ページ番号1010413 更新日 令和7年2月17日
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概要
ブラジル国営石油会社Petrobrasは2024年11月に、2025年から2029年の設備投資を1,110億ドルとする五か年計画Business Plan 2025-2029(BP 2025-2029)を発表した。Lula政権の意向を反映し、前計画と同様に設備投資額を増額する一方で、探鉱・生産(E&P)部門の割合が減少し、ガス・低炭素エネルギー部門や精製・輸送・マーケティング(RTM)部門の割合が増加している。
ただし、E&P部門の設備投資額は773億ドルと、前計画から5.9%増額された。プレソルトには前計画と同額の470億ドルを投じるとしており、生産見通しも大きな変更はなかった。
Petrobrasに対する政府の介入が強まるのではないかと懸念する向きも多いが、PetrobrasのCEO、Chambriard氏は探鉱・開発を推進する方針を強調しており、当面、Petrobrasの探鉱、開発、生産に大きな変更はないと考えられる。
1. Petrobras五か年計画Business Plan 2025-2029概要
ブラジル国営石油会社Petrobras取締役会は2024年11月21日に、2025年から2029年の同社の短期および中期の目標を掲げた五か年計画Business Plan 2025-2029を承認した。Business Plan 2025-2029の中で、Petrobrasは、2029年までの5年間の設備投資総額を8.8%増の1,110億ドルとした。
内訳を見てみると、探鉱・生産(E&P)部門の設備投資額は773億ドルで、前計画の730億ドルから5.8%増額された。インフレや浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備(Floating Production Storage and Offloading:FPSO)の契約形態をリースから所有に変更することが影響したようだ。ただし、設備投資総額に占めるE&P部門の割合は、前計画の71.6%から69%へと減少している。
一方、ガス・低炭素エネルギー部門には設備投資総額の10%にあたる110億ドルが投じられる。前計画では、設備投資総額の8.8%にあたる90億ドルが投じられる計画となっていた。
また、前計画では精製・輸送・マーケティング(RTM)部門に設備投資総額の16.7%にあたる170億ドルが投じられる計画となっていが、今回の五か年計画 では、設備投資総額の18%、196億ドルがRTM部門に投じられるとされている。
Petrobrasは、毎年更新する五か年計画の名称を、2018年発表のものまでは「Business and Management Plan」(BMP)としていたが、2019年以降「Strategic Plan」(SP)と変更、さらに、今回、「Business Plan」に変更した。

出所:Petrobras websiteを基にJOGMEC作成
【参考:2003年以降のPetrobras五か年計画の変遷】
ブラジルでは、2003年初から2016年5月までLuiz Inácio Lula da Silva、Dilma Vana Rousseff両大統領による労働者党政権が続いた。労働者党政権は、石油産業の発展とともに、ブラジル国内の産業を振興して、雇用を促進し、経済を発展させようと試み、国営石油会社Petrobrasは政府の一機関として、石油・ガス関連産業の多くの分野で中心的役割を果たすことを求められた。一方で、Petrobrasは、ブラジル国外での探鉱・開発も積極的に進めた。2006年以降、リオデジャネイロやサンパウロの沖合Santos盆地、Campos盆地に延長約1,000キロメートル、幅約100キロメートルにわたり広がる下部白亜系岩塩層直下の炭酸塩岩を貯留岩とする地質構造、プレソルトで相次いで大規模油田が発見されると、Petrobrasはこのプレソルトの油田開発も中心となって進めることとなった。その結果、毎年、更新されるPetrobrasの投資、生産等の5か年計画の設備投資額は年々増加することとなった。この間、Petrobrasは製油所建設等に関連する汚職の温床となるとともに、輸入したガソリンやディーゼルをブラジル国内において割引価格で販売し、その逆ザヤを負担することを求められ、多額の負債を負うことになった。
