ページ番号1010281 更新日 令和6年12月16日
原油市場他: ウクライナとロシアとの攻撃激化等が上方圧力を、イスラエルとヒズボラの停戦等が下方圧力を加える結果、範囲内での変動となる原油価格
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概要
- 米国では秋場のメンテナンス作業実施が峠を越えるとともに製油所の原油精製処理活動が活発化したこともあり、原油在庫は減少となったが平年幅上限を超過する状態は継続している。他方、石油製品製造活動の活発化とともにガソリン及び留出油の両在庫は増加傾向となったが、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年幅下限付近に位置する、それぞれ量となっている。
- 2024年11月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州では秋場のメンテナンス作業終了に向け原油調達が促進されたものと見られることから在庫水準はほぼ同水準となった。ただ、米国では在庫は減少となった他、日本でも原油の輸入増加時期が12月中旬以降に繰り下げられる格好となったものと見られることから、11月末時点では原油在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本では製油所の稼働が上昇したことに伴う石油製品製造活動の活発化もあり在庫は微増となった。ただ、欧州では製油所の稼働上昇に伴い石油製品製造活動は活発化したものの、気温低下に伴い暖房油需要が増加したことにより、石油製品在庫はほぼ横這いとなった。また、米国でもその他の石油製品の在庫が相当程度減少した(冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあることに伴うものと見られる)ことにより石油製品在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少した他、平年並みの量となっている。
- 2024年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場においては、米国バイデン政権がウクライナに対し同国製長距離兵器を使用したロシアへの攻撃を承認した旨11月17日に伝えられたことに伴いウクライナがロシアに対し当該兵器等を使用して攻撃し始めた反面、11月21日にはロシアも超音速中距離弾道ミサイルをウクライナに対し発射したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた一方、11月27日にイスラエルとイスラム武装勢力ヒズボラとの間での事実上の停戦が発効したことや12月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において一部産油国による実質的な増産措置の延期等が決定されたものの、それを以てしても2025年はなお石油供給過剰となる旨の観測が市場で発生したこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は1バレル当たり66~72ドルの範囲内で明確な上昇もしくは下落の傾向を示すことなく推移した。
- この先、OPECプラス産油国閣僚級会合における減産緩和開始時期の延期等を以てしても2025年は相当程度の供給過剰となるものと見込まれることが原油価格の上昇を抑制するものと考えられる。ただ、既に北半球では冬場の暖房用燃料需要期に突入していることから季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されやすく、この面では原油相場が下支えされやすい他、気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。そのような中、中国経済指標類や同国政府等による大規模景気刺激策に対する期待、イスラエル、レバノン及びシリア等の中東情勢やウクライナとロシアとの間での戦闘等を巡る展開、対イラン政策を含むトランプ次期大統領もしくは次期政権関係者の発言等が原油相場に影響を及ぼしうるものと考えられる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPECプラス産油国が2025年末まで実施予定であった公式減産措置等を2026年末まで延長するとともに、日量216万バレルの自主的な減産措置の段階的緩和期間を12ヶ月間から18ヶ月間へと拡大
(1) 協議内容等
OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2024年12月5日に閣僚級会合をテレビ会議形式で開催した。同会合は当初12月1日に開催される予定であったが、一部OPECプラス産油国大臣が12月1日に開催される湾岸諸国首脳会議(於クウェート)に出席する必要が生じたため、12月5日に延期する旨11月28日にOPECが発表した(併せてOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC:Joint Ministerial Monitoring Committee)の開催も当初予定の12月1日から12月5日に延期する旨OPECは明らかにした)。同会合においては、石油市場の安定を達成及び維持し、長期的な指針及び透明性を確保するとともに、石油市場に対し慎重、積極的かつ先制的に対応するという方針に従い、従来2025年末を期限としていた公式減産措置を2026年末まで延長する旨決定した(表1参照)。
また、6月2日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合において決定された、アラブ首長国連邦(UAE)の原油生産目標を2025年1月から9月にかけての9ヶ月間合計で段階的に日量30万バレル引き上げることにつき、引き上げ開始時期を2025年4月に延期したうえで2026年9月までの18ヶ月間に渡り段階的に日量30万バレル引き上げるとする旨併せて決定した。
さらに、外部の専門機関(IHSマークイット(IHS Markit)、ウッド・マッケンジー(Wood Mackenzie)及びライスタッド・エナジー(Rystad Energy))によるOPECプラス産油各国の原油生産能力評価を2026年11月初頭にかけ実施するとともに、2027年のOPECプラス産油各国の原油生産目標設定のための参考とするとした。
そして、7機関(米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)、S&Pグローバル・プラッツ(S&P Global Platts)、アーガス・メディア(Argus Media)、エナジー・インテリジェンス(Energy Intelligence)、IHSマークイット、ウッド・マッケンジー及びライスタッド・エナジー)のデータを使用しつつ、OPECプラス産油各国の原油生産及び遵守状況を監視していくことを再確認した。
加えて、OPECプラス産油国閣僚級会合を6ヶ月毎に開催、OPECプラス産油国JMMCを2ヶ月毎に開催するとともに、JMMCはOPECプラス産油国共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)及びOPEC事務局の支援を受け、世界石油市場の状況、(OPECプラス産油各国の)原油生産水準及び減産遵守状況を検討する他、必要と判断される如何なる時において追加会合を招集したりOPECプラス産油国閣僚級会合を開催したりする権限をJMMCに付与する旨改めて表明した。
また、減産の完全遵守と(原油生産目標を超過して生産した場合には追ってその超過生産分を追加して減産することにより)減産を補償する措置に固執することが極めて重要であることが改めて強調された。
さらに、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際し、自主的な減産措置を実施している一部OPECプラス産油国8ヶ国(アルジェリア、イラク、クウェート、サウジアラビア、UAE、カザフスタン、オマーン及びロシア)による会合も併せて開催された。当該会合においては、従来2025年末を期限としていたサウジアラビア、アルジェリア、イラク、クウェート、UAE、ロシア、カザフスタン及びオマーンによる日量165万バレルの自主的な追加減産措置を2026年末まで延長することを決定した。また、石油市場の安定を図るべく、2024年1月以降実施している日量216万バレル(OPECプラス側は日量220万バレルとしている)の自主的な追加減産につき、従来2025年1月から12月にかけ段階的に実施する予定であった緩和の開始時期(前回のOPECプラス産油国閣僚級会合において2024年9月の緩和開始を決定していたが、その後2回延期された)を同年4月へと3ヶ月間延期したうえ、段階的な緩和期間を当初の12ヶ月間から18ヶ月間へと拡大する結果、2026年9月にかけより緩やかに緩和していくことを決定した(表2及び3参照)。ただ、市場の状況次第では、この自主的な追加減産の段階的な緩和は一時的に停止したり、減産規模を拡大したりすることもありうるとした。
また、目標を超過して原油を生産していた産油国が、目標を完全遵守するとともに、2024年1月以降の目標を超過した生産量につき、今後2026年末にかけ目標を超過して減産することを内容とした減産遵守のための補償計画の更新版をOPEC事務局に提出する旨誓約したことを、会議では歓迎した。なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2025年5月28日に開催される予定である。
また、12月10日にはOPEC総会(通常総会)がテレビ会議形式で開催され、イランのパクネジャド(Paknejad)石油相を2025年1月1日から1年間の任期でOPEC議長(因みに2024年のOPEC議長はガボンのアベケ(Abeke)石油相であった)、イラクのアブドゥルガニ(Abdulghani)エネルギー担当副首相兼石油相をOPEC議長代行に、それぞれ選出した。そして、総会においては、別途ナイジェリアのOPEC理事であるアデエミ・ベロ(Adeyemi-Bero)氏をOPEC理事会議長に、サウジアラビアのOPEC理事であるアルアーマ(Al-Aama)氏を理事会議長代行に、それぞれ選出した。さらに、2022年7月5日にナイジェリアのバーキンド(Barkindo)前事務局長が死去したことに伴い同年8月1日からOPEC事務局長を務めているクウェートのアルガイス(Al Ghais)氏は2025年8月1日から3年間の任期で事務局長の職を継続することとなった。なお、次回のOPEC総会(通常総会)は2025年5月28日に開催される予定である。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2023年11月30日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合に際しては、2024年1月1日から2024年3月31日にかけての自主的な追加減産の実施方針を一部の産油国から個別に発表する形となった。その後、2024年3月3日夜(現地時間)には、世界石油市場安定化のため、サウジアラビアが2024年1~3月に実施中の日量100万バレルの自主的な減産を6月末まで延長(それ以降は市場の状況によっては漸進的に減産を縮小)する旨国営サウジ通信が報じた他、他のOPECプラス産油国も2024年第1四半期に実施中の自主的な減産を概ね同水準の規模で第2四半期末まで延長したうえ、ロシアが2023年12月比で4月につき日量35万バレル、5月につき同40万バレル、6月につき同47.1万バレルの、それぞれ自主的な減産を実施(それ以降は市場の状況によって漸進的に減産を縮小)する旨、3月4日夜半過ぎ(同)に国営サウジ通信が報じた。また、2024年6月2日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、OPECプラス産油国がより長期に渡り減産を実施することを通じ世界石油需給引き締めの意志を市場に示すとともに、市場における原油価格の先高感の醸成と直近の原油価格の下支えを図ろうとしたものと見られ、市場関係者間では殆ど予想されていなかった、従来2024年末まで実施予定であった公式減産及びサウジアラビア、アルジェリア、イラク、クウェート、UAE、ロシア、カザフスタン及びオマーンによる日量165万バレル程度の自主的な減産の2025年末への延長を決定した。他方、別途当初2024年6月までの予定で実施中であったサウジアラビア、アルジェリア、イラク、クウェート、UAE、ロシア、カザフスタン及びオマーンによる日量216万バレルの自主的な減産については、当初予定通り2024年6月で終了した場合、2024年後半及び2024年全体において石油市場が相当程度供給過剰となることが予想された。ただ、足元で一部OPECプラス産油国が減産措置の継続に対し消極的な姿勢を示し始めている旨示唆された(後述)。このため、2024年後半においても、世界石油需給バランスの均衡を図るべく、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、当該減産措置を2024年9月まで同規模で延長したうえ、以降は段階的に規模を縮小、2025年9月を以て終了する旨決定するとともに、今後の市場の状況によっては、減産規模の縮小を停止したり、減産規模を拡大したりすることもありうるとしたものと考えられる。
