ページ番号1010487 更新日 令和7年5月13日
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
- 2025年4月14日、ロシア連邦政府のミシュスチン首相は、同年4月12日付ロシア連邦政府命令第908-r号に基づき「2050年までのロシア連邦エネルギー戦略」(以下、「同戦略」という)を承認[1]した。
- 同戦略では、2050年までに全燃料エネルギー予測収支において需要量が20%増と想定し、2023年実績の12.5億トンから、慣性シナリオで14.7億トン(17.8%)、目標シナリオでは15.3億トン(22.7%)増加すると見込んでいる。
- また、国民に燃料エネルギー産業の製品及びサービスを提供し、ロシアの輸出分野の可能性を更に開拓するとともに、エネルギー安全保障、技術主権、産業の競争力を確保することとしている。
- 今後、ロシア政府はエネルギー省が同戦略を具体的に実行するための行動計画を6か月以内に作成し、同政府に提出する予定。
同戦略の主要優先事項
- 国内市場に対するエネルギー資源の供給確保
燃料エネルギー産業の主な任務は、エネルギー資源の安定供給を確保し、エネルギー源を多様化し、地域のガス化を推進し、極東及び北極地域でのインフラを整備するとしている。 - 輸出潜在力の実現
燃料エネルギー産業は、依然としてロシアの主要な輸出部門となっており、石油、ガス、石炭の供給に加え、液化天然ガス(LNG)や原子力技術の輸出を引き続き増やし、世界を主導し続けていく。 - 北極海航路(NSR)の整備
資源供給の多角化、北極海航路(NSR)を含む新しい物流経路の整備、アジアや南半球諸国とのパートナーシップを強化する。
石油ガス分野における主な優先措置
- 石油分野
- 世界の石油市場における需給バランスをとるための国際協力を推進。
- 地下資源における地質探査を促進。
- パイプライン、鉄道、港湾インフラに係る十分なインフラ能力の運用性維持と構築を支援。
- 北極海航路(NSR)インフラの整備。パイプラインと鉄道輸送による石油及び石油製品の輸送料金制度を改善。
- 天然ガス分野
- 輸出インフラ能力の向上。海外市場で追加需要が見込まれる場合、LNG輸出の更なる自由化を推進し、独立系生産事業者からの独占輸出経路を通じたパイプラインによるガス供給の整備の可能性と問題を検討する。
- パイプライン・インフラと市場へのアクセスに関し、全ての地下資源利用者に平等、且つ経済的に正当な条件を付与することを含む、ガス輸送インフラ及び地下ガス貯蔵施設(UGS)整備のための、経済的且つ健全な条件を整備する。
- 「シベリアの力」幹線ガス・パイプラインとSKV(サハリン・ハバロフスク・ウラジオストク)幹線ガス・パイプライン、そして統一ガス供給システムを接続する。
同戦略を実施する上での全体的課題
- ロシア側は、本戦略を策定した上において、今後、これら燃料エネルギー分野での輸出が減少する可能性や、ロシアの燃料エネルギー産業に対する違法で一方的制限措置(ママ)が増加、或いはそのまま継続する可能性、脱炭素化ペースの加速等、外部条件の全般的な悪化を背景に、燃料エネルギー産業界の経済パフォーマンスも大幅に低下することも念頭に置いているようだ。
- このことから、ロシアは、将来、目標シナリオのとおりに進むものとも考えておらず、最悪であるストレス・シナリオで進む可能性も留意しており、兼ねてからのロシア経済の構造的問題である燃料・エネルギー産業への過度な依存から脱却し、国全体の産業の高度化を図るべきことが重い課題であることは十分自認しているようである。
1. はじめに
(1) 本戦略策定の前提
- 本戦略の策定に際し、ロシア政府は、安全保障ドクトリン(基本原則)、国家安全保障戦略、気候ドクトリン、科学技術発展戦略、国家発展目標、水素エネルギー発展構想、社会経済発展戦略、2030年までの経済安全保障、戦略計画分野、外交政策、製造業、建設業及び住宅・公益事業、技術開発、鉱物原料基盤等の各戦略文書を考慮した作成した。本戦略においては、石油、天然ガス、石炭、電気業、また、一部、水素エネルギー等を抜粋し、取り上げるものである。
- 本戦略の実施期間は、下記表1に示すとおり、3つ分けて構成されている。
期間 | 内容 | |
---|---|---|
第1期 | ~2030年 |
|
第2期 | 2031~2035年 |
|
第3期 | 2036~2050年 |
|
(出所:本戦略3頁をもとに抜粋、JOGMEC作表)
- また、本戦略の指標や各課題は、2023年時点とし、各期間ごとの推計値のパラメータは徐々に精緻となることから、今後、時間の経過とともに見直されるとしている。
