ページ番号1010630 更新日 令和7年10月20日

原油市場他: ウクライナによるロシア石油関連インフラ攻撃等により上昇する場面が見られるも、中東情勢を巡る緊張緩和観測等で5ヶ月超ぶりの低水準に下落する原油価格

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レポートID 1010630
作成日 2025-10-20 00:00:00 +0900
更新日 2025-10-20 11:32:11 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2025
Vol
No
ページ数 52
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2025/10/20 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、製油所の稼働低下により原油在庫が増加するとともに平年幅上限を超過する状態は維持される一方、石油製品製造活動が不活発化したこともあり、留出油在庫は減少し平年幅下限付近に位置する量となっている反面、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、ガソリン在庫は比較的限られた範囲内で変動した他平年幅上限を超過する状態となっている。
  2. 2025年9月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では減少した他、欧州及び日本においても一部製油所でメンテナンス作業が実施されたり稼働を低下させたりしたことにより原油需要が減少したことに併せ原油在庫が削減される格好となった。結果として、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では依然として気温が低くなかったことから暖房向けの需要が低調であったプロパンの在庫が増加したこと等もあり、石油製品在庫は拡大した。また、欧州においても軽油及びガソリンを中心として石油製品在庫は増加した。このため、日本においてはガソリンや軽油等の消費が喚起された側面があったこともあり石油製品在庫は減少したものの、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加した他、平年幅上限付近に位置する量となっている。
  3. 2025年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場においては、9月中旬から下旬にかけては、ウクライナが発射した無人機等によるロシアの石油関連インフラ等への攻撃に伴いロシアからの石油等のエネルギー供給途絶懸念が市場で増大したこと等が原油相場に上方圧力を加えたことから、原油価格は上昇傾向となり、9月26日には1バレル当たり65.72ドルと、8月4日以来の高水準の終値に到達した。しかしながら、パレスチナ自治区ガザ地区における戦闘を巡り、イスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間で合意に到達した旨10月9日に米国のトランプ大統領が発表したことにより中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したこと等が原油相場に下方圧力を加えたことから、原油価格は10月中旬に向け下落傾向となり、10月16日の原油価格の終値は5月5日以来の低水準に到達した。
  4. この先、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることが、石油製品及び原油の価格に上方圧力を加える可能性がある。また、ウクライナによるロシアの石油を含むエネルギー関連インフラ攻撃が継続することでも、原油価格は上振れしやすいものと考えられる。他方、ウクライナとロシアとの戦闘を巡る米国とロシアとの間での停戦に関する協議や米国及びその他諸国による対ロシア制裁等の成り行き、米国の関税政策の実施方針表明とその後の貿易相手国及び地域との間での取引の成立に向けた動き、政府関係機関の閉鎖解除に向けた予算措置を巡る米国連邦議会等の動向、中国経済指標類の内容、イスラエルとハマスとの間でのパレスチナ自治区ガザ地区を巡る停戦の状況とイエメンのフーシ派武装勢力の紅海等周辺海域における船舶の攻撃具合、OPECプラス有志8産油国による2025年12月以降の原油生産方針を巡る議論の方向性等によって、原油相場が変動するものと考えられる。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2025年7月の米国ガソリン需要(確定値)は推定日量915万バレル、前年同月比1.8%程度の減少と、6月の当該需要(確定値)である日量926万バレル(前年同月比0.7%程度の増加)から、需要量が減少した他前年同月比では増加から減少に転じた(図1参照)。ただ、当該需要は速報値(前年同月比4.1%程度減少の日量894万バレル)からは上方修正されている。7月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量88万バレル程度と推定されたところ確定値では同79万バレルへと下方修正されたことにより、速報値から確定値へと移行する際に、この下方修正部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが当該需要の上方修正の一因となっているものと見られる。米国と中国の関税賦課合戦(4月9日に米国は中国からの輸入製品に対し145%の関税を賦課した一方、4月12日に中国は米国からの輸入製品に対し125%の関税を賦課した)後の関税に関する両国の協議を巡る不透明感の発生の影響もあり5月は米国の景況感が悪化した一方、5月12日に両国が関税を引き下げることで合意した旨の声明が発表されて以降は事態が落ち着いていったこともあり、6月は多少なりとも米国の景況感は改善した(例えば、米国供給管理協会(ISM)発表の6月の製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.0と5月の48.5から上昇した他、6月の非製造業景況感指数も50.8と5月の49.9から上昇した)ため、米国経済減速を巡る懸念が市場で後退したことが、6月の同国ガソリン需要を下支えした一方、4月9日に導入した相互関税の追加賦課部分につき同日米国のトランプ大統領が90日間の猶予期間を設定する旨発表したが、7月9日の猶予期限を控え、8月1日より当該関税賦課を実施する旨7月6日にトランプ大統領が発表した(さらに、同関税は8月7日午前0時1分から適用される旨7月31日に米国のトランプ大統領が発表、実際に発動された)。また、7月8日正午過ぎ(米国東部時間)に米国のトランプ大統領は、自国が輸入する銅に50%の関税を賦課する意向である旨表明した。加えて、8月1日にブラジルに対し50%の関税を賦課する方針である(併せてブラジルのボルソナロ前大統領に対する起訴を取り下げるよう要求する)旨トランプ大統領が7月9日夕方(同)に明らかにした一方、7月10日にブラジルのルラ大統領は報復措置を講じる可能性がある旨表明した。また、8月1日を以て欧州連合(EU)及びメキシコからの輸入品に対し30%の関税を賦課する意向である旨7月12日午前(同)にトランプ大統領が明らかにした。このようなこともあり、米国のトランプ政権による関税賦課の実施に伴う米国経済減速懸念の増大したことが7月の同国ガソリン需要を抑制する格好となったことから、同月の当該需要は前月比及び前年同月比で減少したものと考えられる。もっとも、2025年7月の同国自動車運転距離数は前年同月比で1日当たり95億マイルと前年同月の同94億マイルから1.7%増加するなど、5月(前年同月比0.5%増加)及び6月(同0.9%増加)から前年同月比での増加率が拡大しているところからすると、7月のガソリン需要抑制の反動が8月に現れることもありうる。なお、2025年7月の米国ガソリン需要は、新型コロナウイルス感染拡大前の時点である2019年7月の当該需要(日量953万バレル)(確定値)を4.0%程度下回っている。他方、2025年9月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量876万バレル、前年同月比2.5%の減少と8月の当該需要(速報値)である日量901万バレル(前年同月比2.6%程度の減少)から需要量は増加した一方前年同月比での減少率はほぼ同水準であった。9月1日を以て米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに不需要期に突入したこともあり、9月の米国ガソリン需要は前月比で減少した。他方、8月7日を以て米国は貿易相手国及び地域に対し相互関税の追加賦課措置を発動したため、同国経済減速及び物価上昇観測に伴う実質個人可処分所得の伸び悩み懸念が、8月のみならず9月の同国ガソリン需要を抑制する格好となったことが、9月の同国ガソリン需要の前年同月比での減少幅が8月並みになった背景にあるものと考えられる。もっとも、9月の推定米国自動車運転距離数が1日当たり92億マイルで前年同月比1.5%の増加と、8月(前年同月比0.7%の増加)から増加率が拡大していることから、9月の当該需要は速報値から確定値に移行する際に上方修正される可能性もある。なお、2025年9月の米国ガソリン需要は2019年9月の当該需要(日量920万バレル)(確定値)を5.0%程度下回っている。そして、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、米国ガソリン需要はそれほど旺盛ではなかったものの、製油所においては秋場のメンテナンス作業実施や装置の不具合発生等に伴い、原油精製処理量が減少傾向となった(図2参照)ことにより、ガソリン、特に混合基材の製造が影響を受けたものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ことから、9月上旬から10月上旬にかけ米国ガソリン在庫は比較的限られた範囲内で増加もしくは減少の明確な傾向を示すことなく推移したが、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2015~25年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~25年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~25年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~25年)

2025年7月の米国留出油需要(確定値)は推定日量380万バレル、前年同月比で2.8%程度の増加(図5参照)となったが、6月の日量397万バレル(前年同月比で8.2%程度の増加)(確定値)と比べ、需要量が減少した他前年同月比での増加率も縮小した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比4.4%程度減少の日量354万バレル)からは上方修正されている。4月9日に米国の相互関税の追加賦課部分につき90日間の猶予が行われたものの、7月に入ってその期限が意識され始めたことから、同月の米国の景況感が前月から悪化した(ISMから発表された7月の製造業景況感指数は48.0と6月の49.0から低下した他、7月の非製造業景況感指数も50.1と6月の50.8から低下した)ことが、留出油需要の前月比での減少に反映されているものと考えられる。他方、前年同月と比べても景況感はどちらかと言うと悪化している(2024年7月のIMS製造業景況感指数は47.0、非製造業景況感指数は51.4であるため、製造業は改善しているもののなお同部門が縮小している一方、非製造業は前年同月比から顕著に伸びが鈍化していることを示している)ことから、この面で2025年の7月の同国の留出油需要の前年同月比での増加率が抑制されているものと考えられる。ただ、2024年5月30日に発表された同年1~3月期の米国国内総生産(GDP)(改定値)が前期比年率1.3%の増加と同年4月25日発表時点の同1.6%(速報値)から下方修正されたうえ、同年6月11日から12日にかけ開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)の際に明らかになった今後の政策金利引き下げ予想において、2024年末までの政策金利引き下げ回数が1回である旨示唆され、同年3月19日から20日にかけ開催された前々回のFOMCの際に示唆された3回から下方修正された旨判明したことから、米国金融当局による政策金利引き下げペースの鈍化観測が市場で発生するとともに同国経済活性化期待が後退したこともあり景況感が悪化した(2024年6月のIMS製造業景況感指数は48.3と前年同月(46.3)からは改善しているものの、なお、同部門は縮小している他、非製造業景況感指数は49.2と前年同月(53.8)から相当程度落ち込むとともに同部門が縮小していること示している)こともあり、2024年6月の米国留出油需要が日量366万バレルと前年同月比で7.9%程度の減少となったことにより、その反動で2025年6月は前年同月比での増加率が拡大した影響で、2025年7月の米国留出油需要の前年同月比での増加率が6月に比べ大幅に縮小する格好となっている側面もある。なお、2025年7月の米国留出油需要は2019年7月の当該需要(日量391万バレル)(確定値)を2.7%程度下回っている。他方、9月の米国留出油需要(速報値)は推定日量374万バレル、前年同月比で1.3%程度の増加となり、8月の当該需要(速報値)である同386万バレル(前年同月比0.9%程度の減少)から、需要量は減少した反面前年同月比では減少から増加に転じた。米国における物価上昇が沈静化しないことから政策金利が引き下げられない一方労働市場が軟化しつつあることもあり、ISMから発表された9月の製造業景況感指数は49.1と8月の48.7から若干上昇したものの縮小が続いた他、9月の非製造業景況感指数は50.0と8月の52.0からそれなりに低下したことが、9月の米国留出油需要が前月比で減少する一因となっているものと考えられる。また、9月のISM製造業景況感指数は前年同月(47.5)からそれなりに上昇しているものの、非製造業景況感指数は前年同月(54.5)を相当程度下回っていることからすると、同月の米国の留出油需要は前年同月比で減少しているか、増加しているとしても限定的な規模にとどまる可能性が高いものの、当該需要はそれなりの規模で増加している旨示していることから、速報値から確定値に移行する際に同需要が下方修正されるか、もしくは反動で10月の当該需要増減にその影響が及ぶ可能性があるものと考えられる。なお、9月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量381万バレル)(確定値)を5.6%程度下回っている。そして、米国における留出油需要は比較的抑制された状態で推移したものの、米国の製油所の稼働が低下するとともに石油製品製造活動が不活発化したことにより、留出油の製造活動もまた抑制される格好となった(図6参照)。このため、9月上旬から10月上旬にかけての米国の留出油在庫は減少傾向となり、平年幅下限付近に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2015~25年)

図6 米国の留出油生産量(2009~25年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~25年)

2025年7月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比1.9%程度増加の日量2,098万バレルとなり(図8参照)、6月の同2,101万バレル(前年同月比2.3%程度の増加)から、需要量は若干ながら減少した他、前年同月比では増加率が多少縮小した。また、ガソリン及び留出油等の需要が速報値から確定値に移行する際に上方修正されたことから、米国石油需要も速報値(前年同月比0.2%程度増加の日量2,064万バレル)から上方修正されている。ガソリン及び留出油等の需要が前月比で減少したことが一因となり、7月の米国石油需要は前月比で減少した格好となっている。また留出油及びその他の石油製品が前年同月比で増加した(米国での天然ガス生産の増加に伴い随伴で生産されるエタンの供給拡大に需要が対応する格好となったことから、エタンを含むその他の石油製品の需要が増加したものと考えられる)ことが、米国石油需要の前年同月比の増加に反映されている。なお、2025年7月の米国石油需要は2019年7月の当該需要(日量2,074万バレル)(確定値)を1.2%程度上回っている。他方、2025年9月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,068万バレル(前年同月比で1.6%程度の増加)となっており、8月の同国石油需要(速報値)である日量2,115万バレル(前年同月比0.8%度の増加)から需要量が増加した他前年同月比でも増加率も拡大している。ガソリン及び留出油の両需要が前月比で減少したことが、9月の米国石油需要の前月比での減少に影響しているが、前年同月比の増加の相当部分はその他石油製品によるものとなっており、当該需要は日量537万バレルと2024年8月から2025年7月にかけての同需要(確定値)である同416~497万バレルと比較しても明らかに高水準であるため、速報値から確定値に移行する段階で当該需要とともに同国石油需要が下方修正される可能性があるので注意する必要があろう。なお、2025年9月の米国石油需要は2019年9月の当該需要(日量2,025万バレル)(確定値)を1.7%程度上回っている。また、米国における原油生産が若干ながら増加傾向で推移した一方、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに秋場のメンテナンス作業を実施するようになったり、装置に不具合が発生したりしたことにより、同国の製油所における原油精製処理量が減少傾向となったものの、7月29日から10日以内にウクライナとの間での停戦に合意しなければ、関税等の経済制裁を強化する意向である旨7月29日に米国のトランプ大統領が改めて表明したこと等もあり、ロシア産原油等の購入国である欧州の一部諸国や、中国やインドと言ったアジアの一部諸国等がロシア産原油等の引き取りを敬遠する(つまりロシア産原油等が世界市場から事実上排除される)ことにより、石油需給引き締まり懸念が増大したことが、欧州の指標原油であるブレントや中東及びアジアの指標原油であるドバイ原油に上方圧力を加えた結果、それら原油価格がWTIに比べ割高になったこともあり、米国への原油輸入が減少するとともに、同国からの原油輸出が堅調となったことから、9月上旬から10月上旬にかけての米国原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、留出油在庫が平年幅下限付近に位置する量となっている反面、原油及びガソリン両在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2015~25年)

図9 米国原油在庫推移(2003~25年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~25年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~25年)

2025年9月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では減少した他、欧州及び日本においても、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに秋場の石油不需要期に突入したこともあり、一部製油所においてメンテナンス作業が実施されたり、稼働を低下させたりしたことにより、原油需要が減少したことに併せ原油在庫が削減される格好となった。結果として、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国では、依然として気温が低くなかったことから暖房向けの需要が低調であったプロパン、及び冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品向けの混入が減少したブタンを含むその他の石油製品の、各在庫が増加したこと等もあり、石油製品全体の在庫は拡大した。また、欧州においても、7月に軽油在庫が減少したこともあり、同地域における軽油価格が割高になるとともに軽油製造の利幅が改善したことにより、8月以降域内の製油所において軽油製造が活発化するとともに域外からも軽油が流入したものと見られる一方、軽油製造のために製油所の稼働が上昇したことからガソリンの製造も併せて活発化した反面、9月に入り夏場のドライブシーズンに伴うガソリン及び軽油(欧州ではディーゼル車が乗用車として相当程度普及している)需要期が終了したこともあり、軽油及びガソリンを中心として石油製品在庫は増加した。このため、日本においては、製油所の稼働が低下する中、9月においても総じて高水準の気温が継続したことに伴い、自動車内の空調が堅調に稼働したことにより、ガソリンや軽油等の消費が喚起された側面があったこともあり、これら製品を中心として石油製品在庫は減少したものの、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加した他、平年幅上限付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過しつつ前月末から減少した一方、石油製品在庫が平年幅上限付近に位置しつつ前月末から増加した結果、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から若干の減少となったが、平年幅上限を超過する状態となっている(図14参照)。また、2025年9月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.5日と8月末の推定在庫日数(61.6日)から若干ながら減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~25年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~25年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~25年)

