ページ番号1010491 更新日 令和7年5月14日
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概要
- 欧州委員会は5月6日、EUのエネルギー安全保障を確保しつつ、恒久的にロシア産化石燃料からの脱却を推進する政策コミュニケ「REPowerEU」について具体的なロードマップを改めて発表。
- 9つのアクションから成り、6月に石油、ガス、原子力エネルギーそれぞれに関する法案が提出される予定。需給逼迫の観点から対露禁輸対象となっていない天然ガスについては3つの厳格な指針を含む。
- ロシア産ガス(パイプライン及びLNG)の供給業者との新規契約は禁止。
- 既存のスポット契約は2025年末までに停止。
- 既存の長期契約に基づくロシア産パイプラインガス及びLNGの輸入を2027年末までに禁止。
- 同政策コミュニケについては複数の問題点が指摘されている。
施行上の問題 1:全会一致か多数決か
エネルギー政策に関しては欧州委員会及び加盟国の共有権限とされているが、エネルギーミックスの選択は国家主権であるとされており、原則全会一致で政策が決定されることになるのが通例。既にスロヴァキア及びハンガリーは反対する姿勢を示す中、ダン・ヨルゲンセン欧州委員会エネルギー委員は全会一致ではなく、特定多数決(Qualified Majority)によって採択されると述べており、立法プロセスは現時点で不透明。
施行上の問題 2:契約の破棄とフォースマジュール
2028年以降も効力を持った天然ガス売買長期契約を、2027年を以て終了=破棄することになるが、EUによる制裁発動とそれに伴う「フォースマジュール(不可抗力)」事象の発生であるとして欧州のLNG買主が責任を問われることはないとされている。果たして法的にその主張が認められるか否か法廷論争に発展する可能性がある。
施行上の問題 3:市場の混乱
ロードマップ実行においては、EUを通じたロシア産ガスの監視と追跡を強化する必要があり、契約上守秘義務対象である契約・帳簿を開示させる過程・強制・執行において市場に混乱を齎す懸念が指摘されている。
- ロードマップ実行により、2027年には欧州への天然ガス代替供給が確保されることが見通される。新規LNG追加購入とFSRU新設、節ガスによって欧州域内の必要となるガス需要は賄えると見込まれる。2027年~2028年から徐々に米国・カタール・東アフリカ等で立ち上がる新規LNGプロジェクトによって生み出される史上最大のLNG供給過多の状況も欧州にとっては追い風となるだろう。
1. はじめに
欧州委員会は5月6日、EUのエネルギー安全保障を確保しつつ、恒久的にロシア産化石燃料からの脱却を推進する方策である「REPowerEU」(2022年3月・5月に欧州委員会が加盟国に提案した政策コミュニケ)について具体的なロードマップを改めて発表した[1]。
天然ガス需給における欧露の分断により生じている市場の逼迫状況を受けて、対露禁輸に踏み込めていない天然ガスについては、以下の3つの柱から成る。
- ロシア産ガス(パイプライン及びLNG)の供給業者との新規契約は禁止。
- 既存のスポット契約は2025年末までに停止。
- 既存の長期契約に基づくロシア産パイプラインガス及びLNGの輸入を2027年末までに禁止。
この措置により、EUは今年末までにロシア産ガスの供給量を3分の1削減することになると欧州委員会は声明で述べている。この他、対象には化石燃料(石油ガス)以外に原子力も含まれ(「ロシア産化石燃料」から「ロシア産エネルギー」からの脱却へ変化)、ロシア産ウラン、濃縮ウラン及びその他の核物質の新規供給契約に対する制限が盛り込まれる他、EUの医療用放射性同位元素の供給をEU域内の供給増加を通じて確保するための構想も謳われている。
また、当該ロードマップは、ロシア産エネルギー供給の段階的廃止に向けて、欧州加盟国の協調的かつ段階的なアプローチをとるべく、次の9つの具体的なアクションから成り、6月に石油、ガス、原子力エネルギーそれぞれに関する法案が提出される予定としている。

出所:欧州委員会公表資料からJOGMEC取り纏め
<参考>欧州委員会が主導するREPowerEUとは(2022年5月8日発表[2])
