ページ番号1010492 更新日 令和7年5月19日

原油市場他:一部OPECプラス産油国による減産緩和加速の決定もあり、4年超ぶりの低水準にまでに下落するも、米国と中国の関税引き下げ合意により持ち直す原油価格

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レポートID 1010492
作成日 2025-05-19 00:00:00 +0900
更新日 2025-05-19 13:07:04 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2025
Vol
No
ページ数 47
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
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地域3
国3
地域4
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地域5
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地域8
国8
地域9
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地域10
国10
国・地域 グローバル
2025/05/19 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、春場のメンテナンス作業が終了に向かった等もあり、製油所の原油精製処理量が増加するとともに、原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る状態は維持されている。他方、夏場のドライブシーズンが接近しつつあることもあり、出荷が活発化した結果ガソリン在庫は減少した結果平年幅上限付近に位置する量となっている。また、製油所においてガソリンが重点的に製造された反面留出油製造は相対的に劣後したものと見られること等により、留出油在庫は減少傾向となった他、平年幅下限付近に位置する量となっている。
  2. 2025年4月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州ではメンテナンス作業が実施されながらも製油所の稼働は安定しつつあったことから、在庫水準はほぼ横這いとなった。しかしながら、米国の原油在庫は減少した他、日本においても製油所の稼働上昇もあり原油在庫は減少した。結果としてOECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では、製油所の石油製品製造活動が不活発化したこと等もあり在庫は減少した。しかしながら、米国では気温上昇に伴い暖房向けに利用されていたプロパンの需要が減少したこと等もあり、石油製品在庫は増加した。また日本においても、製油所での石油製品製造活動が活発化したこともあり在庫は増加した。このため、OECD諸国全体での石油製品在庫は増加した結果、平年幅上方付近に位置する量となっている。
  3. 2025年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場においては、当初方針の3倍の規模の減産緩和を5月のみならず6月についても実施する旨5月3日にOPECプラス8産油国が決定したこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、4月11日には1バレル当たり61.50ドルの終値であった原油価格は概して下落傾向となり、5月5日には57.13ドルの終値と2021年2月5日以来の低水準に到達した。しかしながら、その後は、米国と中国が関税率を相当程度引き下げることで合意した旨の共同声明が5月12日に発表されたことにより、貿易戦争誘発に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したこと等もあり、原油価格は回復、5月16日の終値は1バレル当たり62.49ドルとなっている。
  4. 今後は、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近することによる季節的な石油需給の引き締まり感や、米国の関税率引き下げによる、米国や中国を含む世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退することに対する期待が、それぞれ増大しやすいことから、この面では原油相場に上方圧力が加わりやすいものと考えられる。しかしながら、6月1日に開催される予定であるOPECプラス8産油国会合において減産緩和加速継続が決定されるようであれば、世界石油需給の緩和感が意識される結果、原油相場が下振れする場面が見られる可能性がある。そのような中、イラン核問題を巡る米国とイランとの協議の進展具合を含む中東情勢、ウクライナとロシアとの戦闘を巡る両国の交渉状況と欧米諸国等のロシアへの対応、米国と他の諸国及び地域との間での貿易問題に関する合意を巡る動向、中国経済を巡る状況、大西洋圏のハリケーン等暴風雨の発生及びその進路の状況等が原油相場に影響を与えていくものと考えられる。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2025年2月の米国ガソリン需要(確定値)は推定日量868万バレル、前年同月比0.9%程度の増加と、2025年1月の当該需要(確定値)である日量848万バレル、前年同月比3.0%程度の増加から、需要量は増加したものの増加率は縮小した(図1参照)。ただ、当該需要は速報値(前年同月比0.5%程度減少の日量856バレル)からは上方修正されている。2月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量88万バレル程度と推定されたところ確定値では同76万バレルへと下方修正されたことにより、速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に寄与しているものと見られる。2025年2月の米国の気候は前月比で温暖であったことから、個人の外出が相対的に促されたことが前月比でのガソリン需要を増加させる形で作用したことに加え、同月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.247ドルと前年同月(同3.328ドル)を2.4%程度下回っていたことによりガソリン小売価格の割安感が発生したこともあり、前年同月比でガソリンの購入が相対的に喚起されたことが、同月の同国ガソリン需要の前年同月比での増加に寄与しているものと考えられる。ただ、2024年1月は中旬を中心として厳しい寒波が米国の広い地域にまで来襲したことに伴い気温が大幅に低下したことにより個人の外出が相当程度不活発化したこともあり乗用車へのガソリン給油活動が大幅に落ち込んだ(2024年1月の米国ガソリン需要は日量824万バレルと同年2月の同860万バレルを下回っている)反動が、2025年1月の同国ガソリン需要の前年同月比での増加率を拡大させる形で作用したため、2025年2月の当該需要の前年同月比での伸び率が同年1月から縮小する格好となった側面があるものと考えられる。なお、2025年2月の米国ガソリン需要は、新型コロナウイルス感染拡大前の時点である2020年2月の当該需要(日量905万バレル)(確定値)を4.1%程度下回っている。他方、2025年4月の米国ガソリン需要(速報値)は日量888万バレル、前年同月比0.6%の増加と3月の当該需要(速報値)である日量873万バレル(前年同月比1.8%程度の減少)から需要量が増加した他同月の前年同月比での減少から増加に転じた。4月の気候は3月に比べさらに温暖になったことから、個人の外出が促進されるとともにガソリン需要が前月比で増加したものと見られる。また、2025年4月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.299ドルと前年同月(同3.733ドル)比で11.6%の下落となったことから、ガソリン小売価格の割安感が強まるとともに消費者のガソリン購入が進んだことが、同製品需要を前年同月比で増加させたものと考えられる。なお、2025年4月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルスの感染拡大前の時点である2019年4月の当該需要(日量941万バレル)(確定値)を5.6%程度下回っている。また、米国では春場のメンテナンス作業が終了しつつあるとともに、一部装置で発生していた不具合の改修作業も完了しつつあったことから、製油所における原油精製処理量が増加する(図2参照)とともに、ガソリン製造活動も活発化しつつあるものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ものの、気温の上昇とともに米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2025年は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月26日)に伴う連休(5月24~26日)から労働者の日(レイバー・デー)(9月1日)に伴う連休(8月30日~9月1日)までである)が接近しつつあることもありガソリン出荷が増加傾向となったことから、4月上旬から5月上旬にかけ米国ガソリン在庫は減少傾向を示した結果、平年幅上限付近に位置する量となっている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2015~25年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~25年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~25年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~25年)

2025年2月の米国留出油需要(確定値)は推定日量400万バレル、前年同月比で2.0%程度の増加となり、2025年1月の日量406万バレル(前年同月比で5.0%程度の増加)(確定値)と比べ、需要量は減少したうえ前年同月比での増加率も縮小した。また、当該需要は速報値(前年同月比3.1%程度増加の日量404万バレル)から若干ながら下方修正されている。2025年2月の米国鉱工業生産が前年同月比で1.4%の増加となるなど堅調であった一方、同月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり3.675ドルと前年同月(同4.044ドル)比で9.1%程度下落したこともあり、留出油需要が喚起された側面があったものと見られる(なお、同月の米国物流活動も前月比で1.2%、前年同月比で2.4%、それぞれ増加していた)。そのような中、2025年2月の米国の暖房向け留出油需要の中心地である北東部の気候が前月比で温暖となった反面、前年同月比では寒冷となったことから、同月の留出油需要が前月比で減少した反面前年同月比では増加したものと考えられる。なお、2025年2月の米国留出油需要は2020年2月の当該需要(日量408万バレル)(確定値)を2.0%程度下回っている。他方、4月の米国留出油需要(速報値)は日量374万バレル、前年同月比で1.5%程度の減少となり、3月の当該需要(速報値)である同383万バレル(前年同月比4.2%程度の増加)から、需要量は減少したうえ前年同月比では増加から減少に転じた。4月の米国北東部の気候が前月比及び前年同月比で温暖となったことが同月の暖房向け留出油消費を抑制するとともに同国の留出油需要の前月比及び前年同月比での減少をもたらしたものと考えられる。なお、4月の米国留出油需要は2019年4月の当該需要(日量412万バレル)(確定値)を9.1%程度下回っている。そして、米国の製油所の稼働が上昇傾向となるとともに石油製品製造活動は活発化しつつあるものの、石油製品製造活動の中心が、夏場のドライブシーズンに伴う需要期が接近しつつあるガソリンになるとともに、留出油の製造がもたつき気味となった(図6参照)反面、気温の上昇とともに個人の外出が活発化しつつある欧州等(欧州ではディーゼル車が乗用車としてそれなりに浸透している)に向け軽油の輸出が堅調となったことから、4月上旬から5月上旬にかけての米国の留出油在庫は減少傾向を示した結果、平年幅下限付近に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2015~25年)

図6 米国の留出油生産量(2009~25年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~25年)

2025年2月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比1.4%程度増加の日量2,023万バレルとなり(図8参照)、1月の同2,074万バレル、前年同月比5.9%程度の増加から、需要量は減少したうえ、前年同月比での増加率も縮小した。また、その他の石油製品等の需要が速報値から下方修正されたこともあり、同国石油需要も速報値(前年同月比1.4%程度増加の日量2,024万バレ)から若干ながらではあるが下方修正されている。2月の北東部を含む米国は1月に比べ気候が相対的に温暖であったこともあり、暖房のための留出油やプロパンの需要が前月比で減少したことに加え、エタン及び石油コークスを含むその他の石油製品の需要が前月比で減少した(石油コークス及びエタンの両需要は月によって増減が見られるため、今後数ヶ月間動向を監視する必要があるが、2025年1月20日に米国の大統領に就任後、トランプ氏が関税賦課の意向を表明したこともあり、他国等との貿易戦争誘発による米国経済減速懸念から石油化学を含めた産業部門で原料等として利用される石油製品の購入が敬遠される兆候を示している可能性があるので注意する必要があろう)ことが、米国石油需要が前月比で減少した背景にあるものと考えられる。ただ、2025年2月の気候が前年同月比では寒冷であったことによりプロパンや留出油の両需要が前年同月比で増加したものと見られることが一因となり、同月の米国石油需要も前年同月比で増加となった。なお、2025年2月の米国石油需要は2020年2月の当該需要(日量2,013万バレル)(確定値)を0.5%程度上回っている。他方、2025年4月の米国石油需要(速報値)は日量1,973万バレル、前年同月比で1.4%の減少となっており、3月の同国石油需要(速報値)である日量1,997万バレル、前年同月比0.4%程度の増加から需要量は減少した他前年同月比では増加から減少に転じた。4月は3月に比べ気候が温暖になるとともに、暖房のために利用されてきたプロパンや留出油の需要が前月比で減少したことが、4月の米国石油需要が前月比で減少した主要因となっているものと考えられる。また、その他の石油製品の需要が前年同月比で相当程度減少した(米国のトランプ大統領の相互関税等の賦課に伴う相手国との貿易戦争発生もあり、米国経済が減速気味となったことにより、石油化学を含む産業部門において原料等として利用される石油製品等の需要が前年同月比で減少したことが影響している可能性がある)ことが、同月の米国石油需要の前年同月比での減少をもたらす格好となっている。なお、2025年4月の米国石油需要は2019年4月の当該需要(日量2,033万バレル)(確定値)を3.0%程度下回っている。また、米国における原油生産が概ね安定して推移する一方、春場のメンテナンス作業が終了に向かった他、一部装置で発生した不具合の改修作業も完了しつつあったことから、同国の製油所における原油精製処理量が上向きとなったことが一因となり、4月上旬から5月上旬にかけての米国原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過している他ガソリン在庫が平年幅上方付近に位置する量となっている反面、留出油在庫は平年幅下限付近に位置する量となったが、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2015~25年)

図9 米国原油在庫推移(2003~25年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~25年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~25年)

2025年4月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州ではメンテナンス作業が実施されながらも製油所の原油精製処理活動が安定しつつあったことから、在庫水準はほぼ横這いとなった。しかしながら、米国の原油在庫は減少した他、日本においても、一部製油所での装置の不具合発生により原油精製処理が進まなくなった反面、他の製油所の中にはメンテナンス作業完了等による稼働の引き上げに伴う原油精製処理活動の活発化を控えた原油調達が進んだところもあったものと見られることもあり、3月末の原油在庫は前月比で増加したものの、その後製油所の稼働上昇に伴い原油精製処理が進むようになったこともあり、4月末の同国の原油在庫は前月比で減少した。結果としてOECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧州では、メンテナンスの実施により製油所での石油製品製造活動が不活発化した反面、夏場のドライブシーズンを控えガソリン在庫が減少しつつあったこともあり、同製品の需給が引き締まりつつあった米国等に向けガソリンが輸出されたものと見られることもあり、同製品を中心として在庫は減少した。しかしながら、米国ではガソリンや留出油の在庫は減少したものの、気温が上昇するとともに暖房向けのプロパン需要が低下したことに伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要が減少したことにより、その他の石油製品在庫が増加したこともあり、石油製品全体では在庫は増加した。また日本においても、製油所の稼働が上昇するとともに石油製品製造活動が活発化したこともあり、全般的に石油製品在庫は増加した。このため、OECD諸国全体での石油製品在庫は増加した結果、平年幅上方付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から増加した他、平年幅上限を超過する量となっている(図14参照)。ただ、2025年4月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.1日と3月末の推定在庫日数(60.2日)から若干ながら減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~25年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~25年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~25年)