9月10日に1,400万バレル強程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、9月17日には1,400万バレル台前半程度、9月24日には1,400万バレル台半ば程度の量へと、それぞれ増加したものの、10月1日には1,300万バレル台半ば程度、10月8日には1,100万バレル台半ば程度の、それぞれ量へと減少した。そして、10月15日には1,300万バレル台後半程度の水準を回復したが、9月10日の水準は下回った状態となっている。台湾(台塑石化(Formosa Petrochemical)が麦寮(Mailiao)製油所(原油精製処理能力日量54万バレル)の一部施設において9月9日から2ヶ月弱メンテナンス作業を実施している他、台湾中油(CPC)が2025年第4四半期に大林(Dalin)製油所(原油精製処理能力日量40万バレル)においてメンテナンス作業を実施する予定である)等のアジア諸国及び地域、そして中東諸国(サウジアラビアのサトルプ(SATORP)製油所(操業者 :SATORP(Saudi Aramco Total Refining and Petrochemical: Saudi Aramcoが62.5%出資、Totalが37.5%出資)、原油精製処理量日量46万バレル)が10月にメンテナンス作業を実施する予定である旨10月6日に関係者が明らかにした他、同じくクウェートのミナ・アブドラ(Mina Abdullah)製油所(操業者: KNPC、原油精製処理量日量49万バレル)も10月にメンテナンス作業を実施する旨関係者が10月7日に明らかにしている)において、秋場の製油所メンテナンス作業が実施されつつあるうえ、マレーシア(ペンゲラン(Penguerang)製油所(操業者: ペンゲラン精製会社(サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコとマレーシア国営石油会社ペトロナスの折半出資)、原油精製処理能力日量30万バレル)及びナイジェリア(ダンゴテ(Dangote)製油所(操業者:ダンゴテ・インダストリーズ、同65万バレル)等においてガソリン製造装置(流動接触分解装置(RFCC: Residue Fluid Catalytic Cracker))等に不具合が発生したことにより、それら諸国及び地域における製油所での軽質留分製造活動が不活発化していることに加え、8月以降ウクライナが発射したと見られる無人機等によりロシアの製油所で火災等の被害が発生し操業が停止する例が散見されるようになったこともあり、ロシアからシンガポール方面へのナフサの供給にも支障が発生しているものと見られることが、シンガポールにおける軽質留分在庫を減少させる形で作用したものと考えられる。そして、シンガポールにおける軽質留分在庫の減少がアジア市場におけるガソリン価格に上方圧力を加えた反面、夏場のドライブシーズンが終了するとともに、ガソリン不需要期に突入したことにより、季節的なガソリン需給の緩和感を市場が意識したことが、同市場におけるガソリン価格に下方圧力を加えたことから、9月中旬から10月中旬頃にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合、ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は、拡大及び縮小を繰り返しつつ、どちらかというと拡大する傾向を示した。

また、8月以降ウクライナが発射したものと見られる無人機等によりロシアの製油所で火災等が発生し操業が停止する例が散見されるようになったうえ、中東諸国において秋場の製油所メンテナンスが実施されつつあることより、それら諸国からシンガポール方面へのナフサの供給に支障が発生していることに加え、アジア諸国及び地域においても、秋場のメンテナンス作業実施に伴い国外もしくは地域外へのナフサ供給が抑制されつつあるとともに、国外もしくは地域外からのナフサ調達が活発化しつつあるものと見られることが、アジア市場におけるナフサ価格に上方圧力を加えた反面、夏場のドライブシーズンが終了するとともにガソリン不需要期に突入したことから、ガソリンの原料となるナフサの需要減少観測が市場で広がり始めたことが、アジア市場におけるナフサ価格に下方圧力を加えたことから、9月中旬から10月中旬頃にかけての同市場におけるナフサとドバイ原油との価格差(この場合、ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は上下に変動しつつも、明確な拡大もしくは縮小傾向を示すこと無く推移した。

9月10日には900万バレル台後半程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料を含む中間留分在庫は、9月17日も900万バレル台後半程度の量を維持した。また、9月24日には900万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、10月1日には900万バレル台後半程度の水準を回復、10月8日には1,000万バレル強程度の量へと増加した。それでも、10月15日には前週比で減少した結果900万バレル台後半程度の水準となっており、結果として、10月15日の当該在庫量は9月10日の量を下回っている。2024年から2025年にかけての冬場において気候が相当程度寒冷となる場面が見られた米国や欧州において暖房向けの軽油需要が盛り上がったうえ、2025年1月20日に米国大統領に就任したトランプ氏が欧州や中国等を含む貿易相手国及び地域に対し一連の関税を賦課したものの、その後一部関税賦課を一定期間猶予したことにより、猶予期間終了に伴う米国の関税賦課開始や、それに対抗した貿易相手国及び地域による報復関税賦課実施の前に、米国や欧州等において駆け込みで製品を製造及び輸出しようとしたものと見られることもあり、産業部門や輸送部門において軽油需要がある程度支持されたと考えられること等により、米国や欧州等において軽油在庫が減少した(この結果、7月4日の米国留出油在庫は1.03億バレルと2005年4月29日(この時は1.02億バレル)以来の低水準に到達した他、欧州石油産業の中心地の一つであるアムステルダム、ロッテルダム及びアントワープ(ARA)地域における軽油在庫も2025年7月31日に推定1,300万バレル弱程度の量と2024年1月25日(この時は同1,200万バレル台後半程度)以来の低水準に到達した)。しかしながら、これにより軽油製造利幅が改善したことに伴い、欧米諸国等の製油所において軽油製造が活発化した結果、当該製品在庫が増加傾向となったことにより、欧州市場の軽油価格がアジア市場の軽油価格を上回る幅が縮小したこともあり、中東やインド等から欧州方面への軽油等の流出が鈍化した反面、それら諸国及び地域等からシンガポール方面に向けた中間留分の流入が拡大したものと見られることが、シンガポールにおける中間留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。そしてこのように、シンガポールにおける中間留分在庫が増減を繰り返す中、韓国等一部諸国等において経済が減速気味となったこともあり軽油需要が軟調であったことが、アジア市場における軽油価格に下方圧力をもたらしたものの、冬場の暖房向け軽油及び灯油需要期を控えた季節的な需給の引き締まり感がアジア市場で発生しやすい中、アジア諸国及び地域において秋場の製油所メンテナンス作業が実施されつつある結果石油製品製造活動が不活発化していることに加え、ウクライナが発射したものと見られる無人機等による製油所に対する攻撃に伴いロシアからアジア方面への軽油輸出に支障が発生しているとされることが、アジア市場における軽油価格に上方圧力を加えたことから、9月中旬から10月中旬頃にかけての同市場における軽油とドバイ原油との価格差(この場合、軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大及び縮小の明確な傾向を示さない状況となった。

9月10日に2,600万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、9月17日には2,500万バレル台半ば程度、9月24日に2,200万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。10月1日には2,400万バレル台半ば程度の水準へと回復したが、10月8日には2,300万バレル台後半程度の量へと減少した。そして、10月15日には2,500万バレル強の水準を回復したものの、9月10日の在庫水準は下回る状態となっている。欧州、中東及びアジア各地域において、秋場の製油所メンテナンス作業が実施されつつあることにより、石油製品製造活動が不活発化していることに加え、ウクライナが発射したものと見られる無人機等による攻撃により、ロシアにおける製油所の稼働に支障が発生していることもあり、これら地域からアジア方面への重油供給が抑制されているものと見られることが、シンガポールにおける重油在庫減少に寄与しているものと考えられる。そして、シンガポールにおける重油在庫減少と需給の引き締まり感の市場での醸成が、同市場における重油価格に上方圧力を加えたこともあり、9月中旬から10月中旬頃にかけての同市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向を示したものの、アジアやアフリカの一部諸国等の製油所においてRFCCが稼働を停止したこともあり、処理されなかった低硫黄重油がアジア市場に流入してきたことに伴い低硫黄重油需給の緩和感を市場が意識したことが、同市場の低硫黄重油価格に下方圧力を加えた側面があったこともあり、低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合、低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は上下に変動しつつも明確に拡大及び縮小の傾向を示すことなく推移した。

 

2. 2025年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場等の状況

2025年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場においては、9月中旬から下旬にかけては、ウクライナが発射した無人機等によるロシアの石油関連インフラ等への攻撃に伴いロシアからの石油等のエネルギー供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、ロシアによるポーランド等への領空侵犯に対し可能な限りの方策を講じる旨9月23日に北大西洋条約機構(NATO)が表明したことにより、西側諸国等とロシアとの間での対立の先鋭化に伴うロシアの石油供給等への不安感が拡大したこと等が、原油相場に上方圧力を加えたことから、原油価格は上昇傾向となり、9月26日には1バレル当たり65.72ドルと、8月4日以来の高水準の終値に到達した。しかしながら、イラク北部のクルド人自治区からトルコへのパイプライン経由での原油輸出が2年半ぶりに再開される方向となったこと、10月5日に開催されるOPECプラス有志8産油国会合で増産が検討される旨の情報が流れたこと、パレスチナ自治区ガザ地区における戦闘を巡り、イスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間で合意に到達した旨10月9日に米国のトランプ大統領が発表したことにより中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したこと、中国に対する関税を大幅に引き上げる意向である旨10月10日にトランプ大統領が表明するなど米国と中国との間で貿易問題を巡り対立が先鋭化したことに伴い両国等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が増大したこと、ウクライナでの戦闘終結を巡り米国とロシアが対面形式により首脳会談を開催する予定である旨10月16日にトランプ大統領が発表したことにより米国を含む西側諸国等の対ロシア制裁強化によるロシアからの石油を含むエネルギー供給減少への懸念が後退したこと等が、原油相場に下方圧力を加えたことから、原油価格は10月中旬に向け下落傾向となり、10月16日の原油価格の終値は5月5日以来の低水準に到達した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~25年)

ロシア北西部レニングラード州にあるキリシ(Kirishi)製油所(操業者: スルグトネフチガス、原油精製処理能力日量35.5万バレル)においてウクライナが発射した無人機が飛来、迎撃されたものの残骸が落下した結果火災が発生した(間もなく鎮火した他操業可能な施設を利用して操業することにより被害を受けた施設による生産等を代替する方向であるとされる)旨9月14日に伝えられたことに加え、9月16~17日に開催される予定である次回の米国連邦公開市場委員会(FOMC)において政策金利引き下げが決定されるとの期待が高まるとともに米ドルが下落したことから、9月15日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.61ドル上昇し、終値は63.30ドルとなった。また、最近のウクライナによる石油ターミナル及び製油所への攻撃により、ロシア国内パイプラインへの石油会社からの原油の受け入れを制限した他、さらに自社が保有する施設が被害を受け続けるようであれば、石油会社は生産を削減せざるを得なくなるであろう旨ロシア国営石油輸送会社トランスネフチが警告したと9月16日にロイター通信が報じた(同日トランスネフチは同報道を虚偽であるとして否定した)ことにより、ロシアからの石油を含むエネルギー供給混乱を巡る懸念が増大したことに加え、次回のFOMCにおいて政策金利引き下げが決定されるとの期待が高まり続けるとともに米ドルが下落したことから、9月16日の原油価格の終値は1バレル当たり64.52ドルと前日終値比で1.22ドル上昇した。この結果原油価格は9月12~16日の3取引日合計で1バレル当たり2.15ドルの上昇となった。しかしながら、9月16~17日に開催されたFOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げが決定されたものの概ね市場の事前予想通りであった他、今後の政策金利の取り扱いについてはFOMC毎に判断していく旨FOMC開催後の記者会見においてパウエル議長が示唆したことにより、米国金融当局による積極的な政策金利引き下げ姿勢が必ずしも示されなかったこともあり、政策金利引き下げ決定予想から米ドルを売り込んでいた市場関係者が利益確定により米ドルを買い戻したことに伴い、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり64.05ドルと前日終値比で0.47ドル下落した。また、9月18日も、9月16~17日に開催されたFOMCの結果及びその後に行なわれたFRBのパウエル議長の記者会見の内容に対する市場の反応の流れを引き継いだこともあり米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.48ドル下落し、終値は63.57ドルとなった。また、ウクライナとロシアとの間での停戦に向けた努力に関しインドに感謝する旨米国のトランプ大統領が首脳会談(電話会談)後の9月16日に明らかにした一方、インド石油会社は同国政府からロシア産原油購入を停止するよう指示されていないこともあり、米国のインドに対するロシア産原油引き取り停止を巡る圧力が緩和しているように見受けられるとともに、ロシア産原油の引き取りをインドが停止する兆候が見られない状況が継続している旨9月19日にブルームバーグ通信が報じたうえ、9月19日に実施された米国と中国の首脳会談(電話会談)後において、米国のトランプ大統領が中国に対しロシア産原油購入の停止を要求した旨示唆されなかったこともあり、米国の中国及びインドに対する圧力強化に伴うロシア産原油の世界石油市場からの排除による石油需給引き締まり懸念が後退したことに加え、9月16~17日に開催されたFOMCの結果及びその後に行なわれたFRBのパウエル議長の記者会見の内容の流れを引き継いで米ドルが上昇し続けたことから、9月19日の原油価格の終値は1バレル当たり62.68ドルと前日終値比で0.89ドル下落した。この結果原油価格は9月17~19日の3日間合計で1.84ドルの下落となった。

