ページ番号1010638 更新日 令和7年11月7日
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概要
- 2025年7月のブラジルの石油・天然ガス生産量は、石油換算日量516万バレルと初めて石油換算日量500万バレルを突破した。Santos盆地プレソルトがこの増産を牽引。今後もプレソルトBuzios油田を中心に増産が図られるが、新たな大規模油田発見がなければ、生産のピークは2028年から2035年となると見られている。
- 探鉱不調でプレソルトの探鉱への関心が薄れていたが、2025年に入りプレソルトでの油田発見が続いている。特に、BPはBumerangue鉱区で同社にとって過去25年間で最大規模の油田を発見。そのため、2025年10月22日実施のプレソルトエリアを対象とする入札への関心が高まり、対象とされた7鉱区中5鉱区がPetrobras、Equinor、CNOOC等により落札された。
- 環境保護団体等の反対を受け、Foz do Amazonas盆地では掘削が行えない状況が続いていたが、2025年10月20日にPetrobrasが環境規制当局より掘削の許可を取得、掘削を開始した。
- Lula政権はクリーンなエネルギー源への転換を進めるための財源として石油収入を利用する考えで、探鉱・開発を促進する計画。主要な産油国として、エネルギー転換のリーダーとして、世界のエネルギー市場における影響力を高めることを目指し、OPECプラス協力憲章、IEA、IRENAへの参加を決定している。
- Lula大統領は、環境(アマゾン熱帯雨林の保護)と経済(貧困対策)の両立を目論んでおり、アマゾン熱帯雨林を知ってもらうとともに、同地域のインフラ開発を促進しようと、Pará州の州都BelémをCOP30の開催地とした。アマゾン熱帯雨林の回復と同時に貧困削減も図り、さらに、気候変動対策の資金を発展途上国が確実に受け取れるよう取り組む計画。具体的には、Tropical Forest Forever Facility(TFFF)設立や排出権取引制度の統合等を目指すとしている。
1. 生産量は石油換算日量500万バレルを突破、生産のピークは2028年から2035年か
Santos盆地プレソルトの生産増が、ブラジル全体の生産増を牽引したことで、2025年7月のブラジルの石油生産量は日量395.9万バレル、天然ガス生産量は日量1億9,089万立方メートル、合計で石油換算、日量516万バレルとなり、初めて日量500万バレルを上回った。プレソルト[1]の生産量は、石油が日量314.8万バレル、天然ガスが1億4,766万立方メートルと、それぞれ生産量全体の79.5%、77.4%を占めた。
(単位 石油:日量千バレル、ガス:日量百万立方メートル)
Santos盆地プレソルトの油田の中でも、Mero油田第3フェーズが2024年に、第4フェーズが2025年に、さらに、同じくSantos盆地Buzios油田の第7フェーズが2025年に生産を開始し、生産量を順調に伸ばしたことが、プレソルト、ひいては、ブラジル全体の生産増に繋がった。今後も、Buzios油田の第6フェーズと第8フェーズが2025年末と2026年初に生産を開始する予定で、Buzios油田を中心にブラジルの石油・天然ガス生産量はさらに増加する見通しである。
出所:各種資料を基にJOGMEC作成
注:生産開始年が以前の計画よりも遅延したものは赤字で示した。
他方、IEAは、ブラジルの石油生産量は2028年に日量410万バレルのピークに達するが、追加プロジェクトの立ち上げがなければ、2030年には日量380万バレルに減少する見込みとしている。
出所:IEA Oil 2025 Analysis and forecast to 2030
ブラジル連邦エネルギー研究機関EPEは、ブラジルの石油生産は2030年がピークで生産量は日量530万バレルとなるとしている。そして、今後数年間に大規模な埋蔵量が見つからない場合、生産量は2034年には日量、約400万バレルに減少するが、フロンティアで新たに油田が発見されれば、2034年以降に石油生産量を日量500万バレルとすることが期待されるとしている。
また、BPは、ブラジルの石油生産量は2035年までに日量500万バレル程度まで増加する見込みとしている。後述する通り、BPは2025年8月にブラジル沖合で大規模油田を発見しており、これはそれを加味した数字と思われる。
