ページ番号1010519 更新日 令和7年6月16日
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概要
- 米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったこともあり、製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理活動が進んだことから、原油在庫は減少傾向となった一方、石油製品製造活動が活発になった反面、トランプ大統領による関税政策等もありガソリン及び留出油需要が軟調となったことから、両製品在庫は増加傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を上回る、留出油在庫は平年幅上方付近に位置する、それぞれ量となっている。
- 2025年5月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では減少したものの、欧州及び日本においては一部製油所において予定外に稼働が停止したことにより原油精製処理が進まなくなったこともあり在庫が増加したことで相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では、製油所の稼働低下に伴い石油製品製造活動が不活発化したこと等から、在庫は減少した。しかしながら、米国においては、ガソリン等の在庫が増加したこともあり、日本においても、暖房向けに使用される灯油の需要が低迷したこと等により、それぞれ石油製品在庫は増加した。このため、OECD諸国全体での石油製品在庫は増加した結果、平年並みの量となっている。
- 2025年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場においては、5月中旬から6月上旬前半頃においては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあった米国のガソリン需要不振観測が発生したことに加え、7月につき前月比日量41.1万バレルを上回る規模の増産をOPEC有志8産油国が検討している旨5月30日に報じられたこと等が、原油相場に下方圧力を加えた反面、5月31日に開催されたOPECプラス有志8産油国による会合で合意した増産規模が前月比日量41.1万バレルを上回らなかったこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は概ね1バレル当たり60~64ドルの範囲内で変動するなど、方向感のない展開となった。しかしながら、6月上旬後半頃から中旬にかけては、イラン核問題を巡る米国とイランとの間での交渉の不調を米国のトランプ大統領が示唆したことに加え、6月13日未明(現地時間)以降イスラエルとイランとの間で事実上の戦闘状態に突入したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、6月13日の原油価格の終値は1バレル当たり72.98ドルと、2月11日以来の高水準に到達した。
- 今後、イスラエルとイランとの間での事実上の戦闘状態の沈静化の兆候が見られるまでは、中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念が市場で持続する結果、原油価格が下げ渋りやすくなる他、両国による攻撃がさらに激化するようであれば、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。また、ウクライナとロシアとの間での戦闘が激化することによっても原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性もある。他方、米国と他の主要国及び地域との間での貿易を巡る協議が進展するようであれば、原油相場が支持されやすいものと考えられる。それでも、OPECプラス産油国による増産方針を巡る発言や実際の行動、米国と他の諸国及び地域との間での貿易問題に関する交渉を巡る状況や米国のトランプ大統領による新たな関税を含む貿易政策等によっては、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られる可能性もあるので注意する必要があろう。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. OPECプラス産油国が2026年末までの公式減産措置の実施を確認するとともに、OPECプラス有志8産油国は2025年7月についても5~6月と同様の規模の増産を実施へ
(1) 協議内容等
OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は、2025年5月28日に閣僚級会合をテレビ会議形式で開催した。会合では、現在実施中の公式減産を予定通り2026年末まで実施することを確認した(表1参照)。加えて、OPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)を2ヶ月毎に開催するとともに、世界石油市場の状況、(OPECプラス各産油国の)原油生産水準及び減産遵守状況をJMMCにおいて検証する他、必要と判断される如何なる時において追加会合を招集したりOPECプラス産油国閣僚級会合の開催を要請したりする権限をJMMCに付与する旨再確認した。また、減産の完全遵守と(原油生産目標を超過して生産した場合には追ってその超過生産分を追加して減産することにより)減産を補償する措置に固執することが極めて重要であることを再確認した。さらに、2027年のOPECプラス産油国の原油生産基準(設定の際)の参考とするため、産油国の最大持続可能生産能力(MSC: Maximum Sustainable Production Capacity)を評価する方式を開発するようOPEC事務局に義務付けた。なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を2025年11月30日に開催される予定であるとした。
また、別途5月31日には、自主的な減産措置を実施してきたOPECプラス有志8産油国(アルジェリア、イラク、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カザフスタン、オマーン及びロシア)による会合がテレビ会議形式で開催された(当初6月1日開催予定であったが、5月31日開催へと前倒しされた旨5月26日に伝えられた)。当該会合開催に際しては、2025年4月に前月比日量13.8万バレル、5~6月はともに同41.1万バレルの規模で、それぞれ行なってきた増産につき、7月分の増産規模の検討が実施され、アルジェリア、ロシア及びオマーンが増産の停止を主張したと伝えられたものの、最終的には、7月においても5~6月と同様の規模である前月比日量41.1万バレルの増産を実施する旨決定した(表2及び3参照)。増産加速決定は、世界経済の安定的な見通しと低水準の石油在庫を反映した足元の健全な石油需給状況を考慮した旨OPECプラス有志8産油国は声明において表明している。また、段階的増産は、市場の状況次第では、一時的に停止したり撤回したりすることもありうるとし、それによってOPECプラス有志8産油国は石油市場の安定を継続できるとした。さらに、目標の完全遵守に固執することを改めて表明し、目標を超過して原油を生産していた産油国が、目標を完全遵守するとともに、2024年1月以降の目標を超過した生産量につき、(追って減産目標を上回って減産することにより)全量を補償することに対する同産油国の意志を確認した。なお、次回のOPECプラス有志8産油国による会合は2025年7月6日に開催される予定であるとした。
(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
2024年12月5日に開催された前回の閣僚級会合においては、OPECプラス産油国は2025年末まで実施する予定であった公式減産を2026年末まで延長した。また、自主的な追加減産を実施するサウジアラビア、アルジェリア、イラク、クウェート、UAE、ロシア、カザフスタン及びオマーンの有志8産油国による会合も併せて開催され、従来2025年末を期限としていた日量165万バレルの自主的な追加減産措置を2026年末まで延長することを決定した。さらに、石油市場の安定を図るべく、日量216万バレルの自主的な追加減産につき、従来2025年1月から12月にかけ段階的に実施する予定であった緩和(つまり増産)及び別途日量30万バレルのUAEの増産の開始時期(2024年6月2日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合において2024年10月の開始を決定していたが、その後開始時期を10月から12月へと延期する旨決定したと9月5日に国営サウジ通信が報じた他、OPEC事務局も同日同趣の発表を行なったうえ、11月3日には開始をさらに1ヶ月延期して2025年1月とする旨OPECが発表していた)を同年4月へと3ヶ月間延期したうえ、増産期間を当初の12ヶ月間から18ヶ月間へと拡大した結果、2026年9月にかけより緩やかな月次増産幅とすることを決定した。
この時点では、2025年1月から12月にかけ増産を実施した場合、2025年は日量248万バレルの供給過剰となることから、原油相場に下方圧力が加わることが予想された他、この先中国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化観測が市場で強まること等により、原油価格がさらに下振れする可能性があることが懸念された。他方、減産措置を実施するOPECプラス産油国の一部は世界各国及び地域の地球環境問題への対応等に伴う中長期的な石油需要を巡る不透明感から速やかな増産を実施することを希望していると見受けられる部分があった。このようなことから、OPECプラス有志8産油国は増産開始を延期することにより、世界石油需給の相対的な引き締まり感を市場に意識させるとともに原油価格の下落抑制を図る一方、延期を3ヶ月と短期間にすることで近い将来の増産に含みを持たせることにより、増産を希望する一部産油国の要望にもある程度配慮する格好としたものと考えられる。ただ、4月への増産開始延期は会合開催前に市場関係者により予想されるところとなっていたこともあり、このような事前予想通りの驚きのない結果となるにより市場の失望を招くとともに、原油相場に下方圧力が加わることのないよう、OPECプラス産油国は、従来2025年末までの実施予定であった公式減産措置等を2026年末へ延長するとともに、OPECプラス有志8産油国の段階的増産期間を拡大し、月次増産ペースをより緩やかなものとすることにより、市場が事前に予想していなかったような相対的な石油需給の引き締め策を決定することにより、原油価格のさらなる下落抑制を図ろうとしたものと考えられる。
このように、トランプ大統領就任前の時点のOPECプラス産油国は、世界石油需給バランス緩和感の増大に伴う原油価格下落を回避するため、先制的かつ予防的に行動する傾向があった(サウジアラビアの財政収支を均衡させる原油価格が1バレル当たり90ドル超と推定される他、2019年12月11日にサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが国内で株式を上場しており、株式価格維持のためにも可能な限り同社の資産価値の低下を回避する必要性があったことが背景にあるものと見られる)。
しかしながら、2025年1月20日に米国大統領に就任した直後の1月23日に、トランプ氏は、サウジアラビアを含むOPEC産油国に対し原油価格の引き下げを要求する意向である旨表明した他、1月24日には、トランプ氏がOPEC産油国に対し原油価格を引き下げるべきである旨実際に要求した。このようなことが一因となり、原油相場に下方圧力が加わった結果、トランプ氏の米国大統領就任直前の1月17日には1バレル当たり77.88ドルであった原油価格は3月10日には66.03ドルへと下落した(図1参照)。しかしながら、その後米国によるベネズエラやイラン関連制裁の実施、及びイエメンのフーシ派武装勢力に対する米軍の攻撃に加え、米国のロシアに対する制裁強化の可能性を巡るトランプ氏の発言等もあり、原油価格は4月2日には原油価格は1バレル当たり71.71ドルにまで回復、トランプ氏がOPECプラス産油国に対し増産を要求する等した1月23~24日(この日の終値は74.62~74.66ドル)に接近し始めた。
これに対し、OPECプラス有志8産油国は、4月3日に会合を開催した結果、2025年7月の原油生産目標を前倒しして同年5月に適用する(これにより、従来前月比日量13.8万バレルとなる5月の増産規模は同41.1万バレルとなる)旨決定したが、これについては、石油市場を巡る状況が健全であり、見通しも明るいことを反映したものである旨OPEC事務局は当時説明した。そして、このようにOPECプラス有志8産油国が増産を加速する旨決定した他、4月5日午前0時1分(米国東部時間)を以て、米国に輸入される全ての製品に10%の相互関税を賦課することに加え、4月9日午前0時1分(同)を以て国もしくは地域別に追加の相互関税を賦課する等の政策を実施する旨4月2日夕方(午後4時以降)(同)にトランプ大統領が発表したことが一因となり、原油価格は再び下落傾向となり、4月8日には原油価格は1バレル当たり59.58ドルの終値と2021年4月9日(この日の終値は59.32ドル)以来の低水準に到達した。
このようなこともあり、「(原油価格下落により状況は)非常に緊迫している。」としてロシアは状況を注視する方針である旨同国大統領府のペスコフ報道官が4月7日に明らかにした。そして、4月9日午前0時1分(同)を以て中国製品に対し104%の関税を賦課(2月4日及び3月4日に賦課された20%の関税に加え、4月9日に賦課される34%の相互関税に、50%の関税を追加)する旨4月8日に米国のトランプ大統領の広報官であるレビット氏が明らかにしたことに対し、米国製品への関税を50%引き上げ84%とする旨4月9日朝(米国東部時間)に中国政府が発表したが、さらにそれに対し、中国製品への関税を125%へと一層引き上げ直ちに発効させる旨4月9日午後(同)に米国のトランプ大統領が表明したうえ、それはトランプ大統領就任後相互関税導入前に賦課された20%の関税に追加されることになるため、合計で145%の関税率となる旨4月10日に米国トランプ政権が説明した一方、中国は4月12日より米国への関税率を125%へと引き上げる旨4月11日に決定したことにより、米国と中国等の貿易戦争の激化に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で強まったこともあり、原油価格はさらに下落、5月5日の原油価格の終値は1バレル当たり57.13ドルと、2021年2月5日(この日の終値は56.85ドル)以来の低水準に到達した。
しかしながら、その後関税の大幅引き下げで米国と中国が合意した旨5月12日に両国が発表したこともあり、世界経済減速懸念に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が後退した他、5月19日にはウクライナとロシアとの戦闘を巡る米国とロシアとの首脳会談が事実上不調に終わったと市場から受け取られたこと、5月23日に開催されたイラン核問題を巡る米国とイランとの間での協議において、両国間での意見の対立が先鋭化する兆しが見られた(米国はイランのウラン濃縮活動は認めない姿勢である反面、イランは核兵器保有を回避する用意はあるもののウラン濃縮活動の放棄は認められないとの認識を示した)こと、ベネズエラにおける大手国際石油会社シェブロンの事業許可を米国のトランプ政権が縮小する意向である旨5月27日に報じられたこと等もあり、5月30日には原油相場は60.79ドルへと回復した。
また、5月29日には、米国のトランプ大統領と米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が会談し、その場においてトランプ大統領はFRBが政策金利を引き下げないことは間違っている旨発言したが、これに対し、政策金利の取り扱いを巡っては政治的要因を考慮することなく客観的で慎重に判断している旨パウエル議長が示唆するなど、両者の姿勢は事実上平行線を辿るなどしたことから、米国経済活性化を巡るトランプ大統領の政策金利引き下げ方針は行き詰まり気味となっていた。