また、イラク北部のクルド人自治区において生産された原油をトルコへのパイプライン経由で輸出すること(イラクとトルコとの間での原油輸送契約を巡る問題等により2023年3月25日に当該輸出は停止していたとされる)につき、関係者間で合意に到達する見込みである旨9月22日にイラク中央政府とクルド人自治区政府が明らかにしたことにより、この先の石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、OPECプラス有志8産油国による減産緩和方針に従い原油輸出を拡大しつつある旨9月21日にイラク国営石油販売公社(SOMO: State Oil Marketing Organization)のアルシャタリ(Al-Shatari)事務局長が明らかにした他、クウェートの原油生産能力が日量320万バレルと10年超ぶりの高水準に到達した旨クウェートのアルルーミ(Al-Roumi)石油相が明らかにしたと9月22日に伝えられたことにより、これら産油国からの石油供給増観測が増大したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、ロシア南西部サラトフ(Saratov)州にあるサラトフ製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量14万バレル)、南西部サマラ(Samara)州にあるノボクイビシェフスク(Novokuibyshevsk)製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製能力同17.7万バレル)、及びロシアの黒海沿岸港であるノボロシイスクに向け原油を輸送するパイプラインの圧送基地を無人機により攻撃した旨9月20日にウクライナが主張したことにより、ロシアからの石油供給途絶懸念が増大したことに加え、ロシアに対する圧力を大幅に強めるべく、早急に二次制裁を発動するよう西側諸国に要望する旨9月22日にカナダのカーニー首相が表明したことにより、西側諸国等による対ロシア制裁強化に伴うロシアからの石油供給減少懸念が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、9月22日の原油価格の終値は1バレル当たり62.64ドルと前週末終値比で0.04ドルの下落にとどまった(なお、この日を以てNYMEXの2025年10月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、11月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり62.28ドル(前日終値比同0.12ドルの下落)であった)。ただ、クルド人自治区政府に対し債務返済を巡る保証を石油会社2社(ノルウェー石油会社DNO及び英国石油会社ジェネル(Genel))が要求していることもあり、同自治区からの石油供給が依然として再開されていない旨9月23日に伝えられたことにより、この先の石油需給緩和感が後退したことに加え、ロシアによるポーランド等への領空侵犯に対し、可能な限りの手段を実行するなど強力に対応する方針である旨9月23日に北大西洋条約機構(NATO)が表明したことにより、西側諸国等とロシアとの間での対立の先鋭化に伴うロシアからの石油供給への影響を巡る懸念が増大したことから、9月23日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.77ドル上昇し、終値は63.41ドルとなった。また、NATO加盟国は、領空を侵犯する飛翔体を撃墜すべきである他、ウクライナは全ての国土の領有を回復する立場にある旨9月23日午後(米国東部時間)以降米国のトランプ大統領が主張したことに伴い、ウクライナ及び西側諸国等とロシアとの間での対立が先鋭化することに対する不安感が増大したことに加え、ウクライナが発射した無人機等がロシアにある複数の石油関連インフラ等を攻撃した結果、これら施設で被害が発生したことにより、ロシアからの石油供給等の途絶懸念が増大したこと、9月24日にEIAから発表された米国石油統計(9月19日の週分)において原油在庫が前週比61万バレル、ガソリン在庫が同108万バレル、及び留出油在庫が同169万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(原油在庫同20万バレル程度の増加、ガソリン在庫同20万バレル程度の増加、留出油在庫同50万バレル程度の減少)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり64.99ドルと前日終値比で1.58ドル上昇した。この結果原油価格は9月23~24日の2日間合計で1バレル当たり2.35ドルの上昇となった。他方、イラクのクルド人自治区において生産された原油をトルコへのパイプライン経由で輸出することにつきイラク中央政府、クルド人自治区政府及び石油会社が合意に到達した結果、今週中にも原油輸出が再開される(日量23万バレルで生産を開始するが、クルド人自治区において新規投資が促進され油田の生産が拡大すれば日量40~50万バレルに到達する可能性がある)旨イラク中央政府のフセイン外相が明らかにしたと9月24日夜(米国東部時間)にブルームバーグ通信が報じたことで、この先の石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、9月25日に米国商務省から発表された2025年4~6月期同国国内総生産(GDP)(確定値)が前期比年率3.8%の増加と市場の事前予想(同3.3%の増加)を上回ったうえ、同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(9月20日の週分)が21.8万件と前週比1.4万件の減少となった他市場の事前予想(23.3~23.5万件)を下回ったことに伴い、市場が見込んでいたよりも米国経済が堅調であることが示唆されたことにより、同国金融当局によるさらなる政策金利引き下げが推進しづらくなるとの見方が発生したこともあり、米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、9月25日に実施されたトルコのエルドアン大統領との会談の際、米国のトランプ大統領がロシアからの石油購入を停止するよう要求したことにより、ロシア産石油供給が世界市場から排除される結果、石油需給が引き締まる可能性があるとの見方が増大したこと、ウクライナが発射した無人機によるロシア製油所の攻撃に伴い、ロシアは2025年末まで軽油輸出を部分的に停止する旨9月25日にロシアのノバク副首相が表明したことにより、軽油需給の引き締まり感が市場で発生したこともあり、米国軽油先物価格が上昇したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、9月25日の原油価格の終値は1バレル当たり64.98ドルと前日終値比で0.01ドル下落にとどまった。それでも、ロシア南西部クラスノダール地方のアフィプスキー(Afipsky)製油所(操業者: SAFMAR、原油精製処理能力日量18万バレル)において、迎撃された無人機の落下により一部の原油精製処理装置(日量6万バレル)で火災が発生した(その後鎮火したが同装置は稼働を停止したとされる)旨9月26日に報じられたことにより、ロシアからの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、9月26日に米国商務省から発表された8月の同国個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)価格指数が前年同月比2.7%上昇と7月の同2.6%から拡大したものの、市場の事前予想(同2.7%上昇)と同水準であった(価格変動幅の大きいエネルギー及び食料品を除く8月のコアPCE価格指数は同2.9%上昇と7月(同2.9%上昇)から横這い、市場の事前予想(同2.9%上昇)と一致した)ことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ停止を巡る観測が後退したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.74ドル上昇し、終値は65.72ドルと、8月4日(この日の終値は66.29ドル)以来の高水準の終値となった。

しかしながら、イラク北部のクルド人自治区において生産された原油をトルコ(ジェイハン)へパイプライン経由で輸出すること(イラクとトルコとの間での原油輸送契約を巡る問題等により2023年3月25日以降当該輸出は停止していた)につき、イラク中央政府、クルド人自治区政府及び同地域で操業する石油会社との間で合意に到達した(9月25日午後遅く(米国東部時間)に伝えられた)ことに伴い、9月27日午前6時(現地時間)に当該輸出が再開したことにより、世界石油需給緩和観測が市場で増大したことに加え、10月5日に開催される予定であるOPECプラス有志8産油国の会合において11月の原油生産量につき前月比13.7万バレルの拡大(10月の増産規模と同様)かそれ以上の規模の増産を検討している(但し今後変更される可能性あり)旨9月28日に伝えられたことにより、この先の世界石油需給のさらなる緩和を市場が意識したことから、9月29日の原油価格の終値は1バレル当たり63.45ドルと、前週末終値比で2.27ドル下落した。また、10月5日に開催される予定であるOPECプラス有志8産油国による会合において、11月の原油生産を前月比日量27.4~41.1万バレル、もしくは最大同50万バレル拡大することで合意する可能性がある旨関係者が明らかにしたと9月30日に報じられた(ただ、同日OPEC事務局は日量50万バレルの増産報道は不正確で誤解を招くとして否定した)ことにより、この先の石油需給緩和感増大を市場が意識したことに加え、7月の米国原油生産量(確定値)が日量1,364万バレルと前月比で同11万バレル増加し、史上最高水準に到達した旨9月30日にEIAが明らかにしたことにより、米国石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.08ドル下落し、終値は62.37ドルとなった。さらに、10月1日も、10月5日に開催される予定であるOPECプラス有志8産油国による会合において、11月の原油生産を前月比で大幅に拡大することで合意する可能性がある旨関係者が明らかにしたと9月30日に報じられたことにより、この先の石油需給緩和感増大を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、10月1日にEIAから発表された米国石油統計(9月26日の週分)において原油在庫が前週比179万バレル、ガソリン在庫が同413万バレル、及び留出油在庫が同58万バレルの、それぞれ増加と市場の事前予想(原油在庫同100万バレル程度、ガソリン在庫68万バレル程度の、それぞれ増加、留出油在庫同110万バレル程度の減少)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したことにより、米国石油需給緩和感が拡大したこと、運営のための予算手当を巡る米国連邦議会及び政権における協議が不調に終わったことに伴い、10月1日に一部の政府機関の閉鎖が開始されたことにより、政府機能の欠如による米国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.78ドルと前日終値比で0.59ドル下落した。そして、10月2日も、10月5日に開催される予定であるOPECプラス有志8産油国による会合において、11月の原油生産を前月比で大幅に拡大することで合意する可能性がある旨関係者が明らかにしたと9月30日に報じられたことにより、この先の石油需給緩和感増大を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、10月1日に開始された政府機関の閉鎖に伴い、米国のトランプ政権が政府関係機関職員を数千人規模で解雇する意向である旨10月2日にトランプ大統領報道官のレビット氏が明らかにしたことにより、米国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.30ドル下落し、終値は60.48ドルとなった。この結果原油価格は9月29日~10月2日の4日間で1バレル当たり5.24ドル下落した。しかしながら、10月3日には、これまでの価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、9月29日に米国のトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が発表した、パレスチナ自治区ガザ地区における20項目に渡る和平案に関し、10月5日17時(米国東部時間)までに成立させる必要がある旨イスラム武装勢力ハマスに対し要求すると10月3日にトランプ大統領が表明したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したこと、無人機を使用してロシア南西部オレンブルグ(Orenburg)州にあるオルスク(Orsk)製油所(操業者: フォルテインベスト(Forteinvest)、原油精製処理能力日量13.3万バレル)を攻撃した旨10月3日にウクライナが主張したことにより、ロシアからの石油製品等の供給を巡る混乱拡大に対する懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.40ドル上昇し、終値は60.88ドルとなった。

また、10月5日に開催されたOPECプラス有志8産油国会合において、11月の原油生産につき前月比日量13.7万バレルの拡大とする旨決定されたが、決定された増産は事前予想の中では小さい規模となっていたことにより、大規模な増産を期待していた市場関係者が失望するとともに、利益確定に伴う原油先物契約の買い戻しが発生したことに加え、10月4日にロシア北西部レニングラード州にあるキリシ製油所がウクライナの無人機による攻撃を受け火災が発生した結果、第6常圧蒸留装置(原油精製処理能力日量16万バレル)の操業が停止した(操業再開までに約1ヶ月を要するとされる)旨10月6日に伝えられた他、ロシア南西部クラスノダール州のトゥアプセ(Tuapse)製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレル)が夜間にウクライナの無人機による攻撃を受け火災が発生(間もなく鎮火)した旨現地当局が10月6日に明らかにしたことにより、ロシアからの石油供給を巡る混乱に対する懸念が増大したことから、10月6日の原油価格の終値は1バレル当たり61.69ドルと前週末終値比で0.81ドル上昇した。この結果原油価格は10月3~6日の2取引日合計で1バレル当たり1.21ドルの上昇となった。ただ、10月7日には、10月4日にロシアのキリシ製油所がウクライナの無人機による攻撃を受け火災が発生した結果、第6常圧蒸留装置の操業が停止、操業再開までに約1ヶ月を要するとされる旨10月6日に伝えられたことにより、ロシアからの石油供給を巡る混乱に対する懸念が増大した流れを引き継いだことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、10月7日にEIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)において、2025年の米国原油生産見通しが日量1,353万バレルと9月9日に発表された前回見通し(同1,344万バレル)から同9万バレル上方修正されている旨判明したことにより、世界石油需給緩和感を市場が意識したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.73ドルと前日終値比で0.04ドルの上昇にとどまった。また、ウクライナとロシアとの間での和平に向けた協議の機運は殆ど失われた旨10月8日にロシア外務省のリャブコフ(Ryabkov)次官が表明したことにより、ウクライナ及び西側諸国等とロシアとの対立の先鋭化に伴うロシアからの石油を含むエネルギー供給混乱を巡る懸念が増大したことに加え、10月8日にEIAから発表された米国石油統計(10月3日の週分)において同国石油製品需要が日量2,199万バレルと2022年12月23日の週(この時は同2,282万バレル)以来の高水準に到達したことにより、同国の石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、人工知能(AI)関連企業の事業発展への期待から米国株式相場が少なくとも一時的に上昇(スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)総合500種指数及びナスダック総合指数は過去最高水準の終値に到達)したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.82ドル上昇し、終値は62.55ドルとなった。しかしながら、パレスチナ自治区ガザ地区における戦闘を巡り、米国が提案した和平案の第1段階(人質解放等、別途第2段階(ほぼ恒久的な戦闘停止)があるとされる)に対し、10月9日にイスラエルとイスラム武装勢力ハマスが合意したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.51ドルと前日終値比で1.04ドル下落した。また、パレスチナ自治区ガザ地区における戦闘を巡り、米国が提案した和平案の第1段階を、10月10日にイスラエル政府が批准するとともに、ガザ地区からイスラエル軍が部分的に撤収し始めたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が後退したことに加え、希土類(レアアース)の輸出規制実施を10月9日に中国商務省が発表したことに対し、中国は敵対的な政策を推進しているとして、10月31日~11月1日に韓国で開催される予定であるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議開催の際に習近平国家主席と会談する必要はなさそうだとしたうえ、中国に対する関税を大幅に引き上げる意向である旨10月10日に米国のトランプ大統領が表明したことにより、米国と中国との間での貿易関係等を巡る対立の先鋭化に伴う米国経済減速懸念が増大したこともあり、同国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.61ドル下落し、終値は58.90ドルになるとともに、5月7日(この日の終値は58.07ドル)以来の低水準に到達した。また、この結果、原油価格は10月9~10日の2日間合計で1バレル当たり3.65ドル下落した。

ただ、10月12日に米国のトランプ大統領が、中国との間での貿易問題を巡る協議に前向きな姿勢を示唆した他、10月下旬に開催される予定である米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席との間での会談は予定通り実施される旨10月13日に米国財務省のベッセント長官が明らかにしたことにより、米国と中国の貿易関係を巡る対立の先鋭化に伴う米国経済減速懸念が後退したこともあり、同国株式相場が上昇したことに加え、10月13日に中国税関総署から発表された9月の同国輸出が前年同月比8.3%の増加と8月の同4.4%から伸びが拡大、2025年3月(この時は同12.2%の増加)以来の大幅な増加率となった他市場の事前予想(同6.0~6.6%の増加)を上回ったうえ、輸入も同7.4%の増加と8月の同1.3%増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同1.5~1.8%増加)を上回った一方、同国原油輸入が4,725万トン(推定日量1,153万バレル)と前年同月比(4,549万トン(同1,110万バレル)から増加している旨判明したことにより、中国経済減速と石油需要の伸びの鈍化を巡る懸念が後退したこと、10月13日にOPECから発表された月刊オイル・マーケット・レポートにおいてOPECが2025年及び2026年の世界石油需要の伸びを据え置いたことにより、堅調な世界石油需要の拡大維持を市場が意識したことから、10月13日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.59ドル上昇し、終値は59.49ドルとなった。それでも、中国が関与する船舶を対象とした港湾使用料の追加徴収を10月14日に米国が実施した(4月17日に発表されていた)一方、同日中国も米国で建造された船舶、米国籍の船舶、もしくは米国法人及び個人が所有もしくは運航する船舶に対し港湾使用料の追加徴収を実施した(10月10日に発表された)うえ、中国造船業の不公正な商慣行の有無に関する米国政府の調査に協力したとして、韓国造船大手ハンファ・オーシャン(Hanwha Ocean)の米国子会社5社に対し制裁(中国の法人及び個人による取引等の禁止を内容とするとされる)を発動する旨10月14日に中国政府が発表したこと、及び11月1日に実施される予定である米国の中国に対する100%の関税賦課が実際に行なわれるかどうかは中国の対応次第である旨10月14日に米国通商代表部(USTR)のグリア代表が明らかにしたことより、米国と中国との経済関係を巡る対立が先鋭化することを通じ、両国等の経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化するとの観測が増大したことに加え、10月14日に国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートにおいて、2026年は最大日量400万バレル程度の供給過剰となる可能性がある旨IEAが示唆したことにより、この先の世界石油需給緩和感が意識されたことから、10月14日の原油価格の終値は1バレル当たり58.70ドルと前日終値比で0.79ドル下落した。また、10月15日に中国国家統計局から発表された9月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比0.3%、生産者物価指数(PPI)が同2.3%の、それぞれ下落と、8月のCPIの同0.4%、PPIの同2.9%の、それぞれ下落からは下落率が縮小した(市場の事前予想はCPIが同0.2%、PPIが同2.3%の、それぞれ下落であった)ものの、CPIは2ヶ月連続、PPIは36ヶ月連続、それぞれ前年同月比で下落となるなど、デフレ傾向が継続していることにより、中国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.43ドル下落し、終値は58.27ドルとなった。さらに、10月16日に米国のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領が電話形式で以て首脳会談を実施し、近日中にハンガリーのブダペストで対面形式により首脳会談を実施しウクライナとロシアとの戦闘の終結につき協議する旨同日トランプ大統領が発表したことにより、米国を含む西側諸国等の対ロシア制裁強化によるロシアからの石油を含むエネルギー供給減少への懸念が後退したことに加え、10月16日にEIAから発表された米国石油統計(10月10日の週分)において原油在庫が前週比352万バレルの増加と市場の事前予想(同29万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことにより、米国石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.46ドルと前日終値比で0.81ドル下落した。この結果原油価格は10月14~16日の3日間合計で1バレル当たり2.03ドルの下落となった他、10月16日の原油価格の終値は5月5日(この日の終値は同57.13ドル)以来の低水準に到達した。ただ、10月17日においては、米国とロシアとの間で近日中に対面形式により首脳会談を実施しウクライナとロシアとの戦闘終結につき協議する意向である旨10月16日にトランプ大統領が発表したことにより、ロシアからのエネルギー供給の減少への懸念が後退した流れを引き継いだことが、原油相場に下方圧力を加えたものの、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、米国の中国に対する100%の追加関税賦課は持続可能ではないとして、10月下旬に中国の習近平国家主席との間で対面形式により首脳会談を実施する意向である旨10月17日に米国のトランプ大統領が表明したことにより、対立先鋭化に伴う両国等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.54ドルと前日終値比で0.08ドル上昇している。

 

