ページ番号1010414 更新日 令和7年2月17日
原油市場他: 米国大統領に就任したトランプ氏のOPEC産油国に対する原油価格引き下げ要求や関税賦課に伴う世界経済減速懸念等から、2024年12月下旬以来の低水準にまで下落する原油価格
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
- 米国では、冬場の気温低下もありガソリン需要が低迷したことにより、ガソリン在庫は増加した結果、平年幅上限を超過する水準となった反面、暖房用需要が喚起されたこともあり、留出油在庫は減少傾向となった結果、平年並みの量となった。また春場のメンテナンス作業実施開始等により製油所の原油精製処理量が減少したこともあり、原油在庫は増加傾向となった結果、平年幅上限を上回る状態は継続している。
- 2025年1月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国のみならず、日本においても一部の製油所が技術的な問題により操業を停止した時期があったこともあり、原油在庫は増加した。このため、欧州において、気温がしばしば低下したこと等により、暖房用石油製品消費増加観測が発生するとともに製油所における原油精製処理が進んだものと見られることから、原油在庫は減少傾向となったものの、OECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では、1月に気温が大幅に低下したことに伴い暖房向けの留出油や液化石油ガス(LPG)の需要が喚起されたことによりそれら石油製品の在庫が減少したり、その他の石油製品の在庫が減少したりしたことにより、石油製品全体でも在庫は減少した。また、日本においても、一部地域における気温低下に伴い暖房向けの灯油需要が拡大したことで当該製品等の在庫が減少したことから、石油製品在庫は減少した。このため、欧州においては、製油所の稼働上昇による石油製品製造活動の活発化に加え、気温の低下による個人の乗用車を利用した外出の不活発化もあり、ガソリンや軽油等を含む石油製品在庫は増加したものの、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少した他、平年並みの量となっている。
- 2025年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場においては、1月20日に米国大統領に就任したトランプ氏が、2月3日に中国に対する関税賦課を決定したこと、OPEC産油国に対し原油価格の引き下げを要求する旨1月23日にトランプ氏が表明したこと、及びウクライナとの戦争状態を終結させるための協議をロシアとの間で開始した旨2月12日にトランプ氏が発表したこと等の要因が、原油相場に下方圧力を加えた結果、1月17日には1バレル当たり77.88ドルの終値であった原油価格は2月14日には同70.74ドルの終値となるなど下落傾向となった他、2月6日には同70.61ドルと2024年12月27日以来の低水準の終値に到達する場面も見られた。
- この先、米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が市場関係者の視野に入り始めることが原油相場に上方圧力を加え始める一方、米国のトランプ大統領による関税賦課の実施と米国以外の諸国及び地域による対抗措置実施の可能性、米国のトランプ政権によるイランに対する政策、中国経済指標類と同国の景気刺激策を巡る動向、中東及びウクライナとロシアとの紛争状態等の推移等により、原油相場が変動するものと考えられるが、これらの要因は原油相場に上方圧力を加えるものと下方圧力を加えるものが混在しているうえ、米国のトランプ大統領の言動及び行動を巡る不透明感が強いことから、原油価格は上下に変動しつつも、持続的な上昇もしくは下落が発生しにくい展開となる可能性があるものと考えられる。
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2024年11月の米国ガソリン需要(確定値)は推定日量881万バレル、前年同月比1.1%程度の減少と、10月の当該需要(確定値)である日量907万バレルから需要量が減少したうえ、同月の前年同月比0.4%程度の減少から減少率が拡大した(図1参照)。ただ、当該需要は速報値(前年同月比1.6%程度減少の日量877万バレル)からは若干ながら上方修正されている。11月は10月に比べ気温が低下したことにより個人の外出が不活発化するとともに10月には1日当たり95億マイルであった同国の自動車運転距離数は11月には同89億マイルへと減少したことが、11月の同国ガソリン需要が前月比で減少した背景にあるものと見られる。ただ、2024年11月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり3.175ドルと10月の同3.261ドルからさらに下落したものの、11月の当該価格の下落率は前年同月比で7.8%程度であった反面10月は同12.9%程度と、11月の方が小規模の下落率であったことにより、この分だけ11月の米国ガソリン需要の前年同月比での減少を拡大させる(反面10月の当該需要の前年同月比での減少率を縮小させる)格好となったものと考えられる(因みに、10月の米国自動車運転距離数は前年同月比で2.8%の増加であった反面、11月は同0.4%の増加にとどまっている)。なお、2024年11月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年11月の当該需要(日量921万バレル)(確定値)を4.4%程度下回っている。他方、2025年1月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量828万バレル、前年同月比0.5%の増加と、2024年12月の当該需要(速報値)である日量868万バレルから需要量が減少したものの、同月の前年同月比1.3%程度の減少から増加に転じた。12月の同国のクリスマス及び年末年始の休暇シーズンが終了したことに加え、2025年1月はしばしば気温が低下したことから、個人の外出が敬遠されるとともに同月の自動車運転距離数が抑制された(同月の推定自動車運転距離数は1日当たり81億マイルと12月の同87億マイルから減少している)ことが、1月の米国ガソリン需要の前月比での減少をもたらしたものと考えられる。しかしながら、2024年1月も中旬を中心として厳しい寒波が米国の広い地域にまで来襲したことに伴い気温が大幅に低下したこともあり、個人の外出が相当程度不活発化した(2024年1月の同国自動車運転距離数は1日当たり推定80億マイルと2025年1月を若干ながら下回っている)ことが同国ガソリン需要を抑制した結果、かえって2025年1月の米国ガソリン需要は前年同月比で増加する格好となったものと考えられる。なお、2025年1月の米国ガソリン需要は2020年1月の当該需要(日量872万バレル)(確定値)を5.1%程度下回っている。また、2025年1月に入り米国では製油所の段階では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品(留出油(軽油及び暖房油)等)需要期の終了が視野に入り始めるとともに、一部製油所では春場のメンテナンス作業実施のために操業を停止させ始めた他、同月中旬を中心とした期間に来襲した寒波の影響により、メキシコ湾岸地域を中止として一部製油所で装置に不具合が発生した結果、稼働が低下したこと等もあり、原油精製処理量が減少傾向となる(図2参照)とともに、併せてガソリン製造活動も不活発化したものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図3参照)。しかしながら、ガソリン需要も抑制されていたこともあり、1月上旬から2月上旬にかけ米国ガソリン在庫は増加傾向を示した他、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。
2024年11月の米国における軽油及び暖房油を含む留出油需要(確定値)は日量368万バレル、前年同月比6.9%程度の減少となり(図5参照)、10月の同406万バレル(前年同月比ほぼ横這い)から需要量が減少したうえ、前年同月比での減少率は拡大した。また、当該需要は速報値(前年同月比5.6%程度減少の日量373万バレ)から若干ながら下方修正されている。11月に入り秋場の農作物収穫シーズンが峠を越えつつあったことから、農作業のために利用される農機具向けの軽油需要が減少し始めたことが、11月の留出油需要が前月比で減少した背景にあるものと考えられる。また、2024年11月は米国北東部が前年同月に比べ相対的に温暖であったことから、同地域における暖房用燃料の中心である留出油の需要が抑制されたことに加え、11月の米国鉱工業生産が前年同月比で0.9%程度の減少と10月の同0.4%程度の減少から減少率が拡大するとともに同月の同国物流活動が前年同月比で不活発化したことから、製造業や物流部門等における軽油需要が低調であったことが、同月の同国留出油需要を押し下げる形で作用したものと考えられる。なお、2024年11月の米国留出油需要は2019年11月の当該需要(日量420万バレル)(確定値)を12.5%程度下回っている。他方、2025年1月の米国留出油需要(速報値)は推定日量416万バレル、前年同月比で7.4%程度の増加となり、2024年12月の日量378万バレル(前年同月比で3.6%程度の増加)(速報値)と比べ、需要量が相当程度増加したうえ前年同月比でも増加率が拡大した。米国の暖房向け留出油需要の中心地である北東部が、2025年1月は2024年12月に比べ気温が低下した他、前年同月比でも全体として冷え込んだことが、前月及び前年同月比での当該需要の増加をもたらしているものと考えられる。なお、2025年1月の米国留出油需要は2020年1月の当該需要(日量402万バレル)(確定値)を3.3%程度上回っている。そして、このように米国の留出油需要は堅調であった反面、製油所の稼働が低下傾向となったことに伴い、留出油製造活動が不活発化した(図6参照)ことから、1月上旬から2月上旬にかけての米国の留出油在庫は減少傾向となった他、平年並みの量となっている(図7参照)。
2024年11月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比2.4%程度減少の日量2,024万バレルとなり(図8参照)、10月の同2,101万バレルから需要量は減少したうえ、同月の前年同月比1.8%程度の増加から減少に転じた。ガソリン及び留出油の両需要が前月及び前年同月から減少したことが影響する格好となっている。また、留出油等一部の石油製品需要が速報値から下方修正されたことが一因となり、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比1.5%程度減少の日量2,043万バレル)から下方修正されている。なお、2024年11月の米国石油需要は2019年11月の当該需要(日量2,074万バレル)(確定値)を1.5%程度下回っている。他方、2025年1月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,053万バレル、前年同月比で4.8%の増加となっており、12月の同国石油需要(速報値)である日量2,026万バレル(前年同月比0.7%程度の減少)から需要量が増加した他前年同月比では減少から増加に転じた。留出油需要が前月及び前年同月比で増加した他、2024年1月は厳しい寒波が米国の広い地域に来襲した結果、石油及び天然ガス生産関連施設の操業に支障が発生するとともに、石油及び天然ガスの生産に随伴して生産されるエタン等の生産が減少したことにより、その他の石油製品(この中にエタンが含まれる)の需要が制約を受けた反面、2025年1月にも米国の広い地域にしばしば寒波が来襲したものの、石油及び天然ガス生産関連施設の操業上の支障は限定的であったことにより、エタンの生産が殆ど落ち込まなかったものと見られることに伴い、同月のその他石油製品の需要が維持された結果、当該需要が前年同月比で増加する格好となったことが、2025年1月の同国石油需要の前月比及び前年同月比での増加に寄与する格好となっている。なお、2025年1月の米国石油需要は2020年1月の当該需要(日量1,993万バレル)(確定値)を3.0%程度上回っている。