2022年3月8日、ロシアによるウクライナ侵攻から3週間も経たない時点で、欧州委員会は天然ガスを皮切りに、欧州をロシア産化石燃料依存から独立させるべく、(1)エネルギー価格の高騰及び需給逼迫への短期的な対応策、(2)ロシア産化石燃料への依存からの脱却を2本柱とする政策コミュニケを発表。それに先立つ3月3日にはIEAが欧州委員会への提言として、EUのロシアの天然ガス輸入への依存を1年間で3分の1以上減らすための10ポイントを発表し、欧州委員会の動きの起点となった[3]。
IEAによる欧州委員会への10ポイント提言(2022年3月3日)
- ロシアとの新しいガス契約に署名しない(2022年末までに最低15BCM分の契約が失効)。
- 他の供給源からのガス供給を最大化する。 (最大10BCM)
- ガス貯蔵の最低義務の導入。 (10月1日までに最低在庫レベル90%を達成する必要)
- 新たな太陽光と風力プロジェクトの展開加速。 (6BCM削減)
- バイオマス・原子力等既存の低排出エネルギー源を最大限に活用する。 (13BCM削減)
- 電力高価格からの消費者の保護措置。
- 天然ガスボイラーをヒートポンプへ転換加速。 (2BCM削減)
- 建物・産業でのエネルギー効率対策を強化する。 (1~2BCM削減)
- 市民に自宅の熱暖房を1度下げる。 (10BCM削減)
- 電力システムの柔軟性、ソースの多様化及び脱炭素取組強化
このIEAの10ポイント案をバックボーンとして、欧州委員会は「REPowerEU」、即ち、政策コミュニケ「Communication on REPowerEU: Joint European action for more affordable, secure and sustainable energy(より手頃な価格で安全かつ持続可能なエネルギーのための共同アクション)」を発表した[4]。それは大きく次の5つの要点から成っている。
- 年末までにロシア産天然ガスに対する欧州需要を3分の2削減する。注:IEA案は3分の1。
- 毎年10月1日までにEU全体の地下ガス貯蔵をその容量の少なくとも90%まで満たすことを要求する立法案を4月までに提示する。
- 事業者、特にGazpromによる独占・不公正競争に対する懸念に応え、調査を継続。
- 2030年以前にロシア産化石燃料への依存を排除するべく、具体的な計画を策定する。
- ロシア以外の供給者からのより多くのLNGとパイプラインガスの輸入
- 大規模なバイオメタン及びグリーン水素の生産及び輸入
- 再生可能エネルギーへの迅速な移行により2030年の温室効果ガス削減目標(1990年比で少なくとも55%削減)を達成する政策パッケージ「Fit for 55」を土台に以下の施策を提案。
(1)省エネ (2)エネルギー供給の多角化 (3)再生可能エネルギーへの移行の加速 (4)財源確保
―――
政策コミュニケ(Communication)は、法的効力は発生しないガイドラインとしての位置づけであり、今後その具体的な方策についての議論や加盟国との調整が始まっていくものだが、ウクライナ情勢が欧州委員会をして、ロシア離れを加速させ、積極的にその道筋を示そうとしているこの動きは、ロシア依存度からの脱却という強固なベクトルへ進んでいくことを確信させるものと見られてきた。
欧州委員会はそのリリースの中で、ロシアからの天然ガス、石油及び核関連製品の供給がウクライナ戦争開後3年を経過しても、依然としてEUのエネルギーミックスの一部であることに、域内の安全保障と競争力にリスクをもたらしていると警鐘を鳴らしている。2024年には、EUは52BCMのロシア産ガス(パイプライン経由32BCM及びLNG経由20BCM/1,470万トン)、原油1,300万トン(日量26万バレル)、濃縮ウラン・核燃料について2,800トン以上を輸入したとしており、10の加盟国がロシア産天然ガスを、3の加盟国がロシア産石油を、6の加盟国がロシア産濃縮ウラン又は核燃料関連サービスを輸入したことを明らかにしている[5]。今回の具体的なロードマップの発表は、対露制裁は継続されている一方で、ロシア・ウクライナ戦争を巡る情勢は膠着化し、停戦や和平に向けた進展が見られない中、欧州連合として対露戦略において断固たる態度を示すことを目的としていると考えられる。また、昨今欧州ではトランプ政権の登場に加え、ウクライナ戦争よりも自国の経済安全保障を重視し、ロシア産エネルギー、特に天然ガスの復活を示唆する動きが出てきており、その牽制としての意味も持つと考えられる。
