ページ番号1010576 更新日 令和7年8月21日
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概要
アメリカの電力業界は、AIや仮想通貨などの利用拡大に伴うデータセンター需要の増加、米国内製造業の再興、輸送分野などの電化などによって電力需要の増加への対応が課題として認識されており、石炭火力発電のリタイヤや系統電力網の整備などの供給側の制約を克服し、安定した電力供給を維持するための対策が重要になっている。アメリカの今後のエネルギー需給の見通しを検証する場合においても、電力需給の問題は天然ガス需要や水素などの新しい燃料源の見通しなどにも関連する。本レポートでは、全米の発電量の約13%相当を占めるテキサス州(2023年時点)の電力市場からの視点を中心に、アメリカの電力需給の問題について整理し報告する。
1. はじめに: アメリカの電力市場とテキサス州の電力市場
アメリカの電力市場は、連邦エネルギー規制委員会(FERC)によって1996年に発令されたOrder No.888による送電網のオープンアクセス促進と独立系統運用者(Independent System Operator, ISO)の設立促進、その後1999年にFERCより発令されたOrder No.2000による地域送電機関(Regional Transmission Organization, RTO)の設立促進を受けて、現在下図1に示すRTO/ISOによって北米の2/3以上の電力系統が運営・管理されている。
注:RTOはPJM、MISO、SPP及びISONE(ISOとして発足後、RTO認定を取得)、ISOはNYISO、CASIO及びERCOT。
(出所:NREL (2024). Explained: Fundamentals of Power Grid Reliability and Clean Electricity. National Renewable Energy Laboratory (NREL). https://www.nrel.gov/docs/fy24osti/85880.pdf(外部リンク)
)
ERCOT(Electric Reliability Council of Texas)は、現在テキサス州の電力需要の90%を占める電力市場の運営と送電網の管理を行っており、他州と送電網の接続を行っておらず独立した運営を行っている。テキサス州の年間発電量は2023年時点で約547TWhで、全米の発電量の13%相当の規模で全米トップとなっている(なお、年間発電量の全米2位はフロリダ州で約260TWhで、テキサス州は2位のフロリダ州の倍以上の規模の発電量となっている) [1]。また、電力取引や送電規制などは、連邦政府の規制ではなく、州の規制機関であるPUCT(Public Utility Commission of Texas)の監督の下で決定されている。電力市場の設計は、火力発電所、原子力発電所や太陽光・風力発電所などの電源が発電した電力量(kWh)を取り扱うエネルギー・オンリー市場(Energy -only market、ERCOTやPUCTの報告書等で用いられる市場設計のことで、容量市場を設けずに、発電事業者は電力卸売市場に販売した電力対価等で投資回収させる市場)となっており、系統電力の信頼性を確保するために米国東部のRTOあるPJMなどで導入されている電源の供給能力(発電設備容量(kW))の売買を行う容量市場の導入は一切行っていないという特徴がある。
1‐1. ERCOTの電源構成
ERCOTの電力量の推移は図2に示した通り、増加傾向にある。電源の主力は、ガス火力発電であり2012年~2024年まで全発電量の45%(コンバインドサイクル発電とその他を合わせて)前後で推移している。また、2012年に全発電量の34%あった石炭火力発電は退役などもあり、2024年時点で13%まで減少している。その代役として台頭しているのが、風力及び太陽光などの再エネで、2012年時点で9%だった発電量割合が2024年時点で34%まで増加している。
(出所:https://www.ercot.com/gridinfo/generation/(外部リンク)
のデータを基にJOGMECで作成)
1‐2. 電力小売価格
ERCOTの小売電力価格は、エネルギー・オンリー市場としての特徴として、他州と比較しても比較的低水準を維持している。容量市場を導入しているISOであるPJMに加盟しているペンシルバニア州やニュージャージー州とERCOTのテキサス州の電力小売価格を2001年からの推移で比較したものが、図3となる。テキサス州の電力小売価格は、ガス火力発電が主力の発電源となっているためガス価格に連動し変動するが、全米平均やPJM加盟州と比較しても低水準で推移していることが確認できる。これは、ERCOTが導入しているエネルギー・オンリー市場では、容量市場とは異なり電力確保コストが消費者負担として上乗せされるシステムにはなっていないため、最終的に小売価格が低くなるためである。