また、1月に入り米国の製油所における原油精製処理量が減少したことが一因となり、1月上旬から2月上旬にかけての米国原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は継続している(また、米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対して固定資産税等が賦課されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の陸上在庫保有を回避させるべく原油輸入を抑制(但し原油は洋上にタンカーに積載されたままとなっているとされる)等することにより12月末にかけ同国メキシコ湾岸地域で原油在庫が減少する場面が見られたが、1月に入り、洋上で原油を積載していたタンカーが原油を陸揚げし始めたものと見られることにより、米国の原油輸入が拡大したことや、気温の低下に伴い米国メキシコ湾岸におけるヒューストン等一部港湾が閉鎖されたことにより原油輸出が抑制されたことも、米国の原油在庫増加の背景にあると示唆する向きもある)(図9参照)。そして、原油及びガソリンの両在庫が平年幅上限を超過していることから、留出油在庫は平年幅上方付近に位置する量となったものの、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2025年1月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加した他、日本においても一部の製油所が技術的な問題により操業を停止した時期があったことにより、原油精製処理が進まなくなったこともあり、原油在庫は若干ながら増加した。このため、欧州においては、気温がしばしば低下したり、低下するとの予報が明らかになったりしたことにより、消費者による暖房用石油製品消費の増加観測が発生するとともに製油所における原油精製処理が進んだものと見られることから、原油在庫は減少傾向となったものの、OECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国では、1月において気温が大幅に低下したことに伴い暖房向けの石油製品である留出油や液化石油ガス(LPG)の需要が喚起されたことによりそれら石油製品の在庫が減少したり、その他の石油製品の在庫が減少したりした(冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあることに伴うものと見られる)ことにより、石油製品全体としても在庫は減少した。また、日本においても、一部地域における気温低下に伴い暖房向けの灯油需要が拡大したことで当該製品等の在庫が減少したことから、石油製品在庫は減少した。このため、欧州においては、製油所の稼働上昇による石油製品製造活動の活発化に加え、気温の低下による個人の乗用車を利用した外出の不活発化もあり、ガソリンや軽油等を含む石油製品在庫は増加したものの、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少した他、平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から減少した他平年幅上方付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2025年1月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.0日と2024年12月末の推定在庫日数(60.6日)から減少している。
1月15日に1,400万バレル台後半程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、1月22日には1,400万バレル台半ば程度の量へと減少したが、1月29日には1,500万バレル台前半程度、2月5日には1,600万バレル半ば程度の、それぞれ水準へと回復した結果、2023年5月10日(この時は1,600万バレル台後半程度)以来の高水準に到達した。2月12日には若干減少したものの、なお1,600万バレル台前半程度の量を維持しており、この結果、2月12日の当該在庫量は1月15日の水準をそれなりに上回る状況となっている。アジア一部諸国等においては年末年始の休暇期間が終了するとともに個人の乗用車を利用した往来が正常化したことにより、休暇期間中は低下していたガソリン需要が回復した他、中国等における春節(旧正月)(2025年は1月29日)に伴う休暇期間(1月28日~2月4日)到来に伴う個人の乗用車を利用した往来活発化に向け給油が進むことによるガソリン需要増加に備え中国等からのガソリン輸出が鈍化したものと見られること等が1月中旬及び下旬を中心とする期間におけるシンガポールにおける軽質留分在庫を減少させる方向で作用した一方、気温の低下に伴う暖房向け石油製品(灯油及び軽油等)の生産のためアジア地域の製油所が稼働を上昇させるとともに、併せてガソリンの製造も行なわれたことにより、アジア市場におけるガソリン供給が堅調であった中で、春節を控えた給油活動が完了に向かうとともに実際に春節に伴う休暇期間に突入した段階では、かえって個人の乗用車を利用した往来が不活発化することによりガソリン需要が低下するとともに、一部諸国及び地域からの国外及び域外への輸出が回復したことが、1月下旬以降のシンガポールにおける軽質留分在庫増加に寄与したものと考えられる。そして1月中旬から下旬を中心として、シンガポールの軽質留分在庫が減少傾向となったことが、アジア市場におけるガソリン価格に上方圧力を加えたものの、欧米等においては気温の低下に伴い個人の乗用車を利用した外出が敬遠されたこともあり、ガソリン需要が抑制されるとともにガソリン在庫が増加傾向となった結果、ガソリン価格に下方圧力が加わったため、その影響をアジア市場も部分的にせよ受ける格好となったことから、1月中旬から下旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は比較的限られた範囲で推移した。しかしながら、1月下旬から2月上旬頃にかけては、原油価格の下落にガソリン価格の下落が追い付かなかったことにより、価格差はむしろ拡大する傾向を示した。ただ、その後は、シンガポールでの軽質留分在庫の増加が高水準を維持したことが、アジア市場におけるガソリン価格に下方圧力を加える反面、メキシコがアジア市場におけるガソリン購入に関心を示していたとされる(同国と米国との関税賦課合戦発生の可能性に備えた米国の代替としてのアジア市場からのガソリン調達を想定したことが背景にあるものと考えられる)ことが、同市場におけるガソリン価格を下支えした結果、2月中旬においては、ガソリンと原油との価格差は再び概ね範囲内での変動となっている。
また、アジアの一部地域では春節を控えガソリン需要が盛り上がる場面が見られているものの、世界的にはガソリン需要が低迷するとともに当該製品在庫が積み上がるなどしたことから、ガソリンの原料となるナフサの需要も抑制されたことに加え、中国等においては春節を控え工場等の操業が停止したことや、工場等の操業停止に伴い石油化学製品需要がもたつき気味となったことから石油化学会社がナフサ分解装置の稼働を抑制することに伴い石油化学製品向けのナフサ需要が軟調に推移するとの観測が市場で発生したうえ、暖房向け石油製品製造のため製油所稼働が高水準であったことに伴い、併せてナフサが製造されつつあることが、アジア市場におけるナフサ価格に下方圧力を加えたこともあり、1月上旬から下旬前半頃にかけては、ナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大傾向を示した。しかしながら、その後2月中旬にかけては原油価格の下落にナフサ価格の下落が追い付かなかったことに加え、2月4日午前0時1分(米国東部時間)を以て中国に10%の関税を賦課する大統領令に2月1日に米国のトランプ大統領が署名したことに対し、2月10日より米国産石炭及び液化天然ガス(LNG)に対し15%、原油、農機具及び一部の自動車に対し10%の関税を賦課する旨2月4日に中国財政省が表明したこともあり、今後中国がさらに米国産液化石油ガス(LPG)に関税を賦課するようだと、石油化学製品製造のためのLPG調達価格が上昇するとともに、競合するナフサの価格も上振れする可能性があるとの観測が市場で発生したこと、夏場のドライブシーズン到来に伴う需要期に向けたガソリンの原料としてのナフサ需要の季節的な増加が市場関係者の視野に入り始めたことが、ナフサ価格に上方圧力を加えた結果、ナフサと原油との価格差は縮小傾向となった。
1月15日には900万バレル台前半程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分在庫は、1月22日には、900万バレル強程度の量へと減少した。ただ、1月29日には900万バレル台前半程度、2月5日には1,000万バレル台前半程度、2月12日には1,000万バレル台半ば程度の、それぞれ量へと増加した結果、2月12日の中間留分在庫水準は1月15日を上回る状態となっている。2024年12月に軽油在庫が減少傾向となっていた欧州においては、その後中東やインド等から当該製品が流入した結果、2025年1月に入り在庫水準が回復するとともに、前年同月を相当程度上回る状況となった。このため、欧州の軽油価格に下方圧力が加わるとともに、価格が相対的に割高であるアジアに向け中東やインド等から軽油が輸出された結果、シンガポールにおける中間留分在庫水準が上向いたものと見られる。そしてこのように、欧州において軽油在庫が増加傾向となるとともに、シンガポール等アジアに向け軽油が流入してくるとの見方が市場で増大したことに加え、経済が軟調に推移する韓国で軽油需要が抑制されていること、1月下旬に欧州で気温が上昇する場面が見られたことにより、同地域での暖房向けの軽油需要が抑制されるとともに軽油需給の緩和感が発生したことがアジア市場にも影響したこと等が、1月下旬のアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)を縮小させる方向で作用した。しかしながら、その後は原油価格の下落に軽油価格の下落が追い付かない格好となったことから、2月上旬においては、価格差は拡大傾向を示した。ただ、その後2月中旬においては、シンガポールにおける中間留分在庫がさらに増加したことが、アジア市場における軽油価格を抑制する格好となったこともあり、両者の価格差は比較的限られた範囲で推移している。
