2019年11月

天然ガス・LNG価格動向

直近の値動き

  • 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格(JKM)(期近分)は、2019年10月23日以降、年間の同時期として過去10年間の最低水準(事実上の史上最低水準)が続いている。特に同月30日には、12月引き渡し分として史上初めて100万Btu当たり6米ドルを下回り、その後も下落した。期近分が12月引き渡し分に切り替わった2019年10月16日には11月引き渡し分を数十セント上回っており、10月17日から21日は7米ドルを超えていたが、その後急落した。さらに11月18日、新たに期近分となった2020年1月引き渡し分も、同日6米ドルを下回った。冬季ガス需要が期待される日本、中国では既に必要量が調達され、追加スポット需要が停滞している一方で、供給は堅調と目されている。なお、直近で公表されている2019年10月の日本平均LNG輸入価格は9.42米ドル(前月比0.2米ドル下落)、9月は9.62米ドル(前月比0.51米ドル下落)。2019年10月のMETIスポットLNG価格は5.4米ドル(前月比0.5米ドル上昇)、9月は4.9米ドル(前月比0.6米ドル下落)であった。
  • 2019年10月末時点の米国ヘンリーハブスポットガス価格(HH)は2.63米ドルと、11月に季節外れの寒さが到来するとの予報等の要因もあり前月比で0.3米ドル上昇したものの、同国内天然ガス生産の増勢を受け、前年同期比では20%近く低い水準にある。英国ガススポット価格(NBP)は5.53米ドルと、欧州におけるLNG供給増加・天然ガス在庫高水準を受け、前月末とほぼ同水準で、引き続き前年同期比では半分程の水準にある。
  • 2019年10月の日本平均LNG輸入価格は9.42米ドルであったが、財務省貿易統計によれば、供給地域別では、米国産LNGが8.83米ドル、ロシア産LNGが8.26米ドルと、いずれも日本平均LNG輸入価格を下回った。日本平均LNG輸入価格9.42米ドルは、JKMの10月引き渡し分期の平均4.58米ドルに対して2.05倍と、両者の格差は2019年7月引き渡し分以降、4ヶ月連続で2倍を超え、過去最大が続いている。

天然ガス・LNG価格推移(直近1年)

中長期の値動き

  • 2014年から2019年の5年間にかけて、日本平均LNG輸入価格は16米ドル台をピークに低下した。これは基本的に長期契約のLNG価格が連動している原油価格の低下傾向によるものとみられる。なお、2019年4月以降、8月分の10.13米ドルを除き、10米ドルを下回っている。
  • JKMは、2019 年1月引き渡し分の10米ドル前後から、2019年の7 - 10月引き渡し分は 4米ドル台半ばまで下落した。これは下落率、そして到達水準ともに歴史的に顕著なものとなっている。JKMは、近年欧州スポットガス価格水準を下限、原油等価水準を上限とするレンジの中で変動してきたが、2019年はこれまでその下端近くに留まり続けている。また6月以降は基本的に史上最低水準で推移している。
  • 日本平均LNG輸入価格は、2019年第2四半期平均でJKM当該月引き渡し分期近平均の1.6 から 2倍、7 - 10月は各月2倍を超えており、2011年以降両者の価格差が最大となった。これは現在進行中の供給容量拡大に対して、日本、韓国、台湾の北東アジアの伝統的LNG市場を中心にアジアのLNG引き取り意欲が弱いことが要因とみられる。中国においてもLNG輸入増加率が、2017年、2018年の前年比40%から、2019年1 - 9月累計で前年同期比18%まで軟化している。

天然ガス・LNG価格推移(直近5年)

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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
英国NBP(National Balancing Point)価格: ICE Futures Europe, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2019 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
METIスポットLNG価格: 経済産業省「スポットLNG価格調査」
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成