(出所:https://www.eia.gov/electricity/data/browser/(外部リンク)
等のデータよりJOGMECで作
一方で、発電事業者としては、容量市場の場合、容量収入が得られるため収益の予見性が高く、新規事業投資の判断がしやすいというメリットがある。エネルギー・オンリー市場であるERCOTの場合、容量収入がないため、電力市場の動向によっては、既存火力発電設備の維持や、新規発電設備投資のタイミングの判断も難しくなるといったデメリットがある。
1‐3. 市場の安定性
電力市場の安定性という観点では、ERCOTの特徴として逼迫時に停電リスクが高まり、異常気象時に供給不足が顕在化しやすいという点が挙げられる。電力市場の安定性を示す指標の一つである予備率(Reserve Margin,最大電力需要に対して、電力供給能力(発電量)がどの程度余剰量を確保できているかを示した指標、(電力供給量-最大需要)/最大需要×100で計算される割合)の推移を示したものが図4となる。
(出所:ERCOTが毎年公表しているCapacity, Demand and Reservesレポート及びPJMが公表している2026/2027 Base Residual Auction ReportのデータよりJOGMECで作成)
エネルギー・オンリー市場であるERCOTの予備率は市場原理に従い確保されるため、2018年ごろに見られるように石炭火力発電所の閉鎖や期待される新規発電事業などが市況によって延期となった場合、その予備率は大幅に低下する事がある。また、再エネへの投資意欲が高くなると、2024年時点のように予備率は上昇する。こうした市場の不安定性(予備率変動の大きさ)に対応するための対策の一つとして、ERCOTでは需給逼迫時に電力価格を自動的に急上昇させるORDC(Operating Reserve Demand Curve)という仕組みを導入している。2021年の大寒波Uriの発生時の電力不足と価格高騰を踏まえて、現在のORDCは余剰電源が3,000MW以下になると予測される場合に、需給逼迫時における電源余力や需要抑制の価値が高くなる事を考慮し、その価値の高まりを市場価格に反映させる形で$5,000/MWhまで価格を上昇させ、市場参加者にインセンティブを与える仕組みになっている(Uri以前は、余剰電源が2,000MW以下になった場合に、価格上限を$9,000/MWhとする設計となっていた)。このUri以降のORDCの設計変更は、より早い段階で人為的な価格上昇を発生させる(価格上昇頻度を上げる)代わりに、その上限は低くすることで、価格の安定性を重視した設計となっている。価格は安定する一方で、アップサイドを狙う機会が少なくなることで新規火力発電などへの投資インセンティブとしての効果は低くなっており、必要な時に出力できる火力発電などの安定した電力源の確保をどうするかといった課題は残っている。
2. EROCTの電力需要予測
テキサス州の2031年までの電力需要予測(夏期のピーク需要時に系統電力への負荷予測)を示したものが図5となる。2031年には、現在の87GWから約1.7倍の145GWまで増加する可能性が示唆されている。特にデータセンター(AIや暗号通貨のマイニングなど)による需要、水素製造事業などの新産業による需要や石油・天然ガスなどの既存産業の電化による需要が、増加の要因と考えられている。
(出所:https://www.ercot.com/gridinfo/load/forecast(外部リンク)
を基にJOGMECで作成)
データセンターはサーバー・ネットワーク機器・ストレージなどを収容して24時間365日稼働させるインフラ施設であり、安価な電力が調達可能で、冷却用の水資源が豊富な場所が建設候補地になる。DataCenterMap.comで公表されているデータでは、2025年8月時点で、全米で3,955件のデータセンター建設計画があり、テキサス州はバージニア州に次いで、379件と2番目に計画件数が多い州となっている(図6参照)。ソフトバンク・OpenAI・Oracle・MGX等が今後4年間で5,000億ドルの投資を予定しているStargate Projectでも、計画の初期段階にテキサス州アビリーン(Abilene)にAI向けの専用設備建造の計画が進められている。データセンターの建設には高額な初期投資が必要であり、1平方フィートあたり600ドルから1,100ドル、またはIT設備の1GWあたり700万ドルから1,200万ドルの費用がかかると言われている[2]。このため、データセンター建設プロジェクトにとって、初期投資コストを回収するための収入源(データセンターを活用する需要サイドの企業)の確保は課題の一つとなっており、計画中の379件のプロジェクトが実際に全て計画通りに進行するわけではないと考えられる。さらに、半導体や電子機器に利用する重要鉱物の確保などの課題もあり、データセンターによる電力需要については、その成長ペースに不確実性があるため、電力需給計画の検討を難しくしている。
