ページ番号1010375 更新日 令和7年1月20日
原油市場他: 米国バイデン政権等による新たな対ロシア石油産業制裁等に伴い、2024年8月以来の高水準にまで上昇する原油価格
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概要
- 米国では、冬場の暖房シーズン突入に伴う留出油需要増加に備え製油所での原油精製処理活動が活発化した結果原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。また、製油所での石油製品製造活動が活発化したこともあり、ガソリン及び留出油両在庫は増加傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年並みの、それぞれ量となっている。
- 2024年12月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では減少したものの、欧州では一部製油所で予定外の操業停止が発生したことに伴い原油精製処理が進まなくなったことが一因となり、在庫は増加した。また、日本でも、これまで装置の不具合等で稼働を停止していた一部の製油所が稼働を再開することに併せ原油調達が進んだこと等もあり、在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本においては、一部地域における気温低下に伴い暖房向けの灯油需要が拡大したことで当該製品等の在庫が減少したことから、石油製品在庫は減少した。また、欧州においても、気温の低下とともに暖房向けの軽油需要が増加したものと見られること等により、石油製品在庫は減少した。このため、ガソリンや留出油等の在庫が増加したこともあり米国の石油製品在庫は増加となったものの、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少した他、平年並みの量となっている。
- 2024年12月中旬から2025年1月中旬にかけての原油市場においては、12月中旬から下旬にかけては、中国経済が減速していることを示唆する経済指標類が発表されたことや、12月17~18日の米国連邦公開市場委員会(FOMC)開催の際に、この先の政策金利引き下げペースが鈍化する旨示唆されたこと等が原油相場に下方圧力を加えた反面、中国政府等による景気刺激策実施の意向が示されたことや米国原油在庫が減少したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は概ね1バレル当たり68.50~71.50ドルを中心とする領域で方向感なく推移した。しかしながら、それ以降1月中旬にかけては、米国北東部及び欧州において気温が平年を下回って低下するとの予報が12月30日に発表されたことに加え、ロシア石油産業等に対し制裁を科する旨1月10日に米国バイデン政権等が発表したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となり、1月15日には1バレル当たり80.04ドルの終値と8月12日以来の高水準に到達する場面も見られた。
- 今後、冬場の暖房シーズンの終了が徐々に市場関係者の視野に入り始めるとともに春場の石油不需要期が意識されることが原油相場に下方圧力を加えやすくするものと考えられる。しかしながら、1月20日のトランプ氏の米国大統領就任に際しての、トランプ氏の政策及び発言等により、中東を含む地政学的リスク、米国内外の経済情勢等に対する観測が市場で発生する結果、原油相場が変動する可能性がある。特にトランプ政権はイランに対し最大限の圧力を加える姿勢を見せていることから、イランの原油供給が減少するとともに、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られると言った展開となることもありうる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2024年10月の米国ガソリン需要(確定値)は推定日量907万バレル、前年同月比0.4%の減少と、9月の当該需要(速報値)である日量899万バレルから需要量が増加したものの、同月の前年同月比1.7%程度の増加からは減少に転じた(図1参照)。また、当該需要は速報値(前年同月比1.8%程度減少の日量894万バレル)から上方修正されている。10月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.261ドルと9月の同3.338ドルからさらに下落した(因みに8月は同3.507ドルであった)ことにより、ガソリン小売価格の値頃感から自動車への給油が促進されたことから、10月のガソリン需要が前月比で増加した一方、前年同月比では9月の全米平均ガソリン小売価格は前年同月(同3.958ドル)比で15.7%の下落であったのに対し10月は前年同月(同3.742ドル)比で12.9%の下落にとどまったこともあり、その分だけ10月の米国ガソリン需要の前年同月比での伸びが圧縮される格好となったものと考えられる。また、ガソリン小売価格の低下もあり9月のガソリン需要が前年同月比で増加するなど比較的堅調であったものの、同月中旬には「フランシーヌ(Francine)」、下旬には「ヘレン/へリーン(Helene)」といったハリケーンが、それぞれ米国に上陸したことにより、個人の外出活動が抑制されたこともあり、9月の同国自動車運転距離数が前年同月比で横這いとなった反動で、かえって10月の同国における給油活動が抑制される格好となったことが、同月の当該需要の前年同月比での減少に反映されている側面もあるものと考えられる。なお、2024年10月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年10月の当該需要(日量931万バレル)(確定値)を2.6%程度下回っている。他方、2024年12月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量868万バレル、前年同月比1.3%の減少と、11月の当該需要(速報値)である日量877万バレルから需要量が減少した反面、同月の前年同月比1.6%程度の減少から減少率は縮小した。12月の米国は11月よりも冷え込んだことにより、個人の外出が敬遠されたことが、11月の米国ガソリン需要を前月比で押し下げる格好となったものと考えられる。ただ、2024年12月のクリスマス及び年末年始の休暇シーズン(12月21日~1月1日)においては1.07億人の個人が自動車で外出、2023年(同1.045億人)から2.4%増加するなど、経済情勢が改善しつつあることを背景として個人の外出が活発化したことが、2024年12月の同国ガソリン需要を押し上げた可能性がある。もっとも、同月は米国が前年同月比で寒冷であった他、12月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.139ドル、前年同月(同3.257ドル)比で1.9%程度の下落と、11月(3.175ドル)の前年同月(同3.443ドル)比7.8%の下落から下落幅が縮小するなど、ガソリン小売価格の割安感が後退していることもあり、速報値から確定値に移行される段階で2024年12月の米国ガソリン需要が下方修正される結果、当該需要の前年同月比での減少率が11月よりも拡大することもありうるので注意する必要があろう。なお、2024年12月の米国ガソリン需要は2019年12月の当該需要(日量897万バレル)(確定値)を3.2%程度下回っている。また、米国では秋場のメンテナンス作業実施が峠を越えつつあったことにより、冬場の暖房用石油製品需要期を控えて留出油等の石油製品製造活動が活発化するとともに製油所の稼働が上昇、原油精製処理量が増加する(図2参照)とともに、併せてガソリン生産も増加したものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図3参照)。このようなこともあり、12月上旬から1月上旬にかけ米国ガソリン在庫は混合基材を中心として総じて増加傾向を示した他、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。
2024年10月の米国における軽油及び暖房油を含む留出油需要(確定値)は日量406万バレル、前年同月比ほぼ横這いとなり(図5参照)、9月の同371万バレル(前年同月比3.8%程度の減少)から需要量が増加したうえ、前年同月比での減少率は縮小した。また、当該需要は速報値(前年同月比3.5%程度減少の日量392万バレ)から上方修正されている。2024年10月は9月及び2023年10月に比べ米国北東部において気温が低下したことから、暖房向けの留出油需要が相対的に促進されたことに加え、2024年10月の同国鉱工業生産が前年同月比0.5%の減少と9月の同0.7%の減少から減少率が縮小したこともあり、同月の物流活動が前年同月比で0.4%の増加と9月の同0.0%の増加から伸びが拡大したことが、2014年10月の同国留出油需要を押し上げる形で作用したものと考えられる。なお、2024年10月の米国留出油需要は2019年10月の当該需要(日量422万バレル)(確定値)を3.9%程度下回っている。他方、2024年12月の米国留出油需要(速報値)は推定日量378万バレル、前年同月比で3.6%程度の増加となり、11月の日量373万バレル(前年同月比で5.6%程度の減少)(速報値)と比べ、需要量は僅かながらではあるが増加したうえ前年同月比でも減少から増加に転じた。米国の暖房向け留出油需要の中心地である北東部が、12月は11月に比べ気温が低下した他、2024年12月は前年同月比でも冷え込んだことにより、当該需要が拡大したことが、前月及び前年同月比での増加をもたらしているものと考えられる。なお、2024年12月の米国留出油需要は2019年12月の当該需要(日量393万バレル)(確定値)を3.9%程度下回っている。そして、このように米国の留出油需要は堅調であったものの、製油所の稼働も高水準であったことに伴い、留出油生産が活発化した(図6参照)ことで相殺されたことから、12月上旬から同月下旬にかけての米国の留出油在庫は明確な増加及び減少を示すことなく推移したが、年末年始を中心とする期間においては鉱工業生産や物流活動等の鈍化に伴い留出油の出荷活動が不活発化したものと見られることから、12月下旬から1月上旬にかけては当該在庫が増加した結果、1月上旬時点の当該製品在庫量は12月上旬の水準を上回る格好となっている他、平年幅上方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2024年10月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比1.8%程度増加の日量2,101万バレルとなり(図8参照)、9月の同2,031万バレルから需要量は増加したうえ、同月の前年同月比0.8%程度の増加から増加率は拡大した。石油化学向けのエタンを含むその他の石油製品の需要が前年同月比で相当程度増加した(2023年7~10月は米国のエタン価格が高水準の状態であった(原油及び天然ガス価格の上昇がエタン価格に影響を及ぼしたことが一因であるものと思われる)ことに伴いエタン需要が圧迫された一方、2024年7~10月は同国のエタン価格が前年同月を相当程度下回る価格水準となったことにより、相対的にエタン需要が喚起されたものと見られる)ことが同国石油需要に影響する格好となっている。また、ガソリン及び留出油両需要が速報値から上方修正されたことが一因となり、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比ほぼ横這いの日量2,064万バレル)から上方修正されている。なお、2024年10月の米国石油需要は2019年10月の当該需要(日量2,071万バレル)(確定値)を1.4%程度上回っている。他方、2024年12月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,026万バレル、前年同月比で0.7%の減少となっており、11月の同国石油需要(速報値)である日量2,043万バレル(前年同月比1.5%程度の減少)から需要量が減少した反面前年同月比では減少率が縮小した。ガソリン需要が前月から減少していることが、同国石油需要の前月比での減少に反映されている一方、留出油需要が前年同月比で増加したことが、2024年12月の同国石油需要の前年同月比での減少率の縮小に寄与する格好となっている。なお、2024年12月の米国石油需要は2019年12月の当該需要(日量2,044万バレル)(確定値)を0.9%程度下回っている。また、12月上旬から1月上旬にかけての米国原油生産は日量1,350~1,360万バレル程度で安定的に推移した反面、製油所の原油精製処理量が増加傾向となった他、原油輸入が伸び悩み気味となったこともあり、12月上旬から1月上旬にかけ米国原油在庫は減少傾向となった(また、米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が賦課されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の陸上在庫保有を回避させるべく原油輸入を抑制等することにより12月末にかけ同国メキシコ湾岸地域では原油在庫が減少する場面が見られやすく、これが米国原油在庫を減少させる一因にもなっている)が、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリンの両在庫が平年幅上限を超過していることから、留出油在庫は平年幅上方付近に位置する量となったものの、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2024年12月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では減少したものの、欧州では冬場の暖房向け石油製品需要期に突入しつつあることもあり、製油所の稼働上昇を見込んだ原油供給確保が活発化する中、一部製油所で予定外の操業停止が発生したことに伴い原油精製処理が進まなくなったことが一因となり、在庫は増加した。また、日本でも、冬場の暖房向け石油製品需要期を迎えつつある中、これまで装置の不具合等で稼働を停止していた一部の製油所が稼働を再開することに併せ原油調達が進んだこともあり、在庫は増加した(また、操業上の調整から一部製油所が稼働を停止したとも伝えられており、この分だけ原油在庫積み上げが拡大した側面もあるものと見られる)。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、日本においては、一部地域における気温低下に伴い暖房向けの灯油需要が拡大したことで当該製品等の在庫が減少したことから、石油製品在庫は減少した。また、欧州においても、気温の低下とともに暖房向けの軽油需要が増加したものと見られることに加え、クリスマスや年末年始の休暇シーズン到来に伴う個人の往来の活発化による乗用者向けのガソリンや軽油の追加需要が発生したこと等により、石油製品在庫は減少した。このため、気温の低下に伴う暖房向け需要の増加によりプロパン在庫が減少した他、その他の石油製品の在庫が減少した(冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあることに伴うものと見られる)ものの、製油所の稼働上昇に伴いガソリンや留出油等の在庫が増加したことにより相殺された結果、米国の石油製品在庫は増加となったものの、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少した他、平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から減少した他平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2024年12月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.8日と11月末の推定在庫日数(60.3日)から増加している。
