ページ番号1010646 更新日 令和7年11月17日
原油市場他: 欧米諸国による対ロシア制裁やウクライナによるロシアインフラ等への攻撃が上方圧力を、世界石油需給緩和感の増大が下方圧力を、それぞれ加える原油相場
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概要
- 米国では、製油所の稼働低下とともに石油製品製造活動が不活発化したことから、ガソリン及び留出油両在庫は減少傾向となり、ガソリン在庫は平年並みの、留出油在庫は平年幅下限を下回る、それぞれ量となった。また、製油所の原油精製処理量が減少したこともあり原油在庫は若干ながら増加傾向となり、平年幅上限を超過する水準を維持している。
- 2025年10月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加した他、日本においても、秋場の製油所メンテナンス作業の完了を見据えて原油調達を拡大したものと見られることから、在庫は増加した。ただ、欧州においては、不具合が発生した装置の改修が完了し、一部製油所が稼働を再開したことから、原油在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では、ガソリン及び留出油の両在庫が減少したことにより、石油製品全体の在庫は減少した。また、日本においても、気温の低下に伴い暖房向けの灯油需要が喚起されたこと等により、石油製品在庫は減少した。さらに、欧州においても、なお一部の製油所において秋場のメンテナンス作業や不具合が発生した装置の改修が進められていたことが、石油製品供給を抑制した格好となったこと等により、石油製品在庫は減少した。このため、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少した他、平年幅上方付近に位置する量となっている。
- 2025年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場においては、10月下旬初頭時点で、1バレル当たり57ドル台で推移していた原油価格は、10月22~23日に欧米諸国がロシアに対する制裁を発動する旨発表したこと等から、10月24日にかけ62ドル台へと上昇する場面が見られたものの、それ以降は、ロシアの製油所や石油ターミナルを含むインフラ等をウクライナが攻撃したこと等が原油相場に上方圧力を加えた反面、足元及び将来の世界石油需給が以前の見込みよりも緩和しつつある旨11月12日にOPECが示唆したこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は概ね58~62ドルを中心とする範囲で方向感なく推移した。
- 米国において冬場の暖房シーズンに突入したことにより、暖房用石油製品製造のために製油所での原油精製処理量が増加するとともに製油所による原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されるとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、ウクライナによるロシアの石油関連インフラ等への攻撃や米国による対ロシア制裁実施に伴い中国やインドといった従来ロシア産原油等を引き取っていた消費国がロシア産原油等の購入を一時的にせよ敬遠するとともにその代替で中東産油国等からの原油購入を活発化させることにより、ロシア産原油等の事実上の世界石油供給からの排除に伴う石油需給の引き締まり感が市場で強まることから、原油価格が上振れする場面が見られることもありうる。そのような中、米国の政策金利を巡る金融当局関係者の判断と米ドルの動向、米国のトランプ大統領による関税政策、中国経済の状況、中東やベネズエラ等の情勢、OPECプラス産油国閣僚級会合等における原油生産政策を巡る決定等が原油相場に影響を与えていくものと考えられる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 石油市場等を巡るファンダメンタルズ
2025年8月の米国ガソリン需要(確定値)は推定日量921万バレル、前年同月比0.5%程度の減少と、7月の当該需要(確定値)である日量915万バレル(前年同月比1.8%程度の減少)から、需要量が若干増加した他前年同月比では減少率が縮小した(図1参照)。また、当該需要は速報値(前年同月比2.6%程度減少の日量901万バレル)から上方修正されている。8月も米国では引き続き夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期であった他、8月30日~9月1日の連休(9月1日が労働者の日(レイバー・デー)の休日)を控えていたこともあり、夏場のドライブシーズンの最後の連休を前にして乗用車への給油活動が促されたものと見られることが、8月のガソリン需要が7月に比べ若干ながら増加した背景にあるものと考えられる。また、8月12日が期限となっていた米国の中国に対する相互関税の追加部分の適用猶予を11月10日午前0時1分まで90日間延長する旨の大統領令に8月11日にトランプ大統領が署名したことにより、米国と中国の貿易面等での対立の先鋭化に伴う同国等の経済減速懸念が後退したことが、同国個人のガソリン購入を下支えした格好となっている。さらに、7月は同国の自動車運転距離数が1日当たり95億マイルと前年同月比で1.7%増加したにもかかわらず、同月のガソリン需要が前年同月比で相当程度減少した反動で8月の減少率が縮小した側面もあるものと考えられる。なお、2025年8月の米国ガソリン需要は、新型コロナウイルス感染拡大前の時点である2019年8月の当該需要(日量983万バレル)(確定値)を6.3%程度下回っている。他方、2025年10月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量870万バレル、前年同月比4.1%の減少と9月の当該需要(速報値)である日量876万バレル(前年同月比2.5%程度の減少)から需要量が若干ながら減少したうえ前年同月比での減少率は拡大した。10月は9月に比べ気温が低下したことにより、個人の外出がより手控えられるようになったことが、10月の米国ガソリン需要を前月比で押し下げる形で作用したものと考えられる。また、米国の貿易相手国及び地域に対する関税の賦課に伴う負の影響が米国経済に徐々に及びつつあるものと見られ、米国給与計算サービス会社ADP(Automatic Data Processing)による民間雇用者数が2025年9月に前月比で3.2万人減少した他、10月は増加したもの4.2万人にとどまった(2024年9月は同19.4万人、10月は22.1万人、それぞれ増加していた)他、個人の可処分所得の前年同月比での伸びも10月は9月に比べ伸びが縮小しているものと推定されるなど、米国経済の減速感が強まりつつあることもあり、10月の米国自動車運転距離数が1日当たり92億マイルと前年同月の93億マイルから減少していることが、10月の同国ガソリン需要が前年同月比で減少した背景にあるものと考えられる。なお、2025年10月の米国ガソリン需要は2019年10月の当該需要(日量931万バレル)(確定値)を6.5%程度下回っている。そして、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、米国ガソリン需要はそれほど旺盛ではなかったものの、製油所においては秋場のメンテナンス作業実施や装置の不具合の発生に伴う改修作業実施等に伴い、原油精製処理量が落ち込んだこと(図2参照)により、ガソリン、特に混合基材の製造が影響を受けたものと見られること(ガソリン最終製品生産量は図3参照)から、10月上旬から11月上旬にかけ米国ガソリン在庫は減少傾向となり、平年並みの量となっている(図4参照)。




2025年8月の米国留出油需要(確定値)は推定日量370万バレル、前年同月比で4.8%程度の減少(図5参照)となり、7月の日量380万バレル(前年同月比で2.8%程度の増加)(確定値)から、需要量は減少した他前年同月比では増加から減少に転じた。また、当該需要は速報値(前年同月比0.9%程度減少の日量386万バレル)から下方修正されている。米国の貿易相手国及び地域に対する関税を含む政策を含む不安定な展開(頻繁な関税賦課実施表明及び実施と撤回もしくは猶予)となっていることが、米国経済に負の影響を及ぼしつつある(2025年8月の同国鉱工業生産は7月からは若干上向いているものの6月からは相当程度落ち込んでいる他、前年同月比では7月に比べ伸びが鈍化している)ことが、8月の同国留出油需要の前月比及び前年同月比での減少をもたらしているものと考えられる。なお、2025年8月の米国留出油需要は2019年8月の当該需要(日量403万バレル)(確定値)を8.1%程度下回っている。他方、10月の米国留出油需要(速報値)は推定日量389万バレル、前年同月比で5.8%程度の減少となり、9月の当該需要(速報値)である同374万バレル(前年同月比1.3%程度の増加)から、需要量は増加したものの前年同月比では増加から減少に転じた。10月は米国の穀物収穫シーズンの中心時期となることもあり、農機具類稼働のための軽油需要が喚起されたことが、同月の留出油需要を前月比で増加させる方向で作用したものと考えられる。ただ、10月の同国鉱工業生産の前年同月比の伸び(推定1.4%増加)が9月(同1.2%増加)に比べ拡大しているものと推定されるところからすると、10月の米国留出油需要の前年同月比での増加率は速報値から確定値に移行する段階で上方修正されるか、11月の当該需要にその反動が現れる可能性があるので注意する必要があろう。なお、10月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量422万バレル)(確定値)を7.9%程度下回っている。そして、米国における留出油需要は比較的抑制された状態で推移したものの、米国の製油所の稼働が低下するとともに石油製品製造活動が不活発化したことにより、留出油の製造活動もまた抑制される格好となった(図6参照)。このため、10月上旬から11月上旬にかけての米国の留出油在庫は減少傾向となり、平年幅下限を割り込む量となっている(図7参照)。



2025年8月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比0.5%程度減少の日量2,088万バレルとなり(図8参照)、7月の同2,098万バレル(前年同月比1.9%程度の増加)から、需要量は減少した他、前年同月比では増加から減少に転じた。また、留出油及びその他石油製品等の需要が速報値から確定値に移行する際に下方修正されたことから、米国石油需要も速報値(前年同月比0.8%程度増加の日量2,115万バレル)から下方修正されている。ガソリン及び留出油等の需要が前月比で減少したことが一因となり、7月の米国石油需要は前月比で減少した格好となっている。また留出油等の需要が前年同月比で減少したことが、米国石油需要の前年同月比の減少に反映されている。なお、2025年8月の米国石油需要は2019年8月の当該需要(日量2,116万バレル)(確定値)を1.3%程度下回っている。他方、2025年10月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,050万バレル(前年同月比で3.5%程度の減少)となっており、9月の同国石油需要(速報値)である日量2,068万バレル(前年同月比1.6%程度の増加)から需要量は減少したうえ前年同月比では増加から減少に転じた。ガソリン及びその他の石油製品が前月比で減少したことが、10月の米国石油需要の前月比での減少に寄与する一方、ガソリン及び留出油等の需要が前年同月比で減少したことが、前年同月比での減少の背景にある。なお、2025年10月の米国石油需要は2019年10月の当該需要(日量2,071万バレル)(確定値)を1.0%程度下回っている。また、米国における原油生産が多少なりとも増加傾向で推移した一方、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに秋場のメンテナンス作業を実施したり、装置に不具合が発生したことに伴い改修作業を実施したりしたことにより、同国の製油所における原油精製処理量が減少傾向となったことが、原油在庫を押し上げる方向で作用したものの、7月29日から10日以内にウクライナとの間での停戦に合意しなければ、関税等の経済制裁を強化する意向である旨7月29日に米国のトランプ大統領がロシアに対し改めて表明したこと等もあり、ロシア産原油等の購入国である欧州の一部諸国や、中国やインドと言ったアジアの一部諸国等がロシア産原油等の引き取りを敬遠する(つまりロシア産原油等が世界市場から事実上排除される)ことにより、石油需給引き締まり懸念が増大したことが、欧州の指標原油であるブレントや中東及びアジアの指標原油であるドバイ原油の価格に上方圧力を加えた結果、それら原油価格がWTIの価格に比べ割高になったこともあり、米国への原油輸入が減少するとともに、同国からの原油輸出が堅調となった(この結果10月24日の週の米国原油純輸入量は日量69万バレルと9月12日の週の同42万バレル(これは2001年11月9日以降の同国週間統計史上最低水準であった)に次ぐ低水準に到達した)ことが、米国原油在庫を押し下げる方向で作用した結果、10月上旬から11月上旬にかけての米国原油在庫は若干の増加傾向を示すにとどまったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、ガソリン在庫が平年並みに位置する、そして、留出油在庫が平年幅を割り込む、それぞれ量となっている反面、原油在庫が平年幅上限を超過する量となっていることから、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。




