ページ番号1010502 更新日 令和7年5月28日
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概要
- 米中は相互関税引き下げや一時停止で合意。協議に先駆け一部製品の課税を免除。中国が米国から輸入するLNG(高関税維持)と化学基礎原料のエタン(課税免除)で明暗が分かれた。
- 中国はLNG高関税を維持、欧州等への転売継続。LNG輸入減少、非米国LNG契約相次ぐ。
- 欧州貯蔵・脱露ガスロードマップに伴う需要不確実性は中国のガスポートフォリオと米国LNG供給で市場均衡につながるか?
- 中国は米国依存の高さと代替の難しさ、経済性を勘案しエタン課税免除、輸入を拡大。
- 米国はシェール増産に伴いエタン輸出を拡大、5割は中国向けだが今後のサプライチェーンには不確実性が存在する。
- 米国の非FTA国向けLNG輸出調査と海運・造船301条措置により米国のLNG輸出における政治リスクと不確実性が顕在化した。
- 米中の貿易を巡る対立は今後も続き世界のエネルギー貿易やサプライチェーンに影響を与える。供給(輸出)政策やサプライチェーンのリスクを考慮し、対応を検討する必要が高まっている。
はじめに.米中は関税引き下げや一時停止で合意、一部製品の課税を免除
2025年2月1日、米国は合成麻薬フェンタニル流入を理由に国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく大統領権限を行使し2月4日以降中国からの輸入製品に10%の追加関税をかけると発表した(以下、「フェンタニル関税」)。同月4日に中国は2月10日以降米国から輸入するエネルギー、農業機械、大型自動車などに10~15%の追加関税をかけると発表した。
4月2日に米国は「相互関税」を発表し、中国の税率を34%とした。4日に中国は対抗措置として4月10日以降34%の関税を米国に課し、対象を全ての製品に拡大すると発表した。両国の応酬は続き、4月11日までに相互関税は米国が145%、中国側が125%(「フェンタニル関税」を合わせ最大140%)に引き上げられた。輸送中の貨物は5月13日まで猶予となっていた。
5月10日から11日にかけて、ベッセント財務長官およびグリア通商代表と何立峰副首相がスイス・ジュネーブで協議を行い12日に共同声明を発表した。両国は「相互関税」125%を10%に下げること、ただし、34%まで引き上げることを留保しつつ、追加の24%については5月14日から8月12日まで90日間停止することで合意した。また米国は5月2日にデミニミス免税(輸入申告額800ドル以下の少額貨物)を廃止し、120%の関税をかけたが5月14日に54%に軽減した。しかし中国の重要鉱物輸出規制、米国の対中半導体規制、対中海事・造船分野301条措置など米中の対立構造は解消しておらず、8月以降の交渉や展開が読みにくい状況が続く。
貿易協議に先駆け米国と中国は一部製品の課税を免除した。米国は4月14日の大統領令[1](Executive Order14257)に基づきコンピューターおよびその部品、半導体製造装置、通信端末(スマートフォンなど)やルーター、データ記憶媒体、ディスプレイやモニター、半導体デバイス、集積回路(IC)の課税を免除した(4月5日まで遡及。除外は一時的なもので半導体や電子機器向けの関税導入を検討)。中国は政府の公式発表はないが、企業の要請や在中国米国商工会議所(AmChamChina)への聴取に基づき医薬・バイオ、医療機器、半導体デバイス、半導体製造装置・材料、航空宇宙部品、石油・基礎化学原料、先端素材・産業部品、農化学・飼料添加物など約130品目(24年対米輸入金額1,636億ドルの3割相当)の課税を免除した模様である[2](表1)。

(出所)各種情報に基づきJOGMEC作成
中国が米国から輸入するエネルギー製品の関税はLNGと石炭が25%、原油が20%、LPGが10%である(相互関税10%および2月の「フェンタニル関税」〈LNGと石炭15%、原油10%〉の合計)。化学原料のエタンは課税免除となった(表2)。

(注)5月14日は現在適用されている数値
(出所)各種情報に基づきJOGMEC作成
中国はエネルギーの自給強化と調達の多角化を進めている。石炭、原油の米国からの輸入はいずれも数%と低く、引き取り義務や仕向け地が制限された契約はない(参考(1)中国の原料炭と原油調達多角化参照)。LNGの米国からの輸入も石炭や原油と同様数%であり、買主側が船を手配するFOB(本船渡し)契約が多く、高課税下の現状では欧州等への転売が続く見通しである。エタンはほぼ100%米国に依存しており、課税免除となったため当面は輸入が拡大する見通しである(表3)。本稿では主にLNGとエタンから見た米中の関税、貿易、米国のLNG輸出における政治リスクと不確実性について考察する。

