ページ番号1010288 更新日 令和6年12月24日
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概要
- 南米のLNG需要は600万トン前後で、世界のLNG貿易量の1.5%にすぎない。しかし、近年、異常気象が頻発化、激甚化しており、今後、南米においてもLNG需要の変動が高まる可能性があり、これが、大西洋LNG市場や日本のLNG調達に影響を与えるおそれがある。供給面についても、南米のLNG輸出プロジェクトはトリニダード・トバゴのAtlantic LNGとペルーのPeru LNGの2件のみであるが、2030年代初めまでに、アルゼンチンから年間3,000万トン強、ガイアナとスリナムからは合計で年間1,200万トン程度のLNGの供給が生まれる可能性が出てきた。
- アルゼンチンのMilei政権は、基盤法を制定し、政府が炭化水素の国内価格の設定に関与することを禁じ、また、炭化水素の輸出入を自由化するとした。さらに、アルゼンチンへの外国からの投資を促進するための大型投資奨励制度(RIGI)を導入した。これを受けて、Vaca Muertaシェールのガス(技術的回収可能量308兆立方フィート)をフィードガスとする液化プロジェクトを立ち上げる計画が進められている。紆余曲折があったものの、BPが株式の60%を所有するPan American Energy、アルゼンチン国営エネルギー企業YPF、Golar LNG等が一丸となり、Rio Negro州San Matías湾にHilli Episeyo FLNG(液化能力、年間245万トン)を設置し、2027年よりLNG輸出を開始するというプロジェクトが具体化しつつある。さらに、YPFはShellとLNGプロジェクト開発契約を締結、Rio Negro州Punta Colorada沖にFLNG(液化能力、年間1,000万トン)を設置し、LNG輸出を行う計画だ。最終的に年間3,000万トンまで液化能力を拡張することが検討されている。Tecpetrolも、Bahía Blanca陸上に液化能力、年間200万トンから400万トンの液化プラントの建設を計画している。
- ガイアナは、原油開発が順調に進むStabroek鉱区でガス開発も進めようと、2024年6月にFulcrum LNGとFEED契約を締結した。Wood MackenzieはLNGプロジェクトの最終投資決定(FID)を2026年、LNG供給開始を2031年、液化能力を年間840万トンと想定している。
- Petronasは、FLNGを用いてスリナムBlock 52のガスを開発することを検討している。Rystad Energyは、スリナム初のガスプロジェクトが早ければ2031年にも実現する可能性があるとし、Wood Mackenzieは、LNG供給開始を2031年、液化能力、年間320万トンと想定している。スリナムでは、TotalEnergiesも、Block 58のガスを開発し、LNGプロジェクトを立ち上げることを検討している。
1. 南米のLNG需給の世界での位置づけ
南米のLNG需要は600万トン前後で推移している。2023年の世界のLNG貿易量は4億100万トンで、南米の需要は世界の貿易量の1.5%にすぎない。
しかし、2024年は、南米で観測史上最悪の干ばつが発生し、水力発電が低迷した。その結果、ブラジルのLNG輸入量は、8月の21万トンから9月は50万トンと急増、10月も50万トンを上回る水準で推移した。コロンビアのLNG輸入量も、例年は年間で20万トン前後であることが多いが、9月は22万トン、10月には36万トンと過去最高を記録した。
南米での干ばつはエルニーニョ現象によることが多いが、近年、異常気象が頻発化、激甚化しており、今後、LNG需要の変動(ボラティリティ)が高まる可能性がある。南米におけるLNG需要変動の高まりは、欧州を含む大西洋LNG市場に影響を及ぼす。さらに、欧州と日本を含むアジアのLNG市場は連係しており、日本のLNG調達にも影響が及ぶおそれがある。
供給面について見てみると、現在、南米のLNG輸出プロジェクトはトリニダード・トバゴのAtlantic LNGとペルーのPeru LNGの2件のみで、液化能力はそれぞれ年間1,480万トン、445万トン、2023年のLNG輸出量はそれぞれ770万トン、370万トンと量的にも多くはない。特に、Atlantic LNGはフィードガス不足で、4基のトレインのうちトレイン1が停止しており、液化能力に対して輸出量が少なくなっている。
国・液化事業 | 液化能力 | 2023年のLNG輸出量 |
---|---|---|
トリニダード・トバゴ・Atlantic LNG | 1,480万トン/年 | 770万トン |
ペルー・Peru LNG | 445万トン/年 | 370万トン |