12月11日に1,500万バレル前半程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、12月18日には1,400万バレル台後半程度の量へと減少したが、12月25日には1,500万バレル台前半程度、1月1日には1,600万バレル強程度の、それぞれ水準へと回復した。ただ、1月8日には1,500万バレル台半ば程度、1月15日には1,400万バレル台後半程度の、それぞれの量へと減少した。この結果、1月15日の当該在庫量は12月11日の水準を下回っている。秋場のメンテナンス作業が終了に向かうことに伴いアジア等において製油所の稼働が上昇する(冬場の暖房のための留出油製造活動活発化が背景にある)とともに、併せて生産が旺盛となることにより余剰となったガソリンやナフサが、シンガポール方面に流入したことが、軽質留分在庫を押し上げる形で作用した側面はあるものの、年末年始及び中国の春節(旧正月)(2025年は1月29日)の休暇シーズンを控えた個人の自動車による往来の活発化を控えたガソリンの需要増加に伴う輸出の鈍化等からシンガポールにおける軽質留分在庫の増加を抑制する場面が見られたものと見られる。そして、このようにシンガポールにおける軽質留分在庫は増減したものの、米国や欧州(石油精製活動の中心地であるアムステルダム、ロッテルダム及びアントワープ)におけるガソリン在庫が増加傾向となったことにより、世界的なガソリン需給の緩和感が感じられるようになったことが、欧米のみならずアジアのガソリン価格にも下方圧力を加えたうえ、12月末前後以降は原油価格の上昇にガソリン価格の上昇が追い付かない場面が見られたこともあり、12月中旬から1月中旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を示した他、1月中旬後半頃にはガソリン価格がドバイ原油価格を下回る場面も見られている。
また、中国では2025年に入り複数のナフサ分解装置が操業を開始する予定であるとされることや、同時期に中東の製油所においてメンテナンス作業が実施される見込みであることから、ナフサの需要が増加することに加え短期的には供給が制約を受ける可能性があることが、アジア市場におけるナフサ価格を下支えする格好となったものの、経済活動が低調であるとされる中国を初めとして石油化学製品需要が盛り上がらないことからナフサ分解装置の稼働が低調である(東南アジア一部諸国では収益が十分に確保出来ないことからナフサ分解装置の稼働が停止していると伝えられる)ことが、アジア市場におけるナフサ価格を抑制する形で作用していることから、12月中旬から1月初頭頃にかけてはナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は、概ね限られた範囲内で拡大及び縮小と言った明確な傾向を示すことなく推移した。しかしながら、1月初頭頃以降は原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かない場面が見られたこともあり、両者の価格差は1月中旬に向け拡大する傾向を示した。
12月11日には1,100万バレル台前半程度の量であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分の在庫は、12月18日には、1,000万バレル台半ば程度、12月25日には1,000万バレル強程度、1月1日及び8日には800万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。1月15日には900万バレル台前半程度の水準へと回復したものの、12月11日の水準を下回る状態となっている。12月に入り米国の暖房向け留出油需要の中心地である北東部や欧州において気温が低下してきたことにより、留出油需要が喚起されるとの観測が市場で発生するとともに、大西洋圏での留出油需給引き締まり感が強まったこともあり、中東やインドで製造された軽油が欧州方面に流出する反面、アジア方面に流入しにくくなったことが、シンガポールでの中間留分在庫の減少傾向創出に寄与したものと考えられる。そしてこのように、大西洋圏における留出油需給の引き締まり感の強まりに加え、シンガポールにおける中間留分在庫の減少が、アジアにおける軽油価格に上方圧力を加えたことから、12月中旬から1月初頭頃にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は上下に変動しつつも概して拡大する傾向を示した。しかしながら、その後は原油価格の上昇に軽油価格の上昇が追い付かない場面が見られたことから、1月中旬にかけ価格差は縮小気味に推移している。
12月11日には1,800万バレル弱程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、12月18日には2,900万バレル弱程度の量へと大幅に増加した。しかしながら、12月25日に2,100万バレル台後半程度、1月1日には2,100万バレル弱程度の、それぞれ量へと減少した。それでも、1月8日には2,100万バレル強程度の水準へと回復した。1月15日には2,000万バレル台後半程度の量へと減少したものの、12月11日の水準をそれなりに上回る状態となっている。米国、アジア及び欧州等において秋場のメンテナンス作業が峠を越えたことに伴い、製油所の稼働が上昇するとともに石油製品製造活動が活発化したことにより生産された重油が相対的に利幅を確保しやすい中国等アジア市場に流入してきている(米国においてトランプ政権が始動するとともに関税の大幅な引き上げが図られる前に中国等が自国産製品等の米国への輸出を活発化させる動きを見せていることから、船舶向け重油需要が堅調になりつつあったことが背景にあるものと見られる)ことが、シンガポールにおける重油在庫を押し上げているものと考えられる。しかしながら、シンガポール方面へ重油を輸出した大西洋圏では、かえって重油在庫が低水準になる場面が見られたことにより、同地域における重油価格が若干ながら持ち直す格好となった影響がアジア市場にも及ぶ格好となったことから、12月中旬から1月初頭頃にかけての高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は若干ながらではあるが縮小傾向に、同時期の低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油がドバイ原油を上回っている)は若干ながらではあるが拡大傾向となった。しかしながら、1月初頭頃以降は、原油価格の上昇に重油価格の上昇が追い付かない場面が見られたこともあり、高硫黄重油とドバイ原油との価格差は拡大傾向を、同時期の低硫黄重油とドバイ原油との価格差は縮小傾向を、それぞれ示している。
2. 2024年12月中旬から2025年1月中旬にかけての原油市場等の状況
2024年12月中旬から2025年1月中旬にかけての原油市場においては、12月中旬から下旬にかけては、中国経済が減速していることを示唆する経済指標類が発表されたことや、12月17~18日の米国連邦公開市場委員会(FOMC)開催の際に、この先の政策金利引き下げペースが鈍化する旨示唆されたこと等が原油相場に下方圧力を加えた反面、中国政府等による景気刺激策実施の意向が示されたことや米国原油在庫が減少したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は概ね1バレル当たり68.50~71.50ドルを中心とする領域で方向感なく推移した。しかしながら、それ以降1月中旬にかけては、米国北東部及び欧州において気温が平年を下回って低下するとの予報が12月30日に発表されたことに加え、イエメンのフーシ派武装勢力を12月30~31日に攻撃した旨12月31日に米軍が明らかにしたこと、2024年の中国国内総生産(GDP)成長率は5%前後の目標を達成する見込みである旨同国の習近平国家主席が示唆したと12月31日に同国国営新華社通信が報じたこと、ロシア石油会社及びロシア産石油を輸送するタンカー等を対象として制裁を科する旨1月10日に米国バイデン政権等が発表したこと、2026年の世界石油需要の前年比増加量が2025年並みとなる旨1月15日にOPECが発表したしたこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となり、1月15日には1バレル当たり80.04ドルの終値と8月12日以来の高水準に到達する場面も見られた(図15参照)。
12月16日に中国国家統計局から発表された11月の同国小売売上高が前年同月比で3.0%の増加と10月の同4.8%の増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同4.6~5.0%の増加)を下回ったうえ、11月の同国原油精製処理量が5,851万トン(推定日量1,428万バレル)と2024年6月(この時は5,832万トン(同1,423万バレル))以来の低水準に到達している旨判明したことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、12月17~18日に開催される予定である米国連邦公開市場委員会(FOMC)を前にした持ち高調整が発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.58ドル下落し、終値は70.71ドルとなった。また、12月16日に中国国家統計局から発表された11月の同国小売売上高及び同国原油精製処理量が軟調であったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、12月17日にドイツ非営利研究機関IFO経済研究所から発表された11月の同国企業景況感指数(2005年=100)が84.7と10月の85.6(改定値)から低下した他、市場の事前予想(85.5~85.6)を下回ったことにより、欧州経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、12月17~18日に開催される予定である米国FOMCを前にした持ち高調整が継続したこともあり米国株式相場が下落したこと、パレスチナ自治区ガザ地区を巡るイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での停戦を巡る協議が前回停戦時(2023年11月24日~12月1日)以降で最も接近しつつある状況である旨12月16日にイスラエルのカッツ国防相が明らかにした他、数日以内に両者が停戦で合意する可能性がある旨関係筋が12月17日に明らかにしたと同日報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、12月17日の原油価格の終値は1バレル当たり70.08ドルと前日終値比で0.63ドル下落した。この結果原油価格は12月16~17日の2日間合計で1バレル当たり1.21ドルの下落となった。ただ、カザフスタンは、自国の原油生産能力拡大にもかかわらず、OPECプラス産油国間での合意を尊重し、2025年の原油生産量につき、OPECプラス産油国間で合意した目標、及び2024年前半を中心とした時期に行なわれた目標を超過した原油生産量に対する追加減産計画を遵守する意向である旨12月18日に報じられたことにより、石油需給の引き締まり感が市場で意識されたことに加え、12月18日にEIAから発表された米国石油統計において、留出油在庫が前週比で318万バレルの減少と市場の事前予想(同70~110万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.58ドルと前日終値比で0.50ドル上昇した。しかしながら、12月17~18日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、0.25%の政策金利引き下げが決定された旨12月18日に明らかになったものの市場の事前予想通りであった他、併せて明らかになった同国金融当局関係者による2025年の政策金利引き下げ予想回数が2回と9月17~18日のFOMC開催の際に明らかになった予想回数である4回から半減したうえ、この先の米国政策金利の取り扱いについては慎重に対処しなければならない旨12月18日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が表明したことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退した流れを引き継ぐとともに米ドルが上昇したことに加え、中国石油需要は遅くとも2027年には頭打ちになる旨中国石油化工集団(Sinopec Group)経済技術研究院が明らかにしたと12月19日に報じられたことにより、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.67ドル下落し、終値は69.91ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2025年1月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、2月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は69.38ドル(前日終値比同0.64ドルの下落)であった)。12月20日の原油価格の終値は1バレル当たり69.46ドルと前日終値比で1バレル当たり0.45ドル下落したが、米国原油先物契約2月受け渡し間では前日終値比0.08ドルの上昇にとどまった。これは、12月17~18日に開催されたFOMCの結果等により米国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退した流れを引き継いだことに加え、中国石油需要は遅くとも2027年には頭打ちになる旨中国石油化工集団経済技術研究院が明らかにしたと12月19日に報じられたことに伴い世界石油需給緩和感を市場が意識したことが原油相場に下方圧力を加えた反面、12月20日に米国商務省から発表された11月の同国個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)価格指数が前年同月比で2.4%の上昇と10月の同2.3%の上昇から伸びが加速したものの、市場の事前予想(同2.5%の上昇)を下回ったうえ、前月比では0.1%の上昇と10月の同0.2%の上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同0.2%の上昇)を下回ったこともあり、米国における物価の伸びの鈍化観測が市場で発生したこともあり、米ドルが下落したことが、原油相場に上方圧力を加えたことによる。