(出所)各種情報に基づきJOGMEC作成
1. LNGから見た関税・貿易
1-1. LNGは高関税維持、欧州等に転売、LNG輸入減少
中国政府が米国LNG追加関税を免除する兆候はみられない。国産ガスが消費の6割を占め、輸入パイプラインや非米国LNG契約があり米国LNG(24年ガス輸入の3%、4.2MT)は代替が容易である。
米国の相互関税方針を受けて対米貿易黒字のアジア各国が米国からLNG輸入を拡大する意向を示している。3月20日に台湾中油(CPC)はアラスカ州ガス開発公社(AGDC)とアラスカLNGプロジェクトから輸出されるLNGの売買および投資意向書(LOI)を締結した[3]。4月11日にインドGAILは米国LNGの出資オプション付き長期契約の関心表明(EOI)を行った。年1MT、液化能力により最大26%出資、FOB(本船渡し)契約、期間15年、2030年前後供給開始など具体的な条件が提示されている[4]。
今回中国は蚊帳の外だが、トランプ第1期ではアラスカLNGの共同開発や米国LNG輸入拡大で合意していた。17年11月7日、アラスカAGDCと中国SINOPEC、国家ファンドCIC傘下の中投海外、中国銀行がアラスカLNG(液化トレイン3基20MT)の共同開発や出資についてJoint Development Agreement(JDA)を締結した。当時液化設備やパイプライン等付帯設備の建設を含む総事業費は430億ドルとされ、中国側がその75%をファイナンスし、パイプライン等付帯設備を建設し、LNG75%(年15MT)を30年間引き取る条件であった。その後パイプラインルート調査を行っていたが、米国内で重要インフラへの中国投資について安全保障上の懸念が高まった。18年8月13日、2019年度米国防授権法(NDAA)に外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)が組み込まれ、上院で可決された。FIRRMAにより外国企業による重要インフラへの投資や軍事施設周近接不動産の取引について外国投資委員会(CFIUS)の審査権限が強化された。同年8月2日、SINOPECはパイプライン等建設(EPC)からの撤退を表明した。19年7月にAGDCがアラスカ州議会で中国とのJDA失効を表明した(参考(2)トランプ第1期の米中エネルギー投資合意参照)。
トランプ第1期では18年7月から9月にかけて米中追加関税の応酬があり、中国は9月の第三弾でLNGに追加関税をかけた。米国からのLNG輸入量は前年の2.2MTから19年は0.3MTに減少した。中国政府が課税免除を認めて20年4月に輸入が再開し、同年の輸入量は3.1MTと追加関税前の水準を上回った。
米国とのLNG売買契約は18年のCheniere Energy(年1.2MT)以降21年まで新規の契約は行われなかった。政府の(非公式な)契約解禁を経て中国のLNG事業者は21年以降相次いで米国LNGの長期契約を締結し、24年に契約量は26.6MTに積みあがった。30年にはLNG長期契約の2割、輸入パイプラインガスを合わせたガス長期契約の1割を米国が占める。長期契約の多くは米国のガス指標価格(ヘンリーハブ価格)に連動した、買主側が船を手配するFOB(本船渡し)契約である。米国のLNG長期契約は価格の透明性やダイバートやスワップが容易で柔軟性が高く、需給調整に有効である。
近年、米国のLNG輸入量は契約に基づく供給量の6割前後で推移していた(図1)。24年10月以降ロシアからのガス供給減少でLNG需要が増加した欧州等への転売が増加している。追加関税の影響も加わり、25年3月と4月の米国からの輸入はゼロであった。3月の米国LNG輸入価格を試算すると輸送費込みで約9.3ドル/MMBtu、25%の関税を加えると11.6ドルとなり、同月のLNG加重平均輸入価格を1ドル上回る。同月の輸入パイプラインガス加重平均価格は10ドル/MMBtuを下回っており、米国のLNGは中国のガス市場では競争力を失っている。

(出所)SIA Energyに基づきJOGMEC作成
24年11月以降、米国以外のLNG輸入も減少が続いている。25年1~4月のLNG輸入量は前年同期比22.4%減少の20MTであった。中国内外のアナリストは25年の中国のガス需要は関税による経済減速に伴い若干鈍化するが前年比4~5%増加するがLNG輸入は前年の76.6MTを3~5MT下回ると見ている。ガス需要増加をまかなうのは国産ガスと輸入パイプラインガスと目される。25年の国内生産は前年と同様の8%程度の増加が見込まれ、25年1-4月のパイプラインガス輸入は前年同期比11%伸びている。
IEAは25年第2四半期のガス市場報告において、「中国は石炭と柔軟なガスポートフォリオ(国産ガス、輸入パイプラインガス、LNG長期契約)を有しており、世界のLNG市場におけるバランシング機能が高まっている」と指摘した。中国は最近立て続けに期間5年程度のLNG中期契約を結んでいる。26年以降米国やカタールのLNG液化プロジェクトによる供給の増加で市場価格は軟化すると見られているが、供給の不確実性や市場変動に対応するため中期契約を結びポートフォリオ(柔軟性)を増強したと考えられる(参考(3)中国のLNG輸入減少とガスポートフォリオによる需給調整参照)。
1-2. 欧州発のガス需要不確実性を中国のガスポートフォリオと米国LNG供給が解決?
現在中国のLNG事業者が米国LNGを転売する際に追加費用(プレミアム)は発生していない。今後中国は契約に基づく米国からのLNG供給量が28年にかけて17~25MTに増加する。追加関税が維持された場合中国の事業者がダイバートや転売を行う際に米国LNG除外条件を付帯することでプレミアム(10~50セントMMBtu)を負担する必要が生じるかもしれない。中国はカーゴキャンセルの選択も可能でありその場合市場への供給は続くので影響は限定的と思われる。また欧州の貯蔵需要に加え脱ロシアガス方針強化で中国はプレミアム無しで米国LNGを欧州に転売し続けることが可能となるかもしれない。
欧州はガス貯蔵義務(11月1日までに貯蔵水準90%)がある。24年末にウクライナ経由ロシアパイプラインガス供給が契約終了となり、4月16日時点のガス貯蔵水準(充填率)は36%と平年に比べ低水準であった(前年同期の62%や過去5年平均の47%を下回る)。EUは貯蔵水準や貯蔵義務完了時期を若干緩和したが、引き続き冬季に向けて貯蔵を行う必要がある。IEAは欧州のガス貯蔵水準は前年同時期の記録を約25BCM下回り、来年冬に向けた貯蔵補充のためLNG輸入量が前年比約25%(30BCM≒LNG21MT以上)程度増えると指摘している。
ガス需要増加が見込まれるなか、5月6日に欧州委員会はロシアガス輸入の段階的な削減と27年フェーズアウトに向けた“「REPower EU Roadmap”(以下、ロードマップ)を公表した。6月に審議を行う予定である。ロードマップでは25年中にロシアのガスとLNGの新規契約およびスポットの輸入を禁止する。27年までに既存の長期契約に基づくロシア産パイプラインガスおよびLNGの輸入を禁止する。各国にフェーズアウトの計画提出を求めるとしている。
ACER[5]によるとロードマップのガス需要シナリオでは30年の欧州ガス需要を19年比50%減少の190BCM、LNG需要を48BCM(35MT)としている(図2)。ただし需要不確実性を日本の年間需要に相当する90BCM(65MT)としている点に注意が必要だ。需要を示すことは難しい時代ではあるが65MTの不確実性は多すぎる。

