2020年3月

天然ガス・LNG価格動向

直近の値動き

  • 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格(JKM)(期近分)は、2020年2月14日の史上最安値100万Btu当たりUSD 2.713からわずかに回復し、3月に入ってからはUSD 3以上で推移しているものの、依然として過去最低水準を維持している。2020年4月引き渡し分は、2020年2月中旬から2020年3月中旬にかけて、USD 2.8台からUSD 3.5まで回復した。5月引き渡し分は、3月中旬現在、USD 3.5台となっている。新型コロナウイルスの拡散は中国経済の停滞を引き起こし、LNG輸入事業者がフォースマジュールを宣言するなど中国LNG市場の不確実性は高まったが、中国の一部では徐々に経済活動が再開しており、需要が回復することへの期待感から緩やかに価格の上昇につながったものと考えられる。一方、3月6日のOPEC+にて原油の減産合意が決裂し、サウジアラビアの増産計画発表によって各種原油価格は大幅な下落となったが、現在のところLNGスポット価格には大きな影響は出ていない。なお、直近の貿易統計に基づく2020年2月の日本LNG輸入平均価格はUSD 9.32(前月比USD 0.05上昇)、同月のMETIスポットLNG価格はUSD 5.5(前月比USD 0.5下落)であった。
  • 2020年2月末時点の米国ヘンリーハブスポットガス価格(HH)はUSD 1.68と、前月比でUSD 0.16下落した。1月20日以降、一貫してUSD 2を下回っており、米国の平年より暖かく穏やかな気候と、過去最高水準更新(34ヶ月連続の前年同月比増加、2月は日量96.5 Bcfと過去最高)を続ける堅調なガス生産、またこれに新型コロナウイルス感染拡大による人の移動抑制と経済活動への影響からガスの需要減退が懸念され、歴史的な低価格状態が継続している。2020年2月末時点の英国ガススポット価格(NBP)はUSD 2.80と、前月比でUSD 0.37下落した。2月11日にはUSD 2.65まで下落したが、その後はJKMと同様に緩やかに回復した。昨年来からのアジア需要停滞とコロナウイルスの影響により、より多くのLNGが欧州に流入するとの憶測が広まったことでNBPも低迷しており、3月初旬、アジアの需要回復に伴いNBPも一時的に回復したものの、基本的にUSD 3未満に留まっている。
  • 2020年2月の日本平均LNG輸入価格はUSD 9.32であったが、財務省貿易統計によれば、供給地域別では、米国産LNGがUSD 8.84と、日本平均LNG輸入価格を下回った。また、2月の日本平均LNG輸入価格USD 9.32は、JKMの2月引き渡し分平均USD 5.30に対して1.76倍と、1月の1.6倍より格差は広がっており、引き続きその格差は高水準となった。一方、日本が長期契約で購入する米国産を除くLNGの大部分は、原油価格に連動した価格指標を採用している。3月9日以降の原油価格の急落により、今後LNG輸入価格も下落する可能性が高い。原油価格の長期契約LNG価格への反映には3ヶ月程度の時差があるため、7月以降のLNG輸入価格が下がることが見込まれる。

天然ガス・LNG価格推移(直近1年)

中長期の値動き

  • 日本の平均LNG輸入価格は、直近5年間ではUSD 16台をピークに下落している。これは基本的に長期契約のLNG価格が連動している原油価格の下落傾向によるものとみられる。2019年4月以降、8月のUSD 10.13を除き、USD 10を下回っている状況にある。
  • JKMは、2018年1月引き渡し分のUSD 10前後から、2019年の7 - 10月引き渡し分は USD 4台半ばまで下落し、2019年11月 - 2020年1月引き渡し分は、いずれも一時的にUSD 6前後の水準にあったが、その後下落を続け、2020年3、4月引き渡し分については一時USD 2台に突入した。これは下落率、そして到達水準ともに歴史的に顕著なものとなっている。なお、その後は緩やかな回復を見せている。JKMは、近年欧州スポットガス価格水準を下限、原油等価水準を上限とするレンジの中で変動してきたが、2019年は終始その下端近くに留まり続けた。また2019年6月以降は基本的に史上最低水準で推移している。
  • 日本平均LNG輸入価格は、2019年第2四半期には平均でJKM当該月引き渡し分期近平均の1.6 から 2倍、7 - 10月は各月2倍を超え、2011年以降両者の価格差が最大となり、その傾向は現在も継続している。これは現在進行中の米国を中心とした供給容量拡大に対して、日本、韓国、台湾の北東アジアの伝統的LNG市場を中心にアジアのLNG引き取り意欲が弱いことが要因とみられる。2019年の各国のLNG輸入量は前年比で日本 6.7%減、韓国 7.7%減、台湾 0.4%増となった。中国においてもLNG輸入量の伸びが、2017年、2018年の前年比40%増から、2019年は前年比12%増まで鈍化している。

天然ガス・LNG価格推移(直近5年)

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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
英国NBP(National Balancing Point)価格: ICE Futures Europe, Intercontinental Exchange
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Futures Europe, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2020 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
METIスポットLNG価格: 経済産業省「スポットLNG価格調査」
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成

