ページ番号1010509 更新日 令和7年6月2日

原油市場他:OPECプラス産油国が2026年末までの公式減産措置の実施を確認するとともに、OPECプラス有志8産油国は2025年7月についても5~6月と同様の規模の増産を実施へ(速報)

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レポートID 1010509
作成日 2025-06-02 00:00:00 +0900
更新日 2025-06-02 10:55:41 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2025
Vol
No
ページ数 15
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
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地域3
国3
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国7
地域8
国8
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地域10
国10
国・地域 グローバル
2025/06/02 野神 隆之
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概要

  1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2025年5月28日に閣僚級会合等を開催し、現在実施中の公式減産を予定通り2026年末まで実施することを確認した。
  2. また、5月31日には、別途OPECプラス有志8産油国が会合を開催し、2025年4月より実施中である増産につき、5~6月と同様7月についても前月比日量41.1万バレルと、4月の約3倍の規模で実施する旨決定した。
  3. なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2025年11月30日、OPECプラス有志8産油国による会合は7月6日に、それぞれ開催される予定である。
  4. 米国大統領の就任直後の2025年1月23日に、トランプ氏は、サウジアラビアを含むOPEC産油国に対し原油価格の引き下げを要求する意向である旨表明した他、1月24日にはOPEC産油国に対し原油価格を引き下げるべきである旨実際に要求したこともあり、原油相場に下方圧力が加わった結果、トランプ氏の大統領就任直前には1バレル当たり77.88ドルであった原油価格は5月30日には、60.79ドルへと下落傾向となった。
  5. それでも、足元では米国等が夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあることにより季節的な石油需給の引き締まり感が市場で感じられやすくなってきている他、イラン核問題を巡る米国とイランとの交渉の過程においてイランに対し米国がさらなる圧力を加えることも想定されうることや、ウクライナとロシアとの間での戦闘停止を巡る協議が紆余曲折を経る可能性があることなどから、原油価格に上方圧力が加わるとともに米国においてガソリン小売価格を含め物価が上昇する結果、大統領支持率に影響する恐れがある他、経済を活性化するための米国金融当局による政策金利引き下げ等がより困難になるという、トランプ大統領の望まない展開となることが懸念された。
  6. OPECプラス有志8産油国による増産加速の決定はそのような中で行なわれており、国交が再開するなど緩和してきたとはいえ、なお中東を巡りイラン等との間で緊張が高まると言ったリスクを抱える中、米国による外交及び軍事的な支援を確保する必要のある、OPECプラス産油国の盟主であるサウジアラビアが、原油価格に下方圧力を加えることにより、トランプ大統領に便宜を図る格好となった。
  7. また、ウクライナとの戦闘終結に向けた条件において、できる限り自国に有利な方向に交渉を持ち込むため、米国に対し友好的な姿勢を示すと言った側面があることもあり、最終的にはロシアもOPECプラス有志産油国による増産加速を支持したものと見られる。
  8. OPECプラス有志8産油国による7月の増産加速方針の決定は、既に事前に石油市場関係者間の観測として相当程度織り込まれた格好となっていたことから、当該決定の原油相場への影響は限定的なものとなった一方、イランやウクライナ等の要因により、日本時間6月2日午前8時現在原油価格は前週末終値比1バレル当たり1.15ドル程度上昇の61.95ドル近辺で推移している。

(OPEC、IEA、EIA他)

 

1. 協議内容等

  1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2025年5月28日に閣僚級会合をテレビ会議形式で開催した(巻末参考1参照)。
  2. 会合では、現在実施中の公式減産を予定通り2026年末まで実施することを確認した(表1参照)。