そして、足元では、米国等の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン等の石油製品需要期に突入しつつある(米国では5月26日の戦没者追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに突入した)ことにより季節的な石油需給の引き締まり感が市場で感じられやすくなってきている他、イラン核問題を巡る米国とイランとの交渉の過程でイランに対し米国がさらなる圧力を加えることも想定されうることや、ウクライナとロシアとの間での戦闘停止を巡る協議が紆余曲折を経る結果、ロシアからの石油を含むエネルギー供給増加期待が低下する可能性があることなどから、原油価格に上方圧力が加わるとともにガソリン小売価格を含め物価が上昇することを通じ、米国国民の不満が高まるとともに大統領支持率に影響が及ぶ恐れがある他、経済活性化のための米国金融当局による政策金利引き下げ(これは物価上昇を加速する方向で作用する)等が一層困難になるという、トランプ大統領の望まない展開となることが懸念された。そのような中で、5月以降OPECプラス有志8産油国は前月比で日量41.1万バレルの増産を実施しつつあるが、これにより、国交が再開するなど緩和してきたとはいえ、なお中東を巡りイラン(及びイランが支援しているとされるイエメンのフーシ派武装勢力等)との間で緊張が高まると言ったリスクを抱える中、米国による外交及び軍事的な支援を確保する必要のあった、OPECプラス産油国の盟主であるサウジアラビアが、先制的に原油価格に下方圧力を加えることを通じ、米国のトランプ大統領に便宜を図る格好となっている。OPECプラス産油国による会合が開催される前の5月13日には、米国のトランプ大統領がサウジアラビアを訪問し、1,420億ドルの米国製武器売却でサウジアラビアと合意するなど、米国とサウジアラビアとの関係は相対的に緊密になりつつあるように見受けられたが、サウジアラビアを盟主とするOPECプラス有志8産油国の増産拡大による原油価格抑制は米国にとって恩恵となる可能性があり、広い意味で米国とサウジアラビアとの関係を一層緊密にするものと捉えることが出来よう。
ただ、OPECプラス有志8産油国が7月の減産緩和幅を当初予定である前月比日量13.8万バレルから同41.1万バレルへと拡大する可能性があることは、会合開催以前の段階においてしばしば伝えられていた。例えば、5月22日には、OPECプラス有志8産油国間で7月の減産緩和規模を前月比日量41.1万バレルとすることを検討している旨報じられた。また、OPECプラス有志8産油国間で、7月の増産規模を前月比日量41.1万バレルとすることについては議論していない旨ロシアのノバク副首相が明らかにしたと5月26日に伝えられたものの、OPECプラス有志8産油国による会合において、7月につき5~6月と同様前月比日量41.1万バレルの増産を実施する旨決定する可能性がある旨5月27日に報じられていた。このようなこともあり、会合においてOPECプラス有志8産油国が7月の減産緩和幅を前月比日量41.1万バレルとする旨決定する可能性は既に石油市場関係者間では事前に織り込まれる格好となっていた(市場参加者32者中25者は前月比日量41.1万バレルの増産を決定する旨予想しているものと5月22日に伝えられてもいた)ことから、実際そのような市場の事前予想通りの決定が会合でなされた場合、驚きのない展開となったことに対する市場の失望感が誘発されるとともに原油価格が上振れしてしまうことも想定された。
このため原油価格反発を回避すべくサウジアラビアは7月の増産規模を5~6月の規模である前月比日量41.1万バレルを上回るものとする方向へ方針を転換したものと見られる(実際、会合において前月比日量41.1万バレルを超過する増産を検討する予定である旨5月30日に伝えられた)。しかしながら、世界石油需要がそれほど堅調ではない可能性があることにより原油価格下落に伴う原油収入の減少に対し危機感を抱いていたロシアに加え、アルジェリアとオマーンが会合において増産の一時停止を主張した結果、サウジアラビアとの間で協議が難航、妥協策として日量41.1万バレルでの増産を決定した旨6月2日に伝えられる(ウクライナとの戦闘終結に向けた条件において、できるだけ有利な方向に交渉を持ち込むため、米国に対し便宜を図ると言った側面があることもあり、ロシアも最終的には日量41.1万バレルの増産を受け入れたものと見られる)。
なお、サウジアラビアが増産を加速することを通じ意図的に原油価格を引き下げることにより、例えばカザフスタンやイラク等のような、目標を遵守せずに原油生産を行なっている一部産油国に打撃を与えるという、言わば懲罰的行為を実施するとともに原油生産目標徹底を図ろうとしたと指摘する向きもある。しかしながら、この方策は原油生産目標を遵守していない産油国のみならず、遵守している産油国の原油収入をも削減してしまい、かえって多くの産油国が収入減を補おうとさらに増産しようとする方向に向かいがちとなることから、原油価格下落が加速してしまい、産油国への打撃がより大きくなるといった副作用を伴いやすい。加えて、原油価格の下落が加速してしまうと、米国でシェールオイルを開発・生産する石油会社の収入も減少してしまうことにより、これら石油会社が財務的に困窮することから、石油会社を支持基盤の一つとしているトランプ大統領にとっても余り好ましい状況とは言えない。このようなことから、サウジアラビアによる原油生産目標超過産油国に対する懲罰的措置実施といった動機は、増産加速の一因となった可能性はあるものの、主要因とするには若干難なしとはしないものと考えられる。
他方、トランプ大統領は少なくとも原油価格の上昇は望んでいなかったことから、5月28日のOPECプラス閣僚級会合等において、従来2026年末まで実施する予定であった公式減産等を、例えば2027年末まで延長しても、かえって将来的な世界石油需給引き締まり感を市場で誘発する結果、原油相場に上方圧力が加わる恐れがあった他、自主的な減産を実施しない産油国を含めたOPECプラス産油国全体では、関係国が多岐に渡ることから、意思統一過程がより複雑化しやすいこともあり、相対的に柔軟な意思決定が可能なOPECプラス有志8産油国の増産方針を巡る判断を優先したものと見られ、今回開催された閣僚級会合等においては公式減産の実施期間を延長する等の措置は見送られることになったものと見られる。
(3) 原油価格の動き等
5月31日に開催されるOPECプラス有志8産油国間での協議において、7月につき前月比日量41.1万バレルを超過する規模の増産を検討する予定である旨5月30日に伝えられたものの、実際には会合において前月比日量41.1万バレルを超過する規模での増産は決定されなかったことにより、かえってこの先の石油需給緩和観測が市場で後退することとなった。また、イランが濃縮度最高60%の濃縮ウラン(核兵器級の濃縮ウラン濃度である90%に接近するとして、濃縮度60%の濃縮ウラン保有は2015年7月14日に妥結したイラン核問題を巡るイランと西側諸国等との核合意における重大な違反行為であるとされる)を5月17日時点で408.6キログラム保有している推定され、前回推定時である2月8日時点の274.8キログラムから133.8キログラム、50%近く増加した旨の報告書を国際原子力機関(IAEA)が取り纏め加盟国に送付したと5月31日に報じられた(これに対し、IAEAは繰り返し根拠無くイランを批判しているとしてIAEAを非難する旨の声明を5月31日にイラン外務省と同国原子力庁が発表した)ことにより、イラン核問題を巡る米国を含む西側諸国等とイランとの交渉を巡る不透明感が拡大した。加えて、6月2日にトルコのイスタンブールにおいてウクライナとロシアが両国間の戦闘停止等を巡り直接協議を実施することを控え、ロシアがウクライナをミサイルで攻撃した結果軍事関係者12人が死亡した旨6月1日にウクライナ陸軍が明らかにした一方、ウクライナはロシアのシベリア地方にある空軍基地等4ヶ所を無人機で攻撃した旨6月1日にウクライナ保安局が表明した他、6月2日に実施されたウクライナとロシアとの間での協議においては、捕虜や戦死者の交換については合意したものの、停戦については合意できなかったことにより、両国間の戦闘の激化に伴う、ロシアからの石油を含むエネルギー供給混乱懸念が増大した。さらに、カナダのアルバータ州北部で山火事が拡大しつつあり、これまでに少なくとも日量34.4万バレルのオイルサンドを含む石油生産が停止している旨6月2日に伝えられたことにより、同国からの石油供給減少を巡る不安感が市場で発生した。そして、貿易を巡る合意に中国が完全に違反している旨5月30日に米国のトランプ大統領が表明(「トゥルース・ソーシャル」に投稿)した他、米国が中国の情報技術(IT)産業に対し制裁を発動する予定である旨同日伝えられたことに対し、米国と中国の貿易問題を巡る合意に米国が違反しているとして中国は報復措置を講じる意向である旨6月2日に中国商務省が表明したうえ、これまで25%であった鉄鋼及びアルミニウムの追加関税につき6月4日に50%へと引き上げる旨トランプ大統領が表明したと5月30日夜(米国東部時間)に伝えられた一方、欧州委員会(EC)は当該関税に対し対抗措置を講じる用意がある旨5月31日に表明したことにより、米国と中国及び米国と欧州との間での貿易戦争が激化する恐れがあるとの観測が市場で発生した他、6月2日に米国供給管理協会(ISM)から発表された5月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が48.5と4月の48.7から低下し、2024年11月(この時は48.4)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(49.5)を下回ったこともあり、米ドルが下落したことから、5月31日のOPECプラス有志8産油国会合開催後の最初の取引日である6月2日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.73ドル上昇し、終値は62.52ドルとなった。
2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2025年3月の米国ガソリン需要(確定値)は推定日量875万バレル、前年同月比1.4%程度の減少と、2月の当該需要(確定値)である日量868万バレル(前年同月比0.9%程度の増加)から、需要量は増加したものの前年同月比では増加から減少に転じた(図2参照)。ただ、当該需要は速報値(前年同月比1.8%程度減少の日量873万バレル)からは若干ながら上方修正されている。3月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量81万バレル程度と推定されたところ確定値では同75万バレルへと下方修正されたことにより、速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に寄与しているものと見られる。2025年3月の米国の気候は前月比で温暖であったことから、個人の外出が相対的に促されたことが前月比でのガソリン需要を増加させる形で作用した。しかしながら、2025年1月20日に米国大統領に就任して以降、トランプ氏は世界各国及び地域からの輸入製品に対し関税賦課を推進する方針を表明するとともに、実際にそれを実施に移しつつあった(例えば、2月4日午前0時1分(米国東部時間)を以て米国は中国から輸入する製品に対し10%の関税を賦課する措置を発動した)こともあり、世界経済減速懸念が市場で広がったことにより、2月後半以降4月上旬にかけ米国株式相場が下落傾向となった(例えば2月19日の終値が44,627.59ドルであった米国ダウ工業株30種平均は4月8日の終値は37,645.59ドルと15%超下落した)。このようなこともあり、米国経済減速感を感じ取りつつあった同国の消費者間で生活防衛から支出を抑制する動きが広がるとともに、外出が相対的に敬遠されるようになった(3月の同国自動車運転距離数は1日当たり90億マイルと前年同月比で1.1%の増加しているものの、1月の同1.9%、2月の同2.1%から相当程度伸びが縮小している)ことが、同国ガソリン需要の前年同月比での減少に影響しているものと考えられる。なお、2025年3月の米国ガソリン需要は、新型コロナウイルス感染拡大前の時点である2019年3月の当該需要(日量918万バレル)(確定値)を4.6%程度下回っている。他方、2025年5月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量880万バレル、前年同月比6.4%の減少と4月の当該需要(速報値)である日量888万バレル(前年同月比0.6%程度の増加)から需要量が減少した他同月の前年同月比での増加から減少に転じた。4月3日午前0時1分(米国東部時間)を以て米国が輸入する自動車(完成品)に対し25%の関税を賦課する旨4月2日に米国連邦政府官報に掲載された他、4月9日午前0時1分(同)を以て米国が相互関税を実施したうえ、特に中国に対しては145%の関税を賦課する旨米国のトランプ政権が表明するなど、米国と中国との間で関税引き上げ合戦の様相を呈したこともあり、米国経済が混乱し始めたこと(6月2日に米国供給管理協会(ISM)から発表された5月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は48.5と4月の48.7から低下、2024年11月(この時は48.4)以来の低水準となった他、6月4日にISMから発表された5月の同国非製造業景況感指数は49.9と4月の51.6から低下、2024年6月(この時は49.2)以来の低水準に到達した)ことが、米国における消費者の外出に影響を及ぼしたものと見られる(5月の同国の推定自動車運転距離数は1日当たり93億マイルと前年同月比で1.8%の減少となった)ことが、5月の同国ガソリン需要減少の背景にあるものと考えられる。なお、2025年5月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルスの感染拡大前の時点である2019年5月の当該需要(日量950万バレル)(確定値)を7.4%程度下回っている。また、米国では、一部製油所で行なわれていた春場のメンテナンス作業や装置不具合の改修作業が完了に向かうとともに、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2025年は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月26日)に伴う連休(5月24~26日)から労働者の日(レイバー・デー)(9月1日)に伴う連休(8月30日~9月1日)までである)突入に向け製油所の稼働率が上昇したこともあり、原油精製処理量が増加傾向となる(図3参照)とともに、ガソリン製造活動も活発化したものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図4参照)反面、ガソリン出荷がもたつき気味となったことから、5月上旬から6月上旬にかけ米国ガソリン在庫は増加傾向を示した結果、平年幅上限を超過する量となっている(図5参照)。