(2) ロシアから見た世界のエネルギー需給に対する評価
- 「世界の一次エネルギー源消費量(図1)」に示すとおり、2012年から2023年までの過去11年間において、石油、ガス、石炭ともにそれぞれの比率はさほど変わらず、2023年時点において石油(36.9%)、ガス(26.1%)、石炭(30.0%)は、引き続き世界のエネルギー源において重要な役割を果たしている。
- 2012年から2023年の間に、世界のエネルギー需給の構造は変化したが、同期間中、世界の石炭消費量は7.9%増(79.12億トン(2012年)、85.36億トン(2023年))であった一方、同比率は32%から30%に若干減少したとし、依然として、石炭の役割は大きいと述べている。
- 一次エネルギー源消費に占める石炭比率は約36%を占めており、2000年代初頭(ママ、実際は「2012年」)から僅かながら2%減少、また、温室効果ガスの排出削減政策を背景に、全体に占める再生可能エネルギー源の比率は0.6%から2.5%に増加したとしているが、同戦略にて実際の数値や詳細根拠は示されていない。
- 同戦略によれば、2021年から2022年にかけてロシアが内外から受けた衝撃のうち、政治・経済的性質を帯びた深刻なものとして、1)グローバル安全保障体制に対する浸食(ママ、西側の捉え方、意識では「干渉」)、2)軍事化の傾向、3)消費者物価の上昇、4)金融政策の引き締め、5)西側諸国による一方的な制限措置(ママ、いわゆる「対露経済制裁措置」)、6)世界貿易機関(WTO)及び国際法の一部規範からの拒絶、を挙げている。
- また、長期的な傾向としては、エネルギー消費の急増を背景に、1)エネルギー市場の分断化、2)世界の多極化、3)国際決済における自国通貨の役割が増大(ドル比率の減少)、4)世界エネルギーの構造的変革が進行中であると述べている。
- このような状況下、同戦略では、各種一次エネルギー源に関する個別課題に関する傾向の中で、特に注目すべき点として以下を挙げている。
- 脱炭素化の手段としてガス火力発電の開発を通じ、2023年時点で欧州連合諸国における天然ガス消費量成長率がエネルギー危機発生前までの水準に回復・増加。
- 液化天然ガス(LNG)は最終消費者にとってガス供給における最も利便性の高い方法となり、取引量が4倍に増加。
- 発展途上国における自動車普及率の上昇により、石油需要が横這いから更なる需要増の傾向を示しており、輸送インフラ(筆者注:ガソリンに代わる新たな代替燃料である、水素・アンモニア用の輸送キャリアで、パイプラインや運搬船等を指すと思われる)の整備が加速。
- 主要生産国における石油、天然ガス、石炭等の炭化水素資源の開発基盤が脆弱化。多くの国が炭化水素原料の探査及び生産に対する投資を削減する政策を講じ、長期的に石油・ガスの需要増に対応できなくなるリスクが台頭。
- 発電ミックスにおいて再生可能エネルギー源(太陽光及び風力発電)がかなりの比率を占めており、信頼度の高い且つ安定性を確保した運用が必須。
- 2022年のエネルギー危機後、水力発電所及び原子力発電所の整備に対する需要が高まり、クリーンであるだけでなく、経済的に優位なエネルギーとして、これら電源が低炭素エネルギー源として認識。
(3) 同戦略で想定された5つのシナリオ
同戦略では、ロシア国民と経済部門に燃料エネルギー産業の製品とサービスを手頃な価格で確実に提供すること、ロシアの輸出潜在力を効果的に活用すること、エネルギー安全保障、技術主権[2]、競争力の確保等を含む、燃料・エネルギー部門で新たな状況を実現することが目的として掲げられており、下記の5つのシナリオを想定している。
期間 | 内容 |
---|---|
ストレス・シナリオ |
|
慣性シナリオ |
|
目標シナリオ |
|
技術上可能シナリオ |
|
エネルギー転換加速 シナリオ |
|
(出所:本戦略18及び19頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
2. 各業種別シナリオと発展見通し
(1) 石油業
- 同戦略によれば、石油の生産と輸出に関し、対露経済制裁の厳しい現在の傾向が続けば、ストレス・シナリオと慣性シナリオにおいて、生産量が著しく減少するリスクがあるだろうと述べている。
- これらリスクの理由は、1. 既存油田開発における地質・物理特性の悪化、2. 現在の炭化水素生産水準を維持するには企業の利益に対する租税公課がかなりの重い負担であることに加え、3. 回収困難の埋蔵資源比率が増えていることにより生産コストは増加、4. 資源基盤構造に占める不採算埋蔵資源比率も増加、などを挙げている。