ただ、12月20日に米国連邦議会下院が、12月21日未明に同議会上院が、それぞれ2025年3月14日までのつなぎ予算案を可決し、バイデン大統領が直ちに署名したことにより、米国連邦政府の閉鎖に伴う行政の混乱が回避されたこともあり、米ドルが上昇したことから、12月23日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.22ドル下落し、終値は69.24ドルとなった。それでも、2025年においては、消費者が保有する製品の更新を促進することに加え医療保険補助や年金を引き上げることを通じ、消費を喚起するための財政的な支援策を拡大する意向である旨12月24日に中国財政省が発表した他、2025年は3兆元(約64.5兆円)といった過去最高規模の特別国債を中国が発行する旨12月24日に報じられたことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.10ドルと前日終値比で0.86ドル上昇した。12月25日は、米国でのクリスマスの休日に伴い同国原油先物市場は休場となったが、同日行なわれた講演において日本銀行の植田総裁が政策金利の引き上げにつき明確な方針を示唆しなかったことにより日本円が下落したうえ、12月26日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(12月21日の週分)が21.9万件と市場の事前予想(22.4万件)を下回ったことにより、同国金融当局による政策金利引き下げ期待が後退したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.62ドルと前日終値比で0.48ドル下落した。しかしながら、12月27日には、この日EIAから発表された米国石油統計(12月20日の週分)において、原油在庫が前週比で424万バレルの減少と市場の事前予想(同190万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.98ドル上昇し、終値は70.60ドルとなった。
12月30日には、この先米国北東部及び欧州において気温が平年を下回って低下するとの予報が明らかになったことにより、同国軽油先物価格が上昇したことに加え、1月2日にEIAから発表される予定である米国石油統計(12月27日の週分)において、原油在庫が前週比で減少しているとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.99ドルと前週末終値比で0.39ドル上昇した。また、12月31日も、この日中国国家統計局から発表された12月の同国非製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が52.2と11月の50.0から上昇した他市場の事前予想(50.2)を上回ったうえ、2024年の中国国内総生産(GDP)成長率は5%前後の目標を達成する見込みである旨同国の習近平国家主席が示唆したと12月31日に同国国営新華社通信が報じたことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことに加え、12月30日及び31日にイエメンのフーシ派武装勢力の拠点を攻撃した旨12月31日に米軍が明らかにしたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.73ドル上昇し、終値は71.72ドルとなった。1月1日は、米国新年の休日に伴い同国原油先物市場は休場であったものの、2024年の中国GDP成長率が5%前後の目標を達成する見込みである旨同国の習近平国家主席が示唆したと12月31日に報じられたことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大した流れを1月2日の市場が引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.13ドルと前日終値比で1.41ドル上昇した。また、中国で現在実施されている製品買い換え促進のための補助金支出制度を拡充するため、超長期特別国債の発行規模を大幅に拡大する意向である旨1月3日に同国国家発展改革委員会が明らかにした他、中国人民銀行が2025年のある時点で政策金利を引き下げる可能性が高い旨同行関係者が明らかにしたと1月3日にフィナンシャル・タイムスが報じたことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.83ドル上昇し、終値は73.96ドルとなった。この結果原油価格は12月27日~1月3日の5取引日間合計で1バレル当たり4.34ドル上昇した。
ただ、1月6日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、1月6日に米国商務省から発表された2024年11月の同国製造業受注が前月比で0.4%の減少と10月の同0.5%増加から減少に転じた他市場の事前予想(同0.3%の減少)を上回って減少している旨判明したうえ、1月6日にドイツ連邦統計庁から発表された12月の同国消費者物価指数(CPI)(欧州連合(EU)基準)が前年同月比2.9%上昇と11月の同2.4%の上昇から伸びが拡大した他市場の事前予想(同2.6%上昇)を上回ったことにより、欧州中央銀行(ECB)の政策金利引き上げ観測が増大したことに伴い、両国の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.40ドル下落し、終値は73.56ドルとなった。それでも、1月7日には、米国北東部の気温がさらに低下しつつあることにより暖房向け石油需要の伸びの加速観測が市場で増大したことに加え、中国の山東港口集団(Shandong Port Group)が、米国により制裁を科されているタンカーの入港を禁止した旨1月7日にロイター通信が報じたことにより、中国のイラン、ロシア及びベネズエラ等からの原油輸入減少の代替としての原油需要が発生するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.25ドルと前日終値比で0.69ドル上昇した。1月8日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、1月8日にEIAから発表された米国石油統計(1月3日の週分)において、ガソリン在庫が前週比で633万バレル、留出油在庫が同607万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫同50~150万バレル程度、留出油在庫同50~60万バレル程度の、それぞれ増加)を相当程度上回って増加している旨判明したこと、米国による対外関税引き上げの法的根拠とすべく、トランプ次期政権が国家経済緊急事態を宣言することを検討している旨関係筋が明らかにしたと1月8日にCNNが報じたうえ、1月8日に明らかになった米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(12月17~18日開催分)において、トランプ次期大統領による政策により米国物価上昇が沈静化しないリスクが拡大しつつある旨指摘されていたことが判明したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.93ドル下落し、終値は73.32ドルとなった。しかしながら、1月9日には、米国の北東部を含む広範囲で気温が低下しつつあることもあり、暖房用石油製品需要増加観測が市場で増大するとともに同国軽油先物価格が上昇したうえ、米国南部等での原油生産が気温低下に伴う資機材の凍結等により支障を来すのではないかとの懸念が発生したことに加え、米国バイデン政権が今週中にロシアに対し新たな制裁発動の発表を予定している旨1月9日に報じられたことにより、ロシアからの石油供給を巡る支障に対する不安感が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.92ドルと前日終値比で0.60ドル上昇した。また、1月10日には、米国北東部の気温低下に伴う暖房向け需要増加観測により同国軽油先物価格が上昇したことに加え、ロシア大手石油会社ガスプロム・ネフチ(Gazprom Neft)及びスルグトネフチガス(Surgutneftegas)(2024年1~10月の両社の海上経由の石油輸出は日量約97万バレルと、ロシアの海上経由石油輸出全体の約30%を占めるとされる)及びその関係会社、そして、インゴスストラフ(Ingosstrakh)を含む同国保険会社、さらには、新たに石油タンカー183隻(従来は135隻)等に対し、制裁を発動する旨1月10日に米国財務省及び国務省が発表したことにより、ロシアの石油供給を巡る混乱に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.65ドル上昇し、終値は76.57ドルと、2024年10月7日(この日の終値は77.14ドル)以来の高水準となった。
さらに、1月13日も、米国バイデン政権による対ロシア石油産業制裁発動に伴うロシアからの石油供給混乱を巡る懸念が増大した流れを引き継いだことに加え、米国のトランプ次期大統領との会談後、カナダ産石油に対し例外なく課せられる予定である25%の米国の関税に備えるべきである旨カナダ・アルバータ州のスミス首相が1月13日に明らかにしたことにより、米国の関税賦課に伴うカナダ産原油の米国への原油供給減少もしくは米国国内での原油価格上昇に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.82ドルと前週末終値比で2.25ドル上昇した。この結果原油価格は1月9~13日の3取引日間合計で1バレル当たり5.50ドルの上昇となった。ただ、1月14日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、パレスチナ自治区ガザ地区における停戦に関しイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間で基本合意に到達した旨1月14日に米国CBSが報じたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり77.50ドルと前日終値比で1.32ドル下落した。それでも、1月15日には、この日IEAから発表されたオイル・マーケット・レポートにおいて、1月10日に米国等がロシア石油産業等に科した制裁により、ロシアの石油供給が相当程度混乱する可能性がある旨IEAが指摘したことにより、この先の世界石油需給引き締まり観測が増大したことに加え、同じくこの日OPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートにおいて、2026年の世界石油需要が前年比日量143万バレルの増加と2025年(同145万バレルの増加)とほぼ同水準の伸びとなる旨の見通しをOPECが披露したことにより、将来的な石油需要の堅調な伸びに伴う石油需給引き締まりの可能性を市場が意識したこと、1月15日にEIAから発表された米国石油統計(1月10日の週分)において、原油在庫が前週比で196万バレルの減少と8週連続前週比で減少した結果在庫量が4.13億バレルと、2021年4月1日(この時は4.12億バレル)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(同90~100万バレル程度の減少)を上回って減少した旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.54ドル上昇し、終値は80.04ドルとなり、2024年8月12日(この日の終値は80.06ドル)以来の高水準に到達した。そして、1月16日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.68ドルと前日終値比で1.36ドル下落した。また、1月17日も、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生した流れを引き継いだことに加え、1月20日の米国トランプ政権発足を前にした持ち高調整が発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.80ドル下落し、終値は77.88ドルとなった。この結果原油価格は1月16~17日の2日間合計で1バレル当たり2.16ドル下落した。
3. 原油市場における主な注目点等
今後の世界石油市場における注目点の一つはウクライナとロシアを巡る情勢になろう。ウクライナはミサイル13発及び無人機84機を使用してロシアを攻撃した結果、ロシア南部ロストフ(Rostov)州にある製油所で火災が発生した旨2024年12月19日に報じられた。また、ロシア西部スモレンスク(Smolensk)州にある石油貯蔵施設が12月31日にウクライナ軍により攻撃された結果火災が発生した旨同日ウクライナ軍が明らかにした。1月4日にはロシアの石油積出港ウスチ-ルーガ(Ust-Luga)をウクライナ治安当局関係者が無人機で攻撃した旨1月6日に報じられる(石油積載船舶の動きには影響はないように見受けられる旨併せて報じられる)。加えて、ウクライナ軍が米国製地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」6発及び英国製長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」6発をロシアに向け発射した旨1月14日にロシア国防省が発表(ロシアは報復実施を宣言)した一方、ウクライナ軍もロシアのブリャンスク(Bryansk)やサラトフ(Saratov)を含む各地の製油所や石油貯蔵施設等を対象として攻撃を実施した旨明らかにしたと1月14日に伝えられる。さらに、ロシアの南西部のヴォロネジ(Voronezh)州にある石油貯蔵施設を夜間に無人機が攻撃した結果火災が発生した旨ウクライナ軍が1月16日に発表した。