2. プレソルトでの油田発見増加、プレソルトエリア内鉱区を対象とする入札も活況
その後の生産見通について考えるために、探鉱の状況について見てみる。
ブラジルでは、2006年頃から毎年80件から140件の油・ガス田発見が報告されていたが、2013年からこれが減少した。Petrobrasをめぐる汚職問題以降、同社は投資を凍結、探鉱に影響を与えることとなり、油・ガス田発見はさらに減少した。
プレソルトについても、2010年代初めまではPetrobrasの試掘成功率はほぼ100%であったが、その後、試掘成功率が低下し、大規模油田発見もなくなった。2017年から2019年には、プレソルトエリアとその周辺鉱区が多く付与され、2019年以降、これらの鉱区で試掘が実施されたが、思うような結果は得られなかった。その結果、2021年にSantos盆地のPeroba鉱区が返還され、ExxonMobilやEquinorが一部のプレソルトの鉱区から撤退した。
その一方で、ガイアナ、スリナム、ナミビアでは相次いで大規模な油田が発見され、これらの国と地質的に相関関係があると考えられる赤道周辺部沖合とSantos盆地南部での探鉱へと石油会社の関心が移っていった。
ところが、2025年に入り、プレソルトでの油田発見が続いている。
Petrobrasは、Santos盆地Buzios鉱区で2025年2月に9-BUZ-99D-RJS井を掘削し、新たに原油の存在を確認。また、Campos盆地Norte de Brava鉱区で同年3月に1-BRSA-1394-RJSi井を掘削、炭化水素を確認した。Santos盆地Aram鉱区では、同年3月に4-BRSA-1395-SPS井で炭化水素を、5月に3-BRSA-1396D-SPS井で高品質の原油を、9月に3-BRSA-1399-SPS井で原油を、10月に3-BRSA-1400A-SPS井で原油を確認。さらに、Campos盆地Água Marinha鉱区で同年10月に1-BRSA-1401DA-RJS井を掘削し、油徴を確認している。
2025年8月にはBPが、Santos盆地Bumerangue鉱区の水深2,372メートルの海域で掘削した1-BP-13-SPS号井でBPにとって過去25年間で最大規模の油・ガス田を発見したと発表した。BPは1999年に回収可能量が石油換算で54億バレルのShah Denizガス田を、2021年に同10億バレルのShafag油田を発見しており、Bumerangue鉱区の埋蔵量の規模はこの間となると見られている。また、初期の調査結果によると、Bumerangue鉱区のプレソルト層には500メートルの炭化水素柱が存在し、その面積は300平方キロメートルに及ぶ可能性があるとのことであった。これを、プレソルトの類似する油田と比較すると、回収可能量は石油換算22億バレルから55億バレルの範囲となる。なお、BPは同年10月にこの炭化水素柱ついて500メートルとの発表を約1,000メートルに上方修正もしている。Bumerangue鉱区での発見については、二酸化炭素の濃度が高いことが懸念されているが、BPは「二酸化炭素の取り扱いに関する豊富な経験を積んできた。3~4坑の評価プログラムを経て、本格的な油田開発に移行できると期待している」としている。そして、隣接するTupinambá鉱区にて2026年後半に掘削キャンペーンを、2027年にはBumerangue鉱区で追加の坑井の掘削を計画しているとしている。
いずれについても評価の必要はあるものの、プレソルトにはまだ多くの未発見埋蔵量があることが改めて確認され、プレソルトでの探鉱意欲が高まっているとの見方がなされていたが、2025年10月22日に国家石油・天然ガス・バイオ燃料庁(Agência Nacional do Petróleo, Gás Natural e Biocombustíveis:ANP)がプレソルトエリア内の7つの鉱区を対象に実施した第3次Open Acreage方式入札[2](Production Sharing)でこれが証明された。
この入札では、7鉱区中5鉱区に入札があり、サインボーナスは合計で1,960万ドルとなり、これらの鉱区には約8,520万ドルが投じられる見込みとなった。
オーストラリアのKaroonと中国のCNOOCがSantos盆地のEsmeralda鉱区とAmetista鉱区を落札、プレソルトエリア内で初めてオペレーターを務めることになった。
ANPによると、Esmeralda鉱区の原始埋蔵量は石油換算72億5,500万バレルで、KaroonがSantos盆地南部で保有する他の鉱区と地質学的に類似しているという。
