ページ番号1010547 更新日 令和7年8月12日
原油市場他: イスラエルとイランとの停戦により下落するも、米国の関税問題、紅海での船舶攻撃、米国とロシアとの対立先鋭化の兆し等で反発する原油価格
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概要
- 米国では、製油所での原油精製処理が進んだことにより、原油在庫は減少したが、平年幅上限を上回る状態は継続している。併せて、石油製品製造活動も活発化したものの、堅調なガソリン需要で相殺されたことにより、ガソリン在庫は比較的限られた範囲内で変動したが、平年幅上限を超過している。また、軽油輸出が促された結果、軽油在庫は減少し、平年幅下限を割り込んでいる。
- 2025年6月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では減少した他、日本でも若干ながら減少した。しかしながら、欧州においては、製油所のメンテナンス作業終了等に伴う稼働上昇を見据えて原油調達が活発化しつつあるものと見られることにより、原油在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体の原油在庫は若干ではあるが増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では製油所の操業再開が途上であったことにより、石油製品製造活動が十分に回復していなかったものと見られることもあり、在庫は減少した。また、日本においては、6月の降雨量が少なかった反面気温が上昇したこともあり、自動車による往来活発化とともに空調機器稼働による燃費悪化等もあり、ガソリンや軽油を中心として需要が喚起されるとともに石油製品在庫は減少した。このため、米国においては、気温が上昇するとともに暖房向けの需要が低下したプロパンの在庫等が増加したこと等もあり、石油製品在庫は増加したものの、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となった結果、平年並みの量となっている。
- 2025年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場においては、6月13日以降イスラエルとイランとの戦闘により1バレル当たり70ドル台で推移していた原油価格は、米国のトランプ大統領による仲介により停戦が実現した結果、6月下旬半ば頃には64ドル前後へと下落した。ただ、その後は、紅海においてイエメンのフーシ派武装勢力が複数の船舶を攻撃した旨報じられたことや、7月14日にロシアに対し重大な発表を行なう意向である旨米国のトランプ大統領が明らかにしたこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、7月11日の原油価格は1バレル当たり68.45ドルと、イスラエルとイランの停戦合意発表直後の水準にまで上昇している。
- 今後米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることにより、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることを通じ、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。また、イスラエル及び米国とイランとの対立が一服していることから、この面でも原油相場への上方圧力は加わりにくい側面があるものと考えられるが、今後米国とイランとの間での対立が再び高まるようであれば、原油価格が反発する場面が見られることも否定できない。また、イスラエルとフーシ派武装勢力との対立先鋭化を中心として中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大しつつあることや、米国と他の国及び地域との間での貿易問題を巡る交渉が進展する、もしくは関税引き上げ期限を延期して交渉を継続すること等の展開が想定されうることから、この面では原油相場を少なくとも下支えするか、場合によっては原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。さらに、ロシアとウクライナとの戦闘状態と米国の対応、中国経済情勢、及び大西洋圏でのハリケーンを含む暴風雨の発生状況等が原油相場に影響を与えうるものと考えられる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2025年4月の米国ガソリン需要(確定値)は推定日量891万バレル、前年同月比0.9%程度の増加と、3月の当該需要(確定値)である日量877万バレル(前年同月比1.4%程度の減少)から、需要量が増加した他前年同月比では減少から増加に転じた(図1参照)。また、当該需要は速報値(前年同月比0.6%程度増加の日量888万バレル)から若干ながら上方修正されている。4月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量79万バレル程度と推定されたところ確定値では同63万バレルへと下方修正されたことにより、速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に寄与しているものと見られる。また、2025年4月の米国の気候が前月比で温暖となったことから、個人の外出が相対的に促されたことが前月比でのガソリン需要を増加させる形で作用した。さらに、2025年1月20日に米国大統領に就任して以降、トランプ氏は世界各国及び地域からの輸入製品に対し関税を賦課する方針を表明するとともに、実際にそれを実行に移しつつあるが、4月9日午前0時1分(米国東部時間)を以て全ての国及び地域からの輸入品に対し一律10%の相互関税を賦課したものの、同時に発効した国及び地域毎に異なる相互関税の追加部分については90日間延期する旨4月9日午後(同)にトランプ大統領は発表した。このため、米国の関税賦課政策に伴う同国の経済減速懸念に伴い2月後半以降4月上旬にかけ下落傾向となっていた米国株式相場が下げ止まるとともに、米国等の経済成長鈍化を巡る不安感が後退した。加えて、2025年4月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.299ドルと前年同月(3.733ドル)比で11.6%下落するなど、3月(同9.0%の下落)から下落率が拡大した。このようなこともあり、4月の全米自動車運転距離数が前年同月比1.5%の増加と、3月の同1.1%の増加から伸びが拡大した(また、3月の自動車運転距離数が前年同月比で増加となったにもかかわらずガソリン需要が前年比同月比で1.4%の減少となったことから、その反動が4月に現れた側面もあるものと見られる)。このような要因が、4月の前年同月比でのガソリン需要増加率が3月のそれを上回った背景にあるものと考えられる。なお、2025年4月の米国ガソリン需要は、新型コロナウイルス感染拡大前の時点である2019年4月の当該需要(日量941万バレル)(確定値)を5.3%程度下回っている。他方、2025年6月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量920万バレル、前年同月比0.8%の増加と5月の当該需要(速報値)である日量881万バレル(前年同月比6.2%程度の減少)から需要量が増加した他前年同月比での減少から増加に転じた。米国と中国の関税賦課合戦(4月9日に米国は中国製品に対し145%の関税を賦課したことに対し4月12日に中国は米国製品に対し125%の関税を賦課した)後の関税に関する両国の協議を巡る不透明感発生の影響もあり5月は米国の景況感が悪化した一方、5月12日に両国が関税を引き下げることで合意した旨の声明が発表されたこともあり、以降は事態が落ち着いていったこともあり、6月は多少なりとも米国の景況感は改善した(例えば、米国供給管理協会(ISM)発表の6月の製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.0と5月の48.5から上昇した他、非製造業景況感指数も50.8と5月の49.9から上昇した)ため、米国経済減速を巡る懸念が市場で後退したことが、6月の同国ガソリン需要を下支えした他、2024年6月は米国で気温が相当程度上昇する場面が見られたことにより、個人の一部が外出を敬遠したことが同国ガソリン需要を抑制する格好となった反面、2025年6月は気温が2024年同月ほど上昇しなかったこともあり、この面で同国ガソリン需要がそれほど抑制されなかったことから、その分だけ、2025年6月の米国ガソリン需要が前年同月比で伸びる格好となった側面があるものと考えられる。なお、2025年6月の米国ガソリン需要は2019年6月の当該需要(日量970万バレル)(確定値)を5.2%程度下回っている。また、米国では、一部製油所で行なわれていた春場のメンテナンス作業が完了に向かうとともに、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2025年は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月26日)に伴う連休(5月24~26日)から労働者の日(レイバー・デー)(9月1日)に伴う連休(8月30日~9月1日)までである)突入に向け製油所の稼働率が上昇したこともあり、原油精製処理量が増加傾向となる(図3参照)とともに、ガソリン製造活動も活発化したものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図4参照)反面、ガソリン出荷が堅調であったにより相殺されたことから、6月上旬から7月上旬にかけ米国ガソリン在庫は増減を繰り返しながらも比較的限られた範囲内で変動したが、平年幅上限を超過する量となっている(図5参照)。




2025年4月の米国留出油需要(確定値)は推定日量388万バレル、前年同月比で2.2%程度の増加となり(図6参照)、3月の日量389万バレル(前年同月比で6.0%程度の増加)(確定値)と比べ、需要量はほぼ同水準となった反面前年同月比での増加率は縮小した。また、当該需要は速報値(前年同月比1.5%程度減少の日量374万バレル)から上方修正されている。米国のトランプ大統領は2025年1月20日の就任以降、他の諸国及び地域に対し関税を賦課しつつあるものの、その影響は4月の段階では明確ではなく、例えば4月の米国鉱工業生産は前年同月比で1.4%の増加と3月の同1.2%の増加からむしろ伸びが加速した(4月9日に発効した相互関税の追加賦課部分につき適用を90日間猶予する旨決定したことにより、猶予期間が終了することにより米国が関税率を引き上げることに伴い貿易相手国から報復関税を課せられる前に、米国においては製品を製造して輸出しようとしたことが影響しているものと見られる)他、併せて物流活動を活発化させた(猶予期間中にできる限り製品や部品を輸入したり製造したりしようとしたことが背景にあるものと考えられ、その結果4月の米国物流活動は前年同月比1.3%の増加と3月の同0.4%の増加から伸びが拡大した)ことが、4月の米国留出油需要の前年同月比の増加を3月から拡大する形で作用したものと見られる。しかしながら、2024年3月は米国北東部の気候が全般的に温暖であったことにより暖房用留出油需要が落ち込んだ(同月の留出油需要は前年同月比で10.7%の減少となった)反面、2025年は2月後半から3月初頭にかけ同地域の気候が比較的長期に渡り平年を下回って寒冷となったこともあり、暖房用留出油需要が相対的に喚起されたことが、2025年3月の米国留出油需要の前年同月比での増加率を拡大させる形で作用した結果、2025年4月の同国留出油需要の前年同月比での増加率が3月よりも縮小する格好となったものと考えられる。なお、2025年4月の米国留出油需要は2019年4月の当該需要(日量412万バレル)(確定値)を5.8%程度下回っている。他方、6月の米国留出油需要(速報値)は推定日量374万バレル、前年同月比で4.2%程度の増加となり、5月の当該需要(速報値)である同355万バレル(前年同月比6.2%程度の減少)から、需要量が増加したうえ前年同月比では減少から増加に転じた。5月12日に米国と中国が共同声明を発表し、5月14日までに米国の対中国関税(大部分の中国製品が対象)145%を30%に(91%の関税は事実上撤廃、24%は90日間適用停止)、同様に5月14日までに中国の対米国関税125%を10%(91%の関税は事実上撤廃、24%は90日間適用停止)に、それぞれ引き下げる(一部例外あり)こととなったため、米国の中国からの輸入品価格の上昇に伴う米国経済減速懸念が後退したものと見られることが、6月の米国の留出油需要を押し上げたものと考えられる。また、2024年5月30日に発表された同年1~3月期の米国国内総生産(GDP)(改定値)が前期比年率1.3%の増加と同年4月25日発表時点の同1.6%(速報値)から下方修正されたうえ、同年6月11~12日に開催された米国連邦公開市場委員(FOMC)の際に明らかになった今後の政策金利引き下げ予想で2024年の政策金利引き下げ回数が1回である旨示唆され、同年3月19~20日に開催された前々回のFOMCの際に示唆された3回から下方修正された旨判明するなどしたことから、米国金融当局による政策金利引き下げペース鈍化観測が市場で発生するとともに同国経済活性化期待が後退したこともあり、同年6月の米国留出油需要が日量359万バレルと前年同月比で9.7%の減少となったこともあり、その反動で2025年6月は前年同月比での増加率が拡大した側面もある。なお、6月の米国留出油需要は2019年6月の当該需要(日量399万バレル)(確定値)を6.2%程度下回っている。また、欧州において夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期(欧州では乗用車としてディーゼル車が相当程度浸透している)を控える中、地中海地域等において6月上~中旬を中心として製油所で予期せぬ稼働の停止が発生したことに加え、6月13日から24日にかけイスラエルとイランが戦闘状態となったこともあり、中東方面から欧州方面への軽油の供給に支障が発生するかもしれないとの懸念が増大したこともあり、世界的に軽油需給の引き締まり感が強まった結果、軽油製造を巡る利幅が拡大するとともに、米国においても製油所における軽油製造活動が活発化した(図7参照)。しかしながら、併せて米国の軽油輸出活動も堅調であったこともあり、6月上旬から7月上旬にかけての米国の留出油在庫は減少傾向を示したうえ平年幅下限を割り込む量となっている(図8参照)。また7月4日の米国留出油在庫は1.03億バレルと2005年4月29日(この時は1.02億バレル)以来の低水準に到達している。



2025年4月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比1.0%程度増加の日量2,021万バレルとなり(図9参照)、3月の同1,995万バレル(前年同月比0.4%程度の増加)から、需要量が増加したうえ、前年同月比での増加率も拡大した。また、ガソリン、留出油及びその他の石油製品等の需要が速報値から確定値に移行する際に上方修正されていることから、米国石油需要も速報値(前年同月比1.4%程度減少の日量1,973万バレル)から上方修正されている。そして、4月が3月に比べ気候が温暖となったこともあり、個人の外出が活発化するとともにガソリン及びジェット燃料の需要が前月比で増加するとともに、ガソリン及び留出油需要が前年同月比で増加となったことから、4月の米国石油需要は前月比及び前年同月比で増加したものと考えられる。なお、2025年4月の米国石油需要は2019年4月の当該需要(日量2,033万バレル)(確定値)を0.3%程度下回っている。他方、2025年6月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,036万バレル(前年同月比で0.6%程度の増加)となっており、5月の同国石油需要(速報値)である日量1,981万バレル(前年同月比4.8%程度の減少)から需要量が増加した他前年同月比では減少から増加に転じた。ガソリン及び留出油の需要が前月比及び前年同月比で増加したことが、6月の同国石油需要の前月比及び前年同月比での増加に寄与している。なお、2025年6月の米国石油需要は2019年6月の当該需要(日量2,065万バレル)(確定値)を1.4%程度下回っている。また、米国における原油生産が概ね安定して推移する一方、同国の製油所における原油精製処理量が比較的高水準を維持していることが一因となり、6月上旬から7月上旬にかけての米国原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図10参照)。そして、留出油在庫は平年幅下限を割り込む量となっている反面、原油及びガソリン両在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。




