ページ番号1010377 更新日 令和7年1月23日
米国金融機関によるGFANZ傘下業態別アライアンスからの離脱について ―第二次トランプ政権誕生、現実的なアプローチに適応する脱炭素ビジネスモデル―
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概要
米国の大手金融機関によるGFANZ傘下の業態別アライアンスからの離脱が相次いでいる
- GFANZ傘下の業態別アライアンスは投融資先企業の排出量算定・開示と排出削減に整合する事業戦略の作成を促進する上で一定の役割を果たしてきたが昨年末から今年初にかけて米国大手金融機関や欧州系保険会社がアライアンスから離脱している。NZAMIは2025年1月にブラックロックが離脱し、同月活動を中止した。NZIAは欧州保険会社が相次いで離脱し2024年4月に解散した。
- 業態別アライアンスを通じた活動が反競争的(米国独占禁止法抵触の可能性)と指摘されたことや第二次トランプ政権誕生に伴う米国市場におけるビジネス機会逸失を恐れた動きとの見方がある。一方、ベンチャーキャピタル向けVCAのように活動範囲が拡大しているアライアンスも存在する。
現実的なアプローチに適応する脱炭素化ビジネスモデルへのGFANZの進化という側面に注目
- COP29に合わせて公表されたGFANZのプログレスレポートでは従来の柱であった業態別アライアンスに関する記載が削除され、代わりにアジア太平洋、アフリカ、中南米の3つの地域連携ネットワークに置き換えられた。GFANZの脱炭素ビジネスモデルの取組みの中心は地域ネットワークを通じた新興国・発展途上国における官民金融機関とのパートナーシップに移っている。GFANZは現実的なアプローチに適応する脱炭素化ビジネスモデルに進化しつつあると見ることができ、GFANZや脱炭素化の後退と決めつけてしまうのは捉えることは早計と言えよう。
1. はじめに
年末から年始にかけて米国の大手金融機関によるグラスゴー・フィナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ(GFANZ:Glasgow Financial Alliance for Net Zero)傘下の業態別アライアンスからの離脱が相次いでいる。GFANZの業態別アライアンスの一つであるネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA: Net-Zero Banking Alliance)からゴールドマン・サックスとウェルズ・ファーゴが昨年末に離脱、今年に入ってモルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、JPモルガン・チェースが続いた[1]。さらに資産運用会社アライアンスのネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアティブ(NZAMI:Net-Zero Asset Managers Initiative)では世界最大の資産運用会社と言われるブラックロックが離脱を表明した[2]。
このような米国金融機関の動きについては気候変動対応に後ろ向きと言われるトランプ大統領の就任を前にした政治的な配慮やカーボンニュートラル化の後退という見方[3]もあるが、具体的な成果が期待できる地域や分野に重心を移す動きの延長上と捉えることができる。GFANZ傘下の業態別アライアンスからの大手金融機関離脱の事例としては2023年にネットゼロ・インシュランス・アライアンス(NZIA: Net Zero Insurance Alliance)から欧州系保険会社が相次いで脱退したことが想起される(2024年4月、NZIA自体が解散するに至った)。
以下、前回報告[4]以降のGFANZ傘下アライアンス動向を振り返り、米国脱炭素ビジネスモデルの第二次トランプ政権誕生への対応についての検討してみたい。
2. 業態別アライアンスを通じたGFANZの取り組み
GFANZは2021年11月に英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に合わせて同年4月に発足した。元イングランド銀行総裁Mark Carneyと元ニューヨーク市長・情報サービス会社創業者Mike Bloombergが共同議長となり、資産運用会社、銀行、保険会社など多様な金融機関が自らの投融資ポートフォリオを2050年までにカーボンニュートラル化することを目指し5年毎に中間目標を設定し進捗を確認する枠組みである。GFANZの加盟機関数は、設立された2021年4月の160社からCOP26開催時2021年11月には450社へ増加し、COP29が開催された2024年11月には700社を超えている。

出所: GFANZ Progress Report, 2024年11月