原始埋蔵量、石油換算31億7,600万バレルとされるAmetista鉱区の権益保有比率はCNOOCが70%、Sinopecが30%となる。両社はこれまでPetrobrasやメジャーズのパートナーとして、プレソルトやその他のブラジル沖合鉱区の権益を取得してきた。今回、中国系2社のみでコンソーシアムを組み、鉱区を取得した。
Petrobrasは、原始埋蔵量、石油換算39億8,300万バレルのCampos盆地Citrino鉱区を、プレソルトエリア内鉱区取得に初参戦した地元独立系Prioに打ち勝ち、落札した。
PetrobrasはJaspe鉱区について少なくとも30%の権益を保有し、オペレーターとなる優先権を行使した。その結果、同鉱区については、Petrobras(60%)/Equinor(40%)のコンソーシアムとPetrobras(40%)/Chevron(36%)/Qatar Energy(24%)のコンソーシアムが競うことになり、Petrobras/Equinorのコンソーシアムが落札した。ANPは、同鉱区の原始埋蔵量を石油換算で23億6,500万バレルとしている。
Equinorはまた、原始埋蔵量、石油換算20億4,300万バレルのItaimbezinho鉱区も落札している。
ANPによると、Campos盆地のÔnix鉱区(原始埋蔵量、石油換算14億6,200万バレル)とLarimar鉱区(同17億8,900万バレル)には、入札はなかった。ANPは、第4次Open Acreage方式入札(Production Sharing)には、合計20の鉱区が含まれるとしたが、両鉱区もこれに含まれるという。
出所:各種資料を基にJOGMEC作成
| 盆地 | 鉱区 | 原始埋蔵量 | 入札数 | 落札企業、コンソーシアム | 政府引取利益原油 |
|---|---|---|---|---|---|
| Santos | Esmeralda | 72.55億bbl | 1 | Karoon(100%) | 14.10% |
| Ametista | 31.76億bbl | 1 | CNOOC(70%)、Sinopec(30%) | 9.00% | |
| Campos | Citrino | 39.83億bbl | 2 | Petrobras(100%) | 31.19% |
| Itaimbezinho | 20.43億bbl | 1 | Equinor(100%) | 6.95% | |
| Ônix | 14.62億bbl | 0 | ― | ― | |
| Larimar | 17.89億bbl | 0 | ― | ― | |
| Jaspe | 23.65億bbl | 2 | Petrobras(60%)、Equinor(40%) | 32.85% |
出所:ANP Webサイトを基にJOGMEC作成
3. Petrobras、Foz do Amazonas盆地での掘削を開始
Petrobrasは2025年10月20日、Amapa州沖合Foz do Amazonas盆地FZA-M-59鉱区で試掘井を掘削するための環境認可を環境規制当局IBAMAから取得し、同鉱区でMorpho井の掘削を開始した。
Foz do Amazonas盆地は、ガイアナ、スリナムや西アフリカと同様の地質と資源量を有する有望エリアで、EPEによると、原始埋蔵量は石油換算で約800億バレル、可採埋蔵量は同約100億バレルであるという。
一方で、アマゾン川が大西洋に注ぎ込むエリアであるため、淡水と海水が混ざり合う特異な環境となっており、絶滅危惧種の生物が生息する等、他にない豊かな生態系が存在しており、環境的に極めて脆弱なエリアとされている。環境保護団体や先住民団体等は、いったん原油流出等が発生すれば取り返しのつかない事態になると主張し、探鉱・開発に反対している。
2013年実施の第11次ライセンスラウンドで、TotalEnergiesとBPはPetrobrasとパートナーを組みFoz do Amazonas盆地の5鉱区(FZA-M-57、FZA-M-86、FZA-M-88、FZA-M-125、FZA-M-127)を、BPはPetrobrasと組んでFZA-M-59鉱区を取得した。しかし、環境保護団体等の反対によりIBAMAがその掘削計画を繰り返し拒否したため、掘削を行えない状態が続いた。そのため、TotalEnergiesとBPは2021年に権益をパートナーのPetrobrasに譲渡し、Foz do Amazonas盆地から撤退した。