汚職の影響や原油価格下落により財務状況が厳しくなったPetrobrasは、収益性の高い中核資産であるSantos盆地のプレソルトに投資や活動を集中させることとし、ブラジル国外の資産や下流資産の売却を開始した。財務状況悪化を反映し、同社の設備投資総額も、2014年スタートの5カ年計画Business and Management Plan(BMP)2014-2018以降、削減されることとなった。
その後、Temer政権(~2018年末)、Bolsonaro政権(~2022年末)が、Petrobrasへの政府介入を排除する政策をとったこともあり、Petrobrasはガソリンやディーゼルの価格を国際市場価格に連動させる戦略をとることができるようになった。プレソルトの開発により原油生産が安定、増加したこともあって、Petrobrasは負債を削減し、経営を軌道に乗せることができた。BMP 2018-2022以降は、Petrobrasの設備投資や探鉱・生産部門への投資額も大きな変更が行われなかったり、増額されたりするようになった。
2020年発表のSP2021-2025では、新型コロナウイルス感染拡大に伴う石油需要の減少や原油価格の下落を受け、Petrobrasは設備投資総額も探鉱・生産部門への投資額も削減した。
しかし、その後、同社の設備投資額は増加傾向にあった。
特に、Lula氏が大統領に返り咲いた2023年に発表されたSP 2024-2028+は、Lula政権の意向を反映し、設備投資額を前年のSP 2023-2027から31%と大幅に増額、1,020億ドルとし、設備投資額に占めるE&P部門の割合を削減する一方、ガス・低炭素エネルギー部門やRTM部門への投資の割合を増やした。

出所:Petrobras websiteを基にJOGMEC作成
2. 探鉱・生産部門では、引き続きプレソルトの開発に注力するものの、投資の割合は減少
Petrobrasは、前計画SP 2024-2028+で、世界のエネルギー需要を満たすためにも、同社のエネルギー転換の資金を賄うためにも、原油生産は必要で、原油・ガス生産は優先事項としていた。この方針についても基本的に変化はないようだ。
Petrobrasは今回の五か年計画Business Plan 2025-2029で、脱炭素化への取り組みは世界的な課題であるが、エネルギー転換のペースは未だ不透明であり、化石燃料は世界でもブラジルでも引き続き必要とされているとしている。そして、石油の生産を止めれば、よりクリーンなエネルギーミックスは実現できないとし、公正なエネルギー転換を実施し、ネットゼロエミッションを達成するという目標を掲げるとともに、引き続き新たな探鉱・生産プロジェクトが必要であるとし、探鉱・開発を推し進める方針を示している。
Petrobrasは、中でも、低コストで高品質の原油が生産され、温室効果ガスの排出量が少ないため、経済面でも環境面でも競争力を有するプレソルトに、E&P部門の投資額の61%にあたる470億ドルを投じるとしている。SP 2024-2028+でも、プレソルトへの投資額は同額の470億ドルであったが、E&P部門の投資額に占めるプレソルトの割合は67%となっていた。それ以前に遡ってみても、E&P部門の投資額に占めるプレソルトの割合はSP 2021-2025では70%、SP2022‐2026以降は67%となっており、Santos盆地のプレソルトに投資や活動を集中させるとしてきた同社の戦略に変化が見えてきたと考えられる。
現在、Santos盆地プレソルトのBúzios、Mero、Tupi/Iracema、Atapu、Itapu、Berbigão、Sururu、Sapinhoáの各油田がPetrobrasの原油生産の多くを占めているが、Petrobrasは、今後もこれらの油田、特に、規模の大きいBúzios、Mero、Tupi/Iracema油田が開発の中心となるとしている。
世界最大級の深海油田であるBúzios油田では、2027年までにFPSO6基が新たに生産を開始し、生産量は日量150万バレルに達するとしている。