2025年6月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では減少した一方、日本では一部製油所において装置に不具合が発生した結果操業が予定外で停止した反面、不具合が発生した装置の改修が完了して操業を再開した製油所もあったことから、結果として原油精製処理に対する影響は比較的限定的なものになるとともに在庫も若干の減少にとどまった。しかしながら、欧州においては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン及び軽油需要期到来を控え製油所のメンテナンス作業終了等に伴う稼働上昇を見据えて原油調達が活発化しつつあるものと見られたことにより、原油在庫は増加となった。この結果、OECD諸国全体の原油在庫は若干ではあるが増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧州では製油所がメンテナンス作業等を終了することにより操業を再開しつつあったものの、なお途上の状態であったことにより、石油製品製造活動が十分に回復していなかったものと見られることもあり、軽油、ジェット燃料及び重油を中心として在庫は減少した。また、日本においては、5月22日に燃料油価格定額引き上げ措置が実施されたことがガソリン小売価格を抑制する格好となったことに加え、6月の降雨量が梅雨時としては少なかった反面気温が上昇したこともあり、個人の乗用車による外出が促進されるとともに乗用車の空調機器稼働が活発化したことに伴い燃費が悪化したことで、ガソリン需要が喚起された他、軽油小売価格の抑制に伴う相対的な商用車等の往来活発化や気温の上昇に伴う商用車等の空調機器稼働による燃費の悪化により、軽油の需要が下支えされる格好となったことから、これら製品を中心として石油製品在庫は減少した。このため、米国においては、気温が上昇するとともに暖房向けの需要が低下したプロパン、冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品向けの混入が減少したブタンを含むその他の石油製品の、各在庫が増加したこと等もあり、石油製品在庫が増加したものの、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となった結果、平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から増加した他、平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。また、2025年6月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.6日と5月末の推定在庫日数(60.5日)から増加している。



6月11日に1,300万バレル台前半程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、6月18日には1,200万バレル台半ば程度の量へと減少した。6月25日には1,300万バレル台前半程度の水準へと回復したものの、7月2日には1,200万バレル台前半程度、7月9日は1,200万バレル強程度の、それぞれ量へと減少した結果、6月11日の水準を下回る状態となっている。春場のメンテナンス作業を実施していた中国を中心とする諸国及び地域において、製油所の稼働が上昇しつつあることにより、石油製品製造活動が活発化するとともに、それら諸国からの輸出が促進されたり、もしくは輸入が抑制されたりしているものと見られることが、シンガポールにおける軽質留分在庫を増加させる方向で作用した側面はあったものの、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が到来しつつあった米国西海岸等への輸出が活発化したことに加え、アジア諸国及び地域においても、気温の上昇とともに個人の外出が促されつつあることに伴いガソリンの出荷が活発化したことが、シンガポールにおける軽質留分在庫を抑制させる方向で作用したことから、同地におけるガソリンを含む軽質留分在庫が減少傾向となったものと考えられる。そして、このようにシンガポールにおける軽質留分在庫が減少傾向となったことに加え、米国におけるドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来による、季節的なガソリン需給引き締まり観測が米国のみならず、米国にガソリンを輸出しているアジア市場のガソリン価格に上方圧力を加えた一方、イスラエルとイランとの戦闘状態突入、米国のイラン核関連施設に対する攻撃、イスラエルとイランが停戦した旨の米国のトランプ大統領の発表、及び、米国と中国及びベトナムとの間での貿易問題を巡る取引の成立等の要因による、ドバイ原油価格の上下変動にガソリン価格が追い付かなかい場面が見られたことから、6月中旬から7月初頭頃のアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(この場合、ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は上下変動を繰り返しつつも、拡大もしくは縮小の傾向は明確には示されなかったが、それ以降はサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコによる8月の原油販売価格引き上げ(7月6日に報じられる)やイエメンのフーシ派武装勢力による紅海での船舶攻撃(7月7日にフーシ派武装勢力が発表した)等の要因によりドバイ原油価格が上昇したことにアジア市場のガソリン価格の上昇が追い付かなかったことより、価格差は縮小傾向を示した。
他方、5月10~11日に開催された米国と中国との間での両国の貿易関係を巡る協議(米国はベッセント財務長官及びグレア通商代表部(USTR)代表、中国は何立峰副首相が出席)において、5月14日までに中国の対米国関税125%を10%に引き下げる旨5月12日に米国と中国が共同声明を発表したが、それでもなお米国産LPGには10%の関税が賦課されたままとなった他、中国向けのエタン輸出に許可が必要であると米国商務省安全保障局(BIS: Bureau of Industry and Security)から通知を受けた旨エタンを輸出するエンタープライズ・プロダクト・パートナーズが5月29日に発表したこともあり、米国の中国向けエタン供給が減少するとの観測が市場で増大したことにより、価格が割高となる見られるエタンやプロパンよりもナフサの需要が増加するとの観測が市場で広がったことに加え、6月14日にイスラエル軍がイランのサウスパースガス田関連施設を攻撃したした結果、当該施設の操業が停止するとともに天然ガスの生産に随伴して生産されるコンデンセートの主要構成成分の一つであるナフサの供給に支障が発生することに伴う中東におけるナフサ需給の引き締まりと同地域からアジア方面へのナフサ供給減少の可能性に対する懸念が増大したこと、6月中旬に中国が2025年2回目のナフサ輸入枠を発行、その規模が1,200万トンとなった(このため、2025年のこれまでのナフサ輸入枠は2,400万トンとなり、2024年全体の同国のナフサ輸入量である1,214万トンの倍程度に到達した)ことにより、アジア市場においてナフサ需給の引き締まり感が発生したことにより当該製品価格に上方圧力が加わったものの、7月に入り暖房向け需要が低下するとともに需給が緩和したことにより米国産プロパンの価格が下落した結果ナフサに比べ割安になった他、前述の中国に対するエタン輸出規制を撤回する旨7月2日に米国当局がエタン輸出業者に通知したことにより、中国向けエタン供給が拡大するとともにエタン価格が低下するとの観測が発生したことが、割安感の低下したナフサの需要を抑制する形で作用するようになった。そのような中、ドバイ原油価格の変動にナフサ価格が追い付かない場面が見られたことから、6月中旬から7月中旬にかけてのアジア市場におけるナフサとドバイ原油との価格差(この場合、ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は上下に変動しつつも拡大傾向となった。
6月11日には1,000万バレル台後半程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料といった中間留分在庫は、6月18日には、1,100万バレル台前半程度の量へと増加した。しかしながら、6月25日には1,000万バレル台前半程度、7月2日には1,000万バレル弱程度、7月9日には900万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。この結果、7月9日のシンガポールの中間留分在庫は6月11日を下回る水準となっている。春場のメンテナンス作業が実施されつつあったことから欧州の製油所の稼働が低下するとともに石油製品製造活動が不活発化したこともあり、同地域における軽油在庫が抑制されるとともに、アジアの軽油価格と比較した場合の欧州の軽油価格の割高感が強くなったこともあり、中東やインド等から欧州方面に向け軽油が輸出された反面、アジア方面への軽油輸出が抑制されたことが、シンガポールにおける中間留分在庫を減少させる方向で作用したものと考えられる。そして、シンガポールにおける中間留分在庫が減少傾向となったことに加え、6月13日から6月24日にかけ行なわれたイスラエルとイランとの戦闘状態により、中東地域における製油所の操業や石油製品の輸送が脅かされることに伴い、特に同地域から中東域内、アフリカ及び欧州方面に輸出される軽油の供給に支障が発生する可能性に対する懸念が市場で増大したことが、アジア市場の軽油価格にも上方圧力を加える格好となったことや、イスラエルとイランの停戦実施後の原油価格の下落に軽油価格の下落が追い付かない場面が見られたこと等により、6月中旬から7月初頭頃にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合、軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向が認められた。それでも、7月初頭頃以降はドバイ原油価格の上昇に軽油価格の上昇が追い付かなかったことから、価格差は若干ながら縮小している。
6月11日には2,300万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、6月18日には2,100万バレル台半ば程度の量へと減少した。しかしながら、6月25日に2,200万バレル台半ば程度、7月2日には2,300万バレル台前半程度、7月9日には2,400万バレル台後半程度の、それぞれ量へと増加した。この結果、7月9日のシンガポールの重油在庫は6月11日の水準を上回る状態となっている。中東地域において気温が上昇したことに伴い空調機器稼働のための電力供給向けに発電部門での重油需要が旺盛となったことにより、中東方面からアジア向けの重油供給が抑制されたことが、シンガポールにおける重油在庫を減少させる方向で作用したものの、アジア諸国及び地域において春場のメンテナンス作業が一段落するとともに一部製油所の稼働が上昇することにより石油製品製造活動が活発化したこともあり、重油の供給が拡大しつつあったことに加え、船舶用重油需要が軟調であった(米国の他国及び地域に対する関税賦課政策に伴う世界経済を巡る不透明感の増大が世界の船舶の動きを抑制する形で影響している可能性がある)ことが、シンガポールにおける重油在庫を増加させる方向で作用した結果、シンガポールの重油在庫が増加傾向となったものと考えられる。そしてこのように、シンガポールの重油在庫が増加傾向となったことが、アジア市場における重油価格に下方圧力を加える中、中東における気温の上昇局面の継続による発電部門における堅調な重油需要観測が市場で発生していたことが、アジア市場における重油価格に上方圧力を加えた一方、インド等の南アジア諸国等において雨季(モンスーン)の到来により水力発電の稼働が上昇したこと等により、重油を燃料とする火力発電の稼働が低下したこともあり、これら諸国等における高硫黄重油の需要が抑制されたことが当該製品に下方圧力を加えた結果、6月中旬から下旬にかけての同市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差は高硫黄重油価格がドバイ原油価格を概ね上回ったうえで、比較的限られ範囲内で拡大もしくは縮小の傾向を明確に示すことなく推移した。しかしながら、7月に入ると、ドバイ原油価格の上昇に高硫黄重油及び低硫黄重油の価格の上昇が追い付かなかったことから、アジア市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差は縮小した上で、高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回るようになった。他方、船舶向けの低硫黄重油需要がもたつき気味となったものの、それがかえって欧州方面からの低硫黄重油の流入を抑制する格好となったことが、アジア市場における低硫黄重油需給の引き締まり観測を発生させたことから、6月中旬から下旬にかけては低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合、低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は上下に変動しつつも拡大する傾向を示した。しかしながら、7月上旬から中旬にかけてはドバイ原油価格の上昇に低硫黄重油価格の上昇が追い付かなかった(また、低硫黄重油とドバイ原油との価格差が堅調であったこともあり、アジア地域の製油所で低硫黄重油の製造が促進されたものと見る向きもある)結果、低硫黄重油とドバイ原油との価格差は縮小傾向を示した。
2. 2025年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場等の状況
2025年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場においては、6月13日から行なわれていたイスラエルとイランとの間での戦闘に伴う中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念の増大により、6月中旬においては、原油価格は1バレル当たり70~76ドルを中心としつつ、度々78ドル前後にまで上昇する場面が見られたが、米国のトランプ大統領による仲介により停戦が実現した結果、6月下旬半ば頃には64ドル前後へと下落した。ただ、その後は6月26~27日に米国と中国との間で貿易問題の詳細につき合意した旨明らかになったこと、米国とベトナムとの間でも貿易問題に関し取引が成立した旨7月2日に米国のトランプ大統領が発表したこと、7月2日に国際原子力機関(IAEA)の核関連施設査察を制限する動きをイランが見せたこと、紅海においてイエメンのフーシ派武装勢力が複数の船舶を攻撃した旨7月6~8日に報じられたこと、7月14日にロシアに対し重大な発表を行なう意向である旨米国のトランプ大統領が7月10日夜(米国東部時間)に明らかにしたこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、7月11日の原油価格は1バレル当たり68.45ドルと、イスラエルとイランの停戦合意発表直後の水準にまで上昇している(図15参照)。