2025年3月の米国留出油需要(確定値)は推定日量389万バレル、前年同月比で6.0%程度の増加となり(図6参照)、2月の日量400万バレル(前年同月比で2.0%程度の増加)(確定値)と比べ、需要量は減少したものの前年同月比での増加率は拡大した。また、当該需要は速報値(前年同月比4.2%程度増加の日量383万バレル)から若干ながら上方修正されている。3月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量113万バレル程度と推定されたところ確定値では同92万バレルへと下方修正されたことにより、速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に影響しているものと見られる。3月は米国における暖房用留出油需要の中心地である北東部の気候が2月に比べ温暖であったことが、3月の同国留出油需要の前月比での減少をもたらした反面、2024年3月は米国北東部の気候が温暖であったことにより暖房用留出油需要が落ち込んだ(同月の留出油需要は前年同月比で10.7%の減少となった)反面、2025年は2月後半から3月初頭にかけ同地域の気候が比較的長期に渡り平年を下回って寒冷となったこともあり、暖房用留出油需要が相対的に喚起されたことが、2025年3月の米国留出油需要の前年同月比での増加率を2月に比べ拡大させたものと考えられる。また、2025年3月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり3.585ドル、前年同月比で10.9%の下落と、2月(同9.1%の下落)から下落率が拡大したことも、3月の同国留出油需要の前年同月比での伸び率を2月に比べ拡大させたものと見られる。なお、2025年3月の米国留出油需要は2019年3月の当該需要(日量418万バレル)(確定値)を6.9%程度下回っている。他方、5月の米国留出油需要(速報値)は推定日量355万バレル、前年同月比で6.1%程度の減少となり、4月の当該需要(速報値)である同374万バレル(前年同月比1.5%程度の減少)から、需要量は減少したうえ前年同月比では減少率が拡大した。4月初旬以降米国が相互関税を含む関税賦課政策を実施したこと等もあり、5月の同国経済が減速傾向を示したことにより、同国の製造業及び物流における活動が不活発化しつつあるものと見られることが、それら部門における軽油需要を抑制する形で作用するとともに、5月の留出油需要の前月比及び前年同月比での減少をもたらしているものと考えられる。なお、5月の米国留出油需要は2019年5月の当該需要(日量411万バレル)(確定値)を13.6%程度下回っている。そして、米国の製油所の稼働が上昇傾向となったことから、夏場のドライブシーズンに伴う需要期に接近しつつあるガソリン製造活動が活発化するとともに、併せて留出油生産も増加傾向となった(図7参照)反面、留出油需要が低調であったこともあり、5月上旬から6月上旬にかけての米国の留出油在庫は増加傾向を示したが平年幅下限付近に位置する量となっている(図8参照)。また、メンテナンス作業や一部装置の改修作業の実施に伴い製油所の稼働が一時的にせよもたつき気味となったことに加え、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入を控え、製油所ではガソリン製造が優先されるとともに留出油製造が劣後したこともあり、5月23日には米国留出油在庫量が1.03億バレルと2005年4月29日(この時は1.02億バレル)以来の低水準に到達する場面も見られた。
2025年3月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比0.4%程度増加の日量1,995万バレルとなり(図9参照)、2月の同2,023万バレル(前年同月比1.4%程度の増加)から、需要量は減少したうえ、前年同月比での増加率も縮小した。また、速報値(前年同月比0.4%程度増加の日量1,997万バレル)とほぼ同水準となっている。3月の北東部を含む米国は2月に比べ気候が相対的に温暖であったこともあり、暖房のための留出油やプロパンの需要が前月比で減少したことが、米国石油需要が前月比で減少した背景にあるものと考えられる。また、3月は留出油需要が前年同月比で増加したもののガソリン需要が前年同月比で減少となったことで相殺されたことから、同月の米国石油需要は前年同月比では若干の増加にとどまっている。なお、2025年3月の米国石油需要は2019年3月の当該需要(日量2,018万バレル)(確定値)を1.1%程度下回っている(2025年3月のガソリン及び留出油両需要は2019年3月の水準を相当程度下回っている反面石油化学製品製造原料となっているエタンの需要が石油化学製品生産拡大とともに増加したことにより相当程度相殺される格好となっている)。他方、2025年5月の米国石油需要(速報値)は日量1,981万バレル(前年同月比で4.7%程度の減少)となっており、4月の同国石油需要(速報値)である日量1,973万バレル(前年同月比1.4%程度の減少)から需要量は増加したものの前年同月比では減少率が拡大した。5月のその他の石油製品需要が日量488万バレルと4月の同412万バレルから大幅に増加したことが、5月の同国石油需要の前月比での増加に寄与している。しかしながら、5月のその他の石油製品の需要は2024年4月~2025年3月の当該需要(確定値)である日量416~483万バレルに比べても高水準であることから、速報値から確定値に移行する段階で当該需要が下方修正される結果米国石油需要も併せて下方修正される可能性があるので注意が必要であろう。また、ガソリン及び留出油の両需要が前年同月比で相当程度減少していることが、5月の同国石油需要の前年同月比での減少の主要因となっている。なお、2025年5月の米国石油需要は2019年5月の当該需要(日量2,039万バレル)(確定値)を2.8%程度下回っている。また、米国における原油生産が概ね安定して推移する一方、同国の製油所における原油精製処理量が増加したことが一因となり、5月上旬から6月上旬にかけての米国原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図10参照)。そして、原油及びガソリン両在庫が平年幅上限を超過する量となっている一方、留出油在庫は平年幅下限付近に位置する量となっているが、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。
2025年5月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では減少したものの、欧州及び日本においては装置の不具合発生等により一部製油所において予定外に稼働が停止したことにより原油精製処理が進まなくなったこともあり在庫が増加したことで相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図13参照)。石油製品については、欧州では、製油所の稼働低下に伴い石油製品製造活動が不活発化した一方、気温の上昇に伴い欧州において個人の外出が活発化するとともに軽油需要が上振れし始めたり(欧州では乗用車としてディーゼル車がそれなりに浸透している)、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来もあり米国方面等にガソリンが輸出されたりしたものと見られることから、ガソリンや中間留分を中心として在庫は減少した。しかしながら、米国においては、ガソリンに加え、気温が上昇するとともに暖房向けの需要が低下したプロパン、冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品向けの混入が減少したブタンを含むその他の石油製品の、各在庫が増加したこと等もあり、石油製品在庫は増加した。また日本においても、2025年5月の連休は長期休暇が相対的に取りにくかったことにより個人の外出活動が限定されたものと見られるうえ、5月22日の新たな燃料価格支援制度実施(4月22日公表)を控えたガソリン等の買い控えが発生した他、冬場の暖房需要期が終了したこともあり暖房向けに使用される灯油の需要が低迷したことにより、それら製品を中心として石油製品在庫は増加した。このため、OECD諸国全体での石油製品在庫は増加した結果、平年並みの量となっている(図14参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から増加した他、平年幅上限付近に位置する量となっている(図15参照)。また、2025年5月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.0日と4月末の推定在庫日数(60.1日)から増加している。
5月14日に1,300万バレル台前半程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、5月21日には1,300万バレル台半ば程度の量へと増加した。5月28日には1,300万バレル強程度の水準へと減少した他、6月4日においても前週比で増加したものの1,300万バレル強程度の水準にとどまったが、6月11日は1,300万バレル台前半程度の量へと回復した結果、5月14日とほぼ同水準となっている。春場のメンテナンス作業を実施していた中国、インド、中東及びロシア等の一部製油所が作業を終了するとともに稼働を引き上げ石油製品の製造及び輸出を回復させつつあることが、多少なりともシンガポールへの軽質製品流入を相対的に促進する格好となっているものと見られることから、同国の軽質留分在庫は顕著に増加しているわけではないものの、かといって明確な減少傾向を示す訳ではない(つまり在庫水準は下げ止まりつつある)状態となっている。そして、シンガポールにおける軽質留分在庫が比較的限られた範囲内で推移する中、米国においては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入を控えガソリン輸入が活発化するとともに、世界的なガソリン需給引き締まり感が強まったことが、アジア市場におけるガソリン価格にも上方圧力を加えた結果、5月下旬におけるガソリンとドバイ原油との価格差(この場合、ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向を示した。しかしながら、6月上旬から中旬にかけては、原油価格の上昇にガソリン価格の上昇が追い付かない場面が見られた他、6月4日及び11日に明らかになった米国ガソリン在庫(5月30日及び6月6日の週分)が市場の事前予想を上回って増加している旨判明したこともあり、同国のガソリン需要不振の可能性が意識されたことが、米国、ひいてはアジサ市場のガソリン価格に下方圧力を加えたこともあり、ガソリンとドバイ原油の価格差は多少なりとも縮小する傾向を示した。
他方、4月5日午前0時1分(米国東部時間)を以て米国への輸入品に一律10%の関税が賦課されたことに加え、4月9日午前0時1分(同)を以て米国が他の国及び地域に応じて追加関税を賦課したことにより、米国とその貿易相手国との間で関税賦課合戦の様相を呈したこともあり、世界経済が混乱を来すとともに景気悪化懸念が市場で増大したことが、世界的な石油化学製品需要に負の影響を及ぼすとの観測を招くことになったため、その原料となるナフサの需要の伸びの鈍化観測が発生した。また、ナイジェリアのダンゴテ(Dangote)製油所(操業者:ダンゴテ・インダストリーズ(Dangote Industries)、原油精製処理能力日量65万バレル)において、不具合発生により停止していた(停止期間は4週間程度とされる)ガソリン製造のための残油流動接触分解装置(RFCC: Residue Fluid Catalytic Cracking)が稼働を再開し5月19日の週にはガソリンが出荷されつつあるとされたこともあり、欧州からアフリカ方面へのガソリンの輸出が減少するとともに、ガソリンの原料となるナフサの需要が欧州で抑制されるとの見方が発生したことが、アジア市場におけるナフサ価格にも下方圧力を加えたうえ、6月上旬を中心とする時期においては、ドバイ原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かない場面が見られたこともあり、5月下旬から6月中旬にかけてのアジア市場におけるナフサとドバイ原油との価格差(この場合、ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大傾向となった。
5月14日には1,000万バレル弱程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分在庫は、5月21日には、1,000万バレル台前半程度の量へと増加したものの、5月28日には1,000万バレル弱程度、6月4日には900万バレル台前半程度の、それぞれ量へと減少した。しかしながら、6月11日には1,000万バレル台後半程度の水準へと回復した結果、5月14日の量を上回る状態となっている。中国等を含むアジアの一部諸国及び地域において春場のメンテナンス作業を実施していた製油所の一部が作業を終了するとともに稼働を再開したことにより中間留分を含む石油製品製造活動が活発化しつつあることが、シンガポールへの中間留分の流入を促す格好となったことから、同国での当該製品在庫水準を下支えしたものの、欧州において軽油在庫が減少気味に推移している(後述)こともあり、欧州方面にむけアジア方面等から軽油等が流出したことが、シンガポールへの軽油を含む中間留分の流入を抑制するとともに同国における中間留分在庫の増加を阻む格好となったものと考えられる。このため、シンガポールにおける中間留分在庫は増加したり減少したりしたものの、増加もしくは減少傾向の創出には至らない形となった。そしてこのようにシンガポールにおける中間留分在庫の増減傾向が定まらない状況となっている一方、欧州の一部製油所で不具合が発生した装置の改修が実施されつつある中、夏場のドライブシーズンに伴い軽油需要期(欧州では乗用車としてのディーゼル車がそれなりに浸透している)が接近しつつあることにより出荷がそれなりに喚起されつつあることもあり、軽油在庫が減少傾向になるとともに当該製品需給の引き締まり感が誘発されていることが、アジア市場にも影響を及ぼした結果、同市場の軽油価格に上方圧力が加わる反面、米国のトランプ大統領による諸国及び地域に対する関税賦課政策と米国の貿易相手国による報復措置の実施に伴う、世界経済減速懸念の増大が、産業用及び輸送用燃料として利用される軽油需要に負の影響を与えるとの懸念が市場で増大したことや、特に6月に入ってからは原油価格の上昇に軽油価格の上昇が追い付かない場面が見られていることから、5月中旬から6月中旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合、軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は比較的限られた範囲内で推移した。
5月14日には1,900万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、5月21日には2,100万バレル台半ば程度、5月28日に2,200万バレル台前半程度、6月4日には2,200万バレル台半ば程度、6月11日には2,300万バレル台後半程度の、それぞれ量へと増加した結果、6月11日の重油在庫は5月14日の水準を上回った他2025年4月23日(この時は2,400万バレル台前半程度の在庫量)以来の高水準となった。重油価格の割高感を市場が意識したこともあり船舶向けの重油需要が負の影響を受けつつある一方、アジア等において実施されているメンテナンス作業に伴い一部製油所では改質装置の稼働が停止した結果、かえって重油の製造が進む格好となったことにより、シンガポールに当該製品が流入しているものと見られることが、同国における重油在庫を拡大させる格好となっている。そして、中東においては夏場の気温の上昇に伴い空調のための電力供給向けの発電部門における重油需要が喚起されつつあることにより、中東方面からアジアへの重油供給減少観測が発生していることが、アジア市場における重油価格に上方圧力を加えたものの、シンガポールにおける重油在庫が増加傾向となっていることがアジア市場における低硫黄及び高硫黄重油価格に下方圧力を加えた他、特に6月に入ってからはドバイ原油価格の上昇に重油価格の上昇が追い付かない場面が見られたことから、5月中旬から6月中旬にかけての同市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合、従来高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っていた)は上下に変動したものの概して拡大傾向となった一方、低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合、低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)も上下に変動したものの総じて縮小する傾向を示した。
3. 2025年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場等の状況
