ページ番号1010468 更新日 令和7年4月14日
原油市場他:米国と中国の間での関税率引き上げ合戦に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念から、2021年4月以来の水準にまで下落する原油価格
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概要
- 米国では春場のメンテナンス作業や一部装置の不具合の改修作業等の実施により製油所の原油精製処理活動がもたつき気味となったこともあり、原油在庫は増加した結果、平年幅上限を上回る状態を維持する一方、ガソリン及び留出油在庫は減少傾向となったが、ガソリン在庫は平年幅上限を上回る、留出油在庫は平年並みの、それぞれ量となっている。
- 2025年3月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州ではメンテナンス作業が進みつつあったことに伴い製油所での原油精製処理量が減少したことと併せ、石油会社が原油在庫を調整したものと見られることにより、在庫は減少した。しかしながら、米国においては在庫が増加した他、日本においても、一部製油所の装置の不具合発生により原油精製処理が進まなくなった反面、他の製油所の中には稼働の引き上げとともに原油精製処理活動の活発化を控え原油の調達が進んだところもあったものと見られることから、在庫は増加した。結果としてOECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国及び欧州においては、製油所の稼働が低調に推移したことに伴い石油製品製造活動が不活発化したこと等から、全般に渡り在庫は減少した。また、日本においても、3月上旬及び中旬を中心として一部地域における気温低下に伴い暖房向けの灯油需要が堅調となったことで当該製品等の在庫が減少したこともあり、石油製品全体としても在庫は減少した。このため、OECD諸国全体での石油製品在庫は減少した結果、平年幅上方付近に位置する量となっている。
- 2025年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場においては、3月中旬から4月初頭にかけては、ウクライナと戦闘状態にあるロシア産原油を購入する諸国及び地域等に対し関税を賦課する意向である旨3月30日にトランプ大統領が明らかにしたこと等が、原油相場に上方圧力を加えたこともあり、3月14日に1バレル当たり67.18ドルの終値であった原油価格(WTI)は4月2日には71.71ドルと2月20日以来の高水準の終値に到達するなど、上昇傾向となった。しかしながら、4月2日夕方(米国東部時間)にトランプ政権が10%以上の相互関税の賦課等を発表したうえ、米国と中国との間で関税率の引き上げ合戦となったことにより、世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がったことが、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は下落傾向となり、4月8日には59.58ドルと2021年4月9日以来の低水準の終値となった。
- 今後、北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近することにより季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大する中、中東の政情不安及びウクライナとロシアの対立の今後の展開次第では、これら地域からの石油供給への支障に対する懸念が増大するとともに原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、米国の相互関税を含む関税の賦課を巡り他の諸国及び地域との間での妥協が成立することにより、世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退するようであれば、原油相場が多少なりともに上振れする可能性はある。それでも、トランプ政権の政策を巡る不透明感から、原油価格上昇がもたつき気味で推移すると言った展開も想定されうる。また、米国と米国外諸国及び地域による関税等を含む経済面での報復措置等を含めた対立の激化により、世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が強まるようであれば、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。さらに、中国経済を巡る動向や一部OPECプラス産油8ヶ国による減産緩和方針を巡る議論の動向等が原油相場に影響するものと見られる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2025年1月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量848万バレル、前年同月比3.0%の増加と、2024年12月の当該需要(速報値)である日量879万バレル(前年同月比0.0%程度の減少)から需要量は減少したものの前年同月比では減少から増加に転じた(図1参照)。また、当該需要は速報値(前年同月比0.6%程度減少の日量828バレル)から上方修正されている。1月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量89万バレル程度と推定されたところ確定値では同79万バレルへと下方修正されたことにより、同国ガソリン需要が速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に部分的にせよ寄与しているものと見られる。12月の同国のクリスマス及び年末年始の休暇シーズンが終了したことに加え、2025年1月はしばしば気温が低下したことから、個人の外出が敬遠されるとともに同月の自動車運転距離数が抑制された(同月の推定自動車運転距離数は1日当たり81億マイルと12月の同85億マイルから減少している)ことが、1月の米国ガソリン需要の前月比での減少をもたらしたものと考えられる。しかしながら、2024年1月も中旬を中心として厳しい寒波が米国の広い地域にまで来襲したことに伴い気温が大幅に低下したこともあり、個人の外出が相当程度不活発化した(2024年1月の同国自動車運転距離数は1日当たり推定79億マイルと2025年1月を下回っている)ことが同国ガソリン需要を抑制した結果、かえって2025年1月の米国ガソリン需要を前年同月比で増加させる格好となったものと考えられる。なお、2025年1月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染拡大前の2020年1月の当該需要(日量872万バレル)(確定値)を2.8%程度下回っている。他方、2025年3月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量875万バレル、前年同月比1.5%の減少と、2025年2月の当該需要(速報値)である日量856万バレル(前年同月比0.5%程度の減少)から需要量は増加したものの前年同月比での減少率は拡大した。2025年3月の気温は前月比では温暖であったことから、個人の外出が促されるとともにガソリン需要が前月比で増加したものと考えられる。ただ、2025年3月の気温が前年同月比で若干ながらではあるが温暖であったものと見られる他、同月の同国自動車運転距離数が1日当たり90億マイルと前年同月比で1.5%程度の増加となっているにもかかわらず、同月のガソリン需要が前年同月比で減少しているところからすると、当該需要は速報値から確定値に移行される段階で上方修正されるか、3月当該需要の前年同月比での減少の反動が4月に現れると言った展開となる可能性もある。なお、2025年3月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年3月の当該需要(日量918万バレル)(確定値)を4.7%程度下回っている。また、米国では1月後半から2月後半にかけての時期に比べれば製油所における原油精製処理量は増加してきている(図2参照)ものの、依然として、メンテナンス作業を実施したり、装置に不具合が発生したりしたことにより、製油所の稼働がもたつき気味になるとともにガソリン製造活動も抑制される格好となった(ガソリン最終製品生産量は図3参照)反面、気温が上昇し始めたことにより個人の外出が活発化したものと見られることもあり、ガソリンの出荷が増加傾向となった。このようなこともあり、3月上旬から4月上旬にかけ米国ガソリン在庫は減少傾向を示したものの、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。
2025年1月の米国留出油需要(確定値)は推定日量406万バレル、前年同月比で5.0%程度の増加となり、2024年12月の日量373万バレル(前年同月比で2.3%程度の増加)(確定値)と比べ、需要量が相当程度増加したうえ前年同月比でも増加率が拡大した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比7.9%程度増加の日量417万バレル)からは下方修正されている。米国の暖房向け留出油需要の中心地である北東部が、2025年1月は2024年12月に比べ寒冷となった他、前年同月比でも全体として冷え込んだことが、前月及び前年同月比での当該需要の増加をもたらしているものと考えられる。なお、2025年1月の米国留出油需要は2020年1月の当該需要(日量402万バレル)(確定値)を1.0%程度上回っている。他方、2025年3月の米国留出油需要(速報値)は推定日量383万バレル、前年同月比で4.1%程度の増加となり、2月の当該需要(速報値)である同404万バレル(前年同月比3.1%程度の増加)から、需要量は減少した他前年同月比の増加率は拡大した。3月の米国北東部の気候が前月比で温暖であったことが同月の暖房向け留出油消費を抑制するとともに同国の留出油需要の前月比での減少をもたらしたものと考えられる。また、2024年3月は同国の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比で3.5%と同年2月の同3.2%から拡大したこともあり、同月の鉱工業生産が前年同月比で0.3%の減少と2月の同0.1%の減少から減少率が上振れたことが、2024年3月の留出油需要を抑制するとともに、同月の前年同月比での需要の伸びを縮小させる格好となった反面、2025年3月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり3.585ドルと前月比で2.4%程度、前年同月比で10.9%程度、それぞれ下落した(因みに2025年2月の全米平均軽油小売価格は1ガロン当たり3.675ドルと前年同月比で9.1%程度の下落であった)こともあり、割安感が強まったことから前年同月比で軽油の購入がより進む格好となったことが、2025年3月の同国留出油需要の前年同月比の増加率を拡大させる方向で作用したものと考えられる。なお、2025年3月の米国留出油需要は2019年3月の当該需要(日量418万バレル)(確定値)を8.6%程度下回っている。そして、米国の製油所の稼働が抑制されたままとなったことに伴い留出油製造活動が不活発化した他、春場の製油所メンテナンス作業が活発化しつつある欧州方面に向け留出油輸出が活発化したものと見られる(図6参照)ことから、3月上旬から4月上旬にかけての米国の留出油在庫は減少傾向を示したが、平年並みの量となっている(図7参照)。
2025年1月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比5.9%程度増加の日量2,074万バレルとなり(図8参照)、2024年12月の同2,043万バレル(前年同月比0.2%程度の増加)から需要量は増加したうえ、前年同月比での増加率は拡大した。また、ガソリン及びプロパン/プロピレン等の需要が速報値から上方修正されたこともあり、2025年1月の同国石油需要も速報値(前年同月比4.8%程度増加の日量2,052万バレ)から上方修正されている。留出油需要に加え、米国で幅広く気温が低下したことに伴い暖房向けのプロパン需要が前月比で増加したことが、ガソリン需要等の前月比での減少を相殺して余りあったことが、同月の米国石油需要の前月比での増加をもたらした他、ガソリン、留出油及びプロパン/プロピレン(2025年1月の米国は全体として前年同月比で寒冷であったため暖房用需要が喚起されたことが背景にあるものと考えられる)の各需要が前年同月比で増加したことに加え、2024年1月は中旬を中心とする時期に米国の幅広い地域に厳しい寒波が来襲した結果、生産関連装置凍結等の不具合が発生した結果、原油とともに天然ガス液(NGL:Natural Gas Liquids)の生産が影響を受けたことが、同月の同国のエタン需要に制約を加える側面があった反面、2025年1月の米国においてはNGL生産関連装置等に深刻な影響を与える場面は余り見られなかったものと推察されることから、結果として供給が制約を受けなかった分だけエタンを含むその他の石油製品の需要が前年同月比で増加する格好となったことが、2025年1月の米国石油需要の前年同月比での増加率を2024年12月に比べ拡大させる形となったものと考えられる。なお、2025年1月の米国石油需要は2020年1月の当該需要(日量1,993万バレル)(確定値)を4.0%程度上回っている。他方、2025年3月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,003万バレル、前年同月比で0.8%の増加となっており、2月の同国石油需要(速報値)である日量2,024万バレル(前年同月比1.4%程度の増加)から需要量が減少した他前年同月比では増加率が縮小した。気温の上昇とともに、暖房向けの留出油及びプロパン/プロピレンの両需要が減少したことが、同月の米国石油需要の前月比での減少をもたらしたものと考えられる。他方、3月のガソリン需要の前年同月比での減少率が2月よりも拡大したことが一因となり、3月の米国石油需要の前年同月比の増加率が2月よりも縮小しているものと考えられる。なお、2025年3月の米国石油需要は2019年3月の当該需要(日量2,018万バレル)(確定値)を0.4%程度下回っている。また、米国における原油生産が概ね安定して推移する一方、メンテナンス作業実施や一部装置で発生した不具合の改修作業の実施に伴い、同国の製油所における原油精製処理量が抑制されたことが一因となり、3月上旬から4月上旬にかけての米国原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリンの両在庫が平年幅上限を超過していることから、留出油在庫は平年並みの量となったものの、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2025年3月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州ではメンテナンス作業が進みつつあったことに伴い製油所での原油精製処理量が減少したことと併せ、石油会社が原油在庫を調整したものと見られることにより、在庫は減少した。しかしながら、米国においては在庫が増加した他、日本においても、一部製油所の装置の不具合発生により原油精製処理が進まなくなった反面、他の製油所の中には稼働の引き上げとともに原油精製処理活動の活発化を控え原油の調達が進んだところもあったものと見られることから、在庫は増加した。結果としてOECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国及び欧州においては、製油所の稼働が低調に推移したことに伴い石油製品製造活動が不活発化したこと等から、全般に渡り在庫は減少した。また、日本においても、3月上旬及び中旬を中心として一部地域における気温低下に伴い暖房向けの灯油需要が堅調となったことで当該製品等の在庫が減少したこともあり、石油製品全体としても在庫は減少した。このため、OECD諸国全体での石油製品在庫は減少した結果、平年幅上方付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から減少したものの、平年幅上限を超過する量となっている(図14参照)。なお、2025年3月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.5日と2月末の推定在庫日数(60.6日)から減少している。