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天然ガス・LNG在庫動向

日本

  • 2019年11月末の国内LNG在庫は515万tで、前月比10.1%の増加、前年同月比3.0%の増加となった。11月としては、高い水準であった前年を上回り過去5年平均で最大の在庫量となった。このうち、ガス事業用在庫については、2019年11月のLNG消費量が前月比11.1%減少したため、11月の在庫は260万tと、前月比12%増、前年同月比でも6.4%増加した。11月のLNG受入量が272万tと、前月比60万t(28.3%)増加したことも在庫増加の要因として挙げられる。また、電力事業用在庫については、11月のガス火力発電所の発電量は前月比0.5%減であったが、在庫は255万tと、前月比8.3%増、前年同月比で0.3%減少した。
  • 日本のLNG在庫水準は、LNG消費水準と比較すれば全般的に高い水準にある。これは天然ガス供給について殆ど全て輸入LNGに頼っていることが要因である。欧州、米国は天然ガスの形での地下貯蔵量が多いため、LNG在庫水準は日本と比して低い。なお、日本に向かっているLNG船の積荷LNGを在庫として想定する場合、約150万t相当が常に洋上にあるとみなすこともできる。
  • LNGの6割以上が電力会社により消費されている。これら電力会社は、LNG以外にも発電源を持っており、LNGを全発電の不足分、あるいは余剰分を調整するための発電源として用いていることも在庫水準が高い要因として挙げられる。近年、原子力発電所の再稼働状況や再生可能エネルギー電源の電力供給の増加が、LNG在庫のパターンを大きく変化させている。2018年や2019年の11月末時点には総在庫量が約500万tまで上昇したがこれら要因によるものとみられる。

国内LNG月末在庫(直近5年)

国内LNG月末在庫量(直近1年)

(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。


米国

  • 2020年3月6日の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は、米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータによると、2,043 Bcf で18.1%の減少となった。なお、冬季需要期のためガス在庫は前月比で減少しているものの、過去5年平均値を下回った2018年の同時期と比較すると71.7%増、853 Bcf 高く、過去5年平均値の1,816 Bcf を227 Bcf 上回っている。
  • EIAが2019年3月に発表した短期エネルギー展望(Short-Term Energy Outlook)によると、2020年3月末の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は過去5年平均値より12%増の1,920 Bcf と予測している。これは冬季の穏やかな気候と、順調な天然ガスの生産が継続したためである。加えて、EIAは天然ガス在庫の補充シーズン(4/1~10/31)の天然ガスの注入により、有効稼働在庫は3,971 Bcf に達すると予測している。
  • 米国の貯蔵設備は通常、4月からの夏季にガスをより多く注入し、11月からの冬季にガスをより多く送出する。このような運転パターンは、冬季の暖房向けにガスが必要なこと、および4月から10月にかけて需 要が減少する期間に安価にガスを購入し、需要がピークを迎える期間に高価格で販売したいという商業上の動機により生じてきたものである。この傾向は近年、夏季についても発電用の天然ガス需要が増加したこと、LNG輸出が増加していること、パイプラインによるメキシコ向け輸出が増加していることにより、2017 - 2018年の在庫量ピークが対前年比下がるなど、ある程度緩和され、冬季においても在庫水準は下がる傾向がみられていた。しかし2019年は天然ガス生産量の増産により、冬季の在庫水準を押し上げた。
  • 過去5年間に新たに稼働開始する天然ガス貯蔵設備はなかった。

米国天然ガス地下貯蔵量(直近5年)

米国天然ガス地下貯蔵量(直近1年)

(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成


欧州

  • 2020年3月14日現在のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社中の欧州連合(EU)各社が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は627 TWhで、冬季需要により直近の1ヶ月間で13.5%減となった。しかしながら、この値は前年同期比では182 TWhの増(40.9%増)で、同時期の過去5年平均よりも286 TWh高く、過去最大値である。さらに貯蔵容量に対する充填率は、統計上過去最高となった2019年11月4日の97.6%から3月14日時点で57%まで下がったものの、依然として過去5年間の同時期の充填率レンジ約25% - 約40%に比べて高い水準である。
  • 高い在庫水準の大きな要因としては、2018年第4四半期以降続いている欧州地域のLNG輸入増加、同地域での冬季暖房需要の低迷でガス需要が伸び悩んでいることがあげられる。冬季需要期を前にLNGを安価に買い、冬季に高価で販売することを望む欧州事業者が、貯蔵設備を積極的に使用していたが、前記の需要の伸び悩みにより、欧州在庫も行き場をなくし高い在庫率を維持しているものとみられる。
  • 2014年8月末から2020年2月末の5年強の期間に、欧州ガス貯蔵容量は、954 TWhから、1,109 TWhまで16%増加した。
  • これら貯蔵設備は通常の場合、4月からの夏季にガスをより多く注入し、充填率は、注入シーズンの終わりに80%から90%台まで上がる。11月からの冬季にガスをより多く送出し、払い出し期間終期には容量の20%から30%に下がる。しかし最近数年間は、充填率の変動が大きくなっている。これは極端な気象変動の影響と、貯蔵設備を使う事業者の商業上の動機によるものである。2018年初めには、厳しい寒波により、在庫水準は2018年3月末時点で18%に低下した。一方前記の通り、2018年後半からの欧州地域のLNG輸入増加により、2019年の夏季・秋季はガス貯蔵が容量上限に近い水準まで増加し、冬季に入っても高い充填率が続いた。

欧州天然ガス貯蔵量(直近5年)

欧州天然ガス貯蔵量(直近1年)

(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、グラフ中の過去5年平均及び過去5年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。


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