ページ番号1010573 更新日 令和7年8月18日

原油市場他: 対ロシア制裁強化の表明で上昇する場面が見られるも、世界石油需給緩和見通し等により下落する原油価格

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レポートID 1010573
作成日 2025-08-18 00:00:00 +0900
更新日 2025-08-18 13:07:04 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2025
Vol
No
ページ数
抽出データ 44
地域1 グローバル
国1
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国8
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地域10
国10
国・地域 グローバル
2025/08/18 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、7月4日の留出油在庫が20年超ぶりの低水準となったこともあり、軽油製造利幅が拡大したことで、製油所が留出油製造をガソリン製造に比べより優先したことから、留出油在庫は増加したが、平年幅下限付近に位置する量となった反面、ガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する量となった。また、米国国内原油生産及び原油精製処理量が概ね横這いで推移したこともあり、原油在庫は限られた範囲内での変動となった他、平年幅上限を上回る量となっている。
  2. 2025年7月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国ではほぼ横這いであった。ただ、欧州や日本においては装置不具合の改修完了で製油所での原油精製処理活動が活発化したこともあり原油在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では留出油等を中心に在庫は増加した。ただ、欧州では夏場のドライブシーズンに伴い軽油需要が喚起されたことで軽油を中心に石油製品在庫が減少した他、日本においては、7月の気温が大幅に上昇したこともあり空調の稼働が活発化したことで乗用車や商用車の燃費が悪化したこと等によりガソリンや軽油需要が相対的に堅調となったことから、それら製品を中心に石油製品在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫はほぼ同水準となった他、平年並みの量となっている。
  3. 2025年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場においては、7月中旬から下旬半ば頃にかけては、8月1日とされた米国のトランプ大統領による追加関税賦課猶予期限までに、米国と主要貿易相手国及び地域との間で取引が成立するかどうかを巡り不透明感が強まりつつあったこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は多少なりとも下落傾向となった。しかしながら、10日以内にウクライナとの間で停戦しなければ、ロシアに対し制裁を強化する旨7月28日に米国のトランプ大統領が表明したことにより、ロシアからの石油を含むエネルギー供給途絶懸念が市場で増大したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となり、7月30日には1バレル当たり70.00ドルの終値と6月20日以来の高水準に到達した。しかしながら、8月12~13日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)及び国際エネルギー機関(IEA)が、世界石油需給緩和拡大を示唆する見通しを明らかにしたこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は下落傾向となり、8月13日は1バレル当たり62.65ドルの終値と6月2日以来の低水準に到達した。
  4. 今後、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了に向かうとともに、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることが、原油相場に下方圧力を加える可能性がある。また、中国経済回復がもたつき気味となるとともに同国石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が原油価格を抑制することもありうる。他方、ウクライナとロシアとの間での戦闘停止を巡る当事者や米国及び欧州、そしてロシア産原油等を引き取る中国やインドを含む関係者間の動向によって、ロシアからの石油を含むエネルギー供給を巡る観測が発生するとともに、それが原油相場に織り込まれることも想定される。加えて、中東情勢、米国当局による金融政策、米国メキシコ湾地域へのハリケーン等暴風雨来襲状況等が原油相場に影響を与えていくものと考えられる。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2025年5月の米国ガソリン需要(確定値)は推定日量906万バレル、前年同月比3.6%程度の減少と、4月の当該需要(確定値)である日量891万バレル(前年同月比0.9%程度の増加)から、需要量は増加したものの前年同月比では増加から減少に転じた(図1参照)。また、当該需要は速報値(前年同月比6.2%程度減少の日量881万バレル)から上方修正されている。5月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量88万バレル程度と推定されたところ確定値では同72万バレルへと下方修正されたことにより、速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に寄与しているものと見られる。また、2025年5月の米国の気候が前月比で温暖となるとともに夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(2025年は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月26日)に伴う連休(5月24~26日)から労働者の日(レイバー・デー)(9月1日)に伴う連休(8月30日~9月1日)までである)に突入したこともあり、個人の外出が相対的に促されたことが前月比でのガソリン需要を増加させる形で作用した。さらに、2025年1月20日に米国大統領に就任して以降、トランプ氏は貿易相手国及び地域からの輸入製品に対し関税を賦課する方針を表明するとともに、実際にそれを実行に移しつつある他、4月9日午前0時1分(米国東部時間)を以て全ての国及び地域からの輸入品に対し一律10%の相互関税を賦課したことにより、5月に入り米国経済減速を巡る懸念が消費者間で増大しつつあったこともあり、5月の実質個人消費支出の前年同月比の伸びが4月に比べ鈍化している(併せて5月の実質可処分所得の前年同月比での増加率も4月のそれから縮小している)ことから、5月の米国自動車運転距離数の前年同月比での伸びが鈍化する(5月の自動車運転距離数は推定1日当たり95億マイル、前年同月比0.5%増加と4月の同1.5%増加から伸びが鈍化した)とともに、5月の同国ガソリン需要に影響しているものと考えられる。なお、2025年5月の米国ガソリン需要は、新型コロナウイルス感染拡大前の時点である2019年5月の当該需要(日量950万バレル)(確定値)を4.6%程度下回っている。他方、2025年7月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量894万バレル、前年同月比3.9%の減少と5月の当該需要(速報値)である日量920万バレル(前年同月比0.8%程度の増加)から需要量が減少した他前年同月比では増加から減少に転じた。7月8日正午過ぎ(米国東部時間)に米国のトランプ大統領は、自国が輸入する銅に50%の関税を賦課する意向である旨表明した。加えて、8月1日にブラジルに対し50%の関税を賦課する方針である(併せてブラジルのボルソナロ前大統領に対する起訴を取り下げるよう要求する)旨トランプ大統領が7月9日夕方(米国東部時間)に明らかにした一方、7月10日にブラジルのルラ大統領は報復措置を講じる可能性がある旨表明した。また、8月1日を以て欧州連合(EU)及びメキシコからの輸入品に対し30%の関税を賦課する意向である旨7月12日午前(米国東部時間)にトランプ大統領が明らかにした。このようなものを含め、米国と貿易相手国及び地域との間での貿易問題を巡っては、双方による協議を通じ一部合意に至った結果関税率が当初よりも引き下げられたものもあるが、トランプ大統領就任以前から比べると米国への輸入品に対する関税率は引き上げられる格好となったことにより、米国経済減速に対する懸念が市場で拡大したこともあり、7月の米国の個人実質可処分所得や支出の前年同月比での伸びが鈍化するとともに、同国の自動車運転距離数の前年同月比での伸びが鈍化した(7月の自動車運転距離数は推定1日当たり95億マイル、前年同月比1.0%増加と、6月の同1.7%の増加から伸びが鈍化した)。このような要因が、同月の米国ガソリン需要を抑制したものと考えられる。なお、2025年7月の米国ガソリン需要は2019年7月の当該需要(日量953万バレル)(確定値)を6.3%程度下回っている。また、米国では、春場のメンテナンス作業が終了した反面、装置の不具合が頻発したわけではなかったことから、製油所の原油精製処理活動は堅調に推移した(図2参照)。しかしながら、留出油需給が引き締まり気味になったこともあり留出油製造を巡る収益が改善したことにより、製油所は相対的に留出油製造に注力する(後述)とともに、ガソリン製造が劣後した結果、ガソリン生産がもたつき気味となったものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図4参照)。このため、7月上旬から8月上旬にかけ米国ガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する量となっている(図5参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2015~25年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~25年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~25年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~25年)

2025年5月の米国留出油需要(確定値)は推定日量379万バレル、前年同月比で0.3%程度の増加となり(図6参照)、4月の日量388万バレル(前年同月比で2.2%程度の増加)(確定値)と比べ、需要量が減少した他前年同月比での増加率も縮小した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比6.2%程度減少の日量355万バレル)からは上方修正されている。5月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量134万バレル程度と推定されたところ確定値では同113万バレルへと下方修正されたことにより、速報値から確定値へと移行する段階で、この下方修正部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に寄与しているものと見られる。1月20日の就任以降、トランプ大統領が他の諸国及び地域に対し賦課しつつあった関税の米国経済への影響が徐々に現れつつある(5月の米国鉱工業生産は前年同月比0.7%の増加と4月の同1.3%の増加から伸びが鈍化した)ことが、同国の留出油需要に影響しているものと考えられる。なお、2025年5月の米国留出油需要は2019年5月の当該需要(日量411万バレル)(確定値)を7.8%程度下回っている。他方、7月の米国留出油需要(速報値)は推定日量354万バレル、前年同月比で4.2%程度の減少となり、5月の当該需要(速報値)である同376万バレル(前年同月比4.5%程度の増加)から、需要量が減少したうえ前年同月比では増加から減少に転じた。米国と貿易相手国及び地域との間での関税等を巡る交渉については、一部で取引が成立した結果、関税が当初想定された水準からは引き下げられているものの、トランプ大統領就任前に比べれば関税率は上昇している他、新たな関税賦課方針をトランプ大統領が表明する場面が見られたこと(前述)により、米国経済減速懸念が広がりつつあることが、7月の米国留出油需要に影響しているものと考えられる。ただ、7月の米国鉱工業生産の前年同月比の増加率は1.4%と6月の0.8%から伸びが拡大している(追加関税賦課猶予期限が到来することにより、米国と貿易相手国及び地域との間での貿易戦争が再開するとともに貿易相手国及び地域が米国に対し報復関税を賦課する前に、駆け込みで製品を製造し輸出すると言った動きが発生していることが背景にあるものと見られる)こともあり、7月のみならず6月の米国留出油需要が速報値から確定値に移行する段階で修正されたり6~7月の留出油需要の伸びの反動が8月以降に発生したりすることもありうるので注意する必要があろう。なお、7月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量391万バレル)(確定値)を9.6%程度下回っている。また、2024~25年の欧米諸国の冬場の気温が低下する場面が見られたことにより、両地域において暖房向けの留出油需要が喚起されたうえ、欧州において夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期(欧州では乗用車としてディーゼル車が相当程度普及している)を控える中、地中海地域等において6月上~中旬を中心として製油所で予期せぬ稼働の停止が発生したことにより、欧州及び米国の留出油在庫が低迷した(7月4日の米国留出油在庫は1.03億バレルと2005年4月29日(この時は1.02億バレル)以来の低水準に到達した他、欧州石油産業の中心地の一つであるアムステルダム、ロッテルダム及びアントワープ(ARA)地域における軽油在庫も2025年7月31日に推定1,300万バレル弱程度の量と2024年1月25日(この時は同1,200万バレル台後半程度)以来の低水準に到達した)ことに加え、6月13日から24日にかけイスラエルとイランが戦闘状態となったこともあり、中東方面から欧州方面への軽油の供給に支障が発生するかもしれないとの懸念が増大したこともあり、世界的に軽油需給の引き締まり感が強まった結果、軽油製造を巡る利幅が拡大するとともに、米国の製油所において軽油製造に傾注する場面が見られるとともに軽油生産が拡大した(図7参照)。このため、7月上旬から8月上旬にかけての米国の留出油在庫は増加傾向を示したが平年幅下限付近に位置する量となっている(図8参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2015~25年)

図6 米国の留出油生産量(2009~25年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~25年)

2025年5月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比2.3%程度減少の日量2,032万バレルとなり(図9参照)、4月の同2,021万バレル(前年同月比1.0%程度の増加)から、需要量は増加したものの、前年同月比では増加から減少に転じた。また、ガソリン及び留出油等の需要が速報値から確定値に移行する際に上方修正されたことから、米国石油需要も速報値(前年同月比4.8%程度減少の日量1,981万バレル)から上方修正されている。5月は4月に比べ気候が温暖となったこともあり、個人の外出が活発化するとともにガソリンの需要が前月比で増加したものの、ガソリン及び留出油の両需要が前年同月比で減少となったことから、5月の米国石油需要は前月比では増加したものの前年同月比では減少したものと考えられる。なお、2025年5月の米国石油需要は2019年5月の当該需要(日量2,039万バレル)(確定値)を0.3%程度下回っている。他方、2025年7月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,064万バレル(前年同月比で0.8%程度の増加)となっており、6月の同国石油需要(速報値)である日量2,040万バレル(前年同月比0.7%程度の増加)から需要量が増加した他前年同月比でも増加率が若干ながら拡大している。ただ、前月比及び前年同月比での増加の相当部分はその他石油製品によるものとなっており、当該需要は日量525万バレルと2024年6月~2025年5月の同需要(確定値)である同416~483万バレルと比較しても明らかに高水準であるため、速報値から確定値に移行する段階で当該需要とともに同国石油需要が下方修正される可能性があるので注意する必要があろう。なお、2025年7月の米国石油需要は2019年7月の当該需要(日量2,074万バレル)(確定値)を0.5%程度下回っている。また、米国における原油生産が概ね安定して推移する一方、同国の製油所における原油精製処理量が比較的高水準を維持したものの、併せて原油輸入も堅調であったこともあり、7月上旬から8月上旬にかけての米国原油在庫は概ね限られた範囲内で変動し、明確な増加もしくは減少の傾向を示さなかったうえ、平年幅上限を超過する状態は継続している(図10参照)。そして、留出油在庫が平年幅下限付近に位置する量となっている反面、原油及びガソリン両在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図11及び12参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2015~25年)