6月16日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことに加え、イランがイスラエルとの戦闘停止とイラン核問題を巡る協議の再開を希望している旨停戦の仲介をしているとされる周辺のアラブ諸国に伝えていると6月16日朝(米国東部時間)にウォール・ストリート・ジャーナルが伝えた他、イランがカタール、オマーン及びサウジアラビアを通じ、イスラエルに対し即時停戦を働きかけるよう米国のトランプ大統領に要請している旨6月16日にロイター通信が報じたことにより、イスラエルとイランとの戦闘継続に伴う中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.21ドル下落し、終値は71.77ドルとなった。しかしながら、6月16日に米国のトランプ大統領が1日早く主要7ヶ国(G7)首脳会議(於カナダ・カナナスキス)から帰国した後、米国の忍耐は限界に接近しつつあり、イランに対し無条件降伏するよう要求する(「トゥルース・ソーシャル」に投稿)旨6月17日に表明したことにより、イスラエルのイラン攻撃に米国がより直接的に関与する可能性に対する観測が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.84ドルと前日終値比で3.07ドル上昇した。これに対し、6月18日にイランの最高指導者ハメネイ師が降伏することはない旨表明したことにより、米国とイランとの対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことに加え、6月18日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(6月13日の週分)において、原油在庫が前週比1,147万バレルの減少と市場の事前予想(同180~250万バレル程度の減少)を上回って減少している他、米国原油先物契約受渡地点である同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比100万バレルの減少となっている旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.30ドル上昇し、終値は75.14ドルとなった。この結果原油価格は6月17~18日の2日間合計で1バレル当たり3.37ドル上昇した。6月19日は、米国奴隷解放記念日(ジュンティーンス: Juneteenth)に伴う休日のため米国原油先物契約の終値は計上されなかったが、イスラエルとイランとの間での戦闘状態終結に向けた協議が実施される可能性があることにより、イランを攻撃するイスラエルに合流するかどうかにつき今後2週間以内に米国のトランプ大統領は判断する意向である旨6月19日午後(米国東部時間)にトランプ大統領の報道官であるレビット氏が発表したことにより、差し迫った米国のイラン攻撃を巡る観測が後退したことから、6月20日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.21ドル下落し、終値は74.93ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2025年6月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、7月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり73.84ドル(前日終値比同0.34ドルの上昇)であった)。
また、米軍がイラン中部にあるナタンズ、フォルドゥ及びイスファハンの各核関連施設を空爆(6月21日午後8時前(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が「トゥルース・ソーシャル」に投稿)したことに対し、6月23日にイランがカタールの米空軍基地に向けミサイルを発射した旨イラン半国営タスニム通信が伝えたが、カタールはほぼ全てを迎撃(発射した14発中13発は迎撃、残り1発は影響のない地点に着弾)した一方、イランの攻撃と相前後して今回のイランの攻撃は事前に米国等に通告されていた旨ニューヨーク・タイムスが報じたこともあり、イランの米国への報復措置が抑制的であるとの見方とともに、今般の米国とイランとの対立が制御不能な方向に向かうとの観測が後退したこともあり、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.51ドルと前日終値比で6.42ドル下落した。さらに、イスラエルとイランが停戦で合意した旨6月23日夜の早い時間(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明(「トゥルース・ソーシャル」に投稿)、その後イスラエルとイランが攻撃を停止する方針である旨示唆した他、実際に停戦が維持される格好となったことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことに加え、中国はイランから石油を輸入し続けることが出来る旨6月24日朝の早い時間(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明(「トゥルース・ソーシャル」に投稿)したことにより、イランの石油供給拡大に伴う世界石油需給緩和観測が市場で増大したことから、6月24日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり4.14ドル下落し、終値は64.37ドルとなった。この結果原油価格は6月20~24日の3取引日合計で1バレル当たり10.77ドル下落した。6月25日には、これまでの原油価格下落に対し、値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、6月25日にEIAから発表された米国石油統計(6月20日の週分)において原油在庫が前週比584万バレル、ガソリン在庫が同208万バレル、留出油在庫が同407万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(原油在庫同80万バレル程度の減少、ガソリン在庫及び留出油在庫ともに同40万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少していた他、米国原油先物契約受渡地点である同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で46万バレル減少した結果2.22億バレルと2025年2月7日(この時は2.18億バレル)以来の低水準に到達している旨判明したことにより、足元の米国石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.55ドル上昇し、終値は64.92ドルとなった。また、6月26日に米国商務省から発表された2025年1~3月期の米国国内総生産(GDP)(確定値)が前期比年率0.5%の減少と5月29日に発表された同0.2%の減少(改定値)から下方修正された他、市場の事前予想(同0.2%の減少)を上回って減少している旨判明したうえ、米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の2026年5月の任期満了よりも相当早期である2025年9~10月にも米国のトランプ大統領がパウエル議長の後任を指名し公表する方針である旨6月26日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じたことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ観測が市場で増大したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.24ドルと前日終値比で0.32ドル上昇した。さらに、5月12日にスイスのジュネーブで枠組みにつき合意した米国と中国の貿易問題につき、2日前に最終合意に至った旨米国のラトニック商務長官が明らかにした旨6月26日夕方(米国東部時間)に報じられたうえ、6月27日には中国商務省も両国の貿易問題の詳細につき合意した(中国が米国に対しレアアース(希土類)を供給するのであれば、米国は中国への対抗措置を取り下げるといった内容を含むとされる)旨発表したこと、足元で10の諸国及び地域との間で貿易問題を巡る合意に接近しつつあり今後2週間以内に数ヶ国及び地域との間で貿易問題を巡り妥結する用意がある旨6月26日夜(同)にラトニック商務長官が明らかにしたこと(対象国及び地域の詳細は明らかになっていないが、トランプ大統領はインドが含まれている旨6月26日に示唆した)、7月9日までに米国との間で貿易問題につき合意できるかもしれない旨の見解を6月26日に欧州連合(EU)欧州委員会(EC)のフォンデアライエン委員長が示した旨6月27日に伝えられたこと、9月1日(米国労働者の日(レイバー・デー))までに主要国及び地域との間での貿易問題を巡る交渉が決着するものと考えている旨6月27日に米国のベッセント財務長官が明らかにしたこと、7月9日が期限となっている米国の相互関税の追加部分の賦課猶予を延長する可能性がある旨6月27日に米国のトランプ大統領が示唆したことにより、米国と他の諸国及び地域との間での貿易問題を巡る緊張が緩和する方向に向かうとの楽観的な見方が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇したことに加え、6月13日から24日にかけてのイスラエルとイランとの間での戦闘に勝利した旨6月26日にイランの最高指導者ハメネイ師が主張したことに対し、6月27日に米国のトランプ大統領が米国のイランに対する制裁緩和の検討を停止した他、イランがウラン濃縮活動を継続するのであれば米国はイランに対し再度攻撃を実施することも否定しない旨示唆したことにより、米国とイランとの対立の先鋭化に伴う中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念が市場で再燃したことから、6月27日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.28ドル上昇し、終値は65.52ドルとなった。この結果原油価格は6月25~27日の3日間合計で1バレル当たり1.15ドル上昇した。
ただ、7月6日に開催される予定である会合においてOPEC有志8産油国が5~7月と同様8月についても前月比日量41.1万バレルの増産と従来方針(同13.8万バレルの増産)から拡大することを検討する予定である旨関係者が明らかにしたと6月27日に伝えられたことにより、世界石油需給緩和観測が発生した流れを6月30日の市場が引き継いだことに加え、2025年4月の米国原油生産量(確定値)が日量1,347万バレルと3月の同1,345万バレルから増加し史上最高水準に到達した旨6月30日にEIAが明らかにしたことにより、米国石油需給緩和感を市場が意識したことから、6月30日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.41ドル下落し、終値は65.11ドルとなった。それでも、7月1日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された6月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.4と5月の48.3から上昇した他市場の事前予想(49.3)を上回っている旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.45ドルと前日終値比で0.34ドル上昇した。また、国際原子力機関(IAEA)が西側諸国に利するべく行動しているとして、イランのIAEAへの協力を制限する法律(IAEAがイラン核関連施設を査察する際にイランの国家安全保障最高評議会の承認を必要とすることを主な内容とする)を7月2日に施行した旨同日報じられたことにより、イランと西側諸国等との対立の先鋭化に伴う、中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念が市場で再燃したことに加え、米国とベトナムとの間で貿易問題につき取引が成立した(米国はベトナム産製品に対し20%、ベトナムを経由する第三国産製品に対し40%の、それぞれ関税を賦課する(因みに4月2日に米国が発表した個別相互関税税率は46%であった)一方、ベトナムは米国産製品に対する関税を免除することを主な内容とする)旨7月2日に米国のトランプ大統領が発表したことにより、米国と他の諸国及び地域との間でさらに取引が成立するのではないかとの期待が増大するとともに、米国による高率の関税賦課に伴う世界経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が後退したことから、7月2日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.00ドル上昇し、終値は67.45ドルとなった。この結果原油価格は7月1~2日の2日間合計で1バレル当たり2.34ドル上昇した。ただ、7月3日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.45ドル下落し、終値は67.00ドルとなった。なお、7月4日は米国独立記念日(インディペンデンス・デー)の休日に伴い米国原油先物契約の終値は計上されなかった。
ただ、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが殆どの油種につき8月の原油販売価格を引き上げた他、アジア向けのアラビアンライト原油を7月から1バレル当たり1.00ドル引き上げるなど市場の事前予想(同0.65ドル引き上げ)を上回って引き上げた旨7月6日に報じられたことにより、サウジアラビアが堅調な世界石油需要に自信を持っていると市場で受け取られたことに加え、7月6日にイエメンの港湾都市ホデイダ沖合の紅海において貨物船「マジック・シーズ(Magic Seas)」(リベリア船籍)を攻撃した結果同船が沈没した旨7月7日にイエメンのフーシ派武装勢力が発表したことにより、周辺海域における石油等の輸送が脅かされるとの懸念が発生したことから、7月7日の原油価格の終値は1バレル当たり67.93ドルと前週末終値比で0.93ドル上昇した。また、イエメンのホデイダ沖合の紅海において貨物船「エタニティC(Eternity C)」(リベリア船籍)が無人機により攻撃された(後に沈没したが、フーシ派武装勢力が攻撃したと7月9日に伝えられる)旨7月8日に伝えられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、7月8日にEIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)において、原油価格の下落に伴いEIAが2025年の米国原油生産見通しを下方修正したことにより、この先の米国石油需給の相対的な引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.40ドル上昇し、終値は68.33ドルとなった。この結果原油価格は7月7~8日の2日間合計で1バレル当たり1.33ドル上昇した。ただ、数ヶ月を経過しても世界石油市場では在庫が大幅に積み上がっていないことから、これは世界石油需要が堅調であることを示している旨7月9日にアラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ・エネルギー相が発言したことに加え、イラン産原油販売に関与したとして、香港、UAE及びトルコを拠点とする22の企業に対し制裁を科する旨7月9日に米国財務省が発表したことにより、米国とイランとの対立先鋭化を巡る懸念が市場で増大したうえ、この日EIAから発表された米国石油統計(7月4日の週分)においてガソリン在庫が前週比266万バレルの減少と市場の事前予想(同150万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、EIAから発表された米国石油統計において原油在庫が前週比707万バレルの増加と市場の事前予想(同210万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、7月9日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.05ドルの上昇にとどまり、終値は68.38ドルとなった。また、8月1日にブラジルに対し50%の関税を賦課する方針である(併せてブラジルのボルソナロ前大統領に対する起訴(2022年に実施された大統領選挙後にルラ現政権転覆を企てたとされることによる)を取り下げるよう要求する)旨米国のトランプ大統領が7月9日夕方(米国東部時間)に明らかにしたことに対し、7月10日にルラ大統領が報復措置を講じる可能性がある旨表明したことにより、米国とブラジルを中心とする貿易戦争の激化に伴う世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことに加え、増産を継続した場合には原油相場への下方圧力が強まる恐れがあるとして、OPECプラス有志8産油国が10月は増産を見合わせることを検討している旨7月10日にブルームバーグ通信が報じたことにより、この先の石油需給の引き締まり観測が後退したことから、7月10日の原油価格の終値は1バレル当たり66.57ドルと前日終値比で1.81ドル下落した。しかしながら、(ウクライナとの戦闘を巡る)ロシア(の対応)に失望するとともに、7月14日にロシアに関する重大な発表を行う意向である他、現在米国連邦議会上院で審議されている新たな対ロシア制裁(ロシア産の石油及び天然ガスを輸入する第三国に対し500%の関税を賦課することを主な内容とする)が可決する方向であり、それを実行に移すかどうかは大統領の決断次第である旨7月10日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領がNBCの取材に対し発言したことにより、米国がロシアに対する制裁を実施することにより、ロシアからの石油(及び天然ガス)供給が減少するとともに世界石油需給が引き締まる恐れがあることに対する懸念が増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.88ドル上昇し、終値は68.45ドルとなっている。
3. 原油市場における主な注目点等
6月13日未明(現地時間)以降行なわれていたイスラエルとイランとの戦闘を巡り、イランが戦闘停止と自国の核問題を巡る協議の再開を希望している旨停戦の仲介をしているとされる周辺のアラブ諸国に伝えている旨6月16日朝(米国東部時間)にウォール・ストリート・ジャーナルが伝えた他、イランがカタール、オマーン及びサウジアラビアを通じ、米国のトランプ大統領にイスラエルに対し即時停戦を働きかけるよう要請している旨6月16日にロイター通信が報じた。ただ、イスラエルとイランとの間で停戦合意に到達する可能性は十分あるが、その前に両国は戦い尽くす必要があるかもしれず、米国は両国の紛争に関与する可能性はあるが、現時点では関与していない旨6月15日に米国のトランプ大統領が示唆した。他方、6月15日に米国のトランプ大統領がイスラエルとイランに対し戦闘を停止するよう要求したが、6月16日にイスラエルのスモトリッチ財務相は、米国のトランプ大統領はイスラエルに対し戦闘停止を要請していない旨明らかにした。また、6月16日に米国のトランプ大統領が1日早く主要7ヶ国(G7)首脳会議(於カナダ・カナナスキス)から帰国、その後米国の忍耐は限界に接近しつつあり、イランに対し無条件降伏するよう要求する旨6月17日に同大統領が表明するとともに、同日国家安全保障会議(NSC: National Security Council)を招集、イランへの直接攻撃を含めた選択肢を検討した旨同日報じられた。また、イランの最高指導者ハメネイ師の所在地は把握しているものの、直ちに殺害する意向はない旨、6月17日に米国のトランプ大統領が表明した一方、イスラエルから攻撃されているイランを支援する意向である旨6月17日にイエメンのフーシ派武装勢力の指導者であるフーシ氏が表明した。6月18日には米国のトランプ大統領がイランに対し事実上の最後通告を行なった旨認め、今後1週間が極めて重要になる旨明らかにしたものの、実際に米国が対イラン攻撃を実行に移すかどうかについては明言を避けた。そして、イランが米国との協議を受け入れる旨6月18日にニューヨーク・タイムスが報じた(同日トランプ大統領もイランから協議の申し入れがあった旨明らかにした他、同日イラン(協議団)がホワイトハウスを訪れると報道されたが、イラン側は米国への協議申し入れを否定した)。また、6月17日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領がイランに対する軍事行動の実施を承認したが、核開発計画をイランが放棄するかどうかにつき判断できるまで保留とする方針とした旨6月18日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。6月17日までにイスラエルはイランのミサイル発射装置の4割を破壊した旨6月18日に伝えられる一方、イランによるイスラエルに対するミサイル及び無人機等による攻撃は沈静化しつつある(理由は明らかになっていないとされた)として、イスラエル当局が安全規制を一部緩和した旨6月18日に報じられたが、6月17日に米国のトランプ大統領はイスラエルのネタニヤフ首相に対し攻撃を継続するよう発言したと6月18日に報じられた。さらに、早ければ週末になることを含め今後数日以内に米国がイランに対し戦闘を開始することに備え準備を進めつつある旨米国政府関係者が明らかにしたと6月18日夜(米国東部時間)に伝えられた。また、イラン西部アラク(Arak)に建設中の重水炉(核兵器製造のための原料となるプルトニウムを製造できるとして欧米諸国が問題視している施設の一つとされる)に対し6月19日にイスラエル軍が空爆を実施した。さらに、イラン南西部ブシェール(Bushehr)にある同国で唯一稼働中である原子力発電所を攻撃した旨6月19日にイスラエル軍が発表したが、この発表は後に誤りであるとして撤回された(なお、同原子力発電所は正常に稼働している旨6月20日に運営しているロシア国営原子力企業ロスアトムのリハチョフ(Likhachev)総裁が明らかにしている)。そして、米国のトランプ大統領はイスラエルとイランとの間での戦闘状態終結に向けた協議が実施される可能性があることにより、イランを攻撃するイスラエルに合流するかどうかにつき今後2週間以内に判断する意向である旨6月19日午後(米国東部時間)に米国トランプ大統領の報道官であるレビット氏が明らかにした。また、イラン防衛産業向けに精密機器を調達したとして、中国及び香港の8企業、1個人及び船舶1隻に対し制裁を発動する旨6月20日に米国財務省が発表した。そして、イラン中部のナタンズ、フォルドゥ及びイスファハンの各核関連施設に対し米軍が空爆、攻撃は成功裏に完了し、イランの核施設は壊滅した旨6月21日午後8時前(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が発表、さらに同日午後10時(同)には、イランが攻撃を続けるのであれば、さらなる対応を実施する旨トランプ大統領が警告した(これに対し6月22日にイランのアラグチ外相は米国の行動を言語道断であると反発、同国原子力庁は核開発活動を継続する旨表明した一方、6月22日朝(現地時間)にはイランがイスラエルのテルアビブを含む地点の国際空港や政府関係施設等に対しミサイル40発を発射したが、6月22日朝(米国東部時間)に実施された記者会見において米国のヘグセス国防長官は米国の攻撃はイランの体制転換を目的としたものではない旨発言した他、同日バンス副大統領も同趣の発言をNBCに対し行なったうえ、米国はイランへの軍派遣には関心は無い他、イランによるホルムズ海峡の封鎖は自殺行為であると警告した。他方、6月22日にイラン国家安全保障最高評議会はホルムズ海峡封鎖につき協議したが最終判断は保留となったとされる。また、6月23日にはイランがカタールの米空軍基地に向けミサイルを発射した(米国がイラン攻撃に使用した爆弾と同数の14発とされる)旨イラン半国営タスニム通信が伝えたが、カタールは迎撃等(14発中13発は迎撃、残り1発は影響のない地点に着弾)した一方、今回のイランの攻撃は事前に米国等に通告されていた旨ほぼ同時間帯にニューヨーク・タイムスが報じたこともあり、イランの米国への報復措置が抑制的であるとの見方とともに、今般の米国とイランとの対立が制御不能な方向に向かうとの観測が後退した。そして、イスラエルとイランが全面的な完全停戦で合意した旨6月23日夜(米国東部時間18時3分)に米国のトランプ大統領が表明した。イランは核開発活動を停止することはない旨6月23日に同国のアラグチ外相は明らかにしたが、その後停戦は維持される格好となっている。他方、中国はイランから石油を輸入し続けることが出来る旨6月24日朝の早い時間(米国東部時間)に米国のトランプ大統領は表明したものの、ウラン濃縮活動を巡りイランに最大限の圧力を加える方針は諦めていない旨6月25日にトランプ大統領が表明した。ただ、米国が翌週にもイランとの間で核問題を巡る協議を実施する予定であり、米国はイランの核開発活動の継続は認めない他、イランに対して引き続き最大限の圧力を加える意向であるものの、イランの経済再建を望んでおり、そのためには資金が必要であるとして、イランに対する米国の制裁緩和を希望している旨6月25日に米国のトランプ大統領が示唆した。他方、核関連施設の安全や平和利用のための核開発活動が保証されるまで国際原子力機関(IAEA)に対する協力を一時停止する法案をイラン護憲評議会が承認した旨6月26日にイラン国会のガリバフ(Ghalibaf)議長が発表した。また、6月13日から24日にかけてのイスラエルと間での戦闘にイランは勝利した旨6月26日にイランの最高指導者ハメネイ師が主張したことに対し、6月27日に米国のトランプ大統領は米国のイランに対する制裁緩和の検討を停止した他、イランが核開発を進展させることにより同国が核兵器を保有する可能性が高まったと判断すれば再度攻撃を実施する用意がある旨6月27日にトランプ大統領が示唆した。それでも、イランが平和的に対応するのであれば、米国はイランに対する制裁を解除することを最終的に認める可能性がある旨6月27日にトランプ大統領が示唆(同日のFOXニュースの収録で明らかに)した旨6月29日に伝えられた反面、イランの核兵器開発及びミサイル製造の防止、イスラエルに対するテロ活動の防止等を含むイラン対策を用意するようイスラエル軍に指示した旨イスラエルのカッツ国防相が明らかにしたと6月27日に報じられた。また、イスラエルとの停戦を懐疑的に見ており、攻撃が再開されれば断固として対応する意向である旨6月29日にイラン軍のムサビ(Mousavi)参謀総長が明らかにしたと6月29日にイラン半国営ファルス通信が報じた。6月27日には、IAEAの核関連施設査察は意味が無いとして受け入れない旨イランのアラグチ外相が示唆した反面、同日米国のトランプ大統領はIAEAによるイランの核関連施設査察をIAEAに要求する意向である旨明らかにした。さらに、IAEAは西側諸国に利するべく行動しているとして、イランのIAEAへの協力を制限する法律(IAEAがイラン核関連施設を査察する際にはイランの国家安全保障最高評議会の承認を必要とすることを主な内容とする)を7月2日に施行した旨同日報じられた。しかしながら、イランは核拡散防止条約(NPT: Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)を遵守する意向であり、同国国家安全保障最高評議会を通じIAEAとの協力を実施する方針である旨7月3日にイランのアラグチ外相が表明した他、翌週イラン核問題を巡り米国とイランがノルウェーの首都オスロにおいて協議を実施する予定である旨7月3日に米国独立系報道機関アクシオスが伝えた(但しイラン側は検討中である旨同国外交関係者が7月3日に明らかにした他、7月13日に至るまで当該協議は実施に至っていない)。7月3日には、米国財務省が、少なくとも2020年以降イラク産原油を偽装してイラン産原油を出荷していた企業及びタンカーに対し制裁を発動する(米国内資産の凍結と米国人との取引禁止を主な内容とする)旨発表した。他方、協議を通じて米国との間での対立を解消することは可能であるが、米国を信用できることが前提となる一方、先日の米国のイラン攻撃により、それは現時点では困難である旨イランのペゼシュキアン大統領が明らかに(また、IAEAに対し協力する用意はあるが、イランの核関連施設の被害が評価された後にIAEAの査察を再開する意向である旨同大統領が示唆)したと7月7日に報じられた一方、イランが平和裏に政策を推進するのであれば、米国はイランに対する制裁を解除する意向である旨7月7日に米国のトランプ大統領が改めて表明したものの、イラン産原油販売に関与したとして、香港、UAE及びトルコを拠点とする22の企業に対し制裁を科する旨7月9日に米国財務省が発表した。さらに、足元イランが核兵器を保有する理由は十分にあるが、現時点では保有するつもりはないとするものの、如何なる場合でもウラン濃縮活動は放棄しない旨7月12日にイランのアラグチ外相が主張した。
また、イスラエルとイランの停戦合意においてフーシ派武装勢力は対象外であり、パレスチナ自治区ガザ地区に対するイスラエルの攻撃が停止するまで(7月13日現在イスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間では停戦につき合意に至っていない)フーシ派武装勢力は攻撃を継続する意向である旨フーシ派武装勢力が明らかにしたと6月24日にウォール・ストリート・ジャーナルが伝えたが、7月6日にイエメンの港湾都市ホデイダ沖合の紅海において貨物船「マジック・シーズ(Magic Seas)」(リベリア船籍)を攻撃した(同船が過去にイスラエルに寄港したことがあるためと7月7日にフーシ派武装勢力は主張している)結果同船は沈没した旨7月7日にイエメンのフーシ派武装勢力が発表したうえ、同日午後(現地時間)にフーシ派武装勢力は同じくホデイダ沖合の紅海において貨物船「エタニティC(Eternity C)」(リベリア船籍)を無人機により攻撃、同船は沈没した。他方、最近の数日間においてフーシ派武装勢力がイスラエルに向け弾道ミサイルを発射したため、イスラエル軍がイエメンに対し空爆を実施した旨7月7日早朝(同)にイスラエル軍が明らかにした。
このように、イスラエル及び米国とイランとの間での戦闘状態は停止するとともに対立も一旦は沈静化した格好となっており、それにより中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退するとともに、6月18日には1バレル当たり75.14ドルと、2025年1月22日(この日の終値は75.44ドルであった)以来の高水準の終値に到達した原油価格は短期間に大幅に下落することとなった。ただ、イランが平和裏に対応することにより同国の脅威が強まらない旨示されるのであれば、米国はイランに対する制裁を解除する意向である旨米国のトランプ大統領が示唆する一方、イランの動き次第では再度攻撃を実施する余地を残している他、しばしば米国はイラン関連の追加制裁を実施している。また、イランはウラン濃縮を含めた核開発活動を巡る方針に対し多くを語らない中、イラン国内の核関連施設査察を巡りIAEAの行動を制限するべく動いているように見受けられる部分がある他、引き続きイランはウラン濃縮活動を放棄しないと主張している。このようなことから、足元イスラエル及び米国とイランとの間での停戦は維持されている格好となっているものの、米国とイランとの間で核問題につき合意できる環境が整っているとは言えず、いつまた関係国もしくは関係者間で対立が先鋭化する可能性も排除できないものと考えられることに加え、イエメン周辺海域においてはフーシ派武装勢力が船舶を攻撃する事例が複数見られていることから、今後も、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大し、原油相場に上方圧力を加えないとも限らないので、注意する必要があろう。
6月1日にウクライナがロシア空軍の戦略拠点等に対し奇襲攻撃を実施したことに対し、6月4日に行なわれた米国のトランプ大統領との首脳会談(電話会談)において、ロシアのプーチン大統領は報復せざるをえない旨警告した。その後ロシアはしばしばウクライナの広い範囲に渡り攻撃を実施、7月3日には再び米国とロシアとの間で首脳会談が開催されたが、ロシアのプーチン大統領は戦闘を継続する意向を示すなど協議は平行線を辿ったことに失望した旨会談後米国のトランプ大統領が明らかにした。他方、6月24~25日において北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開催され、米国のトランプ大統領の要求通り加盟国の軍事費を国内総生産(GDP)の5%に引き上げることで合意、トランプ大統領は満足の意を表明した。また、米国内の在庫減少のため、ウクライナに対し一部の軍事用資機材の供給を停止した旨7月1日に米国トランプ政権が発表したが、7月4日には米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との間で首脳会談が実施され、その場において、米国のトランプ大統領はウクライナの防空体制を支援する意向を示すとともに、米国からの供給が停止されている軍事用資機材につき確認する意向である旨明らかにした。なお、ロシア産原油販売価格上限を現行の1バレル当たり60ドルから45ドルへと引き下げる方策を提案する旨6月10日に欧州連合(EU)欧州委員会(EC)のフォンデアライエン委員長が明らかにしたが、その後原油価格が上昇したうえ、米国の支持が得られないとして、棚上げする旨EUが明らかにしたと6月20日にブルームバーグ通信が報じた。他方、ロシアのプーチン大統領がウクライナに対する戦闘を停止しないことに失望するとともに、ウクライナに対しより多くの防衛向け軍事資機材を供給する意向である旨7月7日に米国のトランプ大統領が表明した。また、ロシアのプーチン大統領の発言は事実上無意味であり、同大統領がウクライナに対する戦闘を停止しないことに対し失望の意を再度表明するとともに、ロシア産石油、天然ガス及びウランを購入する第三国に対しより厳格な制裁を科することを主な内容とする法案(ロシア産の石油及び天然ガスを輸入する第三国に対し500%の関税を賦課することを主な内容とする)が米国連邦議会上院に提出されたことに対し、トランプ大統領が極めて強く関心を持っている旨明らかにしたと7月7日にブルームバーグ通信が報じた他、ロシアに対し制裁を追加する意向である旨7月8日にトランプ大統領が明らかにしたうえ、同大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に対し直ちに防空施設「パトリオット」向けのミサイルを供与する旨約束したと7月8日に米国独立系報道機関アクシオスが報じた。そして、(ウクライナとの戦闘を巡る)ロシア(の対応)に失望するとともに、7月14日にロシアに関する重大な発表を行う意向である他、現在米国連邦議会上院で審議されている新たな対ロシア制裁が可決する方向であり、それを実際実行に移すかどうかは大統領の決断次第である旨7月10日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が米国NBCの取材に対し発言した。
このように、他の西側諸国等に比べ相対的にロシアに対し相当程度融和的な姿勢を示しているように見受けられた米国のトランプ大統領はNATO加盟国間での協力体制強化を賞賛した他ウクライナにおける防空体制支援の意向を表明する一方、ロシアに対し失望の意を明らかにするなど、両国の戦闘を巡り米国は多少なりともウクライナ及び西側諸国等と足並みを揃えつつあるように見受けられる。そして、なお、米国のトランプ大統領のロシア及びウクライナに対する姿勢は紆余曲折を経る可能性があるものの、少なくとも現時点ではロシアとウクライナとの戦闘が終結する兆候は見せていないこともあり、西側諸国等による対ロシア制裁の緩和とロシアからの石油を含むエネルギー供給の増加期待が市場で発生しにくい状態は今暫く続くものと見られることから、この面では原油相場は下支えされやすいものと考えられる。また、米国とロシアとの首脳会談で議論が平行線を辿るなどしている他、米国と他の西側諸国及びウクライナとの協力体制が多少なりとも強化される方向に向かい兆しを見せていることに対し、ロシアがウクライナとの戦闘終結を巡り米国に対して便宜を図ろうとする姿勢を弱めるようだと、原油相場へ押し下げ圧力を加えるべくOPECプラス産油国による増産加速方針を推進させるうえで、サウジアラビアとの意思疎通が図りにくくならないとも限らないので注意する必要があろう。
米国の貿易相手国及び地域との間での関税等を巡る協議はいくつかの点で動きが見られた。5月12日にスイスのジュネーブにおいて枠組みにつき合意した米国と中国の貿易問題につき、2日前に最終合意に至った旨米国のラトニック商務長官が明らかにした旨6月26日夕方(米国東部時間)に報じられたうえ、6月27日には中国商務省も両国の貿易問題の詳細につき合意した(中国が米国に対しレアアース(希土類)を供給するのであれば、米国は中国への対抗措置を取り下げるといった内容を含むとされる)旨発表した。また、足元で10ヶ国及び地域との間で貿易問題を巡る合意に接近しつつあり今後2週間以内に数ヶ国及び地域との間で貿易問題を巡り妥結する用意がある旨6月26日夜(同)にラトニック商務長官が明らかにした(対象国及び地域の詳細は明らかになっていないが、トランプ大統領はインドが含まれている旨6月26日に示唆した)一方、米国の相互関税の追加部分の賦課猶予の期限となっている7月9日までに米国との間で貿易問題につき合意できるかもしれない旨の見解を6月26日にECのフォンデアライエン委員長が示した旨6月27日に伝えられた。また、9月1日(米国労働者の日(レイバー・デー))までに主要国及び地域との間での貿易問題を巡る交渉が決着するものと考えている旨6月27日に米国のベッセント財務長官が明らかにした他、7月9日が期限となっている米国の相互関税の追加部分の賦課猶予を延長する可能性がある旨6月27日に米国のトランプ大統領が示唆した。そして、米国産乳製品への高率の関税賦課や、2024年6月28日に導入された米国情報技術(IT)企業等に対するデジタルサービス税(最初の納付期限は2025年6月30日)を理由として、カナダとの間での関税を含む貿易問題を巡る交渉を打ち切る旨6月27日に米国のトランプ大統領が表明したが、6月29日にカナダがデジタルサービス税の導入を撤回するとともに、7月21日までに合意することを目指して貿易問題を巡る協議を再開する旨カナダのカーニー首相と米国のトランプ大統領が合意した。他方、米国とベトナムとの間で貿易問題につき取引が成立(米国はベトナム産製品に対し20%、ベトナムを経由する第三国からの輸入製品に対し40%の、それぞれ関税を賦課した(4月2日に米国が発表した個別相互関税税率は46%であった)、ベトナムは米国製品に対する関税を免除することを主な内容とする)旨7月2日に米国のトランプ大統領が発表した。また、米国の相互関税の個別追加部分の賦課猶予期限である7月9日に取引が成立しない場合でも、8月1日の実際の賦課開始までは交渉の余地はある旨7月6日に米国のベッセント財務長官が示唆したものの、日本及び韓国にそれぞれ25%の関税を賦課する方針である旨7月7日に米国のトランプ大統領が発表した(4月2日の同大統領発表時点では日本24%、韓国25%であった)。さらに、米国の輸入する銅に50%の関税を賦課する意向である旨7月8日(正午過ぎ(米国東部時間))に米国のトランプ大統領が表明した。加えて、8月1日にブラジルに対し50%の関税を賦課する方針である(併せてブラジルのボルソナロ前大統領に対する起訴を取り下げるよう要求する)旨米国のトランプ大統領が7月9日夕方(米国東部時間)に明らかにした一方、7月10日にブラジルのルラ大統領が報復措置を講じる可能性がある旨表明した。そして、大多数の貿易相手国及び地域に対し15~20%の関税を賦課する意向である旨米国のトランプ大統領がNBCの取材において発言した旨7月10日夜(米国東部時間)に報じられた他、新たに一部輸入品に対し35%の関税を賦課する(エネルギーや米国・カナダ・メキシコ協定(USMCA: United States-Mexico-Canada Agreement)に準拠する輸入品は当該関税の賦課を免除される見込みであるとされる)旨カナダに通知したと7月10日夜(同)にトランプ大統領が明らかにした。加えて、この先貿易問題を巡る協議が進捗しないのであれば、8月1日にEU加盟国及びメキシコに対し30%の関税を賦課する方針である旨7月12日に米国のトランプ大統領が発表した。
このように、米国の相互関税を巡る個別追加部分を巡る交渉は、解決に向かいつつあるものも見受けられる一方、他の多くの国及び地域との間での協議については紆余曲折を経つつあることが示唆される。そのような中、相互関税追加部分の賦課猶予期限とされる7月9日を迎えたが、7月6日には、米国のベッセント財務長官やラトニック商務長官が、当該関税は8月1日に発効する旨明らかにしていることから、結果的に7月9日から8月1日にかけての3週間程度さらに猶予(及び交渉)期間が設けられる格好となっている。そして事実上延長された猶予期間中に、米国と他国及び地域との間で貿易問題を巡り取引が成立するのであれば、それを発表することにより、米国の関税賦課政策の推進に伴う貿易戦争の誘発による世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退する結果、原油相場に上方圧力が加わる反面、交渉が進捗しない場合には、関税引き上げの猶予期限を延長するか、一時的には関税引き上げが実施されることにより米国を巡る交易条件が悪化するものの、短期間の内に再び関税引き上げ部分を棚上げし交渉を再開等すること等により、やはり米国の関税賦課政策の推進に伴う貿易戦争の誘発による世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退することにより、原油価格が下支えされる可能性があるものと考えられる
他方、米国金融当局による政策金利引き下げは7月29~30日に開催される次回米国連邦公開市場委員会(FOMC)開催時ではなく、より多くの情報が入手できるとともに企業業績見通しがより明確になるものと予想される2025年秋に開催されるFOMCになる可能性が高い旨の見解を6月20日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示した。ただ、米国関税政策の同国物価上昇圧力に対する影響は限定的であると見ており、早ければ次回のFOMCにおいて政策金利が引き下げられうる旨6月20日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事が明らかにした。ただ、米国の失業率は低水準である一方、物価上昇率が4年に渡り目標を上回っていることからすると、米国金融当局が政策金利引き下げを急ぐ必要はない旨6月20日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が表明した。そのような中、政策金利引き下げに消極的なFRBのパウエル議長を6月20日に米国のトランプ大統領が「大馬鹿者」と批判、解雇することも選択肢となりうる旨示唆した。他方、米国の物価と雇用の安定を巡るリスクは概ね均衡しているとの見解を6月22日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示した反面、米国関税政策の物価上昇への影響が限定された状況が継続するようであれば、政策金利引き下げを再開することもありうる旨6月23日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。また、米国の物価上昇は沈静化しつつあるように見えることにより、早ければ次回FOMCにおいて政策金利引き下げを決定することを支持する旨6月23日にFRBのボウマン副議長が表明した。ただ、米国のトランプ大統領による関税賦課政策に伴い米国の物価上昇が加速する恐れがあり、その経済の影響を見極めるべく、政策金利の取り扱いについては様子見とすることが妥当である旨6月23日夜(米国東部時間)に米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が発言した。また、米国のトランプ大統領の経済政策を巡る情報を待ち続けており、政策金利を巡る方針については慎重に対処したいとの姿勢を6月23日にFRBのパウエル議長が示した。しかしながら、米国金融当局は最低でも2~3%の政策金利引き下げを実施すべきである旨6月24日に米国のトランプ大統領が主張した。それでも、実際に物価上昇が沈静化している旨判明すれば政策金利を引き下げることになろうが、時期の特定は困難であり、労働市場が堅調であることを勘案すれば、当面は金融政策を巡る判断については米国経済情勢を示す情報を考慮しつつ慎重に行なう方針である旨6月24日に開催された米国連邦議会下院金融サービス委員会においてFRBのパウエル議長が証言した。また、米国のトランプ大統領による関税賦課政策により物価上昇が加速する恐れがあることから、現行の政策金利は妥当であり当該金利の取り扱いは慎重に判断したい旨6月24日に米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が示唆した。さらに、現在沈静化しつつある米国物価上昇は米国のトランプ大統領による関税賦課政策により今後加速する恐れがあることもあり、そのような政策の影響を見極めるべく政策金利引き下げに関しては慎重に対処したい旨の姿勢を6月24日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が示した。加えて、足元の米国経済指標類は近いうちに政策金利引き下げを実施する必要性が高まっていることを示していない旨6月24日に米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が明らかにした。そして、最近の米国経済は堅調であり物価上昇も沈静化しつつあるものの、米国のトランプ大統領による関税賦課政策により物価上昇が加速する恐れがあるため、政策金利の取り扱いについては様子見としたいとの見解を6月24日にFRBのバー理事が示した。6月25日には、同日開催された米国連邦議会上院金融委員会においてFRBのパウエル議長が、米国のトランプ大統領による関税引き上げ規模が大きいことから、政策金利を巡る判断がより慎重になっている他、関税の米国経済に対する影響は評価しきれていない旨証言した。また、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の影響が今後現れ、同国の物価上昇が加速するものと見込んでいるため、政策金利引き下げを巡っては慎重に判断したい旨6月25日に米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が示唆した。他方、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の物価上昇加速への影響は限定的なものとなる可能性があることを示す兆候が増えており、政策金利引き下げは秋頃に開始可能になるものと見ているとの考えを6月26日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が明らかにした。また、米国経済は堅調である一方、米国のトランプ大統領による関税賦課政策により、今後物価が上昇するといった不透明感がなお強いこともあり、政策金利引き下げを判断する前に様子を見る必要がある旨6月26日に米国リッチモンド連邦準備制度理事会のバーキン総裁が発言した。さらに、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の物価上昇への影響は限定的なものとなるものと考えているが、政策金利引き下げを判断するには、その確証が得られることが必要である旨の見解を6月26日にシカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示した。加えて、政策金利引き下げを判断するための米国経済指標類等をさらに確認する必要があることから、7月のFOMCでの政策金利引き下げ決定は時期尚早である旨6月26日に米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が説明した。そして、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の経済の影響は遅れて顕在化する場合があるため、金融当局は柔軟に対応する必要があるとの米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁の見解が旨6月27日に示された。そのような中、FRBのパウエル議長の業績が不良であることから、同議長は辞任すべきである旨6月27日に米国のトランプ大統領が示唆した。他方、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の米国経済への影響はいずれ物価上昇を引き起こすものと見ているが、現時点では十分に現れておらず、また、政策金利を巡る判断を行えるほど十分な情報も得られていないことから、引き続き様子見とする姿勢である旨6月30日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした。ただ、米国金融当局は政策金利を1%以下にまで引き下げるべきであり、パウエル議長を初めとする当局者は然るべき任務を遂行していない旨6月30日に米国のトランプ大統領が非難した。それでも、足元の米国経済が堅調であることもあり、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の同国経済への影響につき判断したうえで、政策金利を巡る方針につき慎重に決断する方針である旨7月1日にFRBのパウエル議長が改めて示唆した。また、米国経済が堅調であるため、直ちに政策金利引き下げを実施しようという意向はない旨7月2日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにした。さらに、米国のトランプ大統領による関税政策等による物価への影響は長期なものとなる恐れがあることを含め、この先の米国経済を巡る不透明感が強いこともあり、様子見の姿勢を維持することが適切であると考える旨7月3日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が表明した。そのような中、7月9日に公表されたFOMC議事録(6月17~18日開催分)においては、大多数の委員は米国のトランプ大統領による関税賦課政策により物価上昇が加速する恐れがあることを懸念した反面、2人の委員は物価上昇の影響は一時的であり長期的には影響しない旨主張していた旨判明した。さらに、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の影響は6月から9月にかけての物価指標において顕在化する他、関税の影響が沈静化するまでには時間を要するものと考えており、物価上昇を抑制することが重要である旨7月10日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が発言した。ただ、米国トランプ大統領の関税賦課政策の物価への影響は当初懸念されていたものよりも軽度になる可能性があり、依然として2025年は2回の政策金利引き下げが実施されるものと予想している旨の見解を7月10日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示した。また、米国のトランプ大統領がブラジルやカナダ等に対し新規の関税を賦課する意向を示していることもあり、今後このような政策が米国の物価上昇を加速する恐れがあることから、政策金利引き下げの支持はより困難になったと考えている旨7月11日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。
このように、米国金融当局関係者の一部(特にボウマン副議長とウォラー理事)は物価上昇が沈静化し続けるのであれば、7月29~30日に開催される予定である次回FOMCにおいて政策金利引き下げを支持する可能性がある旨示唆しているが、相当数は依然として政策金利引き下げを判断する前に米国の物価上昇や労働市場を含む経済情勢を巡る情報の内容を精査する必要があるとの姿勢を崩していない。このようなこともあり、次回FOMCにおいて政策金利が据え置かれる確率は7月12日時点で94.8%、0.25%引き下げられる確率が同5.2%となるなど、政策金利据え置き観測が市場では根強く、金融当局関係者の政策金利引き下げへの慎重姿勢と相俟って、実際に政策金利据え置きが決定される可能性が高いものと見られる。ただ、次回FOMCでの政策金利を巡る決定事項やFOMC終了後の7月30日に実施される予定である記者会見におけるFRBのパウエル議長による米国の労働市場や物価を含む経済情勢、及び政策金利調整方針等を巡る今後の展望を巡る発言内容等によっては、政策金利引き下げを巡る観測が市場で発生する結果、米ドル等が変動すること等を通じ原油相場にその影響が織り込まれるといった展開となることはありうる。また、米国のトランプ大統領はしばしばFRBのパウエル議長等に対し政策金利引き下げを要求している他、2025年9~10月にも米国のトランプ大統領がFRBのパウエル議長の後任を指名し公表する方針である旨6月26日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じたこともあり、米国金融当局によるこの先の政策金利引き下げ期待が市場で増大するとともに米ドルが下落することを通じ原油相場に上方圧力が加わる場面が見られたが、今後も同様の情報が流れる可能性があり、その場合にも米ドルの変動を通じてその影響が原油価格に及ぶこともありうる。
また、7月に入り米国主要企業等の2025年4~6月等の業績が発表され始めているが、それら企業の業績もしくは2025年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場を通じて原油相場に圧力が加わることもありうる。
6月16日に中国国家統計局から発表された5月の同国小売売上高は前年同月比6.4%増加、4月の同5.1%増加から伸びが加速した他、市場の事前予想(同4.9~5.0%増加)を上回った反面、5月の鉱工業生産は同5.8%の増加と、4月の同6.1%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同5.9~6.1%増加)を下回った、また2025年1~5月の中国固定資産投資は前年同期比3.7%の増加と、1~4月の同4.0%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同3.9~4.0%の増加)を下回った。さらに、5月の中国新築住宅価格は前月比0.22%の下落と4月の同0.12%の下落から下落率が拡大、2024年10月(この時は同0.51%の下落)以来の大幅下落となったうえ、5月の中国中古住宅販売は前月比0.50%の下落と4月の同0.41%の下落から下落率が拡大し、2024年9月(この時は同0.93%の下落)以来の大幅な下落率となった。そのような中、5月の同国原油精製処理量は5,911万トン(推定日量1,396万バレル)と前年同月を下回った。また、6月30日に中国国家統計局から発表された6月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.7と5月の49.5から上昇した他、市場の事前予想(49.6~49.7)を一部上回ったものの、3ヶ月連続で50を下回った反面、6月の同国非製造業PMIは50.5と5月の50.3から上昇した他市場の事前予想(50.3)と一致した旨判明した。さらに、7月1日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された6月の同国製造業PMIは50.4と5月の48.3から上昇した他市場の事前予想(49.3)を上回っている旨判明したが、6月5日に財新伝媒から発表された6月の同国サービス業PMIは50.6と50を上回ったものの、5月の51.1から低下した他市場の事前予想(50.9)を下回った。そして、7月9日に中国国家統計局から発表された6月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.1%の上昇と5ヶ月ぶりに前年同月比で上昇となった他市場の事前予想(同横這い~0.1%の下落)を上回って上昇した一方、6月の同国生産者物価指数(PPI)は同3.6%の下落と5月の同3.3%の下落から下落幅が拡大した他市場の事前予想(同3.2%の下落)を上回って下落している旨判明した。
このように、最近発表される指標類は中国経済が大きく落ち込みつつあるわけではない代わりに目覚ましく回復しつつあるわけでもないことを示している。また、最近では、具体的な景気刺激策も中国政府等から殆ど発表されない状態となっている。このため、少なくとも中国経済が有意に回復することを示唆する経済指標類が発表されるとともに同国の石油需要の伸びが拡大するとの期待が市場で増大する結果、原油相場に大きな上方圧力が加わる可能性はそれほど高くなく、むしろ、米国と中国との間で一時大幅に引き上げられた関税が引き下げられるなど貿易問題において米国との取引が成立しつつあるとはいえ、なお、米国のトランプ大統領就任前と比べ相対的に厳しくなった米国との交易条件の下、中国経済がもたついていることを示唆する指標類が発表されることにより、軟調な石油需要の観測が継続する結果、原油相場を抑制する可能性があるものと考えられる。
米国では、9月1日の労働祭(レイバー・デー)に伴う連休(8月30日~9月1日)まで、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が最終消費段階では継続する。しかしながら、精製の段階では7月後半頃以降は秋場の石油不需要期が徐々に視野に入ってくることもあり、同時期のメンテナンス作業実施等に向け製油所が稼働を引き下げるとともに原油精製処理量を減少させ始める。それに従い原油の購入も不活発化するとともに、市場でも季節的な需給の緩和感を意識し始める。このためこの面では、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと見られる。
また、大西洋圏では公式と目されるハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。現時点までに明らかになっている一部機関による2025年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想では、平年並みか平年を上回る頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する(表1参照)とされている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国アメリカ湾(メキシコ湾)沖合の油田関連施設等に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2024年において米国アメリカ(メキシコ)湾岸地域はメキシコから日量41万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国アメリカ(メキシコ)湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2024年は当該地域で日量177万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,321万バレル)の約13%を占めた)他、米国アメリカ(メキシコ)湾岸は引き続き同国の精製活動中心地域である(2024年の当該地域の原油精製処理能力は日量999万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,835万バレル)の約54%を占めた)こともあり、ハリケーンを含む暴風雨の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、それが原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。