表1 OPECプラス産油国の減産幅

  1. 加えて、OPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)を2ヶ月毎に開催するとともに、世界石油市場の状況、(OPECプラス各産油国の)原油生産水準及び減産遵守状況をJMMCにおいて検証する他、必要と判断される如何なる時において追加会合を招集したりOPECプラス産油国閣僚級会合の開催を要請したりする権限をJMMCに付与する旨再確認した。
  2. また、減産の完全遵守と(原油生産目標を超過して生産した場合には追ってその超過生産分を追加して減産することにより)減産を補償する措置に固執することが極めて重要であることを再確認した。
  3. さらに、2027年のOPECプラス産油国の原油生産基準(設定の際)の参考とするため、産油国の最大持続可能生産能力(MSC: Maximum Sustainable Production Capacity)を評価する方式を開発するようOPEC事務局に義務付けた。
  4. なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2025年11月30日に開催される予定である。
  5. また、別途5月31日には、自主的な減産措置を実施してきたOPECプラス有志8産油国(アルジェリア、イラク、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カザフスタン、オマーン及びロシア)による会合がテレビ会議形式で開催された(当初6月1日開催予定であったが、5月31日開催へと前倒しされた旨5月26日に伝えられた)(巻末参考2参照)。
  6. 当該会合開催に際しては、2025年4月に前月比日量13.8万バレル、5~6月はともに同41.1万バレルの規模で、それぞれ行なってきた増産の、7月分の増産規模につき検討が実施され、アルジェリア、ロシア及びオマーンが増産の停止を主張したと伝えられたが、最終的には、7月においても5~6月と同様の規模である前月比日量41.1万バレルの増産を実施する旨決定した(表2及び3参照)。

表2 OPECプラス8有志産油国の増産予定(前月比)(2025年)(日量千バレル)

表3 OPECプラス8有志産油国の増産予定(前月比)(2025年)(日量千バレル)

  1. 増産加速決定は、世界経済の安定的な見通しと低水準の石油在庫を反映した足元の健全な石油需給状況を考慮した旨OPECプラス有志8産油国は声明において表明している。
  2. また、段階的増産は、市場の状況次第では、一時的に停止したり撤回したりすることもありうるとし、それによってOPECプラス有志8産油国は石油市場の安定を継続できるとした。
  3. さらに、目標の完全遵守に固執することを改めて表明し、目標を超過して原油を生産していた産油国が、目標を完全遵守するとともに、2024年1月以降の目標を超過した生産量につき、(追って減産目標を上回って減産することにより)全量を補償する意志を確認した。
  4. なお、次回のOPECプラス有志8産油国による会合は2025年7月6日に開催される予定である。

 