2. 欧州向けロシア産LNGの現状
欧州向けロシア産LNGの輸入状況について図1に示す。天然ガスについては需給が逼迫している現状に鑑み、欧米による対露制裁では一部の国(米英豪加)しか禁輸対象としておらず、欧州諸国及び日本は輸入を継続している。欧州向け輸出がメインとなっている北極海に面するヤマルLNG(2017年輸出開始)、バルト海に面するポルタヴァヤLNG(2022年輸出開始)及びクリオガス・ヴィソーツクLNG(2019年)からの輸出量は、欧州諸国向けでは侵攻直後の2022年は1,567万トンだったものが、2024年には1,768万トンへ13%増加している。また、ベルギー及びノルウェーにおける積替え量は、2022年は372万トンだったものが、2024年には451万トンへ21%増加しており、その傾向はEUによる積替え禁止措置によって若干減少しつつも現在も継続中である。また、図1では欧州諸国(青線)とアジア諸国(黄線)との間で季節間での相関関係が見られることも目を引く。これは冬季欧州向けが増加する季節要因の他に、ヤマルLNGの輸送において夏季のウィンドウでの北極海航路の利活用による中国向け輸出の増加が現れていると考えられる。

注:サハリン2を除くヤマルLNG、ポルタヴァヤLNG及びクリオガス・ヴィソーツクLNGを対象。
出所:KplerデータベースからJOGMEC作成

出所:KplerデータベースからJOGMEC作成
他方、2025年1月に初めて生産中のLNGプロジェクトを対象とした米国バイデン政権が最後に発動した制裁により、ポルタヴァヤ及びクリオガス・ヴィソーツクの両LNGプロジェクトは輸出ができない状況に陥っており、2025年については両プロジェクト分(2024年実績では235万トン)の大幅な減少が見込まれている(図3)。
パイプラインガスも含めるとロシア産天然ガスの輸出量状況は大きく異なる。2024年は対中パイプライン「シベリアの力」が設備容量を達成したのを受けて2023年より12%増加するも、依然として2021年に比べれば35%も減少している。その原因はもちろん2022年8月にロシアが自ら対独パイプラインである「ノルド・ストリーム」を完全停止し、欧州のロシアに対する信用を失墜したこと、そして、その1カ月後には当該パイプラインが何者かの手によって破壊されたことにより、信頼性・安定供給面でリスクが高まったロシア産ガス離れが欧州で決定的に加速したことが背景にある。これにより、ウクライナを経由するパイプラインの稼働率も減少し、2024年の欧州向けロシア産パイプラインガスはウクライナ経由のパイプライン(2024年は16.5BCM)及び「トルコ・ストリーム」の欧州向け(同16.7BCM)と合計で33.2BCMだった。これは2021年のトルコを除く欧州向けの総量122.6BCMから78%減少している状況にある。

出所:KplerデータベースからJOGMEC作成

(2021年、2022年、2023年及び2024年の比較)
出所:公開情報をベースにJOGMEC取り纏め
3. 指摘される問題
今回欧州委員会が発表した政策コミュニケについては、既に以下の3つの問題点が指摘されている。
(1) 施行上の問題 1:全会一致か多数決か
ダン・ヨルゲンセン欧州委員会エネルギー委員は、「この措置は全会一致ではなく、特定多数決(Qualified Majority)によって採択される」と述べたことが注目されている[6]。新たな制裁措置の承認に全会一致が必要とされていたこれまでのEUの方針からの転換ともなるが、その根拠は明らかにされていない。Qualified Majorityとは、欧州理事会が欧州委員会又はEU外務・安全保障政策上級代表の提案を採決する場合、その提案は、適格な過半数に達した場合に採択されるとされ、次の2つの条件が同時に満たされた場合に発動されるとされている。まず、加盟国の55%(27カ国中15カ国)が賛成票を投じており、EUの総人口の最低65%を占める加盟国が支持する場合である[7]。
