ページ番号1010478 更新日 令和7年4月24日

豪州連邦選挙に向けた与野党の資源エネルギー政策方針

レポート属性
レポートID 1010478
作成日 2025-04-24 00:00:00 +0900
更新日 2025-04-24 14:27:42 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 基礎情報
著者
著者直接入力 新川 達也
年度 2025
Vol
No
ページ数 8
抽出データ
地域1 大洋州
国1 オーストラリア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 大洋州,オーストラリア
2025/04/24 新川 達也
Global Disclaimer(免責事項)

このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。

※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.

PDFダウンロード524.7KB ( 8ページ )

概要

  • 2025年5月3日に豪州連邦議会選挙を開催予定。
  • 現与党の労働党は気候変動対策を重視し、2030年までのGHG排出量の43%削減(対2005年比)、2050年までのネットゼロを目標として設定。2024年7月には「Safeguard Mechanism」を改正し、排出事業者に対して年4.9%の排出削減を義務付けている。また、新たにEnvironment Protection Australiaを設立し、環境影響評価の厳格化を図る模様。
  • 労働党は2025/26年度予算案にて、新たにグリーンアイアン・アルミニウムの製造支援、クリーンエネルギーへの資金提供など発表。
  • 現野党の保守連合は国内エネルギー安定供給を重視し、新たに「National Gas Plan」を発表。豪州東部へのガス留保や新規ガス探査・開発の推進を実施する意向。
  • また、保守連合は原子力発電をベースロード電源とした多様な電源構成を図り、2030年代半ばには豪州初の原発稼働を目指す。
  • 重要鉱物については労働党同様に保守連合も支援する意向を示しているが、労働党とは支援方針が異なり、重要鉱物リストの拡大や探鉱資金の提供を支援策として掲げている。
  • 保守連合が勝利した際は、労働党が設定したGHG排出削減目標や「Safeguard Mechanism」の見直しが示唆されている。

 

1. はじめに

豪州では2025年5月3日に連邦議会選挙の実施を予定している。本稿では、現与党労働党及び現野党保守連合(自由党と国民党の連合)における資源エネルギーに関する政策方針について整理し、概観する。

 

2. 労働党の資源エネルギー政策方針

労働党は気候変動対策を重視しており、脱炭素政策として2024年7月に「Safeguard Mechanism(SGM)[1]」を改正した。再生可能エネルギー、グリーン水素、重要鉱物を主に支援しており、2024/25年度の予算案では、グリーン水素及び重要鉱物の生産税を控除する計画を発表した。一方で、豪州における電気代高騰やガス不足の懸念を受けて、2024年5月に発表した「Future Gas Strategy」では、新規ガス開発や、それに伴うCCS事業の重要性も示されたが、現在まで具体的な支援策は明らかにされていない。

2025年連邦選挙においても気候変動対策を重視する方針であり、環境影響評価の厳格化を目的として、新たに独立環境監視機関としてEnvironment Protection Australiaを設立する意向である。また、環境規制を強化するNature positive法案[2]の議会への再提出を示唆している。同法案は2025年2月に西オーストラリア州Roger Cook首相や鉱業界からの反対を受けて一度撤回したものである。

 

(1) ガス、CCS

労働党は選挙公約として新たなエネルギー戦略など発表しておらず、再選した際には以下に示すようなこれまでの政策を踏襲するものと思われる。

労働党は2024年5月に「Future Gas Strategy[3]」を発表し、新規ガス開発やCCSの必要性、国外にLNGを安定供給する意向を示した。また、オフショア鉱区の拡大、許認可プロセスの合理化、投資の促進などの必要性が示されたが、現在まで具体的な支援策は明らかにされていない。業界からは新規ガス開発の重要性を認識していることを評価する一方で、新規開発を進めるためには投資環境の整備や具体的な支援策の導入が必要などの意見が見受けられた。また、2025年3月には、同戦略の一環として、鉱区保有者が開発せずに長期保有することを防ぐ「use it or lose it」制度のガイドラインに関する協議を開始したことが報道された[4]

豪州において特に東部ではガス不足が懸念されており、豪州国内ガス保障制度「Australian Domestic Gas Security Mechanism(ADGSM)[5]」の下で、LNG事業者への輸出制限の必要性が定期的に検討されている。同制度は2023年4月に改正され、発動検討の頻度を従来の1年から四半期ごととし、ガス不足が予測される市場のLNG事業者は不足量を均等に負担することとされた。また、ガス不足の対応策の一つとして、海外からのガス輸入も検討されている。ニューサウスウェールズ州のPort KemblaやPor of NewcastleなどにおいてLNG輸入プロジェクトが計画されている。