液化能力合計 | 1,925万トン/年 | ― |
出所:各種資料を基にJOGMEC作成
この南米に、2030年代初めまでに、アルゼンチンから年間3,000万トン強、ガイアナとスリナムからは合計で年間1,200万トン程度のLNGの供給が生まれる可能性が出て来た。それぞれ課題はあるものの、液化事業が順調に立ち上がった場合、南米地域内のガス需給安定のみならず、欧州等大西洋市場のLNG供給に厚みをもたらし、日本を含む太平洋LNG市場、ひいては、世界のLNG市場の安定に貢献することが期待される。
国 | 液化能力 | 事業者、供給源等 |
---|---|---|
アルゼンチン | 複数事業計画 3,000万トン/年強 |
Golar、PAE、YPF、Tecpetrol他 Vaca Muertaシェール他 |
ガイアナ、スリナム | 複数事業計画 1,200万トン/年程度 |
ExxonMobil、Petronas他 Stabroek鉱区、Block 52他 |
液化能力合計 | 4,200万トン/年強 | ― |
出所:各種資料を基にJOGMEC作成
南米大西洋岸では、堅調な化石燃料開発投資が見られ、探鉱・開発が活発化していることを、「探鉱・開発が活発化、世界の原油供給拡大に貢献する大西洋南米沖合エリア」[1]で紹介した。この原稿を執筆した2024年6月の段階では、南米の新規LNGプロジェクトは現在ほど具体的になってはおらず、原油の探鉱・開発を中心にまとめた。数か月が経過しただけであるが、南米大西洋岸で複数のLNGプロジェクトが検討されるようになり、メジャー等のエネルギー企業がこの地域に積極的に参入するだけでなく、ガスを含め、この地域の中でどの国に絞り込んでいくかにしのぎを削り、企業間の競争が激化していることが窺える。
2. アルゼンチン:大型投資奨励制度(RIGI)導入で複数のLNG輸出プロジェクトが進展
(1) シェールガス技術的回収可能量世界第2位、季節によりガス需要変動
米国エネルギー情報局(US Energy Information Administration、EIA)のTechnical Recoverable Shale Oil and Shale Gas Resourcesによると、アルゼンチンのシェールガスの技術的回収可能量は802兆立方フィートで世界第2位となっている。中でも、Neuquén、Río Negro、La Pampa、Mendozaの4州にまたがって存在するVaca Muertaシェールのシェールガスの技術的回収可能量は308兆立方フィートで、アルゼンチンのシェールガス技術的回収可能量の38%を占めている。世界でも米国に次いで開発が進んでいるシェール層である。このVaca Muertaシェールのシェールガスをフィードガスとし、液化プロジェクトを立ち上げることが検討されている。
図5に示した通り、アルゼンチンでは、年間を通してみると、天然ガス消費量が生産量を上回っている。しかし、季節によるガス需要の変動が大きいために、季節によっては、生産が消費を上回り、需要の多い冬にはLNGを輸入する一方、不需要期には生産中の坑井を止めることもある。シェールガスの技術的回収可能量は多いものの、これ以上生産を増やすにはインフラを整備し、輸出を行うことが必要となる。債務を減らし、経済回復を図りたいアルゼンチンは、LNG輸入代金を減らし、LNG輸出で収入を得たいと考えているようだ。
(2) 経済再生のため基盤法制定 大型投資奨励制度(RIGI)導入
2023年12月10日に大統領に就任したJavier Gerardo Milei氏の政権は、アルゼンチン経済再生のための基礎を築き、個人に自由と自治を取り戻させるために、同氏就任直後に「アルゼンチン人の自由のための基盤および出発点に関する法律」(基盤法)案を議会に提出、2024年6月28日にこれが可決された。
基盤法は、政府が炭化水素の国内価格の設定に関与することを禁じ、また、炭化水素の輸出入を自由化するとした。また、アルゼンチンへの外国からの投資を促進するための大型投資奨励制度(RIGI)を導入、アルゼンチン国内に大規模な投資を行うプロジェクトに対して30年間にわたり法律上および規制上の安定性を保証したり、輸出税を免除したり、プロジェクトに関連する部品等の輸入を非課税とするとした。輸出代金の国内還流義務についても、一定の条件のもと免除されることとなった。一方、投資額の20%相当額を地場企業に発注する義務が加えられた。なお、RIGIは同制度を承認する自治体のみに適用されるという。
基盤法、RIGIが導入されたことにより、エネルギー企業は、石油、ガスを国内に優先的に供給する義務から解放され、新規投資が進み、石油、ガスの輸出が経済再生において重要な役割を果たすことが期待されるようになり、LNGプロジェクトの計画が進むようになった。