3月12日に1,500万バレル台半ば程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、3月19日には1,600万バレル台後半程度の量へと増加したものの、3月26日には1,600万バレル強程度、4月2日には1,500万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。ただ、4月9日は1,600万バレル弱程度の水準へと回復しており、その結果、若干ではあるが3月12日の量を上回っている。ウクライナによるものと見られる無人機等を利用したロシアの製油所等への攻撃による同国のナフサ等の石油製品輸出への影響は限定的であったものと見られることもあり、2月に同国から輸出されたナフサが3月にシンガポールに流入し続けたものの、4月はロシアの製油所がメンテナンス作業実施時期に突入することもあり、それを控えて3月に同国の製油所の稼働が低下するとともに、ナフサ等の石油製品の輸出が鈍化したものと見られることから、4月に入りシンガポールでのロシアからのナフサ輸入が減少傾向となったことが、シンガポールにおける軽質留分在庫を減少させる方向で作用したものと考えられる。しかしながら、2025年1月からメンテナンス作業を実施していたこと等もあり、ナフサの供給を抑制する格好となっていた、サウジアラビアのジャザン/ジーザーン(Jazan)製油所(原油精製処理量日量40万バレル)が、3月半ば頃には完全操業状態に復帰したものと見られており、サウジアラビアを含む中東方面からシンガポールへのナフサ流入が拡大したことが、シンガポールにおける軽質留分在庫を増加させる形で作用したものと見られる。そのような中、米国、欧州及びアジアにおいて夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来に伴う当該製品需給の引き締まり感が市場で意識され始めたことが、アジア市場におけるガソリン価格にも上方圧力を加え始めたことから、3月中旬から4月初頭にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合、ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)はどちらかというと拡大する傾向を示した。しかしながら、4月5日午前0時1分(米国東部時間)を以て、米国に輸入される全ての製品に10%の関税を賦課することに加え、4月9日午前0時1分(同)を以て国もしくは地域別に追加関税を賦課する等の政策を4月2日夕方午後4時以降(同)に米国のトランプ大統領が発表したことに伴い、貿易戦争誘発による世界経済減速に伴う個人の乗用車を利用した外出の不活発化とガソリン需要の伸びの鈍化懸念が強まったことが、アジア市場におけるガソリン価格に下方圧力を加えた結果、4月上旬以降はかえってアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差は縮小傾向を示した。
また、中国万華化学(Wanhua Chemical)が同国山東省煙台において建設中のナフサ分解装置(エチレン生産能力年産120万トン)及び大手国際石油会社エクソンモービルが同国広東省恵州において建設していた(4月11日までに稼働を開始したとされる)ナフサ分解装置(エチレン生産能力年産160万トン)等において、操業開始に向けた在庫積み上げのためナフサの購入が進みつつあったことに加え、米国の2024~25年の冬場において全国的に気候が前年を上回って寒冷となったことに伴い、暖房向けの液化石油ガス(LPG)需要が喚起されたこともあり、同国のLPG在庫が前年同期を下回るなど需給が引き締まり気味となったうえ、中国におけるプロパン脱水素化装置(PDH)において実施されるメンテナンス作業の規模が足元限定的であることもあり、原料としてのLPGの需要が堅調に推移していたことが、LPG価格を下支えしたことにより、アジア市場の石油化学部門における原料の面でLPGと競合するナフサの価格にも上方圧力が加わる格好となった。このため、3月中旬から下旬にかけナフサとドバイ原油との価格差(この場合、ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)が縮小する場面が見られた。しかしながら、ナフサ価格の上昇により、かえって割高感からナフサ購入を敬遠する動きが市場で発生した他、3月下旬以降米国のトランプ大統領やトランプ政権関係者が、同国への輸入品に対し関税を賦課する意向である旨しばしば明らかにした他、実際に4月2日にトランプ大統領は相互関税賦課の実施を表明したうえ、同日同政権が自動車(完成品)輸入に際し関税を賦課する旨発表したこともあり、貿易相手国による報復関税の賦課を含め貿易戦争が誘発されることにより世界的に経済が減速するとともに石油化学製品需要に負の影響が及ぶとの見方が市場で増大したことが、アジア市場におけるナフサ価格に下方圧力を加えた。このため、3月下旬から4月中旬にかけてのナフサとドバイ原油との価格差は拡大する傾向を示した。
3月12日には1,100万バレル弱程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分在庫は、3月19日には、1,000万バレル弱程度の量へと減少した。3月26日には1,000万バレル台前半程度の水準へと回復したものの、4月2日には900万バレル台前半程度の量へと再び減少した。4月9日には増加したものの依然として900万バレル台前半程度の水準となっており、結果として3月12日の量をそれなりに下回る状況となっている。一部アジア諸国及び地域における経済が低調であることにより、国内で余剰となった軽油がシンガポールに流入しているものと見られることが、同国での中間留分在庫を増加させる格好となったものの、中国経済が軟調であることもあり、石油製品製造利幅の確保が困難になりつつあることや、4月のメンテナンス作業実施時期突入を控え、同国の製油所が稼働を低下させつつあることにより、石油製品製造活動が不活発化したこともあり、同国からシンガポール方面への中間留分の供給が鈍化したことが、シンガポールにおける中間留分在庫を減少させる方向で作用した結果、当該在庫は減少傾向を示した。そして、シンガポールにおける中間留分在庫の減少傾向が、アジア市場における軽油価格に上方圧力を加える格好となったものの、欧米諸国においては冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期の終了が視野に入りつつあったことが、欧米市場における軽油価格に下方圧力を加えるとともに、その影響をアジア市場も受けたことから、3月中旬から下旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合、軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は比較的限られた範囲で推移した。しかしながら、4月2日に米国のトランプ大統領が相互関税賦課実施を表明したこと等もあり、貿易戦争誘発による世界経済減速による製造業及び物流等における軽油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がったことにより、4月初頭から中旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差は多少なりとも縮小する傾向を示した。
3月12日には1,800万バレル弱程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、3月19日には1,900万バレル台半ば程度、26日に2,100万バレル台後半程度の、それぞれ量へと増加した。4月2日には2,100万バレル台前半程度の量へと減少したものの、4月9日には2,200万バレル強程度の量へと増加しており、結果として3月12日の水準を相当程度上回る状態となっている。中国の一部製油所において石油製品製造を巡る利幅の確保が困難になりつつあることもあり、それら製油所の稼働が低下するとともに、原料としていた高硫黄重油の需要が抑制されたことや、船舶向け重油需要が軟調に推移しているとされる(2月4日午前0時1分(米国東部時間)を以て中国から輸入される製品に対し10%の関税を、3月4日午前0時1分(同)に中国に対しさらに10%の追加関税を、それぞれ賦課する措置を米国政府が発動したこともあり、中国から米国に向けた製品の輸出が鈍化したことが影響しているものと見られる)一方、これまでアジア市場において高硫黄重油の価格が堅調に推移していたこともあり、欧州や中東方面からアジア方面への重油の流入が活発化した。この結果、アジア市場における高硫黄重油価格に下方圧力が加わる格好となったこともあり、3月中旬から4月中旬にかけての同市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合、高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大傾向となった。他方、中国の2025年第2回の石油製品輸出枠が付与され低硫黄重油は520万トン(ガソリン、ジェット燃料及び軽油合計1,280万トン(2024年第2回から120万トン減少)の輸出枠と併せ3月28日に報じられる)と2024年第2回の同国石油製品輸出枠から120万トン拡大していた旨判明したこともあり、同国からの低硫黄重油供給増加観測が市場で発生したことが、アジア市場における低硫黄重油価格に下方圧力を加えた反面、クウェートのアル・ズール(Al Zour)製油所(原油精製処理量日量61.5万バレル)やナイジェリアのダンゴテ(Dangote)製油所(同65万バレル)からアジア方面への低硫黄重油供給が減少しつつあるとの見方が市場で発生した(中東地域等における気温の上昇とともに空調のための電力供給向けの発電部門における低硫黄重油需要の増加が視野に入りつつあることが一因となっている可能性がある)に加え、低硫黄重油価格が下落傾向となってきたことが、かえって当該製品需要を喚起する格好となったことが、アジア市場における低硫黄重油価格に上方圧力を加えた結果、3月中旬から4月中旬にかけての同市場における低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合、低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は上下に変動しつつも、どちらかと言うと若干ながら拡大する傾向を示した。
2. 2025年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場等の状況
2025年3月中旬から4月中旬にかけての原油市場においては、3月中旬から4月初頭にかけては、イラン産原油取引に関与している組織等に対し3月20日に米国政府が制裁を発動したことや、今後も制裁を科する可能性がある旨3月30日に同国のトランプ大統領が警告したこと、ベネズエラ産原油、及びウクライナと戦闘状態にあるロシア産原油を購入する諸国及び地域等に対し関税を賦課する意向である旨3月30日にトランプ大統領が明らかにしたこと等が、原油相場に上方圧力を加えたこともあり、3月14日に1バレル当たり67.18ドルの終値であった原油価格(WTI)は4月2日には71.71ドルと2月20日以来の高水準の終値に到達するなど、上昇傾向となった。しかしながら、4月2日夕方(米国東部時間)にトランプ政権が10%以上の相互関税の賦課等を発表したうえ、米国と中国との間で関税率の引き上げ合戦となったことにより、世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がったことが、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は下落傾向となり、4月8日には59.58ドルと2021年4月9日以来の低水準の終値となった(図15参照)。
中国政府は同国国民の子育て支援、賃金引き上げ及び消費促進、そして株式及び不動産市場の安定化を図るべく政策を実施する方針である旨同国国務院が明らかにしたと3月16日に同国国営新華社通信が報じたうえ、3月17日に中国国家統計局から発表された2025年1~2月の同国小売売上高が前年同期比4.0%増加と2024年12月の前年同月比3.7%の増加から増加率が拡大した他市場の事前予想(同3.8~4.0%の増加)の一部を上回ったことにより、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことに加え、3月15日に米国のトランプ大統領がイエメンのフーシ派武装勢力に対し軍事行動を実施するよう指示した(作戦は少なくとも数日間は継続するとされる)が、フーシ派武装勢力は米国の攻撃に対応する用意がある旨明らかにしたと同日報じられた他、3月16日には、米国のヘグセス国防長官が、フーシ派武装勢力が攻撃を停止するまでは米軍は容赦なく軍事作戦を実行する意向である旨表明、3月17日にはイエメン南西部の港湾都市ホデイダ(Hodeidah)や北西部のアルジャウフ(Al-Jawf)県を米軍が空爆したうえ、今後のフーシ派武装勢力の攻撃に関してはイランに責任を負わせる旨3月17日にトランプ大統領が警告した一方、米国の空母「ハリー.S.トルーマン」を攻撃した旨3月16日にフーシ派武装勢力が発表した(米国はフーシ派武装勢力が発射した無人機を全て撃退した旨明らかにした)他、3月17日にも同空母に対し再度攻撃を実施した旨フーシ派武装勢力が表明したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給を巡る懸念が市場で増大したこと、これまでの下落に対し値頃感から株式を買い戻す動きが市場で発生したこともあり米国株式相場が上昇したこと、3月18日にウクライナとロシアとの停戦等を巡りロシアのプーチン大統領と協議する意向である旨3月16日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が明らかにしたことしたことにより、ロシアからの石油を含むエネルギー供給が(欧州に向け)増加する可能性に対する期待が増大したこともあり、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したことから、3月17日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.40ドル上昇し、終値は67.58ドルとなった。3月18日には、この日実施された米国とロシアとの間での首脳会談において、ウクライナ及びロシアが30日間に渡り互いのエネルギー関連施設の攻撃を停止することでロシアが合意したことにより、今後停戦等に向けた交渉が進展するとともに、米国等によるロシアに対する制裁が緩和することに伴い同国からの石油を含むエネルギー供給が拡大する可能性を巡る期待が市場で増大したことに加え、3月18~19日に開催されている米国連邦公開市場委員会(FOMC)での結果判明を控えた持ち高調整が発生したこともあり米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.90ドルと前日終値比で0.68ドル下落した。ただ、3月19日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(3月14日の週分)において米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で101万バレル減少していたうえ、留出油在庫が前週比で281万バレル減少し1.15億バレルと、2024月11月22日(この時は1.15億バレル)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(同30万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことに加え、パレスチナ自治区ガザ地区中部及び南部の地上において軍事作戦を開始した旨3月19日にイスラエル軍が発表したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給への影響を巡る懸念が増大したことから、3月19日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.26ドル上昇し、終値は67.16ドルとなった。また、イラン産原油を購入しているとされる中国の独立系製油所である山東寿光魯清石化公司とその最高経営責任者(CEO)である王学清氏及びイラン産原油の輸送に関与したとされる12の組織及び8隻のタンカーに対し制裁を科する旨3月20日に米国国務省及び財務省が発表したことにより、イランからの原油供給減少に伴う世界石油需給引き締まり懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.26ドルと前日終値比で1.10ドル上昇した他、原油価格は3月19~20日の2日間合計で1バレル当たり1.36ドルの上昇となった(なお、この日を以てNYMEXの2025年4月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、5月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり68.07ドル(前日終値比同1.16ドルの上昇)であった)。3月21日の原油価格の終値は1バレル当たり68.28ドルと前日終値比で0.02ドルの上昇にとどまったが、NYMEX米国原油先物契約2025年5月渡し間では前日終値比で1バレル当たり0.21ドルの上昇であった。これは、米国は中国との間で関税に関し協議することは可能であり関税賦課に関し柔軟に対応する意向である旨3月21日に米国のトランプ大統領が示唆したことから米国の関税賦課政策推進に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が後退したことが要因であるとされた。
