ページ番号1010511 更新日 令和7年6月5日

米国市場に依存するカナダの石油・ガス産業と販路多様化

レポート属性
レポートID 1010511
作成日 2025-06-03 00:00:00 +0900
更新日 2025-06-05 13:07:05 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 探鉱開発基礎情報
著者 高木 路子
著者直接入力
年度 2025
Vol
No
ページ数 16
抽出データ
地域1 北米
国1 カナダ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 北米,カナダ
2025/06/03 高木 路子
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概要

  • カナダは、西部のアルバータ州及びブリティッシュコロンビア州(BC州)に石油・ガス賦存エリアが広がり、石油生産量世界第4位、天然ガス生産量世界5位の産油・ガス大国である。
  • 2010年頃からオイルサンド由来の原油増産が本格化し、2024年のカナダの原油生産量は日量580万バレルに達した。天然ガスは2024年18.4bcf/dの生産量を誇る。現在、パイプラインで米国に多く供給され、原油日量約400万バレル、天然ガス約7.8bcf/dを同国に輸出する。
  • 米国トランプ政権は、エネルギー関連品の輸入品に関し10%の追加関税を発動。交渉の末、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)[1]の原産地規則(ROO)を満たす産品については免税措置の適用が認められ、現時点ではエネルギー輸出における関税影響が軽減されている。
  • カナダ連邦政府は、自由党トルドー首相辞任を受けて就任したカーニー新首相は4月末に総選挙を実施。反トランプを前面に打ち出し支持率を回復させ政権を維持。カーニー新政権は米国関税への対応を最優先課題に掲げ、エネルギー政策ではインフラ設備の許認可の迅速化を図り、米国以外への代替輸出ルート開拓を急ぐ方針。環境政策ではトルドー政権下での脱炭素化政策を修正しつつも国内産業保護のため炭素価格システムやCBAM導入を目指す。
  • 2025年、カナダは新たなLNG輸出国に加わるとみられ、後続する計画も複数ある。米国関税によって不透明感が増す中でも、メジャー企業がカナダのLNG開発計画に参画する動きがある。販路を国外に求めるガス生産者とLNGポートフォリオ確保を急ぐ欧米メジャーの思惑が一致。加えて販路多様化したい連邦政府や地域還元を期待する先住民の後押しがあれば、太平洋岸でのLNG事業の推進力が一層強まる可能性がある。
  • 一方、石油輸出については2024年に既存パイプラインであるTrans Mountainパイプライン(TMPL)の輸送能力が増強され米国外への輸出が増加。2010年代にも地元反対などでなかなか実現に至らなかった経緯もあり、新たなパイプライン敷設計画が再浮上したとしても難航が予想される。

 

1. 概況:石油・天然ガス増産とともに米国に依存

カナダは、原油は米国、サウジアラビア、ロシアの3大産油国に続き、生産量世界第4位。天然ガスは米国、ロシア、イラン、中国に続き世界第5位の生産大国である。原油は、主にアルバータ州北東部に広がるオイルサンドからの原油を生産し、天然ガスはBC州及びアルバータ州において在来型及びシェールガスの開発が行われている。生産された石油・ガスは、国内需要向け以外では、米国にパイプラインを通じて供給され主に製油・販売される。エネルギーはカナダ輸出総額の4分の1を占め、中でも米国に輸出されている原油及びビチューメンが大きな比率を占める(図1)。

図1 輸出に占めるエネルギー分野
図1 輸出に占めるエネルギー分野

出所:カナダ連邦政府エネルギー規制局 https://www.cer-rec.gc.ca/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

図2 カナダ米国間での石油・ガス輸出入量(2023)
図2 カナダ米国間での石油・ガス輸出入量(2023)

出所:カナダ連邦政府エネルギー規制局 https://www.cer-rec.gc.ca/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

