ページ番号1010572 更新日 令和7年8月18日

トランプ大統領が対露圧力を加えるべくインドに「二次関税」を課す大統領令に署名

レポート属性
レポートID 1010572
作成日 2025-08-15 00:00:00 +0900
更新日 2025-08-18 07:49:37 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 基礎情報
著者 原田 大輔
著者直接入力
年度 2025
Vol
No
ページ数 10
抽出データ
地域1 北米
国1 米国
地域2 旧ソ連
国2 ロシア
地域3 アジア
国3 インド
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 北米,米国旧ソ連,ロシアアジア,インド
2025/08/15 原田 大輔
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概要

  • 8月6日、トランプ大統領はウィトコフ特使及びプーチン大統領との間でモスクワにて行われた面談の結果を受けて、同日インドに対する「二次関税」(25%)を発動し、ロシアから直接的・間接的に石油を輸入するその他の国にも関税を課すことができるとする大統領令に署名。

<大統領令の骨子・留意点>

  • ロシア連邦の石油(Russian Federation oil)を直接的または間接的に輸入しているインドの物品の輸入に追加の従価税(ad valorem duty)25%を課す。8月27日から発動。
  • 商務長官は、国務長官、財務長官及び商務長官が適当とみなすその他の高官と連携し、他の国(any other country)がロシア連邦の石油を直接的または間接的に輸入しているかどうかを監視し、関税を課すべきか大統領に勧告する。
  • ベネズエラ産石油への追加関税(3月24日)では「関税が課される場合がある(may be)」と選択的規定だったが、今次インドに対する「二次関税」発動では関税率(25%)が加算される(shall be subject to)という断定的規定となっている。
  • 4月に超党派の議員が起草した制裁法案では原油、石油製品に加え天然ガスも対象となっており、対象となる国もロシアの「友好国」だけでなく米国以外のどの国も対象となる定義となっていた。今回の大統領令では対象がロシア産石油、対象国もインドと限定され、日本が輸入するサハリン2や欧州が輸入するヤマルLNG、「シベリアの力」及び「トルコストリーム」両パイプラインという固定インフラで天然ガス輸入を行う、代替の難しい中国及びトルコは対象外となっている。
  • ロシア産石油のG7による禁輸措置及び価格上限設定措置(プライスキャップ)が2022年12月以降実装されてから、それまでロシア産原油の海上輸出量の1~2%程度のシェアだったインドは、2022年3月~2025年7月実績平均で46%と急増し、中国(同34%)及びトルコ(同8%)と大差をつけて、ロシアにとっては最大の代替市場となってきた。
  • ロシア産原油はインドの原油輸入量の約35%を占め、2025年上半期にはインドのロシア産原油輸入量・日量180万バレルの約40%を国営が、約60%を民間精製業者が購入していた。二次関税が発動される可能性が指摘され始めた7月下旬から既にインド国営石油会社が、ロシア産原油の購入を停止し、8月についてはスポット市場で中東(特にUAEのマーバン原油)や西アフリカ産の代替グレードへ移行し始めている。
  • インドだけが今回ターゲットとなった理由としては、(1)大口顧客であるインドを対象としその効果を見極める。(2)米印との間で進捗が芳しくない関税交渉が影響を与えている。(3)長期契約かつパイプラインという固定インフラ(海上輸送程振替が容易ではない)で輸入する中国に対する配慮、が考えられる。

 

1. はじめに

8月6日、トランプ大統領はウィトコフ特使及びプーチン大統領との間で急遽行われた面談の結果を受けて、インドに対する「二次関税」(25%)を発動し、ロシアから直接的・間接的に石油を輸入するその他の国にも関税を課すことができるとする大統領令に署名した[1]。対露制裁はウクライナ侵攻直後に発動された一次制裁(2022年12月からのG7石油禁輸及びプライスキャップによる買い叩き戦略)から二次制裁への拡大(2023年以降)、そして、バイデン政権末期に発動された実質的なロシア産石油を市場から締め出す動き(2025年1月に発動された大規模な「影の船団」に対する二次制裁とロシア石油メジャー2社のSDN指定)と移行してきた。そして、今般、新たな制裁手法である「二次関税(Secondary Tariffs/ad valorem duty)」が実装され、世界的なロシア産石油の禁輸を強化していく新たな局面を迎えようとしている[2]

 