図9 米国原油在庫推移(2003~25年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~25年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~25年)

2025年7月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国ではほぼ横這いであった。ただ、欧州や日本においては不具合が発生していた装置の改修が完了したことに伴い稼働が上昇するとともに製油所での原油精製処理活動が活発化したこともあり原油在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国では留出油に加え、気温が上昇するとともに暖房向けの需要が低下したプロパン、冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品向けの混入が減少したブタンを含むその他の石油製品の、各在庫が増加したこと等もあり、在庫は増加した。しかしながら、欧州では夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期に突入したことにより軽油需要が喚起されたこともあり軽油を中心として石油製品在庫が減少した他、日本においては、ガソリンや軽油の小売価格が比較的抑制気味で推移する中、7月の気温が大幅に上昇したこともあり、個人の乗用車による外出が促進されるとともに乗用車の空調機器稼働が活発化したことに伴い燃費が悪化したことで、ガソリン需要が喚起されたうえ、気温上昇に伴う商用車等の空調機器稼働活発化による燃費悪化により、軽油の需要が堅調となる格好となったことから、これら製品を中心として石油製品在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の石油製品在庫はほぼ同水準となった他、平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となる一方、石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から増加した他、平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。また、2025年7月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.6日と6月末の推定在庫日数(59.9日)から減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~25年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~25年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~25年)

7月9日に1,200万バレル強程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、7月16日には1,200万バレル台前半程度、7月23日には1,300万バレル弱程度の、それぞれ量へと増加した。7月30日には1,200万バレル台後半程度の量へと減少したものの、8月6日は1,300万バレル強程度、そして、8月13日には1,400万バレル台前半程度の、それぞれ量へと増加した。この結果、8月13日の当該在庫量は7月9日を上回る格好となった。春場のメンテナンス作業を実施していたアジア諸国及び地域の製油所が、作業を完了させるとともに、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に向け稼働を上昇するとともに、併せてガソリンの製造活動を活発化させつつあったことが、シンガポールにおける軽質留分在庫を増加させる方向で作用したものと見られる(また、2023年5月22日に操業を開始したナイジェリアのダンゴテ製油所(操業者:ダンゴテ・インダストリーズ、原油精製処理能力日量65万バレル)で製造されたガソリンが国外に輸出されていることもあり、供給が過剰気味となった中東産のガソリンがアジア市場に流入していることがシンガポールにおける軽質留分在庫増加に寄与している側面があると示唆する向きもある)。そして、アジア市場においても、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあることが、同市場におけるガソリン価格に上方圧力を加える格好となったものの、シンガポールにおいて軽質留分在庫が増加傾向となったことに加え、国内ガソリン需要が軟調である中国(経済がもたつき気味であることが背景にあるものと見られる)や雨季(モンスーン)に突入した結果個人の外出が敬遠されるとともにガソリン需要が低調となったインドからのガソリン輸出が拡大する反面東南アジア諸国においてもモンスーン突入に伴い個人の外出が低迷するとともにガソリン需要が抑制されるとの見方が市場で発生したうえ、一足先に夏場のドライブシーズンに突入した米国においてもガソリン需要が盛り上がりを欠いていることもあり、米国及び米国にガソリンを輸出している欧州においてガソリン需給に緩和感が感じられるとともに、米国等におけるガソリン価格に下方圧力が加わった影響を、アジア市場が受ける格好となったことにより、7月中旬から8月上旬頃にかけての同市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(この場合、ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は、上下変動を繰り返しつつも、総じて拡大もしくは縮小の傾向は明確には示されないまま、比較的限られた範囲で変動したものの、4月下旬から7月上旬頃までの期間と比べ、価格差は縮小したままとなった。ただ、8月中旬においては、ドバイ原油価格下落にガソリン価格下落が追い付かない場面が見られた結果、ガソリンとドバイ原油との価格差は多少なりとも拡大している。

また、アジア市場における夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要到来に伴い、ガソリン製造のための原料となるナフサ需要が季節的に盛り上がるとの観測が発生したことが同製品価格に上方圧力を加える格好となったものの、シンガポールにおける軽質留分在庫が増加傾向となったことに加え、夏場のドライブシーズン突入に伴うガソリン需要が十分に盛り上がり切っていないこともあり、アジア市場においてガソリン需給の緩和感が意識されていることにより、アジア市場等におけるガソリン価格に下方圧力が加わるようになったことが、ガソリンの原料となるナフサの需要に影響していることに加え、プロパン価格が夏場の不需要期に突入していることもあり軟調に推移している(プロパンは冬場の暖房シーズンが需要期でありそれに併せて価格も堅調となる)ことが、石油化学製品製造のための原料としてプロパンと競合するナフサ価格に下方圧力を加える形で作用した。さらに、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が意識され始めている米国からアジア市場に向けナフサが輸出されていることや、米国による中国に対するエタン(プロパン同様これも石油化学製品製造のための原料としてナフサと競合する)輸出規制(米国商務省が5月23日付けで輸出者に対しエタン輸出を許可制とする旨の通知を送付した旨伝えられる)を7月2日に米国商務省が事実上解除したことにより、当該製品の中国への輸出が円滑化するとの観測が市場で発生したことも、アジア市場におけるナフサ需給の緩和感を強める格好になるとともに、アジア市場におけるナフサ価格に下方圧力が加わることとなった。結果として、7月中旬から8月中旬にかけてのアジア市場におけるナフサとドバイ原油との価格差(この場合、ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は上下に変動しつつも拡大及び縮小の明確な傾向を示すには至らなかった。

7月9日には900万バレル台後半程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料を含む中間留分在庫は、7月16日には、900万バレル強程度、7月23日には700万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。7月30日には800万バレル台半ば程度、8月6日には800万バレル台後半程度、そして8月13日には900万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと回復したが、8月13日の当該在庫量は7月9日の水準を若干ながら下回っている。2024~25年の冬場において気候が相当程度寒冷となる場面が見られた米国や欧州において暖房向けの軽油需要が盛り上がったうえ、2025年1月20日に米国大統領に就任したトランプ氏が欧州や中国等を含む貿易相手国及び地域に対し一連の関税を賦課したものの、その後一部関税賦課を一定期間猶予したことにより、猶予期間終了に伴う米国の関税賦課開始に対抗して貿易相手国及び地域が報復関税を賦課する前に、米国において前倒しで製品を製造及び輸出したこともあり、製造部門や輸送部門において軽油需要がある程度支持されたことにより、米国や欧州において軽油在庫が減少した(この結果、7月4日の米国留出油在庫は1.03億バレルと2005年4月29日(この時は1.02億バレル)以来の低水準に到達した他、欧州石油産業の中心地の一つであるアムステルダム、ロッテルダム及びアントワープ(ARA)地域における軽油在庫も2025年7月31日に推定1,300万バレル弱程度の量と2024年1月25日(この時は同1,200万バレル台後半程度)以来の低水準に到達した)。このようなことから中東やインドから欧州方面へ軽油等が流出した反面、それら諸国及び地域からシンガポール方面への軽油流入が鈍化したしたことが、7月23日にかけてのシンガポールにおける中間留分在庫減少傾向の背景にあるものと考えられる。しかしながら、アジア市場において夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来に伴い製油所の稼働が上昇した結果、石油製品の製造活動が活発化するとともにガソリンのみならず軽油の生産が促進された他、世界各地域における軽油在庫等の減少に伴う軽油需給引き締まり感の強まりもあり軽油製造を巡る利幅が上向いたことにより、アジアにおける製油所もより軽油の製造に注力するようになったことが、シンガポールにおける中間留分在庫を回復させる格好となったものと考えられる。そして、シンガポールにおける中間留分在庫が減少傾向となった7月中旬から下旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油との価格差(この場合、軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向が認められたが、それ以降は、原油価格の上昇に軽油価格の上昇が追い付かない場面が見られたうえ、インドや東南アジアにおけるモンスーン到来による、建設工事や道路工事の不活発化等により産業部門や輸送部門における軽油需要がもたついたことに加え、シンガポールにおける中間留分在庫が増加に転じたこともあり、軽油とドバイ原油との価格差は縮小する傾向を示している。

7月9日には2,400万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、7月16日には2,300万バレル台半ば程度の量へと減少した。しかしながら、7月23日に2,300万バレル台後半程度、7月30日には2,400万バレル台後半程度、8月6日には2,600万バレル台前半程度の、それぞれ量へと増加した。この結果、8月6日のシンガポールの重油在庫は2024年12月18日(この時は2,900万バレル弱程度の量)以来の高水準に到達した。8月13日には当該在庫は2,400万バレル台後半程度の量へと減少しており、7月9日の量を若干ながら下回っているが、依然高水準(前年同期は1,800万バレル台前半程度の量であった)を維持している。世界各国及び地域において、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来もあり製油所の稼働が上昇するとともに石油製品の製造活動が活発化したこともあり、ガソリンとともに重油の生産が堅調となった他、OPECプラス有志8産油国による増産継続に伴い中質や重質高硫黄原油の供給が増加するとともに、それらを製油所で精製した結果重油の供給が拡大した一方、インドにモンスーンが到来したことに伴い道路工事を含め産業活動が減速したことにより道路工事向けのアスファルトの需要が低迷するとともにその原料となる重油が余剰となった結果同製品が同国から輸出された他、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の推進により、米国へ、もしくは米国から製品を輸送する船舶向けの重油需要が影響を受ける場面が見られたことから、中東等での空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における重油需要の増加(但し気温が大幅に上昇しているわけではないことから、当該需要は盛り上がりを欠いている他、夏場の高気温時期の終了が視野に入っていることもあり、余剰となった重油が中東からシンガポールに流入してきていると見る向きもある)や、中国での製油所の稼働上昇に伴う石油製品製造のための原料となる重油需要の拡大にもかかわらず、シンガポールにおける重油在庫が下支えされているものと考えられる。そしてこのように、シンガポールにおける重油在庫が高水準で推移していることが、アジア市場における高硫黄及び低硫黄重油の価格に下方圧力を加えたものの、7月末から8月中旬頃にかけ原油価格の下落に重油価格の下落が追い付かない場面が見られたこともあり、7月中旬から8月中旬にかけての同市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)及び低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合、低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は上下に変動しつつも明確に拡大及び縮小の傾向を示すことなく推移した。

 

2. 2025年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場等の状況

2025年7月中旬から8月中旬にかけての原油市場においては、7月の中旬から下旬半ば頃にかけては、8月1日とされた米国のトランプ大統領による相互関税の追加部分賦課猶予期限までに、米国と主要貿易相手国及び地域との間で取引が成立するかどうかを巡り不透明感が強まりつつあったこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は多少なりとも下落傾向となった。しかしながら、10日以内にウクライナとの間で停戦しなければ、ロシアに対し制裁を強化する旨7月28日に米国のトランプ大統領が表明したことにより、ロシアからの石油を含むエネルギー供給途絶懸念が市場で増大したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は上昇傾向となり、7月30日には1バレル当たり70.00ドルの終値と6月20日以来の高水準に到達した。しかしながら、ロシアからの石油購入を停止するようにとの米国の警告にもかかわらず、石油購入を継続する一方米国に対し対抗措置を講じる意向である旨8月2日や8月4日にインド政府関係者等が示唆したことにより、ロシアからの石油等の供給減少懸念が後退するとともに米国とインドとの間での貿易戦争の激化による両国等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が発生したことに加え、8月12~13日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)及び国際エネルギー機関(IEA)が、この先の世界石油需給緩和拡大を示唆する見通しを明らかにしたこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は下落傾向となり、8月13日は1バレル当たり62.65ドルの終値と6月2日以来の低水準に到達した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~25年)