(3) Golar LNGとPan American Energy、2027年よりLNG輸出を計画
基盤法成立直後の2024年7月5日、Golar LNGは、Pan American Energy(PAE、BPが60%、Bridas(アルゼンチンのBridas EnergyとCNOOCの50:50の合弁会社)が40%を保有)とHilli Episeyo FLNG(浮体式LNG生産施設)の20年間の傭船契約を締結したと発表した。Vaca Muertaシェールで生産されるガスを利用し、2027年にLNG輸出を開始する計画であるとした。Golar LNGはPAEとの合弁会社Southern Energyの株式の10%を取得し、アルゼンチン国内での天然ガスの購入、操業、販売、マーケティングを担当するとされた。Hilli Episeyo FLNGは液化能力が年間245万トンで、2026年末にカメルーンでの契約が満了するまでカメルーンで操業を続け、その後、アルゼンチン沖に移される予定だが、Golar LNGはHilli Episeyo FLNGを別の適切なFLNG船と交換する権利も有している。両社はアジアのバイヤーとの供給契約締結を目指すとした。
同年9月30日に、Hilli Episeyo FLNGを2027年からRio Negro州San Matías湾に設置するとの追加情報が発表された。San Matías湾は、Hilli Episeyo FLNGにとって喫水制限なしで運用できる水深、良好な気象、海象、海事、港湾条件を備えているため選定されたという。
さらに、これまでVaca Muertaシェールからガスを供給するとされていたが、当初、気候が温暖な数ヶ月間に限り、アルゼンチンの大手パイプライン企業TGS(Transportadora Gas del Sur)が運営する既存のSan Martínパイプラインを通じてTierra del Fuego、Chubut、Santa Cruz等南部の諸州からガスを供給するとの変更も発表された。San Martínパイプラインは輸送能力が日量4,100万立方メートルで、2022年は日量2,720万立方メートルのガスを輸送した。FLNGの液化能力、年間245万トンは、ガス、日量1,150万立方メートルにあたり、同パイプラインの輸送能力と輸送量のギャップを埋める程度の量となる。また、San Martínパイプラインから海岸線まで全長25キロメートルのパイプラインと沖合のパイプライン、圧縮ステーション、係留施設などの建設は必要となるが、初期の投資額を抑えることが可能となる。さらに、このパイプラインの起点となるTierra del Fuego州の沖合CMA-1鉱区では、2024年9月にPAEがTotalEnergies/Harbour Energyと組んでFénixガス田の生産を開始したところだ。同ガス田の生産量は日量1,000万立方メートルを計画しており、このガス田がフィードガスの主な供給源となると考えられる。
第2フェーズでは、Vaca Muertaシェールからガスを供給し、年間を通して稼働することを検討しているとした。
この計画の変更について、コストを削減し、効率よく、液化事業を開始できるようにしたとの評価を受けた。
(4) YPF、Argentina LNGプロジェクトを計画
アルゼンチンの国営エネルギー企業YPFとマレーシアの国営エネルギー企業Petronasは、基盤法や大型投資奨励制度の導入前の2024年3月に、Argentina LNGプロジェクトの計画を発表した。この時点での計画では、2025年半ばまでに同プロジェクトの第1フェーズの最終投資決定(FID)を行い、2027年までにFLNGを導入、年間100万トンから200万トンのLNGを輸出するとされた。そして、第2フェーズでは、さらに2基のFLNGを導入し、2030年までに年間800万トンから900万トンのLNGを輸出するとしていた。さらに、第3フェーズでは、2032年までに陸上に液化設備を建設し、最終的には年間1,700万トン以上、最大で3,000万トンのLNGを輸出するとの計画であった。コストは300億ドルで、資金調達を進めるため、オフテイカーを探し契約を結ぶ必要があるとして、すでに欧州、中東、アジアの数カ国と会談を行っていることが明らかにされた。
この背景には、2022年9月にYPFとPetronasが締結した、アルゼンチンでLNGプロジェクトを実施するための共同研究開発契約が存在する。両社は、Vaca Muertaシェールで天然ガスを生産し、大西洋岸までこれを輸送するためのパイプラインと貯蔵設備や液化プラントの建設、国際物流ネットワークの構築などを行うことで合意に達した。