2010年頃からアルバータ州北東部に広がるオイルサンド層からのビチューメン生産が本格的に増加し、2020年には生産量が日量500万バレルを超え、2024年は日量580万バレルであった。生産量のうち2023年は日量400万バレル、石油製品日量70万バレルを米国に輸出する。

天然ガスは、アルバータ州の在来型ガス生産量が10bcf/dまで減退していたがBC州を含めシェール開発が進展し再び増加、2024年に18.4bcf/dの生産量を記録した。その4割にあたる7.8bcf/d(約130万boe/d)を米国にパイプラインで輸出する。

また、輸入量を差し引いたネットの米国輸出量は原油日量350万バレル、製品・NGLは日量3万バレルのわずかに輸出超過している一方、天然ガスは約5.8bc/d(100万boe/d)である(図2)。天然ガス輸入には小ロットのLNG輸入が含まれる。米国向け原油輸出のうち85%はパイプラインを利用し、残りは船舶と鉄道によって輸送されている。主に中西部(PADD2)あるいはメキシコ湾岸(PADD3)に位置する製油所に供給され(図3)、そのまま精製されずにメキシコ湾岸から輸出されるケースも報じられている。天然ガスも複数の専用パイプラインを通じて米国に輸出されている(後述)。

図3 カナダ原油の米国向け原油輸出(PADD別)
図3 カナダ原油の米国向け原油輸出(PADD別)
出所:カナダエネルギー規制局、右図出所:米国EIA

カナダ経済は、米国市場と相互に依存した関係を長年構築してきた。同国における原油、石油製品、天然ガス、NGL(ブタン、プロパン、エタン)の米国への輸出額は2023年に1,630億ドル、同国の世界全体に輸出する総額の21%を占める。逆に米国からの原油、石油製品、天然ガス、NGLの2023年の輸入額は360億ドルで全世界からの輸入額の4.7%にあたる。

 

2. 米国トランプ関税

米国ではトランプ政権が誕生し、不法移民や合成麻薬フェンタニルの流入を理由に、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、カナダ原産品に対して、エネルギー・同資源に10%、それ以外の産品に25%の追加関税を課した。当初、米国への輸入品に対して全品一律25%課税することが発表されたが、エネルギー関連品(原油、天然ガス、コンデンセート、NGL、石油製品、ウラン、石炭、バイオ燃料、地熱他)に対しては重要産品として低率の10%に修正され、3月4日に発動したが、同7日にトランプ大統領は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)[2]の原産地規則(ROO)を満たす産品については免税対象とした。

就任前の2024年11月、トランプ氏が25%関税を示唆した当時、石油・ガス生産者の販売価格上昇への懸念や代替販路の議論が浮上したが、現時点、回避され大きな影響に至っていない。そのほかにカナダは米国から鉄鋼・アルミニウム製品、自動車・自動車部品に対する追加関税を受けて、連邦政府は報復措置を相次ぎ発表し、同国輸入品に対して追加関税で対抗している。なお、4月2日にトランプ大統領が発表し、全品一律10%課税、現在、国別の上乗せ分が90日間の停止期間中である「相互関税」についてはメキシコとともにカナダは免除されている。

 

3. 自由党のカーニー政権続投

2024年12月、約9年にわたる長期政権となった自由党党首のトルドー(Trudeau)首相が支持率急落によって辞任し、引き継いだ元カナダ銀行総裁のカーニー(Carney)氏が党首となり首相に就任した。就任10日後に下院を解散し選挙戦に突入、4月28日に投開票が行われた。下院選挙では、トランプ関税への対抗策を訴えて自由党は支持率を取り戻し、カーニー党首率いる与党自由党が過半数である172議席に届かなかったものの、第1党を死守。下院議席168議席を獲得し、最大野党の保守党を破り、カーニー政権が続投となった。

最大の争点は対米政策であった。カーニー首相はトランプ関税に対抗する強硬路線を主張し、保守党ポワリエーブル(Poilievre)党首はトルドー前首相を含め自由党の長期政権を批判した。