- 各シナリオ別予測
- 目標シナリオ
石油生産においては、目標シナリオでは、石油・ガスコンデンセートの生産量(「図2:ロシア 石油生産の各シナリオ別予測」)は、2023年の5.31億トン/年から2030年までに5.4億トン/年に増加し、2050年まで同水準を維持としている。世界市場の変化に柔軟に対応、埋蔵資源量の生産容量を拡大できる大きな未開発資源を有する。
これを行うには、不採算埋蔵資源を開発するための条件を整備する必要がある。特に水平掘削を採用した透過性の低い複雑な鉱床で、枯渇した同鉱区に対し、水圧破砕により100億トンを超え、第三の石油回収法を活用することで、石油回収係数を増加させることで50億トン以上を埋蔵資源に含めることができると述べている。これにより、新しい生産地域の開発を確保でき、2036年以降約8,000万トンの生産量が得られると述べている。
- ストレス・シナリオ
同シナリオでは、2050年までは1.71億トン/年にまで下落するとみている。
これには、やはり、現状の対露経済制裁の下で、既存鉱区や新規鉱区においても不採算なところでの開発を余儀なくされ、且つ、西側の進んだ掘削技術を活用できないもとでは、かなり厳しいという最悪の状況も想定している。
- 技術上可能シナリオ
同シナリオでは、2050年までに生産量は5.47億トン/年に達し(2030年までに5.91億トン/年に増加(図2)、国内市場供給(「図3:ロシア 国内市場供給量の各シナリオ別予測」)では3.19億トン/年(2050年)、輸出インフラの能力(「図4:ロシア 輸出供給量の各シナリオ別予測」)は、2023年の2.34億トン/年から2030年には2.7億トン/年に一旦増加するものの、その後2050年には2.28億トン/年にまで低下するものと予測している。
- 同部門における戦略実現指標(表3)
石油・ガスコンデンセート(凝縮液)の生産量については、2023年時点で5.31億トン/年から2030年、2036年、2050年には5.4億トンに増加。また、同時期に全輸送手段による石油・石油製品輸送用の輸出インフラの設備容量が5.3億トンから5.5億トンに増加する旨、指標を設定している。
指標 | 2023年 | 2030年 | 2036年 | 2050年 | |
---|---|---|---|---|---|
石油・ガスコンデンセート(生産量、億トン) |
5.31 | 5.40 | 5.40 | 5.40 | |
全輸送手段によるロシア連邦の石油及び石油製品の輸出インフラ(設備容量、億トン) | 5.30 | 5.50 | 5.50 | 5.50 |
(出所:「本戦略 別添9」1頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
- 主な優先措置
このような状況下で、ロシアにおける石油の生産量を維持しつつ、生産設備の容量を創出、確保維持するという課題を解決するための優先措置、また、輸出インフラでの重点的な優先措置は、主に、下記(表4)を挙げている。
石油生産 | |
---|---|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
石油輸出のためのインフラ整備 | |
|
|
|
|
|
(出所:「本戦略 本文」33及び34頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
(2) 石油製品
- 精製量
- 国内市場需要の満足度を考慮すると、2050年までのロシアにおける石油精製量(図5)では、輸出が効果的に実現できるか否かに依る。目標シナリオにおいて石油精製量は少なくとも、2050年時点で2.83億トン/年の水準が維持されると予想している。
- 慣性シナリオでは、ニッチな輸出市場が縮小し、世界で競争リスクが激化し、2036年には石油精製量が2.72億トンに最適化されるものと予想している。同時に、産業の高度化を考慮すると、石油精製量は国内市場のニーズを完全にカバーするものとみている。
- 国内市場供給量
- 目標シナリオ(図6)においては、2023年の1.44億トンから2030年には1.56億万トン/年に増加し、2036年には1.59億トン/年に減少。2050年には1.58億トン/年に減少する。
- 技術上可能シナリオでは、国内供給よりも輸出に最大限振り分け、2050年時点で1.46億トン/年となっている。
- 輸出供給量