2025年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場においては、5月中旬から6月上旬前半頃においては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあった米国のガソリン需要不振観測が発生したことに加え、7月も5~6月と同様前月比で日量41.1万バレルの増産を決定する方向でOPECプラス有志8産油国が検討している旨5月22日及び27日に伝えられたうえ、5月30日には7月につき前月比日量41.1万バレルを上回る規模の増産をOPEC有志8産油国が検討している旨報じられた他、米国との貿易問題を巡る合意に中国が完全に違反しているとしてトランプ大統領が5月30日に非難したこと等が、原油相場に下方圧力を加えた反面、5月19日等に行なわれた米国とロシアとの首脳会談において、ウクライナとロシアとの停戦停止が困難である旨示唆されたことや、5月31日に開催されたOPECプラス有志8産油国による会合で合意した増産規模が前月比日量41.1万バレルを上回らなかったこと、イランが濃縮度最高60%の濃縮ウラン保有量を大幅に拡大した旨5月31日に報じられたこと、6月5日に行なわれた中国の習近平国家主席との電話会談において前向きな協議が行なわれた旨同日米国のトランプ大統領が明らかにしたこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は概ね1バレル当たり60~64ドルの範囲内で変動するなど、方向感のない展開となった。しかしながら、6月上旬後半頃から中旬にかけては、米国非農業部門雇用者数の伸びが鈍化した旨判明したものの市場の事前予想を上回ったことにより同国株式相場が上昇したこと、イラン核問題を巡る米国とイランとの間での交渉の不調を米国のトランプ大統領が示唆したこと、中東地域の緊張が高まりつつあることを示す情報が流れたことに加え、6月13日未明(現地時間)以降イスラエルとイランとの間で事実上の戦闘状態に突入したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、6月13日の原油価格の終値は1バレル当たり72.98ドルと、2月11日以来の高水準に到達した(図16参照)。
イランのウラン濃縮活動停止に米国が固執すれば、イラン核問題を巡る両国の協議は暗礁に乗り上げるであろう旨5月19日にイラン外務省のタフトラヴァンチ(Takht Ravanchi)次官が警告したことにより、同問題を巡る両国間での交渉の不調に伴う、米国の対イラン制裁強化とイランからの石油供給減少懸念が市場で増大したことに加え、5月19日に実施された米国とロシアとの間での首脳会談(電話会談)後、将来のウクライナとの間での平和条約覚書作成の意向をロシアのプーチン大統領が示した他、停戦条件を検討するための協議を直ちに開始する意向である旨米国のトランプ大統領が表明したものの、ロシアは即時停戦を受け入れなかった旨示唆されたことにより、ウクライナとロシアとの間での停戦に伴う、西側諸国等による対ロシア制裁緩和とロシアからの石油を含むエネルギー供給拡大に対する期待が市場で後退したことから、5月19日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.20ドル上昇し、終値は62.69ドルとなった。ただ、5月20日には、米国原油先物契約6月渡しの取引終了を控えた持ち高調整が発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり62.56ドルと前日終値比で0.13ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2025年6月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、7月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり62.03ドル(前日終値比同0.11ドルの下落)であった)。また、5月21日も、この日米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(5月16日の週分)において原油在庫が前週比133万バレル、ガソリン在庫が同82万バレル、留出油在庫が同58万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同110~130万バレル程度、ガソリン在庫同52~200万バレル程度、留出油在庫同140万バレル程度の、それぞれ減少)に反し増加している旨判明したことにより、特に夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近しつつある中で、同製品需要不振観測が発生するとともに石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、5月23日にイタリアの首都ローマにおいて、イラン核問題を巡る米国とイランとの第5回協議を開催する予定である旨5月21日にオマーンのバドル外相が明らかにしたことにより、米国とイランとの核合意に関する期待が市場で発生したこと、米国連邦議会で審議中のいわゆる減税法案の成立により財政赤字が数兆ドル拡大するとの見方とともに米国財政状態悪化懸念が発生しつつある中で、5月21日に実施された20年物の米国国債入札が不調であったこともあり、同国国債価格が下落、長期金利が上昇するとともに、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.99ドル下落し、終値は61.57ドルとなった。さらに、7月についても5~6月と同様、自主的な減産緩和を前月比で日量41.1万バレル(当初予定は同13.8万バレル)拡大する方向で検討しており、6月1日の会合でそれが決定される可能性がある旨関係筋が明らかにしたと5月22日にブルームバーグ通信が報じたことにより、この先の世界石油需給緩和拡大観測が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.20ドルと前日終値比で0.37ドル下落した。この結果原油価格は5月20~22日の3日間合計で1バレル当たり1.49ドルの下落となった。しかしながら、5月23日には、米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月26日)に伴う連休(5月24~26日)を控えた持ち高調整が発生したことに加え、5月23日にイタリアの首都ローマで開催された、イラン核問題を巡る米国とイランとの協議(オマーンの仲介による間接交渉)において、オマーンが合意に向けた提案を提示し、米国とイランの専門家が検討する等で意見が一致するなど、交渉は進展したものの、米国はイランのウラン濃縮活動を認めない姿勢である反面、イランは核兵器保有を回避する用意はあるが、ウラン濃縮活動の放棄は認められないとして、両国間での意見の相違が継続するなどしたこともあり、決定的な合意には至らなかった旨同日報じられたことにより、この先の米国とイランとの当該交渉の不調の可能性を巡る懸念が増大したこと、貿易問題を巡る欧州連合(EU)との協議が全く進捗していないとして、6月1日よりEUから輸入される製品に対し50%の関税を賦課する他、アップル製のみならず、韓国サムスン電子製のものを含め、米国で製造されていない全ての携帯電話製品に対し25%の関税を賦課する意向である旨5月23日朝及び午後(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明したこともあり、米ドルが下落したことから、5月23日の原油価格の終値は1バレル当たり61.53ドルと、前日終値比で0.33ドル上昇した。
5月26日は、米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日に伴い、米国原油先物契約の終値は計上されなかったが、5月31日に開催される予定であるOPECプラス8有志産油国による会合(当初の6月1日から1日前倒しされた旨5月26日に伝えられる)において、7月についても5~6月と同様前月比日量41.1万バレルの減産緩和を行なうことを決定する可能性がある旨5月27日に報じられたことにより、世界石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、5月27日に米国民間調査機関コンファレンスボードから発表された5月の同国消費者信頼感指数(1985年=100)が98.0と4月の85.7から上昇した他市場の事前予想(86.0~87.1)を上回ったうえ、米国のトランプ政権による関税等の政策を巡る不透明感や物価上昇沈静化が非常に重要であることを考慮すると、(金融政策につき)慎重に対応する必要があるものと考えている旨米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにしたと5月27日に報じられたこともあり、米ドルが上昇したこと、5月30日にEIAから発表される予定である米国石油統計(5月23日の週分)において、原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、5月27日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.64ドル下落し、終値は60.89ドルとなった。ただ、5月27日のベネズエラにおける大手国際石油会社シェブロンの事業許可失効を控え、米国トランプ政権が、同社による資産保有やベネズエラ国営石油会社PDVSAとの合弁事業の実施継続は認めるものの、生産された原油等の輸出や事業拡大は認めないとした旨5月27日夕方(米国東部時間)に報じられたことにより、同国からの石油供給減少に伴う世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、イスラエルのネタニヤフ首相がイランの主要核施設を攻撃する旨の意向である旨5月28日にニューヨーク・タイムスが報じたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.84ドルと前日終値比で0.95ドル上昇した。それでも、米国のトランプ大統領による諸外国及び地域に対する関税賦課政策は違法である旨5月28日夜(米国東部時間)に米国国際貿易裁判所が判断したことに対し、同日トランプ政権が控訴した他、控訴審では勝利できる自信がある旨5月29日に米国国家経済会議のハセット委員長が明らかにしたうえ、関税を賦課する他の方策もある旨同日米国のトランプ大統領のナバロ貿易・製造業担当上級顧問やトランプ大統領の広報官であるレビット氏が示唆したこともあり、関税差し止め判決の効力は限定的であるとの見方が市場で増大したことから、5月29日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.90ドル下落し、終値は60.94ドルとなった。また、貿易を巡る合意に中国が完全に違反している旨5月30日に米国のトランプ大統領が表明(「トゥルース・ソーシャル」に投稿)した他、米国が中国の情報技術(IT)産業に対し制裁を発動する予定である旨同日伝えられたことにより、両国間での貿易面での対立が再び先鋭化することに伴う両国を含む世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、5月31日に開催される予定であるOPECプラス8有志産油国間での協議において、7月の減産緩和については5~6月の前月比日量41.1万バレルの規模を上回るものとすることを検討する予定である旨5月30日に伝えられたことにより、OPECプラス産油国の原油供給拡大加速に伴う世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.79ドルと前日終値比で0.15ドル下落した。この結果原油価格は5月29~30日の2日間合計で1バレル当たり1.05ドルの下落となった。
しかしながら、5月31日に開催されたOPECプラス有志8産油国間での会合において、7月については前月比で日量41.1万バレルの増産と、5~6月の同日量41.1万バレルの増産と同規模のものを実施する旨決定、5月30日に検討していると伝えられた前月比日量41.1万バレルを越える規模の増産は決定されなかったことにより、相対的な石油需給の引き締まりを市場が意識したことに加え、イランが濃縮度最高60%の濃縮ウラン(核兵器を製造できるウランの濃縮濃度である90%に接近するとして、濃縮度60%の濃縮ウラン保有は2015年7月14日に妥結したイラン核問題を巡るイランと西側諸国等との核合意における重大な違反行為であるとされる)を5月17日時点で408.6キログラム保有している推定され、前回推定時である2月8日時点の274.8キログラムから133.8キログラム、50%近く増加した旨の報告書を国際原子力機関(IAEA)が取り纏め加盟国に送付したと5月31日に報じられた(これに対し、IAEAは繰り返し根拠無くイランを批判しているとしてIAEAを非難する旨の声明を5月31日にイラン外務省と同国原子力庁が発表している)うえ、米国から提示された核合意案(5月31日にイランのアラグチ外相が受領した旨報告)に対し全く均衡が取れていないとしてイランが受け入れを拒否する方針である旨6月2日に報じられたことにより、イラン核問題を巡る米国を含む西側諸国等とイランとの交渉を巡る不透明感が拡大したこと、ロシアがウクライナをミサイル等で攻撃した結果軍事関係者12人が死亡した旨6月1日にウクライナ陸軍が明らかにした一方、ウクライナはロシアのシベリア地方にある空軍基地等4ヶ所を無人機で攻撃した旨6月1日にウクライナ保安局が表明した他、6月2日にトルコのイスタンブールにおいてウクライナとロシアが両国間の戦闘停止等を巡り直接協議を実施、捕虜や戦死者の交換については合意したものの、停戦については合意できなかったことにより、両国間の戦闘の激化に伴う、ロシアからの石油を含むエネルギー供給混乱懸念が増大したこと、カナダのアルバータ州北部で山火事が拡大しつつあり、これまでに少なくとも日量34.4万バレルのオイルサンドを含む石油生産が停止している旨6月2日に伝えられたことにより、同国からの石油供給減少を巡る不安感が市場で発生したこと、貿易を巡る合意に中国が完全に違反している旨5月30日に米国のトランプ大統領が表明(「トゥルース・ソーシャル」に投稿)した他、米国が中国の情報技術(IT)産業に対し制裁を発動する予定である旨同日伝えられたことに対し、米国と中国の貿易問題を巡る合意に米国が違反しているとして中国は報復措置を講じる意向である旨6月2日に中国商務相が表明したうえ、従来25%であった鉄鋼及びアルミニウムの追加関税につき6月4日に50%へと引き上げる旨トランプ大統領が表明したと5月30日夜(米国東部時間)に伝えられた一方、欧州委員会(EC)は当該関税に対し対抗措置を講じる用意がある旨5月31日に表明したことにより、米国と中国及び米国と欧州との間での貿易戦争が激化する可能性があるとの観測が市場で発生したうえ、6月2日に米国供給管理協会(ISM)から発表された5月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が48.5と4月の48.7から低下し、2024年11月(この時は48.4)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(49.5)を下回ったこともあり、米ドルが下落したことから、6月2日の原油価格の終値は1バレル当たり62.52ドルと前日終値比で1.73ドル上昇した。