3. 原油市場における主な注目点等

最近では中東を巡る動向が原油相場に下方圧力を加える形で影響を及ぼす場面が見られたが、なお、引き続き当面中東情勢については注意が必要なようである。9月16日には、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区のガザ市中心部に対し大規模な地上作戦を開始した。他方、9月29日に米国のトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相がガザ地区における20項目に渡る和平案を提案したが、これを10月5日17時(米国東部時間)までに成立させる必要がある旨イスラム武装勢力ハマスに対し要求する意向であると10月3日にトランプ大統領が表明した。そして、ハマスが拘束している人質の全員解放を巡る条件に関し、イスラエルとハマスとの間で合意に到達した旨10月8日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が発表したが、実際に、ガザ地区における戦闘を巡り、米国が提案した和平案の第1段階(人質解放等)に関し、10月9日にイスラエルとイスラム武装勢力ハマスが合意した(これにより、ハマスが拘束している人質全員を解放する一方、イスラエルが拘束している2,000人超の個人を釈放するとともにイスラエル軍がカザ地区の一部地域から撤収することとなった)。10月10日には、イスラエルがガザ地区における戦闘を巡り米国が提案した和平案の第1段階を批准するとともに、イスラエル軍が部分的にガザ地区から撤収し始めた。また、イスラエルとハマスは人質及び捕虜の交換を行ない始め、10月13日にはハマスが人質にしていた最後の生存者20人を解放した。ただその後ハマスは28人の死亡した人質の遺体の一部(10月20日時点で9人)しか返還しておらず、これに対しイスラエルはハマスが停戦合意に違反しているとして反発、ハマスが停戦合意を履行しなければイスラエルは戦闘を再開する意向である旨10月15日にイスラエルのカッツ外相が警告した他、同日米国のトランプ大統領もハマスが停戦合意を遵守しなければイスラエルの戦闘再開を容認する方針である旨表明した。他方、10月10日以降にイスラエルはガザ地区においてしばしば同地区住民等を攻撃、10月16日時点で少なくとも24人が死亡しており、これに対しハマスはイスラエルが停戦合意に違反しているとして非難した。そのような中、和平を巡る第2段階の合意に向けた協議が開始された旨10月15日に報じられた。同地区における戦闘が恒久的に停止される等(それ以外にも同地区の治安の確保、復興及び支配方法等解決すべき問題がある)ためには、第2段階の合意に両者が到達する必要があり、イスラエルがハマスの完全な壊滅を目指しているとされるところからすると、短期的に当該合意に至るかどうかは不透明感が漂う。戦闘が停止し続けない限り、ハマスを支援する、イエメンのフーシ派武装勢力による、紅海を含むイエメン周辺海域を航行する船舶への攻撃、及びイスラエルによるフーシ派武装勢力への攻撃が継続する可能性がある(実際イエメン南部の港湾都市ホデイダをイスラエル軍が攻撃した旨9月16日に報じられた他、エクソンモービル及びシェブロンを含む大手国際石油会社に対し制裁を発動する旨イエメンのフーシ派武装勢力が明らかにしたと9月30日に伝えられる)。このため、今後は、両者が第2段階の合意に到達するかどうか、そして到達した場合、実際に恒久的な停戦が維持されるとともに、フーシ派武装勢力によるイエメン周辺海域を航行する船舶に対する攻撃が停止することにより、スエズ運河経由での石油及び天然ガス等のタンカーの航行が正常化するとともに、太平洋圏と大西洋圏のエネルギー供給が円滑化するかどうか、と言うことが焦点となるが、恒久的な停戦が維持されることにより、最早中東情勢不安定化の可能性が著しく低下した旨市場関係者が確信を持つにはある程度の期間が必要となるものと考えられることから、それまでは石油市場関係者の神経質な心理が持続するとともに原油相場がある程度は下支えされる可能性はあるものと見られる。

9月15日に開会した国際原子力機関(IAEA)年次総会(9月19日まで開催)において、イランは核開発を継続する意向である旨同国のエスラミ原子力庁長官が表明したことに対し、イランは核開発を完全の放棄すべきである旨米国エネルギー省のライト長官が主張した。また、9月17日にイランのアラグチ外相が、英国、フランス及びドイツの外相等と電話会談を実施、核開発活動に関するIAEAの査察について説明した旨イラン外務省が同日発表した。しかしながら、8月28日に開始した英国、フランス及びドイツによる対イラン制裁再発動に向けた手続き(30日間の猶予期限あり)の猶予期限を控え、中国及びロシアが提出した2026年4月までの制裁再発動延期案が9月26日に開催された国連安全保障理事会において否決されたことに伴い、9月29日午前0時(グリニッジ標準時)を以て対イラン制裁が再発動(9月28日にイランはそれを不当な処置であるとして反発)した。さらに、イランで生産された石油及び液化石油ガス(LPG)の輸出業務に携わったとして、中国の独立系製油所や石油ターミナルを含む約100の個人、法人及び船舶等に対し制裁を発動する旨10月9日に米国財務省が発表した。このように、イランのウラン濃縮問題を巡るイランと西側諸国等との対立は徐々にではあるが先鋭化する方向に向かいつつあることから、この面では中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が今後さらに市場で増大する結果原油相場に影響を与えないとも限らないので注意する必要があろう。

なお、イラク北部のクルド人自治区において生産された原油をトルコへのパイプライン経由で輸出すること(イラクとトルコとの間での原油輸送契約を巡る問題等により2023年3月25日以降当該輸出(日量40~45万バレル程度とされる)は停止していた)につき、イラク中央政府、クルド人自治区政府及び同地域で操業する石油会社8社との間で合意に到達した(9月24日に同8社が発表した)ことに伴い、9月27日午前6時(現地時間)に当該輸出が再開、日量18~19万バレル程度の原油が輸送されるようになったとされるが、パイプライン操業開始前の時点で、ある程度の水準の原油生産は別の経路で供給されていたとの指摘もあり、この面では原油相場への影響は限定的なものになるものと見られる。

ウクライナとロシアを巡る情勢は一層複雑化する様相を呈している。ロシア西部のプリモルスク及びウスチ・ルーガの両石油ターミナルを無人機により攻撃したとウクライナが発表した(プリモルスクは夜間の原油船積み作業が停止した他、ウスチ・ルーガに原油を輸送するパイプラインの圧送基地3ヶ所が標的となったとされる)旨9月12日に伝えられた。他方、ウクライナとの和平交渉に関しロシアのプーチン大統領に対し急速に忍耐が消耗しつつあるとともに、金融機関、石油及び関税等の面で非常に厳しい対ロシア制裁を課することになるであろう旨9月12日にトランプ大統領が明らかにしたうえ、ロシア産石油を受け入れる中国とインドに対し50~100%の関税を賦課する他、ロシア産エネルギー供給を制限するための措置を講じる旨米国が主要7ヶ国政府(G7)の相手国政府に提案する方針である旨9月12日に報じられた。さらに、ウクライナとロシアとの間での和平交渉は事実上中断状態にある旨9月12日にロシア大統領府のペスコフ報道官が明らかにした。そのような中、インド最大手港湾運営会社アダニ・グループが運営するインドでの港湾における西側諸国等により制裁を科されているタンカーの入港を禁止した旨9月12日に報じられた。また、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対しロシア産原油購入を停止する(それを以て米国の対ロシア制裁強化の条件とするとして、条件が整う(NATOは親ロシア加盟国であるハンガリー、スロバキアに加え、ロシア産原油をそれなりの量引き取っているとされるトルコが含まれていることから、そのような短期間でのロシア産原油購入の実施は困難との見方がある)まで米国はさらなる対ロシア制裁強化を見合わせる旨示唆していると見る向きもある)他、ロシア産原油を購入する中国に対し50~100%の関税を賦課する旨提案すると9月13日に米国のトランプ大統領が表明した。他方、ロシア南西部のバシコルトスタン共和国におけるノボイル(Novoil)製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量14.9万バレル)が無人機(ウクライナが発射したものとされる)により攻撃された(火災が発生したものの鎮火した結果、操業には影響がないとされる)旨9月13~14日に報じられた。また、ロシア北西部レニングラード州にあるキリシ(Kirishi)製油所(操業者: スルグトネフチガス、原油精製処理能力日量35.5万バレル)にウクライナが発射した無人機の迎撃された残骸が落下した結果火災が発生した(間もなく鎮火した他、操業可能な施設を利用して被害を受けた部分を代替する意向である)旨9月14日に伝えられた。他方、ロシアの無人機がウクライナを攻撃する際にルーマニアの領空を侵犯したとして9月13日夜遅くにF16戦闘機2機を緊急発進するなどの対応を行なった旨同日ルーマニア国防省が発表した。そのような中、ロシアのプリモルスク石油ターミナル(原油積み出し能力日量約100万バレルとされ、ウクライナの無人機攻撃により操業を停止したと9月12日に伝えられた)が9月13日に部分的に操業を再開したと9月15日に報じられた。また、ロシア産石油の引き取りにつき欧州諸国が中国とインドに対し関税を賦課しないのであれば、米国は中国に対し追加関税を賦課する意向はない旨米国のベッセント財務長官が明らかにしたと9月15日に伝えられた。他方、最近のウクライナによる石油ターミナル及び製油所への攻撃により、ロシア国内パイプラインへの石油会社からの原油の受け入れを制限した他、さらに自社が保有する施設が被害を受け続けるようであれば、石油会社は生産を削減せざるを得なくなるであろう旨ロシア国営石油輸送会社トランスネフチが警告したと9月16日にロイター通信が報じた(同日トランスネフチは同報道を虚偽であるとして否定した)。また、夜間にロシア南西部サラトフ(Saratov)州にあるサラトフ製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量14万バレル)を攻撃した旨9月16日にウクライナが発表した。さらに、欧州委員会(EC)は間もなく第19次対ロシア制裁案を提示する予定であるが、ロシアのウクライナ攻撃のための戦費調達手段である、化石燃料からの収入を阻止するために、ECはロシア産化石燃料輸入の段階的廃止の加速を提案する意向である旨、9月16日夜(現地時間)にECのフォンデアライエン委員長が表明した。加えて、現時点でロシア産エネルギーを輸入している欧州連合(EU)加盟国に対し2026年末までに当該輸入を廃止するよう、9月17日にポーランドのモティカ・エネルギー相が主張した。ただ、ウクライナとロシアとの間での戦闘終結のためには、ロシアの原油等の収入削減が必要であるものの、それには対ロシア制裁の強化よりも原油価格下落が望ましい旨、9月18日に米国のトランプ大統領が示唆した。そして、ロシア南西部のボルゴグラード(Volgograd)州にあるボルゴグラード製油所(操業者: ルクオイル、原油精製処理能力日量30万バレル)及び同国バシコルトスタン共和国にあるサラバト(Salavat)石油化学施設(操業者: ネフチヒム(Neftekhim)(ガスプロム)、原油精製処理能力日量20万バレル)を攻撃した結果、火災が発生(ボルゴグラード製油所は操業を停止)した旨、9月18日にウクライナが明らかにした(この結果、ロシアの精製能力は日量500万バレルを割り込み、2022年4月以来の低水準になっているものと米国大手金融機関JPモルガンが推定した他、ウクライナのバルト海石油ターミナル攻撃によりロシアの原油輸出量が日量90万バレル減少したものと見込まれる旨9月18日に伝えられる)。9月18日には、ECが間もなく公表する予定である第19次対ロシア制裁案に、ロシア産液化天然ガスの引き取り終了を加速する措置を盛り込む方向で検討している旨報じられたが、他方、インド石油会社は同国政府からロシア産原油購入を停止するよう指示されておらず、米国とインドとの首脳会談(電話会談)後、米国のトランプ大統領が、ウクライナとロシアとの間での停戦に向けたインドの努力に感謝する旨9月16日に明らかにしたこともあり、米国のインドに対するロシア産原油引き取り停止を巡る圧力が緩和しているように見受けられるとともに、ロシア産原油の引き取りを停止する兆候が見られない旨9月19日にブルームバーグ通信が報じた。また、9月19日に実施された米国と中国の首脳会談(電話会談)後においても、米国のトランプ大統領が中国に対しロシア産原油購入の停止を要求した旨示唆されなかった。また、9月16日に行なわれた米国のトランプ大統領とECのフォンデアライエン委員長との会談(その場でトランプ大統領がEU加盟国に対しロシア産エネルギー輸入停止を加速する様要求したとされる)を受け、従来2028年1月1日までに停止するとされていたロシア産化石燃料の輸入につき、液化天然ガス輸入停止を2027年1月1日に前倒しする旨ECが提案する方針である旨9月19日に伝えられた。そのような中、ロシア南西部サラトフ州にあるサラトフ製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量14万バレル)及び南西部サマラ(Samara)州にあるノボクイビシェフスク(Novokuibyshevsk)製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製能力日量17.7万バレル)を無人機により攻撃した旨9月20日にウクライナが主張した。また、ロシアに対する圧力を大幅に強めるべく、早急に二次制裁を発動するよう西側諸国に要望する旨9月22日にカナダのカーニー首相が表明した。さらに、ロシアから石油を購入している場合ではないとして、9月20日に米国のトランプ大統領がEUに対しロシア産石油の購入を停止するようさらに圧力を加えた一方、欧州はロシア産石油の購入を停止しようとしない加盟国((ドルジバ・パイプライン経由で原油を購入する)ハンガリー及びスロバキア等を想定しているものと見られる)に対し貿易制限の強化を検討している旨9月20日にブルームバーグ通信が伝えた。加えて、9月9日から10日にかけての夜間に行なわれたロシアによるポーランドへの領空侵犯等に対し、可能な限りの手段を実行するなど強力に対応する方針である旨9月23日にNATOが表明した。他方、米国はロシアに対し関税賦課と言った強力な方策を実施する用意があるが、そのような関税賦課は欧州諸国がロシア産原油購入を停止した場合にのみ、ウクライナとの戦闘終結に有効である旨9月23日に米国のトランプ大統領が発言したが、反面、トランプ大統領は、NATO加盟国は、領空を侵犯する飛翔体を撃墜すべきである他、ウクライナは全ての国土の領有を回復する立場にある旨9月23日午後(米国東部時間)以降主張した。また、ロシア南西部ボルゴルラード州にある2ヶ所の原油圧送基地を攻撃した旨9月23日にウクライナ軍が明らかにした(加えて、9月22日にはロシア南西部アストラハン(Astrakhan)州にある天然ガス処理施設(操業者: ガスプロム、天然ガス処理量日量12億立方フィート)をウクライナが発射した無人機が攻撃した)。さらに、ロシア黒海沿岸地域のノボロシイスクにある原油出荷施設であるカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC: Caspian Pipeline Consortium)及びシェスハリス(Sheskharis)の両ターミナル(日量200万バレルを上回る原油が両ターミナルから輸出されているとされる)が、無人機接近警報発令に伴い原油出荷作業を停止した(一時的な措置と見られる)一方、ノボロシイスクにあるCPCパイプラインの事務所が無人機により攻撃され被害が発生した旨9月23日に伝えられた。加えて、ロシアのバシコルトスタン共和国にあるサラバト石油化学施設(操業者: ネフチヒム(ガスプロム)、原油精製処理能力日量20万バレル)を攻撃した結果、火災が発生するとともに主要処理施設の一つ(原油精製処理能力日量12万バレル)が損傷した旨9月24日に伝えられた。そして、9月25日に実施されたトルコのエルドアン大統領との会談の際、米国のトランプ大統領がロシアからの石油購入を停止するよう要求した。9月25日には、ロシアのノバク副首相が、ウクライナが発射した無人機によるロシア製油所の攻撃に伴い、ロシアは2025年末まで軽油輸出を部分的に停止する旨表明した。また、ロシア南西部クラスノダール州のアフィプスキー(Afipsky)製油所(操業者: サフマル(SAFMAR)、原油精製処理能力: 日量18万バレル)において、迎撃された無人機の落下により一部の原油精製処理装置(原油精製処理能力日量6万バレル)で火災が発生した(その後鎮火したが同装置は稼働を停止したとされる)旨9月26日に報じられた。さらに、ロシア西部チュバシ(Chuvashia)共和国にある石油圧送基地をウクライナの無人機が攻撃した結果、火災が発生し稼働が停止した旨9月27日に伝えられた。そのような中、9月30日にはロシア政府が、2025年末まで再販業者(生産業者は除外されている)による軽油輸出を禁止した旨発表した。他方、ロシア産原油購入を継続する諸国及び地域に対し、同国産原油引き取りを停止させるよう圧力を強める方策を実施する意向である旨10月1日夜(米国東部時間)にG7財務相会合において発表された。また、米国がウクライナに対しエネルギーインフラ等の長距離ミサイル攻撃の標的等に関する情報を提供する意向である旨関係者が明らかにしたと10月2日に報じられた。さらに、ロシア南西部オレンブルグ(Orenburg)州にあるオルスク(Orsk)製油所(操業者: フォルテインベスト(Forteinvest)、原油精製処理能力日量13.3万バレル)を無人機で攻撃した旨10月3日にウクライナが主張した。10月4日には、ロシア北西部レニングラード州にあるキリシ(Kirishi)製油所(操業者: スルグトネフチガス)がウクライナの無人機による攻撃を受けたことに伴い火災が発生した結果、第6常圧蒸留装置(原油精製処理能力日量16万バレル)の操業が停止した(操業再開までに約1ヶ月を要するとされる)旨10月6日に伝えられた他、ロシア南西部クラスノダール州のトゥアプセ(Tuapse)製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレル)において夜間にウクライナの無人機による攻撃を受けたことにより火災が発生(間もなく鎮火)した旨現地当局が10月6日に明らかにしたが、操業再開までに約1ヶ月を要するとされる旨10月6日に報じられた。そのような中、ウクライナとロシアとの間での和平に向けた協議の機運は殆ど失われた旨10月8日にロシア外務省のリャブコフ(Ryabkov)次官が表明した一方、ロシア南西部バシコルトスタン共和国にあるウファ(Ufa)製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量47万バレル)が、10月11日早朝(現地時間)にウクライナ軍が発射した無人機により攻撃された。10月15日にも同国バシコルトスタン共和国にあるウファネフチヒム(Ufaneftekhim)製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量18万バレル)を無人機が攻撃した結果、4基ある常圧蒸留装置のうち、第4常圧蒸留装置で火災が発生し損傷した旨10月16日に伝えられた。また、ロシア南西部サラトフ州にあるサラトフ製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量14万バレル)を攻撃した旨10月16日にウクライナが主張したと同日伝えられる(8月以降ウクライナは少なくとも30回に渡りロシア製油所を攻撃した(1~7月は21回)とされると10月1日に報じられる)。他方、ロシア石油会社ロスネフチ及びルクオイル、中国石油ターミナル運営会社4社、インドのナヤラ・エナジー(Nayara Energy)(ロスネフチが筆頭株主)、対ロシア制裁を回避して運航している影の船団のタンカー44隻、ロシア産原油を第三国の製油所で精製して製造された石油製品、液化天然ガス、液化天然ガスタンカー7隻、ロシアの「アークティック2」LNG生産施設から出荷されたLNGを輸入する中国企業に対し制裁を科する旨10月15日に英国政府が発表した。併せて、10月16日には、欧州議会が2027年1月1日までにEU諸国はロシアからの天然ガスの輸入を禁止する計画案を承認した。また、インドのモディ首相がロシア産原油購入を停止すると保証した旨10月15日に米国のトランプ大統領が明らかにしたと同日午後の遅い時間(米国東部時間)に報じられた(しかしながら、インドの主要石油会社は、ロシア産原油購入を削減することはあっても停止することはないものと見込んでいる旨10月16日に伝えられる)他、トランプ大統領とモディ首相の会談後、インド石油会社がロシア産原油輸入を既に50%削減した旨トランプ大統領関係者が明らかにしたと10月16日に報じられた。そのような中、10月16日に米国のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領が電話により首脳会談を実施し(その際プーチン大統領はウクライナ東部ドネツク州全域を割譲する要求する一方南部ザポリージャとヘルソン両州の一部地域の支配を放棄する旨示唆したとされる旨10月19日に伝えられる)、近日中にハンガリーのブダペストで対面形式により首脳会談を実施しウクライナとロシアとの戦闘の終結につき協議する予定である旨10月16日に米国のトランプ大統領が発表した。また、10月17日には米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領がホワイトハウスで会談したが、その場でトランプ大統領はウクライナに対する巡航ミサイルのトマホークの供与につき積極的な姿勢を示さなかったうえ、現在の戦闘の前線で以て停戦に合意すべきである旨ゼレンスキー大統領に伝えた。