それでも、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催後の2024年7月15日に中国国家統計局から発表された2024年4~6月期の同国国内総生産(GDP)が前年同期比4.7%の増加と同年1~3月期(同5.3%の増加)から大幅低下、2023年1~3月期(この時は同4.5%の増加)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(同5.1%の増加)を下回った旨判明して以降、中国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速に対し疑問視する見方が市場で発生した。加えて、2024年7~9月期の同国GDPも同4.6%の増加と市場の事前予想(同4.5%の増加)は上回ったものの、前期からはさらに伸びが鈍化した他、同国の購買担当者指数(PMI)、鉱工業生産、小売売上高、輸出入及び不動産等の関連指標類も、一時的に状況が改善していることを示唆する場面は見られるものの、全体として同国の持続的な経済回復に対する市場関係者の確信をもたらすには至らなかった他、同国の原油輸入や製油所における原油精製処理量も軒並み前年を下回る状況となっている旨判明した。そのような中、例えば、中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会終了後の11月8日夕方(現地時間)には、同国の藍仏安財政相が、簿外債務処理のため、今後3年間同国地方政府の特別地方債発行上限を年間2兆元、合計6兆元(12兆円)引き上げることを含め10兆元(210兆円)の対策を講じる方針である他、この先さらなる景気刺激策を発表する予定である旨示唆するなど、中国政府等はしばしば経済支援策の実施方針を表明した。それでも、地方政府の債券発行上限引き上げ(因みに、2023年末の同国地方政府の簿外債務は14兆元である旨同日同財政相は説明したが、国際通貨基金(IMF)は、当該債務は最大60兆元に達する可能性がある旨推定していた)では同国の消費は喚起されないとの観測が市場関係者間で発生した他、さらなる景気刺激策については同国財政相からは具体的な説明が行なわれなかった。このようなことを含め同国政府等による景気刺激策の大半は市場の期待を下回る状態となっており不動産部門の不振を初めとして同国経済減速観測が払拭しきれない中、中国石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がった。このようなことと併せ、OPECは、8月12日に発表した月刊オイル・マーケット・レポートにおいて2024年の世界石油需要を前月から日量13万バレル、2025年の世界石油需要を同20万バレル、9月10日に発表した同レポートにおいて、2024年を同8万バレル、2025年を同12万バレル、10月14日に発表した同レポートにおいて2024年を同11万バレル、2025年を同21万バレル、さらに11月12日に発表した同レポートにおいても2024年を同11万バレル、2025年を同21万バレル、それぞれ下方修正した。また、2023年10月7日に開始されたイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での戦闘は、その後イスラエルとイスラム武装勢力ヒズボラとの戦闘へと拡大したうえ、ハマス及びヒズボラを支援するイランとイスラエルとの対立の先鋭化に繋がり、両国の間でミサイル等の発射の応酬となる場面も見られたが、両国等の石油を含むエネルギー関連施設に大きな被害が発生する場面は見られなかったこともあり、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念は市場で後退する格好となった。
以上のような要因もあり、2023年10月19日には1バレル当たり89.37ドルの終値に到達した原油価格は2024年9月10日には65.75ドルと、2021年12月1日(この日の終値は65.57ドル)以来の低水準に到達するなど下落傾向を示した他、その後も概ね67~77ドルを中心とする領域で推移するなど、低迷気味となった(図1参照)。
このような中、OPECプラス産油国は日量216万バレルの自主的な減産措置の緩和開始時期を当初の10月から12月へと延期する旨決定したと9月5日に国営サウジ通信が報じた他、OPEC事務局も同日同趣の発表を行なったうえ、11月3日には当該減産措置の緩和開始をさらに1ヶ月延期して2025年1月とする旨OPECが発表した。しかしながら、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前時点においても、2025年1月より減産措置緩和を開始した場合、2025年は日量248万バレルの供給過剰となることから、原油相場に下方圧力が加わることが予想された(表4参照)。このため、原油価格の下落もしくはもたつきに伴う石油収入減少及び低迷を回避することを目的として、世界石油需給緩和を抑制すべく、減産措置緩和の開始時期のさらなる延期をOPECプラス産油国は迫られた。
しかしながら、世界各国及び地域による地球環境問題への対応に伴う、中長期的な世界石油需要を巡る不安感から、自主的な減産措置を実施するOPECプラス産油国の一部から、自国の原油生産量拡大の要望が示されていたものと見られる。従来からUAEはOPEC加盟が自国の長期的利害(地球環境問題への対応もあり、将来の世界石油需要を巡る不透明感が強まる中、早期に原油生産を進めることにより自国で埋蔵される石油資源を使い切るとともに石油生産収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識していたことが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討していた(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)旨2020年11月17日に伝えられていた。さらに、UAEは引き続きOPEC脱退につき内部で検討している旨2023年3月3日朝(米国東部時間)にウォールストリート・ジャーナルが報じるなどした(しかし、ウォールストリート・ジャーナルの報道は真実から大きく乖離している旨UAE関係筋が明らかにしたと、ウォールストリート・ジャーナルによる報道の1時間程度後にロイター通信が報じるなど、情報が錯綜した)。加えて、既に自国は十分な減産を実施しており、2024年6月2日に開催されるOPECプラス産油国会合閣僚級会合においては、さらなる減産には合意しない旨5月11日にイラクのアブドルガニ石油相が表明する場面が見られた(同国が減産幅の拡大に反対しているのか、もしくは自主的なものを含め既存の減産の延長に反対しているのかは明らかにしなかった)。さらに、カザフスタンにおいては、シェブロンが主導しているテンギス油田の拡張プロジェクトが2025年第2四半期に完了する予定であり、これにより、同油田の原油生産能力は日量26万バレル拡大するとされた他、クウェート及びアルジェリアも2025年に増産する可能性がある旨6月2日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催前に示唆されていた。
このようなこともあり、OPECプラス産油国は減産措置緩和開始を延期することにより、原油価格の下落抑制を図る一方、延期期間を3ヶ月と短期間にすることを通じ、近い将来の増産に含みを持たせることにより、増産を希望する一部産油国を説得する格好としたものと考えられる。そして、2025年3月上旬頃時点までに入手される中国経済及び石油需要を含む世界石油需給バランス等を考慮に入れたうえで、2025年4月の一部OPECプラス産油国による減産措置の緩和開始の是非を改めて判断することにしたものと思われる。
ただ、石油市場関係者間33者中26者は、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合における一部産油国による自主的な減産措置の緩和開始を2025年1月から延期する旨予想しているとの認識を示していたうえ、そのような認識を持つ関係者の半数は少なくとも3ヶ月は減産措置の緩和開始を延期するものと見込んでいる旨、閣僚級会合開催前の11月25日に報じられていた。また、OPECプラス産油国は2025年4月まで減産緩和を延期する可能性が高い旨関係筋が明らかにしたと12月2日夕方(米国東部時間)にロイター通信が報じていた。このため、今回の会合において3ヶ月間の減産措置の緩和開始延期のみが決定されても、市場関係者の事前予想通りの驚きのない展開となってしまい、かえって会合後の原油市場では利益確定が発生するとともに原油相場に下方圧力が加わることが予想された。
このようなことから、OPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しては、市場関係者から事前に予想されていなかった、従来2025年末を期限としていた公式減産措置及び一部産油国が実施中であった日量165万バレルの自主的な減産措置を1年間延長することで、より長期的な世界石油供給の調整を行なう意志を示すことに加え、UAEの日量30万バレルの段階的増産の開始時期を当初予定の2025年1月から4月へと延期するとともに、従来9ヶ月間に渡り実施する予定であったUAEによる日量30万バレルの段階的増産、及び12ヶ月間に渡って実施する予定であった一部産油国による日量216万バレルの減産措置の緩和、それぞれの期間を18ヶ月間に拡大することにより、より緩やかな供給拡大を実施することを通じて、世界石油需給緩和感の市場における醸成を抑制することにより、原油価格の先高感の醸成とともに原油価格の下支えを図ろうとしたものと考えられる。
(3) OPECプラス産油国閣僚級会合等の結果を受けた原油価格の動き等
今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しては、当初一部OPECプラス産油国が実施中である日量216万バレルの自主的な減産措置の緩和開始時期の3ヶ月間の延長が決定したとの情報が流れたことで、市場関係者による事前予想と一致することにより驚きがない結果となりつつあるとの認識と失望が市場で広がる格好となったこともあり、当該情報が流れた後の12月5日朝(米国東部時間)には原油価格は一時1バレル当たり67.98ドルと前日終値(68.54ドル)比で0.56ドル下落する場面が見られた。