1月15日には2,000万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、1月22日には2,100万バレル強程度の量へと増加した。また、1月29日に1,800万バレル台前半程度と減少したものの、2月5日には1,900万バレル台前半程度、2月12日には2,000万バレル強程度の、それぞれ水準へと回復した。それでも、2月12日の在庫水準は1月15日を若干ながらではあるが下回っている。1月に入り中国政府が輸入重油に対する関税をそれまでの1%から3%へと引き上げたことにより、中国からの重油需要が減退したものと見られる他、船舶向け重油需要が減速気味に推移しているとされる(1月20日に米国でトランプ政権が発足するとともに関税の大幅な引き上げの可能性が迫り始めたことにより中国等が自国産製品等の米国への輸出に関し警戒を強め始めたことが船舶向け重油需要を抑制した一因となっているものと見られる)ことが、シンガポールでの重油在庫を押し上げる形で作用した反面、従来シンガポールに重油を輸出していた大西洋圏ではかえって11月下旬から12月中旬頃にかけ重油在庫が落ち込むとともに、欧州等における重油価格が上振れしたことから、重油が欧州にとどまるとともにアジア方面への供給が鈍化したことが、シンガポールにおける重油在庫を押し下げる格好となったものと考えられる。このようなこともあり、シンガポールにおける重油在庫が比較的安定していた1月下旬半ば頃にかけての高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合従来高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っていた)及び低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油がドバイ原油を上回っている)は比較的限られた範囲内で変動した。しかしながら、その後2月上旬から中旬頃にかけては、原油価格の下落に重油価格の下落が追い付かなかった場面が見られたことに加え、1月10日に米国のバイデン政権(当時)が発動した対ロシア制裁(ロシア大手石油会社ガスプロム・ネフチ及びスルグトネフチガス(2024年1~10月の両社の海上経由の石油輸出は日量約97万バレルと、ロシアの海上経由石油輸出全体の約30%を占めるとされた)及びその関係会社、インゴスストラフ(Ingosstrakh)を含む同国保険会社、及び石油タンカー183隻(従来は135隻)等に対し制裁を発動する旨1月10日に米国財務省及び国務省が発表した)こともあり、ロシアで製造された高硫黄重油がシンガポールを含むアジア市場に供給されにくくなったことや、2月4日には原油輸出を完全に停止されることにより核兵器保有を防止することを目的として、イランに最大限の圧力を加える政策を実施することを内容とする大統領覚書に米国のトランプ大統領が署名したことにより、重質高硫黄が中心であるイランからの原油の供給が減少するとの観測が市場で発生するとともに、特に高硫黄重油価格に上方圧力が加わる格好となったことから、同時期高硫黄重油とドバイ原油との価格差は縮小傾向を示した結果、高硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回る場面が見られるようになった。しかしながら、空調稼働のための電力供給向けの発電部門における需要が季節的に低迷している中東諸国や、製油所の改質装置において不具合が発生しているとされるナイジェリア等から低硫黄重油がアジア市場に流入している反面、中国における低硫黄重油輸入が抑制されている(需要が不振であるうえ、国内製油所で製造される低硫黄重油によりある程度需要が賄われていることが背景にあると見る向きもある)ことにより、低硫黄重油とドバイ原油との価格差は若干ではあるが縮小する傾向を示している。
2. 2025年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場等の状況
2025年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場においては、1月20日に米国大統領に就任したトランプ氏が、同国の石油生産促進支援の方針を示した他、中国からの輸入製品に対する関税賦課の方針を1月21日に表明したうえ、2月3日には実際に中国に対する関税賦課を決定したこと、サウジアラビアを含むOPEC産油国に対し原油価格の引き下げを要求する旨1月23日にトランプ氏が表明したこと、中国経済が減速しつつある旨同国経済指標が示唆している旨判明したこと、米国原油及びガソリン在庫が増加している旨明らかになったこと、1月28~29日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において政策金利引き下げが見送られたこと、及びウクライナとの戦争状態を終結させるための協議をロシアとの間で開始した旨2月12日にトランプ氏が発表したこと等の要因が、原油相場に下方圧力を加えた結果、1月17日には1バレル当たり77.88ドルの終値であった原油価格は2月14日には同70.74ドルの終値となるなど下落傾向となった他、2月6日には同70.61ドルと2024年12月27日以来の低水準の終値に到達する場面も見られた(図15参照)。
1月20日は、米国キング牧師誕生記念日(Martin Luther King Day)に伴う休日のため、米国原油先物契約の終値は計上されなかったが、この日発足した米国のトランプ政権から同国の石油生産促進支援の方針が示されたことによりこの先の石油需給緩和感を市場が意識した一方、同政権が2月1日よりカナダ及びメキシコに対し最高25%の関税を賦課する方向で検討している旨1月20日に報じられたことにより、貿易戦争誘発に伴う世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が発生したことから、1月21日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.99ドル下落し、終値は75.89ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2025年2月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、3月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は75.83ドル(前週末終値比同1.56ドルの下落)であった)。また、恐らく2月1日に中国からの輸入製品に対し10%の関税賦課を実施することを検討している他、欧州連合(EU)に対しても関税を賦課する意向である旨1月21日に米国のトランプ大統領が明らかにしたと同日夜(米国東部時間)以降報じられたことにより、世界経済が減速し石油需要の伸びの鈍化が鈍化するとの懸念が1月22日の市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.44ドルと前日終値比で0.45ドル下落した。さらに、サウジアラビアを含むOPEC産油国に対し原油価格の引き下げを要求する意向である旨1月23日に米国のトランプ大統領が表明したことにより、この先のOPECプラス産油国の増産に伴う石油需給緩和感が市場で醸成されたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.82ドル下落し、終値は74.62ドルとなった。この結果原油価格は1月16~23日の5取引日合計で1バレル当たり5.42ドル下落した。1月24日は、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことが原油相場に上方圧力を加えた反面、この日米国のトランプ大統領がOPEC産油国に対し、原油価格を引き下げるべきである旨改めて要求したことに加え、ウクライナとの紛争及び原油価格等につきトランプ大統領と協議する用意がある旨1月24日にロシアのプーチン大統領が表明したことにより、ウクライナとロシアとの戦争が終結することに伴い西側諸国等による対ロシア制裁が解除されるとともにロシアからの石油供給が拡大する結果世界石油需給が緩和するとの期待が市場で増大したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.66ドルと前日終値比で0.04ドルの上昇にとどまった。
また、米国に不法入国したコロンビア移民の送還のため移民を搭乗させた米国の軍用機の着陸をコロンビアが許可しなかったとして、全てのコロンビア産品に対し25%の関税を賦課する(1週間後には税率を50%に引き上げる意向であるとした)他、コロンビアに対し金融面での制裁を科す旨1月26日に米国のトランプ大統領が発表した一方、コロンビアが米国産品に対し25%の報復関税を賦課する旨指示したと1月26日に報じられた(その後、コロンビアが送還移民受入で合意したことにより、対コロンビア関税賦課は保留にする旨1月26日夜(米国東部時間)に米国のレビット大統領報道官が発表した)ことにより、米国等による関税賦課を含む貿易戦争が広がるとともに、世界経済が減速することに伴い石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が市場で増大したことに加え、1月27日に中国国家統計局から発表された1月の同国製造業購買担当者指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.1と2024年8月(この時は49.1)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(50.1)を下回ったうえ、同国非製造業PMIが50.2と12月の52.2から低下した他市場の事前予想(52.2)を下回ったことにより、同国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、1月10日に利用が開始された中国人工知能(AI)無料アプリケーション「ディープシーク」がアップルの米国アプリケーション市場において無料アプリケーションランキングの首位を獲得した旨1月27日に報じられたことにより、同業他社の株価が大幅に下落したこともあり、米国の一部株式相場が下落したことから、1月27日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.49ドル下落し、終値は73.17ドルとなった。ただ、1月28日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、当初予定通り2月1日にカナダ及びメキシコ等からの輸入製品に対し関税を賦課する予定である旨1月28日に米国トランプ政権が発表したことにより、両国からの輸入原油価格の上昇、もしくは原油輸入の減少等に伴う米国石油需給引き締まりの可能性に対する懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.77ドルと前日終値比で0.60ドル上昇した。それでも、1月29日には、この日EIAから発表された米国石油統計(1月24日の週分)において、原油在庫が前週比346万バレル、ガソリン在庫が同296万バレルの、それぞれ増加と市場の事前予想(原油在庫同320万バレル程度、ガソリン在庫同130万バレル程度の、それぞれ増加)を上回って増加している旨判明したことに加え、1月28~29日に開催されていた米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、4会合ぶりに政策金利引き下げが見送られるとともに、1月29日に発表された同会合における声明において、同国物価上昇率が沈静化に向かいつつある旨の表現が削除されていたことにより、米国金融当局による同国物価沈静化に伴う政策金利引き下げ姿勢が後退している旨示唆されたこともあり、米国経済減速懸念が市場で増大するとともに同国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.15ドル下落し、終値は72.62ドルとなった。1月30日は、2月1日に予想される米国トランプ政権によるカナダ及びメキシコに対する関税賦課の可能性を巡り持ち高調整が発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.73ドルと前日終値比で0.11ドル上昇した。ただ、1月31日には、米国のトランプ大統領が、2月1日に実施する予定であったカナダとメキシコに対する25%の関税賦課を3月1日に延期したうえで、一部製品については適用を除外する可能性がある旨この日ロイター通信が報じたことにより、カナダ及びメキシコ産原油が米国の関税賦課対象となることにより、米国に輸入される両国産原油の価格上昇、もしくは輸入量の削減に伴う、米国における原油及び石油製品価格の上昇懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.20ドル下落し、終値は72.53ドルとなった。
