ページ番号1010614 更新日 令和7年10月1日
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概要
- 9月の議会選挙において、労働党などで構成する中道左派が政権を維持することが決まった。ストーレ首相は石油・天然ガス産業を維持しながら気候変動への義務を果たすとしているが、緑の党に代表される気候変動対策に急進的な勢力も議席数を伸ばし、政権のかじ取りはより難しくなった。
- ロシアのウクライナ侵攻以降、再度ノルウェーにおける石油・天然ガス産業の重要性が高まっており、欧州におけるノルウェーの石油・天然ガスの市場シェアも増加している。
- 近年はインフラが整っている地域を中心に探鉱が集中する傾向があるが、生産を維持するにはフロンティア地域の開発を進めていく必要がある。
- ノルウェーの石油・天然ガス開発は世界で最も炭素強度が低いが、それでもなおノルウェーで最も排出量の多い産業となっている。上流事業者には、更なる努力が求められているが、カーボンニュートラルの達成や資源量の観点から、石油・天然ガス産業は縮小する方向にある。
- 様々な不確実性がある中で、2021年振りに実施されることになったフロンティア地域への入札に民間企業が投資意欲を見せるか、世界の石油・天然ガス産業の将来を占うものとして、今後の動向が注目される。
1. はじめに
2025年9月8日にノルウェー議会の選挙があり、労働党を中心とする中道左派政権が継続することとなった。ストーレ首相は選挙後のコメントで、ノルウェーはより多くの炭化水素の探査を継続すべきであり、エネルギー供給国として引き続き信頼できるパートナーであり続けるだけでなく、技術的措置を講じ、排出量を削減し、気候変動に関する義務を果たすつもりだと語った。しかし、緑の党などの石油開発に反対する党派の議席が増えたことで、エネルギー政策のかじ取りはより難しくなったと言えるだろう。
足元の状況では、2025年7月、ノルウェーの石油生産量は2011年以来最高の記録となった。気候変動対策により化石燃料の投資が落ち込んできていたものの、2022年のロシアのウクライナ侵攻以降、ノルウェーの化石燃料の重要性が見直されている。また、豊富な水力発電により、ノルウェーの石油・天然ガスの炭素強度は低く、排出量の面では他の国の生産よりも競争力が高い。まだまだ必要とされる石油・天然ガスの生産過程で排出される温室効果ガスが少ないことは、脱炭素化の流れの中では重要な要素となる。
このような中、選挙前には2021年振りの鉱区入札の準備を行うことを政府が発表した。このレポートでは、ノルウェーの置かれている状況を概観するとともに、資源の安定供給と脱炭素のはざまで揺れる資源国の先行事例として焦点を当てたい。
(出所:米国エネルギー情報局)
2. ノルウェーの石油・天然ガスの位置づけ
ノルウェーは石油・天然ガス資源に恵まれている一方、水力資源も豊富に有しており、一次エネルギー供給の4割を水力で賄っている。約20年前には石油・天然ガス・石炭を合わせて6割前後だったものが、現在は5割以下まで減少してきている。その代わり、再生可能エネルギーが急速に増加しており、2000年には石炭を抜き、水力と合わせて、一次エネルギー供給の半分に迫っている。電力に関しては約9割を水力で賄っており、風力が残りの9%、天然ガスが1%弱と、低炭素電源がほぼ100%を占めている。しかし、陸上の風力発電に関しては生態系や景観に対する国民の反対を受け、2019年以降は新規プロジェクトの許可を停止した後、2022年から、地方自治体が同意したプロジェクトのみ、新たなライセンスを得られることになった[1]。
(出所:IEAデータよりJOGMEC作成)
2005年以降、ほぼ毎年ノルウェーは電力純輸出国となっており、足元では年間約2万GWhの輸出を行っている。一方で、一部の予測によると、ノルウェーは電力需要の高まりと風力発電プロジェクトの停滞により、2030年までに電力純輸入国になることが予想されている[2]。同予測によると、電化の進展により、2050年までには化石燃料の使用量は半減し、電力需要は現在の約2倍の26万GWhになる。これを支えるのが、2030年以降に再度新規プロジェクトが立ち上がる風力発電で、2050年までの追加発電容量の8割以上を占める。
電化の中心となるのは自動車である。ノルウェーの2024年の乗用車販売数では、EVが88.9%を占め、2014年の12.5%から右肩上がりとなっている[3]。政府は2025年までに販売される新車の全てをゼロエミッションにすることを目標としており、EVの購入者に免税や駐車場、通行料の優遇を与えている。しかし、現在の在庫数ではEVが占める割合は3分の1であり、3分の2はガソリン車やディーゼル車が使われている[4]。国際エネルギー機関のデータでも、輸送用の石油需要は2010年代から減少傾向にあるものの、まだピークから1割減少している程度であり、根強い石油需要があることが分かる[5]。