また、イランのウラン濃縮活動を認める方向でイラン核問題につき合意することは一切ない旨6月2日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明(「トゥルース・ソーシャル」に投稿)したことにより、イラン核問題を巡る米国とイランとの対立の先鋭化に伴う米国の対イラン制裁の強化とイランからの石油供給減少懸念が増大したことに加え、ウクライナとロシアとの和平問題は非常に複雑で、直ちに妥結すると考えるのは間違いであり、ウクライナのゼレンスキー大統領、ロシアのプーチン大統領及び米国のトランプ大統領が早期に直接協議を実施する可能性は低い旨6月3日にロシア大統領府のペスコフ報道官が明らかにしたと同日伝えられた一方、6月3日にウクライナ北東部の都市スムイにロシアのロケット砲による攻撃があり4人が死亡した反面、ウクライナ南部のザポリージャ州及びヘルソン州のロシア軍が支配する地域に対しウクライナ軍が無人機等による攻撃を実施した結果同地域で大規模な停電が発生した他ロシアとクリミア半島を接続する橋梁であるクリミア橋の橋桁を爆発物で攻撃した旨6月3日に伝えられたことにより、西側諸国等による対ロシア制裁緩和とロシアからの石油を含むエネルギー供給増加期待が後退したこと、6月3日に米国労働省から発表された4月の同国求人件数が739.1万件と3月(720.0万件(改定値))から増加した他市場の事前予想(710.0万件)を上回ったこともあり、米国経済に対する楽観的な見方が発生するとともに、米国株式相場が上昇したことから、6月3日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.89ドル上昇し、終値は63.41ドルとなった。この結果原油価格は6月2~3日の2日間合計で1バレル当たり2.62ドル上昇した。ただ、6月4日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、6月4日にEIAから発表された米国石油統計(5月30日の週分)においてガソリン在庫が前週比522万バレル、留出油在庫が同423万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫同50万バレル程度の減少~60万バレル程度の増加、留出油在庫同17~100万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したこと、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが7月のアジア向け原油販売価格を引き下げた(OPECプラス有志8産油国による7月の前月比日量41.1万バレルの増産決定を反映したとされる)ことにより、石油需給緩和感を市場が意識したこと、サウジアラビアは8月のみならず9月についても日量41.1万バレルかそれを超過する規模での増産を希望している(北半球を中心とする地域の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に対応できるよう増産を早期に実施するとともに世界石油供給における占有率拡大を追求しているとされる)旨6月4日にブルームバーグ通信が報じたことにより、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したこと、カナダのアルバータ州北部において降雨が2日連続で発生していることにより、同地域における山火事拡大の勢いが鈍化していることもあり、一部の現場ではオイルサンド等の石油生産が回復しつつある旨6月4日に報じられたことにより、石油供給回復による石油需給緩和感を市場が意識したこと、米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席との間での両国の貿易問題等を巡る首脳会談の準備が難航している(首脳会談開催の際には中国側に恩恵がもたらされるべきであるとの立場を習近平主席が堅持しているとされる)旨の発言を6月4日未明(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が行なった(「トゥルース・ソーシャル」に投稿した)ことにより、米国と中国の貿易問題を巡る協議進展に伴う両国等の経済回復期待が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.56ドル下落し、終値は62.85ドルとなった。それでも、6月5日に米国のトランプ大統領が中国の習近平国家主席と電話会談を実施した(首脳会談は1月17日以来とされる)旨同日中国国営新華社通信が報じた(会談はトランプ大統領の要請で実施された旨新華社通信は伝える)他、近いうちに両国間で閣僚級協議を実施することで合意するなど、習近平国家主席との間での貿易問題等に関する協議は前向きなものであった旨同日トランプ大統領も明らかにしたことにより、貿易問題等を巡る対立の先鋭化に伴う両国等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.52ドル上昇し、終値は63.37ドルとなった。また、6月6日に米国労働省から発表された5月の同国非農業部門雇用者数が前月比で13.9万人の増加と4月の14.7万人の増加(改定値)から増加幅が縮小したものの、市場の事前予想(同12.6~13.0万人の増加)を上回ったことにより、米国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、6月6日の原油価格の終値は1バレル当たり64.58ドルと前日終値比で1.21ドル上昇した。
また、6月9日より実施される貿易問題等を巡る米国と中国との間での政権高官による協議に際し、合意到達に伴う両国等の経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で発生したことに加え、6月6日に米国労働省から発表された5月の同国非農業部門雇用者数の増加が市場の事前予想を上回っていたことに伴う米ドルの上昇に対し利益確定の動きが6月9日の市場で発生したこともあり、米ドルが下落したことから、6月9日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.71ドル上昇し、終値は65.29ドルとなった。この結果原油価格は6月5~9日の3取引日合計で1バレル当たり2.44ドル上昇した。ただ、6月10日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが発生したことに加え、米国の関税賦課政策が世界中の諸国及び地域の経済に負の影響を及ぼすこともあり、世界経済成長率予想を2025年は2.3%、2026年は2.4%と、2025年1月16日発表時の予想(2025年、2026年ともに2.7%)から下方修正する旨6月10日に世界銀行が発表したことにより、この先の世界石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.31ドル下落し、終値は64.98ドルとなった。しかしながら、イラン核問題を巡る米国とイランの協議において合意に到達する自信がなくなりつつある旨6月9日に米国のトランプ大統領が明らかにしたと6月11日に報じられたことに加え、イラン核問題を巡る米国との交渉が不調に終わるとともに紛争状態に突入した場合には、中東における米軍の拠点を攻撃する意向である旨6月11日にイランのナルシザデ(Nasirzadeh)国防軍需相が警告したこと、6月11日に米国国務省が在イラク米国大使館職員の一部に対し退避するよう指示した他、中東全域の米軍関係者の家族が地域から避難することを同国国防省が承認したうえ、中東地域の緊張の高まりが直接的な影響を及ぼす可能性があるとして、アラビア(ペルシャ)湾、オマーン湾及びホルムズ海峡における船舶に対し航行に注意するよう、6月11日に英国海運貿易オペレーション(UKMTO: United Kingdom Maritime Trade Operations)が警告したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したこと、6月9~10日にロンドンにおいて開催された貿易問題等を巡る米国と中国の間での政権幹部による協議が合意に「到達」、中国はレアアース(希土類)を先行して(米国に)供給する一方、米国は国内の大学への中国人学生の留学を認める等を内容としており、中国の習近平国家主席の承認を待つ旨6月11日に米国のトランプ大統領が明らかにしたことにより、米国と中国の貿易問題等を巡る協議の進展に伴う、両国の経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.15ドルと2025年4月2日(この日の終値は71.71ドル)以来の高水準に到達した他、前日終値比で3.17ドルの上昇と2024年10月3日(この日の終値は前日終値比3.61ドルの上昇)以来の大幅な上昇となった。ただ、6月12日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、今後1週間半~2週間以内に各国及び地域に対し米国が設定した関税率を記載した書簡を発送する旨6月11日夜(米国東部時間)に、また、近い将来米国が輸入する自動車に対する関税を従来の25%から引き上げることがありうる旨6月12日に、それぞれ米国のトランプ大統領が表明したことにより、貿易戦争激化による世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.04ドルと前日終値比で0.11ドル下落した。それでも、6月13日未明(現地時間)以降イスラエルがイラン中部ナタンズにある核関連施設、弾道ミサイル製造施設、イラン軍及び革命防衛隊関連施設を含む100ヶ所超を標的として戦闘機200機を使用して空爆を実施した結果、イラン軍のバゲリ(Bagheri)参謀総長、同国革命防衛隊のサラミ(Salami)司令官等が死亡した一方、同日イランの最高指導者ハメネイ師が攻撃を仕掛けてきたイスラエルに対し報復する意向を表明するとともにイランがイスラエルに向け100機程度の無人機(ドローン)を発射したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり4.94ドル上昇、終値は72.98ドルと、2月11日(この日の終値は73.32ドル)以来の高水準の終値に到達し他、この日の前日終値比での上昇幅は2022年7月18日(この日の終値は前日終値比5.01ドルの上昇)以来の大幅なものとなった。また、イラン南部ブシェール沖合にあるサウス・パース(South Pars)ガス田第14期(Phase 14)(操業者:イラン国営石油会社NIOC、天然ガス生産量日量4億立方フィート、コンデンセート生産量日量8万バレルと推定される)の陸上処理施設が6月14日にイスラエルの無人機による攻撃を受けた結果火災が発生、同ガス田の生産が停止した旨イラン半国営タスニム通信が報じたこともあり、イランからの石油を含むエネルギー供給途絶懸念が市場で増大したことが、日本時間6月16日朝の原油相場に上方圧力を加えていることもあり、午前9時現在原油相場は前週末終値比1バレル当たり1.40ドル上昇の同74.40ドル近辺で推移している他、6月15日18時(米国東部時間)の時間外取引開始時には原油価格は1バレル当たり77.49ドル(前週末終値比4.51ドルの上昇)にまで上昇する場面も見られている。
4. 原油市場における主な注目点等
石油市場等に影響を与えうる地政学的リスク要因としては、中東及びウクライナ/ロシア情勢が挙げられよう。イスラム武装組織ハマス掃討に向け、5月16日にパレスチナ自治区ガザ地区での攻撃を拡大すべく新規の作戦を開始した旨5月17日にイスラエル軍が発表して以降、ガザ地区におけるイスラエル軍の攻撃は拡大しつつある。また、6月5日にはイスラエル軍がレバノンの首都ベイルート南部にあるイスラム武装勢力ヒズボラの拠点を大規模に空爆した(レバノンにおけるイスラエルによる空爆は2025年4月27日以来のことであり、2024年11月27日以降のイスラエルとヒズボラとの間での停戦合意発効以降で最大規模の空爆であったとされる)。さらに、イエメンの首都サヌアの国際空港を攻撃し、フーシ派武装勢力が使用していた航空機を破壊した旨5月28日にイスラエルのカッツ国防相が明らかにした他、イスラエル軍がイエメン西部にある港湾都市ホデイダに対し空爆を実施した旨6月10日に報じられた。
他方、イランのウラン濃縮活動停止に米国が固執すれば、イラン核問題を巡る両国の協議は暗礁に乗り上げるであろう旨5月19日にイラン外務省のタフトラヴァンチ(Takht Ravanchi)次官が警告した。また、イラン核問題を巡り米国はイランに対しウラン濃縮を停止するよう要求しているが、これは過大であり言語道断であるとして、米国との協議が成果をもたらすとは考えておらず、今後何が起こるか判らない旨イランの最高指導者ハメネイ師が明らかにしたと5月20日に伝えられた。ただ、5月23日にイタリアの首都ローマにおいて、イラン核問題を巡る米国とイランとの第5回協議を開催する予定である旨5月21日にオマーンのバドル(Badr)外相が明らかにした。しかしながら、イラン核問題を巡る米国とイランとの合意ではイランから核関連施設を排除することは出来ないとして、イスラエルがイランの核関連施設の攻撃を準備しつつある旨複数の情報筋が明らかにしたと5月20日夕方(米国東部時間)に米国CNNが報じた(イスラエル政権幹部が当該攻撃に関し最終判断を下したかどうかについてはこの時点では不明であるとされた)。そして、5月23日にローマで開催された、イラン核問題を巡る米国とイランとの協議(オマーンの仲介による間接交渉が主流)において、オマーンが合意に向けた提案を提示し、米国とイランの専門家が検討する等で意見が一致するなど、交渉は進展したものの、米国はイランのウラン濃縮活動は認めないとの姿勢である反面、イランは核兵器保有を回避する用意はあるもののウラン濃縮活動の放棄は認められないとして、両国間での意見の相違が維持されるなどしたことにより、決定的な合意には至らなかった旨同日報じられた。それでも、イラン核問題を巡る米国とイランとの協議は「非常にうまくいった」旨トランプ大統領が5月25日に明らかにした。他方、イスラエルのネタニヤフ首相はイランの主要核施設を攻撃する意向である旨、5月28日にニューヨーク・タイムスが報じたが、現時点においてはイラン核問題を巡る米国とイランとの間での交渉を妨げるような行為を慎むよう、5月22日に行なわれた電話会談の際にイスラエルのネタニヤフ首相に伝えた旨5月28日に米国のトランプ大統領が明らかにした。また、米国との間で核問題を巡り合意に到達すれば、イランは国際原子力機関(IAEA)による査察を受け入れる用意がある旨5月28日にイラン原子力庁のエスラミ(Eslami)長官が表明した。
そのような中、イランが濃縮度最高60%の濃縮ウラン(核兵器級の濃縮ウラン濃度である90%に接近するとして、濃縮度60%の濃縮ウラン保有は2015年7月14日に妥結したイラン核問題を巡るイランと西側諸国等との合意において重大な違反行為であるとされる)を5月17日時点で408.6キログラム保有している推定され、前回推定時である2月8日時点の274.8キログラムから133.8キログラム、50%近く増加した旨の報告書を国際原子力機関(IAEA)が取り纏め加盟国に送付したと5月31日に報じられた(これに対し、IAEAは繰り返し根拠無くイランを批判しているとしてIAEAを非難する旨の声明を5月31日にイラン外務省と同国原子力庁が発表している)。そして、米国がイランに対し低濃度のウラン濃縮活動を認める提案をしている旨6月2日に米国独立系報道機関アクシオスが報じたものの、イランのウラン濃縮活動を認める方向でイラン核問題につき合意することは一切ない旨6月2日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。また、6月5日には、イラン核問題を巡る米国とイランの交渉が明確に失敗したと判明するまでは、イラン核施設への攻撃は見送る意向である旨イスラエルが米国に対し伝えた旨アクシオスが伝えた一方、米国による制裁を回避すべくイランの軍事及び石油部門が構築した資金洗浄システムの関係者に対し制裁を発動した旨6月6日に米国財務省が発表した。他方、イラン核問題を巡り米国が提示した合意案には合意できないとして、イランから新たに提案を行なう旨6月9日にイラン外務省のバガエイ(Baghaei)報道官が明らかにした一方、イランはウラン濃縮活動継続を要求しているが米国はそれを容認するわけにはいかない旨6月9日に米国のトランプ大統領が表明した。また、6月9日に行なわれた電話会談の際、米国のトランプ大統領はイスラエルのネタニヤフ首相に対しイラン核問題は協議を通じた解決を図るため現状イスラエルのイラン核関連施設攻撃には反対する旨伝えていたと6月10日にアクシオスが報じた。