しかしながら、2月4日午前0時1分(米国東部時間)を以てカナダ及びメキシコに25%(石油を含むエネルギーについてはカナダが10%、メキシコが25%)、中国に10%の、それぞれ関税を賦課することを主な内容とする大統領令に米国のトランプ大統領が2月1日に署名したことから、米国が輸入するカナダ及びメキシコ産原油価格の上昇もしくは供給減少に伴う、米国石油需給引き締まり観測が市場で増大した(ただ、その後米国の対カナダ及びメキシコ関税賦課を1ヶ月間延期する旨2月3日にトランプ大統領が表明した)ことから、2月3日の原油価格の終値は1バレル当たり73.16ドルと前週末終値比で当たり0.63ドル上昇した。ただ、中国から輸入される製品に対し関税を賦課する措置を米国が発動したことを受け、2月10日より米国産石炭及び液化天然ガス(LNG)に対し15%、原油、農機具及び一部の自動車に対し10%の、それぞれ関税を賦課する旨2月4日に中国財政省が発表した他、一部の重要金属類に対し輸出規制を発動する等の措置を講じる旨2月4日に中国商務省が表明したことにより、貿易戦争が誘発されることに伴い世界経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化することに対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.46ドル下落し、終値は72.70ドルとなった。また、2月5日も、この日EIAから発表された米国石油統計(1月31日の週分)において、原油在庫が前週比866万バレル、ガソリン在庫が同223万バレルの、それぞれ増加と、原油在庫は2024年2月9日時点(この時は前週比1,202万バレルの増加)以来の大幅な増加となった他、市場の事前予想(原油在庫同200万バレル程度、ガソリン在庫同50万バレル程度の、それぞれ増加)を上回って増加している旨判明したことにより、米国石油需給の緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.03ドルと前日終値比で1.67ドル下落した。さらに、内務長官バーガム(Burgum)氏とエネルギー長官ライト(Wright)氏により、米国の石油生産はかつてないほど増加する結果原油価格は下落するとともに他の者はそれに追随することになる旨2月6日に米国トランプ大統領が表明したことにより、この先の世界石油需給緩和に伴う原油価格の先安感が市場で意識されたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.42ドル下落し、終値は70.61ドルとなった。この結果原油価格は2月4~6日の3日間合計で1バレル当たり2.55ドル下落した他、2月6日の原油価格の終値は2024年12月27日(この日の終値は70.60ドル)以来の低水準に到達した。ただ、2月7日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.39ドル上昇し、終値は71.00ドルとなった。
2月10日も、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが継続したことに加え、1月のロシア原油生産量が日量896万バレルと原油生産目標(自主的なものを含め日量898万バレル)を下回っている旨2月10日に報じられたことにより、OPECプラス産油国の減産遵守改善に伴う石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、欧州等での天然ガス価格上昇により代替燃料としての石油需要増加観測が市場で発生したこと、パレスチナ自治区ガザ地区における停戦合意に違反しているとして、イスラム武装勢力ハマスが2月15日に実施予定であった拘束中の人質解放を無期限で延期する旨2月10日に明らかにした一方、ハマスが停戦合意に違反したとしてガザ地区に対するイスラエル軍の警戒態勢を強める旨同軍が2月10日に発表したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.32ドルと前週末終値比で1.32ドル上昇した。さらに、2月15日正午(現地時間を差しているものと見られる)までにハマスが拘束する人質全員を解放しなければ、1月19日より実施されているイスラエルとハマスとの停戦合意は破棄されるべきである旨トランプ大統領が明らかにしたと2月10日夜(米国東部時間)に報じられた他、2月11日にはイスラエルのネタニヤフ首相も、2月15日正午までにハマスが拘束する人質を解放しなければ、ハマスとの停戦は終了し、イスラエルは攻撃を再開する旨警告した一方、イスラエルが戦闘を再開するのであれば、イスラエルへの攻撃を再開する意向である旨イエメンのフーシ派武装勢力の指導者であるフーシ氏が2月11日に明らかにしたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.00ドル上昇し、終値は73.32ドルとなった。この結果原油価格は2月7~11日の3取引日間合計で1バレル当たり2.71ドル上昇した。しかしながら、2月12日に米国労働省から発表された1月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比3.0%の上昇と2024年6月(この時は同3.0%の上昇)以来の大幅上昇となった他、市場の事前予想(同2.9%の上昇)を上回るとともに、この日開催された米国連邦議会下院金融サービス委員会開催の公聴会において、同国FRBのパウエル議長が政策金利引き下げを急がない姿勢を示したことにより、同国の政策金利引き下げによる経済活性化期待が市場で後退したこともあり、米国株式相場が下落したことに加え、ウクライナとの戦争状態を終結させるための協議をロシアとの間で開始した旨2月12日に米国のトランプ大統領が発表したことにより、西側諸国等による対ロシア制裁緩和に伴うロシアからの石油供給拡大期待が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.95ドル下落し、終値は71.37ドルとなった。また、2月13日の市場においても、ウクライナとの戦争状態を終結させるための協議をロシアとの間で開始した旨2月12日に米国のトランプ大統領が発表したことにより、西側諸国等による対ロシア制裁緩和に伴うロシアからの石油供給拡大期待が市場で発生した流れが引き継がれたことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、2月13日に米国のトランプ大統領が相互関税賦課の方針を明らかにしたものの4月1日に完了する予定である調査の結果を待って個別に対応する方針である旨併せて表明したことにより、直ちに関税が賦課されることに伴う貿易戦争の誘発と世界経済減速、及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で後退したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.29ドルと前日終値比で0.08ドルの下落にとどまった。それでも、ウクライナとの戦争状態を終結させるための協議をロシアとの間で開始した旨2月12日に米国のトランプ大統領が発表したことにより、西側諸国等による対ロシア制裁緩和に伴うロシアからの石油供給拡大期待が市場で発生した流れは2月14日の市場にも引き継がれたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.55ドル下落し、終値は70.74ドルとなった。
3. 原油市場における主な注目点等
原油市場に影響を与えうる地政学的リスク面での要因としては、中東及びウクライナ・ロシア情勢が挙げられよう。まず、中東であるが、1月19日午前11時15分(現地時間)に、パレスチナ自治区ガザ地区を巡るイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での6週間の停戦(第1段階)が発効、1月19日にハマスの拘束する人質3人、1月20日未明(同)イスラエルが拘束するパレスチナ人90人が、それぞれ解放された他、その後ハマスの拘束する人質とイスラエルが拘束するパレスチナ人が解放され続けた。また、これに伴いイエメンのフーシ派武装勢力は、今後はイスラエルと関係のある船舶に攻撃を限定する意向である旨1月20日に伝えられた(それでも大手海運会社や石油会社は紅海を経由した石油タンカー等の航行に関しては慎重な姿勢を示唆している)。ただ、2月4日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領がガザ地区に在住していたパレスチナ人を域外に移住させたうえで、米国が同地区を管理し再建するとの提案を行なったことに対し、イスラエルは歓迎したものの、ハマスに加えトルコ、サウジアラビア、フランス等他の関係者の間では反発する動きが見られた。そのような中、ガザ地区の第2段階の停戦を巡るイスラエルとハマスとの間での協議(第1段階の停戦期間の16日目(2月3日に当たる)までに交渉を開始、残りの人質の解放及び恒久的な停戦、及びイスラエルのガザ地区の完全撤退が想定される交渉内容とされた)は、当初2月8日に開始される予定であったが延期される旨2日8日に報じられた。また、ガザ地区における停戦合意に違反しているとして、ハマスが2月15日に実施予定であった人質解放を無期限で延期する旨2月10日に明らかにしたことに対し、ハマスが停戦合意に違反したとしてイスラエルが反発、カザ地区に対するイスラエル軍の警戒態勢を強める旨同軍が2月10日に発表した。そして、2月15日正午(どの地点の時間であるかは明らかになっていない)までにハマスが拘束する人質全員を解放しなければ、1月19日より実施されているイスラエルとハマスとの停戦合意は破棄されるべきである旨米国のトランプ大統領が明らかにしたと2月10日夜(米国東部時間)に報じられた他、2月11日にはイスラエルのネタニヤフ首相も、2月15日正午までにハマスが拘束する人質を解放しなければ、ハマスとの停戦は終了し、イスラエルは攻撃を再開する旨警告した。一方、イスラエルが戦闘を再開するのであれば、イスラエルへの攻撃を再開する用意がある旨イエメンのフーシ派武装勢力の指導者であるフーシ氏が2月11日に明らかにした他、米国及びイスラエルがガザ地区に居住するパレスチナ人を強制的に移住させるのであれば、ミサイルや無人機を用いて紅海における船舶を含め攻撃を即時に開始する用意がある旨2月13日にフーシ氏が表明した。ただ、延期するとされていた人質3人の解放を当初予定通り2月15日に実施する旨2月13日にハマスは発表、実際に2月15日にハマスは人質3人を解放(イスラエルも拘束していたパレスチナ人369人を釈放)し、これに伴いガザ地区における停戦は6週間延長される方向となりつつある旨2月15日に伝えられる。
他方、2024年11月27午前4時(現地時間)に発効した60日間のイスラエルとイスラム武装勢力ヒズボラとの間の停戦期限(1月26日午前4時(同)とされ、この期限までにイスラエルはレバノン南部から撤退する取り決めとなっていた)については2月18日まで延長する旨イスラエルとレバノンが合意したと1月26日に米国政府が発表したものの、1月27日にヒズボラの最高指導者カセム(Qassem)師は停戦(とイスラエル軍の駐留)の延長に反対する旨主張した(さらに2月28日まで軍を駐留させたい旨イスラエルは希望したものの、レバノンは2月18日までに同軍を撤退するよう要求している)一方、ヒズボラがレバノン南部に武器を搬入しようとするなどの停戦違反行為を行なっているとして、1月28日にイスラエル軍がレバノン南部を空爆した結果、24人が負傷した旨1月28日にレバノン保健省が発表した。
また、原油輸出を完全に停止させることにより核兵器保有を防止することを目的として、イランに最大限の圧力を加える政策を実施することを内容とする大統領覚書に米国のトランプ大統領が署名する意向である旨2月4日にロイター通信が報じた他、その後同日中にトランプ大統領は覚書に署名した旨伝えられた。ただ、イランが核兵器を保有することなく繁栄するための協定を締結するべく努力する意向である旨2月5日に米国のトランプ大統領は表明している。しかしながら、イラン産原油の中国への輸送に関与しているとされる、中国、インド及びUAEの事業体及び個人に対し制裁を科する旨2月6日に米国財務省が声明を発表した。他方、2025年中にイランの核関連施設を大規模に攻撃することをイスラエルが検討している旨2月12日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。さらに、現在日量150~160万バレルとされるイランからの原油輸出を同10万バレルにまで削減するとともに、同国に対し最大限の圧力を加えたい旨米国のベッセント財務長官が2月14日朝(米国東部時間)に明らかにした。
このように、パレスチナ自治区ガザ地区、レバノン南部、及びイランを巡る情勢は、現時点では相当程度の世界石油需給引き締まり感を市場で誘発するには至っていないものの、複数の情勢不安定化を招く可能性のある要素を内包しており、いつそのようなリスクが顕在化するとともに、世界石油需給バランス引き締まり懸念が市場で発生することに伴い、原油相場に上方圧力を加えないとも限らないので、今後も中東を巡る動向については注視しておく必要があろう。