さらに、石油・天然ガスは輸出収入の48%、歳入の32%、GDPの22%を占めており、引き続きノルウェーにとって最重要の産業となっている。原油価格を主な要因として、輸出収入、歳入、GDPのシェアは大きく変動している。2010年代後半に原油価格が低迷してからは一時期シェアが落ち込んでいたが、2022年のウクライナ侵攻後に価格が高騰、特に欧州地域における石油・天然ガスの重要性が増した。ノルウェーにとっての石油・天然ガスの存在感は縮小するどころか、今も拡大してきている傾向にあると言える。
(出所:ノルウェーオフショア総局、統計局データよりJOGMEC作成)
上流への投資額については、2014年後半から原油価格の低迷により減少し、国全体のシェアは伸び悩んでいる。しかしながら、2024年の投資額はNOK(ノルウェークローネ) 2,500億(約250億米ドル)を超え10年ぶりに記録を更新した。一方で、この増加は開発・操業中鉱区への投資がほとんどで、新規鉱区の探査への投資は過去10年低迷したままである。投資額の増加には、排出量削減に必要な投資が多く含まれるものと考えられるが、ウクライナ侵攻により欧州でのノルウェーの石油・天然ガス生産の重要性が増したこと、税制が変更されたことも要因と考えられる。2022年からキャッシュフロー税が導入され、ノルウェーでは石油産業に78%という高額な税金が課されているが、2022年から特別税(実質税率56%)部分について、投資額の100%当年度控除が認められている。オフショア総局は2025年には更に投資が拡大し、NOK 2,640億を見込んでいるが、石油・天然ガス産業を維持するには新たな投資決定が必要だとしている[6]。
ノルウェーの外に目を向けると、欧州におけるノルウェーの石油・天然ガスの重要性が高まっている。ロシアからのEUへの海上輸送石油の原則禁輸、一部を除くEUへの天然ガスパイプラインの稼働停止を受けて、石油・天然ガス輸入においてノルウェーの存在感は高まっている。EUの石油輸入においては、ノルウェーは米国に次いで2番目のシェアで、12%(2021年時点で9%)を供給している。天然ガスについては、パイプラインでは約半数、LNGでも5%を供給しており、天然ガス全体の供給量では約3割に達し、ロシアを逆転して最大の供給国となっている(2021年時点で24%、ロシアが45%だった)。
(出所:EurostatよりJOGMEC作成)
3. 2025年9月の議会選挙
9月8日に実施されたノルウェーの議会選挙では、労働党を中心とする中道左派政権は年金基金がイスラエル支援に利用されているとの批判の逆風にさらされていたが、169議席中88議席を確保し、過半数を上回った。労働党は議席を5つ増やしたものの、右派の進歩党の躍進が目覚ましく、過半数を得るには引き続き中道左派5党で協働を求められる。
(出所:ノルウェー選挙総局)
中道左派と括られてはいるものの、個別政策では隔たりもある。労働党と中央党は、新規の探査活動も推進していく立場だが、赤党及び社会主義左派については、気候変動対策のために新規の探査許可を停止し、段階的に石油・天然ガスの生産を終了していく方針を示している。第一党である労働党は、石油・ガス産業は段階的に廃止されるのではなく、排出削減の要件を設定しながら発展することを目指している。生産に関する排出量は、2030年までに2005年比で半減、2050年にはネットゼロにすることを計画している。一方で、今回倍以上に議席を伸ばした緑の党は、新規の探査停止は当然のことながら、石油・天然ガスの生産活動は2040年までに全ての油ガス田を閉鎖するという最も厳しい政策を打ち出している。
緑の党は、段階的な油ガス田の閉鎖を提案しており、これは最も排出量が多く、収益性の低く、ガスよりも石油の生産の多い鉱区から終結させていくことを考えている。具体的には、Statfjord油田、Brage油田、Draugen油田、Ula fields油田の4油田を最優先に、更にHammerfest LNGプロジェクトに接続するSnøhvitガス田を含む8油ガス田も2030年までに閉鎖すべきだと訴えている。先の4油田は、既にピーク生産量から大きく減少しており、2024年の生産量は合計約70 kboe/d、ノルウェー全体の生産量の1~2%ほどで、それほど影響は大きくないが、これが緑の党の主張通りに2040年に向けて閉鎖が拡大して行けば、ノルウェー国内はもちろん、ノルウェーの石油・ガスに頼る欧州各国にも大きな影響が出ることになるだろう。
ノルウェーは、2021年9月の選挙で保守党が率いる中道右派連合が中道左派の野党連合に敗れ、8年ぶりの政権交代となった。労働党は少数派の社会主義左翼党の支持を得るために、社会主義左派が気候変動対策として求める石油探査の縮小を受け入れ、議会の任期である2025年までフロンティア地域のナンバリングされた入札を実施しないことを決めた。この結果、2021年以来、フロンティア地域の鉱区入札は実施されていない。今回の選挙においても、緑の党をはじめとした石油・天然ガス産業の縮小に急進的な意見を持つ政党が大きく議席を伸ばしており、これらの政党を取り込まなければ労働党は議会の過半数を維持できないことから、前回の政権よりも、より厳しいかじ取りが求められる。
