ページ番号1010593 更新日 令和7年9月12日

(短報)ロシアが「シベリアの力2」を含む対中ガス供給に関する複数の覚書等に合意と発表

レポート属性
レポートID 1010593
作成日 2025-09-10 00:00:00 +0900
更新日 2025-09-12 09:09:04 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 原田 大輔
著者直接入力
年度 2025
Vol
No
ページ数 11
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2 アジア
国2 中国
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシアアジア,中国
2025/09/10 原田 大輔
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概要

1. 何に合意したのか

  • 天津で上海協力機構首脳会談が開催された翌日の9月2日、北京で中露首脳会談が開催された(写1)。同日、複数の報道筋がGazpromのミレル社長の発言を中心に、中露が新たなガス供給契約に合意したことを報じており、Gazprom及びCNPCはプーチン大統領及び習近平国家主席の立ち合いの下、4つの文書に署名したとされている[1](現時点で合意に関するプレスリリースはGazpromのサイトのみ。ミレル社長の訪中に関して「Gazprom及びCNPCとの間で文書交換式が開催され、両者の協力分野を拡大する戦略的協力協定を含む4つの文書が調印された」と発表[2])。ロシア大統領府のサイトでは政府間の22の合意文書の中で唯一20番目の文書として「Gazprom及びCNPCとの戦略的協力に関する協定」が挙げられているのみで[3]、本協定と下記4つ合意されたと報道されている文書との関係は現時点では明らかではない。また、両者はパイプライン建設に関する拘束力のある覚書に署名したものの、将来の供給価格や供給開始予定時期を定める主要な商業協定はまだ締結されていないと見られている[4]

今回の中露首脳会談に際して合意されたとされる4つの文書(Gazprom・ミレル社長発言から)

(1)「シベリアの力2」パイプラインの建設に関する拘束力のある覚書に署名(a Legally Binding MOU)
(2)「シベリアの力2」モンゴル区間(「ソユーズ・ボストーク」と呼称)の建設に関する合意。
(3)既に2019年から稼働している「シベリアの力」について供給量増加(年間38→44BCM)に合意。
(4)2022年2月に合意した「極東ルート」の供給量の増加と供給開始時期(同10→12BCM/2027年供給開始)に合意。

 

2. 「シベリアの力2」:これまでの経緯(表1参照)

  • そもそもロシアの対中ガスパイプライン計画には2019年に稼働を開始した「シベリアの力」に次ぐ有力ル―トとして、「アルタイ・パイプライン」があり、当初はこちらが「シベリアの力2」と呼ばれていた。Gazpromが進める「東方ガス化プログラム」(2007年に政府承認)の一環として、2006年3月に訪中したミレル社長が中国に既に提案を行っていたもので、西シベリアのガス田を供給源として、モンゴルとカザフの間で中露が50キロメートル程国境を接するアルタイ山脈を貫く計画(輸送能力:30BCM/CNPC及びGazpromは2015年にHOAを締結)で中国西方のタリム盆地から西気東輸パイプラインに接続する構想だった(図1)。しかし、同計画はアルタイのユネスコに登録された自然遺産を通過することや中国国内では既に輸入が始まっているトルクメニスタンを中心とする中央アジア産ガスと価格及び限定的な市場で競合するという課題を抱え、その後進捗は見られなかった。
  • モンゴルを経由する新たなルートでの「シベリアの力2」構想(輸送能力:50BCM)は2019年9月にモンゴルのバトトルガ大統領(当時)がウラジオストクで開催された東方経済フォーラムにおいて、プーチン大統領に提案したことから大きく動き出す[5]。ノヴァク・エネルギー大臣(当時)がロシアとモンゴルがモンゴルを経由する天然ガスパイプライン構想に関するワーキンググループ設立することを発表し、プーチン大統領もGazprom・ミレル社長にモンゴル経由で中国に供給する天然ガスパイプラインの検討を指示している。その後、2020年3月にはGazprom及びモンゴル政府がFS実施に合意し、2021年1月にはモンゴル区間(960キロメートル)の天然ガスパイプラインの事業会社である「Gazoprovod Soyuz Vostok(「東のガスパイプライン連合」)がモンゴルに登記・設立された。

 