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天然ガス・LNG在庫動向

日本

  • 2019年7月末の国内LNG在庫は474万トンで、前月比15.5%、前年同月比32.3%の増加となった。このうち、ガス事業用在庫については、2019年7月のLNG消費量は前月比7.6%増加したものの、7月の国内LNG在庫は前月比2.3%増、前年同月比で16.5%増加した。また、電力事業用在庫については、7月のLNG火力発電所の発電量は前月比10.3%増加したものの、国内LNG在庫は前月比28.8%、前年同月比で48.4%増加となった。
  • 日本のLNG在庫水準は、LNG消費水準と比較すれば全般的に高い水準にある。これは天然ガス供給について殆ど全て輸入LNGに頼っていることが要因である。欧州、米国は天然ガス貯蔵が多いため、LNG在庫水準は低い。なお、日本に向かっているLNG船の積荷LNGを在庫として想定する場合、約150万トン相当が常に洋上にあるとみなすこともできる。
  • LNGの6割以上が電力会社により消費されている。これら電力会社は、LNG以外にも発電源を持っており、LNGを全発電の不足分、あるいは余剰分を調整するための発電源として用いていることも在庫水準が高い要因としてあげられる。近年、原子力発電所の再稼働状況や再生可能エネルギー電源の電力供給の増加が、LNG在庫のパターンを大きく変化させている。これら要因により、総在庫量が2018年11月末時点で500万トン近くまで上昇したとみられる。

国内LNG月末在庫(直近5年)

国内LNG月末在庫量(直近1年)

(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。


米国

  • 米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータによると、2019年10月末の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は3,695 Bcfで、引き続き堅調な天然ガス生産の増加を反映し、前月比11.4%の増加となった。この水準は昨年同月より522 Bcf高く、また過去5年平均の数値よりも52 Bcf高くなった。
  • 米国の貯蔵設備は通常、4月からの夏季にガスをより多く注入し、11月からの冬季にガスをより多く送出する。このような運転パターンは、冬季の暖房向けにガスが必要なこと、および4月から10月にかけて需要が減少する期間に安価にガスを購入し、需要がピークを迎える期間に高価格で販売したいという商業上の動機により生じてきたものである。この傾向は近年、夏季についても発電用の天然ガス需要が増加したこと、パイプラインによるメキシコ向け輸出が増加していること、また他諸国向けにLNGでの輸出が増加していることにより、2017 - 2018年の在庫量ピークが対前年比下がるなど、ある程度緩和され、貯蔵水準は下がる傾向がみられていた。しかし2019年は天然ガス生産量の増加が再び盛り返し、貯蔵在庫水準を押し上げた。
  • EIAのデータによると、2018年、2019年の4月からの注入シーズンは、在庫水準がそれぞれ 1,335 Bcf、1,155 Bcfの低水準から始まった。2018年は注入のペースが遅かったが、これは発電用需要の記録的な高まりによるものであった。その結果、2018年11月末時点の在庫水準が 2,991 Bcfと、2002年以降で最低水準となった。
  • 2014年から2019年の5年間に新たに稼働開始する天然ガス貯蔵設備はなかった。

米国天然ガス地下貯蔵量(直近5年)

米国天然ガス地下貯蔵量(直近1年)

(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成


欧州

  • 2019年10月末のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社中の欧州連合(EU)各社が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は1,078 TWhで、前月比1.7%増、前年同月比では131 TWh増、13.8%増となり、過去5年平均の数値よりも144 TWh高く、過去5年間のレンジを上回る水準にある。さらに容量に対する充足率は9月末以降97% - 98%となり、前年のピーク充足率87%を大きく上回り、かつ統計上過去最高の充足率となった。
  • その大きな要因としては、2018年後半以降の欧州地域のLNG輸入増加が指摘できる。世界的なLNG生産容量の拡大、一方北東アジアの伝統的LNG輸入市場の需要伸び悩みにより、2019年1 - 9月期、米国・ロシア産を中心に、欧州向けのLNG引き渡し量が過去数年間の同期比2倍となった。需要期を前にLNGを安価に買い、需要量が増加する冬季に高価で販売することを望む事業者が、貯蔵設備を使っているとみられる。
  • 2014年8月末から2019年10月末の5年強の期間に、欧州ガス貯蔵容量は、954 TWhから、2019年11月初旬時点で1,106 TWhまで16%増加した。
  • これら貯蔵設備は通常の場合、4月からの夏季にガスをより多く注入し、注入シーズンの終わりに80%から90%台まで上がる。11月からの冬季にガスをより多く送出し、払い出し期間終期には容量の20%から30%に下がる。
  • しかし最近数年間は、充填率の変動が大きくなっている。これは極端な気象変動の影響と、貯蔵設備を使う荷主の商業上の動機によるものである。2018年初期には、極端な寒波により、在庫水準は2018年3月末時点で18%に低下した。一方前記の通り、2018年後半からの欧州地域のLNG輸入増加により、2019年の夏季・秋季はガス貯蔵が容量上限に近い水準まで増加した。

欧州天然ガス貯蔵量(直近5年)

欧州天然ガス貯蔵量(直近1年)

(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、グラフ中の過去5年平均及び過去5年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。


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