2025年10月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では、輸出及び輸入が週毎に変動する中、装置不具合等の発生に伴い製油所の原油精製処理活動が不活発化したことが一因となり、また、日本においては、秋場の製油所メンテナンス作業が完了しつつあったことを含め原油精製処理活動の活発化を見据えて原油調達を拡大したものと見られることから、それぞれ在庫は増加した。しかしながら、欧州においては、不具合が発生した装置の改修が完了し、一部製油所が稼働を再開するとともに原油精製処理活動が活発化したことから、原油在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国では、ガソリン及び留出油の両在庫が減少したことにより、石油製品全体の在庫は減少した。また、日本においても製油所の原油精製処理活動活発化が途上であった一方、気温の低下に伴い暖房向けの灯油需要が喚起されたり、国外において需給の引き締まり感が強まりつつあった軽油の輸出が促されたりした(他方、国内需要は必ずしも良好ではなかったと見る向きもある)ものと見られること等により、両製品を中心として石油製品在庫は減少した。さらに、欧州においては、不具合が発生した装置の改修が完了したことに伴い製油所の稼働再開とともに石油製品製造活動が活発化した側面はあったものの、なお一部の製油所において秋場のメンテナンス作業や不具合が発生した装置の改修が進められていたことが、石油製品供給を抑制した格好となった他、米国ガソリン在庫が減少したこともあり、欧州から米国方面にガソリンが輸出されたものと見られることから、当該製品を中心として石油製品在庫は減少した。このため、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少した他、平年幅上方付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過しつつ前月末から減少した一方、石油製品在庫が平年幅上方付近に位置しつつ前月末から減少した結果、原油と石油製品を合計した在庫は前月末から減少した他、平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。また、2025年10月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.7日と9月末の推定在庫日数(62.2日)から減少している。



10月15日に1,300万バレル台後半程度の水準であった、シンガポールにおける、ガソリンを含む軽質留分在庫は、10月22日及び29日には1,300万バレル強程度、さらに、11月5日及び12日に1,200万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少した。この結果、11月12日の軽質留分在庫量は10月15日の水準を下回ることとなった。冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期が接近しつつある中、アジアにおける秋場の製油所メンテナンス作業は完了に向かいつつあるとされるものの、インドネシア(トゥバン(Tuban)製油所(操業者:プルタミナ、原油精製処理能力日量10万バレル))及びマレーシア(ペンゲラン(Pengerang)製油所(操業者: ペンゲラン精製会社(サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコとマレーシア国営石油会社ペトロナスの折半出資)、原油精製処理能力日量30万バレル)を含む一部諸国及び地域の製油所においてガソリン製造装置(流動接触分解装置(RFCC: Residue Fluid Catalytic Cracker))を含む装置において不具合等の発生により操業が停止した他、アジアにナフサ等を輸出している中東諸国において一部製油所がメンテナンス作業を実施しつつあった(サウジアラビアのサスレフ(SASREF)製油所(操業者: SASREF(Saudi Aramco100%出資)、原油精製処理量日量30.5万バレル)が11月にメンテナンス作業を実施する予定である旨10月6日に関係者が明らかにしていた)ことにより、石油製品製造活動が不活発化しつつあるもの見られることが、シンガポールの軽質留分在庫減少傾向の背景にあるものと考えられる。そして、シンガポールにおける軽質留分在庫が減少傾向となっていることに加え、欧米諸国及び地域においても、秋場の製油所メンテナンス作業の実施や装置の不具合の発生に伴う石油製品製造活動の不活発化に伴い在庫が減少傾向になるとともにガソリン価格が上昇したことが、アジア市場のガソリン価格に上方圧力を加えた結果、10月中旬から11月中旬頃にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合、ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は概して拡大する傾向を示した。
また、アジア及び中東における製油所において秋場のメンテナンス作業が実施されつつある他、8月以降ウクライナが発射したものと見られる無人機等の攻撃によりロシアの製油所で火災等が発生し操業が停止する例が散見され続けていることから、それら諸国等からのシンガポール方面へのナフサの供給に支障が発生するとの懸念が強まりつつある一方、液化石油ガス(LPG)価格がナフサ価格よりも割安になっている(冬場の暖房需要が未だ盛り上がっていないことが同製品価格を抑制しているものと考えられる)ことが、石油化学製品製造のための原料面でLPGと競合するナフサの需要を抑制するとともにナフサ価格に下方圧力を加える格好となっていることから、10月中旬から11月中旬頃にかけての同市場におけるナフサとドバイ原油との価格差(この場合、ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は変動しつつも、明確に拡大及び縮小の傾向を示すことなく推移した。
10月15日には900万バレル台後半程度の水準であったシンガポールにおける軽油、暖房油及びジェット燃料を含む中間留分在庫は、10月22日には1,400万バレル台後半程度の量へと急増したものの、10月29日には800万バレル台半ば程度の量へと急減した。11月5日には900万バレル台前半程度の水準へと回復したものの、11月12日には900万バレル強程度の量へと減少しており、結果として11月12日の当該在庫量は10月15日の水準を下回っている。なお、10月22日の中間留分在庫急増は統計上の不具合によるものと見る向きもある。欧米諸国においては一時よりも軽油在庫は回復しているものの、なお、秋場の製油所のメンテナンス作業実施や一部装置における不具合発生により石油製品製造活動が不十分であるものと見られるところ、欧州の軽油価格がアジアのそれよりも割高となったこともあり、インド等のアジア諸国及び地域等から欧州方面に軽油が流出する反面それら諸国等からシンガポールに向けての軽油等の供給が抑制されていることが、シンガポールにおける中間留分在庫の減少傾向の背景にあるものと考えられる。そして、このように、シンガポールにおける中間留分在庫が減少傾向となったことに加え、10月22日に米国がロシア大手石油会社ロスネフチ及びルクオイルに対し制裁を発動したことにより、従来両社から軽油等を購入していた需要家等が中東やインドで製造された当該製品を購入する動きを活発化させるとの見方が市場で増大したことに加え、10月21日にはクウェートのアルズール(Al-Zour)製油所(操業者: KIPI(Kuwait Integrated Petroleum Industries)、原油精製処理能力日量61.5万バレル)において火災が発生した結果同製油所は操業を停止した(暫定的に11月7日に操業を再開する予定である旨10月30日に伝えられたが、11月13日現在完全には復旧していない旨報じられる)こと、中東地域の他の製油所においてもメンテナンス作業を実施しつつあるものと見られること等により、それら製油所からの軽油供給への影響を巡る懸念が発生したこと等が、アジア市場における軽油価格に上方圧力を加えた結果、10月中旬から11月中旬頃にかけての同市場における軽油とドバイ原油との価格差(この場合、軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向となった。
10月15日に2,500万バレル強程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、10月22日には2,300万バレル強程度の量へと減少したが、10月29日には2,400万バレル台後半程度の水準へと回復した。11月5日には2,400万バレル台半ば程度の量へと減少したものの、11月12日には2,600万バレル弱の水準へと回復しており、結果として11月12日の当該在庫量は10月15日の水準を若干ながら上回ることとなった他、前年同期(2024年11月13日の1,800万バレル台前半程度)の水準を相当程度上回ることとなった。欧州、中東及びアジア各地域において、秋場のメンテナンス作業が実施されつつあることにより、製油所における石油製品製造活動が不活発化していることに加え、ウクライナが発射したものと見られる無人機等による攻撃により、ロシアにおける製油所の操業に支障が発生していることもあり、これら地域からアジア方面への重油供給が抑制されているものと見られることが、シンガポールにおける重油在庫減少に寄与しているものと見られるものの、マレーシアのペンゲラン製油所におけるRFCCの不具合は継続している(同装置において改修作業を実施している旨9月12日に伝えられた後、9月17日に操業を再開した旨9月18日に報じられたが、10月27日及び11月11日現在操業が停止したままとなっている旨伝えられる)結果、処理されない重油が販売され続けている他、中東地域においては、気温の低下により空調機器稼働のための電力供給向けの重油需要が抑制されていることから、同地域からも重油が供給され続けているものと見られることが、シンガポールにおける重油在庫を下支えしているものと考えられる。そして、このように比較的高水準の重油在庫が今後も維持されるとの見方が市場で根強いことが、同市場における重油価格に下方圧力を加えていることから、10月中旬から11月中旬頃にかけての同市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大する傾向を示したものの、クウェートのアルズール製油所が操業を停止していることから同製油所からの低硫黄重油供給が低迷するとの観測が市場で発生していることが同製品価格を下支えしていることから、低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合、低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)拡大及び縮小の明確な傾向を示すことなく推移している。
2. 2025年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場等の状況
2025年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場においては、10月下旬初頭時点で1バレル当たり57ドル台で推移していた原油価格は、10月22~23日に欧米諸国がロシアに対する制裁を発動する旨発表したことから、10月24日にかけ62ドル台へと上昇する場面が見られたものの、それ以降は、ロシアの製油所や石油ターミナルを含むインフラ等をウクライナが攻撃したことにより、ロシアからの石油供給途絶懸念が増大したこと等が原油相場に上方圧力を加えた反面、米国原油在庫が増加している旨判明したことに加え、足元及び将来の世界石油需給が以前の見込みよりも緩和しつつある旨11月12日にOPECが示唆したこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格は概ね58~62ドルを中心とする範囲で方向感なく推移した(図15参照)。

インドのモディ首相がロシア産原油の購入を継続しない旨保証したと10月15日に米国のトランプ大統領が発表したことを受け、そのような内容は把握していない他インド国民の利益を防衛することが政府の最大の関心事項である旨10月16日にインド外務省に明らかにしたことに対し、その場合インドに対し米国は高率の関税を賦課し続けることになる旨、10月19日にトランプ大統領が警告したことにより、貿易面での両国の対立の先鋭化に伴う、経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことに加え、10月20日に中国国家統計局から発表された2025年7~9月期の同国国内総生産(GDP)が前年同期比4.8%の増加と4~6月期の同5.2%の増加から延びが縮小、2024年7~9月期(この時は同4.6%の増加)以来の低い伸びとなっている旨判明したことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したこと、10月22日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表される予定である米国石油統計(10月17日の週分)において原油在庫が増加しているとの観測が発生したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、これまでの原油価格下落に対し、値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことが原油相場に上方圧力を加えたことから、10月20日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.02ドルの下落にとどまり、終値は57.52ドルとなった。ただ、10月21日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが継続したうえ、10月21日の米国原油先物契約11月渡しの取引終了を前にした持ち高調整が発生したことに加え、米国政府が100万バレルの戦略石油備蓄(SPR)積み増しを計画している旨10月21日にブルームバーグ通信が報じたことにより、石油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり57.82ドルと前日終値比で0.30ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2025年11月渡し米国原油先物契約は取引を終了したが、12月渡し米国原油先物契約のこの日の終値は57.24ドル(前日終値比同0.22ドルの上昇)であった)。