しかしながら、その後は、従来2025年末を期限としていたOPECプラス産油国の公式減産措置や一部OPECプラス産油国による日量165万バレルの自主的な減産措置を2026年末まで延長したことに加え、UAEの原油生産目標の日量30万バレルの段階的引き上げ開始時期を従来予定されていた2025年1月から4月へと延期したうえ、従来12ヶ月間にわたり実施する予定であった一部OPECプラス産油国が実施中であった日量216万バレルの段階的減産緩和や9ヶ月間に渡り実施する予定であったUAEの原油生産目標の段階的引き上げにつき、実施期間をともに18ヶ月間に拡大するといった、市場関係者間で事前に予想されていなかった決定がなされた旨明らかになったことにより、相対的な世界石油需給引き締まり感を市場が意識した結果、原油価格は反発、この日の午前9時前(同)には原油価格は1バレル当たり69.16ドル(同0.62ドルの上昇)に上昇する場面が見られた。それでも、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合等での決定を以てしても、2025年全体としては供給過剰となる可能性があるとの市場の見方を払拭しきれなかった(この時点では今回の会合で決定された原油生産方針を実施したとしても、2025年は世界石油供給が需要を日量162万バレル上回ることが予想された(表5参照))こともあり、その後原油相場に再び下方圧力が加わった結果、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.30ドルと、前日終値比で0.24ドルの下落となった。また、この流れは12月6日の石油市場にも引き継がれたこともあり、同日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.10ドル下落の67.20ドルの終値と、11月15日(この日の終値は67.02ドル)以来の低水準に到達した。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2024年9月の米国ガソリン需要(確定値)は日量899万バレル、前年同月比で1.7%程度の増加となり(図2参照)、8月の当該需要である同926万バレルから需要量が減少したものの、同月の前年同月比0.2%程度の増加から増加率が拡大した。また、当該需要は速報値(前年同月比0.5%程度増加の日量888万バレル)から上方修正されている。8月の同国からのガソリン輸出量が速報値段階では日量88万バレル程度と推定されたところ確定値では同70万バレルへと下方修正されたことにより、同国ガソリン需要が速報値から確定値へと移行する段階で、下方修正された部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正の一因となったものと考えられる。8月31日~9月2日の同国労働者の日(レイバー・デー)(9月2日)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに秋場のガソリン不需要期に突入したことが、9月の米国ガソリン需要が前月比で減少した背景にある。ただ、2024年9月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.338ドルと前年同月比(同3.958ドル)比で15.7%の下落となった(因みに2024年8月の当該価格は前年同月比で11.3%の下落であった)ことにより、2024年9月のガソリン需要が喚起される格好となったことが、同月のガソリン需要の前年同月比の増加率を拡大させた一因であるものと考えられる。もっとも、同月の同国自動車運転距離数は前年同月比で0.1%の減少となっていたところからすると、9月の同国ガソリン需要が前年同月比で増加した反動が10月の当該需要において負の影響となって現れる可能性があるので注意する必要があろう(因みに10月の同国ガソリン需要(速報値)は前年同月比で1.8%の減少となっている)。なお、2024年9月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年8月の当該需要(日量920万バレル)(確定値)を2.2%程度下回っている。他方、2024年11月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量877万バレル、前年同月比1.6%の減少と、10月の当該需要(速報値)である日量894万バレルから需要量は減少したものの、同月の前年同月比1.8%程度の減少から減少率は縮小した。11月の米国は10月よりも冷え込んだことにより、個人の外出が敬遠され始めたことが、11月の米国ガソリン需要を前月比で押し下げる格好となったものと考えられる。しかしながら、2024年11月は前年同月比では相対的に温暖であったことから、2024年11月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.175ドルで前年同月(同3.443ドル)比7.8%の低下と2024年10月(同12.9%の低下)に比べるとガソリン小売価格の前年同月比での下落率が縮小しているにもかかわらず、同国のガソリン需要の前年同月比での減少率が縮小しているものと考えられる。なお、2024年11月の米国ガソリン需要は2019年11月の当該需要(日量921万バレル)(確定値)を4.6%程度下回っている。また、米国では秋場のメンテナンス作業実施が峠を越えつつあることにより、製油所の稼働が上昇、原油精製処理量が増加する(図3参照)とともにガソリンを含む石油製品製造活動が活発化したことから、ガソリン生産も増加したものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図4参照)。このようなこともあり、11月上旬から12月上旬にかけ米国ガソリン在庫は混合基材を中心として総じて増加傾向を示した他、平年幅上限を超過する量となっている(図5参照)。
2024年9月の米国における軽油及び暖房油を含む留出油需要(確定値)は日量371万バレル、前年同月比3.8%程度の減少となり(図6参照)、8月の同388万バレル(前年同月比4.4%程度の減少)から需要量が減少した反面、前年同月比での減少率は縮小した。また、当該需要は速報値(前年同月比1.4%程度減少の日量380万バレ)から下方修正されている。9月の米国鉱工業生産が前同月比で0.5%の減少となったこともあり同月の物流活動も前月比で0.9%の減少となったことが、同国の留出油需要が前月比で減少した一因となったものと考えられる。しかしながら、2024年9月の全米平均軽油小売価格は1ガロン当たり3.558ドルと前年同月(同4.563ドル)比で22.0%下落、同年8月の15.3%の下落から下落率が拡大したことにより、軽油の給油活動が前年同月比で活発化しているものと見られることが、9月の同国留出油需要の前年同月比での下落率を前月から縮小させたものと考えられる。なお、2024年9月の米国留出油需要は2019年9月の当該需要(日量392万バレル)(確定値)を5.3%程度下回っている。他方、2024年11月の米国留出油需要(速報値)は推定日量373万バレル、前年同月比で5.7%程度の減少となり、10月の日量392万バレル(前年同月比で3.5%程度の減少)(速報値)と比べ、需要量は減少したうえ前年同月比での減少率も拡大した。11月に入り秋場の農作物収穫シーズンが峠を越えつつあったことから、農作業のために利用される農機具向けの軽油需要が減少し始めたことが、11月の留出油需要が前月比で減少した背景にあるものと考えられる。また、2024年11月は米国北東部が前年同月に比べ相対的に温暖であったことから、同地域において暖房用燃料の中心である暖房油の需要が抑制された結果、同月の留出油需要の前年同月比での減少率が10月から拡大したものと考えられる。なお、2024年11月の米国留出油需要は2019年11月の当該需要(日量420万バレル)(確定値)を11.3%程度下回っている。そして、このように米国の留出油需要はもたつき気味で推移した反面、秋場のメンテナンス作業実施が峠を越えつつあるとともに、製油所の稼働が上昇、石油製品製造活動が活発化するとともに留出油生産も上向きつつあった(図7参照)ことから、11月上旬から12月上旬にかけては米国の留出油在庫は増加傾向となったが、平年幅下限付近に位置する量となっている(図8参照)。
2024年9月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比0.8%程度増加の日量2,031万バレルとなり(図9参照)、8月の同2,071万バレルから需要量が減少した一方、同月の前年同月比0.3%程度の減少から増加に転じた。ガソリン需要が前月比で減少した反面、前年同月比では8月から増加率が拡大したことが影響している。また、ガソリン需要が速報値から上方修正された反面留出油需要が速報値から下方修正されたこともあり、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比0.7%程度増加の日量2,029万バレル)とほぼ同水準となっている。なお、2024年9月の米国石油需要は2019年9月の当該需要(日量2,025万バレル)(確定値)を0.3%程度上回っている(石油化学向けのエタン等の需要増加もあり2024年9月のその他の石油製品の需要が2019年同月比で18.4%の増加となっていることが寄与する格好となっている)。他方、2024年11月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,039万バレル、前年同月比で1.6%の減少となっており、10月の同国石油需要(速報値)である日量2,064万バレル(前年同月比0.0%程度の増加)から需要量が減少したうえ前年同月比では増加から減少に転じた。ガソリン、留出油及びその他の石油製品等の需要が前月から減少していることが、同国石油需要の前月比での減少に反映されている一方、ガソリン、留出油及びプロパン/プロピレン等の各需要が前年同月比で減少となった(2024年11月は全米でも前年同月に比べ温暖であったことが、暖房向けのプロパン需要を抑制したものと見られる)ことが、11月の米国石油需要の前年同月比での減少をもたらした一因であるものと考えられる。なお、2024年11月の米国石油需要は2019年11月の当該需要(日量2,074万バレル)(確定値)を1.5%程度下回っている。また、11月上旬を中心とした時期におけるハリケーン「ラファエル(Rafael)」の米国メキシコ湾来襲に伴い当該地域における一部石油生産関連施設の操業が停止したことにより11月1日には日量1,350万バレルであった同国原油生産量は11月15日には1,320万バレルへと減少した(ただ、その後11月29日には日量1,350万バレル程度へと回復したうえ、12月6日には日量1,363万バレルの史上最高水準に到達した)反面、製油所の原油精製処理量が増加傾向となったこと、欧州等における秋場のメンテナンス作業実施が峠を越えつつあることにより製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理活動が活発化しつつあることと併せ、欧州方面への原油輸出が活発化するとともに米国への原油輸入が抑制される格好となったこともあり、11月上旬から12月上旬にかけ米国原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図10参照)。そして、原油及びガソリンの両在庫が平年幅上限を超過していることから、留出油在庫が平年幅下限付近に位置する量となったものの、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。