また、ロシア大手石油会社ガスプロム・ネフチ及びスルグトネフチガス(2024年1~10月の両社の海上経由の石油輸出は日量約97万バレルと、ロシアの海上経由石油輸出全体の約30%を占めるとされる)及びその関係会社、インゴスストラフ(Ingosstrakh)を含む同国保険会社、新たに石油タンカー183隻(従来は135隻)等に対し追加制裁を実施する意向である旨1月10日に米国財務省及び国務省が発表した(併せて英国も前述のロシア石油会社2社に対し制裁を実施する意向である旨1月10日に伝えられる)。今般制裁対象となったタンカーは2024年に日量145万バレル相当(同国の海上経由の原油輸出量の約40%に当たるとされる)の石油を輸送し、うち80万バレル相当が中国に、残りの大部分はインドに向かったとされる。今回の制裁実施発表に伴い、中国及びインドの石油会社等は制裁対象となったタンカー及びロシア石油会社を通じた石油調達を回避するとともに、制裁対象となっていない産油国及びタンカーを通じた石油確保を実施すべく動いているとされ、この結果、世界石油供給体制が混乱するとの懸念が市場で発生するとともに、1月10日以降原油相場(及びタンカー運賃)に上方圧力が加わる格好となっている。今後、最終的には制裁対象となっていないタンカーを確保すること等を通じロシア産原油の供給体制がある程度は平準化することにより、当初懸念した程には石油需給は極端に引き締まらない結果、原油価格の上昇も沈静化に向かうとの見方も市場にはあるようであるが、短期的には米国等による対ロシア制裁の実施状況等を巡る不透明感が強いこともあり、中国及びインド等によるロシア以外の代替原油調達先やタンカー確保の動きを含め石油市場における混乱に対する懸念が市場で継続する結果、原油相場が下支えされるといった展開となることも想定されよう。
他方、自身が大統領であれば24時間以内にロシアのウクライナ侵攻を終結させる旨2023年5月10日にトランプ氏は主張したが、1月7日には、大統領就任後6ヶ月間で以て、そして可能であればそれよりも相当程度早い時点でウクライナとロシアとの紛争を終結させたい旨希望している旨同氏が明らかにした。また、トランプ次期政権関係者は、バイデン政権により制裁を科されているロシア石油会社にとって好都合となるような措置を講じることにより、紛争終結推進の一助とする方策と、制裁を一層拡大することを通じ圧力をさらに強化することによりロシアから譲歩を引き出す方策といった、方向性がかなり異なるロシア対応策を検討しているとされている。また、2024年11月22日にトランプ次期政権における財務長官に指名されたベッセント氏は、米国バイデン政権による対ロシア制裁は不十分であり、ウクライナ侵攻終了時まで対ロシア石油産業制裁を拡大することに賛同する旨1月16日に明らかにしている。このようなこともあり、トランプ氏の大統領就任後直ちにロシアとウクライナとの戦争状態が終結せず、少なくともそれなりの期間両国間の戦争状態が継続する可能性が高まっている。そのような中、ウクライナによるロシアの製油所、貯蔵施設及び港湾と言った、石油関連インフラに対するミサイルや無人機による攻撃が継続するようであれば、ロシアからの石油供給混乱を巡る懸念が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性があろう。
また、中東を巡る動向についても注意が必要であろう。2023年10月7日以降継続中であった、パレスチナ自治区ガザ地区を巡るイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での紛争状態につき、第1段階として1月19日より6週間に渡り停戦を実施し、イスラム武装勢力ハマスが拘束する女性、子供及び高齢者等の人質33人を解放する一方、イスラエルはガザ地区の都市部から撤退するとともに同国が拘束しているパレスチナ人数百人を釈放する旨1月15日にイスラエルとハマスとの間で合意に到達した(第1段階の停戦期間16日目までに第2段階(ハマスの拘束する男性等につきさらなる人質解放を進めるとともに、イスラエルがガザ地区からさら撤収することが予想される内容になるとされる)につき交渉を開始する予定であり、第3段階においては、エジプト、カタール及び国連の監視の下ガザ地区の復興が推進されるものと見込まれている)。1月17日には、イスラエルのネタニヤフ政権の閣議においても停戦方針が承認され、予定通り1月19日より停戦が実施される運びとなった(停戦は当初予定であった現地時間同日午前8時半から2時間45分遅れの午前11時15分に発効した)。ただ、既に以前の段階で、イスラエルと、ハマス、イスラム武装勢力ヒズボラ及びイラン等との間の先鋭化を以てしても、イスラエル及びイラン双方が攻撃に際し抑制的な姿勢で以て対応したこと等により、中東からの石油供給には大きな影響が生じなかったこともあり、市場関係者間における中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念は後退する格好となっていたこともあり、今般の停戦合意の原油相場への影響は限定的なものとなった。
また、ハマス等を支援すべくイスラエルに対し、もしくは紅海やアラビア海等イエメン周辺海域におけるイスラエルと関連があると見られる船舶等に対し、無人機等で攻撃を実施していたイエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)による、船舶等への攻撃やイスラエルに向かう無人機等の落下と船舶の被弾といった事態は今後回避されることから、紅海からスエズ運河を経由したタンカーの航行が円滑化するとともに、大西洋圏と太平洋圏との間での石油流通等が柔軟に行なわれるようになることにより、石油輸送コストが低下するとともに原油や石油製品の価格が下落に向かうとの期待が市場で高まった向きもあった。しかしながら、今後暫くの間は、次の段階の停戦に関する協議の進捗具合を含め、イスラエルとハマスとの間での停戦が持続するかどうかについて、市場関係者間では確信を持てない状況にある。そして、イスラエルが停戦合意を逸脱する行為を行なうようであれば、フーシ派武装勢力は攻撃を実施する意向である旨1月16日にフーシ派武装勢力の指導者であるフーシ氏が示唆している。このため、実際に停戦が維持されるとともに、紅海等の海域における船舶等の攻撃が停止され、航行の安全性が確保出来るまで、当該海域における船舶の航行は見合わせる方針である旨1月16日に複数の海運会社が明らかにしたと伝えられる。従って、短期的には、この面における原油相場への下方圧力は限定的なものとなる一方、中長期的に停戦が維持されるとともに、海域の安全性が確保されたとの確信が市場関係者間で強まった時になってようやく原油相場に有意に下方圧力が加わり始めるものと考えられる。
シリアでは、旧反体制派勢力の「シリア(シャーム)解放機構(HTS)」の指導者であるジャウラニ氏が、同国で複数存在する武装勢力を解散し政府軍に統合する意向である旨12月15日に明らかにした。その後ジャウラニ氏は複数の旧反体制派指導者と協議し、全ての武装勢力を解散し政府軍に統合することで合意した旨12月24日に報じられた。しかしながら、シリア民主軍(SDF)(トルコ政府と対立する同国の非合法武装勢力であるクルド労働者等(PKK)の関連組織であるものとトルコは認識している)はこの合意には合流していない旨同日伝えられた。また、シリア各地において暫定政府軍とアサド前政権関係武装勢力等との間で衝突が発生している旨12月26日に報じられた他、国内各勢力の代表者間での新国家体制の構築に向けた協議の機会を当初1月上旬に設ける予定であったが、それを事実上無期限で延期する旨1月7日に暫定政府のシェイバニ外相が発表した。このように12月8日にアサド前政権が崩壊し、HTSが事実上同国を掌握した後も、同国内は完全に平定した状態に至ったとは言い難い他、12月20日にはイスラエル軍がシリア領内でデモ活動を行なう個人に対し発砲した結果、1人が負傷するなど、イスラエルのシリア領内への攻撃が行なわれているようにも見受けられる。今後もシリア情勢が安定化しない結果、国内外の勢力間での対立が高まるとともに衝突が激化するようだと、トルコ等シリアの周辺国には石油パイプラインが敷設されていることもあり、攻撃のために発射された無人機やミサイル等がそのような施設に着弾する、もしくは着弾する恐れが増大する結果、中東からの石油供給途絶懸念が市場で増大するとともに原油相場に上方圧力が加わるといった展開となることも否定できない。
また、1月20日にはトランプ氏が次期米国大統領に就任する予定であるが、トランプ氏はイランに対し最大限の圧力を加える意向である旨トランプ次期大統領政権下で国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任する予定であるウォルツ下院議員が12月11日に明らかにした他、11月27日より実施されているイスラエルとイスラム武装勢力ヒズボラとの間での60日間の停戦が1月26日に期限を迎えるなど、中東情勢は依然として不透明要素を抱えている。そして、米国のイランに対する制裁運用の強化を含めた圧力の増大に伴いイランからの石油供給が減少する(同国の原油供給は2022年9月の日量248万バレルから2024年12月には同339万バレルとなっている(天然ガス液(NGL)を含めれば2022年9月の同362万バレルが2024年12月には同470万バレルとなっている)が、今後その分だけ供給が減少すると言った展開となることもありうる)とともに、その分だけ世界石油需給引き締まり感が市場で強まる結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、米国の対イラン制裁もしくは制裁運用強化等に対し、反発したイランが自国の核開発活動を強化したり、ペルシャ湾沖合を航行する西側諸国等の船舶をイラン、もしくはイラン関連武装勢力が攻撃もしくは拿捕したり、あるいはホルムズ海峡(同海峡は2023年時点で日量2,090万バレルの石油が往来しており、これは同年の世界石油海上輸送(同7,760万バレル)の27%程度を占める)封鎖の可能性につきイラン政府もしくは軍事関係者等が言及したりする結果、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大するとともに、その影響が原油相場に織り込まれることもありうる。
また、ベネズエラの現職大統領であったマドゥロ氏は2025年1月10日に大統領第3期目に就任したが、2024年7月28日に行なわれた大統領選挙における不正行為の疑いに対する、野党の反発が続いている。そのような中1月20日に米国次期大統領に就任する予定であるトランプ氏は、2017年から2021年にかけての第1期政権時代において、2019年1月28日にベネズエラ国営石油会社PDVSAに対する制裁を発動した他、2019年8月5日にはベネズエラ政府等が米国内に保有する資産の凍結や一部を除く米国とベネズエラとの取引禁止を内容とする大統領令を発令した。このようなこともあり、トランプ氏の次期米国大統領就任後は、米国による対ベネズエラ制裁が強化される可能性はあっても、緩和される可能性は低いものと見られることから、同国からの原油生産が再び低迷するとともに、この面で世界石油需給引き締まり感が強まることを通じ、原油相場が多少なりとも支持されると言った展開となることも想定される。
米国では、2025年1月28~29日に開催される予定である連邦公開市場委員会(FOMC)における政策金利を巡る方針の決定が注目点の一つとなるであろう。12月17~18日に開催された前回のFOMCにおいては0.25%の政策金利引き下げが決定されたものの、この決定は市場の事前予想通りであった他、併せて明らかになった同国金融当局関係者による2025年の政策金利引き下げ予想回数が2回と、9月17~18日のFOMC開催の際に明らかになった予想回数である4回から半減したうえ、この先の米国政策金利の取り扱いについては慎重に対処しなければならない旨12月18日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が表明したことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で後退する格好となった。また、米国物価上昇が沈静化するまで政策金利引き下げを見送るべきである(と考えたことから、12月17~18日に開催されたFOMCにおいては政策金利引き下げに対し反対票を投じた)旨12月20日に米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が示唆した。さらに、米国物価上昇は沈静化しつつあると認識しているものの、2025年の政策金利の引き下げ幅は以前見込んだものよりも縮小するものと予想する旨の認識を12月20日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示した。加えて、FRBはこの先も政策金利を引き下げ続けるものと見ているものの、周辺環境において著しい不透明感が存在するため、この先の判断は今後発表される予定である経済指標類等に依存することになろう旨12月20日に米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が発言した。そして、2025年の米国金融当局による政策金利引き下げは2回を下回る可能性があるが、今後明らかになる予定である経済指標類等に基づき判断していきたい旨12月20日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が明らかにした。1月3日には、米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が、米国の物価上昇率は依然として目標である年率2%を上回っていることから、引き続き物価上昇沈静化に向けた対応が必要になるものと考えている旨示唆した。また、足元米国の物価上昇が加速しつつあるとして、それが持続的なものであるのか一時的なものであるか確認する必要がある旨1月3日に米国FRBのクーグラー理事が発言した。さらに、米国の物価上昇圧力が根強い反面、雇用は堅調であることから、この先の政策金利引き下げはより慎重に実施される可能性がある旨1月6日に米国FRBのクック理事が示唆した。加えて、米国の物価上昇率は目標である年率2%に向け低下していくものと見られることから、2025年中のさらなる政策金利引き下げを支持するが、その回数や幅については労働市場と物価上昇の状況に依存する旨1月8日に米国FRBのウォラー理事が表明した。