2020年1月

天然ガス・LNG価格動向

直近の値動き

  • 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格(JKM)(期近分)は、2019年10月23日以降、過去10年間の同期比では最低水準(事実上の史上最低水準)が続いている。期近分として取引される価格として、2020年2月引き渡し分は、2019年12月中旬から2020年1月中旬までの間、5米ドル台半ばから前半に下落、さらに需要が緩むと見込まれる3月分は、1月中旬現在、4米ドル台前半となっている。日本、中国では既に冬季必要量が調達済のため、2019年から引き続き、低廉なスポット価格にも関わらずスポット需要は停滞している。米国とイランの緊張の高まりによるJKMへの影響は、限定的である。なお、直近の貿易統計に基づく2019年12月の日本LNG輸入平均価格は9.48米ドル(前月比0.01米ドル上昇)、同月のMETIスポットLNG価格は6.7米ドル(前月比1.2米ドル上昇)であった。また、2019年通年の日本LNG輸入平均価格はほぼ前年並みの10.00米ドルとなった。
  • 2019年12月末時点の米国ヘンリーハブスポットガス価格(HH)は2.19米ドルと、前月比で0.09米ドル下落し、この時期として10年振りの低水準となった。米国本土48州で平均気温が平年水準を大きく上回ったことや、同国内天然ガス生産の増加が要因として挙げられる。英国ガススポット価格(NBP)は4.18米ドルと、前月比で1.33米ドル下落した。欧州におけるLNG供給の増加・天然ガス在庫の高水準に加え、ロシアとウクライナのガス輸送契約更新により、供給中断の懸念が除去されたことが要因として挙げられる。前項の通り、アジアのスポットLNG価格も低迷しているが、欧州のスポットガス価格はそれよりも急速に下落しているため、両者の価格差が若干拡大し、スポットLNGカーゴをアジアに向けるインセンティブとなる可能性が生じる。
  • 2019年12月の日本平均LNG輸入価格は9.48米ドルであったが、財務省貿易統計によれば、供給地域別では、米国産LNGが9.09米ドル、ロシア産LNGが9.31米ドルであった。米国産LNGは前月比0.3米ドルの下落、ロシア産LNGは前月比0.52米ドルの上昇となったものの、いずれも日本平均LNG輸入価格を下回った。また、12月の日本平均LNG輸入価格9.48米ドルは、JKMの12月引き渡し分期近平均6.08米ドルに対して1.6倍と、7月引き渡し分以降、4ヶ月連続で2倍を超えていた両者の格差は縮まったものの、引き続きその格差は高水準となった。なお、日本の2019年のLNG輸入量は7733万トンと、前年比7%減、2011年を下回った。

天然ガス・LNG価格推移(直近1年)

中長期の値動き

  • 2014年から2019年の5年間にかけて、日本の平均LNG輸入価格は16米ドル台をピークに下落した。これは基本的に長期契約のLNG価格が連動している原油価格の低下傾向によるものとみられる。なお、2019年4月以降、8月分の10.13米ドルを除き、10米ドルを下回っている。
  • JKMは、2018年1月引き渡し分の10米ドル前後から、2019年の7 - 10月引き渡し分は 4米ドル台半ばまで下落し、11月 - 2020年1月引き渡し分は、いずれも一時的に6米ドル前後の水準にあったが、その後下落を続け、2020年3月引き渡し分については4ドル台前半となっている。これは下落率、そして到達水準ともに歴史的に顕著なものとなっている。JKMは、近年欧州スポットガス価格水準を下限、原油等価水準を上限とするレンジの中で変動してきたが、2019年の間は終始その下限近くに留まり続けた。また2019年6月以降は基本的に史上最低水準で推移している。
  • 日本平均LNG輸入価格は、2019年第2四半期平均でJKM当該月引き渡し分期近平均の1.6 から 2倍、7 - 10月は各月2倍を超えており、2011年以降両者の価格差が最大となった。これは現在進行中のLNG供給能力拡大に対して、日本、韓国、台湾の北東アジアの伝統的LNG市場を中心にアジアのLNG引き取り意欲が弱いことが要因とみられる。中国においてもLNG輸入増加率が、2017年、2018年の前年比40%超から、2019年1 - 11月累計で前年同期比13%まで軟化している。

天然ガス・LNG価格推移(直近5年)

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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
英国NBP(National Balancing Point)価格: ICE Futures Europe, Intercontinental Exchange
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Futures Europe, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2020 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
METIスポットLNG価格: 経済産業省「スポットLNG価格調査」
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成