10月22日も、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが継続したことに加え、インドが段階的にロシア産原油購入を削減する一方米国がインドからの輸入品に対する関税を50%から15~16%へと引き下げる方向で両国が合意に接近しつつある旨関係者が明らかにしたと10月21日夜(米国東部時間)にインド経済紙ミント(Mint)が報じたことにより、米国とインドとの間での経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が後退するとともにロシア産原油が世界市場から排除される恐れがあることに対する懸念が市場で増大したこと、10月22日にEIAから発表された米国石油統計において原油在庫が前週比96万バレル、ガソリンが同215万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫120~218万バレル程度の増加、ガソリン在庫同80~165万バレル程度の減少)に反し、もしくは市場の事前予想を上回って減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.68ドル上昇し、終値は58.50ドルとなった。また、対ロシア制裁を大幅に強化する旨10月22日午後遅く(米国東部時間)に米国のベッセント財務長官が明らかにした後、ロシア大手石油会社ロスネフチ及びルクオイル及びその子会社に対し制裁を発動する(米国内の資産凍結及び取引の禁止を主な内容とする)旨同日夕方(米国東部時間)に米国財務省が発表した(ウクライナとの戦闘終結に向けた真剣な取り組みをロシアが行なっていないことを一因とした)ことにより、米国とロシアとの対立の先鋭化に伴う世界石油供給混乱に対する懸念が増大したことに加え、2027年1月1日を以てロシア産LNG輸入を全て禁止する他、ロシア大手石油会社(ロスネフチ及びガスプロムネフチ)への制裁強化、ロシア産原油輸送等に関与している影の船団とされる117隻の船舶、ロシア産石油取引に関与していたとされる中国石油天然気(CNPC)子会社である遼陽石化化繊(Liaoyang Petrochemical)()(原油精製処理能力日量20万バレル)及び独立系精製会社である山東裕龍石化(Shandong Yulong Petrochemical)(同日量40万バレル)の石油精製会社2社、及び同国貿易会社中国連合石油(Chinaoil)(CNPC子会社)に対し制裁を発動すること等を主な内容とした第19次制裁策を10月23日に欧州連合(EU)が採択したことから、ロシア産石油を含むエネルギーの世界市場からの排除に伴う需給引き締まりの可能性を巡る懸念が増大したこともあり、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.79ドルと前日終値比で3.29ドル上昇した。この結果原油価格は10月21~23日の3日間合計で1バレル当たり4.27ドルの上昇となった。ただ、10月24日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり61.50ドルと前日終値比で0.29ドル下落した。
また、11月2日に開催される予定であるOPECプラス有志8産油国会合において、12月の原油生産量を前月比日量13.7万バレル拡大する方向で検討している旨関係者が明らかにしたと10月27日に伝えられたうえ、自国の日量550万バレルの原油生産能力を反映した(OPECプラス産油国間における)原油生産目標の設定に向け関係者と協議中である旨10月27日にイラクのアブデルガニ(Abdel-Ghani)石油相が明らかにしたことにより、この先の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、10月27日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.19ドル下落し、終値は61.31ドルとなった。さらに、世界石油市場において余剰生産能力が存在するため、(一部の)石油輸出国に対して制裁を発動しても、その影響は限定的なものとなるものと考えている旨10月28日に国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が明らかにしたことにより、米国の対ロシア制裁に伴う世界石油需給引き締まり懸念が後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.15ドルと前日終値比で1.16ドル下落した。この結果原油価格は10月24~28日の3取引日合計で1.66ドルの下落となった。しかしながら、10月29日にEIAから発表された米国石油統計(10月24日の週分)において原油在庫前週比686万バレル、ガソリン在庫同594万バレル及び留出油在庫同336万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫20万バレル程度、ガソリン在庫同190万バレル程度、及び留出油在庫同170万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少している旨判明したことにより、米国石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、10月30日午前11時(現地時間)に開始される予定である米国と中国との間での首脳会談(於韓国慶州)において、米国と中国は合意に到達するものと考えている旨米国のトランプ大統領が明らかにしたと10月29日に報じられたことにより、両国の貿易面等での緊張緩和に伴う経済成長及び石油需要の伸びの加速に対する楽観的な見方が市場で増大したことから、10月29日の原油価格の終値は1バレル当たり60.48ドルと前日終値比で0.33ドル上昇した。そして、10月30日に開催された米国と中国の首脳会談において、米国が対中国関税を10%引き下げる一方、中国は希土類(レアアース)の輸出規制発動を1年間延期すること等で合意したこともあり、両国等の経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が後退したことが、この日の原油相場に上方圧力を加えた反面、10月28~29日に開催されていた米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利を0.25%引き下げる旨決定したものの、カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が政策金利引き下げに反対した一方、米国連邦準備制度理事会(FRB)のミラン理事が0.50%の政策金利引き下げを主張するなど、委員間で意見が分裂していたこともあり、12月9~10日に開催される予定である次回FOMCにおいて政策金利引き下げを実施することは規定路線ではない旨今回のFOMC開催後の10月29日の記者会見においてFRBのパウエル議長が警告したことにより、この先の政策金利引き下げ期待が後退した流れを10月30日の市場が引き継いだうえ、10月30日に欧州中央銀行(ECB)及び日本銀行が政策金利の据え置きを決定したこともあり、ユーロ及び日本円が弱含んだことに伴い、米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、10月30日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.09ドルの上昇にとどまり、終値は60.57ドルとなった。それでも、米国がベネズエラ国内の軍事施設(米国への麻薬密輸の拠点とされる)を攻撃することを検討している旨10月31日に報じられたことにより、ベネズエラからの石油供給混乱を巡る懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.98ドルと前日終値比で0.41ドル上昇した。
また、11月2日に開催されたOPECプラス有志8産油国会合において12月の原油生産につき前月比日量13.7万バレルの拡大とする旨決定されたものの、併せて季節的な需給緩和見込みから2026年1~3月については原油生産を据え置きとする旨決定されたことにより、この先の石油市場の相対的な引き締まり感を市場が意識したことに加え、ロシア南西部クラスノダール地方の黒海沿岸港トゥアプセ(Tuapse)の石油積出港において夜間に迎撃した無人機の破片が落下した結果、2隻の外国籍の石油タンカーを含め施設に被害が発生した旨11月2日に報じられたうえ、ロシア南西部サラトフ州にあるサラトフ製油所(操業者:ロスネフチ、原油製処理能力日量14万バレル)を攻撃した旨ウクライナが主張したと11月3日に伝えられたことにより、ロシアからの石油供給途絶懸念が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、11月3日に中国民間調査機関S&Pレーティングドッグから発表された10月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門の拡大と縮小の分岐点)が50.6と9月の51.2から低下した他市場の事前予想(50.7~50.9)を下回ったことにより、同国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が増大したことに加え、11月3日に米国供給管理協会(ISM)から発表された10月の同国製造業景況感指数(50が当該部門の拡大と縮小の分岐点)が48.7と9月の49.1から低下、8ヶ月連続で50を下回った他、市場の事前予想(49.5)を下回ったことにより、米国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念を市場が意識したこと、ここ数日間において複数の米国金融当局関係者が政策金利引き下げに反対する姿勢を示している旨伝えられたこともあり、政策金利引き下げ期待が市場で後退するとともに米ドルが上昇したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、11月3日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.07ドルの上昇にとどまり、終値は61.05ドルとなった。この結果、原油価格は10月29日~11月3日の4取引日間合計で1バレル当たり0.90ドル上昇した。しかしながら、米国株式相場が調整局面に入る可能性がある旨11月4日に米国大手金融機関ゴールドマンサックスの最高経営責任者(CEO)であるデビッド・ソロモン氏とモルガン・スタンレーのCEOであるテッド・ピック氏が警告したこともあり、米国株式相場が下落したことに加え、最近の複数の米国金融当局関係者による政策金利引き下げ反対姿勢の表明により政策金利引き下げ期待が市場で後退した流れを引き継いで米ドルがさらに上昇したことから、11月4日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.49ドル下落し、終値は60.56ドルとなった。また、11月5日にEIAから発表された米国石油統計(10月31日の週分)において原油在庫が前週比520万バレルの増加と市場の事前予想(同60万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したことにより、米国石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり59.60ドルと前日終値比で0.96ドル下落した。さらに、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが12月のアジア向け原油販売価格を相当程度引き下げた旨11月5日夜(米国東部時間)に報じられたことにより、同国が石油需要の伸びの鈍化を意識しつつあるとの観測が増大したことに加え、2025年初頭から10月までの米国企業による人員削減数が109.95万人と前年同期比で65%増加している旨11月6日に米国再就職支援会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスが発表したこともあり、米国経済減速懸念が広がるとともに米国株式相場が下落したことから、11月6日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.17ドル下落し、終値は59.43ドルとなった。この結果、原油価格は11月4~6日の3日間合計で1バレル当たり1.62ドル下落した。ただ、11月7日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.32ドル上昇し、終値は59.75ドルとなった。