ただ、イラン核問題を巡る米国とイランの協議に関し合意に到達する自信がなくなってきている旨6月9日に米国のトランプ大統領が明らかにした旨6月11日に伝えられた一方、イラン核問題を巡る米国との交渉が不調に終わるとともに紛争状態に突入した場合には、中東における米軍の拠点を攻撃する意向である旨6月11日にイランのナルシザデ(Nasirzadeh)国防軍需相が警告した。そして、6月11日には米国国務省が在イラク米国大使館職員の一部に対し退避するよう指示した他、中東全域の米軍関係者に対しその家族が地域から自主的に避難することを米国国防省が承認したうえ、中東地域の緊張が高まっており直接的な影響が及ぶ可能性があるとして、アラビア(ペルシャ)湾、オマーン湾及びホルムズ海峡を航行する船舶に対し注意するよう、6月11日に英国海運貿易オペレーション(UKMTO: United Kingdom Maritime Trade Operations)が警告した。
そのような中、6月9日より開催中であったIAEA定例理事会においてイランの高濃度ウラン濃縮活動拡大に対する非難決議がなされた場合には、一層のウラン濃縮活動拡大を実施する意向である旨イランがIAEAに対し警告した6月11日に報じられたが、6月12日のIAEA理事会において、ウラン濃縮活動推進が核拡散条約(NPT)義務に違反しているとしてイランに対する非難決議が採択されたため、これに対しイランが反発、ウラン濃縮活動の推進を続ける旨同日示唆した。
また、6月12日には、近日中にイスラエルがイランに対し軍事行動を実施する方向で検討している旨6月12日に米国ABCが報じた他、6月15日にオマーンの首都マスカットにおいて実施される予定である、イラン核問題を巡る米国とイランとの交渉が不調に終わった場合、早ければ6月15日中にもイスラエルがイランを攻撃する可能性がある旨6月12日夕方(米国東部時間)にウォール・ストリート・ジャーナルが、イスラエルのイラン攻撃は早ければ6月13日に実施される可能性がある旨同日夜(同)にフィナンシャル・タイムスが、それぞれ報じた。
そして、6月13日未明(現地時間)以降イスラエルがイランの核関連施設等、弾道ミサイル製造施設、正規軍関連施設及び革命防衛隊関連施設を含む100ヶ所程度を標的として戦闘機約200機を使用して空爆を実施した(同国中部にあるナタンズ(Natanz)の核関連施設は少なくとの2回の攻撃をイスラエルから受けた他、同じく中部にあるフォルドゥ(Fordow)とイスファハン(Isfahan)にある核関連施設も攻撃されたとされるが、このようなイラン核関連施設に対するイスラエルの空爆は初めてのことであるとされる)結果、イラン軍のバゲリ(Bagheri)参謀総長、同国革命防衛隊のサラミ(Salami)司令官等が死亡した。攻撃に際し、イランの(核の)脅威排除に必要とされる期間に渡りイスラエルの対イラン攻撃は継続する意向である旨6月13日にネタニヤフ首相が表明した。また、ナタンズにある核関連施設では外部周辺では放射能濃度の上昇は見られていない旨IAEAが表明したものの、施設内部では放射能汚染が発生している可能性がある旨6月13日にイラン原子力庁のカマルバンディ(Kamalvandi)報道官が発表した他、イスファハンにある核関連施設もイスラエルによる攻撃により大規模な損傷を被った旨6月14日にIAEAが明らかにしている。他方、イラン国内の製油所や貯蔵タンクについては、イスラエルの攻撃による被害はなかった旨イラン国営石油会社NIOCの精製部門が発表したと6月13日に国営イラン通信(IRNA)が伝えた。一方、攻撃を仕掛けてきたイスラエルに対し報復する意向である旨同日イランの最高指導者ハメネイ師が表明するとともに、イランはイスラエルに向け100機程度の無人機を発射(全て迎撃した旨イスラエルは表明)した。加えて、イランはイスラエルに向け百発の極超音速ミサイルを含む数百発の弾道ミサイルを発射するなどの作戦を展開、イスラエルは迎撃した(米国が支援したとされる)旨主張したものの、エルサレムやテルアビブで爆発音が聞こえるとともに1人が死亡、60人超が負傷したことを受け、イランに対し報復を実施する意向である旨6月13日にイスラエルのカッツ外相が表明したと6月14日までに報じられた。その後、イラン南部ブシェール沖合にあるサウス・パース(South Pars)ガス田第14期(Phase 14)(操業者:NIOC、天然ガス生産量日量4億立方フィート、コンデンセート生産量日量8万バレルと推定される)の陸上処理施設が6月14日にイスラエルの無人機による攻撃を受けた結果火災が発生、同ガス田の生産が停止した旨イラン半国営タスニム通信が報じた。さらに、6月15日にはイランの首都テヘランの石油貯蔵施設がイスラエル軍の攻撃を受け炎上した(なお、イスラエルにあるリヴァイアサン(Leviathan)ガス田(操業者:シェブロン、天然ガス生産量日量12億立方フィート)等も安全確保のため操業を停止した旨6月13日に伝えられている)。そして、イラン政府はホルムズ海峡を封鎖するかどうかにつき検討している旨イランのコサリ(Kosari)将軍が明らかにした旨6月14日に報じられる他、近いうちにイランの攻撃がイスラエル以外の中東地域における米軍関連施設に拡大する可能性がある旨6月14日にイランのファルス通信が報じた(これに対し、6月15日に米国のトランプ大統領は、米国を攻撃すれば、米軍は(イランに対し)全力により前例のない規模で以て攻撃する意向である旨警告した)。また、6月14日夜から15日未明(現地時間)にかけ、イスラエル軍がイランの首都テヘランにおいて大規模空爆を実施したイラン国防軍需省の建物を含む核関連施設を攻撃した旨6月15日に同軍が発表した一方、6月15日には、イランの武器製造拠点付近の居住者に対し退避を勧告する旨の声明をイスラエル軍が発表した。他方、イランが発射したミサイルにより、イスラエルの石油パイプライン等に被害が発生した旨イスラエルの石油精製会社が明らかにしたと6月15日に伝えられた。また、イスラエルによる攻撃はイランの体制転換を企図したものではないが、結果的にそうなる可能性はある旨6月15日にイスラエルのネタニヤフ首相が明らかにしている(6月14~15日を含む週末にイランの最高指導者ハメネイ師暗殺の機会がイスラエルに訪れたものの、米国のトランプ大統領が反対したため、実施されなかった旨6月15日に報じられたが、イスラエルのハネグビ(Hanegbi)国家安全保障顧問は、イスラエルはイランの体制転換を企図しているわけではないものの標的の設定につき米国に承認を求めることはない旨発言したと6月15日に伝えられる)。そして、イスラエルが攻撃を実施する限り停戦交渉には応じない旨イランは停戦の仲介をしているとされるカタールとオマーンに伝えたと6月15日に報じられる。
なお、イスラエルによるイラン攻撃にもかかわらず、6月15日にオマーンの首都マスカットにおいてイラン核問題を巡る米国とイランとの協議(米国側はウィットコフ中東担当特使、イラン側はアラグチ外相)が実施される旨米国政府関係者が6月13日に明らかにしており、6月13日に米国のトランプ大統領は、イスラエルのイラン攻撃を賞賛する一方、イランに対し核問題で合意しなければ、一層残酷な攻撃に直面することになるとしてイランに圧力を加えた。これに対し、イランがイスラエルから攻撃を受けている状況下ではイラン核問題を巡る米国との協議継続は正当化できない旨6月14日にイランのアラグチ外相が表明するとともに、6月15日に開催される予定であった当該協議は中止となった旨6月14日に仲介国オマーンのバドル外相が発表した。
このように、イラン核問題を巡るイランと西側諸国等との間での交渉が紆余曲折を経る中、イスラエルとイランは事実上の戦闘状態に突入した他、現時点では攻撃は激化する方向に向かいつつある様相を呈するとともに終息する兆候は見られない。そして今後も、イスラエルやイランが互いを攻撃すべく発射したミサイル等がイスラエルやイラン、及びその間に位置するアラブ諸国等に落下することにより、石油・天然ガス関連施設を含む施設が被害を受けたりする(前述の通り既に被害を受けている例が見られる)結果、それら諸国等からの石油を含むエネルギー供給が減少する恐れが高まる他、イスラエルの同盟国である米国を含む西側諸国等に対し圧力を加えるべく、イランがホルムズ海峡の封鎖の可能性に言及したりする可能性が高まることが予想される(既に言及している例が見られる)。イランによるホルムズ海峡封鎖の可能性は低いものと見られる(イラン産原油の大半はホルムズ海峡の内側にあるアラビア(ペルシャ)湾内の港湾から出荷されていることから、ホルムズ海峡を封鎖した場合イランは自国産原油の輸出が困難になるとともに原油輸出収入の大部分を失うことになる)ものの、実際封鎖された場合、中東からの石油供給が相当程度停止する(2023年時点でホルムズ海峡を通過して輸送される石油の量は世界石油需要の約2割に相当する日量2,090万バレルである一方、パイプラインの余剰輸送能力等を利用することによりホルムズ海峡を迂回して石油を輸出する能力はサウジアラビアやUAEなど日量260万バレル程度にとどまる)など、世界石油供給に与える影響は甚大なものとなるため、ホルムズ海峡封鎖の可能性が市場関係者で感じられるようだと、実際に封鎖が迫っているわけではなくても、影響の大きさから原油相場に上方圧力が加わりやすい。加えて、アラビア(ペルシャ)湾、オマーン湾、紅海等のアラビア半島周辺海域等において、イランもしくはイランと関連のあるとされる武装勢力によってイスラエルが関与しているものを含めタンカー等の船舶が拿捕されたり、攻撃を受けたりする確率が上昇するため、船舶がそれら海域に進入することに消極的になるとともに、傭船料が上昇したり、船舶に付保する保険料が上昇する(もしくは保険の付保自体が困難になる)といった場面が発生することも想定される。このため、中東産油国からの円滑な石油供給が行なわれにくくなるとの懸念が発生する。このようにイスラエルとイランとのセント状態突入により中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大する結果、原油価格が上振れしやすくなるものと考えられる。そして特に今般のイスラエルとイランとの戦闘状態突入に際し、イランの(核の)脅威排除に必要とされる期間に渡りイスラエルの対イラン攻撃は継続する意向である旨6月13日にネタニヤフ首相が表明している(また、今回のイスラエルによるイラン攻撃は、イスラエルのハマス及びヒズボラ攻撃による両組織の弱体化と同様の狙いがあると見る向きもある)。このようなこともあり、今回の両国の戦闘状態突入は、過去のイランもしくはイラン関連武装勢力関係者攻撃(2024年4月1日にシリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺に攻撃があり、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の上級司令官が殺害された他、同年7月3日には、イスラエル軍がレバノン南部を攻撃した結果、イスラム武装勢力ヒズボラの上級司令官が死亡、7月30日にはイスラム武装勢力ハマスの指導者ハニヤ氏がイランの首都テヘランで空爆により死亡した旨報道され、9月27日には、レバノンの首都ベイルートを空爆した結果ヒズボラの指導者ナスララ師が死亡したが、この時イランはこれらの攻撃はイスラエルにより実施されたと見做し、イスラエルに対し報復攻撃を実施する姿勢を見せたが、実際の行動は抑制的なものであった結果、原油相場への影響も限定的なものとなった)とは異なり、イスラエル及びイランの攻撃が抑制的であるようには見受けられず、今後の展開も著しく不透明であるところからすると、両国の攻撃が沈静化する兆しが見える等するまでは中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が持続する結果、少なくとも原油価格が下げ渋りやすい状態が今暫く続く他、攻撃が激化するようであれば、原油価格が上振れする場面が見られることも否定できない。
他方、5月19日に実施された米国とロシアとの間での首脳会談(電話会談)後、将来のウクライナとの間での平和条約覚書を作成する意向である旨の認識をロシアのプーチン大統領が示した他、停戦条件を検討するための協議を直ちに開始する意向である旨米国のトランプ大統領が表明したものの、ロシアは即時停戦を受け入れなかったことが示唆された。また、5月24日夜から25日朝(現地時間)に、ロシア軍がミサイルや無人機を使用してウクライナ各地を攻撃、12人が死亡したことに対し、ロシアのプーチン大統領の行動に不満を持っており、対ロシア制裁を真剣に検討している旨米国のトランプ大統領が5月25日に明らかにした他、トランプ大統領が今週にも新たな対ロシア制裁を発動する可能性がある旨5月27日にCNNが報じたうえ、プーチン大統領が「火遊び」をしているとして5月27日にトランプ大統領が非難した。そのような中、ウクライナとロシアとの間での停戦等に向けた直接協議を6月2日にトルコのイスタンブールで開催する予定である旨5月28日にロシアのラブロフ外相が明らかにしたが、プーチン大統領がウクライナとの戦闘を終結させる意志があるかどうかにつき2週間程度で判断する旨5月28日に米国のトランプ大統領が表明するなど、トランプ大統領はロシアに対する強硬な姿勢を示唆しなかった。そして、6月2日にウクライナとロシアが直接協議を実施することを控え、ロシアがウクライナをミサイルで攻撃した結果、軍事関係者12人が死亡した旨6月1日にウクライナ陸軍が明らかにした一方、ウクライナはロシアのシベリア地方にある空軍基地等4ヶ所を無人機で攻撃した旨6月1日にウクライナ保安局(SBU: Security Service of Ukraine)が表明した。6月2日には、イスタンブールにおいてウクライナとロシアが両国間の戦闘停止等を巡り直接協議を実施、捕虜や戦死者の交換については合意したものの、停戦については合意できなかった。また、ウクライナとロシアとの和平問題は非常に複雑であり、直ちに妥結すると考えるのは間違いであり、ウクライナのゼレンスキー大統領、ロシアのプーチン大統領及び米国のトランプ大統領が早期に直接協議を実施する可能性は低い旨6月3日にロシア大統領府のペスコフ報道官が明らかにしたと同日伝えられた一方、6月3日にウクライナ北東部の都市スムイ(Sumy)にロシアのロケット砲による攻撃があり4人が死亡した反面、ウクライナ南部のザポリージャ(Zaporizhzhia)州及びヘルソン(Kherson)州のロシア軍が支配する地域に対しウクライナ軍が無人機等による攻撃を実施した結果、同地域で大規模な停電が発生した他、ウクライナが爆発物を使用してロシアとクリミア半島を接続するクリミア橋の橋桁を攻撃した旨6月3日に伝えられた。また、6月4日に行なわれた米国のトランプ大統領との電話会談の際、最近のウクライナによるロシア各地等への無人機等による攻撃に対し、報復せざるをえない旨プーチン大統領が強い口調で警告した旨6月4日にトランプ大統領が明らかにした。さらに、ウクライナとロシアは停戦合意に到達する前に戦闘を継続する必要があるかもしれない旨6月5日に米国のトランプ大統領が明らかにした。そして、6月15日には、ウクライナに向け供与する予定であった対無人機防衛支援資機材を中東向けに振り替える(防衛環境の変化を理由としている)旨米国のヘグセス国防長官が表明している。
このように、ウクライナとロシアとの間では停戦に関する協議は停滞するとともに、両国の攻撃は継続、停戦等を仲介するはずであった米国のトランプ大統領も様子見の姿勢となったこともあり、少なくとも短期的にはウクライナとロシアとの間で停戦等に関する気運が高まるとともに、西側諸国等がエネルギー分野を含む対ロシア制裁を緩和するといった展望は開けにくい状況にある。従って、この面では原油(及び天然ガス)相場への下方圧力は加わりにくく、むしろ両国による戦闘状態が激化するようであれば、原油価格等が上振れする場面が見られるといった展開も想定されうる。
また、ベネズエラにおける米国石油会社の石油事業免許は予定通り5月27日を以て失効する旨5月22日に米国のルビオ国務長官が表明した他、米国トランプ政権が、5月27日のベネズエラにおける大手国際石油会社シェブロンの事業許可失効を控え、同社による資産保有やベネズエラ国営石油会社PDVSAとの合弁事業の実施継続は認めるものの、生産された原油等の輸出や事業拡大は認めないこととした旨5月27日夕方(米国東部時間)に報じられた。このため、少なくとも当面はベネズエラ産原油の米国等向けの輸出が抑制されることになることから、この面では多少なりとも世界石油需給の相対的な引き締まり観測が市場で持続することを通じ、原油相場を下支えしやすいものと考えられる。