4月9日に1,600万バレル弱程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、4月16日には1,500万バレル弱程度の量へと減少した。4月23日には1,500万バレル台半ば程度の水準へと回復したものの、4月30日には1,300万バレル台前半程度の量へと落ち込んだ。5月7日は増加したものの1,300万バレル台半ば程度の水準にとどまったうえ、5月14日には再び1,300万バレル台前半程度の量へと減少した結果、4月9日の水準を下回る状況となっている。中国やロシア等において春場のメンテナンス作業実施等に伴い製油所の稼働が低下したこともあり、それら諸国等からの輸出が減少する反面国内需要を賄うための輸入が拡大したものと見られることが、ガソリン及びナフサのシンガポール方面への流入を減少させる格好となった。加えて、シンガポールを初めとするアジア諸国等からメキシコ方面にガソリンが輸出された(メキシコの米国からのガソリン輸入量には変化がないと4月30日に伝えられたこともあり、メキシコの太平洋岸にあるサリナ・クルツ(Salina Cruz)製油所(操業者:ペメックス(Pemex)、原油精製処理量日量33万バレル)もしくはその関連施設等において操業上の不具合が発生したことが影響した可能性がある旨示唆される(なお、5月に入ってからはメキシコ向けのガソリンに対する購買の関心は低下していることが示唆される旨5月14日に伝えられる))。このような要因がシンガポールにおける軽質留分在庫減少の背景にあるものと考えられる。そして、シンガポールにおける軽質留分在庫が減少傾向となる中、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が市場関係者間で意識される一方、同国のガソリン在庫が継続的に減少した(減少は2025年2月28日から4月25日にかけ9週連続となった)こともあり、欧州等から米国へのガソリン輸出が活発化するなど、世界的なガソリン需給の引き締まり感が強まった反面、原油価格が下落傾向となる場面が見られたこともあり、4月中旬から5月中旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合、ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向を示した。

また、原油価格が下落傾向を示す中、シンガポールにおけるナフサを含む軽質留分在庫が減少傾向となったことや、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が差し迫りつつある米国向けのガソリン出荷が欧州で活発化しつつあることに加え、ナイジェリアのダンゴテ製油所(操業者:ダンゴテ・インダストリーズ(Dangote Industries)、原油精製処理能力日量65万バレル)において、ガソリン製造のための残油流動接触分解装置(RFCC:Residue Fluid Catalytic Cracking)が具合発生により停止したこともあり、欧州からアフリカ方面へのガソリンの輸出も活発化したことにより、ガソリンの原料となるナフサの需要が欧州で増加するとの観測が発生したこと、米国の関税賦課政策に対抗し、4月11日に中国も多くの製品に125%の関税を賦課した結果、米国からの液化石油ガス(LPG)の輸入価格が跳ね上がる方向に向かう格好となったこともあり、プロパン(米国が主要供給国となっていた)を原料とする中国のプロパン脱水素化装置(PDH: Propane Dehydrogenation)の稼働が採算性の悪化から低下する反面、代替としてナフサ分解装置の稼働が上昇するとともに、その原料となるナフサ(LPGに比べ相対的に割安となる)の需要が高まるとの観測が市場で発生したことが、アジア市場におけるナフサ価格に上方圧力を加えた結果、4月中旬から5月中旬にかけてのナフサとドバイ原油との価格差(この場合、ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小傾向となった。

4月9日には900万バレル台前半程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分在庫は、4月16日には、900万バレル台後半程度の量へと増加したものの、4月23日には800万バレル台半ば程度と、2024年7月10日(この時は800万バレル台半ば程度の量であった)以来の低水準にまで落ち込んだ。それでも、4月30日には800万バレル台後半程度、5月7日には900万バレル弱程度、そして、5月14日には1,000万バレル弱程度の、それぞれ量へと増加した結果、5月14日の在庫量は4月9日の水準を上回る状況となっている。中国等を含むアジアの一部諸国及び地域において春場のメンテナンス作業が実施されていることにより、製油所における石油製品製造活動が不活発化した結果、中間留分の供給が抑制されていることに加え、欧州において、気候が温暖になるとともに個人の外出が活発化することにより軽油需要が喚起される反面、同地域の製油所でもメンテナンス作業が実施されつつあることもあり軽油供給が抑制される格好となっていることから、中東やインドの製油所で製造された軽油が欧州方面に向かう反面、それら地域からのシンガポール方面への中間留分の供給が低調となったものと見られることが、4月上旬から下旬にかけてのシンガポールにおける中間留分在庫減少に影響したものと見られる。しかしながら、4月23日に中間留分在庫が9ヶ月超ぶりの低水準にまで減少したこともあり、かえってアジア市場における中間留分需給の引き締まり感が市場で意識されるとともに、アジア諸国及び地域等で製造された軽油等が欧州方面に向かう代わりにシンガポールに流入したものと見られることが、その後のシンガポールにおける中間留分在庫の増加傾向をもたらしたものと考えられる。それでも、欧州やアジア諸国及び地域等における製油所のメンテナンス作業は今暫く続くものと見られる中、欧州等においても夏場のドライブシーズンとともに軽油需要がさらに増加する時期の到来が視野に入り始めていることもあり、この先欧州での軽油需給の引き締まり感が一層強まるともに、中東やアジア諸国及び地域で製造された軽油が欧州方面に輸出される結果アジア市場における軽油等の中間留分需給が引き締まる可能性があるとの見方が根強いことが、同市場での軽油価格に上方圧力を加えた他、原油価格の下落に軽油価格の下落が追い付かなかった場面が見られたこともあり、4月中旬から5月中旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合、軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した。

4月9日には2,200万バレル強程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、4月16日には2,300万バレル弱程度、4月23日に2,400万バレル台前半程度の、それぞれ量へと増加した。しかしながら、4月30日には2,200万バレル台半ば程度、5月7日には2,000万バレル台半ば程度、5月14日には1,900万バレル台半ば程度の、それぞれ量へと減少した。その結果、5月14日の在庫水準は4月9日をそれなりに下回る状態となっている。中国国内の石油需要が軟調であることもあり同国の独立系製油所において各種石油製品製造のための原料となる重油の需要が低迷した一方、その他の製油所ではメンテナンス作業実施に伴い高度化施設の稼働が停止したことにより軽質製品の製造が進まなくなるとともに、かえって重油の供給が拡大した(ナイジェリアのダンゴテ製油所では残油接触分解装置(RFCC)に不具合が発生して停止したこともあり、低硫黄重油が同国から輸出されつつある旨5月9日に伝えられた)ことが、重油需給を緩和する方向で作用した側面はあるものの、全体としては、春場のメンテナンス作業実施に伴い欧州、ロシア及びアジア等における製油所の稼働が低下するとともに重油の製造が削減されたことにより、それら地域からの重油の流入が抑制した結果、シンガポールにおける重油在庫が減少したものと考えられる。このようにシンガポールにおける重油在庫が減少したうえ、中東を中心とする地域においては夏場の気温上昇に伴う空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における重油需要期が視野に入りつつあったことから、同地域等からアジア市場向けの重油供給がこの先減少するとの観測が広がりつつあることが、アジア市場における重油価格に上方圧力を加えた他、原油価格の下落に重油価格の下落が追い付かなかい場面が見られた結果、4月中旬から5月中旬にかけての同市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合、従来高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っていた)はその幅が縮小するとともに、高硫黄重油価格が原油価格を上回る場面が見られるようになった他、低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合、低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した。

 

2. 2025年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場等の状況

2025年4月中旬から5月中旬にかけての原油市場においては、OPECプラス産油国間の結束よりも自国の利益を優先する旨のカザフスタンのエネルギー相の発言を引用した報道が4月23日になされたことや、同国が実際に増産していることを示唆する情報が4月29日に流れたこと、当初方針の3倍の規模の減産緩和を5月のみならず6月についても実施する旨5月3日にOPECプラス8産油国が決定したこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、4月11日には1バレル当たり61.50ドルの終値であった原油価格は概して下落傾向となり、5月5日には57.13ドルの終値と2021年2月5日以来の低水準に到達した。しかしながら、その後は米国の貿易相手との間での関税を巡る協議が順調に進捗している旨5月6日に同国ベッセント財務長官が示唆したことに加え、実際米国と英国が関税率引き下げで合意した旨5月8日に米国のトランプ大統が発表したこと、さらに米国と中国が関税率を相当程度引き下げることで合意した旨の共同声明を5月12日に両国が発表したことにより、貿易戦争誘発に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したこと等もあり、原油価格は回復、5月16日の終値は1バレル当たり62.49ドルとなっている(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~25年)

米国に輸入される情報技術(IT)機器類及び半導体製造装置等を相互関税賦課の対象から除外する旨4月11日夜(米国東部時間)に同国税関・国境警備局(CBP:Custom and Border Protection)が発表した他、関税賦課により影響を受ける自動車製造業者に対する支援策を検討している旨4月14日に米国のトランプ大統領が明らかにしたことにより、経済減速懸念が後退したこともあり、米国株式相場が上昇したことに加え、4月12日に行なわれたイランの核開発活動に関する米国とイランの政権幹部による協議(後述)に対し、イランは核合意等を巡る米国との交渉を引き延ばしていると考えており、イランが核兵器関連施設の保有を断念しなければ当該施設攻撃を含め軍事行動を実施する可能性がある旨4月14日にトランプ大統領が表明したこと、4月14日に中国税関総署から発表された2025年3月の同国原油輸入が5,141万トン(推定日量1,214万バレル)と前年同月(4,905万トン(同1,158万バレル))比4.8%の増加となった他、2023年8月(同5,280万トン(同1,247万バレル))以来の高水準に到達していた旨判明した(米国による対イラン制裁強化の可能性を見込んでイランからの原油輸入を前倒しした他、ロシア産原油輸入が回復したことが背景にあると指摘する向きがある)ことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、4月12日にオマーンの首都マスカットにおいて、イランの核開発活動につき米国とイランの政権幹部が協議を実施(米国はウィットコフ中東担当特使、イランはアラグチ外相が主担当、オマーンの仲介による間接協議が主体だったが米国とイランの政権幹部が数分間直接対話を行なったとされる)、建設的な議論が行なわれ、4月19日に次回協議を開催することで合意した(今回の協議の場で、イランは米国の制裁緩和を条件として自国の核開発活動の抑制を提案したとされる)ことにより、米国とイランとの対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したこと、IT機器類には相互関税とは別の種類の関税を賦課する方針である旨4月13日にトランプ大統領が表明(1~2ヶ月以内に実施する予定である半導体を対象とする関税に含まれる見込みである旨4月13日に米国のラトニック商務長官が明らかにした他、トランプ大統領は関税の除外は発表していない旨4月13日に主張したものの、併せて一部企業に対しては柔軟に対応する意向であることを示唆)した他、半導体に加え医薬品に対する関税賦課の可能性を検討すべく調査を開始した旨4月14日に米国商務省が発表したこと、4月14日にOPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートにおいて、OPECが2025年の世界石油需要を日量15万バレル、2026年の世界石油需要を同30万バレル、それぞれ下方修正(2025年第1四半実績と米国関税政策を反映)したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.03ドルの上昇にとどまり、終値は61.53ドルとなった。そして、4月15日には、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートにおいて、IEAが2025年の世界石油需要を日量37万バレル下方修正した他、今般初めて公表した2026年見通しにおいて、世界石油需要が前年比日量69万バレルの増加と2025年(同73万バレル増加)よりも鈍化する旨示したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.33ドルと前日終値比で0.20ドル下落した。しかしながら、中国が、関税等を含む問題につき米国との協議に応じる姿勢である(米国が中国に対し敬意を示すとともに適切な交渉担当者を指名するという条件付き)旨示したと4月16日未明(米国東部時間)に報じられたことにより、両国間の貿易戦争激化による世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことに加え、イラン革命防衛隊関連企業から10億ドル超相当分の原油を購入したとして、中国の独立系製油所である山東勝星化工(Shandong Shengxing Petrochemical)に対し制裁を科する旨4月16日に米国財務省が発表したことに伴い、イラン産原油購入を巡る米国の制裁強化によるイランからの原油供給減少懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.14ドル上昇し、終値は62.47ドルとなった。また、中国の山東勝星化工に制裁を科する旨4月16日に米国財務省が発表したことに伴い、イラン産原油購入を巡る米国の制裁強化によるイラン産原油供給減少懸念増大の流れを4月17日の市場が引き継いだことに加え、イタリアのメローニ首相との会談後、90日間の関税賦課凍結期間終了前に欧州連合(EU)諸国との間で何らかの合意に到達できるものと確信している旨4月17日に米国のトランプ大統領が表明したことにより、米国の関税賦課強化に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.21ドル上昇し、終値は64.68ドルとなった。この結果原油価格は4月16~17日の2日間合計で1バレル当たり3.35ドル上昇した。なお、4月18日は米国聖金曜日(グッド・フライデー)に伴う休日に伴い原油市場は休場となった。