また、米国への移民や犯罪行為を理由として、ベネズエラ産原油及び天然ガスを購入する国等に対し例外なく4月2日より25%の関税を賦課する方針である旨3月24日に米国のトランプ大統領が表明したことにより、世界石油市場へのベネズエラ産原油供給の減少に伴う石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.83ドル上昇し、終値は69.11ドルとなった。ただ、3月18日から30日間の予定で、ウクライナとロシアにおける、製油所、石油及び天然ガスパイプライン、貯蔵施設、原子力発電所及びダムを含むエネルギー関連施設への攻撃を停止する他、黒海において武力行為を停止する旨関係国間で合意したと3月25日に米国トランプ政権が発表したことにより、今後ウクライナとロシアとの間での停戦交渉が進捗することにより、ロシアからの石油を含むエネルギー供給増加の可能性に対する期待が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.00ドルと前日終値比で0.11ドル下落した。それでも、3月26日にEIAから発表された米国石油統計(3月21日の週分)において原油在庫が前週比334万バレルの減少と市場の事前予想(同100万バレル程度の減少~198万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少していた他、米国原油先物契約受渡地点である同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で76万バレル減少していた旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.65ドル上昇し、終値は69.65ドルとなった。また、3月26日にEIAから発表された米国石油統計において原油在庫が市場の事前予想に反し、もしくは事前予想を上回って減少していた他、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が減少していた旨判明した流れが3月27日の市場に引き継がれたことに加え、3月27日に米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(3月22日の週分)が22.4万件と前週比で1,000件減少した他市場の事前予想(22.5万件)を下回ったこともあり、同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことから、3月27日の原油価格の終値は1バレル当たり69.92ドルと前日終値比で0.27ドル上昇した。この結果原油価格は3月26~27日の2日間合計で1バレル当たり0.92ドルの上昇となった。しかしながら、3月28日には、米国のトランプ大統領が米国以外で製造された自動車に対し例外なく25%の関税賦課を実施する旨4月2日に発表する(完成品に対する実際の関税賦課開始は4月3日、部品に対する関税賦課開始は5月3日)方針である旨3月26日夕方(米国東部時間)に表明したことにより、3月28日の米国株式市場において同国自動車関連株式が下落し続けたうえ、3月28日に米国商務省から発表された2月の同国個人消費支出(PCE:Personal Consumption Expenditures)が前月比で0.4%増加と市場の事前予想(同0.5%増加)を下回った一方、エネルギー及び食料品を除くコアPCE価格指数が前月比で0.4%の上昇と2024年1月(この時は同0.5%の上昇)以来の大幅な上昇率となった他市場の事前予想(同0.3%上昇)を上回ったうえ、前年同月比でも2.8%の上昇と市場の事前予想(同2.7%の上昇)を上回ったこと、3月28日に米国ミシガン大学から発表された3月時点の1年先物価上昇率予想(確報値)が年率5.0%と3月14日に発表された速報値の4.9%から上方修正、2022年11月時点(この時は同5.0%の上昇)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(同4.9%)を上回ったうえ、5~10年後の物価上昇率予想(確報値)が同4.1%と速報値の3.9%から上方修正、1993年2月時点(この時は同4.1%)以来の高水準となった他、市場の事前予想(同3.9%)を上回ったことにより、米国の物価上昇が加速することに伴い同国金融当局による政策金利引き下げへの展望が開けなくなりつつあることもあり、同国経済減速懸念が市場で強まるとともに米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.36ドルと前日終値比で0.56ドル下落した。
しかしながら、ウクライナのゼレンスキー大統領の任期は2024年5月20日で満了しているとして、同氏は非合法な指導者である旨3月28日にロシアのプーチン大統領が非難したことに対し、3月30日に米国のトランプ大統領がロシアの対応を批判、1ヶ月以内にロシアがウクライナとの停戦で合意しないのであれば、ロシアで生産される石油を購入する諸国及び地域に対し25~50%の関税を賦課するなどの二次制裁を科する予定である旨明らかにしたことに加え、イランが核合意で妥結しないのであれば米国はイランを攻撃したり第1次トランプ政権時代のようにイラン産原油を購入する第三国に対し関税を賦課することを含め米国における事業を制限したりする可能性がある旨3月30日にトランプ大統領が明らかにしたことにより、ロシア及びイランからの石油供給混乱に伴う世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、3月31日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.12ドル上昇し、71.48ドルと、2025年2月20日(この日の終値は72.57ドル)以来の高水準の終値となった。それでも、米国のトランプ政権は同国が輸入する殆どの製品に対し20%程度の関税を賦課することを検討しており、4月2日午後4時(米国東部時間)にトランプ大統領が関税の賦課方針につき発表する予定である旨4月1日にワシントン・ポストが報じたことにより、貿易戦争誘発による世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、4月1日に米国供給管理協会(ISM)から発表された3月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.0と2月の50.3から低下した他市場の事前予想(49.5)を下回ったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.20ドルと前日終値比で0.28ドル下落した。ただ、米国電気自動車製造大手テスラの最高経営責任者であり米国政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)責任者であるイーロン・マスク氏がDOGEの業務から離脱する予定である旨4月2日に米国報道機関ポリティコが報じたことにより、マスク氏のDOGEでの業務遂行に伴う米国政府政策実施上の混乱への懸念が後退したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.51ドル上昇し、終値は71.71ドルとなった。しかしながら、4月5日午前0時1分(米国東部時間)を以て、米国に輸入される全ての製品に10%の関税を賦課することに加え、4月9日午前0時1分(同)を以て特定の国もしくは地域に追加関税を賦課する等の関税賦課政策を4月2日夕方(同)に米国のトランプ大統領が発表した(但し、原油、石油製品及び天然ガスは除外されると4月2日トランプ政権関係者が明らかにした)他、4月3日午前0時1分(同)を以て米国が輸入する自動車(完成品)に対する25%の関税を賦課する旨4月2日に米国連邦政府官報が掲載したことにより、米国に端を発する貿易戦争誘発に伴う世界経済減速を巡る不安感が台頭したことにより米国株式相場が急落するとともに世界石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で強まったことに加え、自主的な減産を実施するOPECプラス産油8ヶ国が4月3日に会合を開催した結果、2025年7月の原油生産目標を前倒しして同年5月に適用する旨決定したことにより、減産緩和等を通じた供給拡大が加速することを通じた世界石油需給の緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.95ドルと前日終値比で4.76ドル下落した。また、米国が全ての中国製品に対し34%の相互関税を賦課する旨4月2日夕方(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が発表した(この結果2月4日及び3月4日にトランプ政権が実施した中国に対する合計20%の関税賦課と併せ、米国におけるほぼ全ての中国製品の輸入に際し少なくとも54%の関税が賦課されることとなった)ことに対し、4月10日を以て全ての米国製品に対し34%の関税を賦課する他、希土類(レアアース)7品目の輸出を直ちに規制する等の政策を実施する旨4月4日に中国政府が発表した(これに対し米国のトランプ大統領は中国のこのような政策を批判するとともに、米国は中国に対する関税政策を変更しない旨4月4日に主張した)ことにより、世界的な貿易戦争誘発による経済減速観測が市場で増大した結果、米国株式相場が下落するとともに、石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり4.96ドル下落し、終値は61.99ドルと、2021年4月26日(この日の終値は61.91ドル)以来の低水準の終値に到達した他、この日の原油価格の前日終値比での下落幅は2022年7月21日(この日の前日終値比での下落幅は5.91ドル)以来の大幅なものとなった。
また、中国が米国製品輸入への34%の報復関税を4月8日までに撤回しないのであれば、米国の中国製品に対する34%の相互関税を4月9日に50%引き上げ合計84%としたうえで、関税等を巡る中国との協議を全て打ち切る旨4月7日に米国トランプ大統領が表明したことにより、貿易戦争誘発による世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.70ドルと、前週末終値比で1.29ドル下落した。さらに、中国が米国製品輸入への34%の報復関税を4月8日までに撤回しなかった(米国が50%の追加関税を賦課するのであれば、中国は報復措置を講じることを含め最後まで戦い抜く旨4月8日に中国商務相が表明した)ため、4月9日午前0時1分(米国東部時間)を以て中国製品に対し50%の追加関税を賦課する(結果、2月4日及び3月4日に賦課された20%の同国への関税と併せ関税税率は104%となる)旨米国のトランプ大統領の広報官であるレビット氏が明らかにしたことにより、貿易戦争誘発による世界的な景気後退に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で一層拡大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.12ドル下落し、59.58ドルと、2021年4月9日(この時は59.32ドル)以来の低水準の終値となった他、原油価格は4月3~8日の4取引日合計で1バレル当たり12.13ドル下落した。4月9日には、この日午前0時1分(米国東部時間)を以て全面適用となった米国の相互関税に対し報復措置を発動していない日本を含む諸国及び地域につき、個別に賦課する部分の相互関税の適用を90日間延期する旨、同日午後(同)に、米国のトランプ大統領が発表したことにより、世界経済減速懸念が市場で後退するとともに、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.77ドル上昇し、終値は62.35ドルとなった。それでも、4月9日午前0時1分(米国東部時間)を以て中国製品に対し104%の関税(2月4日及び3月4日に賦課された20%の関税に加え、4月9日に賦課された34%の相互関税に、50%の関税を追加)を賦課する旨米国のトランプ大統領の広報官であるレビット氏が明らかにしたことに対し、米国製品への関税を50%引き上げ84%とする旨4月9日朝(米国東部時間)に中国政府が発表したことに対し、中国製品への関税を125%へとさらに引き上げ直ちに発効させる旨4月9日午後(同)に米国のトランプ大統領が表明したうえ、それはトランプ大統領就任後相互関税導入前に賦課された合計20%の関税に追加されることになるため、合計で145%の関税率となる旨4月10日に米国トランプ政権が説明したことにより、米国と中国等の貿易戦争に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で強まったことに加え、4月10日にEIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO:Short-term Energy Outlook)(当初4月8日の発表予定であったが、米国のトランプ大統領による相互関税導入の石油市場への影響を検討するため発表を延期していた)において、米国による関税賦課の実施に伴い2025年及び2026年の世界石油需要の前年比での増加量を3月11日の前回のSTEO発表時からそれぞれ日量37万バレル及び同13万バレル、下方修正した他、2025年及び2026年の原油価格見通しをそれぞれ1バレル当たり63.88ドル及び57.48ドルと、3月11日の前回STEO発表時の同70.68ドル及び64.97ドルから下方修正したことにより、世界石油需要見通しの下振れと原油価格の先安感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.07ドルと前日終値比で2.28ドル下落した。それでも、4月11日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.43ドル上昇し、終値は61.50ドルとなった。
3. 原油市場における主な注目点等
3月15日に米国のトランプ大統領がイエメンのフーシ派武装勢力に対し軍事行動を実施するよう指示した(作戦は少なくとも数日間は継続するとされる)が、フーシ派武装勢力は米国の攻撃には対応する用意がある旨明らかにしたと同日報じられる他、3月16日には、米国のヘグセス国防長官が、フーシ派武装勢力が攻撃を停止するまでは米軍は容赦なく軍事作戦を実行する旨表明、3月17日にはフーシ派武装勢力を攻撃すべくイエメン南西部の港湾都市ホデイダ(Hodeidah)や北西部のアルジャウフ(Al-Jawf)県を米軍が空爆したうえ、今後のフーシ派武装勢力の攻撃に関してはイランに責任を負わせる旨3月17日にトランプ大統領が警告した。これに対し、3月16日にはフーシ派武装勢力が米軍の空母「ハリー.S.トルーマン」を攻撃した旨発表(米国はフーシ派武装勢力が発射した無人機を全て撃退した旨明らかに)した他、3月17日にも同空母に対し攻撃を実施した旨表明した。また、3月18日未明(現地時間)にパレスチナ自治区ガザ地区においてイスラエル軍が大規模な空爆を実施した結果400人超が死亡した他、同日イスラエルのネタニヤフ首相がカザ地区のイスラム武装勢力ハマスに対する大規模攻撃を継続する意向である旨表明したが、これに対しフーシ派武装勢力は、イスラエル軍のガザ地区への攻撃が停止しない限りイスラエルに対する攻撃を拡大する意向である旨3月18日に表明した。3月19日にはイスラエル軍がガザ地区中部及び南部の地上における作戦を開始した旨発表した一方、3月20日にはイスラム武装勢力ハマスがイスラエル軍に対しロケット弾を発射し反撃した。その後イスラエル軍はガザ地区の地上における攻撃の規模を拡大、4月4日にはガザ地区北部を空爆するとともに地上での作戦を開始した旨イスラエル軍が表明、同地区の広範囲を掌握した旨4月9日にイスラエルが発表するなど、両者間での停戦は事実上崩壊状態となっている。他方、3月22日及び3月28日にレバノンからイスラエルに向けて発射されたものと見られるロケット弾(イスラム武装勢力ヒズボラはロケット弾発射を否定している)をイスラエル軍が迎撃した後、3月22日にはイスラエル軍がレバノン南部のヒズボラの軍事基地を空爆した他、3月28日にも同軍がレバノンの首都ベイルート南部にあるイスラム武装勢力ヒズボラの軍事施設(無人機の拠点)を大規模に空爆、4月1日にもベイルート南部を空爆した旨イスラエル軍が発表した。