そのような中、1月8日に明らかになった米国FOMC議事録(12月17~18日開催分)においては、トランプ次期大統領の実施する政策により米国物価上昇が沈静化しないリスクが拡大しつつある旨指摘されていた。そして、米国物価上昇沈静化がもたつき気味であることもあり、足元政策金利引き下げを一旦停止させるとともに経済指標類等を考慮しつつ様子を見るのが適切である旨1月9日に米国フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁が明らかにした。1月9日には、米国FRBのボウマン理事が、足元米国物価上昇が年率2%の目標を上回り続けていることから、政策金利引き下げには慎重な姿勢で臨むべきである旨の認識を示した。また、米国労働市場が堅調であるうえ、物価上昇も根強いことから、2025年は以前見込んだよりも政策金利引き下げ回数は減少する可能性がある他、米国経済見通しが相当程度不透明であることもあり、今後の政策金利引き下げ判断については、経済指標類等を考慮しつつ慎重に判断していくことが肝要である旨1月8日に米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が明らかにした旨1月9日に伝えられた。さらに、足元の政策金利は経済を加速も減速もしない水準に接近しつつあるものと考えているとして、政策金利のさらなる引き下げに対する消極的な姿勢を米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が示した旨1月9日に報じられた。1月10日に米国労働省から発表された12月の同国非農業部門雇用者数は前月比で25.6万人の増加と市場の事前予想(同16.0~16.5万人の増加)を上回った一方、失業率が4.1%と11月の4.2%から低下した(市場の事前予想4.2%)が、それに対し、同日シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁は、当該統計は同国の経済が過熱していることを示しているわけではなく、今後1年から1年半にかけ物価上昇が沈静化するようであれば、政策金利は相当程度引き下げられる(引き下げ速度は経済情勢による)はずである旨示唆した。また、トランプ次期政権による政策により、米国の物価上昇や労働市場に変化が生ずるようであれば、FRBは対処する方針である旨1月14日に米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が発言した。さらに、1月15日の米国の消費者物価指数(CPI)発表(同日米国労働省から発表された12月の同国の食品とエネルギーを除くコアCPIは前月比0.2%、前年同月比3.2%の、それぞれ上昇と11月の前月比0.3%、前年同月比3.3%の、それぞれ上昇から、伸びが鈍化した他、市場の事前予想(前月比0.2~0.3%、前年同月比3.3%の、それぞれ上昇)の一部を下回った)を受け、同日米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁は同国の物価上昇沈静化は進展しつつあるものの、なお、(物価上昇沈静化に向け)講じるべき対策はある旨明らかにしたことに加え、米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁は、米国物価上昇沈静化は進展しつつあるものの、依然目標の年率2%は上回っており、同目標達成にはなお数年を要するものと考えている他、この先の金融政策は今後発表される予定である経済指標類の内容等に依存する旨示唆した。ただ、1月15日に発表されたCPIのように物価上昇沈静化を示唆する指標類がこの先も発表されるようであれば、2025年前半にさらなる政策金利引き下げが実施される可能性があるものと考える(ものの、その判断は今後発表される予定である経済指標類等次第である)旨の認識を1月16日に米国FRBのウォラー理事が示した。そして、米国物価上昇は依然として問題である旨米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が明らかにしたと1月17日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。このように、物価上昇沈静化がもたつき気味となる反面、労働市場は堅調であることにより、多くの米国金融当局関係者がさらなる政策金利引き下げについては慎重に判断すべきである旨表明していることもあり、次回FOMCにおいては政策金利の据え置きが決定される確率が1月17日時点で97.9%、引き下げが決定される確率が2.1%、となるなど、政策金利引き下げ確率が低水準であることから、この面では米ドルが下落とともに原油相場に上方圧力が加わるといった展開にはなりにくいものと考えられる。もっとも、次回FOMCの決定内容及びFOMC終了後の1月29日に実施される予定であるパウエルFRB議長による記者会見における同議長の米国経済情勢及び2025年における物価上昇及び労働市場に関する見通し、そして政策金利調整方針等に関する発言内容(さらには、日本における政策金利引き上げの動きを含め他米国外での金融政策)等によっては、米ドルが変動する結果、原油相場にその影響が織り込まれるといった展開となることもありうる。
他方、米国トランプ次期大統領による対外関税強化について、課税対象を限定すべく政権関係者が検討している旨1月6日にワシントン・ポストが報じたことにより、米ドルが下落する場面が見られた反面、米国による対外関税引き上げの法的根拠とすべく、トランプ次期政権が国家経済緊急事態を宣言することを検討中である旨関係筋が明らかにしたと1月8日にCNNが報じた。また、欧州連合(EU)加盟国がさらに大量の米国産原油及び天然ガスを購入しなければ、米国はEU諸国に対し関税を賦課する意向である旨12月20日に米国のトランプ次期大統領が表明した。加えて、パナマ運河が米国の船舶の通航に際し極めて高水準の代金を徴収しているとして、当該通航料は引き下げられるべきであり、そうでなければ、米国はパナマに対し同運河の米国への移管(同運河は1914年に米国により建設されたが、1977年の条約(カーター米国大統領(当時)が署名)により、1999年に運営がパナマに移管された)を要求する旨12月21日にトランプ次期大統領が発言した。そして、カナダ人の多くはカナダが米国の51番目の州になることを希望しており、米国の州とするための経済政策(関税賦課を想定しているように見受けられる)を検討する意向である旨1月6日に表明した(同氏はそれまでもしばしば同趣の発言をしていた)。さらに、カナダのアルバータ州のスミス首相は、米国のトランプ次期大統領との会談後、カナダは自国産石油に対し例外なく課せられる25%の米国関税に備えるべきである旨1月13日に明らかにした。また、現在デンマーク領であるグリーンランド購入のために(デンマークに対する)関税の賦課や軍事行動の実施を排除しない姿勢を1月7日にトランプ次期大統領は示唆している。このように、既にトランプ氏は米国内外政治及び経済等に関する発言を行なっているが、今後も同氏(及びトランプ次期政権関係者)が発言することに伴い世界政治及び経済の混乱観測が市場で増大する結果、米国株式相場や米ドルが変動することを通じ、原油相場にその影響が織り込まれる可能性があるので注意する必要があろう。さらに、この先しばらくの間主要米国企業等の2024年10~12月期等の業績が発表されていく予定であるので、このような業績、及び一部企業から明らかにされる可能性のあるこの先の業績見通し等が米国株式相場とともに原油相場に影響を及ぼす場面が見られることもありうる。
中国の動向も今後の石油市場の見極めるうえで重要である。2024年12月16日に中国国家統計局から発表された11月の同国鉱工業生産は前年同月比5.4%の増加と10月の同5.3%から伸びが若干加速した他、市場の事前予想(同5.3%の増加)と一致したものの、11月の同国小売売上高は前年同月比3.0%の増加と10月の同4.8%の増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同4.6~5.0%の増加)を下回ったうえ、11月の同国原油精製処理量は5,851万トン(推定日量1,428万バレル)と2024年6月(この時は5,832万トン(同1,423万バレル))以来の低水準に到達している旨判明した。また、同日中国国家統計局から発表された1~11月の同国固定資産投資は前年同期比3.3%の増加と市場の事前予想(同3.4~3.5%の増加)を下回った(なお、1~10月は同3.4%の増加であった)うえ、1~11月の同国不動産投資は前年同期比10.4%の減少と1~10月の同10.3%の減少から減少幅が若干ながら拡大した。そのような中、2025年は家計所得を安定的に拡大させるべく、消費を増大させるため、超長期特別債発行に伴い調達される資金規模を大幅に増加させることにより、産業支援や消費財の更新を促進させる方針である旨中国中央財経委員会関係者が明らかにしたと12月16日に新華社通信が報じた(但し資金調達規模や消費財更新の具体的内容については明らかにされなかった)。また、2025年は消費財の更新を促進することや医療保険補助及び年金を引き上げることを通じて消費を喚起するため、財政的な支援政策を拡大する意向である旨12月24日に中国財政省が発表した他、2025年は3兆元(約64.5兆円)といった過去最高規模の特別国債を中国が発行する(2023年のGDP比で2.4%に相当するとされるが、2007年には同国は同5.7%に相当する1.55兆元の特別国債を発行した)旨12月24日に報じられた。さらに、投資に必要な資金を調達するための中国地方政府の特別債発行に対する中央政府の承認手続きを簡素化する意向を同国中央政府が示している旨12月25日に報じられた。そのような中、12月31日に中国国家統計局から発表された12月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は50.1と11月の50.3から低下した他市場の事前予想(50.2)を下回ったものの、同国非製造業PMIは52.2と11月の50.0から上昇した他市場の事前予想(50.2)を上回ったうえ、2024年の中国国内総生産(GDP)成長率は5%前後の目標を達成する見込みである旨同国の習近平国家主席が示唆したと12月31日に同国国営新華社通信が報じた。それでも、2025年1月2日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された12月の同国製造業PMIは50.5と11月の51.5から低下した他市場の事前予想(51.7)を下回った。そして、中国で現在実施されている消費財買い換え促進のための補助金支出制度を拡充するため、超長期特別国債の発行額を大幅に拡大する意向である旨1月3日に同国国家発展改革委員会が明らかにした他、中国人民銀行が2025年のある時点で政策金利を引き下げる可能性が高い旨1月3日にフィナンシャル・タイムスが報じた。また、政策金利及び市中銀行の預金準備率を適切な時期に引き下げる他、技術を革新するとともに消費を刺激するための政策を拡大していく意向である旨1月4日に中国人民銀行が声明を発表した。1月6日には、中国財新伝媒から12月の同国サービス業PMIが発表されたが、同指標は52.2と11月の51.5から上昇、2024年5月(この時は54.0)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(51.4)を上回った。ただ、1月8日に中国国家統計局から発表された12月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.1%の上昇と11月の同0.2%の上昇から伸びが鈍化した(市場の事前予想は同0.1%の上昇であった)他、同国生産者物価指数(PPI)は同2.3%の下落と11月の同2.5%の下落から下落幅が縮小した他市場の事前予想(同2.4%の減少)程下落していなかった旨判明したものの、28ヶ月連続で下落(つまりデフレ状態)となった。また、1月12日に中国税関総署から発表された12月の同国の輸出は前年同月比で10.7%の増加と11月の同6.7%の増加から増加率が拡大した他、市場の事前予想(同7.3%の増加)を上回ったうえ、輸入は同1.0%の増加と11月の同3.9%の減少から増加に転じた他、市場の事前予想(同1.0~1.5%の減少)に反し増加している旨判明した一方、12月の同国原油輸入は4,784万トン(推定日量1,130万バレル)と11月の4,852万トン(同1,183万バレル)から減少した他、前年同月(4,836万トン(同1,142万バレル))を下回っている旨判明した。そして、1月17日に中国国家統計局から発表された2024年10~12月期の同国国内総生産(GDP)は前年同期比前年比5.4%の増加と市場の事前予想(同5.0%の増加)を上回った結果、2024年通年では前年比5.0%の増加と目標(同5.0%の増加)を達成した他、市場の事前予想(同4.9%の増加)を上回ったうえ、12月の同国鉱工業生産は前年同月比6.2%の増加と11月の同5.4%の増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同5.4%の増加)を上回ったことに加え、12月の同国小売売上高は前年同月比3.7%の増加と11月の同3.0%の増加から伸びが拡大した他、市場の事前予想(同3.5~3.6%の増加)を上回った。もっとも、1月17日に中国国家統計局から発表された2024年12月の同国失業率は5.1%と11月の5.0%から上昇した他、市場の事前予想(5.0%)を上回ったうえ、2024年1~12月の同国不動産投資は前年同期比10.6%の減少と1~11月の同10.4%減少から減少率が拡大した。さらに、2024年1~12月の同国固定資産投資は前年同期比3.2%の増加と1~11月の3.3%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同3.3%の増加)を下回った。
このように、中国経済指標類はまだら模様の様相を呈しており、必ずしも同国経済が順調な回復過程を辿りつつあることを示唆しているわけではない。また、1月17日に発表された、GDP、鉱工業生産及び小売売上高を含む中国経済指標は市場の事前予想を上回って良好であったものの、米国でのトランプ政権発足に伴う対中国関税賦課強化の可能性を控え、米国向け製品輸出等が前倒しで活発化したことに伴い鉱工業生産やGDPが押し上げられた側面が相当程度ある他、そもそも今般発表された経済指標類は同国経済の実勢から乖離していると見る向きがあるうえ、実際にトランプ政権により関税が賦課された場合には、同国の経済成長持続は困難になる恐れがあるとの考えが市場関係者間にある。そして、トランプ次期政権における対中国政策もあり、中国経済及び石油需要を巡る動向については不透明感が増大する方向に向かいつつあるが、今後も、トランプ次期大統領及び政権関係者による、関税賦課を含む対中国政策の動向が同国経済及び石油需要に対する市場の観測を醸成させるとともに、原油相場が変動する可能性がある他、中国経済指標類の内容に対しても市場が反応するとともに、それが原油相場に反映されることもありうる。