(出所:https://www.datacentermap.com/usa/(外部リンク)
を基にJOGMECで作成)
また、新産業として電力需要が見込まれている水素製造プロジェクトについても、将来の需要予測が難しい事業環境になっている。テキサス州においては、AES Corporation、Air Liquide、Chevron、ExxonMobil、MHI Hydrogen Infrastructure、Orstedといった主要6社が合計7プロジェクトで年間700万トンのCO2削減効果をもたらすクリーン水素を製造・供給するHyVelocity Hubといった水素ハブ計画が検討されており、米国エネルギー省(DOE)の部局であるクリーンエネルギー実証局(OECD)から最大12億ドルの援助を受ける予定となっていた(2024年末時点で2,200万ドルの援助は支給されている模様)[3]。しかし、トランプ政権に移行後、OECDによる水素ハブへの支援については不透明な状況となっており、テキサス州内の水素事業についても不透明性が増している。このため、テキサス州内の水素インフラ(パイプラインや貯蔵設備)については、政策方針が明確になるまでは遅延する可能性が高くなっていると考えられる。
さらに、2025年7月に可決された予算調整措置法案(One Big Beautiful Bill Act、OBBB)によって、水素製造事業の税額控除支援であるIRA 45Vの適格要件については当初2032年末までに建設開始のプロジェクトが対象という条件が2027年末まで短縮され、グリーン水素には逆風の状況となっている。一方でCCUS事業の税額控除支援である45Qについては、(EORの控除額が60ドルから85ドルに上昇などの変更はあったが)大きな変更はなかったため、ブルー水素製造プロジェクトについては計画に与える影響は少ないと言われている。このため、当面テキサス州の水素を牽引するのは、産業用途やモビリティ用途といった国内需要ではなく、ヨーロッパや日韓などに向けた輸出用のブルー水素需要となる可能性が高い。供給については、ExxonMobilやCF Industriesといったブルーアンモニア製造事業が牽引することが見込まれている。また、需要については、ヨーロッパ向け以外では水素・クリーンアンモニア輸入に対する政策支援を有する日本・韓国向けへの輸出への期待が大きい。
電力需要の観点でも、グリーン水素製造とブルー水素製造には大きな違いがあるため、どのような水素製造事業が立ち上がる可能性があるのかは、系統電力の計画にも影響を与える。グリーン水素については、1kgの水素を製造するのに必要とされる電力量は、約50〜55kwh/kg H2[4]に対して、ブルー水素で必要とされる電力量は2~4kwh/kg H2と言われている[5]。グリーン水素プロジェクトは、現状では電解槽の高コスト・供給制約、再エネ調達や製造コストの高さなど複合的な要因によってプロジェクトの規模(製造量)はブルー水素ほど大規模にならない傾向にあるが、製造量が例えば10万トン/年であっても、上記のデータに基づくとその電力消費量は100万トン/年の大規模ブルー水素プロジェクトと同程度になると試算される。こうした電力消費量の多いグリーン水素プロジェクトに対する(OECDによる水素ハブ補助金などの)政策方針の不透明さは、テキサス州の将来の電力需給計画を複雑化させる要因の一つとなると考えられる。
3. ERCOTの電力供給見通し
上述の通り、データセンター需要や水素産業などについては成長ペースに不確実性はあるが、急増すると見込まれる電力需要に対応するためには、太陽光・風力などの再エネ、蓄電池、火力発電、原子力など様々な電源からの供給が必要になる。しかし、原子力については新規で建設するためには5年以上の時間が必要で、新たなガス火力発電設備についてもガスタービン製造会社が供給網に制約を抱えており、5年以内に運転を開始することは難しい可能性もある。このため、今後5年間で急増する電力需要に対しては、再エネ・蓄電池による新規電源供給と、(天候などに左右される)再エネによる出力の不安定さに対処し、電力系統の安定化を図るための既存火力発電の維持と蓄電池容量の増加が重要となっている。