ガス価格の高騰に対しては、2022年12月に連邦及び各州政府がエネルギー価格救済策「Energy Price Relief Plan[6]」に合意し、東部ガス市場向けに新規に締結する国内卸売ガス契約においてガス価格の上限をその後12か月にわたり12 A$/GJに設定した。その後は2023年7月に国内ガス市場取引における強制的な行動規範「Mandatory Gas Code of Conduct[7]」を導入し、現在も原則として東部市場向けのガス価格の上限を12 A$/GJとしている。

CCSに関しては、ロンドン議定書[8]第6条改正の批准に向けた「Environment Protection (Sea Dumping)Amendment (Using New Technologies to Fight Climate Change) Bill 2023」が2023年11月に議会で可決された[9]。その後、2024年11月にはロンドン議定書第6条改正の「Declaration on Provisional Application」を国際海事機関(IMO)に寄託したことで、同様の宣言をした国との越境CCSを可能とした[10]。また、2024/25年度予算では、CO2の輸出入を可能にするため、CCSに関する規制整備などに32.6百万A$(約30億円)を拠出することが示された[11]

 

(2) 水素

労働党は現時点ではグリーン水素のみを支援しており、ブルー水素などは支援対象とされていない。選挙公約として新たな水素戦略などは発表されておらず、再選した際も政策は現行の国家水素戦略「National Hydrogen Strategy[12]」に準拠していくものと思われる。

同戦略は2024年9月に発表されたものであり、2050年までに年間1,500万トンのグリーン水素生産、年間20万トンのグリーン水素輸出を目標としている。同戦略で中心となる2つの柱が「Hydrogen Headstart Program(HHP)[13]」及び「Hydrogen Production Tax Incentive(HPTI)[14]」である。HHPはグリーン水素製造コストと販売価格の値差を10年にわたり支援するものであり、2025年3月には西オーストラリア州Murchison Green Hydrogen Projectが初の採択先として発表された。HPTIは2024/25年度予算案にて発表され、グリーン水素製造1kgあたり2A$を補助するものである。

 

(3) 金属

労働党は2023年6月に「Critical Minerals Strategy 2023–2030[15]」を発表し、持続可能なサプライチェーンの構築、重要鉱物供給による世界の脱炭素化の支援、重要鉱物の中下流工程の強化などを目指すことを示した。また、2024/25年度予算案にて発表した「Future Made In Australia」(経済安全保障、再生可能エネルギー開発及び製造業の国内回帰等を一体化して推進する政策)の一環として、重要鉱物の生産時税控除措置「Critical Minerals Production Tax Incentive(CMPTI)[16]」を発表している。2027年7月1日から2040年6月30日までの期間において、最初の生産から最大10年間にわたり利用可能である。

また、2025/26年度予算案[17]では、新たに「グリーンメタル(持続可能な方法で生産された金属)[18]」の生産支援策を発表した。

  • 国内のアルミニウム製錬所のグリーン化を促進するため「Green Aluminum Production Credit」に2十億A$を(約1,820億円)拠出し、グリーンアルミニウム生産量に応じた税控除を行う。2036年までに電力源を再生可能エネルギーに移行するアルミニウム製錬所を対象とする。
  • グリーンアイアンプロジェクトの支援に向けてGreen Iron Investment Fundを設立し、1十億A$(約910億円)を拠出する。グリーンアイアンの製造やサプライチェーンの強化を図る。

また、選挙前には、新たに重要鉱物戦略備蓄制度「Critical Minerals Strategic Reserve[19]」の計画が発表された。同制度に1.2十億A$(約1,100億円)を拠出して、2026年後半から導入予定とのことだが、現時点では詳細は明らかとなっていない。

 

(4) 石炭

脱炭素化に向けて、石炭火力発電所を段階的に廃止することとしている。石炭火力発電の代替として再生可能エネルギーの導入を推進している。

 