1月20日にトランプ氏が米国大統領に就任して以降も、ウクライナとロシアとの戦争状態は継続している。そして、1月22日には、米国のトランプ大統領が、ロシアがウクライナとの間での交渉を拒否するのであれば、ロシアに対し高水準の関税賦課等を含む制裁を科せざるをえなくなる旨表明した。これに対し、ウクライナとの紛争及び原油価格等につき米国のトランプ大統領と協議する用意がある旨1月24日にロシアのプーチン大統領が明らかにした。そのような中、ロシア南西部(モスクワの南東部)のリャザン(Ryazan)州において、無人機を使用した攻撃が行なわれた結果複数の製油所で火災が発生した旨1月24日にウクライナが発表したが、この結果少なくともリャザン製油所(操業者:ロフネフチ、原油精製処理能力日量34.5万バレルだが2024年の原油精製処理量は同26.2万バレルとされる)が操業を停止した旨1月26日に報じられる(攻撃は1月24日及び26日に実施されたものである旨1月29日にブルームバーグ通信が報じている)。加えて、ロシア西部のニジニ・ノヴゴロド(Nizhny Novgorod)州にあるノルシ(Norsi)製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理量:日量34万バレル)をウクライナ軍が無人機で攻撃した結果火災が発生した旨1月29日に伝えられた他、ロシア石油化学大手シブル(Sibur)が、ウクライナの無人機攻撃によりニジニ・ノヴゴロド州にある石油化学製造施設の操業を一時停止した旨1月29日に発表した。また、ロシアのウスチ・ルーガ港に原油を輸送するバルト海パイプライン2(2024年に日量65万バレルの原油を出荷したとされる)のアンドレアポリ(Andreapol)(同国西部トヴェリ(Tver)州)にある原油圧送基地を無人機で攻撃した旨ウクライナが主張したと1月29日にブルームバーグ通信が報じた他、当該攻撃により、同港湾からの原油出荷が停止したものと見られる旨1月30日にブルームバーグ通信が伝えた。さらに、2月3日にウクライナ軍がロシアに向け無人機を発射、迎撃された残骸が落下した結果、ロシア南西部のヴォルゴグラード(Volgograd)州にあるヴォルゴグラード製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理能力日量30万バレル)及びニジニ・ノヴゴロド州におけるアストラハン(Astrahan)近郊にある天然ガス処理施設(操業者:ガスプロム、2023年にはガソリン703,000トン(日量1.6万バレル)、軽油492,000トン(同1.0万バレル)、重油299,000トン(同0.5万バレル)を生産したとされる)において火災が発生した(このうちヴォルゴグラード製油所は操業を部分的に再開した旨2月12日に伝えられるものの、再び無人機により攻撃された(ウクライナが発射したものかどうかは特定されていない)旨2月15日に報じられた)。そして、2月4日夜から2月5日未明(現地時間)には、ロシア南西部のクラスノダール(Krasnodar)地方においてウクライナが発射した無人機による攻撃があり、石油貯蔵施設で火災が発生した。2月11日未明(現地時間)には、ロシア南西部サラトフ(Saratov)州にあるサラトフ製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量14万バレル)が無人機により攻撃された旨結果、安全上の理由から操業を停止した旨2月11日に報じられた。そのような中、ウクライナとの戦争状態を終結させるための協議をロシアとの間で開始した旨2月12日に米国のトランプ大統領が発表した。
このように、ウクライナとロシアとの間での戦闘が継続する中、ウクライナによるロシア国内の複数の製油所を含む石油供給関連インフラが攻撃され、一部は操業を停止している旨明らかになっている。今後もそのような攻撃が継続する可能性があることに加え、1月10日に米国財務省及び国務省が発表した、ロシア大手石油会社ガスプロム・ネフチ及びスルグトネフチガス(及びその関係会社)、インゴスストラフ(Ingosstrakh)を含む同国保険会社、石油タンカー183隻(従来は135隻)等に対する制裁発動により、同国産原油等を大量に受け入れていた中国及びインドが代替の供給源を巡り混乱を来たす場面が見られており、ロシアからの石油供給面での支障に伴う石油需給引き締まり懸念の増大が、一時的にせよ原油相場に上方圧力を加える可能性がある(ただ、米国により制裁を受けたタンカーは中国の港湾で石油を陸揚げした旨1月31日に報じられた一方、制裁対象となっているロシア産原油を2月27日まではインドの港湾で陸揚げすることを許可された旨1月24日に伝えられることに加え、制裁発動に伴い代替で調達するはずの原油の価格が上昇したことに伴い、中国の中堅及び中小製油所等の採算性が悪化しつつあることを理由として、当該製油所が稼働を低下させるとともに原油の調達を敬遠させつつある旨2月7日に伝えられており、この結果、一時は拡大していた、中国やインドにとってロシア産原油の代替となる予定の欧州産及び中東産原油価格と米国産原油との価格差は1月下旬後半頃以降縮小する傾向を示す兆候が見られるなど、原油相場への上方圧力は必ずしも持続するとは限らない可能性があることに注意する必要があろう)。
また、2月12日に米国トランプ大統領が表明した、ウクライナとロシアの戦争状態停止に向けた協議の実施については、ウクライナは従前からの自国の領土の確保を要求する一方、ロシアはこれまで占領した領土の相当部分を放棄することに難色を示す他、欧州は自らの地域の安全保障確保の観点等から、停戦等の協議への積極的な参加を希望しているとされるなど、関係者及びその主張が多岐に渡ることもあり、交渉等は紆余曲折を経るものと見られることから、短期間で戦闘状態停止に向けた協議が進展するとは考えにくく、その結果、西側諸国等の対ロシア制裁が継続するとともに、ウクライナは停戦等に向けた交渉を有利に行なうため、ロシア国内における製油所を含む石油関連インフラ等への攻撃を継続すること等を通じ、世界石油需給引き締まり感が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性もある。
リビアの原油生産量は日量142万バレルを超過するなど高水準(2024年の同国原油生産量は日量109万バレルであった)に到達した旨1月31日に同国国営石油会社NOCが明らかにしたが、同国石油事業会社の一部を産油地帯に移転させるとともに居住環境改善のための公正な発展を要求するとして住民が抗議活動を実施したことにより、リビア中部のエス・シデル(原油出荷能力日量34万バレル)及びラス・ラヌフ(同11万バレル)の操業が1月27日に防止された旨1月28日に報じられた(ただ、1月28日に行なわれた協議後、操業は正常に行なわれている旨NOCが明らかにしたと1月28日に伝えられる)。このように、リビアの原油生産は足元高水準であるものの不安定な状況を示唆する場面が見られ続けており、世界石油需給バランスに影響を与える恐れも残っているため、今後の同国を巡る動向についても注意し続ける必要があろう。
1月28~29日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、4会合ぶりに政策金利引き下げが見送られるとともに、1月29日に発表された同会合における声明では、同国物価上昇率が沈静化に向かいつつある旨の表現が削除されていたことにより、米国金融当局による同国物価沈静化に伴う政策金利引き下げ姿勢が後退している旨示唆された(しかしながら、FOMC開催後に実施された記者会見において、米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、米国物価上昇沈静化が進捗しつつあるとの表現を削除したことにつき、これは文章を短くするためのものであり、市場に対し物価上昇沈静化が停滞していることを発信することを意図しているわけではない旨弁明した)。他方、さらなる政策金利引き下げを実施するためには、さらなる物価上昇の沈静化が必要である旨FRBのボウマン理事が認識している旨1月31日に報じられた。また、1月31日に発表された米国個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)価格指数の伸びが鈍化していた(商務省が発表した12月のPCEコア価格指数(価格変動の大きい食料品及びエネルギーを除く)は前年同月比2.8%の上昇と市場の事前予想(同2.8%の上昇)と一致、11月の伸びと同水準であった)ことに対し、米国の物価上昇が沈静化しつつあることを示しており、今後1年~1年半において政策金利はさらに低下しているものと予想されるものの、米国の関税賦課の影響を注視する必要があろう旨1月31日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が発言した。さらに、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の同国の物価への影響は現時点では不透明であるとして、金融当局としては慎重に対処すべきである旨の認識を2月3日に米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が示した。加えて、米国のトランプ大統領による関税賦課政策等の影響を巡る不透明感が強まっているとして、政策金利のさらなる引き下げについては当面様子見とすべきである旨2月3日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が発言した。そして、米国のトランプ政権による関税賦課政策を巡り不透明感が増大していることから、政策金利の引き下げについては慎重に取り扱う必要がある旨米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が発言した旨2月3日夕方(米国東部時間)に伝えられた。2月4日には、米国の経済状態が良好であることを理由として、同国のトランプ政権の実施する政策への対応は慎重に行なうべきである旨の認識を米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示した。また、米国等による関税賦課は同国の物価上昇に影響を与えるものと見られることから、金融当局による政策金利引き下げ検討の際に米国等による関税の賦課の影響を考慮することが重要である旨2月5日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が表明した。さらに、物価を含む同国経済に対する米国等による関税賦課の影響を見極めることが必要である旨2月5日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにした。加えて、雇用を含め経済が堅調であるため、今後1年から1年半の間に政策金利引き下げが複数回実施される可能性があるものと認識しているものの、財政政策が不透明であるため、慎重に対処する必要がある旨2月6日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が発言した。そして、現時点では米国の雇用状況は良好であることから、物価上昇が年率2%上昇の目標に向けて沈静化しても、政策金利を引き下げる余地は余りない可能性がある旨の見解を2月6日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が示した。他方、米国のトランプ政権が関税政策を実行した場合には、米国のPCE価格指数は最大0.8%上昇する可能性がある旨2月6日に米国ボストン連邦準備銀行が発表した他、米国の雇用状況は堅調であり続けており、2025年の政策金利引き下げは小幅なものとなるものと予想しているが、関税、移民及び税制等の問題に関する情報が入手できるまで様子を見る意向である旨2月7日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が示唆した。また、米国物価上昇は沈静化しつつあるものの、足元ではその進展がもたつき気味となっている他、先行き不透明であることにより、今後米国の政策や経済指標類等を考慮に入れながら政策金利に関し慎重に判断していきたい旨の考えを2月7日にFRBのクーグラー理事が示した。さらに、米国の物価上昇率は目標を上回ったままとなっている一方、経済は全体として堅調であることから、さらなる政策金利引き下げを急ぐ必要はないものと考えている旨2月11日に開催された米国連邦議会上院銀行委員会の公聴会においてFRBのパウエル議長が発言した。