2020年2月
天然ガス・LNG価格動向
直近の値動き
- 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格(JKM)(期近分)は、2020年2月、史上初めて100万Btu当たり3米ドルを割った。2020年3月引き渡し分は、2020年1月中旬から2020年2月中旬にかけて、4米ドル台前半から2米ドル台後半まで大幅に下落した。2月14日に期近渡し分として史上最安値の2.713米ドルを付け、その後も2米ドル台で低迷を続けている。4月引き渡し分は、2月中旬現在、3月引き渡し分と同様に2米ドル台後半となっている。新型コロナウイルスの拡散は中国経済の停滞を引き起こし、特に発電部門や輸送部門においてガス需要が減少している。さらに、中国のLNG輸入事業者がフォースマジュールを宣言したことで中国LNG市場の不確実性も高まっており、それらの影響がJKM価格にも大きく波及している。なお、直近の貿易統計に基づく2020年1月の日本LNG輸入平均価格は9.27米ドル(前月比0.17米ドル)、同月のMETIスポットLNG価格は6.0米ドル(前月比0.7米ドル下落)であった。
- 2020年1月末時点の米国ヘンリーハブスポットガス価格(HH)は1.84米ドルと、前月比で0.35米ドル下落した。2020年1月の平均HH価格は2.04米ドルと、1月のHH価格としては約20年振りの低水準となった。その要因としては、米国の平均気温が平年水準を大きく上回ったことや、原子力発電所の停止率が低かったことで天然ガスの発電需要が緩和されたとみられる。英国ガススポット価格(NBP)は3.17米ドルと、前月比で1.01米ドル下落した。欧州におけるLNG供給の増加・天然ガス在庫の高水準に加え、アジア需要停滞により、より多くのLNGが欧州に流入するとの憶測が広まったことが要因として挙げられる。
- 2020年1月の日本平均LNG輸入価格は9.27米ドルであったが、財務省貿易統計によれば、供給地域別では、米国産LNGが8.60米ドル、ロシア産LNGが8.92米ドルと、いずれも日本平均LNG輸入価格を下回った。また、1月の日本平均LNG輸入価格9.27米ドルは、JKMの1月引き渡し分期近平均5.64米ドルに対して1.6倍と、7月引き渡し分以降、4ヶ月連続で2倍を超えていた両者の格差は縮まっているものの、引き続きその格差は高水準となった。
中長期の値動き
- 日本の平均LNG輸入価格は、直近5年間では16米ドル台をピークに下落している。これは基本的に長期契約のLNG価格が連動している原油価格の低下傾向によるものとみられる。2019年4月以降、8月の10.13米ドルを除き、10米ドルを下回っている状況にある。
- JKMは、2018年1月引き渡し分の10米ドル前後から、2019年の7 - 10月引き渡し分は 4米ドル台半ばまで下落し、2019年11月 - 2020年1月引き渡し分は、いずれも一時的に6米ドル前後の水準にあったが、その後下落を続け、2020年3月引き渡し分については平均3米ドル台中盤、4月引き渡し分は2米ドル台となっている。これは下落率、そして到達水準ともに歴史的に顕著なものとなっている。JKMは、近年欧州スポットガス価格水準を下限、原油等価水準を上限とするレンジの中で変動してきたが、2019年は終始その下端近くに留まり続けた。また2019年6月以降は基本的に史上最低水準で推移している。
- 日本平均LNG輸入価格は、2019年第2四半期平均でJKM当該月引き渡し分期近平均の1.6 から 2倍、7 - 10月は各月2倍を超えており、2011年以降両者の価格差が最大となった。これは現在進行中の供給容量拡大に対して、日本、韓国、台湾の北東アジアの伝統的LNG市場を中心にアジアのLNG引き取り意欲が弱いことが要因とみられる。中国においてもLNG輸入量の伸びが、2017年、2018年の前年比40%増から、2019年は前年比12%増まで軟化している。
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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
英国NBP(National Balancing Point)価格: ICE Futures Europe, Intercontinental Exchange
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Futures Europe, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2020 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
METIスポットLNG価格: 経済産業省「スポットLNG価格調査」
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成
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天然ガス・LNG在庫動向
日本
- 2019年10月末の国内LNG在庫は467万トンで、前月比9.7%の増加、前年同月比5.3%の減少となった。このうち、ガス事業用在庫については、2019年10月のLNG消費量が前月比2.7%減少したものの、10月の国内LNG在庫は232万トンと、前月比3.8%減、前年同月比で1.2%減少した。10月のLNG受入量が212万トンと、前月比56万トン(26.4%)減少したことが要因として挙げられる。また、電力事業用在庫については、10月のガス火力発電所の発電量は前月比12.1%減少したことで、国内LNG在庫は235万トンと、前月比27.4%増、前年同月比で9.0%減少した。