2. 「二次関税」発動を巡る経緯

「二次関税」について初めてトランプ大統領が言及したのは、3月30日だった。トランプ大統領はNBCニュースのインタビューの中で、プーチン大統領に対して失望しているとし、「もしウクライナでの流血を止めることに合意できなければ、二次関税(Secondary Tariffs)を課すつもりだ。ロシアから石油を買えば、米国でビジネスはできない。全ての石油(を輸入する国)に25~50%の関税だ」と発言し[3]、この新たな貿易措置を1カ月以内に課す可能性があるとも述べた。

3月24日には、ベネズエラ産石油(Venezuelan oil)を輸入する国に25%の追加関税を課す大統領令に署名しており[4]、タイミングからも同様のスキームを適用することが推察された。なお、同大統領令では「25%の関税が課される場合がある(a tariff of 25 percent may be imposed on all goods imported into the United States from any country that imports Venezuelan oil)」とされており、必ず発動されるわけではない書き方となっている。実際、4月以降もベネズエラ産原油は米国を含め輸出されており[5]、まだ「二次関税」の課税判断はなされていない。今回のインドに対する「二次関税」では、大統領令で「米国の関税地域に輸入されるインドの物品には、25%の従価関税率が加算されるものとする(shall be subject to an additional ad valorem rate of duty of 25 percent)」と規定されており、大きく異なっている。

また、時同じくして米国議会では対露強硬派・超党派が新たな制裁法案に関する議論を開始した。4月1日には、リンゼイ・グラハム議員(共和党)が「Sanctioning Russia Act of 2025[6]」を上院に提出し、少なくとも81人の超党派の圧倒的多数による支持を受けた。また、下院では同法案をベースにブライアン・フィッツパトリック議員(共和党)が83人の共同提案者を組織し、「H.R.2548 - Sanctioning Russia Act of 2025[7]」として起草した。

7月14日、就任から6カ月というウクライナ戦争収束に向けた期限を20日に迎える直前で、トランプ大統領は新たな動きを見せる。「ロシアが50日以内(9月2日まで)に停戦に応じなければ、ロシアの製品を輸入する国に対してアメリカが100%の二次関税を課す」とトランプ大統領が表明したことを受けて、上記超党派が起草している新制裁法案は夏休みの休会に入る前に月内にも採決が行われる可能性が出てきた。

超党派議員起草の法案骨子は、大まかに次の8つの制裁強化措置からなる。

  1. 制裁対象への更なる措置拡大(個人・金融機関・政府系機関)
  2. ロシアに関連する資金移動の禁止
  3. ロシア企業との取引の禁止(米国での上場・投資)
  4. SWIFT制裁
  5. ロシア産ウランの禁輸
  6. ロシア産石油、天然ガス、石油製品等全ての物品への関税強化(500%)
  7. CAATSA制裁法(235条:輸出管理規制/米・国際金融機関からの融資禁止)の発動
  8. 二次関税(ロシア産石油、ウラン、天然ガス、石油製品及び石油化学製品を購入する第三国/500%)

これらの中で最も注目されるのは、(8)二次関税(ロシア産石油、ウラン、天然ガス、石油製品及び石油化学製品を購入する第三国/500%)であり、それ以外は既に実装されている制裁と重複し、時限的に猶予を持たせてきた対象に対して即時発動させる等の違いしかない。

制裁法案第17項(b)にて二次関税の対象には、トランプ大統領が3月に述べ、ベネズエラ産石油に限定した大統領令と異なり、「ロシア連邦を起源とする石油、ウラン、天然ガス、石油製品、または石油化学製品(oil, uranium, natural gas, petroleum products, or petrochemical products that originated in the Russian Federation)」と拡大され、その対象国も「上記物品を販売、供給、輸送及び購入した国(A country is described in this subsection)」として、ロシアの「友好国」だけでなく米国以外のどの国も対象となる定義となっていた。このことは、日本にとってはサハリン2からのLNG及びLNG生産維持のために石油禁輸の例外が米国にも認められている同プロジェクトからの原油(サハリンブレンド)について対象となるのかどうかという重要な問題に派生する内容であり、法案には例外規定(第18項)があるも、もし例外が認められず、日本も対象となるということになれば、サハリン2からのLNG及び原油を輸入することが認められてきた日本だが、購入を継続すれば、日本から米国に輸入される全ての物品または役務に対する関税率が500%に引き上げられるとも読める内容となっていた。