北大西洋条約機構(NATO)経由でウクライナに向け「パトリオット」地対空ミサイルシステムを含む最新兵器を供与する(費用はNATOが負担するとされる)他、ウクライナとの間で50日間以内に停戦で合意しなければ、ロシアの貿易相手国に対し最大100%の関税を賦課する意向である旨7月14日に米国のトランプ大統領が示唆したものの、米国連邦議会上院で審議中の対ロシア制裁(ロシア産の石油及び天然ガス等を輸入する第三国に対し500%以上の関税を賦課することを主な内容とする)程には厳しくないと市場から受け取られたことから、7月14日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.47ドル下落し、終値は66.98ドルとなった。また、7月15日に中国国家統計局から発表された2025年4~6月期の同国国内総生産(GDP)が前年同月比5.2%の増加と市場の事前予想(同5.1%増加)を上回ったものの、1~3月期(同5.4%増加)から伸びが縮小している旨判明したことに加え、7月15日に米国労働省から発表された6月の同国消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比2.7%と5月の同2.4%から伸びが拡大した他市場の事前予想(同2.6%)を上回ったこともあり、同国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で後退したこともあり、米ドルが上昇したことから、7月15日の原油価格の終値は1バレル当たり66.52ドルと前日終値比で0.46ドル下落した。さらに、7月16日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(7月11日の週分)においてガソリン在庫が前週比340万バレル、留出油在庫が同417万バレルの、それぞれ増加と市場の事前予想(ガソリン在庫同100万バレル程度の減少、留出油在庫同20万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したことにより、米国のガソリン及び留出油需要の弱さを市場が意識したうえ、米国原油先物契約受渡地点である同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比21万バレルの増加となっている旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.14ドル下落し、終値は66.38ドルとなった。この結果原油価格は7月14~16日の3日間合計で1バレル当たり2.07ドル下落した。しかしながら、7月17日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、7月14~17日の4日間連続でイラク北部クルド人自治区の油田に対し無人機による攻撃が行なわれた結果、日量14~15万バレル程度の原油生産が停止している(イランを支援する武装勢力によるものと見られているが、犯行声明は発表されていない)旨7月17日に報じられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したこと、7月17日に米国商務省から発表された6月の同国小売売上高が前月比0.6%の増加と市場の事前予想(同0.1%の増加)を上回っていたうえ、同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(7月12日の週分)が22.1万件と前週比0.7万件減少した他市場の事前予想(23.3~23.5万件)を下回ったこと、7月17日に米国フィラデルフィア連邦準備銀行から発表された7月の同国フィラデルフィア地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門拡大と縮小の分岐点)が15.9と6月のマイナス4.0から上昇した他市場の事前予想(マイナス1.0)を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、7月17日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.16ドル上昇し、終値は67.54ドルとなった。それでも、欧州連合(EU)との間での如何なる合意においても、米国のトランプ大統領は最低15~20%の関税を賦課する方針である旨7月18日にフィナンシャル・タイムズが報じたことにより、両者間での貿易戦争の激化に伴う経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.34ドルと前日終値比で0.20ドル下落した。

また、欧州連合(EU)と米国との間での貿易問題を巡る協議が不調であった場合に備え、EU加盟国が今週対応策を検討すべく会合を開催する予定である旨7月21日に伝えられたことにより、貿易問題を巡るEUと米国との対立の先鋭化に伴う両地域等での経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことに加え、ロシア産原油販売価格上限を実質的に引き下げるとともに、6ヶ月間の猶予期間後はロシア国外の製油所においてロシア産原油から製造された石油製品のEU加盟国企業による購入を禁止する旨7月18日に欧州連合(EU)が合意したものの、発効は2026年1月21日となる旨7月21日に報じられたこともあり、EUによる対ロシア制裁によるロシアからの石油供給減少に対する懸念が後退したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.14ドル下落し、終値は67.20ドルとなった。さらに、7月22日は、この日到来する米国原油先物8月渡し契約取引終了を前にした持ち高調整が発生したことに加え、米国の相互関税追加部分賦課の猶予期限である8月1日までに貿易問題を巡る暫定合意に到達する可能性は低い旨インド政府関係筋が明らかにしたと7月22日に報じたことにより、両国間での貿易関係の悪化に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.21ドルと前日終値比で0.99ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの8月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、9月渡し契約のこの日の終値は1バレル当たり65.31ドル(前日終値比同0.64ドルの下落)であった)。そして、7月23日の原油価格は、前日終値比で1バレル当たり0.96ドル下落し、終値は65.25ドルとなるとともに、原油価格は7月18~23日の4取引日合計で1バレル当たり2.29ドルの下落となったが、9月渡し先物契約間では7月23日の原油価格の終値は前日終値比0.06ドルの下落にとどまった。これは、米国との間での貿易問題を巡る協議が不調に終わり、米国がEU製品に対し30%の関税を賦課することになった場合、早ければ8月7日にも1,000億ドル超相当の米国製品に対しEUが30%の関税を賦課する可能性がある旨7月23日に欧州委員会(EC)が明らかにしたことにより、両者間での貿易戦争の激化に伴う経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことが、原油相場に下方圧力を加えたものの、米国が日本製品に対し15%の関税を賦課する反面、日本は米国に対し5,500億ドル規模の投資を実施することで、両国が合意した旨7月22日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が発表した他、米国がEUから輸入する製品の大部分に15%の関税を賦課する方向で両者の協議が進展しつつある旨7月23日に伝えられたことにより、両国間での貿易問題を巡る交渉が決着する方向に向かいつつあることにより経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退するとともに、米国株式相場が上昇した反面投資家のリスク許容度が拡大したことにより米ドルが下落したことが、原油相場に上方圧力を加えたことによる。そして、7月24日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、米国がEUから輸入する製品の大部分に15%の関税を賦課する方向で両者の協議が進展しつつある旨7月23日に伝えられたうえ、事実上の期限である8月1日より前に米国との貿易問題は合意に到達するとして楽観視している旨インドのゴヤル(Goyal)商工相が明らかにしたと7月24日に報じられたことにより、米国と貿易相手国及び地域との間での貿易戦争が沈静化する方向に向かうことものと見られることで経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.78ドル上昇し、終値は66.03ドルとなった。それでも、米国と欧州連合(EU)との間で貿易問題を巡る合意に至る可能性は半々である旨7月25日朝(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が明らかにしたことにより、米国によるより高率の関税賦課に伴う両者間での貿易面での対立の先鋭化と経済減速、及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の解任は必要ない旨米国のトランプ大統領が明らかにしたと7月24日夕方(米国東部時間)に報じられたことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ観測が後退するとともに米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.16ドルと前日終値比で0.87ドル下落した。

しかしながら、ウクライナとの間で50日間以内に停戦で合意しなければ、ロシアに制裁を加える(ロシア製品に対し100%の関税を賦課する他、ロシア産石油及び天然ガス購入国等に対し100%の関税を賦課すると言った内容が想定される)意向である旨7月14日に米国のトランプ大統領が示唆したことに対し、ウクライナとの戦闘停止を巡るロシアの姿勢に失望するとともに、これ以上同国と協議を継続する意向はないとして、今後10~12日以内にウクライナとの停戦で合意しなければ、ロシアに対し経済的な圧力を強める方針である旨7月28日朝(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明したことにより、ロシアからの石油を含むエネルギー供給の混乱を巡る懸念が増大したことに加え、欧州連合(EU)加盟国からの製品輸入に対し15%の関税を賦課することで7月27日に米国とEUが合意した(8月1日を以てEUからの輸入品に対し30%の関税を賦課する意向である旨7月12日午前(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明していた)ことにより、米国とEUとの間での貿易問題を巡る対立の先鋭化と両地域の経済減速、及び石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が後退したこと、米国と中国との間で賦課が一時的に停止されている(8月12日が期限であるとされる)一部関税につき、7月28~29日に実施されている両国間協議において猶予期限を3ヶ月間延長する方向である旨7月27日に香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストが報じたことにより、両国間での貿易関係の悪化による経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が後退したことから、7月28日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.55ドル上昇し、終値は66.71ドルとなった。また、今後10~12日以内にウクライナとの停戦で合意しなければ、ロシアに対し経済的な圧力を強める方針である旨7月28日に米国のトランプ大統領が表明したことに対し、ロシアは自国の利益を確保すべく戦争を継続する意向である旨7月29日朝(同)にロシア大統領府のペスコフ報道官が示唆した後、7月29日から10日以内にウクライナとの間での停戦に合意しなければ、関税等の経済制裁を強化する意向である旨7月29日に米国のトランプ大統領が改めて表明したことにより、ロシアからの石油を含むエネルギー供給の混乱を巡る懸念が増大したことに加え、7月29日に米国民間調査機関コンファレンス・ボードから発表された7月の同国消費者信頼感指数(1985年=100)が97.2と6月の95.2(改定値)から上昇した他、市場の事前予想(95.0~96.0)を上回ったことにより、米国経済成長加速に伴う同国の石油需要の伸びの拡大期待が発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.21ドルと前日終値比で2.50ドル上昇した。さらに、中国とともにロシア産エネルギーの大口購入者である他、ロシアで製造された軍事用資機材を大量に調達しているとして、8月1日よりインドからの輸入品に対し25%の関税を賦課する他、さらなる罰則を適用する可能性もある旨、7月30日に米国のトランプ大統領が表明したことにより、インドによるロシア産原油等の購入が見送られるとともに、代替石油供給源を巡りインドと他の消費国等との競合が激化する恐れがあるとの見方が市場で増大したことに加え、7月30日に米国商務省から発表された2025年4~6月期の同国国内総生産(GDP)が前期比年率3.0%の増加と1~3月期の同0.5%の減少から増加に転じた他、市場の事前予想(同2.4~2.6%の増加)を上回ったことにより、同国経済成長と石油需要の伸びに関する楽観的な見方が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.79ドル上昇し、終値は70.00ドルとなった。この結果原油価格は7月28~30日の3日間合計で1バレル当たり4.84ドル上昇した。ただ、7月31日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが発生したことに加え、同日米国商務省から発表された6月の個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)価格指数が前年同月比で2.6%の上昇と5月の同2.4%の上昇から伸びが拡大した他、市場の事前予想(同2.5%の上昇)を上回ったうえ、食品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数も同2.8%の上昇と5月の同2.8%の上昇と同水準となった他市場の事前予想(同2.7%の上昇)を上回ったこともあり、米国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で後退するとともに米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.74ドル下落し、終値は69.26ドルとなった。また、米国による相互関税の追加部分の賦課猶予期限である8月1日までに取引が成立しなかった、カナダ、インド及び台湾を含む貿易相手国及び地域に対し、8月7日午前0時1分(米国東部時間)を以て10~41%の関税を賦課する旨の大統領令に米国のトランプ大統領が署名したと7月31日夜(同)に伝えられたことにより、世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、8月1日に米国労働省から発表された7月の同国非農業部門雇用者数が前月比7.3万人の増加と市場の事前予想(同10.4~11.0万人の増加)を下回った他、6月の雇用者数(改定値)が同1.4万人の増加と7月3日に発表された速報値(同14.7万人の増加)から下方修正されるとともに、5~7月の雇用者数増加が平均で3.5万人程度と2~4月(同12.7万人程度)から相当程度縮小したことにより、米国経済減速と石油需要の鈍化を巡る不安感が市場で増大したこと、8月3日に開催される予定であるOPECプラス産油国有志8産油国会合において9月の増産規模を8月と同様前月比日量54.8万バレルとする可能性がある旨関係者が明らかに(但し議論は継続中で増産規模が縮小される可能性がある旨一部関係者は示唆)したと8月1日に伝えられたことにより、OPECプラス産油国の増産に伴う世界石油需給緩和感が市場で意識されたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり67.33ドルと、前日終値比で1.93ドル下落した。