2024年11月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州では秋場のメンテナンス作業終了に向け原油の調達が促進されたものと見られることから製油所の原油精製処理量は増加したものの在庫水準はほぼ同水準となった。ただ、米国では在庫は減少となった他、日本でも秋場に実施されていた一部製油所でのメンテナンスや不具合が発生した装置の改修が完了し、12月上旬までに操業を再開した一方、原油の輸入増加時期が12月中旬以降に繰り下げられる格好となったものと見られることから、11月末時点では同国の原油在庫水準は低下した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図13参照)。石油製品については、日本においては、製油所の稼働が上昇したことに伴う石油製品製造活動の活発化によりガソリン、ナフサ及び軽油等の石油製品在庫が増加したが、月末に向けての日本の一部地域における気温低下に伴い暖房向けの灯油需要が喚起されたことで当該製品等の在庫が減少したことにより部分的に相殺された結果、石油製品在庫は微増となった。また、欧州においては、製油所の稼働上昇に伴い石油製品製造活動が活発化したことにより、ガソリン等の在庫は増加したものの、気温の低下に伴い暖房向けの暖房油需要が増加したものと見られることもあり留出油在庫が減少したことで相殺された結果、同地域での石油製品在庫はほぼ横這いとなった。ただ、米国においては製油所の稼働上昇に伴いガソリンや留出油等の在庫は増加となったものの、その他の石油製品の在庫が相当程度減少となった(冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあることに伴うものと見られる)ことにより相殺されて余りあったことにより、同国での石油製品在庫は減少となった。結果として、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少した他、平年並みの量となっている(図14参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から減少した他平年幅上限付近に位置する量となっている(図15参照)。なお、2024年11月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.6日と10月末の推定在庫日数(61.0日)から減少している。
11月13日に1,400万バレル強半程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、11月20日には1,500万バレル台前半程度の量へと増加したが、11月27日には1,300万バレル台前半程度の量へと減少した。そして、12月4日には1,400万バレル強程度、そして12月11日には1,500万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと回復した結果、11月13日の量を若干ながら上回る状況となったが、11月中旬から12月中旬にかけ当該在庫は概ね限られた範囲内で明確な増加もしくは減少の傾向を示すことなく推移した。夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期には欧米諸国にガソリンを輸出していたサウジアラビアやUAE等の中東諸国が、ドライブシーズンが終了したことにより輸出に伴う収益が低下した欧米諸国に代わり相対的に収益が良好であったアジアの石油市場の中心地であるシンガポールに向けガソリンを輸出したことが、シンガポールの軽質留分在庫を押し上げる格好となった他、12月1日より中国のガソリン輸出に課される増値税(付加価値税)の還付率が従来の13%から9%へと引き下げられることに伴い、12月1日の増値税還付率引き下げ前の駆け込みで輸出しようとする中国企業があったことが、中国からシンガポールへのガソリンの流れを引き上げる形で作用した反面、12月に入ってからは、増値税還付率の引き下げに加え、中国企業の保有する石油製品輸出枠(同国では第3回の石油製品(ガソリン、軽油及びジェット燃料)輸出枠800万トン(別途低硫黄重油100万トン)が付与された旨9月20日に報じられた)も消化が進みつつあったこともあり中国からシンガポール等へのガソリン輸出が減少した他、インドネシアからのガソリン購入が活発化した(9月下旬から11月前半頃にかけ同国のバリクパパン(Balikpapan)製油所(操業者:プルタミナ、原油精製処理能力日量36万バレル)において不具合が発生したことが影響している可能性がある)こともあり、シンガポールからのガソリン輸出が活発化したことが、シンガポールの軽質留分在庫を減少させる形で作用した。このような要因が、シンガポールにおける軽質留分在庫が増減しつつも比較的限られた範囲内で明確な方向感なく推移した背景にある。しかしながら、米国の感謝祭(サンクスギビング・デー)に加え、世界各国及び地域等におけるクリスマスや年末・年始の休暇シーズンにおける個人の外出の活発化に伴うガソリン需要の季節的な増加期待が市場で増大しつつあることが、欧米諸国のみならずアジア地域におけるガソリン価格に上方圧力を加えたことから、11月中旬から12月中旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向が見られた。
また、秋場に収穫した穀物の乾燥や秋場以降の北半球の気温低下に伴う暖房等向けの液化石油ガス(LPG)の季節的な需要増加観測が市場で強まりつつあることが、LPG価格に上方圧力を加えた結果、例えばサウジアラビアが輸出するLPGの契約価格(CP: Contract Price)が上昇基調となったこともあり、石油化学製品製造の際の原料となるナフサと競合するLPGの価格競争力が低下するとともにLPGの石油化学製品製造のための原料向け需要が減少する反面、LPGに比べ相対的に割安であるナフサの需要が増加するとの観測が市場で発生した。このため、アジア市場におけるナフサ需給の相対的な引き締まり感を市場が意識するようになったことが、ナフサ価格に上方圧力を加えた。しかしながら、中国において石油化学製品製造のために利用されるプロパン脱水素化(PDH: Propane Dehydration)装置向けのLPG需要が軟調である(同国経済減速の影響を受けている可能性がある)ことが、LPG価格を抑制する格好となっていることが、ナフサ価格に下方圧力を加えていると見る向きもある。また、米国、欧州及びアジア地域の年末に向けた休暇シーズンの到来に伴う個人の外出の活発化によるガソリン需要の上振れ期待から、ガソリンに混入するナフサの需要も増加するとの観測が市場で発生しつつあることが、アジア地域のナフサ価格を下支えする格好となったものの、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に比べれば、ガソリン需要は限定的な規模にとどまる他、中国がナフサ分解装置の導入を進めつつある(山東裕龍石化(Shandong Yulong Petrochemical)が建設していたナフサ分解装置(エチレン製造能力年産150万トン)が操業を開始した旨は12月12日に同社が発表した)ことにより、石油化学製品製造能力が拡大しつつある(中国のナフサ分解装置向けのナフサは同国が調達した原油を製油所で精製することにより得られているものと見られる)反面、中国経済が減速しつつあることもあり石油化学製品需要がもたつき気味であるとされることが、かえって中国を除くアジア地域における石油化学製品製造向けのナフサ需要を抑制したことに加え、欧州における秋場の製油所メンテナンス作業実施が峠を越えつつあることにより同地域における石油製品製造活動が活発化するとともにナフサの生産が増加しつつあることもあり、アジアにおけるナフサ需給も緩和するとの観測が市場で増大したことが、同地域のナフサ価格に下方圧力を加えた。結果として、10月中旬から11月中旬にかけドバイ原油価格を概ね上回っていたアジア市場におけるナフサ価格は、11月中旬から12月中旬にかけてはドバイ原油を下回るようになった他、その幅は徐々に拡大しつつある。
11月13日には900万バレル台後半程度の量であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分の在庫は、その後増加し、11月20日、27日及び12月4日には1,000万バレル台前半程度、そして12月11日には1,100万バレル台前半程度の、それぞれ水準に到達した。中国の石油製品輸出枠の消化が進んだことに伴い軽油輸出余地が縮小したものと見られることにより、同国からアジア市場に向けた軽油供給が低減したと言われており、これがシンガポールにおける中間留分在庫の増加を抑制する形で作用した。しかしながら、欧州で気温が低下するとともに、暖房向けの軽油需要が喚起されつつある一方、秋場のメンテナンス作業が峠を越えつつあることにより、製油所の稼働が上昇するとともに軽油製造活動が活発化したこともあり、欧州の軽油在庫は前年同期を上回るなど底堅く推移したことが、同地域における軽油価格に下方圧力を加えたこともあり、インドや中東諸国等で製造された軽油が収益の低下した欧州方面に向かう代わりにアジアに方面に流入したことが、シンガポールにおける中間留分在庫の増加傾向の創出に寄与しているものと考えられる。そしてアジア諸国及び地域等における気温の低下に伴う暖房向け軽油需要の増加観測による季節的な需給引き締まり感を市場が意識したことが、アジア市場の軽油価格に上方圧力を加えた反面、シンガポールの中間留分在庫が増加傾向となったことが、軽油価格に下方圧力を加えたことにより、11月中旬から12月中旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は11月中旬後半から下旬前半を中心とする期間においては拡大する場面も見られたものの、その後は12月中旬にかけむしろ若干ながら縮小気味に推移している。
11月13日には1,800万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、11月20日には1,700万バレル弱程度の量へと減少した。また、11月27日に1,900万バレル台前半程度の水準へと回復したが、12月4日には1,800万バレル台後半程度、そして、12月11日には1,800万バレル弱程度の、それぞれ量へと減少した結果、11月13日の水準を若干ながら下回る状況となっているが、当該在庫は概して限られた範囲内で明確な増加もしくは減少傾向を示すことなく推移した。クウェートのアル・ジュール(Al Zour)製油所(原油精製能力日量61.5万バレル)を初めとする中東諸国の製油所やナイジェリアのダンゴテ(Dangote)製油所(同65万バレル)の操業が順調である結果、低硫黄のものを中心として重油がシンガポールに流入していることが、同地での重油在庫を増加させる方向で作用した反面、中国等において船舶向けの高硫黄重油の購入が活発化しているとされた(米国におけるトランプ前大統領の次期大統領返り咲きに伴う米国外製品への関税賦課実施前の米国への駆け込み輸出の拡大を見据え、船舶向け高硫黄重油を調達する動きが活発化した可能性がある)ことが、シンガポールへの高硫黄重油の流入を抑制する格好となっているものと見られる。また、アジア地域の製油所における秋場のメンテナンス作業実施が峠を越えつつあることもあり、同市場における低硫黄重油の供給拡大観測が増大したことが当該製品需給の緩和感を市場で醸成させるとともに同製品価格に下方圧力を加えたことから、11月中旬から12月中旬にかけての同市場における低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小傾向となった。他方、高硫黄重油は船舶向けのものを中心として需要が堅調であると言われたことに加え、一部OPECプラス産油国による自主的な原油減産措置の段階的緩和開始を従来予定されていた2024年12月から1ヶ月延期する旨11月3日にOPECが発表した他、OPECプラス産油国が減産措置緩和開始をさらに数ヶ月間延期することを検討している旨11月26日に報じられた。このようなこともあり、OPEC産油国による減産の中心とみられる重質高硫黄原油、そして重質高硫黄原油から製造されやすい高硫黄重油の需給緩和感が後退したことが、アジア市場における高硫黄重油価格に上方圧力を加える格好となったことから、11月中旬から下旬にかけての高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小傾向となった。しかしながら、12月に入ると高硫黄重油とドバイ原油との価格差はむしろ拡大する様相を呈しており、これは、アジア地域の製油所における秋場のメンテナンス作業実施が峠を越えつつあることもあり、同市場における高硫黄重油の供給拡大観測が増大したことに加え、中国等における船舶向けの高硫黄重油需要が伸び悩み始めている旨示唆されつつあることが影響している可能性がある。
3. 2024年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場等の状況