しかし、7月24日になると、米上院共和党はこれら新たな対露制裁法案審議を一時停止することを急遽発表し、夏季の休会期間に入る前提で法案は早くても9月まで審議されないことになった。この背景にはトランプ大統領が既に「50日以内(9月2日)までの停戦」と期限を区切っていることやホワイトハウス主導での対露アクションを進めていくイニシアチブを、共和党を中心に明確に示したと考えられている。その後、「二次関税」を巡る動きは急速に進展を見せる。

7月28日には、スコットランドで開催された米英首脳会談にて、トランプ大統領が二次関税発動を前倒しで「10~12日以内(8月6日~8月8日)」に実施するとし、期限を9月2日から大幅に短縮することを明らかにした。さらに29日には、トランプ大統領「停戦合意に応じなければロシアに制裁関税を課す期限は今日から10日後(8月7日)だ」と畳み掛け、翌日の30日には、対象国も関税交渉が難航する最大のロシア産原油購入国であるインドに限定し、8月1日以降、25%の関税を課し、ロシア産原油購入継続に対して、更に「二次関税」を上乗せする考えを表明した。もちろん「二次関税」発動のトリガーはインドにはなく、ロシアが停戦に合意するか否かにある。その意思を確認するべく、ウィトコフ特使は8月6日早朝にモスクワに到着し、その午前中3時間に亘って、プーチン大統領とウィトコフ特使が会談を行った。11:50(モスクワ時間/ワシントン時間午前4:50)には大統領府がプーチン大統領とウィトコフ特使が面談を行ったという数行のリリースを出している[8]。そして、同日夜、ホワイトハウスがインドに対し25%の二次関税を課す大統領令を発表したのだった。

表1 トランプ政権における「二次関税」を巡る動向
日付 当事者 二次関税率 ロシア産対象物品 対象国 期限
3月30日 トランプ大統領 25~50% 石油 全ての国
4月以降 超党派上下院議員 500% 原油、天然ガス、ウラン及び石油製品 全ての国
7月14日 トランプ大統領 100% 製品 全ての国 50日以内
7月28日 トランプ大統領 10~12日以内
7月29日 トランプ大統領 10日後
7月30日 トランプ大統領 25% 石油 インド

出所:報道情報等からJOGMEC作成

 

3. 対印「二次関税」に関する大統領令における規定

8月6日にホワイトハウスが公表した大統領令及びファクトシートの要点は、以下の5つのポイントに分けることができる。

<大統領令及びファクトシート「トランプ大統領がロシア政府による米国に対する脅威について語る」要点>

  1. 大統領令14066号(2022年3月8日付け「ウクライナの主権と領土保全を損なうロシア連邦の継続的な取り組みに関する特定の輸入及び新規投資の禁止」に基づき、ロシア連邦の石油(Russian Federation oil)を直接的または間接的に輸入しているインドの物品の輸入に追加の従価税(ad valorem duty)を課す
  2. 米国の関税地域に輸入されるインドの物品には、25%の従価関税率が加算される。
  3. 8月27日から発動。但し、本大統領令発令日から21日後の東部夏時間午前12時01分以降に輸入され、9月17日東部夏時間午前12時01分以降より前に輸入され貯蔵庫から市場に出されたものを除く。
  4. 商務長官は、国務長官、財務長官及び商務長官が適当とみなすその他の高官と連携し、他の国(any other country)がロシア連邦の石油を直接的または間接的に輸入しているかどうかを監視し、その国の物品の輸入に25%の従価関税率を追加課すべきかどうかどの程度行動を起こすべきかを大統領に勧告する。
  5. 「ロシア連邦の石油(Russian Federation oil)」は、ロシア連邦から抽出、精製、または輸出される原油または石油製品を意味する。

このように、最終的には3つの点で当初巷間を騒がせていた内容からは限定されたものとなった。まず、対象がインドだけであるということ。その理由として同国によるロシア産石油の購入継続とその第三国への転売によってロシア政府に利益をもたらしたことを指摘。そして、関税率も最終的にこれまで出されていた数値の中では最も低い25%とされたこと。さらにロシア産原油及び石油製品とされ、超党派の議員草案にあった天然ガス及びウランは排除されたことである。天然ガスが含まれなかったことは自国産LNGを高値で販売したいという米国という一面がある一方、政権内では同盟国である欧州、日本に対する配慮や世界市場の安定化に対する良識が残っていることを示すものとも考えられる。また、ウランを対象としなかったことは2028年までの完全禁輸までにはロシア産ウランに米国でさえ依存せざるを得ないという触れられたくはない事実があるのかもしれない。