このように、ウクライナとロシアとの戦闘を巡り、西側諸国等はロシアに対し圧力を加えつつあるものの、西側諸国等が必ずしも一枚岩ではないこともあり、この面ではロシアに対する圧力(特にロシアから石油等のエネルギーを購入している諸国及び地域の購入停止)については、紆余曲折を経る格好となるとともに、必ずしもロシア産エネルギーの供給が縮小するとともに同国のエネルギー収入(そしてそれはウクライナとの戦闘に向けた費用に充当されている側面もある)面での制限が十分に強まっていない様に見受けられる。また、このような状況はロシアからの石油を含むエネルギー供給をある程度の水準で継続させる結果、原油相場の上昇を抑制する形で作用している部分がある。西側諸国等の間での足並みの乱れが見られる状況から判断すると、今後もこのような状態は少なくともある程度継続することが予想され、この面では西側諸国等によるロシアに対する圧力の強化方針の表明等により、一時的に原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性があるが、その後方針が転換される場面がしばしば見られることから、市場関係者によるロシア産原油供給混乱を巡る懸念が市場で強まり続ける結果原油価格が持続的に上昇すると言った展開になる可能性はそれほど高くはないものと見られる。ただ、最も効果があり最も即効性のある制裁は、ロシアの石油関連インフラへの攻撃であり、これによりロシアの石油産業での活動が大幅に制限されるとともに(ウクライナとの)戦闘に向けた活動が著しく限定されることになるであろう旨9月14日にウクライナのゼレンスキー大統領が明らかにしているところからすると、ウクライナによるロシアの石油を含むエネルギーインフラ攻撃は少なくとも今暫く継続するものと見られることから、この面では原油相場はしばしば上方圧力が加わる場面が見られる可能性があるものと考えられる。

ベネズエラから米国に向け麻薬を輸送しているとして、9月15日朝(現地時間)に公海上で船舶を攻撃し3人を殺害した旨同日米国のトランプ大統領が明らかにした。また、7月下旬(7月30日に関係者明らかにしたと同日報じられる)に米国財務省により課せられた制限(ベネズエラで生産された原油に対する代金は現物払いとすること)により、大手国際石油会社シェブロンの同国からの原油輸出量が同国における同社の生産量である日量24万バレルの約半分にとどまる見込みである旨9月23日に伝えられた。また、米国のトランプ政権が数週間以内にベネズエラの麻薬密輸組織に対し軍事行動を実施する方向で検討している旨9月26日に米国NBCテレビが報じた。そして、ベネズエラ沖合の公海上において、違法薬物を積載して米国に向かいつつあったとされる船舶を10月3日朝(現地時間)に米軍が攻撃した結果4人が死亡した旨同日米国国防省のヘグセス長官が発表した。また、米国がベネズエラ沖合の公海上において麻薬を密輸しようとした船舶を攻撃、6人が死亡した旨10月14日にトランプ大統領が明らかにした他、10月15日にはトランプ大統領はベネズエラから麻薬を輸出している組織の撲滅に向け地上戦を検討していると発言した。さらに、10月16日にもカリブ海において非合法の薬物を運搬する船舶を攻撃した。しかしながら、米国とベネズエラとの間での対立の低減に向けベネズエラのマドゥロ大統領が大幅な妥協を提案した旨10月17日にトランプ大統領が発表した。このように、米国とベネズエラとの間では緊張緩和に向けた動きを巡る兆候が見られなくもないが、今後の展開によってはなお、ベネズエラから密輸されているとされる麻薬の撲滅に向け米国が軍事行動を実施する(10月16日の時点で米国の攻撃は6回に渡り少なくとも27人が死亡したとされる)他、そのような流れの中で、ベネズエラで石油生産に従事する大手国際石油会社等の活動を制限する結果、石油需給引き締まり感が市場関係者間で意識されるとともに原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうるので、注意する必要があろう。

米国経済を巡る情勢も不安定である。米国内に工場を建設していないのであれば、輸入医薬品に対し100%の関税を賦課する他、大型トラック輸入に25%、台所用収納家具類及び洗面化粧台に50%、布張り家具に30%の、それぞれ輸入関税を賦課する意向である旨9月25日に、また、米国外で製作された映画に対し100%の関税を賦課する他、米国外製の家具に対し大規模関税を賦課する(詳細は追って明らかにする)方針である旨9月29日に、それぞれ米国のトランプ大統領が表明したうえ、11月1日より米国が輸入する中及び大型トラックに対し25%の関税を賦課する意向である旨10月6日に米国のトランプ大統領が発表した。加えて、10月9日に中国商務省が発表した同国産希土類(レアアース)(中国は世界の希土類材料生産の90%程度を占めるとされる)の輸出規制(価値に占める当該材料の割合が0.1%以上である製品を販売する企業は中国政府の許可を必要とするが、0.1%を下回っていることを証明することは非常に困難であるとされる)に対し、中国は敵対的な政策を推進しているとして、10月31日から11月1日にかけて韓国で開催される予定であるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議開催の際に習近平国家主席と会談する必要はなさそうだとしたうえ、米国は中国に対する関税を大幅に引き上げる意向である旨10月10日に米国のトランプ大統領が表明した(しかし同日併せて会談を完全に取り消した訳ではない旨明らかにした)他、11月1日より米国は中国製品の輸入に対し100%の関税を賦課する他、重要なソフトウェアの輸出規制を課す旨10月10日夕方(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が発表した。ただ、10月12日には米国のトランプ大統領が、中国との間での貿易問題を巡る協議に前向きな姿勢を示唆した他、10月下旬に開催される予定である米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席との間での会談は予定通り実施される旨10月13日に米国財務省のベッセント長官が明らかにした。10月14日には、中国が関与する船舶を対象とした港湾使用料の追加徴収を米国が実施した(同政策は4月17日に発表されていた)一方、同日中国も米国で建造された船舶、米国籍の船舶、もしくは米国法人及び個人が所有もしくは運航する船舶に対し港湾使用料の追加徴収を実施(10月10日に発表)したうえ、米国政府による中国造船業による不公正な商慣行の有無に関する調査に協力したとして、韓国造船大手ハンファ・オーシャン(Hanwha Ocean)の米国子会社5社に対し制裁(中国の法人及び個人との取引等の禁止を内容とするとされる)を発動する旨10月14日に中国政府が発表した一方、11月1日に実施される予定である米国の中国に対する100%の関税賦課が実際に行なわれるかどうかは中国の対応次第である旨10月14日に米国通商代表部(USTR)のグリア代表が明らかにした。ただ、米国と中国との貿易を巡る対立は持続可能ではないとして、10月下旬に中国の習近平国家主席との間で対面形式により首脳会談を実施する意向である旨10月17日に米国のトランプ大統領が表明した。そのような中、11月1日を以て米国が輸入する大型トラック及びトラック部品に25%、バスに10%の、それぞれ関税を賦課する(一部例外あり)ことを内容とする大統領令に10月17日に米国のトランプ大統領が署名した。このように、米国のトランプ大統領は引き続き新たな関税の賦課の意向を表明するなどしており、今後この面で米国の関税賦課等と貿易相手国及び地域の報復関税賦課等に伴うそれら諸国及び地域の経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がる結果、原油相場に下方圧力が加わる反面、米国とその貿易相手国及び地域との間での取引成立に伴う関税賦課の撤回や関税率の引き下げ等に伴い、それら諸国及び地域の経済減速による石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退する結果、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られるなど、原油価格が乱高下する可能性があるものと考えられる。