また、イラン産原油を購入しているとされる中国の独立系製油所である山東寿光魯清石化(Shandong Shouguang Lu Qing Petrochemical)とその最高経営責任者(CEO)である王学清氏及びイラン産原油の輸送に関与したとされる12の組織及び8隻のタンカーに対し制裁を科する旨3月20日に米国国務省及び財務省が発表した。さらに、米国のトランプ大統領がイランとの核合意を巡る交渉に2ヶ月間の期限を設定する旨イランの最高指導者ハメネイ師に向け発出した書簡に記載されていたものと見られると3月20日に米国報道機関アクシオスが明らかにした。そして、イランが核合意で妥結しないのであれば、米国はイランを攻撃したり、第1次トランプ政権時代のようにイラン産原油を購入する第三国に対し米国における事業を制限したりする可能性がある旨3月30日にトランプ大統領が明らかにしたが、(米国による)最大限の圧力や軍事行動の恐れがある様な状態の下ではイランは米国とは直接的な協議は実施せず、間接的な協議を実施することになる旨3月27日にイランのアラグチ外相が明らかにした(3月30日にはイランのペゼシュキアン大統領の同趣の発言を行なっている)。そして、イランの核開発活動の抑制につき4月12日にイランと直接協議を実施する意向である旨4月7日にトランプ大統領が表明(同日イランのアラグチ外相は米国と本件につき間接協議を実施する旨明らかに)した。そのような中、イランの核開発推進を支援したとして、同国を拠点として活動している事業者5者と個人1人に対し制裁を発動する旨4月9日に米国財務省が発表した他、イラン産原油を故意に受け入れているとして、中国の原油及び石油製品貯蔵施設(同施設から同国独立系製油所に向けパイプラインが接続しているとされる)を営んでいるとされる広厦舟山能源集団(Guangsha Zhoushan Energy Group)を含む企業に対し制裁を発動する旨4月10日に米国のルビオ国務長官が明らかにした。また、米国の対イラン制裁強化により、イランの原油輸出量(足元日量160万バレル程度であるとされる)は第一次トランプ政権時代の水準(日量40万バレル程度)へと削減されるかもしれない旨、4月11日に米国エネルギー省のライト長官が示唆した。そして、4月12日には、オマーンの首都マスカットにおいて、イランの核開発活動につき米国とイランの政権幹部(米国はウィットコフ中東担当特使、イランはアラグチ外相)が協議(オマーンの仲介による間接協議が主体だが数分間米国とイランの政権幹部が直接対話)を実施、建設的な議論が行なわれ、4月19日に次回協議を開催することで合意した(イランは自国の核開発活動を制限する代わりに米国による対イラン制裁の緩和を米国に要請した旨4月12日に伝えられる)。
このように、イスラエルとハマス及びヒズボラとの間では攻撃が行なわれる状態となっており、停戦が有名無実化しつつある他、米国とフーシ派武装勢力との間でも攻撃が実施されるなど、イスラエル及び米国、及びハマス、ヒズボラ及びフーシ派武装勢力との間での対立は以前と比べ高まりつつある要に見受けられる。今後も攻撃が強まるようであれば、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油を含むエネルギー供給面での支障を巡る懸念が市場で増大する結果原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性がある。他方、米国とイランとの間では両国政権幹部によるイラン核開発活動を巡る協議が実施されつつあるが、同時に米国はイランに対し圧力を強めつつあり、イランが米国の意向に沿って行動していないと米国が判断した場合(そしてそのような判断を米国が行なう可能性もそれなりにあるものと考えられる)、米国はさらなる圧力をイランに加える結果、イランからの原油供給が事実上削減される格好となることにより、世界石油需給引き締まり感が市場で強まる結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。
3月14日にウクライナの攻撃により火災が発生したロシアのトゥアプセ(Tuapse)製油所の火災は鎮火した旨3月17日に伝えられる。そのような中、3月18日に実施された米国とロシアとの間での首脳会談において、ウクライナ及びロシアが30日間に渡り互いのエネルギー関連施設の攻撃を停止することで合意した。また、3月19日に実施された米国とウクライナとの間での首脳会談においては、3月18日に実施された米国とロシアとの首脳会談時の合意された、ウクライナとロシアとのエネルギー関連施設への攻撃の30日間の停止につき、ウクライナのゼレンスキー大統領が支持する旨表明したが、3月19日においてもエネルギーインフラが攻撃され続けているとして両国が非難しあっている状況であった。3月19日には、ウクライナが無人機を使用しクラスノダール(Krasnodar)地方のカフカスカヤ(Kavkazskaya)にあるカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC:Caspian Pipeline Consortium)パイプライン(原油輸送能力日量160万バレル程度とされる)に接続されている原油貯蔵施設を攻撃した結果、当該施設で火災が発生したことに対し、ウクライナがロシアとの間でのエネルギー関連施設攻撃の停止を巡る合意に違反している旨3月20日にロシア外務省のザハロワ報道官が非難した。また、3月21日にロシア南西部のクルスク(Kursk)州のスジャ(Sdzha)における天然ガス圧送基地で爆発が発生した(但し同基地は稼働停止状態であったことから、天然ガス輸送及び供給には影響しなかった)ことに関し、ロシア国防省はウクライナ軍が攻撃を実施したとして、3月18日の米国とロシアとの間でのウクライナ及びロシアのエネルギー関連施設攻撃の30日間の停止合意に違反しているとして非難した反面、ウクライナはロシアが自作自演で爆発を実行したとしてロシアの非難は不適切である旨非難したと3月21日に報じられる。さらに、3月22日には、ウクライナがロシア南西部ベルゴロド(Belgorod)州の天然ガス施設を無人機で攻撃した結果、同施設が損傷した(同施設が稼働していたかどうかは不明である)他、3月23日にはウクライナがクリミア半島にあるグレボフスコエ(Glebovskoye)ガス・コンデンセート田を攻撃(ロシア軍が撃退)した旨3月24日にロシア国防省が発表した。他方、3月18日から30日間の予定でウクライナとロシアとの間で、製油所、石油及び天然ガスパイプライン、貯蔵施設、原子力発電所及びダムを含むエネルギー関連施設への攻撃を停止する他、黒海において武力行為を停止する旨関係国間で合意したと3月25日に米国トランプ政権が改めて発表したが、ウクライナとロシアのエネルギー関連施設攻撃停止につき両国で合意された3月18日以降も、ロシアがウクライナのエネルギー関連施設を攻撃しているとウクライナが主張する一方、ウクライナがロシアのエネルギー関連施設を無人機で攻撃しているとロシアも主張している(ウクライナは否定)旨3月27日に伝えられる。また、ウクライナのゼレンスキー大統領の任期は2024年5月20日で満了しているとして、同氏は非合法な指導者である旨3月28日にロシアのプーチン大統領が非難したことに対し、ロシアの対応を批判するとともに、1ヶ月以内にロシアがウクライナとの停戦で合意しないのであれば、ロシアで生産される石油を購入する諸国及び地域に対し25~50%の関税を賦課するなどの二次制裁を科する予定である旨3月30日に米国のトランプ大統領が明らかにした。また、ウクライナ中部ポルタバ(Poltava)州の天然ガス生産関連施設をロシア軍が発射した無人機が攻撃した結果損傷した旨ウクライナ国営石油・ガス会社ナフトガスが3月28日に発表した一方、ロシア南西部のスジャにあるガス計測基地がウクライナ軍による攻撃によりほぼ壊滅状態となっている旨3月28日にロシア国防省が発表した(ロシアはベルゴロド州の電力関連施設やサラトフ(Saratov)州の製油所もウクライナが攻撃した旨併せて主張しているが、ウクライナ側は停戦合意を遵守しており同施設の破壊はロシアの攻撃に伴うものであると主張した)。そのような中、米国連邦議会上院の超党派議員50人が、ロシアのプーチン大統領がウクライナとの停戦交渉に応じなかったり、最終的な合意に違反したりした場合には、ロシアで生産された原油、石油製品、天然ガス及びウラン等の輸入国及び地域に対し、米国への輸入製品に500%の関税を賦課したり、米国民がロシア国債購入を禁止したりすることを主な内容とする法案を議会に提出した旨4月1日夜早く(米国東部時間)にブルームバーグ通信が報じた。また、カザフスタン等から原油を輸送するCPCパイプラインの黒海沿岸港において3月27~31日に実施された検査後、規制当局が3箇所ある係留施設のうち2箇所の操業を停止するよう命令をロシア当局が発出した旨3月31日に伝えられたが、これに対し、当該施設の操業を停止すべきでない旨ロシアの地方裁判所が判断したと4月4日にCPCが発表した。そして、ウクライナとロシアとの間でのエネルギー施設への攻撃の停止合意については、お互いに違反して攻撃を実施していると非難し続けている状況にある旨4月2日に改めて伝えられた。
このように、3月18日から30日間の予定で行なわれているウクライナとロシアとの間でのエネルギー関連施設への攻撃の停止については、期間中においても両国のエネルギー関連施設が攻撃されている状態であり、今後も特にロシアにおける石油供給関連施設に対する攻撃が継続される等するようであれば、同国からの石油供給に支障が発生することに対する懸念が市場で強まる結果、原油価格が上振れする場面が見られることもありうる。また、4月16日前後には、ウクライナとロシアとの間でのエネルギー関連施設への攻撃の停止合意が期限を迎えるため、合意が延長されなければ、ウクライナとロシアとの間でのエネルギー関連施設への攻撃がさらに頻発するとともに、ロシアの石油供給関連施設等が攻撃を受けることにより、同国からの石油供給途絶懸念が増大する結果、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となる可能性もある。
ベネズエラのマドゥロ政権は米国からの移民返還や選挙改革を進めていないとして、大手国際石油会社シェブロンの同国における石油輸出を含む事業を4月3日までに終了する旨3月4日に米国のトランプ政権が発表したことに対し、終了時期を60日間程延期することをトランプ政権が検討している旨3月20日に報じられた。ただ、米国への移民や犯罪行為を理由として、ベネズエラ産原油及び天然ガスを購入する国に対し4月2日より例外なく25%の関税を賦課する方針である旨3月24日に米国のトランプ大統領が表明した他、シェブロンに対しても5月27日までにベネズエラの事業から段階的に撤退するよう命じた。そのような中、米国によるベネズエラに対する関税賦課政策発表により、インド大手石油会社リライアンスがベネズエラ産原油の引き取りを停止する予定である旨3月26日に報じられた。そして、米国のトランプ政権がベネズエラ国営石油会社PDVSAと取引する、スペイン石油会社レプソル、イタリア石油会社ENI、リライアンス等の企業(大半は米国による関税賦課政策(二次制裁)により既に取引を停止していたとされる)に対し、近いうちにベネズエラ産石油等の輸出を巡る許可を取り消す意向である旨3月29日にロイター通信が報じた他、別途同日これら企業に対し5月27日にかけ段階的に同国での事業から撤退するよう米国政府が命令した旨伝えられた。他方、ベネズエラにおいてシェブロンが原油を積み込んだタンカーの出航許可がPDVSAによって取り消された(シェブロンの原油購入代金支払いを巡る不確実性の増大が背景にある旨示唆する向きがある)旨4月11日に伝えられた。このように、トランプ大統領がベネズエラに対する制裁を強化すること等により、同国からの原油供給は事実上削減されつつある。2025年2月時点で日量94万バレルとベネズエラの原油生産量はロシア(同912万バレル)やイラン(同339万バレル)に比べれば小規模であり、従って供給が削減されても世界石油需給に与える影響は限定的なものとなる可能性が高いが、それでも、他の石油需給引き締め要因と重なると、原油相場への上方圧力がより大きく加わりやすくなるものと考えられるので、注意する必要があろう。
米国ではトランプ大統領の関税を含む政策等を巡り、引き続き金融当局から様々な発言等がなされた。3月21日には、米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が、関税賦課が現状の範囲に限られるのであれば米国経済への影響も限定的なものにとどまるものの、範囲が拡大したり米国外諸国及び地域から報復措置が講じられたりするようであれば、米国連邦公開市場委員会(FOMC)において対応を迫られることになろうとの認識を示した。他方、米国の移民抑制政策の実施に伴い労働力の伸びが鈍化することにより2025年の経済成長率は前年比で低下するものと考えるものの、不透明な経済展望の下では米国の物価上昇沈静化を目指す米国連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策は適切であり、今後も金融政策につき慎重に検討してきたい旨の意向を3月21日に米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が明らかにした。また、米国による関税の賦課が同国の物価上昇沈静化の進捗を鈍化させている(2027年まで目標とされる年率2%には到達しない)として、2025年の政策金利引き下げ予想回数は従来の2回から1回に事実上下方修正されることになるだろう旨の見解を3月24日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が示した。さらに、米国の政策金利水準は現状を維持することが望ましいと考えるものの、同国の物価上昇沈静化過程がもたつき気味になりつつある兆候が見られる状況を注視している旨米国FRBのクーグラー理事が明らかにしたと3月25日に報じられた。加えて、米国の物価上昇率が年率2%の目標を上回っていることから、同国金融当局はなお同目標達成に向け取り組む必要がある旨3月26日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が発言した。そして、米国のトランプ大統領による関税賦課の米国経済への影響は一過性のものではないかもしれないため、より長期間同国金融当局が高水準の政策金利を持続させることもありうる旨の認識を3月26日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が示した。また、米国の政策金利は今後1年~1年半で相当程度低下するものと予想しているが、同国経済を巡る不透明感が強いことから、政策金利引き下げまでに想定される以上に時間を要する可能性がある旨米国シカゴ連邦準備銀行のグーズルビー総裁が明らかにしたと3月26日にフィナンシャル・タイムスが報じた。3月27日には、米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が、現時点では米国の関税賦課政策の同国物価上昇に与える影響は短期的なものになるものと見ているが、より長期的に影響を与える恐れもあるとして米国金融当局は政策金利を長期間維持することになであろう旨の見解を示した。また、米国経済の先行きが極めて不透明であることもあり、金融政策については当面様子見とすべきである旨認識していると3月27日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにした。さらに、2025年は2回の政策金利引き下げを実施するものと依然として予想しているものの、慎重に判断を行う意向である旨の認識を3月27日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示したと3月28日にロイター通信が報じた一方、3月28日の米国商務省のコア個人消費支出(PCE:Personal Consumption Expenditures)価格指数及びミシガン大学物価上昇率予想は、米国物価上昇沈静化過程がもたつき気味とっている旨示していることから、この面では政策金利引き下げは正当化されないことを示唆している旨、デーリー総裁が明らかにした旨3月28日にロイター通信が報じた。加えて、トランプ大統領による関税賦課政策は米国の失業率を押し上げるとともに物価も上昇させる可能性があり、金融当局にとって重大な課題を突きつけることになるだろう旨4月1日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が発言した。そして、米国が賦課する関税によって同国の個人消費や企業投資が鈍化する等の影響が発生する恐れがある旨4月1日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が指摘した。他方、トランプ大統領による政策の同国経済への影響が見極められるまで、同国の政策金利を変更する必要はないと米国FRBのジェファーソン副議長が考えている旨4月3日に伝えられた。また、2025年の米国経済は物価上昇沈静化がもたつき気味となる反面、経済成長は減速するものと見込んでおり、政策金利は据え置きとすることが望ましい旨4月3日に米国FRBのクック理事が明らかにした。