- 日本のLNG在庫水準は、LNG消費水準と比較すれば全般的に高い水準にある。これは天然ガス供給について殆ど全て輸入LNGに頼っていることが要因である。欧州、米国は天然ガス貯蔵量が多いため、LNG在庫水準は低い。なお、日本に向かっているLNG船の積荷LNGを在庫として想定する場合、約150万トン相当が常に洋上にあるとみなすこともできる。
- LNGの6割以上が電力会社により消費されている。これら電力会社は、LNG以外にも発電源を持っており、LNGを全発電の不足分、あるいは余剰分を調整するための発電源として用いていることも在庫水準が高い要因として挙げられる。近年、原子力発電所の再稼働状況や再生可能エネルギー電源の電力供給の増加が、LNG在庫のパターンを大きく変化させている。2018年11月末時点には総在庫量が500万トン近くまで上昇したがこれら要因によるものとみられる。
(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。
米国
- 2020年1月末の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は、米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータによると、2,609 Bcfで、前月比18.3%の減少となった。なお、冬季需要期のため前月比でガス在庫は減少しているものの、2019年の堅調な天然ガス生産の増加を反映し、昨年同月比では412 Bcf高く、過去5年平均(2,410 Bcf)を上回っている。
- 米国の貯蔵設備は通常、4月からの夏季にガスをより多く注入し、11月からの冬季にガスをより多く送出する。このような運転パターンは、冬季の暖房向けにガスが必要なこと、および4月から10月にかけて需要が減少する期間に安価にガスを購入し、需要がピークを迎える期間に高価格で販売したいという商業上の動機により生じてきたものである。この傾向は近年、夏季についても発電用の天然ガス需要が増加したこと、LNG輸出が増加していること、パイプラインによるメキシコ向け輸出が増加していることにより、2017 - 2018年の在庫量ピークが対前年比下がるなど、ある程度緩和され、冬季においても在庫水準は下がる傾向がみられていた。しかし2019年は天然ガス生産量の増産により、冬季の在庫水準を押し上げた。
- EIAのデータによると、2018年、2019年の4月からの注入シーズンは、在庫水準がそれぞれ 1,335 Bcf、1,155 Bcfの低水準から始まった。2018年は注入のペースが遅かったが、これは発電用需要の記録的な高まりによるものであった。その結果、2018年11月末時点の在庫水準が 2,991 Bcfと、2002年以降で最低水準となった。しかしながら2019年は堅調な天然ガス生産増加を反映し、11月末時点で3,591 Bcf、12月末時点で3,192 Bcf、2020年1月末時点で2,609 Bcfと、過去5年平均と同水準に回復している。
- 2014年から2019年の5年間に新たに稼働開始する天然ガス貯蔵設備はなかった。
(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成
欧州
- 2020年1月末のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社中の欧州連合(EU)各社が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は789 TWhで、冬季需要を反映し、前月比19.4%減となった。しかしながら、前年同月比では218 TWhの増(38.2%増)で、これは過去5年平均よりも252 TWh高く、過去5年間のレンジを上回る水準にある。さらに貯蔵容量に対する充填率は、統計上過去最高となった2019年11月4日の97.6%から1月末時点で71%まで下がったものの、依然として過去5年間の同時期の充填率レンジ40% - 55%を大きく上回っている。
- 高い在庫水準の大きな要因としては、2018年第4四半期以降続いている欧州地域のLNG輸入増加、冬季需要の増加ペースが緩いことが指摘できる。世界的なLNG供給能力の拡大の中で、北東アジア地域のLNG輸入市場の需要が伸び悩んだことにより、2019年は、米国・ロシア産を中心に、欧州向けのLNG輸入量は前年比1.7倍となった。冬季需要期を前にLNGを安価に買い、冬季に高価で販売することを望む事業者が、貯蔵設備を使っているとみられる。
- 2014年8月末から2020年1月末の5年強の期間に、欧州ガス貯蔵容量は、954 TWhから、1,109 TWhまで16%増加した。
- これら貯蔵設備は通常の場合、4月からの夏季にガスをより多く注入し、充填率は、注入シーズンの終わりに80%から90%台まで上がる。11月からの冬季にガスをより多く送出し、払い出し期間終期には容量の20%から30%に下がる。
- しかし最近数年間は、充填率の変動が大きくなっている。これは極端な気象変動の影響と、貯蔵設備を使う事業者の商業上の動機によるものである。2018年初めには、厳しい寒波により、在庫水準は2018年3月末時点で18%に低下した。一方前記の通り、2018年後半からの欧州地域のLNG輸入増加により、2019年の夏季・秋季はガス貯蔵が容量上限に近い水準まで増加し、冬季に入っても依然として高い充填率が続いている。
(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、グラフ中の過去5年平均及び過去5年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。
添付ファイル
- 日本のLNG在庫量(14.8KB) (2020/02/20更新)
- 米国天然ガス地下貯蔵量(97.8KB) (2020/02/20更新)
- 欧州天然ガス貯蔵量(311.7KB) (2020/02/20更新)