日量40万バレルを生産しているMero油田は、2024年10月に4基目のFPSOが生産を開始し、生産能力が日量59万バレルとなった。2025年にさらに1基のFPSOが生産を開始することで、生産能力は日量77万バレルとなる予定だ。
2024年第3四半期の生産量が日量110万バレルと、現在ブラジルで最大の生産を誇る油田であるTupi/Iracema油田については、生産量を日量100万バレルで維持することを目指すとしている。

出所:各種情報を基にJOGMEC作成
表1に、Business Plan 2025-2029で生産開始が予定されているFPSOの一覧を示した。Búzios、Mero両油田を中心にPetrobrasが増産を図ろうとしていることが見て取れる。生産量が減少傾向にあるCampos盆地についても、新しい生産システムの立ち上げと既存システムの拡張により再活性化が続けられており、Barracuda-Caratinga油田の再生プロジェクト(REVIT)とPetrobrasがオペレーターではないがRaia Manta、Raia Pintada油田に新たにFPSOが導入される予定となっている。
Petrobrasは、このように2025年から2029年に10基のFPSOを投入する計画だ。SP 2024-2028+では5年間に14基のFPSOが生産開始予定とされており、5年間に生産を開始するFPSOの数は減少した。しかし、Petrobrasは、2030年に、Sepia油田のFPSO P-85、Marlim Leste、Marlim Sul油田の再生プロジェクト、SP 2024-2028+で2028年に生産開始予定であったSergipe-Alagoas盆地のFPSO SEAP-2の生産開始を計画している。その後も、FPSO SEAP-2と同じく2028年生産開始予定であったSergipe-Alagoas盆地のFPSO SEAP-1やBúzios油田の12番目のFPSO、Mero油田の5番目のFPSO、Tupi油田の再生プロジェクトと次々と生産開始を計画している。
年 | 油田 | FPSO | 原油生産能力 | 備考 |
2025 | Búzios | Almirante Tamandare | 22.5万b/d | |
Búzios | P-78 | 18万b/d | ||
Mero | Alexandre de Gusmao | 18万b/d | ||
2026 | Búzios | P-79 | 18万b/d | |
2027 | Búzios | P-80 | 22.5万b/d | 前計画では2026年の予定 |
Búzios | P-82 | 22.5万b/d | ||
Búzios | P-83 | 22.5万b/d | ||
2028 | Raia Manta、 Raia Pintada |
Raia | 12.5万b/d |
オペレーターはEquinor Petrobrasは権益30%を保有 |
2029 | Atapu | P-84 | 22.5万b/d | |
Barracuda-Caratinga | REVIT BRC/CRT | 10万b/d | 前計画では2028年の予定 |
出所:各種情報を基にJOGMEC作成
生産見通しについては、SP 2024-2028+から大きな変更はない。Petrobrasの原油、天然ガスの生産量は、2025年の石油換算で日量280万バレル(うち、石油が日量230万バレル)から、ゆるやかに増加し、期間の後半にはそれを維持し、2029年には日量320万バレル(同、日量250万バレル)に達するとしている。なお、Petrobrasは、生産見通しについて±4%の変動幅を考慮するよう求めている。
Business Plan 2025-2029の対象期間5年間のプレソルトの生産量が同社の生産量全体に占める割合は77~81%となっている。生産量に占めるプレソルトの割合は毎回増加している。これは、同社が収益性の高いプレソルトに集中して探鉱・生産を進めてきた結果と考えられる。

出所:Petrobras websiteを基にJOGMEC作成
年の横の(%)は総生産量に占めるプレソルトの生産量の割合
埋蔵量の補充という課題に対応するため、PetrobrasはBusiness Plan2025‐2029の対象期間の5年間に探鉱に79億ドルを投じることを計画している。これは、SP 2024-2028+の探鉱への投資額よりも5%多い金額となる。