2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたCOP27において、GFANZは2050年排出ネットゼロ目標達成に向けた金融機関のトランジション計画のガイドラインとして、(1)気候変動ソリューションとなる技術・サービス・ツール(Climate Solutions)、(2)ネットゼロ目標への整合している事業体(Aligned)、(3)ネットゼロ目標への整合を目指す事業体(Aligning)、(4)多排出量資産の耐用期限前フェーズアウト(Managed Phaseout)に対する資金供給の4つの戦略を示した。これにより、温室効果ガス排出量と事業戦略の基準が整備され、排出量の多い企業が低炭素化技術を導入する場合には、個別の金融機関の投融資に伴う排出量(Financed Emission)が増加することになっても経済全体として排出量を削減できることを客観的に示すことができれば当該個別金融機関にとってのScope 3排出量増加を正当化できる枠組みが提示された[5], [6]。

出所: GFANZ Financial Institution Net-zero Transition Plans, 2022年11月
この枠組みに沿って設立された年金基金、資産運用会社、機関投資家、銀行、保険会社等の業態別アライアンスが投融資先企業のカーボンニュートラル目標達成に向けた事業戦略作成と温室効果ガス排出量の算定・開示を促進してきた。ところが昨年末から今年初にかけて米国大手金融機関や欧州系保険会社が業態別アライアンスから離脱している。米国大手金融機関や資産運用会社アライアンスのNZAMIは2025年1月にブラックロックが離脱し、同月活動を中止した。保険・再保険引き受け会社向けアライアンスのNZIAは欧州保険会社が相次いで離脱し2024年4月に解散した。一方、ベンチャーキャピタル向けアライアンスVCAのように活動範囲が拡大しているアライアンスも存在する。

出所: GFANZウェブサイトよりJOGMEC作成
(1) NZAMI: ブラックロックの離脱と活動停止に至る経緯
NZAMIは2050年までに運用資産から排出される温室効果ガスの排出をネットゼロにすることを目指し、投資先企業への働きかけ(エンゲージメント)や議決権の行使、排出削減ソリューション提供などを実施する資産運用会社(アセットマネジャー)の枠組みとして始まった。2023年12月時点では米国のブラックロックやステート・ストリート、フランスのアムンディなどの315の資産運用会社が参加し、運用資産総額は57兆ドルを超えていた[7]。
今年1月10日に世界最大級の資産運用会社であるブラックロックがNZAMIから離脱するに至った経緯は少なくとも2022年12月のバンガードの離脱に遡ることができる。NZAMIの発足(2020年12月)は2021年4月のGFANZ発足以前であるが、GFANZ発足以降、カーボンニュートラル目標達成に向けた具体的な事業戦略の作成・実施を投融資先に求めることが加わったことで共和党州の司法長官から独占禁止法が禁止する反競争的行為(Collective Boycott)に該当するという見解が示された(2022年8月)[8]。このときは英国の公正取引委員会(競争・市場庁: Competition and Markets Authority)が気候変動問題への対応としての便益と競争制限による社会的費用を比較衡量して必ずしも英国の独占禁止法には抵触しない可能性があるとの含意を示すなどしたため、ブラックロックと並ぶ米国の大手資産運用会社バンガードが離脱するに止まった経緯にある。
今回のブラックロックの離脱は2024年12月に米国下院司法委員会がステート・ストリートなどの大手資産運用会社に対し過度なESG目標を米国企業に強制することは談合と反競争的行為に該当(独占禁止法に違反)すると批判したことが引き金となっている。11月にトランプ氏が大統領選挙に勝利したことと関係があるのかは知る由もないが、結果的にNZAMIも「米国における最近の動向」[9]や各投資家の存する地域における規制や顧客からの期待の違いを踏まえて、新たなグローバルな状況に適合することを確認するため、枠組みの見直しに着手している。
NZAMIのウェブサイトでは見直しの結果が出るまで参加者のリストとコミットメント・ステートメント・目標や関連するケーススタディも削除されており、引き続き各国の投資家と協力して建設的な役割を果たしていきたいとはしているが、本稿執筆時点ではまだ体制見直しと活動一時停止は継続中である。
(2) NZBA: 米国金融機関の離脱をめぐる動き
NZBAは、2021年4月に発足した銀行・投資銀行向けの枠組み、英国のHSBCホールディングス、フランスのBNPパリバなど141の銀行が参加し、資産総額は61兆ドルを超える(2025年1月時点、なお日本からも三菱UFJフィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、野村ホールディングス、三井住友フィナンシャルグループ、三井住友トラスト・ホールディングス、農林中金の6社が参加している)。銀行融資の場合、資産運用会社による証券投資のように直ぐに資金を引き揚げるような対応は難しく、投融資ポートフォリオにおいて特に温室効果ガス排出量の多いセクター(例えばアルミニウム、セメント、石炭、不動産、鉄鋼、石油・ガス、発電など)に焦点を当て、排出削減に向けた働きかけ(エンゲージメント)や商品・サービスの提供、排出削減に資するソリューションに対する投融資を推進している。