また、前述の通り、特に年末年始を中心とする時期における中国政府関係者等からの景気刺激策を示唆する発言等により、中国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が増大した結果、原油価格が上昇する場面が見られた。それでも、中国政府による景気刺激策を巡る発言に対する同国株式市場の反応は必ずしも芳しいものではなく、同国株式相場は12月末以降概ね下落傾向となっている。このようなことから、中国政府等は同国株式相場浮揚のため、さらに景気刺激策等に関する言及を行ない続ける可能性があり、その結果、中国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大するとともに、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性もある。
米国では1月後半以降も最終消費段階では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期はなお続く(暖房シーズンは概ね11月1日から翌年3月31日までである)ものの、製油所の段階では、既にある程度暖房用石油製品の製造が完了するとともに、むしろ春場の石油不需要期(冬場の暖房用石油製品需要期が終了に向かう反面、夏場のドライブシーズン到来に伴うガソリン需要期にはまだ早い)に突入しつつある。このため、メンテナンス作業実施が視野に入ることで製油所は稼働を引き下げ始め、原油の購入を不活発化させる。従って、製油所等による原油需要がこの先低下するとの観測を含め、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることから、この面では原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。ただ、暖房用石油製品需要の中心地である米国北東部において、この先平年を割り込む気温が長期化したり、気温が平年を大きく割り込む旨の予報が発表されたりすると、一時的であれ、市場での軽油を含む暖房用石油製品需給の引き締まり感の強まりから、軽油価格が上昇するとともに、その影響で原油価格も上昇する場面が見られることもありうる。また、冬場の期間中、寒波が南下することにより、製油所の操業に支障が発生したり、石油・天然ガス生産関連施設や製油所等においてパイプ等の資機材が凍結したり、もしくは電力需給逼迫等の影響で生産関連施設や製油所等向けの電力供給が停止することにより、原油、天然ガスもしくは石油製品等の供給が減少する結果、原油価格等に上方圧力が加わるといった事象が発生する可能性も否定できない。他方、寒波の来襲に伴い、個人の外出が敬遠されるようだと、乗用車等向けのガソリンの需要が低迷する結果、ガソリン価格とともに原油価格に下方圧力が加わると言った展開となる可能性もある。また、1月9日に米国海洋大気庁(NOAA)は、ラニーニャ現象(日付変更線付近から南米沿岸にかけての太平洋赤道域で海面の水温が平年より低くなる現象)が発生する確率が、足元においては59%となるものと予想される旨明らかにした。ラニーニャ現象が発生すると、北半球の冬場において気温が平年を相当程度下回るなど厳冬になりやすいとされる(なお、夏場となる南米諸国は渇水となりやすいとされる)。そして、米国のみならず、欧州及びアジア諸国の気温が大幅に低下すれば、暖房向け石油製品(日本や韓国では灯油が利用されるが、他の地域では軽油及び暖房油(品質的には軽油に近い)が使用される)需要が増加しやすくなるものと考えられる。この結果、石油需給の引き締まり感が市場で増大することを通じ、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。
OPECプラス産油国は2月初頭前後頃に共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee、約2ヶ月に1回の割合で開催され、原油生産方針につき進言等を行う他、石油市場の展開に対処するために、必要に応じていつ何時でも追加会合を開催したり、OPECプラス産油国閣僚級会合の開催を要請したりする権限を持つ)を開催する予定である。ただ、その際に、12月5日に開催された閣僚級会合で決定した、4月に開始される予定である減産措置緩和開始の再延期等につき議論することは、世界政治・経済情勢、及び石油需給や原油価格の見通し等が不透明であることからすると、時期尚早であるものと見られる一方、次々回のJMMC(4月初頭前後に開催されるものと思われる)において4月からの減産措置緩和開始の延期等を協議しても、減産参加各産油国の原油生産調整に対する準備が間に合わないものと見られることから、遅くとも3月上旬末頃までには世界石油市場の現状及び今後の見通し等に基づき、臨時協議を実施すること等を通じ、減産措置緩和開始の再延期を含めた調整を行なうものと考えられる。
他方、1月10日に発表された米国バイデン政権による対ロシア石油産業等制裁の発動により、一時的にせよロシアからの石油供給が減少すること加え、トランプ氏がイランに対する制裁を強化すること等により、イランからの原油供給が短期間で相当程度減少したりするようだと、相対的に世界石油需給引き締まり感が市場で強まる可能性がある。一部OPECプラス産油国が2024年1月以降実施中である自主的な減産措置の緩和を4月より実施した場合、現時点では2025年は世界石油供給が需要を日量140万バレル程度上回るものと見込まれる。ただ、例えばイランからの石油供給が日量90万バレル減少すれば、世界石油供給過剰感は相当程度縮小する。従って、その場合OPECプラス産油国が4月からの減産措置の緩和を予定通り実施しても、世界石油需給の大幅な緩和感を市場が意識しにくくなる結果、原油相場の下落が回避される(むしろ相対的な石油需給引き締まり感が強まる結果、原油相場に上方圧力が加わる)といった展開となることもありうる。
全体としては、冬場の暖房シーズンの終了が徐々に市場関係者の視野に入り始めるとともに春場の石油不需要期が意識されることが原油相場に下方圧力を加えやすくするものと考えられる。しかしながら、1月20日のトランプ氏の米国大統領就任に際しての、トランプ氏の政策及び発言等により、中東を含む地政学的リスク、米国内外の経済情勢等に対する観測が市場で発生する結果、原油相場が変動する可能性がある。特にトランプ政権はイランに対し最大限の圧力を加える姿勢を見せていることから、イランの原油供給が減少するとともに、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られると言った展開となることもありうるので注意が必要であろう。
4. 長期エネルギー展望等に対する市場関係機関の見方に関する一考察
2024年7月から11月にかけ、主な市場関係機関により、2050年にかけての世界長期エネルギー展望の類が発表された。そこで、ここでは、それらを総合することにより、石油を含むエネルギー市場についての関係者間の長期展望等の主流につき考察することとしたい。ここで考察する長期エネルギー展望の類はIEA(WEO2024: World Energy Outlook 2024(2024年10月16日発表))、OPEC(WOO2024: World Oil Outlook 2024(2024年9月24日発表))、エクソンモービル(ExxonMobil)(2024 ExxonMobil Global Outlook(2024年8月26日発表))、BP(BP Energy Outlook 2024(2024年7月10日発表))、トタルエナジーズ(TotalEnergies)(TotalEnergies Energy Outlook 2024(2024年11月4日発表))とする。また、これら機関は長期エネルギー情勢を展望するに当たり複数のシナリオを用意していることが多い(なお、「シナリオ」は、今後長期的に実現する可能性のあるエネルギー情勢等に関する各機関の考え方を反映しているものの、各国政府が新たな政策を実施すること等に伴い世界エネルギー情勢等が大きく変化する場合があるため、必ずしも各機関の見込み通りに事態が展開するとは限らないことに注意を要する)。前掲した5機関の中では、エクソンモービルの提示するシナリオは一つ(「標準ケース」)であるが、他の機関は現状各国等から発表されている政策を実施した場合に見込まれる(いわゆる「現状路線」)シナリオ(エクソンモービルの「標準ケース」もこれに含まれる)に加え、世界各国及び地域が表明した公約を実現する(いわゆる「表明公約」)シナリオや温室効果ガスの純排出量をゼロとする(いわゆる「ネットゼロ」)シナリオ等を用意している。ただ、いわゆる「表明公約」もしくは「ネットゼロ」両シナリオ等は、地球環境問題解決のための温室効果ガス排出目標等から将来の世界のエネルギー消費構成等を逆算する格好となっており、現実を反映させたシナリオとは異なる部分もあるように見受けられることから、ここでは、各機関による、いわゆる「現状路線」シナリオを主に取り扱うこととしたい。
(1) 各機関におけるシナリオ策定の際の前提
シナリオの作成に当たり、各機関は技術発展(「現状路線」シナリオにおいては急速な技術発展はないものとの想定が主流のようである)やエネルギー価格(IEAはこの先の原油、天然ガス及び石炭価格が2023年の水準を下回るものと見込んでいる)等様々な条件を前提としているが、ここでは、複数の機関が前提としているところの、人口と経済成長に関し主に説明することとする。
IEAによれば、世界の人口は2030年までは年率0.9%で増加するなど、2011年から2023年にかけての年率1.1%の増加とほぼ同水準であるが、その後は2050年に向かうにつれ人口増加率は低下するものと見ている(図16参照)。OPECも、世界の人口は2030年までは年率0.8%以上で増加するものの、それ以降人口増加率は低下し、2046年から2050年にかけては0.5%となるものと見込んでいる。中国の人口が減少する他インドの人口増加が鈍化することが影響している(図17及び18参照)。
他方、IEAは、2011年から2023年にかけ平均年率3.0%である世界経済成長率(いわゆる国内総生産(GDP)増加率)は2030年までは概ね同水準であるものの、以降2050年にかけ年率2.2%へと低下するものと見ている(図19参照)。また、OPECも、2035年前後までは年率3.0%程度の経済成長率で推移するものの、その後は低下し2050年には年率2.6%程度になることが示唆される。両者とも中国に加えインドについても2035年以降経済成長が鈍化することが影響しているものと見受けられる(経済が成熟することに伴うものと見られる)(図20及び21参照)。エクソンモービルは2030年までの世界経済成長率見通しを平均年率2.7%程度と見込んでいるが、その後成長率は低下していき2040年代には年率2.4%程度になるものと考えている。BPは今後2050年にかけての世界経済成長率は平均年率2.4%程度で、過去25年平均の年率3.5%程度を下回る他、トタルエナジーズも2050年にかけての世界経済成長率は平均年率2.8%と過去20年平均(年率3.3%)を下回るものと、それぞれ認識している。これは、人口増加の減速と1人当たりGDPの伸びの鈍化によるものとBPは説明している。
(2) エネルギー需要を巡る長期展望
次に、世界エネルギー消費につき俯瞰することとしたい。世界経済発展とともにいずれの機関も一次エネルギー消費は現時点から2050年にかけ拡大する方向に向かうものと見込んでいる(図22参照)が、時間が経過するに従い伸びは鈍化するものとIEA及びOPECは見ている他、BPは2030年代半ば以降消費が概ね横這いになるものと考えている。OPECは背景として、人口増加及び経済成長の減速、エネルギー消費効率の改善等があるものと考えており、この結果、エネルギー原単位(単位GDP当たりのエネルギー消費量)は2050年に向け低下する傾向を示すものと、OPECは説明している(図23参照)。そして、いずれの機関も風力及び太陽光と言った再生可能エネルギーの一次エネルギーに占める比率が2050年にかけ相当程度上昇する形となっている。ただ、その一方で、現時点では大宗を占めている石油、天然ガス及び石炭と言ったいわゆる「化石燃料」の一次エネルギーに占める比率はこの先低下するものの、2050年時点においても、なお少なくとも過半は占めるものといずれの機関も認識している。
また、OECD諸国における一次エネルギー消費は2023年以降減少するものとIEA、エクソンモービル及びBP(BPはOECD諸国に加え経済が発展した一部新興諸国を含む)は認識している(図24参照)反面、非OECD諸国においては経済発展とともに一次エネルギー消費が著しく伸びていく結果、現時点(2022~23年)では世界一次エネルギー消費に占めるOECD諸国の割合が35~36%、非OECD諸国の割合が64~65%で、それぞれあるものが、2050年時点においてはOECD諸国の割合が26~28%、非OECD諸国の割合が72~74%へと、非OECD諸国の占める割合が拡大(従ってOECD諸国の占める割合は縮小)していく旨示唆される。しかしながら、少なくともある程度の経済発展を達成する必要のある非OECD諸国においては、相対的にコストが高いと予想される再生可能エネルギーの導入はもたつき気味である反面、コストが相対的に安価であるものと予想される化石燃料がより増加していくものと各機関は考えている。また、現在世界最大のエネルギー消費国である中国は2050年においてもなお世界最大のエネルギー消費国であるが、同国のエネルギー需要は2030~35年以降で頭打ちになるものとIEA、OPEC、BP及びトタルエナジーズは考えている。人口減少と経済成長の鈍化、及びエネルギー消費効率改善により同国の一次エネルギー需要増加率は低下する旨OPECは説明している。他方、インド、東南アジア、中東、アフリカ及び中南米諸国は一次エネルギー消費な堅調に伸びていくものと見込まれている。特にインドは全ての主要な一次エネルギー消費が2050年にかけ増加傾向となる旨OPECは見込んでいる(石油は輸送、石油化学、民生部門で、天然ガスは電力及び都市ガス部門で、石炭及び再生可能エネルギーは発電部門で、それぞれ利用されるとしている)。また、OECD諸国においては、2050年に向け産業部門におけるエネルギー消費が拡大するものの、特に輸送部門におけるエネルギー消費効率の改善により相殺される結果、最終エネルギー消費は2050年にかけ減少傾向となるが、非OECD諸国においては、産業部門におけるエネルギー消費が伸びることに加え、民生部門や輸送部門においても空調機器等の設置や自動車の保有台数の増加等を通じエネルギー利用が拡大することにより、2050年に向け最終エネルギー消費は増加するものとIEAは示唆している。そして、世界全体として最終エネルギー消費は産業部門の伸びが顕著であるものの、民生部門や輸送部門も増加することにより、最終エネルギー消費は少なくとも2040年にかけては拡大していく(図25参照)ものの、産業部門の最終エネルギー消費増加率が低下していくことにより、2030年以降はそれ以前に比べ、伸びが鈍化するものと見られている。また、IEA、BP及びエクソンモービルは、最終エネルギー消費のうちで電力の占める割合が拡大するものと予想している(図26参照)他、IEAは2050年にかけての電力需要増加分の約70%は非OECD諸国(特にインドの電力需要の伸びが顕著である旨BPは指摘している)によるものである(個人の生活水準の向上に伴うものであるものと見られる)と考えている(図27参照)。また、特に産業部門と民生部門において、最終エネルギー消費に占める電力の比率が他のエネルギーに比べ顕著に上昇するものとIEAは考えている。他方、BPは、人工知能(AI)の利用を支援するためのデータセンター向けの需要拡大を含め、OECD諸国においても電力消費は年率1.5%で拡大していく他、2022年時点では民生部門(建物)におけるエネルギー消費のうちで電力の占める比率が3分の1程度であるところ、2050年までには2分の1から4分の3程度へと上昇することから、世界の最終エネルギー消費に占める電力の割合は2022年の20%強から2050年には35%前後へと増加する旨示唆している。エクソンモービルは、現代生活を支える鉄鋼やセメントと言った素材や化学製品の製造のため、世界産業部門エネルギー消費は2050年までに20%近く増加するものと見込んでいる。ただ、輸送部門における電力需要の伸びは産業及び民生両部門に比べれば相対的に限定的である旨一部機関は想定しており、BPは、この先電気自動車は普及するものの、航空機や船舶のような長距離輸送機関においては電力化の進捗は困難を伴うであろう旨指摘している。