さらに、8月3日に開催されたOPECプラス有志8産油国会合において、9月の原油生産につき前月比日量54.7万バレルの増加とする旨決定されたことにより、この先の石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、ロシア産原油等の輸入に関する米国のトランプ大統領による警告にもかかわらず、インドは同国産原油等輸入を継続する意向である旨インド政府関係者が明らかにしたと8月2日に報じられた(併せて、インド政府は国内石油会社に対しロシア産原油等の購入を見送るよう指示していない旨8月3日に伝えられた他、米国のインドに対する政策は合理的でなく不当であるとして、インドの利益と経済安全保障の観点から、必要とされる全ての方策を実施する意向である旨8月4日に同国外務省が表明した)ことに対し、8月4日にトランプ大統領がインドからの輸入品に対する関税を大幅に引き上げる方針である旨表明したことにより、インドのロシア産原油等の購入が減少しないうえ、米国とインドとの間での貿易問題を巡る対立が先鋭化することにより両国等の経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.04ドル下落し、終値は66.29ドルとなった。加えて、8月5日にトランプ大統領が24時間以内にインドからの輸入品に対する関税を現行の25%から大幅に引き上げる意向である旨表明したことにより、両国等の経済が減速することによる石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことに加え、8月5日に米国供給管理協会(ISM)から発表された7月の同国非製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.1と6月の50.8から低下した他市場の事前予想(51.5)を下回ったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり65.16ドルと前日終値比で1.13ドル下落した。そして、8月6日にロシアの首都モスクワで行なわれた米国トランプ大統領のウィットコフ中東担当特使とロシアのプーチン大統領との会談において目覚ましい進展があった旨同日トランプ大統領が明らかにしたことにより、米国の対ロシア制裁強化による、ロシアからの石油を含むエネルギー供給混乱を巡る懸念が後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.81ドル下落し、終値は64.35ドルとなった。また、米国のトランプ大統領が早ければ来週にもロシアのプーチン大統領と会談する予定である旨8月6日午後遅く(米国東部時間)にニューヨーク・タイムズが報じた他、今後数日以内にプーチン大統領とトランプ大統領が会談を実施する予定である旨8月7日にロシア大統領府のウシャコフ(Ushakov)大統領補佐官(外交政策担当)が明らかにしたことにより、ロシアとウクライナとの間での戦闘につき米国とロシアが外交的に解決することに対する期待が増大するとともに、米国の対ロシア制裁強化に伴うロシアからの石油を含むエネルギー供給混乱に対する懸念が後退したことに加え、8月7日午前0時1分(米国東部時間)を以て米国が世界各国及び地域に対し新たな関税を賦課したことにより、米国を巡る貿易戦争の激化に伴う世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.88ドルと前日終値比で0.47ドル下落した。この結果、8月7日の原油価格の終値は6月5日(この日の原油価格の終値は63.37ドル)以来の低水準に到達した他、原油価格は7月31日~8月7日の6取引日合計で1バレル当たり6.12ドルの下落となった。また、8月8日は、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、クリミア半島に加え、ウクライナ東部のルハンスク及びドネツク両州をロシアへ割譲する一方、ウクライナ南部ザポリージャ及びヘルソン両州からロシア軍が撤退することを主な内容とする停戦案につき米国とロシアが検討している旨8月8日にブルームバーグ通信が報じたことにより、ウクライナとロシアとの間での停戦合意に伴う米国の対ロシア制裁の緩和とロシアからの石油を含むエネルギー供給の相対的な円滑化に対する期待が発生したことが原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.88ドルと前日終値比横這いであった。

そして、8月11日も、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生した流れを引き継いでいることが、原油相場に上方圧力した反面、ウクライナとロシアとの間での停戦につき8月15日に米国アラスカ州においてロシアとの間で首脳会議を開催する予定である旨8月8日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明したことにより、ウクライナとの戦闘を巡り米国が対ロシア制裁を強化することに伴いロシアからの石油を含むエネルギー供給を巡り混乱が増大することに対する懸念が後退したうえ、8月9日に中国国家統計局から発表された7月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比横這いと市場の事前予想(同0.1%の下落)ほど下落していなかったものの、同月の生産者物価指数(PPI)が同3.6%の下落と市場の事前予想(同3.3%の下落)を上回って下落している旨判明したことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、8月11日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.08ドルの上昇にとどまり、終値は63.96ドルとなった。それでも、生産性の向上により、2025年12月には米国原油生産が日量1,360万バレルと史上最高水準に到達する他、OPECプラス産油国による増産により2025年第4四半期から2026年第1四半期にかけては平均で日量200万バレル超の供給過剰となることもあり、7月には1バレル当たり68.39ドルであった原油価格が12月には51ドルへと下落するものと予想している旨、8月12日にEIAが短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)で明らかにしたことにより、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.17ドルと前日終値比で0.79ドル下落した。また、8月13日にIEAが発表したオイル・マーケット・レポートにおいて、IEAが2025年の世界石油供給増加を7月11日の前回発表時に比べ日量37万バレル上方修正し同250万バレル、2026年を同62万バレル上方修正し同190万バレルと、それぞれ予想する旨明らかにしたことにより、2025年から2026年にかけ世界石油需給緩和感が強まるとの観測が市場で増大したことに加え、8月13日にEIAから発表された米国石油統計(8月8日の週分)において原油在庫が前週比304万バレルの増加と市場の事前予想(同30~91万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.52ドル下落し、終値は62.65ドルと、6月2日(この日の終値は62.52ドル)以来の低水準に到達するとともに、原油価格は2日連続前日終値比で下落となり、下落幅は2日間合計で1バレル当たり1.31ドルとなった。8月14日は、8月15日に開催が予定されている米国とロシアとの首脳会談を前にした持ち高調整が発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり63.96ドルと前日終値比で1.31ドル上昇したが、8月15日に中国国家統計局から発表された7月の同国鉱工業生産が前年同月比5.7%の増加と6月の同6.8%の増加から伸びが鈍化、2024年11月(この時は同5.4%の増加)以来の低水準の伸びとなった他、市場の事前予想(同5.9~6.0%増加)を下回ったうえ、7月の小売売上高が前年同月比3.7%の増加と、6月の同4.8%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同4.6%増加)を下回ったことにより、中国経済減速に伴う同国の石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、8月15日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.16ドル下落し、終値は1バレル当たり62.80ドルとなっている。

 

3. 原油市場における主な注目点等

7月14~17日の4日間連続でイラク北部クルド人自治区の油田に対し無人機による攻撃が行なわれた結果、日量14~15万バレルの原油生産が停止している(イランを支援する武装勢力によるものと見られているが、これまでに犯行声明は発表されていない)旨7月17日に報じられた。他方、イランが核関連施設を再稼働させようとするのであれば、直ちに再攻撃を実施し破壊する意向である旨7月28日に米国のトランプ大統領が表明したことに対し、米国及びイスラエルがイランに対し繰り返し侵略を行なうのであれば、より毅然とした姿勢で対処する旨7月28日にイランのアラグチ外相が明らかにした。さらに、イランの石油販売に関与するとされる同国の石油トレーダーであるムハンマド・ホセイン・シャムハニ(Mohammad Hossein Shamkhani)氏が支配する53の組織、12の個人、15の船舶会社及び52の船舶に対し制裁を発動する旨7月30日に米国財務省が発表した他、少なくとのタンカー6隻分のイラン産原油を引き取ったとして、中国舟山金潤石油輸送(China Zhoushan Jinrun Oil Transfer)に対し制裁を発動する旨7月30日に米国国務省が発表したと同日夜(米国東部時間)に報じられたうえ、米国による対イラン制裁回避に関与しているとして、18の個人及び組織に対し制裁を発動する旨8月7日に米国財務省が発表した。

他方、7月21日にイスラエル軍がイエメンのホデイダ港にあるフーシ派武装勢力の軍事関連施設を攻撃した一方、国籍等を問わずイスラエルと取引関係にある企業の船舶を攻撃の対象とする旨7月27日にイエメンのフーシ派武装勢力が表明した。また、イエメンのフーシ派武装勢力の石油製品輸入や資金洗浄に関与したとしてイエメン及びアラブ首長国連邦(UAE)の5団体と2人の個人に対し制裁を発動する旨7月22日に米国財務省が発表した。さらに、8月8日にイスラエル政府がパレスチナ自治区ガザ地区にあるガザ市の制圧計画の遂行を承認した他、8月13日にはイスラエル軍がガザ地区への新たな攻撃計画の実行を承認した。

このように、6月24日以降、イスラエルとイランとの停戦は一応維持される格好となっており、この面では中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念は発生しにくくなるとともに、原油相場への影響も限定的なものとなっているが、それでも米国はイランに圧力を加え続けている他、イランが支援しているとされるイエメンのフーシ派武装勢力による、紅海を初めとするイエメン周辺海域における船舶の攻撃は継続する可能性がある(フーシ派武装勢力はイスラエルによるガザ地区攻撃が停止するまでイスラエルに対し攻撃する旨しばしば表明している)ことから、今後の事態の展開によっては原油価格が上振れする場面が見られる可能性も否定できない。