2015年以降、プレソルトでの探鉱が不調であることもあって、Petrobrasはプレソルト一辺倒であった探鉱を、油田発見が続くガイアナやスリナムに近い赤道周辺部やブラジル国外にも展開するようになっている。特に、ブラジル国外での探鉱・開発強化の動きについては、Lula政権下でPetrobrasが国際ポートフォリオを再構築、多様化し、国際市場での競争力を維持、強化しようと努めていることの現れと考えられる。
探鉱部門の設備投資の内訳は、南東部のEspirito Santo、Campos、Santos、Perlotas盆地に32億ドル、赤道周辺部のPotiguar、Ceara、Barreirinhas等の盆地に30億ドル、コロンビア、南アフリカ、サントメプリンシペ等ブラジル国外に17億ドルとなっている。これにより、南東部の盆地で25坑、赤道周辺部で15坑、ブラジル国外で11坑の合計51坑の坑井の掘削が行われる計画だ。
3. 低炭素プロジェクトへの投資拡大傾向強まる
Petrobrasは、ガス・低炭素エネルギー部門への設備投資を110億ドルとする一方で、さまざまな事業分野へ横断的に投資を行うことで、2029年までの5年間に最大で163億ドルを低炭素プロジェクトに割り当てる計画だ。低炭素プロジェクトへの投資は、SP 2023-2027では44億ドル、SP 2024-2028+では115億ドルとされていた。設備投資総額に占める低炭素プロジェクトへの投資の割合は、SP 2024-2028+では11%であったが、15%になるとされている。
163億ドルの内訳は、事業の脱炭素化に向けた取り組みに53億ドル、風力発電や太陽光発電、水素など低炭素エネルギーに57億ドル、エタノール、バイオディーゼル、バイオガスなどバイオ製品に43億ドル、研究開発に10億ドルとなっている。
おわりに
Lula氏が大統領に復帰後、ブラジルでは、Petrobrasが、以前の労働者党政権時代のように、国家主導の下、政府のインフレ対策や景気刺激策と緊密に連携し、雇用を創出し、経済発展させるための政府の一機関として働くことが求められていると見られる動きが続いている。
Lula政権下、初の五か年計画SP 2024-2028+で、Petrobrasは、利益率の高いプレソルトの探鉱・開発に焦点を当てるとしていた戦略を、ブラジル国外での探鉱・開発の再開、製油所を半減させる計画の反転、脱炭素化や再生可能エネルギー事業の拡大など、Lula政権の政策に沿った方向に転換させるよう図った。
そして、Business Plan2025‐2029は、基本的に前年の方針に沿い、さらにそれを強化したものと見ることができよう。
2024年5月にPetrobrasの最高経営責任者(CEO)、Jean Paul Prates氏が退任を発表した。配当方針を巡るPrates氏とLula政権との対立や、Lula政権はPetrobrasにブラジルの経済発展や国内産業の活性化を牽引させようと考えていたが、プロジェクトの遅延などで同政権の期待に応えられなかったこと、などが退任の原因と報道された。
Prates氏の後任のPetrobrasのCEO、Magda Chambriard氏は、Petrobrasで約20年勤務した後、2012年から2016年にブラジル国家石油庁(ANP)の長官を務めた人物だ。Chambriard氏は探鉱・開発を進める方針を強調しており、また、PetrobrasはBusiness Plan2025‐2029で、E&P部門の投資額の資本投資に占める割合は減少したものの、E&P部門の投資額自体を変更されておらず、当面、Petrobrasの探鉱、開発、生産に大きな変更はないと考えられる。
政府の方針に沿ってPetrobrasを国家発展のために活用しようという動きも、以前の労働者党政権の時代ほど急激なものではないように見える。しかし、Lula大統領は政府目標や社会目標を達成するための資金をPetrobrasが負担することを強く望んでいると言い、Petrobrasへの政府の介入に対して投資家の懸念が再燃しているとも伝えられている。Petrobrasの今後の動向を注視していく必要があろう。
以上
(この報告は2025年2月10日時点のものです)