(出所)ACER
24年の欧州LNG輸入量は前年比17%減の112BCM(82MT)で、ロシアからLNG15.5MT(主にヤマルLNG)を輸入した。フランス、スペイン、ベルギーが主な輸入国である。欧州企業のヤマルLNG長期契約はスペイン、Engie、TotalEnergiesを中心に最長2038年まで計7.5MTある(表4)。スポットLNGの調達停止やポートフォリオ契約を欧州域外に販売することはともかく、長期契約を今後2年間で停止することは容易ではない。

(出所)JOGMEC天然ガス・LNGデータハブ2025
北極圏に位置するヤマルLNGはサベッタ港(冬季は通常のLNG船が接岸できない)から砕氷船(Arc7)で出荷し、ベルギー・ゼーブルージュ港他で通常のLNG船に積み替えてアジアや他地域に輸送されていた。欧州委員会は24年6月にロシアLNGの欧州港湾における積み替えを禁止する制裁を導入しており、制裁後はロシア・ムルマンスク沖キルディン(Kildin)で船舶間積み替え(STS)が行われている。
欧州はロシアとの契約についてEUによる制裁発動とそれに伴うフォースマジュール(不可抗力)事象として欧州の買主が責任を問われることはないとしているが、ヤマルLNGオペレーターであるNovatekがそれを受け入れず仲裁に発展する可能性がある[6]。仲裁期間中ヤマルLNGの市場への供給が止まることで供給懸念から市場価格が上昇する可能性がある。
中国が米国LNGを国内に持ち込まず欧州向けのダイバートやスワップを続け、欧州が契約・調達予定であったロシアのLNGが中国を含むアジアに流れれば量は変わらず市場は均衡するはずだ。ただし、それには欧州のロシアLNG積み替え制裁が解除されなければならないがロシアの収入を断ちたい欧州にその意向は無いと思われる。ヤマルLNGは砕氷船で遠路の輸送や船舶間積み替え(STS)に頼るほかなく、出荷が滞る可能性がある。
ウクライナ危機のような価格急騰は考えにくいが供給が引き締まりアジアを含むその他の調達コストが押し上げられ、新興需要国がLNG調達を抑制することにつながる可能性を否定できない。IEAの指摘する中国のガスポートフォリオ(国産ガス、輸入パイプラインガス、この場合非米国のLNG長期契約)による需給調整機能も期待したいがさらに期待できるのが米国からの供給増加である。
EIAは5月の短期エネルギー見通し(STEO)において、Venture Globalのルイジアナ州Plaquemines LNGフェーズ1(13.32MT)及びCheniereのテキサス州Copus Christiステージ3(10.43MT)が24年12月にLNG輸出を開始し、Plaquemines LNGフェーズ2(6.66MT)ならびにExxonMobil、ConocoPhillips、 Qatar Energyのテキサス州Golden Pass(18.09MT)が26年に輸出を開始する。25年のLNG輸出量は前年比22%増加、26年は同10%増加する見通しと指摘した。さらにSempraのPort Author(13.46MT)やNext DecadeのRio Grande(17.61MT)も控えており、28年前後には世界が米国LNGの潤沢な供給によるアフォーダブルなLNG価格を享受することが可能と期待している。
中国やインドは5年程度のLNG中期契約締結を複数締結している。欧州はロードマップにおいて価格変動リスクを抑えるため、5年以下の短・中期契約や、仕向け先の自由度が高い長期契約を30年までに追加で17MT程度確保することやポートフォリオ事業者や余剰液化能力の活用で柔軟性を保持するとしている。
2. エタンから見た米中関税、貿易
2-1. 中国のエタン課税免除は米国依存、代替の難しさ、経済性を勘案
LNGとは対照的に中国政府は代替の難しさと経済性からエタンを課税免除とした。エタンの貿易を止めると化学産業の経済性が悪化するうえ、エタンサプライチェーンは構築から10年程度と期間が浅く、設備や港湾インフラの投資回収に影響する。
中国はエタン輸入のほぼ100%を米国に依存している(24年輸入量9.2MT≒日量25万バレル)。
エタン(C2H6)はエチレン製造用の化学向け原料である。日本のエチレン製造はナフサクラッカーで、中国も7割はナフサクラッカーである(表5)。ナフサはプロピレン、ブタジエン、芳香族などの副生成物が得られるが、原油価格の変動でコストが左右される。輸入エタンは米国の安価な天然ガス由来で副生成物は少ないがナフサに比べエチレン収率が高い。中国はエチレン年間生産能力を25年に66MT、30年に95MTに拡大する計画であり、エタンクラッカーの建設やエタン輸送大型船(VLEC)、港湾や貯蔵設備の増強を進めていた。Zhejiang Satellite PetrochemicalとEnergy Transfer Partnersは共同出資によりテキサス州Orbitにエタン輸出ターミナルを建設、年5.5MT長期需要連動契約を締結し江蘇省連雲港のエタンクラッカー向けに供給している[7]。American Ethane CompanyとNanshan Groupは年2.6MTのエタンを供給する条件付き・拘束力のある20年間の契約を締結している[8]。中国のナフサ生産は80MTで消費の8割超を自給しているが四川、新疆、オルドス堆積盆地など中国の主要ガス田はエタン含有量が低いドライガス中心であり、エタン回収・抽出設備も整備されておらずエタンの国内生産能力は限定的である。