2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

  1. 2024年12月5日に開催された前回の閣僚級会合においては、OPECプラス産油国は2025年末まで実施する予定であった公式減産を2026年末まで延長した。
  2. また、自主的な追加減産を実施するサウジアラビア、アルジェリア、イラク、クウェート、UAE、ロシア、カザフスタン及びオマーンの有志8産油国による会合も併せて開催され、従来2025年末を期限としていた日量165万バレルの自主的な追加減産措置を2026年末まで延長することを決定した。
  3. さらに、石油市場の安定を図るべく、日量216万バレルの自主的な追加減産につき、従来2025年1月から12月にかけ段階的に実施する予定であった緩和(つまり増産)及び別途日量30万バレルのUAEの増産の開始時期(2024年6月2日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合において2024年10月の開始を決定していたが、その後開始時期を10月から12月へと延期する旨決定したと9月5日に国営サウジ通信が報じた他、OPEC事務局も同日同趣の発表を行なったうえ、11月3日には開始をさらに1ヶ月延期して2025年1月とする旨OPECが発表した)を同年4月へと3ヶ月間延期したうえ、増産期間を当初の12ヶ月間から18ヶ月間へと拡大した結果、2026年9月にかけより緩やかな月次増産幅とすることを決定した。
  4. この時点では、2025年1月から12月にかけ増産を実施した場合、2025年は日量248万バレルの供給過剰となることから、原油相場に下方圧力が加わることが予想された。
  5. また、この先中国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化観測が市場で強まること等により、原油価格がさらに下振れする可能性があることが懸念された。
  6. 他方、減産措置を実施するOPECプラス産油国の一部は世界各国及び地域による地球環境問題への対応等に伴う中長期的な世界石油需要を巡る不透明感から速やかな増産を実施することを希望していると見受けられる部分があった。
  7. このようなことから、OPECプラス有志8産油国は増産開始を延期することにより、世界石油需給の相対的な引き締まり感を市場に意識させるとともに原油価格の下落抑制を図る一方、延期を3ヶ月と短期間にすることで近い将来の増産に含みを持たせることにより、増産を希望する一部産油国の要望にもある程度配慮する格好としたものと考えられる。
  8. ただ、4月への増産開始延期は会合開催前に市場関係者により予想されるところとなっていたこともあり、このような事前予想通りの驚きのない結果となるにより市場の失望を招くとともに、原油相場に下方圧力が加わらないよう、OPECプラス産油国は、従来2025年末までの実施予定であった公式減産措置等を2026年末へ延長するとともに、OPECプラス有志8産油国の段階的増産期間を拡大し、月次増産ペースをより緩やかなものとすることにより、市場が事前に予想していなかったような相対的な石油需給の引き締め策を決定することにより、原油価格のさらなる下落抑制を図ろうとしたものと考えられる。
  9. このように、トランプ大統領就任前の時点のOPECプラス産油国は、世界石油需給バランス緩和感の強まりに伴う原油価格下落を回避すべく、先制的かつ予防的に世界石油需給バランス緩和を回避するために行動する傾向があった(サウジアラビアの財政収支を均衡させる原油価格が1バレル当たり90ドル超と推定される他、2019年12月11日にサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが国内で株式を上場しており、株式価格維持のためにも可能な限り同社の資産価値の低下を回避する必要性があったことが背景にあるものと見られる)。
  10. しかしながら、2025年1月20日の米国大統領に就任した直後の1月23日に、トランプ氏は、サウジアラビアを含むOPEC産油国に対し原油価格の引き下げを要求する意向である旨表明した他、1月24日には、トランプ氏がOPEC産油国に対し原油価格を引き下げるべきである旨実際に要求した。
  11. このようなことが一因となり、原油相場に下方圧力が加わった結果、トランプ氏の米国大統領就任直前の1月17日には1バレル当たり77.88ドルであった原油価格は3月10日には66.03ドルへと下落した(図1参照)。

図1 原油価格の推移(2024年1月~2025年5月)

