2019年9月

天然ガス・LNG価格動向

  • 2014年から2019年にかけての5年間において、日本の平均LNG輸入価格は100万Btu当たり 16米ドル台から、最近数ヶ月間は10米ドル前後まで下がっている。これは基本的に長期契約LNG価格が連動している原油価格の低下傾向によるものである。
  • 日本の平均LNG輸入価格は、2018年の 10.01米ドルから、2019年上半期は 10.39米ドルの微増となった。2019年6月までに9.36米ドルまで下がったものの、2019年第2四半期平均で、北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格(JKM価格)の1.6 から 2倍となっており、2011年以降で両者のギャップが最大となった。これは現在進行中の供給容量拡大に対して、日本、韓国、台湾の北東アジアの伝統的LNG市場を中心にアジアのLNG引き取り意欲が弱いことが要因とみられる。中国においてもLNG輸入増加率が、2017年、2018年の年率40%から、2019年上半期は年率 19%まで軟化している。
  • JKM価格は、2019 年1月引き渡し分の10米ドル前後から、2019年の7、8、9月引き渡し分は 4米ドル台半ばまで下落している。これは下落率、そして到達水準ともに歴史的に顕著なものとなっている。JKM価格は、近年欧州スポットガス価格水準を下限、原油等価水準を上限とするレンジの中で変動してきたが、2019年はこれまでその下端近くに留まり続けている。
  • 2019年7月の日本LNG輸入平均価格は100万Btu当たり9.55米ドル(前月比0.19米ドル上昇)、METIスポットLNG価格は4.7米ドル(前月比2.8米ドル低下)であった。また、2019年8月末時点の米国HH(Henry Hub)価格は2.285米ドルと、米国の天然ガス生産増勢持続を受け前年同期比でさらに低水準、英国NBP(National Balancing Point)価格は3.662米ドルと、欧州におけるLNG供給増加・天然ガス在庫高水準を受け、前年同期比半分未満の水準であった。
  • 2019年9月には、フランスの原子力発電見通し不安、ロシア・ウクライナ間ガスパイプライン輸送交渉見通し不透明、オランダ Groningen ガス生産縮小可能性を受け、欧州スポットガス価格が一時的に反応して上昇したが、供給が豊富である状況を市場が再認識しその後反落している。JKM価格は、欧州スポットガス価格上昇と9月14日に起きたサウジアラムコ石油施設への無人機攻撃の影響、さらに冬場の需要増加に向けて一時的に上昇しその後下落傾向を見せている。

天然ガス・LNG価格推移(直近5年)

天然ガス・LNG価格推移(直近1年)

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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
英国NBP(National Balancing Point)価格: ICE Futures Europe, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2019 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
METIスポットLNG価格: 経済産業省「スポットLNG価格調査」
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成

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天然ガス・LNG在庫動向

日本

  • 日本のLNG在庫水準は、LNG消費水準と比較すれば全般的に高い水準にある。これは天然ガス供給について殆ど全て輸入LNGに頼っていることが要因である。欧州、米国は天然ガス貯蔵が多いため、LNG在庫水準は低い。なお、日本に向かっているLNG船の積荷LNGを在庫として想定する場合、約150万トン相当が常に洋上にあるとみなすこともできる。
  • LNGの6割以上が電力会社により消費されている。これら電力会社は、LNG以外にも発電源を持っているが、LNGを全発電の不足分、あるいは余剰分を調整するための発電源として用いていることにも在庫水準が高い要因としてあげられる。近年、原子力発電所の再稼働状況や再生可能エネルギー電源の電力供給の増加が、LNG在庫のパターンを劇的に変化させており、このため、総在庫量が2018年11月末時点で500万トン近くまで上昇したとみられる。
  • 2019年5月末の国内LNG在庫は449万トンで、前月比7.6%、前年同期比5.1%の増加となった。気温の上昇に伴い、このうち、ガス事業用在庫については、2019年5月のLNG消費量が前月比13.9%低下し、5月の国内LNG在庫は前月比9.3%、前年同月比15.3%増加した。また、電力事業用在庫については、5月のLNG火力発電所の発電量が前月比11.2%低下し、国内LNG在庫も前月比5.9%増加したが、前年同月比では3.6%減少となった。

国内LNG月末在庫(直近5年)

国内LNG月末在庫量(直近1年)

(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。


米国

  • 米国の貯蔵設備は通常、4月からの夏季にガスをより多く注入し、11月からの冬季にガスを寄り多く送出する。このような運転パターンは、冬季の暖房向けにガスが必要なこと、および4 月から 10月にかけて需要が減少する期間に安価にガスを購入し、需要がピークを迎える期間に高価格で販売したいというコ商業上の動機により生じてきたものである。しかしこの傾向は近年、夏季についても冷房向け発電用の天然ガス需要が増加したことにより、ある程度緩和されてきている。
  • 貯蔵水準は2018年以降下がる傾向がみられる。これはパイプラインによるメキシコ向け輸出が増加していること、また他諸国向けにLNGでの輸出が増加していることによる。
  • 米国エネルギー情報局(US Energy Information Administration, EIA)のデータによると、2018年、2019年の4月からの注入シーズンは、在庫水準がそれぞれ 1,335 Bcf、1,155 Bcfの低水準から始まった。2018年は注入のペースが遅かったが、これは発電用需要の記録的な高まりによるものであった。その結果、2018年11月末時点の在庫水準は 2,991 Bcfと、 2002年以降で最低水準となった。
  • EIAのデータによると、2019年8月末の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は2,941 Bcfで、前月比11.7%の増加となった。この水準は昨年同期より383 Bcf高いが、過去5年平均の数値よりも82 Bcf低くなっている。なお、過去5年間のレンジには収まっている。
  • 2014年から2019年の5年間に新たに稼働開始する天然ガス貯蔵設備はなかった。

米国天然ガス地下貯蔵量(直近5年)

米国天然ガス地下貯蔵量(直近1年)

(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成


欧州

  • Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社中の欧州連合(EU)各社が有する欧州のガス貯蔵容量(“working gas volumes”)は、2014年8月時点の954 TWhから 2019年8月初旬時点では1090 TWhまで14%増加した。
  • これら貯蔵設備は通常の場合、4月からの夏季にガスをより多く注入し、注入シーズンの終わりに80%から90%まで上がる。11月からの冬季にはガスをより多く送出し、払い出し期間終期には容量の20%から30%に下がる。
  • しかし最近数年間は、充填率の変動が大きくなっている。これは極端な気象変動の影響と、貯蔵設備を使う荷主の商業上の動機によるものである。2018年初期には、極端な寒波により、在庫水準は2018年3月末時点で18%に低下した。一方、2018年後半からの欧州地域のLNG輸入増加により、2019年の夏季はガス貯蔵が増加している。ガスを安価に買い、需要量が増加する冬季に高価で販売することを望む事業者が、貯蔵設備を使っているとみられる。
  • 2019年8月末の欧州天然ガス地下貯蔵在庫は1,005 TWhで、前月比11.3%増、前年同月比では207 TWh増、26.0%増となり、過去5年平均の数値よりも177 TWh高く、過去5年間のレンジを上回る水準にある。さらに容量に対する充足率が92%を超えており、例年よりも早く上限に近づいている。

欧州天然ガス貯蔵量(直近5年)

欧州天然ガス貯蔵量(直近1年)

(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、グラフ中の過去5年平均及び過去5年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。


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