年末・年始にかけて相次いだ米国金融機関の離脱をめぐってはNZAMIと同様に3年ほど前からくすぶってきた経緯があり、JPモルガン・チェースやモルガン・スタンレーなどは2022年、NZBAが気候ファイナンスに関して拘束力のある目標を設定することに反対していた。NZBAが適格な目標の要件を一部緩和したことでこのときは残留することになったが、トランプ氏が大統領選挙に勝利したことで気候変動対策に前向きな組織への敵対的な姿勢を強める共和党の動きに伴って金融業界は立ち位置を見直すに至った。ゴールドマン・サックスとウェルズ・ファーゴが2024年末に離脱、今年に入ってモルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、JPモルガン・チェースが続いた。今回NZBAから離脱した銀行はいずれも顧客の長期的なリターン追及ニーズに応えることが最大の責務であるとの見解を示す一方で、脱炭素化は依然として長期的に価値のある目標であるとの認識も示している。共和党内ではかねてよりNZBA加盟銀行が石油・ガス企業への融資を縮小することに対する警戒感が強く、共和党が優勢な州では年金資産の運用委託や地方債の引受業務からこれらの金融機関を排除しようとする動きが見られていた。巨額の補助金を通じた再生可能エネルギー普及に力を入れてきたバイデン政権と打って変わり、トランプ氏は石油・天然ガスの利用拡大をめざしており、銀行側にもさらなる非難を浴びてビジネスチャンスを逃すリスクが高まっているとの判断が離脱の判断を後押ししたとも考えられる。
他方で欧州など他の先進国では金融機関にも脱炭素の取り組みを求める動きが強いため、グローバルに展開する金融機関は気候変動対応に後ろ向きと受け止められれば米国外での脱炭素関連のビジネスチャンスを逃しかねないジレンマを抱える。JPモルガン・チェースなどNZBAから離脱した大手米銀各行も引き続き脱炭素目標を維持するという説明を続けており、脱退の理由については必ずしも明らかにされていない。
(3) NZIA: 欧州系保険会社の離脱と解散
離脱しているのは米国の金融機関だけではない。NZIAは2021年7月に発足した保険引受における脱炭素の取組みを推進するため、フランスのアクサ、ドイツのアリアンツ、スイスのチューリッヒ保険など欧州系保険会社が中心になって設立、30社以上が参加していた。
2023年3月、テキサス州など共和党が主流を占める州の司法長官がNZIAに参加する保険会社は米国の連邦及び各州レベルの独占禁止法に違反している可能性があると指摘して以降、欧州系を中心に離脱が相次いだ[10]。設立当初からのメンバーであったアクサやアリアンツが脱退すると、日本の東京海上ホールディングスなど大手も離脱、NZIAは2024年4月に解散した。
米国の保険会社が参加していなかったにもかかわらず、米国市場におけるビジネス機会を失うことを避けて欧州系保険会社がNZIAを離脱したことは世界の保険市場における米国の重要性を物語るものと考えられる。
(4) VCAの設立と活動範囲の拡大
VCAは2023年4月に設立されたGFANZの業態別アライアンスで気候変動ソリューションの提供促進を目的としており、活動範囲が拡大している。3つの業態別アライアンス(NZAM・NZBA・NZIA)が投融資ポートフォリオのネットゼロ目標への適合・対応を通じ参加金融機関の活動を制限するため米国独占禁止法抵触の可能性が指摘されたのに対し、シリコンバレーなど世界最大のベンチャーキャピタルを有する米国資本市場を中心に気候変動ソリューションの提供にベンチャーキャピタルの資金を動員する枠組みは脱炭素技術とクリーン燃料技術のイノベーションを喚起するとして活動範囲は拡大する方向に向かっている。
ベンチャーキャピタルが関与することのメリットは起業家が技術開発の初期段階から商品化、規模拡大に至るまでベンチャー企業発展のノウハウが活用できることにあると考えられる。VCAは会員企業の炭素排出量と気候インパクトのデータを収集・解釈しベストプラクティスを共有するプラットフォームを提供するほか、温室効果ガス排出ネットゼロのデータセンター利用やサプライチェーン構築などのネットゼロ目標に適合・対応する際の障壁克服に資するツールやガイダンスを提供するとしている。
米国インフレ削減法(IRA: Inflation Reduction Act)などのバイデン政権下の支援策を受けて加速してきた側面はあるが、イーロン・マスクのようにベンチャーキャピタルとの関係の深い起業家とも良好な関係を構築していることから第二次トランプ政権発足後もVCAの活動拡大が注目される。
3. 地域別ネットワークを通じたGFANZの取り組み