YPFについて見てみると、2023年12月10日にHoracio Marín氏がCEO兼会長に就任した。同氏は、在来型資産や成熟資産を売却し、最も収益性の高いVaca Muertaシェールに投資を集中、より効率的に上流及び下流の事業を推進し、LNGプロジェクトの進展を加速させ、原油とともにLNGの輸出を拡大する方針を打ち立てた。そして、YPFは大規模な液化施設を導入し、シェールガスの収益化を通じ世界的エネルギープレーヤーを目指すとした。Marín氏は、シェール生産量は増加しているのに、YPF全体としては生産が伸び悩むという状況に苦悩するYPFを、2010年代にプレソルトの探鉱・開発に集中し生産量を大きく伸ばしたPetrobrasの戦略に倣って、改革しようとしたと見られている。
YPFとPetronasは、2023年にBuenos Aires州Bahía Blanca港と土地賃貸契約を締結し、Bahia BlancaがArgentina LNGプロジェクトの候補地と考えられていた。ところが、大型投資奨励制度導入後、Rio Negro州Punta Coloradaが新たな候補地として浮上した。Rio Negro州はこの制度を適用し、Punta Coloradaが選ばれた場合には、地元の組合や企業が支援を行うと約束した。一方、Buenos Aires州は、Milei政権の反対派の一つであるKirchner派のAxel Kicillof氏が知事を務めており、Kicillof知事は当初、RIGIに対して関心を抱いていなかった。Rio Negro州が競争相手として浮上してきたため、RIGIを「州の関心事」と宣言せざるを得なくなったという。連邦政府をも巻き込んだ激しい論争が行われたが、2024年9月、YPFとPetronasは、Vaca MuertaシェールとPunta Colorada間のほうが、距離が短く、パイプラインを短くできることや、Punta Coloradaの港湾の水深が深い等の理由でRio Negro州Punta Coloradaの沿岸地域Sierra Grandeを選択した。
FLNGについては、2024年7月にPetronasが、自社のFLNG船Petronas Floating LNG Facility(PFLNG)1(SATU)(液化能力120万トン/年)とPFLNG 2(DUA)(同150万トン/年)のいずれかをArgentina LNGプロジェクト第1フェーズに導入することを検討していると報じられた。
ところが、同年9月20日、Argentina LNGプロジェクトからPetronasが撤退するという噂があるとの報道がなされた。YPFは既存のFLNGを転用できれば早いタイミングでLNG輸出が開始できると考えたようだ。一方、Petronasは、Argentina LNGを通じて大西洋のLNGポートフォリオ、特に欧州へのLNG供給を拡大することを目指していたが、早期にプロジェクトを稼働させるためスケジュールが加速されたことや陸上に液化施設を建設するにあたりコストが嵩むことが、同社の長期戦略と合致しなかったようだ。
YPFは、このプロジェクトはPetronasだけに依存しているわけではなく、他の企業が参入する可能性もあるとし、Petronasが撤退しても、プロジェクトを推進するとしている。そして、欧州、日本、韓国、そして2つの大手企業との交渉が進行中または交渉が計画されている、全体の3分の1にあたる年間1,000万トンがインドに輸出される可能性があるとした。
YPFは、その数日後には、2026年または2027年からLNG年間100万トンから200万トンを輸出する以前の計画に替えて、PAEとGolar LNGのLNG輸出プロジェクトへの参加を検討していることを明らかにした。YPFにとってこれは、以前の計画の代替、補完的なもので、引き続き、Vaca Muertaシェールからガスを供給、陸上液化施設を建設する計画であると発表した。
YPFは2024年10月31日に、LNG部門の子会社Argentina LNGを設立し、液化施設や輸送インフラの建設や契約、天然ガスの購入を担当させるとした。
2024年11月には、第1フェーズは2025年にFIDを行い、FLNG2基(液化能力、合計で年間800万トンから1,000万トン)で2029年から2030年に操業を開始する予定、第2フェーズは2030年から2032年までに液化能力、年間1,500万トンから2,000万トンの陸上施設を建設し、操業を開始するとの発表があった。
YPFは、この前の段階として、PAE/GolarのLNG輸出プロジェクトに参加するか、または、Argentina LNGの一部として別のFLNGを手配するかを検討しているとの発表もなされた。そして、Petronasは12月末までにプロジェクトを継続するかどうかを決定する必要があるとされた。YPFは、Petronasの代わり、あるいは、追加のパートナーとして参入することについてスーパーメジャーと話し合いを行っており、潜在的な新しいパートナーのリストのトップにはShellがいるとされた。LNGの販売については、インド、ドイツ、ハンガリー、イタリア、英国等の国及び企業と14の覚え書きを締結できたとした。