  1. しかしながら、その後米国によるベネズエラやイラン関連制裁の実施、及びイエメンのフーシ派武装勢力に対する米軍の攻撃に加え、米国のロシアに対する制裁強化の可能性を巡るトランプ氏の発言等もあり、原油価格は4月2日には原油価格は1バレル当たり71.71ドルにまで回復、トランプ氏がOPECプラス産油国に対し増産を要求する等した1月23~24日(この日の終値は74.62~74.66ドル)に接近し始めた。
  2. これに対し、OPECプラス有志8産油国は、4月3日に会合を開催した結果、2025年7月の原油生産目標を前倒しして同年5月に適用する(これにより、従来前月比日量13.8万バレルとなる5月の増産規模は同41.1万バレルとなる)旨決定したが、これについては、石油市場を巡る状況が健全であり、見通しも明るいことを反映したものである旨OPEC事務局は当時説明した。
  3. そして、このようにOPECプラス有志8産油国が増産を加速する旨決定した他、4月5日午前0時1分(同)を以て、米国に輸入される全ての製品に10%の相互関税を賦課することに加え、4月9日午前0時1分(同)を以て国もしくは地域別に追加の相互関税を賦課する等の政策を実施する旨4月2日夕方(午後4時以降)(同)にトランプ大統領が発表したことが一因となり、原油価格は再び下落傾向となり、4月8日には原油価格は1バレル当たり59.58ドルの終値と2021年4月9日(この日の終値は59.32ドル)以来の低水準に到達した。
  4. このようなこともあり、「(原油価格下落により状況は)非常に緊迫している。」としてロシアは状況を注視する方針である旨同国大統領府のペスコフ報道官が4月7日に明らかにした。
  5. そして、4月9日午前0時1分(米国東部時間)を以て中国製品に対し104%の関税を賦課(2月4日及び3月4日に賦課された20%の関税に加え、4月9日に賦課される34%の相互関税に、50%の関税を追加)する旨4月8日に米国のトランプ大統領の広報官であるレビット氏が明らかにしたことに対し、米国製品への関税を50%引き上げ84%とする旨4月9日朝(米国東部時間)に中国政府が発表したが、さらにそれに対し、中国製品への関税を125%へと一層引き上げ直ちに発効させる旨4月9日午後(同)に米国のトランプ大統領が表明したうえ、それはトランプ大統領就任後相互関税導入前に賦課された20%の関税に追加されることになるため、合計で145%の関税率となる旨4月10日に米国トランプ政権が説明した一方、中国は4月12日より米国への関税率を125%へと引き上げる旨4月11日に決定したことにより、米国と中国等の貿易戦争の激化に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で強まったこともあり、原油価格はさらに下落、5月5日の原油価格の終値は1バレル当たり57.13ドルと、2021年2月5日(この日の終値は56.85ドル)以来の低水準に到達した。
  6. しかしながら、その後関税の大幅引き下げで米国と中国が合意した旨5月12日に両国が発表したこともあり、世界経済減速懸念に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が後退した他、5月19日にはウクライナとロシアとの戦闘を巡る米国とロシアとの首脳会談が事実上不調に終わったと市場から受け取られたこと、5月23日に開催されたイラン核問題を巡る米国とイランとの間での協議において、両国間での意見の対立が先鋭化する兆しが見られた(米国はイランのウラン濃縮活動は認めない姿勢である反面、イランは核兵器保有を回避する用意はあるもののウラン濃縮活動の放棄は認められないとした)こと、ベネズエラにおける大手国際石油会社シェブロンの事業許可を米国のトランプ政権が縮小する意向である旨5月27日に報じられたこと等もあり、5月30日には原油相場は60.79ドルへと回復した。
  7. また、5月29日には、米国のトランプ大統領と米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が会談し、その場においてトランプ大統領はFRBが政策金利を引き下げないことは間違っている旨発言したが、これに対し、政策金利の取り扱いを巡っては政治的要因を考慮することなく客観的で慎重に判断している旨パウエル議長が示唆するなど、両者の認識は事実上平行線を辿るなどしたことから、米国経済活性化を巡るトランプ大統領の政策金利引き下げ方針は行き詰まり気味となっていた。