他方で、中国やトルコというインドに次ぐロシア産石油の大口顧客を対象としないのではなく、これらの国を含めロシア産石油を輸入しているかどうかを監視し、今後この二次関税を拡大する可能性についても担保する内容となっている。

 

4. ロシア産原油の海上輸送フローの現状

図1及び2にウクライナ侵攻前から足元8月までのロシア産原油の海上輸送の推移を示した。ロシアによるウクライナ侵攻によって、従前は数十カ国に多様化していたロシア産原油市場は、侵攻後、その9割超をインド、中国及びトルコに集約されてきた。月間平均輸出量は侵攻後最高を記録した2023年5月をピークに減少傾向を示している一方、足元の輸出量は侵攻前のレベルと大きく変わっていない。ロシア産原油の輸出量を大きく支えてきたのがインドであった。侵攻1年前には1.6%(日量4.8万バレル)だったインドのロシアからの輸入量は、2023年3月にはこれまでで最高の58.8%(同212万バレル)まで増加した。

図1 ロシア産原油の海上輸送量推移及び各月の中国、インド及びトルコのシェア(2018年1月~現在)
図1 ロシア産原油の海上輸送量推移及び各月の中国、インド及びトルコのシェア(2018年1月~現在)
出所:KplerデータベースからJOGMEC作成

ロシアの財政の本丸である石油収入を抑制するべく、2022年12月にはG7を中心にロシア産石油の禁輸措置及びロシア産石油価格上限設定措置(プライスキャップ)が発動された。ロシアは世界の原油供給の1割超を占め、サウジ及び米国に並ぶ大生産国であり、その禁輸の実装は、例えば既に米国二次制裁の対象となっているイラン(世界に占める生産量シェアはロシアの半分以下)等とは異なって、国際原油市場に大きな影響を与えることが予想された。その影響を回避するために生み出されたのが、ロシア産石油についてG7諸国を中心に禁輸する一方、制裁には参加する意図を示さない中国、インド及びトルコ等の国々に対してはそのフローを許しつつ、彼らにロシア産石油を買い叩かせる材料を与える戦略であった。G7による石油禁輸(なお、米英加は既に禁輸措置を3月から段階的に実施)、そして同時に発動された価格上限設定措置が市場におけるロシア産石油のリスクプレミアムを上げ、これらロシアにとっての「友好国」にロシア産石油を買い叩く材料となり、彼ら「友好国」がロシアの石油会社を買い叩き、ディスカウントされたロシア産石油を彼らが享受できるシステムを構築してきた。図1はその変遷を示すものでもある。

実際、ロシア産原油の大部分を占めるウラルブレンド(西方フロー:バルト海及び黒海から輸出)の価格と欧州市場の指標原油であるブレントの価格差を見てみると、ウクライナ侵攻後では最大では瞬間的にバレル当たり41ドルまでその値差(ディスカウント幅)は上昇した。しかし、市場が制裁措置に慣れ、安く、割引かれたロシア産原油に対し、インドやトルコ、中国等の買いが集まることで、ロシア産原油が人気を博している結果、上記の通り、海上輸送量は侵攻前の水準を維持しており、ディスカウント幅も縮小するという状況が石油製品禁輸措置を発動した直後の2023年2月から現在まで続いている。それでも図3の通り、国際原油価格に対する値差は足元ではバレル当たり11.5ドル~13.5ドルのレベルにある。

図2 ロシア産原油価格(ウラルブレンド)及び国際原油価格(ブレント)の推移
図2 ロシア産原油価格(ウラルブレンド)及び国際原油価格(ブレント)の推移
出所:公開情報よりJOGMEC作成

また、欧州及び英国による「影の船団」に対する制裁の拡大と今回の二次制裁発動によって、輸送費も高騰しており、黒海ノヴォロシースク港~トルコ間の傭船料は前週比30%増のバレル当たり3.6ドル(10万トン級アフラマックスタンカー1航路につき260万ドル)に達している。黒海からインドまでの輸送料金は前週比9~10%増の同6.8~7.4ドル、バルト海の各港からの輸送料金は7~8%増の同8.3~9ドルになったと報じられている[9]。この傭船費用(輸送に加え保険料)は原油価格のディスカウント幅とは別に、「影の船団」に対してロシアの石油会社が支払っているコストと考えられ、ロシアの石油収入を通常時に比べ減少させることに繋がる要素であるいうことは注目すべき点だろう。