業態別アライアンスを通じて投融資先のカーボンニュートラル対応を促進してきたGFANZであるが、2023年12月アラブ首長国連邦のドバイで開催されたCOP28では新興市場・途上国の気候変動対策向け支援の「気候資金」を動員することに重心が移行した。
米国における銀行や保険会社の業態別アライアンスを通じた活動が反競争的であるという指摘がGFANZの活動に影響した可能性も考えられるが、二酸化炭素排出量データ、企業の排出削減インセンティブ、途上国における投資拡大の課題という現実的な制約の中で、欧州と同じ基準でカーボンニュートラル対応を進めることは公正な取組みとは言えず、国・地域ごとの事情を踏まえるべきという指摘があった。
このためGFANZのネットゼロへの取り組みは、金融機関の投融資ポートフォリオからの排出削減から投融資先事業体・資産の排出削減投資への資金供給、排出ネットゼロ目標達成に向けたトランジション計画作成から体制整備への金融機関の自発的な取組みへとシフトしており、活動の中心も業態別アライアンスから地域ネットワークへ移行している[11]。

出所: GFANZ Progress Report, 2024年11月
(1) アジア太平洋地域ネットワーク(2022年6月発足)
アジア太平洋地域ネットワークはネットゼロ移行計画を推進するためアジア太平洋地域の多国間開発金融機関、政府機関、金融当局、国際金融機関とGFANZの連携プラットフォーム。2023年は5月に日本支部、8月に香港支部を開設した。このネットワークを通じてアジア太平洋地域における石炭火力発電の段階的廃止のための資金調達に関するコンサルテーション・ペーパーが官・民・多国籍機関との協力により発表されている。
アジア太平洋地域では新興市場・発展途上各国のネットゼロ移行計画を推進する枠組みであるジャスト・エナジー・トランジション・パートナーシップ(JETP: Just Energy Transition Partnership)の活用も進んでおり、GFANZが関与して2022年11月インドネシア、12月ベトナムが民間金融機関から定期的に情報提供を受け、優先的な対応課題、実現に向けた現実的な政策、プロジェクトのアイデア、潜在的な資金調達ソリューションを特定した投資計画を推進している。
(2) アフリカ地域ネットワーク(2022年9月発足)
アフリカ地域ネットワークはグリーン成長のための投資を喚起しアフリカ地域の金融機関、政府機関、金融当局との関わりを支援するGFANZの活動。2023年にはアフリカ開発銀行(AfDB:African Development Bank)が参加している。また国別の取組みとして南アフリカとセネガルのJETPを通じたネットゼロ移行計画の推進を支援している。
(3) ラテンアメリカ・カリブ海地域ネットワーク(2023年10月発足)
ラテンアメリカ・カリブ海地域ネットワークは地域の金融機関と協力して気候変動対応資金の動員を加速させる取組み。国際金融機関の支援を引き出すために政策当局・立案者への働きかけを行う。
GFANZは国別の取組みとして2024年10月にブラジル気候・生態系変革投資プラットフォーム(BIP:Brazil Climate & Ecological Transformation Investment Platform)を通じた資金供給支援を行っている。BIPはブラジルのネットゼロ目標達成に沿ったと気候変動移行計画の優先プロジェクトを支援するために官民の資金を結集する分野横断的なプラットフォームとして注目されており、GFANZは民間金融機関の取り纏め役として、重工業分野の脱炭素プロジェクトを中心とする産業転換アクセラレーターや自然気候ソリューション、持続可能農業などの分野別イニシアティブと連携している。
4. まとめ
欧州を中心に始まったカーボンニュートラルの動きに米国金融機関が参加しにくい状況を踏まえて、GFANZの枠組みにも変化が見られる。業態別アライアンスからの米国金融機関の離脱は第二次トランプ政権発足を前にした動きとして象徴的であるが、業態別アライアンスの位置付けが既に変わっていることを踏まえるとGFANZの活動にどの程度現実的な影響があるのか判然としない。
カーボンニュートラルを実現するために必要な技術ソリューションを社会実装するには多額の投資が必要であり、金融業界のさまざまなプレーヤーがカーボンニュートラルにコミットしたことの意義は大きい。しかしながら個々の事業・プロジェクトを具体的に推進するに際しては、金融機能を活用してカーボンニュートラル目標に戦略的に対応していくことが必要であり、地域毎のカーボンニュートラル対応をビジネス機会と捉えるのであれば地域別のプラットフォームによる官民連携を推進していくことが今後は一段と注目されると考えられる。
2024年11月にアゼルバイジャンのバクーで開催されたCOP29に合わせて公表されたGFANZのプログレスレポートでは従来の柱であった業態別アライアンスに関する記載が削除され、代わりにアジア太平洋、アフリカ、中南米の3つの地域連携ネットワークに置き換えられている。投融資先に気候変動目標達成に向けた目標設定を拡散したことでGFANZの脱炭素ビジネスモデルの取組みの中心は地域ネットワークを通じた新興国・発展途上国における官民金融機関とのパートナーシップに移っている。