(3) 石油需要を巡る長期展望
次に、石油需要につき考察することとしたい。2050年に至るまでの世界石油需要に関する考え方については、各機関で多少なりともばらつきが見られる。BPは2025年以降、IEA及びトタルエナジーズは2030年以降に、それぞれ世界石油需要が減少傾向に転じるなど、2050年以前の時期に世界石油需要は頭打ちになる旨示唆している(図28参照)。これらの機関は、電気自動車の導入等により乗用車及び商用車が石油製品で駆動する内燃機関から電力で駆動するモーターへと転換することや内燃機関の燃費効率改善に伴い、ガソリン及び軽油といった輸送向けの石油需要が相対的に抑制されることにより、石油以外の転換が相対的に困難である石油化学製品製造向けのLPGやナフサ、及び航空機向けのジェット燃料等の需要の伸びを相殺して余りある結果、石油需要全体としては減少に転じるものと考えている。BPは自動車向け石油需要がOECD諸国を中心として減少することが特に2035年以降石油化学製品製造向けの原料としての石油需要の伸びを相殺して余りあることから、世界石油需要は将来的には減少に転じるものと見ている。また、いわゆる持続可能な航空燃料(SAF: Sustainable Aviation Fuel)の航空燃料全体に占める割合は2035年時点で5~10%、2050年時点で20%近くになるものとBPは見込んでいる他、トタルエナジーズは2050年におけるジェット燃料需要の内SAFの占める割合は10%程度である旨示唆している。加えて、OECD諸国の石油需要の伸びの鈍化は電気自動車の導入を含む乗用車の燃費効率の改善の進展が一因である旨OPEC及びBPは示唆している。しかしながら、OPEC及びエクソンモービルは2050年に至るまで世界石油需要は増加し続けると認識しており、この結果、2023年の石油の世界一次エネルギー消費に占める割合が31%であったものが、2050年においても29%である旨OPECは想定している他、エクソンモービルも2023年時点で世界一次エネルギー消費の31%を占める石油が2050年においても28%を占めるものと考えるなど、一次エネルギー消費に占める石油の割合の減少は限定的であるものと見ている。OPECは石油化学向けのエタン、LPG及びナフサや航空機向けのジェット燃料に加え、非OECD諸国の経済発展に伴い貨物輸送向けの軽油の需要や、中産階級の拡大に伴い内燃機関で駆動する乗用車の利用促進に伴いガソリン需要が拡大することが、OECD諸国の石油需要の減少を相殺して余りある結果、石油需要は2050年にかけ伸び続けていく旨想定している(図29参照)(非OECD諸国全体で、堅調な経済成長、人口増加、都市化、中産階級の拡大に伴う往来の活発化、商用車を含む自動車保有台数の増加、航空部門の発展や、近代的でないバイオマス燃料からLPGへの移行、農業部門の近代化、石油化学製品需要の増加等により、石油需要が増加するものとOPECは見込んでいる)。また、エクソンモービルは、燃費効率の改善や電気自動車の導入により世界全体で乗用車向け石油消費は25%程度減少するものの、大型トラック、航空機及び船舶といった商用輸送にとってエネルギー密度の高い石油は重要なエネルギー源である他、石油化学製品製造のための原料としてアジアではナフサが、北米及び中東では天然ガス液(NGL)もしくは天然ガスが支配的な地位を占める旨考えている(エクソンモービルはこれらの部門における電力化は困難を伴うであろう旨示唆している)。また、IEA、BP及びトタルエナジーズは、2050年以前の時期に世界石油需要は頭打ちするものとの見通しを明らかにしているものの、頭打ちとなった後も、世界石油需要の減少は比較的緩やかである結果、2050年時点の世界一次エネルギー消費に占める石油の割合も比較的高い状態を維持するものと考えている(IEAは2023年時点の世界一次エネルギー消費に占める石油の割合が30%であるところ、2050年時点では24%に、BPは2022年時点の32%が2050年時点では23%に、トタルエナジーズは2022年時点の30%が2050年には23%に、それぞれなるものと認識している)。
また、多くの機関が、中国石油需要は2050年以前の時期に頭打ちになる(IEA、BP及びトタルエナジーズは2030年以降、OPECは2040年以降、それぞれ同国の石油需要が減少に転じる)ものと想定している。同国経済成長率は2050年に向け低下していく他、経済構造が製造業中心からサービス業中心へと移行するうえ、電気自動車(もしくはLNGトラック等石油以外の燃料で駆動する自動車)やハイブリッド自動車の導入が進展することにより、石油をより消費しない方向に向かうことが、同国の石油需要の伸びを抑制する格好となる。それでも2040年頃まではガソリン等の石油製品等で駆動する乗用車や商用車等の保有台数が拡大傾向となることが、同国での石油需要を下支えするものと想定している旨OPECは示唆している(また、OPECは中国の石油需要増加の中心は軽油、ジェット燃料、ナフサが中心となるものと認識している)。
他方、特に、インドでは人口が増加していくうえ、人口の約半数は25歳以下となることもあり、2023年から2050年にかけ同国の経済成長率が平均年率5.9%に到達することにより、乗用車及び商用車の保有台数が増加する反面電気自動車の導入が限定的なることもあり内燃機関で駆動する自動車の導入が促進される結果ガソリンの需要が拡大する他、都市化が進展することにより民生部門でのLPGや軽油等の石油製品の利用が拡大すること、農業部門の近代化により、農機具や肥料の需要が拡大するとともにその原燃料となる石油製品の購入が進展すること、経済が発展するとともにプラスチック等の石油化学製品の需要が喚起されること、中産階級が拡大することにより航空インフラが増強されること等に伴いジェット燃料の需要が増加する結果、同国の石油需要が拡大していく旨OPECは示唆している。結果として、2050年においては石油需要の面で中国を追い抜くまでには至らないものの、中国の石油需要との差を相当程度縮小する状況になるものと各機関は予想している。また、中国及びインドを除くその他アジア、中東、アフリカ及び中南米と言った各地域の発展途上国も軒並み石油需要を相当程度増加させるものと見込まれている。
2023年時点における世界の自動車保有台数は16.7億台(乗用車14.0億台、商用車2.7億台)でそのうち電気自動車は0.4億台(また、電気自動車、天然ガス自動車及び燃料電池自動車といったいわゆる「代替燃料自動車(AFV: Alternative Fuel Vehicle)」(ハイブリッド車(2023年時点で0.4億台)は含まれない)合計では0.8億台)であり、電気自動車の占める比率は2.4%(AFVの占める割合は4.7%)であるが、2050年の世界の自動車保有台数は28.9億台(乗用車22.6億台、商用車6.3億台)で、そのうち電気自動車は6.9億台(AFVは8.5億台、また、別途ハイブリッド車が1.6億台)であり、電気自動車の占める比率は23.9%(AFV合計は29.3%)となる(図30参照)が、電気自動車の普及は中国(2023年の0.2億台が2050年には2.1億台に)、米国(0.1億台が1.4億台に)及び欧州(0.1億台が1.4億台に)に集中するものとOPECは見込んでいる。また、OPECは2030年時点の世界の自動車保有台数に占める電気自動車の割合は12.7%であると予想している反面、IEAは2030年までに世界の自動車保有台数に占める電気自動車の割合は15%を超過するものと想定している他、BPは2022年には1.4%である、乗用車保有台数に占める電気自動車の割合が2035年には21.1%、2050年には49.2%に到達する他、2022年においてはほぼ0%である、トラック類の保有台数に占める電力及び低炭素排出水素で駆動する車両の割合は2035年に2.8%、2050年においては31.6%と、OPECに比べより低炭素排出車両類の保有が進展するものと見込んでいるが、将来の自動車保有台数の増加は、経済発展の下で内燃機関を中心とする自動車保有台数が増加する非OECD諸国が中心となる反面、OECD諸国においては、自動車台数は概ね横這いであるが低炭素排出車両類の占める割合が増加する旨示唆している。このように、電気自動車等の普及は進むものの、なお世界の自動車保有台数の少なくとも過半は内燃機関により駆動する旨考えられている。また、電気自動車販売が増加しても、乗用車が完全に電気自動車に転換するには10~15年を要するため、2050年においても内燃機関により駆動する自動車は依然として存在する旨エクソンモービルは指摘している他、トタルエナジーズも、自動車販売の全台数が電気自動車となった後でも、世界中で保有される自動車が全て電気自動車に置き換わるには20年程度を要する旨考えている。ただ、米国、欧州及び中国における、電気自動車等への補助金制度や充電インフラ等の整備を巡る状況等によって、電気自動車を含む代替燃料車の普及ペースが変化するなどの不透明性を伴う旨IEA及びOPECは示唆している。なお、OPECは2023年から2035年にかけ電気自動車保有台数が2.8億台増加するものと見込んでいるが、IEAはこの期間において日量1,200万バレルの石油需要が電気自動車により代替される旨考えている。また、電気自動車の普及に従って、同、リチウム及びニッケルと言った金属の需要が増加することから、これら金属の精錬を含めた持続的な供給安全保障が重要になっていく旨BPは指摘している。
(4) 石油供給等を巡る長期展望
次に、石油供給等を巡る長期展望につき見ることとしたい(図31参照)。最近では米国のシェールオイル等の生産拡大(IEAによれば2023年時点の生産量は日量910万バレル、OPECによれば同841万バレルであった)により、世界石油供給に占めるOPEC(あるいはOPECプラス)産油国の占める割合は低下傾向にあったが、米国のシェールオイル生産量は、IEAによれば2035年前後に日量1,020万バレル程度、OPECによれば2029年に日量1,031万バレルで、それぞれ頭打ちとなり、減少傾向に突入する旨示唆される。ただ、2050年においても、IEAは日量890万バレル、OPECは日量801万バレル、それぞれ米国においてシェールオイルが生産されるものと見込んでおり(シェールオイルの開発は既に同国内の大半の鉱床において実施されていることから、新たな鉱床を開発する余地は少なくなっているものの、開発及び生産の効率化努力は継続していくものと見られることを反映している旨OPECは示唆している)、米国のシェールオイル生産の減退は比較的漸進的なものとなるものと見受けられる(図32参照)。エクソンモービルは米国のシェールオイルが成熟することにより北米の石油供給は2030年代には頭打ちになるものの、なお、北米は大規模石油純輸出地域にとどまる旨予想している。また、OPECは米国のシェールオイル等に随伴して産出される天然ガス液(NGL)は2023年時点では日量531万バレルであるが、これは2040年以降日量683万バレルで概ね横這いとなると予想している。ただ、BPは米国のシェールオイル生産(シェールガス生産に随伴して生産されるNGLを含んでいるものと見られる)は2030年頃に日量1,600万バレル程度に到達した後、2050年には日量800万バレル程度へと半減すると予想するなど、IEAやOPECに比べ米国のシェールオイル生産を保守的に見積もっているようである。
他方、IEAによれば2023年に日量340万バレル、OPECによれば同年に同323万バレルである、カナダのオイルサンドについては、IEAは2030年前後に日量390万バレル程度で頭打ちとなった後、減少に転じるが、2050年にかけ概ね日量380万バレルの水準でほぼ横這いとなるものと見込んでいる旨示唆される他、OPECはカナダのオイルサンド生産は持続的に拡大し(つまり頭打ちとなることなく)2050年には日量498万バレルに到達するものと考えている(図33参照)。また、沖合深海地域の石油開発が進みつつあるブラジルや陸上のシェールオイル鉱床の開発が進みつつあるアルゼンチン、ノースガス田の開発が進みつつあるカタール、そして、セネガル、ウガンダ及びナミビア等で石油開発活動が実施されているアフリカ等からの石油(もしくは天然ガス田からの天然ガス生産に随伴して生産されるNGL)の生産が、非OPEC(もしくは非OPECプラス)産油国の石油生産を下支えするものと見られるものの、これら諸国等の産油量は2029年以降漸減傾向となるものとOPECは見込んでいる他、他の機関も概ね同様の見方をしていることから、世界石油供給に占めるOPEC(もしくはOPECプラス)産油国の比率は上昇する方向に向かうと見られている。例えば、IEAは2023年の世界石油供給に占めるOPEC産油国の割合が33%であったところ、2050年には39%へと拡大するものと見込む一方、OPECは2023年には49%であった、世界石油供給に占めるOPECプラス産油国の割合が2050年には52%へと拡大すると認識している(BPも、OPEC主要産油国の位置する中東地域の世界石油供給に占める比率が2035年以降高まる旨示唆している)。このようなことから、多少なりとも、OPEC(もしくはOPECプラス)産油国による原油価格支配力は強化される方向に向かう可能性があるが、OPECプラス産油国による原油生産能力の拡張と余剰生産能力を巡る状況、及びOPECプラス産油国間での結束状況も原油価格に影響を及ぼすものと考えられる。