米国経済を巡っても混乱する場面が見られる。5月16日夕方(米国東部時間)には、米国格付け会社ムーディーズが米国国債の信用格付けを1段階引き下げる旨発表した。他方、誠意を持って米国と交渉しない貿易相手国に対しては4月9日に適用を停止した追加関税部分を復活させる可能性がある旨5月18日に米国のベッセント財務長官が明らかにした。そして、米国連邦議会で審議中の減税法案の成立により財政赤字が数兆ドル拡大するとの見方が発生しつつある中、米国の財政状態悪化懸念をもあり5月21日に実施された20年物の米国国債入札が不調であったこともあり、同国国債価格が下落するとともに長期金利が上昇、そして米国株式相場が下落する場面が見られた。また、貿易問題を巡る欧州連合(EU)との協議が全く進捗していないとして、6月1日よりEUから輸入される製品に対し50%の関税を賦課する(4月9日にEU製品の大部分に20%の追加関税を賦課したが7月9日まで10%に引き下げる旨4月9日に米国のトランプ大統領が発表していた)旨5月23日朝(米国東部時間)にトランプ大統領が表明した他、アップル製のみならず、韓国サムスン電子製のものを含め、米国で製造されていない全ての携帯電話製品に対し25%の関税を賦課する意向である旨5月23日午後(同)にトランプ大統領が表明した。ただ、数週間以内に貿易問題につき複数の大規模合意が発表される可能性がある旨5月23日に米国のベッセント財務長官が発言した。また、EUに対する関税の50%への引き上げを7月9日(4月9日の90日間の米国関税賦課猶予期限)まで延期する旨5月25日夜の早い時間(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明した。他方、米国のトランプ大統領による諸外国及び地域に対する関税賦課政策に対し違法である旨5月28日夜(同)に米国国際貿易裁判所が判断したが、同日トランプ政権が控訴した他控訴審では勝利できる自信がある旨5月28日に米国国家経済会議(NEC)のハセット委員長が明らかにしたうえ、トランプ政権が関税を賦課する他の方策がある旨同日トランプ大統領の貿易・製造業担当上級顧問であるナバロ氏が明らかにしたこともあり、関税差し止め判決の効力は限定的であるとの見方が市場で増大した(なお、5月29日に米国巡回控訴裁判所は当該関税を一時的に復活させる旨判断した)。また、貿易を巡る合意に中国が完全に違反している旨5月30日に米国のトランプ大統領が表明(「トゥルース・ソーシャル」に投稿)した他、米国が中国の情報技術(IT)産業に対し制裁を発動する予定である旨同日伝えられた。また、従来25%であった鉄鋼及びアルミニウムの追加関税につき6月4日に50%へと引き上げる方針である旨トランプ大統領が表明したと5月30日夜(米国東部時間)に伝えられた一方、欧州委員会(EC)は当該関税に対し対抗措置を講じる用意がある旨5月31日に表明した。そして、貿易を巡る合意に中国が完全に違反している旨5月30日に米国のトランプ大統領が表明したこと等に対し、米国こそ中国との貿易問題を巡る合意に違反しているとして中国は報復措置を講じる意向である旨6月2日に中国商務省が表明した。そのような中、米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が今週にも電話で会談する可能性がある旨6月2日にトランプ大統領の報道官であるレビット氏が明らかにした一方、米国が輸入する鉄鋼及びアルミニウムに対する関税を従来の25%から50%に引き上げる大統領令に6月3日夕方(米国東部時間)にトランプ大統領が署名したことに伴い、6月4日午前0時1分(同)に同大統領令が発効した。また、米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席との間での両国の貿易問題等を巡る首脳会談の準備が難航している(首脳会談開催の際には中国側に恩恵がもたらされるべきであるとの立場を習近平主席が堅持しているとされる)旨の発言を6月4日未明(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が投稿した。それでも、米国との(貿易問題を巡る)交渉は正しい方向に向かいつつあるとの認識を6月4日にECのマロス・セフコビッチ委員(通商担当)が明らかにした他、貿易問題を巡り米国のトランプ大統領とカナダのカーニー首相が直接協議を実施中である旨6月5日にカナダのジョリー産業相が明らかにしたうえ、6月5日に米国のトランプ大統領が中国の習近平国家主席と電話会談を実施した(首脳会談は1月17日以来とされる)旨同日中国国営新華社通信が報じた(会談はトランプ大統領の要請で実施された旨新華社通信は伝える)他、近いうちに両国間で閣僚級協議を実施することで合意するなど習近平国家主席との間で実施した協議は前向きなものであった旨同日トランプ大統領も明らかにした。さらに、6月9日にロンドンにおいて米国と中国が貿易問題を巡る協議を実施(米国側はベッセント財務長官、ラトニック商務長官及びグリア通商代表部代表が出席)する予定であり当該協議は非常に順調に進展するはずである旨6月6日午後2時30分(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が発言(「トゥルース・ソーシャル」に投稿)した(なお、中国側は何立峰副首相が出席する旨6月7日に報じられた)。また、6月5~6日の開催を予定していた貿易問題を巡る米国とインドの協議が6月10日まで延長されたうえ、交渉がある程度進捗した旨6月10日に伝えられた。そして、6月9~10日にロンドンにおいて開催された貿易問題を巡る米国と中国の間での政権幹部による協議が合意に「到達」、中国はレアアース(希土類)を先行して(米国に)供給する一方、米国は国内の大学への中国人学生の留学を認める等を内容としており(その他米国の対中国関税は55%、中国の対米国関税は10%とするとされる)、中国の習近平国家主席の承認を待つ旨6月11日に米国のトランプ大統領が明らかにした。他方、今後1週間半~2週間以内に各国及び地域に対し関税率を設定した書簡を発送する旨6月11日夜(米国東部時間)に、近い将来米国が輸入する自動車に対する関税を従来の25%から引き上げることがありうる旨6月12日に、それぞれ米国のトランプ大統領が表明している。
このように、貿易問題を巡る米国と諸国及び地域との間での協議は合意に接近しつつある兆候が見られるものの、なお紆余曲折を経つつある。そして、貿易戦争誘発に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が後退するとともに、原油相場は上振れしやすい状況となってはきているものの、トランプ大統領が鉄鋼及びアルミニウムに対する関税率を引き上げる等するなど、依然としてトランプ政権の通商政策を巡っては不透明感が払拭できない部分があるため、米国内外における企業の活動が相対的に伸び悩むことになる結果、世界経済成長とともに石油需要の伸びが抑制されることが、原油相場にも影響を及ぼす可能性があるので注意する必要があろう。
他方、5月18日には米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が、現時点では米国の物価の上昇加速の可能性を懸念しており、米国経済政策を巡る不透明感が強いこともあり、政策金利据え置きを支持する意向であり、その状態は3~6ヶ月程度となる可能性がある旨5月18日に示唆した。また、米国経済の先行きを巡る不透明感が強いことから判断すると、現在の米国連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策は適切であり、経済指標類等により同国経済の明確な方向性を把握するには(6~7月と言った短期ではなく)数ヶ月間を要する可能性がある旨5月19日に米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が発言した。さらに、足元の経済を巡る不透明感を考慮すると、持続的な物価上昇を抑制しつつ政策の動向と経済への影響が判断できるまで慎重に対応することが適切である旨5月19日に米国FRBのジェファーソン副議長が表明した。加えて、米国のトランプ政権による関税政策により(同国経済を巡る)不透明感が増大しており、さらなる情報が入手できるまで、状況を監視すべきである旨の見解を5月19日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が示した。そして、現在は物価上昇沈静化に努めるべき時期である旨5月20日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が明らかにした。5月23日には、米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が、短期的には政策金利引き下げは若干困難を伴うものの、10~16ヶ月先の期間においては政策金利引き下げの可能性はある旨の見解を示した一方、米国金融当局は長期的な物価上昇展望を安定させるべく努力している旨同日米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が明らかにした。また、米国の貿易及び移民政策により、9月にかけての米国政策金利を巡る方針が不透明になっているとして、経済指標類に加え、それら政策の動向を見極める必要がある旨の認識を米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が示したと5月26日に伝えられた。さらに、米国のトランプ政権による関税等の政策を巡る不透明感や物価上昇沈静化が非常に重要であることを考慮すると、(金融政策につき)慎重に対応する必要があるものと考えている旨米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにしたと5月27日に報じられた。そのような中、5月28日に公表された米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(5月6~7日開催分)においては、米国経済を巡る不透明感が強いことから政策金利を巡る判断を慎重に行なうべきである旨の議論がなされていたことが判明した。また、5月29日に米国のトランプ大統領とFRBのパウエル議長が会談し、その場においてトランプ大統領はFRBに対し政策金利を引き下げないことは間違っている旨発言した(これに対し、政策金利の取り扱いを巡っては政治的要因を考慮することなく、客観的で慎重に判断している旨パウエル議長は示唆したとされる)旨同日米国トランプ大統領のレビット報道官が認めた。さらに、米国が関税賦課を見送れば、政策金利引き下げの余地が生じるものと考えている旨5月29日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。加えて、米国のトランプ大統領による関税賦課の同国経済への影響が明らかになることにより政策金利を巡り判断できるようになるまでには相当程度の時間を要することになろう旨の見解を5月29日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が示した他、同日には、米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が、米国物価上昇が安定化しつつあることを確認できるまで政策金利を現状で維持すべきである旨明らかにした。デーリー総裁は、5月30日にも、物価上昇が沈静化しつつある旨の確信が持てるまで、景気抑制的な政策金利を維持することを希望する旨の認識を示した。また、労働市場が堅調な反面物価上昇は沈静化する途上にあることから、米国金融当局はトランプ政権の関税政策の動向を見極めつつ慎重に対処する意向である旨6月2日に米国FRBのウォラー理事が示唆した。さらに、米国の関税政策を巡る不透明感が払拭されれば、政策金利引き下げの展望が開ける旨の見解を6月2日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示したが、足元物価上昇と労働市場を巡るリスクは均衡しているように見受けられることもあり、政策金利の取り扱いについては慎重な姿勢のままでいることができるが、物価上昇が加速しないようにすることが肝要である旨6月2日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が示唆した。そして、底堅い労働市場を確保するには物価が安定することが重要であり、その点を、政策金利を巡る方針判断の際には考慮するが、関税は物価上昇を加速する反面労働市場を軟化させる可能性がある旨6月3日に米国FRBのクック理事が明らかにした。また、6月3日には、米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が、関税を含む米国の政策の同国経済への影響が明確になるまで政策金利を巡る判断は必要ない旨の認識を示した。他方、6月4日に発表されたADPによる米国民間雇用統計を受け、米国のトランプ大統領がFRBのパウエル議長に対し直ちに政策金利引き下げを実施すべきである旨要求した。それでも、米国のトランプ大統領による関税政策が同国経済に与える影響を判断できるまで、政策金利を巡る方針については現状維持とするべきである旨6月4日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が示唆した他、足元米国では物価上昇リスクが強まりつつある一方、雇用及び生産増加に関しては下振れリスクが強まりつつあると認識しており、物価上昇加速リスクが持続するのであれば、政策金利の維持を支持する意向である旨の見解を6月5日に米国FRBのクーグラー理事が示した。また、米国経済が堅調な状態を維持していることもあり、関税政策等が経済に与える影響が見極められるまで、政策金利維持の方針を支持する旨6月5日に米国フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁が示唆した一方、米国金融当局関係者は関税政策の経済への影響評価を速やかかつ柔軟に実施しなければならないとの認識を6月5日に米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が明らかにした。6月6日には、米国フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁が、米国経済を巡る不透明性が低減するまでは様子見の姿勢を堅持することが重要である旨の姿勢を示した。しかしながら、6月6日には、米国のトランプ大統領が、FRBのパウエル議長に対し1%の政策金利引き下げを実施するよう要求した。また、6月12日にも、米国金融当局は政策金利を引き下げるべきである旨米国のトランプ大統領がパウエル議長を批判(但し解任はしない意向である旨併せて表明)した。
このように、トランプ大統領は米国金融当局に対し政策金利引き下げを要求しているものの、金融当局関係者の大半は、同国の物価上昇リスクを意識しつつ政策金利引き下げに慎重な姿勢を見せ続けている。そのような中、6月17~18日に開催される予定である次回FOMCにおいては政策金利が据え置かれる確率が6月14日時点で99.6%、0.25%引き下げられる確率が同0.4%となるなど、政策金利据え置き観測が市場では根強く、金融当局関係者の政策金利引き下げへの慎重姿勢と相俟って、実際に政策金利据え置きが決定される可能性が高いものと見られるが、次回FOMCでの政策金利を巡る決定事項やFOMC終了後の6月18日に実施される予定である記者会見におけるパウエルFRB議長による米国の労働市場や物価を含む経済情勢、及び政策金利調整方針等を巡る今後の展望を巡る発言内容等によっては、政策金利引き下げを巡る観測が市場で発生する結果、原油相場にその影響が織り込まれるといった展開となることはありうる。
さらに、7月中旬頃以降、主要米国企業等の2025年4~6月期等の業績及び今後の業績見通し等が明らかになる予定であり、その結果が株式相場を通じ原油相場に影響を与える場面が見られる可能性がある。