5月31日に開催された、自主的な減産措置を実施してきたOPECプラス有志8産油国(アルジェリア、イラク、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カザフスタン、オマーン及びロシア)による会合(テレビ会議形式)においては、7月においても5~6月と同様の規模である前月比日量41.1万バレルの増産を実施する旨決定した。同会合前には、原油価格が下落傾向(5月13日に1バレル当たり63.67ドルであった原油価格は5月30日に60.79ドル)となっていた。このように原油価格の下落傾向が継続した時点で、開催されたOPECプラス産油国において市場の事前予想を上回る増産が決定された場合、市場関係者が驚きを以てその決定を受け止めるとともに、原油価格の下落が加速し制御困難な状況に陥る恐れがあるとの懸念から、ロシア(及びオマーンとアルジェリア)は、サウジアラビアが提案していたとされる前月比日量41.1万バレルを上回る規模の増産を受け入れないどころか増産自体に反対した結果、妥協策として前月比日量41.1万バレルという市場の事前予想通りの規模の増産が決定された格好となった。しかしながら、そのような決定は、市場の事前予想通りの全く驚きのない展開となったこともあり、他の要因と併せて、6月2日以降原油価格は上昇した。また、イスラエルとイランとの戦闘等に伴う一時の原油価格高騰は沈静化したものの、7月5日(当初の7月6日から前倒し)に開催されたOPECプラス有志8産油国による会合直前において原油価格は概ね1バレル当たり65ドルを上回る水準を維持するなど、前回の会合直前の下落傾向とは異なりより高い水準で安定した状態を維持していた。このような状況もあったことに加え、今回の会合を巡っても前月比日量41.1万バレルの増産が決定されるとの予想が市場で大勢となっていた(32の市場関係者中30者はそのように予想していた)こともあり、そのような市場の事前予想の中、前月比で日量41.1万バレルの増産を決定しても、市場にとっては全く驚きのない決定がなされたと受け取られるとともに、かえって原油先物契約の買い戻しが発生する結果、原油相場に上方圧力が加わるとともに原油価格が上昇することが予想された。そしてこの場合、流動的な中東情勢の下国家安全保障確保のため米国の支援を必要とするサウジアラビアや、ウクライナとの戦闘において米国への便宜を図ろうとしているものと見られるロシアに対し、政策金利引き下げや経済刺激策に伴う物価上昇圧力に対抗すべくガソリン小売価格及び原油価格の引き下げを希望している米国のトランプ大統領の不興を買う恐れがあった。このようなこともあり、会合後の原油価格の抑制を図るべく、今回の会合においては市場の事前予想を上回る日量54.8万バレルの増産(日量41.1万バレルにもう1ヶ月分従来方針の増産(前月比日量13.8万バレル)を前倒して加えた規模にほぼ等しい)を決定したものと考えられる。
今回のOPECプラス有志8産油国会合を巡っては、6月19日にロシアのノバク副首相が、今後の世界石油需要増加に対応するために、OPECプラス産油国は自主的な減産を緩和すべきである旨明らかにした他、世界石油需要は高水準を維持するとのOPECの見方に同意する旨6月20日にロシアのプーチン大統領が表明したうえ、OPECプラス産油国間で必要であると判断された場合には、ロシアとしても追加の増産を受け入れる用意がある旨関係者が明らかにしたと6月25日にブルームバーグ通信が報じていた他、原油価格も前回の会合前の状況と異なり比較的堅調に推移していたことから、ロシア等も増産規模の拡大については異論が無かったものと考えられる。ただ、当初7月6日に開催される予定であった会合を1日前倒ししたこともあり、週明けに原油先物市場が取引を再開するまでに1日間追加で心理的余裕が出来たことにより、原油取引再開時までにOPECプラス有志8産油国による増産決定に対する市場の条件反射的反応による原油価格の急落が緩和される格好となった他、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが8月の原油販売価格を(全油種につき)引き上げたうえ、アジア向けアラビアンライト原油を7月から1バレル当たり1.00ドル引き上げと市場の事前予想(同0.65ドル引き上げ)を上回って引き上げた旨7月6日に報じられたことにより、サウジアラビアが堅調な世界石油需要に自信を持っているものと市場で受け取られたことに加え、7月6日にイエメンの港湾都市ホデイダ沖合の紅海において貨物船「マジック・シーズ(Magic Seas)」(リベリア船籍)を攻撃した結果同船は沈没した旨7月7日にイエメンのフーシ派武装勢力が発表したことにより、周辺海域における石油等の輸送が脅かされるとの懸念が発生したことにより、原油相場に上方圧力が加わった結果、7月7日の原油価格の終値は1バレル当たり67.93ドル前日終値比で0.93ドル上昇した。他方、8月3日に開催される予定である次回OPEC有志8産油国会合の際にも9月の増産規模につき前月比で日量54.8万バレルの増産を検討する、もしくは承認する予定である旨関係者が明らかにしたと7月5日及び7月7日に伝えられ、これは原油相場の上昇抑制を企図したものとであるものと考えられるが、これまでのところ、原油相場への影響は限定的であるように見受けられる。
8月3日に開催される予定である次回会合において重要な要因の一つとなりうるのは、会合直前の原油価格であろう。イスラエルとイランとの間で戦闘状態となり、さらに米国がイランの核関連施設を空爆した際に1バレル当たり70ドル台後半に到達した原油価格は、戦闘沈静化後1バレル当たり60ドル台半ば程度にまで下落したことにより、6月12日(この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.04ドルであった)に足元高水準の原油価格に不満を漏らしていたトランプ大統領は、6月23日には原油価格が大幅に下落したことを歓迎する旨示唆したと6月24日朝(米国東部時間)に伝えられた。6月24日には原油価格が一段と下落したものの、その後原油価格は回復、7月3日の原油価格の終値は1バレル当たり67.00ドルとトランプ大統領が不満を表明した6月12日の原油価格の終値に接近しつつあったこともあり、その直後に開催されたOPECプラス有志8産油国による会合では市場の事前予想を上回る増産規模を決定した。このように、原油価格が特に1バレル当たり65ドル程度を上回るようだとOPEC有志8産油国の増産幅が拡大する反面、原油価格が低水準となりつつある(1バレル当たり60ドルを相当程度下回った状態か、下回ってはいないが、下落が加速しつつあり、価格の制御が困難になりつつある兆候が見られる)場合には、増産規模を縮小するか、増産自体を取り止める等といった、他の選択肢を検討及び決定することになる可能性が増大するものと考えられる。ただ、ウクライナとロシアとの戦闘を巡る、米国とロシアとの協議が不調気味に推移しつつある(実際足元でその兆候が見られる)場合にも、サウジアラビアによる大幅な増産提案にロシアが抵抗する場面が見られる可能性もあり、この面でも注意が必要であろう。また、次回OPECプラス有志8産油国会合開催を控え増産規模等に関する情報が流れた場合、世界石油需給への影響を巡る観測が市場で発生する結果、原油相場が変動する可能性もある。
全体としては、今後米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることにより、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることを通じ、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。また、イスラエル及び米国とイランとの対立が一服していることから、この面でも原油相場への上方圧力は加わりにくい側面があるものと考えられるが、今後米国とイランとの間での対立が再び高まるようであれば、原油価格が反発する場面が見られることも否定できない。また、イスラエルとフーシ派武装勢力との対立先鋭化を中心として中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大しつつあることや、米国と他の国及び地域との間での貿易問題を巡る交渉が進展する、もしくは関税引き上げ期限を延期して交渉を継続すること等の展開が想定されうることから、この面では原油相場を少なくとも下支えするか、場合によっては原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。さらに、ロシアとウクライナとの戦闘状態と米国の対応、中国経済情勢、及び大西洋圏でのハリケーンを含む暴風雨の発生状況等が原油相場に影響を与えうるものと考えられる。
4. エネルギー研究所(EI)が発表した2025年版世界エネルギー統計報告が示唆する2024年の世界エネルギー市場に関する一考察
2025年6月26日にエネルギー研究所(EI: Energy Institute、英国を拠点とする非営利団体)が、KPMG及びカーニーの両コンサルタント会社の協力を得て、2025年版世界エネルギー統計報告(Statistical Review of World Energy 2025、以下「EI統計」と呼ぶこととする)を発表した(同報告書は1952年の創刊から2022年に至るまでは大手国際石油会社BPが発行していたが、2023年に発行元がBPからエネルギー研究所に移行した)。ここでは、そのEI統計に示されるところの2024年を中心とする世界エネルギー市場の特徴につき考察を加えることとしたい。
(1) 石油
EI統計では、2024年の世界石油需要(バイオ燃料等含む)は日量1億471万バレルと2023年の同1億389万バレル(なお、2024年6月20日に発表された2024年版EI統計では2023年の世界石油需要(同)は同1億341万バレルであったので、日量48万バレル上方修正されていることになる)から同82万バレル(0.8%)の増加となり、2023年の前年比同267万バレル(同2.6%)の増加から伸びが鈍化した(図16参照)ものの、過去最高水準に到達した。他の主要機関と比較してみるとOPECは2025年6月16日発表の月刊オイル・マーケット・レポートにおいて2024年の世界石油需要が前年比同149万バレル、IEAは7月11日発表のオイル・マーケット・レポートもおいて同81万バレルの、それぞれ増加となっており、EIの前年比増加量はOPECのそれを同67万バレル下回る反面、IEAとはほぼ同水準となっている。