2024年11月中旬から12月中旬にかけての原油市場においては、米国バイデン政権がウクライナに対し同国製長距離兵器を使用したロシアへの攻撃を承認した旨11月17日に伝えられたことに伴いウクライナがロシアに対し当該兵器等を使用して攻撃し始めた反面、11月21日にはロシアも超音速中距離弾道ミサイルをウクライナに対し発射したことや、欧米諸国等がロシアからの石油供給に対する新たな制裁発動を検討していることによりロシアからの石油供給への支障発生に対する懸念が増大したこと、中国政府等による金融緩和等の実施により同国経済が回復するとともに石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた一方、11月27日にイスラエルとヒズボラとの間で事実上の停戦が実施されたことに加え、12月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において一部産油国による実質的な増産措置の延期等が決定されたものの、それを以てしても2025年はなお石油供給過剰となる旨の観測が市場で発生したこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は1バレル当たり66~72ドルの範囲内で明確な上昇もしくは下落の傾向を示すことなく推移した(図16参照)。
米国バイデン政権がウクライナに対し米国製長距離兵器を使用したロシアへの攻撃を承認した(北朝鮮軍がウクライナを攻撃するロシアに派遣されたことを理由としている)旨11月17日に伝えられたことにより、ウクライナとロシアとの戦闘状態がさらに激化する結果、ロシアからの石油供給が混乱するとの懸念が市場で増大したことに加え、ノルウェーのヨハン・スベルドルップ(Johan Sverdrup)油田(2023年時点原油生産量日量71.2万バレル)のフェーズ1プロジェクトに電力を供給するための陸上にある変電所が不具合発生に伴う停電により稼働を停止したため、同油田の操業も停止した旨11月18日に操業者のエクイノールが発表したことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.14ドル上昇し、終値は69.16ドルとなった。また、米国製の長距離地対地ミサイル「エイタクムス(ATACMS)」を使用してロシア西部ブリャンスク州の軍事拠点(弾薬庫)を攻撃した旨11月19日にウクライナが公式に認めた一方、ロシアのプーチン大統領が同国の核原則を改定し核兵器の使用可能性を事実上拡大した旨11月19日に発表したことにより、ウクライナ等とロシアとの対立がより先鋭化するとともに、ロシアからの石油供給が混乱する等の懸念が市場で増大したことから、11月19日の原油価格の終値は1バレル当たり69.39ドルと前日終値比で0.23ドル上昇した。この結果11月18~19日の2日間合計で原油価格は1バレル当たり2.37ドル上昇した。ただ11月20日は、この日NYMEXの2024年12月渡し米国原油先物契約の取引終了を前にした持ち高調整が発生したことに加え、11月20日にEIAから発表された米国石油統計(11月15日の週分)で、原油在庫が前週比55万バレル、ガソリン在庫が前週比205万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同10万バレル程度、ガソリン在庫同90万バレル程度の、それぞれ増加)を上回って増加している旨判明したこと、及びノルウェーのヨハン・スベルドルップ油田が操業を完全に再開した旨11月20日に操業者のエクイノールが明らかにしたことにより、石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.87ドルと前日終値比で0.52ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2024年12月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、2025年1月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり68.75ドル(前日終値比同0.49ドルの下落)であった)。それでも、ロシアが大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射してウクライナ東部の都市ドニプロを攻撃した旨11月21日にウクライナ軍が主張したことにより、ウクライナとロシアとの戦闘状態が激化するとともに、ロシア等からの石油等の供給への支障に対する懸念が市場で増大したことから、11月21日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.23ドル上昇し、終値は70.10ドルとなった。また、欧米から供与された長距離兵器を使用してウクライナがロシアを攻撃したことへの報復として、11月21日にロシアが超音速中距離弾道ミサイル「オレシュニク」を試験的に使用しウクライナを攻撃した旨同日ロシアのプーチン大統領が発表した他、ロシアは今後も同ミサイルを継続的に生産するとともに、直ちに使用可能な在庫を利用する等して、ウクライナに対し同ミサイルを発射し続ける旨11月22日に同大統領が示唆したことにより、ウクライナとロシアとの戦闘状態が激化することに伴うロシア等からの石油等の供給への支障に対する懸念が市場で増大したことに加え、国際原子力機関(IAEA)に申告していない核関連物質がイラン国内に存在するかどうか等につき2025年春までに包括的報告書を取り纏めるようIAEA事務局長に指示することを含む対イラン非難決議案(英国、フランス及びドイツ等が提出)を11月22日にIAEA理事会が採択したことに対し、イランが反発、同国のエスラミ原子力庁長官が高性能遠心分離機の稼働開始を指示するなど、ウラン濃縮活動を拡大する姿勢を示したことにより、西側諸国等とイランとの対立が先鋭化するとともに、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したこと、11月22日米国金融サービス会社S&Pグローバルから発表された11月の同国総合購買担当者指数(PMI)(速報値)(50が同国景気拡大と縮小の分岐点)が55.3と2022年4月(この時は56.0)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(54.3)を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.24ドルと前日終値比で1.14ドル上昇した。この結果原油価格は11月21~22日の2日間合計で1バレル当たり2.37ドルの上昇となった。
しかしながら、イスラエルとヒズボラとの間で停戦合意が接近しつつある旨11月25日にイスラエルのヘルツォグ駐米大使が明らかにしたこともあり、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.94ドルと前週末終値比で2.30ドル下落した。また、イスラエルとヒズボラとの間で停戦合意が間近に迫っている旨11月26日に報じられたことから、この日の原油価格も前日終値比で1バレル当たり0.17ドル下落し、終値は68.77ドルとなった。この結果原油価格は11月25~26日の2日間合計で1バレル当たり2.47ドル下落した。ただ、11月27日は、翌日の米国感謝祭(サンクスギビング・デー)の休日を控えた持ち高調整が発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.05ドル下落にとどまり、終値は68.72ドルとなった。なお、11月28日は、米国感謝祭(サンクスギビング・デー)の休日に伴い終値は計上されなかったが、11月27日午前4時(現地時間)に発効したイスラエルとヒズボラとの間の事実上の停戦(後述)が概ね維持されていることにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことにあり、11月29日の原油価格の終値は1バレル当たり68.00ドルと前日終値比で0.72ドル下落した。
ただ、11月30日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された11月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が51.5と10月の50.3から上昇、6月(この時は51.8)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(50.5~50.6)を上回ったことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が増大したことから、12月2日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.10ドル上昇し、終値は68.10ドルとなった。また、OPECプラス産油国が(従来予定されていた2025年1月から)2025年4月まで減産緩和開始を延期する可能性が高い旨関係筋が明らかにしたと12月2日夕方(米国東部時間)にロイター通信が伝えた他、OPECプラス産油国が2025年4月まで減産緩和開始を延期する方向で協議を実施中である旨関係筋が明らかにしたと12月3日にブルームバーグ通信が報じたことにより、世界石油需給の相対的な引き締まり感を市場が意識したことに加え、イラン産原油を秘密裏に国外市場へ販売しているとされる35の船舶や事業体を対象として制裁を発動した(10月1日に実施されたイランによるイスラエル攻撃を受けたものとされる)旨12月3日に米国財務省が発表したことにより、イランからの原油供給減少を巡る懸念が市場で発生したこと、イスラエルとヒズボラとの間での停戦は終戦ではなく、停戦合意違反には毅然として対応していく旨12月3日にイスラエルのネタニヤフ首相が示唆したことにより、当該停戦維持を巡る不安感が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.94ドルと前日終値比で1.84ドル上昇した。この結果原油価格は12月2~3日の2日間で1バレル当たり合計1.94ドルの上昇となった。ただ、12月4日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、12月5日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催を控えた持ち高調整が発生したこと、12月4日にEIAから発表された米国石油統計(11月29日の週分)において、ガソリン及び留出油の両在庫が前週比で236万バレル、338万バレルの、それぞれ増加と市場の事前予想(ガソリン在庫同60万バレル程度、留出油在庫同90万バレル程度の、それぞれ増加)を上回って増加している旨判明したことにより、両製品需要低迷観測が市場で発生したこと、12月4日に米国供給管理協会(ISM)から発表された11月の同国非製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が、52.1と10月の56.0から低下した他市場の事前予想(55.5~55.7)を下回ったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.54ドルと前日終値比で1.40ドル下落した。また、12月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合等において、2025年末までの予定で実施されていた公式減産措置及び一部産油国の自主的な減産措置が2026年末まで延長されたうえ、2025年1月より実施する予定であった一部OPECプラス産油国による自主的な減産措置の緩和を4月へと延期する他、減産緩和期間を当初の12ヶ月から18ヶ月へと拡大する等の決定がなされたものの、このような決定を以てしても、なお、2025年は世界石油供給が需要を上回る結果需給バランスが緩和した状態が継続するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.24ドル下落し、終値は68.30ドルとなった。また、12月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合等において決定された減産等の方針に対し、2025年はなお緩和した世界石油需給バランスが継続するとの観測が市場で発生した流れを12月6日の市場が引き継いだことに加え、12月6日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で482基と11月27日比5基増加、2024年10月18日(この日の稼働数は482基)以来の高水準に到達(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は470基と同7基増加、2024年10月11日(この日の当該稼働数は470基)以来の高水準に到達)していた旨判明したこともあり、この先の米国原油生産の伸びの加速に伴う石油需給緩和感が市場で意識されたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.20ドルと前日終値比で1.10ドル下落した。この結果原油価格は12月4~6日の2日間合計で1バレル当たり2.74ドルの下落となった。