米国大手金融機関の業態別アライアンスから離脱については第二次トランプ政権発足への対応という側面が米国金融機関の業態別アライアンスへの関与に影響したのと同時に、GFANZ自体も現実的なアプローチに適応する脱炭素化ビジネスモデルに進化しつつあると見ることができる。GFANZの活動の中心が新興市場・発展途上国における官民金融機関とのパートナーシップに移行していることに注目しておきたい。
[1] “US finance navigates Trump ‘anti-woke’ era while staying open for green business,” Financial Times(電子版), 2025年1月6日,
https://www.ft.com/content/1902b661-90ea-44ee-ba51-fe2d3520f1bc(外部リンク)
[2] “BlackRock quits climate change group in latest green climbdown,” Financial Times(電子版), 2025年1月10日,
https://www.ft.com/content/f0fb9841-db1d-442e-a757-1a1327497fb1(外部リンク)
[3] 「米大手銀行、温暖化の国際枠組みから撤退 邦銀は動揺」、日本経済新聞、2025年1月9日
「ブラックロック、温暖化の国際的枠組みから離脱」、日本経済新聞、2025年1月10日
[4] 「上流開発企業のベンチャーキャピタル戦略 ―GFANZ傘下8番目のアライアンスVenture Climate Allianceの設立―」、石油・天然ガス資源情報、2023年8月25日
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009868.html
[5] GHG排出量を報告する企業にとって、自社で所有/操業する資産から直接排出されるScope 1、使用するエネルギーを生産するために間接的に排出されるScope 2以外の、バリューチェーン上流・下流から間接的に排出されるGHGをScope 3と総称。金融機関の場合には投融資ポートフォリオから排出されるGHGをScope 3 Financed Emissionsと呼び、金融機関自体のGHG排出とは区別して報告される。
[6] “Financial Institution Net-zero Transition Plans (Final Report) Fundamentals, Recommendations, and Guidance”, GFANZ, 2022年11月
https://assets.bbhub.io/company/sites/63/2022/09/Recommendations-and-Guidance-on-Financial-Institution-Net-zero-Transition-Plans-November-2022.pdf(外部リンク)
[7] GFANZ Progress Report, p.65, 2023年12月,
https://assets.bbhub.io/company/sites/63/2023/11/GFANZ-2023-Progress-Report.pdf(外部リンク)
[8] “Mark Carney’s green alliance rides out stormy waters,” Financial Times(電子版), 2023年2月27日, https://www.ft.com/content/f5ca94f5-2fab-451c-981c-e6e0e54fc3ba(外部リンク)
[9] “Update from the Net Zero Asset Managers initiative – The Net Zero Asset Managers initiative,” NZAM Website, 2025年1月13日,
https://www.netzeroassetmanagers.org/update-from-the-net-zero-asset-managers-initiative/(外部リンク)
[10] 2023年3月Munich Re(ドイツ)、4月Zurich Insurance Group(スイス)、Hannover Re(スイス)、5月Swiss Re(スイス)、Allianz(ドイツ)、AXA(フランス)、Lloyds(英国)、QBE(オーストラリア)、Mapfre(スペイン)
[11] GFANZ Progress Report, p.36, 2023年12月
https://assets.bbhub.io/company/sites/63/2023/11/GFANZ-2023-Progress-Report.pdf(外部リンク)
以上
(この報告は2025年1月22日時点のものです)