房シーズン到来に伴う気温の低下(図28参照)と風力発電の低迷により、暖房向けの民生部門及び発電部門における天然ガス需要の増加観測や、一部OPECプラス産油国が実施中の自主的な減産措置を従来の12月から1ヶ月延期する旨11月3日に決定したこともあり原油相場が上昇したこと、11月上旬にカリブ海を進みつつあったハリケーン「ラファエル(Rafael)」が当初メキシコ湾沖合を北西方向へと縦断することに伴い米国の一部天然ガス液化施設の操業に影響が及ぶとともに欧州方面等へのLNG輸出が脅かされる恐れがあるとの懸念が市場で強まったこと等が、欧州天然ガス価格を下支えした。ただ、ハリケーン「ラファエル」はその後勢力を弱めつつ南へと進路を変更したことにより、米国天然ガス液化施設の操業及び欧州方面等へのLNG輸出への影響に対する懸念が市場で後退した他、11月5日に実施された米国次期大統領選挙においてトランプ前大統領が当選確実(その後当選)となったことにより、同氏による関税引き上げ政策等に伴い米国内の物価上昇が加速するとともに、同国金融当局が高水準の政策金利を維持するとの観測が市場で発生したこともあり、米ドルが上昇したことが、一時的に原油相場に下方圧力を加えた結果、欧州天然ガス価格が下落する場面も見られた。それでも、トランプ前大統領の次期大統領就任に伴い、米国における天然ガス液化施設建設手続き等に際しての支障がバイデン政権時代に比べると緩和される結果、施設の建設が促進されるとともに、同国からのLNG輸出とともに欧州の米国からのLNG輸入が拡大する可能性がある一方、トランプ氏の親イスラエル及び反イラン政策の推進により中東情勢が一層不安定化するとともに同地域からの天然ガスやLNG供給が脅かされる恐れがあること等を含めた要因が欧州の天然ガス相場に上方及び下方双方から圧力を加えた。そのような中、ロシア産天然ガスをパイプライン(ノルド・ストリーム)に輸送する契約を締結し履行していたオーストリアのOMVが、2022年9月26日の同パイプラインの爆破による破損に伴い天然ガスを輸送できなくなったことにより発生した損害を巡りガスプロム関連会社ガスプロム・エクスポートに対し賠償請求を行なうべく提訴した結果、国際商工会議所(ICC: International Chamber of Commerce)が2.3億ユーロ(2.42億ドル)の賠償金を認める旨の判断を下した旨の通知を受領したと11月13日にOMVが発表、賠償金はOMVがガスプロムからパイプライン経由で供給されている天然ガスの購入代金を充当する(結果、OMVはガスプロムに対する天然ガス購入代金支払いを事実上停止する)ものの、その結果、ガスプロムからOMVに向けた天然ガス供給が停止する恐れがある旨併せて明らかにした他、実際11月15日にガスプロムはOMVに対し11月16日より天然ガスの供給を停止する旨通知したと同日OMVは明らかにした(これによりロシアからウクライナ経由でオーストリアに輸出されていた日量6億立方フィート相当程度の天然ガスの供給が影響を受けることになるものと見られるが、11月16日朝(現地時間)ガスプロムからの天然ガス供給は完全に停止した旨同日OMVが発表した)。このようなことから、欧州における天然ガス需給引き締まりに対する不安感が市場で増大したことが、同地域における天然ガス相場に上方圧力を加えた結果、オランダの天然ガス先物価格が上昇、11月15日には100万Btu当たり推定14.379ドルの終値と2023年11月24日(この日の終値は同14.958ドル)以来の高水準に到達した。

図28 英国(ロンドン)気温の推移(2024年)