それでも、12月8日にシリアでアサド政権が崩壊したことにより、同国において権力の空白が発生することに伴う中東情勢の不透明感が強まるとともに、同地域からの石油供給を巡る不安感が強まったことに加え、中国共産党が開催した中央政治局会議において、金融政策を適度に緩和的な姿勢へ変更した(2011年以来同国は穏健な金融政策を実施してきた)旨12月9日に報じられたことにより同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が発生したことから、12月9日の原油価格の終値は1バレル当たり68.37ドルと前週末終値比で1.17ドル上昇した。また、中国が金融政策を適度に緩和的な姿勢へと変更した旨12月9日に報じられたことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が発生した流れを12月10日の市場が引き継いだことに加え、12月10日に中国税関総署から発表された11月の同国原油輸入量が4,852万トン(推定日量1,184万バレル)と10月の4,470万トン(同1,055万バレル)から増加した他2023年11月(4,240万トン(同1,036万バレル))比で14.3%の増加となっている旨判明したこと、12月10日に米国労働省から発表された2024年7~9月期の同国単位人件費(改定値)が前期比年率0.8%の上昇と11月7日に発表された速報値(同1.9%の上昇)から相当程度下方修正された他市場の事前予想(1.5%の上昇)を下回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で増大したうえ、12月11~12日に予定される米国労働省からの11月の同国消費者物価指数(CPI)及び生産者物価指数(PPI)の発表を控えた持ち高調整が発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.22ドル上昇し、終値68.59ドルとなった。さらに、ロシアからの石油輸出を一部制限するための新たな制裁の発動を米国バイデン政権が検討している旨12月10日夜(米国東部時間)に報じられたうえ、欧州連合(EU)も、制裁を事実上回避してロシア産石油等を輸送するタンカーを対象として制裁を発動する旨大使級会合で合意した旨12月11日に報じられたことにより、ロシアからの石油供給減少に伴う世界石油需給引き締まり観測が市場で発生したことから、12月11日の原油価格の終値は1バレル当たり70.29ドルと前日終値比で1.70ドル上昇した。この結果原油価格は12月9~11日の3日間合計で1バレル当たり3.09ドルの上昇となった。ただ、12月12日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、12月12日に国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートにおいて、一部OPECプラス産油国による自主的な減産措置の緩和開始を延期しても、2025年は日量140万バレル程度、増産を完全に見送った場合でも日量95万バレル程度、それぞれ供給過剰となるものと予想される旨示唆されたことにより、この先の石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.02ドルと前日終値比で0.27ドル下落した。それでも、12月13日朝(現地時間)にロシアがウクライナのエネルギー施設に対し大規模な攻撃を実施した旨ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相が明らかにしたこともあり、ウクライナとロシアとの間の戦闘が激化することにより、ロシアからの石油供給への支障に対する懸念が市場で増大したことに加え、UAEのアブダビ国営石油会社ADNOCが、2025年1~2月積みのアジア向け原油(主にマーバン及びアッパーザクム原油を対象とするものとされる)出荷量を最大日量23万バレル削減する方向である旨12月13日に報じられたことにより、この先の世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.27ドル上昇し、終値は71.29ドルと、11月7日(この日の終値は72.36ドル)以来の高水準の終値となった。
4. 原油市場における主な注目点等
世界石油市場における注目点の一つは中東情勢である。11月26日午後3時過ぎ(米国東部時間)に米国のバイデン大統領がイスラエルとヒズボラとの間でのレバノン南部における戦闘を巡り、イスラエル及びレバノン両政府が停戦で合意した旨発表した他、実際に11月27日午前4時(現地時間)に停戦は発効した。この停戦は恒久的なものを想定しており、イスラエルとレバノンの国境の北方30キロメートル地点にあるリタニ川までヒズボラが退却する一方、60日以内にイスラエルは漸進的に軍を撤収する他、イスラエルとレバノンの国境周辺地帯は米国とフランスによる支援を受けたレバノン軍や国連レバノン暫定軍(UNIFIL)が管理することを主な内容とする。ただ、その後もイスラエルとヒズボラとの間での停戦は概ね維持されているとされたが、ヒズボラ関係者が停戦合意から逸脱してレバノン南部地域に侵入したとして、11月27日にイスラエルが同地域を攻撃した他、イスラエル軍が発射した無人機による攻撃で、レバノン南部において2人が死亡した旨11月30日に報じられたうえ、12月2日にもイスラエルによる攻撃によりレバノン南部で9人が死亡した一方、複数の停戦合意違反を理由としてイスラエル軍関連施設に対し防衛的警告のための攻撃を実施した旨11月2日にヒズボラが発表した。また、イスラエルとヒズボラとの間での停戦は終戦ではなく、停戦合意違反には毅然として対応していく旨12月3日にイスラエルのネタニヤフ首相が示唆した。このように、イスラエルとヒズボラとの停戦状態は不安定である他、パレスチナ自治区ガザ地区におけるイスラエルとハマスとの間での戦闘は継続している。
他方、イランが60%の濃縮ウラン(核兵器が製造可能なウランの濃縮度に近い)製造活動を停止することで国際原子力機関(IAEA)と合意した(但し、IAEA理事会において対イラン非難決議が採択されないことを条件としていたとされる)旨11月19日に報じられたものの、イランがIAEAに申告していない核関連物質が存在するかどうか等につき2025年春までに包括的な報告書を取り纏めるようIAEA事務局長に指示することを含む対イラン非難決議案(英国、フランス及びドイツ等が提出)を11月21日夜(現地時間)にIAEA理事会が採択したことに対しイランが反発、同国のエスラミ原子力庁が高性能遠心分離機の稼働開始を指示するなど、ウラン濃縮活動を拡大する姿勢を示した旨11月22日に報じられた。そして、イランが同国中部フォルドゥとナタンズにある核関連施設において既に設置しているウラン濃縮のための遠心分離機を稼働させるとともに、6,000基超の遠心分離機を新たに建設する意向である旨同国がIAEAに通知したと11月28日に伝えられた。また、イラン産原油を秘密裏に国外市場に販売する35の船舶や事業体を対象として制裁を発動した(10月1日のイランのイスラエル攻撃を受けたものとされる)旨12月3日に米国財務省が発表した。
また、11月27日にはシリアの反体制派が軍事行動を開始、11月30日までに同国北部にあるシリア第2の都市アレッポの大半を制圧した。同国のアサド政権はロシアや親イラン武装勢力の協力を得て反撃を実施しつつある旨12月2日までに伝えられたものの、反体制派が中部にある同国第4の都市ハマに向け進軍、アサド政権軍と交戦している旨12月4日に報じられた他、12月8日未明(現地時間)には反体制派が同国の首都ダマスカスを解放した旨発表した(アサド大統領は12月8日に航空機を利用してダマスカスを出発しロシアに亡命した旨同日伝えられる)。他方、12月9日以降イスラエルはシリアの艦隊を攻撃した他、シリア領内を空爆した(反体制派がシリア軍の武器を入手することを防止することを目的としているとされる他、12月10日にはイスラエルのカッツ国防相がシリア南部においてイスラエル軍が常駐しない防衛地帯を設定することを指示した旨明らかにしている)。また、12月11日においてもイスラエルがシリアにおける軍事行動を継続した旨同日夕方(米国東部時間)に伝えられたうえ、親イラン武装勢力の弱体化とシリアのアサド政権崩壊により、イランの核施設を攻撃する好機が到来している旨イスラエル軍は考えていると軍事関係者が明らかにした旨12月12日にイスラエルの「タイムズ・オブ・イスラエル」紙が報じている。
このように、中東諸国及び地域においては、ここ1ヶ月間で相当程度の動きが見られた。ただ、ガザ地区におけるイスラエルとハマスとの戦闘は継続している他、レバノン南部においてもイスラエルとヒズボラとの間での停戦は不安定な状態となっている。そして、イランの核開発活動拡大方針や米国による対イラン制裁発動、さらには2025年1月20日に就任予定の米国のトランプ次期大統領のイランを含む対中東政策(2025年1月20日の米国大統領就任後の米国のイランに対する行動については戦争を含めあらゆることが発生する可能性があり情勢は不安定である旨米国のトランプ次期大統領が発言したと12月12日に報じられている)を含め、今後の展開によっては、イスラエル、ハマス及びハマスを支援しているとされるイラン、及びイスラエルと友好関係にある米国等を含め、関係者間での対立先鋭化が高じる結果、それが、イランや親イラン武装勢力によるペルシャ湾等におけるタンカー等の拿捕、及びイランが支援しているとされるイエメンのフーシ派武装勢力による、紅海周辺地域等へのタンカーを含む船舶への攻撃等に繋がる可能性もある。またシリアでは反体制派が全土を掌握した格好となってはいるが、ロシアやイラン及びヒズボラが支援していたアサド政権と対立していた、反体制派の主流とされる「シリア(シャーム)解放機構(HTS: Hayat Tahrir al-Sham、旧ヌスラ戦線)」はアルカイダの流れを組む組織が前身であり、国連や米国等によりテロ組織に指定されている一方、反体制派の一派で米国が支援しているクルド人武装勢力「シリア民主軍(SDF: Syrian Democratic Forces」をトルコ(同国は別途反体制派の一派である「シリア国民軍(SNA:Syrian National Army)」を支援している)は自国においてテロ組織と見做すクルド労働者党(PKK: Partiya Karkeren Kurdistan)の関連組織と考えており、トルコ及びSNAと、SDFが戦闘状態となることもありうる。また、別途シリアにはイスラム国(IS、2014年にイラク北部で蜂起した結果、同国は混乱状態に陥った)の残党が存在し、今回の政権交代に乗じて勢力を拡大しようとする兆候が見られる旨指摘される(12月8日に米軍がISの軍事関連施設を空爆した旨報じられる)。このように、シリアのアサド政権崩壊により、同国及び周辺国等の複数の関係者を巻き込んで一時的にせよ中東情勢がさらに混乱する恐れがあるなど、不透明感の強い状況となっていることもあり、今後の展開によっては、同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わると言った展開となることも排除し切れないものと考えられる。