また、11月10日には、米国政府関係機関閉鎖解除のための同国連邦議会上院における法案可決に向けた手続きが前進しつつある旨伝えられたことにより、同国政府関係機関閉鎖解除に伴う経済回復及び石油需要の伸びの加速期待が増大したことに加え、イラク西クルナ第二期(West Qurna 2)(原油生産量:日量48万バレル、権益保有比率:ロシア大手石油会社ルクオイル75%、イラク国営北部石油会社(North Oil Company)25%)の権益を保有するルクオイルへの支払いをイラク政府が停止した(米国のルクオイルに対する制裁が背景にあるとされる)ことに伴い、ルクオイルは同油田の操業に関し不可抗力条項の適用を宣言した(不可抗力をもたらしている要因が半年間解消されない場合には同油田の生産を停止し事業から撤退する方針であるとされる)旨11月10日に伝えられたことにより、イラクからの原油供給混乱に伴う世界石油需給引き締まり懸念が発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり60.13ドルと前週末終値比で0.38ドル上昇した。また、ロシア南西部サラトフ州にあるサラトフ(Saratov)製油所(操業者:ロスネフチ、原油精製処理能力日量14万バレル)及びオレンブルグ州にあるオルスク(Orsk)製油所(操業者:フォルテインベスト(Forteinvest)、原油精製処理能力日量13万バレル)をウクライナが攻撃した旨11月11日に報じられたことにより、ロシアからの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、11月10日夜(米国東部時間)に米国政府関係機関閉鎖解除のための予算案が同国連邦議会上院で可決されたことにより、同国経済への影響を巡る懸念が後退したことにより、米国株式相場が上昇したことから、11月11日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.91ドル上昇し、終値は61.04ドルとなった。この結果原油価格は11月7~11日の3取引日合計で1バレル当たり1.61ドル上昇した。しかしながら、11月12日にOPECから発表された月間オイル・マーケット・レポート(MOMR)において、非OPECプラス産油国石油供給が当初見込みを上回って増加している旨判明したことから、2025年第3四半期は日量50万バレルの供給過剰と推定される旨明らかになったになった(10月13日に発表された前回のMOMRにおいては同時期日量40万バレルの供給不足と推定される旨指摘されていた)他、10月のOPECプラス産油国原油生産量が2026年末まで維持された場合、2026年は世界石油需給がほぼ均衡する旨示唆された(前回のMOMRにおいては、9月のOPECプラス産油国原油生産量が2026年末まで維持された場合、2026年は若干の供給不足になる旨示唆されていた)ことにより、足元及びこの先の世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、11月12日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.55ドル下落し、終値は58.49ドルとなった。それでも、米国連邦議会が可決した予算法案に対し、11月12日夜(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が署名したことに伴い、同国政府関係機関閉鎖が終了したことにより、同国経済回復に伴う石油需要伸びの加速に対する期待が増大したことから、11月13日の原油価格の終値は1バレル当たり58.69ドルと前日終値比で0.20ドル上昇した。また、ロシア南西部の黒海沿岸都市ノボロシイスクにある石油出荷ターミナルに対し11月14日未明(現地時間)にウクライナ軍が無人機等を利用して攻撃した結果、停泊していた船舶、石油貯蔵施設及び集合住宅等が損傷した他、同ターミナルからの石油輸出が停止した(同ターミナルからは、ロシア産原油日量70万バレル程度、カザフスタン産原油同150万バレル程度、合計同220万バレル程度の原油が出荷されているとされ、これは世界石油需要の約2%に相当する)旨同日報じられたことにより、ロシア等からの石油供給途絶懸念が増大したことに加え、ベネズエラにおける地上攻撃を含む軍事作戦を巡る選択肢を米軍幹部がトランプ大統領に示した旨11月13日に米国NBCが報じるとともに、(ベネズエラ等の)麻薬密輸組織に対する軍事行動を実施する方針を同日夜(米国東部時間)に米国のヘグセス国防長官が示唆したことにより、米国の軍事作戦の実施に伴うベネズエラからの石油供給への影響に対する懸念が発生したこと、ホルムズ海峡からオマーン湾方向に航行していたタンカー(タララ(Talara)(マーシャル諸島船籍)と見られる)をイランが拿捕した旨11月14日に米国国防当局関係者が明らかにしたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶の可能性を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.40ドル上昇し、終値は60.09ドルとなった。この結果原油価格は11月13~14日の2日間合計で1バレル当たり1.60ドル上昇した。
3. 原油市場における主な注目点等
ガザ地区における戦闘を巡り、米国が提案した和平案の第1段階(人質解放及び遺体の返還等)に関し、10月9日にイスラエルとイスラム武装勢力ハマスが合意(10月10日に事実上発効)したが、遺体の返還につきハマスが合意に違反している他、ハマスがガザ地区においてイスラエルを攻撃(ハマスは否定)したとして、イスラエルのネタニヤフ首相がパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を再開するよう指示した旨10月28日に伝えられた他、同日イスラエルがカザ地区を空爆した旨ハマスが発表した。また、その後、イスラエルは散発的に攻撃を実施していると伝えられており、両者の停戦状態はとりあえず継続しているとされるものの、今後も維持できるかどうかについては不透明な状況にある他、今後第2段階の合意(ハマスの武装解除及びガザ地区の治安維持のための国際部隊の設置を含む恒久的な停戦が主な内容になることが想定される)に関する協議(全ての遺体が返還されるまで第2段階の合意を巡る協議は開始しない旨イスラエル首相府が明らかにしたと11月10日に伝えられる)を巡り、両者の対立が先鋭化することにより、停戦が行き詰まるとともに再び戦闘状態に陥る、と言った展開となることもありうる。また、イスラエルによる戦闘が散発的であれ今後も継続するようだと、ハマスを支援する、イエメンのフーシ派武装勢力による、紅海を含むイエメン周辺海域を航行する船舶への攻撃、及びイスラエルによるフーシ派武装勢力への攻撃等が活発化したり、フーシ派武装勢力を支援しているとされるイランとイスラエルとの対立が強まったりする可能性もある。そしてそのような要因により、中東情勢が不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力を加える場面が見られることもありうる。他方、イランがホルムズ海峡からオマーン湾方向に航行していたタンカー(「タララ(Talara)」(マーシャル諸島船籍)と見られる)を拿捕した旨11月14日に米国国防当局関係者が明らかにしたと報じられた(別途、アラブ首長国連邦(UAE)からシンガポールに向け軽油を輸送していたとされる同タンカーをイラン革命防衛隊が拿捕した旨伝えられた)ことにより、原油相場が反応する場面が見られたが、今後もこのような事象によって中東からの石油供給混乱懸念が増大することを通じ、原油価格が変動する可能性もあるので注意が必要であろう。
ウクライナとロシアとの戦闘を巡る情勢及び今後の展望も、不安定かつ不透明な状況が続く。インドはロシア産原油の購入を継続する意向はない旨保障したと10月15日に米国のトランプ大統領が発表したものの、両者の会談内容は把握していない他インド国民の利益を防衛することが政府の最大の関心事項である旨10月16日にインド外務省に明らかにした。しかしながら、その場合米国はインドに対し高率の関税を賦課し続けることになる旨、10月19日にトランプ大統領が警告した。また、10月16日に米国のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領が電話形式により首脳会談を実施(その際プーチン大統領はウクライナ東部ドネツク州全域を割譲するよう要求する一方南部ザポリージャとヘルソン両州の一部地域の支配を放棄する旨示唆したとされると10月19日に伝えられる)後、近日中にハンガリーの首都ブダペストにおいて対面形式により首脳会談を実施しウクライナとロシアとの戦闘の終結につき協議する意向である旨10月16日に米国のトランプ大統領が発表した。また、10月17日には米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領がホワイトハウスで会談したが、その場でトランプ大統領はウクライナに対する巡航ミサイル「トマホーク」の供与につき積極的な姿勢を示さなかったうえ、現在の戦闘の前線で以て停戦に合意すべきである旨ゼレンスキー大統領に伝えた。他方、10月19日にウクライナ軍がロシア南西部のサマラ(Samara)州にあるノボクイビシェフスク(Novokuibyshevsk)製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量18万バレル)がウクライナにより発射された無人機による攻撃を受け、一部常圧蒸留装置(CDU-11(原油精製処理能力日量14万バレル))の操業が停止した旨10月20日に報じられた一方、10月19日に同国南西部オレンブルグ(Orenburg)州にある天然ガス処理施設を攻撃した旨ウクライナが明らかにした他、同天然ガス処理施設が操業を停止したことにより、近隣にあるカザフスタンのカラチャガナク油・ガス田の原油及びガスコンデンセート生産量が25~30%減少したと関係筋が明らかにした旨10月20日に伝えられた。そのような中、インドが段階的にロシア産原油購入を削減する一方米国のインドからの輸入品に対する関税を50%から15~16%へと引き下げる方向で両国が合意に接近しつつある旨関係者が明らかにしたと10月21日夜(米国東部時間)にインド経済紙ミント(Mint)が報じた。他方、ロシアとの間での首脳会談につき実施する意向はあるものの無駄な協議は実施したくないとして、近日中に実施する予定であったブダペストにおける首脳会談の実施を延期する旨米国のトランプ大統領が示唆したと10月21日夕方(米国東部時間)に報じられた。そして、対ロシア制裁を大幅に強化する旨10月22日午後遅く(米国東部時間)に米国のベッセント財務長官が明らかにした後、ロシア大手石油会社ロスネフチ及びルクオイル及びそれらの子会社に対し制裁を発動する(米国内の資産凍結及び取引の禁止を主な内容とする)旨10月22日夕方(米国東部時間)に米国財務省が発表した(ウクライナとの戦闘終結に向けた真剣な取り組みをロシアが行なっていないことが制裁発動の一因であるとした)。加えて、2027年1月1日を以てロシア産LNG輸入を全面的に禁止する(従来は2028年1月1日であった)他、ロシア大手石油会社(ロスネフチ及びガスプロムネフチ)への制裁強化、ロシアの影の船団とされる117隻の船舶、中国石油精製会社遼陽石化(Liaoyang Petrochemical)(中国石油天然気(CNPC)子会社)(原油精製処理能力日量20万バレル)、同国独立系精石油製会社山東裕龍石化(Shandong Yulong Petrochemical)(同日量40万バレル)及び同国石油貿易会社中国連合石油(Chinaoil)(CNPC子会社)に対し制裁を発動すること等を主な内容とした第19次制裁策を10月23日に欧州連合(EU)が採択、同日発表した。その後、インド石油会社がロシア産原油輸入を大幅に削減する意向である旨関係者が明らかにした他、中国大手国営石油会社(中国石油天然気(PetroChina)、中国石油化工(Sinopec)、中国海洋石油(CNOOC)及び振華石油(Zhenhua Oil))も米国が発動した制裁を巡る懸念からロシアからの原油調達を少なくとも短期的に見合わせる方向である旨関係者が明らかにしたと10月23日に伝えられた。そのような中、米国の対ロシア制裁発動に伴い石油供給不足が見込まれるのであれば、OPEC産油国はさらなる増産を実施する用意がある旨10月23日にクウェートのアルルーミ(Al-Roumi)石油相が明らかにした。他方、ロシア南西部リャザン(Ryazan)州にあるリャザン製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量34万バレル)を無人機で攻撃した旨ウクライナが主張したと10月23日に伝えられた他、攻撃の結果常圧蒸留装置(CDU-4(原油精製処理能力日量8万バレル))及び関連施設が操業を停止した旨関係者が明らかにしたと10月24日に報じられた。また、夜間にウクライナの無人機193機を撃墜した旨10月27日にロシア国防省が発表した一方、当該攻撃により1人が死亡した旨同日報じられた。さらに、ロシア南西部ウリヤノフスク(Ulyanovsk)州にあるノボスパスキ(Novospassky)製油所(操業者: プロムインベスト(Prominvest)、原油精製処理能力日量1万バレル)、ロシア西部マリ・エル(Mari El)共和国にあるマリスキー(Mariysky)製油所(操業者: マリスキー製油所、原油精製処理能力日量3万バレル)及びブデンノフスク(Budennovsk)にある天然ガス関連施設を攻撃した旨10月29日にウクライナが主張した。ただ、10月30日に開催された米国と中国の首脳会談において、米国による中国に対するロシア産原油引き取り抑制要求が見送られた旨10月30日に報じられた。そして、ロシア南西部クラスノダール地方の黒海沿岸港トゥアプセの石油積出港において夜間に迎撃した無人機の残骸が落下した結果、2隻の外国籍の石油タンカーを含め施設に被害が発生した旨11月2日に伝えられた(別途ウクライナもトゥアプセ製油所(操業者: ロスネフチ、原油精製処理能力日量24万バレル)及び石油ターミナルを攻撃した結果、石油タンカー、出荷施設及び港湾建造物が損傷した旨発表した)が、この結果製油所の操業及び積出港からの石油出荷が停止している旨11月5日に報じられた。また、ロシア南西部サラトフ(Saratov)州にあるサラトフ製油所(操業者: ロスネフチ、原油製処理能力日量14万バレル)を攻撃した(2025年に入り7回目の攻撃とされる)旨ウクライナが主張したと11月3日に伝えられた(別途、2025年に入り160回程度ロシアの製油所及び石油インフラ攻撃を成功させた旨10月31日にウクライナ保安庁のマニューク(Malyuk/Maliuk)長官が明らかにしたと11月3日に報じられた)。さらに、ロシア西部ニジニ・ノヴゴロド(Nizhny Novgorod)州のクストボ(Kustovo)製油所(操業者: ルクオイル、原油精製処理能力日量34万バレル)を無人機で攻撃した旨11月4日にウクライナ軍が明らかにした。