- 目標シナリオ(図7)においては、2023年の1.31億トン/年から1.27億トン/年(2030年)に増加し、その後、1.24億トン/年(2036年)、2050年まで同水準である1.25億トン/年前後に若干持ち直し、維持すると予想している。
- 他方、ストレス・シナリオでは、2050年時点で0.14億トン/年まで下落するものと予想している。
(3) 大型石油化学
- 精製量
慣性シナリオ(図8)において、同精製量は、2023年の7.3百万トン(原文ママ:表3では7.2百万トン)から2030年までに少なくとも10百万トン/年に増加し、2036年まで同水準を維持し、2050年までに少なくとも14百万トン/年に増加するものと予想している。
- 輸出供給量
目標シナリオ(図9)では、2023年の2百万トン/年から2030年までに7.10万トン/年増加し、2036年までに6.6百万トン/年に減少、2050年までに8.5百万トン/年に増加。他方、ストレス・シナリオでは、1.4百万トン/年まで下落するものと予想。
- 同部門における戦略実現指標
同部門の高度精製処理については、2023年の84.1%から2030年までに90%まで向上し、更に同水準を維持。また、国内石油製品市場の需要については、2050年までに100%以上を充たすものと想定されている。また、大型ポリマーの生産量は、2023年の720万トンに対し、2030年及び2036年で1千万トン、2050年には少なくとも1.4千万トンに増やす計画であるとしている。
指標 | 2023年 | 2030年 | 2036年 | 2050年 | |
---|---|---|---|---|---|
高度精製処理(%) | 84.1 | 90 | 90 | 90 | |
石油製品におけるロシア連邦国内市場需要供給(%) | >100 | >100 | >100 | >100 | |
大型ポリマー(生産量、百万トン) | 7.2 | 10以上 | 10以上 | 14以上 |
(出所:「本戦略 別添9」1頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
- 主な優先措置
このような状況下で、ロシアにおける石油の生産量を維持しつつ、生産設備の容量を創出、確保維持するという課題を解決するための優先措置、また、輸出インフラでの重点的な優先措置は、主に、下記(表6)を挙げている。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
(出所:「本戦略 本文」34及び35頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
(4) ガス業
- 全体の各シナリオ別予測
- 生産量
「図10:ロシア ガス生産の各シナリオ別予測」の目標シナリオにおいては、2023年の6,370億立方メートル/年から2030年までに8,530億立方メートル/年、2036年までに9,650億立方メートル/年、2050年までに1.107兆立方メートル/年まで増加するとある。なお、ストレス・シナリオでは、対露経済制裁等の厳しい現行水準が維持されるとし、6,790億立方メートル/年と想定している。
- 国内市場供給量:
目標シナリオ(図11)においては、2023年の4,960億立方メートル/年から2030年まで5,600億立方メートル/年、2036年までに5,890億立方メートル/年、2050年まで最大6,690億立方メートル/年まで増加。なお、ストレス・シナリオでは、生産量ほど開きはなく、5,300億立方メートル/年と想定している。
- 輸出:
目標シナリオ(図12)では、2023年の1,460億立方メートル/年から2030年までに2,930億立方メートル/年、2036年までに3,200億立方メートル/年、2050年までに最大4,380億立方メートル/年まで増加。また、ストレス・シナリオでは、現行の厳しい対露経済制裁が継続されるとの前提で、2050年時点で1,490億立方メートル/年と予想している。
この内、パイプラインには以下が含まれる。
(ア)パイプライン輸出
目標シナリオ:「ロシア:ガスPL輸出供給量の各シナリオ別予測」(図13)によれば、2023年の1,010億立方メートル/年から2030年までに1,510億立方メートル/年、2036年までに1,970億立方メートル/年に成長し、2050年まで同水準を維持。
技術上可能シナリオ:2050年に3,070億立方メートル/年に増加すると想定。しかし、欧州向けのノルドストリームが再開できない状況では、中国向け一辺倒となり、同シナリオは非現実的であることは、ロシア側自身も十分理解しているように見受けられる。