さらに、4月4日には、米国FRBのパウエル議長が、トランプ大統領による相互関税賦課の実施の米国物価上昇への影響が、より長期化する可能性が増大しており、金融当局としては、物価上昇局面の長期化を抑制する必要があるものと考えている旨の見解を示した(なお、この日トランプ大統領は米国金融当局に対し政策金利引き下げを要求する旨表明した)。また、トランプ大統領による関税賦課政策が物価上昇を加速する方向で影響を及ぼしつつある兆候が見られるとして、(景気対策よりも)物価上昇沈静化に向けた対策が喫緊の課題となる旨4月7日に米国FRBのクーグラー理事が示唆した。さらに、トランプ大統領による関税賦課政策実施に伴い、今後の展開によっては物価上昇が制御不能なほどに加速する恐れがあることを懸念している他、関税賦課政策により短期的な同国経済を巡る不透明感が強まりつつあると、4月7日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。加えて、トランプ大統領による関税賦課政策の方向性が明確になるまで、政策金利を巡る判断を行なう必要はない旨4月8日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が発言した。そして、トランプ大統領による関税賦課政策に伴い同国の物価上昇が加速する恐れがあることにより、物価上昇沈静化を優先させる必要があることから、政策金利の引き下げはより困難になった旨4月9日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにした。そのような中、4月9日に公表された米国FOMC議事録(3月18~19日開催分)においては、同国の労働市場が悪化すると同時に物価上昇が加速すると言ったスタグフレーション(景気減速と物価上昇の並存)のリスクが高まっており、米国の金融当局関係者はより困難な判断を迫られる可能性がある旨指摘されていたことが明らかになった。また、トランプ大統領が実施しつつある関税政策は経済に対し物価上昇と景気減速の両面で衝撃であり、定石となる解決法は存在せず、金融当局としては当座様子見の姿勢となるだろう旨4月10日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が説明した。さらに、トランプ大統領による関税賦課政策により物価上昇が再度加速するようであれば、同国金融当局による政策金利引き下げは遅延していく可能性がある旨4月10日に米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が明らかにした。加えて、トランプ大統領による関税賦課の物価上昇への影響は一時的なものにはならない可能性があり、景気減速と物価上昇の両面からの対応を同国金融当局は迫られるが、その場合は物価上昇沈静化を優先させることになるだろう旨の見解を4月10日に米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が示した。そして、米国経済が混乱するようであれば米国FRBは支援する用意がある旨米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が明らかにしたと4月11日に報じられたが、トランプ大統領による関税賦課政策により、広い範囲で物価上昇が加速する恐れがあるため、より長期に渡り高水準の金利を維持する必要がある可能性がある旨の見解を4月11日に同総裁は披露した。4月11日には、トランプ大統領が実施した関税賦課政策の物価上昇面への影響が長期化する一方労働市場が悪化する恐れがあるとして、今後発表される経済指標類等を考慮に入れながら着実に対応する必要があるとの認識を米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が示した。また、トランプ大統領により導入された関税につき、相手国との間で交渉が妥結し関税引き下げが実施されるまでには時間を要する可能性がある旨4月11日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が発言した。さらに、今後米国物価上昇率(2025年3月時点で年率2.4%)は同3.5~4.0%へと上昇するものと予想しており、物価上昇沈静化が達成されていない一方労働市場が堅調であるところからすると、足元の金融引き締め策は妥当であるとの見解を4月11日に米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が示した。
そのような中、3月16日にトランプ大統領は4月2日に相互関税及び自動車等の産業部門別関税を賦課する方針である旨明らかにしたが、米国が関税賦課政策を実行に移した場合には、金融当局は政策金利引き下げを実施すべきである旨3月19日夜(米国東部時間)にトランプ大統領が示唆した。そして、トランプ大統領は、米国以外で製造された自動車に対し例外なく25%の関税を賦課する旨の政策を4月2日より実施する(輸入自動車に対する実際の関税賦課開始は4月3日、自動車部品に対する関税賦課は5月3日とする)方針である旨3月26日夕方(同)に表明したが、その後、4月5日午前0時1分(同)を以て、米国に輸入される全ての製品に10%の相互関税を賦課することに加え、4月9日午前0時1分(同)を以て国もしくは地域別に追加の相互関税を賦課する等の政策を4月2日夕方(午後4時以降)(同)にトランプ大統領が発表した(但し、原油、石油製品及び天然ガスは除外されると4月2日に米国トランプ政権関係者は明らかにした)他、4月3日午前0時1分(同)を以て米国が輸入する自動車(完成品)に対し25%の関税を賦課する旨4月2日に米国連邦政府官報に掲載された。その後、米国は中国を除く全ての国及び地域に対する関税賦課を90日間延期する旨同国国家経済会議(NEC)のハセット委員長が明らかにしたと4月7日午前(米国東部時間)に伝えられた。他方、米国による鉄鋼及びアルミニウムに対する25%の関税賦課(3月12日発動)への報復措置として米国製品に対し25%の報復関税を賦課する旨4月7日に欧州委員会(EC)が提案したと同日報じられる反面、欧州連合(EU)は米国及び欧州の工業製品の関税をゼロにすることを検討する旨米国通商当局に伝えたとECのフォンデアライエン委員長が明らかにした旨4月7日に伝えられるなどしたが、4月7日にトランプ大統領はフォンデアライエン委員長の提案は不十分であると批判した。ただ、4月9日午前0時1分(同)を以て全面適用となった米国の相互関税に対し報復措置を発動していない日本を含む諸国及び地域に対し、個別に賦課する部分の相互関税の適用を90日間延期する旨、4月9日午後(同)に、トランプ大統領が発表した(なお、米国の相互関税の賦課等に対し中国が報復措置を講じる旨表明するなど両国の貿易面での対立が高まった(後述))。
このように、トランプ大統領及び同政権は、4月2日に相互関税及び自動車に対する関税の賦課等につき発表したり実施に移したりした一方、米国が関税を賦課した際には同国金融当局は政策金利を引き下げるようトランプ大統領は要求したものの、同国金融当局関係者の多くはトランプ大統領の関税政策や米国外諸国及び地域による報復措置の米国経済に対する影響が不透明であるとして、直ちに政策金利を引き下げることに対しては慎重な姿勢を示している。このため、関税賦課による米国を初めとする世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が発生するとともに、原油相場に下方圧力が加わる状況が発生しやすいものと考えられる。そのような中、今後米国と米国外諸国及び地域との間の協議により関税負担が軽減されることに伴い、世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が後退する結果、原油相場が上振れする場面が見られる可能性はあるものの、トランプ政権の関税を含む経済政策を巡る不透明感が強いため、この面で世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化を巡る不安感が払拭しきれない結果、原油相場の回復がもたつく可能性があるものと考えられる。なお、米国金融当局関係者間では当面政策金利を据え置きとする姿勢が主流であるようだが、4月2日のトランプ大統領の関税賦課政策発表に伴う米国株式相場下落もあり、5月6~7日に開催される予定である次回FOMCにおいては政策金利が0.25%引き下げられる確率が4月12日時点で39.8%、政策金利が据え置かれる確率が同60.2%となるなど、政策金利引き下げ期待が市場で増大しており(4月2日時点では政策金利が0.25%引き下げられる確率が10.6%、政策金利が据え置かれる確率が同89.4%であった)、次回FOMCでの政策金利を巡る決定事項やFOMC終了後の5月7日に実施される予定であるパウエルFRB議長による記者会見における同議長の米国経済情勢及び物価上昇、労働市場及び政策金利調整方針等を巡る発言内容等によっては、米国経済を巡る展望が変化することにより同国株式相場や米ドルが変動等する結果、原油相場にその影響が織り込まれるといった展開となることはありうる。また、4月中旬以降米国主要企業等の2025年1~3月等の業績等が発表されつつあるため、それら業績もしくは2025年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼす可能性もある。
2025年3月17日に中国国家統計局から発表された1~2月の同国小売売上高は前年同期比4.0%増加と2024年12月の前年同月比3.7%の増加から増加率が拡大した他市場の事前予想(同3.8~4.0%の増加)の一部を上回った一方、同国鉱工業生産は前年同期比5.9%の増加と2024年12月の前年同月比6.2%の増加から増加率が縮小したものの市場の事前予想(同5.3%増加)を上回った反面、2月の失業率は5.4%と1月の5.2%から上昇した他市場の事前予想(5.1%)を上回って悪化した。また、3月17日に中国国家統計局から発表された1~2月の同国製油所の原油精製処理量は1億1,917万トン(日量1,479万バレル)と前年同期(1億1,876万トン(推定日量1,449万バレル))を2.1%上回った(但し製油所の精製利幅は圧迫されたままであると3月17日にロイター通信から伝えられる)。しかしながら、3月17日に中国国家統計局から発表された2月の新築住宅価格は前年同月比で4.8%の下落と1月の同5.0%の下落から若干の改善にとどまった。また、3月27日に中国国家統計局から発表された2025年1~2月の同国工業企業利益は前年同期比0.3%の減少と12月(前年同月比11.0%増加)から減少に転じた他、市場の事前予想(同9.0%増加)に反し減少している旨判明した。ただ、3月31日に中国国家統計局から発表された3月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は50.5と2月の50.2から上昇した他市場の事前予想(50.4~50.5)の一部を上回ったうえ、非製造業PMIは50.8と2月の50.4から上昇した他市場の事前予想(50.6)を上回った。また、4月1日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された3月の同国製造業PMIは51.2と2月の50.8から上昇した他市場の事前予想(50.6~51.1)を上回ったうえ、4月2日に財新伝媒から発表された3月の同国サービス業PMIは 51.9と2月の51.4から上昇した他市場の事前予想(51.5)を上回った。しかしながら、4月10日に中国国家統計局から発表された3月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で0.1%の下落と市場の事前予想(同横這い)を上回って減少していた他、生産者物価指数(PPI)は同2.5%の下落と市場の事前予想(同2.3%の下落)を上回って下落している旨判明した。そのような中、中国では、同国政府が同国国民の子育て支援、賃金引き上げ及び消費促進、株式及び不動産市場の安定化を図るべく政策を実施する方針である旨同国国務院が明らかにしたと3月16日に同国国営新華社通信が報じた他、中国政府機関幹部が一部景気刺激策の前倒し実施につき検討している旨4月7日に報じられた。
それでも、米国が全ての中国製品に対し34%の相互関税を賦課する旨4月2日夕方(米国東部時間)にトランプ大統領が発表した(この結果2月4日及び3月4日にトランプ大統領が発動した中国に対する合計20%の関税賦課と併せほぼ全ての中国製品の輸入に際し少なくとも54%の関税が賦課されることとなった)ことに対し、4月10日より全ての米国製品に対し34%の関税を賦課する他、希土類(レアアース)7品目の輸出を直ちに規制する等の政策を実施する旨4月4日に中国政府(国務院関税委員会等)が発表した(これに対し中国の関税発動を批判するとともに、米国は関税政策を変更しない旨4月4日にトランプ大統領は主張した)。また、中国が米国製品輸入への34%の報復関税を4月8日までに撤回しないのであれば、米国の中国製品に対する34%の相互関税を4月9日に50%引き上げたうえで関税等を巡る中国との協議を全て打ち切る旨4月7日にトランプ大統領が表明した。しかしながら、中国は米国製品輸入への34%の報復関税を4月8日までに撤回しなかった(米国が50%の追加関税を賦課するのであれば、中国は報復措置を講じることを含め最後まで闘い抜く旨4月8日に中国商務省が表明した)ため、4月9日午前0時1分(同)を以て中国製品に対し104%の関税を賦課する旨トランプ大統領の広報官であるレビット氏が明らかにした。これに対し、米国製品に対する関税を50%引き上げ84%とする旨4月9日朝(同)に中国政府が発表した。中国の追加関税賦課の発表を受け、4月9日午後(同)にはトランプ大統領は中国に対する関税を125%に引き上げる(即時適用)旨発表した他、それはトランプ大統領就任後導入した関税率合計20%に追加されることになるため合計で145%の関税率となる旨4月10日に米国トランプ政権が説明した。中国は4月12日より米国への関税率を125%へと引き上げる旨決定したが、それ以上の対米関税率の引き上げは冗談の類となるとして取り合わない意向であるとしたものの、米国の政策により中国の利益が損なわれるようであれば、中国は毅然とした姿勢で報復するとともに、最後まで闘い抜く意向である旨4月11日に表明した。ただ、トランプ政権は4月5日午前0時1分(米国東部時間)に遡り、中国から輸入するスマートフォンやパソコン等一部のIT機器類に対する相互関税の賦課の除外を認めた旨4月12日に伝えられる。
このように、中国では経済回復がまだら模様の様相を呈していることを足元の指標類は示唆している一方、中国と米国との関税を巡る対立は高まりつつあることにより、米国のみならず中国の経済が減速するとともに同国の石油需要の伸びの鈍化を巡る不安感が市場で強まる結果、原油相場に下方圧力が加わりやすいものと考えられるが、両国が関税賦課を弱める方向で合意するようであれば、中国経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退する結果、原油相場が上振れする場面が見られる可能性がある。しかしながら、引き続き両国の関税賦課を含め政策を巡る不透明感が継続するようであれば、中国の経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が石油市場関係者の心理に影響するとともに原油相場上昇の勢いを削ぐ形で作用すると言った展開も想定されよう。
米国では、今後夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2025年は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月26日)に伴う連休(5月24~26日)から労働者の日(レイバー・デー)(9月1日)に伴う連休(8月30日~9月1日)までである)が接近するとともに、製油所が春場のメンテナンス作業を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増加させるとともに原油購入を活発化させることから、季節的に石油需給の引き締まり感が市場で強まるとともに、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。