(出所)各種資料に基づきJOGMEC作成
中国がエタンを米国以外から調達することは難しい。エタンを輸出(海上輸送)できるインフラを有しているのは米国とノルウェーの2か国だがノルウェーは欧州の天然ガス需要拡大を受けて近年天然ガスからのエタン抽出を行なっていない。サウジアラビアやカタールなどの湾岸産油国はエタンを自国化学原料向けに消費している。

(出所)EIA STEO(2025年5月)
2-2. 米国のエタン輸出はシェール増産、需給双方の設備投資とサプライチェーン構築により拡大
米国においてエタン輸出はシェール開発と化学産業に有益である。米エネルギー省エネルギー情報局EIAによるとシェール増産に伴いNGL由来のエタン生産が拡大した(2010年の日量70万バレルから24年に同280万バレル、生産の63%はパーミアン)[9]した。主に自国の化学原料(エチレン製造)として消費していたが2016年頃からテキサス州などでエタンクラッカーと輸出インフラ(液化・貯蔵・積出港)の一体整備を進め余剰の輸出が拡大した。24年は余剰の2割(日量49万バレル)を輸出した。最大の輸出相手先は中国(46%)であり、カナダ(15%)、インド(13%)、ノルウェー(9%)と続く(図3)。
EIAは5月6日に公表した短期エネルギー見通し(STEO)において「中国は米国からのエタン輸入に対する125%の追加関税を免除した。関税を巡る展望に不透明性はあるものの、米国のエタン製造は高水準の輸出により拡大し、輸出は25年に日量54万バレル、26年に同64万バレルに拡大する」と見通しを示した。また中国の万華化学(Wanhua Chemical)がナフサとエタンのフレックスクラッカーを山東省煙台に建設しており中国向け輸出は今年日量5~7.5万バレル増加する見込みであり、ベルギーENEOSがアントワープで建設中のエタンクラッカー(エタン消費量日量7.5万バレル)は26年に稼働予定としている。
エタンは極低温輸送が必要であり専用の液化輸送船が必要である。エタンサプライチェーンには韓国サムスン重工業の造船所で液化輸送船を建造し、商船三井(MOL)が用船を行うなど日本や韓国も重要な役割を果たしている。MOLは現在世界で竣工または発注済の約90隻の液化エタン専用船約90隻のうちVLEC(Very Large Ethane Carrier/約80,000m³以上の積載能力を持ちマイナス約92度の液化エタンを輸送するための専用船)12隻の管理・運行を行っている。
エタンは現在米政権の増産政策に合致しており、いま輸出先の5割を占める中国市場を失うことは米国の化学業界にとり痛手となりそうだ。化学産業(エチレン・プラスチック製造)向けで家庭の光熱費への影響を考慮する必要性は低く、輸出拡大について米国内の政治的抵抗が少ない。
中国が関税免除に踏み切ったエタンは米中の利害が一致し当面増加が見込まれる。しかし将来的の貿易には不確実性が存在する。米国は供給の多角化を実現すれば中国を排除し、中国はナフサに回帰することが考えられる。Wanhua Chemicalのナフサとエタンのフレックスクラッカーは過渡期のリスク対応とも考えられる。
3. 米国のLNG輸出における政治リスクと不確実性
3-1. 24年の米国非FTA国LNG輸出審査一時停止が示す政治リスク
米国は世界の天然ガス生産の4分の1(890Bcm)を生産し、LNG輸出の2割を占める。米国のLNG輸出はシェール増産に伴い2016年の2.5MTから24年は87.3MTに拡大した。最大の輸出先は欧州で24年輸出の53%(46MT)を占め、アジア向けは33%(28.8MT)、中国向けは5%である。
米国エネルギー省(DOE)は2012年以降複数回LNG輸出スタディ(シナリオ分析)を行ってきた。分析目的はLNG輸出の公益性で、12年は国内経済やエネルギー価格への影響が中心であった。19年には環境分析を実施。GHG排出、メタン漏出などのライフサイクルアセスメント(LCA)や地域社会の影響まで広がった(表6)。2024年は非FTA国向けの輸出許可の公益性判断に用いる基礎データを10年ぶりに更新した。
24年1月26日、DOEはLNG輸出スタディにおける経済や環境評価結果を輸出の公益性を判断する審査に反映させるため非FTA国向けのLNG輸出審査を一時停止すると発表した。DOEは、認可済プロジェクトは対象外で稼働・建設中・FID済みの輸出能力は26 Bcf/dあり30年までの供給は問題無いと強調した。
12月20日、DOEはLNG輸出スタディの結果を公表し、パブリックコメント募集を開始した(当初2月18日までであったが3月20日まで1か月間延長)。DOE高官は安全保障や公益性判断について、ロシアのウクライナ侵攻を受けて欧州の同盟国にとり米国のLNGが重要と証明された。しかし将来的に欧州のLNG需要は減少し中国のLNG需要が増加する。50年には世界最大となる。LNG輸出の公益性判断には輸出先の内訳が必要との見解を示した。