  8. そして、足元では、米国等の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン等の石油製品需要期に突入しつつあることにより季節的な石油需給の引き締まり感が市場で感じられやすくなってきている他、イラン核問題を巡る米国とイランとの交渉の過程でイランに対し米国がさらなる圧力を加えることも想定されうることや、ウクライナとロシアとの間での戦闘停止を巡る協議が紆余曲折を経る可能性があることなどから、原油価格に上方圧力が加わるとともにガソリン小売価格を含め物価が上昇する結果、米国の大統領支持率に影響する恐れがある他、物価上昇加速を引き起こす可能性のある、米国金融当局による政策金利引き下げ等がさらに困難になるという、トランプ大統領の望まない展開となることが懸念された。
  9. OPECプラス有志8産油国による増産加速の決定はそのような中で行なわれたが、これは、国交が再開するなど緩和してきたとはいえ、なお中東を巡りイラン(及びイランが支援しているとされるイエメンのフーシ派武装勢力等)との間で緊張が高まると言ったリスクを抱える中、米国による外交及び軍事的な支援を確保する必要のあった、OPECプラス産油国の盟主であるサウジアラビアが、先制的に原油価格に下方圧力を加えることにより、米国のトランプ大統領に便宜を図る格好となっている。
  10. OPECプラス産油国による会合が開催される前の5月13日には、米国のトランプ大統領がサウジアラビアを訪問し、1,420億ドルの米国製武器売却でサウジアラビアと合意するなど、米国とサウジアラビアとの関係は相対的に緊密になりつつあるように見受けられたが、サウジアラビアを盟主とするOPECプラス有志8産油国の増産加速は米国にとって恩恵となる可能性があり、広い意味で米国とサウジアラビアとの関係を一層緊密にするものと捉えることが出来よう。
  11. また、ウクライナとの戦闘終結に向けた条件において、できるだけ有利な方向に交渉を持ち込むため、米国に対し便宜を図ることにより相対的に友好的な姿勢を示すと言った側面があることもあり、ロシアも最終的にはOPECプラス有志8産油国による増産加速を支持したものと見られる。
  12. さらに、自国の原油生産量がしばしば目標を超過しているイラクやカザフスタンと言った産油国も、増産方針に賛同したものと考えられる。
  13. なお、サウジアラビアが増産を加速することを通じ意図的に原油価格を引き下げることにより、例えばカザフスタンやイラク等のような、目標を遵守せずに原油生産を行なっている一部産油国に打撃を与えるという、言わば懲罰的行為を実施するとともに原油生産目標徹底を図ろうとしたと指摘する向きもある。
  14. しかしながら、この方策は原油生産目標を遵守していない産油国のみならず、遵守している産油国の原油収入をも削減してしまい、かえって多くの産油国が収入減を補おうとさらに増産しようとする方向に向かいがちとなることから、原油価格下落が加速してしまい、産油国への打撃がより大きくなるといった副作用を伴いやすい。
  15. 加えて、原油価格の下落が加速してしまうと、米国でシェールオイルを開発・生産する石油会社の収入も減少してしまうことにより、これら石油会社が財務的に困窮することから、石油会社を支持基盤の一つとしているトランプ大統領にとっても余り好ましい状況とは言えない。
  16. このようなことから、サウジアラビアによる原油生産目標超過産油国に対する懲罰的措置実施といった動機は、増産加速の一因となった可能性はあるものの、主要因とするには若干難なしとはしないものと考えられる。
  17. 他方、トランプ大統領は少なくとも原油価格の上昇は望んでいなかったことから、5月28日のOPECプラス閣僚級会合等において、従来2026年末まで実施する予定であった公式減産等を、例えば2027年末まで延長しても、かえって将来的な世界石油需給引き締まり感を市場で誘発する結果、原油相場に上方圧力が加わる恐れがあった他、自主的な減産を実施しない産油国を含めたOPECプラス産油国全体では、関係国が多岐に渡ることから、意思統一過程がより複雑化しやすいこともあり、相対的に柔軟な意思決定が可能なOPECプラス有志8産油国の増産方針を巡る判断を優先したものと見られ、今回開催された閣僚級会合等においては公式減産の実施期間を延長する等の措置は見送られることになったものと見られる。