4. 鉱区入札の概況
ノルウェーの鉱区入札は、インフラの整った開発済みの鉱区の周辺鉱区の授与を行うAwards in Predefined Areas(APA)と、通常隔年で行われるフロンティア地域の鉱区の授与を行うナンバリングされた入札の2種類がある。
APAの入札は毎年実施され、2024年の入札では、20社に合計53鉱区が付与された。2025年の入札は、バレンツ海で68ブロック、ノルウェー海で8ブロック拡大されて実施された。APAは9月2日を締め切りとして20社の応募があり、2026年1月にライセンスの授与が予定されている[7]。オフショア総局は、ノルウェー大陸棚で活動している企業のほとんどが今回のAPA入札で申請書を提出し、既存の油田やインフラ付近の探査に大きな関心があることを裏付けている、としている。
ノルウェーオフショア総局によると、現鉱区での埋蔵量は北海に集中しているが、バレンツ海には北海と同じ程度の資源量が賦存しているとされており、そのほとんどは未発見資源として区分されており、その半分以上は未開放鉱区に賦存が期待されている[8]。近年の傾向としては、開発コストを低減するためにインフラの整った生産中プロジェクトの周辺で探査が行われる、APA入札を通じたいわゆるInfrastructure Led Exploration (ILX)が主流となってきた。しかし、有望な鉱区の探査は進んでおり、今後も埋蔵量を維持するためには、フロンティア地域での探査を継続していくこと、新たな鉱区を開放していくことが重要となる。
(出所:ノルウェーオフショア総局)
ナンバリングされた鉱区入札は上述のとおり、2021年から実施されてこなかったが、2025年8月8日に第26日鉱区入札の発表があった[9]。対象となる鉱区は9月10日に発表され、既存の鉱区やAPA対象鉱区、海洋資源管理地域や連立与党の間で取り決められた地域を除く地域で、図7で示された場所となる。企業は関心のある鉱区を10月1日までに提出することができる。
(出所:ノルウェーオフショア総局)
5. 今後の見通し
最大の課題は、2050年にカーボンニュートラルを目指すノルウェー政府の政策と、石油・天然ガス生産の継続との整合性だ。国際エネルギー機関によると、ノルウェーの石油・天然ガス生産は世界で最も炭素強度が低いとされているが[10]、生産には大きな排出が伴う。石油・天然ガス採掘からの温室効果ガス(GHG)排出量は2007年にはピークを迎え、生産量あたりのGHG排出量でも2014年に100万boeあたり1,048トンCO2換算で頭打ちとなった。しかし、ノルウェーの分野別GHG)排出量は、2007年に石油・天然ガス採掘が製造・鉱業分野を抜いて最も排出の多い産業となり、現在でもノルウェーの全排出量の約4分の1を占める。
ノルウェーは、フィンランド(1990年)とスウェーデン(1991年)に次いで1991年に炭素税を導入し、世界で最も早く炭素税を取り入れた国の一つになっている。2021年には気候変動行動計画を発表し、炭素税がNOK 590/tCO2-eだったところ、2030年にはNOK 2,000/tCO2-eに段階的に引き上げ、排出削減意欲を高めることを目指している[11]。この炭素税は、現在は約NOK 1,565/tCO2-e (約157米ドル/tCO2-e)まで引き上げられている[12]。これ自体はノルウェーの炭化水素の商業的競争力が失われるほどのものではないが、全体として78%という高い税率と併せ、民間企業の投資意欲に影響がある要素となるだろう。
ノルウェーはCCSにも力を入れており、Sleipner Vestプロジェクトは、1996年から生産される天然ガスから分離されるCO2を回収して年間約100万トンを地下に再圧入している。Snøhvitプロジェクトでも、2008年から分離した年間70万トンのCO2を埋め戻している。現在はLongshipと呼ばれる複数の産業排出CO2を回収・輸送・貯留するプロジェクトで、2025年8月に地下への圧入を開始した。しかし、CCSが全ての上流開発の排出を削減できるわけではなく、カーボンニュートラルを達成するには排出量の削減を大幅に進めるか、生産を縮小するしかない。
(出所:ノルウェー統計局及びノルウェーオフショア総局データからJOGMEC作成)
ノルウェー政府は、今後の石油・天然ガス生産について3つのシナリオを作成している。いずれのシナリオにおいても2000年代のピークまでは生産は回復することなく、2050年に向けて減退していくことが予想されている。ベースケースであっても、複数の発見が行われ、既存の油ガス田から生産を増加させるための投資が行われることが想定されているが、主要な成熟油田の生産減少を相殺するほどではない。低シナリオでは、探査活動と投資が縮小した結果、生産の急速な縮小と政府予算の減少が危惧されている。高シナリオでは、活発な探査活動に伴う多くの埋蔵量の発見と、技術開発の加速によって、一定程度生産が維持されることを想定している。これらのシナリオはいずれも政府の気候変動対策を考慮したシナリオとなっている。