ただ、4月19日にイタリアの首都ローマにおいて、イランの核開発活動につき米国とイランの政権幹部(米国はウィットコフ中東担当特使、イランはアラグチ外相)が協議(オマーンを仲介者とする間接協議が中心)を実施した結果、核合意の枠組み形成に向けた作業を開始することで合意、4月26日に次回協議を開催するとともに、4月23日から実務者級会議を実施することになった(その後4月26日の政権幹部協議に併せて実務者協議を実施する旨4月22日にイラン外務省が発表した)ことにより、米国とイランとの対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことに加え、米国との貿易条件を巡る協議において、中国の利益を害するような合意には断固反対し、そのような第三国等に対し報復措置を実施する意向である旨4月21日に中国商務省が警告したことにより、米国による関税賦課等に伴う世界経済情勢を巡る不透明感が増大したこと、米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の解任の可否につきトランプ大統領が検討中である旨4月18日に同国経済会議(NEC: National Economic Council)のハセット委員長が発言した他、直ちに政策金利を引き上げるよう4月21日に米国のトランプ大統領がFRBに対し要求したことにより、米国金融当局の独立性及び信用性に対し疑問視する向きが増大したこともあり同国株式相場が下落したことから、4月23日の原油価格の終値は1バレル当たり63.08ドルとは前週末終値比で1.60ドル下落した。ただ、4月22日には、イランで生産された原油及び液化石油ガス(LPG)輸出に関与したとして、同国企業集団とその企業集団を率いている実業家のセイド・アサドル・エマムジョメ(Seyed Asadoollah Emamjomeh)氏に対し新規に制裁を科する旨4月22日に米国財務省が発表したことにより、米国とイランとの対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことに加え、米国と中国との貿易面での協議は現時点では開始されていないものの、両国の対立の先鋭化は長期化せず、緩和する方向に向かうもの(但し広範に渡る合意に至るまでには時間を要するであろう)と考えている旨4月22日に米国のベッセント財務長官が明らかにしたことにより、両国等による貿易戦争誘発による世界経済減速を巡る不安感が後退したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.23ドル上昇し、終値は64.31ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2025年5月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、6月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり63.67ドル(前日終値比同1.26ドルの上昇)であった)。ただ、カザフスタンはOPECプラスよりも国益を優先して原油生産を実施する意向である旨同国のアッケンジェノフ(Erlan Akkenzhenov)エネルギー相が明らかにしたと4月23日にロイター通信が報じたことにより、OPECプラス産油国間の減産を巡る結束力に対し疑問視する向きが市場で発生したこともあり、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.27ドルと前日終値比で2.04ドル下落した。それでも、4月23日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、米国と中国が4月24日朝(米国東部時間と見られる)に協議の場を持った旨同日米国のトランプ大統領が明らかに(同日中国外務省は否定)したことにより、米国と中国との関税賦課合戦を含めた貿易問題の解決に向けた動きへの期待が増大するとともに、世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.52ドル上昇し、終値は62.79ドルとなった。また、エタンを含む工業用化学製品、医療機器及び半導体関連の少なくとも8製品等といった米国からの一部輸入品、及びリースされている航空機を、125%の関税賦課の対象から除外する方向で中国政府が検討している旨4月25日にブルームバーグ通信等が報じた他、中国の習近平国家主席から電話連絡が入ったことを含め、同国との間で関税協定締結に向け交渉中であり、これを3~4週間程度で完了させたい意向である旨4月22日に米国のトランプ大統領が明らかにしたと4月25日にタイム誌が報じたことにより、米国と中国を中心とする貿易戦争誘発による世界経済減速懸念に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.02ドルと前日終値比で0.23ドル上昇した。

しかしながら、中国の習近平国家主席が米国のトランプ大統領と協議していることを含め、両国が関税問題において交渉を実施していると言う事実はない旨4月28日に中国外務省が明らかにした反面、関税を含む貿易面での米国と中国との対立の緩和は中国次第である旨4月28日に米国のベッセント財務長官が表明したことにより、両国の貿易戦争誘発による世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.97ドル下落し、終値は62.05ドルとなった。また、4月29日に米国民間調査機関コンファレンスボードから発表された4月の同国消費者信頼感指数(1985年=100)が86.0と3月の93.9から低下、2020年5月(この時は85.9)以来の低水準となった他、市場の事前予想(87.5)を下回ったことにより、米国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことに加え、4月1~28日のカザフスタンの原油生産量(コンデンセート除く)が日量181.4万バレルとOPECプラス産油国原油生産目標(同147.3万バレル)を相当程度上回っているものと推測される旨4月29日にロイター通信が報じたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.42ドルと、前日終値比で1.63ドル下落した。さらに、4月30日に中国国家統計局から発表された4月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.0と3月の50.5から低下、2023年12月(この時は49.0)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(49.7~49.8)を下回ったうえ、非製造業PMIが50.4と3月50.8から低下した他市場の事前予想(50.6)を下回ったことに加え、4月30日に米国商務省から発表された2025年1~3月期の米国国内総生産(GDP)(速報値)が前期比年率0.3%の減少と、2022年1~3月期(この時は同1.0%の減少)以来の減少となっている旨判明したことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、サウジアラビアは長期の原油価格低迷に耐えられるため、この先も原油価格を支持するために減産を強化する意向はない旨同国が同盟国や石油産業関係者に明らかにしていた旨4月30日にロイター通信が報じたことにより、今後もOPECプラス産油国が減産緩和を継続する結果世界石油需給緩和感が強まるとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.21ドル下落し、終値は58.21ドルと、2021年3月23日(この日の終値は57.76ドル)以来の低水準に到達した。また、この結果原油価格は4月28~30日の3日間合計で1バレル当たり4.81ドルの下落となった。しかしながら、暫定的に5月3日に開催予定であったイラン核合意を巡る米国とイランとの協議(ローマで開催される予定であったとされる)が延期された旨5月1日にオマーンのバドル(Badr)外相が明らかにしたうえ、イランで生産された原油、石油製品及び石油化学製品の如何なる量を購入する如何なる国や個人等に対しても、直ちに米国での事業実施が制限されることを内容とする二次制裁の対象となりうる旨5月1日に米国のトランプ大統領が警告したことにより、イランからの石油等の供給減少に伴う世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、4月30日夕方(米国東部時間)に発表された米国情報技術(IT)大手マイクロソフト及びメタの2025年1~3月期業績が市場の事前予想を上回って良好であったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、5月1日の原油価格の終値は1バレル当たり59.24ドルと前日終値比で1.03ドル上昇した。しかしながら、4月3日に開催された一部OPECプラス8産油国の会合で決定した、5月の前月比日量41.1万バレルの自主的な減産緩和(従来の減産緩和幅である同13.8万バレルの約3倍)と同様の規模の減産緩和を6月についても実施することを5月3日に開催される予定である会合(当初予定の5月5日から繰り上げ)において検討する予定である旨OPECプラス産油国関係者が明らかにしたと5月2日にブルームバーグ通信が報じたことにより、一部OPECプラス産油国による事実上の増産加速に伴う世界石油需給緩和増大の可能性を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.95ドル下落し、終値は58.29ドルとなった。

また、5月の前月比日量41.1万バレルの自主的な減産緩和(4月は同13.8万バレルの減産緩和であった)と同様の規模の減産緩和を6月についても実施することを5月3日に開催された一部OPECプラス8産油国の会合で決定したことにより、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、5月5日の原油価格の終値は1バレル当たり57.13ドルと前週末終値比で1.16ドル下落した。この結果原油価格は5月2~5日の2取引日合計で1バレル当たり2.11ドルの下落となった他、5月5日の原油価格の終値は2021年2月5日(この日の終値は56.85ドル)以来の低水準となった。ただ、5月6日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、この日キリスト教民主・社会同盟のメルツ党首がドイツ首相に就任したことにより、同国の政治・経済情勢を巡る不透明感が後退したこともありユーロが上昇した他、5月6~7日に実施中の米国連邦公開市場委員会(FOMC)での政策金利等を巡る決定を控えた持ち高調整が発生したこともあり、米ドルが下落したこと、5月4日にイエメンのフーシ派武装勢力が発射したミサイルがイスラエル中部の都市テルアビブ郊外にあるベングリオン国際空港付近に着弾したことを受け、フーシ派武装勢力に対し報復措置を講じる旨同日イスラエルのネタニヤフ首相が表明、5月5日にイエメン西部の港湾都市ホデイダをイスラエル軍が空爆した他、イエメンの首都サヌアにある国際空港に対し空爆を実施した旨イスラエル軍が5月6日に発表した(これに対しパレスチナ自治区ガザ地区の紛争停止までイスラエルに対する軍事行動を継続する旨5月6日にフーシ派武装勢力が声明を発表した)ことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したこと、米国が課した関税を巡る貿易相手国との交渉は順調に進捗しており、早ければ今週中にも一部主要貿易相手国との間で協定の締結を発表できる可能性がある旨5月6日に米国のベッセント財務長官が示唆したことにより、米国の関税賦課に伴う世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が後退したこと、5月6日にEIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO:Short-term Energy Outlook)において、EIAが2025年の米国原油生産量を日量1,342万バレル、2026年を同1,349万バレルと、4月10日に発表されたSTEOにおける、2025年の同1,351万バレル、2026年の同1,356万バレルから、それぞれ下方修正した(なお、2024年は4月10日発表分、5月6日発表分ともに日量1,321万バレルであった)ことにより、世界石油需給の相対的な引き締まり感を市場が意識したこと、5月7日にEIAから発表される予定である米国石油統計(5月2日の週分)において、原油及びガソリン両在庫が前週から減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.09ドルと前日終値比で1.96ドル上昇した。それでも、オマーンの仲介により紅海及びバブ・エル・マンデブ海峡における船舶の攻撃を停止する旨米国とイエメンのフーシ派武装勢力との間で合意が成立したと5月6日に報じられた他、フーシ派武装勢力に対する攻撃を停止する旨合意したと同日米国のトランプ大統領が発表したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退した流れを5月7日の市場が引き継いだことに加え、イランの核合意を巡る米国とイランとの交渉は現時点では順調に進捗しつつあり(第4回協議は5月11日よりオマーンの首都マスカットにおいて開催される予定である旨5月6日に報じられる)、イランとの間で核合意が締結されれば、同国は世界経済と再統合する可能性がある旨5月7日に米国のバンス副大統領が明らかにしたことにより、米国のイランへの最大限の圧力の一環でイランからの原油供給が削減される可能性があることに対する懸念が市場で後退したこと、関税を含む貿易条件を巡る米国と中国との交渉(米国と中国が貿易条件を巡る協議を開始する旨5月6日夜(米国東部時間)に米国財務省及び中国外務省が発表した(ベッセント財務長官が5月10~11日にスイスにおいて中国政府当局者と経済関連問題につき協議するとした一方、中国は何立峰副首相が5月9~12日の予定でスイスを訪問しベッセント財務長官との間で協議を実施する旨発表))において事前に関税率を引き下げる意向はない旨5月7日に米国のトランプ大統領が表明したことにより、両国間での関税引き下げを含む協議が紆余曲折を経る結果両国経済の回復が遅れるとともに石油需要の伸びの鈍化局面が長引く恐れがあるとの観測が市場で増大したこと、5月6~7日に開催されたFOMCにおいて、失業と物価上昇がともに悪化するリスクが増大してきているものの、不透明感も極めて強いとして、政策金利の据え置きが決定されるとともに、今後も早急に政策金利引き下げを実施する意向はない旨FOMC開催後に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が明らかにしたこともあり、米ドルが上昇したこと、5月7日にEIAから発表された米国石油統計においてガソリン在庫が前週比19万バレルの増加と、市場の事前予想(同120~160万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことにより、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期を控え、ガソリン需要不振の可能性を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.02ドル下落し終値は58.07ドルとなった。ただ、年間10万台分まで英国製自動車に対する関税を従来の27.5%から10%へと引き下げる他、鉄鋼及びアルミニウムに対する25%の関税賦課を取り下げる(一方英国は対米国関税率を現行の5.1%から1.8%へと引き下げる他、米国製品の通関手続きの迅速化に加え、農産物、化学製品、エネルギー、エタノール及び工業製品等の輸入(数十億ドル規模とされる)上の障壁を解消させる)ことに合意した旨5月8日に米国のトランプ大統領が発表したうえ、同日5月10日に行なわれる予定である米国のベッセント財務長官を交えた中国との貿易協議の結果関税率が低下する可能性がある旨楽観視していると5月8日にトランプ大統領が明らかにしたことにより、世界的な貿易戦争誘発に伴う経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことに加え、イランから不正に原油を受領していた、もしくはイラン産原油輸入に関与した疑いがあるとして、中国の河北鑫海化工集団有限公司、中国山東省東営港の港湾運営企業3社、船舶6隻及び船長2人等に対し制裁を科する旨5月8日に米国財務省が発表したことにより、イラン産原油供給減少に伴う世界石油需給引き締まりの可能性を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.91ドルと前日終値比で1.84ドル上昇した。また、米国と中国との政権幹部による関税を含む貿易問題を巡る協議が進展するものと考えている旨5月9日に米国のハセット国家経済会議(NEC: National Economic Council)委員長が明らかにしたこともあり、5月10日にスイスのジュネーブでの開催を控えている両国間の当該協議に対する楽観的な見方が増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.11ドル上昇し、終値は61.02ドルとなった。