また、大西洋圏では公式と目されるハリケーン等の暴風雨シーズン突入までにはなお若干の期間がある(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)が、現時点までに明らかになっている一部機関による2025年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想では、平年並みか平年を上回る頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する(表1参照)とされている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2024年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量41万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2024年は当該地域で日量177万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,321万バレル)の約13%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2024年の当該地域の原油精製処理能力は日量999万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,835万バレル)の約54%を占めた)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、それが原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。
2025年3月20日にOPEC事務局は、これまで原油生産目標を上回って生産を行なってきたイラク、クウェート、サウジアラビア、UAE、カザフスタン、オマーン及びロシアが、今後原油生産目標を超過して減産を実施する計画を提出した旨発表した(ただ、実際に計画通りに超過減産が実施されているとの証拠を市場が求めている旨指摘する向きもあり、この発表による原油相場への上方圧力は限られたものとなった)。また、日量216万バレル程度の自主的な減産を実施する一部OPECプラス産油国8ヶ国(サウジアラビア、クウェート、UAE、イラク、アルジェリア、ロシア、カザフスタン及びオマーン)が、4月3日に会合を開催した結果、2025年7月の原油生産目標を前倒しして同年5月に適用する(従ってその分だけ減産の緩和ペースは加速することとなる)旨決定したが、これについては、石油市場を巡る状況が健全であり、見通しも明るいことを反映したものである旨OPEC事務局は説明している(ただ、4月3日の会合とほぼ同時期に発生した原油価格下落により「非常に緊迫している」としてロシアは状況を注視する方針である旨同国大統領府のペスコフ報道官が4月7日に明らかにしている)。また、2024年1月以降の生産目標を上回る原油生産を調整すべく、この先減産目標を上回る規模の減産を行なうための計画を2025年4月15日までにOPECプラス産油国に提出するとともに、OPEC事務局がその内容を公表することについても4月3日に開催された会合で確認した。そして次回のOPECプラス産油8ヶ国による同様の会合を5月5日に開催する予定であるとした。また、4月5日に開催されたOPECプラス産油国協働閣僚監視委員会(JMMC:Joint Ministerial Monitoring Committee)においても、同様の趣旨の声明を発表するとともに、減産の完全遵守とそれに向けた超過減産による補償が極めて重要であることを改めて強調した他、次回のJMMCを5月28日に開催する予定とした。他方、2025年3月のカザフスタンの原油生産量は史上最高水準の日量188万バレルと推定されており、同国の原油生産目標である同147万バレルを相当程度超過していることから、同国及び原油生産目標を超過して生産しているイラクを含め一部産油国の減産目標を超過する原油生産水準に対して不満を持っているとされるサウジアラビアが、故意に増産を加速させることにより原油価格を下落させるとともに産油国の原油収入を抑制されるといった、言わば「懲罰的」措置を講じることにより、原油生産目標を超過して生産する産油国に減産遵守の徹底を迫ったことが、今回の減産緩和加速の背景にある旨示唆する向きもある他、原油価格の下落という、米国への便宜供与により、ウクライナとの戦闘状態が続くロシアが停戦等に向けた米国との交渉において自国に有利な条件を引き出そうとしたことが、増産を加速させ原油価格の下落を促進させる方策を決断した一因となっているとも伝えられた。
ただ、かつて、米国でのシェールオイル生産活動の活発化に伴う世界石油需給の緩和感の強まりを一因とする原油価格の下落に対し、2014年11月27日に開催されたOPEC総会において、サウジアラビアを初めとするOPEC産油国による減産見送り方針(「米国のシェールオイルを粉砕する」旨の意向をサウジアラビア等が持っていたことが背景にあったとされる)を決定したことにより、世界石油需給緩和感が顕著に強まった結果、原油価格が2016年2月11日に1バレル当たり26.21ドルと2003年5月6日(この日は25.72ドル)以来の低水準に到達、その後OPEC産油国は一部非OPEC産油国とともにOPECプラスを形成、2016年11月30日に開催されたOPEC総会及び同年12月10日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において、合計日量172.2万バレル(OPEC産油国日量116.4万バレル、非OPEC産油国日量55.8万バレル)の減産を2017年1月1日から2017年6月30日にかけ実施する旨決定することとなった。また、2020年3月6日にオーストリアのウィーンで開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、その前日の夕方に実施されたOPEC産油国による非公式協議で合意された2020年末までの日量150万バレルの減産強化案をロシアが事実上拒否した(新型コロナウイルス感染の拡大による石油需要への影響が不透明であったことから、ロシアはもう1四半期既存の減産体制を継続し様子を見るよう提案した一方、サウジアラビアは日量30万バレル減産幅を拡大し日量60万バレルの減産を実施するようロシアに要請した)ことから、交渉が決裂、OPECプラス産油国が2020年1月1日より実施していた減産措置が3月末で終了、4月1日以降OPECプラス産油国は事実上自由に原油生産を実施できるようになった結果、サウジアラビアとロシア等との間で原油価格引き下げ合戦の様相を呈したことが一因となり、石油需給緩和感が市場で増大するとともに、原油相場に下方圧力が加わったことから、原油価格は2020年3月30日には20.09ドルと2002年2月7日(この時は19.64ドル)以来の低水準となるなど、特に3月下旬以降概ね20~25ドルを中心とする領域で推移する等低迷した。このように、OPEC(プラス)産油国の結束を強めるための、半ば懲罰的な手法としての増産(ないしは減産の見送り)は原油価格の大幅下落という大きな副作用を伴うことが多く、OPECプラス産油国JMMCでなされた合意に従いOPECプラス産油国間との間での協議を継続する旨4月5日にカザフスタンのエネルギー省が表明した(また、3月はOPECプラス産油国原油生産目標を超過したが4月は原油生産量削減に向け目標を遵守した上で早期の原油生産目標超過分を一部相殺する旨同国が明らかにするとともに、同国で活動する外国石油会社と協議を実施中である旨エネルギー省が明らかにしたと、4月10日にロシア報道機関インターファクス通信が報じた旨同日ロイター通信が伝えている)ものの、投下資金の可及的速やかな回収が望ましいと考える傾向のある外国石油会社と合弁で石油開発・生産を実施している同国やイラク等の産油国は、今回の一連の会合での決定を以てしても、引き続き原油生産目標を超過した生産を継続する結果、この面では原油相場にさらなる下方圧力を加え続けると言った展開になるとも限らないので注意する必要があろう。そして、5月5日の次回の一部OPECプラス産油8ヶ国による会合等を控えての、米国のトランプ大統領によるOPECプラス産油国原油生産政策を巡る発言やOPECプラス産油国の動向、実際の次回外合での決定内容が、原油相場を変動させることとなろう。
また、世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念等が増大等する結果原油価格の下落が継続するようだと、米国等の金融機関によるこの先の原油価格見通しが下方修正され、それがさらに石油市場参加者の心理を冷やす方向で作用する結果、一時的にせよ原油価格の下落がより加速しやすくなることもありうる。
全体としては、北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近することにより季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大する中、中東の政情不安及びウクライナとロシアの対立の今後の展開次第では、これら地域からの石油供給への支障に対する懸念が増大するとともに原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、米国の相互関税を含む関税の賦課を巡り他の諸国及び地域との間での妥協が成立することにより、世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退するようであれば、原油相場が多少なりともに上振れする可能性はある。それでもトランプ政権の政策を巡る不透明感から、原油価格上昇がもたつき気味で推移すると言った展開も想定されうる。また、米国と米国外諸国及び地域による関税等を含む経済面での報復措置等を含めた対立の激化により、世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が強まるようであれば、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。さらに、中国経済を巡る動向や一部OPECプラス産油8ヶ国による減産緩和方針を巡る議論の動向等が原油相場に影響するものと見られる。
4. 原油の油種間価格差及び期間価格差を巡るに関する一考察
2023年初頭から現在に至るまで、世界石油市場において様々な要因が原油価格に影響を与えてきたが、併せて、一部の要因は特定の原油価格に強く織り込まれることにより、他の原油との価格差が拡大したり縮小したりする場面が見られたり、将来に受け渡される原油(先物)価格に比べ足元で受け渡される原油(先物)価格により強く影響を与えたりした。ここでは、2023年初頭から2025年2月を中心とする時期にかけての原油価格差や原油先物価格の期間価格差(後述)等を巡る主な状況につき説明するとともに、影響を与えた要因等につき考察を加えることとしたい。
2022年2月24日に、ロシアのプーチン大統領はウクライナの非武装化を目的とする特別軍事作戦の実施を決定するとともに、ロシアはウクライナに対する事実上の侵攻を開始した。これに対し米国を含む西側諸国等はロシア政府要人や金融機関に対する制裁を発動した。このため、この先西側諸国等の対ロシア制裁への報復措置として、もしくは西側諸国等によるさらなる対ロシア制裁の一環として、ロシア産エネルギー供給に制限が加わるのではないかとの懸念が市場で強まった。そして、3月6日には、米国のブリンケン国務長官(当時、以下役職等については同様)が、米国が欧州等の同盟国との間でロシアからの石油輸入禁止可能性につき協議中である旨明らかにしたことから、石油需給が引き締まるとの懸念が市場で一層増大したことが、原油価格を押し上げた結果、3月7日の原油(WTI)価格の終値は1バレル当たり123.70ドルと、2008年8月1日の終値(このときは同125.10ドル)以来の高水準に到達した(図16参照)(そして、実際3月8日には、米国のバイデン大統領がロシアからの原油および天然ガス等のエネルギー輸入を禁止することを内容とする制裁をロシアに対し発動する旨発表した)。これに伴い、米国のシェールオイル等の石油開発・生産を巡る採算性が改善したため、2021年12月31日には480基であった同国の石油坑井掘削装置稼働数は2022年11月23日には627基へと増加するとともに、2022年1月には日量1,144万バレルであった米国原油生産量は2023年1月には同1,261万バレル(この間の月間平均増加率0.8%)へと拡大基調となった。
加えて、2022年3月31日には、米国のバイデン大統領が、同国のガソリン小売価格を引き下げるべく、4月1日から半年間の予定で合計1.8億バレルの戦略石油備蓄(SPR:Strategic Petroleum Reserves)を市場に供給する旨発表した。従来から米国では第一次トランプ政権時代に財政収入確保のためSPR原油放出を実施していた(2018年2月9日に米国連邦議会が承認し、2018年3月から2022年4月にかけ日量8万バレル程度のペースで放出していた)が、2022年5月から10月にかけてはSPR原油の市場への供給ペースは1日当たり70万バレル程度へと拡大した(他方、4月1日には国際エネルギー機関(IEA)も加盟国の緊急時石油備蓄から市場へと石油を放出する旨発表したが、欧州IEA加盟国の緊急時石油備蓄放出ペースは推定日量6万バレル程度、アジア太平洋IEA加盟国の放出ペースは同11万バレル程度と、米国に比べ放出ペースは緩やかなものであった)。このようにSPRからの原油供給もあり、米国原油在庫は増加傾向となった(4.17億バレルであった2021年12月31日時点の同在庫量は2023年3月17日には4.81億バレルに到達した)。このように、米国での原油供給が相対的に潤沢となったこともあり、米国で産出される軽質低硫黄原油であるWTI(API比重40.6度、硫黄含有分0.2%)の価格に下方圧力が加わるようになった。
他方、2022年6月3日の欧州連合(EU)による対ロシア制裁(2022年12月5日を以てロシアからの海上輸送経由での原油輸入禁止、及び2023年3月5日を以てロシアからの海上輸送経由の石油製品輸入禁止を主な内容とする)の決定に加え、ロシアで産出され海上経由で供給される原油価格に1バレル当たり60ドルの上限を設定する等の制裁を2022年12月5日より実施する旨主要7ヶ国政府(G7)、EU及び豪州は12月2日に合意した。このため、少なくとも短期的には欧州等のロシアに代わる石油供給源の確保を巡り混乱が発生する恐れがあったことに加え、原油価格上限を課されたロシア産原油等が円滑に国外へと供給されなくなる可能性があることに対する懸念が市場で増大した結果、欧州で産出される軽質低硫黄原油であるブレント(API比重37.5度、硫黄含有分0.4%)の価格に上方圧力が加わった。このようなこともあり、2022年後半にはブレントとWTIとの原油価格差(この場合ブレントの価格がWTIの価格を上回っている)が拡大した(図17参照)他、2023年前半にかけ、概ねそのような状態は持続した(ただ、2022年12月に米国に寒波が南下したことにより同国陸上の原油生産活動に支障が発生した結果、同月の同国陸上原油生産量が減少したことが一因となり、米国の石油需給引き締まり感を市場が意識したことがWTIの価格に上方圧力を加えた結果、ブレントとWTIの価格差が縮小する場面も見られた)。
また、2022年2月24日にロシアがウクライナへの事実上の侵攻を開始して以降、西側諸国等による対ロシア制裁の発動や西側諸国等の石油会社等がロシア産石油を購入することに伴う当該石油会社等に対する評判リスク発生への懸念からそれら石油会社がロシア産石油購入を敬遠するようになったことに伴い、ロシア産石油に対する需要が減少したことにより、ロシア産原油の価格が他の原油価格に比べ相当程度割安になる場面が見られるようになった。しかしながら、ロシア産原油の割安感が強まったことにより、西側諸国等でない消費国、つまり中国やインド等がロシア産原油を大量に購入し始めた。このため、ロシア産原油に対する需要が回復する格好となったことが、同国産の中質高硫黄原油であるウラル(API比重:29.9度、硫黄含有分:1.6%)の価格を下支えするとともに、他の原油価格との格差もこれ以上拡大しないどころか、むしろ2023年1月から10月頃にかけては縮小する傾向を示した(図18参照)。
ただ、G7等が設定した海上輸送経由のロシア産原油の価格上限に違反したとして、アラブ首長国連邦(UAE)のランバー・マリン(Lumber Marine)とトルコのアイス・パール・ナビゲーション(Ice Pearl Navigation)の2社に対し米国内資産の凍結と米国人との取引停止を主な内容とする制裁を初めて科す旨2023年10月12日米国財務省が発表した。このようなことから、ロシア産原油の引き取りが改めて敬遠されるとの観測が市場で発生した結果、2023年11月以降2024年5月頃にかけ、ウラルの価格がブレントの価格に比べ相対的に割安になる場面が見られた。
また、中国における都市封鎖を含む新型コロナウイルスの厳格な感染抑制策実施に伴う同国の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がったことにより、同国の製油所で主に処理される中質・重質原油の需要への負の影響を巡る観測から中国に向け相当量の原油を輸出する地域である中東で産出される中質高硫黄原油であるドバイ(Dubai、API比重30.4度、硫黄含有分2.1%)や、米国メキシコ湾沖合で産出される、類似の品質の原油であるマーズ・ブレンド(Mars Blend、API比重29.7度、硫黄含有分1.9%)の価格に下方圧力が加わる場面が見られた。しかしながら、2022年11月30日に中国広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、2023年前半を中心とする時期にかけ、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が中国において緩和され続けたこともあり、同国の石油需要、そして同国の製油所が主に処理する中質・重質高硫黄原油の購入が回復するとの見方が市場で広がったことが、2022年末から2023年前半を中心とする時期において、ドバイやマーズ・ブレンドといった原油の価格に上方圧力を加えた結果、それら原油の価格がWTIに比べ相対的に割高になる場面が見られた(図19参照)。