 

5. インドの対応

ロシア産原油はインドの原油輸入量の約35%を占めている。2025年上半期にはインドのロシア産原油輸入量・日量180万バレルの約40%を国営が、約60%を民間精製業者が購入していた。

二次関税が発動される可能性が指摘され始めた7月下旬から既にインド国営石油会社が、ロシア産原油の購入を停止している[10]。インドの国営石油会社であるインド石油公社(IOC)、ヒンドゥスタン石油公社(HPCL)、バハラト石油公社(BPCL)、マンガロール製油所・石油化学会社(MRPL)が既に8月についてはスポット市場で中東(特にUAEのマーバン原油)や西アフリカ産の代替グレードへ移行し始めたという。他方で、民間精製業者であるリライアンス・インダストリーズ及び欧州制裁対象となったナヤラ・エナジーは、Rosneftとの原油長期供給契約を結んでいることから、購入を継続していると考えられている。一方で、リライアンスも10月積みのマーバン原油を購入し始めており、ロシア産原油輸入代替に向けた動きとも見られている。

トランプ政権による「二次関税」発動の動きを受けて、インド外務省は米国がロシア産のウラン、パラジウム、肥料を依然取引していることやEUも継続的にエネルギー取引を行っていること(LNGの購入)の偽善性を指摘し、「(米国による)インドへの攻撃は不当かつ不合理だ。他の主要経済国と同様に、インドは国益と経済安全保障を守るために必要なあらゆる措置を講じる。インドのロシア産原油輸入は、インドの消費者にとって予測可能で手頃な価格のエネルギーコストを確保することを目的としている」という声明を発表した[11]

インドに特化・標的とした制裁は今回が初めてではない。米国は2023年後半から既に「影の船団」に対する圧力を強め始め、Arctic LNG-2からのLNG輸送が試みられた2024年8月以降はインドの運航会社を含む「影のLNG船団」に対する制裁指定を米英EUが進めてきた。さらにこの7月18日にはEUが発動した第18次制裁パッケージにおいて「影の船団」に関わるバリューチェーン関係当事者への制裁が盛り込まれ、インド第二位の製油所能力(日量40万バレル)を有するヴァディナール製油所を保有するNayara Energy Limited(Rosneftが49.13%出資)、そして、「影の船団」として制裁指定された石油タンカー「ARGENT号/改称後JAGUAR(IMO9293002)」のインド人船長(Abhinav KAMAL)を制裁指定している(図4)。また、EUはロシア産原油を起源とする第三国経由での石油製品の禁輸(2026年1月以降)も盛り込んでいるが、これはEUが安価なロシア産原油からインドの精油所が精製した石油製品を輸入している現状からの決別を図ろうとするものでもある。

8月6日の「二次関税」発動の大統領令発表直後、インド石油業界筋によれば全ての企業が商業的に有利な取引を支持しており、インドは引き続きロシア産原油、あるいはより安価な原油の購入を継続している一方、今後、ロシア産輸入量は減少していく可能性があると述べていた。発動期日も8月27日と設定されていることもあり、現時点ではロシアとの取引は停止していない模様である[12]

インド石油省は12日、議会に提出した報告書の中で、国営石油精製業者はロシア産原油の将来的な安価な購入の見通しが立たないため、石油供給を確保し、市場のボラティリティをヘッジするためにターム契約を活用すると述べた。また、インドへのロシア産原油輸入の増加は永遠に続くわけではないとし、他のサプライヤーとの契約交渉を進めていることを明らかにしている[13]

Kplerのデータによると、制裁が発動する27日前後には総量で1,600万バレルを積載する約20隻のアフラマックス及びスエズマックスがインドに到着する航路を取っていることが判明している。インドの精製業者は通常、制裁発効日の数日前から制裁対象のロシア産原油の受け入れを停止すると見られており、その動向や受け入れ先がどこに変更されるのかが注目される[14]

図3 欧州による第18次対露制裁パッケージ
図3 欧州による第18次対露制裁パッケージ
出所:JOGMEC取り纏め
別表:EU第18次制裁パッケージでリストされた船舶(105隻)
出所:JOGMEC取り纏め