ウクライナとロシアとの戦闘を巡る米国とロシアの協議を含む動きも活発化するとともに、原油相場に影響を与えつつある。北大西洋条約機構(NATO)経由でウクライナに向け防空システム「パトリオット」を含む最新兵器を供与する(費用はNATOが負担する)他、ウクライナとの間で50日間以内に停戦で合意しなければ、ロシアの貿易相手国に対し最大100%の関税を賦課する意向である旨7月14日に米国のトランプ大統領が示唆した(これに対し米国の脅しは受け入れない旨7月17日にロシアのザハロワ報道官が発表した)。また、7月4日に実施された米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との間での首脳会談において、トランプ大統領がゼレンスキー大統領に対しモスクワ等ロシア主要都市攻撃の可能性に関し質問していた旨7月15日にフィナンシャル・タイムズが伝えた(7月15日にホワイトハウス及びトランプ大統領は事実上否定した(同日トランプ大統領はウクライナに向けモスクワに到達するような長距離兵器を供与することを検討していない旨明らかにした他、ウクライナにモスクワを攻撃しないよう警告した))。他方、米国のトランプ大統領が発動を警告している制裁は乗り越えることが可能であると考えており、ロシアは自国の利益に沿った条件で和平合意に到達するまで戦闘を継続する意向である旨関係者が明らかにしたと7月15日にロイター通信が報じた。また、ロシア産原油販売価格上限を実質的に引き下げる(2025年9月3日に適用する予定であり(既存契約については90日間の猶予期間あり)、直近3ヶ月間のウラル原油平均価格を15%下回る価格とし、現時点では1バレル当たり47.60ドルになると説明されている)とともに、6ヶ月間の猶予期間後はロシア国外の製油所においてロシア産原油から製造された石油製品の欧州連合EU)加盟国企業による購入を禁止する(ノルウェー、英国、米国、カナダ、スイスからの輸入は適用除外とされる)こと等を主な内容とする措置を実施する旨7月18日にEUが合意した(なお、当該措置の発効は2026年1月21日となる旨7月21日に報じられた)。さらに、ウクライナとの戦闘停止を巡るロシアの姿勢に失望するとともに、これ以上同国と協議を継続する意向はないとして、10~12日以内にウクライナとの停戦で合意しなければ、ロシアに対し経済的な圧力を強化する方針である旨7月28日朝(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明したが、ロシアは自国の利益を確保すべく戦争を継続する意向である旨7月29日朝(同)にロシア大統領府のペスコフ報道官が示唆しており、これを受ける形で、7月29日から10日以内にウクライナとの間での停戦に合意しなければ、関税等の経済制裁を強化する意向である旨7月29日に米国のトランプ大統領が改めて表明した。また、米国には大量の石油があるので、さらに増産するだけであり、原油価格は現時点では非常に低水準で、対ロシア制裁の石油市場への影響については懸念していない旨7月29日にトランプ大統領が明らかにしたと同日午後(米国東部時間)から夜(同)にかけ報じられた。ただ、7月28~29日にスウェーデンのストックホルムにおいて貿易問題等を巡る協議を行なっていた米国のベッセント財務長官は、7月29日に、ロシア産原油等を購入している中国はエネルギーを必要とする主権国家であり、原油の購入は自国の政策に基づくものになるとして、トランプ氏による警告に事実上反論した。また、中国とともにロシア産エネルギーの大口購入者であるとともに、ロシアで製造された軍事用資機材を大量に調達しているとして、8月1日よりインドに対し25%の関税を賦課する他、さらなる罰則を適用する可能性がある旨、7月30日に米国のトランプ大統領が表明した。これに対し、インド政府は同国国営製油所にロシア産以外の原油調達計画を準備するよう指示した旨8月1日にブルームバーグ通信が報じた。また、ロシアのメドベージェフ安全会議副議長(前大統領)はトランプ大統領の発言は脅迫であり戦争に繋がりうる旨警告したことに対し、8月1日に米国のトランプ大統領が自国の原子力潜水艦2隻を適切な海域に配備するよう指示した旨明らかにした。しかしながら、ロシア産原油等の輸入に関する米国のトランプ大統領による警告にもかかわらず、インドは同国産原油等の輸入を継続する意向である旨インド政府関係者が明らかにしたと8月2日に報じられた(併せて、インド政府は国内石油会社に対しロシア産原油等の購入を見送るよう指示していない旨8月3日に伝えられた他、米国のインドに対する対応は合理的でなく不当であるとして、インドの利益と経済安全保障の観点から、必要とされる全ての方策を実行する方針である旨8月4日にインド外務省が表明した)ことに対し、8月4日にトランプ大統領がインドからの輸入品に対する関税を大幅に引き上げる意向である旨表明した。そのような中、ウクライナの無人機による攻撃により、ロシア南西部サマラ(Samara)州にあるノヴォクイビシェフスク(Novokuibyshevsk)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量16.8万バレル)、及び同国西部リャザン(Ryazan)州にあるリャザン製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理量日量34.5万バレル)の常圧蒸留装置3号機(同6.3万バレル)及び4号機(同8.4万バレル)が、ともに8月2日より操業を停止している旨8月4日に報じられた。さらに、8月5日にトランプ大統領は、24時間以内にインドからの輸入品に対する関税を現行の25%から大幅に引き上げる意向である旨表明した。また、8月8日までにロシアがウクライナに対する戦闘を停止しなければ、米国のトランプ大統領がロシア産の石油を輸送する影の船団に対して制裁を発動する方向で検討していると8月5日にフィナンシャル・タイムズが報じた。そして、ロシアからのエネルギー供給を受ける諸国及び地域に対し関税を賦課する意向である旨米国のトランプ大統領が明らかにしたと8月5日夕方(米国東部時間)に伝えられた。ただ、8月6日には、ロシアの首都モスクワにおいて、米国トランプ大統領のウィットコフ中東担当特使とロシアのプーチン大統領との間で会談が行なわれたが、同会談において目覚ましい進展があった旨同日トランプ大統領が明らかにした。それでも、ロシア産原油輸入を継続している等していることにより、インドからの輸入品に対し25%の追加関税を賦課することにより、既存の関税を併せ50%とする(21日以内に発効)旨の大統領令に署名したと8月6日に米国トランプ政権が発表した。そして、米国のトランプ大統領が早ければ翌週にもロシアのプーチン大統領と会談する予定である旨8月6日午後遅く(米国東部時間)にニューヨーク・タイムズが報じた(その後トランプ大統領も同報道を認める旨明らかにした)他、今後数日以内にロシアのプーチン大統領と米国のトランプ大統領が会談を実施する予定である旨8月7日にロシア大統領府のウシャコフ大統領補佐官(外交政策担当)も明らかにした。他方、8月7日朝(現地時間)にロシア南西部クラスノダール地方にあるアフィプスキー(Afipsky)製油所(操業者:オイル・テクノロジーズ(Oil Technologies)、原油精製処理能力日量18.3万バレル)が無人機による攻撃を受けた結果火災が発生した(その後間もなく鎮火したとされる)。また、クリミア半島に加え、ウクライナ東部のルハンスク及びドネツク両州をロシアへ割譲する一方、ウクライナ南部ザポリージャ及びヘルソン両州からロシアが軍を撤退させることを主な内容とする停戦案につき米国とロシアが検討している旨8月8日にブルームバーグ通信が報じた他、ウクライナとロシアとの間での停戦につき8月15日に米国とロシアが首脳会議を米国アラスカ州において開催する予定である旨8月8日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明した。他方、8月9日にウクライナのゼレンスキー大統領は自国領土をロシアに引き渡すことはない旨警告した。そして、ロシア南西部サラトフ州にある製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量14万バレル)を8月10日早朝(現地時間)に無人機により攻撃した旨ウクライナ参謀本部が発表した他、同日午後(同)にはロシア北西部コミ共和国にある製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理能力日量8万バレル超)に無人機が飛来した旨8月10日に報じられた。また、ロシア南西部クラスノダール地方のスラビャンスク(Slavyansk)製油所(操業者:スラビャンスクECO、原油精製処理能力日量10万バレル)に飛来した無人機を迎撃した結果、残骸の落下により同製油所で火災が発生(間もなく鎮火)した旨8月13日に伝えられた他、ロシア西部ブリャンスク州にある原油パイプラインのウネイチャ/ウネチャ(Uneicha/Unecha)圧送基地を8月12~13日の夜間(現地時間)に無人機で攻撃した結果、同施設で火災が発生(間もなく鎮火)した旨8月13日にウクライナ軍が主張した。さらに、ウクライナとの戦闘停止に関し合意しなければ、ロシアに対し厳しい措置を講じる可能性がある旨米国のトランプ大統領が示唆したと8月13日正午過ぎ(米国東部時間)に報じられた。加えて、8月13日夜から14日未明にかけ(現地時間)無人機がロシア南部ボルゴグラード州にあるボルゴグラード製油所(操業者:ルクオイル、原油精製処理能力日量30万バレル)を攻撃した結果火災が発生したと8月14日に報じられた他、ウクライナが夜間(8月14~15日と見られる)にロシア南西部サマラ州にあるシズラン(Syzran)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量17.8万バレル)を攻撃した旨8月15日にウクライナ政府が明らかにした。8月15日午後遅く(米国東部時間)には、米国アラスカ州アンカレッジにおいて、米国のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領との間で首脳会談が開催されたが、建設的かつ生産的な議論が行なわれ、ウクライナとロシアとの戦闘終結に向けた協議は進展した旨トランプ大統領は主張したものの、直ちに詳細が明らかにされたわけではなかった他、大きな問題がいくつか残っており、合意(取引)には到達していない旨会談後米国のトランプ大統領が示唆した。ただ、同日トランプ氏は、ロシアとの協議が進展したことを理由として、ロシア産原油を引き取っている中国に対する関税の引き上げを少なくとも2~3週間は見合わせる意向である旨明らかにした。

このように、ウクライナとロシアとの戦闘は、ロシアが停止する意向を示していないことにより、米国はロシアに対し圧力を加える方針を示すなど、米国とロシアの対立が先鋭化する兆しを見せていたものの、戦闘停止等を巡り、8月15日に両国が首脳会談を開催した後、協議が進展した旨トランプ大統領が表明するなどしていることにより、両国の対立の先鋭化に伴う米国の対ロシア制裁強化によるロシアからの石油を含むエネルギー供給混乱を巡る懸念は、一旦は後退する格好となっている。ただ、協議内容の詳細は明らかにはなっていないものの、取引は成立していない旨会談後トランプ大統領が示唆しているところからすると、今回の協議においては停戦や戦闘終結につき合意できておらず、従って、ウクライナとロシアとの間での戦闘は継続するとともに、欧米諸国等による対ロシア制裁は当面これ以上強化されないかもしれないものの、かといって大幅に緩和すると言った展開も開けにくいものと考えられる。このため、ロシアからの石油を含むエネルギー供給の拡大や円滑化に伴う世界石油需給緩和見通しが後退するとともに、原油相場を下支えする方向で作用しやすくなるものと考えられる。そして、2~3週間後にはロシア産原油を引き取る中国に対し追加関税の賦課を検討しなければならないかもしれない旨8月15日に米国のトランプ大統領が明らかにしている(既にインドに対しては追加関税府を賦課している)が、ロシアから原油等を購入する二大国である中国とインドは米国から関税引き上げの可能性を警告されても、購入を継続する意向を事実上示していることからすると、再び米国と中国、及び米国とインドとの間での関税賦課合戦に突入することにより、これら諸国間等での経済が減速するとともに石油需要の伸びの鈍化懸念が増大する一方、ロシアから原油等のエネルギー供給途絶を巡る不安感も市場で拡大しない結果、世界石油需給引き締まり感の増大により原油相場が持続的に上昇すると言った展開となる確率はそれほど高くはないものと考えられる。

また、7月21日にロシアのプーチン大統領が署名し発効した法律により、ロシアの港湾に入港する外国船籍の船舶に対し同国連邦保安庁(FSB: Federal Security Service)の許可が必要となったことに伴い、黒海沿岸の石油積出港におけるロシア産及びカザフスタン産原油の積み出し作業が停止した旨7月23日にロイター通信から報じられており(1~2日間程度で作業は復旧する予定である旨同日示唆される)、今後も同様な法律等により、ロシア産のみならずロシアを経由して他国及び地域に輸出される原油等の供給に支障が発生する結果、原油相場等が影響を受けないとも限らないので注意する必要があろう。

米国と貿易相手国及び地域との間での関税賦課等を含む貿易問題を巡る動向も、原油相場に影響を与える場面が見られる。8月1日までに米国との間で貿易問題を巡る交渉で合意できない場合、米国に対し強力な報復措置を講じることに対する支持がEU加盟国内で増大しつつある旨7月16日にブルームバーグ通信が伝えた。他方、EUとの間での如何なる合意においても、米国のトランプ大統領は最低15~20%の関税を賦課する方針である旨7月18日にフィナンシャル・タイムズが報じた。そして、EUと米国との間での貿易問題を巡る協議が不調であった場合に備え、EU加盟国が今週対応策を検討すべく会合を開催する予定である旨7月21日に伝えられた。他方、米国の相互関税追加部分賦課の猶予期限である8月1日までに貿易問題を巡る暫定合意に到達する可能性は低い旨インド政府関係筋が明らかにしたと7月22日に報じられた。同日米国のトランプ大統領は、米国がフィリピンからの輸入品に対し19%の関税を賦課する一方、フィリピンは米国からの輸入品に対し関税を賦課しないことで合意した旨発表したが、米国との間での貿易問題を巡る協議が不調に終わり、米国がEU製品に対し30%の関税を賦課することになった場合、早ければ8月7日にも1,000億ドル超相当の米国製品に対しEUが30%の関税を賦課する可能性がある旨7月23日に欧州委員会(EC)が明らかにした。それでも、米国が日本製品に対し15%の関税を賦課する反面、日本は米国に対し5,500億ドル規模の投資を行なうことで、両国が合意した旨7月22日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が発表した他、米国がEUから輸入する製品の大部分に15%の関税を賦課する方向で両者の協議が進展しつつある旨7月23日に報じられたうえ、米国との貿易問題は事実上の期限である8月1日より前に妥結するとして楽観視している旨インドのゴヤル(Goyal)商工相が明らかにしたと7月24日に伝えられた。そして、7月27日にスコットランドにおいて米国のトランプ大統領とECのフォンデアライエン委員長が貿易問題につき協議を行い、自動車を含む大部分のEUからの輸入品に対し米国が15%の関税を賦課する反面、EUは米国に対し6,000億ドルの投資や米国製品の購入を行なうことで合意したが、両者の認識に相違がある(EU側は原則全ての製品の関税率が引き下げられると理解している反面、米国は鉄鋼やアルミニウムは50%の関税率のままである他、医薬品も関税率引き下げから除外されると理解している)ことが示唆される旨7月27日夜(米国東部時間)に報じられた。他方、米国と中国との間で賦課が一時的に停止されている(8月12日が期限であるとされる)一部関税につき、7月28~29日に実施される両国間協議において猶予期限を3ヶ月間延長する方向である検討されている旨7月27日に香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストが報じたが、同期間に開催された米国と中国の貿易問題を巡る協議において一部関税の賦課期限を延長することで合意した旨中国商務省の李成鋼次官が明らかにしたと7月29日正午前(米国東部時間)に報じられた(その後米国と中国は一部関税の賦課期限を延長することに対し協議を継続するが最終判断はトランプ大統領が行なう旨米国のベッセント財務長官が明らかにした同日報じられた他、中国の習近平国家主席が米国のトランプ大統領を招待した旨ベッセント財務長官が明らかにしたと7月29日午後(同)に伝えられ、その後トランプ大統領は訪中する用意がある旨同日伝えられる)。他方、韓国産製品に15%(従来は25%)の関税を賦課することで韓国と合意した旨7月30日夜(米国東部時間)に同国のトランプ大統領が発表した。ただ、米国が賦課しようとしている相互関税の追加部分の猶予期限である8月1日までに取引が成立しなかった、カナダ、インド及び台湾を含む貿易相手国及び地域に対し、8月7日午前0時1分(米国東部時間)を以て10~41%の関税を賦課することを内容とする大統領令に米国のトランプ大統領が署名した旨7月31日夜(同)に伝えられた他、8月7日午前0時1分(米国東部時間)を以て当該関税は実際に賦課されることになった。加えて、米国が輸入する全ての半導体に100%の関税を賦課する方針である旨8月6日夕方(同)トランプ大統領が表明した。なお、米国の中国に対する暫定的な関税賦課の猶予期間は90日間延長され11月10日を新たな期限とする旨の大統領令に米国のトランプ大統領が署名した旨8月11日午後の遅い時間(米国東部時間)以降に報じられている。また、米国が輸入する半導体及び鉄鋼に対し今後2週間以内に200~300%の関税を賦課することを検討する旨8月15日に米国のトランプ大統領が表明している。