3. 歴史は繰り返す:現在稼働する「シベリアの力」が示唆するもの

  • 2014年3月のロシアによるクリミア併合と対露制裁の発動によるロシアの国際的孤立、そして中国への歩み寄りが同年5月の東ルートでの「シベリアの力」(ロシア国内2,864キロメートル/年間輸送量38BCM)の建設と中露天然ガス長期売買契約調印(30年間/「4,000億ドルに上る史上最大の契約」)に結び付いたことは、2022年2月のウクライナ侵攻と今回の中露の合意との間で既視感を覚えざるを得ない。
  • 同パイプラインは合意直後の9月に起工式を行い、本格敷設は2016年4月から始まった。合意から5年後の2019年12月に稼働を開始している。2006年3月に初めてロシア側から提案が為されてから2014年5月の合意まで8年余り、中国がなかなかロシア側提案に首肯せず、合意に至らなかったのは、
    1. 供給価格(中国にとってできるだけ安価/ロシアにとっては国際価格をベース)
    2. 上流権益の開放(チャヤンダ・ガス田へのCNPC参画/中国が売り手・買い手にもなる)
    3. パイプライン建設費に対する巨額融資提供/融資買ガス契約(ロシアにとって中国による長期的なガス購入確保(人質)と自らの財務負担を回避)
    という条件で折り合えなかったこと、さらに
    1. 中国が既に天然ガス供給の多角化を実現(2009年に中央アジアから、2012年にミャンマーからパイプラインで天然ガスを輸入し、更にLNGの調達を進め、ロシアの上流権益では2013年にヤマルLNG及び2019年にArctic LNG-2に参画)
    という状況が作用していた。総じて中国の交渉ポジションが強く、ロシアが簡単には妥協しなかったからだが、2014年の欧米制裁の発動によって、ロシアが妥協せざるを得ない状況となり、合意に結び付いた。ロシアによる具体的な妥協とは(1)供給価格における譲歩である。図2に中国の天然ガス輸入価格の過去10年余りの推移を示した。左グラフにパイプライン輸入価格、右グラフにLNG輸入価格を示しているが、この中で中国が調達する天然ガス供給源の中で最も安い価格を示しているのが、2019年から稼働を開始した「シベリアの力」/図中丸い囲み内)であることが分かる。その価格は、中国LNG平均輸入価格である10.05ドル/MMBTUに対して、その4割安の6.18ドル/MMBTUとなっている。

     

  • また、「シベリアの力」は国際パイプラインでも単独の生産者と単独の需要家を直結するものであり、どちらかに需給上の問題が生じた場合には、供給源と市場を代替するのが難しく、稼働に問題が生じるというリスクを抱えることも特徴となっている。中国は国内生産と輸出ルートの多様化によって、ロシアが供給しないような場合のリスクを克服している一方で、ロシアは中国という市場を代替する術を持たない。このことは稼働開始後も価格改定等の条件交渉の際にロシアの交渉ポジションに影響を与え続けるだろう。
  • 今回合意に至ったとされる「シベリアの力2」においては、上記(1)~(3)の条件交渉に関する情報はなく、ミレル社長は「支払い通貨は半分がルーブル、半分が人民元。欧州と比べて輸送距離が短いため、相対的に安くなるだろう」と述べるに留まっている。また、プーチン大統領は翌日の記者会見で「価格は現在の価格ではなく、特定の計算式に基づいて策定されている。計算式は純粋に客観的で市場に基づいたもので、双方に利益のある合意の結果」と説明しており、合意されたフォーミュラがあることを示唆している[6]
  • 3,500キロメートル以上(ロシア国内で2,600+モンゴル国内で960キロメートル)、永久凍土を切り拓くパイプラインの建設には今後4~5年程度を要すると見られており(稼働している「シベリアの力」はロシア国内2,894キロメートルを一部既設のESPO原油パイプライン併設で4年弱を完成に要した)、建設を並行させながら価格を含めた条件交渉を稼働開始までにまとめていくということも考えられるだろう。

 