他方、ウクライナに対し、米国バイデン政権が同国製長距離兵器を使用したロシアへの攻撃を承認した(ウクライナ攻撃に際し北朝鮮軍がロシア軍に合流したことを理由としている)旨11月17日に伝えられた後、米国製の長距離地対地ミサイル「エイタクムス(ATACMS)」を使用してロシア西部ブリャンスク(Bryansk)州の軍事拠点(弾薬庫)を攻撃した旨11月19日にウクライナが公式に認めた。これに対し、ロシアのプーチン大統領が同国の核原則を改定し核兵器の使用可能性を事実上拡大した旨11月19日に発表した。また、ウクライナは、英国から供与された長距離ミサイル「ストーム・シャドー」をロシアに向け初めて発射した旨11月20日に報じられる。さらに、米国政府がウクライナに対し対人地雷を供与するとともにその使用を承認する旨11月20日に米国のオースティン国防省長官が明らかにした。そして、ロシアが大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射してウクライナ東部の都市ドニプロを攻撃した旨11月21日にウクライナ軍が主張した一方、欧米から供与された長距離兵器を使用してウクライナがロシアを攻撃したことへの報復として、11月21日にロシアが(ICBMではなく)超音速中距離弾道ミサイル「オレシュニク(Olesnik)」を試験的に使用しウクライナを攻撃した旨同日ロシアのプーチン大統領が発表した他、ロシアは今後も同ミサイルを継続的に生産するとともに、直ちに使用可能な在庫を利用する等して、今後もウクライナに対し同ミサイルを発射し続ける旨11月22日に同大統領が示唆した。また、11月28日にウクライナに対しロシアの大規模攻撃が行なわれた結果、ウクライナでは大規模停電が発生した。さらに、ロシアからの石油輸出を一部制限するための新たな制裁発動を米国バイデン政権が検討している旨12月10日夜(米国東部時間)に報じられたうえ、欧州連合(EU)も、制裁に事実上違反してロシア産石油等を輸送するタンカーを対象とした制裁を発動する旨大使級会合で合意した旨12月11日に報じられた。加えて、原油相場が沈静化していることもあり、ロシアのエネルギー部門に対しさらなる行動を行なう機会が訪れているかもしれない旨米国のイエレン財務長官が12月12日に明らかにした。そのような中、ウクライナ軍が発射した無人機がロシア西部ブリャンスク州(同州にはドルジバ・パイプライン等の石油インフラが敷設されている)の石油貯蔵施設を攻撃した結果同施設で火災が発生した旨12月11日に伝えられた。また、12月13日朝(現地時間)にはロシアがウクライナにおけるエネルギー施設に対し大規模な攻撃を実施した旨ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相が明らかにした。さらに、ウクライナは無人機を用いてロシアのクルスク(Kursk)州オリョール(Oryol)の石油関連施設を攻撃した旨12月14日にウクライナ軍が発表した。このように、ウクライナとロシアとの戦闘も激化しつつあり、これにより、例えばウクライナがロシアの製油所や貯蔵施設等を含む石油関連インフラを長距離飛行兵器等で攻撃することにより、ロシアにおける石油供給に支障が発生するとともに、同国からの石油輸出が減少したり同国からの石油輸入が増加したりする結果、世界石油需給の引き締まり感が市場で意識される(もしくはそのような懸念が市場で増大する)ことを通じ、原油相場が押し上げられる場面が見られることもありうる。
米国では、12月17~18日に開催される予定である連邦公開市場委員会(FOMC)における政策金利を巡る方針の決定が注目点の一つとなるであろう。ここ1ヶ月間においても政策金利の取り扱い等につき米国金融当局関係者から一連の発言等がなされた。11月19日に米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が、米国の政策金利がどの程度低下するかについては不透明である旨明らかにした。また、米国の政策金利は低下方向に向かうものと考えているが、時期や引き下げ幅は今後入手される経済指標類や経済情勢に依存する他、時間を要して政策金利を引き下げていくことが適切となりそうである旨11月20日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のクック理事が示唆した。さらに、米国の物価上昇沈静化過程がもたついているように見受けられるとして、今後発表される経済指標類等を考慮しつつも一層の金利引き下げには慎重でありたい旨FRBのボウマン理事が認識していると11月20日に報じられた。加えて、米国の物価上昇が沈静化しつつあることから、経済指標予測等に基づきつつ金融当局はさらに政策金利を引き下げていくものと考えているが、物価上昇沈静化を促すべく政策金利は漸進的に引き下げられることが望ましい旨11月20日米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が明らかにした他、米国の物価上昇沈静化過程がもたついているように見受けられるとして、今後発表される経済指標類等を考慮しつつも一層の金利引き下げには慎重でありたい旨FRBのボウマン理事が認識していると同日報じられた。そして、米国の物価は低下しつつあるものの、なお目標である年率2%には到達していない一方、労働市場はさらに若干悪化するものと見ており、2025年末までに政策金利はさらに低下する旨予想していると米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が示唆したと11月21日に報じられた。また、この先も米国の物価上昇率は低下し続けると見込んでいるが、政策金利を巡る方針は経済指標類等に依存する旨米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにしたと11月21日にフィナンシャル・タイムズが報じた。さらに、米国の政策金利はさらに低下するものの、より漸進的に行なわれるべきであるとの認識を、11月21日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示した。加えて、次回のFOMCにおいて政策金利引き下げを実施することは依然適切であるものと認識している旨11月25日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が発言した。同日には米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が、米国労働市場は安定してきている一方、同国の物価上昇率はなお目標の年率2%を上回っており、これを沈静化させ続ける必要がある旨明らかにした。そして、米国の政策金利の経済への影響が不透明な中では、政策金利の引き下げペースの減速は合理的である旨11月19日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が発言したと11月26日に報じられた。また、次回FOMCにおける政策金利を巡る取り扱いについては決断していない旨12月2日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が示唆した。さらに、物価上昇と労働市場の沈静化リスクは均衡していることもあり、今後は漸進的に政策金利引き下げを実施するべきであるものの、次回のFOMCにおいて政策金利引き下げを実施することを支持するかどうかは決断していない旨米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が12月2日に発言した。加えて、米国物価上昇は沈静化しつつあることから、次回FOMCにおいては政策金利引き下げを実施する必要があるとの認識を12月3日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示した。そして、次回FOMCにおいて政策金利引き下げを実施することを支持しつつある旨現時点では考えているとFRBのウォラー理事が明らかにしたと12月2日に報じられた。12月3日には、FRBのクーグラー理事が、米国物価上昇は沈静化しつつあるものの、まだ完全に沈静化したわけではない旨発言したと報じられる。また、同日、米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁は、次回FOMCにおいては政策金利引き下げを実施する余地は残ってはいるものの、この選択肢は不確実である旨明らかにした。さらに、この先の米国政策金利引き下げについては慎重に判断する意向である旨12月4日にFRBのパウエル議長が示唆した。加えて、次回FOMCにおいては、政策金利引き下げが一時的に停止する可能性がある他、今後の政策金利引き下げ等の金融政策を巡る判断はこの先発表される予定の経済指標類等に依存する旨米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が明らかにしたと12月4日に報じられた。そして、米国の政策金利引き下げをより緩やかなペースで慎重に実施していくことを支持する旨12月4日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が発言した。また、米国の政策金利引き下げについては性急に実施することなく慎重に判断していくべきである旨米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が明らかにしたと12月4日夜(米国東部時間)に伝えられた。12月6日には、米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が、米国の政策金利引き下げをより緩やかに実施する時期に到達しているか差し掛かりつつある旨示唆した。また、1年後の米国政策金利は現時点よりもかなり低下しているものと見込んでいる旨12月6日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が述べた他、依然として目標を上回る物価上昇率を理由として、米国の政策金利引き下げには慎重でありたい旨12月6日にFRBのボウマン理事が表明している。このように、米国金融当局関係者間では、同国の政策金利は引き下げられる方向に向かうものの、引き下げは慎重かつ漸進的に実施されるとの考え方が主流のようである。ただ、12月11日に米国労働省から発表された11月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.7%の上昇と10月の同2.6%の上昇から伸びが加速したものの、市場の事前予想(同2.7%の上昇)と一致したうえ、11月の同国コアCPI(食料品及びエネルギー除く)は同3.3%の上昇と10月の同3.3%の上昇と伸びが同水準であった他市場の事前予想(同3.3%の上昇)と一致した。また、12月12日米国労働省発表の11月のコア(食料品、エネルギー及び貿易除く)生産者物価指数(PPI)は前年同月比3.5%の上昇と10月(同3.5%の上昇)と同水準となった他、前月比では0.1%の上昇と10月の同0.3%の上昇から伸びが鈍化した。このため、物価上昇沈静化が進行しつつあるとの観測が市場で広がってきていることもあり、次回FOMCにおいては0.25%の政策金利引き下げが決定される確率が12月14日時点で96.0%、政策金利が据え置かれる確率が同4.0%となるなどしていることから、実際に次回FOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げが決定されても、市場の事前予想通りということで、この決定自体が原油相場に与える影響は限定的なものとなる可能性がある。ただ、次回FOMCの決定内容及びFOMC終了後の12月18日に実施される予定であるパウエルFRB議長による記者会見における同議長の米国経済情勢及び2025年に向けた物価上昇、労働市場及び政策金利調整方針等を巡る発言内容もしくはFRB関係者による2025年に向けた政策金利見通し等によっては、米ドルが変動する結果、原油相場にその影響が織り込まれるといった展開となることはありうる。また、2025年1月20日に米国次期大統領に就任する予定であるトランプ氏、もしくはトランプ政権関係者による、金融分野を含む米国経済及び関税賦課を含む外交政策に関する発言等によっては、米国及び世界の石油需給に関する観測を市場で発生させる結果、その影響が原油相場に織り込まれるといった展開となることも想定される。さらに、2025年1月中旬頃以降、主要米国企業等の2024年10~12月期等の業績及び今後の業績見通し等が明らかになる予定であり、その結果が株式相場に影響するとともに原油相場が変動する場面が見られる可能性がある。