加えて、米国の物価上昇率は年率2%の目標へと低下して行くであろうが、その達成には時間を要する可能性がある他、この先の経済展望は不透明感を伴う旨の見解を米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が示した旨2月11日に報じられた。そして、米国の物価上昇沈静化までにはかなりの時間を要する他、物価上昇には上振れリスクを伴うものと予想されることから、現状の政策金利水準を維持するとともに、経済情勢を慎重に分析する必要がある旨米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が2月11日に明らかにした。また、2月12日に米国労働省から発表された1月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.0%の上昇と2024年6月(この時は同3.0%の上昇)以来の大幅上昇となった他、市場の事前予想(同2.9%の上昇)を上回った旨判明するとともに、この日開催された米国連邦議会下院金融サービス委員会の公聴会において、FRBのパウエル議長は政策金利引き下げを急がない姿勢を示した。2月12日には、次回の政策金利引き下げ実施時期は不明である旨米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした。さらに、1月のCPIの様な結果が今後も複数回発表されるようであれば、米国物価上昇沈静化に向けた努力をしていく必要があるものと考えている旨2月12日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示唆した。加えて、足元の金融政策の米国経済抑制効果に疑問が生じていることから、今後数ヶ月間米国物価上昇率が年率2%の目標に接近したとしても、必ずしも政策金利引き下げを実施することにはならない旨の見解を2月14日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が示している。
このように、米国金融当局関係者の多くは、同国のトランプ政権による関税賦課を含む政策を巡る不透明感が強いこと等から、この先の政策金利引き下げには慎重に対処する必要がある旨示唆しており、この面では政策金利引き下げによる米国株式相場上昇及び米ドルの下落を通じた原油相場への上方圧力は加わりにくいものと考えられる。
他方、1月20日のトランプ氏の米国大統領就任直後においては、カナダに対するものを含め即時の関税賦課は見送られる格好となったものの、その後同政権が2月1日よりカナダ及びメキシコに対し最高25%の関税を賦課する方向で検討している旨1月20日に報じられた。また、恐らく2月1日に中国からの輸入製品に対し10%の関税賦課を実施することを検討している他、欧州連合(EU)に対しても関税を賦課する意向である旨1月21日に米国のトランプ大統領が明らかにした旨同日夜(米国東部時間)以降報じられた。さらに、米国に不法入国したコロンビア移民の送還のために移民を搭乗させた米国軍用機の着陸をコロンビアが許可しなかったとして、全てのコロンビア産製品に対し25%の関税を賦課する(1週間後には税率を50%に引き上げる意向とした)他、コロンビアに対し金融面での制裁を科す旨1月26日に米国のトランプ大統領が発表した一方、コロンビアは米国製品に対し25%の報復関税を賦課する旨指示したと1月26日に報じられた。ただ、コロンビアが移民受入で合意したことにより、対コロンビア関税賦課は保留とする旨1月26日夜(米国東部時間)に米国のレビット大統領報道官が発表した。そして、2月4日午前0時1分(米国東部時間)を以てカナダ及びメキシコに25%(石油を含むエネルギーについてはカナダが10%、メキシコが25%)、中国に10%の、それぞれ関税を賦課する大統領令に2月1日に米国のトランプ大統領が署名、カナダ、メキシコ及び中国はこの決定に反発した。ただ、2月3日にはトランプ大統領はカナダ及びメキシコ首脳と協議のうえ、両国への関税の賦課を30日間延期することにした旨同日報じられた。しかしながら、2月4日午前0時1分(米国東部時間)を以て米国が中国から輸入する製品に対し10%の関税を賦課する措置を発動したことに対し、2月10日より米国産石炭及び液化天然ガス(LNG)に対し15%、原油、農機具及び一部の自動車に対し10%の関税を賦課する旨2月4日に中国財政省が表明した他、一部の重要金属類に対し輸出規制を発動する等の措置を2月4日に中国商務省が発表するなど、対抗措置を実施する旨中国当局が表明した。さらに、2月10日の週に米国が相互関税導入計画につき発表する意向である旨2月7日に同国のトランプ大統領が発表したうえ、2月10日に米国が全世界から輸入する鉄鋼及びアルミニウムに対し25%の関税を賦課する旨発表する方針である他、相互関税につき2月11~12日に発表する旨2月9日に米国のトランプ大統領が明らかにした。2月13日には、米国のトランプ大統領が相互関税賦課方針を明らかにしたものの、4月1日に完了する予定である調査の結果を待って個別に対応する方針である旨併せて表明したものの、米国が輸入する自動車への新たな関税賦課を4月2日頃に実施する意向である旨米国のトランプ大統領が明らかにしたと2月14日午後遅く(米国東部時間)に報じられた。
このように、米国の関税賦課は、一部は延期されたものの完全に撤回されたわけではなく、中国に対しては実際に賦課された他、中国は対抗措置を講じているなどしていることにより、30日間延期された対カナダ及びメキシコ関税の取り扱いを含め、今後米国の関税賦課により貿易戦争が誘発されることに伴い世界経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化することに対する懸念が増大する結果、原油相場に圧力が加わる可能性があるものと考えられる(なお、米国が相当量を輸入する、カナダやメキシコ等で産出される原油等エネルギー製品に関税が賦課された場合、米国の需要家は代替のエネルギー供給源に対する購買活動を活発化させることから、一時的にせよ原油相場等は上昇する場面が見られる可能性があるが、それがかえって世界各国及び地域における物価上昇を招く結果、経済が減速するとともに石油需要の伸びの鈍化懸念が発生することを通じ、やがては原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと思われる)。また、既にトランプ大統領が賦課検討を表明している相互関税とは別に関税賦課等世界経済混乱懸念を市場で醸成させる方策の実施意向をトランプ氏が明らかにすると言った展開も想定されるため、この面でも、原油相場が変動する場面が見られることもありうる。
2024年7月を中心とする時期以降の中国経済減速を示唆する経済指標類の発表を受け、一連の景気刺激策が同国政府等から発表されてきているが、2025年1月27日に中国国家統計局から発表された1月の同国製造業購買担当者指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.1と2024年8月(この時は49.1)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(50.1)を下回ったうえ、同国非製造業PMIは50.2と12月の52.2から上昇した他市場の事前予想(52.2)を下回った。また、2月3日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された1月の同国製造業PMIは50.1と2024年9月(この時は49.3)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(50.5~50.6)を下回ったうえ、2月5日に財新伝媒から発表された1月の同国サービス業PMIは51.0と12月の52.2から低下、2024年9月(この時は50.3)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(52.4)を下回った。さらに、2月9日に中国国家統計局から発表された1月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.5%の上昇と12月の同0.1%の上昇から伸びが拡大した他市場の事前予想(同0.4%の上昇)を上回って上昇したものの、同国の春節(旧正月)(1月29日)に伴う休暇期間(1月28日~2月4日)前に駆け込みで物品購入が発生したことを反映していることから一時的なものであるとの見方が示された一方、同国生産者物価指数(PPI)は同2.3%の下落と12月の同2.3%の下落から下落幅が横這いとなった他市場の事前予想(同2.2%の減少)を上回って下落している旨判明したうえ、28ヶ月連続前年同月比で下落となった。他方、中国国民の支出を増加させるべく、所得拡大を促進するとの方針が同国閣議で示された旨2月11日に伝えられる。そのような中、2月14日に中国人民銀行から発表された1月の新規人民元建融資額は5.13兆元(7,064億ドル)と市場の事前予想(4.5兆元)を上回り史上最高水準に到達したものの、これは季節的な要因によるものであるとの認識が市場関係者間で示されるとともに、同国経済回復の兆候を示しているかどうかについては慎重な見方も見られた。
このように、最近発表されている同国経済指標類は、少なくとも同国経済が持続的に回復しつつあるわけではないことを示唆しており、この面では原油相場を上向かせ続けるには力不足であることを示している。もっとも、3月5日には同国で全国人民代表大会(全人代)が開催され、2025年の経済成長目標や具体的な景気刺激策の詳細の類が明らかになる可能性があることから、それを控えて、さらなる景気刺激策等の実施に関する情報が中国当局関係者等から流れるようであれば、同国の経済浮揚期待が市場で発生する結果、原油相場が多少なりとも上振れする場面が見られることもありうる。
米国では、3月に入っても、最終消費段階では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来にはまだ早いとの認識が強いが、製油所の段階では夏場のガソリン需要期が視野に入り始めるとともにガソリン先物価格が上昇しやすくなる一方、製油所の春場のメンテナンス作業実施が峠を越えるとともに稼働を上昇、原油精製処理活動を促進するとともに原油購入を活発化するものと考えられる。このため、季節的な石油需給の引き締まり観測が市場で強まるとともに、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと思われる。他方、米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなお若干は継続する(米国の暖房シーズンは概ね11月1日~翌年3月31日である)ことから、例えば米国の暖房用石油製品需要の中心地である同国北東部の気温が平年を割り込んで低下したり、低下するとの予報が発表されたりすれば、暖房用石油製品需要の増加観測と需給引き締まり感が市場で醸成される結果、暖房油等の石油製品とともに原油の価格が上昇する場面が見られることもありうる。