北東アジアにおいては、夏場の高気温が長引いた(東京においては9月下旬初頭頃まで気温の高い状態が続いた)(図29参照)地域も見られたことにより、空調機器の稼働のための電力供給向けに発電部門における天然ガス需要が喚起される格好となったことから、一部諸国では電力会社の保有する天然ガス在庫水準が低下する場面が見られた。しかしながら、夏場の高気温に伴う発電部門向けの天然ガス需要の盛り上がりに備え、長期契約によるものを含め天然ガス調達がある程度進んでいたとされる一方、日本では自動車や半導体を含め産業部門における天然ガス需要が必ずしも好調ではなかったとされること、韓国、インド及びタイ等においては随時契約(スポット)LNG価格が高水準であったため、割高感から購入が敬遠されたこと、中国においては、国内で生産されたり、ロシアからパイプライン経由で供給されたりする天然ガスが、国内需要をある程度充足させた(図30参照)他、経済減速に伴い産業部門における需要がもたついたものと見られることが、国内天然ガス価格を抑制した結果、国外からのスポットLNG調達は価格下落局面以外では概して不活発であった(8~10月の中国LNG輸入は前年同月を上回っているが、これはいわゆる短、中及び長期売買契約による供給に伴うものであり、スポットLNG調達の占める割合はそれほど高くないものと推定される)。それでも夏場の発電部門向けに天然ガス需要が堅調になる可能性があるとの観測の下8月中旬頃までは北東アジア天然ガス先物価格は上昇基調となり、8月19日には100万Btu当たり14.515ドルの終値と2023年12月15日(この日の終値は同15.197ドル)以来の高水準に到達した。しかしながら、その後は、豪州における天然ガス液化施設における装置改修のための稼働低下見込み(さらには装置完了時期の繰り下げの発表)やハリケーン「フランシーヌ」の米国メキシコ湾来襲(9月11日夜(現地時間)に米国フロリダ州に上陸)に際し、同国の天然ガス液化施設操業への影響を巡る懸念が市場で増大したことが、LNG供給減少懸念を誘発した結果、アジア市場におけるLNG価格に上方圧力を加える場面が見られたものの、夏場の終了に伴う気温低下と発電部門における天然ガス不需要期が視野に入り始めたことや、インド等では依然として雨季(モンスーン)であったことにより水力発電稼働が活発化する反面ガス火力発電が低迷した結果、天然ガス需要が不振であったこともあり、LNGの購入が限定されるとともに需給の緩和感を市場が意識した結果、北東アジア天然ガス先物価格は下落、9月19日には同12.830ドルの終値となった。ただ、このように価格が下落傾向となったことにより、8月末頃にはインド、そして9月上旬から10月上旬を中心とする時期においては韓国等を含む北東アジア諸国で、値頃感からスポットLNGを購入する場面が見られたと伝えられる(図31及び32参照)。また、欧州天然ガス価格上昇に伴い、欧州及びアジア間でのLNGを巡る競合激化に対する観測が市場で強まった。このような要因により、北東アジアLNG先物価格も併せて上昇傾向となり、10月25日には100万Btu当たり13.795ドルの終値と9月5日(この日の終値は同13.815ドル)以来の高水準に到達した。それでも、長期契約や価格下落時等を含め、冬場の暖房シーズン到来に向けた天然ガス(LNG)の調達が進展した(中国の天然ガス在庫は健全であり2024~25年の冬場のLNG調達は完了した旨10月18日報じられた(また、中国等の需要家は100万Btu当たり12.5ドル以下でなければ購入の関心を示さない旨11月12日に伝えられる)他、韓国においても2024年中の天然ガスの確保は大方完了した旨10月2日に伝えられたうえ、日本の都市ガス会社も在庫が豊富であるため、足元LNG価格に値頃感がなければ冬場のLNGを追加して調達する必要はない旨10月25日に報じられる)中、欧州天然ガス価格ほどには北東アジアLNG価格は上昇しなかった結果、欧州天然ガスと北東アジアLNGの価格差(従来欧州天然ガス価格は北東アジアLNG価格を下回っていた)は縮小したうえ、11月中旬には欧州天然ガス価格が北東アジア天然ガスを上回る場面が見られた。

図29 日本(東京)気温の推移(2024年)

図30 中国天然ガス生産及びパイプライン経由輸入(2016~24年)

図31 中国、台湾及びインドのLNG輸入増減量(前年同月比)(2016~24年)

図32 日本及び韓国のLNG輸入増減量(前年同月比)(2016~24年)

以上

(この報告は2024年11月18日時点のものです)

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