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天然ガス・LNG在庫動向

日本

  • 2019年9月末の国内LNG在庫は426万トンで、前月比3.3%の増加、前年同月比3.4%の減少となった。このうち、ガス事業用在庫については、2019年9月のLNG消費量が前月比5.1%減少したことで、9月の国内LNG在庫は241万トンと、前月比20.3%増、前年同月比で14.8%増加した。また、電力事業用在庫については、9月のガス火力発電所の発電量は前月比8.5%減少したものの、国内LNG在庫は185万トンと、前月比12.7%減、前年同月比で19.9%減少した。発電用の9月LNG輸入量が410万トンと、前月比15万トン(3.5%)減少したことが要因として挙げられる。
  • 日本のLNG在庫水準は、LNG消費水準と比較すれば全般的に高い水準にある。これは天然ガス供給について殆ど全て輸入LNGに頼っていることが要因である。欧州、米国は天然ガス貯蔵量が多いため、LNG在庫水準は低い。なお、日本に向かっているLNG船の積荷LNGを在庫として想定する場合、約150万トン相当が常に洋上にあるとみなすこともできる。
  • LNGの6割以上が電力会社により消費されている。これら電力会社は、LNG以外にも発電源を持っており、LNGを全発電の不足分、あるいは余剰分を調整するための発電源として用いていることも在庫水準が高い要因として挙げられる。近年、原子力発電所の再稼働状況や再生可能エネルギー電源の電力供給の増加が、LNG在庫のパターンを大きく変化させている。2018年11月末時点には総在庫量が500万トン近くまで上昇したがこれら要因によるものとみられる。

国内LNG月末在庫(直近5年)

国内LNG月末在庫量(直近1年)

(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。


米国

  • 米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータによると、2019年12月末の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は3,192 Bcfで、前月比11.1%の減少となった。なお、冬季需要期への転換により前月比でガス在庫は減少しているものの、2019年の堅調な天然ガス生産の増加を反映し、昨年同月比では487 Bcf高く、過去5年平均(3,230 Bcf)と同水準である。
  • 米国の貯蔵設備は通常、4月からの夏季にガスをより多く注入し、11月からの冬季にガスをより多く送出する。このような運転パターンは、冬季の暖房向けにガスが必要なこと、および4月から10月にかけて需要が減少する期間に安価にガスを購入し、需要がピークを迎える期間に高価格で販売したいという商業上の動機により生じてきたものである。この傾向は近年、夏季についても発電用の天然ガス需要が増加したこと、LNG輸出が増加していること、パイプラインによるメキシコ向け輸出が増加していることにより、2017 - 2018年の在庫量ピークが対前年比下がるなど、ある程度緩和され、冬季においても在庫水準は下がる傾向がみられていた。しかし2019年は天然ガス生産量の増産により、冬季の在庫水準を押し上げた。
  • EIAのデータによると、2018年、2019年の4月からの注入シーズンは、在庫水準がそれぞれ 1,335 Bcf、1,155 Bcfの低水準から始まった。2018年は注入のペースが遅かったが、これは発電用需要の記録的な高まりによるものであった。その結果、2018年11月末時点の在庫水準が 2,991 Bcfと、2002年以降で最低水準となった。しかしながら2019年は堅調な天然ガス生産増加を反映し、11月末時点で3,591 Bcf、12月末時点で3,192 Bcfと、過去5年平均と同水準に回復している。
  • 2014年から2019年の5年間に新たに稼働開始する天然ガス貯蔵設備はなかった。

米国天然ガス地下貯蔵量(直近5年)

米国天然ガス地下貯蔵量(直近1年)

(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成


欧州

  • 2019年12月末のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社中の欧州連合(EU)各社が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は979 TWhで、冬季需要を反映し、前月比6.2%減となった。しかしながら、前年同月比では218 TWhの増(28.6%増)で、これは過去5年平均よりも252 TWh高く、過去5年間のレンジを上回る水準にある。さらに貯蔵容量に対する充填率は、統計上過去最高となった2019年11月4日の97.6%から12月末時点で88%まで下がったものの、依然として過去5年間の同時期の充填率レンジ65% - 75%を大きく上回っている。
  • 高い在庫水準の大きな要因としては、2018年第4四半期以降続いている欧州地域のLNG輸入増加、冬季需要の増加ペースが緩いことが指摘できる。世界的なLNG供給能力の拡大の中で、北東アジア地域のLNG輸入市場の需要が伸び悩んだことにより、2019年は、米国・ロシア産を中心に、欧州向けのLNG輸入量は前年比1.7倍となった。冬季需要期を前にLNGを安価に買い、冬季に高価で販売することを望む事業者が、貯蔵設備を使っているとみられる。
  • 2014年8月末から2020年初の5年強の期間に、欧州ガス貯蔵容量は、954 TWhから、1,109 TWhまで16%増加した。
  • これら貯蔵設備は通常の場合、4月からの夏季にガスをより多く注入し、充填率は、注入シーズンの終わりに80%から90%台まで上がる。11月からの冬季にガスをより多く送出し、払い出し期間終期には容量の20%から30%に下がる。
  • しかし最近数年間は、充填率の変動が大きくなっている。これは極端な気象変動の影響と、貯蔵設備を使う事業者の商業上の動機によるものである。2018年初めには、厳しい寒波により、在庫水準は2018年3月末時点で18%に低下した。一方前記の通り、2018年後半からの欧州地域のLNG輸入増加により、2019年の夏季・秋季はガス貯蔵が容量上限に近い水準まで増加し、冬季に入っても依然として高い充填率が続いている。

欧州天然ガス貯蔵量(直近5年)

欧州天然ガス貯蔵量(直近1年)

(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、グラフ中の過去5年平均及び過去5年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。


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