下図7は、ERCOTが公表している今後系統電力に接続が計画されている追加発電源に関するデータを基に作成した発電容量の拡大計画となる(接続契約が締結されていても、資金調達などが開始されていない不確実性の高い事業も含まれている)。再エネに依存する傾向は今後も強まると見込まれており、現在70GWの発電容量を持つ風力と太陽光は2028年ごろまでに120GWまで拡大する計画となっている。また、再エネよる出力の不安定さに対処し電力系統の安定化を図るために蓄電池容量も現在の10GWから2028年ごろまでに最大で40GWまで増大する計画となっている。電力需要と同様に電力の追加容量に関しても、OBBB法案の影響は懸念される。風力や太陽光発電も対象となるIRA 45Y(クリーン電力生産税額控除、PTC)と48E(クリーン電力投資税額控除、ITC)の適格要件は、OBBB法案によって、風力・太陽光プロジェクトに関しては2032年末までの運転開始という条件が、2026年7月4日以前に建設が開始され、2027年末までに運転開始という条件に変更になっており、大幅に適用期限が短縮されている。大手再エネ開発事業者などによるプロジェクトはスケジュールを前倒しにすることで駆け込み開発を進めることも予想され、再エネ電力の成長ペースについては一時的(短期的)には影響は出ないかもしれないが、中長期的には再エネ新規投資が鈍化しガス火力への依存度が上昇する可能性もあると考えられる。
(出所:ERCOTの公表データを基にJOGMECで作成)
4. テキサス州及びERCOTの対応
今後の電力需要の急増に対して、テキサス州の系統電力の信頼性を強化するために、テキサス州では上院法案6号(SB6)が2025年6月に可決された。この法案は、75MW以上の電力を消費する施設に対して、バックアップ発電設備に関する情報開示や需要管理制度(Demand Management Service)へ参加などを求める内容になっている。この法案によって、ERCOTは電力予測精度の向上による系統電力の信頼性強化と、需要調整力の強化を進める計画となっている。そのほか、再エネの不安定性に対応するために、逼迫時に即応できる予備電力を一定量確保する仕組み(Dispatchable Reliability Reserves Services、DRRS)を、今後本格導入することを検討している。DRRSは、既存の補助サービス市場(Ancillary Service)の拡張機能として導入し、将来的に容量確保ツール(Resource Adequacy)として数万MWの容量規模を長期契約などで確保する機能も担う設計で検討されている。ERCOTは電力需要の急増に対応するための安定した電力供給の確保という難しい課題を抱えている状況であるが、電力系統の独立性・自由競争の原理を維持するために、将来の供給能力を事前に確保するため電力系統の安定性が高いと言われている容量市場の導入をこれまで実施せずに、あくまでエネルギー・オンリー市場という運用を維持しており、後者のResource Adequacyという容量市場に近いメカニズムの設計と導入時期が議論のポイントとなる可能性があると考えられる。
また、電力供給の安定化という点で、現在は州内で独立運用されているERCOTの電力系統網と他州との電力系統網の接続についても議論はされている模様であるが、他州との連携によって、これまで維持してきた州内の電力マーケットの設計を独自に決定できる自主独立性が棄損される可能性や他州からの高い再エネ電力の流入によって州内の消費者負担が増える可能性などのデメリットもあるため、慎重に議論が進められるものと思われる。
5. まとめ
テキサス州では、今後5年間で電力需要が倍増する可能性もあると予測されている。特にデータセンター(AIや暗号通貨のマイニングなど)による需要、水素製造などの新産業勃興による需要や石油・天然ガスなどの既存産業の電化による需要が、電力需要の増加要因として考えられている。データセンターによる電力需要や水素などの新産業需要については、成長ペースに不確実性があるため、需給計画の検討が難しくなっている。今後の電力需要の急増に対応し、エネルギー・オンリー市場という市場競争原理によるコスト効率を維持しながらテキサス州内の系統電力の信頼性を確保するためには、再生可能エネルギーの拡大に加えて、夜間などの供給不足を補う火力発電の確保や、蓄電池の性能向上・長時間化、送電網などのインフラ整備(アメリカ全体に共通する課題として送電線や変圧器の老朽化対応、既存設備の堅牢化対応(地下埋設など)や新規送電網への投資が必要と言われている[6])など、多くの課題に対応していく必要がある中で、テキサス州はSB6によって大規模電力需要増加に対する系統電力の信頼性強化のための制度を整えるとともに、EROCTではDRRSなど即応可能な電力確保に向けた新たな市場サービス設計等を進めている。
[4] Brian D. James, Cassidy Houchins, Genevieve Saur, and Daniel A. DeSantis, “Analysis of Advanced H2 Production Pathways “
[5] A cost comparison of various hourly-reliable and net-zero hydrogen production pathways in the United States (November 2023, Justion M. Bracci etc)
以上
(この報告は2025年8月21日時点のものです)