OPECプラス産油国は2月3日に共同閣僚監視委員会(JMMC:Joint Ministerial Monitoring Committee)をテレビ会議形式で開催し、2024年12月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合等で決定した公式及び自主的な原油生産方針につき特段の変更は加えない旨事実上決定した(なお、OPECプラス産油国の原油生産量を推定等する際に考慮される第三者機関のデータについては、これまで採用してきた機関のうち、2月1日よりEIAとライスタッド・エナジー(Rystad Energy)に代え、新たにケプラー(Kpler)、オイルX(OilX)及びエサイ(ESAI)を採用することとした)。また、次回のJMMCを4月5日に開催することとした。ただ、特に現在4月に開始する予定となっている一部OPECプラス産油国による日量約220万バレルの自主的な減産措置の緩和を変更する場合、4月5日に開催される次回のJMMCにおいて当該案件を協議しても、減産参加各産油国の原油生産調整に対する準備が間に合わない可能性が高いため、遅くとも3月上旬までには協議の場を設け、必要な調整を行なうものと考えられる。他方、サウジアラビアを含むOPEC産油国に対し原油価格の引き下げを要求する意向である旨1月23日に米国のトランプ大統領が表明するなど、OPECプラス産油国に対し事実上の増産圧力が米国から加わる格好となっている(米国のトランプ大統領は、関税や経済対策の実施に伴う同国の物価上昇の加速と政策金利の高止まりを防止するため、OPEC産油国等に対し原油価格の引き下げを要求することで、物価上昇の抑制を図ろうとしているものと見られる)。しかしながら、米国のトランプ大統領がイランに対し最大限の圧力を加えることにより同国の石油供給量が実際に大幅に減少する事態が間近に差し迫る兆候が見られるわけではない環境下において、これまで決定した通りにOPECプラス産油国が増産を実施した場合、2025年は世界石油供給が需要をそれなりに上回るとの観測が市場で広がる結果、1月15日に1バレル当たり80.04ドルの局所的な高水準に到達して以降2月14日にかけ同9.30ドル下落した原油相場がさらに下落するとともにOPECプラス産油国の原油収入が毀損する恐れがある(この場合OPECプラス産油国の主要構成国の一つであるロシアの原油収入も併せて減少することとなり、ウクライナとの戦争に向けた戦費に支障を来す可能性が増大する)。併せて、OPECプラス産油国は政治的要素を排しつつ長期的視点から世界石油市場の安定を目指す旨2月11日にOPEC事務局長であるアル・ガイス(Al-Ghais)氏は表明している。このようなこともあり、米国のトランプ大統領による事実上の増産(及び原油価格引き下げ)要求にもかかわらず、OPECプラス産油国は原油生産方針につき慎重に検討を進めるとともに、4月からの自主的な減産緩和を延期するか、もしくは4月から減産の緩和を実施するにしても1ヶ月当たりの減産緩和ペースをさらに緩めることにより、2025年の世界石油需給緩和感の醸成に伴う原油相場下落を先制的かつ予防的に回避しようと試みると言った選択をする展開となることも想定されうる。
全体としては、この先米国等における夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が市場関係者の視野に入り始めることが、原油相場に上方圧力を加え始める一方、米国のトランプ大統領による関税賦課の実施と米国以外の諸国及び地域による対抗措置実施の可能性、米国のトランプ政権によるイランに対する政策、中国経済指標類と同国の景気刺激策を巡る動向、中東及びウクライナとロシアとの紛争状態等の推移、米国金融当局による政策金利を巡る動き等により、原油相場が変動するものと考えられるが、これらの要因は原油相場に上方圧力を加えるものと下方圧力を加えるものが混在しているうえ、米国のトランプ大統領の言動及び行動を巡る不透明感が強いことから、原油価格は上下に変動しつつも、持続的な上昇もしくは下落が発生しにくい展開となる可能性があるものと考えられる。
4. 世界天然ガス市場動向
米国では、2024年11月は前年同月に比べ気候が温暖であった(図16参照)反面、12月及び2025年1月は全体として前年同月に比べ相対的に寒冷であったことが暖房向けの天然ガス需要に影響を与えたことから、同国の民生部門天然ガス需要は、11月は前年同月比で減少となった反面、12~1月は増加となった(図17参照)。また、発電部門においては、11月は気候が前年同月に比べ温暖であったものの、同国天然ガス先物価格(月間平均値)が100万Btu当たり2.982ドルと前年同月(同3.056ドル)を相当程度下回っていたこともあり、かえって同部門における天然ガス需要が喚起される格好となった他、12~1月においては、気温が総じて前年同月を下回ったことにより、空調稼働用の電力供給のための天然ガス火力発電所向けの天然ガス需要が押し上げられたことにより、結果的には11~1月の天然ガス需要は前年同月を上回ることとなった。ただ、11月は米国の鉱工業生産活動が前年同月比で縮小したことが、また12~1月は同国の天然ガス価格が前年同月を上回るなど同燃料の割高感が感じられたこともあり、11~1月の同国の産業部門における天然ガス需要は若干ながら前年同月を下回る格好となった。それでも、米国天然ガス需要全体としては、民生部門(及び一部発電部門)の需要の影響を相対的に強く受けることとなった結果、11月は前年同月を下回った一方、12~1月は上回ることとなった。
一方、11~12月のメキシコ向けの天然ガス輸出は前年同月比で概ね限られた範囲で変動した(図18参照)が、1月については、寒波が南下したこともあり、メキシコの一部地域で気温が低下した結果、暖房もしくは空調稼働のための民生部門もしくは発電部門における天然ガス需要が刺激されたものと見られることもあり、同国の天然ガス需要は前年同月比で増加した(なお、同国では2025年半ばに南東ゲートウェイパイプライン(Southeast Gateway Pipeline)(トゥクスパン(Tuxpan)~コアッツァコアルコス(Coatzacoalcos)及びドス・ボカス(Dos Bocas)、操業者:TCエナジー、天然ガス輸送能力日量13億立方フィート)が操業を開始するとともに、2022年以降稼働を部分的に開始しつつある、同国のトゥラ-ビラ・デ・レイエス(Mexico—Tula-Villa de Reyes)パイプライン、トゥクスパン-トゥラパイプライン(Tuxpan-Tula)パイプライン(ともに操業者:TCエナジー(TC Energía México)、同8.86億立方フィート)、及びエネルギア・マヤカン・クスクスタル第2段階(Cuxtal Phase II)パイプライン(操業者:エンジ-(Engie)、天然ガス輸送能力日量5.67億立方フィート)が、2024~25年に完全稼働水準に到達することもあり、2025年以降メキシコへの天然ガス輸出を含め米国からのパイプライン経由の天然ガス輸出は拡大していくものと見込まれる)。また、米国からのLNG輸出については、11月はほぼ前年同月並みであったものの、12月及び1月においては、欧州の気温が低下したことに伴い暖房向けに民生部門での天然ガス需要が喚起されたり、風力発電の稼働がしばしば低迷したことにより代替としての天然ガス火力発電所の稼働が上昇したりしたことに伴い、発電部門での天然ガス需要が堅調となったこと等もあり、前年同月比で増加となった。また天然ガス需要の中心が欧州であった反面、アジア消費国における天然ガス需要が概して低調であったことにより、LNG輸出の大半は欧州に向かうこととなった(図19参照)。
他方、2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻に伴い、2022年3月8日には1バレル当たり123.70ドルの終値と2008年8月1日(この日の終値は同125.10ドル)以来の高水準に到達した原油価格、及びロシアのウクライナ侵攻に伴う欧州を含む西側諸国等による対ロシア制裁の発動へのロシアの事実上の報復措置の実施によりロシアから欧州方面への天然ガス供給削減等と米国から欧州方面へのLNG輸出の活発化等により、米国の天然ガス需給引き締まり懸念が市場で増大するとともに、2022年8月22日には100万Btu当たり9.680ドルの終値と2008年7月23日(この日の終値は同9.788ドル)以来の高水準にまで上昇した天然ガス価格は、その後下落基調となり、原油価格は2024年9月10日の1バレル当たり65.75ドルの終値と、2021年12月1日(この日の終値は同65.57ドル)以来の低水準、天然ガス価格は2024年3月26日に100万Btu当たり1.575ドルの終値と、2020年6月26日(この日の終値は同1.495ドル)以来の低水準に、それぞれ到達したこともあり、原油及び天然ガス開発及び生産を巡る収益性が低下したことにより、掘削活動等が減速するとともに、原油生産に伴い随伴して生産されるものを含め天然ガス生産が鈍化しつつある(図20及び21参照)。
このように、米国天然ガス供給がもたつき気味となりつつある中、11月はメキシコへのパイプライン経由の天然ガス輸出、米国外へのLNG輸出、及び米国の天然ガス需要が比較的安定していたこともあり、11月1日時点では、平年(過去5年平均)を5.8%程度上回っていた同国天然ガス在庫は11月29日時点では平年を7.8%程度上回るなど、需給は多少なりとも緩和する方向に向かったものの、12月以降は米国の天然ガス需要が増加したり、パイプラインもしくはLNGによる輸出が拡大したりした結果、天然ガス在庫は平年を上回るペースで減少したことにより、2月7日時点では平年を2.8%下回るなど、需給バランスは相対的に引き締まる方向に向かった(図22参照)。それとともに、10月31日には100万Btu当たり2.707ドルの終値であった米国天然ガス先物価格は2月14日には同3.725ドルの終値へと上昇傾向となった他、1月16日には同4.258ドルの終値と2022年12月30日(この日の終値は同4.475ドル)以来の高水準に到達する場面も見られた(図23参照)。
なお、2024年の比較的低水準であった原油及び天然ガス価格の影響で、2025年も同国の天然ガス供給は比較的緩やかなペースで増加する反面、原油等に対し天然ガスは相対的に安価であることもあり同国天然ガス需要は概ね底堅く推移する一方、メキシコのパイプライン整備の進展に加え、米国においては2024年12月26日にプラクミンズ第1段階(Plaquemines Phase 1)天然ガス液化施設(ルイジアナ州、操業者:ベンチャー・グローバル(Venture Global)、天然ガス液化能力年産1,333万トン)が操業を開始した他、コーパス・クリスティ第3段階(Corpus Christi Stage 3)天然ガス液化施設(テキサス州、同1,043万トン)の第1液化施設(同149万トン)でLNGの生産が開始された旨操業者(シェニエール(Cheniere))が2024年12月30日に発表したことにより、メキシコへのパイプライン、及び欧州等へのLNGによる国外への天然ガス輸出が活発化するものと見られることもあり、米国の天然ガス在庫の平年を下回る率は拡大する傾向を示すなど、需給バランスは引き締まる方向で推移する結果、2025~26年の冬場の需要期を中心として同国天然ガス価格は上振れしやすいものと見られている。
欧州においては、LNG輸入は米国を中心としてそれなりに行なわれた(図24参照)結果、10月31日のEU諸国の天然ガス貯蔵充填率は95.17%と、EUによる充填目標(90%)を上回る状態ではあったものの、2023年同期である99.19%を下回る状態で本格的な冬場の暖房シーズンに突入した。そのような中、地域経済は低迷している(2024年の四半期別域内総生産(GDP)は前期比で0.0~0.4%の増加と2023年(同0.0~0.1%の増加)に比べれば若干は上向いているものの、新型コロナウイルス感染前の2019年(同0.0~0.7%の増加)に比べれば概して低調であった)ことにより、産業部門向けの天然ガス需要もその影響を受けたものと見られるものの、11月以降冬場の気温がしばしば平年を下回る程度にまで低下した(図25参照)ことにより、暖房向けの民生部門向け天然ガス需要が喚起された他、気温が低下したことにより空調稼働のための電力需要が堅調となったことに加え、風力発電がしばしば低迷する場面が見られた(図26参照)ことにより、代替電源として天然ガス火力発電の稼働が上昇したことに伴い、発電部門向けの天然ガス需要が旺盛となったこともあり、11~1月の欧州天然ガス需要は引き続きロシアのウクライナ侵攻以前の時点に比べれば相当程度落ち込んでいるものの、前年同月比では増加する格好となった(図27参照)。このようなことから、欧州の天然ガス在庫が減少し始めるとともに、需給バランスの引き締まり感が市場で強まったことが、欧州の天然ガス価格に上方圧力を加え始めた。