4. 中国の天然ガス需要見通し:「シベリアの力2」は必要か

  • 図3に中国の2050年までの天然ガス需給見通しを試算した。米国、ロシアに次ぐ天然ガスの大消費国である中国だが2040年前半にピークを迎え(533BCM)、その後緩やかに需要は減少していく(2050年で523BCM(1))。他方、現在世界第四位の大産ガス国でもある中国は、その国内生産量が上昇基調を維持し、現在の230BCM(需要の58%)から2050年には26%生産量を増加させ、290BCM(2)に達すると考えられる。
  • 需要と国内生産の差を海外からのLNG及びパイプラインガスが補うことになるが、既に稼働しているパイプライン(中央アジア、ミャンマー及び「シベリアの力」)の供給余力が上流開発とパイプライン容量によって限定されていることを前提とし、既存パイプラインに加え、2022年2月に合意し今回増量にも合意したとされる「SKV+極東ルート」等を加えると、2050年のパイプラインガス輸入量は86BCM(3)と推定される。さらにLNGの契約済ベースに限定して調達量をプロットすると、過小評価は承知の上で、2050年ではLNG調達量は23BCM(4)となる。つまり、総需要量(1)-(国内生産(2)+PLガス(3)+契約済LNG(4))から、2050年断面では124BCMの調達必要枠が生じていると考えられる。この数字だけを見れば、輸送容量50BCMの「シベリアの力2」は、量から見れば十分に市場獲得が可能であると考えられるが、重要なのは今後海外からのLNG調達がどのように積み増されていくかという点に集約されるだろう。2030年で現状契約数量ベースではピーク・138BCMとなる中国のLNG調達量が2050年まで継続すると極論すれば、2050年時点の調達必要容量の93%がLNGによって占有される可能性もある。
  • 「シベリアの力2」は北京まで直結するルートであり、北京を中心とする需要をターゲットとしながら、今後どのような価格で調達できるのかどうか、LNG調達と比べて総合的にどのような競争性を持つのかが2050年時点でのシェア(供給量)を決めていくことになるだろう。
  • もし現在提案されている全てのパイプライン容量を中国が受け入れた場合、2050年にロシア産パイプラインガスが中国の天然ガス調達シェアに占める割合は45%を超え、さらにロシア産LNGの調達(ヤマルLNG・3トレインが完成したと仮定したArctic LNG-2のオフテイク分及びサハリン2の引取り実績)を加えれば、ロシア産ガスへの依存度は52%と過半を超えることになる。このことは中国政府が調達の最適化を検討する中で、供給源の多様化と安全保障の観点からも留意する事象となるだろう。

 

5. 現時点での認識/今後注目される要点

  • 「アルタイ・パイプライン」を含めれば19年余り、モンゴル経由へのルート変更からは足掛け6年という、売り込みを掛けるロシアの継続的交渉により、今回拘束力のある覚書の署名に至ったということになる。しかしながら、2014年5月の「シベリアの力」における中露首脳で執り行われた大々的な合意に関するリリースや式典とは異なり、今回は両国政府及び当事者であるCNPCはもとより宣伝したいはずのGazpromからのリリースも限定的であることが今回の合意の確度・深度に対して影を投げかけている。
  • 既報の通り、8月下旬には米国を中心に制裁を課しているArctic LNG-2からの最初のLNGを中国が受け入れており[7]、天津では上海協力機構(SCO)首脳会議が、3日には北京で抗日戦勝記念軍事パレードが行われているタイミングでもあった。米国主導でのアラスカ首脳会談を経て、「友好国」インドに対して二次関税が発動される中、対露情勢のセンシティビティを図りながら大々的なリリースは差し控えたという判断が働いた可能性がある。
  • 上記3.で示した3つのポイント((1)供給価格、(2)上流権益の開放、(3)中国による巨額融資)に関する動向が「シベリアの力2」計画推進のバロメータとなるだろう。
    • 供給価格については現在稼働している中国にとって最も安価なガス「シベリアの力」が有力なインデックスとなるだろう。しかし、新たな「シベリアの力2」はそこにさらに通過するモンゴルに支払う費用(タリフ)と永久凍土を含めグリーンフィールドでのパイプライン建設コストが上乗せされる。その皺寄せはロシアが負うことになる可能性が高い。
    • 現在稼働している「シベリアの力」では中国が要望するも成就しなかった上流権益の獲得については、2024年1月にロシア政府はWintershall及びOMVが保有する西シベリア資産(アチモフ層及び南ルスコエ鉱床)を接収しており[8]、ロシアが譲歩する準備が既にできていると見られる。今後これら権益に対するCNPCの参画の動きが注目される。
    • 中国政府・中国開発銀行を中心とする金融団が「シベリアの力2」に対するプロジェクト・ファイナンスを組成するかどうかは、ロシアから見れば自らキャッシュを負担せず、パイプラインを敷設でき、さらに中国の長期ガス購入を現物払いで実現できるというメリットがある。他方、中国にとっても買い手というポジションに留まらず、上流参画による売り手ともなり、巨額融資を通じてパイプラインインフラという中流にも参画することで、利益の最適化・最大化を図るとともに、実質的に上中下流全てに中国が関与・支配し、「シベリアの力2」が『中国の、中国による、中国のための』アセットとすることにも繋がる一手となる。
  • 「シベリアの力」では価格で譲歩せざるを得なかったロシアだが、「シベリアの力2」においては上流権益に加えて、中国資金の流入による実質的な支配を受け入れるかどうかが今後判明していくだろう。