しかし、エネルギー政策に関しては欧州委員会及び加盟国の共有権限とされてはいるが、エネルギーミックスの選択は国家主権であるとされており、原則全会一致で政策が決定されることになるのが通例である。正式な法案は6月に予定されているため、各国の対応や具体的な施行メカニズムはまだ見えておらず、現段階でどのようなプロセスを経るのかは不明だが、後述の通り(5.)、既にスロヴァキア及びハンガリーは反対する姿勢を示している。
確かに、2009年、ウクライナ及びロシアの間でガス供給途絶問題が再燃したこの年、EUのエネルギー政策に対して、欧州委員会が主導権を発揮することが可能となった大転換が行われた。同年末批准されたリスボン条約では第194条において、EUは加盟国の「連帯の精神」に基づいて、特定の4つの分野において政策を進めるための規則(Regulation)・指令(Directive)を通常の立法手続きによって欧州委員会が定めることとなった。ロシアという外圧が欧州連合におけるエネルギー政策を各国主導から欧州政府主導に転換したことで注目される動きであったが、その4つの分野はそれぞれ、1. エネルギー市場機能の確保、2. エネルギー供給の安全保障の確保、3. エネルギー効率、節約及び再生可能エネルギーの促進、そして4. エネルギー・ネットワークの相互接続の促進、に限定されている[8]。今回のロードマップでは各国のエネルギーミックスを強制的に変えるような内容は依然国家主権に委ねられているものであり、これら4つの分野のいずれかで読み込むことができるのか現時点では不明である。可能性として、賛同する欧州加盟国が欧州委員会よりも踏み込んだ政策・措置をとることはできることから、反対する一部の国を除き、先行して脱ロシア依存を進めるということを謳った欧州連合としての立法措置をQualified Majorityを用いて決定するシナリオも考えられる。
(2) 施行上の問題 2:契約の破棄とフォースマジュール
もしロードマップに従って、2028年以降も効力を持った天然ガス売買長期契約を、2027年を以て終了=破棄することになる場合には訴訟問題に発展することは想像に難くない。ダン・ヨルゲンセン欧州委員会エネルギー委員はこの点について、ロシア産ガスの長期契約またはスポット契約を終了する法的根拠として、欧州連合による制裁発動とそれに伴う「フォースマジュール(不可抗力)」であり、従って、契約当事者が「責任を問われることはない」と述べている。確かに契約当事者ではなく、制裁発動という当事者が管理・支配のできない事象に対しては、当該契約の中でフォースマジュールとして規定されている義務からの免除を申し出ることはできる。しかし、今回は欧州のLNG需要家に対して、欧州連合が対露制裁の一環での契約不履行を強制することになり、認められるか否か法廷論争に発展する可能性もあるだろう。
(3) 施行上の問題 3:市場の混乱
ロードマップの実行においては、EUを通じたロシア産ガスの監視と追跡を強化する必要があり、関係企業にロシア産ガス契約の量及び期間(スポット及び長期)に関する情報の提供を義務付ける措置や実際の輸入に関する情報を税関、国家安全保障当局等で共有することを義務付ける措置が必要となると考えられる。既に一部の市場関係者・トレーダーはスポット契約での購入か長期契約でのLNG購入かを示すには、契約上守秘義務対象である帳簿を開示させる必要があることから、施行において市場に混乱を及ぼす懸念を示唆している。
4. ロシア産天然ガスは代替できるのか
現在、ロシアの天然ガス輸入の約3分の2が長期契約に基づいており、約3分の1はスポット購入に基づいていると考えられている[9]。欧州側は現在需給が逼迫する天然ガスも2027年には代替供給が確保される見通しであり、経済性は別としても新規LNG追加購入とFSRU新設(但し、既存FSRU施設容量で十分に賄える可能性の指摘もある)、節ガスによって欧州域内の必要となるガス需要は賄えるという算段があると考えられる(図5)。また、2027年~2028年から徐々に米国・カタール・東アフリカ等で立ち上がる新規LNGプロジェクトによって生み出される史上最大のLNG供給過多が欧州にとっては追い風となる(図6)。

出所:JOGMEC[10]

出所:JOGMEC