加えて、従来自国のガス田で生産される天然ガスやイスラエルからパイプライン経由で輸入した天然ガスを液化して輸出していたエジプトは最近国内天然ガス生産が不振であると言われており(2024年6月の同国天然ガス生産量は2017年以来の低水準に到達したと伝えられているが、同国において石油・天然ガス開発・生産活動に従事する国外等の企業に対しエジプト政府からの事業費の支払いが滞り気味であることにより企業の同国への投資活動が鈍化していることが背景にある旨9月19日にエジプトのマドブーリー(Madbouly)首相が明らかにしている)、夏場の空調のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が盛り上がった時期のみならず、秋場(2024年9月6日にエジプトは同年第4四半期においてLNGタンカー20隻(LNG約140万トン)相当分のLNG調達のための入札を発表、9月12日に締め切られた結果、20隻分全て落札された旨9月13日に報じられた)や冬場(この時期エジプトは天然ガスの不需要期であるとされるが、2025年第1四半期においてLNGタンカー15~20隻相当分のLNGを同国が調達する可能性がある旨10月20日に伝えられた)等においても天然ガス需要を満たすために、LNG輸入に向けた動きが発生したり、発生する可能性があったりする旨伝えられていた(ただ、気温の低下に伴う電力需要減少を理由として、2024年第4四半期に調達したLNGの実際の輸入時期を2025年第1四半期に延期する旨関係者が明らかにしたと11月20日に報じられており、1月14日にはそのような輸入時期を延期したLNGと併せ2025年第1四半期にLNGタンカー15~20隻(LNG約100~140万トン)相当のLNGを調達することにより、同四半期において新たに入札により調達するLNGはタンカー4隻(LNG約30万トン)相当分となった旨1月14日に明らかになった)。また、ロシア産天然ガスをパイプライン(ノルド・ストリーム)に輸送する契約を締結し履行していたオーストリア石油会社OMVが、2022年9月26日の同パイプラインの爆破による破損に伴い天然ガスを輸送できなくなったことにより発生した損害を巡りガスプロム関連会社ガスプロム・エクスポートに対し賠償請求を行なうべく提訴した結果、国際商工会議所(ICC: International Chamber of Commerce)が2.3億ユーロ(2.42億ドル)の賠償金を認める旨の判断を下した旨の通知を受領したと11月13日にOMVが発表、賠償金はOMVがガスプロムからパイプライン経由で供給されている天然ガスの購入代金を充当する(結果、OMVはガスプロムに対する天然ガス購入代金支払いを事実上停止する)としたものの、その結果、ガスプロムからOMVに向けた天然ガス供給が停止する恐れがある旨明らかにした他、実際11月15日にガスプロムはOMVに対し11月16日より天然ガスの供給を停止する旨通知したと同日OMVは明らかにした(これによりロシアからウクライナ経由でオーストリアに輸出されていた日量6億立方フィート相当程度の天然ガスの供給が影響を受けることになるものと見られたが、11月16日朝(現地時間)ガスプロムからの天然ガス供給は完全に停止した旨同日OMVが発表した)。さらに、12月に入ってからはウクライナ国内パイプライン経由のロシア産天然ガス輸送契約(5年契約で日量約15億立方フィート)の同月末での失効を控え、最終的にはウクライナ侵攻のための戦費に充当される可能性のあるロシア産天然ガス収入を阻止するため、当該契約の更新をウクライナが拒否する旨の姿勢を示し続けた(このようなこともあり、2025年は2024年に比べ欧州では、最大でタンカー230隻相当分のLNG(約1,600万トン)相当分の需要が拡大する旨欧州大手石油会社エクイノールの経営責任者が明らかにしたと2月5日に報じられている)ことに対し、2025年1月の同契約失効後の欧州天然ガス需給バランスのさらなる引き締まり懸念が市場で増大した。そして実際2025年1月1日にはウクライナのパイプライン経由のロシア産天然ガス輸送が停止した(図28参照)他、トルコストリーム・パイプライン(天然ガス輸送能力日量30億立方フィートとされ、ウクライナ経由のパイプラインによる輸送停止後唯一ロシア産天然ガスを欧州に輸送する主要パイプラインとなっており、従来日量15億立方フィート程度が輸送されている)のルスカヤ(Russkaya)天然ガス圧送基地を1月11日にウクライナが無人機を用いて攻撃した旨1月13日にロシア軍が主張した(攻撃は失敗し、パイプラインは正常に稼働しているとされる)ことから、欧州における天然ガス需給引き締まりを巡る不安感が一層拡大したこと等が、同地域の天然ガス価格に上方圧力を加える格好となった。他方、従来から冬場の暖房シーズン突入時において欧州天然ガス在庫が前年同期を下回っていたこともあり、2025年2月1日時点の天然ガス貯蔵充填目標を従来の40%から45%へと引き上げる旨11月29日に欧州連合(EU)が発表していた(これには5%の下振れ猶予があり最大5%下回っても直ちに違反とは見做されないとされた)こともあり、欧州天然ガス価格はアジアの天然ガス(LNG)価格を相当程度上回ることとなった(図29参照)ことにより、米国産等のLNGはアジアではなく欧州に向かうこととなった。それでも、欧州での気温の低下に伴う天然ガス需要の増加やウクライナ経由で供給されていたロシア産天然ガスの2025年1月1日以降の供給停止等の影響を完全に相殺しきれなかった結果、EU天然ガス貯蔵量は、2月14日には充填率45.21%と前年同期(65.79%)を20.58%下回るとともに、10月31日に比べ前年同期を下回る率が拡大するなど、需給の引き締まり感が強まる方向に向かった(図30参照)。また、1月22日にはドイツ連邦政府が自国の天然ガス貯蔵を促進するため、天然ガス貯蔵に補助金を支給する方策を検討中である旨伝えられた他、イタリア政府が通常よりも早い時期に自国の天然ガス在庫積み上げ作業を開始する意向である1月23日に同国のピケットフラティン(Pichetto Fratin)環境・エネルギー安全保障相が表明した。このようなことから、直近の受渡時期でのEU諸国等による天然ガス需要が拡大するとの観測が市場で強まった。さらに、エジプトが2025年にタンカー60隻相当分のLNG(約420万トン)を調達する契約を大手国際石油会社シェル及びトタルエナジーズと締結した旨2月6日に明らかになったことから、この分だけ他の需要家向けに利用可能なLNG供給が減少する可能性があることが示唆されるとともにLNG需給の引き締まり感が市場でさらに拡大した。このようなことから、11月1日には100万Btu当たり推定12.439ドルの終値であったオランダTTF先物価格は2月11日には同17.541ドルの終値と、2023年2月6日(この日の終値は同18.266ドル)以来の高水準に到達した(ただ、欧州天然ガス需給を巡る不透明感の強まりに伴う市場関係者の天然ガス需給引き締まりへの不安心理の強まりに伴う先物市場への投機筋の資金流入が価格上昇幅の拡大をもたらしていることから、この価格上昇は行き過ぎである他、このような天然ガス価格の上昇は欧州における産業部門の天然ガス需要を毀損する可能性がある旨指摘する向きもある)。また、2025年の春場から夏場にかけての同地域における天然ガス貯蔵充填活発化に伴う同時期の天然ガス需給引き締まり観測が市場で強まったこともあり、この時期の天然ガス先物価格が2025~26年の冬場の当該価格を上回るという例年(通常冬場の価格が夏場の価格を上回る)と異なる様相を呈している(図31参照)。しかしながら、2月12日以降は、この先欧州の気温が上昇するとの予報が明らかになったことに加え、EU当局が天然ガス価格に上限を設定することを検討している旨2月12日にフィナンシャル・タイムスが報じたこと(但し、欧州のエネルギー市場関係者はEUの天然ガス価格設定に反対している旨併せて伝えられる)、EU諸国に対する天然ガス貯蔵目標に柔軟性を持たせることを要求する旨ドイツ等が主張していると2月12日以降伝えられたこと、ウクライナとの戦争状態を終結させるための協議をロシアとの間で開始した旨2月12日に米国のトランプ大統領が発表したことにより、西側諸国等による対ロシア制裁緩和に伴うロシアからの欧州方面への天然ガス供給拡大期待が発生したこと等から、天然ガス需給引き締まり心理が市場で後退した結果、欧州における天然ガス価格が急落、2月14日のTTF先物価格の終値は100万Btu当たり推定15.585ドルとなっている。また、この結果、2025年春場から夏場にかけての天然ガス先物価格の2025~26年冬場の価格を上回る幅は相当程度縮小している。
アジアにおいては、日本、韓国及び中国の主要北東アジア諸国は経済が顕著に回復したわけではなかったことから、産業面での天然ガス需要の伸びは限定的であったものと見られる。また、冬場においてしばしば気温が低下した(図32参照)ものの、このような低気温も持続しなかったことから、暖房向け天然ガス需要も大きく増加したというわけではなかった(図33及び34参照)。そして、日本においては2024年11月15日に東北電力女川原子力発電所2号機(同82.5万kW)が、12月23日に中国電力島根原子力発電所2号機(発電能力82万kW)が、それぞれ稼働を開始した他、韓国でも冬場の空調のための電力需要の増加に対し出来る限り原子力発電で対応する旨12月5日に同国産業通商資源省が表明した。他方、冬場の気温低下が本格的に始まり暖房向けの民生部門及び空調稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が増加する前の段階で、北東アジア諸国は冬場の需要期向けのLNG調達を進めていたことが、冬場においてもスポット(随時契約)市場からのLNGの追加調達を抑制する格好となった(そして、北東アジア天然ガス価格が100万Btu当たり12~13ドル/MMBtuになった場合にのみ中国では需要が喚起される可能性があると見る向きがある旨11月25日に伝えられた)。むしろ経済が軟調に推移していることもあり中国国内における天然ガス価格がLNG価格を下回るなどする(図35参照)一方欧州方面における天然ガス価格がアジアLNG価格を上回る状態となったことから、中国の天然ガス企業は米国産LNG等を中国に輸入する代わりに欧州等に販売する場面も見られたと言われている(中国は仕向地に制約のない米国産LNGを年間360万トン保有していることから、このような取引が比較的容易に実施できる旨同国エネルギー企業である新奥能源(ENN)が明らかにしたと1月8日に報じられている)。また、インド等の南アジア諸国では、天然ガス価格上昇局面において代替のエネルギー源の利用を促進した(製油所においてはナフサや重油、産業部門においては液化石油ガス(LPG)を、それぞれLNGの代替として利用するようになっているとの指摘もある)ものと見られる結果、LNG購入が低迷する格好となった(インド石油会社は少なくともLPG価格とほぼ同水準である100万Btu当たり13~14ドルを上回る価格ではLNG購入は活発化しない旨1月3日や同月20日に示唆される)。それでも、欧州においては、2025~26年の冬場の暖房向け天然ガス需要期に向け減退した天然ガス在庫を充填しなければならないこともあり、冬場の終わりから秋場の終わりにかけ天然ガス(LNG)購入を活発化させる必要がある他、アジア諸国等も同時期LNG購入を進めなければならないことを含め、欧州とアジアの間でLNG購入を巡る競合が激化するとの懸念が市場で発生したこともあり、欧州天然ガス価格にアジアLNG価格が引きずられる格好となった他、2月4日午前0時1分(米国東部時間)を以て米国が中国から輸入される製品に対し10%の関税を賦課する措置を発動したことに対し、2月10日より米国産LNGに対し15%の関税を賦課することになった(2月4日に中国財政省から発表されていた)中国が、米国産以外のLNG調達を活発化させる結果、世界LNG市場が混乱する可能性があるとの観測が市場で発生したことから、11月1日には100万Btu当たり13.475ドルの終値であった北東アジアLNG先物価格は2月14日には同14.950ドルの終値へと上昇傾向となった。また、インドネシアが2025年第2四半期から第4四半期にかけ実質的に国外向けLNG供給を削減する(国内天然ガス需要が堅調であることが背景にあるものとされる)旨同国の石油・天然ガス規制当局SKKミガス(Migas)が明らかにしたと1月24日に伝えられており、これに伴うアジア市場を中心としたLNG供給減少による世界天然ガス需給の引き締まり懸念の発生もLNG価格の支援材料となっている側面がある。なお、2024年のアジア主要各国及び地域の推定LNG輸入量は中国が7,738万トン(2023年7,183万トン)、日本が6,589万トン(同6,615万トン)、韓国が4,633万トン(同4,412万トン)、インドが2,796万トン(同2,214万トン)、台湾が2,151万トン(同2,046万トン)となっている。
以上
(この報告は2025年2月17日時点のものです)