石油・ガス開発に関して州政府が権限を有するものの、横断的なパイプライン等のインフラ整備は連邦政府が管轄する。カーニー政権はトランプ関税に対抗するため、米国外に輸送するインフラ整備を早急に行えるよう、新たな天然資源プロジェクトを迅速に認可し、カナダをエネルギー超大国にすることを公約に掲げ(表1)、代替ルートの開拓を推進する。

環境政策では、ネットゼロ移行を目指したGFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)の創設者としても知られるカーニー首相は、前任のトルドー政権が導入した消費者向け炭素価格制度を撤廃するなど強硬路線の脱炭素政策から軌道修正しつつも、炭素規制の緩い国からの製品輸入に対して関税を課す炭素国境調整メカニズム(CBAM)制度の構築を政策の一つに掲げている。消費者に対してはEV自動車や住宅改修に補助金を出してエネルギー利用の効率化や排出削減を促すが、産業分野にフォーカスして炭素価格を負担させる仕組みを導入したいとする。国外製品との競争力維持にも配慮し、CBAMの導入を進め地域産業の保護に努める狙いである。同政権は、従来の石油・ガス産業の重要性を認識しており急激な脱炭素化ではなく、州政府や先住民と連携して脱炭素エネルギーの導入を取り入れつつバランスをある現実的なエネルギー移行の推進を目指す。

表1 エネルギー政策(選挙公約)
表1 エネルギー政策(選挙公約)
出所:各種情報ソースよりJOGMEC作成

4. 石油・ガス開発状況

カナダの石油・ガスの主要生産地は西部2州に広がるオイルサンド、在来型油田、シェールオイルからの生産である(図4)。カナダ石油生産者協会CAPP(Canadian Association of Petroleum Producers)によれば、長年在来型油ガス田から生産されてきたが、2000年頃からオイルサンド開発からの原油が徐々に増加、2010年代に急増、2024年には日量580万バレル(図5)の石油生産量を記録した。その内訳はアルバータ州のオイルサンドが約日量340万バレル(全体の58%)、在来型陸上原油は日量150万バレル(同26%)、東部沖合日量20万バレル(同4%)、NGL日量70万バレル(同12%)である。

図4 カナダの石油・ガス賦存エリア(シェール、在来型、オイルサンド)
図4 カナダの石油・ガス賦存エリア(シェール、在来型、オイルサンド)
出所:CAPP等資料より作成
図5 原油生産量とガス生産量
図5 原油生産量とガス生産量
出所: CAPP
表2 カナダの石油・ガス稼働中の掘削リグ数(州別)
表2 カナダの石油・ガス稼働中の掘削リグ数(州別)
出所:Baker Hughes rig dataより作成

2005年以降、露天掘り(Mining)できない深いオイルサンド層(100メートル以深)から原油(ビチューメン)を回収する、坑内回収法(In-Situ)のオイルサンド開発投資が本格化した。坑内回収法は、主にSAGD法(steam-assisted gravity drainage)とCCS法(cyclic steam stimulation)の二つが一般的であるが、後者のCSSは1980年代に開発された技術でCold LakeエリアとPeace Riverエリアでの開発に適用され、深さ400~500メートルのオイルサンド層から原油(ビチューメン)を回収する。一方、SAGD法は、1990年代後半に回収法として技術開発され、AthabascaエリアとCold Lakeエリアの一部で適用され始めた。回収対象層は露天掘りが難しい地下100~500メートルと幅広く適用でき、現在は回収率を引き上げるための改良も行われている[3]

露天掘りとIn-Situ法のビチューメン生産量はほぼ同ペースで増加おり、現在、露天掘り日量170万バレルに対してIn-Situ法による生産もほぼ同量である。In-Situ法のうちCCS法は過去20年間にわたり日量約20万バレルの横ばい続き、SAGD法による生産は2010年代に本格的に開発が進展し、2010年の日量32万バレルから現在約日量140万バレルまで増加する。2000年以降に始まった国内外の石油企業による大型投資は一巡し、2018年以降の同生産量は伸びが鈍化し、過去数年間(2021年~2024年)は日量310〜340万バレルの水準である。