2024年11月には、Guillermo Francos官房長官から、Shellが、アルゼンチンでYPFが運営するLNGプロジェクトへの投資の可能性に強い関心を示していることが明らかにされた。一方、Shellの広報担当者Cynthia Babski氏は、契約や活動について詳しく説明することを拒否し、「私たちは常にポートフォリオを改善する機会を模索している」と述べた。Shellは、Neuquén Basin、Vaca Muertaシェールの主要4鉱区でオペレーターを務めるほか、3鉱区の権益も保有しており、2024年と2025年にそれぞれ5億ドルずつをVaca Muertaシェールの開発に投じ石油・天然ガス生産を増強する計画であるとしていた。
(5) PAEとGolar LNGのFLNGプロジェクトにYPF、Pampa Energía、Harbour Energyが参加
2024年11月末から12月にかけて、PAEとGolar LNGが進めるFLNGプロジェクトにYPF、Pampa Energía、Harbour Energyが参加することとなった。
まず、YPFのCEO、Horacio Marín氏が、同社はPAEとGolar LNGが進めるFLNGプロジェクトに参加すると発表した。YPFと、PAEとGolar LNGが協力することは、Vaca Muertaシェールでのガス生産とそれを利用したLNGの輸出を促進する鍵となるとの見方がなされた。
さらに、11月27日には、Pampa Energíaが、PAEとGolar LNGが設立したSouthern Energyの株式の20%を取得したことを明らかにした。Pampa Energíaは、1,300万立方メートル以上のガスを生産するVaca Muertaシェールから最大で日量300万立方メートルのガスを液化プロジェクトに供給することとなった。
Pampa Energíaは、数年前から他企業と協力して、陸上にLNG輸出ターミナルを建設することを考慮してきたが、たとえ実現しても小規模なプロジェクトになる可能性が高かったため、2024年10月中旬に、これを取りやめ、大規模なLNG輸出プロジェクへの参加を検討し、3か月以内に重要な決定を下す予定であるとしていた。
Harbour Energyも12月2日に、Southern Energyの株式15%を取得し、プロジェクトに参加することについてPAE、Golar LNGと契約を締結した。
Harbour Energyは、2024年9月にWintershall Deaの資産を買収し、アルゼンチンではTotalEnergies及びPAEが開発を進めるTierra del Fuego州の沖合プロジェクトに参入、Fénixガス田の生産を行っている。
今後も新たに参入する企業があるかもしれないが、Southern EnergyはPAEが40%、Pampa Energíaが20%、YPFが15%、Harbour Energyが15%、Golar LNGが10%を保有することになる可能性が高いと見られている。
YPFは、最終的に年間3,000万トンに達するプロジェクトには、2基のFLNGと陸上ターミナル1基が含まれるとしていたが、この時点では、Rio Negro州San Matías湾に4基のFLNGを設置することを検討しているとした。
第1フェーズでは、Hilli Episeyo FLNGを用い、2027年後半から生産を開始する。最初の2年間は既存のパイプライン・インフラを利用し、季節限定でLNG輸出を行う。
2基目のFLNGの提供を受けるため、YPFはGolar他の企業との交渉を行っている。YPFは、この第2フェーズではPAEとおそらくPluspetrolと共同でプロジェクトを進めることになる模様だ。2基目のFLNGの液化能力は年間約360万トンで、2027年末または2028年初頭に運用を開始することを計画している。そして、2基目のFLNGの導入が決定した場合、YPFは、双方のFLNGにガスを供給するために、2025年半ばまでにVaca Muertaシェールとの間に輸送能力、日量4,000万立方メートル、口径36インチ、全長550キロメートルの専用パイプラインの建設を開始し、18か月かけて建設を行うとしている。
他2基のFLNGは、早ければ2028年に設置される可能性がある。YPFは潜在的なサプライヤーと交渉中で、これら2基のFLNGにガスを供給するためにさらにパイプラインが建設される。