また、EI統計によると、2024年の石油需要(バイオ燃料等を除く)は日量1億142万バレルと前年比で同72万バレル(同0.7%)の増加となっているが、殆ど全ての製品につき、2023年(前年比日量240万バレル(同2.4%)の増加)に比べ前年比での増加ペースが鈍化している(図17参照)。2024年の石油製品の中ではジェット燃料が前年比日量40万バレル(同5.3%の増加)と最も顕著に伸びており、これは新型コロナウイルス感染が収束したことに伴い個人の外出が促進されるとともに特に密室になりやすく新型コロナウイルス感染流行時には感染拡大懸念から利用が敬遠された航空機を利用した往来が活発化したことによるものであると見られる。しかしそれでも2023年(前年比同110万バレル(同17.4%)の増加)に比べれば、新型コロナウイルス感染流行沈静化に伴う航空機の利用客の回復が一服しつつあることもあり、増加ペースは鈍化している。また、特に軽油や重油と言った産業向けの石油需要は前年比で減少を示している。さらに、地域別に見ても、一部の地域を除き、2024年の世界石油需要の伸びは2023年のそれから鈍化している(図18参照)。2024年の世界経済成長率が3.3%と2022年(3.6%)、2023年(3.5%)から低減したうえ、2024年の世界消費者物価上昇率も5.7%と2022年(8.6%)、2023年(6.6%)からは鈍化したものの、なお高水準(因みに2017~21年の世界消費者物価上昇率は3.2~4.7%)であったことにより、消費者の支出意欲が後退するとともに、個人の外出や鉱工業生産及び物流活動が不活発化したことが、2024年の世界的な石油需要の伸びの鈍化をもたらしたものと考えられる。なお、2024年の石油消費の前年比の増減はOECD諸国が日量5万バレル(0.1%)増加の日量4,476万バレルであったのに対し非OECD諸国は同67万バレル(1.2%)増加の同5,666万バレルと非OECD諸国が伸びを牽引する格好となっている。