さらに、5月10~11日に開催された米国と中国との間での両国の貿易関係を巡る協議(米国はベッセント財務長官及びグレア通商代表部(USTR)代表、中国は何立峰副首相が出席)において、5月14日までに米国の対中国関税(中国製品の大部分が対象)145%を30%に(91%の関税は事実上撤廃、24%は90日間適用停止)、同様に5月14日までに中国の対米国関税125%を10%(91%の関税は事実上撤廃、24%は90日間適用停止、但し米国産LNG及び大豆等に対する関税15%は存続する)に、それぞれ引き下げる旨5月12日に米国と中国が共同声明を発表したことにより、米国と中国による高率の関税賦課合戦に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.95ドルと前週末終値比で0.93ドル上昇した。そして、5月13日も、米国と中国が関税を引き下げることで合意したことにより、米国と中国による高率の関税賦課合戦に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退した流れを引き継いだことに加え、イラン核問題につき合意できなければイラン産原油輸出を完全に停止させる意向である旨5月13日に米国のトランプ大統領が表明した他、イラン産原油の中国への輸送に関与している約20社の企業に対し制裁を科する旨5月13日に米国国務省及び財務省が発表したことにより、イラン産原油供給減少に伴う世界石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、5月13日に米国労働省から発表された4月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比2.3%の上昇と2021年2月(この時は同1.7%の上昇)以来の低水準となった他、市場の事前予想(同2.4%の上昇)を下回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.72ドル上昇し、終値は63.67ドルとなった。この結果原油価格は5月8~13日の4取引日合計で1バレル当たり5.60ドル上昇した。しかしながら、5月14日には、この日EIAから発表された米国石油統計(5月9日の週分)において原油在庫が前週比345万バレルの増加と、市場の事前予想(同110~221万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.52ドル下落し、終値は63.15ドルとなった。また、米国による制裁を緩和するのであれば、イランは核兵器保有を放棄することを確約する意向である旨、イランの最高指導者ハメネイ師の最高顧問であるシャムハニ(Shamkhani)氏が明らかにしたと5月14日夜(米国東部時間)に米国NBCが伝えた他、5月15日に米国のトランプ大統領もイランの核問題に関し米国とイランは合意に接近しつつある旨明らかにしたことにより、核問題を巡り米国とイランが合意することに対する期待が高まるとともに、米国の対イラン制裁強化に伴うイランからの原油供給減少懸念が後退したことから、5月15日の原油価格の終値は1バレル当たり61.62ドルと前日終値比で1.53ドル下落した。この結果原油価格は5月14~15日の2日間合計で1バレル当たり2.05ドルの下落となった。それでも、イランは米国から直接的もしくは間接的に(イラン核問題に関する)書面による提案を受領していない旨、5月16日にイランのアラグチ外相が明らかにしたことにより、同問題を巡る米国とイランとの早期の交渉妥結に伴うイランからの原油供給維持もしくは増加に対する期待が後退したことから、5月16日の原油価格の終値は1バレル当たり62.49ドルと前日終値比で0.87ドル上昇した。

 

3. 原油市場における主な注目点等

パレスチナ自治区ガザ地区を巡っては、イスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間で停戦等に関する交渉(カタール等を仲介とする間接交渉)が行なわれてきたが、これまでのところ合意に到達する兆候は見られない。むしろ、5月4日にイスラエルがガザ地区におけるハマスへの攻撃を強化するために数万人程度の予備役兵の招集を実施する発表、同日夜(現地時間)に同地区の征服及び住民の移動を含む計画を閣議で承認した(5月13~16日の米国のトランプ大統領の中東訪問後に実施する予定であるとイスラエルの国防当局者が明らかにしたと5月5日に伝えられた)。そして、5月14日にイスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスを壊滅させるべく数日以内にガザ地区での攻勢を強めるよう指示する意向である旨表明、5月16日に同地区での攻撃を拡大すべく新規の作戦を開始した旨5月17日にイスラエル軍が発表した。

他方、5月4日にイエメンのフーシ派武装勢力が発射したミサイルがイスラエル中部の都市テルアビブ郊外にあるベングリオン国際空港付近に着弾したことを受け、フーシ派武装勢力に対し報復措置を講じる方針である旨同日イスラエルのネタニヤフ首相が表明、5月5日にイエメン西部の港湾都市ホデイダ(Hodeidah)をイスラエル軍が空爆した他、イエメンの首都サヌアにある国際空港に対し空爆を実施した旨イスラエル軍が5月6日に発表した(これに対しガザ地区の紛争停止までイスラエルに対する軍事行動を継続する旨5月6日にフーシ派武装勢力が声明を発表した)。5月6日には、オマーンの仲介により、フーシ派武装勢力が紅海及びバブ・エル・マンデブ海峡における船舶の攻撃を停止する旨米国とフーシ派武装勢力との間での合意が成立した旨報じられた他、フーシ派武装勢力に対する攻撃を停止する旨合意したと5月6日に米国のトランプ大統領が発表した(フーシ派武装勢力が船舶に対し攻撃を行なったことに対しフーシ派武装勢力を攻撃するよう指示した旨3月15日米国のトランプ大統領が明らかにしていた)が、米国との間での停戦合意はイスラエルへの攻撃停止は含まれていない旨5月7日にフーシ派武装勢力が表明した。また、イエメンのフーシ派武装勢力がベングリオン国際空港に向けミサイルを発射した旨同勢力が明らかにしたと5月14日に報じられた一方、イスラエル軍はイエメンから飛来したミサイルを迎撃した旨5月14日に発表した。さらに、港湾都市ホデイダ及びサリフ(Salif)を5月16日にイスラエルが攻撃した他、同日イスラエルのネタニヤフ首相がさらなる軍事行動を実施する意向である旨示唆したうえ、フーシ派武装勢力の指導者であるフーシ氏を殺害する方針である旨イスラエルのカッツ国防相が表明した旨5月16日に伝えられた。

他方、中国の独立系製油所である山東勝星化工(Shandong Shengxing Petrochemical)に対し、イラン革命防衛隊関連企業から10億ドル超相当分の原油を購入したとして制裁を科する旨4月16日に米国財務省が発表した。また、イランは核兵器開発のみならずウラン濃縮活動の停止が必要である旨4月15日に米国トランプ政権のウィトコフ中東担当特使が表明したことに対し、濃縮ウラン製造に関しては米国との間での交渉は困難である旨4月16日にイランのアラグチ外相が反論した。ただ、4月19日にはイタリアの首都ローマにおいて、イランの核開発活動につき米国とイランの政権幹部(米国はウィットコフ中東担当特使、イランはアラグチ外相が出席)が第2回協議(オマーンを仲介者とする間接協議が中心であった)を実施した結果、核合意の枠組み形成に向けた作業を開始することで合意した他、4月26日に次回協議を開催するとともに、4月23日より実務者級会議を実施することになった。そして第2回協議において、イランが核弾頭搭載可能なミサイルの製造は行なわないことを約束する旨米国に伝達していた旨4月24日に報じられた一方、4月24日に米国のトランプ大統領は、当該協議は順調に進捗している旨表明した。また、4月26日にオマーンの首都マスカットにおいてイラン核合意を巡る米国とイランとの間での第3回の両国政権幹部(米国はウィットコフ中東担当特使、イランはアラグチ外相が出席)の協議が実施され、次回会合が暫定的に5月3日に実施される旨オマーンのバドル外相が明らかにしたと4月26日に伝えられた他、同会合が前向きかつ生産的であった旨4月26日に米国のトランプ政権が明らかにしたものの、イランのウラン濃縮活動等のいくつかの点については両国の意見が相当程度乖離しているとして合意到達を必ずしも楽観しているわけではない旨4月26日にイランのアラグチ外相が明らかにした。そして、核合意を巡るイランとの協議に際し、イランの最高指導者ハメネイ師やペゼシュキアン大統領との会談を行なう用意がある旨4月22日に米国のトランプ大統領が明らかにしたと4月25日にタイム誌が報道した他、イランとの協議は順調に進みつつある旨4月25日にトランプ大統領が示唆した。それでも、暫定的に5月3日に開催される予定であったイラン核問題を巡る米国とイランとの協議は延期されたうえ、イランで生産された原油、石油製品及び石油化学製品の如何なる量を購入する如何なる国や個人等に対しても、直ちに米国での事業実施が制限される旨の二次制裁の対象となりうる旨5月1日に米国のトランプ大統領が警告した。ただ、その後、第4回協議は5月11日よりオマーンの首都マスカットにおいて開催される予定である旨5月6日に報じられた他、イランの核合意を巡る米国とイランとの交渉は現時点では順調に進捗しつつあり、イランとの間で核合意が締結されれば、イランは世界経済と再統合する可能性がある旨5月7日に米国のバンス副大統領が明らかにした。しかしながら、イランから不正に同国産原油を受領していた、もしくはイラン産原油輸入に関与した疑いがあるとして、中国独立系石油会社である河北鑫海化工集団(Hebei Xinhai Chemical Group)、中国山東省東営港の港湾運営企業3社、船舶6隻及び船長2人等に対し制裁を科する旨5月8日に米国財務省が発表した。5月11日にオマーンの首都マスカットで開催された、イラン核合意を巡る米国とイランとの第4回協議(米国はウィットコフ中東担当特使、イランはアラグチ外相が出席)は、交渉を継続していくことで合意、開催後、米国側は同会議を希望が持てるものとした反面、イラン側は困難だが有益なものであった旨明らかにした(米国のウィットコフ中東担当特使はイランのウラン濃縮活動の放棄を要求する反面、イランは自国の平和利用のウラン濃縮活動は放棄しないと主張したとされる)。そして、5月11日のイラン核合意を巡る米国とイランとの第4回協議に関し、交渉は進展しつつある(次回協議は1週間以内を目処に実施する予定とされた)旨5月12日に米国のトランプ大統領が示唆したものの、合意できなければイラン産原油輸出を完全に停止させる旨5月13日に米国のトランプ大統領が表明した他、同日サウジアラビアにおいて行なわれた演説で、米国のトランプ大統領は、イランは中東における最大の脅威である旨発言した。また、イラン産原油を中国に輸送している約20社の企業に対し制裁を科する旨5月13日に米国国務省及び財務省が発表した。さらに、イランの大陸間弾道ミサイル製造のための材料の製造に関与している疑いがあるとして、イランと中国の12団体と個人6人に対し制裁を科する旨5月14日に米国財務省が発表した。ただ、米国による制裁を緩和するのであれば、イランは核兵器保有を放棄することを確約する意向である旨、イランの最高指導者ハメネイ師の最高顧問であるシャムハニ(Shamkhani)氏が明らかにした旨5月14日夜(米国東部時間)に米国NBCが伝えた他、5月15日に米国のトランプ大統領も米国とイランは合意に接近しつつある旨明らかにしたうえ、米国は5月11日にイランに対し核合意案を提出していた旨5月15日に米国独立系報道機関アクシオスが報じた。それでも、5月15日に、米国のトランプ大統領は、核問題につきイランと合意できなければ、かつてないほどの暴力的な手段が待ち受けている旨示唆した。また、イランは米国から直接的もしくは間接的に(イラン核問題に関する)書面による提案を受領していない旨、5月16日にイランのアラグチ外相が明らかにした。アラグチ氏は「イランは、直接的であれ間接的であれ、米国から書面による提案を受領していない。その一方、私達、そして世界が受け取っているメッセージは混乱し矛盾している。しかし、我々の権利を尊重し、制裁を終了すれば、我々は取引を成立させる、という、イランの意志は強いままであり、率直なままである。覚えておいて欲しいが、苦労して自国が獲得した、平和目的のために(ウラン)濃縮を行なう権利をイランが放棄するシナリオはない。これは核兵器の不拡散に関する条約(NPT)を締約する他の全ての国にも与えられている権利である。偉大なイランは、(命令を)押しつけようとする者達に対し、その力と不屈の精神を示してきた。私達は相互尊重に基づく対話を常に歓迎し、如何なる絶対的命令を常に拒否する。」(仮訳)と投稿している(原文は図16参照)。また、中東訪問中の期間を含めた、これまでの米国のトランプ氏の発言等に対し、5月17日にイランの最高指導者ハメネイ師は「レベルが低すぎる。」として批判している。