Golar LNGもこのFLNGのプロジェクトの可能性に強気で、CEOのKarl Fredrik Staubo氏は、将来「アルゼンチンでマルチFLNGプロジェクトを支援する可能性がある」と述べており、現在発注中のMark IIもこれに含まれる可能性があるとした。
YPFは、Vaca Muertaシェール産ガスをフィードガスとする将来のLNG販売契約をまとめるため、インド、日本、その他アジアの2カ国を訪問するとしている。YPFは、すでにアジアとヨーロッパの潜在的なバイヤーと19の機密保持契約を締結しており、インドは年間最大1,000万トンのLNGを引き取る可能性があるという。
(6) ShellとYPF、Argentina LNGプロジェクトのプロジェクト開発契約を締結、Petronrasは撤退
2014年12月19日、YPFは、ShellとArgentina LNGプロジェクト(投資総額500億ドル)のプロジェクト開発契約(project development agreement(PDA))を締結したと発表した。両社は、液化能力、年間1,000万トンのArgentina LNGプロジェクト第1フェーズの実現を目指し、フロントエンドエンジニアリング及び設計(FEED)段階に移行する決定に向けて前進することになる。Vaca MuertaシェールとRio Negro州Sierra Grandeの間に全長580キロメートルのパイプラインを敷設し、Vaca Muertaシェール産ガスを供給、FLNGにより操業を行う計画となっている。将来的には陸上に液化施設を建設する可能性もあるという。
ShellがArgentina LNGプロジェクトに参入する一方で、Petronasは同プロジェクトから撤退することになった。YPFは、過去2年間のPetronasの貴重な貢献を認めるとした。そして、Vaca MuertaシェールLa Amarga Chica鉱区の開発には引き続きPetronasとともに取り組むとした。
(7) Tecpetrol、Bahía Blanca陸上に液化能力、年間200万トンから400万トンの液化プラント建設を計画
Tecpetrolは、2024年10月16日にVaca Muertaシェールのガスを利用したLNG輸出プロジェクトを発表した。
Tecpetrolは、イタリアとアルゼンチンに本社を置くコングロマリットTechintグループの子会社で、アルゼンチン、ボリビア、コロンビア、エクアドル、メキシコ、ペルー、ベネズエラで炭化水素の探鉱、生産、輸送、流通、及び発電を実施している。
Tecpetrolは、Bahía Blanca陸上に年間200万トンから400万トンの液化能力を持つモジュール式液化プラントを建設する計画だ。パイプラインについては、既存のものを利用するという。
ただし、他の企業が参入可能となるよう、年間2,000万トンに液化能力を拡大することを視野に入れており、拡張の際には、Vaca Muertaシェールからの新たな専用ガスパイプラインを敷設するとしている。
Tecpetrolは、Bahía Blancaが「これらの特性を持つプラントにより適した土地で最高の条件を持っている」としているが、Rio Negro州沿岸にプロジェクトを配置する代替案をまだ排除していないともした。
同プロジェクトは、現在、FEED段階にあり、2025年半ばまでにFEEDを完了し、FIDを行う予定である。
3. ガイアナ:Stabroek鉱区、間もなくGas-to-Energyプロジェクト開始、液化事業も検討中
ガイアナで唯一開発が進んでいるStabroek鉱区(可採埋蔵量、石油換算116億バレル)では、Lizaフェーズ1とフェーズ2、Payaraの3プロジェクトが原油を生産中、Yellowtail、Uaru、Whiptailの3プロジェクトが開発中となっている。
Stabroek鉱区7番目のプロジェクトについては、ガイアナ初のガス開発プロジェクトとしてHaimaraガス田が開発される可能性があるとされていた。しかし、オペレーターのExxonMobilは2024年12月、2029年にHammerheadプロジェクト、2030年にLongtailプロジェクトの生産を開始する計画であると発表した。Hammerheadプロジェクトは主に重質の原油を生産、生産能力は日量15万バレル、Longtailプロジェクトは主に軽質原油とコンデンセートを生産、生産能力は日量24万バレルとなる見通しであるという。2030年までに同鉱区の原油生産能力は日量170万バレル、生産量は日量130万バレルに達すると見込まれている。
同鉱区の天然ガスについては、可採埋蔵量は17兆立方フィートで、現在は生産されたガス、日量8億立方フィートは全量再圧入されている。2025年からは、Gas-to-Energyプロジェクト(全長200キロメートルのパイプラインで日量5,000万立方フィート、最大で日量1億2000万立方フィートのガスをStabroek鉱区Liza 1及びLiza 2プロジェクトから陸上の発電所(発電容量300メガワット)に供給)の稼働が予定されている。Gas-to-Energyプロジェクト、フェーズ2の拡張(250メガワットの発電所と日量7500万立方フィートのNGLプラント)も評価中となっている。
