天然ガス・LNG価格動向

直近の値動き

• 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格（JKM）（期近分）は、2019年11月受け渡し価格に切り替わった2019年9月16日から冬季需要期待により僅かに上昇したが、引き続き過去10年間の最低水準の5米ドル台高目で取引された。その後、2019年10月中旬に向けて冬季需要を見込む取引増加により若干上向き、2019年12月受け渡しに切り替わった2019年10月16日付JKM（期近分）は、前日付11月引き渡し分比14%高となった。なお、直近で公表されている2019年8月の日本LNG輸入平均価格は10.13米ドル（前月比0.58米ドル上昇）、同月のMETIスポットLNG価格は5.5米ドル（前月比0.7米ドル上昇）、2019年9月は4.9米ドル（前月比0.6米ドル下落）であった。
• 2019年9月末時点の米国ヘンリーハブスポットガス価格（HH）は2.33米ドルと、米国の天然ガス生産増勢持続を受け前年同期比でさらに低水準となり、英国ガススポット価格（NBP）は5.31米ドルと、欧州におけるLNG供給増加・天然ガス在庫高水準を受け、前年同期比では半分程の水準にある。但し2019年9月は、ロシア・ウクライナ間ガスパイプライン輸送交渉見通し不透明、オランダ Groningen ガス生産削減可能性を受け、9月末のNBPは前月末から1.65米ドル上昇した。
• 2019年8月の日本の平均LNG輸入価格は10.13米ドルであり、北東アジア他市場の水準8.5 - 9.3米ドルを若干上回り、かつJKMの8月引き渡し分期近平均4.55米ドルに対して2.2倍と長期契約価格とスポット取引との価格差が過去最大となった。

中長期の値動き

• 2014年から2019年の5年間にかけて、日本の平均LNG輸入価格は16米ドル台をピークに低下した。これは基本的に長期契約のLNG価格が連動している原油価格の低下傾向によるものとみられる。なお、2019年4月 - 7月分は10米ドルを下回っていた。
• JKMは、2019 年1月引き渡し分の10米ドル前後から、2019年の7 - 10月引き渡し分は 4米ドル台半ばまで下落した。これは下落率、そして到達水準ともに歴史的に顕著なものとなっている。JKMは、近年欧州スポットガス価格水準を下限、原油等価水準を上限とするレンジの中で変動してきたが、2019年はこれまでその下端近くに留まり続けている。
• 日本の平均LNG輸入価格は、2019年第2四半期平均でJKM当該月引き渡し分期近平均の1.6 から 2倍となっており、2011年以降両者の価格差が最大となった。これは現在進行中の供給容量拡大に対して、日本、韓国、台湾の北東アジアの伝統的LNG市場を中心にアジアのLNG引き取り意欲が弱いことが要因とみられる。中国においてもLNG輸入増加率が、2017年、2018年の前年比40%から、2019年上半期は前年同期比 19%まで軟化している。

天然ガス・LNG在庫動向

日本

• 2019年6月末の国内LNG在庫は411万トンで、前月比8.5%、前年同期比1.6%の減少となった。このうち、ガス事業用在庫については、2019年6月のLNG消費量が前月比3.5%増加し、6月の国内LNG在庫は前月比8.8％減、前年同月比で8.7%減少した。また、電力事業用在庫については、6月のLNG火力発電所の発電量が前月比7.5%増加し、国内LNG在庫は前月比8.2%減少したが、前年同月比では6.8%増加となった。
• 日本のLNG在庫水準は、LNG消費水準と比較すれば全般的に高い水準にある。これは天然ガス供給について殆ど全て輸入LNGに頼っていることが要因である。欧州、米国は天然ガス貯蔵が多いため、LNG在庫水準は低い。なお、日本に向かっているLNG船の積荷LNGを在庫として想定する場合、約150万トン相当が常に洋上にあるとみなすこともできる。
• LNGの6割以上が電力会社により消費されている。これら電力会社は、LNG以外にも発電源を持っており、LNGを全発電の不足分、あるいは余剰分を調整するための発電源として用いていることも在庫水準が高い要因としてあげられる。近年、原子力発電所の再稼働状況や再生可能エネルギー電源の電力供給の増加が、LNG在庫のパターンを大きく変化させている。これら要因により、総在庫量が2018年11月末時点で500万トン近くまで上昇したとみられる。