 

表1 「シベリアの力2」(アルタイ・パイプラインを含む)等対中パイプラインに関する系譜
表1 「シベリアの力2」(アルタイ・パイプラインを含む)等対中パイプラインに関する系譜
出所:JOGMEC作成
写1: 中露首脳会談の模様(2025年9月2日)
写1 中露首脳会談の模様(2025年9月2日)

出所:ロシア大統領府[9]

図1 「シベリアの力-2」で想定されるルート1

図1 「シベリアの力-2」で想定されるルート2
図1 「シベリアの力-2」で想定されるルート
出所:上図は公開情報からJOGMEC作成/下図はGazprom公開情報より
図2 中国向け天然ガス(パイプライン(左図)及びLNG(右図))価格の比較と推移
図2 中国向け天然ガス(パイプライン(左図)及びLNG(右図))価格の比較と推移
出所:SIA EnergyデータベースからJOGMEC作成
図3: 中国の天然ガス長期需給見通し
図3 中国の天然ガス長期需給見通し

注:パイプラインガスの輸入見通しについては上流からの追加ポテンシャルとインフラの状況に鑑み、大規模な追加調達の可能性が少ないと判断。ほぼプラトーでの推移を想定している。

出所:JOGMEC作成

図4 ロシアは欧州ガス市場を中国及びインドで代替できるか
図4 ロシアは欧州ガス市場を中国及びインドで代替できるか
出所:JOGMEC作成
図5 「シベリアの力2」を巡る中露の駆け引き
図5 「シベリアの力2」を巡る中露の駆け引き
出所:JOGMEC作成
 

[1] IOD(2025年9月2日)

[2] Gazprom社HP(注:日本からはアクセスが制限されているため原文を以下添付する)
Алексей Миллер в составе российской делегации принимает участие в официальном визите Президента России Владимира Путина в Китай
В присутствии Владимира Путина и Председателя КНР Си Цзиньпина состоялась церемония обмена документами между ПАО «Газпром» и Китайской национальной нефтегазовой корпорацией (CNPC), подписаны четыре документа, включая Соглашение о стратегическом сотрудничестве, расширяющее направления взаимодействия компаний.

[3] ロシア大統領府HP(2025年9月2日):露中政府間が合意した20の文書リスト/http://kremlin.ru/supplement/6380(外部リンク)新しいウィンドウで開きます 新華社通信は具体的な合意には触れず、「両国がエネルギー分野を含む20以上の協力協定に署名した」と報じている。

[4] IOD(2025年9月2日)

[5] 拙稿「ロシア:12月2日、中露天然ガス供給パイプライン「シベリアの力」が稼働を開始」(2019年12月3日)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1007679/1007948.html P16~P19を参照。

[6] EGD(2025年9月3日)

[7] 拙稿「(短報)欧米制裁下のArctic LNG-2が初めてLNGを輸出」(2025年9月2日)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1010309/1010586.html

[8] 拙稿「Wintershall及びOMVが保有する西シベリア上流資産を事実上接収することを意味する新たなロシア大統領令第965号及び第966号を発出」(2024年1月12日)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009992/1009997.html

[9] ロシア大統領府HP(2025年9月2日):http://kremlin.ru/events/president/news/77902(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

以上

(この報告は2025年9月10日時点のものです)

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