 

3. 原油価格の動きと石油市場における今後の注目点等

  1. OPECプラス有志8産油国が7月の増産幅を当初予定である前月比日量13.8万バレルから同41.1万バレルへと拡大する可能性があることは、5月31日の会合開催以前の段階でしばしば伝えられていた。
  2. 例えば、減産遵守が徹底されていない一部のOPECプラス産油国に対し、減産目標を遵守しなければ増産をさらに加速させる可能性があるとサウジアラビアが警告した旨5月5日に伝えられた他、OPECプラス有志8産油国間で7月の増産規模を前月比日量41.1万バレルとすることを検討している旨5月22日に報じられた。
  3. また、7月のOPECプラス有志8産油国による増産規模を前月比日量41.1万バレルとすることについては議論していない旨ロシアのノバク副首相が明らかにしたと5月26日に伝えられたものの、OPECプラス有志8産油国による会合において、7月につき前月比日量41.1万バレルの増産を行なう旨決定する可能性がある一方、OPECプラス産油国閣僚級会合においては原油生産方針等につき特段の方針変更はなされない見通しである旨5月27日に報じられた。
  4. このようなこともあり、今回の会合においてOPECプラス有志8産油国が7月の増産幅を前月比日量41.1万バレルとする旨決定する可能性は既に事前に石油市場関係者間で相当程度織り込まれる格好となっていた(市場参加者32者中25者は前月比日量41.1万バレルの増産を決定する旨予想していると5月22日に伝えられてもいた)が、実際その通りの決定が今回の会合でなされるなど事実上市場の事前予想通りの言わば驚きのない展開となったため、この面では原油相場への影響は限定的なものとなった。
  5. 他方、イランが濃縮度最高60%の濃縮ウラン(核兵器級の濃縮ウラン濃度である90%に接近するとして、濃縮度60%の濃縮ウラン保有は2015年7月14日に妥結したイラン核問題を巡るイランと西側諸国等との核合意における重大な違反行為であるとされる)を5月17日時点で408.6キログラム保有している推定され、前回推定時である2月8日時点の274.8キログラムから133.8キログラム、50%近く増加した旨の報告書を国際原子力機関(IAEA)が取り纏め加盟国に送付したと5月31日に報じられた(これに対し、IAEAは繰り返し根拠無くイランを批判しているとしてIAEAを非難する旨の声明を5月31日にイラン外務省と同国原子力庁が発表している)ことにより、イラン核問題を巡る米国を含む西側諸国等とイランとの交渉を巡る不透明感が拡大した。
  6. 加えて、6月2日にトルコのイスタンブールにおいてウクライナとロシアが両国間の戦闘停止等を巡り直接協議を実施することを控え、ロシアがウクライナをミサイルで攻撃した結果軍事関係者12人が死亡した旨6月1日にウクライナ陸軍が明らかにした一方、ウクライナはロシアのシベリア地方にある空軍基地等4ヶ所を無人機で攻撃した旨6月1日にウクライナ保安局が表明したことにより、両国間の戦闘の激化に伴う、ロシアからの石油を含むエネルギー供給混乱懸念が市場で増大した。
  7. このようなイラン及びウクライナを巡る要因等が日本時間6月2日朝の原油相場に上方圧力を加える格好となったことから、同日午前8時現在原油価格は前週末終値比1バレル当たり1.15ドル程度上昇の61.95ドル近辺で推移している。
  8. 今後の石油市場における注目点としては、自主的な減産を実施しているOPECプラス有志8産油国による、8月以降の増産ペースが挙げられよう。
  9. この先当面、毎月初旬頃に翌月の増産ペースを定めるべく、OPECプラス有志8産油国は会合を開催するものと見られるが、その際の重要要因の一つとしては、会合直前の原油価格水準が挙げられよう。
  10. これまで、OPECプラス有志8産油国は4月3日、5月3日、及び5月31日に、それぞれ会合を開催し増産加速を決定してきたが、それら会合直前の原油価格はそれぞれ1バレル当たり71.71ドル(4月2日)、58.29ドル(5月2日)、及び60.79ドル(5月30日)であった。
  11. 大幅に引き下げられたとはいえ、米国と中国との間では引き続き関税問題が継続している他、米国と他の諸国及び地域との間でも貿易を巡る対立が残っている中、今後経済活性化のための政策金利引き下げや米ドル安誘導等といった政策を推進しようとすれば、物価が上昇しやすくなる可能性がある。
  12. また、イラン核問題を巡るイランとの交渉、もしくはウクライナとロシアとの戦闘停止等を巡るロシアとの協議の際に、イランやロシアからできる限りの譲歩を引き出すため、米国のトランプ大統領等は強硬な手段を実施したり、もしくは手段実施の可能性を警告したりすることを迫られるといった場面が発生することも想定されるが、そのような場合にも、原油価格に上方圧力が加わりやすくなる。
  13. このような原油価格(ひいては、ガソリン小売価格)を含めた物価の上昇に伴い、米国国民の生活面での支障が増大するとともに、トランプ政権への不満が高まることにより、同政権への支持率が下落する恐れがあるため、トランプ大統領はそのような物価上昇は回避したいと考えているものと見られる。
  14. そして、米国のトランプ政権を巡る状況から、OPECプラス産油国の盟主であるサウジアラビアは、財政収支均衡価格を下回るとともに、同国国営石油会社サウジアラムコが資金調達のための資産売却等を検討している旨5月24日に伝えられるなど、原油価格下落の打撃を受けつつあるものの、米国との友好関係を考慮しつつ、引き続き原油相場の抑制を図ることで、事実上トランプ大統領に便宜を図ろうとしていくものと考えられる。
  15. このため、原油価格が相当低水準(5月3日の会合直前の原油価格の終値が1バレル当たり58.29ドルであったことからすると、少なくともその近辺の水準を大きく割り込む水準)が持続する状況でなければ、OPECプラス有志8産油国は当初予定よりも拡大した形で減産の緩和を進める可能性があるものと考えられる。
  16. ただ、5月24日夜から25日朝(現地時間)に、ロシア軍がミサイルや無人機を使用してウクライナ各地を攻撃、12人が死亡したことを受け、米国のトランプ大統領が新たな対ロシア制裁を発動する可能性がある旨5月27日にCNNが報じた他、ロシアのプーチン大統領が「火遊び」をしているとしてトランプ大統領が5月27日に非難するなど、トランプ大統領がウクライナとの戦闘に関しロシアのプーチン大統領への不満を高めつつある(但し、プーチン大統領がウクライナとの戦闘を終結させる意志があるかどうかにつき2週間程度で判断する意向である旨5月28日にトランプ大統領が表明するなど、トランプ大統領によるロシアに対する強硬な姿勢は現時点では必ずしも具体的な行動となって現れているわけではない)ことからすると、今後の米国とロシアとの関係を巡る展開次第では、ウクライナとの停戦等を巡る米国への事実上の便宜供与をロシアが配慮しなくなる結果、増産加速への関心をロシアが失うなど、増産加速を推進するサウジアラビアとの間で足並みが乱れることにより、OPECプラス8有志産油国による増産を巡る意思決定が紆余曲折を経ると言った展開となることも否定できない。
  17. 他方、OPECプラス産油各国の減産遵守状況も、石油市場関係者が注目するとともに、原油相場に影響を及ぼしうるものと考えられる。
  18. 2024年7月から2025年4月にかけての、自主的な追加減産を実施するOPECプラス有志8産油国の減産遵守状況を見ると、必ずしも常時というわけではないものの、カザフスタン、イラク及びUAEがしばしば原油生産目標を相当程度超過していることが判明する(但しUAEは統計によって遵守状況にばらつきがある)(図2参照)。