他方、ハンガリーのロシアからの石油及び天然ガス等のエネルギーの引き取りに関し、包括的かつ無期限に米国の制裁から免除されることになった旨11月7日の米国のトランプ大統領との首脳会談後ハンガリーのオルバン首相が明らかに(別途ハンガリーは米国への投資に合意)した旨同日午後遅く(米国東部時間)に伝えられた。また、イラク政府が同国西クルナ油田第2期(West Qurna 2)(原油生産量: 日量48万バレル、権益保有比率: ルクオイル75%、イラク国営北部石油会社(North Oil Company)25%)の権益を保有するルクオイルへの支払いを停止したことに伴い、ルクオイルは同油田からの原油出荷に関し不可抗力条項の適用を宣言した(不可抗力をもたらしている要因が半年間解消されない場合には同油田の生産を停止し事業から撤退する方針であるとされる)旨11月10日に伝えられたが、暫定的にイラク国営石油会社2社(バスラ石油会社(Basra Oil Company)及びミッサン石油会社(Missan Oil Company))に操業を移転させた(恒久的な解決法が見出せるまでの暫定措置とする)旨関係筋が明らかにした旨11月10日午後の早い時間(米国東部時間)に報じられた。11月10日には、ロシア軍がトゥアプセの沖合でウクライナの無人艇4隻を破壊した旨発表した一方、ウクライナがロシア南西部サラトフ州にあるサラトフ製油所及びオレンブルグ州にあるオルスク(Orsk)製油所(操業者: フォルテインベスト(Forteinvest)、原油精製処理能力日量13万バレル)を攻撃した。また、インドの石油会社リライアンス、BPCL、HPCL、MRPL、及びHPCL-ミッタル・エナジーが2025年12月のロシアからの原油購入の注文を行なっていない旨関係者が明らかにしたと11月11日に伝えられた(この結果、依然としてロシア産原油を購入しているインド主要石油会社はインディアン・オイル及びナヤラ・エナジーとされた)。さらに、中国の延長石油(Yanchang Petroleum)(山西省)(同社の製油所の原油精製処理能力は日量35万バレル)が2025年12月から2026年2月半ばにかけロシア産でない原油の調達を模索している他、米国による対ロシア制裁強化の影響で、洛陽石油化工(Luoyang Petrochemical)(中国石油化工(Sinopec)子会社)への原油供給が困難になったこともあり、同社の製油所における2基の原油精製処理施設(原油精製処理能力合計日量20万バレル)が10月末頃から11月末までメンテナンス作業を実施することに伴い操業を停止した旨11月11日に報じられた。そのような中、ロシア西部のウスチ・ルーガ(Ust-Luga)におけるコンデンセート分離装置(8月にウクライナの無人機攻撃により損傷していた)が完全に復旧した旨11月11日に操業者のノバテック(Novatek)が明らかにしたが、ロシア南西部の黒海沿岸都市ノボロシイスクにある石油出荷ターミナルに対し11月14日未明(現地時間)にウクライナ軍が無人機等で攻撃した結果、停泊していた船舶、石油貯蔵施設、及び集合住宅等が損傷した他、同ターミナルからの石油輸出が停止した(同ターミナルからは、ロシア産原油日量70万バレル程度、カザフスタン産原油同150万バレル程度、合計同220万バレル程度が出荷されているとされ、これは世界石油需要の約2%に相当する)旨同日報じられた他、11月11日にロシア南西部サラトフ州にあるサラトフ製油所をウクライナが攻撃した結果、同製油所の操業が停止している旨11月14日に関係者が明らかにした(また、11月14日にも同製油所が攻撃されたとされる)旨同日伝えられた。また、ロシアのリャザン製油所を攻撃した結果大規模火災が発生した旨11月15日にウクライナが明らかにしている。
このように、ウクライナとの戦闘を巡る米国(及び欧州等)の対ロシア制裁は強化される方向であるが、その過程は一様ではなく、ウクライナに停戦を迫ったり、中国に対しロシア産原油購入を敬遠するように要求しなかったりと、米国の姿勢が不安定な状態が続いている(トランプ政権関係者によってロシアに対する姿勢が異なっていることが背景にある旨示唆する向きもある)。今後も米国等の対ロシア制裁を含めウクライナとロシアの和平に向けた過程が紆余曲折を経る結果、原油相場に上方及び下方双方から圧力が加わるとともに原油価格が変動する場面が見られることもありうるが、米国による対ロシア制裁の強化により、中国やインドといった一部諸国及び地域においては、少なくとも一時的にはロシア産の原油及び石油製品の引き取りを見合わせる動きが発生している結果、事実上ロシア産の石油が世界供給から排除される格好となっているように見受けられる。このため、例えば他のOPECプラス産油国(特に自主的な減産を実施してきた有志8産油国のうちロシアを除く7産油国)が増産し続けたとしても、ロシア産石油供給が消費国に到達しない結果、世界石油需給緩和が抑制されると言った事態が発生することが想定され、これにより、原油相場が下支えされる可能性もある。また、ウクライナによるロシアにおける製油所、天然ガス処理施設及び石油等の積み出しターミナル等に対する攻撃が激化しつつある(8月以降40回程度に渡りウクライナはロシアの石油インフラを攻撃しているとされ、1~7月の21回から大幅に増加している)ことから、この面でもロシアからの原油もしくは石油製品供給に支障が発生する結果、世界石油需給引き締まり懸念が市場で強まるとともに、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。
ベネズエラから米国に向け麻薬を輸送しているとして、9月15日以降米国はしばしば公海上で船舶を攻撃している。他方、ベネズエラにおいて麻薬関連施設を攻撃する等の地上戦を実施する可能性がある旨10月23日に米国のトランプ大統領が示唆したものの、10月31日に同大統領は地上戦実施の可能性を排除した。しかしながら、米軍幹部が、ベネズエラにおける地上攻撃を含む軍事作戦を巡る選択肢をトランプ大統領に示した旨11月13日に米国NBCが報じるとともに、米国のヘグセス国防長官が、麻薬密輸組織に対する軍事行動を実施する方針を同日夜(米国東部時間)に示唆した。従って、今後当面、米国のベネズエラ国内における地上戦を含めた軍事行動の実施可能性を巡り市場関係者が神経質になることにより、原油相場が下支えされたり、実際に軍事行動を実施するようであれば、ベネズエラからの石油供給途絶懸念が発生することにより原油価格が反発したりする場面が見られると言った展開となることも想定される。
10月25~26日にマレーシアの首都クアラルンプールで行なわれた米国と中国との間での閣僚級協議(米国はベッセント財務長官、中国は何立峰副首相が、それぞれ代表)において、米国が輸入する中国製品に対する100%の追加関税(貿易を巡り中国が敵対的な姿勢を示していることに対抗し、11月1日より米国は中国製品の輸入に対し100%の関税を賦課する旨10月10日夕方(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が表明していた)は実質的に回避されるとともに、中国が希土類(レアアース)規制を1年間延期する方向となる旨、ベッセント財務長官が10月26日に明らかにした。果たして、10月30日に開催された米国と中国の首脳会談においては、米国が対中国関税を10%引き下げる(100%の追加関税賦課も回避する)一方、中国は希土類(レアアース)の輸出規制発動を1年間延期することで合意した。このため、米国と中国との間での貿易問題を巡る対立の先鋭化とともに、関税賦課を含む貿易戦争の激化に伴う両国等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念は後退した。しかしながら、トランプ大統領就任前に比べ、総じて貿易相手国及び地域との間での関税率は上昇しているものと見られる他、依然として、米国のトランプ大統領が、中国を含め貿易相手国及び地域に対し追加関税を賦課する可能性は残っている。他方、トランプ大統領が、関税を撤回したり、関税率を引き下げたりする場合もある。例えば、11月14日にトランプ大統領は、牛肉、トマト、コーヒー及びバナナ等の輸入食品に対する相互関税を除外する大統領令に署名した。また、11月14日には、米国がスイスに賦課した39%の関税を15%に引き下げることで、米国とスイスが合意している。今後も、トランプ大統領が新たな関税を賦課したり、関税率を引き上げたりする場面が見られる一方、関税を撤廃したり関税率を引き下げたりする場面が見られるなど、米国の貿易問題を巡る方針が変化することにより、米国を含む諸国及び地域の経済の減速もしくは加速を巡る観測が発生することを通じ、原油相場に影響を与えるといった展開となることも予想される。
他方、10月28~29日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利を0.25%引き下げる旨決定したものの、その際、カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が政策金利引き下げに反対した一方、米国連邦準備制度理事会(FRB)のミラン理事が0.50%の政策金利引き下げを主張するなど、委員間で意見が分裂していたこともあり、12月9~10日に開催される予定である次回FOMCにおいては政策金利引き下げを実施することは規定路線ではない旨今回のFOMC開催後の10月29日に開催された記者会見においてFRBのパウエル議長が警告した。また、米国労働市場は概ね均衡しており政策金利引き下げによる改善余地はそれほど大きくないものと考えられる反面、依然として物価上昇率が目標を上回り続けるなど過度に高水準であることが、10月28~29日に開催されたFOMCにおいて政策金利引き下げに反対した背景にある旨10月31日に米国カンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が説明した。さらに、物価上昇率が目標にまで低下していないことから、10月28~29日に開催されたFOMCにおいて政策金利引き下げを決定すべきではなかった旨10月31日に米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が明らかにした。加えて、労働市場が極度に悪化しつつあるわけではない中、物価上昇率が目標を上回っていることから、10月28~29日に開催されたFOMCにおける政策金利引き下げ決定には反対するとの考えを10月31日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が示した。10月31日には、米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が、政策金利を引き下げたとしても米国の物価上昇は抑制され続けるものと判断されることから、10月28~29日に開催されたFOMCにおける政策金利引き下げ決定を支持したものの、12月9~10日に開催される予定である次回FOMCにおいては、さらなる政策金利引き下げの実施は確実なわけではない旨発言した。ただ、労働市場が悪化しつつあることから、12月9~10日に開催される予定である次回FOMCにおいても、政策金利を引き下げるべきである旨の認識を10月31日にFRBのウォラー理事が示した。また、米国金融当局の足元の政策金利水準は過度に景気を抑制する方向で作用していると思われることから、政策金利引き下げを引き続き主張する旨11月3日にFRBのミラン理事が示唆した。ただ、12月9~10日に開催される予定である次回FOMCにおける金融政策を巡る意思決定を行なう前に、さらなるデータを確認する必要があるものの、自身の懸念は労働市場よりも物価である旨11月3日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。また、労働市場が軟化しつつあることもあり、10月28~29日に開催されたFOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げを支持したが、今後の方針は労働市場と物価を考慮しつつも、現時点では未定である旨11月3日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示唆した。さらに、労働市場の悪化リスクが物価沈静化のもたつきリスクを上回っていると判断したため、10月28~29日に開催されたFOMCにおいては0.25%の政策金利引き下げを支持した旨11月3日にFRBのクック理事が表明したものの、12月9~10日に開催される予定である次回FOMCにおける金融政策を巡る自らの考えは示さなかった。しかしながら、11月5日にはFRBのミラン理事が、足元の金融政策は過度に景気を抑制しているとして、12月9~10日に開催される予定である次回のFOMCにおいては政策金利引き下げを実施することが合理的である旨発言した。それでも、過度に目標を上回っている米国物価上昇の沈静化の方が労働市場の改善よりも喫緊の課題である旨の認識を11月6日に米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が示すとともに、政策金利引き下げには消極的である旨示唆した。また、米国労働市場が安定していることを指標が示唆する一方、米国政府関係機関閉鎖(10月1日~11月12日)の影響もあり物価上昇の状況を示す指標の公表が極度の少なくなっていることにより、政策金利引き下げを巡る判断はより慎重に行なう姿勢に傾きつつある旨11月6日に米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が明らかにした。さらに、米国金融当局の政策は景気をやや抑制する方向で作用しているものの、中立的な水準に接近しつつあるものと考えており、政策金利の取り扱いについては慎重に判断する必要がある旨11月7日にFRBのジェファーソン副議長が発言した。