ストレス・シナリオ:2050年までの期間、パイプラインによるガス輸出量は年間1,030億立方メートル/年で実質的に不変であり、ロシア側も最悪を想定した現実的シナリオと言える。
(イ)LNG輸出
目標シナリオ:「ロシア:ガスLNG輸出供給量の各シナリオ別予測」(図14)によれば、2023年の450億立方メートル/年(3,300万トン)から、2030年には年間1,420億立方メートル/年(1.2億トン)、2036年には1,790億立方メートル/年(1.33億トン)2050年には2,410億立方メートル/年(1.79億トン)まで増加。
技術上可能シナリオ:2050年に3,420億立方メートル/年(2.53億トン)に増加と想定。生産量の実績値は同戦略に含まれておらず、予測値のみ。
ストレス・シナリオ:新しいLNGプラントは稼働しないものと予想。
(注)前提には、稼働中のサハリン2(960万トン/年)及びヤマルLNG(1,740万トン/年)、アークティック(北極)LNG-2(1,980万トン/年、一部稼働、米国の制裁により輸出停止)、建設中のウスチ・ルガ案件(1,320万トン/年)、計画中のオビLNG(480万トン/年)、ムルマンスクLNG(2,040万トン/年)、アークティックLNG-1(1,980万トン/年)を含む(図15)。
- 同部門における戦略実現指標
- 国民生活のガス化率は、2023年の73.8%から2030年には82.9%、2036年には84%、2050年には最大86.2%に向上。
- 極東諸国及びアジア太平洋地域への輸出ガス・パイプラインの設計容量については、2023年の300億立方メートル/年から2030年までに980億立方メートル/年に増強し、2050年まで同水準の数値を維持する旨目標を設定。
- LNG生産量については、2023年の3,300万トン/年から2030年まで0.9~1.5億トン/年、2036年までに1.1~1.3億万トン/年、2050年までに1.1~1.75億トンに増加。
- 自動車燃料用天然ガス消費量:2023年の21.9億立方メートル/年から、2030年には67~90億立方メートル/年、2036年には115~168億立方メートル/年、2050年には213~293億立方メートル/年に増加すると予想。
指標 | 2023年 | 2030年 | 2036年 | 2050年 | |
---|---|---|---|---|---|
ロシア連邦の国民ガス化率(%) | 73.8 | 82.9 | 84 | 86.2 | |
極東及びアジア太平洋地域諸国への輸出ガス・パイプラインの設計上能力(億立方メートル/年) | 300 | 980 | 980 | 980 | |
液化天然ガス生産量(億トン) | 0.33 | 0.9~1.05 | 1.1~1.3 | 1.1~1.75 | |
自動車燃料用天然ガス(メタン)の消費量(10億立方メートル/年) | 21.9 | 67~90 | 115~168 | 213~293 |
(出所:「本戦略 別添9」1頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
- 主な優先措置
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
(出所:「本戦略 本文」36~40頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
(5) 石炭業
- 概況
同戦略によれは、ロシア連邦の石炭埋蔵量は2,727億トンであり、500年以上を埋蔵量が保障されており、世界の石炭埋蔵量におけるロシアの比率は6.9%(第5位)、世界の生産量比率は5%(第6位)であるとある。ロシアにとって石炭は石油、天然ガスに次いで、輸出の大事な稼ぎ頭であり、ロシア連邦予算制度の歳入を形成する根幹であるとされている。
このような現状から、各シナリオではあらゆる可能性を組合せることで、2050年までに6億トン超(世界第3~4位)の生産量を達成でき、国際市場の4分の1(第2位)を占めることとなると予測しているが、ロシア側も野心的指標であると認めており、同指標の実現は、主に我が国東部で新しい生産クラスターが整備されることによって促進されることが前提であるとしている。
なお、世界の石炭消費量は原料炭の比率が増加する方向に向けて変化するものの、同時に、世界のエネルギー発展の目標シナリオでは需要が維持され、一般炭において、石炭利用が経済上実現可能であることやアジア太平洋地域諸国が石炭削減に関する具体的計画が欠如している点を考慮し、石炭発電は2035年以降も需要が今後も維持されるとの前提で予測している。