(出所)DOE他に基づきJOGMEC作成
25年1月20日、トランプ大統領が大統領令“Unleashing American Energy”に署名[10]し、同日DOEは非FTA国向けLNG輸出審査一時停止を撤回した。2月14日にはDOEライト長官がCommonwealth LNGのルイジアナ州のCommonwealth(9.3MT)について非FTA国向けの輸出承認を行い、3月にはGolden Pass LNGの輸出承認を延長した。
5月19日、DOEはLNG輸出スタディパブリックコメントに対する応答を示した[11]。LNGは米国経済を支え、価格の影響は過去の調査に比べ小さく、最悪のシナリオでも2030年HH価格$0.75/MMBtuの上昇にとどまる。また同盟諸国のエネルギー安全保障を向上させると指摘した。中国向け輸出拡大への懸念について「市場が最適に振分ける。法令で禁じない限り輸出先を限定しない」と述べた。輸出拡大は国内経済・雇用に寄与し、同時に同盟国のエネルギー安全保障を高めるとあらためて表明した。
今回のLNG輸出スタディは非FTA国への輸出は公益性に問題はないと結論が出たがが、非FTA輸入国はLNG輸出審査停止によるプロジェクト遅延リスクを含め米国のLNG輸出拡大には政治リスクが存在することをあらためて示したと言える。
3-2. 米国の海運・造船301条措置のLNG船舶特例における不確実性
2025年4月17日、米国通商代表部(USTR)は中国の海運・造船に対し1974年通商法301条(貿易協定違反や米国政府が不公正と判断した他国の措置に対し、調査に基づく一定の貿易制裁措置を講じる権限をUSTRに付与することを規定)に基づく措置内容を決定した[12]。USTRによると、2日間の公聴会、約600件の意見提出、議会や専門機関との協議を経て措置を決定したとし、中国の非市場的で不公正な行為が、米国の産業・労働者・経済に重大な損害を与えていると結論付けた。中国企業が所有・運航する船舶や、中国で建造された船舶の米国港湾への入港について、180日後の2025年10月14日から追加料金を課すとした。中国所有・運航船舶は純トン数(NT)あたり50ドルから開始し、毎年30ドル/NTずつ加算し、3年後の2028年10月に最大140ドル/NTとする予定である。中国建造船舶は18ドル/NTまたは120ドル/コンテナから開始し毎年5ドル(または同率)ずつ加算し、最大33ドル/NTまたは250ドル/コンテナとする予定である(表7)。

(出所)USTRに基づきJOGMEC作成
中国以外の所有・運航、中国建造VLCC(10万NT)で原油を輸送する場合、港湾使用料の上乗せは初年度がバレルあたり0.9ドル(約820円/kL)、3年後に最大で同1.65ドル(約1,500円/kL)となり、この場合買主は同程度のディスカウントを交渉することになろう。一方、中国が所有・運航・建造のVLCC(10万NT)で原油を輸送する場合、港湾使用料の上乗せは初年度が2.5~3.5ドル、3年後に最大6~9ドルで米国寄港を敬遠するレベルとなる。今年中国は中古市場で日本や韓国建造の中古VLCC少なくとも10隻を購入した模様である。米国原油・LPG等の船舶輸送はしばらく混乱が生じる可能性がある。
LNG船は港湾使用料を適用せず、米国建造LNG船による輸送義務を段階的に導入する措置となった(表6)。2028年4月17日から29年4月16日はLNG輸出量の1%を米国船籍・米国運航船で輸送。2029年4月15日以降、米国建造条件を追加し、22年間で義務比率を15%へ漸増させる。米国建造船を発注すると同容量(総トン数)の外国船への義務を3年間免除(発注証明提出が条件)する(表8)。USTR付属書ⅣではLNG液化基地事業者(オペレーター)は米国政府に対しLNG輸送を行う船舶を報告する必要がある。必要な割合はDOEが報告した前暦年の海上輸送によるLNGの総量に基づいて決定する。海運会社は遵法航海の証憑(米国船籍の運航や建造証明)を米国税関・国境取締局(CBP)に報告する。閾値が満たされない場合USTRはLNG輸出許可を一時停止する可能性がある。LNG液化基地事業者(オペレーター)は新規契約や契約更新の際に買主に協力義務を負わせることになるが、初めの1%は米国建造船1隻で目標達成が可能かもしれないが、その後47年までに義務比率の拡大に伴い誰がどのように義務を負うのかは、米国の船建造体制次第であり、現段階では定義できていない。