図16 イランのアラグチ外相の投稿(原文)
図16 イランのアラグチ外相の投稿(原文)

このように、中東情勢においては、イスラエルがガザ地区での攻撃を拡大しつつある一方、フーシ派武装勢力とイスラエルとの間でも互いに攻撃しあう状態となっており、このような状態は今暫く継続する可能性があるものと考えられる。そして、その過程では、紅海やバブ・エル・マンデブ海峡といったイエメン周辺海域において、ミサイルや無人機等の飛来により船舶の航行が脅かされる恐れがある。また、イランに関しては自国の核合意を巡る米国との協議は継続しているが、他方イラン産原油の取り扱いに関与していると見られる関係者に対ししばしば米国が制裁を発動するなどしていることもあり、今後もイラン核問題を巡る両国の関係は紆余曲折を経ることが想定される。従って、今後も当面中東情勢は不安定な状態が継続するとともに、イランからのものを含め中東地域からの原油供給途絶懸念が市場で増大しやすく、米国とイランとの交渉が順調であるとの米国のトランプ政権関係者の発言により、下方圧力が加わる場面が見られつつも、総じてこの面では原油相場は支持されやすい状況が継続するものと考えられる。

ウクライナとロシアとの戦争状態については、ロシアは現時点の前線で以てウクライナとの戦闘を停止する用意がある旨4月11日にロシアのプーチン大統領が米国の中東担当特使であるウィットコフ氏に提案した旨関係者が明らかにしたと4月22日にフィナンシャル・タイムズが報じられた。また、4月24日にはロシアがウクライナの首都キーウ(キエフ)を大規模に空爆した結果少なくとも12人が死亡したが、これを受け、同日トランプ大統領がロシアに対し不快の意を表明した。他方、ウィットコフ氏がロシアのプーチン大統領と会談を実施したが、ウクライナとロシアとの間での戦闘状態を巡る問題等につき米国とロシアとの認識が一層接近するなど、当該協議が建設的でありかつ非常に有意義であった旨ロシアのウシャコフ外務担当大統領補佐官が明らかにした旨4月25日に伝えられた。また、4月26日のバチカンでの前ローマ教皇フランシスコの葬儀開催前において、米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との間で15分程度の会談が実施され、同会談は建設的であったとされる一方、その後トランプ大統領は、最近実施されたロシアによるウクライナ攻撃を批判、ロシアに対する制裁を強化する可能性がある旨示唆した。4月30日には、米国とウクライナは、ウクライナにおける鉱物資源開発を実施すること等を内容とする協定に署名したが、同日ロシア大統領府のペスコフ報道官は、ウクライナとの停戦を受諾する用意はあるものの、自国の目的が充足されなければならず、事情も複雑であることから、和平合意に到達するまでには時間を要する旨明らかにした。そして、米国のトランプ政権が新規の対ロシア経済制裁の実施を準備している(実務者レベルでは準備は完了しており、トランプ大統領の指示を待っている状態であるとされた)旨5月2日にロイター通信が報じた他、4月下旬(4月26日と見られる)に実施されたバチカンにおける会談で、トランプ大統領が対ロシア経済制裁に前向きである旨示唆したと5月3日にウクライナのゼレンスキー大統領が明らかにしたうえ、ウクライナに対し追加で米国製の「パトリオット」防空システムが配備される可能性がある旨5月4日にニューヨーク・タイムズが報じた。加えて、ウクライナとロシアとの間で30日間無条件に停戦を実施するよう、5月8日に米国のトランプ大統領が要求した。他方、5月11日にロシアのプーチン大統領は、5月15日にトルコのイスタンブールでウクライナのゼレンスキー大統領と直接協議を実施する旨提案したことに対し、同日ゼレンスキー大統領が同意した。これについては、5月12日に米国のトランプ大統領が直接出席する意向である旨示唆した。また、ロシアが停戦で合意しなければ、数日以内にエネルギー及び金融両部門を対処として新たな制裁を発動する意向である旨5月13日独仏両国首脳が表明した他、直接協議の結果を踏まえ欧州諸国は米国に対し追加制裁の発動を要請する意向である旨5月13日に報じられた。ただ、5月14日夕方(米国東部時間)には、ロシアのプーチン大統領が直接協議の出席を見送る見通しとなった旨報じられた他、当該直接協議が5月16日に延期される方向となった旨5月15日にロシアのタス通信が報じた。これを受ける形で、米国のトランプ大統領は当該協議への出席を見送ることとなった。5月16日に2時間程度に渡り実施された、ウクライナとロシアとの戦闘を巡る直接協議(ウクライナ側はゼレンスキー大統領、ロシア側はメジンスキー(Medinsky)大統領補佐官が参加、両国の直接協議は2022年3月10日にトルコ南西部の都市アンタルヤ(Antalya)において実施された両国外相会談以来であった)において、両国が1,000人程度の捕虜の交換を実施する他今後も協議を継続することで合意した一方、両国の停戦の可能性について協議したものの、ウクライナにとって受入困難な条件をロシアが提示した(ロシアはウクライナのドネツク、ニハンスク、ザポリージャ、ヘルソンの4州及びクリミアの合計5地域を事実上のロシア領として移転させる旨等の要求を行なったとされる)こともあり、交渉は殆ど進展しなかった。

このように、トランプ大統領を初めとする米国の停戦等に向けた仲介努力にもかかわらず、ウクライナとロシアの首脳間での直接協議は事実上実現せず、また、ロシアとウクライナとの戦闘は停止する気配を見せていない。このようなことから、今後少なくとも短期的には、欧米諸国が対ロシア制裁を緩和する可能性は低く、むしろ追加制裁を実施すると言った展開となることはありうるため、ロシアから欧米諸国方面への石油や天然ガスを含むエネルギー供給が少なくとも有意に拡大するとは考えにくいことから、この面では、原油相場への下方圧力は加わりにくく、むしろ欧米諸国等による対ロシア制裁強化の動きが見られるようであれば、ロシアからのエネルギー供給がその影響を受けるかもしれないという見方が市場で発生する結果、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となることもありえよう。

4月9日午後(米国東部時間)にトランプ大統領は中国に対する関税を125%に引き上げる(即時適用)旨発表した(この結果2月4日及び3月4日にトランプ大統領が発動した中国に対する合計20%の関税賦課と併せほぼ全ての中国製品の輸入に際し少なくとも145%の関税が賦課されることとなった)が、中国は4月12日より米国への関税率を125%へと引き上げる旨4月11日に発表した。ただ、米国に輸入される情報技術(IT)機器類及び半導体製造装置等を相互関税賦課の対象から除外する旨4月11日夜(米国東部時間)に米税関・国境警備局(CBP: Custom and Border Protection)が発表した他、米国の関税賦課に対し、影響を受ける自動車製造業者に対する支援策を検討している旨4月14日に米国のトランプ大統領が明らかにした。また、関税等を含む問題につき米国との協議に応じる姿勢である(米国が中国に対し敬意を示すとともに適切な交渉担当者を指名するという条件付き)旨中国が示したと4月16日未明(米国東部時間)に報じられた。他方、イタリアのメローニ首相との会談後、欧州連合(EU)諸国との間では、4月9日から90日間の米国による相互関税賦課凍結期間終了前に、何らかの合意に到達できると確信している旨4月17日に米国のトランプ大統領が表明した。ただ、米国との貿易条件を巡る協議において、中国の利益を害するような合意には断固反対し、そのような内容で合意した第三国に対しては(その第三国に対し)報復措置を実施する意向である旨4月21日に中国商務省が警告した。そして、米国と中国との貿易面での協議は現時点では開始されていないものの、両国の対立の先鋭化は長期化せず、緩和する方向に向かうもの(但し広範に渡る合意までには時間を要するであろう)と考えている旨4月22日に米国のベッセント財務長官が明らかにした。また、米国と中国との間で貿易に関する協定締結で合意するようであれば、米国の対中国関税賦課率は145%から大幅に低下するであろう旨米国のトランプ大統領が示唆したと4月22日夕方(米国東部時間)に報じられた他、米国の中国に対する関税賦課が全体として50~65%程度にまで低下する可能性がある旨4月23日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。しかしながら、4月23日に米国のベッセント財務長官が、米国は中国に対し一方的に関税率の引き下げを提案しているわけではない旨明らかにした。また、米国と中国が4月24日朝(米国東部時間)に協議の場を持った旨同日米国のトランプ大統領が示唆した(中国外務省は同日否定した)。そして、エタンを含む工業用化学製品及び医療機器等といった米国からの一部輸入品、半導体関連の少なくとも8製品及びリースされている航空機を、125%の関税賦課の対象から除外する方向で中国政府が検討している旨4月25日にブルームバーグ通信等が伝えた他、中国の習近平国家主席から電話連絡がなされるなど、同国との間で関税協定締結に向け交渉中であり、これを3~4週間程度で完了させる意向である旨4月22日に米国のトランプ大統領が明らかにしたと4月25日にタイム誌が報じた。ただ、関税を巡る中国との協議が進行中であるとの4月24日以降の米国のトランプ大統領による主張に対し、4月24日に中国外務省がそのような動きはない旨否定した他、米国は中国に対し一方的に賦課した関税を全て撤廃すべきである旨同日中国商務省の何亜東報道官が発表、4月25日にも中国外務省は改めて米国との関税に関する協議は一切行なわれていないとして否定した。さらに、中国の習近平国家主席が米国のトランプ大統領と協議をしていることを含め、両国が関税問題において交渉を実施していると言う事実はない旨4月28日に中国外務省が明らかにした一方、関税を含む貿易面での米国と中国との対立の緩和は中国次第である旨米国のベッセント財務長官が4月28日に明らかにした。他方、ここ数日間で中国政府がエタンに対する125%の関税賦課を停止した旨4月29日に報じられた他、関税賦課免除対象品リストを作成し企業に配布している旨4月30日に伝えられた。また、米国との間での貿易関係を巡る協議につき中国が検討している旨5月2日に中国商務省が発表した他、中国企業が製造している合成麻薬フェンタニル製造の原料となる化学物質(フェンタニルの米国への密輸を停止させることが、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の狙いの一つとなっている)に対する、中国の対応につき、同国政府が米国政府と協議する兆候が見られる(中国の王小洪公安相が同物質の取り扱いに関する米国の意向につきトランプ政権に対し問い合わせを行なっている)旨5月2日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じたうえ、中国政府が131品目の米国からの輸入製品につき関税の適用を免除した旨5月2日にブルームバーグ通信が伝えた。さらに、米国が課した関税を巡る貿易相手国との交渉は順調に進捗しており、早ければ今週中にも一部主要相手国との間で貿易条件面での協定締結を発表できる可能性がある旨5月6日に米国のベッセント財務長官が示唆した。5月6日夜(米国東部時間)には、米国と中国が貿易条件を巡る協議を開始する旨米国財務省及び中国外務省が発表した(ベッセント財務長官が5月10~11日にスイスにおいて中国政府当局者と経済関連問題につき協議するとした一方、中国は何立峰副首相が5月9~12日の予定でスイスを訪問しベッセント財務長官との間での協議を実施する旨発表した)。ただ、関税を含む貿易条件を巡る米国と中国との交渉においては、事前に関税率を引き下げる意向はない旨5月7日にトランプ大統領が表明した。他方、年間10万台分まで英国製自動車に対する関税を従来の27.5%から10%へと引き下げる他、鉄鋼及びアルミニウムに対する25%の関税賦課を取り下げる(一方、英国は対米国関税を現行の5.1%から1.8%へと引き下げる他、米国製品の通関手続きの迅速化に加え農産物、化学製品、エネルギー、エタノール及び工業製品等(数十億ドル規模とされる)の輸入上の障壁を解消させる)ことに合意した旨5月8日に米国のトランプ大統領が発表した。また、5月10日に行なわれる予定である米国のベッセント財務長官を交えた中国との貿易協議の結果関税率が低下する可能性がある旨楽観視していると5月8日に米国のトランプ大統領が明らかにした。ただ、中国は自国市場を対外的に開放すべきであり、同国への米国の関税率は80%が妥当なようである旨5月9日に米国のトランプ大統領が表明した他、中国の譲歩無しに米国が関税の引き下げを行なう意向はない旨同日トランプ大統領の報道官であるレビット報道官が明らかにした。それでも、5月10~11日に開催された米国と中国との間での両国の貿易関係等を巡る協議(米国はベッセント財務長官及びグレア通商代表部(USTR)代表、中国は何立峰副首相が出席)において相当程度の進展があった(詳細は5月12日に説明する意向であるとした)旨5月11日に米国のベッセント財務長官が明らかにした他、5月12日には米国と中国が共同声明を発表し、5月14日までに米国の対中国関税(大部分の中国製品が対象)145%を30%に(91%の関税は事実上撤廃、24%は90日間適用停止)、同様に5月14日までに中国の対米国関税125%を10%(91%の関税は事実上撤廃、24%は90日間適用停止)に、それぞれ引き下げる(他方、中国のLNG及び大豆等を巡る対米国関税15%は存続する)こととなった。