加えて、米国経済はある程度底堅く推移しているものの、米国の物価上昇は沈静化する兆しを見せておらず、米国人の多くは物価上昇への対応に苦慮しており、それが同国経済のリスクになりつつあることから、12月9~10日に開催される予定である次回FOMCにおいては難しい判断を迫られることになろう旨米国ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が明らかにしたと11月9日に報じられた。しかしながら、インフレ指標は予想よりも良好である一方、労働市場が緩やかに軟化しつつあることから、12月9~10日に開催される予定である次回FOMCにおいては最低0.25%の政策金利引き下げを行なう必要がある他、0.5%の政策金利引き下げも適切であるとの考えを11月10日にFRBのミラン理事が示した。また、物価は高水準であるもののなお抑制されている一方、労働市場は悪化しつつあることから、長期に渡り高水準の政策金利を維持することは米国経済に悪影響を及ぼす恐れがある旨11月10日にサンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が明らかにした。それでも、米国政府関連機関の閉鎖解除、米国政府による規制緩和及びこれまでの政策金利引き下げにより2026年1~3月期において同国経済は大きく回復するものと見る一方、物価上昇を沈静化させる必要があることから、政策金利のさらなる引き下げには慎重に対処すべきである旨、11月10日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が発言した。さらに、底堅い景気が物価上昇沈静化を遅延させるリスクがあるとして、政策金利は当面据え置きとするのが適切であるものと考える旨11月12日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が表明した。そして、米国物価上昇は沈静化しつつあるものの、依然としてその過程がもたつき気味である一方、労働市場は軟調になりつつあることもあり、現時点では12月9~10日に開催される予定である次回FOMCにおける政策金利を巡る取り扱いにつき言及することは困難であり、今後明らかになる経済指標類に基づき判断する意向である旨11月13日に米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示唆した。11月13日には、根強い米国物価上昇を沈静化させるために、政策金利は現行の水準付近で維持すべきであるとの考えを米国クリーブランド連邦準備銀行のハマック総裁が示した。また、米国物価上昇が目標である2%を上回っているため、政策金利のさらなる引き下げについては慎重に対処すべきである旨11月13日に米国セントルイス連邦準備銀行のムサレム総裁が明らかにした。さらに、米国経済は見込んでいたよりも堅調である旨判明しつつあったこともあり、10月28~29日に開催されたFOMCでは政策金利の引き下げを一旦停止することが妥当であると認識していた他、12月9~10日に開催される予定である次回FOMCにおいては今後発表される予定である経済指標類等を基に判断したい旨の見解を11月13日に米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が示した。そして、政策金利をさらに引き下げれば、物価上昇に対し長期的に悪影響を与える恐れがあるとして、政策金利引き下げには反対する意向を11月14日にカンザスシティ連邦準備銀行のシュミッド総裁が示唆した一方、物価上昇沈静化もしくは労働市場の一層の軟化等といった、政策金利引き下げ妥当性を示す経済指標類が発表されなければ、政策金利のさらなる引き下げには賛成しない旨同日同国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が発言した。
このように、10月28~29日に開催されたFOMCにおける政策金利引き下げ決定に対し反対する意見が複数の金融関係者から示されたこともあり、政策金利引き下げ期待が市場で後退するとともに、米ドルが上昇したことを通じ、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られた。12月9~10月に開催される予定である次回FOMCに向けては、政策金利の引き下げを主張する金融関係者がいる一方、物価上昇抑制を優先させるべく政策金利引き下げに反対する金融関係者もいることから、予断を許さない状況が継続するものと見られ、その結果、市場では神経質な心理が支配するとともに、米国の物価動向及び景況感指数の内容等を織り込みつつ米ドルが変動することを通じ、原油相場にその影響が反映されるものと考えられる。また、次回FOMC終了後の12月10日に実施される予定である記者会見におけるFRBのパウエル議長による米国の労働市場や物価を含む経済情勢、及び政策金利調整方針等に関する今後の展望を巡る発言内容等によっては、米国金融当局による政策金利の取り扱いを巡る観測が市場で発生する結果、米ドルの変動等とともに原油相場が反応するといった展開となることもありうる。
10月20日に中国国家統計局から発表された2025年7~9月期の同国国内総生産(GDP)は前年同期比4.8%の増加と4~6月期の同5.2%の増加から延びが縮小、2024年7~9月期(この時は同4.6%の増加)以来の低い伸び(予想の同4.7~4.8%増加)となっている旨判明した。ただ、併せて発表された9月の中国鉱工業生産は同6.5%の増加と8月の同5.2%の増加から伸びが拡大、2025年6月(この時は同6.8%の増加)以来の高水準の伸びとなった他、市場の事前予想(同5.0%増加)を上回った一方、9月の小売売上高は前年同月比3.0%増加と、8月の同3.4%の増加から伸びが鈍化、2024年11月(この時は同3.0%増加)以来の低水準に到達(市場の事前予想(同3.0%増加)とは一致)した。また、1~9月の中国固定資産投資は前年同期比0.5%の減少、1~8月の同0.5%の増加から伸びが鈍化した他、2020年1~7月(この時は同1.6%の減少)以来の大幅減少となったうえ、市場の事前予想(同0.1%の増加)に反し減少している旨判明した。加えて、9月の中国新築住宅価格は前月比0.41%の下落と8月の同0.30%の下落から下落率が拡大、2024年10月(この時は同0.51%の下落)以来の大幅下落となった他、9月の中国中古住宅価格は前月比0.64%の下落と8月の同0.58%の下落から下落率が拡大、2024年9月(この時は同0.93%の下落)以来の大幅な下落となったうえ、2025年1~9月の中国不動産開発投資は前年同期比13.9%減少と、1~8月期の同12.9%の減少から減少率が拡大した他、市場の事前予想(同13.1%の減少)を上回って減少した一方、1~9月の新築住宅販売額は同7.6%減少と1~8月の7.0%減少から減少率が拡大した。他方、10月20日に中国国家統計局から発表された9月の同国原油精製処理量は6,269万トン(推定日量1,530万バレル)と前月(6,346万トン(同1,498万バレル))を日量ベースで上回った他、前年同月(5,873万トン(同1,433万バレル))を上回った。さらに、10月27日に中国国家統計局から発表された9月の同国工業企業利益は前年同月比21.6%の増加と2ヶ月連続で増加となった他、2023年11月(この時は同29.50%増加)以来の大幅増加となっている旨判明したうえ、市場の事前予想(同3.9%の増加)を相当程度上回った。他方、10月31日に中国国家統計局から発表された10月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門の拡大と縮小の分岐点)は49.0と9月の49.8から低下した他市場の事前予想(49.6)を下回った反面、10月の同国非製造業PMIは50.1と9月の50.0から若干上昇した(市場の事前予想(50.1)と一致した)。そして、11月7日に中国税関総署から発表された10月の同国輸出(米ドル建)は前年同月比1.1%の減少と9月の同8.3%増加から減少に転じるとともに、2025年2月(この時は同3.1%減少)以来の大幅な減少率となった他、市場の事前予想(同2.9~3.0%の増加)に反し減少している旨判明したうえ、10月の同国輸入(同)は前年同月比1.0%の増加と9月の同7.4%の増加から伸びが鈍化、2025年5月(この時は同3.4%減少)以来の低い増加率となった他、市場の事前予想(同2.7~3.2%の増加)を下回った。それでも、11月7日に中国税関総署から発表された10月の同国原油輸入は4,836万トン(推定日量1,142万バレル)と前年同月(4,470万トン(同1,055万バレル)から増加している旨判明した。また、11月9日に中国国家統計局から発表された10月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.2%の上昇と9月の同0.3%の下落から上昇に転じた他市場の事前予想(同0.0~0.1%の下落)を上回った一方、10月の生産者物価指数(PPI)は同2.1%の下落と、9月(同2.3%下落)から下落率が縮小した他、市場の事前予想(同2.2%下落)を下回る下落となったものの、3年1ヶ月連続で前年割れとなっている旨判明した。また、11月14日に中国国家統計局から発表された、10月の中国鉱工業生産は同4.9%の増加と9月の同6.5%の増加から伸びが鈍化、2024年8月(この時は同4.5%の増加)以来の低水準となった他、市場の事前予想(同5.5%増加)を下回った一方、10月の小売売上高は前年同月比2.9%増加と、9月の同3.0%の増加から伸びが鈍化したものの、市場の事前予想(同2.8%増加)を上回った。ただ、1~10月の中国固定資産投資は前年同期比1.7%の減少と、1~9月の同0.5%の減少から減少率が拡大した他、2020年1~6月(この時は同3.1%の減少)以来の大幅減少となったうえ、市場の事前予想(同0.8%の減少)を上回って減少している旨判明した他、10月の中国新築住宅価格は前月比0.45%の下落と9月の同0.41%の下落から下落率が拡大、2024年10月(この時は同0.51%の下落)以来の大幅下落、10月の中国中古住宅価格は前月比0.66%の下落と9月の同0.64%下落から下落率が拡大、2024年9月(この時は同0.93%の下落)以来の大幅下落、2025年1~10月の中国不動産開発投資は前年同期比14.7%減少と、1~9月期の同13.9%の減少から減少率が拡大した他、市場の事前予想(同14.5%の減少)を上回って減少、1~10月の新築住宅販売額は前月比9.4%減少と1~9月の7.6%減少から減少率が拡大するなどした。それでも、11月14日に中国国家統計局から発表された10月の同国原油精製処理量は6,343万トン(推定日量1,498バレル)と前月(6,269万トン(同1,530万バレル))を日量ベースで下回ったものの、前年同月(5,954万トン(同1,406万バレル))を上回っている旨判明した。
このように、中国経済指標類は同国経済につきまちまちな内容を示唆するものとなっており、製油所の原油精製処理及び原油輸入等は比較的好調であるものの、不動産部門の不振はむしろ強まりつつあるうえ、輸出活動に鈍化の兆候が見られる他、鉱工業生産や景況感が軟化しつつあることが示唆される。今後も不動産部門の不振は容易には解消が困難である他、米国と中国との間での貿易問題を巡る交渉等は紆余曲折を経る可能性があるものと見られるところからすると、中国経済及び石油需要が不安定な状態が継続するとともに、その影響が原油相場にも及ぶ可能性がある。ただ、原油価格が低水準となった(例えばWTIで1バレル当たり60ドルを割り込み続けるような)場合には、中国が割安な原油を積極的に調達し在庫積み上げを行なうこともありうることから、この面では原油相場を下支えする方向で作用することも想定されうる。
米国では、冬場の暖房シーズンに突入し(暖房シーズンは通常11月1日~翌年3月31日である)、製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加、その結果原油購入が活発化するとともに季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大する方向に向かうことにより、原油相場が下支えされやすくなるものと思われる。その際市場が考慮するのは足元の気温(特に米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部の気温)及び気温予報である。例えば、足元の気温が大幅に低下する、もしくは今後3ヶ月間の気温が平年を下回る寒冷なものとなる等の予報が発表される(因みに現時点における2025年12月~2026年2月の3ヶ月予報では米国北東部はその南部では平年を上回るものと予想されている反面、北部は平年を上回る確率と下回る確率がほぼ均衡していることが示唆される)ということになれば、暖房用石油製品需要が盛り上がるとの認識が市場で強まることにより、軽油及び暖房油等の価格が上昇、それに原油価格が引きずられる、といった展開となることもありうる。
さらに、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)周辺地域等における濃霧発生の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることに伴い当該地域に点在する製油所での輸入原油の陸揚げと原油在庫の積み上げに影響が及ぶことにより、結果として原油在庫が押し下げられる場面が見られることがありうる。また、年末の課税対策から精製業者等が原油在庫等を相当程度減少させる可能性がある(米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対し固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるため精製業者等が必要以上の在庫保有を敬遠することに伴い在庫が減少しやすくなるとされる)。このようなことから、年末にかけ発表される米国石油統計で同国メキシコ湾岸地域での原油在庫等が相当程度減少する傾向を示すことにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油相場に上方圧力が加わる、といった展開となることもありうる。ただ、このような在庫減少が見られた場合、1月以降は製油所等での原油等の受け入れが再開される等することから、反動で相当程度原油在庫等が増加する可能性もあり、これにより原油相場が押し下げられる場面が見られることも想定される。