(出所)USTRに基づきJOGMEC作成
LNG船が特別扱いとなった要因は複数存在する。一つは米国産業界による働きかけだ。米国のLNG輸出事業者、産業界は港湾使用料の課徴はLNG輸出競争力を損ない、船舶数も不足と働きかけた。また義務比率を22年かけて漸増させるのは。米国の造船所のNG船の技術導入と建造体制をゼロから構築することとLNG長期売買契約(20年前後)の更新サイクルを踏まえた措置のようだ。
中国は中国船舶工業集団(CSSC)傘下の滬東中華(Hudong-Zhonghua)が2001年に仏GTT(Gaztransport & Technigaz)から超低温膜型貨物タンクのライセンス(世界のLNG船の95%超)を取得し、仏Chantiers de l’Atlantique/Aker Yardsなど欧州の造船所から船体基本設計や建造ノウハウの協力を得て2002年に船を受注、04年に建造を開始し08年に初号船Dapeng Sunを引き渡した。現在はHudongに加え、江南造船(Jiangnan)や上海外高橋(Shanghai Waigaoqiao)による年10隻の建造体制となった。
米国は韓国Hanwha Ocean(旧DSME)の協力を得て造船所の整備や休止中のドライドックを復活させてLNG船建造体制構築を進める計画である。Hanwha Oceanは24年末にペンシルベニア州Philly Shipyardを1億ドルで買収し、韓国人エンジニア約50名を常駐させている。GTTの超低温膜型貨物タンクのライセンス取得を準備中で26年第2四半期までにモックアップタンクを製作し、の検査合格を得る。溶接ロボ導入と並行し、溶接士・検査員300名の資格化をすすめる。米国運輸省に初号・2隻目建造のため7億ドルの融資保証枠[13](建造資金の80%を20年償還)を申請予定である。
米国は建造体制を整備し28年にLNG初号船を竣工、30年前後に年2-3隻建造体制の構築を目指している。しかし中国や韓国はLNG船建造の技術導入から初号船導入までに7年前後を費やしている。韓国の協力のもとLNG船建造体制構築を進めているが義務比率拡大に伴い誰が義務を負うのかは船建造体制構築のスケジュールに左右され不確実性が存在する。
さいごに
IEAは中国のガスポートフォリオにより世界のLNG市場における中国の調整機能が高まっていると指摘した。26年以降米国やカタールのLNG液化プロジェクトによる供給の増加で市場価格は軟化すると見られているが、中国は供給の不確実性や市場変動に対応するため中期契約を結びポートフォリオ(柔軟性)をさらに増強している。
欧州は脱ロシアガスロードマップにおいて価格変動リスクを抑えるため、5年以下の短・中期契約や、仕向け先の自由度が高い長期契約を追加することやポートフォリオ事業者や余剰液化能力の活用で柔軟性を保持するとしている。
中国が関税免除に踏み切ったエタンは米中の利害が一致し当面増加が見込まれる。しかし将来的の貿易には不確実性が存在する。海運・造船301条措置においてエタンは港湾使用料徴収の対象である。米国は供給の多角化を実現すれば中国を切り捨て、中国はナフサに回帰することが考えられる。Wanhua Chemicalのナフサとエタンのフレックスクラッカーは過渡期のリスク対応とも考えられる。
今回のLNG輸出スタディは非FTA国への輸出は公益性に問題はないと結論が出たがが、非FTA輸入国はLNG輸出審査停止によるプロジェクト遅延リスクを含め米国のLNG輸出拡大には政治リスクが存在することをあらためて示したと言える。
米国は海運・造船301条措置においてNG船から港湾使用料を徴収せず米国建造LNG船の輸送義務を22年かけて段階的に設定する方針だ。韓国の協力のもとLNG船建造体制構築を進めているが義務比率拡大に伴い誰が義務を負うのかは船建造体制構築のスケジュールに左右され不確実性が存在する。
米中の関税・貿易を巡る対立は今後も続く。エネルギー貿易は供給国の政策やサプライチェーンのリスクをこれまで以上に考慮し、対応を検討する必要が高まっている。
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参考(1):中国の原料炭と原油調達多角化
中国は鉄鋼生産のための原料炭について21年以降調達多角化を進めた。原料炭は24年に消費の2割弱、1.2億トンを輸入した。モンゴルが輸入の48%と最大で、ロシア(25%)、カナダ(8%)、米国(9%)、豪州(8%)と続く(図4)。20年まで原料炭は豪州が最大であったが関係悪化で21~22年に一般炭・原料炭ともに輸入を停止した。22年5月の豪州政権交代後関係が改善し、23年に輸入を再開したがモンゴルとロシアからの輸入が7割を超え、豪州のシェアは戻っていない。