このように、米国と英国、及び米国と中国の間での関税率は相当程度引き下げられた。今後も同様の動きが他国及び地域と米国との間で見られる結果、関税率が引き下げられる等することにより、貿易戦争誘発による世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退するとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。もっとも、トランプ氏が大統領に就任して以降に賦課した関税が短期的に完全に撤廃されるわけではないことにより、多少なりとも世界経済成長に負担になるとともに、関税賦課の軽減過程が一巡した段階では、原油相場のさらなる上昇が抑制されやすいものと考えられる。

他方、米国金融当局関係者からも一連の発言等がなされた。米国のトランプ大統領による関税賦課の影響は一時的なものとなる可能性がある旨4月14日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事が明らかにした。また、米国のトランプ大統領の政策がより明確になるまで、政策金利を巡る判断は慎重に行なう必要がある旨の認識を4月14日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が示した。さらに、米国金融当局としては物価の安定化を重視しているが、米国のトランプ大統領による関税賦課の規模が自身の予想を相当程度上回っていることにより、物価上昇が加速するとともに、より根強いものになる恐れもあり、物価上昇と景気減速が同時発生することによりFRBの判断が困難に直面する可能性があるものの、状況がより明確になるまで慎重に対処する意向である旨4月16日にFRBのパウエル議長が示唆した。加えて、物価上昇と景気減速の両面でのリスクが存在する場合、消費者の物価上昇予想を沈静化させることが重要であると考えるものの、米国のトランプ政権による関税等の政策の経済に対する影響がより明確になるまで政策金利は現在の水準で維持させるのが望ましい旨の見解を米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が示した旨4月16日に報じられた。そして、米国の物価上昇が持続しないよう対応する必要があるものの、経済が堅調であることもあり、当面政策金利を変更する必要はない旨4月17日に米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が示唆した。4月18日には、2025年末までに政策金利引き下げが実施されるものと引き続き考えているものの、物価上昇リスクが上昇していることもあり、当初見込んでいたよりも長期に渡り政策金利を据え置く必要がある可能性がある旨の見方を米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示した。そのような中、政策金利引き下げの要求に対しFRBのパウエル議長の対応が遅すぎるとして、可及的速やかに同議長を解任すべきである旨4月17日に米国のトランプ大統領が表明した他、パウエルFRB議長の解任の可否につきトランプ大統領が検討中である旨4月18日に同国経済会議(NEC)のハセット委員長が発言したうえ、FRBに対し直ちに政策金利を引き下げるよう4月21日に米国のトランプ大統領が再度要求した。これに対し、中央銀行の独立性と信頼性を損ねることにより、経済が混乱する恐れがある旨、4月20日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が警告した。それでも、米国物価上昇加速は概ね発生しないと考える一方、直ちに政策金利を引き下げなければ、経済成長が鈍化する可能性がある旨4月21日にトランプ大領が発言した。ただ、4月22日夕方(米国東部時間)には、パウエルFRB議長を解任する意志はない旨米国のトランプ大統領が表明した。他方、責任を持って米国の物価上昇沈静化を図ることが必要である旨の認識を4月22日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が示した。また、米国のトランプ政権による関税賦課政策が物価を上昇させ雇用を減退させるリスクを内包しており、想定している以上の負担を経済に対し与える恐れがあるが、労働市場を含め経済活動が安定している中では、物価上昇が沈静化するまで政策金利を据え置く必要がある旨4月22日にFRBのクーグラー理事が明らかにした。さらに、経済情勢を巡り大きな不透明感が存在するため、現時点では政策金利の取り扱いについては様子見の姿勢とすべきである旨、4月23日に米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が明らかにした。そして、米国の金融政策について実施すべき方向性を判断するまでに時間をかける必要があるものの、2025年6月までに明確で説得力のあるデータが得られることにより政策を変更すべきであると判断できるのであれば、FRBは政策変更を(迅速に)実施する可能性がある旨の見解を4月24日に米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が示した。加えて、米国のトランプ政権による関税賦課政策推進に伴い同国の労働市場が大幅に悪化するようであれば、それを抑制するために政策金利引き下げを支持する意向である旨4月24日にFRBのウォラー理事が明らかにした。そのような中、5月6~7日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)においては、失業と物価上昇がともに悪化するリスクが増大してきているが、不透明感も極めて強いとして、政策金利の据え置きを決定するとともに、今後も早急に政策金利引き下げを実施する意向はない旨FOMC開催後にFRBのパウエル議長が明らかにした。ただ、このような決定に対し、5月8日に米国のトランプ大統領がパウエルFRB議長を批判した。それでも、米国経済が安定する中、トランプ大統領による政策を巡り不透明感が存在するため、物価上昇期待を着実に抑制すべく、当面は政策金利を現状維持とすることが望ましい旨5月9日にFRBのクーグラー理事が表明した。5月9日には、FRBのバー理事が、米国のトランプ大統領による関税政策の影響がより明確になるまで政策金利を据え置くべきであるとの見解を示す一方、トランプ大統領の政策に伴い物価上昇と労働市場が悪化することによりFRBの政策決定がより困難になる恐れがある旨警告した。また、米国の経済情勢が非常に不透明な中、物価上昇期待を沈静化させることが重要である旨、5月9日に米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が表明した。さらに、米国のトランプ政権による貿易政策面での不透明感の増大から、5月6~7日に開催されたFOMCにおける政策金利据え置きの決定を支持する旨5月9日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が表明した。ただ、5月13日に発表された米国消費者物価指数(CPI)上昇率が市場の事前予想を下回ったことを受け、米国のトランプ大統領はパウエルFRB議長に対し改めて政策金利を引き下げるよう要求した。5月14日には、短期的な情勢の変化が著しい中で、中央銀行が性急に政策に関する意思決定を行なうことは賢明ではない旨米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示唆した他、米国の物価上昇動向を見極めることが困難な状況である中、今後の動向につき様子見とするとともに、足元の適度に金融を引き締める状態は適切であるものと考えている旨同日FRBのジェファーソン副総裁が明らかにした。また、足元の米国経済は堅調であり、米国のトランプ大統領による政策の経済への影響につき判断できるまで、金融当局関係者は現状方針の維持が可能である旨の認識を5月14日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示した。さらに、関税が米国の物価上昇圧力を強める形で作用するため、それに対処する方策を実施しなければならず、関税賦課を含む米国経済政策を巡る不透明感が直ちに解消するとは考えにくいことから、2025年は1回の政策金利引き下げを予想している旨米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにしたと5月16日に報じられた。

このように、米国のトランプ大統領は、金融当局関係者に対し政策金利引き下げをしばしば要求しているものの、大半の金融当局関係者は政策金利引き下げに対しては慎重な姿勢を示し続けている。ただ、一時はパウエルFRB議長解任を検討していた米国のトランプ大統領はその後解任の検討を取り下げたものと見られることもあり、この面では短期的には、政策金利引き下げを巡るトランプ大統領と金融当局の対応の原油相場への影響はより中立的になるものと見られる。それでも、物価上昇の伸びが鈍化する兆候が示されるようであれば、米国のトランプ大統領によるパウエルFRB議長等に対する政策金利引き下げ要求がより高い頻度でなされる可能性がある他、金融当局関係者による政策金利引き下げ支持を示唆する発言がより目立つようになる可能性もあることから、今後も米国の物価関連指標類と金融当局関係者の発言及び米国のトランプ大統領の金融当局関係者に対する発言等に注意していく必要があろう。

4月14日に中国税関総署から発表された3月の同国輸出は前年同月比12.4%の増加と1~2月の前年同期比2.3%の増加から伸びが加速した他市場の事前予想(前年同月比4.4~4.6%の増加)を相当程度上回って増加した反面、輸入は前年同月比4.3%の減少と1~2月の前年同期比8.4%減少から減少率が縮小したものの市場の事前予想(前年同月比2.0~2.1%減少)を上回って減少している旨判明した。また、4月16日に中国国家統計局から発表された2025年1~3月期国内総生産(GDP)は前年同期比5.4%の増加と2024年10~12月期(この時は同5.4%の増加)と同水準の伸びとなった他、市場の事前予想(同5.2%の増加)を上回って増加していたうえ、3月の同国鉱工業生産は前年同月比7.7%の増加と2025年1~2月の前年同期比5.9%の増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(前年同月比5.9%の増加)を上回って、また、2025年3月の同国小売売上高は前年同月比5.9%の増加と2025年1~2月の前年同期比4.0%の増加から増加率が拡大した他市場の事前予想(前年同月比4.3%の増加)を上回って、さらに、1~3月の同国固定資産投資は前年同期比4.2%の増加と1~2月の同4.1%の増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同4.1%増加)を上回って、それぞれ増加した。他方、3月の中国の失業率は5.2%と2月の5.4%から低下したが市場の事前予想(5.3%)は上回った。また、3月17日に中国国家統計局から発表された2025年1~3月の不動産投資は前年同期比で9.9%の減少と1~2月の同9.8%の減少から減少率が拡大した。4月28日午前10時(現地時間)には、中国国家発展改革委員会、人力資源・社会保障省、商務省及び人民銀行が共同記者会見を開催し(但し大臣や最高責任者による説明ではなかった)、雇用を含む中国経済に対する支援を拡大する旨表明した。4月27日には中国国家統計局から3月の同国工業企業利益が発表されたが、前年同月比0.8%の増加と1~2月の前年同期比0.3%の減少から増加に転じた旨明らかになった。ただ、4月30日に中国国家統計局から発表された4月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.0と3月の50.5から低下、2023年12月(この時は49.0)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(49.7~49.8)を下回ったうえ、非製造業PMIは50.4と3月50.8から低下した他市場の事前予想(50.6)を下回っている旨判明した。また、4月30日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された4月の同国製造業PMIは50.4と市場の事前予想(49.7)を上回ったものの、3月の51.2からは低下していた旨明らかになった。さらに、5月6日に財新伝媒から発表された4月の中国サービス業PMIは50.7と2024年9月(この時は50.3)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(51.8)を下回った。加えて、5月10日に中国国家統計局から発表された4月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.1%、生産者物価指数(PPI)が同2.7%の、それぞれ下落と、CPIは3ヶ月連続、PPIは31ヶ月連続、それぞれ前年同月比で下落となっている旨判明した。それでも、5月9日に中国税関総署から発表された4月の同国輸出は前年同月比8.1%の増加と市場の事前予想(同1.9~2.0%の増加)を上回って増加していた(ただ、米国の対中国関税賦課により、米国向け輸出が前年同月比で21%減少した反面、東南アジア諸国連合(ASEAN)向けが同21%、欧州連合(EU)向けが同8%増加したことにより相殺される格好となっており、4月9日から一部の諸国等に対し適用されている90日間の関税賦課の免除期間中に国外製造業者等からの需要が喚起されたり中国が迂回貿易を実施したりしている可能性がある旨指摘する向きもある)他、輸入が同0.2%の減少と市場の事前予想(同5.9~6.0%の減少)ほど減少していなかった旨判明した。併せて、5月9日に中国税関総署から発表された4月の同国原油輸入は4,806万トン(推定日量1,173万バレル)と3月の5,141万トン(同1,214万バレル)からは減少したものの、前年同月(4,472万トン(同1,091万バレル)からは7.5%増加している旨判明した。そのような中、5月8日より中国の政策金利を0.1%引き下げるとともに5月15日に市中銀行の預金準備率を0.5%引き下げる旨5月7日に中国人民銀行の潘功勝総裁が発表した。

このように、中国の経済指標類は少なくとも同国経済がまだら模様であることを示唆している。ただ、5月10~11日に開催された米国と中国との貿易問題等を巡る協議において関税率を相当程度引き下げることで合意したことにより、中国経済に対するより楽観的な見方が市場で発生する結果、この先少なくとも短期的には、同国経済が減速していることを示唆する指標類が明らかになっても、市場関係者から軽視されやすい一方、経済が加速することを示唆する指標類が発表されたり、中国当局等から具体的な景気刺激策が発表されたりすれば、同国石油需要の伸びに関する期待が市場で広がる結果、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となることもありうる。

米国では5月24~26日の連休(5月26日が戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入する(5月22日から26日にかけての戦没将兵追悼記念日の連休に伴う休暇期間中、米国では4,510万人の記録的な数の個人が自宅から少なくとも50マイル(約80キロメートル)超の距離の旅行を行なう(うち3,940万人が自動車により移動する)予定である旨5月12日に米国自動車協会(AAA: American Automobile Association)が明らかにしている)。このため、ガソリン需要が盛り上がることに伴い、当該製品製造のために製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加することにより原油の購入が活発化するといった観測が発生することから、季節的な需給の引き締まり感が市場で強まるとともに、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。