11月2日にOPECプラス有志8産油国は会合を開催した。会合前の段階で、10人の市場関係者中9人はOPECプラス産油国が2025年12月の原油生産量を前月比日量13.7万バレル程度拡大する旨決定するものと見込んでいる旨10月27日に伝えられていた。そして実際、会合においては、市場の大方の事前予想通り12月の原油生産につき前月比日量13.7万バレルの拡大とする旨決定された。しかしながら、同会合においては、併せて2026年1~3月については原油生産を据え置きとする旨決定した(季節的な需給緩和が見込まれることが理由とされる)。この原油生産据え置きを主張したのはロシアのノバク副首相であったとされ、8月以降激化したウクライナによるロシアの石油関連インフラへの攻撃や、10月22日に発表された米国によるロシア石油産業に対する制裁等により、ロシアからの石油輸出がより困難になりつつあることにより、今後ロシア以外のOPECプラス有志7産油国による増産に伴う世界石油需給緩和感の醸成に伴い原油相場に下方圧力が加わりやすい状況となりつつある中、増産が困難なロシアにおいては政府原油収入(そしてその一部はウクライナとの戦闘への費用として捻出されるものと見られる)の減少を招きやすいことから、原油生産を据え置く旨決定することにより、原油価格の維持(もしくは持ち直し)を図ろうとしたものと考えられる、また、サウジアラビアとしても、足元の原油価格は財政収支均衡価格(1バレル当たり90ドル程度とされる)を大きく下回っており、財政状態は必ずしも良好ではないことから、2026年1~3月における原油生産拡大の停止には強く反対しなかったものと考えられる。なお、OPECプラス有志8産油国の2026年1~3月の原油生産拡大停止に対し、市場関係者は、OPECプラス有志8産油国は世界石油需給バランスが大幅な供給過剰に振れることを危惧して、原油生産拡大を停止せざるをえない事態に追い込まれた(そうでなければ、例年1~3月は季節的に需給が緩和しやすいとはいえ、気候が温暖だったり寒冷だったりするなどの不透明要因が残る中、原油生産の取り扱いについてより慎重な姿勢で望んだ(例えば、1ヶ月毎に原油生産の取り扱いにつき判断し、様子を見る)であろう)と解釈したことから、11月2日の会合開催後、原油価格はむしろ1バレル当たり60ドル割れの水準へと変動領域を切り下げたこともあり、米国のトランプ大統領も今回のOPECプラス産油国の原油生産を巡る決定につき特段意見することはなかった。
ただ、11月18日には、サウジアラビアのムハンマド皇太子が訪米し、トランプ大統領と会談する予定である旨11月3日に報じられる。中東情勢は一時に比べれば相対的に安定化しつつあるものと見受けられるものの、なお、イスラエルやイラン等といった勢力に対しアラブの盟主として対峙しなければならないサウジアラビアにとっては、米国によるサウジアラビアに対する一層の武器の売却を含む軍事支援が必要とされる(サウジアラビアは米国に対しF35ステルス戦闘機を含む軍事関連製品の購入を希望しているとされる一方、トランプ大統領は同戦闘機の売却を検討中である旨11月14日に明らかにしている)ことから、この面でサウジアラビアは米国のトランプ大統領に便宜を図る必要性があり、その一環として、原油生産のさらなる拡大と原油価格の低位安定達成(これによりトランプ大統領は米国経済活性化のためのさらなる政策金利引き下げに向け米国金融当局への圧力を加えやすくなる)のための方策推進に迫られる可能性があり、この面で次回11月30日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合及びOPECプラス有志8産油国会合に向けさらなる原油生産拡大に消極的なロシアとの間でより複雑な交渉に臨まなければならなくなる可能性もあるものと見られる。また、原油生産方針決定に当たっては会合直前の原油価格も影響を与えるものと考えられる。例えば、会合直前の原油価格が1バレル当たり60ドルを割り込んで低位安定である場合には、OPECプラス有志8産油国は、11月2日に決定した方針を再承認するにとどまる可能性があるものと考えられるが、原油価格が1バレル当たり60ドルを相当程度上回って上昇した場合には、サウジアラビアは米国への事実上の便宜供与と、ロシアを初めとする他のOPECプラス産油国との結束との間でより困難な判断を迫られる可能性もある。
なお、2024年12月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、従来2025年12月末まで実施予定であったOPECプラス19産油国による公式減産措置を2026年12月末まで延長する旨決定したが、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合において、2026年12月末まで実施する予定である公式減産措置を2027年12月末まで延長する旨決定した場合、OPECプラス産油国が世界石油需給引き締めによる原油価格の浮揚を企図していると市場から受け取られることにより、会合後の原油価格が上昇する場面が見られるとともに、原油価格の上昇を良しとしない米国のトランプ大統領の不興を買うことにもなりかねないので、そのような判断は次回OPECプラス産油国閣僚級会合では見送られる(2026年5月下旬~6月上旬に開催されるものと見られるOPECプラス産油国閣僚級会合まで判断を保留とする)可能性がそれなりにあるものと見られる。
全体としては、米国において冬場の暖房シーズンに突入したことにより、暖房用石油製品製造のために製油所での原油精製処理量が増加するとともに製油所による原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されるとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、ウクライナによるロシアの石油関連インフラ等への攻撃や米国による対ロシア制裁実施に伴い中国やインドといった従来ロシア産原油等を引き取っていた消費国がロシア産原油等の購入を一時的にせよ敬遠するとともにその代替で中東産油国等からの原油購入を活発化させることにより、ロシア産原油等の事実上の世界石油供給からの排除に伴う石油需給の引き締まり感が市場で強まることから、原油価格が上振れする場面が見られることもありうる。そのような中、米国の政策金利を巡る金融当局関係者の判断と米ドルの動向、米国のトランプ大統領による関税政策、中国経済の状況、中東やベネズエラ等の情勢、OPECプラス産油国閣僚級会合等における原油生産政策を巡る決定等が原油相場に影響を与えていくものと考えられる。
4. 世界天然ガス市場動向
米国では、8月はまだ夏場でもあったこともあり気温が高水準である(図16参照)とともに暖房のための民生(家庭及び商業)部門における天然ガス需要は低調であった(図17参照)。また、2024年9月は下旬を中心とする時期において一時的に気温が低下する地域が見られたことにより暖房のための民生部門における天然ガス需要が喚起される場面が発生したものと見られる反面、2025年9月は気温の低下が持続しなかったことから、民生部門における天然ガス需要が喚起されず、結果として同月の当該部門における需要は前年同月を下回ることとなった。そして、10月は気温が相当程度落ち込む地域が見られるようになるとともに暖房のための民生部門における天然ガス需要が喚起されるようになったうえ、2025年10月は全般的に前年同月より気候が寒冷となったことから当該部門における天然ガス需要は前年同月を上回った。また、同国供給管理協会(ISM)製造業景況感は、8月が48.7、及び9月が49.1、そして10月が48.7と、当該部門拡大と縮小の分岐点を若干ながら下回る状態であり続けたこともあり、8~10月における同国産業部門における天然ガス需要も前年同月とほぼ同水準かむしろ若干下回る状態で推移した。さらに、米国においては近年風力や太陽光といった再生可能エネルギー、特に太陽光の発電能力が拡大し続けていることから、太陽光、そして風力発電量が増加したこともあり、その分だけ天然ガス火力発電量が抑制された(図18参照)ことにより、8~10月における同国の発電部門における天然ガス需要は前年割れとなった。このように、民生、産業及び発電の各部門において天然ガス需要がそれぞれ軟調に推移したことから、8~10月の米国天然ガス需要は前年同期比で減少する格好となっている。



また、メキシコにおいては、気温が上昇するとともに空調機器稼働のための電力供給向けの発電部門における天然ガス需要が拡大したことにより、近年整備されつつあるパイプライン(2025年5月にサウスイースト・ゲートウェイ・ガス・パイプライン(Southeast Gateway Gas Pipeline(Gasoducto Puerta al Sureste))(天然ガス輸送量日量13億立方フィート)が操業を開始したとされる)を経由して米国からの天然ガス輸入が活発化したことから、米国からメキシコへのパイプライン経由での天然ガス輸出も堅調で、8月は日量74億立方フィートと史上最高水準に到達した(図19参照)。ただ、その後はメキシコ国内の気温の低下とともに、空調機器稼働のための電力需要が減少するとともに発電部門における天然ガス消費が縮小したこともあり、9~10月は米国からメキシコへのパイプライン経由での天然ガス輸出も減少傾向となったが、前年同月比では同水準か若干ながら増加する状況となっている。

また、 プラークミンズ(Plaquemines)LNG第1段階(天然ガス液化能力年間1,330万トン)が液化天然ガス(LNG)の生産を開始した旨2024年12月13日に操業者であるベンチャー・グローバル(Venture Global)が発表するなど、米国のLNG輸出能力が拡大したこともあり、8~10月の同国からのLNG輸出は前年同月を上回るなど増加基調にあり(図20参照)、10月の同国のLNG輸出は日量150億立方フィートを超過して史上最高水準に到達した。また、米国から輸出されるLNGの輸送費を考慮した収益性はアジアよりも欧州の方が概して良好であったこともあり、輸出されるLNGの大半はオランダ、フランス、スペイン、ベルギー及びドイツ等を含む欧州方面に向かった。 他方、2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻に伴い、2022年3月8日には1バレル当たり123.70ドルの終値と2008年8月1日(この日の終値は同125.10ドル)以来の高水準に到達した原油価格、及びロシアのウクライナ侵攻に伴う欧州を含む西側諸国等による対ロシア制裁の発動へのロシアの事実上の報復措置の実施によるロシアから欧州方面への天然ガス供給削減等に伴う米国から欧州方面へのLNG輸出の活発化等もあり、米国の天然ガス需給引き締まり懸念が市場で増大するとともに、2022年8月22日には100万Btu当たり9.680ドルの終値と2008年7月23日(この日の終値は同9.788ドル)以来の高水準にまで上昇した天然ガス価格は、その後それぞれ下落基調となり、原油価格は2025年5月5日に1バレル当たり57.13ドルの終値と、2021年2月5日(この日の終値は同56.85ドル)以来の低水準、天然ガス価格は2024年3月26日に100万Btu当たり1.575ドルの終値と、2020年6月26日(この日の終値は同1.495ドル)以来の低水準に、それぞれ到達した。そして、原油価格は2025年6月18日には1バレル当たり75.14ドル、天然ガス価格は同年3月10日には100万Btu当たり4.491ドルの、それぞれ終値へと回復する場面が見られたものの、その後、10月31日に至るまで原油価格は概ね1バレル当たり58~70ドル、天然ガス価格は概ね100万バレル当たり2.7~4.0ドルの範囲で推移するなど、両者とも概して2022年よりも低水準となっていることもあり、原油及び天然ガス開発・生産を巡る収益性が圧迫されているものと見られることが、米国における坑井掘削を含む開発・生産活動に影響を与える(図21参照)とともに、足元の米国天然ガス生産活動のもたつきをもたらしている他、2026年に向け米国天然ガス生産が減少していくと言った展望をもたらしているものと考えられている(図22参照)。もっとも、原油価格や天然ガス価格が2022年時点のように大幅に上昇しているわけではないにもかかわらず、足元の掘削活動が下げ渋るとともに、天然ガス生産は若干ながらではあるが当初見込みを上回る水準で推移しているように見受けられることもあり、天然ガス開発・生産企業等によるコスト削減努力が進みつつある旨示唆されることから、今後2026年末にかけ、多少なりとも米国天然ガス生産が上振れする可能性があることに留意する必要があろう。



このように、8月以降米国天然ガス生産が概して伸び悩み気味であった一方、8月から10月にかけ米国の天然ガス需要及びメキシコへの天然ガス輸出が減少傾向を示したものの、同時期同国のLNG輸出が堅調であったこともあり、8月1日時点では平年(過去5年平均)を5.9%上回っていた米国の天然ガス貯蔵量は増加傾向となったうえ、9月12日には平年を上回る率が6.3%へと拡大したものの、11月7日には4.5%へと縮小傾向となった(図23参照)。このため、8月1日には100万Btu当たり3.083ドルの終値であった米国天然ガス先物価格は8月25日には同2.696ドルの終値にまで下落したものの、その後は冬場の気温低下による需給の引き締まり懸念が市場で増大しつつあったこと相俟って、総じて上昇傾向となり、11月13日は同4.646ドルの終値と、2022年12月28日(この日の終値は同4.709ドル)以来の高水準に到達する場面も見られた(図24参照)。