このように、米国のトランプ大統領による関税賦課政策は、当初同大統領が主張した程には貿易相手国及び地域に対し関税率を引き上げずに取引を成立させている部分があるように見受けられるが、関税を含む貿易問題に関する合意を巡っては当事者間での認識に相違が見られるように見受けられることにより、今後そのような相違を巡って紛争が再燃する恐れがある他、米国のトランプ大統領が突然新規の関税賦課を主張し始めることにより、世界経済混乱と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大することにより、原油相場に下方圧力が加わる可能性も残っている。

また、米国のトランプ大統領は、7月13日に、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が辞任することを望む旨発言した。他方、政策金利引き下げを支持する判断をする前に物価上昇が減速することが必要であり、米国のトランプ大統領による関税賦課政策の影響が不透明であるため、当面は様子見の姿勢とすることが最適であると認識している旨7月14日に米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が明らかにした。また、足元の米国物価上昇に関する統計では、価格上昇圧力が部分的に見られる他、今後それが一層強まる恐れがあると見込んでいるとの認識を7月15日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が示した。さらに、米国経済は全般的に堅調であることから、米国政策金利の取り扱いについては慎重に進めるべきである旨7月15日に米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が発言した。他方、米国FRB次期議長選出を巡る手続きを正式に開始した旨7月15日に米国のベッセント財務長官が明らかにした。そして、米国のトランプ大統領がパウエルFRB議長の解任を検討している旨7月16日午前(米国東部時間)にCBS及びニューヨーク・タイムズ等が報じた(ただ、パウエル議長の解任は検討していない旨同日トランプ大統領が表明した)。そのような中、物価上昇加速の兆候が見られると認識しており、引き続き政策金利の維持を支持する旨7月16日にアトランタ連邦準備制度理事会のボスティック総裁が発言した。また、パウエルFRB議長を解任すれば市場が混乱するため同氏の辞任を望む旨7月16日に米国のトランプ大統領が明らかにした。さらに、米国労働市場悪化の兆候が見られるとして、米国民間部門の雇用は一般的に認識されているほど強くはないことから、7月29~30日に開催される予定である米国連邦公開市場委員会(FOMC)において政策金利引き下げを支持する旨、7月18日にFRBのウォラー理事が発言した。他方、パウエルFRB議長が政策金利引き下げを踏みとどまっていることにつき、FRB自体にも責任がある旨7月18日に米国トランプ大統領が表明するとともに、7月22日にもトランプ大統領は、パウエルFRB議長は政策金利を3%引き下げ1%にすべきである旨主張したが、パウエルFRB議長の解任は必要ない旨トランプ大統領が明らかにしたと7月24日夕方(米国東部時間)に報じられた。そして、7月29~30日に開催されたFOMCにおいては政策金利の据え置きが決定した他、FOMC開催後の記者会見において、9月16~17日に開催される予定である次回FOMCにおける金融政策については何も決定していない旨パウエルFRB議長が明らかにしたが、これに対し米国のトランプ大統領はパウエル議長を非難した他、8月1日にも、米国のトランプ大統領は、パウエルFRB議長は直ちに政策金利を引き下げるべきであり、もしそれを拒否し続けるのであれば、理事会が主導権を握るとともに政策金利を引き下げるべきである旨示唆した。そのような中、8月1日に米国労働省から発表された7月の同国非農業部門雇用者数が前月比7.3万人の増加と市場の事前予想(同10.4~11.0万人の増加)を下回った他、6月の雇用者数も同1.4万人の増加と7月3日に発表された速報値(同14.7万人の増加)から下方修正されるとともに、5~7月の雇用者数増加が平均で3.5万人程度と2~4月(同12.7万人)から相当程度縮小していた旨判明した。これを受け、米国雇用統計には失望しているものの一経済指標類に対して過剰に反応するつもりはない旨同日米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が明らかにした。他方、FRBのクグラー理事が8月8日を以て辞任する旨8月1日に明らかにしたが、トランプ大統領がパウエルFRB議長も辞任するよう事実上要請した。また、トランプ大統領による関税賦課に伴う同国の物価上昇加速の兆候が見られない反面、同国の労働市場は軟化しつつあることから、今後2025年末にかけ2回を上回る回数で政策金利引き下げを支持する可能性がある旨8月4日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示唆した。また、米国のトランプ大統領による関税賦課政策により同国の物価上昇が加速する恐れがあると言った不透明感はあるものの、足元米国経済は減速しつつあるものと見受けられることにより、短期的には政策金利引き下げが妥当となる可能性があるものと考えている旨8月6日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにした。さらに、米国労働市場が悪化し続けることを回避すべく、この先数ヶ月間で政策金利を変更する必要性が生ずる可能性がある旨の認識を8月6日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示した。ただ、トランプ大統領による関税賦課政策による物価上昇への影響は一時的なものとなるという考え方を疑問視しており、依然として2025年末までにおいて政策金利引き下げは1回となるとの認識を堅持している旨8月7日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした。それでも、足元の軟調な労働市場は、2025年末にかけ3回の政策金利引き下げを実施するという自身の認識を強めるものである旨8月9日にFRBのボウマン副議長が発言した。また、9月16~17日に開催される予定である次回FOMCまでに入手できる情報をもとに政策金利引き下げ等の是非につき判断したい旨8月12日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が示唆した。さらに、米国の政策金利は景気抑制的な水準であり続けるべきである旨8月12日に米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が明らかにした。一方、米国の政策金利は1.50~1.75%引き下げられるべきである旨8月13日にベッセント財務長官が示唆した。そして、まちまちな経済指標を織り込んで政策金利をどのような水準に定めるかにつき9月16~17日に開催される予定である次回FOMCにおいて活発化な議論が行われるものと予想しているものの、足元の指標類が軟化を示していたにもかかわらず米国労働市場は堅調であると認識している一方米国の物価上昇は懸念材料であると考えている旨8月13日にシカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。また、米国の堅調な労働市場が継続するようであれば、2025年末にかけ1回の政策金利引き下げが適切になるであろうとの認識を8月13日にアトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が示した。さらに、9月16~17日に開催が予定される次回FOMCにおいて政策金利を0.50%引き下げることは不適切であるとの見解を8月13日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が披露した。そのような中、8月14日に米国労働省から発表された、7月の同国生産者物価指数(PPI)は前年同月比3.3%の上昇と6月の同2.4%の上昇から伸びが加速した他市場の事前予想(同2.5%上昇)を上回った。これを受ける形で、米国のトランプ大統領により賦課された関税の影響が物価上昇に反映されつつあり、この動きは持続する恐れがあると考えている旨8月14日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が明らかにした。また、米国の物価上昇が沈静化しつつあると確信するためには、そのようなことを示す指標類を少なくともあと一つ確認する必要がある旨8月15日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が発言した。さらに、9月16~17日に開催される予定である次回FOMCにおける大幅な政策金利引き下げは不必要である一方、2025年末までに2回の政策金利引き下げを実施することを支持する旨米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が発言したと8月15日に報じられた。

このように、米国のトランプ大統領はパウエルFRB議長に対し辞任圧力を強めつつある一方、他の金融当局関係者の中には依然として政策金利引き下げに慎重な姿勢を示す勢力もあるが、米国労働市場が軟化しつつある旨示されていることもあり、政策金利引き下げを支持する勢力も拡大しつつあるように見受けられるものの、米国のPPIが市場の事前予想を上回って上昇が加速する兆候が見られるなど、米国経済情勢の不透明感が強まりつつある。このような中、FRBのクグラー理事が辞任したことにより、この先後任の理事をトランプ大統領が指名することになるが、金融緩和推進派の理事が指名されることにより、政策金利の引き下げがより積極的に行なわれる結果、景気が上向くとの期待が増大する反面、物価上昇加速懸念が拡大することにより、経済活動が乱高下することが、原油相場に影響を及ぼす可能性がある。

7月15日に中国国家統計局から発表された2025年4~6月期の同国国内総生産(GDP)は前年同月比5.2%の増加と市場の事前予想(同5.1%増加)を上回ったものの、1~3月期(同5.4%増加)から伸びが縮小した他、6月の同国鉱工業生産は同6.8%の増加と5月の同5.8%の増加から伸びが鈍化したうえ、市場の事前予想(同5.6~5.7%増加)を上回った一方、6月の小売売上高は前年同月比4.8%増加と、5月の同6.4%増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同5.3~5.4%増加)を下回った旨判明した。また、1~6月の中国固定資産投資は前年同期比2.8%の増加と、1~5月の同3.7%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同3.6%の増加)を下回ったことに加え、6月の中国新築住宅価格は前月比0.27%の下落と、5月の同0.22%の下落から下落率が拡大し、2024年10月(この時は同0.51%の下落)以来の大幅下落となったうえ、6月の中国中古住宅販売は前月比0.61%の下落と、5月の同0.50%の下落から下落率が拡大し、2024年9月(この時は同0.93%の下落)以来の大幅な下落率となったことに加え、2025年1~6月の中国不動産開発投資も前年同期比11.2%減少と、1~5月期の同10.7%の減少から減少率が拡大、1~6月の新築住宅販売額も同5.2%減少と、1~5月の2.8%減少から減少率が拡大するなどした。他方、7月15日に中国国家統計局から発表された6月の同国原油精製処理量は6,224万トン(推定日量1,519万バレル)と前年同月を上回った。また、7月27日に中国国家統計局から発表された6月の同国工業企業利益は前年同月比4.3%減少と5月の9.1%減少から減少幅が縮小するとともに、市場の事前予想(同8.0%の減少)程減少しなかったものの、2ヶ月連続前年同月を下回った旨判明した。さらに、7月31日に中国国家統計局から発表された7月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.3と6月の49.7から低下した他、市場の事前予想(49.7)を下回り、4ヶ月連続で50を下回った他、7月の同国非製造業PMIは50.1と6月の50.5から低下他市場の事前予想(50.2)を下回った旨判明した。また、8月1日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された7月の同国製造業PMIは49.5と6月の50.4から低下した他市場の事前予想(50.2~50.4)を下回った。ただ、8月4日に財新伝媒から発表された7月の同国サービス業PMIは52.6と6月の50.6から上昇、2024年5月(この時は54.0)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(50.4)を上回った。そして、8月9日に中国国家統計局から発表された7月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比横這いと市場の事前予想(同0.1%の下落)ほど下落していなかったものの、同月の生産者物価指数(PPI)は同3.6%の下落と市場の事前予想(同3.3%の下落)を上回って下落している旨判明した。他方、7月14日に中国税関総署から発表された6月の同国輸出(米ドル建て)は前年同月比5.8%の増加と5月の同4.8%の増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同5.0%の増加)を上回ったうえ、同国輸入(同)は同1.1%の増加と5月の同3.4%の減少から増加に転じた(市場の事前予想は同0.3~1.3%の増加であった)。併せて発表された6月の同国原油輸入は4,988万トン(推定日量1,217万バレル)と5月の4,660万トン(同1,102バレル)及び前年同月(4,645万トン(同1,133万バレル))から増加している旨明らかになった。また、8月7日に中国税関総署から発表された7月の同国輸出(米ドル建て)は前年同月比7.2%の増加と4月(この時は同8.1%の増加)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(同5.4~5.6%の増加)を上回ったうえ、同国輸入(同)は同4.1%の増加と6月の同1.1%の増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同0.1%の減少)に反し増加している旨判明したことに加え、7月の同国原油輸入量は4,720万トン(推定日量1,115万バレル)と6月の4,989万トン(同1,217万バレル)からは減少したものの、前年同月(4,234万トン(同1,000万バレル)を11.5%上回っている旨判明した。ただ、8月15日に中国国家統計局から発表された7月の同国鉱工業生産は同5.7%の増加と6月の同6.8%の増加から伸びが鈍化、2024年11月(この時は同5.4%の増加)以来の低水準の伸びとなった他、市場の事前予想(同5.9~6.0%増加)を下回ったうえ、7月の同国小売売上高は前年同月比3.7%の増加と、6月の同4.8%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同4.6%増加)を下回った。また、1~7月の中国固定資産投資は前年同期比1.6%の増加と、1~6月の同2.8%の増加から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同2.7%の増加)を下回ったことに加え、7月の中国新築住宅価格は前月比0.31%の下落と、6月の同0.27%の下落から下落率が拡大、2024年10月(この時は同0.51%の下落)以来の大幅下落となった他、7月の中国中古住宅販売は前月比0.55%の下落と、6月の同0.61%の下落から下落率が縮小したものの、2025年1~6月の中国不動産開発投資は前年同期比12.0%減少と、1~6月期の同11.2%の減少から減少率が拡大、1~7月の新築住宅販売額は同6.2%減少と、1~6月の5.2%減少から減少率が拡大するなどしている旨判明した。ただ、8月15日に中国国家統計局から発表された7月の同国原油精製処理量は6,306万トン(推定日量1,489万バレル)と、6月(6,224万トン(同1,519万バレル)を下回ったものの、前年同月(5,906.0(同1,395万バレル))は上回っていた。