また、8月7日に米国のトランプ大統領が米国連邦準備制度理事会(FRB)理事に指名する旨発表した米国大統領経済諮問委員会(CEA)委員長であったスティーブン・ミラン氏(8月8日に辞任したFRBのクグラー理事の後任となる)に対し、9月15日に同国連邦議会上院が承認したことを受け、トランプ大統領がミラン氏をFRBに異動させる文書に署名したことで、ミラン氏はFRB理事に就任し、9月16~17日の米国連邦公開市場委員会(FOMC)に出席した。また、当該FOMCにおいては0.25%の政策金利引き下げが決定した他、労働市場が悪化する兆候が見られるとして、物価上昇沈静化よりも労働市場を重視する姿勢である旨、FOMC開催後の9月17日に行なわれた記者会見においてFRBのパウエル議長が示唆した他、2025年末までにもう2回の(10月28~29日及び12月9~10日に開催される予定である)FOMCにおいて政策金利引き下げ(合計で0.5%の政策金利引き下げに相当する)が行なわれる旨FOMC出席者が予想しており、6月17~18日に開催されたFOMCの際に示された年内2回の政策金利引き下げ予想から政策金利引き下げ規模が拡大している旨明らかになったものの、今回の政策金利引き下げはリスク管理目的であり、今後の政策金利の取り扱いについてはFOMC毎に判断していく旨併せてパウエル議長が示唆したことにより、米国金融当局による積極的な政策金利引き下げ姿勢は必ずしも示されなかった。また、今回のFOMC開催の際に明らかになった米国金融当局関係者による政策金利予想で、2026年は政策金利引き下げが1回にとどまる旨判明した。他方、軟調な労働市場を背景として2025年末までに2回の政策金利引き下げを支持する(物価上昇加速や堅調な労働市場への転換等状況によっては変更する余地がある)旨9月19日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が示した。また、FOMC開催の際に明らかになったこの先の政策金利予想において2025年末に向け今回のFOMC前の水準から1.5%と大幅に低い金利水準予想を提示したのは自分である他、米国では物価上昇の兆候は認められないとし、同FOMCにおいて0.5%の政策金利引き下げを主張した旨9月19日にFRBのミラン理事が明らかにした。ただ、米国の物価上昇が目標を上回り続けていることから、今後の政策金利引き下げを疑問視している旨9月22日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が示唆した他、米国の物価上昇が目標を上回り続けていることが懸念材料である(反面米国の労働市場悪化は移民の取り締まり強化に伴う労働力供給上の制約による部分があるとしている)として、9月16~17日に開催されたFOMCの際に、2025年末までに1回の政策金利引き下げを予想した(つまり、この先2025年末まで追加の政策金利引き下げは必要ない)旨アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした旨9月22日に伝えられた。加えて、米国の労働市場は依然として堅調であるものの、物価上昇は今後数年間目標を上回り続ける恐れがあるとして、政策金利引き下げに慎重な姿勢である旨9月22日に米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が示した。他方、米国の政策金利は高過ぎるとして、労働市場の悪化防止のために積極的に政策金利を引き下げるべきである旨9月22日にFRBのミラン理事が主張した他、米国のトランプ大統領が推進する関税賦課政策の米国経済への影響は短期間でかつ小規模であるものと考えられる反面、米国労働市場の軟化傾向は懸念すべきであり、政策金利引き下げに向け先制的に行動する必要がある旨FRBのボウマン副議長が示唆したと9月23日に伝えられる。ただ、米国の労働市場は安定していると考えられる反面、物価上昇が4年半に渡り目標を上回ったままとなっていることもあり、政策金利引き下げには慎重に対応する必要がある旨の見解を9月22日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が示した一方、米国経済成長、労働市場及び物価上昇といった各要素を検討したうえで、足元の政策が適切でないと判断した場合には調整する方針である旨9月23日にFRBのパウエル議長が示唆した。また、雇用を支援するため政策金利のさらなる引き下げが必要になるものと考えているものの、様々な要素を考慮しつつ慎重に判断すべきである旨米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が考えていると9月24日に伝えられたが、労働市場が大幅に悪化し経済が急激に減速するリスクに備え、直ちに政策金利を引き下げるべきである旨9月25日にFRBのミラン理事が改めて主張した。それでも、FRBの目標にまで物価上昇率が低下するようであれば、政策金利をさらに引き下げることが可能となるものの、そのような考えに至る前に金融を過度に緩和することに関し若干懸念している旨9月25日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。また、米国物価上昇の沈静化を優先する結果、政策金利のさらなる引き下げは短期的には必要ないかもしれないとの認識を米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が示した旨9月25日に伝えられた。ただ、米国物価上昇が沈静化しつつある反面同国労働市場が弱まりつつあるものと見受けられることから判断すると、一層の政策金利引き下げを実施すべきであるものと考えている旨9月25日にFRBのボウマン副議長が発言した。そして、米国の物価上昇及び労働市場を巡るリスクは限定的であるものと考えているが、両者に関する情報を考慮しつつ政策を推進すべきであるものと考えている旨9月26日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにした。また、米国物価上昇率が目標である年率2%に収束するのは2027年末から2028年初頭にかけてになるものと見込んでおり、それまでは金融政策を引き締める姿勢を維持すべきである旨の見解を米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が示したと9月29日に報じられた。さらに、米国物価上昇リスクが後退する一方、労働市場軟化リスクが高まりつつあることから9月16~17日に開催されたFOMCにおいて政策金利引き下げを決定したことは合理的であった旨9月29日に米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が明らかにしたものの、10月28~29に開催される予定である次回のFOMCにおける政策金利の追加引き下げについては、同氏は見解を明らかにしなかった。加えて、米国物価上昇率が目標を上回っていることから、金融政策を慎重に進めるべきである旨の見解を9月29日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が示した。9月30日にはFRBのジェファーソン副議長が、今後明らかになるデータや経済展望の動向を考慮しつつ、政策金利の取り扱いにつき検討していく意向である旨明らかにしたと伝えられた他、米国の労働市場の悪化を考慮すれば、2025年末までに若干追加して政策金利引き下げを実施することが適切でありうる旨の認識を9月30日に米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が示した。また、米国物価上昇率が目標を上回り続ける一方労働市場は比較的均衡状態にあることを考慮すれば、FRBは政策金利の追加引き下げにつき慎重に対処すべきである旨米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が主張したと9月30日に報じられた。さらに、米国労働市場はかなり安定した状態であり続けている反面、物価上昇率が目標である年率2%に接近しつつある旨の確信を持てるのであれば、相当程度の政策金利引き下げが可能となるであろう旨10月2日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。ただ、労働市場の軟化よりも物価上昇加速のリスクの方が大きいとして、さらなる政策金利引き下げについては慎重に対処すべきである旨10月2日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が発言した。また、米国経済は雇用と物価の両面から圧力を受けつつある状況であるとして、政策金利の引き下げは慎重に実施すべきである旨10月3日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が主張した。他方、米国の物価上昇と労働市場軟化といった懸念すべき両問題を米国金融当局は抱えていることから、米国政府の政策の同国経済への影響を含め入手される情報や見通しの変化を考慮しつつ、今後の政策金利を巡る判断を行う意向である旨10月3日にFRBのジェファーソン副議長が示唆した一方、労働市場よりも物価上昇の問題の方が対策に時間を要するとして、政策金利引き下げを慎重に実施すべきである旨の認識を10月3日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が示した。10月3日には、FRBのミラン理事が、自身の想定に反し米国住宅価格が大幅に上昇した場合には、物価上昇見通しを修正する可能性もある旨表明した。また、米国の物価上昇が沈静化しないうえ、トランプ大統領による関税賦課が耐久財の価格上昇を引き起こしている恐れがある一方、労働市場は健全な状態を維持しているものと考えられる中では、政策金利のさらなる引き下げは必要ない旨10月6日に米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が発言した。さらに、米国政策金利の大幅な引き下げは物価上昇を再び加速させるリスクを伴う旨の見解を10月7日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が示した。そのような中、2025年末までに追加の政策金引き下げが妥当になる可能性が高い旨、大半の委員が考えている一方、物価上昇加速リスクを重視する委員も過半を占めた旨10月8日に発表されたFOMC議事録(9月16~17日開催分)において明らかになった。また、米国労働市場が悪化しつつあることもあり、今後同国経済が想定通りに推移するのであれば、2025年末までのさらなる政策金利引き下げを支持する旨の見解を米国ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が示した旨10月9日にニューヨーク・タイムズが報じた。ただ、米国の物価上昇が依然として沈静化していないことから、追加の政策金利引き下げには慎重に対処したい旨10月9日にFRBのバー理事が表明した他、最近数ヶ月間は米国の雇用は恐らく減少しているものと推定されることから、政策金利引き下げが必要であるものの、慎重に対処しなければならない旨10月10日にFRBのウォラー理事が明らかにした。また、米国労働市場を支援するため、さらなる政策金利引き下げを実施する余地はあるが、物価上昇率が目標である年率2%を上回っているため、慎重な判断が必要となる旨10月10日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が示唆した。他方、米国のトランプ大統領による関税賦課政策によっても持続的な物価上昇は引き起こされないものと考えており、2025年末にかけ2回の政策金利引き下げが実施されるものと予想している旨の見方を米国フィラデルフィア連邦準備銀行のポールソン総裁が示した旨10月13日に伝えられた。また、米国の雇用の伸びが鈍化しているうえ、今後さらに鈍化する恐れがある旨10月14日にFRBのパウエル議長が示唆した。さらに、米国労働市場を支援するため2025年末まで政策金利引き下げを継続する必要があるとの認識を米国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が示した旨10月14日に伝えられた。加えて、2025年末までに2回の政策金利引き下げを実施することは現実的であると考えている他、米国のトランプ大統領による関税賦課政策を巡る米国の貿易相手国及び地域との対立の先鋭化により、米国経済成長を巡る不透明感が強まっていることから、迅速に政策金利引き下げを実施する重要性が高まりつつある旨10月15日にFRBのミラン理事が明らかにした。10月16日には、FRBのウォラー理事が、米国経済を巡る不明感が強いこともあり政策金利の引き下げは慎重に実施されるべきである旨の見解を示した。また、米国と貿易相手国及び地域との紛争が同国経済を巡る不透明感をもたらすとともに経済成長の下振れリスクを増大させつつあることから、10月28~29日に開催される予定であるFOMCにおいては0.50%の政策金利引き下げを支持する旨10月16日にFRBのミラン理事が示唆した。さらに、米国物価上昇が沈静化しつつあるのであれば、2025年末までにあと1回政策金利の引き下げを実施する余地があると考えるが、経済展望が不透明であることもあり、今後開催されるFOMC毎に個別に判断すべきであると考えている旨10月17日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が発言した。

このように、米国労働市場が軟調にあることを示す指標類等を受け政策金利の追加引き下げ等の金融緩和策の実施を主張する金融市場関係者が散見されるようになっているものの、なお、相当数は米国物価上昇の沈静化と労働市場の軟化との間での均衡を保つため、金融政策を巡り慎重に対処する必要があるとの姿勢を示している他、政策金利引き下げを主張する関係者も必ずしも強硬に政策金利引き下げを主張しているわけではないことが判明する。今後も、米国における物価関連指標と雇用関連指標の内容を見極めつつ10月28~29日に開催される予定である次回のFOMCにおいて政策金利等の金融政策に関する意思決定がなされるものと考えられる。10月18日時点では、次回FOMCにおいて政策金利が0.25%引き下げられる確率は99.0%(他方、0.50%引き下げられる確率は同1.0%、据え置きとなる確率は0%)となるなど、政策金利の小幅な引き下げが行なわれるとの見方が市場で多い。そしてそのような予想通りに0.25%の政策金利引き下げが決定すれば、米国経済回復期待が市場で増大するとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。ただ、次回FOMC終了後の10月29日に実施される予定である記者会見におけるFRBのパウエル議長による米国の労働市場や物価を含む経済情勢、及び政策金利調整方針等を巡る今後の展望を巡る発言内容等によっては、米国金融当局による政策金利の取り扱いを巡る観測が市場で発生する結果、米ドル等が変動すること等を通じ原油相場にその影響が織り込まれるといった展開となることもありうる。

また、米国においては、運営のための予算手当を巡る連邦議会での協議が不調に終わったことに伴い、10月1日に一部の政府機関の閉鎖が開始された。このため米国政府関係機関職員75万人が自宅待機となったことから、通勤のための乗用車利用が減少するとともに同国ガソリン需要が影響を受ける可能性がある他、職員に対する給与支払いが遅延したり(トランプ政権は自宅待機の職員に対する給与不払いを検討している旨10月7日に報じられる)、一部職員が解雇されたりする(10月10日にトランプ政権が4,100人の連邦政府関係機関職員に対し解雇通知を発送し始めた旨米国政府が明らかにした)ことにより米国経済混乱に伴う軽油を初めとした石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大する結果、原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。もっとも、米国連邦議会において予算を巡る協議が妥結し、政府関係機関の業務が再開すれば、政府関係機関職員の通勤実施に伴う米国のガソリン需要の回復や米国経済混乱の収束による軽油等の需要の持ち直しが図られるとの観測が市場で広がる結果、原油相場に上方圧力が加わることになる。しかしながら、現時点では、米国議会の共和党及び民主党の間で協議が膠着状態となっているように見受けられることから、当面原油相場は抑制気味となる可能性があるものと考えられる。

9月15日に中国国家統計局から発表された8月の同国鉱工業生産は同5.2%の増加と7月の同5.7%の増加から伸びが鈍化、2024年8月(この時は同4.5%の増加)以来の低水準の伸びとなった他、市場の事前予想(同5.6~5.7%増加)を下回った一方、8月の同国小売売上高も前年同月比3.4%増加と、7月の同3.7%の増加から伸びが鈍化、2024年11月(この時は同3.0%の増加)以来の低水準の伸びとなった他、市場の事前予想(同3.8~3.9%増加)を下回った。また、8月の中国新築住宅価格は前月比0.30%の下落と7月の同0.31%の下落から若干下落率が縮小したものの、27ヶ月連続前年同月を下回った一方、8月の中国中古住宅販売は前月比0.58%の下落と7月の同0.55%の下落から下落率が拡大、28ヶ月連続前年同月を下回ったうえ、1~8月の中国固定資産投資は前年同期比0.5%の増加と、1~7月の同1.6%の増加から伸びが相当程度鈍化した他、市場の事前予想(同1.4~1.5%の増加)を下回った。さらに、2025年1~8月の中国不動産開発投資は前年同期比12.9%減少と、1~7月期の同12.0%減少から減少率が拡大したうえ、1~8月の住宅販売額は同7.0%減少と1~7月の同6.2%減少から減少率が拡大、8月の中国失業率も5.3%と7月の5.2%から上昇した他市場の事前予想(5.2%)を上回った。ただ、9月15日に中国国家統計局から発表された8月の同国原油精製処理量は6,346万トン(推定日量1,498万バレル)と前月(6,306万トン(同1,489万バレル))及び前年同月(5,906万トン(同1,395万バレル))を上回った。他方、9月27日に中国国家統計局から発表された8月の同国工業企業利益は前年同月比20.4%の増加と7月の同1.5%の減少から増加に転じた。ただ、9月30日に中国国家統計局から発表された9月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.8と8月の49.4から上昇し市場の事前予想(49.6)を上回ったものの、6ヶ月連続当該部門が縮小していることを示したうえ、9月の同国非製造業PMIは50.0と8月の50.3から低下した他、市場の事前予想(50.2)を下回った。それでも、9月30日に中国民間調査機関レーティングドッグから発表された9月の同国製造業PMIは51.2と8月の50.5から上昇した他市場の事前予想(50.2)を上回ったうえ、9月の同国サービス業PMIは52.9と8月の53.0から低下したものの市場の事前予想(52.6)を上回った。また、10月13日に中国税関総署から発表された9月の同国輸出は前年同月比8.3%の増加と8月の同4.4%から伸びが拡大、2025年3月以来(この時は同12.2%の増加)以来の大幅な増加率となった他市場の事前予想(同6.0~6.6%の増加)を上回ったうえ、輸入も同7.4%の増加と8月の同1.3%増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同1.5~1.8%増加)を上回った一方、同国原油輸入は4,725万トン(推定日量1,153万バレル)と前年同月(4,549万トン(同1,110万バレル))から増加している旨判明した。他方、10月15日に中国国家統計局から発表された9月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.3%、生産者物価指数(PPI)は同2.3%の、それぞれ下落と8月のCPIの同0.4%の下落、PPIの同2.9%の下落から下落率が縮小したものの、CPIは2ヶ月連続、PPIは36ヶ月連続、それぞれ前年同月比で下落となるなど、デフレ傾向が継続していることが示唆された。このように、中国経済指標類は依然としてまだら模様の状態となっており、米国のトランプ大統領による対中国関税賦課の猶予期間内に中国国内で製品を製造し米国等に輸出するため、中国の鉱工業や物流を巡る活動、及び景況感が上向く場面が見られる結果、今後も同国経済状況が改善しつつあることを示唆する指標類が発表される可能性はあるが、同国の不動産部門が根本的に底入れしたとは考えにくいことから、なお相当程度の期間中国の石油需要はもたつき気味で推移する結果、原油相場が抑制されやすい状態であり続ける可能性がある。もっとも、原油価格が下落した場合には、中国は大量に原油を購入して国内在庫を積み上げるべく行動することがあるため、結果として原油価格の下落が抑制される場面が見られることもありうるので、注意する必要があろう。

米国では、この先冬場の暖房シーズン(概ね11月1日~翌年3月31日)を控え、製油所が秋場のメンテナンス作業等を終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理が進むとともに、原油購入を活発化させてくる。このため季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まるものと考えられる。従って、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなる。そして、秋場の後半及び冬場の前半において、米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部等において厳冬予想が発表されたり実際に気温が相当程度低下したりした場合には、市場関係者間で暖房用石油製品需要の長期的な(冬場の終わりまでの)増加観測と需給引き締まり懸念が拡大することにより、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。このため、今後米国北東部等における気温予報や実際の気温の状況には注意する必要があろう。

また、大西洋圏において1年間で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期(8月後半~10月前半)は過ぎつつあることから、ハリケーン等の暴風雨が米国アメリカ(メキシコ)湾沖合での石油生産関連施設や湾岸地域の製油所等の施設に影響を及ぼすことに伴う石油供給途絶懸念は市場では低下していくものと見られる。それでも11月末まで大西洋圏の暴風雨シーズンは続く。現時点までに明らかになっている一部機関による2025年の暴風雨シーズンにおける暴風雨発生予想では、平年並みか平年を上回る頻度でハリケーン等の暴風雨が発生する(表1参照)ものと見込まれている。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国アメリカ(メキシコ)湾沖合の油田関連施設等に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の操業に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止すると言った事態も想定される)、さらにはメキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2024年において米国アメリカ(メキシコ)湾岸地域はメキシコから日量41万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国アメリカ(メキシコ)湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2024年は当該地域で日量177万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,321万バレル)の約13%を占めた)他、湾岸地域は引き続き同国の精製活動の中心である(2024年の当該地域の原油精製処理能力は日量999万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,835万バレル)の約54%を占めた)こともあり、ハリケーンを含む暴風雨の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、それが原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。

表1 2025年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

10月5日に開催されたOPECプラス有志8産油国会合においては、11月の原油生産につき前月比日量13.7万バレルの拡大とする旨決定された(次回会合は11月2日に開催される予定である)。会合前の段階で、21人の市場関係者中18人はOPECプラス産油国が増産を決定する旨予想しており、その大部分は日量13.7万バレル程度の増産となるものと見込んでいる旨9月26日に伝えられていた。そのような中、OPECプラス有志8産油国の会合において11月の原油生産量につき前月比13.7万バレルの拡大(10月の増産規模と同様)かそれ以上の規模の増産を検討している(但し今後変更される可能性がある)旨9月28日に伝えられた他、同会合において、11月の原油生産を前月比日量27.4~41.1万バレル、最大同50万バレル拡大することで合意する可能性がある旨関係者が明らかにしたと9月30日に報じられた(同日OPEC事務局は日量50万バレルの増産報道は不正確で誤解を招くとして否定した)。ただ、10月3日には、サウジアラビアは日量27.4万バレル~同54.8万バレルの増産を希望している一方、ロシアは日量13.7万バレルの増産を要望している旨伝えられた。果たして、10月5日に開催された会合においては、日量13.7万バレルの増産とロシアの要望通りとなった格好となったが、この増産規模は、前述の通り事前予想として粗方原油相場に織り込まれる格好となっていた他、増産の選択肢の中で最低水準の規模であったこともあり、それまで日量13.7万バレルを超過する規模での増産による石油需給の緩和感の強まりと原油価格の下落を期待していた市場関係者が失望するとともに、利益確定に伴い原油先物契約の買い戻しが発生するとともに、10月6日の原油価格の終値は1バレル当たり61.69ドルと前週末終値比で0.81ドルの上昇となった。