また、大西洋圏では間もなく公式と目されるハリケーン等の暴風雨シーズン突入する(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。現時点までに明らかになっている一部機関による2025年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想では、平年並みか平年を上回る頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する(表1参照)とされている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国アメリカ湾(メキシコ湾)沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2024年において米国アメリカ湾岸地域はメキシコから日量41万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国アメリカ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2024年は当該地域で日量177万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,321万バレル)の約13%を占めた)他、米国アメリカ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2024年の当該地域の原油精製処理能力は日量999万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,835万バレル)の約54%を占めた)こともあり、ハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、それが原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。

表1 2025年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

4月16日にOPEC事務局は、自主的な減産措置を実施するOPECプラス8産油国がこれまで目標を超過して行なった原油生産につき2025年4月から2026年6月にかけ減産目標に上乗せして減産を行なうことを内容とした追加減産計画を同事務局に提出した旨発表した。他方、OPECプラス産油国の一部の構成産油国が6月においても減産緩和加速(5月と同程度(つまり2ヶ月前倒し)の減産緩和規模(従来の前月比13.8万バレルの約3倍の同41.1万バレル))を提案する意向である旨関係者が明らかにした(この結果、減産緩和加速に消極的な産油国との間での対立が表面化しつつあると言われた)と4月23日にロイター通信が報じた。ただ、サウジアラビアは長期間の原油価格低迷に耐えられることもあり、この先も原油価格を支持するために減産を強化する意向はない旨同国が同盟国や石油産業関係者に明らかにしていた旨4月30日にロイター通信が報じた。そして、4月3日に開催された会合で決定した規模と同様の減産緩和(つまり前月比日量41.1万バレルの増産)を6月について実施する旨5月3日に開催される予定である会合(当初予定の5月5日から繰り上げ)において検討する予定である旨OPECプラス産油国関係者が明らかにしたと5月2日にブルームバーグ通信が報じた。果たして、5月3日に開催されたOPECプラス8産油国の会合においては、5月の前月比日量41.1万バレルの自主的な減産緩和と同様の規模の減産緩和を6月についても実施する旨決定した。さらに、一部産油国による目標を超過した原油生産が継続するのであれば、7月以降も前月比日量41.1万バレルの自主的な減産の緩和を実施する意向である旨サウジアラビアが警告したと5月4日に伝えられた。他方、カザフスタンにおける主要3油田開発・生産プロジェクトは大手国際石油会社等の外国石油会社を中心とする事業となっているため、減産を強化することは困難である他、その他のより小規模の油田は老朽化しており、生産停止は油層に負担となるため不可能であり、同国はOPECプラス産油国との結束よりも国益を優先して原油生産を実施する意向である旨同国のアッケンジェノフ(Akkenzhenov)エネルギー相が明らかにしたと4月23日にロイター通信が報じた。ただ、その後、カザフスタンは国益を追求するとともに、世界石油市場安定のためOPECプラス産油国間で合意された減産を遵守していく意向であり、原油生産管理のため相互に受入可能な解決策を見出すべく他のOPECプラス産油国等と協議している旨アッケンジェノフ氏が声明を発表した。また、4月1~13日のカザフスタンの石油生産量は3月平均から3%減少した旨4月14日に同国エネルギー省が明らかにしたが、4月1~28日のカザフスタンの原油生産量(コンデンセート除く)は日量181.4万バレルとOPECプラス産油国原油生産目標(同147.3万バレル)を相当程度上回っているものと推測される旨4月29日にロイター通信が報じた他、実際同国の4月の原油生産量は日量180.3万バレルとなっている。

このように、OPECプラス産油国は5月以降当初予定の約3倍の減産緩和を実施しつつある他、7月以降も同様の減産緩和を実施する可能性がある旨サウジアラビアが明らかにしている。この先、5月28日にはOPECプラス産油国閣僚級会合が、6月1日にはOPECプラス8産油国による会合が開催される予定である。そして、6月1日に開催される予定である会合においては、OPECプラス8産油国の原油生産方針を巡っては、意思決定時の原油価格が一要素となる。原油価格が相当程度下落する結果、米国の石油産業に壊滅的な影響が生じる兆候が見られるようであれば、米国石油企業による石油開発・生産活動促進によるエネルギー支配を目指すトランプ大統領は、原油価格を持ち直させるべく、OPECプラス産油国に減産を要求する可能性もある。もっとも、そのような事態に陥らないようであれば、トランプ大統領は物価抑制の一助となる原油価格抑制を望むことから、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は増産継続方策を推進することになる。また、原油価格上昇が加速する兆候が見られるようであれば、OPECプラス産油国は、5月及び6月と同様、増産規模を当初予定である前月比日量13.8万バレルよりも拡大し、例えば同41.1万バレルすることもありうる。そして、ウクライナとの戦闘終結に向けた条件交渉上できるだけ有利になるよう米国に対し便宜を図ることを通じ相対的に友好的な姿勢を示すべく、ロシアもOPECプラス8産油国による減産緩和推進を支持することになるものと見られる。さらに、自国の原油生産量がしばしば目標を超過しているイラクやカザフスタンと言った産油国も、この減産緩和方針に賛同するものと見られる。他方、自主的な減産を実施しない産油国を含めたOPECプラス産油国全体では、関係国が多岐に渡ることから、意思統一過程がより複雑化しやすい他、今般緩和しつつあるOPECプラス8産油国による自主的な減産を除いては2026年末まで減産を継続する方針となっており、この減産を変更するには時期尚早(OPECプラス8産油国の減産緩和につき判断することの方が先決)であることもあり、5月28日に開催される予定である閣僚級会合においては、従来の生産方針を継続することで事実上合意する可能性があるものと考えられ、実際にこのような決定がなされた場合には、この面では原油相場への影響は限定的になるものと予想されるが、6月1日に開催される予定である会合において、減産緩和加速継続が決定されるようであれば、世界石油需給緩和感を市場が意識する結果、原油相場に下方圧力が加わるといった展開となることも想定される。

全体としては、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近することによる季節的な石油需給の引き締まり感や、米国の関税率引き下げによる、米国や中国を含む世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退することに対する期待が、それぞれ増大しやすいことから、この面では原油相場に上方圧力が加わりやすいものと考えられる。しかしながら、6月1日に開催される予定であるOPECプラス8産油国会合において減産緩和加速継続が決定されるようであれば、世界石油需給の緩和感が意識される結果、原油相場が下振れする場面が見られる可能性がある。そのような中、イラン核問題を巡る米国とイランとの協議の進展具合を含む中東情勢、ウクライナとロシアとの戦闘を巡る両国の交渉状況と欧米諸国等のロシアへの対応、米国と他の諸国及び地域との間での貿易問題に関する合意を巡る動向、中国経済を巡る状況、大西洋圏のハリケーン等暴風雨の発生及びその進路の状況等が原油相場に影響を与えていくものと考えられる。

 

4. 世界天然ガス市場動向

2025年2月の米国は前年同月に比べ気候が寒冷であった(図17参照)反面、3~4月は概ね前年並みか前年よりも温暖であったこともあり、同国の暖房を中心とする民生部門における天然ガス需要は、2月は前年同月比でそれなりに増加した反面、3月は微増にとどまった他4月は微減となった(図18参照)。他方、2024年9月17~18日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において米国連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を0.50%引き下げた他、同年11月6~7日及び12月17~18日に開催されたFOMCにおいても、それぞれ0.25%政策金利を引き下げたこともあり、米国経済が多少なりとも活性化した結果、2024年7月から11月にかけ前年同月を下回っていた同国の鉱工業生産は2024年12月以降前年同月比で増加に転じ、2025年1~2月においては前年同月比で1.4~1.7%程度の増加となったこともあり、2月の産業部門における天然ガス需要も前年同月比でそれなりに増加した。ただ、米国鉱工業生産は3~4月においても前年同月比で1.3~1.5%程度の増加となったものの、同期間における米国の産業向け天然ガス小売価格の前年同月を上回る率が拡大した(2025年2月には前年同月を17.5%上回っていた同国産業向け天然ガス小売価格は3月には同34.6%、4月には同41.6%、それぞれ上回る状態となった)ことが、同部門における天然ガス需要に負の影響を与える格好となったことから、3月の同部門における天然ガス需要は前年比で微増、4月については前年を下回る水準となった。また、2月は前年同月比で寒冷であった他、風力及び太陽光といった再生可能エネルギーによる発電が軟調であったことが一因となり、空調(暖房)機器稼働向けの電力供給のための天然ガス火力発電の操業が比較的堅調であったこともあり、発電部門向けの天然ガス需要は前年同月を上回る状態であった。しかしながら、1月時点では前年同月を19.8%上回っていた発電部門における天然ガス調達コストは2月になると前年を74.4%、3~4月においては気温の上昇とともに暖房向けのための空調機器稼働向け電力需要が後退した一方、天然ガス調達コストは前年同月の水準を倍超上回る状態となり、天然ガスの割高感が感じられるようになった他、風力及び太陽光といった再生可能エネルギーによる発電が回復してきたことが、同部門における天然ガス需要を抑制する格好となり、同部門における需要は前年割れとなった。そして、米国天然ガス需要全体としては、民生部門が大きな影響を及ぼすこととなり、2月においては前年同月を上回った反面、3~4月においては前年同月を下回る状態となった。また、気温が上昇してきたことにより、特に暖房用の民生部門、及び空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が減少してきている(暖房のための空調機器稼働が低下した反面、冷房のための空調機器稼働の盛り上がりには時期尚早であった)こともあり、米国の天然ガス需要は前月比でも減少傾向となっている。

図17 米国(シカゴ)気温の推移(2025年)

図18 米国天然ガス消費増加量(前年同月比)(2015~25年)

他方、メキシコにおいては、石油・天然ガス探鉱・開発部門への投資不足(ロペスオブラドール前大統領時代には石油部門への投資が推進されたものの、その大半は精製部門(製油所の建設)であったとされる)の影響もあり、特に2024年に入ってから原油のみならず天然ガス生産の減少傾向が顕著となっていることもあり、需要と国内供給との格差分を補完するため米国からの天然ガス輸入が増加しつつある。このような事情もあり、2~4月の米国のメキシコ向け天然ガス輸出(パイプライン経由のものが主流である)は前年同月比で増加となっている(図19参照)。また、冬場の寒冷な気候時期が終了に向かうにつれ気温上昇とともに北半球を中心とする天然ガス消費国及び地域においては暖房のための民生部門における天然ガス需要は減少傾向となったものの、欧州等においては天然ガス在庫が比較的低水準にまで減少したことにより在庫積み上げのための天然ガス輸入が活発化したことに呼応する格好となり、米国から欧州等に向け液化天然ガス(LNG)の輸出が堅調に推移した(図20参照)。

図19 米国のメキシコへのパイプラインによる天然ガス輸出(2012~25年)

図20 米国LNG輸出2016~25年)

他方、2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻に伴い、2022年3月8日には1バレル当たり123.70ドルの終値と2008年8月1日(この日の終値は同125.10ドル)以来の高水準に到達した原油価格、及びロシアのウクライナ侵攻に伴う欧州を含む西側諸国等による対ロシア制裁の発動へのロシアの事実上の報復措置の実施に伴うロシアから欧州方面への天然ガス供給削減等と米国から欧州方面へのLNG輸出の活発化等により、米国の天然ガス需給引き締まり懸念が市場で増大するとともに、2022年8月22日には100万Btu当たり9.680ドルの終値と2008年7月23日(この日の終値は同9.788ドル)以来の高水準にまで上昇した天然ガス価格は、その後それぞれ下落基調となり、原油価格は2025年5月5日に1バレル当たり65.75ドルの終値と、2021年2月5日(この日の終値は同56.85ドル)以来の低水準、天然ガス価格は2024年3月26日に100万Btu当たり1.575ドルの終値と、2020年6月26日(この日の終値は同1.495ドル)以来の低水準に、それぞれ到達した。天然ガス価格はその後2025年3月10日には100万Btu当たり4.491ドルの終値へと回復したものの、2022年8月22日の終値水準の46%程度にとどまった他、その後再び下落傾向となったこともあり、原油及び天然ガス開発・生産を巡る収益性が低調となったものと見られることにより、掘削活動等が減速するとともに、原油生産に伴い随伴して生産されるものを含め天然ガス生産も鈍化しつつある(図21参照)。また、特に2025年に入ってからの原油価格を反映し、2025年及び2026年の米国天然ガス生産見通し(原油価格下落に伴う原油生産量の伸びの鈍化に伴い随伴で生産される天然ガス生産量の伸びも多少なりとも鈍化するものと見られる)も下方修正されている(図22参照)。

図21 米国石油・天然ガス掘削装置稼働数と原油価格及び天然ガス生産量(2012~25年)

図22 米国国内天然ガス生産量及び見通し(破線部分)(2009~25年)(EIA発表時期別)