東海岸沖合では、ニューファンドランド・ラブラドール州(NL)沖の4つの油田から国内4%相当が生産される[4]。一部が米国の東海岸(PADD1エリア)に輸出される。生産中の油田はHibernia(オペレーターHMDC:Hibernia Management and Development Company Ltd)、Terra Nova(オペレーターSuncor Energy)、White Rose(オペレーターCenovus)、Hebron(オペレーターExxonMobil)である。

図6 カナダのリグ稼働数推移(石油、ガス別)
図6 カナダのリグ稼働数推移(石油、ガス別)
出所:Baker Hughes rig data等より作成

2024年のカナダの天然ガス生産量は18.4Bcf/d。主にアルバータ州とBC州に広がる在来型及びシェールガス・タイトガスからの生産である。近年は、BC州のMontneyからのガス生産が増え、国内供給及び米国向けのほか、後述のLNG向けのフィードガスとして今後開発されるとみられる。

カナダでは石油・ガス開発において雪解けから初夏にかけて湿地帯のため掘削活動が低調となり夏から冬にかけ繁忙期となる。季節変動を除けば掘削リグの稼働数は年々回復基調を示しつつあるが天然ガスは当地での価格低迷の影響を受けて足元で低調である(図6)。

事業者別(図7)は、石油開発は主に地元企業が中心で、オイルサンドの主要な事業者はCNR、SuncorやCenovus、Imperial(ExxonMobil子会社)であり(図8)、かつて開発を先導していた欧州メジャー系は高コスト開発/高排出な開発案件として徐々に撤退した。

図7 主なカナダ国内の生産事業者
図7 主なカナダ国内の生産事業者
出所:各種資料より作成
図8 カナダの石油生産量(主要生産者別)
図8 カナダの石油生産量(主要生産者別)

ガス開発はカナダ企業であるTourmaline Oil、CNR、ARCなどが中心であり(図6)、中でもTourmaline Oilは急成長を遂げ、同国最大のガス生産者に躍進した。同社は2024年Q4の石油換算日量56万バレルから2025年は日量60万バレル超に生産増大の見通しである。同社は北米においてExpand Energy(ChesapeakeとSouthwesternの合併)、EQT Energy、ExxonMobilに次ぐガス生産規模第4位を誇り、現在、国際マーケットにガス販売することを目指して、米国メキシコ湾岸やカナダ西海岸のLNG開発にも関与する(後述)。

ExxonMobil(子会社Imperial)以外、欧米メジャーのShell(英)が今年生産開始見込みのLNG Canada開発を主導し上流のシェールガス開発にも投資しているものの、BP、ChevronやTotalEnergiesはカナダ陸上資産を売却しこの数年間において完全に撤退した。

図9 カナダのガス生産量(主要生産者別)
図9 カナダのガス生産量(主要生産者別)
図10 2025年のカナダE & P産業のキャッシュフロー推計
図10 2025年のカナダE & P産業のキャッシュフロー推計
出所:CAPP資料を参考に作成

国内石油・ガスあわせて日量900万バレル超を生産する上流産業は、各国から投資が集まる、2,000億カナダドル(約209兆円)の一大産業である(図7)。他方で前述のとおり、トルドー前政権から続く連邦政府の自由党政権は脱炭素政策及びエネルギートランジションを推進しており、産油ガス州の石油・ガス政策と対立する一面もみられる。

 

5. 新たな石油・ガスの輸出路の可能性

パイプライン原油及びNGL輸出は主に6つの国際パイプラインを通じて米国に輸出されている。CAPPによればパイプライン総輸送能力は日量約500万バレル、そのうちEnbridgeが有するMainlineが2007年の日量150万バレルから日量310万バレルに増強され最大の輸送ルートである(表3及び図11)。