今後も、サウジアラビア等の中東産油国においては、地域安全保障を確保する(米国から時機を得た軍隊の派遣や配備及び武器の売却等を含む軍事的支援を受ける)ためにも、米国のトランプ大統領に原油価格下落(これにより米国経済活性化のための政策金利引き下げ実施がより容易になる)といった便宜を図るべく原油の大幅増産実施を主張するものと見られるが、米国はウクライナが長距離ミサイルを用いてロシアのエネルギーインフラを攻撃するための情報を提供する意向である旨米国当局者が明らかにしたと10月1日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じた他、10月11日には、米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が電話会談を実施し防空体制強化につき協議した旨ゼレンスキー大統領が明らかにしたうえ、同会談に置いて米国がウクライナに米国製巡航ミサイル「トマホーク」の供給につき協議した旨同日伝えられる(なお、10月5日には、ロシアのプーチン大統領が、米国がウクライナに対し「トマホーク」を供給するのであれば、米国トロシアとの関係は破綻する恐れがある旨警告、10月6日にはトランプ大統領がウクライナに対し「トマホーク」の供給で合意する前に同ミサイルを使用する目的につき知りたい旨明らかにした一方、10月12日にウクライナのゼレンスキー大統領は「トマホーク」をロシアの軍事施設に対し使用する旨説明したが、10月17日に行なわれたゼレンスキー大統領との会談の際に、トランプ大統領はウクライナへの「トマホーク」の供与には消極的である旨示唆するなど、この面での動きは不安定なものとなっている)など、足元では米国とロシアとの間の関係が必ずしも良好でないように見受けられる部分があることからすると、ウクライナとの停戦等に関する協議を巡る米国への事実上の便宜に関しロシアへの配慮が不十分となる結果、増産加速への関心をロシアが低下させるとともに、サウジアラビア等が主張する増産規模を相当程度下回る規模の増産を主張するようになるなど、相当程度の増産加速を推進するサウジアラビアとの間で足並みが乱れることにより、OPECプラス有志8産油国による増産を巡る意思決定過程が紆余曲折を経ると言った展開となることも否定できないので、注意する必要があろう。

全体としては、この先冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることが、石油製品及び原油の価格に上方圧力を加える可能性がある。また、ウクライナによるロシアの石油を含むエネルギー関連インフラ攻撃が継続することでも、原油価格は上振れしやすいものと考えられる。他方、ウクライナとロシアとの戦闘を巡る米国とロシアとの間での停戦に関する協議や米国及びその他諸国による対ロシア制裁等の成り行き、米国の関税政策の実施方針表明とその後の貿易相手国及び地域との間での取引の成立に向けた動き、政府関係機関の閉鎖解除に向けた予算措置を巡る米国連邦議会等の動向、中国経済指標類の内容、イスラエルとハマスとの間でのパレスチナ自治区ガザ地区を巡る停戦の状況とイエメンのフーシ派武装勢力の紅海等周辺海域における船舶の攻撃具合、OPECプラス有志8産油国による2025年12月以降の原油生産方針を巡る議論の方向性等によって、原油相場が変動するものと考えられる。

 

4. 2025年から2026年にかけての世界石油市場に対する市場関係者の見方等を巡る一考察

2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナへの侵攻が2025年10月時点においても継続する中、2024年には中国経済減速の兆しがより顕著に見られるようになったうえ、2025年1月20日には米国においてトランプ氏が大統領に就任し、自身の政策を実施し始めたが、これらを含む要因が、世界各地域の石油製品価格、そして製油所における原油精製利幅及び石油製品製造利幅に影響を与えることとなった。ここでは、2024年1月に行った同様の分析の対象期間以降である、2023年11月から2025年9月にかけての約2年間の製油所での原油精製利幅及び主要石油製品の一つであるガソリン価格の動向につき主に考察を加えることとしたいが、特に石油製品価格はその原料となる原油の価格に左右される側面も強いため、ガソリンと原油との価格差(そして、世界の石油精製の中心である米国(メキシコ湾岸)、欧州(ロッテルダム)、アジア、(シンガポール)の各地域における当該価格差)を中心に説明することとしたい。なお、基準となる原油価格は米国がWTI、欧州がブレント、シンガポールがドバイを、それぞれ使用するため、WTIの価格が、原油の流動性が限定される、米国内陸部に位置するオクラホマ州クッシングの石油需給を反映しやすい関係上、ブレント及びドバイの各価格に対して割安になりやすい分、米国における原油精製利幅やガソリン製造利幅が欧州及びシンガポールのそれに比べ大きくなりやすい点に留意されたい。

まず、世界各地域の製油所における原油精製利幅(ここでは、ガソリン3、軽油2、原油1の比率を用いて算出した理論上の利幅(「3:2:1クラック」)を使用することとする)について説明することとする(図16参照)。

図16 各地域の精製利幅(2022~23年)

米国における製油所の原油精製利幅は2023年11月から2025年8月にかけ概ね安定して推移した他、特に2025年6月から8月にかけては拡大する場面が見られた。しかしながら、その背景は必ずしも一様ではなかった。2024年1月から2月にかけて、特に1月中旬を中心とする時期においては、米国の南部を含む幅広い範囲に寒波が来襲した結果、気温が大幅に低下するとともに個人の外出が敬遠されたこともあり、自動車運転距離数が落ち込むとともに、ガソリン需要が減少したことにより、ガソリン価格が抑制されるとともにガソリン製造利幅が圧迫される格好となった。しかしながら、同国北東部においても気温が低下するとともに、暖房向けの民生部門における暖房油(軽油に類似した品質を持つ石油製品)等の需要が喚起されたことにより、軽油価格に上方圧力が加わった一方、米国アメリカ(メキシコ)湾岸の製油所の集積地帯にまで寒波が訪れ、1月中旬にはヒューストンにおいても平均気温が零下となった(図17参照)結果、従来から春場の製油所メンテナンス作業が実施されつつあることにより原油精製処理活動が不活発化する中、一部の製油所においては寒気により装置に不具合が発生するなどするとともに、原油精製処理量が一層低下した(2024年2月9日の同国原油精製処理量は日量1,454万バレルと2022年12月30日(この時は同1,382万バレル)以来の低水準に到達した)ことから、石油製品供給減少懸念が増大するとともに、ガソリンや軽油価格を支持する形となった。このような要因がこの時期の米国の製油所における原油精製利幅を下支えした。しかしながら、3月に入り、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来(2024年は米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月27日)に伴う連休(5月25~27日)から労働者の日(レイバー・デー)(9月2日)に伴う連休(8月31日~9月2日)までであった)が石油産業関係者の視野に入り始めたことにより、ガソリン需要の盛り上がり期待に伴う同製品価格の上昇により、ガソリン製造利幅が拡大した反面、ガソリン価格の上昇により原料となる原油の価格もガソリンほどではないにせよ上昇傾向となった一方、米国北東部の気温が平年を概ね上回る状態となった他、4月の冬場の暖房シーズンに伴う暖房油需要期の終了が意識され始めたことにより、軽油価格が抑制されるとともに同製品の製造利幅が圧迫されたことから、米国の製油所における精製利幅は概ね横這いとなった。また、2024年1月から3月にかけては、米国の物価上昇が再加速したこともあり、同年1月から5月にかけ同国の鉱工業生産が前年割れしたこともあり、同時期軽油需要が前年を割り込むなど低迷した一方、米国では製油所のメンテナンス作業の実施や装置不具合の改修が進捗するとともに稼働を再開したことにより、大幅に原油精製処理量が増加するとともに軽油を含む石油製品製造活動が活発化したこともあり、特に5月は同国の製油所における原油精製利幅は縮小した。それでも、2024年3月から5月にかけての米国軽油価格下落(米国経済が不調であったことに加え暖房シーズンに伴う暖房油需要期が終了しつつあったことが一因である)に伴い欧州の軽油価格に比べ米国の軽油価格の割安感が増大した結果、米国から欧州(同地域では乗用車としてディーゼル車がそれなりに浸透していることから、夏場のドライブシーズンに伴い軽油の需要もある程度喚起される傾向があった)方面への軽油輸出拡大観測が発生したこともあり、2024年6月には米国において軽油価格が持ち直すとともに、同国の軽油製造利幅は改善に向かうこととなった。併せて、2024年5月下旬から8月にかけては、米国における夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が到来したこともあり、ガソリン価格が下支えされるとともに、同国製油所の精製利幅は拡大することとなった。ただ、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期において製油所のガソリン製造活動が活発化した結果、製油所の原油精製処理量も高水準になった(2024年8月の原油精製処理量は日量1,682万バレルと2019年8月(この時は同1,730万バレル)以来の高水準であった)ことにより、併せて軽油及び暖房油を含む留出油の製造も促進された反面、欧州方面への軽油輸出はある程度活発化したものの、冬場の暖房シーズンではなかったことに伴い暖房向けの民生部門での暖房油需要は限定的であったこともあり留出油在庫が積み上がった結果、当該在庫水準が前年を上回る状態になるとともに、軽油価格に下方圧力を加え始めたこともあり、特に夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了する米国労働者の日(レイバー・デー)以降の2024年9月は、ガソリン製造利幅が縮小したうえ、軽油製造利幅も低調となったことから、米国の製油所における原油精製利幅は圧縮されることとなった。さらに、米国において暖房シーズンに伴う暖房油需要期が到来することが視野に入り始めた2024年10月及び実際の暖房需要期に突入した11月には、季節的な軽油需給の引き締まり感が感じられたことが、米国の軽油価格に上方圧力を加えたものの、併せて製油所におけるメンテナンス作業が終了するとともに原油精製処理量が拡大したこともあり、従来から留出油在庫がそれなりの水準を維持していた米国では、当該製品需給引き締まり感が強まらなかった結果、この時期軽油製造利幅は縮小しなかったものの、かといって大幅に拡大することもなかった。しかしながら、2025年1月から2月にかけては米国の暖房油需要の中心地である北東部において気温が大幅低下する場面が見られた(図18参照)一方、同国では春場の製油所のメンテナンス作業や一部装置の不具合発生に伴う改修の実施により、製油所の原油精製処理量が減少するとともに石油製品製造活動が不活発化したこともあり、米国の留出油在庫が減少し始めるとともに、当該製品需給引き締まり感が増大した結果、同国の製油所における軽油製造利幅が拡大した。また、2024年から2025年の冬場においては、欧州においてもしばしば気温が平年を下回るなど気候が寒冷となった他、地中海地域において6月上旬から中旬を中心として製油所で予期せぬ稼働の停止が発生したこと等もあり、2025年1月から7月にかけ軽油在庫が総じて減少傾向となった(欧州石油産業の中心地の一つであるアムステルダム、ロッテルダム及びアントワープ(ARA)地域における軽油在庫は2025年7月31日に推定1,300万バレル弱程度の量と2024年1月25日(この時は同1,200万バレル台後半程度)以来の低水準に到達した)他、米国においては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来に向けガソリン需要が季節的に盛り上がるとの観測の下、製油所ではガソリン製造が優先した結果軽油製造が劣後したことから、米国においても留出油在庫が一層減少、7月4日の当該在庫は1.03億バレルと2005年4月29日(この時は1.02億バレル)以来の低水準に到達した。加えて、同時期アジア諸国及び地域の製油所においても春場のメンテナンス作業が実施された他、中国においては不動産部門の不振もあり経済がもたつき気味であったことにより、製油所における原油精製利幅が確保できなかったこともあり、原油精製処理量が減少するとともに同国における軽油製造、そして国外への軽油輸出も概して低調に推移した。このようなことから世界的に留出油在庫が低水準となった。他方、2025年4月9日に米国のトランプ大統領が同日発効した相互関税追加賦課部分の90日間の賦課の猶予を決定したことにより、猶予期間終了に伴う米国の関税賦課実施、及び米国の貿易相手国及び地域の報復措置実施前に、米国及び米国の貿易相手国及び地域において駆け込みで製品を製造し輸出する動きが発生したものと見られることが、2025年央を中心とする時期において一時的にせよ米国及び米国の貿易相手国及び地域における産業部門及び物流部門の活動を活発化させるとともにそれら部門における軽油需要を喚起した。さらに、6月13日から24日にかけイスラエルとイランが戦闘状態となったことにより、中東方面から欧州方面への軽油の供給に支障が発生するかもしれないとの懸念が増大したこともあり、世界的に軽油需給の引き締まり感が強まった。この影響で、欧州方面に向け軽油を輸出している米国の製油所においても軽油製造利幅が拡大したことから、2025年4月から7月にかけては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来とともに堅調となっていたガソリン製造利幅とともに、製油所の原油精製利幅を押し上げることとなった。しかしながら、6月24日以降イスラエルとイランとの間で事実上停戦が実施された他、実際に中東からの留出油供給には影響が生じなかったこともあり、米国の製油所における留出油製造活動活発化に伴い生産された留出油が在庫となって積み上がっていったことが同国における軽油価格を抑制し始めた他、米国における2025年の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が視野に入り始めたことが同国のガソリン価格に下方圧力を加え始めたことから、ガソリンや軽油の製造利幅に下方圧力が加わり始めたこともあり、同国の原油精製利幅は8月には頭打ちとなったうえ9月には縮小する傾向を示している。

図17 米国(ヒューストン)気温(2023~24年)

図18 米国(ニューヨーク)気温(2024~25年)

欧州では、2023年から2024年にかけての冬場においては、製油所の稼働自体は季節的な変動となった(冬場前半は暖房シーズンに伴う暖房油需要期の到来により製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加したが、後半は暖房油需要期の終了が視野に入るとともに春場のメンテナンス作業が実施されつつあったことにより、製油所における原油精製処理活動が不活発化した)一方、2024年2月から4月にかけてを中心とする時期においては、米国での春場のメンテナンス作業実施等に伴う製油所の稼働低下による原油精製処理量の減少と石油製品製造活動の不活発化に伴うガソリン価格の上昇に、欧州の当該製品価格が影響を受ける形となった(米国のガソリン価格が欧州のそれと比べ割高となった場合、しばしば欧州から米国方面へのガソリン輸出が活発化するため、併せて欧州におけるガソリン供給が減少するとともに同地域においてガソリン需給の引き締まり感が強まる結果、欧州でもガソリン価格が上昇する傾向がある)。このため、2024年2月から4月にかけては欧州のガソリン製造利幅が拡大した。また、2024年1月の欧州において気温が平年を下回って大幅に低下する場面が見られた(図19参照)こともあり、暖房油需要が高止まったり、その後も堅調さが持続するとの観測が市場で発生したりしたことが、軽油価格に上方圧力を加えるとともに、2024年2月は軽油製造利幅が拡大した他、3月においても当該製品製造利幅が底堅く推移するなど堅調な状態が維持された。結果として、2024年2月から4月にかけては欧州における製油所の原油精製利幅は堅調であり続けた。ただ、欧州では前述の通り気温が低下する場面が見られたものの、その後気温は平年並みか平年を超過する状態で推移した結果、同地域における軽油在庫が拡大基調となったうえ、冬場の終了が視野に入り始めた3月になり冬場の暖房シーズン終了とともに暖房油需要減退が視野に入り始めた他、4月以降は実際に欧州における暖房シーズンに伴う暖房油需要期は終了したことにより、軽油精製利幅は縮小した。また、米国においては、春場のメンテナンス作業が終了に向かうとともに、製油所の稼働が上昇、ガソリン製造活動が活発化し始めるとともに、ガソリン在庫も増加するとの見方が市場で発生したり実際に当該在庫が増加基調となったりしたことが、米国のみならず欧州におけるガソリン価格にも下方圧力を加えるようになったことから、欧州のガソリン製造利幅も低下した。結果として、2024年5月から7月にかけての欧州の製油所における原油精製利幅は縮小する方向に向かった。さらに、その後は米国等の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が視野に入ったり、実際に終了したりしたことから、欧州のガソリン価格に下方圧力が加わった結果同地域の製油所におけるガソリン製造利幅が縮小した一方、欧州における経済状況が必ずしも良好ではなかったこともあり、軽油需要が盛り上がらず、軽油価格に下方圧力が加わるとともに製油所における軽油製造利幅が抑制される格好となったことから、2024年8月から2025年1月にかけての製油所の原油精製利幅は総じてもたつき気味となった。そして、2025年2月には米国北東部に寒波が来襲したことにより気温が低下するとともに暖房油需要が喚起される場面が見られたことから、欧州方面から米国方面への暖房油輸出が活発化するとの観測とともに欧州の製油所における軽油製造利幅とともに原油精製利幅が上向いたこともあったが、2025年1月20日のトランプ氏の米国大統領就任後、同大統領が貿易相手国及び地域に対する関税賦課方針を表明したうえ、その一部を実施したことにより、米国及び米国の貿易相手国及び地域等の経済減速懸念が発生したことに加え、冬場の暖房シーズンに伴う暖房油需要期が視野に入り始めたことから、2025年2月から3月にかけては欧州の製油所において軽油製造利幅が圧迫されるとともに原油精製利幅も抑制気味となった。しかしながら、その後は、米国のトランプ大統領が4月9日に発動した相互関税の追加賦課部分につき同日90日間の猶予を表明したことにより、賦課猶予期限前に駆け込みで製品を製造して米国等に輸出すべく鉱工業生産等の経済活動が活発化する場面が見られた。加えて、欧州においても、2024年から2025年の冬場において気温が低下する場面が見られた(図20参照)ことにより、留出油在庫がそれほど高水準ではなかったことに加え、製油所において春場のメンテナンス作業が実施された他、稼働している欧州の製油所においては、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来に向けガソリン製造が優先された反面留出油製造が劣後したうえ、地中海地域等において6月上旬から中旬をかけての時期を中心として製油所で予期せぬ稼働の停止が発生したこと等により、2025年8月上旬頃にかけ軽油在庫が一層減少したこともあり、同地域における軽油需給の引き締まり感が強まるとともに軽油価格に上方圧力が加わった。このような要因から、2025年7月にかけては欧州における原油精製利幅が上昇する場面が見られた。しかしながら、これによりかえって製油所における軽油製造活動が活発化するとともに欧州における軽油在庫が増加傾向に転じたことが、同地域の軽油製造利幅に下方圧力を加えたものの、製油所において軽油製造が優先された一方、ガソリン製造が劣後したことによりガソリン在庫が減少傾向となったこともありガソリン製造利幅が拡大したことで相殺された。そのような中、2025年8月においては夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が視野に入ったことにより、ガソリン製造利幅が下振れするとともに製油所における原油精製利幅も縮小傾向となったものの、2025年9月は欧州の製油所におけるガソリン製造利幅が拡大した(後述)影響で、原油精製利幅も拡大する格好となっている。