- 各シナリオ別予測
目標シナリオ:同戦略によれば、石炭生産(「図16:石炭生産の各シナリオ別予測」)は2023年の4.39億トン/年から、2030年には5.301億トン/年、2036年には5.952億トン/年、2050年には6.62億トン/年に増加すると予想している。物流上の制約解決が条件であるが、世界需要が縮小する中でも、「露」産石炭輸出(「図17:石炭輸出の各シナリオ別予測」)は3.5億トン/年に増加すると予測している。
技術上可能シナリオ:生産量においては7.942億トン/年、輸出においても4.0億トン/年への増加を予測しているが、ロシア側も現在の対露経済制裁や石炭をとりまく環境は厳しいことから、同シナリオが実現することはないものと認識しているのだろう。
ストレス・シナリオ:ストレス・シナリオでは2050年までに生産量が3.189億トン/年に増加すると予測する一方、輸出が1.01億トンと現在の半分以下に激減すると予測しており、世界のエネルギー市況が悪化するとの前提に立っている模様である。
- 同部門における戦略実現指標
- 総生産量に占める露天掘り採掘の比率: 2023年の77.7%から2030年には78~80%、2036年には80~83%、2050年には82~85%に増加。
- 総生産量に占める選炭(褐炭を除く)の比率: 2023年の58%から2030年には59~60%、2036年には62~64%、2050年には74~76%に増加。
- 総生産量に占める東シベリア及び極東地域の比率: 2023年の38.8%から2030年には39~40%、2036年には42~44%、2050年には46~50%に増加。
- 石炭による国際取引におけるロシア輸出比率: 2023年の14.5%から、2030年には15~16%、2036年には21~23%、2050年には24~27%に増加。
指標 | 2023年 | 2030年 | 2036年 | 2050年 | |
---|---|---|---|---|---|
総生産量に占める露天掘り炭鉱の比率(%) | 77.7 | 78~80 | 80~83 | 82~85 | |
総生産量に占める選炭(褐炭除く)の比率(%) | 58 | 59~60 | 62~64 | 74~76 | |
東シベリア地域と極東の総生産量に占める比率(%) | 38.8 | 39~40 | 42~44 |
46~50 |
|
石炭による国際取引におけるロシア輸出比率(%) | 14.5 | 15~16 | 21~23 | 24~27 |
(出所:「本戦略 別添9」2頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
- 主な課題
- 既存の石炭生産設備容量を維持し、産炭地から販売市場が地理、地域的に近く、良好な鉱山及び地質条件を備えた鉱床に徐々に移行し、シベリア、極東及びロシア連邦北極圏地域で石炭業の新たな原料基盤を形成するための環境を整備する。
- 石炭輸出の増加で、主にアジア太平洋地域、中東及びアフリカ市場への新たな市場へ方向(仕向地)を転換する。
- (電力、冶金、住宅・公益事業及び(熱電併給でなく)熱生成のみを含む)国内市場の消費者が必要とする信頼性の高い石炭供給を確保し、石炭製造企業にとって環境負荷が低く、労働安全性が高い職場環境に改善する。
- ロシア石炭製造業の再編に関する一連の措置の実施と、産炭組織従事者と産炭地域住民全体の持続可能な成長と生活水準を確保するための社会政策の策定を完了する。
- 主な優先措置
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
(出所:「本戦略 本文」41~42頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
(6) 電気業
- 各シナリオ別予測
目標シナリオ:2050年まで電力消費量が増加するという前提条件のもと、ロシアの電気業は著しい変革を遂げるものとみている。目標シナリオによれば、輸入代替と内需を満たすための電力事業増加による追加の(電力)消費、鉄道開発を含む大型インフラ事業の実現、及び電気自動車使用の増加、データ処理センターや人工知能の使用によるデータ処理技術の急成長等で電力消費量が増加し、2023年と比較し、2050年までに発電量が1兆6,388億kWh(2023年の実際の発電量と比較して42.3%増)に増加すると見込まれる。また、慣性シナリオでは、1兆5,880億kWhに達する可能性がある。