また、日本(同18万バレル(同5.3%)の減少)や中国(前年比日量19万バレル(同1.1%)の減少)において石油需要の減少が顕著である(他にも石油需要が前年割れしている諸国もしくは地域があるが、中国や日本程には石油需要量は減少していない)。日本については、2024年は円安が進んだ(2024年平均で1ドル=151.47円と2023年平均(1ドル=140.64円)及び2022年平均(1ドル=131.55円)から円安が進んだことが判明する)こともあり、円建ての原油価格が上昇するとともに、石油製品価格が高止まりしたことにより、同国石油需要が圧迫される格好となったことが背景にあるものと考えられる。また、中国については、国内でLNGトラック保有台数が増加したことにより軽油需要が減少した旨EIは指摘している。2024年は中国のLNGトラック販売は17.5万台程度、国内保有台数は90万台程度(2025年末までに約100万台に到達すると見る向きがある)と推定されるとともに、2024年は2,200万トン程度のLNGを消費したと指摘される。これにより、2024年は日量10万バレル程度の軽油がLNGに置き換えられたものと推測され(2024年の10年前である2014年前後はLNGトラック販売量が限定的であったものと推測されるため、2024年におけるLNGトラックの廃車等によるLNG需要への影響は限定的であったと思われることから、ここでは考慮しない)、これが同年の同国の軽油需要の前年比日量10万バレル程度の減少に反映される格好となっている。また、2024年の中国における電気自動車保有台数は前年比で710万台の増加となっているものと推定され、これも同国ガソリン需要の伸びの鈍化(2024年は前年比で日量8万バレル(2.3%)の増加と2023年の同37万バレル(12.3%)の増加から伸びが鈍化している)に影響しているものと考えられるが、中国で販売される電気自動車の80%はプラグインハイブリッド車であるとされ、その意味ではこのような電気自動車が完全にガソリン等の石油製品需要を置き換えるわけではないとの指摘もあり注意する必要があろう。他方、産業用に利用されているものと見られる重油(なお、発電部門における石油(主に重油であるものと見られる)投入量はEI統計によると2024年は前年比で増加しているものと推定される)や石油コークス等を含むその他の石油製品の需要が前年比でそれぞれ日量15万バレル及び同17万バレル減少することを含め、中国の不動産部門の不振等に端を発する同国経済減速(2024年の同国経済成長率は公式発表で5.0%と2023年の5.4%から鈍化している)ことにより、同国の石油需要の前年比での伸びが全般的に鈍化していることが、2024年の中国石油需要の前年比での減少に少なからず影響する格好となっている。
次に世界石油生産を見ることとする。2024年の世界石油生産量は日量9,689万バレルとなっており、前述の世界石油需要を相当程度下回っているが、これには精製処理活動を通じた石油の容積増加等が関連しているため、これを以て2024年の世界石油需給バランスは供給不足であったとは言い切れない(因みにIEAは2024年の世界石油需給バランスは概ね均衡しているものと認識している)。また2024年の世界石油生産量は前年比日量56万バレル(同0.6%)の増加となっており、2022年の同406万バレル(同4.5%)、2023年の同202万バレル(同2.1%)の、それぞれ増加から伸びが鈍化している(図19参照)。2021年8月から2022年9月にかけOPECプラス産油国が増産を継続したことにより、2022年の世界石油生産が増加したうえ、2022年2月24日以降のロシアのウクライナ侵攻に伴う米国等による対ロシア制裁等の動きにより2022年3月8日には原油価格が1バレル当たり123.70ドルの終値と2008年8月1日(この日の終値は125.10ドル)以来の高水準に到達するとともに2022年の平均原油価格も1バレル当たり94.33ドルと高水準となったことから、米国におけるシェールオイル等の開発・生産を巡る採算性が相当程度改善したこともあり、同国石油会社の事業活動が活発化するとともに、多少の時間差で以て米国のシェールオイル生産が拡大したことが、2023年の石油生産を押し上げる格好となった。しかしながら、2022年に上昇した原油価格はその後下落、2023年の平均原油価格は1バレル当たり77.61ドル、2024年は同75.76ドルとなったこともあり、米国におけるシェールオイルの開発を巡る採算性が悪化するとともに、石油企業の事業活動が不活発化した一方、2023年後半以降中国経済回復が不安定の様相を呈したこともありOPECプラス産油国が減産を強化したことが、2024年の世界石油生産の伸びの鈍化をもたらした一因となったものと見られる。なお、2022年は前年比日量119万バレルの増加であったシェールオイルを含む米国の石油生産量は、2023年には同151万バレルの増加と増加幅が拡大したが、2024年には同70万バレルへと増加幅が縮小している(図20参照)。