そして、2025年2~4月においては米国の天然ガス供給の伸びがもたつき気味となりつつある他、メキシコへのパイプライン経由の天然ガス輸出や米国外諸国及び地域向けのLNG輸出は堅調であった一方、2月の米国の天然ガス需要は前月比では若干減少となったものの前年同月をそれなりに上回った反面、3~4月はもたつき気味となったこともあり、1月31日時点では、平年(過去5年平均)水準を4.4%程度下回っていた同国天然ガス在庫は3月7日時点では平年を11.9%程度下回る状況となったものの、その後平年水準を下回る率を縮小、5月9日には平年水準を2.6%上回るなど、同国の天然ガス需給バランスは、一旦は引き締まる方向に向かったもののその後は緩和しつつある(図23参照)。それとともに、2月1日には100万Btu当たり3.044ドルの終値であった米国天然ガス先物価格は3月10日には同4.491ドルの終値と、2022年12月29日(この日の終値は同4.559ドル)以来の高水準に到達する場面も見られた(図24参照)が、その後は下落傾向となり5月16日の終値は同3.334ドルとなっている。

図23 米国天然ガス貯蔵量(破線部は見通し)(2024~25年)

図24 天然ガス先物価格の推移(2018~25年)

欧州においては、2025年1月1日を以てロシアからのウクライナのパイプライン経由での天然ガス供給が停止したことに加え、2024~25年の冬場の気候が前年に比べ相当程度寒冷となった(図25参照)ことから、暖房向けの民生部門及び空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門の天然ガス需要が堅調になったが、特に冷え込みが厳しかった2月における同地域の天然ガス需要は前年同月比で21%程度増加したものと推定される(図26参照))。それでも同月の天然ガス需要は2017~21年(2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻以前)の5年平均の天然ガス需要水準と比べると依然として2~3%の減少となったものと見られる(図27参照))。このように特に寒冷であった2月において民生部門及び発電部門の天然ガス需要が喚起されたこともあり(なお、米国大統領就任に伴うトランプ氏の関税賦課推進政策や欧州の天然ガス価格が高水準となった(後述)等の影響もあり、産業部門における天然ガス需要は軟調に推移したものと見られる)、2024年11月1日には3.60兆立方フィート、95.2%の充填率であった同地域の天然ガス在庫(因みに2023年11月1日時点の同地域の天然ガス在庫量は3.73兆立方フィート、充填率99.3%であった)は、冬場の暖房シーズンの終了時期とされる2025年3月31日においては1.28兆立方フィート、33.8%の充填率と前年同期(2.19兆立方フィートの在庫量、58.5%の充填率)を相当程度下回る状態となった(図28参照)。また、2025~26年の冬場に向けた天然ガス在庫目標(当初11月1日時点で90%の在庫充填率が目標となっていた)の積み上げのため2025年の春場から秋場にかけての天然ガス購買行動が活発化するとの観測が市場で広がったことにより、直近の受渡月の天然ガス先物価格が、2025~26年冬場の受渡月の価格を相当程度上回る状況となったこともあり、足元の天然ガス価格の割高感を市場が意識したことが、さらに市場関係者による直近の天然ガス購入を敬遠させたことから、欧州におけるLNGを含む天然ガス輸入がさらに低調となったことが、同地域での天然ガスの在庫減少ペースを一層加速させる格好となった。

図25 英国(ロンドン)気温の推移(2025年)

図26 欧州天然ガス需要増加量(前年同月比、2008~25年)

図27 欧州天然ガス需要(2022~25年)

図28 EU天然ガス在庫(2018~25年)

しかしながら、ウクライナとの戦争状態を終結させるための協議をロシアとの間で開始した旨2月12日に米国のトランプ大統領が発表したことにより、西側諸国等による対ロシア制裁緩和に伴うロシアからの欧州方面への天然ガス供給拡大期待が発生したことから、天然ガス需給引き締まり心理が市場で後退した他、2月13日に開催された会合において、EU各国の天然ガス充填目標(11月1日までに90%の充填率)につき柔軟性を持たせるようドイツが欧州委員会(EC)に対し要請、ECが対処する旨明らかにしたと同日伝えられた(4月24日には、欧州議会産業委員会が11月1日時点のEU各国の天然ガス貯蔵目標を83%に引き下げることを決議した他、5月8日には、欧州議会(European Parliament)において、11月1日時点での天然ガス貯蔵充填率目標を従来の90%から83%に引き下げる法案を可決した)ことにより、貯蔵目標を達成するための需要家による短期的な天然ガス購買行動活発化の観測が市場で後退した。このようなこともあり、1月30日には100万Btu当たり推定2.22ドルであった、直近の受渡月の価格が2025年12月受渡の価格を上回る幅が縮小し始め、3月31日以降は恒常的に直近の受渡月の価格が2025年12月受渡の価格を下回る状況となり、5月16日時点では直近の受渡月の価格は12月受渡の価格を100万Btu当たり推定0.74ドル程度下回る状態となっている(なお、この過程で夏場に向け需要家等による天然ガス購入が活発化するものと見込んで予め受渡の近い時期の天然ガスを購入していた投資ファンド等が天然ガスを売却するとともに市場から退出した(この結果受渡の近い時期の天然ガスに下方圧力が加わった)と指摘する向きもある)。このようなことが一因となり、欧州においては相対的に天然ガス価格の割安感が意識されるとともに、同地域の米国産LNGを含む輸入が喚起される(図29参照)とともに天然ガス貯蔵が促され始めた。ただ、2月前半を中心とする時期は欧州着LNG調達コストがアジア着LNG調達コストを上回る状況が支配的であった(図30参照)ものの、3月以降はLNG価格が下落してきたこともあり、アジアからのLNG需要が喚起される場面が見られた(後述)こともあり、アジア着LNG調達コストが欧州着LNG調達コストをしばしば上回るようになった結果、米国等から輸出されたLNGが欧州ではなくアジアに向かう場面が見られるようになった。このため、欧州天然ガス在庫は積み上がりつつある(2025年3月31日から5月16日にかけてのEU天然ガス在庫は約3,700億立方フィートの増加、充填率10.4%上昇と、前年同期(約2,800億立方フィート、7.8%上昇)を上回っている)ものの、なお、前年同期の水準を相当程度下回る状態は続いている。それでも、欧州での天然ガス在庫充填が進捗しつつあるうえ、気温の上昇とともに冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期が終了した一方、夏場の空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門を中心とする天然ガス需要期には時期尚早であるなど、天然ガス不需要期に突入したことと相俟って、天然ガス需給緩和感が市場で意識されたうえ、4月5日午前0時1分(米国東部時間)に、米国に輸入される全ての製品に10%の関税を賦課することに加え、4月9日午前0時1分に国もしくは地域別に追加関税を賦課する等の関税賦課政策を4月2日夕方(午後4時以降)(同)に米国のトランプ大統領が発表した他、4月3日午前0時1分を以て米国が輸入する自動車(完成品)に対し25%の関税を賦課する旨4月2日に米国連邦政府官報に掲載されたこと、米国の関税賦課政策に対抗し中国が米国製品に対し関税を賦課する旨発表したことをきっかけとして、米国と中国との間で関税賦課合戦の様相を呈するとともに、4月12日までに米国は中国製品に対し145%、中国は米国製品に対し125%の、それぞれ関税を賦課したことにより、貿易戦争誘発による世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したこともあり、原油相場が下落した影響が、欧州を初めとする天然ガス相場に下方圧力を加えた結果、2月11日には100万Btu当たり推定17.541ドルの終値と2023年2月6日(この日の終値は同18.266ドル)以来の高水準に到達したオランダ天然ガス(TTF)先物価格は下落傾向となり、4月29日には同10.631ドルと2024年7月26日(この日の終値は同10.332ドル)以来の低水準に到達した。しかしながら、5月6日には、ECがロシアから輸入している天然ガスに関し、2025年末までに天然ガス売買の新規契約及び既存のスポット契約を全面的に禁止、既存の長期契約については2027年末までに段階的に終了させることを含め同国からのエネルギー調達を停止することを主な内容とする計画を発表した(ただ、5月7日には、ロシアとの関係が深いとされるハンガリーやスロバキアが同計画に反対する旨表明したため、今後の意思決定過程においては紆余曲折を経ることもありうる)。加えて、5月8日に米国と英国が貿易協定締結で合意したうえ、5月10~11日に実施された米国と中国の政権幹部間による貿易問題を巡る協議において両国の関税を引き下げることで合意した旨5月12日に共同声明が発表されたことにより、世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が後退したこと等に伴い原油価格が上昇したことが欧州の天然ガス価格に上方圧力を加えた結果、5月6日以降オランダTTF天然ガス先物価格は100万Btu当たり推定11ドル台半ば前後の水準で推移している。

図29 欧州LNG輸入(2006~25年)

図30 米国メキシコ湾から欧州及び日本/韓国向けLNGのネットバック価格差(2024~25年)

また、欧州天然ガス価格が堅調に推移していた時点においては、LNG受入地域として競合するアジアにおいてもLNG価格が欧州天然ガス価格に引きずられた結果、2025年2月中旬においては北東アジアLNG先物価格は100万Btu当たり15ドル近くにまで上昇する場面が見られたものの、このようなLNG価格水準は他の燃料に比べ割高であった(中国の需要家は100万Btu当たり11ドル近辺以下の水準でのLNG購入を希望している旨2月18日に伝えられた他、インドの需要家も同13ドル台半ば近辺で天然ガスと競合するナフサの調達が可能となるため、同13ドル以下でのLNG価格を希望している旨2月24日に伝えられたが、その後中国需要家は100万Btu当たり10ドル近辺以下、インド需要家は同11ドル近辺以下でのLNG購入を希望する旨示唆されると5月8日に報じられた)こともあり、アジア諸国及び地域の需要家はLNG購入を敬遠した(インドにおいては、製油所ではナフサや重油、産業部門では液化石油ガス(LPG)を、それぞれLNGの代替として利用する傾向があるとの指摘もある他、中国では国内産天然ガス、ロシア等からパイプライン経由で輸入される天然ガス、そして石炭や再生可能エネルギー等の他のエネルギー源がLNGの代わりに利用されているとされ、この結果、2025年2月においては中国のLNG輸入量がパイプライン経由の天然ガス輸入量を下回る場面も見られた)(図31参照)。また、原子力発電が概ね順調に稼働する中、冬場の暖房向けの民生部門、及び空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガスの不需要期が意識されつつあった日本においても、LNG購入は不活発化した(また、韓国の天然ガス需要についても同様の傾向となっていると見られるが、3月12日に同国に新ハヌル(韓蔚)原子力発電2号機(発電能力140万kW)の稼働が停止しており、石炭火力発電とガス火力発電の稼働により影響は限定的であると3月17日に伝えられたものの、3月の韓国のLNG輸入量は前年同月を上回ることとなった)(図32参照)。加えて、2025年1月20日のトランプ氏の米国大統領就任以降、トランプ氏が世界各国及び地域に対し相互関税を初めとした関税を賦課したが、特に中国に対しては145%の関税を賦課したことにより、それ以前の段階で減速気味であった中国経済がさらに減速するとの懸念が市場で増大した他、米国の対中国関税賦課に対抗し中国が全ての米国製品に対し125%の関税を賦課したことにより、米国産LNG価格の割高感が拡大したこともあり、中国の同国産LNG受入が相当程度鈍化する格好となった。このようなことから、アジア諸国及び地域によるLNG輸入は低迷した(その結果欧州天然ガス価格がアジアLNG価格を上回る幅が拡大するとともに、アジアで受け入れられなかったLNGが欧州に向かうこととなった)他、特に中国においては2025年1~4月のLNG輸入量が前年同月を16~25%程度下回るなど、全体としてLNG輸入が低調であった(また、3月以降は中国の米国産LNG輸入はほぼ皆無となり、中国企業が長期契約等により調達したLNGは他の諸国及び地域に転売されているとされ、中国は4月に過去最高水準でLNGを再輸出した旨4月28日に伝えられる)。このようなことから、欧州での天然ガス価格が下落傾向となったことが相俟って、北東アジアLNG相場には下方圧力が加わった結果、2025年2月14日には100万Btu当たり14.950ドルの終値であった北東アジアLNG先物価格は下落傾向となり、4月29日には同11.215ドルの終値と2024年5月17日(この日の終値は同11.160ドル)以来の低水準に到達した。ただ、この水準にまで北東アジアLNG先物価格が下落したことにより、かえってLNG価格に値頃感が発生したこともあり、韓国、中国及びインド等の天然ガス消費国等からのLNG購入活動が再び活発化する兆候が見られるとともに、LNGを巡り欧州とアジアの競合が強まるとの観測が市場で発生したことにより、アジア市場におけるLNG相場に上方圧力が加わった結果、5月16日の北東アジアLNG先物価格は100万Btu当たり11.895ドルの終値と、多少なりとも上振れしている。

図31 日本及び韓国のLNG輸入増減量(前年同月比)(2016~25年)

図32 中国、台湾及びインドのLNG輸入増減量(前年同月比)(2016~25年)

以上

(この報告は2025年5月19日時点のものです)

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