米国

• 米国エネルギー情報局（U.S. Energy Information Administration, EIA）のデータによると、2019年9月末の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は3,317 Bcfで、引き続き堅調な天然ガス生産の増加を反映し、前月比12.8%の増加となった。この水準は昨年同期より451 Bcf高いが、過去5年平均の数値よりも18 Bcf低くなっている。なお、過去5年間のレンジには収まっている。
• 米国の貯蔵設備は通常、4月からの夏季にガスをより多く注入し、11月からの冬季にガスをより多く送出する。このような運転パターンは、冬季の暖房向けにガスが必要なこと、および4月から10月にかけて需要が減少する期間に安価にガスを購入し、需要がピークを迎える期間に高価格で販売したいという商業上の動機により生じてきたものである。しかしこの傾向は近年、夏季についても発電用の天然ガス需要が増加したことにより、2017 - 2018年の在庫量ピークが対前年比下がるなど、ある程度緩和されている。
• 貯蔵水準は2018年以降下がる傾向がみられる。パイプラインによるメキシコ向け輸出が増加していること、また他諸国向けにLNGでの輸出が増加しているためでもある。
• EIAのデータによると、2018年、2019年の4月からの注入シーズンは、在庫水準がそれぞれ 1,335 Bcf、1,155 Bcfの低水準から始まった。2018年は注入のペースが遅かったが、これは発電用需要の記録的な高まりによるものであった。その結果、2018年11月末時点の在庫水準が 2,991 Bcfと、 2002年以降で最低水準となった。
• 2014年から2019年の5年間に新たに稼働開始する天然ガス貯蔵設備はなかった。

欧州

• 2019年9月末のAggregated Gas Storage Inventory（AGSI＋）加盟各社中の欧州連合（EU）各社が有する欧州のガス貯蔵容量（“working gas volumes”）欧州天然ガス地下貯蔵在庫は1,060 TWhで、前月比5.5%増、前年同月比では163 TWh増、18.2%増となり、過去5年平均の数値よりも157 TWh高く、過去5年間のレンジを上回る水準にある。さらに容量に対する充足率が97%となり、例年よりも早く上限に近づいている。
• その大きな要因としては、2018年後半からの欧州地域のLNG輸入増加が指摘できる。世界的なLNG生産容量の拡大、一方北東アジア伝統的LNG輸入市場の需要伸び悩みにより、2019年前半、米国・ロシア産を中心に、欧州向けのLNG引き渡し量が過去数年間の同期比2倍となった。需要期を前にLNGを安価に買い、需要量が増加する冬季に高価で販売することを望む事業者が、貯蔵設備を使っているとみられる
• 直近の2014年から2019年の5年間にかけて、 欧州ガス貯蔵容量は、954 TWhから 、2019年10月初旬時点で1,094 TWhまで14%増加した。
• これら貯蔵設備は通常の場合、4月からの夏季にガスをより多く注入し、注入シーズンの終わりに80%から90%まで上がる。11月からの冬季にガスをより多く送出し、払い出し期間終期には容量の20%から30%に下がる。
• しかし最近数年間は、充填率の変動が大きくなっている。これは極端な気象変動の影響と、貯蔵設備を使う荷主の商業上の動機によるものである。2018年初期には、極端な寒波により、在庫水準は2018年3月末時点で18%に低下した。一方前記の通り、2018年後半からの欧州地域のLNG輸入増加により、2019年の夏季・秋季はガス貯蔵が容量上限に近い水準まで増加している。