2025年に入ってからも、アマゾン川流域での探鉱を承認するよう求めるLula大統領に対し、Marina Silva環境・気候変動相が国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)を前に政府の環境政策と矛盾していると批判したり、公共省が、社会環境リスクと気候リスクを理由に、ANPにアマゾン川河口付近の47の沖合鉱区の入札を一時停止するよう勧告したりする等、Foz do Amazonas盆地での探鉱をめぐっては対立が続いていた。
しかし、PetrobrasがFoz do Amazonas盆地での掘削ライセンス取得に向け努力を続けてきた結果、2025年8月から9月にかけて、試掘井掘削に必要な環境認可を得るための最終プロセスとされる緊急時対応訓練が実施された。IBAMAは同年9月24日に、Petrobrasによる緊急時対応訓練とその計画を承認したが、ライセンス発行前にPetrobrasに調整を要求した。Petrobrasはこれに迅速に対応したが、IBAMAがPetrobrasの対応を審査する期限については明らかにされず、国内外の環境保護団体との更なる摩擦を避けるため、IBAMAはライセンス発行をCOP30終了後まで延期する可能性があるとの見方もなされていた。
Petrobrasは、緊急時対応訓練に先立って2025年8月18日にFZA-M-59鉱区に到着したOcyan所有のODN-II掘削船(NS-42)をそのまま同地域に係留し、さらに、同年10月に満了予定のODN-IIに関する契約を2026年3月まで延長し、掘削に備えていた。その甲斐あって、IBAMAから環境認可を取得後すぐに、Petrobrasは同鉱区でMorpho井の掘削を開始することができたという経緯がある。
PetrobrasのCEO、Magda Chambriard氏は同年10月21日、試掘井掘削が進行中であり、大規模な埋蔵量が発見されれば、7年以内に同盆地で石油、ガス生産を開始する可能性があると語った。最初の坑井の掘削作業には約5か月かかる見込みであるという。Petrobrasは同地域でさらに6坑の坑井を掘削する予定だ。Morpho井の掘削結果を見て、FZA-M-59鉱区内でManga井、Maracujá井、Marolo井の掘削を行う計画だが、FZA-M-57、FZA-M-86、FZA-M-88、FZA-M-125、FZA-M-127鉱区での掘削許可取得に向けた取り組みも継続しているという。Chambriard氏は、IBAMAが設定した環境条件はほぼ満たされているため、追加の坑井掘削のための環境認可はより迅速に取得できるはずだと述べた。そして、Foz do Amazonas盆地で生産が開始されれば、その時期はプレソルトの油田の生産量減少と一致する可能性があり、ブラジル国内の石油生産量の維持に役立つと指摘している。
Petrobrasは、Foz do Amazonas盆地に加えて、Barreirinhas、Pará-Maranhão盆地でも探鉱キャンペーンを実施する計画で、環境ライセンス取得のためIBAMAに申請を行った。さらに、Potiguar盆地でも2026年に掘削を予定しているという。
なお、ブラジルのNGO連合が、PetrobrasによるFoz do Amazonas盆地での掘削の差し止めを求めて訴訟を起こしている。環境保護活動家、先住民コミュニティ、零細漁民、そしてキロンボラ(アフリカ系奴隷の子孫)からなるNGO連合は、この訴訟で、掘削は不可逆的な環境被害をもたらし、COP30を前にブラジルが表明した気候変動対策の公約を損なう可能性があると主張している。訴状では、掘削許可手続きにおいて先住民とキロンボラへの影響が十分に評価されておらず、時代遅れの環境モデルに依存しているとし、掘削許可の取り消しと掘削の即時停止を求めている。さらに、原油流出が発生した場合、その20%が沈降し、アマゾンのサンゴ礁システムに影響を及ぼす可能性があるとしている。また、このプロジェクトが気候変動に与える影響は、COP30におけるブラジルの公約に反すると主張している。
出所:各種資料を基にJOGMEC作成
4. Lula政権、クリーンなエネルギー源へ転換を図るための財源として石油収入を利用する計画