石油製品はセントジョン製油所などのカナダの製油所から日量約40万バレルが主に米国の東海岸域PADD1に輸出される。

図11 米国に原油を輸送するパイプライン
図11 米国に原油を輸送するパイプライン

出所:CAPP, https://www.capp.ca/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます[5]

表3 カナダ石油輸出パイプライン
表3 カナダ石油輸出パイプライン
出所:CAPP及びEIA等を参考に作成

西部で産出した原油の一部は、2024年に拡張し現行輸送能力が日量89万バレルのTrans Mountainパイプライン(TMPL)を通じて、太平洋側まで輸送され、船舶にて米国(カリフォルニア州)あるいはアジア諸国に輸出される。TMPLはアルバータ州オイルサンド産地からバンクーバー近郊港まで敷設されており、昇圧ポンプの増設等を施すとさらに日量30万バレルの増強が可能とされる。

TMPL輸送量は2023年の日量31万バレルから2024年日量52万バレルまで増加したが、ロイターによれば、2024年6月のTMPL拡張以降、同パイプラインを通じた中国への輸出量は過去10年の日量7千バレルから日量約21万バレルまで大幅に増えており、同PLによるカリフォルニア州などの米国向けの日量約17万バレルを上回ったと報じられている[6]

表4 カナダ天然ガス輸出パイプライン
表4 カナダ天然ガス輸出パイプライン

出所:CAPP等を参考に作成, https://www.capp.ca/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます[7]

図12 米国に天然ガスを輸送するパイプライン
図12 米国に天然ガスを輸送するパイプライン

出所:CAPP, https://www.capp.ca/ (外部リンク)新しいウィンドウで開きます[8]

天然ガスは主要2州で生産され国内及び米国中西部(PADD2)に輸送される、もしくはFoothills BCパイプライン及びWestcoast Transmission Systemを通じて西海岸域(PADD5)に輸送されている。またカナダ東部においてもTC EnergyのMainlineパイプラインあるいはTrans Quebec & Maritimesパイプラインを通じて米国北東部(PADD1) に輸出されている(表4及び図12)。

現時点、LNG輸出事業がないためすべてパイプラインを通じて米国に輸出されているが、2025年内に同国はLNG輸出国となる見通し。BC州を横断して太平洋側のKitimatまでガスを輸送するパイプライン「コースタルガスリンク」が建設され、KitimatにShellなどがLNG基地(LNG Canada)を建設、2025年内に生産稼働が開始される見通しである。

このほかにも2件の小型LNG事業が建設中で2027‐2028年に生産開始を予定し、順調に進むとカナダは年間2000万トン弱のLNG生産国となる可能性がある。さらにLNG開発として新規のKsi Lisims LNG計画とLNG Canada拡張計画が提案されている(表5及び図13)。先述の国内最大のガス生産者Tourmaline OilもKsi Lisims LNGに参画するRockies LNGのメンバーとして加わる。いずれのカナダLNG案件も低炭素排出なLNG(lowest carbon intensive LNG)の生産・販売を強みに計画を推進し国内外からの投資を募っている。

表5 カナダのLNG輸出事業
表5 カナダのLNG輸出事業

出所:CAPPより作成, https://www.capp.ca/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます[9]

2025年に入り、ExxonMobil、TotalEnergiesなどメジャー企業が長期LNGオフテイカーとして参画し計画進展がみられる。同年3月に、ExxonMobilがCedar LNGを利用しLNGを年150万トン引き取る長期購入契約をガス生産者ARCと締結[10]、続いて5月に、カナダから撤退していたTotalEnergiesが計画中のKsi Lisims LNGから年200万トンを購入する20年間の長期購入契約を締結と発表[11]した。これは2024年1月のShellの長期契約締結に続くもので、TotalEnergiesは同LNG事業に5%参画し、FID後に参画比率を引き上げる可能性を有する。同LNG事業者らは2025年内のFIDを目指している。大手ガス生産者のTourmaline OilやARCは太平洋岸のLNG事業だけでなく、米国メキシコ湾岸のLNG事業を通じて国際市場にアクセスする動きもみられる[12]