図2 主要OPECプラス産油国減産遵守率(2024年7月~2025年4月)(自主的減産含む)

  1. 5月28日に、カザフスタンのエネルギー相であるアッケンジェノフ(Akkenzhenov)氏は、現時点では減産は困難で、2025年後半においても目標水準を超過して増産するものと考えており、同国の産出量の70%は国際石油会社3コンソーシアムにより運営されており、同国政府は減産を強制する権利はなく、同国国営石油会社カズムナイガスが操業する他の老朽化した油田の部分的な減産も困難である旨明らかにしている。
  2. ただ、米国のトランプ大統領にとってみれば、原油価格の下落や低位安定により、かえって貿易問題を巡る他の諸国及び地域との交渉面での駆け引きやイラン等への圧力追加が実施しやすくなったり、米国の物価上昇沈静化に伴い経済活性化のための政策金利引き下げの環境が相対的に整ったりする等の側面があることから、極端に原油価格が下落するとともに制御不可能な状態となるのでなければ、サウジアラビア等減産遵守を比較的徹底できている産油国が、遵守が徹底されていない産油国に対し、遵守を徹底するよう幾度となく警告を発する他、これまで生産目標を超過していた生産量につき、この先目標を超過して減産することを内容とした減産遵守のための補償計画の更新版をOPEC事務局に提出する旨要求し、減産が徹底されていない産油国は補償計画をOPEC事務局に提出する、と言った展開となることはあろうが、投下資金の可及的速やかな回収が望ましいと考える傾向のある外国石油会社と合弁で石油開発・生産を実施しているカザフスタンやイラク等の産油国は、引き続き原油生産目標を超過した生産を継続する可能性があるものと考えられる。
  3. また、イラン核合意を巡る米国とイランとの間での協議の状況、米国を事実上仲介国としたウクライナとロシアとの戦闘停止に向けた交渉の進捗状態、米国の貿易相手国に対する関税の賦課と貿易相手国との合意に向けた協議の状況、米国の原油供給状況、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来や終了、ハリケーン等の米国アメリカ(メキシコ)湾への来襲の可能性を含む季節的な石油需給バランス等が原油価格に影響を与えるとともに、OPECプラス有志8産油国等がそれら原油価格水準に対応することになろう。
  4. そして、OPECプラス有志8産油国による増産規模拡大方針が決定されたこと自体は、原油相場への下方圧力を強める形で作用するものの、そのような下落局面においては、金融当局に対し政策金利引き下げを要求したり、譲歩を引き出すべくイラン等に対し圧力を加えたりすること等により、原油相場に上方圧力が加わる結果、原油価格が乱高下しやすい場面が見られうることから、今後もOPECプラス有志8産油国等による増産方針決定後の、米国のトランプ大統領による政策や地政学的リスク要因の動向については注意していく必要があろう。
  5. 反面、そのようなトランプ政権による政策等により原油相場が上振れする可能性があるが故に、OPECプラス有志8産油国会合の直前の価格がそれほど高水準でなくても、増産加速が決定されると言ったことにならないとも限らないことにも、留意する必要があろう。