ブラジルの石油生産量は1998年に日量100万バレルを突破した。これは、Petrobrasによる沖合Campos盆地の開発で石油生産が増加したことによるものだが、Campos盆地で生産される原油は重質原油が主体であったことから、軽質原油や天然ガスを求めてSantos盆地へ探鉱が拡大されるようになった。その結果、2006年以降、Santos盆地プレソルトで相次いで巨大油田が発見された。
プレソルトでの油田発見を契機に、左派労働者党のLuiz Inácio Lula da Silva大統領が資源ナショナリズムの傾向を強め、プレソルト開発法を制定した。ブラジルでは1997年までPetrobrasが石油産業をほぼ独占していたが、憲法改正により外資もPetrobrasと同等の条件で探鉱・開発に参入が可能になっていた。ところが、プレソルト開発法制定により、プレソルトエリアが設定され、その内側の新規鉱区についてはコンセッション契約からPS契約に契約形態を変更し、Petrobrasが鉱区権益の最低30%を保有し、オペレーターを務めること等が規定された。そして、Petrobrasに対する政府の関与を強めるとともに、Petrobrasを政府の一機関として扱うようになった。結果、プレソルト開発法制定には時間がかかり、その間、鉱区入札も停滞した。
Lula大統領と同じく労働者党のRousseff大統領の下でPetrobrasは、汚職の温床となるとともに、石油製品輸入に関連し多額の負債を負うことになった。
続くTemer政権、Bolsonaro政権では、ビジネス志向、市場志向の探鉱・開発政策がとられた。プレソルト開発法が改正され、Petrobrasはプレソルトの新規鉱区への参入義務がなくなり、政府から独立した石油会社として活動、プレソルトに集中して探鉱・開発を行うようになった。入札も頻繁に実施されるようになり、入札制度も変更され、外資参入が進んだ。プレソルトの開発が進むようになり、これを受けて、2020年には石油生産量が日量300万バレルを突破した。
2023年に大統領に返り咲くとLula氏は、プレソルト開発一辺倒だったPetrobrasを探鉱、生産、精製、販売に投資する総合エネルギー企業に戻すとした。Bolsonaro政権下ではおざなりだった環境政策が強化されるが、クリーンなエネルギー源へ転換するための財源として石油収入を利用するとし、石油とガスの生産は今後数十年にわたって必要不可欠なので、探鉱・開発にも力を入れる方針を示した。
このような状況のもと、先述した通り、プレソルトの生産増が牽引し、2025年7月には、ブラジルの石油生産量は日量400万バレル達成間近となった。ブラジルは2024年時点では世界第7位の産油国であるが、今後、順調に生産を伸ばし、産油国としてさらに上位に食い込む可能性も視野に入ってきた。
出所:2025 Energy Institute Statistical Review of World Energyを基にJOGMEC作成
そこで、ブラジルは主要な産油国として、エネルギー転換のリーダーとして、世界のエネルギー市場における影響力を高めることを目指し、2025年2月に国家エネルギー政策評議会(CNPE)が、ブラジルのOPECプラス協力憲章(Charter of Cooperation:CoC)、国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)、国際再生可能エネルギー機関(International Renewable Energy Agency:IRENA)への参加を承認した。ブラジルはOPECプラスではなく、石油生産国のための諮問フォーラムであり、石油生産国間の戦略を議論する場であるCoCへ参加するため、ブラジルには減産等の拘束力のある義務が課されることはなく、ブラジルは生産調整には参加しない。ブラジルは9月にIEAへの正式加盟を申請した。また、再生可能エネルギーの普及及び持続可能な利用の促進を目的として設立されたIRENAへの参加により、ブラジルは探鉱、開発と環境との間でバランスを取るとともに、化石燃料と再生可能エネルギーの議論の両方で影響力を維持しようとしているのではないかとの見方がなされている。ただし、中南米ではメキシコがすでにOPECプラスとIEAに加盟しているが、存在感は薄いように思われ、ブラジルがどのように発言力、影響力を強めていくのか注目される。
出所:各種資料を基にJOGMEC作成
5. 世界最大の熱帯雨林を有する気候変動の救世主兼被害者ブラジル
Lula大統領は、環境と経済の両立を目指していると見られている。