国際市場を目指すカナダの大手ガス生産者、アジア向けLNGポートフォリオを確保したい欧米メジャー、さらに販路多角化したい連邦政府と地域還元を期待する先住民の後押しはカナダのLNG事業の強い推進力となっている。

一方、前述のとおり現在の米国向けの原油・NGL輸送能力は日量約500万バレルである。2010年代後半にオイルサンドの増産スピードに対してパイプラインの輸送能力の増強が追い付かずに鉄道輸送が代行した時期が2010年代末にみられたが、再び輸送量はその能力に近づいている。オイルサンドからの原油増産はすでに鈍化し、能力不足がさほど問題視されていないものの、米国のトランプ関税の展開によっては米国外への輸送ラインとして2016年‐2017年に断念したNorthern GatewayやEnergy Eastの敷設計画が再浮上することも考えられる(表6)。カーニー政権は迅速な認可及び計画進展に尽力する意向を示すものの、これまでの経緯を鑑みると地元反対や環境問題が大きなハードルとなって実現まで難航することが予想される。

図13 北米のLNG事業の位置
図13 北米のLNG事業の位置
出所:JOGMEC天然ガス・LNGデータハブ2025
表6 過去に提案され中止したパイプライン計画
表6 過去に提案され中止したパイプライン計画

出所:JOGMEC資料[13]より作成

LNGよりも先行し、カナダではプロパンの米国外の輸出が伸びている。主に鉄道を利用して輸送され、2019年に太平洋沿岸に出荷設備が整備されたことで急速に太平洋岸からの輸出を増やしている。2024年時点で輸出量の半分近くを米国以外が占めるまでに伸長した(図14)。

図14 カナダからのプロパン輸出
図14 カナダからのプロパン輸出

出所:EIA、Canada’s propane exports to Asia are growing, making up more than 40% of exports in 2024[14]

 

6. まとめ

この20年あまり、米国市場への依存を高めてきたカナダの石油・天然ガス産業。これまでのところトランプ関税の影響が回避されて、適時、本年2025年にLNG輸出が開始するとみられ天然ガス販路の多角化が始まる見通し。

米国関税によって投資環境の予見性が悪化している現状ではあるが、カナダはLNG開発の見通しが明るくなったように感じる。販路多角化したい連邦政府と地域還元を期待する先住民、そして国外に販路を広げたいカナダのガス生産者とLNGポートフォリオの確保を急ぐ欧米メジャー、それぞれの思惑が重なっている。一方の石油販路の多角化は、既存パイプラインのTrans Mountainパイプライン(TMPL)の輸送能力が拡張され米国外輸出が増加し、カーニー首相はトランプ対抗措置として米国外への新たな輸出ルートの開拓を目指す方針を示すものの2010年代に地元反対などでなかなか実現に至らなかった経緯を鑑みれば、原油生産も頭打ちになるなか進展は容易ではないだろう。今後の展開を注意深く見守りたい。

 

参考資料:

カナダ天然ガス貿易サマリー(カナダ連邦政府エネルギー規制局)

https://www.cer-rec.gc.ca/en/data-analysis/energy-commodities/natural-gas/statistics/natural-gas-trade-summary/index.html(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

カナダ石油貿易サマリー(カナダ連邦政府エネルギー規制局)

https://www.cer-rec.gc.ca/en/data-analysis/energy-commodities/crude-oil-petroleum-products/statistics/crude-oil-export-summary/index.html(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

 

[4] 参照:https://www.cnlopb.ca/offshore/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[13] 参照:JOGMEC石油・天然ガス資源動向「カナダにおける原油パイプライン及びオイルサンド事業の最近の動き」(舩木)2019年12月、https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1007679/1007950.html

 

以上

(この報告は2025年5月28日時点のものです)

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