また、2023年には日量3,650万バレルであった世界地域間原油貿易(地域内貿易は除く)は石油需要が伸びることにより2050年には同4,620万バレルへと拡大するものとOPECは見ている(図34参照)。そして、OPECプラス産油国、特に中東のOPECプラス産油国が石油供給の中心、アジア諸国が石油需要の中心で、それぞれあり続ける(世界地域間原油貿易に占める中東の比率は2023年49%から2050年までには58%へと上昇するものとOPECは考えている)ため、中東からアジアに向けた石油輸出は継続する(2050年にかけアジア太平洋地域の石油輸入の59~68%程度は中東からとなるものと予想される旨OPECは考えている)こととなり(図35参照)、特にホルムズ海峡周辺諸国及び地域を含む中東の情勢が長期的にも世界エネルギー供給上の重要となり続けることが示唆される。また、長期的には米国等の石油生産が頭打ちとなる反面、カナダオイルサンドに加え中東産原油の生産が堅調に推移することにより、世界で供給される原油の品質はより重質高硫黄なものに向かうものとOPECは予想している(図36参照)。
また、世界の石油精製能力については、石油需要の中心がガソリンからナフサ及びジェット燃料へと移行するため、製油所の設備もそれへの対応を迫られる他、欧州においては、製油所の拡張よりもバイオ燃料、水素もしくはプラスチックの再生へと製造体制が転換していく側面もありうるものとIEAは指摘している。そして世界全体としては、原油精製能力は2030年以降頭打ちとなり、2050年にかけ減少していくが、減少幅は限定的にとどまる反面、北米及び欧州では精製能力が減少、アジア及び中東はほぼ横這いで推移するものとIEAは考えている(図37参照)他、BPも精製能力の減少の中心は大西洋圏となるものと考えている。また、OPECは2050年に向け世界における精製能力の増加傾向が継続するものと考えているが、それでも、増加の大半は2030年までの期間で実現するものと認識している。加えて、将来的には原油の品質が重質高硫黄の方向に向かう一方、需要増加の中心が軽質製品になることに加え石油製品の硫黄含有分が環境面での理由からより厳しく規制されていくものと見られることから、製油所においては、常圧蒸留装置に加え重質製品を軽質製品に転換(分解)する高度化施設(将来的にガソリン及び中間留分(ジェット燃料及び軽油)等の石油製品需要の変化に柔軟に対応していくため水素化分解(Hydrocracking)装置の設置が進む)や脱硫装置がそれなりの規模で以て建設されていく旨OPECは想定している。
なお、世界石油需要を満たすために石油供給能力を増強する必要があり、OPECは2024年から2050年にかけ17.4兆ドル(2024年価格であるものと見られる)の石油関連(天然ガスも含まれている可能性がある)追加投資が必要であると分析している(これは年平均6,400億ドル程度となる)一方、IEAも2024年から2050年にかけ石油・天然ガス合計で19.3兆ドル(うち石油が11.8兆ドル、天然ガスが7.5兆ドル)(2023年価格)の投資が必要である旨示唆している(これは年平均7,100億ドル程度となる)。OPECは、石油関連追加投資のうち、探鉱・開発・生産向けが14.2兆ドル(年平均5,200億ドル)、輸送向けが1.3兆ドル(同480億ドル)、精製・販売向けが1.9兆ドル(同700億ドル)と見積もっている。他方、BPは2020年から2022年にかけ年間4,850億ドルであった石油・天然ガス探鉱・開発・生産投資額(2023年価格)が2023年から2029年にかけては同4,960億ドル、2030年代は同4,280億ドル、2040年代は同4,470億ドルと、一定規模で継続されるものと見込んでいる。また生産地域がOPECプラス産油国に集中していくものと見込まれることから、世界の石油探鉱・開発・生産向け投資の中でOPECプラス産油国の占める割合は2024年の24%から2050年には40%へと上昇するものとOPECは予想している。
(5) 天然ガス需給等を巡る長期展望
2050年にかけ、世界天然ガス需要は増加していくものとIEA、OPEC及びエクソンモービルは見ているが、BP及びトタルエナジーズは、2045年以降当該需要は頭打ちになる旨示唆している(図38参照)(なお、中国の発電部門での天然ガス需要の増加を主要因として、IEAは2023年時点の見通しから世界天然ガス需要を上方修正した旨明らかにしている)。そして、2023年には世界一次エネルギー消費に占める割合が23%であった天然ガスは2050年には21%へと低下する旨IEAは見込んでいるが、OPECは2023年の23%から2050年には24%へ、エクソンモービルは2023年の24%が2050年には26%へ、BPは2022年の24%が2050年には27%へ、トタルエナジーズは2022年の23%が2050年には23%へと、IEAを除く各機関は世界一次エネルギー需要に占める天然ガスの割合は横這いかむしろ増加する旨考えている。また、2050年までに世界の天然ガス火力発電能力は40%程度(非OECD諸国は約3倍に)拡大するものとBPは見込んでいる。OECD諸国では2050年にかけ天然ガス需要は概ね横這いか減少傾向となるものとIEAやOPECは認識しており、米州OECD諸国は国内の豊富かつ安価な天然ガス資源により2050年にかけ天然ガス需要が下支えされるものの、欧州OECD諸国においてはロシアからの天然ガス供給が不透明である他、再生可能エネルギーや原子力の利用が促進されることにより、天然ガス消費は減少し続けるものとOPECは考えている。またBPは、2035年以降はOECD諸国における天然ガス消費は20%超減少するものと見ているが、これは電力化の進展と発電、産業及び民生部門における低炭素エネルギー源の浸透が背景にあるものと考えている。ただ、中国やインドを中心とした非OECD諸国における天然ガス需要は2050年にかけ概ね増加傾向を示すものと、IEA、OPEC、BP及びトタルエナジーズ等は見ており、人口増加や経済成長、インドにおける近代的でないバイオマスから都市ガスへの燃料転換、中国等の地球環境問題を含む環境問題への対応に伴う石炭等から天然ガスへの燃料転換、OPEC産油国における国内天然ガス田開発により産出される天然ガスの発電部門における利用促進等が一因となるもとOPECは認識している他、非OECD諸国における経済発展に伴い、発電部門及び産業部門を中心として天然ガス需要は伸びていくものとBPは考えている。
他方、米国のシェールガス等の天然ガス生産は2050年にかけ漸進的に減少していくものの、イラン、カタール及びサウジアラビアといった中東諸国の天然ガス供給が増加することで相殺される結果、2023年から2050年にかけ世界天然ガス供給は概ね横這いとなるものとIEAは予想している(図39参照)(ただ、ウクライナ戦争関連の制裁や欧州市場の喪失、そして国内市場における需要低迷により、ロシアの天然ガス生産はもたつき気味になるものとIEAは想定している他、BPも2050年に向け同国の天然ガス生産は拡大するものの中東に比べれば緩やかなペースとなるものと見込んでいる)。また、非OECD諸国を中心とする天然ガス需要の増加は主にLNG輸入の増加により賄われることとなり、2030年までにLNG需要は2022年の水準を40%程度上回るものとBPは認識している。さらに、2030年から2050年にかけてもLNG需要は非OECD諸国を中心として25%超増加する(増加分の3分の1はインドによるものと見られる)ものとBPは想定している(ただ、天然ガス需要が減少する欧州やロシアからのパイプライン供給が増加する中国ではLNG需要が減少するものとBPは見ている)。
他方、2023年から2030年にかけLNG出荷能力は米国やカタールを中心として日量260億立方フィート拡大することもあり、当該出荷能力は同時期のLNG需要増加量である日量140億立方フィートのみならず、2040年に至るまでのLNG需要を満足させるのに十分であることから、この期間の北東アジア天然ガス価格(因みに2025年1月17日時点の北東アジア天然ガス先物価格の終値は同13.78ドルであった)は100万Btu当たり6.5~8.5ドル程度に低下する可能性があるものとIEAは見ている(図40参照)。また、BPは、2020年代の世界天然ガス生産の80%は米国と中東からのものとなる一方、2030年以降は中東、アフリカ及び、制裁の影響が低減するロシアからの生産が拡大する(BPは中国向けの「シベリアの力2(Power of Siberia 2)」パイプラインが2030年代半ば頃に完成することにより、ロシアからパイプライン経由で中国に輸送される天然ガスが増加する旨示唆している)一方、米国の天然ガス生産は2030年半ばで頭打ちとなった後、減少に転じるものの、減少ペースは緩やかなものとなる反面国内需要が減少することにより、LNG輸出は増加し続けるものと想定している。エクソンモービルも、北米と中東からLNG供給が増加することにより、アジア太平洋でのLNG需要増加が賄われるものと見込んでいる。また、現在のLNG出荷能力の2倍に当たる日量1,450億立方フィートの再ガス化能力に加え、さらに日量200億立方フィート相当分のLNG受入能力が建設されるものと見込まれており、インドで若干隘路が発生する可能性があるものの世界的にはLNG受入能力面での制約は大きくないものとIEAは分析している。そして、天然ガス貿易拡大の大宗はLNGということになり、そのLNGは主にアジアの非OECD諸国等に向かう他、天然ガス輸入のうちの長距離パイプラインの占める割合は2023年の50%近くから2035年までには40%に低下するものとIEAは予想している(他方、エクソンモービルは世界天然ガス需要の20%近くはLNG貿易により賄われる旨指摘している)。ただ、2040年以降は追加の天然ガス液化能力が必要となるものとIEAは見込んでいる(日量170億立方フィート相当分の能力が必要であると指摘されている)。また、欧州の天然ガス需要は2035年までに日量130億立方フィート程度減少する(この結果同地域の天然ガス需要は2022年のロシアのウクライナ侵攻前の水準を4分の1程度下回ることとなる)反面、同地域の生産量は2035年にかけ同70億立方フィートの減少にとどまることから、結果として欧州の天然ガス輸入は縮小することがIEAの見通しで示唆される。なお、IEAはBPと異なり、ロシアから中国向けの天然ガス輸送に関し、「シベリアの力2」パイプラインの建設実現を見込んでおらず、従って、ロシアから中国へのパイプライン経由での天然ガス輸送は2050年にかけても日量60億立方フィート(「シベリアの力1」パイプラインの最大天然ガス輸送能力相当分)を上回らいない旨想定している。
(6) 石炭及び再生可能エネルギー(太陽光及び風力等)を巡る長期展望
また、地球環境問題への対応による、発電部門における風力及び太陽光発電の導入に伴い、2050年にかけ石炭需要は中国を含め多くの国等において発電部門を中心として減少傾向となる(図41参照)(BPは、2050年にかけての世界石炭消費減少の90%は中国によるものと見込んでいる)ものの、インドや東南アジア等の発展途上国の一部では、発電部門における利用を中心として、一時的にせよ石炭需要が増加するか、もしくは2050年に向け石炭需要が増加傾向を示すものとIEA、OEPC、BP及びトタルエナジーズは見込んでいる(急速な電力需要の増加を満たす必要があるため、インドの石炭火力発電能力は2050年までに90%超拡大するものとBPは予想している)。石炭火力発電所の操業年数は平均40年であるため、この先石炭火力発電所が建設されれば、長期に渡り石炭が消費され続ける可能性がある旨トタルエナジーズは指摘している。また、中国、インド、東南アジア及びロシアが2050年に向け主要産炭国及び地域となるものとIEA及びBPは示唆している(図42参照)が、それでもそれら諸国及び地域においても、石炭産出量は減少傾向となるようである。そして、中国では需要が減少傾向となる一方、インドでは国内生産が拡大することにより、世界の石炭貿易は縮小する方向に向かうものとIEAは見込んでいる。
太陽光及び風力等の再生可能エネルギー需要については、地球環境問題対応の側面から、特に太陽光を中心として中国での需要が顕著である(また、2035年頃まではOECD諸国及び中国で主に太陽光及び風力発電能力の拡張が行われるものとBPは見込んでいる)が、インドやその他アジアでも導入が進むものと見られる(資金調達の進展、送配電網への投資促進、規制の整備等により、2035年頃以降2050年にかけてはこれら諸国における太陽光及び風力発電能力の拡張が行われるものとBPは想定している)。また、コストの低減も、これら発電能力の増加を支援するものとBPは見ている。この結果、発電量における再生可能エネルギー(太陽光及び風力)の割合は2023年の13%から2050年には58%へと拡大するものとIEAは見ている(特にIEAは他の機関に比べ、太陽光発電の導入が世界的に進む旨想定している)他、エクソンモービル(13%が42%に)、BP(2022年の12%が49%に)、トタルエナジーズ(2022年の12%が54%に)も同様の見方となっている(図43、44及び45参照)。併せて、世界の一次エネルギー需要に占める再生可能エネルギー(太陽光及び風力)の割合もIEA(2023年の3%から2050年は18%に)、OPEC(3%から14%に(地熱等含む))、エクソンモービル(3%から12%に)、BP及びトタルエナジーズ(2022年の2%から2050年に15%に)と、全て機関で相当程度比率が上昇する(その代わり石炭の比率が相当程度低下する)ものと想定している。ただ、送配電、蓄電、需要調整を含めた付帯設備の設置等が、再生可能エネルギーによる電力供給に影響を与える可能性がある旨OPECは指摘している。BPは、太陽光及び風力発電施設の導入促進のためには、これら発電量の変動への緩衝となるための長期蓄電施設や揚水発電等を含む他の電源の柔軟な対応が必要となる旨示唆している。トタルエナジーズも、再生可能エネルギーにより発電された電力が円滑に既存の送配電網に接続できなければ、再生可能エネルギー由来の電力は能力を下回って供給されることになる可能性があり、その可能性故に再生可能エネルギー供給関連施設への投資が抑制される恐れがある旨指摘している。また、エクソンモービルは、電力化は高温を必要としない、もしくはエネルギー集約度の低い部門での利用に適している旨考えている。
以上
(この報告は2025年1月20日時点のものです)