環境については、特に、アマゾン熱帯雨林の保護に焦点を当てている。アマゾン熱帯雨林は、世界最大の面積を誇る熱帯雨林で、二酸化炭素を吸収する量は莫大で、「地球の肺」と呼ばれている。しかし、放牧や飼料生産のための森林伐採による熱帯雨林消失や、森林破壊が原因と見られる木の大量枯死や焼き畑による二酸化炭素大量放出により、気候変動へ多大な影響を与えることが懸念されている。Lula大統領はもともと主要公約の一つとしてアマゾン熱帯雨林の保護を掲げている。COP27では「2030年までにアマゾン熱帯雨林の森林減少を実質的にゼロにする」と発言した。
一方、経済については、貧困対策に積極的に取り組んでいる。貧困層の所得を底上げして、雇用と生産が相乗的に拡大する循環を創り出す考えで、特に開発が遅れているPará州やその周辺地域に多大な投資を行ってきた。
2025年11月10日から21日にPará州の州都BelémでCOP30が開催されることになった背景には、COP30参加者他世界の人々にアマゾン熱帯雨林を知ってもらうとともに、Belémや周辺地域のインフラ開発を促進したいというLula大統領の意図があると考えられる。Lula大統領は、気候変動対策と貧困を切り離すことは不可能、環境を破壊せずに富を生み出すことが可能だということをブラジルが証明すると表明している。また、アマゾンの熱帯雨林を回復させ、気候変動に加担する者の責任を追及すると共に、気候変動対策のための資金を発展途上国が確実に受け取れるようにブラジルは取り組んでいくとしている。
出所:各種資料を基にJOGMEC作成
世界最大の熱帯雨林を有するブラジルが、アマゾンをはじめとする熱帯雨林を保護し気候変動の救世主となるとともに、森林伐採や森林破壊の被害者として、気候変動対策の資金を受け取れるようにしたいというのがブラジル、Lula大統領の目指すところなのではないかと考えられる。
ブラジルがCOP30で検討中の主な取り組みを以下に示す。
- Tropical Forest Forever Facility(TFFF)設立。
TFFFは、2023年のCOP28でブラジルが提唱した熱帯林国の森林減少と劣化を抑制、逆転させる経済的動機付けを与える多国間投資基金だ。各国や投資家、先進国のソブリン・ウェルス・ファンドなどから資金を低金利で集めて投資し、その運用益を成果に応じて森林国に分配、特にその20%超を先住民や地域社会に直接届ける仕組みを目指すというものだ。これまでの先進国が主導する支援とは異なり、熱帯雨林を有する国が主導的に制度の設計に関わる点が特徴と言える。ドイツ、ノルウェー、コロンビア、UAEなど12カ国が関心を示しているとされる。2025年10月には、ブラジルがTFFFへの10億ドルの拠出を正式表明した。ブラジルにとっては、先進国と途上国をつなぐ橋渡し役を果たし、国家利益と地球規模の公益を両立させる戦略的意味を持つとされる。
- 各国の炭素市場、排出権取引制度や基準の統合、連携強化を図る。
世界には40の炭素税、35の排出権取引制度が存在するという。ブラジルは、これらの炭素市場の統合、連携強化を目的とした国家連合の形成を目論んでおり、EUや中国が関心を示しているとされる。
- バイオ燃料、バイオガス、合成燃料、水素を含む持続可能な燃料の生産量と使用量を2035年までに世界全体で4倍に増やすという提案を行う予定。
気候変動との戦いにおける世界的リーダーとしての地位確立を目指すブラジルがこれらの取り組みをどれだけ実現に向けて動かしていけるのか、さらには、環境と経済の両立を図っていけるのか、そして、気候変動対策のために探鉱・開発を進めていけるのか、今後の動向に注目していきたい。
[1] リオデジャネイロやサンパウロの沖に延長約1,000キロメートル、幅約100キロメートルにわたり広がる下部白亜系岩塩層直下の炭酸塩岩を貯留岩とする地質構造。
[2] 成熟油田や過去の入札で落札されなかった鉱区、返還された鉱区を対象に、企業の要請に基づいて実施される。企業がこれら入札可能な鉱区のうちいずれかに関心を持った場合、その旨をANPに通知し、入札の実施を要請することで入札が開始される。入札実施までの間に、他の企業も自らが関心のある鉱区を入札対象鉱区に追加するようANPに要請できる。Open Acreage方式の入札は、2019年よりプレソルトエリア外の鉱区を対象に実施されていたが、2021年12月に、政府は鉱区入札制度をOpen Acreage方式に一本化し、プレソルトエリア内の鉱区も対象にする方針を示した。
以上
(この報告は2025年11月7日時点のものです)