しかしながら、米国のシェールオイル増産やSPRの放出に伴う世界石油需給の緩和感が市場で醸成されたこともあり、2022年後半以降原油(WTI)価格は下落基調となり、2023年3月17日には1バレル当たり66.74ドルの終値とロシアのウクライナ侵攻以前の時点である2021年12月3日(この日の終値は同66.26ドル)以来の低水準に到達したこともあり、米国においてシェールオイルを含む原油生産を巡る採算性が悪化したことにより、同国における石油坑井掘削装置稼働数が減少傾向となった(2023年10月6日には497基と2022年2月4日(この時は497基)以来の低水準に到達した)。それとともに、2023年1月以降同国のシェールオイルを含む原油生産の伸びが鈍化し始めた(2023年1月から2025年3月(原油生産量日量1,355万バレル)にかけての同国月間平均原油生産増加率は0.3%であった)。また、米国のSPRから市場への原油供給も2023年1月13日に一旦ほぼ完全に停止した後、2023年4月1日から6月30日にかけ2,600万バレルのSPR低硫黄原油の放出を行なう旨2023年2月13日に米国エネルギー省が発表した(財政収入確保を目的とした2015年超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2015)(2015年11月2日成立)等に伴い予め2023年会計年度に放出を行なう予定であった)とともに、実際にSPR原油が放出されたが、それも2023年7月14日以降はほぼ完全に停止した。このようなことから、米国の原油在庫は減少傾向となり2023年9月29日には4.14億バレルと2022年12月2日(この日の在庫量は4.14億バレル)以来の低水準に到達した。また、併せて米国原油(WTI)先物契約受渡地点である同国オクラホマ州クッシングの原油在庫も減少、2023年10月6日には2,177万バレルと2022年7月8日(この時は2,165万バレル)時点以来の低水準となった。このようなことから、WTIの価格に上方圧力が加わるようになった結果、2023年6月から10月にかけブレントとWTIの価格差は概ね縮小傾向を示した。
ただ、2022年11月1日よりOPECプラス産油国が減産を日量200万バレル拡大して実施したことに加え、2023年5月1日にはサウジアラビアを初めとする一部OPECプラス産油国が合計で日量116万バレルの自主的な追加減産の実施を開始した。さらに、同年7月1日にはサウジアラビアがさらに日量100万バレルの自主的な追加減産の実施を開始したうえ、当初7月のみの実施であった当該追加減産を2023年末まで延長する旨9月5日に国営サウジ通信が伝えた(最終的には同水準での減産は2025年3月まで継続することとなった)。OPECプラス産油国による減産措置が実施される場合、しばしば品質が相対的に劣後することにより価格が割安になりやすい中質・重質高硫黄原油の供給削減が優先されることになる。このため、同品質の原油の供給が減少するとの観測のもと、中質・重質高硫黄原油の需給の引き締まり感が市場で強まった結果、2023年の後半においても、中質高硫黄原油であるドバイ及びマーズ・ブレントの価格に上方圧力が加わったことが、WTIとの価格差を保つ形で作用した。
また、2023年5~7月を中心とする期間においてカナダのオイルサンド(重質高硫黄)を含む石油生産の主要地域であるアルバータ州において大規模な山火事が発生したことにより、同国の石油生産(重質高硫黄のものが中心である)が停止する等大きな影響を受けたこともあり、この時期を中心として、マーズ・ブレントの価格がWTIの価格に対し割高となった他、同じ中質高硫黄原油であるドバイの価格にも上方圧力が多少なりとも加わったものと考えられる。しかしながら、その後カナダでのアルバータ州での山火事が沈静化に向かうとともに、同地域でのオイルサンドの生産が回復し始めたことにより、北米地域の重質・高硫黄原油需給の緩和感を市場が意識し始めるとともに、8~9月を中心とする時期においてはマーズ・ブレンド及びドバイの価格がWTIの価格に対し割安になる場面が見られた。
それでも、2023年10月7日にパレスチナ自治区ガザ地区を実質的に支配するイスラム武装勢力ハマスがイスラエルへの大規模攻撃を実施、以降イスラエルとハマスとの間で戦闘状態に突入したこともあり、中東情勢の不安定化に伴い同地域の中質・重質高硫黄を中心とする原油供給に影響が及ぶ恐れがあるとの懸念が市場で増大したことや、中東に比較的市場が近い欧州における石油需給の引き締まり感が意識されたことが、中質高硫黄原油のマーズ・ブレンドや欧州で産出される軽質低硫黄原油であるブレントの価格に上方圧力を加えた結果、マーズ・ブレント及びブレンドとWTIとの価格差が拡大した。イスラエルとハマスとの間の戦闘状態は一時的に停止することはあっても持続せず、2024年以降においても継続したが、そのような中、シリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺が攻撃され、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の上級司令官モハンマド・レザ・ザヘディ(Mohammad Reza Zahedi)氏を含む軍事顧問7人が死亡した旨2024年4月1日に報じられた(イスラエルは攻撃の実施につき何も表明しなかったが、攻撃はイスラエルによるものである旨4月1日にニューヨーク・タイムズが報じていた他、その後死亡者は軍事関係者7人、民間人6人の計13人と伝えられた)ことに伴い、報復措置を講ずる方針である旨イラン外務省が4月1日に表明した他、4月2日にはイランの最高指導者ハメネイ師及びライシ大統領も報復措置を講ずる方針である旨明らかにした。このようなことから、イスラエルとイランとの対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化により同地域において主に生産される中質・重質高硫黄原油供給への影響を巡る懸念が増大したことから、同時期ドバイ及びマーズ・ブレンドを含む中質及び重質高硫黄原油価格がWTIのような軽質低硫黄原油に比べより上昇する場面が見られた他、中東により市場が近い欧州のブレントの価格がWTIの価格に比べ割高となる場面も見られた。
しかしながら、2024年6月2日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合に際し、サウジアラビア、アルジェリア、イラク、クウェート、UAE、ロシア、カザフスタン及びオマーンの8ヶ国による対面形式での会議が別途開催され、これら産油国が2024年1月1日以降2024年6月30日にかけ実施中であった日量216万バレル程度の自主的な追加減産を、概ね同水準で2024年9月末まで延長したうえ、以降毎月概ね一定量で以て縮小、2025年9月を以て終了することと併せ、UAEの原油生産量を2024年10月から2025年9月にかけ1月当たり日量約3.3万バレル拡大する旨決定した。これにより、中東湾岸OPECプラス産油国が主に生産している中質・重質高硫黄原油の供給が拡大するとの観測が市場で強まった。加えて、2024年7月15日に中国国家統計局から発表された同年第2四半期の同国国内総生産(GDP)が前年同期比4.7%の増加と第1四半期の同5.3%から相当程度低下した旨判明して以降、中国経済が減速しつつあることを示唆する経済指標類が複数明らかになったことから、同国石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生した。このようなこともあり、中東及びアジアの主要原油指標である中質高硫黄原油であるドバイの価格や同様の品質の原油であるマーズ・ブレンドの価格に下方圧力が加わった結果、2024年後半を中心とする時期においては、両原油価格がWTIやブレントの価格に比べ割安になる場面がしばしば見られるようになった。
しかしながら、その後減産措置緩和等を2024年10月から12月へと延期する旨9月5日にOPEC事務局が発表(国営サウジ通信も報道)、さらに、2025年1月へと減産措置緩和等を延期する旨11月3日に決定したとOPEC事務局が発表した他、2024年12月5日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際し別途開催された、自主的な減産措置を実施している一部OPECプラス産油国8ヶ国による会合においては、減産措置緩和等の開始時期を2025年4月へとさらに3ヶ月間延期したうえ、段階的な緩和期間を当初の12ヶ月間から18ヶ月間へと拡大する結果、2026年9月にかけより緩やかに減産を緩和していくこと等を決定した。このようなことから、同時期中質及び重質高硫黄原油の需給引き締まり感が相対的に強まったこともあり、ドバイ及びマーズ・ブレンドの価格に上方圧力が加わった結果、それら原油価格がWTIに比べ支持されたり、上昇したりする場面が見られた。
加えて、2024年11月5日に実施された米国大統領選挙において、トランプ前大統領が当選したことにより、同氏がイラン及びベネズエラに対する制裁を強化する結果、両国からの中質・重質高硫黄原油の供給が削減される恐れがあるとの見方が市場で発生したこともあり、中質・重質高硫黄原油の需給引き締まり感が意識されたことも、WTIといった軽質低硫黄原油よりもドバイやマーズ・ブレンドといった中質高硫黄原油に相対的により強く上方圧力を加える格好となった。
また、ロシア大手石油会社ガスプロム・ネフチ(Gazprom Neft)及びスルグトネフチガス(Surgutneftegas)(2024年1~10月の両社の海上経由の石油輸出は日量約97万バレルと、ロシアの海上経由石油輸出全体の約30%を占めるとされる)及びその関係会社、そして、インゴスストラフ(Ingosstrakh)を含む同国保険会社、さらには、新たに石油タンカー183隻等に対し、制裁を発動する旨2025年1月10日に米国財務省及び国務省が発表したことにより、ロシアの石油供給を巡る混乱に対する懸念が市場で増大したことから、ロシアの主要原油であるウラルと品質が類似する中質・重質高硫黄原油の需給引き締まり感が強まるとともに、例えばドバイ及びマーズ・ブレンドと言った中質高硫黄原油の価格がブレント及びWTIといった軽質低硫黄原油に比べより割高となる場面が見られた。
他方、例えばウエスト・カナダ・セレクト(WCS:West Canada Select、API比重20.0度、硫黄含有分3.7%)といったカナダ産の重質高硫黄原油は、米国へのパイプラインを経由した輸送経路及び輸送能力が限定されていた反面、オイルサンドを中心として供給が拡大傾向となっていたこともあり、WTIに対して相当程度割安な価格で取引されていた(図20参照)他、特に米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期でない時期(不需要期)においては、米国メキシコ湾岸を中心とする製油所からの需要が落ち込むため、WTIに対しさらに割安な価格で取引されていた(なお、2023年は、5~7月を中心とする期間において同国アルバータ州において大規模な山火事が発生したことにより、同国の石油生産が停止する等大きな影響を受けたこともあり、WCSの価格に上方圧力が加わった結果、WTIの価格に対する割安感が低減する場面が見られたが、その後山火事が鎮圧されたこともあり、8月以降WCS価格のWTI価格に対する割安感が強まったといった側面もあった)。しかしながら、2024年5月1日にトランス・マウンテン・パイプライン(Trans Mountain Pipeline)(カナダ・アルバータ州エドモントン~同国ブリティッシュコロンビア州バーナビー(Burnaby)、操業者:トランス・マウンテン)の拡張部分が操業を開始した(これにより従来日量30万バレルであった同パイプラインの原油輸送能力は同89万バレルとなった)ことにより、同国アルバータ州で生産される石油のより多くが西方に輸送され、同国太平洋岸から米国西海岸やアジア諸国及び地域といった市場に販売することが可能となったことに伴い、より多くのカナダ産原油がアジア太平洋諸国及び地域に向け輸出される結果、カナダ国内での原油需給が引き締まる可能性があるとの見方が市場で発生したことが、WCSの価格に上方圧力を加えた結果、2024年においては米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了しても価格面においてWCSがWTIを下回る幅は限定的な規模にとどまった。また、2024年11月5日に実施された米国大統領選挙において、トランプ前大統領が当選したことにより、同氏がイラン及びベネズエラに対する制裁を強化する結果、両国からの中質もしくは重質高硫黄原油の供給が削減される恐れがあるとの観測が市場で発生したこともあり、重質高硫黄原油の需給引き締まり感が意識されたことも、WTIに比べ重質高硫黄原油であるWCSの価格を強含ませた。
さらに、2025年2月4日午前0時1分(米国東部時間)を以て米国が中国から輸入される製品に対し10%の関税を賦課する措置を発動したことに対し、2月10日より米国産石炭及び液化天然ガス(LNG)に対し15%、原油、農機具及び一部の自動車に対し10%の関税を賦課する旨2月4日に中国財政省が表明した他、一部の重要金属類に対し輸出規制を発動する等の措置を旨2月4日に中国商務省が発表するなどしたうえ、2月13日には米国のトランプ大統領が相互関税賦課の方針を表明(当該関税の賦課を指示する覚書に同日署名)したこと、3月4日には米国のトランプ大統領が中国に対する10%の追加関税賦課(2月4日に賦課した10%と併せて20%)に関する大統領令に署名した旨3月3日午後遅く(米国東部時間)に報じられた他、3月4日午前0時1分には実際に同関税賦課が発効した反面、3月4日に中国政府が210億ドル相当の米国産農産物及び食品等に対し10~15%の関税を賦課する他、米国企業25社を輸出及び投資を規制する対象にする旨発表したこともあり、米国の関税賦課への報復として相手国及び地域が米国産原油に報復関税を賦課する結果、同国産原油が割高になることから、代替として近隣のカナダ産原油への需要が増加するとの観測が市場で増大したことが、WCS価格に上方圧力を加える格好となったこともあり、2月初旬頃以降4月中旬にかけWCS価格のWTI価格を下回る幅は縮小傾向を示している(図21参照)。
他方、ベネズエラにおいては、従来マドゥロ大統領と反体制派との間での対立が継続、米国を含む西側諸国等は反体制派を支持するとともに、ベネズエラ産原油の輸入を原則禁止する等の措置を講じていた(2019年1月10日にベネズエラのマドゥロ大統領選出方法が適正なものではなかったことを理由に2019年1月28日に米国は対ベネズエラ制裁を発表、内容は同年4月28日を以て米国石油会社のベネズエラ産原油輸入を原則禁止(PDVSAの米国子会社であるシトゴ(Citgo)は7月28日に原則禁止)するというものであった)。しかしながら、2022年11月26日には、マドゥロ政権側と反体制側との間で対立緩和を目指す協議が再開(当該協議は2021年10月16日以降中断していた)した。これに伴い、大手国際石油会社シェブロンのベネズエラでの事業実施を6ヶ月間の限定ではあるが承認した旨同日米国財務省が発表した。これによりシェブロンは、ベネズエラ国内での同社とベネズエラ国営石油会社PDVSAとの間での共同事業により原油を生産及び精製することや、ベネズエラ産石油を米国に持ち込んで販売すること等が認められた。
また、国際的な監視の下で2024年後半に公正な大統領選挙を実施することで、2023年10月17日にベネズエラのマドゥロ政権と同政権に反対してきた野党勢力が合意したことを受け、ベネズエラの石油産業等に対する制裁を緩和した(半年間に渡り同国石油・天然ガス部門における取引を許可する他PDVSAの株式や社債の取引の禁止を解除することが含まれる)旨10月18日午後遅く(米国東部時間)に米国財務省が発表した。
このようなことから、ベネズエラから国外に向け同国産原油の輸出が促されるとともに、同国産原油需給の相対的な引き締まり感が市場で意識されるようになったことから、例えばベネズエラで産出される原油である重質高硫黄原油であるメレイ(もしくはメレイ16)(Merey)(API比重16.4度、硫黄含有分3.0%)の価格に上方圧力が加わった結果2023年11月以降同原油価格のWTI価格を下回る幅が縮小傾向となった(図22参照)。