11月30日に中国国家統計局から発表された11月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は50.3と10月の50.1から上昇、4月(この時は50.4)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(50.2)を上回った。ただ、11月30日に中国国家統計局から発表された11月の同国非製造業PMIは50.0と10月の50.2から低下した他、市場の事前予想(50.3)を下回った。さらに、11月30日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された11月の同国製造業PMIは51.5と10月の50.3から上昇、6月(この時は51.84)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(50.5~50.6)を上回った。そのような中、中国中央経済工作会議が12月11日から2日間に渡り開催される旨12月3日に報じられ、同会議で2025年に向けた経済目標と景気刺激策が決定されることにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大した。他方、12月4日に財新伝媒から発表された11月の同国サービス業PMIは51.5と10月52.0から低下した他、市場の事前予想(52.4)を下回った。また、12月9日に中国国家統計局から発表された11月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.2%の上昇と6月(この時は同0.2%上昇)以来の低水準となった他、市場の事前予想(同0.4~0.5%の上昇)を下回ったうえ、11月の同国生産者物価指数(PPI)は同2.5%の下落と10月の同2.9%の下落から下落率が縮小した他市場の事前予想(同2.8%の下落)ほど下落していなかったものの、26ヶ月連続前年同月比で下落となった。それでも、2025年の中国は借入や財政赤字の規模を拡大する余地がある旨の論説を12月6日に同国国営新華社通信が伝えた他、中国共産党が開催した中央政治局会議において、金融政策を適度に緩和的な姿勢とする旨変更した(2011年以来同国は穏健な金融政策を実施してきた)他、積極的な財政政策を講じる方針である旨12月9日に報じられたこともあり、12月11~12日において開催される予定である中国中央経済工作会議において財政赤字の拡大方針等が決定されることにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で発生した。そのような中、12月10日に中国税関総署から発表された11月の同国輸出(米ドル建)は前年同月比6.7%の増加と10月の同12.7%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同8.5%の増加)を下回ったうえ、11月の同国輸入(同)は同3.9%の減少と10月の同2.3%の減少から減少率が拡大した他市場の事前予想(同0.3%の増加)に反し減少している旨判明した。また、併せて中国税関総署から発表された11月の同国原油輸入量は4,852万トン(推定日量1,184万バレル)と10月の4,470万トン(同1.055万バレル)から増加した他、2023年11月(4,245万トン(同1,036万バレル))比では14.3%の増加となっている旨判明したが、これは原油価格の下落に伴う同国石油企業等による在庫積み増しとの指摘がなされた。そして、12月11~12日の中国中央経済工作会議開催後の声明においては、2025年は消費の促進を同国経済政策の中心に据え、財政赤字を拡大するとともに政策金利を引き下げる方針である旨示唆された。ただ、この方針を巡っては具体的内容が示されていないことから、実効性につき疑問視する向きもある。このように、中国経済指標類は同国経済がまだら模様となっており、同国経済が順調に回復しつつあるとともに石油需要の伸びも持続的に加速しつつあるとは言い切れない状況にあることを示唆している。従って今後発表される複数の同国経済指標類が、同国経済が回復しつつあることを持続的に示すようでなければ、中国経済回復に伴う同国石油需要の伸びの加速期待が発生しにくく、従ってこの面で原油相場が上向くと言った展開となる可能性は高くはないものと考えられる。ただ、同国政府等から景気刺激策に関する説明がなされる予定である旨の発表があったり、実際に景気刺激策が発表されたりするようであれば、その内容によっては(特に中国政府等から具体的な内容を伴った大規模景気刺激策が発表されたりするようであれば)、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で発生することにより、原油相場が持ち直すと言った展開となることもありうる。
北半球では既に冬場の暖房シーズンに突入しているが、これに併せ、暖房用石油製品需要が拡大、製油所も秋場のメンテナンス作業を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増加させるとともに原油購入を活発化させるとの観測が市場で増大しやすくなっており、この面でこの先も暖房用石油製品価格とともに原油相場を下支えする格好となるものと考えられる。そして、米国の暖房油消費の中心地である北東部を含め北半球の主要暖房用石油製品消費地域における気温や気温予報に対して市場関係者は敏感に反応するものと見られ、足元の気温が低下したり、気温が低下するとの予報が発表されたりするようだと、需給の引き締まり感が市場で強まる結果、暖房油価格が上昇、それに引きずられて原油価格に上方圧力が加わる可能性がある。また、12月12日に米国海洋大気庁(NOAA)は、ラニーニャ現象(日付変更線付近から南米沿岸にかけての太平洋赤道域で海面の水温が平年より低くなる現象)が発生する確率が、2024年11月~2025年1月においては59%となるものと予想される旨明らかにした。ラニーニャ現象が発生すると、北半球の冬場において気温が平年を相当程度下回るなど厳冬になりやすいとされる(なお、夏場となる南米諸国は渇水となりやすいとされる)。そして、米国のみならず、欧州及びアジア諸国の気温が大幅に低下すれば、暖房向け石油製品(日本や韓国では灯油が利用されるが、他の地域では暖房油(品質的には軽油に近い)が使用される)需要が増加しやすくなるものと考えられる。この結果、石油需給の引き締まり感が市場で増大することを通じ、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。
なお、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)等において発生する濃霧の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることにより当該製油所への原油供給が影響を受けるとともに原油在庫の積み上げが鈍化することがありうる他、米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の陸上在庫保有を敬遠することにより原油在庫が相当程度減少する場面が見られる可能性がある(もっとも、その間原油は沖合に停泊するタンカーに貯蔵されていると言われている)。このようなことから、年末にかけ発表される米国石油統計では、特にメキシコ湾岸地域における原油在庫等が相当程度減少傾向を示すことにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油価格が上振れする可能性もある(ただ、1月以降は製油所等での原油等の受入が再開される(沖合で停泊していた原油貯蔵タンカーが着桟し陸上貯蔵施設へ原油を送出し始める)ことから、反動で相当程度の原油在庫増加が見られる結果、原油相場が押し下げられる場面が見られることもありうる)。
OPECプラス産油国は2024年12月5日に閣僚級会合等を開催し、2025年末まで実施する予定であった公式減産及び一部産油国による日量165万バレルの自主的な追加減産を2026年末まで延長した。併せて、一部産油国が実施中である日量216万バレルの自主的な減産措置の段階的緩和開始時期を従来の2025年1月から4月へと延期したうえで、緩和期間を従来の12ヶ月間から18ヶ月間へと拡大し、2026年9月にかけより緩やかに緩和していく旨決定した。さらに、当初2025年1月から9月にかけ実施予定であったUAEの日量30万バレルの段階的増産も、開始時期を1月から4月へと延期した他、段階的増産期間を9ヶ月から18ヶ月へと拡大することにより、より緩やかに増産することとした。ただ、このようなOPECプラス産油国閣僚級会合における決定を以てしても、現時点の世界石油需給シナリオに基づけば、2025年全体ではなお日量143万バレルの供給過剰となることが見込まれる(表6参照)。このため、この先OPECプラス産油国はそのような供給過剰に伴う世界石油需給緩和感の醸成による原油価格の下落を抑制するための対応に迫られる可能性がある。ただ、減産緩和のさらなる延期等の措置の実施に際しては、一部OPECプラス産油国が増産の意向を示しているとされることもあり、原油販売収入の極大化を図るべく原油価格を維持するには減産を継続することが重要である旨、増産意向を示している一部産油国を説得する必要がある。このようなことから、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は、今後もトランプ氏が次期大統領に就任する米国における同氏による政策を含む世界経済や地政学的リスクといった、現時点では不透明であるとされる要因の展開具合を考慮しながら、足元及びこの先の世界石油需給状況と原油価格動向や見通し等を見極めつつ、減産措置緩和の延期、取り止め、もしくは状況によっては減産拡大等を含め減産措置の取り扱いにつき漸進的に判断していく可能性があるものと考えられる。また、2ヶ月毎に実施される予定であるOPECプラス産油国JMMCは、次回は2月初頭前後に開催されるものと見られるが、その際に先般の閣僚級会合で決定した、4月に開始される予定である減産措置緩和開始の再延期等につき議論することは、世界政治・経済情勢、及び石油需給や原油価格の見通し等が不透明であることからすると、時期尚早であるものと見られる一方、次々回のJMMC(4月初頭前後に開催されるものと思われる)において4月からの減産措置緩和開始の延期等を協議しても、減産参加各産油国の原油生産調整に対する準備が間に合わないものと見られることから、遅くとも3月上旬末頃までには世界石油市場の現状及び今後の見通し等に基づき、臨時協議を実施すること等を通じ、減産措置緩和開始の再延期を含めた調整を行なうと言った展開となりうるものと考えられる。
全体としては、OPECプラス産油国閣僚級会合における減産緩和開始時期の延期及びより緩やかな減産緩和の実施等を以てしても2025年は相当程度の供給過剰となるものと見込まれることが原油価格の上昇を抑制するものと考えられる。ただ、既に北半球では冬場の暖房用燃料需要期に突入していることから季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されやすく、この面では原油相場が下支えされやすい他、気温が低下したり低下するとの予報が発表されたりするようであれば、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。そのような中、中国経済指標類や同国政府等による大規模景気刺激策に対する期待、イスラエル、レバノン及びシリア等の中東情勢やウクライナとロシアとの間での戦闘等を巡る展開、対イラン政策を含むトランプ次期大統領もしくは次期政権関係者の発言等が原油相場に影響を及ぼしうるものと考えられる。
以上
(この報告は2024年12月16日時点のものです)