(出所)「中国の石炭事情」JOGMEC石炭開発部(2025年3月)に基づき作成
原油について消費の7割、24年に日量1,104万バレルを輸入しているが調達の多角化が進んでいる。ロシアが輸入の20%と最大でサウジアラビア(14%)、マレーシア(13%)、イラク(11%)と続く。
ロシア原油について欧米豪日はプライスキャップ制裁を課している(ロシアの石油収入を削減しつつ、世界市場への供給途絶・価格急騰を回避することを目的に年月からロシアの原油貿易について60ドル/バレルを上限とし、それを超える部分について西側事業者の海上輸送・保険・金融などのサービスを禁じる)。
マレーシアからの輸入は同国の生産を上回っている。制裁対象のイランやベネズエラ原油をマレーシア沖合で積み替え、ブレンドするなどの手法で原産地を偽装しているのが実態である。イランからの輸入は通関統計に計上されておらず、ベネズエラからの輸入は米国が一時期ベネズエラへの制裁を緩和した24年2月から5月と12月に日量7万バレル前後ずつ計上されている。
ロシア(海上輸送)、イラン、ベネズエラからの制裁原油は主に山東省に位置する地方製油所が行っている。25年1月以降トランプ政権は制裁原油を輸送するタンカー、山東省の複数の精製事業者、原油貯蔵事業者等に対する二次制裁を強化している。地方製油所が集積する山東省の山東港湾集団は二次制裁対象船舶の入港禁止措置を発動し、企業の買い控えも加わり月中旬から下旬にかけてロシア(海上)やイラン原油の到着量は減少したが2月には回復、その後もいたちごっこの様相を呈している。ロシアやイラン側の輸出量に顕著な減少は見られない。
中国の原油輸入の1割は陸路による。カザフスタンから西部新疆、ロシアから東北黒竜江省向けのパイプラインが敷設されている。モンゴルからも少量を輸入している。新疆や黒竜江省など東北部の油田は生産が枯渇しており、カザフスタンやロシアの原油は周辺の精製石化設備への供給を補完する存在である。陸路の調達は海上輸送に比べ欧米の金融・輸送サービスを必要とせず、制裁の影響を受けにくく安全保障上有効である。

(出所)百川等に基づきJOGMEC作成
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参考(2):トランプ第1期の米中LNG合意[14]
2017年4月、米中は中国向けのLNG輸出促進を含む米中貿易不均衡是正に向けた「100日計画」で合意した。同年1月9日にエネルギー、制造業、農業、航空、電気、自動車分野のビジネス契約と双方向の投資取り決め(総額2,500億ドル超)で合意し、トランプ大統領と習近平国家主席は調印に立ち会った。
エネルギー分野の合意額は判明しているだけで合意の5割超(約1,700億ドル相当)に達していた。中国国家能源投資公司(China Energy Investment Corp、中国石炭大手神華<Shenhua>、発電大手国電のJV)によるウェストバージニア州のシェールガス、電力、化学プロジェクト(事業費837億ドル)への投資覚書やSINOPEC、国家ファンド中国投資(CIC)傘下の中投海外、中国銀行(Bank of China)によるアラスカLNG(事業費430億ドル)の液化プラント、パイプライン等付帯設備の建設についてのJoint Development Agreement、PetroChinaによるCheniere EnergyのLNG購入(覚書)や中国燃気(China Gas)によるDelfin LNGとのLNG購入(合意)などがあったが全て白紙撤回された。
2017年11月7日にSINOPEC、国家ファンド中国投資(CIC)傘下の中投海外、中国銀行(Bank of China)はアラスカ州ガス開発公社Alaska Gasline Development Corporation(AGDC)と同社が進めるアラスカLNG(液化トレイン3基20MT)の液化プラント、パイプライン等付帯設備の建設についてJoint Development Agreement(JDA)を締結した。中国側は総事業費430億ドル(内訳はガス処理プラント59億ドル、ガスパイプライン76億ドル、LNG液化設備128億ドル、Owner’s cost64億ドル、Contingency100億ドル)の75%についてファイナンスを行い、パイプライン等付帯設備を建設し、LNG75%の引き取り権を30年間持つことになっていた。実現した場合、一帯一路(Belt & Road)の米本土上陸第1号となると見られていた。
アラスカLNGプロジェクトは2017年11月の合意後パイプラインルート調査などが行われていたが、重要インフラへの中国出資に対する安全保障上の懸念が高まった。2018年8月13日、2019年度米国防授権法(NDAA,2018)に外国企業による重要インフラへの出資や軍事施設等の近接不動産取引について外国投資委員会(CFIUS)の審査権限を強化する外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)が組み込まれ、上院で可決された。中国SINOPECは同年8月2日にEPC撤退を表明し(LNG購入や)、19年7月にADGCがアラスカ州議会で中国との共同投資合意(JDA)の失効を表明した。

(出所)各種情報に基づきJOGMEC作成
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参考(3):中国のLNG輸入減少と中国のLNG輸入減少とガスポートフォリオによる需給調整
中国は米国からの輸入だけではなくLNG輸入全体が落ち込んでいる。25年1月から3月の天然ガス生産48MTを生産、前年同期比4.3%増加した。パイプラインガス輸入は13.9MTで同6.9%増加した。LNG輸入は15.6MTで同21.2%減少し同時期の日本の輸入量17.7MTを下回った。
欧米コンサルタントや中国のアナリストは中国の25年の天然ガス需要を450Bcm(330MT)と見ている。米中貿易摩擦による景気後退、輸出産業への影響を加味し5Bcm(3.7MT)程度下方修正した。25年のLNG輸入は前年の76.7MTから3~5MT程度減少する見通しである。国内生産やロシア他からの輸入パイプラインガスの潤沢な供給が価格競争力で劣るLNG輸入を抑制している。
IEAは中国のLNG輸入量が25年第1四半期に前年同期比で約25%減少した。石炭への回帰(温存)とガスポートフォリオの柔軟性のあるオプション(国産ガス、輸入パイプラインガス、大量のLNG長期契約)に支えられ、世界のLNG市場における中国の調整機能が高まっていると指摘している。