図19 英国(ロンドン)気温の推移(2023~24年)

図20 英国(ロンドン)気温の推移(2024~25年)

2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国では新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けたことに伴い、同年中に事実上制限されていた個人の外出と経済活動の反動により、2023年前半を中心とする時期においては個人の外出及び鉱工業生産活動等が活発化した結果、同国の石油需要が盛り上がる場面が見られたものの、2023年中にこのような活発化は一巡、特に2024年の旧正月に伴う休暇期間(2月10日から2月17日)以降は不動産部門の不振もあり、鉱工業生産がもたつくとともに、小売売上高が低迷する等したことにより、同国石油需要の伸びが鈍化するとともに、原油精製利幅が低下したこともあり、同国の製油所における原油精製処理活動は総じて低迷した。それでも2024年1月を中心とする時期において米国及び欧州で気温が相当程度低下したことによる暖房油需要が喚起されたのとほぼ同時に、米国における夏場のドライブシーズンに向けたガソリン需要増加への期待が増大した他、米国等において製油所のメンテナンス作業実施により石油製品製造活動が不活発化したことにより、石油製品需給の引き締まり感が強まる側面があったことが影響し、2024年1月から2月にかけてのアジアの製油所における原油精製利幅は多少なりとも上向いたが、2024年3月から5月にかけては、中国の小売売上高が低迷した他不動産部門の活動が不振であり続けるなど、経済が低調に推移するとともに同国の軽油及びガソリン需要が低迷したこともあり、同国からの石油製品輸出が概して堅調であったことが一因となり、シンガポールの石油製品在庫が増加するとともに、同時期アジア市場の製油所における精製利幅は縮小傾向となった。ただ、この結果、欧州の軽油価格がアジアのそれに比べ割高となったこともあり、インド等のアジア諸国及び地域から欧州方面への軽油等の輸出が活発化するとの観測が市場で増大したこともあり、2024年6月においてはアジア市場における軽油製造利幅及び製油所における原油精製利幅が拡大する場面が見られた。しかしながら、2024年7月15日に発表された2024年第2四半期の中国の国内総生産が前年同期比4.7%の増加と目標の同5.0%を相当程度下回って低調であったことにより、2024第3四半期において中国の経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が強まったことが、アジア市場の石油製品価格に下方圧力を加えるとともに製油所の原油精製利幅を圧迫する格好となった。また、その後も中国の軟調な経済を背景とした同国石油需要の伸びの鈍化懸念や、米国及び欧州の製油所における精製利幅が必ずしも顕著な拡大傾向を示さなかったことが影響し、2025年4月にかけアジア市場の製油所における精製利幅は総じてもたつき気味となった。その後、2025年の夏場にかけ、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来によるガソリン需要増加期待と軽油需給の引き締まり感の増大に伴い欧米諸国の製油所におけるガソリン及び軽油の製造利幅が上向いたことが、アジアの製油所のおける精製利幅を拡大させる形で作用する場面が見られたものの、米国と中国との間での貿易問題を巡る対立が解消されないことから中国経済発展を巡る不安感が根強いこともあり、アジアの製油所における精製利幅は欧米諸国のそれに比べると低水準のままとなっている。

次に、ガソリン価格と原油との価格差(どの地域においても通常ガソリン価格が原油価格を上回る状態となっている)について見てみることとしたい(図21参照)。

図21 各地域ガソリン製造利幅(2023~25年)

米国においては、2024年1月を中心とする時期において寒波が同国南部にまで来襲したことが製油所の操業に影響を及ぼすとともに石油製品製造活動に支障が発生、さらにそのような状態が長引いたものと見られることに加え、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来に向けた同製品の出荷活発化が視野に入り始めるとともに、3月には実際に出荷が活発化し始めたことから、ガソリン在庫が減少傾向となったことにより、ガソリン価格は2024年2月から4月にかけ大幅に上昇するとともに、ガソリン精製利幅が拡大した。また、2024年1月から6月にかけては欧州においても春場の製油所のメンテナンス作業が実施されたことに加え一部製油所において装置に不具合が発生したこともあり、必ずしも原油精製処理活動が活発ではなかったことにより、欧州においてもガソリン在庫が落ち込んだことにより、欧州から米国方面等へのガソリン輸出に支障が発生するのではないかとの見方が増大したことが、米国におけるガソリン需給の引き締まり感を一層強める格好となったことも、米国のガソリン精製利幅をさらに押し上げることとなった。しかしながら、2025年4月にかけガソリン製造利幅が拡大したことや春場の製油所メンテナンス作業が完了したこともあり、米国の製油所の稼働率が上昇するとともにガソリン製造活動が活発化したことから、米国においてはガソリン在庫が持ち直したこともあり、2024年5月から7月にかけては米国のガソリン価格に下方圧力が加わるようになった他、8月になると夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が石油産業関係者の視野に入り始めたうえ、2024年9月2日(労働者の日)を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了、以降秋場及び冬場のガソリン不需要期に突入したこともあり、米国におけるガソリン製造利幅は同時期(2024年5月から2025年1月にかけ)低下する傾向を示した。2025年2月から5月にかけては米国における夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来が視野に入るとともに季節的なガソリン需給の引き締まり感が意識されるようになった一方、春場の製油所メンテナンス作業実施に伴い製油所の稼働が低下した結果、特に4月以降はガソリン価格に上方圧力が加わるとともにガソリン製造利幅が拡大した側面があったが、2024年から2025年にかけての冬場は2023年から2024年の冬場の時のように米国南部の製油所集積地帯にまで厳しい寒波が来襲した結果、製油所の装置に不具合が発生するとともに製油所の稼働が大幅に落ち込むといった場面が見られた訳ではなく、ガソリンの製造はそれなりに行われていたこともあり、2025年春場の製油所におけるガソリン製造利幅は2024年同期ほど高水準ではなかった。それでも、2024年から2025年にかけての冬場においては、米国北東部や欧州において気温がそれなりに低下する場面が見られたことにより、両地域において暖房向けの留出油需要が喚起されたうえ、欧州において夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期(欧州では乗用車としてディーゼル車が相当程度普及している)を控える中、地中海地域等において6月上旬から中旬にかけてを中心とする時期に予期せぬ製油所の稼働停止が発生したこと、さらには、4月9日に実施された米国トランプ政権による貿易相手国及び地域に対する追加関税賦課の90日間の猶予期限到来による追加関税賦課の実施と米国の貿易相手国及び地域により予想される報復関税賦課実施の前に、駆け込みで米国や欧州等において製品の製造や輸送を巡る活動が活発化した部分があったことにより産業部門や輸送部門での軽油需要が支持されたものと見られること(この結果米国の留出油需要は2025年3月から7月にかけ前年同月を上回る状態を持続した)等により、欧州及び米国の留出油在庫が低迷したことに加え、6月13日から24日にかけイスラエルとイランが戦闘状態となったことにより、中東方面から欧州方面への軽油の供給に支障が発生するかもしれないとの懸念が増大したこともあり、欧米諸国等における軽油需給の引き締まり感が強まった結果、軽油製造を巡る利幅が拡大した。この結果、米国の製油所においては相対的に製造利幅が良好となった留出油の生産に注力するとともに、ガソリン製造が劣後した結果、ガソリン生産はもたつき気味となったものと考えられる。このため、米国のガソリン在庫は2025年6月以降軒並み前週比で減少となった(同年6月20日以降の17週間においてガソリン在庫が前週比で増加したのは4週にとどまっており、この結果9月19日の同国ガソリン在庫(2.17億バレル)は2024年11月29日(この時は2.15億バレル)以来の低水準となった)他、2025年9月1日(労働者の日)を以て米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了し秋場のガソリン(を含む石油製品)不需要期に突入したものの、ガソリン在庫が相当程度低水準となったことに加え、米国等の製油所では秋場のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあり、製油所の稼働が低下するとともにガソリンを含む石油製品製造活動が不活発化する可能性があることに対する懸念が増大したことが、米国のガソリン価格に上方圧力を加え続けた結果、米国のガソリン精製利幅が拡大、前年同月の水準を上回る状態となっている。

2024年1月を中心とする時期において、米国南部の製油所集積地帯にまで厳しい寒波が来襲したことにより、同国の製油所の操業が混乱した。その結果、欧州で製造されるガソリンの米国方面への輸出が活発化するとの見方が発生したこともあり、2024年1月以降欧州におけるガソリン製造利幅が上向き始めた。その後2024年4月にかけては、米国(そして欧州)の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来による向け米国とともに欧州においてもガソリン需給の季節的な引き締まり感が意識されるとともにガソリン価格に上方圧力が加わったことから、ガソリン製造利幅が拡大していった。そして、2024年5月から7月にかけては、米国において夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したことにより、季節的なガソリン需給の引き締まり感が発生したことがガソリン価格に上方圧力を加えたものの、メンテナンス作業や不具合が発生した装置の改修等が完了したことにより製油所の稼働が上昇するとともにガソリン製造活動が活発化したこともあり、ガソリン在庫が多少なりとも積み上がっていったことが、ガソリン小売価格に下方圧力を加えたことにより相殺されて余りある格好となった結果、米国におけるガソリン製造利幅が低下し始めた。さらに8月に入ると米国等において夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が視野に入り始めたうえ、9月2日を以て米国では実際にガソリン需要期が終了、以降はガソリン不需要期に突入したこともあり、2024年5月から12月にかけては、米国方面にガソリンを輸出している欧州におけるガソリン価格にも下方圧力が加わった結果、欧州のガソリン製造利幅は縮小傾向となった。さらに、2024から2025年の冬場は、2023年から2024年の冬場のように米国において厳しい寒波の来襲とともに製油所の稼働が大きな影響を受けたわけでもなく、また欧州においては寒波が来襲する場面が見られたしたものの、製油所の稼働、そしてガソリン製造活動に大きな影響を与えるまでには至らなかったことから、ガソリン供給上の支障発生に伴うガソリン需給引き締まり感が強まることに伴いガソリン価格が大幅に上昇することもなかった結果、欧州のガソリン精製利幅も抑制される格好となった。しかしながら、欧州において2025年の夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期を控える中、地中海地域等において6月上旬から中旬にかけてを中心とした時期において製油所で予期せぬ稼働の停止が発生したこと、さらには、米国の追加関税賦課猶予期限到来による追加関税賦課の実施と米国の貿易相手国及び地域により予想される報復関税賦課実施の前に、駆け込みで米国や欧州等において製品の製造や輸送を巡る活動が活発化した側面があったことにより産業部門や輸送部門での軽油需要が支持されたものと見られることから、当該製品需給の引き締まり感が強まったこともあり、軽油製造利幅がガソリン製造利幅以上に拡大したことにより、欧州や米国を中心とする製油所において軽油の製造が優先される反面ガソリン製造が劣後したこともあり、欧州においてもガソリンの在庫が減少するとともにガソリン価格に上方圧力が加わるようになった。この結果、2025年4月から8月にかけ、欧州においてもガソリン製造利幅が上昇傾向となったうえ高止まるようになったが、欧州の場合は米国と異なりガソリン在庫は低水準ではあったものの2024年同期ほどではなかったこともあり、欧州のガソリン製造利幅の上昇は、米国ほど大きなものではなかった。また、2025年8月には夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が視野に入ったことにより、ガソリン製造利幅が下振れするとともに製油所における原油精製利幅も縮小傾向となったものの、8月に入りナイジェリアのダンゴテ製油所(操業者: ダンゴテ・インダストリーズ、原油精製処理能力日量65万バレル)においてガソリンを製造するための流動接触分解装置(RFCC:  Residue Fluid Catalytic Cracking)が予定外のメンテナンス作業を実施するために操業を停止した(8月6日に伝えられる)後、作業が完了し8月24日に操業を再開する旨8月21日に報じられたが、さらなる不具合が発生している旨9月2日に伝えられることもあり、同製油所でのガソリン製造活動が不活発化し続けていることにより、代替でアフリカ諸国及び地域向けに欧州方面からガソリンが輸出されつつあることから、2025年9月の欧州の製油所におけるガソリン製造利幅が拡大している。

2024年1月から2月にかけては中国等の旧正月(春節)に伴う個人の外出の活発化によるガソリン需要の盛り上がり期待からガソリン価格が上昇するとともに、アジアの製油所におけるガソリン製造利幅が上向く場面が見られた。しかしながら、2022年終盤の中国における新型コロナウイルス感染の厳格な抑制策の緩和に伴う個人の外出の活発化の動きも一巡しつつあったことに加え、同国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生しつつあったことうえ、実際中国石油需要が前年同月比で堅調に増加している様には見受けられなかったこともあり、2024年の旧正月後から2025年4月にかけては、アジアにおけるガソリン価格が抑制された結果、ガソリン製造利幅は欧米諸国に比べるともたつき気味となった。ただ、2025年5月から6月にかけては米国において夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつあったことから、ガソリン需給の引き締まり感が意識されるとともに米国及び欧州におけるガソリン価格上昇の影響を受けたことに加え、4月9日に、米国のトランプ大統領が中国に対し高率の関税を賦課する旨表明したことにより、中国との間で関税賦課合戦になったものの、5月12日に米国と中国が共同声明を発表し、5月14日までに米国の対中国関税(大部分の中国製品が対象)145%を30%に(91%の関税は事実上撤廃、24%は90日間適用停止)、同様に5月14日までに中国の対米国関税125%を10%(91%の関税は事実上撤廃、24%は90日間適用停止)に、それぞれ引き下げる(一部例外あり)とともに、8月12日の一部関税猶予期限到来前に駆け込みで製品を製造し米国に輸出すべく中国において鉱工業生産活動が活発化するとともに同国経済が多少なりとも持ち直す様相を呈したことにより、中国やその他アジア諸国及び地域において個人の外出が促進されるとの期待が広がったことが、アジアにおけるガソリン価格を上振れさせた結果、ガソリン製造利幅が拡大する場面も見られた。しかしながら、実際には2025年3月以降中国のガソリン需要が前年割れを続けたものと推定されることもあり、アジアにおけるガソリン製造利幅の上昇も持続することなく、2025年7月から9月にかけ当該製造利幅は再びもたつき気味となった。

 

以上

(この報告は2025年10月20日時点のものです)

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