このように、中国の経済指標類の中には、良好な経済情勢を示唆するものも散見されるが、米国による対中国関税の一部猶予期間中に、駆け込みで製品を製造し米国に輸出しようとする動きを反映している部分があり、必ずしも経済が堅調であることを示唆しているわけではない可能性がある。また、2025年4~5月において原油価格が下落(5月5日に原油価格は1バレル当たり57.13ドルの終値と、2021年2月5日(この日の終値は56.85ドル)以来の低水準に到達)したこともあり、中国の製油所等がメンテナンス作業を終了し製油所の原油処理活動が活発化することに加え在庫を積み上げるべく活発に原油を購入したことにより、足元の原油輸入が拡大しているように見受けられる部分があり、原油価格が低水準であることが、原油輸入活発化の一因となっているものと見られるところからすると、中国の原油購入活発化が持続する可能性はそれほど高くなく、大規模な景気刺激策がここ最近打ち出されていないことと併せ、この先中国経済のもたつきとともに、同国の石油需要及び原油購入も伸び悩むと言った展開も想定される。

米国では、8月30日~9月1日の労働祭(レイバー・デー)の休日(9月1日)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するため、それ以降の秋場の石油不需要期(冬場の暖房シーズンは11月1日からであるので、市場関係者が暖房用石油製品需要期を意識するには時期尚早と言うことになる)とメンテナンス作業の実施を視野に入れつつ製油所が稼働を低下、原油精製処理量を減少させるとともに、原油購入を不活発にしてくることから、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されるとともに、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。

他方、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入している(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。特に8月後半から10月前半にかけては1年で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期となる。現時点までに明らかになっている一部機関による2025年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想では、平年並みか平年を上回る頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する(表1参照)と見込まれている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国アメリカ(メキシコ)湾沖合の油田関連施設等に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止すると言った事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2024年において米国アメリカ(メキシコ)湾岸地域はメキシコから日量41万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国アメリカ(メキシコ)湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2024年は当該地域で日量177万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,321万バレル)の約13%を占めた)他、米国アメリカ(メキシコ)湾岸地域は引き続き同国の精製活動の中心である(2024年の当該地域の原油精製処理能力は日量999万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,835万バレル)の約54%を占めた)こともあり、ハリケーンを含む暴風雨の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、それが原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。

表1 2025年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

8月3日にOPECプラス有志8産油国は会合を開催し、9月の原油生産につき前月比日量54.7万バレル拡大する旨決定した。この結果、2025年4月より実施されてきた、OPECプラス有志8産油国による日量約220万バレルの減産緩和に加え、アラブ首長国連邦(UAE)による日量30万バレルの増産の過程は全て完了することとなる。今後はOPECプラス有志8産油国による日量165万バレル程度の減産の緩和実施(もしくはその他追加増産等)に進むかどうかが焦点となるが、8月3日に開催された会合においては10月以降における追加減産緩和等の取り扱いについては少なくとも表立っては議論されなかった。既に決定されている増産を実際に実施した場合、2025~26年は供給が需要を相当程度上回ることが想定されるため、必要以上に原油相場に下方圧力が加わる可能性があることから、OPECプラス産油国は足元の原油価格の動向を見極めつつ、次の段階の増産を巡る方針につき検討していく(因みに次回のOPECプラス有志8産油国による会合は9月7日に開催される予定である)ことになるものと考えられる。ただ、中東情勢、及びウクライナとロシアの戦闘状態を含む地政学的リスク要因、米国関税問題を含む経済要因もしくは米国アメリカ(メキシコ)湾沖合もしくは湾岸へのハリケーン等の暴風雨の来襲に伴う沖合油・ガス田もしくは製油所等の石油供給関連インフラの操業停止を含む石油需給要因等により、次回会合直前において原油価格が上昇傾向となったり、高止まったりした場合には、米国の暖房油消費の中心地域である同国北東部を中心とするところの冬場の暖房のための、民生部門における暖房油小売価格の上昇(もしくは暖房油小売価格の上昇に伴う天然ガス価格の上昇)に対する米国トランプ大統領への不満増大を回避すべく、サウジアラビア等が米国の便宜を図る格好で一層の増産推進が決定される余地も残っている他、実際に増産を決定するに至らなくても、世界石油需給緩和感を市場で醸成させるような発言をサウジアラビアやOPEC事務局関係者等が行なうことにより、原油価格上昇の抑制を試みる(いわゆる口先介入を行なう)と言った展開となることもありうる。

他方、OPECプラス産油国の原油生産目標遵守に向けては最善を尽くすものの、自国の利害も考慮に入れる他、テンギス油田等の開発・生産事業に参入している外国石油会社等に対し減産を要求することは困難である旨カザフスタンのベクテノフ(Bektenov)首相が明らかにしたと7月15日に伝えられており、このようなことを含めOPECプラス各産油国の原油生産量が生産目標に対しどのような過不足状態となっているか、と言ったことによっても、世界石油需給バランスを巡る観測を市場で発生させることを通じ、原油相場に影響を与える可能性もある。

全体としては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了に向かうとともに、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることが、原油相場に下方圧力を加える可能性がある。また、中国経済回復がもたつき気味となるとともに同国石油需要の伸びが鈍化するとの懸念が原油価格を抑制することもありうる。他方、ウクライナとロシアとの間での戦闘停止を巡る当事者や米国及び欧州、そしてロシア産原油等を引き取る中国やインドを含む関係者間の動向によって、ロシアからの石油を含むエネルギー供給を巡る観測が発生するとともに、それが原油相場に織り込まれると言った展開となることも想定される。加えて、中東情勢、米国当局による金融政策、米国アメリカ(メキシコ)湾岸周辺地域へのハリケーンを含む暴風雨の来襲による石油関連インフラの被害状況等が原油相場に影響を与えていくものと考えられる。

 

4. 世界天然ガス市場動向

米国では、2025年5月は前月比で温暖となった反面、前年同月比では寒冷となる場面が見られた(図16参照)こともあり、暖房向けを中心とする民生部門における天然ガス需要は前月比では減少したものの、前年同月比では増加となった(図17参照)。ただ、2025年6月及び7月は前月比では総じて温暖となったことから、民生部門における暖房向けを中心とする天然ガス需要は前月比では減少となった一方、前年同月比では寒暖の程度はほぼ同様となったこともあり、前年同月比での当該需要の変動は限定的なものとなったものの、それでも小幅ながら減少となった。他方、4月9日に米国のトランプ大統領が貿易相手国及び地域に対し一律10%の相互関税を賦課したうえ、さらに貿易相手国及び地域に対し個別に追加関税を賦課したものの、この部分については90日間適用を猶予する旨同日トランプ大統領が発表した。このようなことから、関税賦課猶予期限の到来後、米国が貿易相手国及び地域にさらなる関税を賦課することに対抗し、関税を賦課された貿易相手国及び地域が報復措置として米国製品に対する関税を賦課する措置を講じる前に、できる限り大量に製品を生産し米国から輸出すべく、同国の製造業活動が活発化した側面もあったものの、2025年1月20日にトランプ氏が米国大統領に就任して以降、米国が輸入する製品に多少なりとも関税が賦課され続けたこともあり、米国経済を巡る不透明感が増大するにつれ同国消費支出の伸びが鈍化し始めるとともに、5~7月の米国の鉱工業生産は前年同月比で0.7~1.4%の増加と、前年同月を上回ってはいたものの、2025年1~4月の伸び(同1.1~1.4%増加)をどちらかというと下回る状態であったことに加え、5~7月の米国天然ガス先物価格が前年同月を上回るとともに同期間の産業部門での天然ガス販売価格も前年同月を7.8~41.8%上回ったことが、米国の産業部門における天然ガス需要を抑制する形で作用したことから、5~7月の同部門における天然ガスは若干ながらではあるが前年を下回った。また、米国では、天然ガス火力発電能力も増加しているものの、再生可能エネルギー発電、特に太陽光発電施設が顕著に拡大していることもあり、それら再生可能エネルギー発電が堅調である反面、前年に比べ調達コストが上昇している(5~7月の同国発電部門における天然ガス調達コストは前年同月を13.4~45.4%上回っていた)発電部門における天然ガス需要は前年を割り込む状態となっている。このように産業及び発電両部門における天然ガス需要が継続して前年を割り込んでことが一因となり、5~7月における米国天然ガス需要は前年同月比で減少となった。

図16 米国(ニューヨーク)気温(2025年)

また、メキシコにおいては、5月は気温が上昇気味となった他、前年同月よりも温暖となったものと見受けられる結果、空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が堅調となったものと考えられる一方6~7月は5月に比べれば気温が低下気味となった他、前年同月よりも寒冷となった結果、空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が抑制されたこともあり、米国からメキシコへのパイプライン経由での天然ガス輸出は、5月は前月比及び前年同月比で増加した反面、6~7月は5月に比べると減少した(図18参照)うえ、前年同月も下回る状態となっている。他方、欧州においてはウクライナと戦闘状態にあるロシアからのパイプライン経由での天然ガス輸入が大幅に減少している中、2024~25年の冬場に気温がしばしば低下する場面が見られたことに伴い暖房向けの天然ガス需要が喚起されたこともあり、冬場の終了時点での在庫が低水準となったことにより、2025~26年の冬に向けた天然ガス在庫積み上げを進めるためLNGによる天然ガス調達活動が活発化したこともあり、米国から欧州を中心としてLNG輸出が促進された(特に、他のEU諸国に比べ天然ガス貯蔵積み上げが遅れているドイツ(8月15日のEUの天然ガス貯蔵充填率が73.26%であるところドイツは同日時点で66.12%となっている)が天然ガス貯蔵積み上げを促進すべく、米国からのLNG輸入を活発化しているように見受けられる)。また、近年天然ガス生産が落ち込む中、(2021年は日量66億立方フィートであったものが2024年には同46億立方フィートと30%強減少しており、外貨収入不足により、ガス田開発・生産を行なう合弁事業の相手方である国際石油会社に対する支払いに支障が発生していることが一因であるとされる)、夏場の気温上昇に伴う空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門での天然ガス需要増加に対応するため、エジプトが2基目の浮遊式貯蔵再ガス化装置(FSRU: Floating Storage Regasification Unit)であるエネルゴス・エスキモー(Energos Eskimo)の操業をエジプトのアイン・ソクナ(Ain Sokhna)において開始した(7月15日に赤道ギニアでLNGを積載したタンカーが同施設に着桟したとされる)こともあり、米国からエジプト向けのLNG輸出が活発化しつつある旨示唆される。また、米国テキサス州のコーパス・クリスティ(Corpus Christi)天然ガス液化施設第3段階第1液化系列(天然ガス液化能力年間150万トン)がLNG生産を開始した旨2024年12月30日に操業者であるシェニエール(Cheniere)が発表した他、同国ルイジアナ州のプラークミンズ(Plaquemines)天然ガス液化施設第1段階(同1,330万トン)が操業を開始した旨2024年12月14日に操業者であるベンチャー・グローバル(Venture Global)が発表した。このようなこともあり、米国からのLNG輸出は前年同月を上回って堅調に行なわれた(図19参照)。

図18 米国のメキシコへのパインプラインによる天然ガス輸出(2012~25年)

図19 米国LNG輸出(2016~25年)