(出所)SIA Energyに基づきJOGMEC作成
26年以降米国やカタールのLNG液化プロジェクトによる供給の増加で市場価格は軟化すると見られているが、CNOOC、PetroChinaは供給の不確実性や市場変動に対応するため中期契約を結びポートフォリオ(柔軟性)を増強したと考えられる。
中国は25年4月以降非米国LNG契約を相次いで結んだ。4月には3社(ENN、Zhenhua Oil、CNOOC)がUAE国営ADNOCとLNG売買契約を締結。5月1日にはPetroChinaがブルネイとLNG売買契約を締結したと報じられた。UAEとの契約2件およびブルネイとの契約は期間5年の中継契約(“ストリップ取引”)である。複数カーゴを一定期間まとめて購入するストリップ取引は買い手にとり長期契約より柔軟性が高く、スポットほど不安定でもなく、短中期のヘッジ手段として使われる。

(出所)各種情報に基づきJOGMEC作成
UAEと中国の間に長期契約はなく、24年のUAEからのLNG輸入は1.17MT(ガス輸入の0.8%)。国営ADNOCは4月北京にマーケティングオフィスを開設した。またADNOCは22年に中国江南造船所でLNG船(175,000立方メートル)6隻を発注、24年11月に最初の1隻を引き渡し、残りは今後数年間で引き渡される予定である。両国のLNGにおける貿易関係が発展する可能性がある。
ブルネイと中国の間に長期契約はなく24年のブルネイからのLNG輸入は1.07MT(ガス輸入の0.8%)。
Zhenhua Oilは国有大手のCNOOC、PetroChina とは状況が異なる。同社は2018年からLNG貿易事業を開始しているが今回初の期間契約を結んだ。26年第1四半期に稼働予定の江蘇・国信LNG受入基地(34%出資)への供給が目的である。最近は仕向け先を北東アジアJKTC(Japan-Korea-Taiwan-China)とすることが一般的だが、Zhenhua Oilは中国に限定することで若干の値引きを確保した模様である。Zhenhua Oilの親会社Norinco(北方工業公司)は国有軍需大手で米国Entity Listの対象である。また2020年に人民解放軍(PLA)と関係の深い企業(CCMC)に指定され、米国からの投資が禁止されている。Zhenhua Oil自身制裁対象のイランやロシア原油を調達しており米国との契約を結ぶことは厳しい。カタールは契約期間25年以上、契約数量年MTと長期かつ大量の契約を求めておりZhenhua Oilが販売できる量を超えていることからUAEとの中期契約を選んだと考えられる。
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[1] White House Releases List of Products Excluded From Reciprocal Tariffs (April 14, 2025)
https://www.troutman.com/insights/white-house-releases-list-of-products-excluded-from-reciprocal-tariffs.html
[2]“China Considers US Ethane Tariff Exemptions”(Energy Intelligence April24,2025)
[3] 台灣中油簽署阿拉斯加液化天然氣買賣暨投資意向書 深化台美能源合作,強化天然氣供應穩定(2025-03-20)https://www.moea.gov.tw/Mns/populace/news/News.aspx?kind=1&menu_id=40&news_id=118815
[4] Indian gas firm GAIL seeks 26% stake in US LNG (April 12, 2025)https://www.reuters.com/business/energy/indian-gas-firm-gail-seeks-26-stake-us-lng-2025-04-11
[5]EU’s reliance on spot LNG likely to continue without stronger decarbonisation(22.5.2025)https://www.acer.europa.eu/news/eus-reliance-spot-lng-likely-continue-without-stronger-decarbonisation
[6] 欧州委員会がロシア産エネルギー脱却に向けたロードマップを加盟国へ提示(2025/05/14)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1010309/1010491.html
[7] Energy Transfer Loads First VLEC Under Its Orbit Gulf Coast NGL Export Joint Venture With Satellite Petrochemical USA Corp.(January 19, 2021)
https://ir.energytransfer.com/news-releases/news-release-details/energy-transfer-loads-first-vlec-under-its-orbit-gulf-coast-ngl?utm_source=chatgpt.com
[8] The Energy & Minerals Group and American Ethane Announce Execution of Exclusive Arrangement (March 19, 2018)
https://www.americanethane.com/2017/11/01/the-energy-minerals-group-and-american-ethane-announce-execution-of-exclusive-arrangement/?utm_source=chatgpt.com
[9] U.S. ethane production, consumption, and exports set new records in 2024(March 20, 2025)https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=64785&utm_source=chatgpt.com
[10] Unleashing American Energy(January 20, 2025)
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/01/unleashing-american-energy/
[11] DOE Finalizes 2024 LNG Export Study, Paving Way for Stronger American Energy Exports (May 19, 2025 )https://www.energy.gov/articles/doe-finalizes-2024-lng-export-study-paving-way-stronger-american-energy-exports#:~:text=The%20U.S.%20Department%20of%20Energy%20%28DOE%29%20today%20released,regular%20order%20on%20liquefied%20natural%20gas%20%28LNG%29%20exports.
[12] Notice of Action and Proposed Action in Section 301 Investigation of China's Targeting the Maritime, Logistics, and Shipbuilding Sectors for Dominance, Request for Comments(04/23/2025)https://www.federalregister.gov/documents/2025/04/23/2025-06927/notice-of-action-and-proposed-action-in-section-301-investigation-of-chinas-targeting-the-maritime
[13]Federal Ship Financing Program (Title XI) https://www.maritime.dot.gov/grants/title-xi/federal-ship-financing-program-title-xi
[14](続報)米中貿易摩擦の中国のエネルギー調達への影響(続報)米中貿易摩擦の中国のエネルギー調達への影響(2018/09/28)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1004762/1007615.html
以上
(この報告は2025年5月27日時点のものです)