2025年8月は欧州においても気候が温暖な中(図25参照)暖房のための民生部門における天然ガス需要が低迷、当該需要は前年同月とほぼ同水準で推移した他、9月は前年同月よりも気候が温暖であったものと見られることから、当該需要は前年を割り込む水準となった。ただ、10月になると後半を中心として気温が前年同期及び平年を下回って低下するとともに、暖房のための民生部門、及び空調機器稼働向けの電力供給のための発電部門を中心として天然ガス需要が喚起され、同月の欧州の天然ガス需要は前年を相当程度上回ることになったものの、それでも2017~21年の5年間平均はなお下回る状態となっている(図26参照)。なお、2024年6月6日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会において従来4.50%であった欧州連合(EU)諸国の政策金利が4.25%へと引き下げられて以降政策金利が段階的に引き下げられ、2025年6月5日には2.15%とする旨ECB理事会で決定されるなど、一連の政策金利引き下げが実施されたこともあり、地域経済は多少持ち直す場面が見られるものの、なおもたつき気味である(8~10月のユーロ圏製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.8~50.7と5~7月(49.4~49.8)及び前年同期(45.0~46.0)からは改善しているものの、9月が49.8、及び10月が50.0と、当該部門が堅調に拡大していると言うわけではなかった)こともあり、8~10月の産業部門における天然ガス需要は前年同月比で微増となった国もあるものの、減少している国も見られるなど、まちまちな状況であった。


他方、欧州にパイプライン経由で天然ガスを供給しているノルウェー等においてはガス田やガス処理施設のメンテナンス作業等により操業が停止するとともに、天然ガス供給が減少する場面が見られたものの、予定外の操業停止の規模が限定的であったこともあり、市場関係者間で天然ガス供給の長期的な減少を巡る懸念が広がるといった場面は殆ど見られなかった。そのような中、欧州市場における天然ガス価格がアジア市場における天然ガス価格よりも総じて相対的に割高であった(後述)ことから、米国産を中心としたLNGは欧州方面に向かう傾向が強まった。このようなこともあり、欧州では米国産を中心としてLNG輸入が堅調に推移した(図27参照)。 そして、欧州天然ガス需要が前年を上回ったり下回ったりしながら推移したものと見られる反面、欧州方面へのパイプライン及び海上(LNG)経由での天然ガス供給も高水準であったことから、欧州の天然ガス在庫は増加傾向となったが、2024~25年の冬においてしばしば気温が大幅に低下するとともに暖房のための天然ガス需要が相当程度盛り上がる場面が見られたこともあり、2025年冬場の終わりにおいて同地域の天然ガス在庫が低水準となった(同時期においては天然ガス貯蔵能力の33.68%の充填率と過去5年平均の貯蔵充填率である45.14%を相当程度下回ることとなった)ことが影響し、2025年10月31日時点における同地域の天然ガス在庫充填率も82.81%と欧州議会が5月8日に可決した目標(10月1日~12月1日の期間中に貯蔵充填率83%に到達)近辺には到達したものの、平年(過去5年平均)(92.13%)を下回ることとなった(図28参照)。しかしながら、3月31日時点では平年を11.46%下回っていた充填率は10月31日には下回る率が9.33%とその格差を縮小している。


また、夏場の国内天然ガス需要を満たすことを中心として、2025年7月から2026年末にかけLNGタンカー150~160隻分(LNG約1,050~1,120万トン相当)のLNGを輸入すべく、エジプトが大手国際石油会社シェル、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコ、大手石油商社ビトル、アゼルバイジャン国営石油会社ソカル(Socar)、及び中国国営石油会社ペトロチャイナ(PetroChina)を初めとする企業とLNG売買契約を締結したと6月12日に伝えられており、同国の積極的なLNG購入により世界的にLNG需給が引き締まる恐れがあることに対する懸念が市場で発生したことが、欧州における天然ガス価格を下支えしていた側面があったが、同国は、2025第4四半期に調達する予定であったLNGの一部を2026年に延期すると10月9日に報じられるなどしており、当初見込みほど同国の需要が高まっていないとの見方が市場で広がった。このため、この先欧州及びアジアにおいて気温が大幅に低下するとともに、暖房機器稼働のための天然ガス需要が喚起されることにより、欧州及びアジアにおいて天然ガス供給を巡る競合が激化する恐れがあること、ロシアが9月にポーランド等の領空を侵犯したこともあり、欧州とロシアとの間での対立の先鋭化することにより、ロシアから欧州方面へのLNG供給に影響を与える恐れがあるとの見方が市場で発生したこと、10月を中心としてウクライナの天然ガス供給関連施設をロシアが攻撃した結果、ウクライナ国内の天然ガス生産関連施設の60%が被害を受けたため、同国は欧州等からの天然ガス輸入を拡大する必要性に迫られている旨10月29日に報じられたこともあり、ウクライナの欧州方面からの天然ガス調達が活発化するとともに欧州の天然ガス需給が引き締まる可能性があることに対する観測が市場で発生したこと等の要因が、欧州の天然ガス価格に上方圧力を加えた反面、EUの天然ガス在庫充填率が平年を下回る幅を縮小しつつあったこと、ノルウェーと初めとするパイプライン経由で供給される天然ガスや米国等から供給されるLNGを巡り、ガス田、天然ガス処理施設、及び天然ガス液化施設では大きな、かつ長期的な操業停止が見られないこともあり、供給が堅調であるとの見方が市場で広がったこと、さらにアジアにおけるスポット市場からの調達を中心としたLNG需要が低調であったこと等が、欧州の天然ガス価格に下方圧力を加える中、原油相場の上下変動による影響を受けつつ、8月1日に100万Btu当たり推定11.536ドルの終値であったオランダTTF天然ガス先物価格は8月5日には同11.672ドルの終値へと上昇する場面が見られたものの、11月13日には同10.384ドルの終値となるなど、冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期に突入しつつあったにもかかわらず、下落傾向となった。
なお、10月23日に欧州連合(EU)が、ロシアで生産された、もしくは輸出されたLNGの輸入を全て停止する(従来は2028年1月1日を以てロシアから供給される全てのLNGの輸入を停止するとしていたが、1年超かつ2025年6月17日以前に締結された長期取引(購入、輸入、もしくは積み替え)契約は2027年1月1日までに、それ以外の取引契約は2026年4月25日までに、それぞれ終了することとした)こと等を内容とする第19次対ロシア制裁策を採択した(また、10月22日には米国トランプ政権がロシア大手石油会社ロスネフチ及びルクオイルに対し制裁を発動する旨発表した)ことにより、この先の欧州における天然ガス供給の混乱に伴う需給引き締まり懸念が市場で強まった側面があったこともあり、同地域の天然ガス相場に上方圧力が加わる場面が見られたが、欧州のロシア産LNGの取引停止までには1年超の期間があることから、LNG供給途絶が間近に迫っているわけではなかったうえ、それまでにロシア以外の国及び地域において新規の天然ガス液化施設が稼働を開始することによりLNG供給が拡大するものと見込まれることもあり、この先の欧州における天然ガス需給引き締まり懸念が強まらなかった(また、米国の対ロシア制裁も石油が中心であるため、天然ガス供給には直接影響が及びにくいものと市場関係者が受け止めた)こともあり、結果的に天然ガス価格への影響は限定的なものとなった。
アジアにおいては、夏場の気温上昇、そしてそのような気象状況の持続(東京では9月中旬頃まで気温が高い状況が持続した(図29参照))に伴い、空調機器稼働向けの電力供給のための発電部門における電力需要が旺盛となった。しかしながら、例えば日本では2025年は前年同期に比べ原子力発電量が拡大した(2024年11月15日に東北電力女川原子力発電所2号機(発電能力82.5万kW)、及び2024年12月23日に中国電力島根原子力発電所2号機(同82万kW)が、それぞれ発電を再開した)他、夏場は太陽光発電が堅調であった(また、スポット市場から調達されるLNGを燃料として発電した電力に比べ太陽光発電による電力の方が安価であったと示唆する向きもある)こともあり、その分発電部門における天然ガス需要は抑制されることとなった。さらに、夏場の気温上昇期が過ぎ去るとともに気温が低下傾向となったこともあり、発電部門における天然ガス需要が減少する格好となった。また、日本においては概して製造業がもたつき気味であった(8~10月の日本の製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門の拡大と縮小の分岐点)は48.2~49.7と当該部門の活動が縮小しつつあることが示唆されており、併せて日本企業が米国関税賦課政策に対し様子見となっていたと指摘する向きもあった)ことから産業部門における天然ガス需要も必ずしも堅調であったとは言い切れない状態であった。このようなこともあり、8~10月の日本のLNG輸入はこの時期としては概して軟調に推移した(図30参照)。


他方、韓国においても夏場の気温が前年を上回って暑い気候となったことから、空調機器稼働向けの電力供給のための発電部門における天然ガス需要は喚起されたものと推測される一方、韓国の製造業PMIは48.3~50.7であるなどしたことから産業部門の天然ガス需要は必ずしも堅調ではなかったものと見られるものの、同国では2025年8月6日を以て古里原子力発電所4号機の稼働を停止した(40年間の稼働許可期限に到達したことによるもので、継続運転につき当局による審査手続きを実施中であるとされる)こともあり、その代替として同国では石炭火力発電と天然ガス火力発電の稼働が活発化したものと見られることから、8~9月の同国のLNG輸入量は前年同月を上回る状態となったが、2025年の夏場に向け韓国においては積極的にLNGの輸入が図られた(同年5~9月の同国LNG輸入量は1,928万トンと前年同期(1,684万トン)を244万トン上回っており、特に7月は平年よりもLNGタンカー7~8隻相当分(約49~56万トンのLNG)多いLNGを輸入したとされる)ことにより、同国の天然ガス在庫が高水準に到達したとされることもあり、同年10月はその流れが一服するとともにLNG輸入量は前年同月を下回ることとなったものと推定される。
他方、5月12日に米国が中国からの輸入製品に対する関税賦課を90日間猶予する旨発表した(その後猶予期間は11月10日までさらに90日間延長された)こともあり、猶予期限前に米国向け製品を製造して輸出すべく鉱工業生産活動が活発化した場面が見られたことから、この面で同国の天然ガスの主要消費部門である産業部門における天然ガス需要が堅調となった側面があったものと見られるが、中国の製造業活動は総じて低調であった(中国国家統計局から発表された同国製造業購買担当者指数は2025年4月から10月にかけ一貫して当該部門拡大と縮小の分岐点である50を下回っており、2015年8月~2016年2月以来の長期の50割れとなった)。一方、天然ガスの国内生産及びロシアからのパイプライン輸入が堅調であったことや、スポット市場から調達されるLNGよりも安価であった、長期契約等の期間契約に基づくLNG(100万Btu当たり9~10ドル程度で調達されていたと10月15日に伝えられた)を中国はより積極的に受け入れた。加えて、2023年11月2日に米国が制裁を発動したロシアのアークティックLNG2天然ガス液化施設から出荷されたLNGが8月28日に中国広西チワン自治区にある北海ターミナルに到着しLNGを陸揚げした(販売価格が100万Btu当たり8.0~8.5ドル程度であったと指摘する向きもある)とされることを含め、11月11日までに同施設から出荷されたLNGを積載したタンカー14隻が北海ターミナルに到着しLNGを陸揚げしたものと推定される旨伝えられており、その分だけ、中国は他の産ガス国及び地域から出荷されたLNGの受入を削減する格好となったものと考えられる。このようなこともあり、同国のスポット市場からのLNG調達はもたつき気味となったこともあり、LNG価格下落局面においては同国のLNG輸入が上向く場面も見られた(10月初頭にスポット市場におけるLNG価格が100万Btu当たり11ドルを割り込んだ際には中国のみならず、インド及び東南アジア諸国等価格に敏感な需要家からの購買行動が活発化する場面が見られた)ものの、概して中国によるスポット市場からのLNG調達は抑制された状態で推移した他、中国のLNG輸入自体も低調なものとなった(図31参照)。

また、インドにおいては10月中旬までに大部分において雨季(モンスーン)は終了したものとされ、この結果建設や道路工事等が活発化する一方水力発電由来の電力供給が減少していくことにより、産業部門や発電部門等における天然ガス需要が喚起されやすくなる時期に突入したものの、原油価格が比較的低位で安定していたこともあり、天然ガスよりも石油製品等の利用が促進されたものとされる(インドにおいては、製油所ではナフサや重油、産業部門では液化石油ガス(LPG)を、それぞれLNGの代替として利用する傾向があるとの指摘もある)ものと見られることもあり、他のエネルギー源と比較して競争力を持つ価格でなければ天然ガスの購入が進まず、結果として天然ガス需要が軟調に推移している。
このようなことから、アジアでは冬場の気温の低下に伴う暖房向けの民生部門及び空調機器稼働向けの電力供給のための発電部門における天然ガス需要期突入が意識されつつあったものの、全般的に天然ガス需要が盛り上がらない状態となったが、アジアのLNG価格に下方圧力を加えたことに加えたことから、8月1日には100万Btu当たり12.000ドルの終値であった北東アジアLNG先物価格は下落傾向にはなり11月1日には同11ドルの終値に到達した他、その後も終値ベースでは概ね11.1~11.2ドルの領域内で変動している。なお、これにより、例えば米国から輸出されるLNGにつき、輸送費を加味した収益性はアジアよりも欧州の方が良好になっている。
以上
(この報告は2025年11月17日時点のものです)