(5) 気候変動対策・脱炭素

2022年9月に「Climate Change Act 2022[20]」を制定し、2030年までにGHG排出量の43%削減(対2005年比)、2050年までにネットゼロという目標を法制化した。同目標の達成に向けて、2023年7月には脱炭素政策である「Safeguard Mechanism[21]」を改正。直接排出量が年間10万トン(CO2換算)以上の施設を対象として、年間排出量を2030年までに1億トンに削減(対2020年比27%削減)することとした。既存施設の排出許容値(ベースライン)は業界平均排出原単位と対象施設の過去の排出原単位を基に算出されるが、年ごとに業界平均の比率が高くなるよう設定されている。ベースラインは2029/30年度まで年4.9%の割合で引き下げられる。新規施設については国際的なベストプラクティスに則ってベースラインを設定することとされているが、新規ガス開発については低CO2ガス田やCCSの存在を背景に、このベストプラクティスがゼロと設定されたため、バックフィルを含む新規ガス田は生産開始当初からCO2排出量をゼロとする必要がある。

 

(6) 電源構成

2030年までに再生可能エネルギー比率を82%に引き上げることを目指すこととしている。なお、2022/23年度の電源構成は再生可能エネルギー35%、石炭火力46%、ガス火力17%であり、[22]あと5年で再生可能エネルギー発電容量を2倍以上に拡大し、化石燃料の代替を達成するという野心的な目標となっている。

2023年11月に打ち出された容量投資施策「Capacity Investment Scheme[23]」では新規発電容量について32GWを目指すことが発表された。2030年までに再生可能エネルギーで23 GW、「clean dispatchable generation(需要に応じて発電量を調節できるもの)」で9 GWの確保に向けて、それぞれ再生可能エネルギーに52十億A$(約47.3兆円)、clean dispatchable generationに15十億A$(約13.7兆円)を拠出する。

 

3. 保守連合の資源エネルギー政策方針

2025年連邦選挙に向けて様々な選挙公約が発表されている。労働党が気候変動対策を重視するのに対して、保守連合は国内市場へのエネルギーの安定供給に重きを置いている。新たに「National Gas Plan」 を発表しており、豪州東部へのガス留保や新規ガス探査・開発の推進を実施する意向。また、排出削減目標や脱炭素政策SGMの見直しを示唆しており、電源構成については、原子力発電をベースロード電源としつつ、火力発電や再生可能エネルギーなども含めて多様化する考えである。

保守連合が勝利した際には、新たに投資促進機関としてInvestment Australia[24]を設立することとしている。既存の類似機関であるオーストラリア貿易投資促進庁(Austrade)が豪州の輸出促進や外国の投資誘致に焦点を当てているのに対して、Investment Australiaは承認プロセスの迅速化・合理化などの国内の規制改革や、政府機関の統合による手続き効率化など国内投資環境の整備に焦点を当てることとしている。なお、Investment Australiaが設立された際には同機関は財務省(Department of the Treasury)の傘下となるとされている。

 

(1) ガス、CCS

選挙公約として発表された「National Gas Plan[25]」は、豪州内の消費者に安定的かつ手頃な価格でガスを供給することを目的とし、労働党が海外からのガス輸入も視野に入れているのに対して、国内での新規ガス探査・開発の推進や、国内市場へのガス供給に焦点を当てたものである。同計画により、国内ガス卸価格は10 A$/GJ以下となり、家庭用ガス代は7%、家庭用電気代は3%低下するという見通しを謳っている。

  • 豪州東部へのガス供給施策「East Coast Gas Reservation Scheme」を導入し、未契約のスポット輸出分のうち50-100PJ(ペタジュール)を国内市場に供給するよう義務付けることで、東部のガス需要の10-20%を確保する。なお、施策名のとおり西オーストラリア(WA)州は対象外。詳細は業界との協議の上で設定する。
  • 豪州国内へのガス保障制度ADGSMを強化し、ガス生産者に対して、国際市場より安価での国内市場への販売を義務付ける。
  • 国内での新規ガス探査・開発を推進する「Strategic Basin Plan」を復活させ、300百万A$(約272億円)を拠出する。
  • 国内のガスパイプラインや貯蔵能力を強化するため「Critical Gas Infrastructure Fund」に1十億A$(約910億円)を拠出する。
  • 許認可プロセスの迅速化を図る。なお、WA州・North West ShelfLNGプロジェクトの承認については選挙後30日以内に速やかに決定する。
  • オフショア鉱区の毎年の鉱区解放を再開する。
  • ガス事業者に「use it or lose it」制度を適用する。(オフショアガスプロジェクトが一定期間以内に開発開始されない場合は権利を失う)
  • ガスをCritical mineralに指定。(Critical mineral Facilityからの資金提供を可能とする)
  • これまで再生可能エネルギーを対象としていた容量投資施策「Capacity Investment Scheme」にガスを追加し、ガス火力発電を支援する。
  • CEFC(Clean Energy Finance Corporation/クリーンエネルギー金融公社)などの投資機関において、CCSも投資対象事業とする。