 

(参考1: 2025年5月28日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)

39th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting

In light of the continued commitment of the OPEC and non-OPEC Participating Countries in the Declaration of Cooperation (DoC) to achieve and sustain a stable oil market, the Participating Countries decided to:

  1. Reaffirm the Framework of the Declaration of Cooperation, signed on 10 December 2016 and further endorsed in subsequent meetings.
  2. Reaffirm the level of overall crude oil production for OPEC and non-OPEC Participating Countries in the DoC as agreed in the 38th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting until 31 December 2026.
  3. Reaffirm the mandate of the Joint Ministerial Monitoring Committee (JMMC) to closely review global oil market conditions, oil production levels, and the level of conformity with the DoC, assisted by the OPEC Secretariat. The JMMC meeting is to be held every two months.
  4. Reaffirm the JMMC’s authority to hold additional meetings, or to request an OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting at any time to address market developments, whenever deemed necessary.
  5. Reiterate the critical importance of adhering to full conformity and the compensation mechanism.
  6. Mandate the OPEC Secretariat to develop a mechanism to assess participating countries maximum sustainable production capacity (MSC) to be used as reference for 2027 production baselines for all DoC countries.
  7. Hold the 40th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on 30 November 2025.

 

(参考2: 2025年5月31日開催OPECプラス有志8産油国会合時声明)

Saudi Arabia, Russia, Iraq, UAE, Kuwait, Kazakhstan, Algeria, and Oman reaffirm commitment to market stability on current healthy oil market fundamentals and steady global economic outlook and adjust production

The eight OPEC+ countries, which previously announced additional voluntary adjustments in April and November 2023, namely Saudi Arabia, Russia, Iraq, UAE, Kuwait, Kazakhstan, Algeria, and Oman met virtually on 31 May 2025, to review global market conditions and outlook.

In view of a steady global economic outlook and current healthy market fundamentals, as reflected in the low oil inventories, and in accordance with the decision agreed upon on 5 December 2024 to start a gradual and flexible return of the 2.2 million barrels per day voluntary adjustments starting from 1 April 2025, the eight participating countries will implement a production adjustment of 411 thousand barrels per day in July 2025 from June 2025 required production level. This is equivalent to three monthly increments as detailed in the table below. The gradual increases may be paused or reversed subject to evolving market conditions. This flexibility will allow the group to continue to support oil market stability.

The eight OPEC+ countries also noted that this measure will provide an opportunity for the participating countries to accelerate their compensation. The eight countries reiterated their collective commitment to achieve full conformity with the Declaration of Cooperation, including the additional voluntary production adjustments that were agreed to be monitored by the JMMC during its 53rd meeting held on April 3rd 2024.

They also confirmed their intention to fully compensate for any overproduced volume since January 2024. The eight OPEC+ countries will hold monthly meetings to review market conditions, conformity, and compensation. The eight countries will meet on 6 July 2025 to decide on August production levels.

July 2025 Required Prodction(kbd)

以上

(この報告は2025年6月2日時点のものです)

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