また、欧州連合(EU)が、2022年12月5日を以てロシア産原油、2023年2月5日を以てロシア産石油製品の、それぞれ輸入を原則禁止した。さらに、EU、G7及び豪州が、2022年12月5日にロシア産原油販売価格に対し1バレル当たり60ドル、2023年2月5日(日本は2月6日)にナフサ及び重油に対し同45ドル、その他軽質石油製品に対し同100ドルの、それぞれ上限価格を設定、上限価格を超過した石油取引に対しEU及びG7諸国等による輸送、通関、金融及び保険サービスの提供を禁止することとなった。しかしながら、当初はEUによるロシア産石油輸入禁止や石油販売上限価格の設定によりロシア産石油供給を巡る混乱が発生したものの、その後供給は平準化された結果、ロシアの石油輸出への影響は限定的なものにとどまった。そして、2024年の同国の原油輸出は日量487万バレルと2023年の同480万バレルから若干増加した(なお、2024年のロシア原油販売価格(FOB: Free on Board(本船渡し))は継続的に1バレル当たり60ドルを超過しているわけではなかったため、この面からもある程度は円滑にロシア産原油が輸出されていたものと推測される)他、2024年の同国の石油製品輸出も日量218万バレルと2023年の同202万バレルから増加している。また、2024年のロシア産原油の主な輸出先は中国及びインドであり(図21参照)、2024年のロシア産石油製品の主な輸出先は欧州(トルコ等の非EU諸国等)、中国及びその他旧ソ連種国である(図22参照)。なお、2024年のロシアの石油輸出量は日量704万バレルと2023年の同682万バレルから増加しているものの、2022年の同763万バレルから同59万バレル減少しているが、同時期サウジアラビアは同95万バレル減少している。つまりこれは、一部のOPECプラス産油国が2023年以降実施した自主的な減産の影響であるものと考えられ、西側諸国等による対ロシア制裁の強化によるものではないことが示唆される。他方、米国では伸びが鈍化したとはいえ、シェールオイルを含む石油生産が増加した一方、国内石油需要が伸び悩んだ結果、輸出が前年比で日量59万バレル程度増加している。