 

(2) 水素

連邦選挙に向けた新たな水素戦略は発表されていないが、保守連合が政権を握っていた2019年には国家水素戦略「National Hydrogen Strategy」においてグリーン水素に加えブルー水素も支援対象としていた。なお、報道によると、労働党が発表したグリーン水素生産税控除措置(HPTI)を支持していない[26]

 

(3) 金属

労働党と同じく、豪州における重要鉱物プロジェクトを重視する一方で、支援方針は異なり、労働党による重要鉱物生産税控除措置CMPTIは「億万長者への資金提供(billions for billionaires)」として支持していない[27]

選挙前には、重要鉱物の支援策について「Plan for a Strong Resources Industry[28]」として発表を行っている。

  • 重要鉱物リストに、新たに亜鉛、ボーキサイト、アルミナ、アルミニウム、カリウム、リン酸塩、錫、ウランを追加。
  • 豪州を35年かけてマッピングするexploration programに3.4十億A$(約3,100億円)を拠出。
  • 探査活動を支援するJunior Minerals Exploration Incentiveに100百万A$(約91億円)を拠出。

 

(4) 石炭

労働党が提示する石炭火力発電所の段階的な廃止に対して、特に反対意見は示していない。一部の石炭火力発電所跡地に原子力発電所を建設する計画である。

 

(5) 気候変動対策・脱炭素

報道によると、連邦選挙に勝利した際は、労働党が制定したGHG排出削減目標や脱炭素政策SGMを見直すことを示唆している[29],[30]。なお、パリ協定からの脱退については否定している。

 

(6) 電源構成

2050年までに、ベースロード電力として原子力(38%)、再生可能エネルギー(54%)、ガス火力及びバッテリー貯蔵(8%)を用いた多様な電源構成を目指すこととしている[31]。新たに33十億A$(約30兆円)を投じて原子力発電所の建設を計画している[32]。耐用年数を迎えた7基の石炭火力発電所を原子力発電所に代替し、2030年代半ばには最初の原発を稼働開始する構想。

 

4. 現在の労働党・保守連合に対する支持率

2025年4月23日に公開された世論調査の結果では、労働党の支持率が約51.2%、保守連合の支持率が約48.9%と拮抗している[33]。2025年3月28日に選挙のため議会が解散した際は、全151議席のうち労働党77議席、保守連合53議席と大きく差があった。今回の選挙から全150議席に変更されたが、保守連合が過半数を超える76議席を取るためには閉会時から23議席を奪取する必要があるが、支持率にほとんど差がない現状では容易ではないと推察される。また、票が割れた結果として、両党ともに過半数の議席を確保できなかった状態(ハングパーラメント)となり、その他の少数政党・無所属との連立政権となる可能性もある。このとき、連立内での調整を余儀なくされ、政策決定に時間を要し、その一貫性にも影響が出ることが懸念される。

 

 

[1] 2016年に保守連合Abbott政権で制定。直接排出量が年間10万トン(CO2換算)以上の施設を対象に、政府が排出許容値(ベースライン)を設定し、その遵守を管理する制度

[8] 1996年に採択された廃棄物等の海洋投棄に関する規則を強化する国際的取り決め。2006年に発効。2019年10月にはCCSを目的とするCO2越境輸送を認める改正の暫定的適用の決議を採択

[18] https://www.netzero.gov.au/power-going-green?utm_source=chatgpt.com

[28] https://www.liberal.org.au/policy/our-plan-for-a-strong-australian-resources-industry

[29] Coalition clarifies commitment to Paris Agreement after confusion on climate targets - ABC News

[31] https://www.theguardian.com/australia-news/2024/dec/13/peter-dutton-nuclear-costings-coalition-power-policy-plan-australia

[33] https://www.theguardian.com/australia-news/ng-interactive/2025/apr/22/australia-election-polls-latest-aus-opinion-poll-tracker-results-current-polling-survey-labor-vs-liberal-dutton-albanese?utm_source=chatgpt.com

 

以上

(この報告は2025年4月23日時点のものです)

アンケートにご協力ください
1.このレポートをどのような目的でご覧になりましたか?
2.このレポートは参考になりましたか?
3.ご意見・ご感想をお書きください。 (200文字程度)
下記にご同意ください
{{ message }}
  • {{ error.name }} {{ error.value }}
ご質問などはこちらから

アンケートの送信

送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。