しかしながら、2023年10月22日に野党側の大統領予備選挙が実施されマチャド(Machado)元国会議員が選出されたものの、10月30日にベネズエラ最高裁判所(マドゥロ大統領に近いとされる)が、この予備選挙で不正行為があったとしたうえで、結果の効力を停止する旨発表した。そして、2024年1月26日には同国最高裁判所が大統領選挙においてマチャド氏の出馬を禁止する旨決定した。これに対し、米国財務省はベネズエラ国営鉱山会社ミネルベン(Minerven)を含む企業との取引を2月13日までに停止するよう米国企業に求める他、米国の対ベネズエラ制裁緩和措置の期限となっている4月18日以降の当該緩和措置延長を行わない結果、米国国内でのPDVSAとの取引を認めないといった、事実上の制裁の再強化措置を発動した旨1月29日夜(米国東部時間)から1月30日にかけて報じられた。
そして、2024年7月28日に実施されたベネズエラ大統領選挙投票においては即日開票の結果現職のマドゥロ大統領が当選した旨7月29日に同国選挙管理委員会(マドゥロ大統領に近いとされる)が発表した(7月28日以降選挙管理委員会はマドゥロ氏の得票率を51~52%、対立する野党統一候補のゴンザレス(Gonzalez)氏(元外交官でマチャド氏の代わりに4月19日に候補として擁立された)の得票率を43~44%としている)。しかしながら、投票所の出口調査による推定からゴンザレス氏が627万票、マドゥロ氏が275万票を、それぞれ獲得したと野党側は主張(選挙管理委員会はマドゥロ氏が515万票、ゴンザレス氏が445万票を、それぞれ獲得した旨明らかにしていた)するなど、大統領選挙におけるマドゥロ氏の当選を巡っては不正行為が行なわれている旨疑われた。
そのような中、2024年11月5日に実施された米国大統領選挙において、トランプ前大統領が当選したことにより、同氏がイラン及びベネズエラに対する制裁を強化する結果、両国からの中質もしくは重質高硫黄原油の供給が削減される可能性があるとの見方が市場で発生したこともあり、中質・重質高硫黄原油の需給引き締まり感が意識されたことにより、メレイの価格がWTIの価格に比べ相対的に割高になる場面が見られた。そして、ベネズエラのマドゥロ政権が米国からの移民送還や選挙改革を進めていないとして大手国際石油会社シェブロンの同国における石油事業実施許可につき2025年3月1日を以て終了する意向である旨2月26日に米国のトランプ大統領が表明したことから、メレイの価格がWTIの価格に対し相対的に堅調になった。
続いて、WTIの期間価格差(第1限月(直近の受渡月)と第2限月(第1限月の次の受渡月)の価格差(第1限月価格-第2限月価格))を見てみることとする。2022年11月30日以降中国では新型コロナウイルス感染抑制策が緩和され始めたものの、その後少なくとも暫くの間は同国の製造業の回復がもたつき気味となったことにより、足元の同国経済及び石油需要に対する懸念が市場で残存したこと、2022年2月24日以降のロシアのウクライナ侵攻に伴う原油価格の上昇を沈静化させるべく、米国においてSPRから原油が市場に供給されるとともに国内原油生産が好調となったこともあり、同国の原油在庫が増加基調となったことが、特にWTIの第1限月価格に下方圧力を加えた結果、原油価格の期間価格差は縮小するとともに、2022年11月18日以降は第1限月価格が第2限月価格を下回る(いわゆる「コンタンゴ(順鞘)」と言われる)状態が出現するようになり、特に2023年2月6日には第1限月価格が第2限月価格を1バレル当たり0.35ドル下回る場面も見られた(図23参照)。しかしながら、2023年7月14日以降米国のSPRの市場への放出が停止した他2023年7月1日にはサウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を開始したこと、及び中国経済の原油輸入や製油所の原油精製処理量が好調である旨示された(2023年6月の同国原油輸入は推定日量1,270万バレルと史上2番目の高水準となった他、2023年8月の同国原油精製処理量は同1,528万バレルと史上最高水準に到達した)ことにより、堅調な同国石油需要の観測が市場で強まったこともあり、足元の石油需給の引き締まり感を市場が意識した結果、2023年7月6日以降WTIは再び第1限月価格が第2限月価格を上回る(いわゆる「バックワーデーション(逆鞘)」と言われる)状態に転換、さらに国内の需給引き締まりへの対策として、9月21日以降ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア及びキルギスタンへの輸出を除き、軽油及びガソリンの輸出を禁止する旨ロシアが9月21日に発表したことにより、冬場の暖房シーズン到来を控えた世界の軽油(欧米等一部地域において暖房用燃料として利用される)需給引き締まり感が増大したことが特にWTIの第1限月価格に上方圧力を加えた結果、WTIの期間価格差は9月27日には1バレル当たり2.38ドルにまで拡大した。
しかしながら、2023年10月から12月にかけ中国の製造業購買担当者指数(PMI)が、同国製造業が縮小しつつある旨示した他低下傾向となったこともあり、同国の経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したこと、米国において秋場の石油不需要期から冬場の暖房用石油製品需要へと移行したものの、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に比べれば同国の石油需要が低水準となったこともあり、クッシングの原油在庫が増加傾向となったことが、WTIの第1限月価格に下方圧力を加えた結果、2023年11月15日以降WTIの第1限月価格が第2限月価格を継続的に下回る状態となり、2023年には期間価格差が1バレル当たりマイナス0.50ドルにまで拡大した。
それでも、2024年1月24日深夜から1月25日未明(現地時間)にかけ、ロシア南部黒海沿岸都市トゥアプセ(Tuapse)における製油所で無人機(ウクライナが発射したものと見られている)による攻撃を受けたことにより火災が発生した他、それ以降もしばしばウクライナによるロシアの石油関連インフラが攻撃されたことにより、同国からの石油供給途絶懸念が市場で発生した。加えて、2023年10月7日以降ガザ地区において、イスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間で戦闘状態となった他、11月19日以降ハマスを支援すべくイエメンのフーシ派武装勢力が紅海沖合等に向けミサイルや無人機等を発射するようになり、イエメン南部の都市アデンの沖合でナフサを積載したタンカーがフーシ派武装勢力の攻撃により炎上した旨2024年1月26日に伝えられた他、その後もしばしばフーシ派武装勢力によるタンカーを含む船舶の攻撃が行なわれた。これらに要因により、特にロシアからも中東からも比較的至近距離である欧州で産出されるブレントの価格に上方圧力が加わった結果、WTIの価格に比べブレント価格の割高感が強まったこともあり、米国からの原油輸出が促されるとともに、クッシングの原油在庫が減少傾向となったことから、2024年2月8日以降は継続的に(2024年11月18日を除き、2025年4月11日に至るまで)WTIの第1限月価格が第2限月価格を上回る状態となった他、米国では5月27日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日に伴う連休(5月25~27日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したこともあり季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識される中、7月3日にイスラエル軍がレバノン南部を攻撃した結果、イスラム武装勢力ヒズボラの上級司令官(ムハンマド・ナーマ・ナセル指揮官)が死亡したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、7月18日にはWTIの期間価格差が1バレル当たり1.55ドルに到達する場面も見られた他、7月31日にハマスの最高指導者ハニヤ氏がイランの首都テヘランにおいて暗殺されたことによる、イランによる対イスラエル報復措置の実施意向表明を含む、同国とイスラエルとの対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念の増大等が足元の石油需給引き締まり観測を発生させるとともにWTIの第1限月価格に上方圧力を加えたこともあり、8月12日には同原油の期間価格差が1バレル当たり1.60ドルに到達する場面も見られた。
しかしながら、その後は9月2日の米国労働者の日(レイバー・デー)の休日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに季節的な石油需給の緩和感が市場で意識されるようになった他、7月15日に中国国家統計局から発表された2024年第2四半期の同国GDPが前年同期比4.7%の増加と第1四半期の同5.3%から相当程度低下した旨判明して以降、中国経済が減速しつつあることを示唆する経済指標類が複数明らかになったことから同国の石油需要の伸びの鈍化観測が市場で発生したこと、2024年6月2日に開催された会合等において自主的な減産を実施していた一部OPECプラス産油国8ヶ国が減産を段階的に縮小すること等で合意した他、イスラエルとハマス等との戦闘状態は継続したものの、実際の中東地域からの石油供給への影響は限定的であったこと等により、特に足元の世界石油需給引き締まり感が後退し始めたことが、WTIの第1限月価格に下方圧力を加えるとともに、同原油の期間価格差は縮小、2024年11月18日には同原油の当該価格差は1バレル当たり0.01ドルとなった。
ただ、米国のバイデン政権がウクライナに対し米国製長距離兵器を使用したロシアへの攻撃を承認した(ウクライナ攻撃に際し北朝鮮軍がロシア軍に合流したことを理由としている)旨11月17日に伝えられた他、米国製の長距離地対地ミサイル「エイタクムス(ATACMS)」を使用してロシア西部ブリャンスク州の軍事拠点(弾薬庫)を攻撃した旨11月19日にウクライナが公式に認めた一方、ロシアのプーチン大統領が同国の核原則を改定し核兵器の使用可能性を事実上拡大した旨11月19日に発表した他、欧米から供与された長距離兵器を使用してウクライナがロシアを攻撃したことへの報復として、11月21日にロシアが超音速中距離弾道ミサイル「オレシュニク」を試験的に使用しウクライナを攻撃した旨11月21日にプーチン大統領が発表したうえ、ロシアは今後も同ミサイルを継続的に生産するとともに、直ちに使用可能な在庫を利用する等により、今後もウクライナに対し同ミサイルを発射し続ける旨11月22日に同大統領が示唆した。加えて、中国共産党が開催した中央政治局会議において、金融政策を適度に緩和的な姿勢とする旨変更した(2011年以降同国は穏健な金融政策を実施してきた)旨12月9日に報じられた。さらに、ロシア大手石油会社ガスプロム・ネフチ及びスルグトネフチガス及びその関係会社、そして、インゴスストラフを含む同国保険会社、さらには、新たに石油タンカー183隻等に対し、制裁を発動する旨2025年1月10日に米国財務省及び国務省が発表したことにより、それまでロシア産原油を輸入していた中国やインドを含む諸国及び地域が同国産原油の引き取りを躊躇するとともに他国産原油の調達を積極化する可能性があることに対する観測が市場で増大した結果、足元の世界石油需給引き締まり感が市場で強まったことから、1月13日にはWTIの期間価格差が1バレル当たり1.52ドルへと拡大した。しかしその後、中国やインドと言った諸国が米国の制裁を回避してロシア産原油輸入を継続するとの観測が市場で発生したことや、ガザ地区を巡るイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間での紛争状態につき、第1段階として1月19日より6週間に渡り停戦を実施し、ハマスが拘束する女性、子供及び高齢者等の人質33人を解放する一方、イスラエルはガザ地区の都市部から撤退するとともに同国が拘束しているパレスチナ人数百人を釈放する旨1月15日にイスラエルとハマスとの間で合意に到達した。そして、停戦は1月19日午前11時15分(現地時間)に発効、これに伴いイエメンのフーシ派武装勢力は、今後はイスラエルと関係のある船舶に攻撃を限定する意向である旨1月20日に伝えられたこともあり、足元の世界石油需給引き締まり懸念が市場で後退したことが、WTIの第1限月価格に下方圧力を加えたこともあり、WTIの期間価格差は縮小、2月18日には、その幅は1バレル当たり0.02ドルとなった。
それでも、その後、ロシアのクラスノダール地方のクロポトキンスカヤ(Kropotkinskaya)原油圧送基地が2月17日に無人機で攻撃された(ウクライナが攻撃したとロシアは主張した)結果、これにより、カザフスタンから原油を輸送するカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)のパイプライン(カザフスタン・テンギス~ロシア・ノボロシイスク)の原油輸送量(2024年は日量126万バレル程度のCPCブレンド原油を輸送したが、2~3月は日量160万バレルの原油を出荷する予定であったとされる)が減少した旨2月17日に伝えられる他、当該攻撃により、最長で2ヶ月間同パイプラインの原油輸送量が30%程度減少する恐れがある旨パイプライン操業者であるロシア国営パイプライン会社トランスネフチ(Transneft)が2月18日に明らかにしたことや、イランからの石油供給に関与しているとされる、イラン国営石油経営責任者、イランの石油輸出ターミナル運営業者、中国及びインドのタンカー事業者、UAE及び香港の石油取引業者等30超の事業者及び個人に対し制裁を発動する旨2月24日に米国財務省が発表したこと、ベネズエラのマドゥロ政権が、米国からの移民返還や選挙改革を進めていないとして、3月1日を以て大手国際石油会社シェブロンの同国における石油事業実施許可を終了する意向である旨、2月26日に米国のトランプ大統領が表明した他、シェブロンの同国における石油輸出を含む事業を4月3日までに終了する旨3月4日に米国トランプ政権が発表したこと、減少した米国のSPRを最大限積み上げるため今後最大200億ドルの資金を確保するべく同国エネルギー省のライト長官が計画している旨3月7日に同省が明らかにしたこと、トランプ大統領がイランの原油生産に対し制裁を加える用意がある旨3月10日にエネルギー省のライト長官が明らかにした旨同日夕方(米国東部時間)に報じられたこと、3月2日にイスラエルがガザ地区に対し人道支援物資の搬入を全面的に禁止したことに対し、イエメンのフーシ派武装勢力がイスラエル船舶に対する攻撃を即時再開する意向である旨表明したと3月11日夜(米国東部時間)に報じられた一方、イランのパクネジャド石油相に加え米国等の制裁を回避した原油輸送等に関与しているタンカー10隻等に対し制裁を科する旨3月13日に米国財務省が発表したこと、3月15日に米国のトランプ大統領がフーシ派武装勢力に対し軍事行動を実施するよう指示した(作戦は少なくとも数日間は継続するとされた)が、フーシ派武装勢力は米国の攻撃には対応する用意がある旨明らかにしたと同日報じられた他、3月16日には、米国のヘグセス国防長官が、フーシ派武装勢力が攻撃を停止するまでは米軍は容赦なく軍事作戦を実行する旨表明、3月17日にはイエメン南西部の港湾都市ホデイダ(Hodeidah)や北西部のアルジャウフ(Al-Jawf)県を米軍が空爆したうえ、今後のフーシ派武装勢力の攻撃に関してはイランに責任を負わせる旨3月17日に米国のトランプ大統領が警告した反面、3月16日にはフーシ派武装勢力が米国の空母「ハリー.S.トルーマン」を攻撃した旨発表(米国はフーシ派武装勢力が発射した無人機を全て撃退した旨明らかに)した他、3月17日にも同空母に対し攻撃を実施した旨フーシ派武装勢力が表明したこと、ガザ地区中部及び南部の地上における作戦を開始した旨3月19日にイスラエル軍が発表したこと、イラン産原油を購入しているとされる中国の独立系製油所である山東寿光魯清石化公司とその最高経営責任者(CEO)王学清氏及びイラン産原油の輸送に関与したとされる12の組織及び8隻のタンカーに対し制裁を科する旨3月20日に米国国務省及び財務省が発表したこと、米国への移民や犯罪行為を理由として、ベネズエラ産原油及び天然ガスを購入する国に対し例外なく4月2日より25%の関税を賦課する方針である旨3月24日に米国のトランプ大統領が表明したこと、米国の対イラン制裁強化により、イランの原油輸出量(足元日量160万バレル程度であるとされる)は第一次トランプ政権時代の水準(日量40万バレル程度)へと削減されるかもしれない旨、4月11日に米国エネルギー省のライト長官が示唆したと同日伝えられた等により、中東やベネズエラ等からの原油供給上の支障を巡る懸念が発生するとともに足元の石油需給引き締まり感を市場が意識したことが、WTIの第1限月価格に上方圧力を加えたことから、同原油の期間価格差は拡大、4月11日にはその幅が1バレル当たり0.60ドルに到達した。
以上
(この報告は2025年4月14日時点のものです)