6. 現状注目される点

トランプ政権によるインドへの「二次関税」の発動に関して、この新しい制裁手法がどのような影響をもたらすのか否か依然不明な点も多い。現時点で注目される点について既述の点も含め以下4点を指摘したい。

 

(1) 対象はロシア産原油及び石油製品

議員起草案にある天然ガスが対象とはならず、対象国もインドと限定された。サハリン2、ヤマルLNG、対中天然ガスパイプライン「シベリアの力」及びトルコ向け「トルコストリーム」は対象とならず、ガス市場への影響を回避する姿勢とEU及び日本等同盟国に対する配慮も見られる内容となった。

 

(2) なぜインドだけが対象となったのか

現在ロシア産原油については、インド(2022年3月~2025年7月実績平均で46%)以外では、中国(同34%)及びトルコ(同8%)を輸入しており、インドが制裁後のロシアの最大の代替市場となってきた。また、欧米の制裁設計では、石油製品を禁輸しながらも第三国(インド)がロシア産原油を輸入し、同国で精製された石油製品を欧州諸国が輸入することは可能となってきた(但し、上記の通り第18次制裁パッケージで2026年1月から禁止となっている)。インドだけが今回ターゲットとなった理由としては次の3点が推察されるだろう。

  1. 大口顧客であるインドを対象としその効果を見極める。
  2. 米印との間で進捗が芳しくない関税交渉が影響を与えている。
  3. 長期契約かつパイプラインという固定インフラ(海上輸送程振替が容易ではない)で輸入する中国に対する配慮。

 

(3) 関税率(従価関税率)と猶予期間

関税率が当初いくつか出てきた選択肢(500%、100%、50%~25%)の中では最も低い25%設定となったこと、そして、関税が実装される期日(8月27日)に2週間程度の余裕を見ていることからトランプ政権による対インド・対ロシアへの配慮が窺える内容と見ることもできる。他方、インドを実証対象としてどのような効果があるのか(インドが米国市場を重視するのか、米国市場を失ってもロシア産石油購入をこの関税レベルでは選ぶのか)を見定め、今後関税率を上げる伸び代を温存し、他国への拡大も視野に入れている内容ともなっている。

 

(4) ロシアの対応

ウィトコフ特使訪莫の6日当日に「二次関税」の発動に向けた発表が出されたことは(モスクワ時間11:50に大統領府がリリースを行い、ホワイトハウスによる「二次関税」発動のリリースは同日夜だった)、3時間に及ぶプーチン大統領との面談では停戦に向けた合意は取り付けられなかったということを意味した。8月15日に米露首脳会談がアラスカ州アンカレジのエルメンドルフ空軍基地で行われることとなり、プーチン大統領及びウィトコフ特使との面談でもその調整が議題に含まれていたことは確実である(場所は当初はUAEも候補であった)。現状、ロシア政府としてはインド(や中国・トルコ)の反応を見ながら対応する方針だろう。しかし、その選択肢もこれらの国を繋ぎとめるためのロシア産石油に対する更なるディスカウントの提示等に限られる。また、「二次関税」が機能するのか否か実際に判明するまでは、今回の措置がロシア側に対する停戦に向けた十分な圧力となるのかどうかは分からない。

 

 

[2] これまでの対露制裁の経緯と効果については拙稿「対露制裁の最新状況とその効果:ディスカウント戦略から真の禁輸、「二次関税」の発動か」(2025年4月23日)を参照されたい。https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1010309/1010476.html

[5] Kplerデータベースによれば2025年4月には日量77.1万バレルのベネズエラ産原油が、中国(68%)、米国(18%)、インド(9%)、キューバ(3%)等に輸出された。

[6] 「Sanctioning Russia Act of 2025」:https://www.congress.gov/bill/119th-congress/senate-bill/1241(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[7] 「H.R.2548 - Sanctioning Russia Act of 2025」:https://www.congress.gov/bill/119th-congress/house-bill/2548/text/ih?format=xml(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[8] ロシア大統領府:http://kremlin.ru/events/president/news/77717(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[9] コメルサント(2025年8月1日):https://www.kommersant.ru/doc/7926386(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[10] ロイター(2025年8月1日)

[11] IOD(2025年8月4日)

[12] Tass(2025年8月8日)

[13] ロイター(2025年8月12日)

[14] IOD(2025年8月11日)

 

以上

(この報告は2025年8月15日時点のものです)

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