(出所:ノルウェー統計局及びノルウェーオフショア総局データからJOGMEC作成)
5. おわりに
ノルウェーの石油・天然ガス生産は2019年からは回復しつつあり、2025年には4.1 百万boe/dに達し、2006年以来最高の生産量を記録することが期待されている。しかし、これをピークに再度下落に転じ、政府が想定するいずれのシナリオでも右肩下がりとなることは避けられない見通しとなっている。どれだけの生産を継続できるかは、これまで挙げてきたように、色々な要素が関係する。政府がどれだけの新規プロジェクトを容認するか、既存プロジェクトを終結するような措置をとるか、上流の排出削減技術開発が進むか、そして何よりもこのような不透明な状況で民間企業が上流投資を継続できるかが課題となる。
まずは今後4年間の政権を担う労働党を中心とした中道左派連合がどのような石油・天然ガス産業政策を採用するか、実施が決定した第26回鉱区入札において、民間企業がフロンティア地域へ投資意欲を見せるかが今後を左右する鍵となるだろう。世界でも炭素強度の低いノルウェーにおいて、もしも生産が維持できないような事態となれば、カーボンニュートラルを掲げている国の石油・天然ガス産業はいずれもより厳しい現実を突きつけられることになるだろう。ノルウェーの産業や欧州へのエネルギー供給という意味合いだけではなく、世界の石油・天然ガス産業の将来を占うものとして、今後の動向に注目していきたい。
[1] 国際エネルギー機関「Norway 2022」https://iea.blob.core.windows.net/assets/de28c6a6-8240-41d9-9082-a5dd65d9f3eb/NORWAY2022.pdf(外部リンク)![]()
[2] DNV「Energy Transition Outlook Norway 2024」https://www.dnv.com/news/2024/energy-transition-outlook-norway/(外部リンク)![]()
[3] ノルウェー道路連盟 https://ofv.no/(外部リンク)![]()
[4] 2024年9月16日 BBC「There are now more electric cars than petrol vehicles on Norway’s roads」https://www.bbc.com/news/articles/cx25ljxpygeo(外部リンク)![]()
[5] 国際エネルギー機関 https://www.iea.org/countries/norway/oil(外部リンク)![]()
[6] ノルウェーオフショア総局 https://www.sodir.no/en/whats-new/publications/reports/the-shelf/the-shelf-in-2024/production-operating-fields-and-investments/(外部リンク)![]()
[7] ノルウェーオフショア総局 https://www.sodir.no/en/facts/production-licences/licensing-rounds/apa-2025/(外部リンク)![]()
[8] ノルウェーオフショア総局「The Shelf 2024」https://www.sodir.no/en/whats-new/publications/reports/the-shelf/the-shelf-in-2024/(外部リンク)![]()
[9] ノルウェーオフショア総局 https://www.regjeringen.no/no/aktuelt/trenger-flere-funn-oppstart-av-26.-konsesjonsrunde/id3115456/(外部リンク)![]()
[10] 国際エネルギー機関「The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions」https://iea.blob.core.windows.net/assets/f065ae5e-94ed-4fcb-8f17-8ceffde8bdd2/TheOilandGasIndustryinNetZeroTransitions.pdf(外部リンク)![]()
[11] 2021年2月15日公表 JOGMEC川田眞子「ノルウェー:炭素税引き上げを計画―低炭素と低コストのジレンマを超えられるか?―」https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1008924/1008957.html
以上
(この報告は2025年10月1日時点のものです)