他方、ロードマップに従ったロシア産天然ガスの全面禁止は、ロシア企業(Gazprom及びNOVATEK)にとっては欧州市場代替先が量でも価格でも劣後する中国しかいない現状では困難に直面するのは明らかだ。特にロシア産LNG輸出は市場を他の地域に振り向けざるを得ず、輸送距離が2.5倍から3倍に増加することから対策を講じるのは困難だと考えられている[11]。
5. 加盟国の反応
欧州域内全体では天然ガスに関する脱ロシアに向けたロードマップの実現は可能と考えられるが、欧州各国では事情が異なる。今回のロードマップ発表に対して、早速スロヴァキア及びハンガリーが欧州委員会の提案に対する非難を表明した[12]。内陸にあって、自らLNGを直接受け入れることができないスロヴァキア及びハンガリーは共にロシアからのパイプラインガス輸入を継続しており、ロシア政府とも比較的緊密な政治関係を維持していることも共通している。
(1) スロヴァキア
スロヴァキア経済省は発表同日「この禁止措置はスロヴァキアや他の加盟国の利益にはならず、同意しない。欧州のエネルギー価格に悪影響を及ぼし、欧州産業の競争力を悪化させる」という声明を出した。ロベルト・フィツォ首相も翌日の記者会見で「決して実現されるべきではない政治的かつイデオロギー的な文書。提案された措置が発効すれば、スロヴァキアはEU加盟国の中で最も深刻な影響を受けることになる。これは絶対に受け入れられない。EUはロシアよりも大きな損害を受けるだろう。我々は経済的自殺を拒否する」と述べている。また、2022年3月にフランスのヴェルサイユで開催されたEU首脳会議における宣言は、ロシアからのエネルギー供給への依存を減らすことを約束しただけで、輸入を完全に停止することは約束していないと主張し、上記3.(1)で述べた同提案に関する立法手続きが依然として不明確であり、加盟27カ国全会一致かあるいは加盟国の過半数承認が必要となるのかについても不明であると懸念を表明している。デニサ・サコバ経済大臣もまた輸入禁止を実装することは困難だろうと警告し、「パイプラインに混在する天然ガスがロシア産なのか、それともどこか他から来たものなのか、どうやって確認できるのか。エネルギー供給ソースの確認は費用がかかる上に複雑で、トレーダーにとって大きな問題となるだろう」と述べている。
スロヴァキアは現在、「トルコ・ストリーム」とハンガリー経由の陸上PLを通じたロシア産ガス輸入を長期契約に基づいて行っており、契約期限は2034年に設定されている。それでも供給不足が生じており、他の供給源から供給を補う必要がある状況にある。
(2) ハンガリー
ハンガリーのペーター・シーヤルト外相もまた「欧州委員会による政治的動機に基づくロシア産エネルギーの輸入禁止計画は重大な過ちである。エネルギー安全保障を脅かし、価格を高騰させ、主権を侵害する。欧州委員会はウクライナへの無謀な支援と性急なEU加盟のコストを我々に負担させようとしている。我々はこれを断固として拒否する」と強い口調で非難している。
ハンガリーは2021年9月、Gazpromと年間4.5BCMの長期契約(15年間)を締結し、さらに追加輸入も行っている。2023年のロシアからハンガリーへのガス輸出量は5.5BCMを超え、2024年には約7BCMに達した。2024年10月、Gazpromのミレル社長及びシーヤルト外相がサンクトペテルブルクで会談し、ガス供給拡大の可能性に関する覚書にも署名している状況にある。
―――
[3] IEA:https://www.iea.org/reports/a-10-point-plan-to-reduce-the-european-unions-reliance-on-russian-natural-gas(外部リンク)
[6] PIW(2025年5月8日)
[8] 蓮見雄・高屋定美編著「欧州グリーンディールとEU経済の復興」(文眞堂)P15~20
[9] IOD(2025年5月2日)
[10] 白川裕著「天然ガス・LNG最新動向 ―2023年世界のLNG貿易実績および中長期LNG価格イメージとLNG調達戦略・欧州ガス政策へのインプリケーション―」(2024年1月16日)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009992/1010005.html
[11] 露エネルギー・金融財団研究所アレクセイ・ベロゴリエフ氏
[12] EGD(2025年5月7日)
以上
(この報告は2025年5月14日時点のものです)