信頼性が高く、環境負荷の低い国内市場へ最低限のコストでの提供と輸出ポテンシャルの効果的な発揮実現の最適な比率を考慮した燃料エネルギー産業のバランスの取れた発展のための措置の実施、気候変動政策分野における国家目標の達成、産業の技術主権と競争力が考慮されている。
なお、電気業においては、他のシナリオについて同戦略に具体的な言及はないが、数値上においては、技術上可能シナリオは1.8兆kWh、他方、ストレス・シナリオにおいては1.391兆kWhと予想している。電気業における電力設備は、エネルギー効率の向上を達成するためには、常に機器の運用・保守と、設備更新が必要であり、現在の非常に厳しい対露経済制裁措置が将来も続いていくならば、少なくとも技術上可能シナリオは、劇的な環境変化がない限り、達成は非常に厳しいものと思われる。
- 同部門における戦略実現指標
- 発電設備容量:
2023年の254.3GWから、2030年までに少なくとも274.7GW、2036年までに287GW、2050年までに331.2GWに増加。2023年比で発電設備容量は30%以上の増加を目標指標として設定している。
- 送配電網での送電損失レベル:
2023年の10.1%から、2030年までに最大8.9%、2036年までに8.8%、2050年までに7.3%まで低下。スマート・メーターは最小限の機能の要件を満たし、同システムに接続されている計測装置の比率は増加しており(計測装置総数から)、2036年では少なくとも70%、2050年では少なくとも95%に、並びに送配電網における電力損水準が2023年では少なくとも10.1%から2036年では少なくとも8.8%、2050年では少なくとも7.3%に低下するものと思われる。
注:同指標は、その後の電力設備の配備計画や見直し後に改めて定められるとしている。
指標 | 2023年 | 2030年 | 2036年 | 2050年 | |
---|---|---|---|---|---|
発電設備容量(GW以下/注1) | 254.3 | 274.7 | 287 | 331.2 | |
スマート電力計測システムの最小観測機能要件を満たす計測機器の比率及び同システムへの接続(計測機器総数/注2)(%以下) | - | 59 | 70 | 95 | |
送配電網の送電損失レベル(%以下) |
10.1 |
8.9 | 8.8 | 7.3 |
(出所:「本戦略 別添9」2頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
注1:電力設備の立地については、総合計画の承認及び調整後に明確化。
注2:未定。
- 主な優先措置
|
|
|
|
|
|
(出所:「本戦略 本文」44~48頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
(7) 水素エネルギー、CO2回収利用及び貯蔵(CCUS)
- ロシアにおける水素事業の現状
水素についてロシア政府は2021年8月5日に承認された「ロシア連邦における水素エネルギー開発構想」にて、2050年までの(水素の開発)見通し、国内水素エネルギー開発に関する目標、課題、戦略的イニシアチブ、及び主要施策を策定している。
このため、今回の同戦略水素エネルギーにおいても、パイロット事業を実証するため、2カ所の水素試験場の設立が始まり、そのうちの1つは2024年にサハリン州で既に開設されてと触れている。但し、ロシアは特別軍事作戦や対露経済制裁による影響により、水素事業に関する自国での展開は低調である。
- 主な課題
水素の製造及び需要創出、輸出に対する世界有数のリーダー国にランク入りすること、水素燃料補給インフラを構築すること、また、2030年までの期間における「水素エネルギー開発」に係るハイテクの方向性発展の「ロードマップ」における措置を見直し、具体化を実現することとある。
目標シナリオでは、ガソリン燃料を代替する電気自動車やハイブリッド輸送車両の開発は、将来的に自動車用ガソリン需要の低下を招き、電動車両、ガス・エンジン燃料、水素燃料で走行する自動車の比率が1%から14%(具体的データ無し)に増え、ディーゼル燃料と車種の多様化が進むこととなると予測している。同時に、交通量の増加とモータリゼーションの拡大により、自動車燃料の物理的需要量は大きく変化しないだろうと予測している。
また、エネルギー消費が最低でも20%減り、再生可能エネルギー源、水素、その他代替資源や技術に対する世界的な投資を3倍(具体的データ無し)に増える必要があるが、消費者と世界経済に対し非常に過大な負担を強いる数値に達することから、現時点では(その可能性は)低いだろうとみている。