中国国家統計局が5月19日に発表した4月の同国鉱工業生産は前年同月比6.1%の増加と3月の同7.7%の増加から伸びが鈍化したものの、市場の事前予想(同5.5~5.7%の増加)を上回った一方、4月の同国小売売上高は前年同月比5.1%の増加と3月の同5.9%の増加から伸びが鈍化したうえ市場の事前予想(同5.5~5.8%増加)を下回った。また、1~4月期の中国固定資産投資は前年同期比4.0%の増加と1~3月期の同4.2%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(4.2%の増加)を下回った。さらに、1~4月の同国不動産投資は前年同期比で10.3%の減少と1~3月の同9.9%の減少から、1~4月の住宅不動産販売は前年同期比1.9%の減少と1~3月の同0.4%の減少から、それぞれ減少率が拡大した。そして、5月19日に中国国家統計局から発表された4月の同国原油精製処理量は5,803万トン(推定日量1,416万バレル)と前年同月を下回った。加えて、5月31日に中国国家統計局から発表された5月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.5と4月の49.0から上昇した他、市場の事前予想(49.5)と一致したものの、2ヶ月連続で50を下回った他、5月の同国非製造業PMIは50.3と4月の50.4から低下した他市場の事前予想(50.5)を下回っている旨判明した。そして、6月3日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された5月の同国製造業PMIは48.3と4月の50.4から低下、2022年9月(この時は48.1)以来の50割れとなった他市場の事前予想(50.6~50.7)を下回っている旨判明した。ただ、6月5日に中国財新伝媒から発表された5月の同国サービス業PMIは51.1と4月の50.7から上昇した他市場の事前予想(51.0)を上回った。それでも、6月9日に中国国家統計局から発表された5月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.1%の下落と市場の事前予想(同0.2%の下落)程には下落していなかったものの、4月(同0.1%の下落)と同水準となった他4ヶ月連続前年同月を下回ったうえ、5月の同国生産者物価指数(PPI)は前年同月比3.3%の下落と2年8ヶ月連続前年同月比で下落となった他4月の同2.7%の下落から下落率が拡大したうえ市場の事前予想(同3.2%の下落)を上回って下落している旨判明した。さらに、6月9日に中国税関総署から発表された5月の同国輸出(米ドル建)は前年同月比4.8%の増加と4月の同8.1%の増加から伸びが縮小、2月以来(この時は同3.0%の減少)以来の低水準の増加率となった他市場の事前予想(同5.0~6.1%の増加)を下回ったうえ、同国輸入(同)は同3.4%の減少と4月の同0.2%の減少から減少率が拡大した他市場の事前予想(同0.8~0.9%の減少)を上回って減少している旨判明した。併せて、6月9日に中国税関総署から発表された5月の同国原油輸入は4,660万トン(推定日量1,100万バレル)と4月の4,806万トン(同1,173バレル)及び前年同月(4,697万トン(同1,109万バレル))から減少している旨判明した。
このように、5月の中国経済は概してもたつき気味となっていることが示唆される。4月に発生した米国との間での関税引き上げ合戦は5月10~11日に開催された両国政権幹部による協議の結果、少なくとも一時的には関税引き下げで合意に至った他、6月5日には米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が電話会談を実施、トランプ氏は前向きな感触を得た旨明らかにしたものの、なお、両国間で貿易問題を巡る協議を巡っては不透明感が残る状態となっている。加えて、中国では不動産部門の不振は継続している一方、同国政府による具体的な景気刺激策発動(もしくは発動の意向)も以前に比べ示される機会が限られるようになったように見受けられる。このため、今後の米国と中国の貿易問題を巡る協議の進捗状態にも依存するが、足元中国経済が持続的な回復基調にある旨多くの経済指標類が示唆しているわけではないことからすると、この面では少なくとも短期的には原油相場のさらなる上昇を抑制する形で作用する可能性があるものと考えられる。
米国では5月24~26日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月26日)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しており、製油所の稼働が上昇、原油精製処理が進むとともに製油所等による原油購入が活発化しやすい時期となっている。そして7月半ば頃までは同国でのガソリン需要の盛り上がり感が市場で継続する(米国のガソリン需要のピークは7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)前後とされる)とともに、季節的な石油需給の引き締まり感の強まりが持続する結果、少なくともこの面では原油価格は下支えされやすいものと見られる。
また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。現時点までに明らかになっている一部機関による2025年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想では、平年並みか平年を上回る頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する(表4参照)とされている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国アメリカ湾(メキシコ湾)沖合の油田関連施設等に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2024年において米国アメリカ(メキシコ)湾岸地域はメキシコから日量41万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国アメリカ(メキシコ)湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2024年は当該地域で日量177万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,321万バレル)の約13%を占めた)他、米国アメリカ(メキシコ)湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2024年の当該地域の原油精製処理能力は日量999万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,835万バレル)の約54%を占めた)こともあり、ハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、それが原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。
OPECプラス産油国が今後石油市場に及ぼす可能性がある影響としては、自主的な減産を実施しているOPECプラス有志8産油国による8月以降の増産ペースが挙げられよう。この先当面、毎月初旬頃に、翌月の増産ペースを定めるべく、OPECプラス有志8産油国は会合を開催するものと見られるが、その際重要視される要因の一つは、会合直前の原油価格水準であるものと考えられる。これまで、OPECプラス有志8産油国は4月3日、5月3日、及び5月31日に、それぞれ会合を開催し増産加速を決定してきたが、それら会合直前の原油価格はそれぞれ1バレル当たり71.71ドル(4月2日)、58.29ドル(5月2日)、及び60.79ドル(5月30日)であった。大幅に引き下げられたとはいえ、米国と中国との間では引き続き関税問題が継続している他、米国と他の諸国及び地域との間でも貿易を巡る対立が残る中、今後経済活性化のための政策金利引き下げや米ドル安誘導等といった政策を推進しようとすれば、物価が上昇しやすくなる可能性がある。また、イランやロシアからできる限りの譲歩を引き出すため、米国のトランプ大統領等は強硬な手段を実施したり、もしくは手段実施の可能性を警告したりすることを迫られるといった場面が発生することも想定される他、イスラエルとイランとの間での戦闘が激化しつつある様相を呈しており、そのような要因によっても、原油価格に上方圧力が加わりやすくなる。そして、原油価格(ひいては、ガソリン小売価格)を含めた物価の上昇に伴い、米国民の生活面での支障が増大するとともに、トランプ政権への不満が高まることにより、同政権への支持率が下落する恐れがあるため、トランプ大統領はそのような物価上昇は回避したいと考えているものと見られる。そして、米国のトランプ政権を巡る状況から、OPECプラス産油国の盟主であるサウジアラビアは、財政収支均衡価格(2025年は1バレル当たり92.3ドル程度となるもの見込んでいる旨国際通貨基金(IMF)は5月1日に明らかにしている)を相当程度下回るとともに、同国国営石油会社サウジアラムコは資金調達のため資産売却等を検討している旨5月24日に伝えられるなど、原油価格水準の相対的な低下の打撃を受けつつあるものの、米国との友好関係を考慮しつつ、引き続き原油相場の抑制を図ることで、事実上トランプ大統領に便宜を図ろうとしていくものと考えられる。このため、原油価格が相当低水準(5月3日の会合直前の原油価格の終値が1バレル当たり58.29ドルであったことからすると、少なくともその近辺の水準を大きく割り込む水準)が持続する状況でなければ、OPECプラス有志8産油国は当初予定(前月比で日量13.8万バレルの増産)よりも拡大した形で増産を進める可能性があるものと考えられる。実際、サウジアラビアは8月のみならず9月についても日量41.1万バレルかそれを超過する規模での増産を希望している旨6月4日にブルームバーグ通信が報じている(北半球を中心とする地域の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に対応できるよう増産を早期に実施するとともに石油市場の占有率の拡大を求めているとも伝えられる)。ただ、5月24日夜から25日朝(現地時間)に、ロシア軍がミサイルや無人機を使用してウクライナ各地を攻撃、12人が死亡したことを受け、米国のトランプ大統領が新たな対ロシア制裁を発動する可能性がある旨5月27日にCNNが報じた他、ロシアのプーチン大統領が「火遊び」をしているとしてトランプ大統領が5月27日に非難するなど、トランプ大統領がウクライナとの戦闘に関しロシアのプーチン大統領への不満を高めつつある(但し、プーチン大統領がウクライナとの戦闘を終結させる意志があるかどうかにつき2週間程度で判断する意向である旨5月28日にトランプ大統領が表明した他、両国の戦闘状態につき様子見とする旨の姿勢を6月5日にトランプ大統領が示唆するなど、トランプ大統領によるロシアに対する強硬な姿勢は現時点では必ずしも具体的な行動となって現れているわけではない)こと等からすると、今後の米国とロシアとの関係を巡る展開次第では、ウクライナとの停戦等を巡る米国への事実上の便宜に関しロシアが配慮しなくなる結果、増産加速への関心をロシアが失うなど、増産加速を推進するサウジアラビアとの間で足並みが乱れることにより、OPECプラス有志8産油国による増産を巡る意思決定過程が紆余曲折を経ると言った展開となることも否定できない。他方、OPECプラス産油各国の減産遵守状況も、石油市場関係者が注目するとともに、原油相場に影響を及ぼしうるものと考えられる。2024年7月から2025年4月にかけての、自主的な追加減産を実施するOPECプラス有志8産油国の減産遵守状況を見ると、必ずしも常時というわけではないものの、カザフスタン、イラク及びUAEがしばしば原油生産目標を相当程度超過していることが判明する(但し、統計によって遵守状況にばらつきがある)(図17参照)。5月28日に、カザフスタンのエネルギー相であるアッケンジェノフ(Akkenzhenov)氏は、現時点では減産は困難で、2025年後半においても目標水準を超過して増産するものと考えており、同国の産出量の70%は国際石油会社3コンソーシアムにより運営されており、同国政府に減産を強制する権利はない他、同国国営石油会社カズムナイガスが操業する他の老朽化した油田の部分的な減産も困難である旨明らかにしている。ただ、米国のトランプ大統領にとってみれば、原油価格の下落や低位安定により、かえって貿易問題を巡る他の諸国及び地域との交渉面での駆け引きやイラン等への圧力追加が実施しやすくなったり、米国の物価上昇沈静化に伴い経済活性化のための政策金利引き下げの環境が相対的に整いやすくなったりする等の側面があることから、極端に原油価格が下落するとともに制御不可能な状態となるのでなければ、サウジアラビア等減産遵守を比較的徹底できている産油国が、遵守が徹底されていない産油国に対し、遵守を徹底するよう幾度となく警告を発する他、これまで生産目標を超過していた生産量につき、この先減産目標を上回って減産することを内容とした減産遵守のための補償計画の更新版をOPEC事務局に提出する旨要求し、減産が徹底されていない産油国は補償計画をOPEC事務局に提出する、と言った展開となることはあろうが、投下資金の可及的速やかな回収が望ましいと考える傾向のある外国石油会社と合弁で石油開発・生産を実施しているカザフスタン等の産油国は、引き続き原油生産目標を超過した生産を継続する可能性があるものと考えられる。そして、OPECプラス有志8産油国による増産規模拡大方針が決定されたこと自体は、原油相場への下方圧力を強める形で作用するものの、そのような下落局面においては、金融当局に対し政策金利引き下げを要求したり、譲歩を引き出すべくイラン等に対し圧力を加えたりすること等により、原油相場に上方圧力が加わる結果、原油価格が乱高下しやすい場面が見られうることから、今後もOPECプラス有志8産油国等による増産方針決定後の、米国のトランプ大統領による政策や原油価格を巡る発言(6月12日にもトランプ大統領は最近数日間の原油価格が上昇しているとして不満を表明している)、及び地政学的リスク要因の展開については注意して見ていく必要があろう。反面、そのようなトランプ政権による政策等により原油相場が上振れする可能性があるが故に、OPECプラス有志8産油国会合の直前の価格がそれほど高水準でなくても、増産幅拡大が決定されると言ったことにならないとも限らないことにも、留意する必要があろう。また、OPECプラス有志8産油国の8月以降の増産方針に関するサウジアラビア等の発言によっても、原油相場が変動する場面が見られることもありえよう。
今後、イスラエルとイランとの間での事実上の戦闘状態の沈静化の兆候が見られるまでは、中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念が市場で持続する結果、原油価格が下げ渋りやすくなる他、両国による攻撃がさらに激化するようであれば、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。また、ウクライナとロシアとの間での戦闘が激化することによっても原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性もある。他方、米国と他の主要国及び地域との間での貿易を巡る協議が進展するようであれば、原油相場が支持されやすいものと考えられる。さらに、米国等での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要の盛り上がりによる季節的な石油需給の引き締まり感が市場で継続しやすいことも、原油相場を下支えする方向で作用しやすいものと見られる。それでも、OPECプラス産油国による増産方針を巡る発言や実際の行動、米国と他の諸国及び地域との間での貿易問題に関する交渉を巡る状況や米国のトランプ大統領による新たな関税を含む貿易政策等によっては、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られる可能性もあるので注意する必要があろう。
以上
(この報告は2025年6月16日時点のものです)