ガイアナ政府は、ガス収益化ソリューションを提供し、上流のガス開発を加速するために必要なガスインフラの設計、資金調達、建設、運用を行う企業に、ExxonMobilの元幹部であるJesus Bronchalo氏が2023年に設立したFulcrum LNGを選択し、2024年6月にFEED契約を締結した。Fulcrum LNGは、Baker HughesとMcDermottをパートナーとし作業を進めるという。
Wood MackenzieはLNGプロジェクトのFIDを2026年、LNG供給開始を2031年、液化能力を年間840万トンと想定している。
4. スリナム:Petronas、FLNGを用いてBlock 52のガスを開発することを検討
スリナムでは、Block 52のガス開発が検討されている。
同鉱区は、2013年4月にPetronasが権益100%を取得、その後、2020年5月にExxonMobilが権益50%を取得して参入、Petronasが権益の残り50%を保持し、オペレーターを続けてきたが、2024年11月14日付でExxonMobilが同鉱区から撤退することとなった。
Block 52では、2020年にSloanea-1号井で、2024年6月にSloanea-1号井でそれぞれガスが確認され、これまでに4兆から5兆立方フィートのガスが発見されている。
スリナムでは、電力の太宗が水力発電で賄われており、国内にはガス需要はほとんどなく、LNG輸出の計画が検討されてきた。
Petronasは、ガス開発を可能にするため、スリナム国営石油会社Staatsolieと、10年間の減税等、FLNG開発の条件について合意に達しているという。ただし、最終的な条件についてはさらに交渉を行うという。
Petronasは、すでにFLNGのPre-FEEDを開始しており、早ければ2029年の操業開始を目指しているとの情報もある。一方、RystadEnergyは、スリナム初のガスプロジェクトが早ければ2031年にも実現する可能性があるとし、WoodMackenzieは、LNG供給開始を2031年、液化能力、年間320万トンと想定している。
ただし、スリナム沖合はガイアナ沖合に比べ地質構造が複雑で、インフラが未整備であるため、コストはStabroek鉱区よりも20%程度高くなると想定されている。
TotalEnergiesが2024年10月1日に、GranMorguプロジェクトのFIDを行ったと発表したBlock 58についても、LNGプロジェクト立ち上げについて検討が行われている。
なお、スリナムはトリニダード・トバゴのAtlantic LNGにガスを供給することについて検討するという内容の協定をトリニダード・トバゴと締結しているが、トリニダード・トバゴまでは直線で650から700キロメートル、ガイアナとの係争問題を抱えるベネズエラを避けるとすれば1,000キロメートル以上あり、実現は難しいと考えられる。
終わりに
アルゼンチンでは、Milei大統領の経済規制緩和の取り組みによりVaca Muertaシェールの開発が加速しており、アルゼンチンは今後数年間で世界的なLNG輸出国に転換する可能性がある。アルゼンチンは、Tango LNGプロジェクトがとん挫した経験を有するが、Milei大統領は、LNGを含む炭化水素の輸出を経済成長の重要な推進力と見なしており、プロジェクトを後押ししていくと考えられる。
ガイアナ、スリナムのLNGプロジェクトは、坑井の高い生産性とLNGの商業化に経験、知見を有するPetronas等の参加により、競争力のある新たなLNG供給源となりうると考えられるが、開発コンセプトや経済条件等、依然として不確実な部分があり、今後の動向が注目される。
南米でのLNGプロジェクト、特に、ガイアナ、スリナムのプロジェクトの立ち上げ計画には、米国Biden政権下でLNG輸出許可の一時停止措置が取られたことが影響を与えたとの見方もある。Trump氏が次期大統領に選出されたことで、米国は、LNG輸出許可の一時停止措置を撤廃する可能性もあり、併せて、動向を注視していきたい。
以上
(この報告は2024年12月20日時点のものです)
[1] 舩木弥和子「探鉱・開発が活発化、世界の原油供給拡大に貢献する大西洋南米沖合エリア」『JOGMEC石油・天然ガス資源情報』、2024年7月1日 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009992/1010159.html