- 主な優先措置
上記課題を解決するための優先措置として、下記を掲げているが、豊富な水素エネルギーを有しているものの、これを生かすには、やはり国内需要だけでは補いきれず、欧州やアジアの需要が不可欠であることもロシア側は十分指摘しているようである。
|
|
|
|
|
|
|
(出所:「本戦略 本文」59~60頁(ロシア語原本)をもとに抜粋、JOGMEC作表)
3. 最後に
同戦略によれば、世界エネルギーの発展は、脱炭素政策とその意思決定を講じる上で、経済的に実現可能であるか、如何にバランスを追求するかであり、実際に各国のエネルギー消費の成長率とエネルギー需給の構造変化の動向によって左右されていくとある。
全体的に、エネルギー需給構造における再生可能エネルギー源比率は急激な速度で増加すると同時に、化石燃料エネルギーに対する需要拡大を考慮すると、少なくとも2050年まで世界のエネルギー基盤は今のままであろうが、それら物理的消費量は現行水準のままか、或いは増加し、各国は経済・技術上、最も受け入れ可能なエネルギー供給経路や独自の脱炭素政策を選択するだろうというのがロシア側の見立てである。
その観点から、世界の石油市場に関し、需要動向を左右する主な要因は輸送車両の増加と、電動車両に向けた車両群構成の変化及び内燃機関の効率向上が課題である。特に、少なくとも2035年までアジア太平洋地域、ラテン・アメリカ及びアフリカ等の国々でのモータリゼーションの増加を背景に、石油需要が増加及び更に安定、又は発展途上国における車両構造の変化を背景に需要減を予想している。同時に、世界の石油市場で競争が激化するとみている。
また、世界のガス需要の成長動向については、再生可能エネルギーの発展ペースに次ぐものとなるだろうとロシア側はみている。低炭素エネルギーを国民に供給するためには、発展途上国におけるエネルギー需給が非従来型エネルギー源への実質的な変化と、機動性に優れた低炭素発電との組合せが不可欠であるが、ガスは最も経済的で実現可能で、技術的に成熟している脱炭素の選択肢であるとしている。また、液化天然ガスは柔軟な物流手段であり、世界のガス取引において重要な役割を果たすものとし、2050年まで、建設が発表された液化天然ガス・プラントの総生産設備容量は10億トンに近づき、2倍以上に増加するだろう。従って、液化天然ガスの世界市場での競争は激化する一方であると述べている。
また、石炭消費量は、原料炭の比率が増加する方向に向けて変化するだろう。同時に、世界のエネルギー発展の目標シナリオでは需要が維持され、一般炭において、石炭利用が経済上実現可能であることやアジア太平洋地域諸国が石炭削減に関する具体的計画が欠如している点を考慮し、石炭発電は2035年以降も需要が維持されるとの前提で予測している。
ロシア側は、本戦略を策定した上において、今後、これら燃料エネルギー分野での輸出が減少する可能性や、ロシアの燃料エネルギー産業に対する違法で一方的制限措置(ママ)が増加、或いはそのまま継続する可能性、脱炭素化ペースの加速等、外部条件の全般的な悪化を背景に、燃料エネルギー産業界の経済パフォーマンスも大幅に低下することも念頭に置いているようだ。このことから、ロシアは、将来、目標シナリオのとおりに進むものとも考えておらず、最悪であるストレス・シナリオで進む可能性も留意しており、兼ねてからのロシア経済の構造的問題である燃料・エネルギー産業への過度な依存から脱却し、国全体の産業の高度化を図るべきことが重い課題であることは十分自認しているようである。
[1] ロシア政府HP「2050年までのロシア連邦エネルギー戦略」
http://static.government.ru/media/files/LWYfSENa10uBrrBoyLQqAAOj5eJYlA60.pdf(外部リンク)
当該ロシア連邦政府令については、HP上にて別途抄訳を添付しております。ご関心ある方は添付のPDFをダウンロードください。
[2] 「ロシアの技術主権」とは、経済的自立と国家安全保障に必要な主要な技術とインフラを国が独自に開発、生産、管理する能力とし、ロシア連邦政府が承認した「2030年までの技術開発構想」によれば、下記の技術開発3つの目標が定められている。
1)重要且つ分野横断的な技術の複製に対する国家による管理を確保。
2)イノベーション志向の経済成長への移行。
3)生産システムの持続可能な機能と発展のための技術支援。
以上
(この報告は2025年5月13日時点のものです)