また、2024年は世界石油需要がもたつき気味となったことが製油所における原油精製処理量に影響を与えた一方、2024年はクウェート(アル・ズール(Al Zour(製油所(原油精製処理能力日量61.5万バレル))、ナイジェリア(ダンゴテ(Dangote)製油所(原油精製能力日量65万バレル))やオマーン(ドゥクム(Duqm)製油所(同日量23万バレル))において部分的にせよ製油所が稼働を開始したことに伴い原油精製処理能力が拡大した結果、2024年の世界の精製利幅が圧迫されるとともに製油所の稼働率は79%と2023年の80%から低下している(図23参照)。

(2) 天然ガス
2022年2月24日以降のロシアによるウクライナへの侵攻に伴う、西側諸国等による対ロシア制裁とロシアによる西側諸国等に対する事実上の報復措置の実施もしくは実施の可能性により、ロシア産石油及び天然ガス供給減少に伴う世界石油・天然ガス需給引き締まり観測から、2022年は原油及び天然ガス価格が大幅に上昇する場面が見られた(オランダTTF天然ガス先物価格は2022年8月26日に100万Btu当たり推定99.071ドルの終値に到達した他、米国天然ガス先物価格も同年8月22日に同9.680ドルの終値に到達した)こともあり、2022~23年は米国等においてシェールガスを含む天然ガス生産が活発化した反面、同時期天然ガス需要は抑制される格好となったことから、世界天然ガス需給緩和感が発生し、その後天然ガス価格は下落傾向となった。EI統計によれば、2022年平均では、米国天然ガス価格が100万Btu当たり6.38ドル、オランダTTF天然ガス価格が同37.09ドルであったところ、2023年にはそれぞれ同2.53ドル及び同12.87ドル、2024年はそれぞれ同2.25ドル及び同10.89ドルへと下落した。他方、価格が高水準であった時期には割高感から天然ガス購入を敬遠していた需要家等が価格下落に伴う割安感からより積極的に天然ガスを購入し始めたこともあり、2024年の世界天然ガス需要は日量3,983億立方フィートと前年比で日量98億立方フィート(2.5%)の増加となった他、過去最高水準に到達した(因みに2023年の世界天然ガス需要は日量3,885億立方フィートと前年比9億立方フィート(0.2%)の増加、2022年は日量3,876億立方フィートと前年比16億立方フィート(0.4%)の減少であった)。なお、2024年の天然ガス消費の前年比での増減はOECD諸国が日量19億立方フィート(1.1%)増加の日量1,721億立方フィートであったのに対し非OECD諸国が同79億立方フィート(3.6%)増加の同2,262億立方フィートと非OECD諸国が増加を牽引する格好となっている。そして、2024年はロシアの天然ガス生産がそれなりに増加した(ロシア産天然ガスの購買がそれなりに回復したことが背景にあるものと考えられる(後述))ものの、2024年の世界天然ガス生産は日量3,980億立方フィートととなり、同年の世界天然ガス需要を下回った(日量3億立方フィート下回っている)結果、多少なりとこの年は世界の天然ガス在庫が取り崩される格好となっている(なお、2022年の世界天然ガス生産は日量3,919億立方フィート、2023年は日量3,932億立方フィートとなっていることから、2022年は日量43億立方フィート、2023年は同48億立方フィート、それぞれ供給が需要を上回っている(つまり、在庫積み上げが進んでいる))(図24参照)。他方、ウクライナ侵攻に伴い西側諸国等からの制裁とそれに対する報復措置が事実上継続しているロシアにおいては、LNG輸出は日量43億立方フィートと前年(同41億立方フィート)比でほぼ横這いとなったものの、国内消費が日量460億立方フィートと前年比同21億立方フィート(4.9%)増加した(2024年の冬季期間が前年に比べ冷え込んだことにより暖房向け消費が喚起された他、農業部門での天然ガス導入が進んだことが増加の一因である旨ロシア国営ガス会社ガスプロムが明らかにしたと6月5日に伝えられる)他、パイプライン輸出が日量104億立方フィートと前年比同18億立方フィート(21.5%)増加したことから、それに対応するため同国の天然ガス生産が拡大したものと考えられる。なお、パイプラインによる天然ガス輸出は欧州諸国(現時点で唯一天然ガス輸送が可能な主要パイプラインであるトルコストリームを経由しているものと見られる)及び中国等向けのものが拡大している(図25参照)。


(3) 石炭、再生可能エネルギー、一次エネルギー需要、二酸化炭素排出量、及び発電量等
石炭価格は2021年から2022年にかけ大幅に上昇した(事故発生に伴う安全検査強化により中国での炭鉱操業が停止したことに加え、中国やインドネシアでの豪雨来襲に伴う洪水発生によりこれら諸国の炭鉱操業が停止したこと、新型コロナウイルス感染源調査を巡る豪州と中国の対立の高まりに伴う、中国の豪州産石炭輸入削減と他の産炭国からの石炭調達活動活発化により、世界的に石炭輸送面等で混乱が発生したこと、新型コロナウイルス感染収束に伴う経済回復過程で世界的に石炭需要が増加した反面石炭生産等のための労働力供給が円滑に行われなかったこと、2022年2月24日以降のロシアのウクライナ侵攻に伴う天然ガス価格の上昇に石炭価格が引きずられたこと等が背景にあるとされる)。しかしながら、これによりかえって2022年の石炭生産が活発化した結果、世界の石炭生産が石炭需要を相当程度上回るとともに、石炭需給バランスの緩和感を市場が意識するようになった結果、2023年以降の石炭価格に下方圧力が加わり始めた(図26参照)。このため、2024年の世界の石炭消費は前年比2エクサジュール(EJ: Exajoule)(0.9%)増加の165EJと過去最高水準に到達したものの、なお、生産量(2024年は182EJと前年比2EJ(0.8%)の増加)を相当程度下回る状況が継続した(図27参照)こともあり、世界石炭需給バランスの緩和感を払拭しきれなかった(また、この結果世界的に石炭在庫が積み上がったものと見られる)ことから、2024年の石炭価格は2023年からさらに下落している。なお、2024年の石炭消費の前年比での増減はOECD諸国が1EJ(4.1%)減少の24.40EJであったのに対し非OECD諸国が同3EJ(1.8%)の増加の140.66EJと、非OECD諸国が石炭消費増加を牽引する格好となっている。


他方、従来からフランスにおいては原子力発電所の運転期間の延長と安全性の強化を目指し2014~25年の予定で大規模なメンテナンス作業を実施中であったが、2020年以降の新型コロナウイルス感染拡大時にメンテナンス作業実施を延期した原子力発電所につき、改めてメンテナンス作業を実施したことに加え、一部原子炉の配管において腐食による亀裂が発生している旨判明したこと等により、2022年は同国の原子力発電所の相当部分が操業を停止した(同年8月25日時点では原子力発電能力6,137万kWのうちの半分超の3,600万kW相当分が稼働を停止したと伝えられる)。このため、同年のフランスにおける原子力発電量は低下する格好となった。しかしながら、それ以降メンテナンス作業等を実施した原子力発電所が操業を再開した(同国で稼働を停止した原子力発電能力は2022年末には6,137万kW中2,720万kW、2023年末には6,137万kW中1,569万kW、2024年末には6,137万kW中1,244万kWであった)こともあり、2024年の同国の原子力発電量は380TWhと2023年(338TWh)から42TWh増加した他、中国等一部諸国及び地域においても原子力発電量が増加したこともあり、2024年の世界原子力発電量も2,817TWhと前年比で80TWh(2.6%)の増加となっている。なお、2024年の原子力による発電量の前年比での増減はOECD諸国が50TWh(2.5%)増加の1,881TWhであったのに対し非OECD諸国が同29TWh(3.0%)増加の936TWhと、増加量ではOECD諸国が、増加率では非OECD諸国が、それぞれ伸びを牽引する格好となっている。
2024年の風力発電及び太陽光発電と言った再生可能エネルギー(水力を除く)は5,415TWhと前年比670TWh(13.8%)の大幅増加となったが、その中でも太陽光発電は2,112TWhで前年比461TWh(27.6%)増加と増加の過半を占めている(因みに2024年の風力発電は2,511TWhで前年比188TWh(7.8%)増加となった)。なお、2024年の再生可能エネルギー供給の前年比での増減はOECD諸国が198TWh(8.3%)増加の2,492TWhであったのに対し非OECD諸国が同472TWh(18.9%)増加の2,924TWhと非OECD諸国(特に中国の太陽光発電)が伸びを牽引する格好となっている(図28参照)。

そして、2024年の世界の発電量は31,256TWhと前年比で4.0%増加したが、これは同年の世界一次エネルギー消費増加率である1.8%の倍超であり、世界的に電力化が進みつつあることを示唆する。またエネルギー源別に見ると石油による発電量が前年比で1.7%減少した他、天然ガス(前年比2.5%増加)、石炭(同1.2%増加)及び原子力(同2.6%増加)による発電量の前年比での伸びは発電量全体の伸びを下回った反面、風力(同7.8%増加)及び太陽光(同27.6%増加)の増加率は発電量全体の伸びを上回るなど増加が著しく、特に太陽光発電の伸びが顕著であり(図29参照)、それらによる発電は米国、欧州及び中国等において着実に拡大している。この結果、総発電量に占める各エネルギー源の割合を見ると、石油(2023年の2.4%が2024年は2.2%)、天然ガス(22.7%が22.4%)、石炭(34.9%が34.0%)と、化石燃料の占める割合が低下した反面、風力(7.8%が8.0%)、太陽光(5.5%が6.8%)と、特に太陽光を中心とした再生可能エネルギーによる発電割合が上昇している。他方、米国においては、安価な天然ガスが入手できることから、天然ガスによる発電が相当程度拡大し続けている反面、老朽化した石炭火力発電所がガス火力発電所に置き換えられていることもあり、石炭による発電が縮小しつつある(図30参照)。欧州においては、天然ガス及び石炭による発電量は前年比で相当程度減少している(その分水力や太陽光による発電が相当程度伸びており、2024年においては、太陽光と風力による発電量が、天然ガスと石炭による発電量に肉薄している)(図31参照)。中国においては、依然として石炭による発電が主流であるが、石炭による発電量の前年比での増加率は1.3%である反面、風力が同12.5%、太陽光が同43.6%のそれぞれ増加となったことから、総発電量に占める石炭の割合は2023年の60.8%から2024年には57.8%へと低下している(図32参照)。




ただ、世界の一次エネルギー消費全体を見ると、非OECD諸国を中心として再生可能エネルギー消費が相当程度増加しているものの、2024年は石油、天然ガス、石炭、原子力及び水力といった各一次エネルギー消費も併せて増加したことにより、2024年の世界一次エネルギー消費に占める各一次エネルギーの割合は石油34%、天然ガス25%、石炭28%、原子力5%、水力3%、再生可能エネルギー(水力除く)6%と、2023年(石油34%、天然ガス25%、石炭28%、原子力5%、水力3%、再生可能エネルギー(水力除く)5%)から、再生可能エネルギーの占める割合が若干増加したものの、殆ど前年と同様の構成となっている(図33参照)。そして、非OECD諸国を中心として石油、天然ガス及び石炭といったいわゆる化石燃料の消費が前年比で増加するとともに過去最高に到達したこともあり、それら化石燃料から排出された二酸化炭素排出量もOECD諸国は前年比で7,000万トン(0.9%)減少の111億トンとなった反面、非OECD諸国は5億トン(2.0%)増加の244億トンとなったことから、世界全体の二酸化炭素排出量は355億トンと前年比5億トン(1.1%)の増加になるとともに過去最高水準に到達している。

以上
(この報告は2025年7月14日時点のものです)