他方、2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻に伴い、2022年3月8日には1バレル当たり123.70ドルの終値と2008年8月1日(この日の終値は同125.10ドル)以来の高水準に到達した原油価格、及びロシアのウクライナ侵攻に伴う欧州を含む西側諸国等による対ロシア制裁の発動へのロシアの事実上の報復措置の実施に伴うロシアから欧州方面への天然ガス供給削減等と米国から欧州方面へのLNG輸出の活発化等により、米国の天然ガス需給引き締まり懸念が市場で増大するとともに、2022年8月22日には100万Btu当たり9.680ドルの終値と2008年7月23日(この日の終値は同9.788ドル)以来の高水準にまで上昇した天然ガス価格は、その後それぞれ下落基調となり、原油価格は2025年5月5日に1バレル当たり57.13ドルの終値と、2021年2月5日(この日の終値は同56.85ドル)以来の低水準、天然ガス価格は2024年3月26日に100万Btu当たり1.575ドルの終値と、2020年6月26日(この日の終値は同1.495ドル)以来の低水準に、それぞれ到達した。そして、原油価格は2025年6月18日には1バレル当たり75.14ドル、天然ガス価格は同年3月10日には100万Btu当たり4.491ドルの、それぞれ終値へと回復したものの、その後、再び両者とももたつき気味となったこともあり、原油及び天然ガス開発・生産を巡る収益性が圧迫されたものと見られることにより、掘削活動等が減速するとともに、原油生産に随伴して生産されるものを含め天然ガス生産の鈍化に歯止めがかかっている様には見受けられない(図20参照)。また、特に2025年の原油価格が概してもたつき気味となっていることを反映し、2026年の米国天然ガス生産見通し(原油価格下落に伴う原油生産量の伸びの鈍化に伴い随伴で生産される天然ガス生産量の伸びが多少なりとも鈍化するものと見られることを反映している)も概して下方修正されている(図21参照)。

図20 米国石油・天然ガス掘削装置稼働数と原油価格及び天然ガス生産量(2012~25年)

図21 米国国内天然ガス生産量及び見通し(破線部分)(2009~26年)(EIA発表時期別)

このように、米国国内の天然ガス供給が伸び悩みの様相を呈している反面、同国国内の需要及びメキシコへの輸出が必ずしも好調ではなかったことから、米国からのLNG輸出は堅調であったものの、5月9日時点では平年(過去5年平均)を2.6%上回っていた同国天然ガス在庫は6月20日には平年を6.6%上回る状態となった他、8月8日時点においても、平年を6.6%上回る(図22参照)など、米国天然ガス需給は総じて緩和基調で推移した。そのような中、5月16日には100万Btu当たり3.334ドルの終値であった米国天然ガス先物価格は、その後、気温が上昇するとの予報が発表されたり、実際に気温が上昇したりしたことに加え、6月13日から24日にかけて行なわれたイスラエルとイランとの間での戦闘により、イランがホルムズ海峡を封鎖する結果、カタールやアラブ首長国連邦(UAE)からのLNG供給が途絶するとともに天然ガス需給が引き締まる恐れがあるとの懸念が市場で増大したことから上昇、6月18日には3.989ドルの終値と、4月3日(この日の終値は4.138ドル)以来の高水準に到達した(図23参照)。しかしながら、6月24日以降米国の仲介する格好となったことによりイスラエルとイランが事実上停戦したうえ、その状態が維持されたことにより、ホルムズ海峡封鎖の可能性を含め中東情勢の不安定化に伴う同地域からの原油及び天然ガス供給途絶懸念が後退したことに加え、気温の低下予報が発表された他、8月に入ると夏場の空調機器稼働時期が残り少なくなりつつあることが意識され始めたことにより、発電部門における天然ガス需要の減少観測が市場で発生するとともに、同国の天然ガス在庫も平年をそれなりに上回っていたことに伴う天然ガス需給緩和感が広がりつつあったこと等の要因が、天然ガス相場に下方圧力を加えた結果、米国天然ガス先物価格は下落傾向となり、8月12日には2.808ドルの終値と2024年11月14日(この日の終値は2.785ドル)以来の低水準に到達した。

図22 米国天然ガス貯蔵量(2024~25年)

図23 天然ガス先物価格の推移(2018~25年)

欧州においては、5月は気候が寒冷でも温暖でもなかった(図24参照)ことにより、暖房を中心とする民生部門や、空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が概ね抑制された他、米国のトランプ大統領による一律10%の相互関税賦課(4月2日発表、4月9日実施)による欧州経済減速懸念が産業部門における天然ガス需要に負の影響を及ぼした側面もあった。また、6月においては、気候が前年に比べ温暖になったことから、民生用部門における暖房向け天然ガス需要が減少した他、気温が平年を上回って上昇したスペイン等では空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が前年同月比で増加したものと見られる反面、英国等では発電部門での天然ガス需要が前年同月を下回るなどまちまちであった。また、米国が賦課した関税による欧州での経済減速懸念が継続したこともあり、産業部門における天然ガス需要が概して軟調であった。このようなことから5~6月の欧州の天然ガス需要は前年同月比で減少となった(図25参照)。7月も気温がしばしば平年を上回った結果スペインなどでは発電部門における天然ガス需要が喚起される場面が見られたものの、風力、太陽光、及び原子力等の他のエネルギー源による発電も比較的堅調であった他、その後気温が平年並みに戻ったことから、同部門での天然ガス需要が抑制されるようになったものと見られる一方、気温上昇により民生部門における暖房向け天然ガスが軟調となったこと、米国のトランプ大統領による関税賦課政策実施による影響で欧州経済が下振れするとの懸念が強かったこともあり、産業部門における天然ガス需要が抑制され続けたことから、7月の欧州天然ガス需要も前年を割り込むこととなった。他方、欧州の主要な天然ガス供給源の一つであるノルウェーにおいては、ガス田やガス処理施設において予定された、もしくは予定外の、メンテナンス作業等が実施される場面が見られたものの、欧州方面へのパイプライン経由の天然ガス供給が大きく影響を受けると言ったことはなかった。加えて、アジア諸国及び地域におけるLNG需要が必ずしも旺盛であったわけではなかったこと(後述)から、欧州の天然ガス及び欧州向けLNGの価格がアジア向けLNG価格よりも事実上相対的に割高となったこともあり、米国等から出荷されたLNGは主に欧州方面に向かった(図26参照)結果、欧州における天然ガス在庫は徐々にではあるが増加傾向となり(図27参照)、2025年3月31日には充填率が33.81%と、平年(過去5年平均)を11.18%、前年同期を24.67%、それぞれ下回っていた欧州連合(EU)諸国の天然ガス在庫は8月15日においては、充填率73.26%と、平年を7.68%、前年同期を15.46%、それぞれ下回るなど、依然としてそれなりに平年及び前年同期を下回っているものの、その差が多少なりとも縮小しつつある。そのような中、6月13日から24日にかけては、イスラエルとイランが戦闘状態となるとともに、ホルムズ海峡等のタンカーを含む船舶の航行が脅かされ始めたこともあり、夏場の気温上昇に伴う空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門を中心とする天然ガス需要期に突入するととともに、季節的な天然ガス需給の引き締まり感が意識されつつある状態の下、ホルムズ海峡の内側にあるカタールやUAEと言った産ガス国からのLNG供給に支障が発生する結果世界天然ガス需給が相当程度引き締まる恐れがあるとの懸念が市場で増大したことが、欧州天然ガス相場に上方圧力を加えた結果、5月16日には100万Btu当たり推定11.501ドルの終値であったオランダTTF天然ガス先物価格は上昇傾向となり、6月19日には同14.024ドルの終値と2025年2月24日(この日の終値は同14.463ドル)以来の高水準に到達した。しかしながら、6月24日にイスラエルとイランが事実上停戦した他、その状態が維持されたこともあり、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの天然ガス(もしくはLNG)供給途絶懸念が後退したことに加え、欧州天然ガス在庫が積み上がりつつあったこと、そして特に7月後半に入り、夏場の気温上昇に伴う空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門を中心とする天然ガス需要期が峠を越えつつあるとともに、秋場の発電部門における季節的な天然ガス不需要期が意識され始めたことが、欧州における天然ガス相場に下方圧力を加えた(なお、7月8日には、欧州議会が、EU加盟国の天然ガス貯蔵目標達成の柔軟化案(従来原則11月1日までに在庫充填率90%に到達すると言った目標であったものを、10月1日から12月31日までの期間内の任意の時点で90%に到達すると言った目標に変更)を承認した他、7月18日には欧州理事会(首脳会議)も同案を承認したため、11月1日までに天然ガス在庫充填を急ぐべく欧州での天然ガス購入が活発化する結果天然ガス価格が上昇すると言った場面も見られにくくなった)。結果として、同地域における天然ガス価格は下落傾向となり、8月15日のオランダTTF先物価格の終値は100万Btu当たり10.643ドルと5月1日(この日の終値は同10.637ドル)以来の低水準に到達している。

図24 英国(ロンドン)気温の推移(2025年)

図25 欧州天然ガス需要(2022~25年)

図26 欧州LNG輸入(2006~25年)

図27 EU天然ガス在庫(2018~25年)

他方、4月9日の米国のトランプ大統領による関税賦課以降、中国との間で関税賦課合戦となったものの、協議の結果関税率の引き下げ(一部は90日間の賦課の猶予)で合意した旨5月12日に米国のトランプ政権が発表した。このため、一部の関税賦課猶予期間中に、中国国内において駆け込みで製品を製造し米国に輸出する(もしくは中国製の部品等を第三国等に輸出、同地で加工等したうえで、米国に輸出する)動きが発生したものと見られたことから、5~6月の中国の鉱工業生産活動はそれなりに堅調に推移したものの、7月になると陰りが見られるようになった。また、特に発電部門においては、相対的に割安な石炭及び発電能力が拡大しつつある再生可能エネルギーが主に利用されたものと見られることに加え、中国国内での天然ガス生産、ロシアを含む旧ソ連諸国等からのパイプライン経由での天然ガス輸入等により、天然ガス需要の相当部分が賄われる格好となったことから、2025年5~7月の中国LNG輸入は前年同月を下回る状態となっており(図28参照)、特にスポット市場で供給されるLNGに対し中国企業は手頃な価格であれば購入するという姿勢で臨んだ(北東アジアLNG価格で100万Btu当たり11.0~11.5ドル程度と7月31日に報じられたが、国内工業生産活動の不活発化等もあり、その後、11.0ドルを下回る価格でなければLNG購入は困難である旨8月13日に伝えられた)ことから、スポット市場における需要が限定されることとなった。また、従来スポット市場からのLNG調達に依存していたインドにおいても、2024年後半から2025年初頭にかけ長期契約を含む定期契約を締結した結果、スポット市場でのLNG需要が低下した他、5月の気温が概して平年を下回ったことにより、空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が軟調となったことに加え、5月下旬頃以降雨季(モンスーン)が例年に比べ早期に到来した結果、水力発電が活発化した反面天然ガス火力発電が不活発化したことにより、天然ガス需要が抑制される中、スポット市場に供給されるLNG価格に値頃感がある場合に購入の関心が高まる傾向が見られる反面、LNG価格の割高感が感じられるようであれば購入への関心が低迷する状態となっている(7月下旬時点では100万Btu当たり概ね12ドル以下であれば、購入の関心が高まるように見受けられる)。東南アジアにおいても、気温がそれほど上昇しなかったこともあり、空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門を中心とした、LNGを含む天然ガス需要は盛り上がらなかった。そして、日本や韓国においても、夏場の空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門での天然ガス需要増加を見込んで在庫の積み増しを進めていたことに加え、価格が割安な石炭の利用を進めていたこと等もあり、決して在庫は潤沢であるとは言い切れなかったものの、気温上昇持続に伴う電力需要の大幅増加と在庫の大幅減少等と言ったような、余程の緊急性がないと、スポット市場においてLNGを購入すると言ったことにはなりにくい状態となっているように見受けられる(7月速報値によれば、韓国のLNG輸入が前年同月を大幅に上回る反面、日本のLNG輸入が前年同月を大幅に下回る状態となっているが、日本における台風の接近や極東ロシアにおける地震発生による海象条件の悪化等の影響で日本に向かうLNGタンカーが韓国に向かったと言った展開も考えられるが、速報値から確定値に移行する段階で、それら数値が改定される可能性も残っている(図29参照))。そのような中、アジアLNG価格は欧州LNG価格と緩いながらも連動しており、例えば、5月16日には100万Btu当たり11.895ドルの終値であった北東アジア先物価格はイスラエルとイランとの戦闘突入に伴い上昇、6月23日には14.460ドルの終値と2025年2月18日(この日の終値は14.550ドル)以来の高水準に到達した。しかしながら、その後両国が停戦状態となったことから下落した他、7月下旬以降は夏場の気温上昇に伴う空調機器稼働向けの電力供給のための発電部門における天然ガス需要期が峠を越えつつあるとの見方が市場で広がりつつあることが、アジア市場におけるLNG相場に下方圧力を加える格好となっていることもあり、LNG価格は下落傾向となるとともに、北東アジアLNG先物価格は8月13日には同10.442ドルと6月2日(この日の終値は同10.420ドル)以来の低水準に到達している。

図28 中国、台湾及びインドのLNG輸入増減量(前年同月比)(2016~25年)

図29 日本及び韓国のLNG輸入増減量(前年同月比)(2016~25年)

以上

(この報告は2025年8月18日時点のものです)

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